説明

適合性ディスプレイベクター系

本発明は、対象とする抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドのプールの移送を容易にするために使用され得る、ポリペプチドディスプレイの間に使用されるポリヌクレオチドベクター系を提供する。また、本発明は、制限酵素消化およびライゲーション戦略を用いて、抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドのプールの一体となった変換を可能にする方法も提供する。
【図8−1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全体として、ポリペプチドの発現および提示のために使用されるポリヌクレオチドベクターを含む組成物、ならびにそのような組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質治療物質は、創薬の重要な部分である。抗原結合ポリペプチドまたはその断片を含み得る、タンパク質変種をコードするポリヌクレオチドの大型ライブラリーのハイスループットなスクリーニングにより、結合親和性、結合活性、安定性、および特異性などの望ましい特性に関してタンパク質治療物質を効率的に発見または最適化することが可能になる。ハイスループットなスクリーニングのために使用される典型的な手法としては、ファージディスプレイ技術およびリボソームディスプレイ技術が挙げられる。
【0003】
治療的抗原結合ポリペプチドまたは断片は、抗原に対する親和性および特異性が高く、かつインビトロおよびインビボでの安定性が比較的高いため、特に魅力的である。抗体は、2つの重鎖および2つの軽鎖からできており、これらはN末端に可変領域を含有し、ジスルフィド架橋によって連結されている。特に、単鎖抗体は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域の断片(ScFv)を連結して単一のポリペプチドにすることによって人工的に作り出される。
【0004】
ScFvを作るための典型的な手順は、一般に、抗体の可変領域をコードする遺伝子領域の増幅、ScFv遺伝子配列の組立て、および宿主細胞におけるScFvポリペプチド配列の発現を伴う。対象とする標的ポリペプチドを用いて宿主細胞がスクリーニングされて、この標的ポリペプチドに結合するScFvポリペプチドを発現する細胞が同定される。続いて、これらの宿主細胞は、発現されたScFvをコードするポリヌクレオチドコード配列に関して解析され得る。
【0005】
特異的ポリペプチドに結合する単鎖抗体を同定するために最もよく使用される技術は、ファージディスプレイおよびその変形法によるものである(Hoogenboomら、1998を参照されたい)。一般に、ファージディスプレイ法は、ランダムな異種ポリヌクレオチドをファージゲノム中に挿入することを伴い、その結果、ファージコートタンパク質(例えば、繊維状ファージpIII、pVI、またはpVIII)に融合されたペプチドライブラリーを細菌宿主が発現するようにそれらが指示する。最高1010個の個別メンバーからなるライブラリーが、このようにしてごく普通に調製およびスクリーニングされ得る。成熟ファージコート配列中にScFv配列を組み入れることにより、異種ポリヌクレオチド配列にコードされたScFv抗体が生じ、ファージの外表面に提示される。対象とする関連する(1つまたは複数の)ポリペプチド標的を表面に固定化することにより、他のものは洗浄によって除去されるのに対し、表面上のそれらの標的の内の1つに結合するScFvを発現および提示するファージは結合されたままであると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ファージディスプレイに使用され、かつ、本発明のファージポリヌクレオチドとリボソームディスプレイポリヌクレオチドの間で、対象とする抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドのプールを移送するのを容易にするために使用され得る、ポリヌクレオチドベクター系を提供する。特に、本発明は、制限酵素消化およびライゲーション戦略を用いて、抗原結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドのプールの一体となった変換を可能にする、適合性の発現系およびディスプレイ系を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様において、本発明のポリヌクレオチドは、5’から3’の順序で、上流にlacIリプレッサー配列を有するLacプロモーター/オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードするヌクレオチド配列、Omp Aリーダーペプチドをコードするヌクレオチド配列、第1のSfi I制限部位ヌクレオチド配列、抗生物質耐性を与えるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、第2のSfi I制限部位ヌクレオチド配列、第1のタグ配列をコードするヌクレオチド配列、第1のタグ配列の後のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、第2のタグ配列をコードするヌクレオチド配列、第2のタグ配列の後の停止コドンをコードするヌクレオチド配列、および細菌コートタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列を含む。
【0008】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、細菌複製起点をさらに含む。いくつかの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、細菌複製起点が、pUC起点、pBR322複製起点、およびColE1複製起点からなる群から選択されることを提供する。いくつかの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、細菌複製起点がpUC起点であることを提供する。
【0009】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、ファージ複製起点をさらに含む。いくつかの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、ファージ複製起点が、F1 M13複製起点、ファージf1複製起点、ファージfd複製起点、T7バクテリオファージ複製起点、およびλ字形ファージ複製起点からなる群から選択されることを提供する。いくつかの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、ファージ複製起点がF1 M13複製起点であることを提供する。
【0010】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、抗生物質耐性を与えるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、アンピシリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、カナマイシン、およびリファンピシンをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択されることを提供する。いくつかの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、抗生物質耐性を与えるポリペプチドがクロラムフェニコールであることを提供する。
【0011】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、Omp A配列がSfi I制限部位をコードすることを提供する。
【0012】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、互いに適合性ではない第1のSfi I制限部位および第2のSfi I制限部位を含む。いくつかの実施形態において、第1のSfi I制限部位は、配列番号5またはその相補体(compliment)を含む。いくつかの実施形態において、第2のSfi I制限部位は、配列番号6またはその相補体を含む。
【0013】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、抗生物質耐性を与える第2のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列が、アンピシリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、カナマイシン、およびリファンピシンをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択されることを提供する。いくつかの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、抗生物質耐性を与える第2のポリペプチドがアンピシリンであることを提供する。
【0014】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、第1のタグ配列の3’側のアミノ酸配列をコードするヌクレオチドがプロテアーゼ切断部位を含むことを提供する。いくつかの実施形態において、プロテアーゼ切断部位は、トリプシン切断部位、第Xa因子切断部位、ジェネナーゼ(Genenase)切断部位、およびタバコエッチウイルスプロテアーゼ切断(TEV)部位からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、プロテアーゼ切断部位がトリプシン切断部位であることを提供する。
【0015】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、第1のタグ配列が、flagタグ、c−mycタグ、ヒスチジンタグ、GSTタグ、緑色蛍光タンパク質タグ、HAタグ、ならびにE−タグ、Strepタグ、StrepタグII、およびYol 1/34タグからなる群から選択されることを提供する。いくつかの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、第1のタグ配列がヒスチジンタグであることを提供する。
【0016】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、第2のタグ配列をコードするヌクレオチド配列が、flagタグ、c−mycタグ、ヒスチジンタグ、GSTタグ、緑色蛍光タンパク質タグ、HAタグ、ならびにE−タグ、Strepタグ、StrepタグII、およびYol 1/34タグをコードする核酸からなる群から選択されることを提供する。いくつかの実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、第2のタグ配列がc−mycタグであることを提供する。
【0017】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、バクテリオファージコートタンパク質をコードするヌクレオチド配列が、g3タンパク質を含むアミノ酸を含むことを提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、g3タンパク質が切断型であることを提供する。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、g3タンパク質が、g3タンパク質の少なくともアミノ酸198〜406を含むことを提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、g3タンパク質の配列が、g3タンパク質のアミノ酸198〜406より小さい部分を含むことを提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、g3タンパク質の配列が、g3タンパク質のアミノ酸250〜406(配列番号51)を含むことを提供する。
【0018】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、停止コドンをコードするヌクレオチド配列が、抑制可能な停止コドンを含むことを提供する。
【0019】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1(pWRIL−1)を含む。
【0020】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、このポリヌクレオチドが、lacI遺伝子とLacプロモーター/オペレーターの間に挿入されたtHPターミネーターをさらに含むことを提供する。1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、リボソーム結合部位が低効率のリボソーム結合部位であることを提供する。
【0021】
1つまたは複数の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2(pWRIL−2)を含む。
【0022】
本発明はまた、特に、上記の様々な実施形態において説明したような本発明の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含有する細胞も提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、ファージディスプレイライブラリーを作製する方法を提供し、この方法は、(a)上記の様々な実施形態において説明したポリヌクレオチドのいずれかのポリヌクレオチドを複製して、そのポリヌクレオチドの複数の複製産物を作り出すステップと、(b)ステップ(a)の複製産物をSfi I制限酵素で消化するステップと、(c)ステップ(b)のSfi Iで消化したポリヌクレオチドの集団を、第1のSfi I制限部位、抗原結合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および第2のSfi I制限部位を5’〜3’の方向にそれぞれ含む複数のポリヌクレオチドとライゲーションするステップであって、第1のSfi I部位がステップ(b)の第1のSfi I部位と適合性があり、第2のSfi I部位がステップ(b)の第2のSfi I部位と適合性がある、ステップと、(d)ステップ(c)のライゲーション産物を回収するステップとを含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、第1のSfi I制限部位および第2のSfi I制限部位が互いに適合性ではないことを提供する。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、第1のSfi I制限部位が配列番号5またはその相補体を含むことを提供する。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、第2のSfi I制限部位が配列番号6またはその相補体を含むことを提供する。
【0025】
1つまたは複数の実施形態において、本発明の方法は、(a)のポリヌクレオチドがファージディスプレイポリヌクレオチドであり、配列番号1(pWRIL−1配列)を含むことを提供する。
【0026】
1つまたは複数の実施形態において、本発明の方法は、(a)のポリヌクレオチドがファージディスプレイポリヌクレオチドであり、配列番号2(pWRIL−2配列)を含むことを提供する。
【0027】
1つまたは複数の実施形態において、本発明の方法は、抗原結合ポリペプチドが、ペプチド、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、四量体抗体、四価抗体、多重特異性抗体、ドメイン特異的抗体、ドメイン欠失抗体、融合タンパク質、ScFc融合タンパク質、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、単鎖Fv(scFv)断片、Fd断片、単一ドメイン抗体、dAb断片、小モジュール免疫薬剤(SMIP)、サメIgNAR可変ドメイン、CDR3ペプチド、拘束性(constrained)FR3−CDR3−FR4ペプチド、ナノボディ、二価ナノボディ、およびミニボディからなる群から選択されることを提供する。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、抗原結合ポリペプチドが単鎖Fv(scFv)抗体であることを提供する。
【0028】
本発明はまた、特に、上記の様々な実施形態において説明したような本発明の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含有する構築されたファージディスプレイライブラリーも提供する。
【0029】
本発明はまた、上記の様々な実施形態において説明したような方法によって作製される1つまたは複数のポリヌクレオチドを含有する細胞も提供する。
【0030】
