説明

遮音床

【課題】 遮音床の構造を工夫することにより、空気ばね機能を積極的に利用し、衝撃音などをその発生領域で急激に減衰させることのできる安価で効率的な、床面積の大きい大量施工に適した遮音床を提供する。
【解決手段】 下向きに開口する複数の凹部14を有する床パネル11を、スラブ3上の複数点で防振機能を備えた支持脚21を介して支持する。吸音材としてのパネル状のグラスウール23により、各凹部14内における空気の移動を抑制し、この部分を空気バネ層とし、床パネル3上の騒音および振動を、空気バネ層による減衰機能と建物躯体による減衰機能の両者で減衰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅、ホテルなど、遮音性が要求される床面積の大きい建物に適した遮音床の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の上下階の仕切りとしてスラブが形成されており、上階の住人が発する音楽などの音、歩行音や物を床面に落下させた際の衝撃音が下階に伝わる。これらの音は下階の住人にとっては騒音であり、床に遮音性能を付与し、騒音が下階に伝導しないようにする必要がある。
【0003】
従来の建築物の遮音床は、スラブ上にグラスウール等の吸音材を敷き、その上にコンクリートを打設し、均しモルタルの上に仕上材で床表面を仕上げる湿式浮床構造があるが、この湿式浮床は、現場でコンクリート打設するため養生期間を必要とする。また、打設されるコンクリートは吸音材問にも入り込み、コンクリートの使用量および床重量の増加などから大面積での使用には適さない。
【0004】
さらに、上階の床が重量音(極低周波数)の衝撃音に共振し、低周波の耳障りな床衝撃音が下階に伝達され、下階の居住者に不快感を与える問題があった(特許文献1参照)。
【0005】
また、特許文献2には、乾式遮音二重床として、建築構造物のコンクリートスラブ上に制振ゴム付き支持部材を所定間隔で配置し、その上に床下地パネルを配置し、必要に応じて吸音材をスラブ上に敷き詰めて遮音床とするものが開示されている。
【0006】
特許文献3には、空気音や衝撃音を遮音するため、鋼製の大引を防振ゴムを介して梁上に設置し、スラブと床面の間に空気層を形成し、更にスラブ面にはグラスウールの吸音材を敷く遮音床が提案されている。
【0007】
【特許文献1】実開平02−009639号公報
【特許文献2】特開2000−073526号公報
【特許文献3】特許第2855491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の遮音床の一般的な考え方は、床スラブを通して下階に伝播する各種各周波数の音を低減するため、各種吸音材を敷設したり、二重床の支持方法を工夫したり、振動エネルギーを建物の梁あるいは壁へ伝播させて構造体に吸収させる方法を併用するものなどである。
【0009】
いずれにせよ、床とスラブで構成される空間を密閉されたものとすると、遮音性能を低下させるとして、床と壁の間などに隙問を設け、床下の空気が出入りさせるようにして床下空間での共鳴が発生しないようにするのが常識であり、通常、床材の周辺部と壁の間の空気を流通させるようにしている。
【0010】
なお、上述した特許文献3には、二重床内の空気層に遮音効果および空気バネ機能による防振効果を持たせるということが記載されているが、特許文献3記載の発明において空気バネ機能を期待している空気層は、設備配管や床下収納の機能を兼ねた少なくとも300mm以上(特許文献3の段落0011参照)の空気層というものであり、空気バネ機能はそれほど期待できない。
【0011】
本発明は、遮音床の構造を工夫することにより、空気ばね機能をより積極的に利用し、特に衝撃音などをその発生領域で急激に減衰させることのできる安価で効率的な、床面積の大きい大量施工に適した遮音床を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に係る遮音床は、下向きに開口する複数の凹部を有する床パネルを、スラブ上の複数点で支持するとともに、前記各凹部内における空気の移動を抑制するための空気移動抑制手段を設けることにより、前記床スラブと前記床パネルとの間に空気バネ層を形成し、前記床パネル上の騒音および振動を、前記空気バネ層による減衰機能と建物躯体による減衰機能の両者で減衰させることを特徴とするものである。
