説明

遮熱性採光シート

【課題】太陽輻射に含まれる近赤外線〜可視光領域の波長の内、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換することで遮熱性を有し、可視光領域の光は透過し、かつ透過した可視光と、近赤外線領域波長から変換した可視光領域波長の光を合わせることで高い採光性を有するシートの提供。
【解決手段】本発明の遮熱性採光シートは、近赤外線遮蔽層を含む可撓性シートであって、前記近赤外線遮蔽層が、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する波長変換材料を含む合成樹脂組成物と、前記波長変換材料を含まない合成樹脂組成物との非相溶混合体からなる海島分散構造によって形成された非相溶樹脂層であることによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮熱性と採光性に優れたシートに関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は、可視光領域の光線透過性が高く、かつ、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換することで、遮熱性を示すと共に採光性も向上し、特に日除けテント、日除けモニュメント、イベント用大型テント、農園芸用ハウス、装飾テント、ブラインド、シートシャッター、間仕切り、テント倉庫、トラック幌等に好適に用いられる、遮熱性と採光性に優れたシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維基布に可撓性樹脂が被覆されてなる光透過性または半透過性のシートは、日除けテント、日除けモニュメント、イベント用大型テント、農園芸用ハウス、装飾テント、ブラインド、シートシャッター、間仕切り、テント倉庫、トラック幌等、日常生活に係わる用途に広く利用されている。しかしながら、これらのシートは、太陽光線に含まれる近赤外線を遮蔽する能力が低いため、テント倉庫などの構造物においては、夏季に内部の気温が極度に上昇して、作業環境を過酷なものとしている。また日除けテントでは、まぶしさを防ぎ、紫外線を減少させるには効果的であるが、冷涼効果には乏しいのが実情である。
【0003】
この様なシートにおいて、酸化チタン等の無機白色顔料を含有する白色のシートを用いることによって、太陽光線が含む近赤外線を散乱させてその透過を防ぎ、遮熱性を示すことが知られている。しかし、十分な遮熱効果を得るためには、多量の白色顔料を用いる必要があり、そのためこの様なシートを用いた構造体の内部環境が暗くなり、日中でも照明が必要となる。
【0004】
これに対して本発明者は、屈折率1.8以上、粒子径分布0.3〜3.0μm、アスペクト比1.0〜3.0不定形無機化合物粒子を用いた採光性を有する遮熱シートを提案した。(特許文献1参照)この不定形無機化合物粒子は近赤外線を選択的に散乱しながら、可視光は透過することで遮熱性と採光性を同時に得る事を可能とするものである。この遮熱シートは従来のシートに比べ表面温度が10〜15℃低く、レベルの高い熱制御機能を発現し、かつ採光性も有するものであるが、曇天或いは雨天時の屋内作業性の観点から、更なる採光性の向上が望まれている。
【0005】
近年、近赤外線領域波長を吸収して励起され、基底状態に戻る際にエネルギーを可視光領域波長の光として放出する波長変換材料が注目されており、バイオ・医療関連、ディスプレイ関連、偽造防止関連などに応用が検討されている。(特許文献2〜4参照)この波長変換材料を含有する樹脂からなるシートを用いれば、太陽輻射に含まれる近赤外線を吸収して遮熱性を示す効果が期待され、しかも、吸収した近赤外線を可視光領域波長の光として放出(即ち発光)するため、このシートを用いたテント構造物内部空間を明るくする効果も期待できる。しかし、単に波長変換材料を樹脂に混ぜただけでは、遮熱効果を得る事はできるものの、以下の二つの理由により、テント構造物内部空間を明るくする効果は十分ではなかった。
(1)十分な遮熱性を有するシートを得るために波長変換材料を高充填にすると、波長変
換材料により可視光線の透過が妨げられる。
(2)シートの表側から入射した近赤外線は、表側付近に分散した波長変換材料で吸収さ
れ、裏側付近に分散した波長変換材料にはほとんど届かず、そのため裏側付近の可視光
領域波長の放出(発光)が不十分となる。
【0006】
以上の様に、テント構造物に用いた場合に、真夏の炎天下において内部温度が極度に上昇することを防ぐ優れた遮熱性を有し、しかも曇天或いは雨天時の屋内作業が可能な採光性を併せ持ったシートは、これまで提供されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−055177号公報
【特許文献2】特開2008−285384号公報
【特許文献3】特開2008−266628号公報
【特許文献4】特開2005−082770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、太陽輻射に含まれる近赤外線〜可視光領域の波長の内、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換することで遮熱性を有し、可視光領域波長の光は透過し、かつ透過した可視光と、近赤外線領域波長から変換した可視光領域波長の光を合わせることで高い採光性を有するシートを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討の結果、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する波長変換材料を含む合成樹脂組成物と、前記波長変換材料を含まない合成樹脂組成物との非相溶混合体からなる海島分散構造によって形成された非相溶樹脂層を近赤外線遮蔽層として含むことで、遮熱性と採光性とを高いレベルで両立させたシートが得られる事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の遮熱性採光シートは、近赤外線遮蔽層を含む可撓性シートであって、前記近赤外線遮蔽層が、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する波長変換材料を含む合成樹脂組成物と、前記波長変換材料を含まない合成樹脂組成物との非相溶混合体からなる海島分散構造によって形成された非相溶樹脂層からなるものである。本発明の遮熱性採光シートは、前記近赤外線遮蔽層が、前記近赤外線遮蔽層が、前記波長変換材料を含む合成樹脂組成物と、近赤外線散乱着色剤を含む合成樹脂組成物との非相溶混合体からなる海島分散構造によって形成された非相溶樹脂層であることが好ましい。本発明の遮熱性採光シートは、前記海島分散構造において、海成分が前記波長変換材料を含んでいてもよい。本発明の遮熱性採光シートは、前記海島分散構造において、島成分が前記波長変換材料を含んでいてもよい。本発明の遮熱性採光シートにおいて、前記波長変換材料が、CaAlSiO、YSiO、BaMgSi、MgAl、SrAl、SrAl1425、BaMgAl1627、YAl12、Y、YAlO、LaCl、YCl3、BaCl、LaF、YF、YS、LaS、GaSから選ばれた1種以上の無機系母体材料に、賦活剤としてエルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、およびセリウム(Ce)から選ばれた1種または2種以上の希土類元素をドープした無機蛍光体微粒子であることが好ましい。本発明の遮熱性採光シートにおいて、前記波長変換材料が、金属ポルフィリン、金属フタロシアニン、アルキルポルフィリン、ポルフィリン錯体、アルキルポルフィリン−金属錯体、フタロシアニン錯体、ポルフィリン又はフタロシアニン分子のアレー及び二量体/ポリマを含むポルフィリン及びフタロシアニンから選ばれた1種以上の有機系母体材料に、発光体としてポリフルオレン、オリゴフルオレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフェニレンエチニレン、ポリパラフェニレンから選ばれた1種以上の有機化合物を配位してなる有機蛍光体微粒子であることが好ましい。本発明の遮熱性採光シートにおいて、前記波長変換材料が、Au,Ag,Al,Cu,Pt,Pdからなる群から選択される1種または2種以上の金属、もしくはこれらの金属を含む合金からなり、平均粒子径が1〜100nmの金属ナノ粒子を含むことが好ましい。本発明の遮熱性採光シートにおいて、前記波長変換材料を含む合成樹脂組成物が、Au,Ag,Al,Cu,Pt,Pdからなる群から選択される1種または2種以上の金属、もしくはこれらの金属を含む合金からなり、平均粒子径が1〜100nmの金属ナノ粒子を含むことが好ましい。