遠心分離用ロータ及び遠心機
【課題】ロータ内での自己回転現象を防止してサンプリングチューブ内に正確なバンド層位置を保持できるアングル形遠心分離機を提供する。
【解決手段】回転軸に対して一定の角度で多数のサンプリングチューブを保持し、且つサンプリングチューブ内の試料を分離するための複数のチューブ挿入用穴が間隔をおいて配置されているアングル形遠心分離用ロータ1において、チューブ挿入用穴の中心に対して半径方向の外側に位置する面に凹部を形成し、該凹部にサンプリングチューブの蓋又は蓋とチューブとを繋ぐ蝶番部とを当接させて、サンプリングチューブの自己回転防止部5aを設けた。
【解決手段】回転軸に対して一定の角度で多数のサンプリングチューブを保持し、且つサンプリングチューブ内の試料を分離するための複数のチューブ挿入用穴が間隔をおいて配置されているアングル形遠心分離用ロータ1において、チューブ挿入用穴の中心に対して半径方向の外側に位置する面に凹部を形成し、該凹部にサンプリングチューブの蓋又は蓋とチューブとを繋ぐ蝶番部とを当接させて、サンプリングチューブの自己回転防止部5aを設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、薬学、遺伝子工学等の遠心機の分野で使用される遠心分離用ロータ及びそれを用いた遠心機に関し、特に、アングル形遠心分離用ロータ及びそれを用いた遠心機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、最高回転速度が10,000〜22,000rpm程度で回転する遠心機は、遠心分離用ロータを回転させるロータ室内の気圧を低下させることなく、大気圧の状態で運転する場合が多い。遠心機においてロータ室内にセットされたロータが回転中に発生する空気との摩擦熱によって大きく温度上昇することが知られている。この温度上昇を低減するために、ロータの試料保持穴(試料チューブ挿入用穴)の上部をカバーで覆ってロータ表面をできる限り凹凸の無い形状にして摩擦熱の発生を抑制したり、ロータ室内に冷凍機等の冷却装置を実装したりしている。
【0003】
しかし、15,000rpm前後で遠心分離する遠心機では、ロータの保持穴への試料の出し入れを簡便にすることからカバーを取付けない構造とする遠心分離用ロータが一般的となっている。また、このような遠心分離用ロータでは1.5ml程度の容量を持つポリプロピレン製のサンプリングチューブ(遠心チューブ)を使い捨てで使用して遠心分離することが一般的となっている。サンプリングチューブは市販品であるため各社より様々な形状の製品が市販されている。例えば、エッペンドルフ社から販売されているセイフロックチューブがある。
【0004】
この種のサンプリングチューブ20は、図11に示すように、円筒状の試料容器21が注入口より先端底部にかけて略円錐状の形状を有し、更に試料容器21の上端部には遠心分離用ロータに係止させるための周縁当接部23と、周縁当接部23の内径部に嵌合し、試料の漏れを防止するための略楕円形状の外形を持つ蓋22とが設けられているのが一般的である。各社から販売されているサンプリングチューブは、蓋の外形寸法等詳細な寸法は各社とも異なっているが、概略同様の形状ではある。このため、図10に示すように、サンプリングチューブ20を使用する遠心分離用ロータ1の遠心チューブ挿入用穴(試料体保持部)3bの穴径d11は、サンプリングチューブ20の試料容器21の円筒部外径d1(図11参照)よりも僅かに広い径として、試料容器21の上端部25の周縁当接部23を試料容器21の外径d1より大きな外径d2を持つように構成し、周縁当接部23を遠心チューブ挿入穴3bの開口周縁部(周縁係止部)3cに係止させる構造とするのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図11に示したようなサンプリングチューブ(遠心チューブ)20を用いて遠心分離をした場合、図10に示す遠心分離用ロータ1のロータ本体3の遠心チューブ挿入用穴3b内にセットしたサンプリングチューブ20のセット位置が、遠心分離中に遠心チューブ挿入用穴3b内で初期の位置から自回転して初期位置の状態を保持できなくなるという問題点が見られるようになった。