説明

遠心分離機

【課題】
遠心分離機において、真空ポンプの運転を開始してから所定の真空度に到達するまでの到達時間を予測し、その真空到達時間を表示する。
【解決手段】
ロータ2を収容する回転室3と、回転室3の空気を吸引する真空ポンプ(油回転真空ポンプ6、油拡散真空ポンプ7)と、使用者へ情報の表示をする表示部13と、これらの動作を制御する制御部12を備えた遠心分離機において、制御部12は、真空ポンプによって所定の真空度に達するまでの真空到達時間を算出し、表示部13に算出された真空到達時間を表示するように構成した。真空到達時間の予測は、油拡散真空ポンプ7のDPボイラ部14の温度を考慮して算出することにより、精度の高い予測を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転室を減圧して使用する遠心分離機に関し、特に、一定の真空度に達する時間を予測して表示部に表示する機能を有する遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば4万rpm以上で回転する高速の遠心分離機には、高速回転時の空気摩擦によるロータの発熱を避けるため、回転室を真空ポンプによって減圧させた状態でロータを回転させる。真空ポンプとしては主に油回転真空ポンプが用いられ、油回転真空ポンプを補助する真空ポンプとして油拡散真空ポンプを直列に接続する方法が一般的である。さらに、ロータを設定した温度に保つために、回転室には冷却装置が設けられる。
【0003】
油回転真空ポンプと油拡散真空ポンプを組み合わせた真空装置として、例えば特許文献1の技術が知られている。特許文献1は生産設備としての発案であり、真空到達時間の短縮と省エネルギー化に関する内容である。これに対して遠心分離機では減圧→減圧解除→減圧というように、遠心分離作業を繰り返す度に真空引き運転を繰り返すので、油拡散ポンプの起動時のオイルの油温の状態は運転ごとに異なる。よって、ある一定真空度に達するまでの時間は運転ごとに異なってくるので、使用者は一定の真空度に達する時間を予測することは容易ではなかった。
【0004】
一方、市販化されている遠心分離機においては、中真空(133Pa)や高真空(13.3Pa)に到達したことを示す記号や、真空度の値を表示部に直接表示させてきたが、これら中真空(133Pa)や高真空(13.3Pa)に達するまでの時間を予測して表示させる機能を有する遠心分離機は無かった。尚、本明細書中において、低真空は、大気圧〜133Paの範囲を指し、中真空は133Pa〜13.3Paの範囲を指し、高真空は13.3Pa以下の気圧を指すものとして説明する。
【0005】
【特許文献1】特開2007−198392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の油回転真空ポンプと油拡散真空ポンプを組み合わせた真空装置においては、油回転真空ポンプを主ポンプとし、油拡散真空ポンプを補助ポンプとし、ある一定以上の高真空度に達しないと、ロータが所定の回転速度(例えば殆ど風損による発熱の影響のないない回転速度5,000rpm)以上に回転させないように制御していた。そのため、遠心分離作業のスタート時には、ロータが設定された回転速度で回転可能な減圧(真空)状態になるまでどのくらいの時間がかかるがわからなかった。特に、回転数が4万rpm以上に達する、いわゆる超遠心分離機においては、ロータの回転エネルギーが大きいため、ロータがきちんと回転していることを使用者が確認することが重要である。そのため、使用者はロータの回転が最高回転数に達成したのを見届けてから遠心分離機から離れるのが通常である。しかし、所定の真空度までの減圧がどのくらいの時間かかるのか、また、ロータの回転がいつ始まるのかがわからないと、遠心分離機の前で待っている使用者が困ってしまう。
【0007】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、真空ポンプの運転を開始してから所定の真空度に到達するまでの到達時間を予測し、その到達時間を表示する遠心分離機を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、真空ポンプの運転を開始してから所定の真空度に到達するまでの到達時間の予測を精度良くに行うことができる遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0010】