本発明の遮熱性採光シートにおいて、前記近赤外線散乱着色剤が、チタン酸化物、亜鉛酸化物、スズ酸化物、ジルコニウム酸化物、インジウム酸化物、三酸化アンチモン、クロム酸化物、鉄酸化物、スズドープ酸化インジウム、インジウムドープ酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズから選ばれた金属酸化物、及び、ルチル型、ヘマタイト型、またはスピネル型構造構造を有し、チタン、亜鉛、アンチモン、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マグネシウム、銅、マンガン、アルミニウム、ニオブ、及びケイ素の内2種以上の成分を含む金属複合酸化物、から選ばれた1種または2種以上を含むことが好ましい。本発明の遮熱性採光シートにおいて、前記可撓性シートが、繊維基布を含む積層体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、太陽輻射に含まれる近赤外線〜可視光領域の波長の内、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換することで遮熱性を有し、可視光領域の光は透過し、かつ透過した可視光と、近赤外線領域波長から変換した可視光領域波長の光を合わせることで採光性に優れる遮熱性採光シートの提供が可能となる。この遮熱性採光シートを日除けテント、日除けモニュメント、イベント用大型テント、農園芸用ハウス、装飾テント、ブラインド、シートシャッター、間仕切り、テント倉庫、トラック幌等に用いることで、従来のシートでは得られなかった、涼しく、かつ明るい環境を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の遮熱性採光シートの一例を示す図
【図2】本発明の遮熱性採光シートの一例を示す図
【図3】本発明の遮熱性採光シートにおける近赤外線遮蔽層の一例を示し、海成分が 波長変換材料を含む状態を示す図
【図4】本発明の遮熱性採光シートにおける近赤外線遮蔽層の一例を示し、島成分が 波長変換材料を含む状態を示す図
【図5】本発明の遮熱性採光シートにおける近赤外線遮蔽層の一例を示し、海成分が 波長変換材料を含み、島成分が近赤外線散乱着色剤を含む状態を示す図
【図6】本発明の遮熱性採光シートにおける近赤外線遮蔽層の一例を示し、海成分が 波長変換材料と金属ナノ粒子を含み、島成分が近赤外線散乱着色剤を含む状態 を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の遮熱性採光シートは、近赤外線遮蔽層を含む可撓性シートであって、その形態は、樹脂シート(樹脂フィルム)、または、ターポリン、帆布等の防水性シートである。このうち樹脂シートは、カレンダー成型法、Tダイス押出法、あるいはキャスティング法により製造することができ、近赤外線遮蔽層単層であっても良く、近赤外線遮蔽層を含む複数の樹脂シートを積層した積層体であっても良い。ターポリン、帆布等の防水性シートは、近赤外線遮蔽層と繊維基布とを含む積層体であり、近赤外線遮蔽層は繊維基布の一方の面のみに形成されても良く、両面に形成されても良い。帆布は、有機溶剤に可溶化した可撓性樹脂、水中で乳化重合された可撓性樹脂エマルジョン(ラテックス)、あるいは可撓性樹脂を水中に強制分散させ安定化したディスパージョン樹脂などの水分散樹脂、軟質ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾル、等を用いるディッピング加工(繊維布帛への両面加工)、及びコーティング加工(繊維布帛への片面加工、または両面加工)等によって製造することができる。ターポリンはカレンダー成型法、Tダイス押出法またはキャスティング法により成型された樹脂フィルム又は樹脂シートを、繊維基布の片面または両面に接着層を介在して積層する方法、あるいは粗目状の繊維基布の両面に目抜け空隙部を介して熱ラミネート積層する方法により製造することができ、さらにディッピング加工、またはコーティング加工と、樹脂フィルム積層の組み合わせによっても実施可能である。
【0014】
本発明の遮熱性採光シートは、強度、耐久性、寸法安定性などを付与するために、繊維基布を含む積層体、具体的には上述のターポリンおよび帆布である事が好ましい。繊維基布に用いられる繊維としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維などの合成繊維、木綿、麻などの天然繊維、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維などの無機繊維が挙げられ、これらは単独または2種以上からなる混用繊維によって構成されていてもよい。繊維基布を構成する糸条の形状はマルチフィラメント糸条、短繊維紡績糸条、モノフィラメント糸条、スプリットヤーン糸条、テープヤーン糸条などいずれであってもよい。本発明に使用される繊維基布は、織布、編布、不織布のいずれでもよい。織布を用いる場合、平織、綾織、繻子織、模紗織などいずれの構造をとるものでもよいが、平織織物は、得られる遮熱性採光シートの経緯物性バランスに優れているため好ましく用いられる。編布を用いるときはラッセル編の緯糸挿入トリコットが好ましく用いられる。これら編織物は、少なくともそれぞれ、糸間間隙をおいて平行に配置された経糸及び緯糸を含む糸条により構成された粗目状の編織物(空隙率は最大90%、好ましくは5〜50%)、及び非粗目状編織物(糸条間に実質上間隙が形成されていない編織物)を包含する。不織布としてはスパンボンド不織布などが使用できる。繊維基布には必要に応じて撥水処理、吸水防止処理、接着処理、難燃処理などが施されていても良い。
【0015】
上記の内特にガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維などの無機繊維からなる非粗目状の編織物を繊維基布として用いることで、建築基準法に規定される不燃性を有する遮熱性採光シートを得ることが可能となる。具体的には、輻射電気ヒーターを用いて50kW/mの輻射熱を照射する発熱性試験(ASTM−E1354:コーンカロリーメーター試験法)において、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、かつ加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えないことを満足する不燃性を有する遮熱性採光シートであり、例えばガラス繊維織布(目付質量200〜300g/m、空隙率1%以下の非目抜け平織)を繊維基布として、この1面以上に近赤外線遮蔽層を設けることで得られる。
【0016】
本発明において、近赤外線遮蔽層は、合成樹脂ブレンドの溶融、または合成樹脂ブレンドの液状合成樹脂の攪拌混合物により公知の加工方法によって成型される。本発明で好ましく用いられる合成樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、オレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂(PET,PEN,PBTなど)、ポリエステル系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など、近赤外線領域波長及び可視光領域波長の光の透過性が高く可撓性のある熱可塑性樹脂および硬化性樹脂が好ましく用いられる。
【0017】
本発明の近赤外線遮蔽層は、合成樹脂の非相溶混合体からなる海島分散構造によって形成された非相溶樹脂層であり、混合する合成樹脂の組み合わせについて、非相溶であれば特に制限はない。非相溶の組合せとしては、塩化ビニル樹脂とポリエチレン、塩化ビニル樹脂とポリプロピレン、塩化ビニル樹脂とスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂とスチレン系共重合体樹脂、塩化ビニル樹脂とシリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂とフッ素含有共重合体樹脂、塩化ビニル樹脂とビニルエステル樹脂、スチレン樹脂とポリエチレン、スチレン樹脂とポリプロピレン、ウレタン樹脂とポリエチレン、ウレタン樹脂とポリプロピレン、ポリエステル樹脂とポリエチレン、ポリエステル樹脂とポリプロピレン、ポリアミドとポリカーボネート、アクリル樹脂とスチレン樹脂、アクリル樹脂とポリカーボネート、ポリアミドとスチレン樹脂、ポリアミドとポリプロピレンなど、非相溶の可撓性樹脂対が例示される。また、これらの非相溶の可撓性樹脂対に対して、さらに別種の可撓性樹脂を含有することもできる。
【0018】
