説明

遮水壁の固化材の配合設計方法

【課題】遮水壁をいかなる強度で固化するかを明確化した遮水壁の固化材の配合設計方法。
【解決手段】粘土鉱物と水硬性固化材とからなる固化材と、安定液とを混合してなるソイルセメントで地下遮水壁を作製する際の固化材の配合設計方法であって、ソイルセメント全体量に対する固化材の重量比率をx、および、水硬性固化材に対する粘土鉱物の重量比率をyとして、(i)任意の透水係数kよりも遮水壁の透水係数の方が小さくなる遮水性条件と、(ii)遮水壁の破壊時に、遮水壁が延性破壊を起こすような遮水壁の変形係数となる変形追随性条件と、(iii)遮水壁の強度が、地震の際に遮水壁に生ずる最大主応力差qmaxに安全率Fsを乗じた値よりも大きくなる地震安定性条件と、を設定し、前記(i)遮水性条件、(ii)変形追随性条件、(iii)地震安定性条件のそれぞれを、xとyと定数とで表現される不等式に変換し、前記不等式を全て満足するxおよびyを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水壁に用いる固化材の配合組成を設計する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中に鉛直方向に連続したソイルセメント遮水壁を構築する方法として、掘削対象地盤を掘削するチェーンカッター方式の掘削装置、あるいは単軸若しくは多軸の掘削軸を備えた掘削装置の先端部より安定液を吐出し、掘削土と安定液を混合、攪拌しつつ掘削を行い、次に掘削土と安定液の混合体に固化材を添加、混合攪拌し固化させる工法が一般的である。この地下壁を遮水壁とするためには、掘削土と安定液の混合体に固化材の種類と添加量を組み合わせた固化試験を行い、所定の透水係数及び強度を発現する固化材及び添加量を選定している。安定液としては気泡安定液(特許文献1)や粘土系安定液があり、安定液を混合することにより溝壁の崩壊防止や掘削時の機械にかかる負荷を小さくすることができる。
【0003】
しかしながら、遮水壁をいかなる強度で固化するかに関しては、理論的に明確化されてはおらず、クラックの入り難い遮水壁を構築することを意図した固化材に関する特許等が出されているにすぎないのが現状である。
【特許文献1】特許3725750
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、遮水壁をいかなる強度で固化するかを理論的に明確化して、安定した遮水性を有し、遮水性を著しく下げてしまうような変形を伴わず、さらに地震にも安全である遮水壁を容易に配合することができる遮水壁の固化材の配合設計方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために、第1に、粘土鉱物と水硬性固化材とからなる固化材と、安定液とを混合してなるソイルセメントで地下遮水壁を作製する際の固化材の配合設計方法であって、安定液に対する固化材の重量比率をx、および、水硬性固化材に対する粘土鉱物の重量比率をyとして、
(i)基準の透水係数kよりも遮水壁の透水係数の方が小さくなる遮水性条件と、
(ii)遮水壁の破壊時に、遮水壁が延性破壊を起こすような遮水壁の変形係数となる変形追随性条件と、
(iii)遮水壁の強度が、地震の際に遮水壁に生ずる最大主応力差に安全率を乗じた値よりも大きくなる地震安定性条件と、
を設定し、前記(i)遮水性条件、(ii)変形追随性条件、(iii)地震安定性条件のそれぞれを、xとyと定数とで表現される不等式に変換し、前記不等式を全て満足するxおよびyを選択することを特徴としている。
【0006】
本発明は、第2に、上記の特徴に加え、(i)遮水性条件を、xとyと定数で表現される不等式に変換する際に、透水試験結果によって、遮水性条件の不等式を導くことを特徴としている。
【0007】
本発明は、第3に、上記の特徴に加え、(ii)変形追随性条件を、xとyと定数で表現される不等式に変換する際に、一軸圧縮試験および応力−歪み測定試験結果によって、変形追随性条件の不等式を導くことを特徴としている。
【0008】
本発明は、第4に、上記の特徴に加え、(iii)地震安定性条件を、xとyと定数で表現される不等式に変換する際に、地震シミュレーション試験結果によって、地震安定性条件の不等式を導くことを特徴としている。
【0009】
本発明は、第5に、上記の特徴に加え、固化材に使用する粘土鉱物は、工業製品の粘土類または自然界に存在する火山性粘性土を用いることを特徴としている。