本発明の一つの特徴によれば、モータと、モータによって回転されるロータを収容する回転室と、回転室の空気を吸引し圧力を低下せしめる真空ポンプと、使用者からの入力を受け付ける操作部と、使用者へ情報の表示をする表示部と、これらの動作を制御する制御部を備えた遠心分離機において、制御部は、真空ポンプによって所定の真空度に達するまでの真空到達時間を算出し、表示部に算出された真空到達時間を表示するように構成した。この所定の真空度とは、使用者によって設定された設定回転数で残留空気との摩擦による温度上昇なく、ロータを連続回転させることができる真空度である。
【0011】
本発明の他の特徴によれば、真空ポンプは油拡散真空ポンプを含み、油拡散真空ポンプは作動油を収容するボイラ部と、作動油を加熱するためのヒータ部と、作動油の温度を検出する温度センサを有し、制御部は、温度センサによって検出された作動油の温度情報を用いて真空到達時間を算出する。また、真空ポンプとしてさらに油回転真空ポンプを用い、大気圧から油拡散真空ポンプが有効に作動する臨界背圧に至るまで、油回転真空ポンプによって減圧を行うように構成すると良い。
【0012】
本発明のさらに他の特徴によれば、制御部は、(1)減圧開始時から油拡散真空ポンプの臨界背圧(約20Pa程度)まで、(2)臨界背圧から作動油の温度が油拡散真空ポンプの動作温度(約150℃〜約200℃)に達するまで、及び、(3)油拡散真空ポンプが有効に作動して所定の真空度(13.3Pa)以下に到達するまで、の3つの区間に分けて、各区間の到達予定時間を算出し、これら到達予定時間の合計を求めることによって真空到達時間を算出する。この際、(1)〜(3)の各区間における回転室内の真空度の到達カーブ又は油拡散真空ポンプの温度カーブをあらかじめ制御部の記憶手段内に格納しておき、格納されたカーブを用いて各区間における到達予定時間を算出すると良い。
【0013】
本発明のさらに他の特徴によれば、制御部は、一定間隔毎に再計算される真空到達時間を比較し、比較された真空到達時間の推移に異常が生じた場合は、表示部にメッセージの表示をする。メッセージ表示をする場合は、例えば、比較された真空到達時間が減らない状態が所定回数以上続いた場合である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、真空ポンプによって所定の真空度に達するまでの真空到達時間が表示部に表示されるので、使用者にとって真空到達時間を容易に認識することができる。特に、イライラしながら遠心分離機の前で待つ必要が無くなるので、時間の有効利用に一役買うことができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、所定の真空度とは、使用者によって設定された設定回転数で風損による影響を受けることが無くロータを連続回転させることができる真空度であるので、安定してロータの連続回転が行える状態になるまでの時間を容易に認識することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、制御部は、真空到達時間を一定間隔毎に再計算し、再計算された真空到達時間を表示部に表示するので、高い精度で真空到達時間の表示を行うことができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、真空ポンプは油拡散真空ポンプを含み、制御部は温度センサによって検出された油拡散真空ポンプの作動油の温度情報を用いて真空到達時間を算出するので、到達時間の変動が大きい部分を精度良く予測することができ、高い精度で真空到達時間の表示を行うことができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、真空ポンプはさらに油回転真空ポンプを含み、大気圧から油拡散真空ポンプが有効に作動する臨界背圧に至るまで、油回転真空ポンプによって減圧を行うので、短い時間で効率よく真空引きを行うことができる。
【0019】
請求項6の発明によれば、制御部は、3つの区間に分けて各区間の到達予定時間を算出し、これらの合計を求めることによって真空到達時間を算出するので、高い精度で真空到達時間の算出を行うことができる。
【0020】
請求項7の発明によれば、制御部は、(1)〜(3)の各区間における回転室内の真空度の到達カーブ又は油拡散真空ポンプの温度カーブをあらかじめ格納しておき、格納されたカーブを用いて各区間における到達予定時間を算出するので、簡単で精度の良い真空到達時間の算出を行うことができる。