これらの非相溶樹脂層は相分離構造を示す白濁概観の海島分散構造であることが好ましい。この海島分散構造において海成分と島成分は種類の異なる樹脂で構成され、例えば合成樹脂Aと合成樹脂Bからなる非相溶混合物において、合成樹脂Aと合成樹脂Bとの比率設定により、海成分を合成樹脂Aで構成し、島成分を合成樹脂Bで構成することができ、また海成分を合成樹脂Bで構成し、島成分を合成樹脂Aで構成することもできる。ここで、近赤外線遮蔽層を形成する島成分が波長変換機能を有すること、もしくは海成分が波長変換機能を有することが望ましく、これはすなわち、近赤外線遮蔽層が、波長変換材料を含む合成樹脂組成物と、この波長変換材料を含まない合成樹脂組成物との非相溶混合体からなる海島分散構造によって形成された非相溶樹脂層であることで、島成分あるいは海成分の一方の側が波長変換機能を有して太陽光線を受けた際に近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換して遮熱性を示し、もう一方の側が可視光領域の光を透過し、かつ透過した可視光線と、近赤外線領域波長から変換された可視光領域波長の光を合わせることで採光性に優れたシートが得られる。島成分を構成する合成樹脂組成物の比率は、海成分を構成する合成樹脂組成物の体積に対して3〜50体積%が好ましく、5〜40体積%がより好ましい。海島分散構造を有する近赤外線遮蔽層全体に対する島成分含有率は2.9〜33.3体積%が好ましく、4.7〜28.6体積%がより好ましい。海島分散構造を有する近赤外線遮蔽層全体に対する島成分含有率が2.9体積%未満では、海島分散構造を有さない場合との差が無くなり、本発明の効果を十分に得る事が出来ない。即ち、海成分に波長変換材料を含む場合の採光性が不足することがあり、島成分に波長変換材料を含む場合には近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力が不足する事がある。近赤外線遮蔽層全体に対する島成分含有率が33.3体積%を超えると、近赤外線遮蔽層の樹脂強度が低下し、得られるシートの強度や耐久性が低くなることがある。また、本発明において、海島分散構造における島成分の平均粒子径は0.4〜20μmであることが好ましい。島成分の平均粒子径がこの範囲にあることで、海成分と島成分の界面において近赤外線の屈折散乱現象を生じ、近赤外線遮蔽層中での近赤外線の散乱が増大し、波長変換材料による変換が効率よく行われる。島成分の平均粒子径が0.4μm未満であると、界面における屈折散乱現象により可視光領域の一部で光の散乱が大きくなり、採光性が低下することがある。島成分の平均粒子径が20μmを超えると、可視光領域全域に亘る散乱を起こし、採光性が低下することがある。また非相溶の可撓性樹脂対A−Bに対して、さらに別種の可撓性樹脂Cを含有する場合、海島分散構造において島成分が可撓性樹脂Bによる島成分と可撓性樹脂Cによる島成分で構成されてもよく、同様に島成分が可撓性樹脂Aによる島成分と可撓性樹脂Cによる島成分で構成されてもよい。本発明において海島分散構造を有する近赤外線遮蔽層の厚さは、0.03〜1.0mmが好ましく、0.05〜0.5mmがさらに好ましい。近赤外線遮蔽層の厚さが0.03mm未満では、十分な遮熱性が得られないことがあり、1.0mmを超えると、採光性が低下したり、柔軟なシートが得られなくなることがある。
【0019】
本発明において波長変換材料とは、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する機能を有する材料であり、これらは具体的に、750〜2100nmの波長領域の近赤外線を吸収して励起され、基底状態に戻る際にエネルギーを380〜780nmの可視光領域の光として放出する、平均粒子径が1〜750nmの無機蛍光体微粒子、及び有機蛍光体微粒子である。また、本発明に用いる波長変換材料は、これらの蛍光体微粒子を無機マトリクス中に分散させた無機マトリクス発光体粒子、あるいは、ガラス粒子の内部または表面に蛍光体を担持するガラス発光体粒子などの複合加工体であってもよい。
【0020】
近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する機能を有する材料としては、(A)の無機蛍光体微粒子、および(B)の有機蛍光体微粒子を例示する事ができ、(A)および(B)の内から1種または2種以上を選択して用いる事ができる。
(A)CaAlSiO、YSiO、BaMgSi、MgAl、SrAl、SrAl1425、BaMgAl1627、YAl12、Y、Al、YAlO、SiO、Ta、LaCl、YCl3、BaCl、LaF、YF、YS、LaS、GaSから選ばれた1種以上の無機系母体材料に、賦活剤として、エルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、およびセリウム(Ce)から選ばれた1種または2種以上の希土類元素をドープした無機蛍光体微粒子。賦活剤としての希土類元素に加えて、更に増感成分としてイッテルビウム(Yb)をドープする事が好ましい。
(B)金属ポルフィリン、金属フタロシアニン、アルキルポルフィリン、ポルフィリン錯体、アルキルポルフィリン−金属錯体、フタロシアニン錯体、ポルフィリン又はフタロシアニン分子のアレー及び二量体/ポリマを含むポルフィリン及びフタロシアニンから選ばれた1種以上の有機系母体材料に、発光体としてポリフルオレン、オリゴフルオレン、これらのコポリマ、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフェニレンエチニレン、ポリパラフェニレンから選ばれた1種以上の有機化合物を配位してなる有機蛍光体微粒子。
【0021】
海成分あるいは島成分を構成する合成樹脂に占めるこれらの蛍光体微粒子の割合は、0.1〜10モル%である事が好ましく、0.3〜6モル%がより好ましい。蛍光体微粒子の割合が0.1モル%未満では、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力が不十分となり、遮熱性が得られないことがある。10モル%を超えても、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力はそれ以上向上せず、可視光の透過が妨げられ採光性が低下することがある。蛍光体微粒子の平均粒子径は1〜750nmである事が好ましく、1〜500nmであることがより好ましい。蛍光体微粒子の平均粒子径が750nmを超えると、近赤外線遮蔽層の可視光透過性が低下する事があり、また、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力が不十分となる事がある。平均粒子径が1nm未満では樹脂中またはマトリクス中に均一分散する事が困難となり、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力が不十分となる事がある。
【0022】
近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する機能を有する発光体粒子の複合加工体として、下記の無機マトリクス発光体粒子(C)、及びガラス発光体粒子(D)を用いることができる。無機マトリクス発光体粒子(C)は、無機マトリクス中に上述の(A)や(B)の蛍光体微粒子を分散固化させた発光体を粉砕した平均粒子径が100〜100000nmの粒子であり、ガラス発光体粒子(D)は、酸化物および/またはハロゲン化物と上述の希土類元素とを含有するガラスにレーザー光を照射したり、熱処理したりすることで、ガラス表面あるいはガラス内部に、希土類イオンを含む蛍光体成分を担持させた発光ガラスを粉砕した平均粒子径が100〜100000nmの粒子である。
【0023】
上記(C)において、無機マトリクスとしては、各種のガラス、無機重合体(例えば、珪素、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、亜鉛等の金属アルコキシドを加水分解・縮合して得られる)、等から適宜選択して使用することができる。上記(D)において、ガラスとしては、酸化物(例えばSiO、Bi、TeO 、GeO、Al、PbO、La等)、および/または、ハロゲン化物(例えばCaF、AlF、InF、ZnF等)を主成分とするガラスを用いることができる。(C)、(D)による複合加工体は蛍光体がガラスあるいは無機マトリクス中に含まれることにより、蛍光体成分の化学的安定性が向上し、かつ、海成分あるは島成分を構成する樹脂への分散性も向上する。(C)の発光体粒子に占める蛍光体微粒子の割合、あるいは、(D)の発光体粒子に占める蛍光体成分の割合は、0.1〜70モル%であることが好ましく、0.3〜50モル%がより好ましい。0.1モル%未満では、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力が不十分となり、遮熱性が得られないことがある。70モル%を超えても、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力はそれ以上向上せず、可視光領域の光の透過が妨げられ採光性が低下することがある。(C)および(D)の発光体粒子の平均粒子径は特に限定されるものではないが、得られるシートの可視光透過性、可視光領域の光の放出強度、樹脂への分散性などの観点から、100〜100000nmである事が好ましく、300〜50000nmであることが更に好ましい。これらの発光体粒子は、海成分あるいは島成分を構成する構成樹脂に対して0.05〜20質量%含まれる事が好ましく、0.1〜10質量%である事がより好ましい。0.05質量%未満では近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力が不十分となり、遮熱性が得られないことがある。20質量%を超えて含んでも近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力はそれ以上向上せず、可視光領域の光の透過が妨げられ、採光性が低下することがある。
