説明

遮断性を向上させた容器用のクロージャ部材及びその使用方法

【課題】 遮断性を向上させた容器用のクロージャ部材及びその使用方法を提供すること。
【解決手段】 クロージャ部材はツイストクラウン、クラウンコルクまたはスクリューキャップであり、(a)熱可塑性ポリマーと(b)前記熱可塑性ポリマーを基準として0.01〜5重量パーセントのシクロデキストリン材料とを含む封止部材を含み、芳香族化合物、特にトリクロロアニソール、アルデヒドまたはケトン、ポリマー中の不純物などの浸透性物質に対して優れた遮断性を有する。またシクロデキストリン材料はα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、α−シクロデキストリン誘導体、β−シクロデキストリン誘導体、γ−シクロデキストリン誘導体およびこれらの混合物からなる群より選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器用、特にボトル用のクロージャ(closure)であって、遮断性が向上した封止部材またはクロージャライナーを有するクロージャに関する。より詳細には、本発明は、飲料容器用であって熱可塑性ポリマー材を含む封止部材またはクロージャライナーに関する。
【背景技術】
【0002】
金属製またはプラスチック製のクロージャは、例えば、ミネラルウォーター、ジュース、炭酸入りの清涼飲料、炭酸水、ビールなどの液体製品の入ったボトルの封止に使用される。ボトル、ジャーなどのツイストクラウン、クラウンコルクまたはスクリューキャップ等の封止クロージャは、一般に、容器の口に対向する内側に弾性封止部材を有し、クロージャが取り付けられると、封止部材がクロージャと容器との間で圧締めまたは固締されて、水密性が保持される。
【0003】
従来、クラウンコルクのライナーまたはボトルのスクリュークロージャは、薄手のプラスチック膜又は薄手のアルミニウム箔でコーティングされたプレスコルク製のものが圧倒的に多かったが、今日では、封止部材は、合成ポリマー材のみから製造されることが一般的である。クラウンコルク、スクリューキャップ、スクリュー蓋などのクロージャの封止部材は、通常は、金属(アルミニウムなど)またはプラスチック(ポリオレフィン材料など)製であり、クロージャに接着されるかまたはクロージャに取り付けられるライナーの形状を取ることが多い。
【0004】
この種の封止部材またはクロージャライナーは、いくつかの条件を満たす必要がある。これらの条件として、封止性が高いこと、ねじ込み式クロージャの場合は開閉時のトルクが低いこと、キャップ材料に対する密着性が高く、二酸化炭素などの気体が良好に保持されること、クロージャが変形していないこと(closure integrity)などが挙げられる。さらに、クロージャは、特にビール、レモネードまたはミネラルウォーターのボトルでは、容器内の圧が上昇した場合に備えてバルブ作用または通気作用を備え、かつこの通気作用は、ある内圧において確実に発揮されなければならない。また、クロージャまたはライナーは、ライナーに損傷を与えることなく、充填されたボトルなどの包装、貯蔵および取り扱い時に生ずる頭部への負荷(headload)に耐性を有することが重要である。
【0005】
封止部材またはクロージャに要求される性質のうち、最も重要なものの1つにクロージャの遮断性がある。理想的には、クロージャは、芳香または味を損なうどのような物質であっても、容器またはボトルに入り込むことのないように防止する必要がある。さらに、ライナー材自身が、容器の内容物を損なう風味を有さないものでなければならない。容器の内容物の味が変わるのは、主に酸素が入り込んだことによって酸化を受けて芳香が変化するためであり、味が変化するのは、風味を損なわせる有機化合物が入り込むためである。味を損なう化合物の一般的な種類は、より詳細には、ベンゼンなどの芳香族化合物であるか、またはクロロアニソールなどのフェニルエーテルである。後者は、飲料容器の輸送または貯蔵に用いられる木製のパレットおよび段ボール箱に含まれる。
【0006】
さらに、クロージャおよびクロージャの遮断性は、容器またはボトルの内側から、風味、すなわち揮発性の風味成分が逃げないように防止しなければならない。揮発性の風味成分が、例えば充填済みの容器から貯蔵時に逃げると、飲料の味が味気ないものとなるため、望ましくない。
【0007】
飲料の製造業者は、長い間、バリア材の改良を追求してきた。当業界で公知となっている、ある程度の遮断性を少なくとも備える封止部材またはライナー材は、ポリビニルクロライド、ポリエチレン、あるいはこれらの化合物とビニルアセテートまたはビニルアセテート−エチレンコポリマーとの混合物を含む。PVCなどのハロゲン含有プラスチックを使用すると、使用済み容器の廃棄および無毒化が困難となるにも関わらず、PVCは未だに使用されている。クロージャの遮断性を向上させるために、酸素と結合する物質(脱酸素剤)を使用することが当業界で公知となっている。このような物質は還元剤であり、封止部材に含まれる酸素と反応して、酸素と容器内容物とが反応しないように防止することを意図するものである。しかし、脱酸素剤の感度(sensory properties)は完全ではなく、また時間が経つにつれて効果が低下する。
【0008】
容器クロージャの遮断性の重要な向上が、特許文献1に開示されている。特許文献1によると、インシェル成形またはアウトシェル成形によって、ポリマーライナー材の融解片をクロージャ内に配置することによって成形されたクロージャ部材またはライナーを使用することにより、容器クロージャの遮断性が改善される。このとき、融解したクロージャライナーは、ブチルゴムと熱可塑性ポリマーとの均一な混合物を含む。この混合物中の熱可塑性ポリマーは、好ましくはHDPEで、固体融解状態で均一相を形成しており、ブチルゴムは、分離した相または領域に封じ込められている。換言すれば、特許文献1によるポリマーライナー材は、擬似成層構造を提供し、ブチルゴムを多く含む領域または層と熱可塑性ポリマーを多く含む領域または層とが隣接するかまたは交互に存在する構造をなし、これら層は、十分に分離しており、全体的に均一な構造が形成されており、一般的には2つの独立した固相を有する構造をなしている。
【0009】
特許文献2は、硬質または半硬質のセルロースシートの形状を有するシクロデキストリンの使用を開示している。シクロデキストリンは、汚染物質のバリアまたはトラップとして作用する。特許文献2に開示されている材料の遮断性は、シクロデキストリン分子内の疎水性空間内に個々の浸透性物質が捕捉されることによる。シクロデキストリン材料は、一般的に相溶性を有する誘導シクロデキストリンの形で使用される。特許文献2によると、好ましいシクロデキストリンは、シクロデキストリン分子に少なくとも1つの置換基が結合した誘導シクロデキストリンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5731053号明細書
