説明

遮光塗膜および光学素子

【課題】内面反射防止および表面反射防止を兼ね備えた遮光塗膜およびそれを用いた光学素子を提供する。
【解決手段】(a)樹脂、(b)色素材、(c)無機微粒子、(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分を含有する塗膜であって、前記塗膜における(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分の濃度が表層の方が下層よりも高い遮光塗膜およびそれを用いた光学素子。前記(d)成分の含有量が、遮光塗膜に対して10重量%以上40wt重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮光塗膜および光学素子に関し、特にレンズやプリズムなどの光学部材のフレアやゴーストの発生原因となる迷光を吸収するための遮光塗膜およびそれを用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にカメラや顕微鏡等の光学機器に使用されるレンズやプリズム等の光学部材は、光学部材への入射光が表面反射や内面反射を起こし、フレア、ゴーストを発生させ、光学機器の光学特性を低下させている。この反射を防止するため、光学部材の側面に黒色の反射防止用塗料を塗布して、反射防止塗膜を形成することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、コールタールまたはコールタールピッチと、臭素や沃素などハロゲンで置換された重合体からなる反射防止塗膜を用いて内面反射を低減し、また表面からの反射をシリカ微粒子による表面の凹凸形成により低減している。
【0004】
また、特許文献2では、内面反射防止塗料として、黒色無機微粒子を用いた塗料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭55−30029号公報
【特許文献2】特開平07−82510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示すように、コールタールやコールタールピッチのような有機化合物を用いた場合には、一般的なつや消し方法であるシリカ微粒子を用いて塗膜表面に凹凸を形成し表面反射を低減することが可能である。しかしながら、内面反射防止のために高屈折率微粒子を用いた反射防止塗料に、前記凹凸を形成して表面反射を防止するためのシリカ微粒子を用いると、表面反射防止の微粒子と、内面反射防止の微粒子が凝集を起こし、屈折率が低下する問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の黒色無機微粒子混合による樹脂の高屈折率化では、内面反射防止機能はあるが、表面反射防止機能が少ない。
本発明の目的は、上記問題点を考慮してなされたものであり、内面反射防止および表面反射防止を兼ね備えた遮光塗膜およびそれを用いた光学素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する遮光塗膜は、(a)樹脂、(b)色素材、(c)無機微粒子、(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分を含有する塗膜であって、前記塗膜における(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分の濃度が表層の方が下層よりも高いことを特徴とする。
上記の課題を解決する光学素子は、上記の遮光塗膜を用いたこと特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内面反射防止および表面反射防止を兼ね備えた遮光塗膜およびそれを用いた光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の遮光塗膜が光学レンズのコバ面に形成された状態を示す概略図である。
【図2】本発明の遮光塗膜の一実施態様を示す断面図である。
【図3】光学素子の評価用サンプルを示す概略図である。
【図4】分光光度計による表面反射率測定の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る遮光塗膜は、(a)樹脂、(b)色素材、(c)無機微粒子、(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分を含有する塗膜であって、前記塗膜における(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分の濃度が表層の方が下層よりも高いことを特徴とする。
本発明に係る光学素子は、上記の遮光塗膜を有すること特徴とする。
【0012】