【0013】
前述のように、従来の遮音床の一般的な考え方は、床下の空気がスムーズに出入りできるようにするものであるが、本発明ではスラブ上の床パネル部分に閉領域を形成するための凹部を複数設け、空気移動抑制手段により各凹部内における空気の移動を抑制することで、凹部ごと(ただし、一部の凹部どうしが連通していてもよい。)に空気の移動がある程度拘束された複数の領域から構成される空気バネ層を形成し、まずこの空気バネ層で大きな遮音効果を与えるようにしたものである。
【0014】
空気移動抑制手段は、スラブ上面と床パネルの凹部間を閉塞させて、各凹部近傍における空気の移動を抑制できるものであればよく、材質や形状は特に限定されないが、市販の板状に整形したグラスウールなどを敷設すれば、グラスウール自体の吸音効果も発揮され、さらに効率の良い遮音が可能となる。
【0015】
請求項2は請求項1に係る遮音床において、前記床スラブの上面から前記床パネルの凹部下端までの高さが前記凹部の深さの0.5倍以下であることを特徴とするものである。
【0016】
空気の移動が抑制される閉領域を形成するためには、床スラブの上面から床パネルの凹部下端までの高さができるだけ小さいことが望ましい。しかしながら、床面の平坦性を調整するためや、防振材を介在させてさらに振動を抑制することなどを考慮すると、床スラブの上面から床パネルの凹部下端まで10mm程度以上の隙間が要求される。
【0017】
空気移動抑制手段の種類、形態などにもよるが、ある程度通気を遮断できるものであれば床スラブの上面から床パネルの凹部下端までの高さが凹部の深さの0.5倍程度でも、容易に空気バネ層を形成させることができる。空気移動抑制手段の種類や形態に左右され難い最適な範囲は、0.1〜0.3倍程度である。
【0018】
請求項3は請求項1または2に係る遮音床において、前記床パネルは前記凹部が内側に形成されるように枠組みされた根太材と根太材の上面を塞ぐ板材とから構成されていることを特徴とするものである。
【0019】
本発明における床パネルは、あらかじめ工場などで所定の寸法に成型したものも使用でき、その場合、木製、金属製、FRPなどの樹脂製のもの、あるいはこれらの混構造など、特に限定されない。
【0020】
しかし、従来から最も一般的で安価な木製の場合、床パネルを根太材とその根太材間の上面を塞ぐ板材で構成することができ、請求項2はそのような根太材とその上面の板材で構成される場合を限定したものである。この場合も必ずしも木製に限定されず、また根太材と板材を現場で組んでもよいし、あらかじめ工場で所定寸法のユニットなどに組んでもよい。
【0021】
請求項4は請求項1または2に係る遮音床において、前記床パネルは緩衝手段を備えた複数の支持具により支持されていることを特徴とするものである。
【0022】
緩衝手段としては、防振ゴム自体、あるいは防振ゴムを組み込んだ支持脚などがあり、形態、材質など特に限定されない。
【0023】
請求項5は請求項1〜4に係る遮音床において、前記支持具の全部またはほぼ全部を構造体の梁位置近傍のスラブ上に設置することを特徴とするものである。
【0024】
支持具設置位置は緩衝手段を備えていても、床に作用する力や振動を支持具を介して床スラブに伝えるため、一般的にはスラブの中央部より、力や振動を梁や柱に流しやすい梁位置近傍に設置することで構造体での遮音、振動吸収効果が得やすい。
【0025】
ただし、本発明の場合、空気ばね層の遮音効果が大きく、特に実験的にも発信源からの距離に応じて衝撃音が急激に減衰することが確認されており、梁間に支持具を設置した場合でも比較的良好な遮音効果が得られる。
【0026】
請求項6は請求項1〜5に係る遮音床において、前記空気移動抑制手段が吸音材によって形成されていることを特徴とするものである。
【0027】
前述のように空気移動抑制手段としてグラスウールなどの吸音材を用いれば、吸音材自体の吸音効果も発揮される。このような吸音材としては、グラスウールの他、例えばフェルトなどの繊維材が挙げられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の遮音床によれば、二重床を構成する床スラブと床パネル間に、振動減衰機能に優れた空気バネ層を簡単に形成することで、床面の衝撃音などについても空気バネ層で効果的に減衰させることができ、さらに吸音材による吸音、建物躯体の遮音機能などを併用することで、相乗的な高い遮音効果が得られる。