【0010】
本発明は、第6に、上記の特徴に加え、安定液は、掘削土と気泡と水とからなる気泡安定液であることを特徴としている。
【0011】
本発明は、第7に、上記の特徴に加え、固化材に使用する水硬性固化材は、セメントまたは石膏またはスラグのいずれかを用いることを特徴としている。
【0012】
本発明は、第8に、上記の特徴に加え、固化材に使用する粘土鉱物及び水硬性材料以外に、硬化促進剤あるいは酸化鉄を加えることを特徴としている。
【0013】
本発明は、さらに、第9に、上記第1から第8の遮水壁の固化材の配合設計方法における(i)遮水性条件、(ii)変形追随性条件、(iii)地震安定性条件についてのxとyと定数で表現される不等式を、x−y平面図に領域として記した遮水壁の固化材の配合設計図も提供する。
【0014】
本発明は、第10に、粘土鉱物と水硬性固化材とからなる固化材と、安定液とを混合してなるソイルセメントで地下遮水壁を作製する際の固化材の配合設計装置であって、(1)基準透水係数よりも遮水壁の透水係数が小さくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する遮水性条件設定部と、(2)基準変形係数よりも遮水壁の変形係数が小さくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する変形追随性条件設定部と、(3)遮水壁の強度が周辺地盤との最大主応力差に安全率を乗じた値よりも大きくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する地震安定性条件設定部と、(4)(1)遮水性条件設定部、(2)変形追随性条件設定部、(3)地震安定性条件設定部からの算出結果を受け付け、固化材の配合量を平面内に領域として印刷および/または表示して、固化材配合設計図を作製する固化材配合設計図作製部と、からなる遮水壁の固化材の配合設計装置も提供する。
【0015】
本発明は、第11に、粘土鉱物と水硬性固化材とからなる固化材と、安定液とを混合してなるソイルセメントで地下遮水壁を作製する際の固化材の配合設計装置であって、(1)透水試験結果における粘度鉱物含有率と透水係数の入力を受け付け、これら粘度鉱物含有率と透水係数の関係式を算出し、基準透水係数の入力を受け付け、粘度鉱物含有率と透水係数の関係式において基準透水係数よりも遮水壁の透水係数が小さくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する遮水性条件設定部と、(2)一軸圧縮試験結果における遮水壁の変形係数と固化材の配合量の入力を受け付け、これら遮水壁の変形係数と固化材の配合量との関係式を算出し、基準変形係数の入力を受け付け、遮水壁の変形係数と固化材の配合量との関係式において基準変形係数よりも遮水壁の変形係数が小さくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する変形追随性条件設定部と、(3)地震シミュレーション試験結果における遮水壁に発生する最大主応力差と周辺地盤の変形係数と遮水壁の変形係数の入力を受け付け、これら最大主応力差と周辺地盤の変形係数と遮水壁の変形係数との関係式を算出し、周辺地盤の特定変形係数の入力を受け付け、一軸圧縮試験結果における遮水壁の強度と遮水壁の変形係数と固化材の配合量の入力を受け付け、これら遮水壁の強度と固化材の配合量との関係式、および、遮水壁の変形係数と固化材の配合量との関係式を算出し、基準安全率の入力を受け付け、前記関係式、前記周辺地盤の特定変形係数および基準安全率を用いて、遮水壁の強度が周辺地盤との最大主応力差に安全率を乗じた値よりも大きくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する地震安定性条件設定部と、(4)(1)遮水性条件設定部、(2)変形追随性条件設定部、(3)地震安定性条件設定部からの算出結果を受け付け、固化材の配合量を平面内に領域として印刷および/または表示して、固化材配合設計図を作製する固化材配合設計図作製部と、からなる遮水壁の固化材の配合設計装置をも提供する。
【発明の効果】
【0016】
