説明

遠心機

【課題】
複数の真空ポンプを有する遠心機において、特定条件での運転時の総消費電力を低減させる。
【解決手段】
ロータ2を収納するロータ室4と、ロータ2を回転させる駆動部9と、ロータ室4内を減圧する複数の真空ポンプ(6,7)と、使用者からの運転条件の設定を受け付ける操作部8と、これらの動作を制御する制御部12を備えた遠心機において、遠心分離の設定回転数が閾値回転数よりも低い場合には油拡散真空ポンプ7を停止させて油回転真空ポンプ6だけを運転させるようにした。遠心分離の設定回転数が閾値回転数よりも高い場合には、油回転真空ポンプ6と油拡散真空ポンプ7の双方を稼働させる。閾値回転数はロータ2の種類毎に予め制御部12に格納しておき、装着されたロータ2毎に閾値回転数を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転室を減圧して使用する遠心機に関し、特に、回転条件に応じて真空ポンプの運転を制御して省エネルギー化を図った遠心機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠心機は、分離する試料をチューブやボトルに入れ、それらをロータに装填させた後、ロータをロータ室(回転体室)の中に収容し、ロータ室を密閉した状態でロータを高速に回転させてロータに保持された試料の分離、精製等を行うものである。ロータの回転速度は用途によって異なり、最高回転速度が毎分数千回転(rpm)程度の比較的低速のものから、最高回転速度が毎分15万回転(rpm)程度の高速のものまで、幅広い回転速度をもつ製品群が一般に提供されている。なかでも回転速度が概ね4万rpmを超える遠心機の場合には、ロータ室内の空気とロータとの風損(摩擦熱)の発生を抑制するため、ロータ室を減圧させる真空ポンプを備えている。真空ポンプは、粗引きポンプとしての油回転真空ポンプと、より高真空を得るための油拡散真空ポンプで構成されるのが一般的である。さらに、ロータを設定した温度に保つために、回転室を冷却する冷却装置が設けられる。
【0003】
一般的な遠心機のロータ室の真空度は、粗引き用の油回転真空ポンプを作用させることで約30Pa程度まで減圧でき、これに加えて油拡散真空ポンプが作動させると、ロータ室内の真空度は1Pa以下にまで減圧させることが可能である。このような真空ポンプを備えた公知の遠心機は、制御部を設け、ロータ室の真空度を検出する真空センサによって検出されるロータ室の真空度に基づいて、ロータを回転させるモータと油拡散真空ポンプと油回転真空ポンプを制御する。
【0004】
従来の遠心機の制御においては、遠心分離運転の終了時刻が予め分かっているため、終了の数分前から油拡散真空ポンプを停止して油温を下げ、気化による油の消費量を低減する等の措置がとられてきた。また、特許文献1では、ロータ室の真空度に応じて油回転真空ポンプの駆動および停止を制御し消費電力の低減を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−23477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、地球環境保護の観点から省エネルギー化が要望されている。風損を低減させるためにロータ室を減圧する従来の遠心機において、全体の消費電力を分析すると、ロータは減圧された環境内で一定速度で回転しているため、大気中で回転しているときに比べてモータの消費電力は少なく、特に回転速度が低いときは、電気的、機械的な損失は極めて少ない。一方で油拡散真空ポンプはヒータでボイラの温度を上昇させ、高温を維持させているため消費電力が大きい。また、油回転真空ポンプはベーンを油の中で回転させているため、回転抵抗が大きく消費電力が大きい。
【0007】
従来の遠心機においては、ロータを回転させる際には常に2つの真空ポンプを動作させていたため、遠心機全体からみて真空ポンプの占める消費電力の割合が比較的大きかった。このため出願人は、遠心分離運転に要する総消費電力を低減させるべく、種々の改良を試みてきた。例えば特許文献1の技術で、2つの真空ポンプのうちロータ室の真空度に応じて油回転真空ポンプを駆動・停止させるようにした。しかしながらこの方法では、配管抵抗が大きい場合や油回転真空ポンプの気密性が不十分な場合、油回転真空ポンプを停止すると真空度が急激に悪くなる恐れがあった。