【0021】
請求項8の発明によれば、制御部は、一定間隔毎に再計算される真空到達時間を比較し、比較された真空到達時間の推移に異常が生じた場合は、表示部にメッセージ表示をするので、真空到達時間の予測に付随して異常発生通知機能を実現することができる。
【0022】
請求項9の発明によれば、制御部は、比較された真空到達時間が減らない状態が所定回数以上続いた場合に異常が生じたと判定するので、真空ポンプの故障や配管の漏れなどを早期に検出することができる。
【0023】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施形態による遠心分離機について、図1に基づいて説明する。図1は、本発明の実施態様に係る遠心分離機の構成を示す断面図である。遠心分離機1は、試料を保持して回転するロータ2と、ロータ2を収容し密閉空間となる回転室3と、回転室3へロータ2の出し入れを行うために設けられたドア5と、回転室3を減圧する真空ポンプ(油回転真空ポンプ6と、油拡散真空ポンプ7)と、使用者による遠心分離条件の設定操作を受け付ける操作部8と、使用者に対して運転状態等の各種情報の表示を行う表示部13と、ロータ2を回転させる駆動装置9と、回転室3内の圧力を測定する真空センサ11と、制御部12を含んで構成される。
【0025】
回転室3の下部には、回転室3の内外を連通する貫通孔が設けられ、駆動装置9から延びる回転軸4が貫通孔を貫通し、回転軸4の先端にロータ2が取り付けられる。尚、貫通孔において回転軸4は図示せぬシール部材によってシールされ、回転室3の気密性が保持できる構造となっている。ロータ2には、試料を入れるチューブ等を挿入するための孔(図示せず)が複数形成される。本実施形態では、駆動装置9の回転速度は、例えば毎分4万回転以上で運転可能であり、この回転によって発生する遠心力により試料が遠心分離される。通常、大気圧下でロータ2が高速回転すると、風損によりロータ2が発熱する。また、大気圧下では空気抵抗によりロータ2の高回転化が抑制される。よって遠心分離時に回転室3内の空気を抜いて真空(減圧)状態にし、風損を抑制する必要がある。
【0026】
油拡散真空ポンプ(DP)7は、吸引側が回転室3に接続され、排出側が真空配管10を介して油回転真空ポンプ(VP)6の吸引口に接続される。油拡散真空ポンプ7は内部に液体の油を備え、この油の内部での蒸発・凝縮によって回転室3内の空気を排出させる公知の装置である。このように本実施形態においては、真空ポンプとして油拡散真空ポンプ7と油回転真空ポンプ6を直列に接続している。これは、油回転真空ポンプ6だけで、所定の真空度(1Pa以下)にするには、1〜2日くらいかかってしまい、油拡散真空ポンプ7は動作するためのある程度の背圧(臨界背圧:20Pa程度)が必要であるため、臨界背圧を得るために補助ポンプが必要とされるためである。油回転真空ポンプ6は、油拡散真空ポンプ7の補助ポンプとして機能する。油回転真空ポンプ6の排出側は、排気に含まれるオイルミストを補足するためのオイルミストトラップ17が設けられる。
【0027】
油拡散真空ポンプ7は、作動油を収容するDPボイラ部14内と、その作動油を加熱するためのDPヒータ部16が設けられる。作動油の温度は温度センサ15によって測定される。DPヒータ部16により加熱された作動油は、図示されていない油拡散ポンプ内の煙突内を上昇し、煙突に設けられている、DPボイラ部14方向に向けて斜めに配置されたノズルから蒸気となって噴出される。この蒸気に対して空気等の気体分子が衝突すると、蒸気の流れの方向に運動量が与えられて空気が排気側へ流れ、油拡散ポンプと接続されたチャンバー内の空気が排気されて、チャンバー内が真空状態にされる。蒸気となった作動油は、DPボイラ部14の壁面で凝縮して回収され、再びDPヒータ部16で加熱される。
【0028】
制御部12は、図示しないマイクロコンピュータ、揮発性及び不揮発性の記憶メモリを含み、信号線により真空センサ11、温度センサ15等の出力信号を入力し、駆動装置9の回転制御、油回転真空ポンプ6のON/OFF制御、油拡散真空ポンプ7のON/OFF制御、表示部13への情報の表示、操作部8からの入力データの取得等、遠心分離機1の全体の制御を行う。これらの全体制御は、プログラムをマイクロコンピュータで実行することによりソフトウェア的に制御することができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