本発明の遮光塗膜は、塗膜の構成材料である(c)成分の高屈折率微粒子である無機微粒子を内面反射防止剤として用い、(d)成分の界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種を表面反射防止剤として用いることにより、内面反射防止および表面反射防止を兼ね備えた光学素子用黒色反射防止塗料を得ることが出来る。
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示す様に、本発明の遮光塗膜1は、光学素子用の光学レンズ8のコバ面2に形成された塗膜から構成される。
【0014】
図2は、本発明の遮光塗膜の一実施態様を示す断面図である。図2に示すように、前記光学レンズのコバ面2に形成された遮光塗膜1は、樹脂5、色素材(不図示)、高屈折率の無機微粒子(以降、高屈折率微粒子と記す。)3、低屈折率の界面活性剤および低屈折率のオイルから選ばれた少なくとも1種の成分(低屈折率界面活性剤と記す。)4より構成されている。
【0015】
本発明の遮光塗膜は、(a)樹脂、(b)色素材、(c)無機微粒子、(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分、及び(e)有機溶媒を含有する塗料を用いて形成される。
【0016】
本発明の遮光塗膜を形成するために用いる塗料中に含有する前記低屈折率界面活性剤4は、一般的に比重が低く、約0.5から1.2g/cmである。また高屈折率微粒子3の比重は前記低屈折率界面活性剤4と比較して大きく、約2.7から4.0g/cmである。前記低屈折率界面活性剤4および高屈折率微粒子3を含む塗料を光学レンズのコバ面2に塗布した直後から塗料中の有機溶媒の蒸発に伴う乾燥が始まる。この工程において、まず塗料中に含有する比重の大きい高屈折率微粒子3が沈殿し、比重の小さい低屈折率界面活性剤4が塗膜の表面に移行する。塗料が乾燥した後の塗膜の形成状態は、図2に示す様に、光学レンズのコバ面2と塗膜との界面の下層12の低屈折界面活性剤4の濃度は低く、表層11の塗膜表面(空気側)の低屈折界面活性剤4の濃度は高くなる。
【0017】
本発明の遮光塗膜は、塗膜断面の表層11から下層12に向けて、低屈折率界面活性剤の濃度が傾斜的に減少し変化している。従って遮光塗膜の屈折率もそれに伴い、表層11は低屈折率で、塗膜界面の下層12に近づくほど、高屈折率になる(図2参照)。
【0018】
前記遮光塗膜に入射光を照射した場合、表層11の屈折率は空気の屈折率(nd=1)に近いため塗膜表面からの反射が少ない。更に、光学レンズとコバ面の界面の下層12は高屈折率微粒子3の濃度が高いために塗膜の屈折率が高く、光学レンズの屈折率に近いため、塗膜界面からの内面反射も少ない。
【0019】
以上のことから、本発明は、内面反射防止性能と、且つ表面反射防止性能を兼ね備えた光学素子用反射防止塗膜である遮光塗膜を提供することができる。
次に、本発明の遮光塗膜に含有される各成分について説明する。
【0020】
(a)樹脂
本発明の遮光塗膜に含有される樹脂5は、光学レンズのコバ面2と高屈折率微粒子3のバインダーとなる樹脂であり、塗膜形成プロセスの形態に応じて熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化型樹脂を適宜選択して用いることが可能である。
【0021】
例えばアクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、フェノール系樹脂、アリール系樹脂およびこれらの共重合体からなる熱可塑性樹脂等を用いることができるが、特にアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂であることが、光学レンズコバへの密着性の観点から望ましい。
【0022】
また、本発明で用いられる硬化性樹脂としては、更に熱硬化性、放射線硬化型等の樹脂を適宜選択することが出来る。そのような樹脂として、例えばアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂のいずれかを含有することを特徴とする樹脂を用いることができる。これら樹脂の中でも特にアクリル系樹脂やエポキシ系樹脂であることが、光学レンズコバへの密着性の観点から望ましい。
【0023】
本発明の遮光塗膜に含有される樹脂の含有量は、遮光塗膜に対して5重量%以上15重量%以下、好ましくは7重量%以上12重量%以下が望ましい。
【0024】
(b)色素材
本発明の遮光塗膜に含有される色素材としては、有機染料や有機顔料が用いられる。
有機染料としては、波長400nmから700nmの可視光を吸収し、溶媒に溶解可能な材料であればよく、また染料に区分されない有機物も含む。波長400nmから700nmにおける最大吸収率と最小吸収率の比を0.7以上にするために、染料は1種類であっても良いし、黒色、赤色、黄色、青色など数種類の染料を混合して吸収波長を調整しても構わない。
【0025】