【特許文献2】国際公開第97/33044号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、遮断性を向上させた容器用のクロージャ部材及びその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、遮断性が向上した封止部材を有する、液体製品を入れる容器用のクロージャ部材であって、同封止部材は、(a)熱可塑性ポリマーと、(b)熱可塑性ポリマーを基準として0.01〜5重量パーセントのシクロデキストリン材料とを含み、シクロデキストリン材料はα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、α−シクロデキストリン誘導体、β−シクロデキストリン誘導体、γ−シクロデキストリン誘導体およびこれらの混合物からなる群より選択され、かつクロージャ部材はツイストクラウン、クラウンコルクまたはスクリューキャップであることを特徴とするクロージャ部材、を提供する。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のクロージャ部材において、シクロデキストリン材料は熱可塑性ポリマー中に分散されていることをその要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のクロージャ部材において、シクロデキストリン材料は同シクロデキストリンの熱可塑性ポリマーに対する相溶性を向上させるペンダント部分または置換基を有することをその要旨とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のクロージャ部材において、封止部材中のシクロデキストリン材料の量は、同封止部材中の熱可塑性ポリマーを基準として0.1〜1重量パーセントであることをその要旨とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のクロージャ部材において、熱可塑性ポリマーはポリオレフィンを含むことをその要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のクロージャ部材において、シクロデキストリン材料はシリルエーテル基、アルキルエーテル基およびアルキルエステル基の少なくともいずれかを有する置換基を含むことをその要旨とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のクロージャ部材において、アルキルエステル置換基はアセチル部分、プロピル部分およびブチル部分の少なくともいずれかを有することをその要旨とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載のクロージャ部材において、アルキルエーテル置換基はメチル部分、エチル部分およびプロピル部分の少なくともいずれかを有することをその要旨とする。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項6に記載のクロージャ部材において、シリルエーテル置換基はメチル部分、エチル部分、プロピル部分およびブチル部分の少なくともいずれかを有することをその要旨とする。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のクロージャ部材において、シクロデキストリン材料はアセチル部分を有するγ−シクロデキストリンであることをその要旨とする。
【0020】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載のクロージャ部材において、封止部材は熱可塑性ポリマーおよびゴム成分の均一な混合物を含むことをその要旨とする。
【0021】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載のクロージャ部材において、封止部材は、少なくとも1つの層を有することをその要旨とする。
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載のクロージャ部材において、少なくとも1つの層が、クロージャ部材によって封止された容器の内容物に接触した状態でクロージャ部材の内側に設けられていることをその要旨とする。
【0022】
請求項14に記載の発明は、請求項12または13に記載のクロージャ部材において、少なくとも1つの層は容器の開口部の内側に接触するように、クロージャ部材の直径よりも小さい直径を有することをその要旨とする。
【0023】
請求項15に記載の発明は、請求項1〜14のいずれか1項に記載のクロージャ部材において、封止部材は積層構造を有することをその要旨とする。
請求項16に記載の発明は、請求項1〜15のいずれか1項に記載のクロージャ部材において、封止部材は、熱可塑性ポリマーであって、同熱可塑性ポリマーを基準として0.01〜5質量パーセントのシクロデキストリン材料が同熱可塑性ポリマーに分散されている熱可塑性ポリマー、でコーティングされていることをその要旨とする。
【0024】
請求項17に記載の発明は、請求項1〜16のいずれか1項に記載のクロージャ部材において、容器はボトルまたはジャーであることをその要旨とする。
請求項18に記載の発明は、請求項5に記載のクロージャ部材において、ポリオレフィンはポリエチレンを含むことをその要旨とする。
【0025】
請求項19に記載の発明は、請求項18に記載のクロージャ部材において、ポリエチレンは高密度ポリエチレン(HDPE)を含むことをその要旨とする。
請求項20に記載の発明は、請求項10に記載のクロージャ部材において、シクロデキストリン材料は、シクロデキストリン1単位につき3つのアセチル基を有するγ−シクロデキストリンであることをその要旨とする。
【0026】
請求項21に記載の発明は、請求項11に記載のクロージャ部材において、熱可塑性ポリマーおよびゴム成分の均一な混合物は高密度ポリエチレンおよびブチルゴムの均一な混合物を含むことをその要旨とする。
【0027】
請求項22に記載の発明は、請求項16に記載のクロージャ部材において、シクロデキストリン材料は相溶性を有する誘導シクロデキストリン材料を含むことをその要旨とする。
【0028】
請求項23に記載の発明は、請求項17に記載のクロージャ部材において、ボトルはガラスボトルであることをその要旨とする。
請求項24に記載の発明は、ミネラルウォーター、ジュース、炭酸入りの清涼飲料、水、ビールまたはその他の液体製品を入れるボトル用のクロージャとして請求項1〜23のいずれか1項に記載のクロージャ部材を使用する方法を提供する。
【0029】
意外にも、本発明において、シクロデキストリン材料、好ましくは相溶性を有する誘導シクロデキストリン材料をポリマーライナー材または封止部材に使用すると、遮断性が向上したクロージャ部材または封止用ガスケットが得られることが明らかにされている。
【0030】
本発明によると、遮断性が向上した封止部材またはポリマーライナー材を含むクロージャ部材が提供され、同封止部材または材料は、(a)熱可塑性ポリマーと、(b)吸収に有効な量のシクロデキストリン材料とを含み、同シクロデキストリン材料は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、α−シクロデキストリン誘導体、β−シクロデキストリン誘導体、γ−シクロデキストリン誘導体およびこれらの混合物からなる群より選択される。
【0031】
本発明によると、シクロデキストリン材料は、好ましくは熱可塑性ポリマー中に分散されている。シクロデキストリン材料は、特に好ましくは、シクロデキストリンの熱可塑性ポリマーとの相容性を向上させるペンダント部分または置換基を有する。
【0032】