別の態様において、本発明は、各ポリヌクレオチドが抗原結合ポリペプチドをコードする、ファージディスプレイライブラリーに由来するポリヌクレオチドの集団を、リボソームディスプレイポリヌクレオチドの集団に移送する方法を提供し、この方法は、(a)結合相手に特異的に結合する抗原結合ポリペプチドをコードし、各ポリヌクレオチドが5’から3’の順序で、第1のSfi I制限部位ヌクレオチド配列、抗原結合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびファージディスプレイポリヌクレオチドの第1のSfi I部位に適合性ではない第2のSfi I制限部位ヌクレオチド配列を含む、上記の様々な実施形態において説明したファージディスプレイポリヌクレオチドの集団を作製するステップと、(b)ステップ(a)に由来するポリヌクレオチドを単離するステップと、(c)ステップ(b)に由来するポリヌクレオチドをSfi I制限酵素で消化することによって複数のポリヌクレオチドを作製するステップと、(d)互いに適合性ではない第1のSfi I制限配列および第2のSfi I制限配列を含むリボソームディスプレイポリヌクレオチドを複製して、ポリヌクレオチドの複数の複製産物を作り出すステップと、(e)ステップ(d)の複数の複製産物をSfi I制限酵素で消化するステップと、(f)ステップ(c)のSfi Iで消化したポリヌクレオチドの集団を、ステップ(e)の複数のポリヌクレオチドとライゲーションするステップであって、第1のSfi I部位が、ステップ(e)の第1のSfi I部位と適合性があり、第2のSfi I部位が、ステップ(e)の第2のSfi I部位と適合性がある、ステップと、(g)ステップ(c)のライゲーション産物を回収するステップとを含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、第1のSfi I制限部位および第2のSfi I制限部位が互いに適合性ではないことを提供する。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、第1のSfi I制限部位が配列番号5またはその相補体を含むことを提供する。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、第2のSfi I制限部位が配列番号6またはその相補体を含むことを提供する。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、(d)のポリヌクレオチドがリボソームディスプレイポリヌクレオチドであり、配列番号3(pWRIL−3)を含むことを提供する。
【0032】
1つまたは複数の実施形態において、本発明の方法は、(d)のポリヌクレオチドがリボソームディスプレイポリヌクレオチドであり、配列番号4(pWRIL−4)を含むことを提供する。
【0033】
1つまたは複数の実施形態において、本発明の方法は、抗原結合ポリペプチドが、ペプチド、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、四量体抗体、四価抗体、多重特異性抗体、ドメイン特異的抗体、ドメイン欠失抗体、融合タンパク質、ScFc融合タンパク質、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、単鎖Fv(scFv)断片、Fd断片、単一ドメイン抗体、dAb断片、小モジュール免疫薬剤(SMIP)、サメIgNAR可変ドメイン、CDR3ペプチド、拘束性(constrained)FR3−CDR3−FR4ペプチド、ナノボディ、二価ナノボディ、およびミニボディからなる群から選択されることを提供する。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、抗原結合ポリペプチドが単鎖Fv(scFv)抗体であることを提供する。
【0034】
本発明はまた、特に、上記の様々な実施形態において説明したような本発明のこの態様の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含有する、構築されたリボソームディスプレイライブラリーも提供する。
【0035】
本発明はまた、上記の様々な実施形態において説明したような方法によって作製されるポリヌクレオチドを含有する細胞も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】例示的なプラスミドpWRIL−1の設計地図である。
【図2】例示的なプラスミドpWRIL−2の設計地図である。
【図3】例示的なプラスミドpWRIL−3の設計地図である。
【図4】例示的なプラスミドpWRIL−4の設計地図である。
【図5】pWRIL−1およびpWRIL−2の両方に共通の重要な機能エレメントを示す図である。
【図6】scFVリボソームディスプレイクローンのRAGE結合の増大について初期スクリーニングした結果を示す図である。
【図7】scFvファージディスプレイクローンのRAGE結合の増大について初期スクリーニングした結果を示す図である。
【図8A】マウスRAGEおよびヒトRAGEへの組換えscFv−Fc融合物の結合をHTRF解析した結果を示す図である。
【図8B】マウスRAGEおよびヒトRAGEへの組換えscFv−Fc融合物の結合をHTRF解析した結果を示す図である。
【図9】ヒト可溶性RAGEへの組換えscFv−Fc融合物の結合をHTRF解析した結果を示す図である。
【図10】組み合わせられたリード発見および親和性成熟を示すフローチャートである。
【0037】
配列の簡単な説明
【0038】
【表1】

【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、発現および提示のための2つのベクター系間での、ポリペプチドのプールをコードするポリヌクレオチドライブラリーの迅速でシームレスな移送を可能にする制限部位を含有する、ポリヌクレオチドベクター系を提供する。特に、本発明は、多様性が高いタンパク質ライブラリーの迅速な組立て、および親和性成熟または発現のためにライブラリー間におけるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列のシームレスな移送を可能にする、2つのベクター系間で適合性制限部位を含有するファージディスプレイポリヌクレオチドベクターおよびリボソームディスプレイポリヌクレオチドベクターを提供する。本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドベクター系をベースとして構築されたディスプレイライブラリー(例えば、ファージディスプレイライブラリーおよびリボソームディスプレイライブラリー)ならびにこれを作る方法および使用する方法も提供する。
【0040】
本発明の様々な態様を、以下のセクションにおいて詳細に説明する。セクションの使用は、本発明を限定することを意図していない。各セクションは、本発明の任意の態様に当てはまり得る。
【0041】
定義
便宜上、本明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲において使用するいくつかの用語を本明細書に集める。他に規定されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0042】
冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、本明細書において、冠詞の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)の文法上の対象物を指すために使用される。例えば、「1つの要素(an element)」とは、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0043】
本明細書において使用される場合、「約」という用語は、20%以内、より好ましくは10%以内、最も好ましくは5%以内を意味する。
【0044】
「抗原結合断片」または「抗原結合ポリペプチド」という用語は、免疫グロブリン、抗体もしくは抗体様分子、またはその断片、または抗原に結合するか、もしくは抗原結合(すなわち、特異的結合)を得るために、同じ抗原性部位に結合する抗体と競合する他のポリペプチド分子のポリペプチド断片を意味するために同義的に使用され得る。「抗原結合ポリペプチド」という用語は、完全な分子、ならびにその断片、例えば、エピトープに結合することができるFab、F(ab’)、およびFvを含む。これらの抗体断片は、その抗原または受容体と選択的に結合するための能力をいくらか保持しており、次のように定義される:(1)Fab、すなわち、抗体分子の一価の抗原結合断片を含有する断片は、全長抗体を酵素パパインで消化して、完全な軽鎖および1つの重鎖の一部分をもたらすことによって、作製することができ、(2)Fab’、すなわち、抗体分子の断片は、全長抗体をペプシンで処理し、続いて還元して、完全な軽鎖および重鎖の一部分をもたらすことによって、得ることができ、抗体分子1つにつき2つのFab’断片が得られ、(3)(Fab’)は、全長抗体を酵素ペプシンで処理し、その後の還元は実施しないことによって得ることができる抗体断片であり、F(ab’)は、2つのジスルフィド結合によってまとめられた2つのFab’断片からなる二量体であり、(4)Fvは、2つの鎖として発現される、軽鎖可変領域および重鎖可変領域を含有する遺伝学的に操作された断片と定義され、(5)単鎖抗体(「SCA」)は、遺伝学的に融合された単鎖分子としての、適切なポリペプチドリンカーによって連結され軽鎖可変領域および重鎖可変領域を含有する遺伝学的に操作された分子と定義される。これらの断片を作る方法は、当技術分野において公知である。(例えば、HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、New York(1988)を参照されたい。)
【0045】
本明細書において使用される場合、制限部位は、適切な制限酵素によって切断された後に、DNAリガーゼによってライゲーションできる場合は、「適合性である」。いくつかの実施形態において、適合性制限部位としては、適切な制限酵素によって切断された後に、DNAリガーゼによって結合できる相補的オーバーハング配列を有する「粘着末端」を生じるような二本鎖配列が挙げられる。
【0046】
本明細書において使用される場合、「異種ヌクレオチド配列」とは、自然界では天然に形成されない核酸を形成させるために組換え法によって本発明のヌクレオチド配列に付加されるヌクレオチド配列を意味する。このような核酸は、キメラタンパク質/ポリペプチドおよび/または融合タンパク質/ポリペプチドをコードし得る。したがって、異種ヌクレオチド配列は、調節特性および/または構造特性を有するペプチド/タンパク質をコードし得る。
【0047】
「宿主細胞」は、ベクターのための、または外因性の核酸分子、ポリヌクレオチド、および/もしくはタンパク質の組込みのための受容者であり得るか、または受容者であった任意の個別の細胞または細胞培養物を含むと意図される。また、これは、単一細胞の子孫も含むと意図される。子孫は、天然、偶発的、または意図的な変異が原因で、(形態またはゲノム相補物もしくは全DNA相補物が)元の親細胞と必ずしも完全に同一ではない場合がある。これらの細胞は原核性でも真核性でもよく、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞、および哺乳動物細胞、例えば、マウス細胞、ラット細胞、サル細胞、またはヒト細胞が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0048】
本明細書において使用される「挿入配列」とは、ベクター中の適合部位にライゲーションされる異種核酸配列である。挿入配列は、1つまたは複数のポリペプチドまたはポリペプチドをコードする1つまたは複数の核酸配列を含んでよい。挿入配列は、調節領域または他の核酸エレメントを含んでよい。
【0049】
「単離された」または「精製された」ポリペプチドまたはポリヌクレオチド、例えば、「単離されたポリペプチド」または「単離されたポリヌクレオチド」は、それが自然界で存在する状態より優れた状態に精製されている。例えば、「単離された」または「精製された」ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、そのタンパク質もしくはポリヌクレオチドの由来元である細胞供給源もしくは組織供給源に由来する細胞材料も他の混入タンパク質も実質的に含まなくてよく、または、化学的に合成された場合には、化学前駆物質も他の化学物質も実質的に含まなくてよい。約50%未満の非抗原結合タンパク質(本明細書において「混入タンパク質」とも呼ばれる)または化学前駆物質を有する抗原結合タンパク質の調製物は、「実質的に含まない」とみなされる。40%、30%、20%、10%、より好ましくは5%(乾燥重量に基づく)の非抗原結合タンパク質または化学前駆物質は、実質的に含まないとみなされる。
【0050】
本明細書において使用される場合、「ライブラリー」という用語は、複数の異種ポリペプチド、または対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを意味する。ライブラリーメンバー間の配列の相違は、ライブラリーに存在する多様性の原因である。
【0051】
「または」という用語は、文脈において特に指示がない限り、「および/または」という用語を意味するために本明細書において使用され、かつこれと同義的に使用される。
【0052】
本明細書において使用される場合、「複製起点」という用語は、DNA合成が開始される特殊なヌクレオチド配列を意味する。
【0053】
本明細書において使用される場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはその類似体いずれかの、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を含む。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有してよく、公知または未知の任意の機能を果たしてよい。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子または遺伝子断片、エキソン、イントロン、伝令RNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、cRNA、組換えポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体などの改変ヌクレオチドを含んでよい。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する改変は、ポリマーの組立ての前または後に加えられてよい。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成要素によって分断されてもよい。ポリヌクレオチドは、標識成分との結合などによって、重合後にさらに改変されてもよい。この用語は、二本鎖分子と一本鎖分子の双方を含む。別段の指定または要求がない限り、ポリヌクレオチドである本発明の任意の実施形態は、二本鎖形態も、二本鎖形態を構成することが公知または予測される2つの相補的な一本鎖形態のそれぞれも、包含する。ポリヌクレオチドは、次の4種のヌクレオチド塩基の特定の配列から構成される:アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)、およびポリヌクレオチドがRNAである場合は、チミンの代わりにウラシル(U)。したがって、「ポリヌクレオチド配列」という用語は、ポリヌクレオチド分子のアルファベット表示である。
【0054】
「プロモーター配列」は、細胞中でRNAポリメラーゼに結合し、下流の(3’方向)コード配列の転写を開始することができるDNA調節領域である。本発明を明確にするために、プロモーター配列は、その3’末端に転写開始部位が結合しており、かつ、上流(5’方向)に伸びて、バックグラウンドを上回る検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な最低数の塩基またはエレメントを含む。プロモーター配列内部には、転写開始部位(例えば、ヌクレアーゼS1を用いたマッピングによって簡便に定義される)、ならびにRNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)が存在すると考えられる。
【0055】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書において同義的に使用される。
【0056】
「レアカット部位」という用語は、特定の制限酵素がそのDNAを切断する、DNAの特異的ヌクレオチド配列を意味する。いくつかの部位はDNA中に頻繁に存在する(例えば、数百塩基対毎)が、他の部位は、ずっと低い頻度で存在する(レアカッター、例えば、10,000塩基対毎)。本明細書において説明するように、Sfi Iは、Sfi Iの認識部位が原因でまれにしかDNAを切断しない、レアカット酵素である。
【0057】
「組換え核酸」という用語は、自然界では一緒に存在しない少なくとも2つの配列を含む任意の核酸を含む。組換え核酸は、例えば、分子生物学の方法を用いることによってインビトロで作製されてもよく、または、例えば、相同組換えもしくは非相同組換えにより新規な染色体位置に核酸を挿入することによってインビボで作製されてもよい。
【0058】
「単鎖免疫グロブリン」または「単鎖抗体」(本明細書において同義的に使用される)という用語は、抗原に特異的に結合する能力を有し、重鎖および軽鎖からなる2ポリペプチド鎖構造を有し、前記鎖が、例えば鎖間のペプチドリンカーによって安定化されているタンパク質を意味する。
【0059】
抗原結合タンパク質の「特異的結合」とは、そのタンパク質が、特定の抗原またはエピトープに対してかなりの親和性を示し、かつ、一般に、有意な交差反応性を示さないことを意味する。「かなりの」結合としては、少なくとも10、10、10、10−1、または1010−1の親和性での結合が挙げられる。10−1または10−1を超える親和性を有する抗原結合タンパク質は、典型的には、相応してより高い特異性で結合する。本明細書において説明するものの中間の値もまた、本発明の範囲内であると意図され、本発明の抗体は、例えば、10〜1010−1、または10〜1010−1、または10〜1010−1の親和性範囲で、RAGE(終末糖化産物受容体)に結合する。「有意な交差反応性を示さない」抗原結合タンパク質とは、その標的以外の実体(例えば、異なるエピトープまたは異なる分子)に感知できるほどには結合しないものである。例えば、特定のエピトープに対して特異的な抗原特異的タンパク質は、同じタンパク質またはペプチド上の遠く離れたエピトープとは有意に交差反応しないと考えられる。あるいは、特異的結合を、そのような結合を測定するための当技術分野において認識されている任意の手段に従って測定することもできる。好ましくは、特異的結合は、スキャッチャード解析および/または競合的結合アッセイによって測定される。
