説明

遮光羽根およびこれを用いた光路開閉装置

【課題】 製造が容易であって、高強度かつ高弾性を有する安定した品質の安価な遮光羽根がなかった。
【解決手段】 本発明による遮光羽根13は、液晶ポリマー以外の熱可塑性樹脂フィルム22と、この熱可塑性樹脂フィルム22を挟んで対称に積層される複数層の液晶ポリマーフィルム23,24とを具え、熱可塑性樹脂フィルム22を基準として対称な積層位置にある対の液晶ポリマーフィルム23,24の結晶配向方向が相互に平行または相互に交差している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラなどの光学機器などにおける光路を開閉するための遮光羽根およびこの遮光羽根を用いた光路開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラなどの光学機器の光路を開閉するシャッタや絞りなどの光路開閉装置において、シャッタ羽根や絞り羽根を構成する遮光羽根は、極めて短時間の間に光路を横切るように移動およびその停止を行う必要があり、駆動源の負荷を軽減するために軽量かつ高剛性であることが望まれる。また、これらの遮光羽根はフィルムやCCDなどの感光体に対して光を遮る必要があることから、遮光性を有すると同時に表面の反射率が低く、しかもある程度の平面性が要求される。さらに、光路開閉装置においては複数枚の遮光羽根を重ね合わせて作動させる構成となっているものが多く、相互に重なり合う接触部分の潤滑性や帯電防止性が必要となる。上述した遮光羽根の表面の平面性は、その作動時において隣り合う遮光羽根との衝突による破損を防止する上でも重要となる。
【0003】
このような遮光羽根に要求される特性を満たすため、従来から種々の素材を用いたものが提案されている。例えば、特許文献1には、複数のポリエステルなどの結晶性高分子化合物のフィルム層間に、少なくとも一層の金属層を挟んで遮光手段としたカメラ用シャッタが開示されている。また、プラスチックフィルム層の間に、一層以上の黒色塗料などの塗膜層を挟んで遮光手段とすることを教示している。加えて、プラスチックフィルムの少なくとも一層に、黒色顔料あるいは黒色染料を含有させることが開示されている。特許文献2には、フィルム厚が100μm程度以下、好ましくは70μm以下で10程度以上の光学濃度が得られるような組成からなる二軸延伸ポリエステルフィルムに、熱硬化性の艶消し塗料をコーティングし、さらに帯電防止材を付着させた光学機器用プラスチック製羽根が開示されている。特許文献3には、基材フィルムに熱可塑性樹脂を主成分とするフィルムを用い、その両面にカーボンブラック,滑材および艶消し剤を含む熱硬化性樹脂からなる層を設けて遮光性フィルムを構成することが開示されている。特許文献4にはアルミニウム合金を素材にしたカメラ用の遮光羽根が開示され、特許文献5には、炭素繊維強化熱硬化性樹脂薄板(以下、CFRPと記述する)をシャッタ羽根に適用すること、およびそのマトリックス樹脂にカーボンブラックなどを含む黒色顔料を混入することで遮光性を得ることが開示されている。さらに、特許文献6には反りの少ないCFRPが開示され、特許文献7には、CFRPが軽量,高強度,高弾性,耐衝撃性および振動減衰性を備えていることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−60315号公報
【特許文献2】特開昭57−118226号公報
【特許文献3】特開平9−274218号公報
【特許文献4】特開昭57−24925号公報
【特許文献5】特開昭49−84232号公報
【特許文献6】特開昭51−14969号公報
【特許文献7】特開昭53−101080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記述する)を素材にした遮光羽根は、製造コストが低く、比重も軽いため、低価格領域のカメラなどで広く使用されている。しかしながら、PETは引張弾性率などの機械的強度が弱いため、走行中もしくは制動時に発生する振動や衝撃などで遮光羽根が撓んでしまい、遮光羽根相互の衝突やこれによる破損が発生しやすく、高速で走行するフォーカルプレーンシャッタなどで用いることができない。
【0006】
また、アルミニウム合金などの金属を素材にした遮光羽根は、機械的強度も高く、高速のシャッタ装置に組み込むことが可能であるが、材料自体の比重が大きいことから遮光羽根自体の重量が嵩み、大きなチャージエネルギーを必要とする。さらに、走行中および制動時に発生する振動、いわゆる波打ちが非常に大きく、この波打ち状態がなかなか収まらないため、上述したPETと同様に遮光羽根相互の衝突ならびに破損の発生という問題がある。
【0007】