好ましくは、封止部材中に含まれるシクロデキストリン材料の量は、封止部材中の熱可塑性ポリマーを基準として0.01〜5重量パーセント、好ましくは0.1〜1重量パーセントである。
【0033】
本発明の好適な一実施形態によれば、熱可塑性ポリマーは、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレン、さらに好ましくは高密度ポリエチレン(HDPE)を含む。シクロデキストリンの熱可塑性ポリマーとの相容性を向上させるペンダント部分または置換基を有するシクロデキストリン材料は、好ましくは、シリルエーテル基、アルキルエーテル基およびアルキルエステル基の少なくともいずれかを有する置換基を含む。適したアルキルエステル置換基は、アセチル部分、プロピル部分およびブチル部分の少なくともいずれかを有する。好ましいアルキルエーテル置換基またはシリルエーテル置換基は、メチル部分、エチル部分、プロピル部分およびブチル部分の少なくともいずれかを有する。封止部材にアセチル部分を有するシクロデキストリン、好ましくはシクロデキストリン1つにつき3つのアセチル基を有するγ−シクロデキストリンを導入することが特に有利であるということが明らかとなっている。しかし、アセチル部分を有する対応するβ−シクロデキストリンも優れた遮断性または保持性を発揮する。
【0034】
さらに、ゴム成分、好ましくはブチルゴムと熱可塑性ポリマー、特にHDPEとの均一な混合物を含むポリマーライナー材または封止部材に、シクロデキストリンを導入することによって、遮断性が向上したクロージャ部材または封止用ガスケットが得られることが明らかとなっている。ブチルゴムとHDPEとの均一な混合物を含む好ましい封止部材と、相当するクロージャ部材の製造方法とは、特許文献1に開示されている。
【0035】
本明細書においては、固体融解状態で、ブチルゴムを多く含む領域または層を埋め込むか、また取り囲んでいる熱可塑性ポリマーの連続した相、好ましくはHDPE相にシクロデキストリンが分散していることが好ましいことが明らかにされている。別法として、シクロデキストリン材料は上記のブチルゴム相に含まれる。熱可塑性ポリマーとブチルゴムとの均一な混合物を含み、シクロデキストリンが熱可塑性ポリマー中に分散されたポリマーライナー材は、優れた遮断性を発揮することが多いが、ブチルゴム相にシクロデキストリン材料を導入しても、ライナーまたはクロージャ部材の遮断性がさほど向上しないことがある。このように、ブチルゴムにシクロデキストリンを導入することは、一般にさほど好ましくはない。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、遮断性が向上した封止部材を有する、液体製品を入れる容器用のクロージャ部材が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】クラウンコルクの封止部材を通過する有機物質の蒸気の浸透を示す図。
【図2】有機物質の蒸気の入ったクローズドボリューム浸透セルを示す図。
【図3】クローズドボリューム静的浸透プロファイルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の一実施形態によると、熱可塑性ポリマーと、熱可塑性ポリマー中に分散させた、吸収に有効な量のシクロデキストリン材料、好ましくは相溶性を有する誘導シクロデキストリン材料とを含む少なくとも1つの付加的な層を有するシクロデキストリン含有ポリマーライナー材を提供することが好ましい。
【0039】
この付加的な層は、好ましくはクロージャ部材の内側に、クロージャ部材によって封止された容器内容物に接して設けられる。
好適な一実施形態によれば、この付加的なライナー層の直径は、この付加的な層の材料がボトルの口の開口部に密着して、容器の口とクロージャとの間の固締した部分に広がることのないように、かつ付加的な層の材料が頭部への負荷に曝されることのないように、均一な混合物などを含むポリマーライナー材の直径よりも小さい。
【0040】
さらに別の実施形態によれば、本発明によるクロージャ部材または封止部材は、例えば、熱可塑性ポリマーと、吸収に有効な量のシクロデキストリン材料とを含む層を少なくとも1つ有する積層構造を有するか、または熱可塑性ポリマーと、熱可塑性ポリマー中に分散させた吸収に有効な量のシクロデキストリン材料、好ましくは相溶性を有する誘導シクロデキストリン材料とによってコーティングされている。
【0041】
本発明のクロージャ部材またはポリマーライナー材は、封止部材またはクロージャに対する上記の条件を満たしていることに加えて、芳香族化合物、特にトリクロロアニソール、アルデヒドまたはケトン、あるいはポリマーの不純物などの浸透性物質に対する高い遮蔽抵抗性を備えているという条件を満たす。さらに、シクロデキストリン、特に相溶性を有する誘導シクロデキストリンをライナーの熱可塑性ポリマー(均一な混合物など)に添加することによって、酸素の侵入が低減もしくは防止される。また、本発明による封止部材またはライナー材は、風味すなわち揮発性の風味成分が、容器またはボトルの内部からキャップを通って逃げることを防止もしくは大幅に低減する。
【0042】
好ましいシクロデキストリン誘導体は、官能基のポリマーとの相容性、シクロデキストリン材料の熱安定性、シクロデキストリンが揮発性物質と包接化合物を形成する能力によって選択される。シクロデキストリン誘導体は、1つの第1級炭素のカルボキシル基に1置換基を有していても、少なくともいずれかの第2級炭素のカルボキシル基に1置換基を有していても、このいずれであってもよい。
【0043】
シクロデキストリンは、高度に選択的な酵素的合成によって製造されることが一般的である。シクロデキストリンは、一般にドーナツ形状の環をなす6個、7個または8個のグルコースモノマーからなり、グルコースの個数に応じて各々アルファ−シクロデキストリン、ベータ−シクロデキストリンまたはガンマ−シクロデキストリンと呼ばれる。グルコースモノマーの特異的な結合によって、シクロデキストリンが剛性を有する円錐台分子構造を取り、その内部に一定の体積の空洞が形成される。この内部空間がシクロデキストリンの重要な構造的特徴であり、この構造によって種々の分子(芳香族、アルコール、ハロゲン化物、ハロゲン化水素、カルボン酸およびそのエステルなど)と錯体を形成することができる。錯体を形成する分子は、シクロデキストリンの内部空間に少なくとも部分的に嵌合し、包接化合物を形成できる大きさでなければならない。
【0044】
本発明によると、シクロデキストリン材料は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、α−シクロデキストリン誘導体、β−シクロデキストリン誘導体、γ−シクロデキストリン誘導体およびこれらの混合物から選択される。また、本発明によると、好ましいシクロデキストリン誘導体は、一方では官能基のポリマーとの相容性と、他方ではシクロデキストリンが対象の化合物と包接化合物を形成する能力とによって選択される。
【0045】
本発明によると、シクロデキストリン材料は、好ましくはライナー材と相溶性を有する。本発明によると、「相溶性を有する」とは、好ましくはシクロデキストリン材料が融解ポリマー中に均一に分散することができ、かつ浸透性物質またはポリマーの不純物をトラップする(これらと錯体を形成する)能力を保ち、かつポリマー中に遮断性を大幅に損なうことなく存在することができることを指す。
