説明

遮蔽された繊維を含有する層および電気化学セル

【課題】電気化学セルの自己放電を長期間にわたり抑えることのできるセパレータ、詳細には、長期安定性のあるアンモニア結合能を示すセパレータを提供する。
【解決手段】セパレータが、アンモニアもしくはアンモニア化合物が化学的および/または物理的に結合可能である少なくとも1つの第1の物質を含む繊維を含み、この第1の物質が、前記繊維の表面ではなく、内部の体積領域に存在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアもしくはアンモニア化合物を化学的および/または物理的に結合可能にする少なくとも1つの第1の物質を有する繊維を含む層、特に電気化学セルにおけるセパレータとして使用される層もしくはシートに関する。さらに本発明は、電気化学セルもしくは電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ蓄電池またはセルもしくは電池は、特別な特性を有するセパレータ材料を必要とする。この特性には、電解質に対する耐性、酸化に対する耐性、高い機械的安定性、薄い厚み、小さなイオン抵抗、大きな電子抵抗、電極から分離される固形物粒子に対する保持能、電解質による持続的な濡れ性、および電解質液体に対する高い貯蔵能が含まれる。
【0003】
ニッケル/金属水素化物蓄電池(ニッケル水素蓄電池)またはニッケル/カドミウム蓄電池は、速度の大きい自己放電を示す。電荷の輸送は、電解質中をカドミウムもしくは金属水素化物の負極から酸化ニッケルの正極へ運ばれかつそこで電気化学的に変化するイオンまたは分子によって行なわれる。この電池は未使用の状態でも自然に徐々に放電する。
【0004】
この望ましくない自己放電の機構としては、負極における還元と正極における酸化とによるいわゆる「シャトル機構(Shuttle Mechanismus)」において自己放電の原因となる窒素化合物が論議される。
【0005】
冒頭に述べたような層は、該層がアンモニアを化学的および/または物理的に結合しかつこれにより放電を遅延させることによって自己放電を回避するものである。
【0006】
しかし、従来の電気化学セルの自己放電の速度は大きく、多くの使用目的、例えばハイブリッド自動車で使用するには不適当である。その上、従来の電気化学セルでは、自己放電に関する長時間安定性は不十分であり、このことは、特に、セパレータの化学的ないしは電気化学的な分解によって説明することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、ライフサイクル全体にわたって示す自己放電がわずかである電気化学セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明の請求項1に記載の特徴によって解決される。
【0009】
この特徴によれば、冒頭に記載の層もしくはシートは、第1の物質が繊維の体積領域もしくは内側体積領域に存在し、この繊維の表面が少なくとも部分的に第2の物質で被覆されていることによって特徴づけられている。
【0010】
意外にも、本発明による層が、化学的ないしは電気化学的な分解に対する高められた安定性を示すことが明らかとなった。このことは、特に、長い寿命が必要とされるハイブリッド自動車もしくはその他の用途における電気化学セルで使用される場合に有利である。
【0011】
本発明によれば、この高められた安定性が、第1の物質が第2の物質によって遮蔽もしくは保護されていることによって達成されることが分かった。意外にも、この遮蔽によって、本発明による層が使用される電気化学セルにおいて自己放電の低減効果の作用持続性が高められる。
【0012】
意外にも、上記被覆はアンモニアの結合を阻止せず、被覆された体積領域の劣化防止として追加的に作用する。
【0013】
従来技術の層では、高温の苛性カリ液中での貯蔵(バッテリでの長時間使用の模擬)後のアンモニア結合能が顕著に減少する(結合能は約50%以上減少する)一方で、本発明による繊維は、このような機能低下をほとんど示さない。
【0014】
特に意外であるのは、機能的もしくは官能化された体積領域が、非機能的なもしくは官能化されていない被覆によって完全に取り囲まれている場合であってもアンモニア結合が起こるという事実である。
【0015】
上述の課題は、以下のように解決される。
【0016】