この問題点が発生する理由は、遠心分離用ロータ1の小形軽量化及び遠心分離機の駆動能力の向上が進み、迅速な加速、減速が可能となったことにより発生する現象で、サンプリングチューブ20の蓋に働く慣性力によってチューブが回転移動することが原因である。サンプリングチューブ20に遠心分離前後で回転による位置ずれが発生した場合、動物血の白血球の分離等に代表される、特に、目視不可能な試料のバンド層を分離、抽出する用途においては、目的とする試料の沈殿位置又はバンド層を見極めることが極めて困難となり、且つ貴重な試料の回収率を低下させるという問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、上記した問題を解決し、分離性能を確保しながら、ロータの操作性を損なうことなく使い勝手の良い遠心分離用ロータ及び遠心機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明は、ロータ本体の挿入面に互いに離間して配置された複数の遠心チューブ挿入用穴を有し、円筒状の試料容器と、該容器の上端部の内径に嵌合する蓋と、前記容器と前記蓋とを繋ぐ蝶番部とを有する遠心チューブを、前記遠心チューブ挿入用穴に挿入して遠心分離を行う遠心機用ロータにおいて、前記遠心チューブ挿入用穴の中心に対して半径方向外側の前記挿入面に、凹部を形成し、該凹部に前記蓋又は、蝶番部を当接させて、遠心チューブ挿入用穴内における遠心チューブの自己回転を防止するようにしたことに一つの特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
ロータのチューブ挿入穴に挿入される前記遠心チューブの前記上端部(周縁当接部)の回転を防止できるので、サンプリングチューブの遠心分離前後の自回転による位置ずれを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の遠心分離用ロータを用いた遠心機の側面断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る遠心分離用ロータの斜視図。
【図3】図2に示した遠心分離用ロータの部分断面図。
【図4】図2に示した遠心分離用ロータの部分斜視図。
【図5】図2に示した遠心分離用ロータの部分平面図。
【図6】図5に示した遠心分離用ロータのX−X線に沿う部分断面図。
【図7】図2に示した遠心分離用ロータの構成部材を示す斜視図。
【図8】図7に示した遠心分離用ロータの構成部材のY−Y線に沿う断面図。
【図9】本発明の実施形態に係る遠心分離機用ロータの斜視図。
【図10】従来技術に係る遠心分離用ロータの斜視図。
【図11】サンプリングチューブの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る遠心分離用ロータ及びそれを用いた遠心機の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。また、従来技術と同一する部材についても、上述の従来技術の説明で使用した符号を用いる。
【0011】
まず、図1を参照して本発明に係る遠心機本体の全体の構成について説明する。図1において、遠心機本体30は、上面から見た断面形状が略四角形を有する筐体(フレーム)31を備え、筐体31の内部には、図11に示した遠心チューブ(サンプリングチューブ)20を保持するための遠心チューブ挿入用穴(試料容器保持部)3bを有する遠心分離用ロータ1と、遠心分離用ロータ1に駆動軸35を介して駆動力を与えるためのモータ34と、モータ34の振動等を吸収する防振ゴム等から成るモータ支持部36と、モータ支持部36を固定するフレーム部31aと、ロータ1を収納するロータ室(回転室)33とを具備し、更に、筐体31内に形成されたロータ室33の上部開口部33aを密閉するためのドア32とを備える。
【0012】
ロータ室33は、ボウル形状の仕切部材37によって区画され、該仕切部材37及び上記ドア32によって、外気から密閉されている。モータ34は、例えば、300Vの3相交流電源で起動する3相誘導モータから構成され、上記ロータ1に、回転軸35を介して、15,000rpm等の高速回転を与えることができる。
【0013】