【0046】
さらに、シクロデキストリンの内部空間のサイズ(α、β、γ)を考慮に入れる必要があり、誘導体の官能基修飾は、対象とする揮発性化合物または不純物と包接化合物を形成するために適する必要がある。所望の成果を得るために、2種類以上の空間径と官能基とが必要になることもある。例えば、γ−シクロデキストリンを含むα−シクロデキストリンおよびβ−シクロデキストリンの少なくともいずれかは、γ−シクロデキストリンを含まないものよりも、特定の揮発性物質に対する錯体形成効率が高いことがある。コンピュータによるモデリングによって、環の官能基の種類および数によって、特定の配位子(すなわち錯体を形成する物質)の錯体形成エネルギーが変わることが示されている。特定の誘導体、内部空間径および配位子について錯体形成エネルギー(ΔEstericおよびΔEelectrostatic)を算出することができる。このため、包接化合物の形成をある程度予想することができる。例えば、本発明者は、アセチル化されたα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびアセチル化されたγ−シクロデキストリンは、本発明のクロージャ部材またはポリマーライナー材の遮断性を向上させる有効なシクロデキストリン誘導体であることを見出した。
【0047】
本発明による相溶性を有するシクロデキストリン誘導体は、包接化合物を実質的に含まない。本発明では、「包接化合物を実質的に含まない」との表現は、バルクのポリマー中に分散しているシクロデキストリン材料のうち、ポリマーに含まれる汚染物質、浸透性物質などとシクロデキストリン分子が包接化合物を形成していないシクロデキストリンが大部分を占めることを意味する。シクロデキストリン化合物は、通常は包接化合物を含まないバルクのポリマーに添加され混合されるが、製造時に若干の錯体が形成される。この錯体形成は、ポリマーの不純物および分解生成物が、シクロデキストリン包接化合物の包接化合物となるときに生ずる。
【0048】
基本的には、好ましいシクロデキストリン誘導体は、1つの第1級炭素のカルボキシル基に1置換基を有し、かつ少なくともいずれかの第2級炭素のカルボキシル基に1置換基を有し得る。シクロデキストリン分子の形状のため、および環置換基の化学的性質のため、これらヒドロキシル基は反応性が異なる。しかし、注意を払って有効な反応条件を選べば、シクロデキストリン分子を反応させて、一定数のヒドロキシル基を1種類の置換基で置換した誘導分子を得ることができる。また、2種類、3種類の置換基を有する誘導分子を意図して合成することも可能である。これらの置換基を、無作為に付加することも、特定のヒドロキシルに付加することも可能である。本発明においては、多種多様なペンダント置換基部分をシクロデキストリン分子に用いることができる。本発明の誘導シクロデキストリン分子は、アルキルエーテル、シリルエーテル、アルキルエステルなどのシクロデキストリンエステル、トシラート、メシラートなどの関連スルホ誘導体、ヒドロカルビル−アミノシクロデキストリン、アルキルホスホノシクロデキストリン、アルキルホスファトシクロデキストリン、イミダゾイル置換シクロデキストリン、ピリジン置換シクロデキストリン、ヒドロカルビル硫黄含有官能基シクロデキストリン、珪素含有官能基置換シクロデキストリン、カルボネートシクロデキストリン、カルボネート置換シクロデキストリン、カルボン酸および関連置換シクロデキストリンなどがある。
【0049】
相容性を付与する官能基として使用可能なアシル基は、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、トリフルオロアセチル基、ベンゾイル基およびアクリロイル基である。シクロデキストリン分子のヒドロキシル基へのこれらの基の形成には、公知の反応が使用される。アシル化反応は、適切な酸無水物、酸塩化物および公知の合成方法を用いて実施することができる。
【0050】
また、シクロデキストリンをアルキル化剤と反応させてアルキル化シクロデキストリンを生成させることができる。アルキル化シクロデキストリンの生成に有用なアルキル基の典型例には、メチル基、プロピル基、ベンジル基、イソプロピル基、第3級ブチル基、アリル基、トリチル基、アルキル−ベンジル基などの一般的なアルキル基がある。この種のアルキル基は、例えばヒドロキシル基を、適切な条件下でハロゲン化アルキルまたはアルキル化アルキルサルフェート反応剤と反応させる方法など、従来の調整方法によって生成することができる。
【0051】
また、トシル(4−メチルベンゼンスルホニル)、メシル(メタンスルホニル)または関連のアルキルスルホニル生成剤またはアリールスルホニル生成剤を、相溶性を付与したシクロデキストリン分子の生成に使用することもできる。
【0052】
スルホニル含有官能基を使用して、シクロデキストリン分子中のどのグルコース部分の第2級ヒドロキシル基または第1級ヒドロキシル基を誘導してもよい。この反応は、第1級ヒドロキシル基または第2級ヒドロキシル基のいずれかと有効に反応するスルホニルクロライド反応剤を使用して実施することができる。適切なモル比で使用するスルホニルクロライドは、置換する必要がある分子の対象ヒドロキシル基の数によって決まる。スルホニル基は、アシル基またはアルキル基と結合することができる。
【0053】
スルホニル誘導シクロデキストリン分子を使用し、スルホネートをアジ化物イオンによって求核置換反応させて、スルホニル基置換シクロデキストリン分子からアミノ誘導体を生成することが可能である。続いて、還元によってアジド誘導体を置換アミノ化合物に変換させる。このようなアジドシクロデキストリン誘導体またはアミノシクロデキストリン誘導体が数多く製造されてきた。本発明に有用な窒素含有基の例に、アセチルアミノ基(−−NHAc)、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ヘキシルアミノ基およびその他のアルキルアミノ置換基などのアルキルアミノ基がある。アミノ置換基又はアルキルアミノ置換基を、窒素原子と反応するさらに他の化合物と反応させて、アミン基を誘導することができる。
【0054】
また、シクロデキストリン分子を、ペンダントイミダゾール基、ヒスチジン、イミダゾール基、ピリジノ基および置換ピリジノ基などの複素環核で置換することも可能である。
シクロデキストリン誘導体を硫黄含有官能基で修飾して、相容性を付与する置換基をシクロデキストリンに導入してもよい。上記のスルホニルアシル化以外にも、スルフヒドリル物質によって製造した硫黄含有基を使用して、シクロデキストリンから誘導することができる。この種の硫黄含有基には、メチルチオ(−−SMe)基、プロピルチオ(−−SPr)基、t−ブチルチオ(−−S−−C(CH)基、ヒドロキシエチルチオ(−−S−−CHCHOH)基、イミダゾリルメチルチオ基、フェニルチオ基、置換フェニルチオ基、アミノアルキルチオ基などがある。上記のエーテルまたはチオエーテルを使用して、末端にヒドロキシルアルデヒドケトンまたはカルボン酸官能基を有する置換基を有するシクロデキストリンを生成することができる。珪素化合物を用いて生成した誘導体を有するシクロデキストリンは、相容性を付与する官能基を有し得る。
【0055】