体積領域はコアとして形成され、繊維はコア−シェル繊維(芯鞘型繊維)として形成されていてよい。コア−シェル繊維は比較的簡単に製造可能である。さらに、このコア−シェル繊維としての形態では、第2の物質による第1の物質のほぼ完全な遮蔽が可能となる。この形態では、第1の物質がコアに、第2の物質がシェルに配置されている。コアが完全に第1の物質からなりかつシェルが完全に第2の物質からなっていると特に好ましい。
【0017】
層(層状体)もしくはシートは、少なくとも80%の体積領域の被覆度によって特徴づけられていてもよい。その際、コア−シェル繊維のシェルがコアを80%覆っていてもよい。この具体的な形態によって、一方では、第1の物質と電解質液体中のアンモニア化合物ないしはアンモニアとの充分に高い相互作用が可能となり、他方では、第1の物質の遮蔽が可能となる。上記被覆度によって、一方では、第1の物質が化学的に(加水分解または酸化によって)攻撃されず、他方では、そこに結合されたアンモニアが全くまたは著しくゆっくりとしか再度遊離もしくは放出されない、ということが有利に実現される。
【0018】
層は、少なくとも30重量%の前記繊維の含量を有していてもよい。この具体的な形態が、一方では、該層に充分に高い機械的強度を与え、他方では、電気化学セルの自己放電を効果的に抑制するのに有利であることが判明した。
【0019】
少なくとも1つの第1の物質は、第1のポリマーとして形成することができ、第2の物質は、第1のポリマーと異なる第2のポリマーとして形成することがでいる。このことを背景として、ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、高級脂肪族ポリオレフィン、ポリスチレンまたはこれらポリマーのコポリマーを使用することができる。さらに、アルカリ電池における条件に対して安定であることが知られているポリマーを使用できる。
【0020】
第1のポリマーが第2のポリマーと異なることによって、これらのポリマー間に、第1の内側のポリマーの官能基の繊維表面への移動を阻止する境界層が形成されることが保証される。この移動の阻止によって、付着挙動がアンモニアに化学的に類似しかつそのことによりアンモニア結合に対して競合して対立するイオンまたは分子の付着もしくは付加が減少する。このことによって、官能基の被覆が抑制され、その結果、該官能基は、アンモニアまたはアンモニア化合物の結合を長時間にわたり自由に行なうことができる。
【0021】
第1のポリマー、または第1および第2のポリマーは、共重合によって形成されたポリマーとして構成されていてよい。その場合、内側に存在するポリマーが共重合によって得られたものであってもよいが、両方のポリマーが共重合によって得られていてもよい。しかし、いずれの場合にも、第1のポリマーは第2のポリマーと異なっている。共重合の実施によって、特に均質で安定した内部構造を有する材料が得られる。これにより、化学的に活性の分子が特に有利に体積中もしくはバルク領域中に分布することが保証される。
【0022】
第1のポリマー、または第1および第2のポリマーは、グラフトによって形成されたポリマーとして構成されていてよい。この場合にも、第1のポリマーは常に第2のポリマーと異なっている。このことを背景として、ポリマーは、溶融物もしくは溶液または分散液の形態であるいは粉砕された状態で存在させてアクリル酸もしくは他の不飽和の酸または酸誘導体でグラフトされ、続いて繊維に紡糸されたものであってよい。
【0023】
別態様では、前述のように改質されたコアを既に有する繊維を、分散液中で、紡糸後に、アクリル酸でグラフトし、これにより、改質された外側層を生じさせてもよい。その後、該繊維を、さらなる化学的な改質を行わずに、後続のプロセスで不織布へとさらに加工することができる。
【0024】
第1のポリマー、または第1および第2のポリマーは、反応押出によって形成されたポリマーとして構成されていてよい。この場合にも、第1のポリマーは常に第2のポリマーと異なっている。この反応性押出では、ポリマーを、該ポリマーが、アルカリ溶液からのアンモニアもしくはアンモニア化合物を結合もしくは拘束させる官能基を分子中に有するかまたはアルカリ電解質中で形成するように、官能化もしくは機能化することができる。このことを背景として、ポリマーは、アルカリ性媒体中でルイス酸として有効な官能基を含有していてもよい。この具体的な形態によって、官能基によってアンモニアもしくはアンモニア化合物がアルカリ溶液中で結合され得ることが保証される。
【0025】
