説明

遮熱性塗材および遮熱材

【課題】 黒色又はそれに近い濃彩色に仕上げた場合であっても遮熱性と断熱性に優れた塗装を行うを提供する。
【解決手段】 花崗岩や玄武岩等の天然珪石、コランダム、砂岩および火山石軽石等を粉砕して得られる骨材の表面に、近赤外線に対する反射率の高い顔料、例えばアゾ系、フタリシアニン系、ペリレン系等の有機顔料または酸化チタン等の無機顔料が付着してなる遮熱性骨材を含有することを特徴とする遮熱性塗材。上記遮熱性塗材は、遮熱性と断熱性に優れ、壁材、屋根材、塗装材等として好ましく使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱効果のある遮熱性塗材、および該遮熱性塗材を用いてなる遮熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
温暖化防止や省エネルギー等の観点から、道路面や屋根等の温度上昇を防止する方法が、従来、種々提案されている。特に、黒色又はそれに近い濃彩色を呈しつつ、遮熱効果を有する遮熱性塗料として、可視領域で吸収を示し近赤外領域では反射を示す顔料(以下、熱反射顔料ともいう)と、耐候性に優れるビヒクルと、シラスバルーンやセラミックバルーンといった中空構造の骨材とを含有する遮熱性塗料が知られている(特許文献1)。
斯かる公報記載の遮熱性塗料によれば、熱反射顔料を塗料中に添加することによって近赤外線を反射し、しかも中空構造の骨材を用いることによって断熱性を高めることができる、とされている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−129172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の遮熱性塗料では、シラスバルーンやセラミックバルーンといった骨材の含有量を増やすと該骨材の色が目立ちやすくなる傾向にあり、しかもこれらの骨材は、一般的には白色又はそれに近い色彩であるため、該遮熱性塗料を黒色又は濃彩色に仕上げることが困難となってしまう。
また、骨材の含有量を増やすと、塗料中に含まれる熱反射顔料が骨材の陰に隠れてしまい、該熱反射顔料による近赤外線反射作用が阻害され、遮熱効果が低下しやすくなるという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、遮熱性と断熱性に優れた塗装を行うことを一の課題とし、黒色又はそれに近い濃彩色に仕上げた場合であっても遮熱性と断熱性に優れた塗装を行うこと他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意研究したところ、骨材の表面に熱反射顔料を付着させた遮熱骨材を採用することにより、該遮熱骨材の量を大幅に増やして塗材を構成した場合であっても該骨材の色を隠蔽して黒色又は濃彩色に仕上げることが可能となり、しかも該遮熱骨材の表面に付着された熱反射顔料が十分な近赤外線反射作用を発揮し、所望の遮熱効果を奏しうることを見い出した。
【0007】
即ち、本発明は、骨材の表面に熱反射顔料が付着してなる遮熱骨材を含有することを特徴とする遮熱性塗材を提供する。
【0008】
また、好ましくは、前記遮熱骨材の表面に、クリアコーティング層が形成されたことを特徴とする前記遮熱性塗材を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、基材上に、前記遮熱性塗材が塗布されてなることを特徴とする遮熱材を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る遮熱性塗材によれば、骨材の表面に熱反射顔料が付着してなる遮熱骨材を用いることにより、骨材そのものが熱反射顔料の色に着色されることとなる。よって、例えば、前記従来技術に記載されたような可視光線を吸収しつつ近赤外線を反射する顔料を熱反射顔料として骨材表面に塗布すれば、該骨材自体が黒色又はそれに近い濃彩色を呈するものとなる。従って、該骨材の含有量を大幅に増加させて塗材を構成した場合であっても、作製された塗材は黒色又はそれに近い濃彩色を呈しうるものとなる。言い換えると、同程度の濃彩色に仕上げるために必要となる骨材量を大幅に減らすことが可能となる。