【0008】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、遠心分離運転に要する総消費電力を低減させることができる遠心機を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、複数の真空ポンプを非同期に稼働させることにより消費電力の低減を図った遠心機を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、遠心分離運転の運転条件に応じて複数の真空ポンプのうちいずれかを停止させる遠心機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0012】
本発明の一つの特徴によれば、ロータと、ロータを収納するロータ室と、ロータを回転駆動する駆動部と、ロータ室内を減圧する複数の真空ポンプと、使用者からの運転条件の設定を受け付ける操作部と、これらの動作を制御する制御部を備えた遠心機において、制御部は、設定されたロータの回転数に応じて複数の真空ポンプを独立して稼働させるようにした。
【0013】
本発明の他の特徴によれば、制御部は、設定されたロータの回転数が閾値回転数よりも低い場合には複数の真空ポンプのうち一部だけ稼働させ、設定されたロータの回転数が閾値回転数よりも高い場合には複数の真空ポンプをすべて稼働させるようにした。また、制御部は、装着されたロータの種類に応じて閾値回転数を変えて制御するようにした。ここで複数の真空ポンプは、例えば油拡散真空ポンプと油回転真空ポンプであり、閾値回転数よりも低い場合は油回転真空ポンプのみを稼働させるようにした。
【0014】
本発明のさらに他の特徴によれば、制御部に閾値回転数を予め格納しておき、制御部は、操作部から設定回転数が入力されたときに格納された閾値回転数を読み出して、閾値回転数と設定回転数を比較して油拡散真空ポンプを稼働させるか否かを判定するようにした。また、制御部は、ロータの種類に応じた複数の閾値回転数を格納しておき、制御部は、操作部から設定回転数が入力されたときに、装着されているロータの種類に応じた閾値回転数を読み出すようにした。さらに、遠心機にはプログラム運転モードを有し、制御部は、プログラム運転モードにおけるロータの設定回転数の切り替えの都度、設定回転数と閾値回転数との比較を行って複数の真空ポンプの運転制御を行うようにした。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、ロータ室内を減圧する複数の真空ポンプを備えた遠心機において、制御部は、設定されたロータの回転数に応じて複数の真空ポンプを独立して稼働させように構成したので、不要な真空ポンプの消費電力を低減させ、コストを増加することなく、消費電力の低減を図った遠心機を提供することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、ロータを低速で運転する場合に、一部の真空ポンプへの通電を停止するので、消費電力の低減を図ることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、装着されたロータの種類に応じて閾値回転数を変えて制御するので、装着されるロータの種類に応じてきめ細かな省エネ化を図ることができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、複数の真空ポンプは油拡散真空ポンプと油回転真空ポンプであり、閾値回転数よりも低い場合は油回転真空ポンプのみを稼働させるので、消費電力が比較的大きい油拡散真空ポンプの稼働を減らすことができ、省エネ化を図ることができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、制御部に閾値回転数を予め格納しておき、制御部は、操作部から設定回転数が入力されたときに格納された閾値回転数を読み出して、閾値回転数と設定回転数を比較して油拡散真空ポンプを稼働させるか否かを判定するので、油拡散真空ポンプを稼働させるか否かの判断を瞬時に行うことができ、制御処理を遅滞させる恐れが無く迅速な運転制御が可能となる。
【0020】
請求項6の発明によれば、ロータの種類に応じた複数の閾値回転数を格納しておき、制御部は、操作部から設定回転数が入力されたときに、装着されているロータの種類に応じた閾値回転数を読み出すので、複数のロータに対してきめ細かな閾値回転数による制御が実現できる。
【0021】
請求項7の発明によれば、制御部は、プログラム運転モードにおけるロータの設定回転数の切り替えの都度、設定回転数と閾値回転数との比較を行って複数の真空ポンプの運転制御を行うので、変化するロータの回転数にきめ細かく対応させた油拡散真空ポンプのオンオフ制御を行うことができる。