表示部13は使用者に対して各種情報を表示する表示装置で、例えば液晶表示装置を用いることができる。操作部8は、使用者が必要な情報を入力するための入力装置であり、例えばキーボート又はプッシュボタンを用いることができる。尚、タッチパネル式の液晶表示装置を用いることにより、表示部13と操作部8を1つの構成機器で実現できる。
【0030】
次に、図2を用いて、表示部13と操作部8として、タッチパネル式の液晶表示装置を用いた画面の例を説明する。図2は、駆動軸4にロータ2がセットされ、スタートボタン230が押されて、真空ポンプが稼働され、回転室3が所定の真空度になるまでの「真空待機」の状態の画面表示を示しており、この真空待機では、ロータ2を5,000rpmで回転させ、ロータ2が設定温度になるように制御が開始されている。表示画面200は、主に、遠心分離機1の運転状態と運転条件(設定値)を表示するもので、その画面中には、遠心分離機の運転条件である回転速度表示領域201、時間表示領域204、温度表示領域207が設けられる。これら領域の周囲には、現在の真空状態を3つのバーで表示する真空度表示240、遠心分離動作の開始を指示するためのスタートボタン230、遠心分離動作の中断又は駆動装置9の回転停止を指示するためのストップボタン231が表示される。
【0031】
回転速度表示領域201の中央の大きな数字“5000”は、ロータ2の現在の回転速度202を示し、下線部で区切られた下段(小さな文字)は設定回転速度203を示す。使用者が回転速度表示領域201の枠内を指でタッチすると、テンキー画面(図示せず)がポップアップ表示されるので、使用者はテンキーを操作することにより回転速度を設定できる。
【0032】
時間表示領域204の中央の大きな数字は、ロータ2を設定回転速度203で実際に運転された運転時間(経過時間)205であり、時、分の単位で表示される。運転時間205は、制御部12のマイコンに含まれるタイマー機能を用いて自動的にカウントされ、表示される。下線部で区切られた下段(小さな文字)は、遠心分離を行う設定運転時間206である。温度表示領域207の中央の大きな文字は、現在の回転室3の内部のロータ温度208であり、下線部の下段(小さな文字)が、遠心分離を行う際に保持すべきロータ2の設定温度209である。
【0033】
SPEED/RCFボタン210は、回転速度表示領域にロータ2の回転速度(SPEED)を表示するか、遠心加速度(RCF)の表示をするかの表示切替ボタンあり、SPEED/RCFボタン210をタッチする毎に回転速度表示領域201における表示が、回転速度から遠心加速度の表示に、また遠心加速度から回転速度の表示に切り替わる。ACCEL/DECELボタン211は、加速モードと、減速モードの設定を切替えるためのもので、加速モードは、0〜5,000rpmまでの加速時間を複数の選択肢の中から選択することができ、減速モードは5,000rpm〜0までの減速時間を複数の選択肢の中からあるいは、設定回転速度から自然減速させるかを選択するためのものである。画面200の右上には、現在日時215が表示される。
【0034】
真空度表示240は、回転室3の真空度を3本のバーで簡易的に表示するもので、例えば、真空ポンプがONして中真空に到達するまではバー1本を表示させ、中真空(例えば133Pa)に到達した場合はバー2本を表示させ、高真空(例えば13.3Pa)に到達した場合は3本のバーを表示させる。図2では、2本のバーが表示されて。真空到達時間220は、本発明の中心となる表示であり、現在の状況から回転室3の真空度が所定の真空度Vに到達するまで、あとどのくらいの時間がかかるかを表示する。図3においては、所定の真空度Vに到達するまであと10分である。
【0035】
次に、図3を用いて、真空ポンプを用いて回転室3を減圧する際の経過時間と回転室内真空度の関係を説明する。これらの関係は「真空到達時間」の算出に密接な関係を有するものである。図3において、左側縦軸は回転室3の真空度(単位:Pa)であり、横軸は経過時間(単位:sec)である。また、右側縦軸は、油拡散ポンプ(DP)7のボイラ温度(単位:℃)である。
【0036】