ここで、珪素エーテルと呼ぶ珪素含有官能基を有するシクロデキストリン誘導体調整することが可能である。珪素基とは、一般に1つの珪素原子が置換した基か、または置換基に珪素−酸素主鎖の繰り返しを有する置換基を指す。典型的には、珪素置換基内の珪素原子の多くがヒドロカルビル(アルキルまたはアリール)置換基を有する。珪素置換物質は一般に、熱安定性、酸化安定性が高く、化学的に不活性である。さらに、珪素基は、風化抵抗性を向上させるとともに、導電強度を付与し、表面張力を改善させる。珪素基は珪素原子を1つしか含まないこともあれば、珪素部分に2〜20個の珪素原子を含むこともあるため、珪素基の分子構造は様々である。珪素基は直鎖状、分枝状などであり得、珪素−酸素の繰り返しを数多く有することもあり、種々の官能基によって置換されることもある。本発明においては、トリメチルシリル基、混合したメチル−フェニルシリル基を有するなど、単純な珪素含有置換基部分が好ましい。
【0056】
本発明の好適な実施形態においては、シクロデキストリン材料はシリルエーテル基、アルキルエーテル基およびアルキルエステル基の少なくともいずれかを有する置換基を含む。本発明によると、アルキルエステル置換基は好ましくはアセチル部分、プロピル部分およびブチル部分の少なくともいずれかを有し、アルキルエーテル置換基は、好ましくはメチル部分、エチル部分およびプロピル部分の少なくともいずれかを有し、シリルエーテル置換基は、好ましくは、メチル部分、エチル部分、プロピル部分およびブチル部分の少なくともいずれかを有する。
【0057】
本発明の発明者によって、移動性物質(migrant)と呼ばれ、封止部材およびクロージャライナー材に含まれる残留汚染物質を、製造の混合段階においてシクロデキストリンと錯体形成させることができる。クロージャ構造体から発生する移動性物質を錯体形成することの重要な点は、これらの物質が、クロージャの構造から容器内容物(飲料など)に移動することを防止することにある。製造の混合段階において、封止材およびライナー材中に、活性を有するシクロデキストリン化合物、好ましくは水分含有量が2,000ppm未満のシクロデキストリン化合物を分散させることによって、封止部材およびクロージャライナーの移動性物質を低減させることができる。混合の後に、組成物には、シクロデキストリン錯体と活性シクロデキストリンとを含む残留物が存在する。混合工程中に、シクロデキストリンがポリマー材料に元から含まれているか、ポリマー材料、加工助剤などの熱酸化、光分解および光酸化によって生じ、クロージャ構造に含まれる移動性物質と錯体を形成することによって、残留揮発成分が減少する。シクロデキストリンによって、移動性物質との間で不揮発性の錯体が形成されて、これらの物質が放出されて、知覚器によって検出されることが防止される。
【0058】
シクロデキストリンに含まれる水分の含有量は重量で5,000ppm未満でなければならない。水分濃度の高いシクロデキストリンは、プラスチックの酸化生成物または樹脂の不純物と、押出成形中に容易に錯体を形成しない。しかし、水分は、封止部材中の錯体形成には影響を及ぼさない。
【0059】
また、本発明で使用されるポリマーは、触媒、安定剤、加工助剤、フィラー、色素、染料、抗酸化剤など、シクロデキストリンの性質に有害な影響を及ぼさない添加物をほかにも含有し得る。
【0060】
封止部材、特にポリマーライナー材の製造用に市販されている装置を使用して、本発明によるクロージャ部材またはポリマーライナー材を製造することができる。
少なくとも1種類の熱可塑性ポリマーとシクロデキストリン材料とを含む本発明の組成物は、主成分(ポリマー)に微量成分(好ましくは修飾シクロデキストリン)を物理的に混合して、押出成形などによって作製することができる。適した押出成形技術には、いわゆる「直接導入」および「マスターバッチ添加」などがある。いずれの方法においても、ツインスクリュー共回転(co−rotating)分割バレル押出成形機(segmented barrel extruder)を使用することが好ましい。当然、逆回転(counter rotating)またはシングルスクリューの押出成形機を使用して、高分子材料にシクロデキストリン材料を混合または分散させることもできる。修飾シクロデキストリンは個別に混合しても、他の適した添加剤または補助剤と合わせて混合してもよい。高分子材料にシクロデキストリン材料を混合または分散させた後に、得られた融解プラスチックを押出成形機から押出して、ペレット形状にしてもよい。
【0061】
ブチルゴムと熱可塑性ポリマー、特にHDPEとの均一な混合物を含むポリマーライナー材に修飾シクロデキストリンを混入させる方法にはいくつかある。例えば、シクロデキストリンを含有する均一な混合物は、修飾シクロデキストリンと、例えばHDPE樹脂のマスターバッチを、他のライナー材、好ましくはブチルゴムの入った押出成形機の供給部に供給することによって得られることがわかっている。このようなマスターバッチは、例えば上記の直接導入法を使用して調整することができる。得られるライナーにおけるHDPE樹脂とブチルゴムとの混合比は、上記の工程によって容易に調整可能である。
【0062】
ライナーまたはシーラントを有するクロージャ部材の製造では、いわゆる「インシェル」成形技術が用いられる。前記した公知の工程では、化合物の小粒を押出成形機に供給して、小粒を溶解させ、開口部に融解物を供給する。開口部の外側に設けられた回転式ブレードによって押出物が切断され、ペレットが作られる。インシェル成形においては、各々が約180〜200mgのペレットの融解物が1つずつクラウンコルクの内側面、アルミニウム製クロージャまたはプラスチック製クロージャに弾き上げるか置かれ、スクリューキャップの本体が成形される。静止した(still)プラスチックポリマー材が、打抜きによってこの内側表または中央部に展開され、プレスされて、ほぼ円盤形状の薄い成形物が得られる。同時に、必要に応じて、キャップを嵌めたときに口部のボトルの縁を囲む環状の突出物を有する成形を行なうことが可能である。
【0063】
アウトシェル成形では、ペレットをクロージャ外側の「パック」に成形し、クロージャに配置して、最終形状に成形してもよい。
ビール瓶の封止の例のような特定の用途では、熱可塑性ポリマーと同熱可塑性ポリマー中に分散させた相溶性を有する誘導シクロデキストリンとを含む少なくとも1つの付加的な層を有するシクロデキストリン含有ポリマーライナー材を提供することが好ましい。上記したように、付加的な層は、好ましくはライナーの内側に配置され、好ましくは付加的な層の材料がボトルの首部の内側に触れるように、均一な組成物を含んだポリマーライナー材の直径よりも小さい。
【0064】
成層構造を有する容器のクロージャまたはポリマーライナー材は、従来法のいずれによっても製造することができる。付加的なライナー層は、例えば、均一な混合物のライナー(キャップ内側の付加的なバリアポリマー)に射出成形することによって製造できる。この種の他段階製造を、射出成形用の適切な部品を有する装置1台で行うこともできる。
【0065】
本発明によると、熱可塑性ポリマーと本発明のシクロデキストリン誘導体とを含む組成物のコーティングを施して、コーティングしたライナーの遮断性を向上させることができる。コーティング装置は、一般に、膜形成用の材料、コーティングする組成物の形成および維持のための添加物を含む液体の組成物に、有効量のシクロデキストリン材料を塗布する。
【0066】