【0060】
本明細書において使用される場合、「ステムループ」構造という用語は、ステムループ構造を形成することができるパリンドローム配列を有する、DNA上の5’領域および/または3’領域を意味する。ステムループ構造は、転写(transcription)を妨害すると考えられおり、したがって、パリンドローム配列は、翻訳期間中のリボソームの移動を減速させ、リボソームがmRNAから「脱落する」のを防ぎ、それによって、インビトロの翻訳ステップにおいて、合成されたmRNAを保護し、ポリソームの数を増加させる。いくつかの実施形態において、本発明のリボソームディスプレイベクターは、3’ステムループ構造を形成することができる。いくつかの実施形態において、本発明のリボソームディスプレイは、5’ステムループ構造および3’ステムループ構造を形成することができる。さらに、3’領域は、インビトロ翻訳に由来するmRNAを後で精製するために、ポリAまたは他のポリヌクレオチドストレッチを含有してもよい。インビトロで合成されたmRNAへのホモポリマー配列のハイブリダイゼーションは、当業者によって典型的に使用される標準的方法である。
【0061】
「ベクター」という用語は、連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を意味する。1つのタイプのベクターは、エピソーム、すなわち、染色体外複製をすることができる核酸である。別のタイプのベクターは、宿主細胞の遺伝物質と再結合するように設計された組込みベクターである。ベクターは、自律複製でも組込みでもよく、ベクターの特性は、細胞の状況に応じて異なり得る(すなわち、ベクターは、1つの宿主細胞型では自律複製し、別の宿主細胞型では単に組込みであり得る)。ベクターが作動的に連結されている発現可能な核酸の発現を指示することができるベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0062】
ベクター
本明細書において使用される場合、「ベクター」という用語は、連結されている別のポリヌクレオチド断片または配列をある場所(例えば、宿主、系)から別の場所に運搬および移送することができるポリヌクレオチド分子を意味する。この用語は、インビボまたはインビトロの発現系用のベクターを含む。例えば、本発明のベクターは、「プラスミド」の形態でよく、これは、典型的にはエピソームによって維持されているが、宿主ゲノム中にも組み込まれ得る、環状二本鎖DNAループを意味する。本発明のベクターは、直線状形態でもよい。さらに、本発明は、等価な機能を果たし、かつ本明細書の後に当技術分野において公知になる他の形態のベクターも含むと意図される。
【0063】
本発明のベクターは、ポリペプチドの発現のために使用され得る。一般に、本発明のベクターは、発現しようとするポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたシス作用性調節領域を含む。調節領域は、構成的でも誘導性でもよい。適切なトランス作用性因子は、インビトロの翻訳系により宿主によって、補完的(complementing)ベクターによって、または宿主中に導入される際にベクターそれ自体によって、供給される。
【0064】
本発明のベクターは、限定されるわけではないが、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体エレメント、哺乳動物ウイルス、哺乳動物染色体、およびそれらの組合せに由来してよく、例えば、限定されるわけではないがコスミドおよびファージミドを含めて、プラスミドおよびバクテリオファージの遺伝子エレメントに由来するものでよい。
【0065】
本発明のベクターは、発現ベクターまたはディスプレイベクターに典型的に含まれる任意のエレメントを含んでよく、これらとしては、限定されるわけではないが、複製起点配列、1つまたは複数のプロモーター、抗生物質耐性遺伝子、リーダー配列またはシグナルペプチド配列、様々なタグ配列、そのポリペプチドが抗生物質耐性を与える遺伝子をコードし得るスタッファー配列、制限部位、リボソーム結合部位および翻訳エンハンサー、転写後のmRNA安定性のためにステムループ構造を形成することができる配列、停止コドンを欠くアミノ酸をコードする配列、ならびに細菌コートタンパク質をコードする配列が挙げられる。
【0066】
したがって、本発明は、配列リストに含有される配列との配列同一性を有するヌクレオチド配列も提供する。個々の配列に応じて、配列同一性の程度は、好ましくは、60%超(例えば、60%、70%、80%、90%、95%、97%、99%、99.9%以上)である。これらの相同配列としては、変異体および変種が挙げられる。
【0067】
本発明のベクターを構築するための一般的方法は、当技術分野において周知である。例えば、Molecular Cloning:a Laboratory Manual、第2版、Sambrookら、1989、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。例えば、核酸構築物の調製、変異誘発、配列決定、細胞中へのDNAの導入、および遺伝子発現における核酸の操作ならびにタンパク質の解析のための多くの公知の技術およびプロトコールは、Current Protocols in Molecular Biology、第2版、Ausubelら編、John Wiley&Sons、1992に詳細に記載されている。SambrookらおよびAusubelらの開示内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0068】
本発明はまた、本発明のベクターに導入されるか、またはそれらを含有する、宿主細胞または他の生物も提供する。例えば、本発明は、本発明のベクターを含有する細菌、哺乳動物細胞、酵母、および他の細胞系を提供する。適切な哺乳動物細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、HeLa細胞、HEK細胞、COS細胞、NSOマウス黒色腫細胞、ならびに公共供給元および商業的供元を通じて入手可能なものが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。例示的な一般的細菌宿主は、大腸菌(E.coli)である。
【0069】
適合性制限部位
本発明のベクターは、当業者に周知の酵素消化法およびライゲーション法を用いて、ポリヌクレオチドベクター系ライブラリー間で、関心対照のポリペプチド(例えば、発現またはディスプレイされるポリペプチド)をコードするポリヌクレオチド配列を移送するのを容易にする、ポリヌクレオチドベクター系間の1つまたは複数の適合性制限部位を含む。本明細書において使用される場合、「適合性制限部位」という用語は、異なるタイプのベクター(例えば、リボソームディスプレイベクター)上の少なくとも1つの制限部位と同一であるかまたは適合性がある、1つのタイプのベクター(例えば、ファージディスプレイベクター)上の制限部位を意味する。本明細書において使用される場合、制限部位は、適切な制限酵素によって切断された後に、DNAリガーゼによってライゲーションできる場合は、「適合性がある」。いくつかの実施形態において、適合性制限部位としては、適切な制限酵素によって切断された後に、DNAリガーゼによって結合できる相補的オーバーハング配列を有する「粘着末端」を生じるような二本鎖配列が挙げられる。粘着末端断片は、特定の制限酵素によって元来切断された元の断片だけでなく、適合性粘着末端を有する他の任意の断片にもライゲーションされ得る。粘着末端は、付着末端または相補的末端とも呼ばれる。本明細書において使用される場合、適合性制限部位としては、適切な制限酵素によって切断された後に、DNAリガーゼによって結合できる「平滑末端」を生じるような二本鎖配列も挙げられる。DNAの二本鎖配列上の平滑末端は、5’オーバーハングも3’オーバーハングも有さず、酵素が「平滑切断」酵素である限り、制限酵素に関わらず、他の任意の平滑末端DNA断片にライゲーションされ得る。本出願において使用される場合、適合性制限部位は、一般的制限部位または普遍的制限部位とも呼ばれる。
【0070】
一般に、1型、2型、または3型の任意の制限酵素によって切断可能な任意の制限部位が、本発明のために使用され得る。I型制限エンドヌクレアーゼは、それらの認識部位とは異なり、いくらか(少なくとも1000bp)離れている部位で切断する。認識部位は、非対称的であり、約6〜8ヌクレオチドのスペーサーで隔てられた2つの部分(1つは3〜4個のヌクレオチドを含有し、もう1つは4〜5個のヌクレオチドを含有する)から構成されている。S−アデノシルメチオニン(AdoMet)、加水分解されたアデノシン三リン酸(ATP)、およびマグネシウム(Mg2+)イオンを含めて、いくつかの酵素補助因子がそれらの活性のために必要とされる。典型的なII型制限酵素は、いくつかの点でI型制限酵素とは異なる。これらは、ただ1つのサブユニットから構成され、その認識部位は通常は分かれておらず、パリンドロームであり、4〜8ヌクレオチド長であり、同じ部位でDNAを認識および切断し、活性のためにATPもAdoMetも使用しない。これらは通常、補助因子としてMg2+のみを必要とする。制限酵素およびそれらの認識配列は、当技術分野において周知である。例示的な制限認識部位を表1に列挙する。適切な制限部位の配列は、標準的な組換え技術を用いてベクター配列中に組み入れることができる。
【0071】
本発明のベクターは、ポリペプチドコード配列全体を含有する核酸断片を制限酵素消化によって作製できるように、対象とするポリペプチド(例えば、ディスプレイまたは発現されるポリペプチド)をコードするポリヌクレオチド配列に隣接する1つまたは複数の適合性制限部位を含む。いくつかの実施形態において、本発明のベクターは、ディスプレイまたは発現されるポリペプチドのコード配列に隣接する5’領域の第1の適合性制限部位およびポリペプチドコード配列の3’隣接領域の第2の制限部位を含有する。いくつかの実施形態において、第1の適合性制限部位および第2の適合性制限部位は、同じ制限酵素によって切断可能である。いくつかの実施形態において、第1の適合性制限部位および第2の適合性制限部位は、互いに非適合性である。いくつかの実施形態において、第1のベクター上の5’適合性部位は、第2のベクター上の対応する5’適合性部位とのみ適合性であり、第1のベクター上の3’適合性部位は、第2のベクター上の対応する3’適合性部位とのみ適合性であり、その結果、ポリペプチドをコードする核酸断片が正確な向きで移送され得る。いくつかの実施形態において、本発明に適した適合性制限部位としては、ディスプレイまたは発現されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を切断しないか、または頻繁には切断しない制限酵素によって切断することが可能である制限部位が挙げられる。例えば、適切な適合性制限部位は、平均で、ディスプレイまたは発現されるポリペプチドをコードする遺伝子集団の30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%、0.08%、0.06%、0.04%、0.02%、0.01%、または0.005%未満を切断する制限酵素によって切断可能な任意の部位でよい。制限酵素の切断頻度は、コード領域のヌクレオチド組成またはDNA供給源に依存する。いくつかの実施形態において、本発明のベクターは、限定されるわけではないが、Apa LI、Asc I、Ava I、Mfe I、Bst EII、Hind III、Not I、Xba I、Xho I、Xma I、Nco I、Pci I、Pst I、Nhe I、Sac I、Sfi I、およびBss H2を含めて、抗体V遺伝子を切断しないか、または頻繁には切断しない制限酵素によって切断可能な1つまたは複数の制限部位を含む。いくつかの実施形態において、本発明のベクターは、上記の酵素のいずれか1つによって切断可能な制限部位を含有してよい。いくつかの実施形態において、本発明のベクターは、限定されるわけではないが、Asc IおよびMfe I、Asc IおよびSfi I、Apa LIおよびNot I、Apa LIおよびNhe I、またはApa L1およびBst EIIなど、上記の酵素のいずれかによって切断可能な制限部位の組合せを含有してよい。いくつかの実施形態において、本発明のベクターは、Sfi Iによって切断可能な1つまたは複数の制限部位を含有してよい。いくつかの実施形態において、本発明のベクターは、Sfi Iによって切断可能な第1の制限部位およびSfi Iによって切断可能な第2の制限部位を含有してよく、この第1の制限部位および第2の制限部位は互いに非適合性である。いくつかの実施形態において、第1のSfi I制限配列の配列は、配列番号5を含む。いくつかの実施形態において、第2のSfi I制限配列の配列は、配列番号6を含む。いくつかの実施形態において、第1のSfi I制限配列および第2のSfi I制限配列は、互いに適合性ではない。いくつかの実施形態において、第1のSfi I制限配列および第2のSfi I制限配列は、交換することができる。
【0072】
したがって、本発明は、例えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列をめったに切断しない1回の制限酵素消化を用いて、ベクター間での、コード性ポリヌクレオチドの配列依存性の移送を可能にする。本発明は、ベクター間での遺伝子配列の移送においてしばしば必要とされ、コード配列の変異を招き得るPCRステップの必要を有意に減少させるか、または排除する。
【0073】
【表2−1】

【0074】
【表2−2】

【0075】
【表2−3】

【0076】
ファージディスプレイベクター
本発明のファージディスプレイベクターは、例えば、ファージタンパク質(例えばファージ表面タンパク質)との融合タンパク質として、異種ポリペプチドを発現または条件付きで発現することができるファージ由来ポリヌクレオチド配列を含有するベクターである。いくつかの実施形態において、本発明のファージディスプレイベクターは、繊維状ファージ(例えば、ファージf1、fd、およびM13)またはバクテリオファージ(例えば、T7バクテリオファージおよびλ型ファージ)に由来するベクターである。繊維状ファージおよびバクテリオファージは、例えば、Santini(1998)J.Mol.Biol.282:125〜135、Rosenbergら(1996)Innovations 6:1〜6、Houshmandら(1999)Anal Biochem 268:363〜370)に記載されている。
【0077】
一般に、本発明のファージディスプレイベクターは、次のエレメントを含んでよい:(1)構成的発現または誘導性発現に適したプロモーター(例えば、lacプロモーター)、(2)ディスプレイされるペプチドをコードする配列の前のリボソーム結合部位およびシグナル配列、ならびに(3)1つまたは複数の適合性制限部位、特に、後述するような本発明のリボソームディスプレイベクターに適合性がある制限部位、(4)任意選択により、ヒスチジン5〜6個のストレッチまたは抗体によって認識されるエピトープなどのタグ配列、(5)第2のタグ配列、(6)抑制可能なコドン(suppressible)(例えば、終止コドン)、ならびに(7)ディスプレイしようとするペプチドとの融合物を形成するようにインフレームに位置する、ファージ表面タンパク質をコードする配列。
【0078】
一般に、本発明のファージディスプレイベクターは、対象とする異種ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列およびファージ表面タンパク質をコードする配列に作動可能に連結されたプロモーターおよび/または調節領域を含有する。「作動可能に連結される」という用語は、連結されたプロモーターおよび/または調節領域がコード配列の発現を機能的に制御するような、核酸配列間の機能的連結を意味する。また、これは、同じプロモーターおよび/または調節領域にコード配列が制御され得るような、コード配列間の連結も意味する。コード配列間のこのような連結は、それらのコード配列にコードされるアミノ酸を含む融合タンパク質が発現され得るように、インフレームで、または同じコーディングフレーム中で連結されていると呼ぶこともできる。
【0079】
本発明の他の実施形態において、ファージディスプレイベクターが融合タンパク質を発現する能力は、調節的プロモーターまたは他の調節領域(例えば、誘導がない場合、それらによって制御される発現が低いか、または検出不可能である、誘導性プロモーター)の使用によってある程度調節される。誘導性プロモーターの非限定的な例としては、lacプロモーター、lac UV5プロモーター、アラビノースプロモーター、およびtetプロモーターが挙げられる。いくつかの実施形態において、リプレッサー(例えば、lacI)またはターミネーター(例えば、tHPターミネーター)を組み入れることによって、誘導性プロモーターをさらに拘束することができる。例えば、リプレッサーlacIは、Lacプロモーターと共に使用される。いくつかの実施形態において、lacI遺伝子とLacプロモーターの間に強力なtHPターミネーターをさらに挿入することができる。
【0080】