一方、CFRPを素材とした遮光羽根は、軽量で弾性率も高く、シャッタ速度が高速であっても走行中および制動中の波打ちが非常に少なく、仮に波打ちが発生したとしても迅速に減衰してしまう特性を有する。従って、遮光羽根相互の衝突やこれによる破損の可能性がなく、非常に高い耐久性を実現することが可能である。しかしながら、CFRPはその材料自体が高価である上、その製造時の前駆体であるプリプレグシートを複数枚積層し、この積層物をプレスしたまま加熱するという非常に手間のかかる工程で製造する必要がある。また、これによって得られたシートも、炭素繊維のばらつきによる目開きなどの不良が発生しやすく、強度のばらつきや反りなどによる不良品の発生率が高い欠点を有するため、品質管理の手間が掛かることと相俟って製造コストも非常に高いものとなってしまう。
【0008】
ところで、エンジニアリングプラスチックとして知られ、一般の高分子物質と同様な低密度を有する液晶ポリマー(以下、LCPと記述する場合がある)を押出し成形によりフィルム状に成形した場合、各ドメイン(ポリマー鎖)毎にランダムな方向を向いていた各分子が押出し方向に沿って向きを揃え、配向性を示すこととなる。これにより、LCPは一般の高分子物質に見られない高強度および高弾性を示す。つまり、LCPにおける高弾性の発現機構は、ドメインの成形方向への配向に依存しているため、その弾性率は異方性を示し、成形方向に沿っては高弾性率を有するものの、これと直交する方向の弾性率が著しく低い場合がほとんどである。この結果、成形方向に沿って簡単に裂けるようなLCPフィルムができてしまうことが多かった。構造材料としてLCPの使用を考慮した場合、上述したような弾性率の著しい異方性は、信頼性の欠如をもたらすと共にその実用化を困難なものとしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高強度かつ安定した品質の安価な遮光羽根およびこれを用いた光路開閉装置を提供することを目的とする。
【0010】
この目的を達成する本発明の遮光羽根は、液晶ポリマー以外の熱可塑性樹脂フィルムと、この熱可塑性樹脂フィルムを挟んで対称に積層される複数層の液晶ポリマーフィルムとを具え、前記熱可塑性樹脂フィルムを基準として対称な積層位置にある対の前記液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が相互に平行または相互に交差していることを特徴とする。
また、本発明の光路開閉装置は、前記遮光羽根を用いた光路開閉装置であって、対をなす液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が前記遮光羽根の移動方向に対して幾何学的に対称に交差しているか、あるいは最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が前記遮光羽根の移動方向に対してほぼ直交していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の遮光羽根によると、高強度かつ高弾性を有する安定した品質の安価な遮光羽根を実現することができる。
【0012】
本発明の光路開閉装置によると、本発明による遮光羽根を用い、対をなす液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向を遮光羽根の移動方向に対して幾何学的に対称に交差させるか、あるいは最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向を遮光羽根の移動方向に対してほぼ直交させることにより、製造が容易であって高強度かつ高弾性を有し、反りの少ない軽量な遮光羽根を用いた光路開閉装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1の形態は、液晶ポリマー以外の熱可塑性樹脂フィルムと、この熱可塑性樹脂フィルムを挟んで対称に積層される複数層の液晶ポリマーフィルムとを具え、前記熱可塑性樹脂フィルムを基準として対称な積層位置にある対の前記液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が相互に平行または相互に交差していることを特徴とする遮光羽根にある。
【0014】
具体的には、2枚のLCPフィルムを用いて3層構造の遮光羽根を構成する場合、熱可塑性樹脂フィルム(以降、熱可塑性樹脂という記載がある場合、これは意図的にLCPを含まないものであることに注意されたい)を挟んで2枚のLCPフィルムの結晶配向方向の交差角が0°、つまり平行か、例えば60°または90°となるように積層させることができる。また、4枚のLCPフィルムを用いて5層構造の遮光羽根を構成する場合、LCPフィルムの結晶配向方向が積層方向一端側のLPCフィルムの結晶配向方向を基準(0°)として順に例えば0°/45°/熱可塑性樹脂フィルム/135°/0°という具合に交差させたり、0°/60°/熱可塑性樹脂フィルム/120°/0°という具合に交差させて積層することができる。