【0022】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例に係る遠心機の構成を示す断面図である。
【図2】油拡散真空ポンプ7の構成を示す断面図である。
【図3】ロータ2の回転速度と風損比を示すグラフである。
【図4】ロータ2の型式41と、油拡散真空ポンプ7を稼働させるかどうかを判定するための閾値回転数44の関係を示すデータテーブルである。
【図5】本発明の実施例に係る遠心機の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
本発明の実施例による遠心機について、図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施例に係る遠心機の構成を示す断面図である。遠心機1は、分離する試料を保持して回転するロータ2と、ロータ2を収容し密閉空間を画定するロータ室4と、ロータ室4へロータ2の出し入れを行うために設けられた開口部を閉じるドア5と、ロータ室4を減圧する2つの真空ポンプ(油回転真空ポンプ6と油拡散真空ポンプ7)と、作業者による遠心分離条件の設定操作を受け付けると共に作業者に対して運転状態等の各種情報の表示する操作表示部8と、ロータ2を回転させる駆動部9と、ロータ室4への空気の流入を行うために設けられた開閉自在なエアリークバルブ10と、ロータ室4内部の圧力を測定する真空センサ11と、ロータ2の温度を測定する温度センサ13と、ボウル3を冷却または加熱することで間接的にロータ2の温度制御を行うサーモモジュール14と、制御部12を含んで構成される。
【0025】
ロータ室4の下部には、ロータ室4の内外を連通する貫通孔が設けられ、モータを有する駆動部9から延びるシャフトケース9a内を通る図示されていない回転軸がシャフトケース9aと共に貫通孔を貫通し、さらに回転軸の先端の嵌合部9bにロータ2が取り付けられる。尚、貫通孔においてシャフトケース9aは図示せぬシール部材によってシールされ、ロータ室4の気密性が保持できる構造となっている。ロータ2には、試料を入れるチューブ等を挿入するための孔2aが複数形成される。本実施例では、駆動部9の回転速度は、例えば最高で毎分15万回転で運転可能であり、この回転によって発生する遠心力により試料が遠心分離される。通常、大気圧下でロータ2が高速回転すると、風損によりロータ2が発熱し、空気抵抗によりロータ2の高速回転化が抑制される。このためロータ2を高速で回転させる場合は、ロータ室4内の空気を抜いて減圧状態にし、風損を抑制することが重要である。
【0026】
油拡散真空ポンプ(DP)7は、吸引側が真空配管21によりロータ室4に接続され、排出側が真空配管22を介して油回転真空ポンプ(RP)6の吸引口に接続される。油拡散真空ポンプ7は内部に液体の油を備え、この油の内部での蒸発・凝縮によってロータ室4内の空気を排出させる公知の装置である。本実施例においては、ロータ室4を減圧させる真空ポンプとして、油拡散真空ポンプ7と油回転真空ポンプ6を直列に接続している。これは、油回転真空ポンプ6だけで、所定の真空度(例えば1Pa以下)にするには時間が掛かりすぎるためである。一方、油拡散真空ポンプ7は動作するためのある程度の背圧(臨界背圧:20Pa程度)が必要であるため、臨界背圧を得るために補助ポンプが必要とされ単独での使用が難しいためである。そこで油回転真空ポンプ6は、油拡散真空ポンプ7の補助ポンプとして機能させることによって効果的にロータ室4内を減圧することができる。油回転真空ポンプ6の排出側は、排気に含まれるオイルミストを補足するためのオイルミストトラップ23が設けられる。
【0027】
制御部12は、遠心機1の全体の制御をするもので、図示しないマイクロコンピュータや、ROM/RAM等の記憶装置を含んで構成される。制御部12は図示しない信号線により真空センサ11および温度センサ13の信号を入力し、駆動部9の回転制御や、油回転真空ポンプ6の起動・停止制御、油拡散真空ポンプ7の起動・停止制御、サーモモジュール14の冷却・加熱制御、操作表示部8への情報の表示と入力データの取得、エアリークバルブ10の開閉等の制御を行う。
【0028】