時間Tにおいて2つの真空ポンプの動作を開始させると、回転室内真空度(図3の点線で示す曲線)は、大気圧から徐々に低下する。一方、油拡散真空ポンプ7のDPヒータ部16がONにされるため、時間の経過と共にDPボイラ温度が上昇する。この上昇の状態を示すのが図3の実線による曲線である。油拡散真空ポンプ7が動作を始めるのには2つの条件がある。その一つは必要な背圧(臨界背圧)以下の真空度に達していることであり、もう一つはDPボイラの温度が一定値、即ち内部の油の沸騰温度に到達していることである。図2のグラフにおいて、(1)の区間は、油回転真空ポンプ6の作用によって回転室内真空度が、油拡散真空ポンプ7の動作に必要な臨界背圧にまで到達するために要する時間である。ここでは、時間Tにおいて回転室内真空度が油拡散真空ポンプ7の臨界背圧に到達する。
【0037】
時間Tを経過した後の(2)の区間は、油拡散真空ポンプ7の動作が開始する条件の1つが整っている状態であるが、まだDPボイラの温度が十分上昇しておらず、動作点まで上昇していない状態の区間である。いわば油拡散真空ポンプ7の本格稼働の開始待ちの区間である。この区間(2)においても油回転真空ポンプ6の作用により、回転室内真空度は継続して低下するが、油回転真空ポンプ6のこの真空度付近での効率の関係から、回転室内真空度の低下の割合は少ない。
【0038】
区間(2)に要する時間、即ち時間Tから時間Tまでは、減圧動作を開始した時間Tの時のDPボイラ温度に大きく左右される。例えば、当日最初に遠心分離機1を稼働させたときのように、DPボイラ温度が室温程度まで下がっているときは、区間(2)に要する時間は長くなる。逆に、遠心分離動作を続けて行うときのように、直前の遠心分離動作によりDPボイラ温度が十分高いときは、区間(2)に要する時間は短くなり、あるいはゼロになる。
【0039】
時間Tにおいて、油拡散真空ポンプ7の動作が開始する2つ目の条件、即ち“DPボイラ温度が約170℃に到達”が達成されたため、油拡散真空ポンプ7が本格的に稼働し始める。これによって、回転室内真空度が大幅に低下し、時間Tにおいて所望の真空度(V)に到達する。この真空度Vは、ロータ2を高速で回転させた場合に残留空気との摩擦による温度上昇なく、連続回転させることができる程度の真空度である。尚、ロータ2の高速回転を行うのは真空度V(約13.3Pa)に到達した以降であるのが理想的であるが、遠心分離時間の短縮の関係と区間(3)に要する時間(比較的に短い)の関係から、(3)の区間に移行したら設定速度の回転数まで加速して回転させるようにしても良い。この場合、区間(1)、(2)においては、ロータ2は回転させないか、あるいはきわめて低速(例えば5,000rpm程度)にて回転させる。
【0040】
次に、図4のフローチャートを用いて真空到達予測時間の表示手順を説明する。図4に示す一連の動作は、制御部12にあらかじめ格納されたプログラムによってソフトウェア的に実行可能である。まず、使用者は、試料を入れたチューブ等がセットされたロータ2を回転室3の内部にセットし、ドア5を締める。次に、使用者は操作部8から、運転条件である設定回転速度、設定運転時間等を入力する。これらの必要な入力情報を受け取った制御部12は、スタートボタン230(図2)が押されたのを検出してから、油回転真空ポンプ6と油拡散真空ポンプ7の電源をオンにして減圧動作を開始させる(ステップ401)。
【0041】
次に制御部12は、真空センサ11の出力を用いて回転室3内の真空度Vを測定し、温度センサ15の出力を用いて油拡散ポンプ7のDPボイラ14部の温度Tを測定する(ステップ402)。次に、測定されたデータを元に、その時点における図3の(1)(2)(3)の予測時間を算出する(ステップ403)。この予測に先立ち、制御部12の記憶手段(図示せず)には、回転室容量、排気管経路、真空ポンプの排気特性などにより決まる真空系の排気特性データを前もって記憶しておき、そのデータからある一定真空度Vに達する時間を予測して表示部13に表示させる。
【0042】
図3の区間(1)に関し、制御部12は、回転室3の真空度が油拡散真空ポンプ7の臨界背圧まで達するまでの、油回転真空ポンプ6による排気特性データから時間予測を行う。この排気特性データは油回転真空ポンプ6によってほとんど一義的に決まるカーブであるので、1つの曲線カーブのデータを制御部12に格納しておけばよい。尚、より厳密に予測するためには、直前の減圧作業の有無、室温、大気温度等、各種パラメータを考慮して複数の曲線カーブを準備して制御部12に格納しておき、減圧作業の開始時にどの曲線カーブに該当するかを判断して決定するようにしても良い。