本明細書において使用される場合、「ファージ表面タンパク質」という用語は、繊維状ファージ(例えば、ファージf1、fd、およびM13)またはバクテリオファージ(例えば、λ、T4、およびT7)の表面に通常存在し、異種ポリペプチドとの融合タンパク質として発現されるように適合され、それでもなお、集合してファージ粒子を構築することができ、その結果、そのポリペプチドがファージ表面にディスプレイされる、任意のタンパク質を意味する。繊維状ファージに由来する適切な表面タンパク質としては、遺伝子IIIタンパク質および遺伝子VIIIタンパク質など繊維状ファージに由来するマイナーコートタンパク質、遺伝子VIタンパク質、遺伝子VIIタンパク質、遺伝子IXタンパク質、T7由来の遺伝子10タンパク質、およびバクテリオファージλのカプシドDタンパク質(gpD)など繊維状ファージに由来する主要コートタンパク質が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの実施形態において、適切なファージ表面タンパク質は、天然に存在する表面タンパク質のドメイン、切断型変種、断片、または機能的変種である。例えば、適切なファージ表面タンパク質は、遺伝子IIIタンパク質のドメイン、例えば、アンカードメインまたは「断端(stump)」でよい。その他の例示的なファージ表面タンパク質は、その開示内容が参照により本明細書に組み入れられるWO00/71694に記載されている。当業者は認識するように、ファージ表面タンパク質は、ファージディスプレイベクターおよびその増殖のために使用する細胞の考慮と組み合わせて、選択するべきである。
【0081】
ディスプレイされるポリペプチドは、典型的には、ファージ表面タンパク質に共有結合されている。この連結は、表面タンパク質に融合されるポリペプチド構成要素をコードする核酸の翻訳の結果、生じる。この連結は、柔軟なペプチドリンカー、プロテアーゼ部位、または停止コドンの抑制の結果として組み入れられるアミノ酸を含んでよい。
【0082】
抑制可能なコドンは、当技術分野において公知である。例えば、抑制可能なコドンは、UAG(アンバーコドンと呼ばれる)、UAA(オーカーコドンと呼ばれる)、およびUGAを含めて、終始コドンでよい。UAG、UAA、およびUGAは、mRNAコドンを示す。また、終止コドンの選択は、コドンの周囲に特定の配列を導入することによって強化することもできる。
【0083】
コード配列の翻訳をさらに調節するために、特殊な開始シグナルを組み入れてもよい。これらのシグナルとしては、ATG開始コドンまたは隣接配列が挙げられる。ATG開始コドンを含めて、外因性翻訳制御シグナルが提供される必要がある場合がある。当業者は、これを判定し、必要なシグナルを提供することが容易にできるはずである。開始コドンは、挿入配列全体の翻訳を確実にするために、所望のコード配列のリーディングフレームと「インフレーム」でなければならないことは周知である。これらの外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然でも合成でもよい。誘導なしでのタンパク質産生をさらに減少させるために、低効率のリボソーム結合配列または翻訳開始シグナルが使用され得る。
【0084】
発現されたタンパク質またはポリペプチドの分泌を推進または指示することができる任意のペプチド配列が、ファージディスプレイベクター用のリーダー配列として使用され得る。例示的なリーダー配列としては、PelBリーダー配列およびOmp Aリーダー配列が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0085】
さらに、任意選択により、融合ポリペプチドは、精製、検出、および/またはスクリーニングにおいて有用であり得るタグを含んでもよい。適切なタグとしては、FLAGタグ、ポリヒスチジンタグ、gDタグ、c−mycタグ、緑色蛍光タンパク質タグ、GSTタグ、またはβ−ガラクトシダーゼタグが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0086】
制限部位は、ディスプレイされる対象とするペプチドのコード配列に隣接する5’非翻訳領域および3’非翻訳領域に組み入れることができる。例えば、第1の適合性制限部位をリーダー配列のC末端に組み入れることができ、第2の適合性部位をタグ配列の上流またはその内部に組み入れることができる。スタッファー配列は、第1の適合性制限部位と第2の適合性制限部位の間に含めることができる。スタッファー配列は、切断し、適合性制限部位を利用して、ディスプレイされるポリペプチドのコード配列で置き換えることができる。典型的には、スタッファー配列は、アガロースゲル精製の間に、2カ所切断プラスミドを1カ所切断プラスミドから容易に区別可能にするように設計される。いくつかの実施形態において、スタッファー配列は、クローニングされるポリペプチドコード配列をまだ含有していないプラスミドによって形質転換した後に抗生物質による細菌の二重選択を可能にする抗生物質耐性遺伝子を含んでよい。いくつかの実施形態において、2つの非適合性制限部位間のスタッファー配列は、対象とする抗原結合ポリペプチドのコード配列の発現を推進するものとは別のプロモーターのもとで抗生物質耐性遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0087】
ファージディスプレイベクター、ファージディスプレイライブラリーを構築するための一般的方法、および使用方法は、例えば、Ladnerら、米国特許第5,223,409号、Smith(1985)Science 228:1315〜1317、WO92/18619、WO91/17271、WO92/20791、WO92/15679、WO93/01288、WO92/01047、WO92/09690、WO90/02809、de Haardら(1999)J.Biol.Chem.274:18218〜30、Hoogenboomら(1998)Immunotechnology 4:1−20、Hoogenboomら(2000)Immunol.Today2:371〜8、Fuchsら(1991)Bio/Technology 9:1370〜1372、Hayら(1992)Hum Antibod Hybridomas 3:81〜85、Huseら(1989)Science 246:1275〜1281、Griffithsら(1993)EMBO J 12:725〜734、Hawkinsら(1992)J.Mol.Biol.226:889〜896、Clacksonら(1991)Nature 352:624〜628、Gramら(1992)PNAS 89:3576〜3580、Garrardら(1991)Bio/Technology 9:1373〜1377、Rebarら(1996)Methods Enzymol.267:129〜49、Hoogenboomら(1991)Nuc.Acid Res.19:4133〜4137、およびBarbasら(1991)PNAS 88:7978〜7982において説明されている。
【0088】
例示的な本発明のファージディスプレイベクターは、実施例のセクションにおいて説明する。
【0089】
リボソームディスプレイベクター
本発明のリボソームディスプレイベクターとしては、原核生物ディスプレイ系または真核生物ディスプレイ系に適したベクターが挙げられる。原核生物リボソームディスプレイ系は、ポリソームディスプレイ系とも呼ばれる。
【0090】
本発明のリボソームディスプレイベクターは、典型的には、プロモーターまたはRNAポリメラーゼ結合配列、リボソーム結合部位、翻訳開始配列、対象とする発現されディスプレイされるペプチドを翻訳後にリボソームから分離させてペプチドの正確なフォールディングを補助するアミノ酸スペーサー配列をコードする核酸を含む。任意選択により、リボソームディスプレイベクターは、検出タグをコードする1つもしくは複数の配列、合成されたmRNAを保護するための3’ステムループ構造および/もしくは5’ステムループ構造、翻訳エンハンサー、または「アクチベーター」配列(複数可)も含んでよい。典型的には、本発明のリボソームディスプレイベクターは、ディスプレイされるポリペプチドのインフレームの停止コドンを欠いている。
【0091】
本発明に適したプロモーターまたはRNAポリメラーゼ結合配列としては、インビトロでの翻訳に適した任意のプロモーターを挙げることができる。例示的なプロモーターとしては、T7プロモーター、T3プロモーター、もしくはSP6プロモーター、またはRNAポリメラーゼT7、T3、もしくはSP6によって認識される任意の配列が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの実施形態において、本発明のリボソームディスプレイベクターは、T7プロモーターとSP6プロモーターの双方など、2つのプロモーターを含んでよい。リボソーム結合部位は、プロモーター領域の上流、下流、または内部に位置してよい。このリボソーム結合部位は、原核生物翻訳手順が使用される場合には、原核生物リボソーム複合体、例えばシャイン−ダルガノ配列に特異的でよい。適切な原核生物翻訳系としては、大腸菌(E.coli)S30系が挙げられるが、それに限定されるわけではない。また、リボソーム結合部位は、真核生物翻訳手順が使用される場合、真核生物翻訳系、例えばコザックコンセンサス配列に特異的でよい。適切な真核生物翻訳系としては、ウサギ網状赤血球系(Krawetzら、Can.J.Biochem.Cell.Biol.61:274〜286、1983、Merrick、Meth.Enzymol.101:38、1983)が挙げられるが、それに限定されるわけではない。1つの例示的なコザックコンセンサス配列は、GCCGCCACCATGG(配列番号15)である。
【0092】
また、その他の翻訳エンハンサー配列も含まれてよい。例えば、アフリカツメガエル(X.leavis)βグロビン遺伝子の翻訳エンハンサーを、プロモーターと翻訳開始部位の間に挿入してよい。他の例示的な翻訳エンハンサーまたはアクチベーター配列としては、タバコモザイクウイルスに由来する非翻訳「リーダー配列」(Joblingら Nucleic Acids Res.16:4483〜4498、1988)、アルファルファモザイクウイルスRNA4(JoblingおよびGehrke、Nature 325:622〜625、1987)、ゴキブリウイルス(ノダウイルス(Nodavirus))RNA2(FriesenおよびRueckert、J.Virol.37:876〜886、1981)、ならびにカブモザイクウイルスおよびブロムモザイクウイルスのコートタンパク質mRNA(Zagorskiら、Biochimie 65:127〜133、1983)に由来する5’非翻訳領域が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0093】
ディスプレイされるペプチドのC末端に融合または連結される核酸中にアミノ酸スペーサー配列を人工的に作り出して、翻訳された際に、ディスプレイされるペプチドをリボソームから離すことができる。スペーサー配列は、ディスプレイされるポリペプチドがリボソーム「トンネル」から完全に出て行き、正確にフォールディングするのを可能にするが、リボソーム上にペプチドを本質的に固着させる(freeze)停止コドンの欠如が原因で、リボソーム上の翻訳されたポリペプチドを、やはり依然として、そのポリペプチドが翻訳される元のRNAに付着している状態のままにすることが企図される。典型的には、適切なスペーサー配列は、少なくとも20アミノ酸長をコードする。特に、スペーサーの適切な長さとしては、少なくとも30アミノ酸、40アミノ酸、50アミノ酸、60アミノ酸、70アミノ酸、80アミノ酸、90アミノ酸、100アミノ酸を挙げることができる。いくつかの実施形態において、スペーサーは、23個のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、スペーサーは、69個のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、スペーサーは、116個のアミノ酸を含む。適切なスペーサー配列は、任意の公知のタンパク質に由来してよく、例えば、限定されるわけではないが、免疫グロブリンκ鎖の定常領域(C1c)、繊維状ファージM13の遺伝子III、およびヒトIgMのCH3ドメインに由来してよい。本発明のリボソームディスプレイベクター中にタグ配列を組み入れてもよい。典型的には、タグ配列は、ディスプレイされるポリペプチドのN末端またはC末端に組み入れられる。いくつかの実施形態において、タグ配列は、翻訳されたポリペプチドのN末端に存在する。適切なタグとしては、ヒスチジンのストレッチ(例えば、5〜6個のヒスチジン)、抗体によって認識されるエピトープ、例えば、サブスタンスP、flagタグ、またはc−mycタグが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0094】
また、リボソームディスプレイベクターは、ステムループ構造を形成することができるパリンドローム配列を有する5’領域および/または3’領域も含んでよい。ステムループ構造は、転写(transcription)を妨害すると考えられおり、したがって、パリンドローム配列は、翻訳期間中のリボソームの移動を減速させ、リボソームがmRNAから「脱落する」のを防ぎ、それによって、インビトロの翻訳ステップにおいて、合成されたmRNAを保護し、ポリソームの数を増加させる。いくつかの実施形態において、本発明のリボソームディスプレイベクターは、3’ステムループ構造を形成することができる。いくつかの実施形態において、本発明のリボソームディスプレイは、5’ステムループ構造および3’ステムループ構造を形成することができる。さらに、3’領域は、インビトロ翻訳に由来するmRNAを後で精製するために、ポリAまたは他のポリヌクレオチドストレッチを含有してもよい。インビトロで合成されたmRNAへのホモポリマー配列のハイブリダイゼーションは、当業者によって典型的に使用される標準的方法である。
【0095】
対象とするポリペプチドをコードする核酸断片全体の移送を容易にするために、前述したような本発明のリボソームディスプレイベクターは、典型的には、前述したような本発明のファージディスプレイと適合性があり、ポリペプチドコード配列に隣接している制限部位を含む。いくつかの実施形態において、リボソームディスプレイベクターは、対象とするポリペプチドのコード領域の5’側の非翻訳領域中に第1の制限部位を含み、ポリペプチドコード配列の下流の3’側に第2の制限部位を含む。いくつかの実施形態において、リボソームディスプレイベクターの第1の制限部位および第2の制限部位は、互いに適合性ではない。いくつかの実施形態において、本発明のファージディスプレイベクターは、対象とするポリペプチドのコード領域の5’側の非翻訳領域中に位置する第1の制限部位を含み、ポリペプチドコード配列の下流の3’側に位置する第2の制限部位を含むが、ファージディスプレイベクターの第1の制限部位および第2の制限部位は、互いに適合性ではない。いくつかの実施形態において、リボソームディスプレイベクターの第1の制限部位およびファージディスプレイベクターの第1の制限部位は適合性であり、1つにライゲーションすることができ、リボソームディスプレイベクターの第2の制限部位およびファージディスプレイベクターの第2の制限部位は適合性であり、1つにライゲーションすることができる。本発明の各ベクター内の適合性制限部位が適合性であることにより、対象とするポリペプチド(複数可)をコードするポリヌクレオチドの集団全体を一方のベクターから他方のベクターに移送することが容易になる。
【0096】
リボソームディスプレイベクターは、当業者に周知のプロトコールによって化学合成することができる。あるいは、上記の各エレメントは、1つまたは複数のプラスミド中に組み入れ、微生物中で増幅させ、標準手順によって精製し、制限酵素で切断して適切な断片にした後で、ベクターに組み立ててもよい。リボソームディスプレイベクター、リボソームディスプレイライブラリーを構築するための一般的方法、および使用方法は、米国特許第5,643,768号、第5,658,754号、および第7,074,557号、ならびにMattheakisら、(1994)PNAS USA 91、9022 9026、Mattheakisら、(1996)Methods Enzymol.267、195 207、Gersukら、(1997)Biotech and Biophys.Res.Com.232、578 582、HanesおよびPluckthun(1997)PNAS USA 94、4937 4942、Hanesら、(1998)PNAS USA 95、14130 50、HeおよびTaussig(1997)NAR 5132 5234において説明されており、これらすべての文献の教示は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0097】
例示的な本発明のリボソームディスプレイベクターは、実施例のセクションにおいて説明する。
【0098】
ディスプレイされるペプチド