染料の種類としては、色の種類が豊富なアゾ染料が好ましいが、アントラキノ染料、フタロシアニン染料、スチルベンゼン染料、ピラゾロン染料、チアゾール染料、カルボニウム染料、アジン染料であってもい。また、耐光性、耐水性、耐熱性などの堅牢性が増すので、クロムなどの金属を含む染料が好ましい。
【0026】
また、有機顔料としては、赤色として、ペリレン系顔料、レーキ顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、アントラセン系顔料、ジス・アゾ系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料等の単品又は少なくとも二種類以上の混合物を挙げることができる。
【0027】
緑色として、ハロゲン多置換フタロシアニン系顔料、ハロゲン多置換銅フタロシアニン系顔料、トリフェニルメタン系塩基性染料、ジス・アゾ系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料等の単品又は少なくとも二種類以上の混合物を挙げることができる。
【0028】
青色として、銅フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、インドフェノール系顔料、シアニン系顔料、ジオキサジン系顔料等の単品又は少なくとも二種類以上の混合物を挙げることができる。これらの三原色を混合して使用する。
本発明の遮光塗膜に含有される色素材の含有量は、遮光塗膜に対して4重量%以上12重量%以下、好ましくは5重量%以上9重量%以下が望ましい。
【0029】
(c)無機微粒子
本発明の遮光塗膜に含有される無機微粒子としては、高屈折率微粒子3の例としては、酸化チタン(TiO、屈折率:2.71、比重:4.2〜4.3)、酸化ジルコニウム(ZrO、屈折率:2.10、比重:5.5)、酸化セリウム(CeO、屈折率:2.20、比重:7.1)、酸化錫(SnO、屈折率:2.00、比重:7.0)、アンチモン錫酸化物(ATO、屈折率:1.75〜1.85、比重:6.6)、インジウム錫酸化物(ITO、屈折率:1.95〜2.00、比重:7.1)を用いることができる。
【0030】
前記無機微粒子の屈折率は、1.5以上4.0以下、好ましくは2.2以上3.5以下であることが望ましい。
前記無機微粒子の平均粒子径は、40nm以下、好ましくは10nm以上30nm以下であることが望ましい。
本発明の遮光塗膜に含有される無機微粒子の含有量は、遮光塗膜に対して5重量%以上20重量%以下、好ましくは10重量%以上15重量%以下が望ましい。
【0031】
(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分
本発明の遮光塗膜に含有される界面活性剤としては、低屈折率の界面活性剤であるフッ素系界面活性剤もしくはシリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0032】
フッ素系界面活性剤としては、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性のいずれも使用可能である。具体的には、ノニオン性のフッ素系界面活性剤としては、パ−フルオロアルキル基親油性含有オリゴマ−、パ−フルオロアルキル基親水性基含有オリゴマ−、パ−フルオロアルキルエチレンオキシド付加物などが挙げられる。また、カチオン性のフッ素系界面活性剤としては、パ−フルオロアルキル基含有第4級アンモニウム塩などが挙げられる。アニオン性のフッ素系界面活性剤としては、パ−フルオロアルキル基を含有したスルホン酸、カルボン酸の一価金属塩やリン酸エステルなどが挙げられる。さらに両性のフッ素系界面活性剤としては、パ−フルオロアルキル基を含有したベタインなどが挙げられる。
【0033】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、BYK−066N、BYK−141、BYK−302、BYK−307、BYK−310、BYK−333、BYK−370、BYK−UV3510(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、SH193、SH30PA、SH3746(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のシロキサン化合物が挙げられる。
【0034】
本発明の遮光塗膜に含有されるオイルとしては、低屈折率のオイルであり、フッ素系オイルもしくはシリコーン系オイルを使用することができる。
フッ素系オイルの例としては、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロアルキルポリエーテル、三フッ化エチレン重合体、これらの混合物が挙げられる。
【0035】
また、シリコーン系オイルの例としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0036】