【0043】
図3の区間(2)に関し、制御部12は、油拡散真空ポンプ7の作動油の温度上昇カーブを格納しておく。この温度上昇カーブの傾斜はDPボイラ部14及びDPヒータ部16の特性によりほぼ一義的に決まっており、図3の時間T0の時点での作動油の温度(初期温度)と温度上昇カーブを比較することによって、TからTに要する時間を容易に予測できる。但し、室温によっては温度上昇カーブの傾きが若干変わってくることもあるので、より精密に予測する場合は室温毎の温度上昇カーブを制御部12に格納しておき、それらを用いて予測するようにしても良い。
【0044】
図3の区間(3)に関し、制御部12は、臨界背圧から所定の真空度Vに到達するまでのデータを格納しておく。この区間に要する時間はほぼ一定であり、油拡散真空ポンプの性能によってほぼ一義的に決まる。従って、区間(3)に入る時間Tの時の回転室内真空度の値がわかれば、所定の真空度Vに到達する時間Tを予測できる。
【0045】
次に、区間毎に予測された予測時間の合計tを算出する(ステップ404)。後述するがステップ402〜404のステップは、回転室3の内部の真空度が所定の真空度Vに到達するまで周期的に繰り返されるので、区間(2)の状態では区間(1)の予測時間は0であり、区間(3)の状態では区間(1)及び(2)の予測時間はともに0である。次に、予測時間の合計tが1分以内の場合は(ステップ405)、進行到達時間(真空到達のための残り時間)tを秒単位にて表示部13に表示する。時間の合計tが1分以上の場合は(ステップ405)、進行到達時間tを分単位にて表示部13に表示する(ステップ406)。
【0046】
予測時間の合計tが0となった場合は、真空到達時間220の表示動作を終了させ、所定時間“0”を表示させた後、表示を消す。時間の合計tが0でない場合はステップ409に進む(ステップ408)。ステップ409では、10秒間の待ち時間を取って10秒たったらステップ410に進む。ステップ410では、nが1であるかを判断し、1の場合はステップ402に戻る。ここで、nはステップ404における計算が何回目かのカウント値であり、ステップ404を実行するたびにnが1,2,・・と1つずつ増加する。従って、n=1であるということは、最初の真空到達予測時間の算出であることを意味する。
【0047】
ステップ409において、nが5より大きいか否かを判断し、n>5でなければステップ402に戻る(ステップ411)。次に、tn-1−t<10秒の状態が5回続いたかを検出し、続いていなければステップ402に戻り(ステップ412)、続いた場合は、使用者に真空ポンプ関係の動作確認を促すための確認メッセージを表示してステップ402に戻る(ステップ413)。確認メッセージの内容は種々考えられるが、例えば「回転室内に結露が発生していませんか?」と表示できる。尚、比較された前記真空到達時間が減らない状態が所定回数以上続いた場合に、異常が生じたと判定して、制御部12が必要なエラー処理(ロータ3の回転を止める等)を行うようにしても良い。
【0048】
以上のように、本実施形態においては、遠心分離機のスタートボタンを押してから所定の真空状態に達するまでの時間が表示部13に表示されるので、使用者はどれぐらい待てば良いのかを認識できるので、待つ時間がわからないのでイライラしたり、無駄な時間を費やしたりすることを防止できる。
【0049】
以上、本発明を示す実施形態に基づき説明したが、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、回転室内の湿度を測定する湿度センサを設けて、制御部は真空到達時間の予測において湿度センサの値を考慮して予測するようにしても良い。この場合に、湿度毎の真空到達カーブを複数準備して制御部に格納しておけばよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施態様に係る遠心分離機の構成を示す断面図である。
【図2】図1の遠心分離機の表示部13における表示内容を示す図である。
【図3】図1の遠心分離機の真空ポンプを用いて回転室3を減圧する際の経過時間と回転室内真空度及びDPボイラ温度の関係を示す図である。
【図4】図1の遠心分離機の動作手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
1 遠心分離機 2 ロータ 3 回転室 4 回転軸