【0015】
本発明にて用いられるLPCは、機械的強度の観点から全芳香族系LPCを採用することが好ましく、特にポリエステル樹脂の一種であるサーモトロピックLPCが有効である。
【0016】
かかるLCPをフィルム化する方法としては、周知の方法を用いることができるが、工業的見地から溶融状態で混練・押出しする方法が好ましい。例えば、1軸または2軸の押出機を用い、Tダイから溶融樹脂を押出して一軸延伸・二軸延伸後に巻き取るTダイ法や、環状ダイスから溶融樹脂を円筒状に押出し、冷却して巻き取るインフレーション成膜法を挙げることができる。本発明においては、このような押出しによって成形されたフィルムの中でも、フィルムの押出し方向(以下、MD方向と記述する)と、このMD方向に対してフィルム面内で直交する方向(以下、TD方向と記述する)との機械的強度の異方性が大きいものが好ましい。特に、MD方向の曲げ弾性率とTD方向の曲げ弾性率との比、つまり曲げ弾性率の異方性(以下、これをMD/TDと表記する)が3〜40の範囲にあるフィルムが好ましい。
【0017】
また、MD方向の曲げ弾性率が高いという理由のため、分子配向度(SOR:Segment Orientation Ratio)が1.1〜1.6のLCPフィルムが好ましい。この分子配向度(以下、SORと記述する)は、分子を構成するセグメントについての分子配向の度合いを与える指標であり、従来のMOR(Molecular Orientation Ratio)とは異なり、試料の厚さに無関係な値である。このSORは、以下のように算出される。すなわち、まず周知のマイクロ波分子配向度測定機において、マイクロ波の進行方向に対して試料であるLPCフィルムの表面が垂直になるようにこれをマイクロ波共振導波管中に挿入し、試料を透過したマイクロ波の電場強度、つまりマイクロ波透過強度を測定する。そして、この測定値に基づき、以下の式1により屈折率mを算出する。
m=(Z0/Δz)×(1−νmax0) (式1)
式1において、Z0は装置の定数、Δzは試料の平均膜厚、νmaxはマイクロ波の振動数を変化させた時の最大マイクロ波透過強度を与える振動数、ν0は平均膜厚が0の時、つまり試料がない場合の最大マイクロ波透過強度を与える振動数である。
【0018】
マイクロ波の振動方向に対する試料の回転角が0°の時、つまりマイクロ波の振動方向と、試料の分子が最もよく配向されている方向であって最小マイクロ波透過強度を与える方向とが合致している時の屈折率mをm0、試料の回転角が90°の場合の屈折率mをm90とした場合、SORはm0/m90で表される。
【0019】
曲げ弾性率の異方性を示すMD/TDが3未満またはSORが1.1未満の場合、曲げ弾性率の異方性に基づく機械的強度の差は小さくなり、フィルム面内において結晶配向方向が等方性に近くなるものの、機械的強度が小さくなってしまい、例えば高速動作のシャッタ羽根に要求される高強度・高弾性を満たすことができない。また、MD/TDが40を越えたりSORが1.6を越えると、TD方向のフィルムの強度が弱すぎてしまい、簡単に成形方向に裂けるような事故が頻発する。
【0020】
ところで、結晶配向方向が相互に異なるLCPフィルムの積層枚数が多くなると、曲げ弾性率の異方性が緩和されて等方性に近づくため、本発明の顕著な効果を得るための障害となる。しかも、積層枚数が多いと、その製造のための工数が多くなって生産性も悪化してしまうため、熱可塑性フィルムも含めて全体で3〜9層、好ましくは3〜5層、つまり2枚または4枚のLCPフィルムを1枚の熱可塑性フィルムを挟むように積層することが最適である。
【0021】
本発明の第1の形態による遮光羽根において、最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が上述した例のように相互に平行であってよい。
【0022】
最外層に位置する一対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向を相互に平行にした場合、例えば熱可塑性樹脂フィルムとして2軸延伸したPETフィルムを用い、このPETフィルムを挟んで2枚のLCPフィルムの結晶配向方向を平行にして積層した場合、最外層を構成するLCPフィルムのMD方向の曲げ弾性率をE1,その厚さをT1とし、積層方向中央に位置するPETフィルムの曲げ弾性率をE2,その厚さをT2とすると、積層された遮光羽根の厚さHは2T1+T2であるので、この遮光羽根の全体的な曲げ弾性率Eは以下の式2にて算出される。