以下に、本発明の封止剤およびクロージャ部材の用途および遮断性の種々の実施例を記載する。下記の実施例およびデータは、本発明をさらに例示するものである。
図1はキャップを嵌めたボトルの模式図であり、本図においては、有機浸透性物質のボトルの外の濃度(c)が、ボトル内の濃度(c)よりも高い。本例においては、外側の浸透性物質がライナー材に衝突して、ライナー材に吸収または溶解され、ある濃度勾配下でライナー材または封止部材に拡散して、最終的にボトル内部のライナー表面から放出される。浸透の原動力は、ライナーの封止部分にわたる浸透性物質の分圧差(pからpへ)として与えられる。
【0067】
上記の浸透の濃度勾配は、実験によって実験室でシミュレーションすることができるため、シクロデキストリン含有封止剤およびクロージャ部材の遮断性の改良を測定することが可能となる。
【0068】
改善されたクロージャ材料の脂肪族アルデヒド、不飽和アルデヒド、ケトン、トリクロロアニソールなどの刺激性浸透性物質に対する遮断性を測定するために下記の方法が用いられた。
【0069】
(試験方法)
バリアの浸透を、ゼロ時間(t)において、浸透性物質の上記がこの膜に含まれていないことを仮定して説明する。この膜の上流面における浸透の圧力pは、表面層の濃度c(図2参照)を与えると増大する。拡散は、濃度勾配をとおって膜の中に浸透性物質が移動する速度および定常状態に達するまでの時間を示す尺度となる。下流の圧力pは、測定可能であるものの、上流の圧力pと比べて小さいため無視することができる。熱可塑性バリアを浸透する蒸気の量は、ひとたび定常状態に到達したら経過時間に伴って線形的に増大する。長い時間が経つと、上流圧力pと下流圧力pとは等しくなる。
【0070】
有機物質の遮断性を評価するための浸透の試験法では、一定の濃度勾配下で、クロージャ材料の試験用円盤を通過する有機分子の輸送量を測定する実験用の技術を用いる。図2にこの浸透セルの模式図を示す。
【0071】
クロージャ材料の単層からなる円盤を使用し、試験用に様々な有機浸透性物質の遮断性を測定した。高分解能ガスクロマトグラフィーを使用して、所定の時間における累積下流浸透濃度pを定性的および定量的に測定した。本発明は、静的(static)試験用セル(図2)で測定した量と、マスフラックスの減少として定量した値のいずれにおいても、クロージャ材料にシクロデキストリンを分散させ、続いて円盤に成形したものは、シクロデキストリンを含まない点以外は同じ材料と比べて気化した有機物の輸送を低減することを示した。
【0072】
単層円盤と試験用浸透性物質(すなわちアルデヒド、ケトン)とを最初に評価して、浸透性のグラフを作成した。各クロージャ材料についてp=pとなる時間を求めた。定常状態グラフの中点(時間t1/2)をシクロデキストリンを含まない各クロージャ材料について求めた。p=pとt1/2とを示すクローズドボリューム静的浸透プロファイル(closed−Volume Static Permeation Profile)を図3に示す。クラウンコルク用のSvelon(登録商標)855封止剤、プラスチッククロージャ用のPolyliner(登録商標)461−3封止剤、およびクラウンコルク用の高遮断性封止剤Oxylon(登録商標)C525の3種類のクロージャ材料を使用した。これらはすべて、ドイツ国ブレーメン所在のディーエス−ケミー(DS−Chemie)によって製造されたもので、下記の調整方法および分析方法によって調整および分析した。表1に、各試験用クロージャ材料のt1/2を示す。
【0073】
【表1】

(試験用標本の調整)
実験室規模のバッチミキサーを使用して、クロージャ材料とトリアセチルガンマシクロデキストリン(TA−γ−CD)とを混合した。トリアセチルガンマシクロデキストリンは、樹脂とドライブレンドしたのちに、重量比で0.30%および0.4%のトリアセチルガンマシクロデキストリンと混合した。トリアセチルガンマシクロデキストリンは、米国ミシガン州エードリアン所在のワッカー バイケム コーポレーション(Wacker Biochem Corporation)によって製造された。
【0074】
クロージャ材料を混合する際に、ブラベンダー融解ボウル(Brabender fusion bowl)すなわちバッチミキサーを使用した。融解ボウルは、8の字の形状を有するボウルの中に、2つの対向する回転式のローラーブレードが入ったものである。比較対照用のクロージャ材料(CD非含有)およびCDを含有するクロージャ材料を、下記の方法で処理した。
【0075】
融解ボウルの温度は125℃に設定した。ブレードの回転数を60rpmに設定して、樹脂40グラムをボウルに滴下した。全ての材料を30秒かけてボウルに入れた。6.5分処理したのちに、スクリューの回転速度をゼロに下げて、融解した樹脂をアルミニウム箔に取り出し回収した。ボウルおよびローラーブレードは、次の工程を実施する前に完全に洗浄した。
【0076】
クロージャ材料円盤の浸透。混合したクロージャ材料数グラムをアトラスラボ混合成形装置(Atlas lab−mixing molder)に入れた。金型を175℃に熱して、樹脂を混合し融解状態にした。次に、樹脂を加熱(85℃)した金型の中に注入した。金型の内部の空洞の寸法は1.75cm×4.45cm、厚さは0.10cmであった。直径1.27cmのピンチを使用して、成形物から静的浸透試験用の円盤2枚を取り出した。
【0077】
(分析方法)
有機蒸気の浸透。この浸透方法では、静的の濃度勾配を使用して、ポリマーの包装用構造体を通過する有機分子の輸送量を測定する実験用の技術を用いる。水素炎イオン化検出器(FID)または電子捕獲型検出器(electron capture detection:ECD)付きの高分解能ガスクロマトグラフィー(HRGC)を使用して、時間t1/2における累積下流浸透濃度を測定した。
【0078】
装置。円盤標本(厚さ〜1,000μm×直径1.27cm、重量約125mg)を、クローズドボリューム蒸気浸透装置(図2参照)を用いて試験した。実験で用いたアルミニウム測定セルは、試験対象の成形クロージャ材料の円盤で隔てられた2つのコンパートメント(セル)を有し(有効円盤面積=1.3cm)、両端部がテフロン(登録商標)面を有するブチルゴム隔壁およびアルミニウム製の圧着トップ(crimp−tops)でキャップされている。
【0079】
試験用円盤を上部セルに置く。Oリングを使用して上部セルを組み立てて、試験用円盤を堅固に封止し、上下セルを固定する。次に、上部セルを、テフロン(登録商標)面を有するブチルゴム隔壁およびアルミニウム製の圧着トップでキャップする。2種類の浸透用標準を調整した。第1の浸透用標準はオクタナール、ノナナール、トランス−2−ノネナールおよび1−オクテン−3−オンを含み、第2の浸透標準は2,4,6−トリクロロアニソールを含む。全ての浸透性物質は、脱イオン水/界面活性剤の混合物に分散させた。tにおいて、浸透性物質と水/界面活性剤との混合物を表2〜6に示す濃度pで下部セルに注入した。下部セル内での個々の浸透性物質の濃度pは、気体法則変換を行い、百万分率(μL/L(体積/体積)で表した。続いて下部セルをすぐにテフロン(登録商標)面を有するブチルゴム隔壁およびアルミニウム製の圧着トップでキャップする。
【0080】
(試験結果)
アルデヒドおよびケトン。クロージャ材料の試験用円盤を通過する共浸透性物質(co−permeant)のフラックスを同時に測定可能な実験方法を用いた。この試験方法では、セル貯蔵温度を50℃に上げることによって加速保存寿命試験条件をシミュレートした。