本発明に係る遠心分離用ロータ1は、モータ34の駆動軸35に着脱自在に装着されており、ロータ室33の上部に取付けられたドア32を上方に開いた状態において、遠心分離用ロータ1はロータ室33の上方から着脱できる構成となっている。
【0014】
図2は、図1の遠心機本体30に用いられる本発明の実施例に係る遠心分離用ロータ1を取り出して拡大した斜視図、図3は遠心分離用ロータ3の右側半分の断面図(側面図)、図4は遠心分離用ロータ1の部分拡大断面図をそれぞれ示す。
【0015】
図3に示すように、遠心分離用ロ−タ1は、回転軸2に沿う中心部にモータ34の駆動軸35と締結するためのカップリング部3aを有する。カップリング部3aはネジ込み等によりモータ34の駆動軸35と接続される。ロータ本体3の挿入面3dは、略すり鉢状(逆円錐状)の内周面を有し、そのすり鉢状内周面には、図11に示したサンプリングチューブ20を挿入するための複数の遠心チューブ挿入用穴3bが形成されている。遠心チューブ挿入用穴3bの中心軸3eは、ロータ本体3の回転軸(中心軸)2に対し、一定の角度を持つように形成されている。
【0016】
遠心チューブ挿入用穴3bの各々はロータ本体3の挿入面3dに対し垂直な中心軸3eに沿ってロータ本体3の内部より挿入面3dの開口部4a(又は4b)に延びている。図2及び図4に示されるように、複数の開口部4a群は、すり鉢状内周面の一定の内径を持つ水平位置に沿って配列されており、他の複数の開口部4b群は、開口部4a群の内径より大きい内径を持つ他の水平位置に沿って配列されている。つまり、本実施例では、2つの開口部4a群及び開口部4b群は、すり鉢状内周面に2段に配列されている。図3に示した遠心チューブ挿入用穴3bの穴径(内径)d11は、図10に示したサンプリングチューブ20の試料容器21の外径d1より大きく、その試料容器21の上端部25における周縁当接部23の外径d2より小さくなるように規定されている。これにより、開口部4a(又は4b)の周縁係止部3cに、試料保持容器21の周縁当接部23が当接するように試料容器21を載置できる。
【0017】
本発明の第1の実施形態に係る開口部4a群に対し設けられた回転防止部(障壁)5aについて説明すれば、開口部4aには、図5及び図6に示すように、遠心チューブ挿入用穴3bの中心3eに対して半径方向外側に中心3gを持つ回転防止部(障壁)5aが、遠心チューブ挿入用穴3bの中心3eに対して円周方向対称の位置において、サンプリングチューブ20(図11)の蓋22(周縁載置部3f)の側壁に当接するように円弧状に形成され、その障壁部5aの高さは、例えば図6に示すように蓋22の半分以上を覆うような高さに設定されている。障壁部5aは、図5に示すように、例えば、ロータ本体3を機械加工して蓋22を含む周縁載置部3fを底部とする溝を形成することによって設けることができる。
【0018】
これによって、従来のロータ構造の場合、図10に示すように遠心チューブ挿入用穴3bの開口部4には、サンプリングチューブ20の回転を阻止するための障壁がないため、遠心チューブ挿入用穴3bの中で自回転してしまうという問題があったが、図5及び図6に示すような本発明によれば、回転防止部(障壁)5aがサンプリングチューブ20の上端部25における蓋22(周縁載置部3f)を半分以上覆う高さで形成されているので、蓋22の側壁が回転防止部(障壁)5aに当接してサンプリングチューブ20が遠心チューブ挿入用穴3b内で自己回転することを防止できる。
【0019】
また、開口部4b群に対し設けられた第2の実施形態に係る回転防止部5bは、図4に示すように、遠心チューブ挿入用穴3bの中心に対して半径方向外側の位置に円周方向対称の位置に形成した並行な二つの面(障壁面)5bによって構成されている。例えば、回転防止部5bは、図7及び図8に示すように、回転防止部5bを有する金属材料から成るリング状障壁部材6を粘着シート6aによって遠心分離用ロータ本体3に貼り付けて形成することができる。この並行な二面5bは、図11に示すサンプリングチューブ20の上端部25における蓋22の蝶番部24(周縁載置部3f)を挟み込むように当接して、上記回転防止部5aと同様に、サンプリングチューブ20が遠心チューブ挿入用穴3b内で自己回転することを防止する。
【0020】
