説明

遠心分離装置

【課題】複数の遠心分離容器に対して洗浄液等を均等に供給することができる遠心分離装置を提供する。
【解決手段】モータと、モータの回転軸に接続されたロータ2と、ロータ2の回転軸11上に配置されたステータ1と、ロータ2とステータ1の少なくとも一方を軸方向に押圧して、ステータ1とロータ2とを密着させる押圧部材1dと、ロータ2の半径方向外方に接続された複数の遠心分離容器3とを備え、ステータ1が、ロータ2との密着面1cに設けられた回転軸11を中心とする円弧状の溝と、溝内に開口する流路1a,1bとを有し、ロータ2が、ステータ1との密着面2aに溝と同一円周上において等間隔で開口する複数の開口部と、該開口部と遠心分離容器3とを接続する複数の流路2c,2dとを有する遠心分離装置10を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪組織を分解して脂肪由来細胞を単離させた細胞懸濁液を収容した遠心分離容器と、該遠心分離容器の半径方向内方に接続されたロータを備え、該ロータを回転させることにより、細胞懸濁液内に含有されている成分を比重により分離する遠心分離装置が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
このような遠心分離装置において、細胞懸濁液の遠心分離を行う際には、分離した細胞がペレット状に凝集してしまうことを防止するために、遠心分離容器に洗浄水等を供給する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【特許文献2】特開平9−215947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1および特許文献2に開示されている技術では、ロータから各遠心分離容器までの管路の長さや詰まり具合等によって、複数の遠心分離容器に対して洗浄液等を均等に供給することができないという不都合があった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、複数の遠心分離容器に対して洗浄液等を均等に供給することができる遠心分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、モータと、該モータの回転軸に接続されたロータと、該ロータの回転軸上に配置されたステータと、前記ロータと前記ステータの少なくとも一方を軸方向に押圧して、前記ステータと前記ロータとを密着させる押圧部材と、前記ロータの半径方向外方に接続された複数の遠心分離容器とを備え、前記ステータが、前記ロータとの密着面に設けられた前記回転軸を中心とする円弧状の溝と、該溝内に開口する固定側流路とを有し、前記ロータが、前記ステータとの密着面に前記溝と同一円周上において等間隔で開口する複数の開口部と、該開口部と前記遠心分離容器とを接続する複数の可動側流路とを有する遠心分離装置を採用する。
【0008】
本発明によれば、ステータの固定側流路に供給された洗浄液等は、ロータとの密着面に設けられた円弧状の溝に供給され、該溝と同一円周上に等間隔で設けられた開口部に流入し、該開口部に接続された可動側流路を流通して複数の遠心分離容器に供給される。この際、モータを定速回転させることで、ロータに設けられた複数の開口部が、ステータに設けられた溝を通過する時間を一定とすることができる。これにより、ロータの各配管に供給される洗浄液等の量を一定とすることができ、複数の遠心分離容器に対して洗浄液等を均等に供給することができる。
【0009】
上記発明において、前記ステータと前記ロータの少なくとも一方の密着面に粗面処理が施されていることとしてもよい。
このようにすることで、押圧部材によるステータとロータとの密着面における押圧力を高めて、ステータとロータとの間からの洗浄液等の漏れを防止することができる。
【0010】
上記発明において、前記ステータと前記ロータの少なくとも一方の密着面に潤滑コーティングまたは耐磨耗コーティングが施されていることとしてもよい。
このようにすることで、ステータとロータとの密着面における磨耗を低減して、ステータとロータとの間からの洗浄液等の漏れを防止することができる。
【0011】
上記発明において、前記押圧部材を軸方向に付勢するばねを備えることとしてもよい。
このようにすることで、ステータとロータとの密着面に磨耗が生じた場合にも、ばねにより押圧部材を軸方向に付勢して、ステータとロータとの間からの洗浄液等の漏れを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の遠心分離容器に対して洗浄液等を均等に供給することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離装置を示す概略構成図である。
【図2】図1のステータの密着面における平面図である。
【図3】図1のロータの密着面における平面図である。
【図4】第1の変形例に係るステータおよびロータの構成図である。
【図5】第2の変形例に係る遠心分離装置を示す概略構成図である。
【図6】第3の変形例に係るステータおよびロータの構成図であり、(a)は縦断面図、(b)はロータの密着面における平面図である。