【0024】
本発明において、近赤外線遮蔽層が、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する波長変換材料を含む合成樹脂組成物と、この波長変換材料を含まず近赤外線散乱着色剤を含む合成樹脂組成物との非相溶混合体からなる海島分散構造によって形成された非相溶樹脂層であることが好ましい。近赤外線遮蔽層の海島分散構造における島成分または海成分に近赤外線散乱着色剤を含むことで、近赤外線遮蔽層内部で近赤外線を散乱させ、シートの近赤外線透過率を低下させると共に、海島分散構造におけるもう一方の側の波長変換材料を含む樹脂に、太陽輻射からの近赤外線を取り込み易くして可視光領域波長の光の放出(発光)を向上させ、その結果遮熱性と採光性が向上する。
【0025】
本発明において近赤外線散乱着色剤としては、近赤外線を散乱させる特性を有する無機の着色剤、例えば金属粒子、金属酸化物粒子、及び金属複合酸化物粒子などから適宜選択して用いる事ができる。
【0026】
金属粒子および金属酸化物粒子として、アルミニウム、ステンレス、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、マンガン酸化物、バリウム酸化物、スズ酸化物、ジルコニウム酸化物、インジウム酸化物、三酸化アンチモン、クロム酸化物、鉄酸化物、銅酸化物、モリブデン酸化物、コバルト酸化物、イットリウム酸化物、セリウム酸化物、ビスマス酸化物、ケイ素酸化物、スズドープ酸化インジウム、インジウムドープ酸化スズ、及びアンチモンドープ酸化スズなどからなる粒子が例示され、これらの内特にチタン酸化物、亜鉛酸化物、スズ酸化物、ジルコニウム酸化物、インジウム酸化物、三酸化アンチモン、クロム酸化物、鉄酸化物、スズドープ酸化インジウム、インジウムドープ酸化スズ及びアンチモンドープ酸化スズの近赤外線散乱効果が高く、好ましく用いられる。これらの金属粒子および金属酸化物粒子は、その表面に近赤外線領域波長に吸収が少なく、可視光領域波長に吸収を有するアゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、ペリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ジケトピロロピロール系、アゾメチン系およびアゾメチンアゾ系の有機色素からなる群から選ばれた少なくとも一種を被覆したものであっても良い。また、光触媒活性を有する粒子の光触媒活性を抑制したり、樹脂への分散性を向上させたりするために、表面をSi、Zr、Alから選ばれる一種または2種以上の金属を含有する酸化物、或いは、高級脂肪酸等で被覆したものを用いても良い。
【0027】
金属複合酸化物粒子としては、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、及びケイ素(Si)の内2種以上の成分を含む金属複合酸化物粒子、から選択して用いることができ、これらを2種以上含むものであれば、上記以外の成分を更に含む金属複合酸化物粒子を用いることもできる。具体的には、例えばCo−Al、Co−Al−Cr、Co−Al−Cr−Ti、Co−Mg−Sn、Co−Ni−Ti、Co−Zn−Ni−Ti、Co−Zn−Cr−Ti、Co−Sb−Ni−Ti、Co−Nb−Ni−Ti、Nb−Ni−Ti、Co−Si、Sn−Cr−Ti、Zn−Cr−Ti、Zn−Cr−Fe、Co−Zn−Cr−Fe、Co−Ni−Cr−Fe−Si、Co−Cr−Mg−Zn−Al、Co−Mn−Cr−Fe、Co−Fe−Cr、Co−Cr−Ni、Co−Cr、Cu−Mn−Cr、Cu−Mn−Fe、Cu−Cr、Mn−Fe、Zn−Fe、Cr−Fe、Cr−Fe−Zn−Ti、Pb−Sb−Fe、Pb−Sb−Al、Ni−Sb、Fe−Zn−Ti、Fe−Al−Ti、Fe−Ti、Fe−Mo、Cr−Sb、Cr−Sb−Ti、Mn−Sb−Ti、Ti−Sb−Ni、Cr−Sn、Fe−Co−Mn−Ni、Ti−Sb−CrおよびZr−Feなどの成分からなる複合酸化物粒子を例示することができる。これらの金属複合酸化物粒子は、ルチル型、ヘマタイト型、またはスピネル型構造を有し、赤外線反射性の顔料として市販されており、所望の色相を有する粒子を単独で、または2種以上併用して用いることができる。また、光触媒性の抑制や、樹脂への分散性向上のために、表面をSi、Zr、Alから選ばれる一種または2種以上の金属を含有する酸化物、或いは、高級脂肪酸等で被覆したものを用いても良い。
【0028】
本発明において、近赤外線散乱着色剤は、海成分または島成分を構成する合成樹脂組成物に対して0.05〜20質量%含まれる事が好ましく、0.1〜10質量%である事がより好ましい。0.05質量%未満では添加による効果が不足し、充分な遮熱性が得られないことがある。20質量%を超えて添加すると、加工性や樹脂強度が低下し、得られるシートの採光性が低下することがある。用いる近赤外線散乱着色剤の粒径は、樹脂への分散性、シートの加工性などを勘案して、平均粒子径1〜3000nmの粒子から適宜選択して用いることが好ましい。特に近赤外線領域波長の散乱を高め、可視光領域波長の散乱を抑える(透過を高める)ためには、平均粒子径350〜2000nmの粒子が好ましく、400〜1600nmであることがより好ましい。また、可視光領域波長の透過を高め、かつ透視性のある近赤外線遮蔽層を得るには、平均粒子径20〜100nmの粒子が好ましく用いられる。
【0029】
本発明において、波長変換材料、または波長変換材料を含む合成樹脂組成物は、金(Au),銀(Ag),アルミニウム(Al),銅(Cu),白金(Pt),パラジウム(Pd)、およびこれらの金属を含む合金、からなる群から選択される1種または2種以上の金属ナノ粒子を含む事が好ましい。波長変換材料に近接して金属ナノ粒子を含む事で、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力が向上し、得られるシートの遮熱性および採光性がより向上する。金属ナノ粒子は、波長変換材料として上述の(A)や(B)の蛍光体微粒子を用いる場合には(A)や(B)とともに合成樹脂に添加する事ができる。波長変換材料として上述の(C)や(D)の発光体粒子を用いる場合にも、(C)や(D)とともに合成樹脂に添加する事ができるが、(C)や(D)を構成する無機マトリクスやガラスに添加して、金属ナノ粒子を含む波長変換材料として用いることもできる。金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmであることが好ましく、3〜80nmである事がより好ましい。平均粒子径が100nmを超えると、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力がほとんど向上しないことがあり、また、可視光透過率が低下して、得られるシートの採光性が劣る事がある。平均粒子径が1nm未満でも、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力がほとんど向上しないことがあり、また、平均粒子径1nm未満の金属ナノ粒子は入手が非常に困難である。金属ナノ粒子の形状には特に制限は無く、球状、紡錘型、回転楕円形、立方体、円筒形、棒状、針状あるいはこれらの何れにも分類されない不定形粒子であっても良い。金属ナノ粒子の量は、合成樹脂に添加する場合、金属ナノ粒子を含む合成樹脂組成物中に0.001〜1質量%となる様添加することが好ましく、0.01〜0.5質量%が更に好ましい。無機マトリクスやガラスに添加して金属ナノ粒子を含む波長変換材料とする場合、その波長変換材料中に0.001〜1質量%となる様添加することが好ましく、0.01〜0.5質量%が更に好ましい。0.001質量%未満では、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力がほとんど向上しないことがあり、1質量%を超えて含んでも効果が飽和しそれ以上向上せず、また、可視光透過性が低下して、得られるシートの採光性が劣る事がある。
【0030】