E=[E223+E1{(2T1+T23−T23}]/H3 (式2)
1=T2=T,H=3Tと仮定すると、上の式2は
E=(E2+26E1)/27 (式3)
となる。つまり、最外層に位置するLCPフィルムのMD方向の曲げ弾性率は、積層方向中央に位置するPETフィルムの曲げ弾性率に比べて26倍も遮光羽根全体の曲げ弾性率に寄与することとなる。換言すれば、遮光羽根の機械的強度に関しては、最外層に位置するLCPフィルムの物性が大きく影響するので、最外層に位置するLCPフィルムの結晶配向方向が使用形態における遮光羽根の移動方向に対して直交させることが極めて有効である。ただし、遮光羽根の物理的バランスを得るために遮光羽根の移動方向に対して直交する方向を基準として、各LCPフィルムの結晶配向方向が幾何学的に対称となっていることが好ましい。
【0023】
最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向を相互に平行にした場合、最外層よりも内側に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向は、上述した5層構造の例のように最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向に対して幾何学的に対称に交差していることが好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂は、ポリエステル,ポリオレフィン,ポリアミドなどの周知の樹脂を採用し得るが、特にPET,ポリブチレンンテレフタレート,ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂が好ましい。
【0025】
遮光羽根全体の厚さに対する熱可塑性樹脂フィルムの厚さの割合は、20〜80%程度が好ましい。熱可塑性樹脂の割合が20%以下になると、LCPフィルムと熱可塑性樹脂フィルムとの積層時、特に熱溶着または超音波溶着を行った場合に溶着不良が発生しやすく、しかも最外層に位置するLCPフィルムの結晶配向方向に対して直交する方向の遮光羽根の強度が弱くなってしまう。このため、最外層に位置するLCPフィルムの結晶配向方向に沿って遮光羽根が簡単に裂けてしまうこととなる。逆に、熱可塑性樹脂の割合が80%を越えると、最外層に位置するLCPフィルムの結晶配向方向に沿った遮光羽根の強度が半分程度となってしまい、液晶ポリマーの特徴である高弾性が失われてしまう結果を招く。しかも、現状では遮光羽根の厚さの10%程度が1枚のLCPフィルムの厚さの限界である。
【0026】
ちなみに、熱可塑性樹脂フィルムの厚さが遮光羽根の厚さの20%の場合、遮光羽根の弾性率Eは、T2=T,T1=2T,H=5Tとなるので、式2より
E=(E2+124E1)/125 (式4)
となる。また、熱可塑性樹脂フィルムの厚さが遮光羽根の厚さの80%の場合、遮光羽根の弾性率Eは、T1=T,T2=8T,H=10Tであるので、式2より
E=(512E2+488E1)/1000 (式5)
となる。
【0027】
相互に重なり合う熱可塑性樹脂フィルムと液晶ポリマーフィルムとの間または2層の液晶ポリマーフィルムの間に遮光剤を含む遮光性改善層を形成することができ、この遮光性改善層としてエポキシ樹脂などの接着剤を採用することが可能である。この場合、熱可塑性樹脂フィルムとLCPフィルムとの間または2層のLCPフィルムの間にカーボンブラックなどの黒色顔料が混合された接着剤を塗布してこれらを重ね合わせ、加熱などによりLCPフィルムを一体化させることができる。熱可塑性樹脂フィルムおよびLCPフィルムの一体化を熱溶着や超音波溶着などで行うことにより、生産性の向上と製造コストの低減およびリサイクル性の大幅な改善が可能となる。特に、ホットプレスによる熱溶着が好ましい。この場合、熱可塑性樹脂フィルムの表面をマット処理などで粗面化することにより、さらに接着および溶着の信頼性および強度を上げることができる。
【0028】
熱可塑性樹脂フィルムおよび少なくとも1層の液晶ポリマーフィルムに遮光剤を添加することができる。遮光剤を熱可塑性樹脂フィルムおよびLCPフィルム中に分散させる場合、周知の方法を用いることができるが、工業的見地から溶融状態で各成分を混練する方法が好ましい。この溶融混練には一般に用いられている一軸または二軸の押出し機や、各種ニーダーなどの混練装置を用いることができるが、特に二軸の高混練機が好ましい。混練に際しては、各成分を予めタンブラーまたはヘンシェルミキサーの如き装置にて均一に混合してもよいし、場合によってはこれらの混合を省き、混練装置にそれぞれ別個に定量供給する方法を採用することも可能である。