【0011】
また、上記のような遮熱骨材を用いることにより、塗装面に露出した骨材の表面においては熱反射顔料に近赤外線反射作用を発揮させることができるため、該遮熱性塗材は、優れた遮熱効果を奏するものとなる。
【0012】
さらに、本発明の遮熱性塗材を塗布してなる遮熱材は、前記従来技術の如き塗料を塗布してなる遮熱材と比べて骨材を多量に含有するために途膜の厚みが厚く、しかも、該途膜を構成する骨材と骨材の間には、細かな隙間や気泡が含まれた構成となるため、従来の熱反射塗料と比べて断熱効果が格段に優れたものとなる。
【0013】
このように、本発明によれば、遮熱性と断熱性とを併せ持つ優れた壁材、屋根材、舗装材等の遮熱材と、これを構成するための遮熱性塗材を提供することが可能となり、黒色又はそれに近い濃彩色に仕上げる場合であっても同様の効果を奏するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
本発明において用いる熱反射顔料としては、紫外線および可視光線に対する吸収率が高く、近赤外線に対する反射率が高い顔料を好適に使用できる。中でも、JIS A 5759に規定された日射反射率が12%以上、好ましくは15%以上であり、CIE1976L***色空間におけるL*値が20以下、好ましくは24以下の顔料であるものを特に好適に使用できる。
【0016】
このような条件を満たす顔料としては、アゾ系、フタリシアニン系、金属錯体型系、ペリレン系、インジオ系等の有機顔料、酸化チタン系、酸化鉄系、複合酸化物系等の無機顔料などのうち、上記特性を有するものが挙げられる。
市販品としては、例えば、商品名「MHIブラック」(御国色素社製)や、商品名「クロモファインブラックA−1103」(大日精化工業社製)などが使用できる。
また、これらの顔料を分散剤中に均一に分散させてなるペースト状の顔料を使用することも可能であり、これによって骨材表面への着色状態をより一層均一化させることができる。さらに、耐候性に優れるという観点では、無機系の顔料が好適に使用できる。
【0017】
斯かる熱反射顔料を骨材表面に付着させる方法としては、特に限定されず、任意の方法を採用しうるが、例えば、樹脂中に該熱反射顔料を分散させて熱反射顔料分散樹脂を調製し、該熱反射顔料分散樹脂と骨材とを混合する方法が好適である。
この方法においては、下記式によって求められる顔料の総体積比率(ピグメントボリュームコンテント、以下、「PVC」という)が、20〜30(%)となる割合で熱反射顔料分散樹脂を調製することが好ましい。

PVC={顔料体積/(樹脂体積+顔料体積)}×100
【0018】
上記のようなPVCの範囲で熱反射顔料分散樹脂を調製し、これを骨材と混合することにより、骨材表面が熱反射顔料によって均一に着色されて骨材自体の色が隠蔽されやすくなり、しかも色落ちし難いという効果がある。
【0019】
また、本発明において用いる骨材としては、各種公知の塗材用の骨材を使用することができ、具体例としては、花崗岩や玄武岩等の天然珪石、コランダム(鋼玉)、砂岩、火山石軽石、ガラス等の粉砕物が挙げられる。
【0020】
また、該骨材の平均粒径は、0.1〜5mmが好適である。平均粒径が0.1以上であることにより、前記熱反射顔料と比べて十分に粒径が大きくなり、熱反射顔料による骨材表面の着色を安定させることができ、しかも樹脂と混合して基材上へ塗布する際に骨材同士がほぐれ易く、塊が生じ難いという効果がある。また、平均粒径が0.5mm以下であることにより、骨材表面形状に起因する濃淡が生じ難く色相制御が容易となり、塗布する際に用いる吹付け用機器の吐出口の閉塞をも防止できる。
【0021】
骨材の表面に熱反射顔料を塗布した後には、さらに、その上から無色透明樹脂によってクリアコーティング層を形成することが好ましい。無色透明樹脂としては、アクリル系共重合樹脂やウレタン樹脂、エポキシ樹脂、或いはこれらの樹脂のシリコン変性型を使用することができる。これらの無色透明樹脂は、骨材表面への付着強度が高く強靭な被膜を形成することができ、しかも耐候性にも優れたものであるため、骨材表面からの耐候性顔料の脱落を防止することができる。よって、熱反射顔料の上からこのようなクリアコーティング層を形成することにより、機械せん断や骨材同士の衝突による磨耗に強くなり、高速攪拌機を使用して塗材を混練することが可能となる。