【図7】第4の変形例に係るロータの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る遠心分離装置10について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離装置10は、図1に示されるように、図示しないモータと、該モータの回転軸11に接続されたロータ2と、ロータ2の回転軸11上に配置されたステータ1と、ステータ1に対してロータ2を軸方向に押圧する押圧部材1dと、ロータ2の半径方向外方に揺動可能に接続された一対の遠心分離容器3とを備えている。
【0015】
ステータ1は、ロータ2と密着させられる密着面1cと、洗浄液等を遠心分離容器3に供給または排出するために内部に設けられた流路(固定側流路)1a,1bとを有している。
密着面1cには、図2に示されるように、回転軸11を中心として中心角180°の円弧状の溝1e,1fが設けられている。流路1a,1bは、洗浄液等を収容する図示しない容器に接続されるとともに、溝1e,1f内に開口している。
【0016】
ロータ2は、ステータ1と密着させられる密着面2aと、洗浄液等を遠心分離容器3に供給または排出するために内部に設けられた一対の流路(可動側流路)2c,2dと、モータの回転軸と契合する契合部2eとを有している。
密着面2aには、図3に示されるように、ステータ1に設けられた円弧状の溝1e,1fと同一円周上において、回転中心に対して点対称の位置に一対の流路2c,2dの開口部が設けられている。
【0017】
流路2c,2dは、上記の開口部と遠心分離容器3とをそれぞれ接続している。
契合部2eは、モータの回転力をロータ2に伝達し、ロータ2を回転軸11回りに回転駆動するようになっている。
一方、ステータ1は、遠心分離装置10の蓋(図示略)等により回転が拘束される。これにより、ステータ1とロータ2との間で相対的な回転が生じるようになっている。
【0018】
遠心分離容器3は、一端が開口し、他端がテーパ状に漸次先細になって閉塞されている略円筒状の容器本体3aと、該容器本体3aの開口部3bを閉塞する蓋体3cと、該蓋体3cの中央から容器本体3aの軸線に沿って延び、洗浄液を供給したり上清を吸引したりする配管3d,3eとを備えている。
【0019】
押圧部材1dは、例えばゴム等の弾性部材であり、その弾性力により、ステータ1の密着面1cとロータ2の密着面2aとを向かい合うように配置した状態で、ロータ2をステータ1に対して軸方向に押し付けるようになっている。これにより、ステータ1とロータ2とを密着させ、ステータ1とロータ2との間からの洗浄液等の漏れを防止するようになっている。
ロータ2に設けられた流路2c,2dと遠心分離容器3とは、例えばゴム製のチューブ13a,13bにより接続されている。
【0020】
上記構成を有する遠心分離装置10の作用について説明する。
細胞懸濁液A内の細胞を遠心分離するにあたり、まず、遠心分離容器3内に細胞懸濁液Aを収容する。この状態で、予め定められた回転速度および回転時間でモータを回転駆動する。
【0021】
遠心分離容器3は、ロータ2の両端に揺動可能に取り付けられているので、モータの回転駆動によりロータ2が回転させられると、ロータ2に対して遠心分離容器3が揺動して容器本体3aの底部が半径方向外方に向かう姿勢に変化して回転させられる。これにより、遠心分離容器3内の細胞懸濁液Aには容器本体3aの底部に向かう方向に遠心力が作用し、細胞懸濁液A内の細胞の比重に応じて、比重が大きい順に容器本体3aの底面側から順に堆積されていく。
【0022】
その後、モータを一旦停止し、配管3dを介して上清を吸引する。
ここで、遠心分離により凝集した細胞群の中には、不要な組織片や消化液成分等が巻き込まれるようにして保持されてしまっている場合がある。そこで、配管3eを介して容器本体3a内に残った細胞群に対して洗浄液を供給する。
【0023】
具体的には、図示しない容器からステータ1に設けられた流路1aに洗浄液を流通させる。流路1aを流通してきた洗浄液は、ステータ1のロータ2との密着面1cに設けられた円弧状の溝1eに供給される。
【0024】
円弧状の溝1eに供給された洗浄液は、ロータ2のステータ1との密着面2aに設けられた流路2cの開口部が円弧状の溝1eを通過する際に、流路2cに流入して流路2c内を流通させられる。流路2cを流通してきた洗浄液は、チューブ13bおよび遠心分離容器3の配管3eを流通して、容器本体3a内に供給される。
【0025】
この際、モータを定速回転させることで、ロータ2に設けられた一対の流路2cの開口部が、ステータ1に設けられた溝1eを通過する時間を一定とすることができる。これにより、ロータ2の一対の流路2cに供給される洗浄液の量を一定とすることができ、複数の遠心分離容器3に対して洗浄液を均等に供給することができる。
【0026】
これにより、複数の遠心分離容器3に対して均等に洗浄液を供給し、細胞群がペレット状に凝集していても、供給される洗浄液の流動エネルギによって細胞群を攪拌し、不要な組織片や洗浄液成分を細胞群から解放して放出させることができる。
【0027】
なお、細胞群の凝集が顕著な場合には、細胞懸濁液Aを攪拌するためにモータの回転速度を変化させることとしてもよい。これにより、ロータ2に対する遠心分離容器3の揺動角度を変動させ、遠心分離容器3内の細胞懸濁液Aを攪拌することができる。これにより、細胞群がペレット状に凝集していても、効率的に攪拌してほぐすことができ、洗浄液内に均一に分散した細胞懸濁液Aを生成することができる。
【0028】
このようにして生成された細胞懸濁液は、開口部3bからピペットあるいはシリンジ(図示略)を差し入れて吸引することにより、細胞群を容器本体3a内に残すことなく吸引回収することができる。