第1および/または第2のポリマーは、ポリオレフィンとして構成されていてよい。この場合にも、第1のポリマーは常に第2のポリマーと異なる。ポリオレフィンは、強アルカリ性電解質による化学的な攻撃に対してかつ電気化学セルの化学的な環境における酸化に対して極めて十分な抵抗力を有する。したがって、ポリオレフィンは、極めて安定した層を製造できる材料である。
【0026】
第1のポリマー、または第1および第2のポリマーは、不飽和有機酸および/または酸誘導体によって改質されているポリオレフィンとして構成されていてもよい。この改質によって、層のアンモニア結合能が高められる。このことを背景として、第1のポリマーは、具体的には、反応押出またはアクリル酸によるグラフトによって改質されているポリオレフィンとして形成されていてよい。アクリル酸の使用によって、アンモニア結合能が特に高められる。
【0027】
第1のポリマーは、スルホン化されているポリオレフィンとして形成されていてよい。このポリオレフィンのスルホン化によって、そのアンモニア結合能が高められる。
【0028】
第1のポリマーと、第1のポリマーと異なる第2のポリマーとの間に境界層が形成されていてよい。この2つの異なるポリマー間の境界層によって、コアのポリマーの官能基の繊維表面への移動、およびこれに伴う、アンモニアと競合する分子の付着と化学的もしくは電気化学的な分解とによる機能の損失が阻止される。
【0029】
被覆するポリマーは、部分的にアモルファスの状態で存在していてもよい。この場合、そのアモルファス領域がマイクロチャネルを形成する。アンモニア分子は、このマイクロチャネルを通り抜けて拡散して、第1の内側のポリマーに付着しかつこれに結合することができる。電気化学セルの電解質中に多く存在する水和物の殻で取り囲まれたカリウムイオンないしは水酸化物イオンは、アンモニア分子より著しく大きい。このより大きなイオンはマイクロチャネルを通り抜けて移動することができず、よって、第1のポリマーにより結合されたアンモニアを追い出すことも置換することもできない。
【0030】
層は、バッテリ内で少なくとも0.1mmol/g、特に少なくとも0.25mmol/g層材料のアンモニア結合能を有することが好ましい。この選択された値は、電気化学セルの放電所要時間を特に顕著に遅延させる特性値である。
【0031】
層のアンモニア結合能は、85℃の高温の30%苛性カリ水溶液中での8日間の貯蔵後に、初期値の少なくとも50%となっていることが好ましい。アンモニア結合能の初期値は、この場合0.1mmol/gである。このような層は、バッテリ内のセパレータとしての実際の条件下での長期間の使用に特に適するものである。
【0032】
第1および第2の物質を含むここに記載の繊維の他に、この繊維と異なる、濃アルカリ溶液に対して耐加水分解性のあるさらなる第2の繊維が存在していてもよい。この第2の繊維という安全措置によって、層の機械的安定性を高めることができる。
【0033】
良好な湿潤性もしくは濡れ性を達成するために、層は、親水特性、特に親水性の表面を有していてよい。これは、フッ素化処理、プラズマ処理またはスルホン化によって達成することができる。層を、多孔質かつ不飽和の有機物質によってグラフトすることもできる。このことを背景として、層に湿潤剤を塗布することもできる。湿潤剤は、市場で容易に入手可能である。
【0034】
層は、15〜300g/m、特に25〜150g/mの単位面積当たり重量(坪量)を有することが好ましい。これより、層が十分な流体吸収能および同時に十分に小さな多孔を有し、これによって、導電性粒子による電気的な故障、例えば破壊放電もしくは絶縁放電がほとんど生じないことが保証される。
【0035】
層は、20〜400μm、特に40〜250μmの厚みを有することが好ましい。この範囲によって、使用に適した内寸および外寸を有する電気化学セルが実現可能となることが保証される。セパレータは、ここに記載の2つ以上の層からなっていてよい。多層のセパレータでは、層における欠陥箇所を、単層のものよりも良好に補償することができる。よって、多層のセパレータは長期間の使用に適している。これらの層は、単位面積当たり重量ないしは厚みに関して相互に異なっていてよく、その際、セパレータはその構造において、厚みもしくは単位面積当たり重量の勾配を有する。
【0036】
層は、不織布として形成されていることが好ましい。不織布は、多くの方法によって安価に製造可能である。その上、統計学的プロセスで製造される不織布の使用は、層の極めて十分な均質性を保証し、貫通孔(「ピンホール」)の発生を回避する
このことを背景として、不織布は、湿式不織布法によってされていてよい。この製造によって、不織布が高い均質性を有することが保証される。