5 ドア 6 油回転真空ポンプ 7 油拡散真空ポンプ
8 操作部 9 モータ 10 真空配管 11 真空センサ
12 制御部 13 サーモモジュール 14 DPボイラ部
15 温度センサ 16 DPヒータ部 17 オイルミストトラップ
200 (操作・表示部に表示される)画面 201 回転速度表示領域
202 実回転速度 203 設定回転速度 204 時間表示領域
205 運転時間 206 設定運転時間 207 温度表示領域
208 ロータ温度 209 設定温度
210 SPEED/RCFボタン 211 ACCEL/DECELボタン
215 現在日時 220 整定までの時間
230 スタートボタン 231 ストップボタン
240 真空度表示



【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータによって回転されるロータを収容する回転室と、前記回転室の空気を吸引し圧力を減圧せしめる真空ポンプと、使用者からの入力を受け付ける操作部と、使用者へ情報の表示をする表示部と、これらの動作を制御する制御部を備えた遠心分離機において、
前記制御部は、前記真空ポンプによって所定の真空度に達するまでの真空到達時間を算出し、前記表示部に算出された真空到達時間を表示することを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記所定の真空度とは、使用者によって設定された設定回転数で残留空気との摩擦による温度上昇なく、前記ロータを連続回転させることができる真空度であることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記制御部は、前記真空到達時間を一定間隔毎に再計算し、再計算された真空到達時間を前記表示部に表示することを特徴とする請求項1又は2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記真空ポンプは油拡散真空ポンプを含み、前記油拡散真空ポンプは作動油の温度を検出する温度センサを有し、
前記制御部は、前記温度センサによって検出された前記作動油の温度情報を用いて前記真空到達時間を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記真空ポンプは、さらに油回転真空ポンプを含み、大気圧から前記油拡散真空ポンプが有効に作動する臨界背圧に至るまで、前記油回転真空ポンプによって減圧を行うことを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記制御部は、(1)減圧開始時から前記油拡散真空ポンプの臨界背圧まで、(2)前記臨界背圧から前記作動油の温度が前記油拡散真空ポンプの動作温度に達するまで、及び、(3)前記油拡散真空ポンプが有効に作動して前記所定の真空度に到達するまで、の3つの区間に分けて、各区間の到達予定時間を算出し、これら到達予定時間の合計を求めることによって前記真空到達時間を算出することを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記制御部は、前記(1)〜(3)の各区間における前記回転室内の真空度の到達カーブ又は前記油拡散真空ポンプの温度カーブをあらかじめ格納しておき、格納された前記カーブを用いて各区間における前記到達予定時間を算出することを特徴とする請求項6に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記制御部は、一定間隔毎に再計算される前記真空到達時間を比較し、比較された前記真空到達時間の推移に異常が生じた場合は、前記表示部にメッセージを表示することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項9】
前記制御部は、比較された前記真空到達時間が減らない状態が所定回数以上続いた場合に、異常が生じたと判定することを特徴とする請求項8に記載の遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−104944(P2010−104944A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281250(P2008−281250)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】