更に、回転防止部は、図9に示すように、上記二つの並行面5bの代わりに円筒状の一対のピン5cで形成することによってサンプリングチューブ20の蝶番部24を挟み込めば、回転防止部5bと同様の効果を得ることができる。一対の円筒状のピン5cは、遠心分離用ロータ本体3の遠心チューブ挿入用穴3bの周縁載置部3fにおいて該当する箇所にピン穴を加工して圧入すれば容易に構成することが出来る。
【0021】
なお、回転防止部5a,5bの高さはサンプリングチューブ20の蓋部22の側壁部が当接できるような高さであれば、蓋部22の平面と同等若しくは平面より低い高さでもよい。
【0022】
また、回転防止部5a及び5b,5cは、ロータ本体3に機械加工によって形成した溝で構成してもよく、若しくはロータ本体3の挿入面に重ね合わせた障壁部材によって形成してもよい。
【0023】
更に、回転防止部における一対の障壁(5a,5b,5c)間の幅は、その間に挟み込まれるサンプリングチューブ20の上端部25の蓋部22又は蝶番部24の幅に対応して設定されるが、遠心分離時にサンプリングチューブ20に許容できる自回転角度が所定以内(例えば、30度以内)であれば、広めの幅に設定してもよい。
【0024】
以上の実施例の説明から明らかにされるように、本発明によれば、遠心分離用ロータの遠心チューブ挿入用穴に挿入される遠心チューブの回転を防止するための回転防止部を配設するので、サンプリングチューブの遠心分離前後のロータ内での自己回転による位置ずれを防止できる。従って、サンプリングチューブを目視不可能な試料のバンド層を分離、抽出するために使用する場合、目的とする試料の沈殿位置又はバンド層を判別することが容易となり、貴重な試料の回収率を向上させることができる。
【0025】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0026】
1:遠心分離用ロータ 2:中心軸 3:ロータ本体
3a:カップリング部 3b:遠心チューブ挿入用穴(試料体保持部)
3c:周縁係止部 3d:挿入面 3e:遠心チューブ挿入用穴の中心軸
3f:周縁載置部 4a,4b,4c:開口部 5a,5b,5c:回転防止部
6:障壁部材 6a:粘着シート 20:サンプリングチューブ
21:サンプリングチューブの試料容器 22:サンプリングチューブの蓋
23:サンプリングチューブの周縁当接部 24:サンプリングチューブの蝶番部
25:サンプリングチューブの上端部 30:遠心機 31:フレーム(筐体)
31a:モータ取付用フレーム部 32:ドア 33:ロータ室
34:モータ 35:駆動軸 36:モータ支持部 37:隔壁部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、薬学、遺伝子工学等の遠心機の分野で使用される遠心分離用ロータ及びそれを用いた遠心機に関し、特に、アングル形遠心分離用ロータ及びそれを用いた遠心機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、最高回転速度が10,000〜22,000rpm程度で回転する遠心機は、遠心分離用ロータを回転させるロータ室内の気圧を低下させることなく、大気圧の状態で運転する場合が多い。遠心機においてロータ室内にセットされたロータが回転中に発生する空気との摩擦熱によって大きく温度上昇することが知られている。この温度上昇を低減するために、ロータの試料保持穴(試料チューブ挿入用穴)の上部をカバーで覆ってロータ表面をできる限り凹凸の無い形状にして摩擦熱の発生を抑制したり、ロータ室内に冷凍機等の冷却装置を実装したりしている。
【0003】
しかし、15,000rpm前後で遠心分離する遠心機では、ロータの保持穴への試料の出し入れを簡便にすることからカバーを取付けない構造とする遠心分離用ロータが一般的となっている。また、このような遠心分離用ロータでは1.5ml程度の容量を持つポリプロピレン製のサンプリングチューブ(遠心チューブ)を使い捨てで使用して遠心分離することが一般的となっている。サンプリングチューブは市販品であるため各社より様々な形状の製品が市販されている。例えば、エッペンドルフ社から販売されているセイフロックチューブがある。
【0004】