【0029】
以上のように、本実施形態に係る遠心分離装置10によれば、ステータ1の流路1aに供給された洗浄液は、ロータ2との密着面1cに設けられた円弧状の溝1eに供給され、該溝1eと同一円周上に設けられたロータ2の流路2cの開口部に流入し、該開口部に接続された流路2cを流通して複数の遠心分離容器3に供給される。この際、モータを定速回転させることで、ロータ2に設けられた流路2cの開口部が、ステータ1に設けられた溝1eを通過する時間を一定とすることができる。これにより、ロータ2の流路2cに供給される洗浄液の量を一定とすることができ、複数の遠心分離容器3に対して洗浄液を均等に供給することができる。
【0030】
なお、本実施形態の第1の変形例として、図4に示すように、押圧部材1dをステータ1の内周側および外周側に設けることとしてもよい。
このようにすることで、押圧部材1dによるステータ1とロータ2との密着面における押圧力を高めて、ステータ1とロータ2との間からの洗浄液等の漏れを防止することができる。
【0031】
なお、本実施形態の第2の変形例として、図5に示すように、チューブ13を途中で分岐させて遠心分離容器3の配管3d,3eに接続することとしてもよい。
このようにすることで、装置構成を簡略化することができる。
【0032】
また、本実施形態の第3の変形例として、図6(a)および図6(b)に示すように、ロータ2の密着面2aに粗面処理を施すこととしてもよい。
このようにすることで、押圧部材1dによるステータ1とロータ2との密着面における押圧力を高めて、ステータ1とロータ2との間からの洗浄液等の漏れを防止することができる。なお、ロータ2の密着面2aの代わりに、ステータ1の密着面1cに粗面処理を施すこととしてもよい。
【0033】
また、本実施形態の第4の変形例として、図7に示すように、ロータ2の密着面2aに潤滑コーティングや耐磨耗コーティング等の機能性コーティング2fを施すこととしてもよい。具体的には、PTFEコート等のフッ素樹脂系コートや、フッ素樹脂含有めっきでもよく、ダイヤモンドライクカーボン等の潤滑コーティングでもよい。
【0034】
このようにすることで、ステータ1とロータ2との密着面における磨耗を低減して、ステータとロータとの間からの洗浄液等の漏れを防止することができる。
なお、ロータ2の密着面2aの代わりに、ステータ1の密着面1cに上記のコーティング処理を施すこととしてもよい。また、ステータ1の密着面1cまたはロータ2の密着面2aに撥水性コーティングを施すこととしてもよい。
【0035】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、ステータ1に設けた押圧部材1dによりステータ1とロータ2を軸方向に押圧することとして説明したが、ステータ1とロータ2とを密着させることができればよく、ロータ2に設けることとしてもよい。また、押圧部材1dは、ステータ1またはステータ1とロータ2の両方を軸方向から挟み込む形状としてもよい。
【0036】
また、遠心分離容器3は2つ備えられていることとして説明したが、3つ以上であってもよい。この場合には、遠心分離容器3の数に応じてロータ2に流路を設け、該流路の密着面2aにおける開口部を周方向に等間隔とすればよい。
【0037】
また、各実施形態において、ステータ1とロータ2とを密着させるように押圧部材1dを軸方向に付勢するばねを備えることとしてもよい。
このようにすることで、ステータ1とロータ2との密着面に磨耗が生じた場合にも、ばねにより押圧部材1dを付勢して、ステータ1とロータ2との間からの洗浄液等の漏れを防止することができる。
【符号の説明】
【0038】
A 細胞懸濁液
1 ステータ
1a,1b 流路(固定側流路)
1c 密着面
1d 押圧部材
1e,1f 溝
2 ロータ
2a 密着面
2c,2d 流路(可動側流路)
2e 契合部
2f 機能性コーティング
3 遠心分離容器
10 遠心分離装置
11 回転軸
13,13a,13b チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
該モータの回転軸に接続されたロータと、
該ロータの回転軸上に配置されたステータと、
前記ロータと前記ステータの少なくとも一方を軸方向に押圧して、前記ステータと前記ロータとを密着させる押圧部材と、
前記ロータの半径方向外方に接続された複数の遠心分離容器とを備え、
前記ステータが、前記ロータとの密着面に設けられた前記回転軸を中心とする円弧状の溝と、該溝内に開口する固定側流路とを有し、
前記ロータが、前記ステータとの密着面に前記溝と同一円周上において等間隔で開口する複数の開口部と、該開口部と前記遠心分離容器とを接続する複数の可動側流路とを有する遠心分離装置。
【請求項2】
前記ステータと前記ロータの少なくとも一方の密着面に粗面処理が施されている請求項1に記載の遠心分離装置。
【請求項3】
前記ステータと前記ロータの少なくとも一方の密着面に潤滑コーティングまたは耐磨耗コーティングが施されている請求項1または請求項2に記載の遠心分離装置。
【請求項4】
前記押圧部材を軸方向に付勢するばねを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の遠心分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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