【0029】
最外層に位置する液晶ポリマーフィルムの表面に遮光性,潤滑性および帯電防止性のうちの少なくとも1つの機能を有する機能層を形成することができる。
【0030】
本発明の遮光羽根によると、液晶ポリマー以外の熱可塑性樹脂フィルムと、この熱可塑性樹脂フィルムを挟んで対称に積層される複数層の液晶ポリマーフィルムとを具え、熱可塑性樹脂フィルムを基準として対称な積層位置にある対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向を相互に平行または相互に交差させたので、同じ厚さの場合にPETを2軸延伸したフィルム以上の強度を持つ軽量な遮光羽根を得ることができる。また、遮光羽根としての物性的バランスが改善され、反りなどの発生が非常に少ない遮光羽根を得ることが可能となる。さらに、光学濃度がほぼ0のPETなどと比較して材料自体が不透明で遮光性に優れており、25μmの膜厚のLCPフィルムで0.5程度の光学濃度を持っているため、これを3枚以上積層することで光学濃度を1.5〜2程度に高めることができ、遮光性の点でさらに有利である。
【0031】
最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向を相互に平行にした場合、遮光羽根としての大きな機械的強度を発現させることができ、特にこれら最外層に位置する一対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向を遮光羽根の移動方向に対して直交させることにより、遮光羽根に求められる機械的強度を有効に働かせることが可能となる。特に、最外層よりも内側に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向を、最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向に対して幾何学的に対称に交差させた場合、遮光羽根としての物性的バランスをさらに向上させることができ、反りなどの発生を確実に防ぐことができる。
【0032】
熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂の場合、その他の熱可塑性樹脂に比べ、液晶ポリマーとの分子構造が近く、熱溶着性や反りなどの点で有利である。また、ポリアミド樹脂の場合、吸湿による膨潤等の問題があって好ましいとは言えない。
【0033】
相互に重なり合う熱可塑性樹脂フィルムと液晶ポリマーフィルムとの間または2層の液晶ポリマーフィルムの間に遮光剤を含む遮光性改善層を形成した場合、得られる遮光羽根の遮光性を向上させることができる上、この遮光性改善層を接着剤を主体に形成することにより、相互に重なり合うフィルムの接合力を確実に向上させることができる。
【0034】
熱可塑性樹脂フィルムおよび少なくとも1層の液晶ポリマーフィルムに遮光剤を添加した場合、遮光剤が添加されたCFRPのように複雑な手間を全く必要とせず、LCPフィルムの成形時にカーボンブラックなどの遮光剤を分散および練り混むことができるので、より多量の遮光剤を均一に混入させることが可能であり、遮光特性をさらに向上させることができる。
【0035】
最外層に位置する液晶ポリマーフィルムの表面に、遮光性,潤滑性および帯電防止性のうちの少なくとも1つの機能を有する機能層を形成した場合、遮光羽根としての機能をさらに向上させることができる。
【0036】
本発明の第2の形態は、本発明の第1の形態による遮光羽根を用いた光路開閉装置であって、対をなす液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が遮光羽根の移動方向に対して幾何学的に対称に交差しているか、あるいは最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が遮光羽根の移動方向に対してほぼ直交していることを特徴とするものである。
【0037】
遮光羽根の厚さは、50〜200μmの範囲にあることが好ましく、特に70〜120μmの範囲となるようにすることが有効である。遮光羽根の厚さが50μm未満の場合、遮光羽根としての機械的強度が不足する上に遮光性も不足してしまう可能性がある。逆に、厚さが200μmを超えると、機械的強度は増加するものの、遮光羽根自体の重量増に伴う慣性質量の増大により、駆動系などに負担がかかってしまう。特に、フォーカルプレーンシャッタに採用した場合、先膜と後膜との距離が離れてしまい、シャッタ効率が落ちてしまうこととなる。
【0038】