上記第1の発明によれば、遮水性条件、変形追随性条件及び地震安定性条件を設定し、それらの条件を満たすように、固化材中の粘土鉱物と水硬性固化材の配合比率及びその固化材の添加量を決定するため、安定した遮水性を有し、遮水性を著しく下げてしまうような変形を伴わず、さらに地震にも安全である遮水壁を容易に配合することができる。
【0017】
上記第2〜8の発明によれば、作製された遮水壁の性質(遮水性、変形性、安全性)をより信頼性の高いものとすることができる。
【0018】
さらに、上記第9の発明によれば、ソイルセメントにおける固化材の配合設計を容易にすることができる。
【0019】
そして、上記第10、11の発明によれば、固化材の配合設計を装置によって行うことができ、より簡便で確実に遮水壁を配合設計することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
従来、遮水壁をいかなる強度で固化するかに関しては、理論的に明確化されてはいなかったが、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、(i)遮水性条件、(ii)変形追随性条件、(iii)地震安定性条件について検討している際、以下の知見を導き出し、本発明に至ったものである。
【0021】
(i)遮水性条件については、透水試験を行った結果、粘土鉱物含有率と透水係数の関係は、逆比例関係の示すことを見出した。従って、粘土鉱物含有率と透水係数とは関数で導くことができ、その関数を用れば、基準となる透水係数よりも遮水壁の透水係数が小さくなるような粘土鉱物含有率を不等式として導くことができる。ここで、粘土鉱物含有率は、固化材の配合量によって決定されるので、(i)遮水性条件は、固化材の配合量による不等式とすることができるのである。
【0022】
(ii)変形追随性条件については、一軸圧縮試験を行うことによって、遮水壁の変形係数は固化材の配合量によって決定され、等式を導くことができるが、ここで、遮水壁の変形係数を大きくすると破壊時に脆性破壊を生じ、遮水壁にクラックが入り遮水性を損なうが、遮水壁の変形係数を小さくし破壊時に延性破壊を生じる状態に固化させると透水に影響するクラックは入り難いことを見出した。したがって、脆性−延性の境界となる基準変形係数よりも小さくなるように、前記等式から不等式へと導き、(ii)変形追随性条件は、固化材の配合量による不等式とすることができるのである。
【0023】
(iii)地震安定性条件については、遮水壁が地震動に対して安定であるには、遮水壁の強度が任意の地震動により遮水壁に発生する最大主応力差に安全率を乗じた値よりも大きくする必要がある。ここで、地震シミュレーション試験を行うことによって、遮水壁に発生する最大主応力差を周辺地盤の変形係数と遮水壁の変形係数によって導き出すことができることを見出した。そして、周辺地盤の変形係数は、調査すればわかることであり、また、一軸圧縮試験を行えば、遮水壁の強度と固化材の配合量との関係は導くことができ、さらに、前記のように、遮水壁の変形係数と固化材の配合量との関係も導くことができる。したがって、遮水壁の強度が任意の地震動により遮水壁に発生する最大主応力差に安全率を乗じた値よりも大きくするという不等式は、固化材の配合量を用いた不等式とすることができるのである。
【0024】
これら(i)〜(iii)の条件は、固化材の配合量によって表された不等式であるので、全ての不等式を満足するような固化材の配合量を選択すればよい。例えば、固化材の配合量をx、yの変数で表現すれば、不等式はx−y平面に領域として表現することができる。最終的には、コスト等も踏まえた上で、x、yをその領域内からピックアップすればよいので、容易に固化材の配合量を決定することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づいて詳細に説明する。
【0026】
実際に粘土鉱物と水硬性固化材とからなる固化材と、安定液とを混合してなるソイルセメントを作製し、(i)遮水性条件、(ii)変形追随性条件、(iii)地震安定性条件を設定する方法を説明する。
【0027】
なお実施例においては、遮水壁用のソイルセメントは以下のような構成とした。
・安定液・・・気泡安定液(掘削土と水と気泡の混合体)
・固化材・・・粘土鉱物:ベントナイト、水硬性固化材:ポルトランドセメント
まず、前提として、安定液に対する固化材の重量比率x、および、水硬性固化材に対する粘土鉱物の重量比率yと定義すれば、x、yは以下の式(1)および式(2)のように表すことができる。
【0028】
【数1】