本発明の遮熱性採光シートは、長期間に亘って遮熱性を維持し、採光性の低下を防ぐため、可撓性シート最外表面に防汚層を有することが好ましい。防汚層としては、遮熱性及び採光性を損なわず、極度の隠蔽性を伴わないものである限り、その形成方法及び素材に特に限定はないが、例えば、溶剤に可溶化されたアクリル系樹脂もしくはフッ素系樹脂の少なくとも1種以上からなる樹脂溶液あるいは樹脂分散液を塗布して形成した塗膜、これらにシリカ微粒子、またはコロイダルシリカを含む塗膜、オルガノシリケート及び/又はその縮合体を含む塗布剤で塗布し親水性被膜層を形成したもの、光触媒性無機材料(例えば光触媒性酸化チタン)と結着剤とを含む塗布剤を塗布し光触媒層を形成したもの、少なくとも最外表面がフッ素系樹脂により形成されたフィルムを接着剤もしくは熱溶融加工により積層したもの、等から適宜選択することができる。
【0031】
本発明の遮熱性採光シートにおいて、上記防汚層の他に必要に応じて、防汚層の接着性を向上させるための接着層、防汚層が光触媒層である場合に光触媒による樹脂の分解を妨げるための保護層、近赤外線遮蔽層および/またはその他の樹脂層に含まれる添加剤が防汚層に移行するのを妨げるための添加剤移行防止層、等が形成されていてもよい。また、本発明の遮熱性採光シートの、防汚層が形成された面とは反対の面に、防汚層との高周波加熱融着性及び熱風融着性を付与するための裏面接着層が形成されていてもよい。あるいは、遮熱性採光シートをロール状に巻き取って保管している間に、裏面側の樹脂層に含まれる添加剤が、防汚層上に移行して防汚性が低下するのを防ぐために、裏面側(防汚層とは反対の面)に添加剤移行防止層が形成されていても良い。
【0032】
本発明の遮熱性採光シートにおいて、近赤外線遮蔽層はこの他に、海成分と島成分それぞれ独立して、必要に応じて公知の添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、例えば、有機顔料、無機顔料、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、可撓性付与剤、充填剤、接着剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、加工助剤、レベリング剤、消泡剤、抗菌剤、防黴剤などが例示される。
【実施例】
【0033】
本発明を下記実施例、および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
<波長変換材料>
下記実施例及び比較例において、波長変換材料として以下の蛍光体微粒子を用いた。
フッ化イットリウム(YF)を母体材料として、エルビウム(Er)とイッテルビ
ウム(Yb)とをドープした下記組成の蛍光体微粒子(平均粒子径:50nm)
組成(Y0.81,Er0.01,Yb0.18)F
【0035】
下記実施例、及び比較例で得られたシートについて、下記の試験方法により遮熱性、及び採光性を評価した。
<遮熱性>
試験環境:内径が高さ45cm×幅35cm×長さ35cmで、外気温遮断性と気密性とを有
し、側面に開閉可能な扉を有する箱型構造体の天井部中央に太陽光を模した白熱ランプ
(100V,500Wのフォトリフレクタランプ:デイライトカラー用:東芝(株)製)
を取り付け、箱型構造体の底面部中央には熱流量計(Shothrm HFM熱流量計
:昭和電工(株)製)のセンサーを取り付けて固定し、この箱型構造体を20℃の恒温
室内に設置して、遮熱性評価の試験環境を構成した。
試験:たて・よこともに0.5cmの正方形の断面を有するアクリル樹脂製角材棒を柱及び
梁として、瞬間接着剤で固定する事で、高さ5cm×幅10cm×長さ15cmの外径を有す
る箱型フレームを組み立て、この箱型フレームを箱型構造体の底面部中央(熱流量計
センサー上)に取り付け、箱型構造体の扉を閉めて密閉状態とし、シート無しの熱流量
(kcal/m2h)を1分ごとに測定し、30分後の熱流量qn(kcal/m2h)を測定した。
熱流量qn測定後、内部の温度が恒温室と同じ20℃で安定するまで、箱型構造体の扉
を開放した。次に、箱型フレームの4側面、及び上面(天井)部に、そのおもて面が外
向きとなるように、実施例及び比較例で作成したシートを、両面テープで貼り付けて固
定し、底面があいた試験箱を準備した。シートを貼り付けた試験箱を、箱型構造体の底
面部の中央に取り付けて、ランプの中心点と試験箱の中心点とを結ぶ直線の方向が鉛直
方向に重なるように固定した。この箱型構造体内部におけるランプ先端から試験箱の天
井部(シートおもて面)までの距離は35cmであった。箱型構造体の扉を閉めて密閉
状態に置き、ランプを点灯し、熱流量(kcal/m2h)を1分ごとに測定し、30分後の
熱流量qc(kcal/m2h)を測定し、下記式により遮熱率を求めた。遮熱率の数値が大
きい程、遮熱性が高いものと判断した。
遮熱率(%)=〔(qn−qc)/qn〕×100
<採光性>
装置:厚さ1.5mmのベニヤ板を用いて内径、51cm(高さ)×27cm(幅)×30cm
(奥行き)となる四角柱状の箱を組み立てた。(この箱の側面の1つは開閉自在で、
しかも閉じたとき、すき間のないようにした。)
次に、箱を組み立てたのと同じベニヤ板で27cm×30cmのスリット板を作製し、そ
の中央に、5cm×5cmの正方形の光路(くり抜き)を設け、箱の底部より10cm上の
位置に、天板と底板に対して平行になる様取り付けた。
次いで光源とする白色ランプ(100V、300Wの屋内用アイランプRS岩崎電気
株式会社製)を、ランプの先端からスリット板の光路までの距離が21cmとなる様
天板に取り付け、白色ランプと電源との間には、ランプの光量を調節するための単巻
変圧器(山菱電機(株)製 ボルトスライダー)を配置した。
最後に照度計((株)トプコム製IM−2D)の光感知部(センサー)の中央部を、
光源の白色ランプの中央部と、スリット板の光路の中央部を結ぶ直線の延長線上に位
置するよう固定して、採光性評価の装置を構成した。
測定:試料を入れない状態で、可変変圧器を電源につなぎ、つまみを操作して徐々に電
圧を上げ、光源のランプから発せられる光で照度計が19,000〜20,000
ルクスの間の値を示すよう調整した。光源が安定した段階で照度を測定して、その値
をブランク(L)とした。
ブランク測定後、光源を点灯したままの状態で、実施例・比較例で作成したシート
(たて15cmよこ15cmにカット)を試料とし、そのおもて面側を光源に向け、
スリット板の光路を完全に覆い、かつ、浮きや弛みのないフラットな状態で装着し、
照度(L)を測定して、下記式により採光率を求めた。採光率の数値が大きい程、採
光性が高いものと判断した。
採光率(%)=(L/L)×100
【0036】
[実施例1]
下記配合1の軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物に、下記配合2の波長変換材料(蛍光体微粒子)含有スチレンブタジエンブロックコポリマー(SBS)組成物の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、軟質塩化ビニル樹脂組成物中に波長変換材料含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物を均一分散させた非相溶樹脂混合物1を得た。配合2の組成物に占める蛍光体微粒子の割合は5.17モル%であった。この非相溶樹脂混合物1を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.3mmの近赤外線遮蔽層からなるシートを成型した。この近赤外線遮蔽層を顕微鏡観察すると、波長変換材料含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物が島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂組成物が海成分を構成していた。近赤外線遮蔽層における島成分含有率は12.5体積%、島成分の平均粒子径は7.2μmであった。このシートは表裏に差を有さないため、一方の面にしるしを付け、その面をおもて面として評価を行った。結果を表1に示す。
<配合1>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 60質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 10質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
紫外線吸収剤:ベンゾトリアゾール系 0.5質量部

<配合2>
スチレン・ブタジエンブロックコポリマー 100質量部
(旭化成ケミカルズ(株)社製、商品名:アサフレックス830)
波長変換材料 5質量部

【0037】
[実施例2]