【0037】
不織布は、乾式不織布法によって製造されていてもよい。この手法では、不織布材料が、不織布材料の安定性に不利な影響を及ぼす溶媒にさらされることがない。
【0038】
不織布は、スパンボンド法もしくはメルトブローン法によって製造されていてもよく、これら方法は、二成分系の製造を可能にする。これらの方法は、極細の繊維、およびしたがって比表面積の高い不織布の製造を可能にする。
【0039】
冒頭に記載の課題は、さらに、本発明の請求項29の特徴を有する電気化学セルによって解決される。進歩性に関連する記述の繰り返しを避けるために、層自体についての実施形態を参照されたい。
【0040】
本発明の教示を有利に形成しかつ発展させる種々の手段が存在する。それについては、一方で、請求項1および29に従属する併記の請求項を、他方で、表および図面に基づく有利な実施例についての以下の説明を参照されたい。
【0041】
要約すると、本発明は、アンモニアもしくはアンモニア化合物を化学的および/または物理的に結合可能にする少なくとも1つの第1の物質を含む繊維を含む層、特に電気化学セルにおけるセパレータとして使用される層であって、この第1の物質が繊維の体積領域に存在し、その繊維の表面が少なくとも部分的に第2の物質で被覆されていることを特徴としている。本発明は、その寿命の期間にわたってわずかな自己放電を示す電気化学セルを提供するという本願課題を解決する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
表および図面に基づく有利な実施例の説明に関連させて、前記教示の一般的な有利な態様および発展形についても説明する。
【0043】
図1に、従来技術によるタイプのコア−シェル繊維および本発明によるタイプのコア−シェル繊維を示す。
【0044】
繊維タイプAおよびBは、従来技術で既に知られている。繊維タイプAは、コア1に、アンモニア結合能を示さないポリマーを有する。シェル2のポリマーも、同じくアンモニア結合能を示さない。シェル2の表面3のみが、該繊維が表面の領域にのみアンモニア結合能を有するように官能化もしくは機能化されている。この領域で、シェル2の第2のポリマーが、アンモニア結合能を示すように官能化されている。この場合の従来技術は、不飽和の物質、例えばアクリル酸のスルホン化ないしはグラフトの処理である。
【0045】
繊維タイプBは、アンモニア結合能を示さない第1のポリマーをコア1に有する。シェル2を形成する第2のポリマーは、アンモニア結合能を示すように官能化されている。
【0046】
繊維タイプCおよびDは、本発明による層で使用される。
【0047】
繊維タイプCでは、コア1のポリマーのみが、アンモニア結合能を示すように官能化もしくは機能化されている。該ポリマーは、アンモニア結合能を示さない第2のポリマーによって被覆されている。
【0048】
繊維タイプDは、コア1に、アンモニア結合能を示すように官能化されている第1のポリマーを有する。コア1の第1のポリマーと異なるシェル2の第2のポリマーも、同じく官能化されている。第2のポリマーの官能化によってこの第2のポリマーにもアンモニア結合能が付与されている。
【0049】
繊維タイプCまたはDの別の形態では、官能化されたポリマーをコアに有し、官能化されていないポリマーをシェルに有し、この場合、繊維タイプBで記載したのと同様のシェルのポリマーを、後から表面処理することができる。
【0050】
以下に説明する実施例のアンモニア結合能の測定には、次の方法を使用する。
【0051】
繊維材料ないしはセパレータ材料として用意した出発ポリマー約2gを、1M(mol/L)の苛性カリ液(KOH)120ml中で、0.3Mのアンモニア(NH)5mlを添加して、3日間40℃で貯蔵した。出発ポリマーなしの2つの対照試験も同時に行った。
【0052】
貯蔵後、場合によっては油性の析出物を濾紙を用いて表面から吸収させ、除去した。上記出発混合物の元の125mlのうち部分量100mlを取り、これからアンモニアを、水蒸気蒸留によって、0.1Mの塩酸(HCl)10mlおよび指示薬としてのメチルレッド数滴を添加した蒸留水150ml中に追い込んだ。続いて、酸を0.1N(規定)の苛性ソーダ(NaOH)で逆滴定した。
【0053】
層の長期間安定性の測定を、30%の苛性カリ水溶液中での温度85℃で8日間の期間にわたる繊維材料ないしはセパレータ材料の貯蔵によって行なった。繊維材料ないしはセパレータ材料を取り出し、中和されるまで蒸留水で洗浄した後、再びアンモニア結合能の測定を前記の通り行なった。