前記界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分の屈折率は、1.2以上1.4以下、好ましくは1.25以上1.38以下であることが望ましい。
本発明の遮光塗膜に含有される界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分の含有量は、遮光塗膜に対して10重量%以上40重量%以下、好ましくは11重量%以上38重量%以下が望ましい。
【0037】
本発明の光学素子は、上記の遮光塗膜を有すること特徴とする。上記の遮光塗膜を用いた光学素子の具体例としては、一眼レフカメラ用望遠レンズやデジタルカメラ用レンズが挙げられる。
本発明の光学素子は、上記の光学部材のフレアやゴーストの発生原因となる迷光を吸収するための遮光塗膜を用いているので、光学性能が良好である。
【0038】
[塗料組成物の調製方法]
本発明の遮光塗膜の形成方法は、(a)樹脂、(b)色素材、(c)無機微粒子、(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分、及び(e)有機溶媒を含有する塗料組成物を用いて形成される。
有機溶媒には、特に制限はないが、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等が用いられる。
【0039】
本発明の遮光塗膜の作製に用いられる塗料組成物の調製は、次の工程により行われる。まず、液状エポキシ樹脂(製品名:エピコート828/ジャパンエポキシレジン製)を10g、黒色染料(VALIFAST BLACK 3810;オリエント化学)4g、赤色染料(VALIFAST RED 3108;オリエント化学)2.9g、黄色染料(VALIFAST YELLOW 3120;オリエント化学)0.375g、プロピレングリコールモノメチルエーテル10gに遊星回転方式の混合・分散装置(商品名:泡とり練太郎/シンキー製)の250ml専用容器中で溶解させる。溶解後、シランカップリング剤を3g、フッ素系界面活性剤を5g、一次粒子径が20nmの酸化チタンが溶媒であるメチルプロキシトールに25wt%含有しているチタニアスラリー(テイカ製)を50g混合分散する。混合・分散装置としては泡とり練太郎(ARE−250/シンキー製)を使用した。混合及び分散時間は20分間である。
【0040】
[塗膜の形成方法]
前記調製した塗料組成物を用いて、次工程の塗膜形成に移る。具体的な塗装の方法としては、前記塗料の染み出す連続気孔が形成されたウレタン製スポンジ(商品名:フソラス/富士ケミカル製)に塗料組成物を含浸させ、平板ガラスの表面に倣って50mm/秒の速さで移動させながら塗布する。塗布後、焼成を行って本発明の遮光塗膜を得る。焼成条件は80℃で120分間である。
本発明の遮光塗膜の膜厚は、3μm以上15μm以下、好ましくは5μm以上10μm以下である。
【0041】
[遮光塗膜中の低屈折率界面活性剤の濃度の測定方法]
界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分の濃度が表層の方が下層よりも高いことを測定する。
【0042】
遮光塗膜中の低屈折率界面活性剤の濃度の傾斜状態について確認するために、塗膜断面をフーリエ変換赤外分光法(FT−IR)により塗膜表面からレンズ界面までスポット的に観察した。塗膜の最表面(空気側、表層)と塗膜界面(下層)のIRチャートを比較すると、レンズ界面に近いほど低屈折成分であるフッ素成分やシリコーン成分の結合を示す吸収ピークが少なくなっている。
【0043】
塗膜の低屈折率界面活性剤の濃度は、塗膜の最表面(表層)の前記吸収ピークと、レンズ界面(下層)の吸収ピークの値を示す。
本発明において、遮光塗膜中の表層の低屈折率界面活性剤の濃度は、遮光塗膜に対して8重量%以上38重量%以下、好ましくは10重量%以上35重量%以下が望ましい。
また、下層の低屈折率界面活性剤の濃度は、1重量%以上30重量%以下、好ましくは5重量%以上25重量%以下が望ましい。
【0044】
[遮光塗膜の光学性能の評価方法]
図3に示すように、反射防止塗膜評価光学ガラスLAH53(nd=1.805)からなる平板ガラス6の平滑面に、上記により得られた遮光塗膜1を測定用サンプル7とした。この測定用サンプル7について、図4に示す構成の分光光度計を用い、その反射光の光量を測定して、表面反射率を求めた。すなわち、光源およびモノクロメータを用いて、波長400nmから700nmの可視光をサンプル7に照射し、サンプル7から出た反射光を検出器および積分球を用いて測定して、表面反射率を求めた。
また、内面反射率は、ASP分光計(ASP−32;分光計器)を用い求めた。測定用サンプルには三角プリズムを用いた。三角プリズムは大きさが直角を挟む1辺の長さが30mm、厚み10mmで、材質がS−LAH53(nd=1.805)であるものを用いた。