下記配合3の波長変換材料(蛍光体微粒子)含有軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物に、下記配合4のスチレンブタジエンブロックコポリマー組成物の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して40質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物中にスチレンブタジエンブロックコポリマー組成物を均一分散させた非相溶樹脂混合物2を得た。配合3の組成物に占める蛍光体微粒子の割合は0.68モル%であった。この非相溶樹脂混合物2を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.3mmの近赤外線遮蔽層からなるシートを成型した。この近赤外線遮蔽層を顕微鏡観察すると、スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物が島成分を構成しており、波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物が海成分を構成していた。近赤外線遮蔽層における島成分含有率は21.2体積%、島成分の平均粒子径は7.2μmであった。このシートは表裏に差を有さないため、一方の面にしるしを付け、その面をおもて面として評価を行った。結果を表1に示す。
<配合3>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 60質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 10質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
紫外線吸収剤:ベンゾトリアゾール系 0.5質量部
波長変換材料 2質量部

<配合4>
スチレン・ブタジエンブロックコポリマー 100質量部
(旭化成ケミカルズ(株)社製、商品名:アサフレックス830)

【0038】
実施例1と実施例2のシートは、波長変換材料を含む合成樹脂組成物と、波長変換材料を含まない含合成樹脂組成物との非相溶混合体からなる海島分散構造によって形成された非相溶樹脂層からなり、海成分または島成分が波長変換機能を有することにより近赤外線領域波長が可視光領域波長に変換されるため、高い遮熱性を示すシートであった、また、海島構造により可視領域波長をよく透過し、しかも、近赤外線領域波長が可視光領域波長に変換されたため、採光性にも優れていた。実施例1と実施例2は、単位面積あたりに同程度の質量の波長変換材料を含んでいたが、波長変換材料を島成分に含む実施例1と、海成分に含む実施例2を比較すると、実施例1は実施例2に比べて採光性に優れ、実施例2は実施例1に比べて遮熱性に優れる結果であった。
【0039】
[比較例1]
下記配合5の近赤外線散乱着色剤含有軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物を、180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.3mmのシートを成型した。配合5において近赤外線散乱着色剤として、表面をシリカでコーティングした平均粒子径1000nmのルチル型酸化チタン粒子(酸化チタン94質量%、シリカ6質量%)を用いた。このシートは表裏に差を有さないため、一方の面にしるしを付け、その面をおもて面として評価を行った。結果を表1に示す。
<配合5>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 60質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 10質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
紫外線吸収剤:ベンゾトリアゾール系 0.5質量部
酸化チタン:平均粒子径1000nm 3質量部

【0040】
比較例1のシートは海島構造を有さないシートである。全体に近赤外線散乱着色剤を含有しており、遮熱性は実施例1、2よりわずかに優れるが、採光性は実施例1、2に比べて大きく劣っていた。
【0041】
[比較例2]
配合3の波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物を、180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.3mmのシートを成型した。このシートは表裏に差を有さないため、一方の面にしるしを付け、その面をおもて面として評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
比較例2のシートは海島構造を有さず、全体に波長変換材料を含有していているシートであり、遮熱性、採光性共に実施例1、2より劣っていた。
【0043】
[実施例3]
下記配合6の波長変換材料(蛍光体微粒子)含有軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物に、下記配合7の近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して40質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物中に近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物を均一分散させた非相溶樹脂混合物3を得た。配合6の組成物に占める蛍光体微粒子の割合は0.84モル%であった。また、配合7において近赤外線散乱着色剤として、表面をシリカでコーティングした平均粒子径1000nmのルチル型酸化チタン粒子(酸化チタン94質量%、シリカ6質量%)を用いた。この非相溶樹脂混合物3を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの近赤外線遮蔽層用フィルム3−1を成型した。一方、配合1の軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて、厚さ0.25mmのフィルム3−2を成型した。次いで、得られたフィルム3−1とフィルム3−2の中間に下記基布1を挿入し、熱圧着により積層してターポリン状のシートを得た。フィルム3−1からなる近赤外線遮蔽層を顕微鏡観察すると、近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物が島成分を構成しており、波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物が海成分を構成していた。近赤外線遮蔽層における島成分含有率は20.6体積%、島成分の平均粒子径は7.1μmであった。このシートの、近赤外線遮蔽層上に、下記配合8の防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で1分間乾燥した。これによって片面に塗布量:5g/mの防汚層を形成し、実施例3のシートを得た。このシートについて、防汚層を形成した側をおもて面として評価を行った。結果を表2に示す。
<配合6>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 60質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 10質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
紫外線吸収剤:ベンゾトリアゾール系 0.5質量部
波長変換材料 2.5質量部

<配合7>
スチレン・ブタジエンブロックコポリマー
(旭化成ケミカルズ(株)社製、商品名:アサフレックス830) 100質量部
酸化チタン:平均粒子径1000nm 5質量部

<配合8>
商標:アクリプレン ペレットHBS001(三菱レイヨン(株)製) 20質量部
トルエン−MEK(50/50重量比)(溶剤) 80質量部

(基布1)
ポリエステル833dtexマルチフィラメントを用いた粗目状平織り布
密度 たて(経糸) 18本/インチ よこ(緯糸) 19本/インチ

【0044】
[実施例4]