【0054】
アンモニア結合能力の減少は、貯蔵後の結合能と貯蔵前の結合能とからの商によって算出される。
【実施例】
【0055】
A)アンモニアを結合するポリオレフィン繊維の製造
A1-1: アクリル酸でグラフトされたポリプロピレンからなるコアと、官能化されていないポリエチレンからなるシェルとを有するコア−シェル繊維の使用。
コアポリマーとして、アクリル酸(AS)約5.5%を用いた化学的グラフトによって改質したポリプロピレンを使用した。使用されるシェルポリマーは、DOW社の商業利用されているポリエチレンである。コア−シェル比は50:50であった。得られた繊維の繊度は約1.7dtexであった。繊維のアンモニア結合能は、0.39mmolNH/g繊維材料であった。
【0056】
A1-2: アクリル酸でグラフトされたポリプロピレンからなるコアと、アクリル酸でグラフトされたポリエチレンからなるシェルとを有するコア−シェル繊維の使用。
コアポリマーとして、アクリル酸(AS)約5.5%を用いた化学的グラフトによって改質したポリプロピレンを使用した。シェルポリマーとして、同様にアクリル酸(AS)約6%を用いた化学的グラフトによって改質された改質ポリエチレンを使用した。コア−シェル比は50:50であった。得られた繊維の繊度は約2.0dtexであった。繊維のアンモニア結合能は、0.55mmolNH/g繊維材料であった。
【0057】
比較例A2: ポリプロピレンからなる「コア」と、アクリル酸でグラフトされたポリエチレンからなる「シェル」とを有するコア−シェル繊維の使用。
コア−シェル比は50:50であった。得られた繊維の繊度は約1.7dtexであった。繊維のアンモニア結合能は0.38mmolNH/g繊維材料であった。このようにして製造された繊維は、独国特許出願公開第102005005852号明細書に記載されている。
【0058】
B)前記繊維から製造した不織布
B1-1: A1-1に記載の改質されたコア−シェル繊維を分散させ、100%の含量で堆積させて湿式不織布にした。単位面積当たり重量60g/mを有するこの得られた不織布を、続いて125℃で熱的に結合させ(サーマルボンディング)、厚み180μmにカレンダー処理した。測定されたアンモニア結合能は、0.38mmolNH/g不織布であった。
【0059】
B1-2: A1-1によるコア−シェル繊維70%を、繊度0.8dtexの純粋なポリプロピレン繊維(大和紡績株式会社)30%と共に分散させ、湿式不織布を堆積させた。単位面積当たり重量60g/mを有するこの得られた不織布を、続いて125℃で熱的に結合させ、厚み140μmにカレンダー処理した。測定されたアンモニア結合能は、0.28mmolNH/g不織布であった。
【0060】
B1-3: A1-1によるコア−シェル繊維85%を、繊度3.3dtexのスプリット繊維(ポリマーPP/EVOH、32セグメント)(大和紡績株式会社)15%と共に分散させ、湿式不織布を堆積させた。分散中の高い機械的エネルギーの導入によって上記スプリット繊維の分裂を達成することができた。単位面積当たり重量60g/mを有するこの得られた不織布を、続いて125℃で熱的に結合し、厚み140μmにカレンダー処理した。測定されたアンモニア結合能は、0.33mmolNH/g不織布であった。
【0061】
B1-4: この実施例は、A1-2に記載の繊維100%からなる層である。この繊維を分散させ、この分散させた繊維から湿式不織布を堆積させた。単位面積当たり重量60g/mを有するこの得られた不織布を、続いて127℃で熱的に結合し、厚み180μmにカレンダー処理した。測定されたアンモニア結合能は、0.53mmolNH/g不織布であった。
【0062】
B1-5: A1-1に記載の繊維を乾式不織布に加工した。単位面積当たり重量60g/mを有するこの得られた不織布を、続いて125℃で熱的に結合し、厚み180μmにカレンダー処理した。測定されたアンモニア結合能は、0.36mmolNH/g不織布であった。この実施例で使用された繊維をその形態に関して乾式不織布法に適合させた。巻縮を生じさせるために長い切断長さを選択した。
【0063】
比較例(空試験)
B2-1: 本発明には従わず官能化されていないポリオレフィン繊維からなる市販の製品FS2226(単位面積当たり重量60g/m、厚み180μm)を使用した。測定されたアンモニア結合能は、0mmolNH/g層材料であった。
【0064】