本明細書において使用される場合、「ディスプレイされるポリペプチド」、「ディスプレイされるペプチド」、「ディスプレイされるタンパク質」という用語、またはそれらの文法的同義語は、ベクター配列の一部分ではない核酸配列(すなわち、ベクター配列中にライゲーションされている、ポリペプチドをコードする異種核酸配列)にコードされる異種ポリペプチドを意味する。本明細書において使用される場合、「抗原結合ポリペプチド」という用語は、前述したような「ディスプレイされるポリペプチド」などの用語と同義的に使用され得る。典型的には、ディスプレイされるポリペプチドは、真核細胞または原核細胞に由来する核酸配列、特に、限定されるわけではないが、ヒト、植物、植物細胞、細菌、ショウジョウバエ、酵母、ゼブラフィッシュ、ならびに、限定されるわけではないが、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、およびネコを含む非ヒト哺乳動物に由来するものにコードされるものである。いくつかの実施形態において、ディスプレイされる抗原結合ポリペプチドとしては、個々の適応症に対する薬物を同定するための潜在的標的を含めて、臨床的に関連する遺伝子産物が挙げられる。特に、ディスプレイされるポリペプチドとしては、抗原結合ファミリーに由来するポリペプチドが挙げられる。抗原結合ファミリーとは、対象とする抗原に特異的に結合する分子の特徴を保持しているポリペプチド集団を意味する。このポリペプチドファミリーのメンバーは、免疫系における広範囲に及ぶ役割を含めて、インビボでの細胞性相互作用および非細胞性相互作用の多くの局面に関与することができる(例えば、抗体およびその断片、ならびに抗体ではない抗原結合ポリペプチド、およびT細胞受容体分子などを挙げることができる抗原結合ポリペプチド、細胞接着に関与する分子、ならびに細胞内シグナル伝達に関与する分子)。本発明は、次のものを挙げることができるあらゆる抗原結合ポリペプチド分子に適用可能である:ペプチド、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、四量体抗体、四価抗体、多重特異性抗体、ドメイン特異的抗体、ドメイン欠失抗体、融合タンパク質、ScFc融合タンパク質、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、単鎖Fv(scFv)断片、Fd断片、単一ドメイン抗体、dAb断片、小モジュール免疫薬剤(SMIP)、WO03/014161に記載されているサメIgNAR可変ドメイン、CDR3ペプチド、拘束性(constrained)FR3−CDR3−FR4ペプチド、US20080107601に記載されているナノボディ、二価ナノボディ、およびミニボディ。
【0099】
コレクション
本明細書において使用される場合、「コレクション」という用語は、多様な変種、例えば、ヌクレオチド配列が異なる核酸変種またはアミノ酸配列が異なるポリペプチド変種の集団である。
【0100】
ライブラリー
本明細書において使用される場合、「ライブラリー」という用語は、複数の異種ポリペプチド、または対象とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを意味する。ライブラリーメンバー間の配列の相違は、ライブラリーに存在する多様性の原因である。ライブラリーは、ポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの混合物の形態をとってもよく、または、核酸ライブラリーを用いて形質転換された生物もしくは細胞、例えば、細菌、ウイルス、および動物細胞もしくは植物細胞などの形態であってもよい。本明細書において使用される場合、「生物」という用語は、原核生物および真核生物など細胞性のあらゆる生き物、ならびにバクテリオファージおよびウイルスなど非細胞性の核酸含有実体を意味する。
【0101】
特に、抗体ライブラリーは、限定されるわけではないが、合成核酸、未処置の核酸、対象(例えば、免疫化されたヒト対象または病気にかかったヒト対象)、および動物(例えば、免疫化された動物)に由来する核酸を含めて、様々な供給源からの多様性を組み入れることができる。
【0102】
いくつかの実施形態において、免疫細胞は、ペプチド、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、四量体抗体、四価抗体、多重特異性抗体、ドメイン特異的抗体、ドメイン欠失抗体、融合タンパク質、ScFc融合タンパク質、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、単鎖Fv(ScFv)断片、Fd断片、単一ドメイン抗体、dAb断片、小モジュール免疫薬剤(SMIP)、サメIgNAR可変ドメイン、CDR3ペプチド、拘束性(constrained)FR3−CDR3−FR4ペプチド、ナノボディ、二価ナノボディ、およびミニボディ、ならびにMHC複合体およびT細胞受容体に由来するポリペプチドからなる群に由来する抗原結合ポリペプチドを包含する。抗原結合ポリペプチドは、免疫細胞に由来してよく、また、限定されるわけではないが、ヒト、霊長類、マウス、ウサギ、ラクダ、またはげっ歯動物から得ることができる。これらの細胞は、特定の特性に関して選択することができる。例えば、CD4+およびCD8−であるT細胞を選択することができる。様々な成熟度段階のB細胞を選択することができる。免疫細胞は、その後でcDNAに変換し、本発明のポリヌクレオチド中にクローニングすることができる異なる種類の遺伝子の発現に関して、多様性の天然供給源として使用することができる。
【0103】
天然に多様な配列は、本明細書において説明するように、対象から得られた細胞および試料より単離された全RNAから作製されたcDNAとして得ることができる。列挙した前記供給源から単離されたRNAは、当業者に周知の手順により、適切な任意のプライマーを用いた任意の様式で逆転写される。プライマー結合領域は、例えば、対象とするポリペプチドの異なるアイソタイプを逆転写するために、異なる抗原結合タンパク質において不変であってよい。また、プライマー結合領域は、同様にポリペプチドの特定のアイソタイプに対して特異的でもよい。cDNAを増幅し、改変し、断片化し、またはポリペプチドにライゲーションして、抗原結合ポリペプチドをコードするライブラリーを形成させることができる。例えば、前記のde Haardら(1999)を参照されたい。
【0104】
いくつかの実施形態において、本発明のライブラリーは、ScFvライブラリーを含み、当技術分野において公知の方法に従って構築することができる。例えば、Griffithsら、1994、Vaughanら、1996、Sheetsら、1998、Piniら、1998、de Haardら、1999、Knappikら、2000、SblatteroおよびBradbury、2000を参照されたい。当技術分野において周知の方法を用いた適切なプライマー設計によって、前述したようにして合成したcDNA中に1つまたは複数の制限部位を組み入れることができる。
【0105】
例えば、ファージディスプレイライブラリーを構築する方法は、(1)本発明の複数のファージディスプレイベクターを、1つまたは複数の制限部位を切断する1つまたは複数の制限酵素で消化するステップと、(2)1つまたは複数の制限部位を利用して、ディスプレイしようとするペプチドをコードする核酸配列をそれぞれ含有する断片の集団を、ステップ(1)の複数のファージディスプレイベクター中にライゲーションするステップとを含んでよい。いくつかの実施形態において、制限酵素はSfiIであり、適合性制限部位としては、1つまたは複数のSfiI部位、特に、非適合性SfiI部位が挙げられる。
【0106】
別の例として、リボソームディスプレイライブラリーを構築するための方法は、(1)本発明の複数のリボソームディスプレイベクターを、1つまたは複数の適合性制限部位を切断する1つまたは複数の制限酵素で消化するステップと、(2)1つまたは複数の適合性制限部位を利用して、ディスプレイしようとするペプチドをコードする核酸配列をそれぞれ含有する断片の集団を、ステップ(1)の複数のリボソームディスプレイベクター中にクローニングするステップとを含んでよい。いくつかの実施形態において、制限酵素はSfi Iであり、適合性制限部位としては、1つまたは複数のSfi I部位、特に、非適合性Sfi I部位が挙げられる。
【0107】
ライブラリー間での変換
本発明のライブラリー設計戦略により、ポリペプチドコード配列を制限酵素に基づいた戦略によって配列非依存的にベクター間で移送することが可能になる。特に、選択された全タンパク質ライブラリーにおいて定まった位置に存在する適合性制限部位の使用により、一段階のクローニング手順を用いてタンパク質変種の大きなプールを移動させるのが容易になる。いくつかの実施形態において、この一段階のクローニング手順は、1回の制限酵素(例えば、Sfi I)消化を伴う。
【0108】
いくつかの実施形態において、抗原結合ポリペプチドをコードするファージディスプレイライブラリーからリボソームディスプレイライブラリーを作製する方法は、次のステップを含む:a)ファージディスプレイアッセイにおいて、対象とする抗原に結合することが示されているポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(複数可)を同定するステップと、b)そのポリヌクレオチドを単離するステップと、c)前記ポリペプチドをコードする複数のポリヌクレオチドを、制限酵素でそれらのポリヌクレオチドを消化することによって生じさせるステップ。いくつかの実施形態において、制限酵素はSfi Iであり、d)本発明のリボソームディスプレイベクターは、制限酵素で消化することによって調製される。いくつかの実施形態において、制限酵素はSfi Iである。b)のポリヌクレオチドは、d)のポリヌクレオチドにライゲーションされる。
【0109】
いくつかの実施形態において、ディスプレイされるペプチドをコードする核酸断片をリボソームディスプレイベクターからファージディスプレイベクターに移送するための方法は、(1)ディスプレイされるペプチドをコードする断片を含有するリボソームディスプレイベクターを提供するステップと、(2)1つまたは複数の制限酵素を用いてリボソームディスプレイベクターを消化することによって、ディスプレイされるペプチドをコードする断片を回収するステップと、(3)ステップ(2)で使用される1つまたは複数の制限酵素の認識部位と適合性がある1つまたは複数の制限部位を含有するファージディスプレイベクターを提供するステップと、(4)1つまたは複数の適合性制限部位を利用して、ステップ(2)に由来する断片をファージディスプレイベクター中にクローニングするステップとを含む。
【0110】
他の実施形態において、ディスプレイされるペプチドをコードする核酸断片の集団をリボソームディスプレイライブラリーからファージディスプレイライブラリーに移送するための方法は、(1)核酸断片の集団を含む複数のベクターを含むリボソームディスプレイライブラリーを提供するステップであって、これら核酸断片の集団のそれぞれが、ディスプレイされるペプチドをコードするステップと、(2)1つまたは複数の制限酵素を用いてリボソームディスプレイライブラリーを消化することによって、これら核酸断片の集団を回収するステップと、(3)ステップ(2)で使用される1つまたは複数の制限酵素の認識部位と適合性がある1つまたは複数の制限部位をそれぞれが含有する複数のファージディスプレイベクターを提供するステップと、(4)1つまたは複数の適合性制限部位を利用して、核酸断片の集団を複数のファージディスプレイベクター中にクローニングするステップとを含む。
【0111】
抗原結合タンパク質を同定する方法
抗原結合タンパク質を測定および同定するためのいくつかの例示的な選択プロセスは、以下のとおりである。
【0112】
パンニング法。標的分子が、マイクロタイターウェル、基材、粒子、またはビーズの表面などの固体支持体に固定される。ディスプレイライブラリーが、この支持体に接触させられる。標的に対する親和性を有するライブラリーメンバーは、結合することが可能である。非特異的にまたは弱く結合したメンバーは、支持体から洗い流される。次いで、結合されたライブラリーメンバーが、(例えば溶出によって)支持体から回収される。回収されたライブラリーメンバーは、さらなる解析(例えば、スクリーニング)のために集められるか、またはさらにもう1回選択するためにプールされる。
【0113】
磁性粒子プロセッサ。自動選択の1つの例では、磁性粒子および磁性粒子プロセッサを使用する。この場合、標的は磁性粒子上に固定される。KingFisher(商標)システム、すなわち、Thermo LabSystems(ヘルシンキ、フィンランド)社製の磁性粒子プロセッサが、標的に対してディスプレイライブラリーメンバーを選択するために使用される。ディスプレイライブラリーは、試験管中で磁性粒子と接触させられる。ビーズおよびライブラリーは混合される。次いで、使い捨ての鞘に覆われた磁性ピンが磁性粒子を回収し、洗浄液を含む別の試験管にそれらを移送する。粒子は、洗浄液と混合される。この様式により、磁性粒子プロセッサを用いて、磁性粒子を複数の試験管に順次移送して、非特異的にまたは弱く結合したライブラリーメンバーを粒子から洗い流すことができる。洗浄後、溶離緩衝液を含む試験管にこれらの粒子を移送して、特異的にかつ/または強く結合したライブラリーメンバーを粒子から除去する。次いで、溶離されたこれらのライブラリーメンバーは、解析のために個別に単離されるか、またはさらにもう1回選択するためにプールされる。詳細な磁性粒子プロセッサ選択プロセスは、米国特許出願公開第20030224408号に記載されている。
【0114】
細胞ベースの選択。この選択は、ディスプレイライブラリーを標的細胞に結合させ、次いで、それらの細胞が結合したライブラリーメンバーを選択することによって、実施することができる。細胞ベースの選択により、例えば、翻訳後修飾を含む天然環境においてディスプレイされる標的分子、関連するタンパク質および因子、ならびに競合因子を認識するリガンドを同定することが可能になる。さらに、細胞ベースの選択は、特定の唯一の標的分子を対象としないため、標的に関する前もっての情報は必要とされない。もっと正確に言えば、細胞それ自体が決定因子である。その後のステップ、すなわち特定の機能アッセイを用いて、同定されたリガンドが、エフェクター機能を細胞に向ける際に活性であるかを確認することができる。詳細な細胞ベースの選択プロセスは、米国特許出願公開第20030224408号に記載されている。
【0115】
インビボでの選択。例えば、Koloninら(2001)Current Opinion in Chemical Biology 5:308〜313、PasqualiniおよびRuoslahti(1996)Nature 380:364〜366、ならびにPaqualiniら(2000)「In vivo Selection of Phage−Display Libraries」、Phage Display:A Laboratory Manual Barbasら編、Cold Spring Harbor Press 22.1〜22.24において説明されているように、この選択をインビボで実施して、標的組織または標的器官に結合するライブラリーメンバーを同定することができる。例えば、ファージディスプレイライブラリーは、対象(例えば、ヒトまたは他の哺乳動物)中に注入される。適切な間隔をあけた後、対象から標的組織または標的器官が摘出され、標的部位に結合するディスプレイライブラリーメンバーが回収され、特徴付けられる。
【0116】
親和性成熟/抗原結合タンパク質の最適化
いくつかの実施形態において、第1のライブラリーを用いた最初の選択の後、ライブラリーメンバーの選択された集団を変異誘発して、選択されたメンバーの結合親和性または他の任意の特性を改善することができる。例えば、第1のディスプレイライブラリーは、標的に対する1つまたは複数のリガンドを同定するために使用される(リード同定としても公知である)。次いで、これらの同定されたリガンドを変異させて、第2のディスプレイライブラリーを形成させる。さらなる多様性が、変異誘発によって導入される。次いで、例えば、厳密性がより高いまたはより競合的な結合条件および洗浄条件を用いることによって、親和性が高いリガンドが第2のライブラリーから選択される。このプロセスは、親和性成熟または最適化として公知である。
【0117】
いくつかの実施形態において、本発明のファージディスプレイライブラリーは、標的に結合するポリペプチドの最初の同定のために使用される。標的に結合するポリペプチドをコードする核酸断片の選択されたプールは、1つまたは複数の適合性制限部位を切断する制限酵素を用いた消化によって、回収され得る。次いで、回収された断片は、1つまたは複数の適合性制限部位を利用して、本発明のリボソームディスプレイベクター中に「まとめて」クローニングされ得る。ファージディスプレイライブラリーから移送された選択された核酸を含有するリボソームディスプレイベクターをさらに変異誘発して、第2のライブラリー、例えば、リボソームディスプレイライブラリーを形成させることができる。リボソームディスプレイライブラリーの多様性は、最高で1012を超えることができる。
【0118】
同定された最初のリガンドを変異させてさらなる多様性を導入するために、多数の技術が使用され得る。これらの技術としては、エラープローンPCR(Leungら(1989)Technique 1:11〜15)、組換え、ランダム切断を用いたDNAシャッフリング(Stemmer(1994)Nature 389〜391)、RACHITT(商標)(Cocoら(2001)Nature Biotech.19:354)、部位特異的変異誘発(Zollerら(1987)Methods Enzymol.1987、154:329〜50、Zollerら(1982)Nucl.Acids Res.10:6487〜6504)、カセット変異誘発(Reidhaar−Olson(1991)Methods Enzymol.208:564〜586)、および縮重オリゴヌクレオチドの組入れ(Griffithsら(1994)EMBO J 13:3245)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0119】
抗原結合タンパク質の場合、変異誘発は、重鎖または軽鎖のCDR領域を対象としてよい。いくつかの実施形態において、変異誘発は、CDRの近くまたはCDRに隣接したフレームワーク領域を対象としてよい。
【0120】
望ましい結合親和性または他の特性を有するリボソームディスプレイライブラリーのメンバーを同定するための方法、および選択されたポリペプチドをコードする核酸配列を回収するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、例示的な方法は、米国特許第5,643,768号、第5,658,754号、および第7,074,557号に記載されている。
【0121】
再編成(reformatting)