図2は油拡散真空ポンプ7の構成を示す断面図である。油拡散真空ポンプ7は、作動油を貯蔵するボイラ15と、その作動油を加熱するためにボイラ15に設けられるヒータ16と、ボイラ15にて気化した油分子を下方(ボイラ15方向)に噴射させるジェット17と、気化した油分子を冷却して液化するための冷却フィン18等を有する。ヒータ16に通電しボイラ15を加熱することで加熱された作動油は蒸発し、蒸発した油蒸気は高速でジェット17内部を上昇し、ジェット17の上部に設けられた、径方向外向きであってやや下方向に斜めに配置されたノズル状の傘部17aから蒸気となって噴出される。この蒸気に対して空気等の気体分子が衝突すると、蒸気の流れの方向に運動量が与えられて空気が排気口20側へ流れ、油拡散真空ポンプ7と接続されたロータ室4内の空気が排気されて、ロータ室4内が真空状態(減圧された状態:約1Pa程度)にされる。蒸気となった作動油は、冷却フィン18により冷却された外筒19の壁面で凝縮してり再び液体に戻ってボイラ15に回収され、再びヒータ16で加熱される。冷却フィン18には、図示しない冷却ファンからの風により冷却される。
【0029】
次に油拡散真空ポンプ7の制御について図3、図4を用いて説明する。図3はロータ2の回転速度と風損比を示すグラフである。粘性流状態において、ロータ2の外表面に凹凸がない場合、ロータ2の風損は回転速度の約3乗に比例し、ガスの密度(真空度)にほぼ比例することが一般的に知られている。そこで図3のグラフでは、この風損の大きさの計算を行い、真空度が1Paの状態と、真空度が30Paの状態での回転速度と風損比の関係を示したものである。また、計算の前提として真空度が1Paで、ロータ2の回転速度15万rpmでの風損を100とし、異なる真空度、異なる回転数における風損比を%で示している。このグラフから、真空度30Paの場合の約5万回転弱で真空度1Paの場合の回転速度15万rpmとほぼ同じとなることが理解できる。また、回転速度が1万rpm程度までは真空度が30Paでも1Paでもさほど風損に差がないというが理解できる。従来の遠心機は、例えば15万rpmのような高速回転時に発生する風損を抑えるために、油回転真空ポンプおよび油拡散真空ポンプを用いてロータ室4内を減圧している。ところが、例えば1万回転以下の低速で運転する状況も多数あり、低速で運転する場合、ロータ2の風損は高速運転時と比較して大幅に小さくなるため、ロータ室内の真空度を1Pa以下にまで減圧する必要はないものである。
【0030】
そこで、本実施例では回転速度が、例えば1万rpm程度の低速でロータ2を回転させるような場合は、ロータ室4内を1Paという高い真空度にまで減圧しないで、30Pa程度の減圧状態で運転させるようにした。この30Pa程度の減圧状態は油回転真空ポンプ6を稼働させるだけで達成できる真空度であるので、この場合、油拡散真空ポンプ7の運転自体を停止させて油回転真空ポンプ6だけを稼働させるようにした。この油拡散真空ポンプ7を稼働させるかどうかを判定するための閾値回転数をどのように決めるかは任意であるが、図3で示す関係は、特にロータ2の直径や形状によって大きく変化するので、ロータ2の型式、種類、直径等を考慮して予め閾値回転数を設定しておき、制御部12内にデータテーブルの形式で記憶させておくと良い。そのデータテーブルの一例を示すのが図4である。
【0031】
図4は、ロータ2の型式41と、油拡散真空ポンプ7を稼働させるかどうかを判定するための閾値回転数44の関係を示すデータテーブルである。型式41はロータの型式番号であり、装着されるロータの種類を判定するための情報である。許容最大回転数42は、型式41のロータを回転させることができる最大の回転数で、例えば型式“000A”のロータは、最高許容回転速度である15万rpmまでの任意の回転速度で回転させることができることを意味する。ロータ最大直径43は、型式41のロータの外径を示すもので、通常ロータの直径が大きくなると慣性モーメントが大きくなり許容最大回転数が少なくなる。例えば図4中で、型式“000D”のロータは、ロータ最大直径43が一番大きいため許容最大回転数42が低くなる。閾値回転数44は、油拡散真空ポンプを稼働させるか否かの判断基準となる回転数であって、この回転数以下では油拡散真空ポンプ7を稼働させずに停止したままとする。図4のデータテーブルの内容は、遠心機又はロータの製造メーカがその情報を提供してユーザー側が記憶させるようにしても良いし、製造メーカが遠心機自体にあらかじめ図4に示すデータテーブルを設定して記憶させた状態で出荷するようにしても良い。
【0032】