B2-2: シェルが官能化されている繊維からなる独国特許出願公開第102005005852号明細書に記載の層を使用した(比較例A2)。測定されたアンモニア結合能は、0.31mmolNH/g層材料であった。
【0065】
B2-3: 紫外線により誘発されたアクリル酸のグラフトによって表面が官能化された英Scimat社の市販の不織布700/77を使用した。測定されたアンモニア結合能は0.29mmolNH/g不織布であった。
【0066】
B2-4: 発煙硫酸を用いたスルホン化によって表面が官能化された日本バイリーン株式会社より市販の不織布FV 4365を使用した。測定されたアンモニア結合能は0.32mmolNH/g不織布であった。
【0067】
B2-5: 気体のSOを用いたスルホン化によって表面が官能化された大和紡績株式会社より市販の不織布PZ P64 Lを使用した。測定されたアンモニア結合能は0.15mmolNH/g不織布であった。
【0068】
次の表1は、前記実施例および比較例(空試験)のアンモニア結合能についての概要を示す。
【0069】
アンモニア結合能は、層材料(繊維または不織布)1グラムあたりのアンモニアのmmolで示す。貯蔵によるアンモニア結合能の維持の程度は、初期値(貯蔵前のアンモニア結合能)に対する貯蔵後のアンモニア結合能の比であり、アンモニア結合能残留率(%)として表す。
【0070】
【表1】

【0071】
C)バッテリの自己放電検査についての結果
上記B)で製造した不織布をセパレータとしてバッテリに組み込み、自己放電(SE)へのその影響に関する試験を行った。このために、1600mAhの容量を有する単3サイズのニッケル水素電池をそれぞれ5つ製造し、これら電池には、B1-1、B1-4ならびに比較例B2-1のセパレータを設けた。自己放電(SE)を種々の条件で%で測定し、この場合、自己放電は、%で失われた電荷を示す。
【0072】
表2に、この結果の概要を示す。表中、dは日数を表わす。温度はバッテリの貯蔵温度を示す。
【0073】
【表2】

【0074】
アンモニア結合の本発明による効果を検査するために次の試験を実施した。
【0075】
アクリル酸を用いた化学的グラフトによって官能化されたポリオレフィンを粉砕し、2つの異なるサイズ画分に分けた。
【0076】
画分1は400〜500μmの粒度を示し、画分2は150〜250μmの粒度を示していた。これら2つの画分についてアンモニア結合能を測定した。
【0077】
両方の画分の表面積が数等級異なるにもかかわらず、結合能はどちらの画分でも0.55±0.05mmol/g層であることが判明した。このことから、アンモニアの結合が、表面積の効果によるものではないもしくは主になく、有利には、深さの効果によるものと結論付けることができる。
【0078】
本発明の教示のさらなる有利な形態および発展形については、一方では明細書の全体部分を、他方では添付の特許請求の範囲を参照されたい。
【0079】
最後に、単に任意に選択された上記実施例は、もっぱら本発明による教示を詳説するために用いたものであり、本発明による教示は、この実施例に限定されないことを特に強調しておく。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】コア−シェル繊維の概略図である。
【符号の説明】
【0081】
1 コア−シェル繊維のコア
2 コア−シェル繊維のシェル
3 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に電気化学セルにおけるセパレータとして使用される層であって、
アンモニアもしくはアンモニア化合物が化学的および/または物理的に結合可能である少なくとも1つの第1の物質を含む繊維を含み、
前記第1の物質が前記繊維の体積領域に存在し、該繊維の表面が少なくとも部分的に第2の物質で覆われている、層。
【請求項2】
前記体積領域がコアとして形成され、前記繊維がコア−シェル繊維として形成されている、請求項1に記載の層。
【請求項3】
前記体積領域の被覆度が少なくとも80%である、請求項1または2に記載の層。
【請求項4】
前記繊維の含量が少なくとも30重量%である、請求項1から3のいずれか1項に記載の層。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第1の物質が第1のポリマーとして形成され、前記第2の物質が、前記第1のポリマーと異なる第2のポリマーとして形成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の層。