【0029】
【数2】

<遮水性条件の設定>
遮水性条件は遮水壁の使用目的により決まる数値であり、透水係数kで表示できる。例えば、最終処分場に構築する遮水壁の透水係数kは、「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令」によるとk≦10−6cm/sと定められている。そこで、k≦10−6cm/sとなる透水係数kとなるように、固化材中の粘土鉱物と水硬性固化材の配合比率及びその固化材の添加量を決める条件式を導くことができる。この際は、透水試験の結果を用いて導くことができる。
【0030】
まず、x=0.5、1.0、1.5、2.0、y=1、2、3、4、5、6を組み合わせて、透水試験を行った。ここで、固化材中の粘度鉱物としてはベントナイトを用いた。
【0031】
まず、固化材中のベントナイトの含有率Bは式(3)で表される。
【0032】
【数3】

ベントナイト含有率Bと透水係数kの関係は透水試験によると図1となった。
【0033】
図1より透水係数kとベントナイト含有率Bは逆比例関係になることがわかる。遮水壁の定められた透水係数kをk≦10−6cm/sとすると、図1からベントナイトの含有率B≧0.3とすることができるので、式(3)にB≧0.3を代入すると遮水性条件の条件式は以下のように式(4)となる。
【0034】
【数4】

<変形追随性条件の設定>
遮水壁の変形係数Ecbを大きくすると破壊時に脆性破壊を生じ、遮水壁にクラックが入り遮水性を損なうが、遮水壁の変形係数Ecbを小さくし破壊時に延性破壊を生じる状態に固化させると透水に影響するクラックは入り難い。そこで、変形追随性条件としては破壊時に延性破壊を生じるようにするための条件式は以下のように決定することができる。
【0035】
変形追随性条件は試験結果を用いて以下のように算定する。
【0036】
まず、一軸圧縮試験によると、xおよびyに関する変形係数Ecbは、図2のようになった。
【0037】
図2から変形係数Ecbは、x、yを用いて式(5)とすることができる。
【0038】
【数5】

また、ベントナイトとセメントの混合物から成り立つ固化材を使用した場合、固化体の変形係数Ecb≦20000kN/mの場合には延性破壊状態となることを目視及び応力−歪みの関係より確認した。したがって、実験によると延性破壊は変形係数Ecb≦20000kN/mで生じているので、式(5)にこれを代入してまとめれば、以下のように式(6)となる。
【0039】
【数6】

したがって、延性破壊となる変形追随性条件の条件式は式(6)となる。
【0040】
<地震安定性条件の設定>
地震安定性条件としては、遮水壁が地震動に対して安定である条件が、遮水壁の強度quが地震動により遮水壁に発生する最大主応力差qmaxに安全率Fsを乗じた値よりも大きい場合とすることができる。この関係を条件式とする。そして、遮水壁周辺地盤の変形係数Es及び遮水壁の変形係数Ecbを既知とすると、地震動により遮水壁に加わる最大主応力差qmaxは容易に計算できる。
【0041】
遮水壁の強度quが地震動により遮水壁に発生する最大主応力差qmaxに安全率Fsを乗じた値よりも大きい場合は、式(7)のように表される。
【0042】
【数7】

まず、一軸圧縮試験を行い、一軸圧縮強度quとx、yとの関係を算出する。一軸圧縮試験結果より、一軸圧縮強度quをx、yについてまとめると図3のようになる。
【0043】
図3より、一軸圧縮強度quをx、yについての式とすると、以下のような式(8)となる。
【0044】
【数8】

次いで、地震シミュレーション試験によって、遮水壁に発生する最大主応力差qmaxを周辺地盤の変形係数Esと遮水壁の変形係数Ecbについて測定した。地震シミュレーション試験は、地震時応答解析ソフト(PLAXIS)を用いた。ここで、周辺地盤の変形係数Esと遮水壁の変形係数Ecbは適宜設定すればよく、例えば周辺地盤の変形係数Esは、20000kN/m≦Es≦50000kN/mとして、遮水壁の変形係数Ecbは、5000kN/m≦Ecb≦20000kN/mとして、それぞれ3点以上設定して測定することが望ましく、今回は同範囲でそれぞれ4点ずつ設定した。なお、解析に用いた地震波形は1990年2月28日に米国ロサンジェルスで記録されたマグニチュード5.4、最大加速度239.90cm/sの地震動を使用した。地震シミュレーション試験を図4に示す。
【0045】
図4より、最大主応力差qmaxは式(9)で現される。
【0046】
【数9】