この種のサンプリングチューブ20は、図11に示すように、円筒状の試料容器21が注入口より先端底部にかけて略円錐状の形状を有し、更に試料容器21の上端部には遠心分離用ロータに係止させるための周縁当接部23と、周縁当接部23の内径部に嵌合し、試料の漏れを防止するための略楕円形状の外形を持つ蓋22とが設けられているのが一般的である。各社から販売されているサンプリングチューブは、蓋の外形寸法等詳細な寸法は各社とも異なっているが、概略同様の形状ではある。このため、図10に示すように、サンプリングチューブ20を使用する遠心分離用ロータ1の遠心チューブ挿入用穴(試料体保持部)3bの穴径d11は、サンプリングチューブ20の試料容器21の円筒部外径d1(図11参照)よりも僅かに広い径として、試料容器21の上端部25の周縁当接部23を試料容器21の外径d1より大きな外径d2を持つように構成し、周縁当接部23を遠心チューブ挿入穴3bの開口周縁部(周縁係止部)3cに係止させる構造とするのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図11に示したようなサンプリングチューブ(遠心チューブ)20を用いて遠心分離をした場合、図10に示す遠心分離用ロータ1のロータ本体3の遠心チューブ挿入用穴3b内にセットしたサンプリングチューブ20のセット位置が、遠心分離中に遠心チューブ挿入用穴3b内で初期の位置から自回転して初期位置の状態を保持できなくなるという問題点が見られるようになった。この問題点が発生する理由は、遠心分離用ロータ1の小形軽量化及び遠心分離機の駆動能力の向上が進み、迅速な加速、減速が可能となったことにより発生する現象で、サンプリングチューブ20の蓋に働く慣性力によってチューブが回転移動することが原因である。サンプリングチューブ20に遠心分離前後で回転による位置ずれが発生した場合、動物血の白血球の分離等に代表される、特に、目視不可能な試料のバンド層を分離、抽出する用途においては、目的とする試料の沈殿位置又はバンド層を見極めることが極めて困難となり、且つ貴重な試料の回収率を低下させるという問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、上記した問題を解決し、分離性能を確保しながら、ロータの操作性を損なうことなく使い勝手の良い遠心分離用ロータ及び遠心機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明は、ロータ本体の挿入面に互いに離間して配置された複数の遠心チューブ挿入用穴を有し、円筒状の試料容器と、該容器の上端部の内径に嵌合する蓋と、前記容器と前記蓋とを繋ぐ蝶番部とを有する遠心チューブを、前記遠心チューブ挿入用穴に挿入して遠心分離を行う遠心機用ロータにおいて、前記遠心チューブ挿入用穴の中心に対して半径方向外側の前記挿入面に、凹部を形成し、該凹部に前記蓋又は、蝶番部を当接させて、遠心チューブ挿入用穴内における遠心チューブの自己回転を防止するようにしたことに一つの特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
ロータのチューブ挿入穴に挿入される前記遠心チューブの前記上端部(周縁当接部)の回転を防止できるので、サンプリングチューブの遠心分離前後の自回転による位置ずれを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の遠心分離用ロータを用いた遠心機の側面断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る遠心分離用ロータの斜視図。
【図3】図2に示した遠心分離用ロータの部分断面図。
【図4】図2に示した遠心分離用ロータの部分斜視図。
【図5】図2に示した遠心分離用ロータの部分平面図。
【図6】図5に示した遠心分離用ロータのX−X線に沿う部分断面図。
【図7】図2に示した遠心分離用ロータの構成部材を示す斜視図。
【図8】図7に示した遠心分離用ロータの構成部材のY−Y線に沿う断面図。
【図9】本発明の実施形態に係る遠心分離機用ロータの斜視図。
【図10】従来技術に係る遠心分離用ロータの斜視図。