【請求項6】
前記第1のポリマー、または前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーが、共重合によって形成されたポリマーとして形成されている、請求項5に記載の層。
【請求項7】
前記第1のポリマー、または前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーが、グラフトによって形成されたポリマーとして形成されている、請求項5に記載の層。
【請求項8】
前記第1のポリマー、または前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーが、反応押出によって形成されたポリマーとして形成されている、請求項5に記載の層。
【請求項9】
前記第1のポリマー、または前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーが、ポリオレフィンとして形成されている、請求項5から8のいずれか1項に記載の層。
【請求項10】
前記第1のポリマー、または前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーが、不飽和有機酸および/または酸誘導体によって改質されているポリオレフィンとして形成されている、請求項7から9のいずれか1項に記載の層。
【請求項11】
前記第1のポリマーが、スルホン化されたポリオレフィンとして形成されている、請求項9に記載の層。
【請求項12】
前記第1のポリマーと、該第1のポリマーと異なる第2のポリマーとの間に、境界層が形成されている、請求項5から11のいずれか1項に記載の層。
【請求項13】
少なくとも0.1mmol/g、特に少なくとも0.25mmol/gのアンモニア結合能を有する、請求項1から12のいずれか1項に記載の層。
【請求項14】
高温の30%の苛性カリ液中での数日にわたる貯蔵後のアンモニア結合能が、初期値の少なくとも50%である、請求項1から13のいずれか1項に記載の層。
【請求項15】
前記繊維の他に該繊維と異なるさらなる第2の繊維が存在し、該第2の繊維が、濃アルカリ溶液に対して耐加水分解性である、請求項1から14のいずれか1項に記載の層。
【請求項16】
親水特性を特徴とする、請求項1から15のいずれか1項に記載の層。
【請求項17】
フッ素化によって処理されている、請求項16に記載の層。
【請求項18】
プラズマ処理によって処理されている、請求項16に記載の層。
【請求項19】
スルホン化によって処理されている、請求項16に記載の層。
【請求項20】
グラフトされた多孔質の不飽和有機物質を特徴とする、請求項16に記載の層。
【請求項21】
湿潤剤を用いた親水化を特徴とする、請求項16に記載の層。
【請求項22】
単位面積当たり重量が、15〜300g/m、特に25〜150g/mである、請求項1から21のいずれか1項に記載の層。
【請求項23】
厚みが、20〜400μm、特に40〜250μmである、請求項1から22のいずれか1項に記載の層。
【請求項24】
不織布としての形態を特徴とする、請求項1から23のいずれか1項に記載の層。
【請求項25】
湿式不織布法によって製造されている、請求項24に記載の層。
【請求項26】
乾式不織布法によって製造されている、請求項24に記載の層。
【請求項27】
スパンボンド法によって製造されている、請求項24に記載の層。
【請求項28】
メルトブローン法によって製造されている、請求項24に記載の層。
【請求項29】
ケーシングを有する電気化学セル、特にバッテリであって、
前記ケーシングが、少なくとも部分的に、少なくとも1つの正および負の電極、ならびに電荷担体の輸送を可能にする材料を収容し、セパレータが前記電極を分離しているものにおいて、
前記セパレータが、請求項1から28のいずれか1項に記載の層を含む、電気化学セル、特にバッテリ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−181880(P2008−181880A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13030(P2008−13030)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(501479868)カール・フロイデンベルク・カーゲー (73)
【Fターム(参考)】