下記配合9の波長変換材料(蛍光体微粒子)含有軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物に、配合4のスチレンブタジエンブロックコポリマー組成物の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して40質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物中に、スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物を均一分散させた非相溶樹脂混合物4を得た。配合9の組成物に占める蛍光体微粒子の割合は0.84モル%であった。また、配合9には、波長変換材料の他に金属ナノ粒子として、平均短軸長さ10nm、平均長軸長さ50nmの、棒状の金(Au)ナノ粒子を加えた。配合9の組成物における金(Au)ナノ粒子の含有量は0.05質量%であった。この非相溶樹脂混合物4を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの近赤外線遮蔽層用フィルム4−1を成型した。一方、配合1の軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて、厚さ0.25mmのフィルム4−2を成型した。次いで、得られたフィルム4−1とフィルム4−2の中間に基布1を挿入し、熱圧着により積層してターポリン状のシートを得た。フィルム4−1からなる近赤外線遮蔽層を顕微鏡観察すると、スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物が島成分を構成しており、波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物が海成分を構成していた。近赤外線遮蔽層における島成分含有率は21.2体積%、島成分の平均粒子径は7.1μmであった。このシートの、近赤外線遮蔽層上に、配合8の防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で1分間乾燥した。これによって片面に塗布量:5g/mの防汚層を形成し、実施例4のシートを得た。この
シートについて、防汚層を形成した側をおもて面として評価を行った。結果を表2に示
す。
<配合9>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 60質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 10質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
紫外線吸収剤:ベンゾトリアゾール系 0.5質量部
波長変換材料 2.5質量部
金(Au)ナノ粒子 0.1質量部

【0045】
[実施例5]
配合9の波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物に、配合7の近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して40質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物中に近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物を均一分散させた非相溶樹脂混合物5を得た。この非相溶樹脂混合物5を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmの近赤外線遮蔽層用フィルム5−1を成型した。一方、配合1の軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて、厚さ0.25mmのフィルム5−2を成型した。次いで、得られたフィルム5−1とフィルム5−2の中間に基布1を挿入し、熱圧着により積層してターポリン状のシートを得た。フィルム5−1からなる近赤外線遮蔽層を顕微鏡観察すると、近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物が島成分を構成しており、波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物が海成分を構成していた。近赤外線遮蔽層における島成分含有率は20.6体積%、島成分の平均粒子径は7.1μmであった。近赤外線遮蔽層上に、配合8の防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で1分間乾燥した。これによって片面に塗布量:5g/mの防汚層を形成し、実施例5のシートを得た。このシートについて、防汚層を形成した側をおもて面として評価を行った。結果を表2に示す。
【0046】
実施例3のシートは、海島構造の近赤外線遮蔽層を有し、島成分に近赤外線散乱着色剤を含有することで、近赤外線遮蔽層内での近赤外線の散乱が強くなり、かつ、海成分が波長変換材料を含むことで波長変換機能を有し、近赤外線領域波長が可視光領域波長に変換されるため、高い遮熱性を示すシートであった。また、可視光線の透過が高く、しかも、海成分で近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換するため、採光性にも優れていた。実施例4のシートは、海島構造の近赤外線遮蔽層を有し、海成分に波長変換材料と金属ナノ粒子を同時に含有することで、近赤外線遮蔽層内で近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する能力が高まり、高い遮熱性と採光性を示すシートであった。実施例5のシートは、海島構造の近赤外線遮蔽層を有し、海成分に波長変換材料と金属ナノ粒子を同時に含有し、島成分に近赤外線散乱着色剤を含有することで、近赤外線遮蔽層内での近赤外線の散乱が強くなり、かつ、海成分が波長変換材料を含むことで波長変換機能を有し、近赤外線領域波長が可視光領域波長に変換されるため、高い遮熱性を示すシートであった。また、可視光線の透過が高く、しかも、海成分で近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換するため、、採光性にも優れていた。実施例3〜5のシートは全て繊維基布を含む積層体であるため、高い強度や耐久性を要求される日除けテント、日除けモニュメント、イベント用大型テント、装飾テント、ブラインド、シートシャッター、間仕切り、テント倉庫、トラック幌等の膜構造物を構成するのに好適な遮熱性採光シートである。また、それぞれ防汚層を有しており、屋外で使用した場合に、経時的な汚れの付着による採光性の低下が防止され、且つ美観を維持することができるシートである。
【0047】
[比較例3]
配合9の波長変換材料含有軟質塩化ビニル樹脂組成物からなる溶樹脂混合物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmのフィルム(比)3−1を成型した。一方、配合1の軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて、厚さ0.25mmのフィルム(比)3−2を成型した。次いで、得られたフィルム(比)3−1とフィルム(比)3−2の中間に基布1を挿入し、熱圧着により積層してターポリン状のシートを得た。フィルム(比)3−1を積層した面上に、配合8の防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で1分間乾燥した。これによって片面に塗布量:5g/mの防汚層が形成されたシートを得た。このシートについて、防汚層を形成した側をおもて面として各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
比較例3のシートは、フィルム(比)3−1が、波長変換材料と金属ナノ粒子とを同時に含有するが、海島構造を有さないため、実施例3〜5に比べて遮熱性と採光性が劣るシートであった。
【0049】
[比較例4]
配合1の軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物に、配合7の近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して40質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、軟質塩化ビニル樹脂組成物中に近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物を均一分散させた非相溶樹脂混合物(比)4を得た。この非相溶樹脂混合物(比)4を、180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmのフィルム(比)4−1を成型した。一方、配合1の軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて、厚さ0.25mmのフィルム(比)4−2を成型した。次いで、得られたフィルム(比)4−1とフィルム(比)4−2の中間に基布1を挿入し、熱圧着により積層してターポリン状のシートを得た。フィルム(比)4−1からなる樹脂層を顕微鏡観察すると、近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物が島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂組成物が海成分を構成していた。フィルム(比)4−1における島成分含有率は20.7体積%、島成分の平均粒子径は7.2μmであった。このシートの、フィルム(比)4−1を積層した面上に、配合8の防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で1分間乾燥した。これによって片面に塗布量:5g/mの防汚層が形成されたシートを得た。このシートについて、防汚層を形成した側をおもて面として各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