ASP分光計は、サンプルと検出器の角度を任意に移動可能であるので、入射角毎の内面反射率を測定できる。ASP分光計より出た光は三角プリズムに対して、入射角b=30°、45°及び90°で入射する。このとき、空気の屈折率とプリズムの屈折率の差により、光の屈折が起こる。屈折後の入射角はc=68.13°、45°及び36.73°である。入射角dに対する屈折後の角度eは下記の式(3)より算出した。また、屈折後のeより入射角cを算出した。
n=sin d/sin e・・・式(3)
続いて、三角プリズム14で屈折した光は三角プリズム14の底面に当たり、反射して三角プリズム14の外に出る。この反射光の強度を400nmから700nmの可視光領域について検出器で検出した。尚、バックグラウンドは三角プリズム14の底面に何も塗布しないサンプルとし、三角プリズム14の底面に光学素子用の遮光膜を形成した時の内面反射率を計測した。また、表2の内面反射率には内面反射率は400nmから700nmの内面反射を1nm間隔で測定し、その結果の平均値を記載した。
【0045】
[遮光塗膜の密着力の測定方法]
遮光塗膜を光学ガラス表面上に形成した後、遮光塗膜の密着力を測定した。測定方法はJIS−K5600−5−7に基づき、アドヒージョンテスター(コーテック製)を使用し、遮光塗膜を直接引き剥がす方法で行った。
【0046】
次に、本発明の効果を実施例と比較例により具体的に説明する。
【実施例1】
【0047】
光学素子用の遮光塗料の調製方法の実施例を説明する。
まず、表1に示す組成に示す様に、エポキシ樹脂(JER828;ジャパンエポキシレジン)10g、黒色染料(VALIFAST BLACK 3810;オリエント化学)4g、赤色染料(VALIFAST RED 3108;オリエント化学)2.9g、黄色染料(VALIFAST YELLOW 3120;オリエント化学)0.375gを秤量する。
【0048】
次に高屈折率微粒子であるTiO(ND139;テイカ)50g、溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテル;キシダ化学)10g、カップリング剤(KBM−403;信越シリコーン)3g、フッ素系界面活性剤としてパーフルオロアルキルエチレンオキシド(DIC)10gを、混合・分散装置である250ml専用容器中で溶解させる。
【0049】
前記専用容器中に入れた樹脂、染料と微粒子、溶媒、カップリング剤及び界面活性剤を、泡とり練太郎(ARE−250/シンキー製)を使用し、20分間、混合及び分散を行って塗料を得た。
得られた塗料を、平板ガラスの平滑面に塗布し、恒温槽(80℃×2時間)により硬化させ、遮光塗膜を得た。遮光塗膜の膜厚は、8.0μmであった。
【0050】
分光光度計により、遮光塗膜の反射率を測定した結果、表2に示すように、表面反射率は波長400から700nmの平均値で0.67%であり、内面反射率は0.31%であった。界面活性剤の無添加の比較例1と比較して良好な値を示した。
遮光塗膜中の表層の界面活性剤の濃度は10重量%であり、下層の界面活性剤の濃度は5重量%であった。
【0051】
またガラスと塗膜の密着力は、12.9MPaであり、塗膜の剥離も無く、良好であった。得られた結果を表2に示す。
【実施例2】
【0052】
フッ素系界面活性剤の添加量以外は実施例1の塗料組成と同じである。本実施例では、表1に示すように、フッ素系界面活性剤であるパーフルオロアルキルエチレンオキシド(DIC)を50g添加し、混合分散を行い、塗料を作製した。
【0053】
得られた塗料を、平板ガラスの平滑面に塗布し、硬化させ、遮光塗膜を得た。遮光塗膜の膜厚は、8.0μmであった。
分光光度計により、遮光塗膜の表面反射率と内面反射率を測定した。その結果、表面反射率は波長400から700nmの平均値で0.61%であり、内面反射率は0.35%であった。
【0054】
また、ガラスと遮光塗膜の密着力は、9.5MPaであり、塗膜の剥離も無く、良好であった。
【実施例3】
【0055】
低屈性率成分が界面活性剤ではなくオイルである以外は実施例1の塗料組成と同じである。本実施例では、表1に示すように、シリコーンオイルであるジメチルシリコーンオイル(信越化学)を10g添加し、混合分散を行い、塗料を作製した。
【0056】
得られた塗料を、平板ガラスの平滑面に塗布し、硬化させ、遮光塗膜を得た。
分光光度計により、遮光塗膜の表面反射率と内面反射率を測定した。その結果、表面反射率は波長400から700nmの平均値で0.69%であり、内面反射率は0.33%であった。
また、ガラスと遮光塗膜の密着力は、15.2MPaであり、塗膜の剥離も無く、良好であった。
【実施例4】
【0057】
低屈性率成分が界面活性剤ではなくオイルである以外は実施例1の塗料組成と同じである。本実施例では、表1に示すようにシリコーンオイルであるジメチルシリコーンオイル(信越化学)を50g添加し、装置により混合分散を行い、塗料を作製した。
【0058】
得られた塗料を、平板ガラスの平滑面に塗布し、硬化させ、遮光塗膜を得た。