本発明の光路開閉装置によると、本発明による遮光羽根を用い、対をなす液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向を遮光羽根の移動方向に対して幾何学的に対称に交差させるか、あるいは最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向を遮光羽根の移動方向に対してほぼ直交させることにより、製造が容易であって高強度かつ高弾性を有し、反りの少ない軽量な遮光羽根を用いた光路開閉装置を実現することができる。
【0039】
本発明による遮光羽根をフォーカルプレーンシャッタに応用した一実施形態について、図1〜図4を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこのような実施形態のみに限らず、特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が可能であり、従って本発明の精神に帰属する他の技術にも当然応用することができる。
【0040】
本実施形態によるフォーカルプレーンシャッタユニットの正面形状を図1に示し、そのII−II矢視断面構造を図2に示す。すなわち、このフォーカルプレーンシャッタユニット10は、いわゆる縦走りタイプと呼称されているものであり、先膜11および後膜12として、相互に重なり合う複数枚(図示例ではそれぞれ5枚および4枚)の遮光羽根13,14,15,16,17,18,19,20,21を用いている。このようなフォーカルプレーンシャッタユニット10自体の具体的構成は、特開平10−186448号公報,特開2002−229097号公報,特開2003−280065号公報などで周知の通りである。
【0041】
本実施形態における遮光羽根13〜21のうちの1枚の遮光羽根(以下、便宜的にこれらを代表して13で示す)の分解状態を図3に示し、その断面構造を図4に示す。すなわち、本実施形態の遮光羽根13は、1枚のPETフィルム22と、これを挟むように2枚のLCPフィルム23,24とを積層してなり、最外層に位置する2枚のLCPフィルム23,24の結晶配向方向が相互に平行に設定されている。この遮光羽根13の表裏両面には、その遮光性を改善するための黒色塗料が塗布され、本発明における機能層25を構成している。また、相互に重なり合うPETフィルム22とLCPフィルム23,24との間には、遮光性改善層26がそれぞれ形成されている。図1中、上下方向に走行する本実施形態における遮光羽根13は、それぞれ細長い矩形の板状をなし、最外層に位置する2枚のLCPフィルム23,24の配向方向がこの遮光羽根13の長手方向と平行に延在するように切り出されている。さらに、PETフィルム22およびLCPフィルム23,24にはカーボンブラックが均一に分散混入され、その遮光性を向上させている。同様に、遮光性改善層26にもカーボンブラックが均一に分布している。
【0042】
次に、本発明による遮光羽根の具体的な製造方法を実施例1〜実施例5として比較参考のための比較例1〜3と共に以下に示すが、これらは何れも表裏両面に5μmの膜厚の黒色塗料を機能層として塗布し、乾燥させたものである。LCPフィルムを積層した遮光羽根の場合、相互に重なり合うLCPフィルムの結晶配向方向の角度は、遮光羽根の長手方向を基準(0°)として表している。
【0043】
(実施例1)
上野製薬製 Ueno LCP8000 にカーボンブラックを2重量%混入した原料を用意した。そして、テクノベル製 KZW15-30MG2 を使用し、シリンダー設定温度を250℃,ダイ設定温度を270℃として円筒ダイから溶融原料を上方へ押し出し、これによって形成される筒状フィルムの中空部分に乾燥空気を圧送して筒状フィルムを膨張させ、次にこれを冷却してニップロールに通し、巻き取った。これにより、厚さが25μm,SORが1.28の黒色LCPフィルムを得た。
【0044】
一方、表面がマット処理された25μmの厚さのユニチカ製2軸延伸黒色PETフィルムを用意し、これを先の黒色LCPフィルムで挟み、これら一対の黒色LCPフィルムの結晶配向方向をそれぞれ0°に設定した。さらに、PETフィルムとLCPフィルムとの間にカーボンブラックが33重量%混入されたエポキシ接着剤を約5μmの膜厚でそれぞれ塗布しておき、熱プレスを用いてまずプレス圧を加えずに120℃にて10分間予備加熱した後、加工温度を130℃に保ったまま5kg/cm2の圧力で120分間熱プレスを行い、これらを一体化させてその表裏両面に黒色塗料を塗布した後、所定形状に切り出して遮光羽根を製造した。
【0045】
(実施例2)