望ましい特性を有するディスプレイされるポリペプチドをコードする核酸配列を含有するライブラリーメンバーを選択および同定した後、核酸をディスプレイベクターから回収し、産生またはさらなる解析のために発現ベクターに移送することができる。このプロセスは、典型的には、再編成として公知である。したがって、再編成プロセスは、例えば、核酸をディスプレイベクターから細菌細胞または哺乳動物細胞における産生に適したベクターに移送するために使用される。1つの実施形態において、選択された各ライブラリーメンバーは、個別に再編成される。別の実施形態において、ライブラリーメンバーは集められ、まとめて再編成される。
【0122】
再編成プロセスは、ディスプレイのために最初に使用される発現系および第2の発現系に合わせて仕立てることができる。典型的なリボソームベクターは細菌発現系または哺乳動物発現系に適合性ではないのに対し、同じファージディスプレイベクターは、細菌発現系において、選択されたディスプレイされるポリペプチドを発現させるために使用され得るため、例えば、再編成プロセスは、リボソームディスプレイ産物の解析のために特に重要である。
【0123】
したがって、いくつかの実施形態において、選択されたディスプレイされるポリペプチドをコードする核酸配列は、適合性制限部位を利用して、リボソームディスプレイ構築物から本発明のファージディスプレイベクターに移送され得る。いくつかの実施形態において、選択されたディスプレイされるポリペプチドをコードする複数の核酸配列は、適合性制限部位を利用して、リボソームディスプレイ構築物から本発明のファージディスプレイベクターにまとめて移送され得る。
【0124】
いくつかの実施形態において、選択されたディスプレイされるポリペプチドをコードする核酸配列は、本発明のベクター間の適合性制限部位を利用して、リボソームディスプレイ構築物またはファージディスプレイ構築物から、例えば哺乳動物発現ベクターに移送され得る。
【0125】
いくつかの実施形態において、選択されたScFvポリペプチドは、限定されるわけではないが、IgG、ScFv−Fc融合物、F(ab)2、Fab’、Fab、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、四量体抗体、四価抗体、多重特異性抗体、ドメイン特異的抗体、ドメイン欠失抗体、融合タンパク質、ScFc融合タンパク質、F(ab’)2断片、Fv断片、Fd断片、単一ドメイン抗体、dAb断片、ナノボディ、サメIgNAR可変ドメイン、CDR3ペプチド、および拘束性(constrained)FR3−CDR3−FR4ペプチドを含めて、他の免疫グロブリン形態に再編成され得る。まとめて再編成する1つの例において、ScFvの再編成は、二段階のプロセスを伴う。第1のサイクルは、例えば、適合性制限部位を用いてディスプレイベクターを消化して、軽鎖可変コード領域および重鎖可変コード領域を最小限含む核酸断片を放出させるステップを含む。これらの断片は、哺乳動物において発現させるためのベクター中にクローニングされる。このステップの間、VH遺伝子およびVL遺伝子の双方をコードする核酸断片の移送により、ディスプレイベクター中に存在する重鎖および軽鎖の組合せが発現ベクターにおいて維持されることが確実になる。さらに、移送プロセスを用いて、コード鎖の5’末端において原核生物プロモーターを哺乳動物プロモーターに切り替え、また、コード鎖の3’末端においてバクテリオファージコートタンパク質(またはその断片)をコードする配列をFcドメインをコードする配列に切り替えることができる。クローニングのための一般的方法は、標準的な実験室マニュアル、例えば、Sambrookら(2001)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory Pressにおいて説明されている。
【0126】
第2のステップにおいて、軽鎖コード領域と重鎖コード領域の間に介在する領域が、置換される。例えば、VH遺伝子とVL遺伝子の間のリンカー領域は、原核生物リボソーム結合部位(RBS)を含む配列、または配列内リボソーム進入部位(IRES)を有する配列もしくは真核生物プロモーターを含む配列で置換され得る。また、このプロセスにおいて、分泌のためのシグナル(例えば、原核生物または真核生物の分泌シグナル)および免疫グロブリン分子の定常領域に由来する配列(例えば、Ck、CH1)も挿入され得る。いくつかの実施において、介在領域は、細胞において組換えによって置換される。さらに他の実施において、介在領域は置換されず、もっと正確に言えば、例えば、部位特異的組換えによって、任意選択により、原核生物発現のために設計された配列を切除することなく、配列が挿入される。
【0127】
原核細胞および真核細胞の双方において機能的であるハイブリッドシグナル配列は、シグナル配列の一部(例えば、シグナル配列の少なくとも3’領域、例えば、−3、−2、および−1位置)またはすべての再編成を回避するために使用され得る。一部の場合において、シグナル配列は、複数の発現系(例えば、原核生物系および真核生物系の双方)において機能的である。例えば、いくつかの細菌β−ラクタマーゼのシグナル配列は、真核細胞および原核細胞において機能的である。例えば、Kronenbergら、1983、J.Cell Biol.96、1117〜9、Al−Qahtaniら、1998、Biochem.J.331、521〜529を参照されたい。また、複数の宿主において機能するシグナル配列は、各発現宿主におけるそのようなシグナル配列の要件(共通規則)に基づいて選択することができ、または経験に基づいて選択することができる。
【0128】
いくつかの実施形態において、本発明の選択されたScFvポリペプチドは、同様のクローニング戦略を用いて、小モジュール免疫薬剤(SMIP(商標))の薬形態(Trubion Pharmaceuticals、シアトル、ワシントン州)に再編成することができる。SMIPは、抗原または対抗受容体などの同族構造体に対する結合ドメイン、1つのシステイン残基を有するかまたは1つもシステイン残基を有さないヒンジ領域ポリペプチド、ならびに免疫グロブリンのCH2ドメインおよびCH3ドメインから構成される単鎖ポリペプチドである(www.trubion.comも参照されたい)。SMIP薬物設計は、例えば、米国特許出願公開第2003/0118592号、第2003/0133939号、第2004/0058445号、第2005/0136049号、第2005/0175614号、第2005/0180970号、第2005/0186216号、第2005/0202012号、第2005/0202023号、第2005/0202028号、第2005/0202534号、および第2005/0238646号、ならびにその関連する特許ファミリーメンバーにおいて開示されており、これらの文献はすべて、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0129】
コード核酸は、再編成されたものであれ再編成されてないものであれ、組換え発現のための当技術分野において利用可能な任意の技術を用いてコードされたポリペプチドまたはペプチドを産生させる際に使用され得る。
【0130】
様々な異なる宿主細胞においてポリペプチドをクローニングおよび発現させるための系は周知である。適切な宿主細胞としては、細菌、哺乳動物細胞、酵母系、およびバキュロウイルス系が挙げられる。異種ポリペプチドを発現させるために当技術分野において利用可能な哺乳動物細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、仔ハムスター腎臓細胞、NSOマウス黒色腫細胞、および他多数が挙げられる。一般的な好ましい細菌宿主は大腸菌(E.coli)である。
【0131】
大腸菌(E.coli)のような原核細胞における抗原結合タンパク質、抗体、およびその抗体断片の発現は、当技術分野において十分に確立されている。概説については、例えば、Pluckthun,A. Bio/Technology 9:545 551(1991)を参照されたい。また、培養状態の真核細胞における発現も、特異的結合メンバーを産生させるための選択肢として当業者は利用可能である。最近の概説については、例えば、Ref,M.E.(1993)Curr.Opinion Biotech.4:573 576、Trill J.J.ら(1995)Curr.Opinion Biotech.6:553 560を参照されたい。
【0132】
したがって、本発明の方法を用いて選択された特異的ポリペプチド、またはそのような特異的ポリペプチドの構成要素(例えば、VHドメインおよび/もしくはVLドメイン)をコードする核酸が、産生用の発現系において提供され得る。これは、そのような核酸を宿主細胞中に導入するステップを含んでもよい。この導入には、任意の利用可能な技術を使用してよい。真核細胞の場合、適切な技術としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、リポソームを介したトランスフェクション、およびレトロウイルスまたは他のウイルス、例えば、ワクシニア、または昆虫細胞の場合、バキュロウイルスを使用する形質導入を挙げることができる。細菌細胞の場合、適切な技術としては、塩化カルシウム形質転換、エレクトロポレーション、およびバクテリオファージを用いたトラスフェクションを挙げることができる。
【0133】
導入に続いて、例えば、コードされる産生物を産生させるための条件下で宿主細胞を培養することによって、核酸からの発現を引き起こすか、または可能にさせることができる。本発明はまた、前述の特異的結合メンバーまたはポリペプチドを発現させるために、発現系において前述の構築物を使用するステップを含む方法も提供する。
【0134】
発現による産生に続いて、産生物を単離および/または精製してよく、また、少なくとも1つの付加的な成分を含む組成物に調製してよい。このような組成物は、薬学的に許容できる賦形剤、ビヒクル、または担体を含んでよい。本発明の別の態様および実施形態は、本発明の開示に照らして、当業者に明らかになると考えられる。本明細書において任意の箇所で言及される文書はすべて、参照により組み入れられることにさらに留意すべきである。
【0135】
あるグループの1つまたは複数のメンバーの間に「または(or)」を含む請求項または記載は、反対の記載がなく、またはそうでなければ文脈から明らかではない場合、1つ、複数、またはすべてのグループメンバーが所与の産生物またはプロセス中に存在するか、それらにおいて使用されるか、またはそうでなければそれらに関連している場合に満たされるとみなされる。本発明は、グループのまさに1つのメンバーが所与の産生物またはプロセス中に存在するか、それらにおいて使用されるか、またはそうでなければそれらに関連している実施形態を含む。また、本発明は、複数またはすべてのグループメンバーが所与の産生物またはプロセス中に存在するか、それらにおいて使用されるか、またはそうでなければそれらに関連している実施形態を含む。さらに、本発明は、1つもしくは複数の請求項または明細書の関連部分に由来する1つまたは複数の制限、要素、節、記述的用語などが別の請求項に導入される、変形、組合せ、および並べ換えすべてを包含することを理解すべきである。例えば、別の請求項に従属する任意の請求項は、同じ基本請求項に従属する他の任意の請求項に存在する1つまたは複数の制限を含むように修正され得る。さらに、請求項が組成物を説明する場合、別段の定めがない限り、または、矛盾もしくは不一致が生じるであろうことが当業者に明らかではない限り、本明細書において開示する目的のいずれかのためにその組成物を使用する方法が含まれ、また、本明細書において開示する製造方法のいずれかに従ってその組成物を製造する方法または当技術分野において公知の他の方法が含まれることを理解すべきである。さらに、本発明は、本明細書において開示する組成物を調製するための方法のいずれかに従って製造された組成物も包含する。
【0136】
例えば、マーカッシュ群の形式で要素がリストとして提示される場合、それらの要素の各下位集団も開示され、任意の要素(複数可)をその群から取り除けることを理解すべきである。また、「含む」という用語は、オープンであると意図され、付加的な要素またはステップの包含を許容することにも留意されたい。一般に、本発明または本発明の態様が、特定の要素、特徴、ステップなどを含むと称される場合、本発明の特定の実施形態または本発明の態様は、そのような要素、特徴、ステップなどからなるか、または本質的にそれらからなることを理解すべきである。平易にするために、これらの実施形態は、本明細書においてこれらの言葉で具体的に説明されない。したがって、1つまたは複数の要素、特徴、ステップなどを含む本発明の各実施形態に対して、本発明は、それらの要素、特徴、ステップなどからなるか、または本質的にそれらからなる実施形態も提供する。
【0137】
範囲が与えられる場合、端点が含まれる。さらに、別段の定めがない限り、またはそうでなければ文脈および/もしくは当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表される値は、文脈において特に規定がない限り、その範囲の下限値の単位の10分の1までの、本発明の様々な実施形態における記載範囲内の任意の特定の値をとることができることを理解すべきである。また、別段の定めがない限り、またはそうでなければ文脈および/もしくは当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表される値は、所与の範囲内の任意の部分範囲をとることができ、その際、その部分範囲の端点は、その範囲の下限値の単位の10分の1と同程度の正確性で表されることも理解すべきである。
【0138】
さらに、本発明の任意の特定の実施形態が、任意の1つまたは複数の請求項から明示的に除外され得ることも理解すべきである。本発明の組成物および/または方法の任意の実施形態、要素、特徴、応用、または態様が、任意の1つまたは複数の請求項から除外され得る。簡潔にするために、1つまたは複数の要素、特徴、目的、または態様が除外される実施形態のすべてを本明細書において明示的に説明することはしない。
【実施例】
【0139】
(実施例1)
リボソームディスプレイシステムと適合性があるファージディスプレイベクターの設計
リボソームタンパク質ディスプレイのために設計された適合性ベクター(例えば、実施例2において説明するpWRIL−3およびpWRIL−4)中への選択されたタンパク質コード配列の「ひとまとまり(batch)」の移送を容易にする適合性制限部位を有するファージディスプレイのために最適な機能的特徴を組み合わせるように、新しいプラスミドベクター(pWRIL−1およびpWRIL−2)を設計した。
【0140】
これらの新しいファージディスプレイベクターpWRIL−1およびpWRIL−2、それぞれ配列番号1および2は、ディスプレイまたは発現しようとするポリペプチドをコードする配列をクローニングするために2つのSfiI制限部位を含有するように設計した。これら2つのSfiI制限部位は、ライゲーション反応の間に互いに非適合性であるように設計し、発現カセットの機能的領域中に組み入れた。
【0141】
pWRIL−1は、上流にlacIリプレッサー配列を有する制限的なLacプロモーター/オペレーター系を含有する。pWRIL−2は、プロモーター領域がpWRIL−1とは異なる。pWRIL−2は、lacI遺伝子とLacプロモーター/オペレーター領域の間に挿入された強力なtHPターミネーターをさらに含有し、その結果、非常に厳重に調節されたプロモーター/オペレーター系をもたらす。さらに、誘導前のg3融合タンパク質産生をさらに低減させるために、低効率リボソーム結合配列をpWRIL−2において使用する。pWRIL−1およびpWRIL−2のプロモーター領域の設計が異なることは、重要である。例えば、pWRIL−2は、高度に制限されたそのプロモーター系が理由で、大腸菌(E. coli)に対して毒性であるタンパク質をディスプレイするのに特に有用であると考えられるのに対し、pWRIL−1は、より有効な発現ベクターである。さらに、pWRIL−1とpWRIL−2の双方とも、発現されたタンパク質のペリプラズム中への分泌を推進するOmp Aリーダーペプチドを含有する。
【0142】
大型(1.2kb)の「スタッファー」配列は、pWRIL−1とpWRIL−2の双方において、2つのSfi1制限部位間の空間を占める。いくつかの実施形態において、このスタッファー配列は、ディスプレイされるタンパク質をコードするクローニング配列をまだ含有していないプラスミドによって形質転換された後に抗生物質による細菌の二重選択を可能にする、クロラムフェニコール耐性遺伝子を含む。また、スタッファー配列は、アガロースゲル精製の間に、2カ所切断プラスミドを1カ所切断プラスミドから容易に区別可能にするという実用的利点のためにも使用する。いくつかの実施形態において、2つの非適合性制限部位間のスタッファー配列は、対象とする抗原結合ポリペプチドのコード配列の発現を推進するものとは別のプロモーターのもとで抗生物質耐性遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0143】
6ヒスチジン「タグ」は、クローニングされるポリペプチドのC末端に連続するように設計されて、発現されたタンパク質のアフィニティー精製と検出の双方を容易にする。C−Mycエピトープペプチドタグは、クローニングされるタンパク質のC末端に連続するようにポリヒスチジンタグの後に設計されて、発現されたタンパク質の高感度検出を促進する。
【0144】
トリプシン切断部位を含有する短いアミノ酸配列を、6ヒスチジンタグとC−Mycタグの間に挿入する。このトリプシン切断部位により、選択後のファージの酵素的溶離が可能になり、これは、タンパク質相互作用の親和性にも安定性にも溶離が影響を受けないため、有益である。
【0145】
pWRIL−1とpWRIL−2の双方とも、g3アミノ酸250〜406を含むM13バクテリオファージコートタンパク質3のC末端部分をコードする、切断型g3配列「断端(stump)」を含有する。このg3配列「断端」は、より一般に使用されるアミノ酸198〜406構築物よりも短い。この短い配列は、潜在的に不安定なGSに富むリンカー領域および発現進行中に異常なCys−Cys結合を引き起こす可能性がある不対システイン残基C201を除去する。