【図11】サンプリングチューブの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る遠心分離用ロータ及びそれを用いた遠心機の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。また、従来技術と同一する部材についても、上述の従来技術の説明で使用した符号を用いる。
【0011】
まず、図1を参照して本発明に係る遠心機本体の全体の構成について説明する。図1において、遠心機本体30は、上面から見た断面形状が略四角形を有する筐体(フレーム)31を備え、筐体31の内部には、図11に示した遠心チューブ(サンプリングチューブ)20を保持するための遠心チューブ挿入用穴(試料容器保持部)3bを有する遠心分離用ロータ1と、遠心分離用ロータ1に駆動軸35を介して駆動力を与えるためのモータ34と、モータ34の振動等を吸収する防振ゴム等から成るモータ支持部36と、モータ支持部36を固定するフレーム部31aと、ロータ1を収納するロータ室(回転室)33とを具備し、更に、筐体31内に形成されたロータ室33の上部開口部33aを密閉するためのドア32とを備える。
【0012】
ロータ室33は、ボウル形状の仕切部材37によって区画され、該仕切部材37及び上記ドア32によって、外気から密閉されている。モータ34は、例えば、300Vの3相交流電源で起動する3相誘導モータから構成され、上記ロータ1に、回転軸35を介して、15,000rpm等の高速回転を与えることができる。
【0013】
本発明に係る遠心分離用ロータ1は、モータ34の駆動軸35に着脱自在に装着されており、ロータ室33の上部に取付けられたドア32を上方に開いた状態において、遠心分離用ロータ1はロータ室33の上方から着脱できる構成となっている。
【0014】
図2は、図1の遠心機本体30に用いられる本発明の実施例に係る遠心分離用ロータ1を取り出して拡大した斜視図、図3は遠心分離用ロータ3の右側半分の断面図(側面図)、図4は遠心分離用ロータ1の部分拡大断面図をそれぞれ示す。
【0015】
図3に示すように、遠心分離用ロ−タ1は、回転軸2に沿う中心部にモータ34の駆動軸35と締結するためのカップリング部3aを有する。カップリング部3aはネジ込み等によりモータ34の駆動軸35と接続される。ロータ本体3の挿入面3dは、略すり鉢状(逆円錐状)の内周面を有し、そのすり鉢状内周面には、図11に示したサンプリングチューブ20を挿入するための複数の遠心チューブ挿入用穴3bが形成されている。遠心チューブ挿入用穴3bの中心軸3eは、ロータ本体3の回転軸(中心軸)2に対し、一定の角度を持つように形成されている。
【0016】
遠心チューブ挿入用穴3bの各々はロータ本体3の挿入面3dに対し垂直な中心軸3eに沿ってロータ本体3の内部より挿入面3dの開口部4a(又は4b)に延びている。図2及び図4に示されるように、複数の開口部4a群は、すり鉢状内周面の一定の内径を持つ水平位置に沿って配列されており、他の複数の開口部4b群は、開口部4a群の内径より大きい内径を持つ他の水平位置に沿って配列されている。つまり、本実施例では、2つの開口部4a群及び開口部4b群は、すり鉢状内周面に2段に配列されている。図3に示した遠心チューブ挿入用穴3bの穴径(内径)d11は、図10に示したサンプリングチューブ20の試料容器21の外径d1より大きく、その試料容器21の上端部25における周縁当接部23の外径d2より小さくなるように規定されている。これにより、開口部4a(又は4b)の周縁係止部3cに、試料保持容器21の周縁当接部23が当接するように試料容器21を載置できる。
【0017】
本発明の第1の実施形態に係る開口部4a群に対し設けられた回転防止部(障壁)5aについて説明すれば、開口部4aには、図5及び図6に示すように、遠心チューブ挿入用穴3bの中心3eに対して半径方向外側に中心3gを持つ回転防止部(障壁)5aが、遠心チューブ挿入用穴3bの中心3eに対して円周方向対称の位置において、サンプリングチューブ20(図11)の蓋22(周縁載置部3f)の側壁に当接するように円弧状に形成され、その障壁部5aの高さは、例えば図6に示すように蓋22の半分以上を覆うような高さに設定されている。障壁部5aは、図5に示すように、例えば、ロータ本体3を機械加工して蓋22を含む周縁載置部3fを底部とする溝を形成することによって設けることができる。