実施例1と同じ方法にて厚さが25μmの黒色LCPフィルムを得る一方、表面がマット処理された25μmの厚さのユニチカ製2軸延伸黒色PETフィルムを用意した。そして、黒色PETフィルムを黒色LCPフィルムで挟み、これら一対の黒色LCPフィルムの結晶配向方向をそれぞれ30°,150°に設定した。さらに、PETフィルムとLCPフィルムとの間にカーボンブラックが33重量%混入されたエポキシ接着剤を約5μmの膜厚でそれぞれ塗布しておき、実施例1と同じ条件にて熱プレスを行い、これらを一体化させてその表裏両面に黒色塗料を塗布した後、所定形状に切り出して遮光羽根を製造した。
【0046】
(実施例3)
実施例1と同じ方法にて厚さが25μmの黒色LCPフィルムを得る一方、表面がマット処理された25μmの厚さのユニチカ製2軸延伸黒色PETフィルムを用意した。そして、黒色PETフィルムを黒色LCPフィルムで挟み、これら一対の黒色LCPフィルムの結晶配向方向をそれぞれ45°,135°に設定した。さらに、PETフィルムとLCPフィルムとの間にカーボンブラックが33重量%混入されたエポキシ接着剤を約5μmの膜厚でそれぞれ塗布しておき、実施例1と同じ条件にて熱プレスを行い、これらを一体化させてその表裏両面に黒色塗料を塗布した後、所定形状に切り出して遮光羽根を製造した。
【0047】
(実施例4)
実施例1と同じ方法にて厚さが25μmの黒色LCPフィルムを得る一方、表面がマット処理された25μmの厚さのユニチカ製2軸延伸黒色PETフィルムを用意した。そして、黒色PETフィルムを黒色LCPフィルムで挟み、これら一対の黒色LCPフィルムの結晶配向方向をそれぞれ0°に設定し、熱プレスを用いてまずプレス圧を加えずに180℃にて10分間予備加熱した後、180℃の温度を保ったまま5kg/cm2の圧力で5分間熱プレスを行い、これらを一体化させてその表裏両面に黒色塗料を塗布した後、所定形状に切り出して遮光羽根を製造した。
【0048】
(実施例5)
上野製薬製 Ueno LCP8000 にカーボンブラックを2重量%混入した原料を用意した。そして、テクノベル製 KZW15-30MG2 を使用し、シリンダー設定温度を250℃,ダイ設定温度を270℃としてダイギャップが0.3mm,ダイ幅が120mmのTダイから溶融原料を下方へ押し出し、厚さが25μm,SORが1.46の黒色LCPフィルムを得た。
【0049】
一方、表面がマット処理された25μmの厚さのユニチカ製2軸延伸黒色PETフィルムを用意し、これを先の黒色LCPフィルムで挟み、これら一対の黒色LCPフィルムの結晶配向方向をそれぞれ0°に設定した。さらに、PETフィルムとLCPフィルムとの間にカーボンブラックが33重量%混入されたエポキシ接着剤を約5μmの膜厚でそれぞれ塗布しておき、実施例1と同じ条件にて熱プレスを行い、これらを一体化させてその表裏両面に黒色塗料を塗布した後、所定形状に切り出して遮光羽根を製造した。
【0050】
(比較例1)
上野製薬製 Ueno LCP8000 にカーボンブラックを2重量%混入した原料を用意した。そして、テクノベル製 KZW15-30MG2 を使用し、シリンダー設定温度を250℃,ダイ設定温度を270℃としてダイギャップが0.5mm,ダイ幅が120mmのTダイから溶融原料を下方へ押し出し、厚さが75μm,SORが1.45の黒色LCPフィルムを得た。そして、その表裏両面に黒色塗料を塗布し、所定形状に切り出して遮光羽根とした。
【0051】
(比較例2)
従来の遮光羽根として用いられている25μmの厚さを持つCFRPのプリプレグ(遮光剤の添加なし)をその炭素繊維の方向が0°/90°/0°となるように重ね合わせ、熱プレスを用いてまずプレス圧を加えずに120℃にて10分間予備加熱を行った後、130℃に加熱して5kg/cm2の圧力にて120分間熱プレスを行い、積層されたCFRPの表裏両面に黒色塗料を塗布した後、所定形状に切り出して遮光羽根を製造した。
【0052】
(比較例3)
PETにカーボンブラックを3重量%練り込み、2軸押出機で押し出した後、これを2軸延伸して厚さが75μmの黒色PETフィルムを得た。そして、その表裏両面に黒色塗料を塗布した後、所定形状に切り出して遮光羽根とした。
【0053】
このようにして実施例1〜4および比較例1〜3にて得られた遮光羽根は、最外層に位置するLCPフィルムのMD方向に沿って50mm,TD方向に沿って10mmの短冊状に切り出し、これを試料としてその膜厚および重量ならびに曲げ弾性率を測定した。なお、曲げ弾性率は、この試料の両端部を30mm隔てて支持し、その中央部に4mmの変位を加えた時の荷重から求めている。
【0054】
また、実施例1〜5および比較例1〜3にて得られた遮光羽根を図1,図2に示すフォーカルプレーンシャッタユニット10の先膜11および後膜12として組み込み、光源から2万ルクスの明るさの光を照射した場合の光線漏れの評価を行った。さらに、常温常湿にて1/8000秒のシャッタ速度にて15万回の開閉試験を行い、その耐久性も併せて調べた。これらの結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