【0022】
該無色透明樹脂としては、溶媒が蒸発した後に皮膜化する1液タイプのものや、硬化剤と混合して使用することにより反応硬化する2液タイプのもの等を使用できる。2液タイプのものとしては、アクリルポリオールにポリイソシアネートを硬化剤として混合するアクリルウレタン系樹脂、エポキシ樹脂にポリアミンやポリアミドを配合したものなどが好適である。
【0023】
また、前記熱反射顔料による作用を妨げない範囲内であれば、該骨材表面を任意の色相に着色することも可能である。着色に用いる着色顔料としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、金属錯塩型顔料、トリフェニルメタン系顔料等の有機顔料や、亜鉛華、、鉛白、リトポン、カーボンブラック、鉛丹、べんがら、黄鉛(クロムイエロー)、群青(ウルトラマリン)、紺青、亜鉛黄(ジンククロメート)、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、二酸化チタン等の無機顔料などを使用することができる。特に、耐候性に優れるという観点から、無機顔料が好適に使用できる。
【0024】
着色顔料は、前記熱反射顔料の塗布に先立って塗布し、無色透明樹脂によるクリアコーティング層を形成してもよいし、前記熱反射顔料と同時に塗布し、無色透明樹脂によるクリアコーティング層を形成してもよい。
【0025】
本発明に係る遮熱性塗材を構成するバインダー樹脂としては、塗布対象となる基材上に、前記遮熱骨材を含む途膜を形成しうるものであれば特に限定されず、種々の樹脂材料を使用することができる。該バインダー樹脂としては、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、又はこれらの樹脂のシリコン変性型が好適であり、水系又は溶剤系のいずれのタイプでも使用することができる。
【0026】
本発明に係る遮熱性塗材は、前記遮熱骨材100重量部に対し、該バインダー樹脂の固形分を好ましくは20〜50重量部、より好ましくは30〜40重量部含有して構成される。
【0027】
さらに、本発明に係る遮熱材は、基材上に上記のような遮熱性塗材が塗布されてなるものである。基材としては、各種建材や土木材料等を使用することができ、製造された遮熱材は、家屋や工場等の屋根材、壁材、又は床材、或いは、道路や歩道を構成する舗装材などとして使用することができる。
【0028】
遮熱性塗材の厚みは、各種用途に応じて任意に設定できるが、例えば、屋根材として用いる場合には、概ね0.1〜0.6mm、好ましくは0.1〜0.3mmとし、舗装材として用いる場合には、概ね0.5〜5mm、好ましくは1〜5mmとする。
屋根材として用いる場合に該遮熱性塗材の厚みを上記範囲とすることにより、前記遮熱骨材による遮熱効果に加えて断熱性にも優れたものとなり、建物の内部温度を大幅に低下させることができる。また、骨材を用いた塗材は、塗料とは異なる優れた質感を有するものであるため、屋根の意匠性向上にも寄与しうるものとなる。
【0029】
遮熱性塗材を基材上に塗布する方法としては、吹き付けによる施工や、コテによる施工が可能である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の遮熱性塗材および遮熱材について、実施例および比較例を挙げて更に詳細に説明する。
【0031】
(遮熱骨材の製造例1)
熱反射顔料分散樹脂の調製
アクリルポリオール樹脂(住友バイエルウレタン社製、デスモフェンA365)1000重量部と、熱反射顔料として複合酸化物系無機顔料(御国色素社製、MHIブラック)109.1重量部と、エステルエーテル系の溶剤であるプロピレングリコール59.3重量部とを高速で攪拌混合し、熱反射顔料分散樹脂を調製した。
尚、顔料の真比重が1.8、樹脂の真比重が1.1であるため、本製造例のPVCは、10(%)であった。
【0032】
遮熱骨材の作製