【0146】
「アンバー」DNAコドン(ヌクレオチド配列TAG)は、C−Mycタグとg3断端の間に挿入する。このコドンは一般に、大腸菌(E.coli)によって停止コドンとして読み取られるが、雄性変異「サプレッサー」株(例えば、supE遺伝子型またはsupf遺伝子型)では、このコドンはしばしばアミノ酸として読み取られて、タンパク質−タグ−g3断端融合産物の読み過ごしおよび発現をもたらし、それによって、融合産物のファージ上でのディスプレイが可能になる。アンバーコドンの抑制はある程度だけ有効であるにすぎず、これは、大腸菌(E.coli)にとって毒性であることが多いg3産物の産生を最小限にするため、ファージディスプレイにおいて有利である。「非サプレッサー」株では、停止コドンは完全に機能的であり、g3断端との融合がないタグ付き遊離タンパク質が生じる。
【0147】
pWRIL−1とpWRIL−2の双方とも、F1起点、すなわちM13バクテリオファージ複製起点を含有し、これは、ファージ粒子中へのプラスミドのパッケージングをもたらして、ファージディスプレイに必要とされ重大な意味を持つ表現型と遺伝子型の対応づけを作り出す。
【0148】
また、ベクターは、プラスミドによって形質転換された大腸菌(E.coli)を抗生物質によって選択するためのアンピシリン耐性遺伝子および大腸菌(E.coli)においてプラスミドを増殖させるためのpUC起点または複製を含有する。
【0149】
pWRIL−1ベクター系およびpWRIL−2ベクター系は、SfiIなど単一の制限酵素を用いたタンパク質ライブラリーまたは単一クローンのクローニングを容易にするように、ならびにバクテリオファージM13の表面における効率的なタンパク質ディスプレイおよび選択のために使用される同じベクターからの選択されたタンパク質コード配列の効率的な発現を可能にするように、設計する。
【0150】
さらに、pWRIL−1ベクター系およびpWRIL−2ベクター系は、遺伝子配列を改変せずに適合性ベクターに迅速に再編成することも可能にする。特に、pWRIL−1/2クローニング領域は、pWRIL−3およびpWRIL−4など(実施例2を参照されたい)本発明のリボソームディスプレイベクターへの、およびそれらからのコード配列の迅速な移送を可能にするように設計されている。リボソームディスプレイ用のベクターは、典型的には、さらに解析するためのタンパク質の細菌発現とは適合性ではないため、これは、リボソームディスプレイ産物の解析のために重要である。
【0151】
(実施例2)
ファージディスプレイシステムと適合性があるリボソームディスプレイベクターの設計
2つのベクターpWRIL−3およびpWRIL−4を、ファージディスプレイベクターと適合性になるように設計し、それによって、ファージディスプレイ系とリボソームディスプレイ系の間の「まとめての」移送を容易にする。
【0152】
前述のとおり、リボソームディスプレイベクターの重要な特徴は、折り畳みタンパク質を合成する間にリボソームの停止を引き起こすタンパク質コード配列中の停止コドンがないことであり、したがって、リボソームとmRNAとコードされるタンパク質とが安定に連係される。pWRIL−3とpWRIL−4の双方とも、ディスプレイされるポリペプチドのインフレームの停止コドンを欠く。
【0153】
pWRIL−3およびpWRIL−4は、本発明のファージディスプレイベクター、例えば、pWRIL−1およびpWRIL−2(実施例1を参照されたい)と適合性がある制限部位を含有する。具体的には、pWRIL−3もpWRIL−4も、pWRIL−1およびpWRIL−2などのファージディスプレイベクター中に存在する2つの非適合性SfiI部位を含有する。この特徴により、抗体および他のタンパク質のライブラリーをファージディスプレイ系とリボソームディスプレイ系の間で「まとめて」移送することが可能になる。
【0154】
さらに、pWRIL−3もpWRIL−4も、ディスプレイされるポリペプチドをリボソームから離してそのポリペプチドの正確なフォールディングを促進する、69アミノ酸のスペーサーポリペプチド配列(すなわち、遺伝子IIIの残基249〜318)を含有する。
【0155】
pWRIL−3は、原核生物(大腸菌(Eschericia coli))溶菌液においてインビトロの転写および翻訳をするための、合成されたmRNAを保護するための5’ステムループ構造および3’ステムループ構造、T7プロモーター、ならびにリボソーム結合部位を含有する。したがって、pWRIL−3は、原核生物ディスプレイのために最も適している。pWRIL−4は、真核生物(ウサギ網状赤血球)溶解物においてインビトロの転写および翻訳をするための、合成されたmRNAを保護するための3’ステムループ構造およびT7プロモーター、ならびにアフリカツメガエル(X.leavis)βグロビン遺伝子の翻訳エンハンサーを含有する。したがって、pWRIL−4は、真核生物ディスプレイのために最も適している。
【0156】
(実施例3)
ScFv抗体としてのヒト化親XT−M4の再編成および変異誘発
抗RAGE抗体であるXT−M4は、キメラ型およびヒト化型を含めて、米国特許出願公開第2007/0286858A1号において以前に説明されている。また、XT−M4の具体的なscFvヒト化変種(すなわち、V2.0、V2.11)も、US2007/0286858A1 ScFv抗体としてのヒト化親XT−M4の再編成および変異誘発(Reformatting and Mutagenesis of Parental Humanized XT−M4 as an ScFv Antibody)において説明されている。
【0157】
変異誘発および改善された力価の試験に先立って、親抗体XT−M4を、柔軟なリンカー配列[DGGGSGGGGSGGGGSS;配列番号16]を組み入れたV−V形態およびV−V形態の双方のscFvとして再編成した。どちらの形態も機能的であったが、V−V形態を最適化のために選択した。また、当業者には周知の一般的組換えDNA技術を利用して、XT−M4 scFvのいずれかの端部に制限部位を組み入れて、scFv−Fc融合タンパク質の簡便な再編成を容易にした。重複するオリゴヌクレオチドから、組み立てられたscFv抗体断片を合成し、Sfi1制限酵素で消化し、ファージディスプレイベクターpWRIL−1中にクローニングした。
【0158】
scFv形態の親抗体を変異誘発し、改善された力価についてスクリーニングした。変異誘発は、オリゴヌクレオチド部位特異的変異誘発およびエラープローンPCR変異誘発を含めて、標準的技術を用いて実施した。ファージディスプレイ技術またはリボソームディスプレイ技術のいずれかを利用して、抗原結合の増大に関して、変異クローンのライブラリーを選択した。エラープローンPCRによって、変種のリボソームディスプレイライブラリーを作り出した。これにより、分子の全長に渡って多様性を導入することが可能になり、VH−CDR3、フレームワーク残基、およびベニア領域以外のCDRにおける潜在的に有益な変異の単離が可能になった。このアプローチは、体細胞超変異の天然のプロセスと類似している。このアプローチに加えられる特徴は、機能的抗体パラトープの潜在的なマッピング、変異「ホットスポット」の明確化、およびVH/VLドメイン相互作用を増強する変異の潜在的単離である。エラープローンPCRによって生じさせることができる非常に大規模な分子多様性が原因で、このアプローチは、リボソームディスプレイと共に使用されるのみであった。
【0159】
エラープローンPCRによるXT−M4産生物をリボソームディスプレイベクターpWRIL−3中にクローニングした。これは、推定されるサイズが5×1012であった。VH−CDR3ループまたはVL−CDR3ループのいずれかに多様性を導いて、2つのファージディスプレイライブラリーを構築した。10コドンの長さのVH−CDR3を網羅するために2つのコドンが重複した6コドンのストレッチ2つをひとかたまり(block)としてVH−CDR3の長さにまたがる、連続したNNS変異誘発コドンを用いた全体的ランダム化によって、VH−CDR3を積極的に変異させた。より少ない突然変異荷重にVL−CDR3を供し、コドンに基づく戦略を取った。このアプローチは、公的データベース中の天然V遺伝子の照合された配列アライメントを用いて、このループ内の各位置における天然のアミノ酸多様性を模倣することを狙いとした。V−CDR3ランダム化ライブラリーのサイズは1.2×10であり、V−CDR3に基づいたライブラリーは5×10であった。双方のCDR3ライブラリー中の変異の頻度および分布(配列決定によって決定される)は、オリゴヌクレオチド設計によって導入される理論上の多様性と一致していた。
【0160】
(実施例4)
ヒトRAGEおよびマウスRAGEに対する親和性が改善されたscFvクローンの選択
RAGE抗原への結合の増大を、親XT−M4抗体を用いた競合アッセイ法の助けを借りて検出した。ビオチン標識hRAGE−Fcと共にインキュベートし、結合したクローンをストレプトアビジン磁性ビーズを用いて回収し、結合していない変種を洗い流すことによって、ファージディスプレイライブラリーとリボソームディスプレイライブラリーの双方から、親和性が改善された変種を選択した。親和性のより高い変種の優先的回収を推進するために抗原濃度を低下させて、連続して複数回の選択を実施した。続いて、選択後に回収されたクローンを、hRAGE−Fcへの結合の改善についてHTRFを用いてスクリーニングした。これは、競合する試験scFv抗体の存在下で、ユーロピウムクリプタートで標識された親XT−M4がRAGEに結合した際の蛍光の減少を測定するアッセイである。これらのアッセイにおいて、scFvのペリプラズム調製物を細菌培養物から調製し、親抗体と抗原の組合せ物に濃度を漸増させながら添加した。scFVがビオチン標識RAGE−Fcに結合するために親XT−M4抗体と競合する能力を測定した。アビジン−XL665複合体の存在下で、ビオチン標識RAGE−FCに結合された標識付きXT−M4を蛍光によって検出した。ビオチン標識RAGE−Fcへの結合を得るためにXT−M4と競合するscFvの量の増加を、蛍光の減少として検出した。連続的なスクリーニングプロセスを用いて、HTRFアッセイにおいて最も競合の程度が大きなより少数のクローンに焦点を合わせていった。
【0161】
ファージディスプレイクローンに対するヒトRAGEに関する個々の回の選択のハイスループットなHTRF解析を図8Aおよび8Bに示す。白い三角は親XT−M4 scFvを表す。黒い三角は、陰性対照の抗CD20 scFvを表す。丸は、VL−CDR3ライブラリーに由来するクローンを表し、四角はVH−CDR3ライブラリーに由来するクローンを表す。解析はすべて、scFvタンパク質の未精製ペリプラズム調製物を用いたシングルポイントアッセイとして実施した。図面の上方のクローンは、陰性の非結合クローンであり、選択が左から右へ進むにつれて、非結合クローンの数は減少する。
【0162】
リボソームディスプレイクローンに対するヒトRAGEに関する個々の回の選択のハイスループットなHTRF解析を図7に示す。陰性対照(CD20 ScFv)、親野生型(XTM4 scFv)、および陽性対照(H8 ScFv)の範囲を、競合HTRFにおける蛍光の変化を測定するy軸上に示している。結合が改善されたクローンを四角で囲んでいる。
【0163】
各回の選択の後に、回収された著しく競合するクローンの数の増加を親XT−M4 scFvと比べて観察した。
【0164】
選択されたV−CDR3変種は、V−CDR3変種よりも力が弱いことが判明したことから、抗原結合を測定する際にV−CDR3の方が重要であることが示唆された。また、V−CDR3配列の5’末端のGGDIモチーフが、変異を許容しない(tolerant)ことも観察された(この観察結果は、リボソームディスプレイ戦略を用いてさらに確認された)。重鎖CDR3における具体的な変異であるF106LがV−CDR3において同定され、これは、選択された変種の圧倒的多数に存在した。また、いくつかのクローンにおいてF106Iも観察されたが、この変異は、F106Lに関して観察されたのと同じ親和性増加とは関連していなかった。改善された変種の配列解析により、いくつかの異なるクローンファミリーがあることが示された。
【0165】
改善された近縁のクローンの大きなファミリーは、主にK/R−V−G/S配列からなる、ループの中心の「荷電−疎水性−小型(charge−hydrophobe−small)」モチーフ(103位、104位、105位)を有することが判明した。改善されたクローンの第2のファミリーは、103〜105位に異なるモチーフを有しており、「疎水性−荷電−小型」(L/V−D−S/G)配列または「疎水性−疎水性−小型」(L−V−G/S)配列からなった。配列決定されたほぼすべてのクローンにおいて、105位では小型アミノ酸(S、G、たまにM)が好まれた。これは、この位置において野生型アミノ酸の化学的性質が維持されることを表す。T103K/R/L変異およびT104V/D変異は、これらの位置における化学的性質の顕著な変化を表す。改善されたクローンの圧倒的多数は、F106Lのc末端側(107位)に荷電残基(D、R、H)を好むことを示し、この位置では天然アミノ酸(D)が主に好ましい。しかし、全体的に最も親和性が高い同定されたクローン(クローン3G5)は、この位置にプロリンを有する。CDR3中の最後の位置(Y108)は、一般に、集団全体において多様であったが、天然抗体のこの位置に最も頻繁に見出される大型芳香族残基(Y、F)の内の1つとして主に維持された。親和性の増大の成功の程度は、VHよりもVLにおいて、いくらか低かった。下記の表3および表4は、RAGE結合に対する親和性の増大に関して選択されたファージディスプレイクローン(表3)およびリボソームディスプレイクローン(表4)を表す。表3中の「」で目立たせたクローンおよび表4中のS2R4A4_6G2以外の全クローンは、scFv−Fc融合物として再編成した。
【0166】
【表3−1】

【0167】
【表3−2】

【0168】
【表4】

【0169】
ELISAにおいてコーティングされたhRAGE−Fcに機能的に結合する、連続的な複数回の選択によって得られた261個のリボソームディスプレイクローンの配列解析により、CDR領域とフレームワーク領域の双方にまたがって分布されるVドメインおよびVドメインの双方における変異の多様な拡散が示された。さらに、変異を許容しない残基を明確にした。また、継続的な複数回の選択を通して保有された優性変異のいくらかの証拠も特定され、ある種のクローンに対する選択圧が示唆された。
【0170】
(実施例5)
scFVクローンのscFv−Fc融合タンパク質クローンへの再編成
ファージディスプレイ選択およびリボソームディスプレイ選択によって同定されたクローンを、scFv−Fc再編成のために選択した。前述したpWRIL−3におけるリボソームディスプレイクローンの場合、上位10位を選択するために、他の二次的な判断基準も考慮した(すなわち、クローンは、123個の配列の集団において4回を超えるアミノ酸頻度の変異を有さなければならなかった。頻繁に存在する変異を保有するクローン、およびV/V境界に潜在的に位置する変異を保有するとみなされるクローン)。
【0171】
親XT−M4 scFv構築物の初期設計では、pWRIL−3のscFv配列の5’末端および3’末端にBssHII制限部位およびBcl1制限部位を組み入れて、選択されたアクセプターベクターを用いてFc融合物に直接再編成するのを容易にした。
【0172】
このアクセプターベクターは、細菌および真核生物において移送および発現させるための真核生物プロモーターならびに真核生物複製起点および細菌複製起点と共に、野生型(wt)IgG定常領域(Fc)を含有した。また、これは、1つまたは複数の可変領域結合ドメインを組み込むためのマルチクローニング部位を含有し、FV−Fc融合タンパク質の一部分として可変領域(複数可)を発現することを可能にする。選択されたscFvをコードする核酸を、タンパク質レベルでFc定常領域に作動可能に連結され融合されるプレベクターpSMED中にクローニングした。組換えプラスミドは、ヒトIgGのscFvコード領域アミノから、ヒンジ領域とそれに続くCH1領域およびCH2領域のタンパク質コード配列を含有するFc領域を含むオープンリーディングフレームを含有した。
【0173】
前述の組換えプラスミドをCOS細胞中にトランスフェクトし、scFv−Fc融合物構築物を発現させた。COS細胞中での発現後、scFvは2つのヒンジ領域を利用して、二価のscFv−Fc融合構築物を形成する。ファージディスプレイ(n=10)およびリボソームディスプレイ(n=10)に由来する選択されたクローンのパネルを、親XT−M4に関して前述したようにしてFc融合物に変換した[注意:リボソームディスプレイクローンの内の1つは、ランダム変異誘発による内部Bcl1 部位の生成が原因で失われた]。
【0174】
これらをCOS細胞において一過性に発現させ、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、続いてPBSへのバッファー交換によって精製した。精製されたタンパク質のSDS−PAGE解析により、純度レベルは高く、明らかな凝集産物も分解産物も検出されないことが示された。また、各クローンのSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)解析も実施して、高分子量凝集物(HMW)の形成を検出した。全体的に、ファージディスプレイクローンの場合もリボソームディスプレイクローンの場合も、HMW形成のレベルは低かった。特に本明細書において発見されたリボソームディスプレイクローンは、凝集レベルが低い非常に有利なSECプロファイルを有する。特定の理論に拘泥するものではないが、低レベルの凝集は、これらのscFv分子が配列の全長にまたがるランダムなエラープローンPCRに供され、この意味では、単一単位として発達したことに起因する可能性がある。クローン10H6、10D8、および2E6は、柔軟なリンカー中にAsn残基への変異を保有していた。これもまた、生化学的特徴の改善と相関関係があり得る。scFv−Fc融合タンパク質のSEC解析の場合、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)において濃度60μg/mlで、全試料を試験した。