【0018】
これによって、従来のロータ構造の場合、図10に示すように遠心チューブ挿入用穴3bの開口部4には、サンプリングチューブ20の回転を阻止するための障壁がないため、遠心チューブ挿入用穴3bの中で自回転してしまうという問題があったが、図5及び図6に示すような本発明によれば、回転防止部(障壁)5aがサンプリングチューブ20の上端部25における蓋22(周縁載置部3f)を半分以上覆う高さで形成されているので、蓋22の側壁が回転防止部(障壁)5aに当接してサンプリングチューブ20が遠心チューブ挿入用穴3b内で自己回転することを防止できる。
【0019】
また、開口部4b群に対し設けられた第2の実施形態に係る回転防止部5bは、図4に示すように、遠心チューブ挿入用穴3bの中心に対して半径方向外側の位置に円周方向対称の位置に形成した並行な二つの面(障壁面)5bによって構成されている。例えば、回転防止部5bは、図7及び図8に示すように、回転防止部5bを有する金属材料から成るリング状障壁部材6を粘着シート6aによって遠心分離用ロータ本体3に貼り付けて形成することができる。この並行な二面5bは、図11に示すサンプリングチューブ20の上端部25における蓋22の蝶番部24(周縁載置部3f)を挟み込むように当接して、上記回転防止部5aと同様に、サンプリングチューブ20が遠心チューブ挿入用穴3b内で自己回転することを防止する。
【0020】
更に、回転防止部は、図9に示すように、上記二つの並行面5bの代わりに円筒状の一対のピン5cで形成することによってサンプリングチューブ20の蝶番部24を挟み込めば、回転防止部5bと同様の効果を得ることができる。一対の円筒状のピン5cは、遠心分離用ロータ本体3の遠心チューブ挿入用穴3bの周縁載置部3fにおいて該当する箇所にピン穴を加工して圧入すれば容易に構成することが出来る。
【0021】
なお、回転防止部5a,5bの高さはサンプリングチューブ20の蓋部22の側壁部が当接できるような高さであれば、蓋部22の平面と同等若しくは平面より低い高さでもよい。
【0022】
また、回転防止部5a及び5b,5cは、ロータ本体3に機械加工によって形成した溝で構成してもよく、若しくはロータ本体3の挿入面に重ね合わせた障壁部材によって形成してもよい。
【0023】
更に、回転防止部における一対の障壁(5a,5b,5c)間の幅は、その間に挟み込まれるサンプリングチューブ20の上端部25の蓋部22又は蝶番部24の幅に対応して設定されるが、遠心分離時にサンプリングチューブ20に許容できる自回転角度が所定以内(例えば、30度以内)であれば、広めの幅に設定してもよい。
【0024】
以上の実施例の説明から明らかにされるように、本発明によれば、遠心分離用ロータの遠心チューブ挿入用穴に挿入される遠心チューブの回転を防止するための回転防止部を配設するので、サンプリングチューブの遠心分離前後のロータ内での自己回転による位置ずれを防止できる。従って、サンプリングチューブを目視不可能な試料のバンド層を分離、抽出するために使用する場合、目的とする試料の沈殿位置又はバンド層を判別することが容易となり、貴重な試料の回収率を向上させることができる。
【0025】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0026】
1:遠心分離用ロータ 2:中心軸 3:ロータ本体
3a:カップリング部 3b:遠心チューブ挿入用穴(試料体保持部)
3c:周縁係止部 3d:挿入面 3e:遠心チューブ挿入用穴の中心軸
3f:周縁載置部 4a,4b,4c:開口部 5a,5b,5c:回転防止部
6:障壁部材 6a:粘着シート 20:サンプリングチューブ
21:サンプリングチューブの試料容器 22:サンプリングチューブの蓋
23:サンプリングチューブの周縁当接部 24:サンプリングチューブの蝶番部
25:サンプリングチューブの上端部 30:遠心機 31:フレーム(筐体)
31a:モータ取付用フレーム部 32:ドア 33:ロータ室
34:モータ 35:駆動軸 36:モータ支持部 37:隔壁部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ本体の挿入面に互いに離間して配置された複数の遠心チューブ挿入用穴を有し、