次に、図5のフローチャートを用いて本発明の実施例に係る遠心機1の制御手順を説明する。まず遠心機1の運転前に、作業者は試料がセットされたロータ2にロータカバーを装着し、ロータ2を駆動部9の回転軸の嵌合部9bに装着してドア5を閉鎖する。次に、作業者は操作表示部8を用いてロータ2の回転速度、運転時間等の各種情報を入力する(ステップ51)。次に、制御部12は、作業者によって操作表示部8のSTARTボタン(又は表示されるSTARTアイコン)が押されたかを検出し、押されたらステップ53に進み、押されなかった待機する(ステップ52)。
【0033】
次に、制御部12は駆動部9の駆動によりロータ2の回転を開始させ、セットされたロータ2の型式や製造番号等を読み取り、読み取られた情報を元に図4のテーブル情報を元に、油拡散真空ポンプ7を稼働させるかどうかを判定するための閾値回転数44を読み出す(ステップ53)。ここで、ロータ2の型式や製造番号等の読み取り方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、ロータ2の下面の回転軸を中心とした同一円周上に互いの配置角度を異ならしめた4個のマグネットを配置したアダプタを取付け、マグネットの配置角度を検出する磁気センサをロータ室内に配置し検出するように構成できる。このとき、ロータ室4は十分に減圧されていないため、一旦所定の回転数(例えば、5000rpm)で十分に減圧されるまで、待機運転状態となる。その後ロータ室4が回転駆動されている(選択された)ロータ2の設定回転数で運転可能な状態まで、減圧された後、ロータ2は再加速する。
【0034】
尚、遠心機1の運転前に作業者により、回転数、運転時間等の各種運転条件を入力したのち、真空ボタンを押して真空ポンプを動作させておき、ロータ室4の減圧を開始させて所定の値まで減圧したところで、作業者によりSTARTボタンを押してロータ2の回転駆動を開始するようにしても良い。この時STARTボタンを押す前に、遠心機の制御部12が駆動部9にセットされたロータ2の型式が判明している場合(例えば、操作表示部8から運転する(選択した)ロータ2の型式を入力する場合や、ロータ2を駆動部9にセットした時に自動的に遠心機がロータ2の型式を識別する場合などがあるが、これらはすでに公知の技術が存在するので、詳細な説明は省略する。)は、ロータ2の型式に対応している閾値回転数44と設定回転数を比較し、油回転真空ポンプ6と油拡散真空ポンプ7の運転を制御するようにしても良い。なお、ロータ2の型式の判別が駆動部9によって、ロータ2が回転しないと、判断できない場合は、とりあえず油回転真空ポンプ6のみを駆動しておき、ロータ2の型式が判明した段階で、閾値回転数44と設定回転数とを比較して油拡散真空ポンプ7の運転を制御するようにしても良い。
【0035】
次に、制御部12はステップ51において作業者によって入力されたロータ2の設定回転速度が、閾値回転数44以上であるか否かを判定する(ステップ54)。例えば、ロータ2の型式41が“000A”であり、その閾値回転数44が1万rpmの場合は、作業者によって入力された設定回転数が8,000rpmならばステップ54でNoとなるので、油回転真空ポンプ6のみを起動させ、油拡散真空ポンプ7のヒータ16への通電を停止する(ステップ55)。ロータ室4は油回転真空ポンプ6のみで真空引きされ、約30Paに減圧される。このとき、ロータ2に加わる風損は図3に示すように風損比で約0.5%と非常に小さく、同等の回転速度の1Pa時の風損と比較してもほとんど差がなく、風損による摩擦熱は極めて小さい。
【0036】
一方、ステップ51において作業者によって入力された設定回転速度が閾値回転数44以上である場合、例えばロータ2の型式41が“000A”であり、作業者によって入力された設定回転数が10万rpmの場合は、ステップ54でYESとなるので、油回転真空ポンプ6と油拡散真空ポンプ7の双方をONにし、約1Paまで減圧する(ステップ56)。制御部12は、ロータ室4の高速回転を許容する所定の真空度に達成するまで低速で回転させながら待機させ、所定の真空度に達したら設定回転数まで加速させる(ステップ57)。尚、真空度に応じたロータ2の加速制御や、定速運転制御は公知であるので詳細な説明は省略する。
【0037】
そして、設定時間の遠心分離運転が終了したら(ステップ58)、ロータ2の回転を停止させて処理を終了する。尚、駆動部9の駆動停止と稼働中の真空ポンプの運転の停止は連動して行うのではなく、駆動部9の停止後に作業者が、操作表示部8の真空解除ボタンを押すまで稼働中の真空ポンプの運転だけは続けるようにしても良い。
【0038】