【0081】
FID付属のHRGCを使用して、上流セルにおける時間t1/2での累積浸透濃度の変化を測定した。t1/2において、固相マイクロ抽出(SPME)によって上部セルから標本を回収して、HRGC/FIDによる分析を行なった。較正用標準から個々の浸透性物質の濃度を求め、気体法則を使用してnL/Lすなわち十億分率(体積/体積)を算出した。
【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

試験セルは三重に調整および分析した。表2,3に、4種類の浸透性物質について、比較対照およびトリアセチルガンマシクロデキストリン(TA−γ−CD)含有標本の、t=0での下部セルにおける浸透性物質の濃度p、ならびに時間t1/2(6時間)での上部セルにおける浸透性物質の濃度pを示す。
【0084】
トリクロロアニソール。ECD付属のHRGCを使用して、上流セルにおける時間t1/2での累積トリクロロアニソール濃度を測定した。時間t1/2において、SPMEによって上部セルから標本を回収して、HRGC/ECDによる分析を行なった。較正用標準からトリクロロアニソール濃度を求め、気体法則を使用してpL/Lすなわち一兆分率(体積/体積)を算出した。試験セルは三重に調整および分析した。表4〜6に、比較対照およびトリアセチルガンマシクロデキストリン(TA−γ−CD)含有標本の、t=0での下部セルにおけるTCAの濃度p、ならびに時間t1/2での上部セルにおけるTCAの濃度pを示す。
【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【0087】
【表6】

試験セルは三重に調整および分析した。表4,6に、2,4,6−トリクロロアニソール浸透性物質について、比較対照およびトリアセチルガンマシクロデキストリン(TA−γ−CD)含有標本の、t=0での下部セルにおける浸透性物質の濃度p、ならびに時間t1/2(SvelonおよびPolylinerでは6時間、Oxylonでは16時間)での上部セルにおける各浸透性物質の濃度pを示す。
【0088】
表2〜6のデータは、相溶性を有するペンダント基を有するシクロデキストリン材料を少量添加することによって、封止剤およびライナー材のマスフラックスが良好に低減することを示す。このデータから、本発明によるクロージャ部材または封止部材が優れた遮断性を有し、有機浸透性物質を低減させることが示される。
【0089】
下記に、残留揮発性物質の減少すなわちクロージャ材料への錯体形成を測定する手順を示す。
(試験用標本の調整)
実験室規模のバッチミキサーを使用して、Svelon(登録商標)855とトリアセチルベータシクロデキストリンとを混合した。トリアセチルベータシクロデキストリン(水分含有量は重量で<2,000ppm未満)は、樹脂とドライブレンドしたのちに、重量比で0.4%のトリアセチルベータシクロデキストリンと混合した。シクロデキストリンを105℃で1’’Hgの真空下で6時間以上乾燥させた。
【0090】
Svelon(登録商標)855とCDとを混合する際に、ブラベンダー融解ボウルすなわちバッチミキサーを使用した。融解ボウルは、8の字の形状を有するボウルの中に、2つの対向する回転式のローラーブレードが入ったものである。比較対照用のSvelon(登録商標)855(CD非含有)と、CDを含有するSvelon(登録商標)855とを、下記の方法で処理した。
【0091】
融解ボウルの温度は125℃に設定した。ブレードの回転数を60rpmに設定して、樹脂40グラムをボウルに滴下した。全ての材料を30秒かけてボウルに入れた。6.5分処理したのちに、スクリューの回転速度をゼロに下げて、融解した樹脂をアルミニウム箔に取り出し回収した。ボウルおよびローラーブレードは、次の工程を実施する前に完全に洗浄した。
【0092】
混合したSvelon(登録商標)855材料を粉砕して、厚さ〜20μmの削り屑とし、残留樹脂揮発性物質の試験に供した。
(分析方法)
残留樹脂揮発性物質。Svelon(登録商標)855標本の揮発性化合物を、密閉後、バイアルのヘッドスペースに脱気させた。次に、揮発性物質をバイアルのヘッドスペースから取り出して、個々の成分をダイナミックヘッドスペース高分解能ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(DH HRGC/MS)によって同定および定量した。DH HRGC/MS法で定量した76種類の化合物は、典型的には異臭(off−odor)/風味化合物と関連する10種類の化学物質(脂肪族アルコール、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、不飽和アルデヒド、飽和ケトン、アルファ不飽和ケトン、芳香族、アルカン、アルケンおよびアセテート)と結合していた。
【0093】
標本2.00±0.02gを22mlのガラスヘッドスペースバイアルに入れた。バイアルを、テフロン(登録商標)面を有するブチルゴム隔壁およびアルミニウム製の圧着トップでキャップした。バイアルを85℃で24時間加熱することによって、残留樹脂揮発性物質を標本からヘッドスペースに脱離させた。24時間後に、標本を管理環境から、ジェットセパレータを介してマススペクトロメーターに接続されているパージアンドトラップ装置に移した。標本の全イオン交換クロマトグラムからのマススペクトルを、76種類の化合物の、自社所有の参照スペクトルファイルと比較した。2種類の自社標準と2種類の代理標準(surrogate standard)を用いて定量化を行なった。これらは全て標本のパージ前に添加された。化合物を樹脂のng/gすなわち十億分率で表した分析結果を表7に示す。
【0094】
(試験結果)
ガスクロマトグラフィーによって市販のクロージャライナー材(Svelon(登録商標)855)の移動性汚染物質を分析すると、揮発性物質の非常に複雑な混合物が検出された。クロマトグラフィーによって、50種類を超える化合物が検出される。これら残留揮発性材料は、主として、分枝状アルカン、アルケンおよびシクロアルカンであり、飽和アルデヒドおよび不飽和アルデヒドおよび置換芳香族化合物などの刺激性物質が少量含まれる。
【0095】
Svelon(登録商標)855の残留揮発性物質中、最も多かった化学物質は、芳香族(10種類の化合物)およびアルカン(3種類の化合物)である。飽和アルデヒドおよび不飽和アルデヒド、ならびに飽和ケトン族は、各々化合物中1種類しか検出されなかった。以上まとめると、76化合物中16種類が本方法の推定定量レベルを超えて同定され、リストに挙げた化合物の大半は数ppb程度であった。
【0096】
表7の刺激性物質のうち最も興味深いものはアルデヒド(アセトアルデヒドおよびアクロレイン)であり、程度は劣るものの、スチレンおよびアルファメチルスチレンも興味深い。アセトアルデヒドは、Svelon(登録商標)855中最も多く、一般に、ミネラルウォーターなどの飲料の味を損なう原因となる。さらにアセトアルデヒドは樹脂中で非常に移動性の高い汚染物質である。芳香族化合物およびアルカン族化合物ははるかに臭気が低く、味を損なう度合いも低い。化合物とその異臭/味への悪影響は、飲料または容器内容物によって異なる。
【0097】