式(5)、(8)、(9)及び安全率Fs=1.44を、式(7)に代入し、整理すると式(10)になる。ここで、安全率Fsは、一軸圧縮試験の強度が正規分布に従って発現するとして,試験全体の80%以上が目標値を超える値となるように、割増係数1.2とし、さらに地震動に対する安全率を1.2とし、1.44としている。
【0047】
【数10】

よって、式(10)が、遮水壁が地震動に対して安全であるための条件式である。
【0048】
前述してきた、遮水性条件、変形追随性条件、および地震安定性条件をまとめると、以下のようになり、これらの条件を満たすようにx、yを選定することにより、固化材の選定が合理的にできる。
【0049】
【数11】

例えば、仮に周辺地盤は通常の硬さと仮定し、変形係数をEs=21000kN/mとすると、遮水性条件、変形追随性条件、地震安定性条件のすべてを満たすxとyの範囲は、図5の斜線部分となる。なお、実際の設計においてはこの斜線範囲内において、さらに経済性を考慮してx、yを選定することが望ましい。この斜線範囲内においてx、yを設定すれば、安定した遮水性を有し、遮水性を著しく下げてしまうような変形を伴わず、さらに地震にも安全である遮水壁を容易に配合することができる。
【0050】
以上の実施例のようにして、本発明の遮水壁の固化材の配合設計方法を行うことができるが、図6の構成ブロック図で示されるような配合設計装置において、図7の処理フローチャートで示されるように固化材の配合設計を行うこともできる。上記配合設計装置を用いて配合設計を自動化することで、必要となるデータの入出力のみで配合設計図が作製され、その配合設計図から適宜配合量を決定することが可能となり、遮水壁の固化材の配合設計はさらに確実で簡便なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ベントナイト含有率Bと、透水係数kとの関係を示した図である。
【図2】変形係数Ecbと、xおよびyとの関係を示した図である。
【図3】一軸圧縮強度quと、xおよびyとの関係を示した図である。
【図4】遮水壁に発生する最大主応力差qmaxと、周辺地盤の変形係数Esおよび遮水壁の変形係数Ecbとの関係を示した図である。
【図5】変形係数をEs=21000kN/mとした場合の、遮水性条件、変形追随性条件、地震安定性条件を満たすxおよびyの範囲を示した図である。
【図6】本発明の遮水壁の固化材の配合設計装置の構成ブロック図である。
【図7】本発明の遮水壁の固化材の配合設計装置による処理フローチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土鉱物と水硬性固化材とからなる固化材と、安定液とを混合してなるソイルセメントで地下遮水壁を作製する際の固化材の配合設計方法であって、安定液に対する固化材の重量比率をx、および、水硬性固化材に対する粘土鉱物の重量比率をyとして、
(i)基準の透水係数kよりも遮水壁の透水係数の方が小さくなる遮水性条件と、
(ii)遮水壁の破壊時に、遮水壁が延性破壊を起こすような遮水壁の変形係数となる変形追随性条件と、
(iii)遮水壁の強度が、地震の際に遮水壁に生ずる最大主応力差に基準安全率を乗じた値よりも大きくなる地震安定性条件と、
を設定し、前記(i)遮水性条件、(ii)変形追随性条件、(iii)地震安定性条件のそれぞれを、xとyと定数とで表現される不等式に変換し、前記不等式を全て満足するxおよびyを選択することを特徴とする遮水壁の固化材の配合設計方法。
【請求項2】
(i)遮水性条件を、xとyと定数で表現される不等式に変換する際に、透水試験結果によって、遮水性条件の不等式を導くことを特徴とする請求項1記載の遮水壁の固化材の配合設計方法。
【請求項3】
(ii)変形追随性条件を、xとyと定数で表現される不等式に変換する際に、一軸圧縮試験結果によって、変形追随性条件の不等式を導くことを特徴とする請求項1記載の遮水壁の固化材の配合設計方法。
【請求項4】
(iii)地震安定性条件を、xとyと定数で表現される不等式に変換する際に、地震シミュレーション試験結果によって、地震安定性条件の不等式を導くことを特徴とする請求項1記載の遮水壁の固化材の配合設計方法。
【請求項5】
固化材に使用する粘土鉱物は、工業製品の粘土類または自然界に存在する火山性粘性土を用いることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の遮水壁の固化材の配合設計方法。
【請求項6】
固化材に使用する水硬性固化材は、セメントまたは石膏またはスラグのいずれかを用いることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の遮水壁の固化材の配合設計方法。
【請求項7】