次いで、骨材として淡路硅砂(山川産業社製、A−4号)1000重量部と、前記熱反射顔料分散樹脂6.2重量部と、硬化剤であるポリイソシアネート(住友バイエルウレタン社製、スミジュールN3300)6.3重量部と、シランカップリング材(東芝シリコン社製、TSL−8350)0.1重量部と、有機スズ系触媒(三共有機合成社製、SCAT−1)0.01重量部とをモルタルミキサーで攪拌混合し、その後、乾燥させることにより、遮熱骨材を作製した。
【0033】
(遮熱骨材の製造例2)
PVCを20(%)とすべく、熱反射顔料を245.5重量部として熱反射顔料分散樹脂を調製すること、そして該熱反射顔料分散樹脂を7.9重量部使用することを除き、他は製造例1と同様にして遮熱骨材を作製した。
【0034】
(遮熱骨材の製造例3)
PVCを30(%)とすべく、熱反射顔料を420.8重量部として熱反射顔料分散樹脂を調製すること、そして該熱反射顔料分散樹脂を10.2重量部使用することを除き、他は製造例1と同様にして遮熱骨材を作製した。
【0035】
(遮熱骨材の製造例4)
PVCを40(%)とすべく、熱反射顔料を654.5重量部として熱反射顔料分散樹脂を調製すること、そして該熱反射顔料分散樹脂を13.2重量部使用することを除き、他は製造例1と同様にして遮熱骨材を作製した。
【0036】
製造例1〜4の遮熱骨材に関し、熱反射顔料分散樹脂の原料配合、及び遮熱骨材の原料配合1を、それぞれ下記表1および表2に示す。
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
製造例1〜4の遮熱骨材を観察したところ、製造例1では熱反射顔料が骨材表面を完全に被覆しておらず、骨材表面が一部露出していることが認められた。これに対し、製造例2〜4では熱反射顔料いよって骨材表面が完全に被覆されており、骨材そのものの色が完全に隠蔽された状態で着色されていることが確認できた。ただし、製造例4では、骨材表面に熱反射顔料が多層に付着し、高速攪拌時に上層の顔料が剥がれ落ちる傾向にあることがわかった。
【0039】
(遮熱性塗材の実施例)
前記製造例2の遮熱骨材100重量部と、アクリル系樹脂エマルション(山本窯業化工(株)製、「セラグラニー結合材」)30重量部とを高速攪拌機で攪拌混合し、実施例の遮熱性塗材を調製した。
【0040】
(一般的な塗材による比較例)
遮熱性顔料に代えてカーボンブラックを用いることを除き、他は前記製造例2と同様にして着色骨材を調製し、該着色骨材100重量部と、アクリル系樹脂エマルション(同上)とを高速攪拌機で攪拌混合し、比較例としての一般的な塗材を調製した。
【0041】
熱反射率の測定
溶剤系ウレタンシーラーを塗装したアルミニウム板に、実施例および比較例の塗材を2mmの厚みで鏝塗りした後、7日間自然乾燥させて試験体を作製し、分光光度計(日立製作所製、U−3500)を用いてJIS R 3106に規定された日射反射率を測定した。
【0042】
白熱灯ランプ照射による温度測定
同様の試験体を用い、該試験体の塗材面より150mmの距離から東芝レフランプ95Wで20分間照射し、該塗材面の温度が一定となった際の温度(白熱灯ランプ照射温度)を測定した。
結果を下記表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3に示したように、本発明の実施例においては熱反射率が大きく、白熱灯ランプを照射した際の温度上昇も低く抑えられることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材の表面に熱反射顔料が付着してなる遮熱骨材を含有することを特徴とする遮熱性塗材。
【請求項2】
前記遮熱骨材の表面に、クリアコーティング層が形成されたことを特徴とする請求項1記載の遮熱性塗材。
【請求項3】
基材上に、請求項1又は2に記載の遮熱性塗材が塗布されてなることを特徴とする遮熱材。

【公開番号】特開2007−217586(P2007−217586A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40634(P2006−40634)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(391041338)山本窯業化工株式会社 (2)
【Fターム(参考)】