トリアセチルベータシクロデキストリン(TA−β−CD)が、Svelon(登録商標)855の残留樹脂揮発性物質を最も低減させることが示された。DH HRGC/MS(ダイナミックヘッドスペース高分解能ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー)を使用して残留揮発性物質を測定したところ、0.4%のTA−β−CDを混合した場合は、揮発性化合物(76種類の化合物中全16種類の化合物)の減少総量は38%であった。
【0098】
多量に存在する刺激性物質(アセトアルデヒド、アクロレインなど)がTA−β−CDによって大幅に低減した。アセトアルデヒドおよびアクロレインは各々45%、69%減少した。スチレンおよびアルファメチルスチレンは各々31%、30%減少した。刺激性物質とは考えられないアセトンは46%減少した。樹脂の揮発性物質のうち、除去がより困難なものは芳香族およびアルカン族であり、芳香族およびアルカン族は混合した化合物に対して各々29%、21%減少した。
【0099】
【表7】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮断性が向上した封止部材を有する、液体製品を入れる容器用のクロージャ部材であって、前記封止部材は、
(a)熱可塑性ポリマーと
(b)前記熱可塑性ポリマーを基準として0.01〜5重量パーセントのシクロデキストリン材料とを含み、
シクロデキストリン材料はα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、α−シクロデキストリン誘導体、β−シクロデキストリン誘導体、γ−シクロデキストリン誘導体およびこれらの混合物からなる群より選択され、かつ前記クロージャ部材はツイストクラウン、クラウンコルクまたはスクリューキャップであることを特徴とするクロージャ部材。
【請求項2】
前記シクロデキストリン材料は熱可塑性ポリマー中に分散されていることを特徴とする請求項1に記載のクロージャ部材。
【請求項3】
前記シクロデキストリン材料は前記シクロデキストリンの前記熱可塑性ポリマーに対する相溶性を向上させるペンダント部分または置換基を有することを特徴とする請求項1または2に記載のクロージャ部材。
【請求項4】
前記封止部材中のシクロデキストリン材料の量は、前記封止部材中の前記熱可塑性ポリマーを基準として0.1〜1重量パーセントであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクロージャ部材。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリマーはポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のクロージャ部材。
【請求項6】
前記シクロデキストリン材料はシリルエーテル基、アルキルエーテル基およびアルキルエステル基の少なくともいずれかを有する置換基を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のクロージャ部材。
【請求項7】
前記アルキルエステル置換基はアセチル部分、プロピル部分およびブチル部分の少なくともいずれかを有することを特徴とする請求項6に記載のクロージャ部材。
【請求項8】
前記アルキルエーテル置換基はメチル部分、エチル部分およびプロピル部分の少なくともいずれかを有することを特徴とする請求項6に記載のクロージャ部材。
【請求項9】
前記シリルエーテル置換基はメチル部分、エチル部分、プロピル部分およびブチル部分の少なくともいずれかを有することを特徴とする請求項6に記載のクロージャ部材。
【請求項10】
前記シクロデキストリン材料はアセチル部分を有するγ−シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のクロージャ部材。
【請求項11】
前記封止部材は熱可塑性ポリマーおよびゴム成分の均一な混合物を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のクロージャ部材。
【請求項12】
前記封止部材は、少なくとも1つの層を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のクロージャ部材。
【請求項13】
少なくとも1つの層が、前記クロージャ部材によって封止された前記容器の内容物に接触した状態で前記クロージャ部材の内側に設けられていることを特徴とする請求項12に記載のクロージャ部材。
【請求項14】
前記少なくとも1つの層は前記容器の開口部の内側に接触するように、前記クロージャ部材の直径よりも小さい直径を有することを特徴とする請求項12または13に記載のクロージャ部材。
【請求項15】
前記封止部材は積層構造を有することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載のクロージャ部材。
【請求項16】
前記封止部材は、熱可塑性ポリマーであって、同熱可塑性ポリマーを基準として0.01〜5質量パーセントのシクロデキストリン材料が同熱可塑性ポリマーに分散されている熱可塑性ポリマー、でコーティングされていることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載のクロージャ部材。
【請求項17】
前記容器はボトルまたはジャーであることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載のクロージャ部材。
【請求項18】
前記ポリオレフィンはポリエチレンを含むことを特徴とする請求項5に記載のクロージャ部材。
【請求項19】
前記ポリエチレンは高密度ポリエチレン(HDPE)を含むことを特徴とする請求項18に記載のクロージャ部材。
【請求項20】
前記シクロデキストリン材料は、シクロデキストリン1単位につき3つのアセチル基を有するγ−シクロデキストリンであることを特徴とする請求項10に記載のクロージャ部材。
【請求項21】
前記熱可塑性ポリマーおよびゴム成分の均一な混合物は高密度ポリエチレンおよびブチルゴムの均一な混合物を含むことを特徴とする請求項11に記載のクロージャ部材。
【請求項22】
前記シクロデキストリン材料は相溶性を有する誘導シクロデキストリン材料を含むことを特徴とする請求項16に記載のクロージャ部材。
【請求項23】
前記ボトルはガラスボトルであることを特徴とする請求項17に記載のクロージャ部材。
【請求項24】
ミネラルウォーター、ジュース、炭酸入りの清涼飲料、水、ビールまたはその他の液体製品を入れるボトル用のクロージャとして請求項1〜23のいずれか1項に記載のクロージャ部材を使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−132467(P2009−132467A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74495(P2009−74495)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【分割の表示】特願2002−592427(P2002−592427)の分割
【原出願日】平成14年5月6日(2002.5.6)
【出願人】(598162160)セルレジン テクノロジーズ,エルエルシー (3)
【Fターム(参考)】