安定液は、掘削土と気泡と水とからなる気泡安定液であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の遮水壁の固化材の配合設計方法。
【請求項8】
固化材に使用する粘土鉱物及び水硬性材料以外に、硬化促進剤あるいは酸化鉄を加えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の遮水壁の固化材の配合設計方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の遮水壁の固化材の配合設計方法における(i)遮水性条件、(ii)変形追随性条件、(iii)地震安定性条件についてのxとyと定数で表現される不等式を、x−y平面図に領域として記した遮水壁の固化材の配合設計図。
【請求項10】
粘土鉱物と水硬性固化材とからなる固化材と、安定液とを混合してなるソイルセメントで地下遮水壁を作製する際の固化材の配合設計装置であって、
(1)基準透水係数よりも遮水壁の透水係数が小さくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する遮水性条件設定部と、
(2)基準変形係数よりも遮水壁の変形係数が小さくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する変形追随性条件設定部と、
(3)遮水壁の強度が周辺地盤との最大主応力差に安全率を乗じた値よりも大きくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する地震安定性条件設定部と、
(4)(1)遮水性条件設定部、(2)変形追随性条件設定部、(3)地震安定性条件設定部からの算出結果を受け付け、固化材の配合量を平面内に領域として印刷および/または表示して、固化材配合設計図を作製する固化材配合設計図作製部と、
からなる遮水壁の固化材の配合設計装置。
【請求項11】
粘土鉱物と水硬性固化材とからなる固化材と、安定液とを混合してなるソイルセメントで地下遮水壁を作製する際の固化材の配合設計装置であって、
(1)透水試験結果における粘度鉱物含有率と透水係数の入力を受け付け、これら粘度鉱物含有率と透水係数の関係式を算出し、基準透水係数の入力を受け付け、
粘度鉱物含有率と透水係数の関係式において基準透水係数よりも遮水壁の透水係数が小さくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する遮水性条件設定部と、
(2)一軸圧縮試験結果における遮水壁の変形係数と固化材の配合量の入力を受け付け、これら遮水壁の変形係数と固化材の配合量との関係式を算出し、基準変形係数の入力を受け付け、
遮水壁の変形係数と固化材の配合量との関係式において基準変形係数よりも遮水壁の変形係数が小さくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する変形追随性条件設定部と、
(3)地震シミュレーション試験結果における遮水壁に発生する最大主応力差と周辺地盤の変形係数と遮水壁の変形係数の入力を受け付け、これら最大主応力差と周辺地盤の変形係数と遮水壁の変形係数との関係式を算出し、周辺地盤の特定変形係数の入力を受け付け、一軸圧縮試験結果における遮水壁の強度と遮水壁の変形係数と固化材の配合量の入力を受け付け、これら遮水壁の強度と固化材の配合量との関係式、および、遮水壁の変形係数と固化材の配合量との関係式を算出し、基準安全率の入力を受け付け、
前記関係式、前記周辺地盤の特定変形係数および基準安全率を用いて、遮水壁の強度が周辺地盤との最大主応力差に安全率を乗じた値よりも大きくなるような固化材の配合量を導く不等式を算出する地震安定性条件設定部と、
(4)(1)遮水性条件設定部、(2)変形追随性条件設定部、(3)地震安定性条件設定部からの算出結果を受け付け、固化材の配合量を平面内に領域として印刷および/または表示して、固化材配合設計図を作製する固化材配合設計図作製部と、
からなる遮水壁の固化材の配合設計装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−169545(P2008−169545A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−819(P2007−819)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月1日 社団法人 土木学会発行の「第61回年次学術講演会講演概要集(CD−ROM)」に発表
【出願人】(390001421)学校法人早稲田大学 (14)
【出願人】(597057254)有限会社マグマ (10)
【出願人】(390020488)太洋基礎工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】