以上本発明の実施例によれば、ロータ2に加わる風損が十分小さくてすむ運転状況下においては、片方の真空ポンプで到達できる真空度で運転するようにした。つまり、複数の真空ポンプの稼働を連動させずに非連動で制御するようにし、定速回転時には油拡散真空ポンプ7のヒータ16への通電を停止するようにしたので、消費電力を低減させることができ、省エネルギー化を図ることができる。油拡散真空ポンプ7を停止させることで、油拡散真空ポンプ7の油の消費を抑制することができる。
【0039】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、「最初の2時間を1万rpmで回転させ、次の6時間を5万rpmで回転させる」というようなプログラム制御による遠心分離運転の場合に、最初の2時間だけを油回転真空ポンプ6だけでロータ室4を減圧し、次の6時間の運転時に油回転真空ポンプ6に加えて油拡散真空ポンプ7も稼働させるような制御をしても良い。この場合は、プログラム制御に応じて設定回転数が変わる毎に、図5のステップ53からステップ58を繰り返すように制御すれば良い。
【0040】
また、プログラム制御運転において、次のステップの設定回転数が、閾値回転数44を超えている場合は、回転数が変わる少し前から油拡散真空ポンプをオンするようにすれば、設定回転数が変更される前にロータ室4内を適切に減圧させることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 遠心機 2 ロータ 2a (ロータの)孔
3 ボウル 4 ロータ室
5 ドア 6 油回転真空ポンプ 7 油拡散真空ポンプ
8 操作表示部 9 駆動部 9a シャフトケース
9b 嵌合部 10 エアリークバルブ
11 真空センサ 12 制御部
13 温度センサ 14 サーモモジュール 15 ボイラ
16 ヒータ 17 ジェット 17a 傘部
18 冷却フィン 19 外筒 20 排気口
21、22 真空配管 23 オイルミストトラップ
41 型式 42 許容最大回転数
43 ロータ最大直径 44 閾値回転数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、前記ロータを収納するロータ室と、ロータを回転駆動するモータと、前記ロータ室内を減圧する複数の真空ポンプと、使用者からの運転条件の設定を受け付ける操作部と、これらの動作を制御する制御部を備えた遠心機において、
前記制御部は、設定されたロータの回転数に応じて前記複数の真空ポンプを独立して稼働させることを特徴とする遠心機。
【請求項2】
前記制御部は、
前記設定されたロータの回転数が閾値回転数よりも低い場合には前記複数の真空ポンプのうち一部だけ稼働させ、前記設定されたロータの回転数が前記閾値回転数よりも高い場合には前記複数の真空ポンプをすべて稼働させることを特徴とする請求項1に記載の遠心機。
【請求項3】
前記制御部は、装着された前記ロータの種類に応じて前記閾値回転数を変えて制御することを特徴とする請求項2に記載の遠心機。
【請求項4】
前記複数の真空ポンプは油拡散真空ポンプと油回転真空ポンプであり、前記閾値回転数よりも低い場合は油回転真空ポンプのみを稼働させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の遠心機。
【請求項5】
前記制御部に前記閾値回転数を予め格納しておき、
前記制御部は、前記操作部から設定回転数が入力されたときに格納された閾値回転数を読み出して、該閾値回転数と設定回転数を比較して油拡散真空ポンプを稼働させるか否かを判定することを特徴とする請求項4に記載の遠心機。
【請求項6】
前記制御部は、前記ロータの種類に応じた複数の閾値回転数を格納しておき、
前記制御部は、前記操作部から設定回転数が入力されたときに、装着されているロータの種類に応じた閾値回転数を読み出すことを特徴とする請求項5に記載の遠心機。
【請求項7】
前記遠心機にはプログラム運転モードを有し、
前記制御部は、前記プログラム運転モードにおける前記ロータの設定回転数の切り替えの都度、前記設定回転数と前記閾値回転数との比較を行って前記複数の真空ポンプの運転制御を行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の遠心機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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