分光光度計により、遮光塗膜の表面反射率と内面反射率を測定した。その結果、表面反射率は波長400から700nmの平均値で0.64%であり、内面反射率は0.37%であった。
また、ガラスと遮光塗膜の密着力は、12.3MPaであり、塗膜の剥離も無く、良好であった。
【0059】
[比較例1]
低屈折率成分が無添加である以外は、実施例1と同じ塗料組成である。
前記工程により得られた塗料を、平板ガラスの平滑面に塗布し、硬化させ、遮光塗膜を得た。
分光光度計により、表面反射率と内面反射率を測定した。その結果、表面反射率は波長400から700nmの平均値で0.92%であり、実施例1と比較して表面反射率は悪化した。
【0060】
[比較例2]
フッ素系界面活性剤であるパーフルオロアルキルエチレンオキシド(DIC)の添加量を60g(42wt%)にした以外は、実施例1と同じ塗料組成である。
前記工程により得られた塗料を、平板ガラスの平滑面に塗布し、硬化させ、遮光塗膜を得た。
分光光度計により、表面反射率と内面反射率を測定した。その結果、光学特性は良好な値を示したが、密着力が6.5MPaであり、比較例1と比較して、密着力が悪化した。
【0061】
[比較例3]
フッ素系界面活性剤の屈折率を1.505のメチルフェニルシリコーンにした以外は、実施例1と同じ塗料組成である。
前記工程により得られた塗料を、平板ガラスの平滑面に塗布し、硬化させ、遮光塗膜を得た。
分光光度計により、表面反射率と内面反射率を測定した。その結果、表面反射率は0.85%と悪化した。
【0062】
[比較例4]
高屈折率微粒子であるTiOの平均粒子径を60nmにした以外は、実施例1と同じ塗料組成である。
前記工程により得られた塗料を、平板ガラスの平滑面に塗布し、硬化させ、遮光塗膜を得た。遮光塗膜の膜厚は、8.0μmであった。
分光光度計により、表面反射率と内面反射率を測定した。その結果、内面反射率は0.55%と悪化した。
下記の表1から表4に、実施例および比較例の結果をまとめて示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
(注)
○:表面反射率<0.70%、内面反射率<0.50%、密着力>9.0MPaの全てを満たす場合を示す。
×:表面反射率≧0.70%、内面反射率≧0.50%、密着力≦9.0MPaの何れかである場合を示す。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の遮光塗膜は、内面反射防止および表面反射防止を兼ね備えているので、一眼レフカメラ用望遠レンズ等の光学素子に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 塗膜
2 コバ面
3 高屈折率微粒子
4 低屈折率界面活性剤
5 樹脂
6 平板ガラス
7 内面反射測定用サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)樹脂、(b)色素材、(c)無機微粒子、(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分を含有する塗膜であって、前記塗膜における(d)界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分の濃度が表層の方が下層よりも高いことを特徴とする遮光塗膜。
【請求項2】
前記界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分の含有量が、遮光塗膜に対して10重量%以上40重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の遮光塗膜。
【請求項3】
前記界面活性剤およびオイルから選ばれた少なくとも1種の成分の屈折率が1.2以上1.4以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の遮光塗膜。
【請求項4】
前記無機微粒子の屈折率が1.5以上4.0以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の遮光塗膜。
【請求項5】
前記無機微粒子の平均粒子径が40nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の遮光塗膜。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の遮光塗膜を用いたこと特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−141493(P2011−141493A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3328(P2010−3328)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】