【0175】
また、精製したscFv−Fcタンパク質を前述したようにHTRF力価測定にも供し、これにより、二価形態における親和性改善が確認された。たいていの場合、scFvから二価融合物に移行する際、さらなる改善が認められた。改善された力価を示すファージディスプレイクローンとリボソームディスプレイクローンの双方を、scFv−Fc融合物に再編成した。図8Aおよび8Bならびに図9に示すように、ヒトRAGEとマウスRAGEの双方に対して、HTRF力価測定解析を実施した。
【0176】
(実施例6)
SCFV−FC融合タンパク質の特徴付け
BIAcore解析および速度定数計算では、CM5 BIACORE表面に直接固定したRAGE−SAを使用し、scFv−Fcタンパク質を表面に3分間注入し、解離期間を5分間とした。要約すれば、変異クローンは有意に改善され、ファージディスプレイクローンの場合は7〜69倍の範囲で、また、リボソームディスプレイクローンの場合は4〜67倍の範囲でkd値が改善した。
【0177】
(実施例7)
CHO−RAGE細胞へのSCFv−Fcタンパク質の結合
CHO−RAGE細胞へのscFv−Fcタンパク質の結合を実施して、選択されたクローンが、細胞表面で発現された本物のRAGE標的に対しても改善された結合を示すことを確認した。折り畳んだ親XT−M4 scFv−Fc融合物の5〜14倍の、改善されたEC50値が観察された。安定にトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を人工的に作り出して、マウスおよびヒトのRAGE全長タンパク質を発現させた。マウスおよびヒトのRAGE cDNAを哺乳動物発現ベクターpSMED中にクローニングし、直線化し、リポフェクチン法によってCHO細胞中にトランスフェクトした(Kaufman,R.J.、1990、Methods in Enzymology 185:537〜66、Kaufman,R.J.、1990、Methods in Enzymology 185:487〜511、Pittman,D.D.ら、1993、Methods in Enzymology 222:236)。20nMメトトレキサート中で細胞をさらに選択し、個々のクローンから細胞抽出物を収集し、SDSドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)およびウェスタンブロット法によって解析して発現を確認した。これらの結果を下記の表5に示す。450nmでの吸光度値は、RAGEを発現しない対照CHO細胞に結合する同じクローンに対して補正した。GraphPadプリズムを用いたカーブフィッティングの後にEC50値を算出した。これは、μg/mlの単位で表す。EC50は、最大値の50%を与えるscFv−Fcタンパク質の有効濃度(単位ug/ml)である。
【0178】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’から3’の順序で、上流にlacIリプレッサー配列を有するLacプロモーター/オペレーターヌクレオチド配列、リボソーム結合部位をコードするヌクレオチド配列、Omp Aリーダーペプチドをコードするヌクレオチド配列、第1のSfi I制限部位ヌクレオチド配列、抗生物質耐性を与えるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、第2のSfi I制限部位ヌクレオチド配列、第1のタグ配列をコードするヌクレオチド配列、前記第1のタグ配列の3’側のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、第2のタグ配列をコードするヌクレオチド配列、前記第2のタグ配列の後の停止コドンをコードするヌクレオチド配列、および細菌コートタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
細菌複製起点をさらに含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記細菌複製起点が、pUC起点、pBR 322起点、およびColE1起点からなる群から選択される、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記細菌複製起点がpUC複製起点である、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
ファージ複製起点をさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記ファージ複製起点が、F1 M13複製起点、ファージf1複製起点、ファージfd複製起点、T7バクテリオファージ複製起点、およびλ字形ファージ複製起点からなる群から選択される、請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記バクテリオファージ複製起点がF1 M13複製起点である、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記抗生物質耐性を与えるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、アンピシリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、カナマイシン、およびリファンピシンをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記抗生物質耐性を与えるポリペプチドがクロラムフェニコールである、請求項8に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記Omp A配列がSfi I部位をコードする、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
前記第1のSfi I制限部位および第2のSfi I制限部位が互いに適合性ではない、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
前記第1のSfi I制限部位が配列番号5またはその相補体を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
前記第2のSfi I制限部位が配列番号6またはその相補体を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
抗生物質耐性を与える第2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
前記抗生物質耐性を与える第2のポリポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、アンピシリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、カナマイシン、およびリファンピシンをコードするヌクレオチド配列からなる群から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
前記抗生物質耐性を与えるポリペプチドがアンピシリンである、請求項15に記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
前記第1のタグ配列の後の前記アミノ酸配列がプロテアーゼ切断部位を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
前記プロテアーゼ切断部位が、トリプシン切断部位、第Xa因子切断部位、ジェネナーゼ切断部位、およびタバコエッチウイルスプロテアーゼ切断(TEV)部位からなる群から選択される、請求項17に記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
前記プロテアーゼ切断部位がトリプシン切断部位である、請求項18に記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
前記第1のタグ配列をコードする前記ヌクレオチド配列が、flagタグ、c−mycタグ、ヒスチジンタグ、GSTタグ、緑色蛍光タンパク質タグ、HAタグ、ならびにE−タグ、Strepタグ、StrepタグII、およびYol 1/34タグをコードする核酸からなる群から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項21】
前記第1のタグ配列がヒスチジンタグである、請求項20に記載のポリヌクレオチド。
【請求項22】
前記第2のタグ配列をコードする前記核酸配列が、flagタグ、c−mycタグ、ヒスチジンタグ、GSTタグ、緑色蛍光タンパク質タグ、HAタグ、ならびにE−タグ、Strepタグ、StrepタグII、およびYol 1/34タグをコードする核酸からなる群から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項23】
前記第2のタグ配列がc−mycタグである、請求項22に記載のポリヌクレオチド。
【請求項24】
バクテリオファージコートタンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、g3タンパク質をコードする配列を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項25】
前記g3タンパク質が切断型である、請求項24に記載のポリヌクレオチド。
【請求項26】
前記g3タンパク質が、g3タンパク質の少なくともアミノ酸198〜406を含む、請求項24または請求項25に記載のポリヌクレオチド。
【請求項27】
前記g3タンパク質が、g3タンパク質のアミノ酸198〜406より小さい部分を含む、請求項24または請求項25のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項28】
前記g3タンパク質が、g3タンパク質のアミノ酸250〜406を含む、請求項24または請求項25のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項29】
停止コドンをコードする前記ヌクレオチド配列が、抑制可能な停止コドンを含む、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項30】
配列番号1(pWRIL−1)を含む、前記請求項のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項31】
前記lacI遺伝子と前記Lacプロモーター/オペレーターの間に挿入されたtHPターミネーターをさらに含む、請求項30に記載のポリヌクレオチド。
【請求項32】
前記リボソーム結合部位が低効率のリボソーム結合部位である、請求項30または31のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項33】
配列番号2(pWRIL−2)を含む、請求項30から32のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項34】
挿入配列をさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項35】
請求項1から34に記載の任意の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む細胞。
【請求項36】
ファージディスプレイライブラリーを作製する方法であって、
a.請求項1から34のいずれかに記載のポリヌクレオチドを複製して、該ポリヌクレオチドの複数の複製産物を作り出すステップと、
b.前記ステップ(a)の複数の複製産物をSfi I制限酵素で消化するステップと、
c.前記ステップ(b)のSfi Iで消化したポリヌクレオチドの集団を、5’から3’方向に第1のSfi I部位、抗原結合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および第2のSfi I部位をそれぞれが含む複数のポリヌクレオチドとライゲーションするステップであって、該第1のSfi I部位が前記ステップ(b)の第1のSfi Iと適合性があり、該第2のSfi I部位が前記ステップ(b)の第2のSfi I部位と適合性がある、ステップと、
d.ステップ(c)のライゲーション産物を回収するステップと
を含む方法。
【請求項37】
前記抗原結合ポリペプチドが、ペプチド、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、四量体抗体、四価抗体、多重特異性抗体、ドメイン特異的抗体、ドメイン欠失抗体、融合タンパク質、ScFc融合タンパク質、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、単鎖Fv(scFv)断片、Fd断片、単一ドメイン抗体、dAb断片、小モジュール免疫薬剤(SMIP)、サメIgNAR可変ドメイン、CDR3ペプチド、拘束性FR3−CDR3−FR4ペプチド、ナノボディ、二価ナノボディ、およびミニボディからなる群から選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記ポリペプチドが単鎖Fv(ScFv)抗体である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
請求項36から39のいずれか一項に記載の方法を用いて構築したファージディスプレイライブラリー。
【請求項40】
請求項36から37のいずれか一項に記載の方法によって作製したポリヌクレオチドを含む細胞。
【請求項41】
各ポリヌクレオチドが抗原結合ポリペプチドをコードする、ファージディスプレイライブラリーに由来するポリヌクレオチドの集団を、リボソームディスプレイポリヌクレオチドに移送する方法であって、
a.結合相手に特異的に結合する抗原結合ポリペプチドをコードし、各ポリヌクレオチドが5’から3’の順序で、第1のSfi I制限部位ヌクレオチド配列、前記抗原結合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびファージディスプレイポリヌクレオチドの前記第1のSfi I制限部位ヌクレオチドに適合性ではない第2のSfi I配列を含む、請求項36から39のいずれかに記載のファージディスプレイポリヌクレオチドの集団を作製するステップと、
b.前記ステップ(a)に由来するポリヌクレオチドを単離するステップと、
c.前記ステップ(b)に由来するポリヌクレオチドをSfi I制限酵素で消化することによって複数のポリヌクレオチドを作製するステップと、
d.第1のSfi I制限部位ヌクレオチド配列および第2のSfi I制限部位ヌクレオチド配列を含むリボソームディスプレイポリヌクレオチドを複製して、前記ポリヌクレオチドの複数の複製産物を作り出すステップと、
e.前記ステップ(d)の複数の複製産物をSfi I制限酵素で消化するステップと、
f.前記ステップ(c)のSfi Iで消化したポリヌクレオチドの集団を、前記ステップ(e)の複数のポリヌクレオチドとライゲーションするステップであって、前記第1のSfi I制限部位が、前記ステップ(e)の第1のSfi I部位と適合性があり、前記第2のSfi I制限部位が、前記ステップ(e)の第2のSfi I部位と適合性がある、ステップと、
g.前記ステップ(c)のライゲーション産物を回収するステップと
を含む、方法。
【請求項42】
前記(d)のポリヌクレオチドがリボソームディスプレイポリヌクレオチドであり、配列番号3(pWRIL−3)または配列番号4(pWRIL−4)を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記抗原結合ポリペプチドが、ペプチド、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単鎖抗体、四量体抗体、四価抗体、多重特異性抗体、ドメイン特異的抗体、ドメイン欠失抗体、融合タンパク質、ScFc融合タンパク質、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、単鎖Fv(scFv)断片、Fd断片、単一ドメイン抗体、dAb断片、小モジュール免疫薬剤(SMIP)、サメIgNAR可変ドメイン、CDR3ペプチド、拘束性FR3−CDR3−FR4ペプチド、ナノボディ、二価ナノボディ、およびミニボディからなる群から選択される、請求項41または42のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
前記ポリペプチドが単鎖Fv(ScFv)抗体である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
請求項41から44のいずれか一項に記載の方法を用いて構築したリボソームディスプレイライブラリー。
【請求項46】
請求項41から44のいずれかに記載の方法によって作製したポリヌクレオチドを含む細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−503983(P2012−503983A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529243(P2011−529243)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/058323
【国際公開番号】WO2010/036860
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】