光線漏れにおいて、「なし」というのは光線漏れがほとんど起こらないことを示し、比較例2の場合の「あり」というのは光線漏れが度々起こったことを示している。本発明の遮光羽根は、各LCPフィルム自体ならびにこれらの間の遮光性改善層および表裏両面の機能層により充分な遮光性を有していることが確認された。
【0057】
また、耐久性において、比較例1の場合の「破損」というのは5万回で遮光羽根の最外層に位置するLCPフィルムのMD方向に沿って亀裂が入ったことを示し、比較例2の場合の「破損」というのは4万回で遮光羽根が破損したことを示している。この耐久性に関しては、比較例1および比較例3のPET単層以外の試料は15万回の開閉試験に対して問題なく、本発明の遮光羽根は、従来品と同等以上の性能を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による光路開閉装置をフォーカルプレーンシャッタに応用した一実施形態の外観を表す正面図である。
【図2】図1中のII−II矢視断面図である。
【図3】本発明による遮光羽根の一実施形態の外観を分解状態で表す立体投影図である。
【図4】図3に示した遮光羽根の断面図である。
【符号の説明】
【0059】
10 フォーカルプレーンシャッタユニット
11 先膜
12 後膜
13〜21 遮光羽根
22 PETフィルム
23,24 LCPフィルム
25 機能層
26 遮光性改善層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー以外の熱可塑性樹脂フィルムと、この熱可塑性樹脂フィルムを挟んで対称に積層される複数層の液晶ポリマーフィルムとを具え、前記熱可塑性樹脂フィルムを基準として対称な積層位置にある対の前記液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が相互に平行または相互に交差していることを特徴とする遮光羽根。
【請求項2】
最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が相互に平行であることを特徴とする請求項1に記載の遮光羽根。
【請求項3】
最外層よりも内側に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向は、最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向に対して幾何学的に対称に交差していることを特徴とする請求項2に記載の遮光羽根。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の遮光羽根材。
【請求項5】
相互に重なり合う熱可塑性樹脂フィルムと液晶ポリマーフィルムとの間または2層の液晶ポリマーフィルムの間に遮光剤を含む遮光性改善層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の遮光羽根。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂フィルムおよび少なくとも1層の前記液晶ポリマーフィルムには遮光剤が添加されていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の遮光羽根。
【請求項7】
最外層に位置する前記液晶ポリマーフィルムの表面には、遮光性,潤滑性および帯電防止性のうちの少なくとも1つの機能を有する機能層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の遮光羽根。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れかに記載の遮光羽根を用いた光路開閉装置であって、対をなす液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が前記遮光羽根の移動方向に対して幾何学的に対称に交差しているか、あるいは最外層に位置する対の液晶ポリマーフィルムの結晶配向方向が前記遮光羽根の移動方向に対してほぼ直交していることを特徴とする光路開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−3632(P2006−3632A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179916(P2004−179916)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】