比較例4のシートは、フィルム(比)4−1が海島構造を有し、島成分に近赤外線散乱着色剤を含むことで、遮熱性を有するシートであったが、海成分が波長変換機能を有さないため、実施例3〜5に比べて採光性が劣るシートであった。
【0051】
[比較例5]
配合9から波長変換材料を省略した軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物に、配合7の近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して40質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、軟質塩化ビニル樹脂組成物中に近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物を均一分散させた非相溶樹脂混合物(比)5を得た。この非相溶樹脂混合物(比)5を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.25mmのフィルム(比)5−1を成型した。一方、配合1の軟質塩化ビニル樹脂組成物の熱溶融混練物を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて、厚さ0.25mmのフィルム(比)5−2を成型した。次いで、得られたフィルム(比)5−1とフィルム(比)5−2の中間に基布1を挿入し、熱圧着により積層してターポリン状のシートを得た。フィルム(比)5−1を顕微鏡観察すると、近赤外線散乱着色剤含有スチレンブタジエンブロックコポリマー組成物が島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂組成物が海成分を構成していた。フィルム(比)5−1における島成分含有率は20.7体積%、島成分の平均粒子径は7.2μmであった。次いで、フィルム(比)5−1を積層した面上に、配合8の防汚層塗工液をグラビアコーターによりコーティング加工し、120℃で1分間乾燥した。これによって片面に塗布量:5g/mの防汚層が形成されたシートを得た。このシートについて、防汚層を形成した側をおもて面として各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
比較例5のシートは、フィルム(比)5−1が海島構造を有し、島成分に近赤外線散乱着色剤を含むことで、遮熱性を有するシートであったが、実施例3〜5に比べて採光性が劣るシートであった。フィルム(比)5−1の海成分に金属ナノ粒子を含んでいたが、波長変換材料を同時に含んでいないため波長変換機能を有さず、比較例4に対して遮熱性向上効果は認められず、採光性はむしろ低下した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の遮熱性採光シートは、太陽輻射に含まれる近赤外線〜可視光領域の波長の内、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換することで遮熱性を有し、可視光領域の光は透過し、かつ透過した可視光と、近赤外線領域波長から変換した可視光領域波長の光を合わせることで高い採光性を有するシートである。そのため、テント倉庫、イベント向けテント、災害時用テント、農園芸用ハウス、トラック幌、フレキシブルコンテナ、日除けテント、日除けモニュメント、装飾テント、ブラインド、シートシャッター、または間仕切りなどの膜構造物に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
1:遮熱性採光シート
2:海島構造を有する近赤外線遮蔽層
3:島成分
3−1:波長変換材料を含む島成分
3−2:波長変換材料を含まない島成分
3−3:波長変換材料を含まず近赤外線散乱着色剤を含む島成分
3−4:波長変換材料と金属ナノ粒子を含む島成分
4:海成分
4−1:波長変換材料を含む海成分
4−2:波長変換材料を含まない海成分
4−3:波長変換材料を含まず近赤外線散乱着色剤を含む海成分
4−4:波長変換材料と金属ナノ粒子を含む海成分
5:繊維基布
6:海島構造を有さない樹脂層
7:波長変換材料
8:近赤外線散乱着色剤
9:金属ナノ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線遮蔽層を含む可撓性シートであって、前記近赤外線遮蔽層が、近赤外線領域波長を可視光領域波長に変換する波長変換材料を含む合成樹脂組成物と、前記波長変換材料を含まない合成樹脂組成物との非相溶混合体からなる海島分散構造によって形成された非相溶樹脂層であることを特徴とする、遮熱性採光シート。
【請求項2】
前記近赤外線遮蔽層が、前記波長変換材料を含む合成樹脂組成物と、近赤外線散乱着色剤を含む合成樹脂組成物との非相溶混合体からなる海島分散構造によって形成された非相溶樹脂層である、請求項1に記載の遮熱性採光シート。
【請求項3】
前記海島分散構造において、海成分が前記波長変換材料を含んでいる、請求項1または2に記載の遮熱性採光シート。
【請求項4】
前記海島分散構造において、島成分が前記波長変換材料を含んでいる、請求項1または2に記載の遮熱性採光シート。
【請求項5】
前記波長変換材料が、CaAlSiO、YSiO、BaMgSi、MgAl、SrAl、SrAl1425、BaMgAl1627、YAl12、Y、YAlO、Al、SiO、Ta、LaCl、YCl3、BaCl、LaF、YF、YS、LaS、GaSから選ばれた1種以上の無機系母体材料に、賦活剤としてエルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、およびセリウム(Ce)から選ばれた1種または2種以上の希土類元素をドープした無機蛍光体微粒子である、請求項1から4のいずれか1項に記載の遮熱性採光シート。
【請求項6】
前記波長変換材料が、金属ポルフィリン、金属フタロシアニン、アルキルポルフィリン、ポルフィリン錯体、アルキルポルフィリン−金属錯体、フタロシアニン錯体、ポルフィリン又はフタロシアニン分子のアレー及び二量体/ポリマを含むポルフィリン及びフタロシアニンから選ばれた1種以上の有機系母体材料に、発光体としてポリフルオレン、オリゴフルオレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフェニレンエチニレン、ポリパラフェニレンから選ばれた1種以上の有機化合物を配位してなる有機蛍光体微粒子である、請求項1から4のいずれか1項に記載の遮熱性採光シート。
【請求項7】
前記波長変換材料が、Au,Ag,Al,Cu,Pt,Pdからなる群から選択される1種または2種以上の金属、もしくはこれらの金属を含む合金からなり、平均粒子径が1〜100nmの金属ナノ粒子を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の遮熱性採光シート。
【請求項8】
前記波長変換材料を含む合成樹脂組成物が、Au,Ag,Al,Cu,Pt,Pdからなる群から選択される1種または2種以上の金属、もしくはこれらの金属を含む合金からなり、平均粒子径が1〜100nmの金属ナノ粒子を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の遮熱性採光シート。
【請求項9】
前記近赤外線散乱着色剤が、チタン酸化物、亜鉛酸化物、スズ酸化物、ジルコニウム酸化物、インジウム酸化物、三酸化アンチモン、クロム酸化物、鉄酸化物、スズドープ酸化インジウム、インジウムドープ酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズから選ばれた金属酸化物、及び、ルチル型、ヘマタイト型、またはスピネル型構造構造を有し、チタン、亜鉛、アンチモン、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マグネシウム、銅、マンガン、アルミニウム、ニオブ、及びケイ素の内2種以上の成分を含む金属複合酸化物、から選ばれた1種または2種以上を含む、請求項2に記載の遮熱性採光シート。
【請求項10】
前記可撓性シートが、繊維基布を含む積層体である、請求項1から9いずれか1項に記載の遮熱性採光シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−97183(P2012−97183A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245749(P2010−245749)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000239862)平岡織染株式会社 (81)
【Fターム(参考)】