円筒状の試料容器と、該容器の上端部の内径に嵌合する蓋と、前記容器と前記蓋とを繋ぐ蝶番部とを有する遠心チューブを、前記遠心チューブ挿入用穴に挿入して遠心分離を行う遠心機用ロータにおいて、
前記遠心チューブ挿入用穴の中心に対して半径方向外側の前記挿入面に、凹部を形成し、
該凹部に前記蓋又は、蝶番部を当接させて、遠心チューブ挿入用穴内における遠心チューブの自己回転を防止することを特徴とする遠心機用ロータ。
【請求項2】
前記凹部は、前記遠心チューブ挿入用穴の近傍の凸部に設けられていることを特徴とする遠心機用ロータ。
【請求項3】
ロータ本体の挿入面に互いに離間して配置された複数の遠心チューブ挿入用穴を有し、
円筒状の試料容器と、該容器の上端部の内径に嵌合する蓋と、前記容器と前記蓋とを繋ぐ蝶番部とを有する遠心チューブを、前記遠心チューブ挿入用穴に挿入して遠心分離を行う遠心機用ロータと、前記遠心分離用ロータを回転駆動する駆動装置と、前記遠心分離用ロータを収納するロータ室と、前記ロータ室上部に開閉可能に配置されるドアとを具備する遠心機において、
前記遠心チューブ挿入用穴の中心に対して半径方向外側の前記挿入面に、凹部を形成し、
該凹部に前記蓋又は、蝶番部を当接させて、遠心チューブ挿入用穴内における遠心チューブの自己回転を防止することを特徴とする遠心機。
【請求項4】
前記凹部は、前記遠心チューブ挿入用穴の近傍の凸部に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の遠心機。
【請求項1】
ロータ本体の挿入面に互いに離間して配置された複数の遠心チューブ挿入用穴を有し、
円筒状の試料容器と、該容器の上端部の内径に嵌合する蓋と、前記容器と前記蓋とを繋ぐ蝶番部とを有する遠心チューブを、前記遠心チューブ挿入用穴に挿入して遠心分離を行う遠心機用ロータにおいて、
前記遠心チューブ挿入用穴の中心に対して半径方向外側の前記挿入面に、凹部を形成し、
該凹部に前記蓋又は、蝶番部を当接させて、遠心チューブ挿入用穴内における遠心チューブの自己回転を防止することを特徴とする遠心機用ロータ。
【請求項2】
前記凹部は、前記遠心チューブ挿入用穴の近傍の凸部に設けられていることを特徴とする遠心機用ロータ。
【請求項3】
ロータ本体の挿入面に互いに離間して配置された複数の遠心チューブ挿入用穴を有し、
円筒状の試料容器と、該容器の上端部の内径に嵌合する蓋と、前記容器と前記蓋とを繋ぐ蝶番部とを有する遠心チューブを、前記遠心チューブ挿入用穴に挿入して遠心分離を行う遠心機用ロータと、前記遠心分離用ロータを回転駆動する駆動装置と、前記遠心分離用ロータを収納するロータ室と、前記ロータ室上部に開閉可能に配置されるドアとを具備する遠心機において、
前記遠心チューブ挿入用穴の中心に対して半径方向外側の前記挿入面に、凹部を形成し、
該凹部に前記蓋又は、蝶番部を当接させて、遠心チューブ挿入用穴内における遠心チューブの自己回転を防止することを特徴とする遠心機。
【請求項4】
前記凹部は、前記遠心チューブ挿入用穴の近傍の凸部に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の遠心機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−35261(P2012−35261A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204247(P2011−204247)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【分割の表示】特願2006−46073(P2006−46073)の分割
【原出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【分割の表示】特願2006−46073(P2006−46073)の分割
【原出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】
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