【0029】
床構造自体は、比較的単純な二重床構造であり、低コストで効率良く施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、本発明を鉄筋コンクリート構造の集合住宅に適用した場合の最良の形態を示したもので、図1では床パネルとその支持脚の配置関係を床パネル上面材を省いて示している。図2はそのA−A断面の詳細を示したものである。
【0031】
図1は集合住宅の一住戸の一室を抜き出して示したものであり、図中、上下方向の梁2,2間のスパンが約8mの場合を想定しており、複数本平行に配置した根太材12、横桟12a、および上面板13とで、下向きに開口する凹部14を有する床パネル11(4m×4m)を形成し、これを2枚並べて設置してある。なお、説明の簡略化のため、図において4周の壁との取り合いは省略している。
【0032】
床パネル11は、図2に示すように建物躯体の床スラブ3上に、支持脚21を介して設置してあり、上面板13の上面にフローリング材31を取り付けてある。
【0033】
この例で、根太材12(側根太、端根太を含む)としては、4mスパン用として断面が38mm×140mmの単板積層材(LVL)を2枚重ねて用いており、この高さ140mmが凹部14の深さとなっている。上面板13にはパーティクルボードを使用している。
【0034】
支持脚21としては、防振ゴムの基台21aとねじ式の高さ調節部21bを備えたものを用い、屈曲させた支持金具22を介して側根太材12aの下端を、床スラブ3の上面に近接させて支持している。図の例では床スラブ3の上面と根太材12の下端、すなわち床パネル11の下端との間隔を約15mmとしている。
【0035】
床パネル11の凹部14には、床スラブ3の上面からパネル状に成形された吸音材であるガラスウール23が空気移動抑制材を兼ねて設置されており、凹部14内の空気の移動を抑制することで、空気バネ層を形成し、空気バネによる遮音、防振機能を最大限に利用できる構造としている。
【0036】
なお、図2において、符号32は巾木、33はパッキンであり、この部分でも隙間を小さくして空気の移動を抑制している。
【0037】
図3は、本発明における遮音の原理を概念図として示したもので、床パネル11の凹部14における空気の移動を拘束して空気バネ層を形成し、室内で生じる音や振動を空気バネの機能により減衰させ、さらに床パネル11の端部を躯体の梁2近傍で支持することで、その振動をできるだけ構造躯体に逃がし、階下に伝わる音や振動を最小限に抑えることができる。
【0038】
以上は、床パネル11として根太材12などを用いた場合であるが、これに対し、図4および図5は床パネルの他の形態として、主として軽量金属あるいはFRPなどを用いる場合の床パネル41,51の例を示したものである。
【0039】
図4は上面板43から垂下するリブ42により、一方向に長い凹部44を平行に複数形成した場合、図5はリブ52を格子状に設け、格子の内側に凹部54を形成した場合である。なお、図5では、床パネル51の1ユニットを細長いユニットに形成し、これを複数並列させて敷設したものである。
【0040】
遮音の原理は図1、図2のものと同様である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態における床パネルとその支持脚の配置関係を床パネル上面材を省いて示した平面図である。
【図2】図1のA−A断面の詳細を示した縦断面図である。
【図3】本発明における遮音の原理を示した概念図である。
【図4】床パネルの形態の一例を示す斜視図である。
【図5】床パネルの形態の他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1…柱、2…梁、3…床スラブ、
11…床パネル、12…根太材、12a…横桟、13…上面板、14…凹部、
21…支持脚、21a…基台、21b…高さ調節部、22…支持金具、23…グラスウール、
31…フローリング材、32…巾木、33…パッキン、
41…床パネル、42…リブ、43…上面板、44…凹部、
51…床パネル、52…リブ、53…上面板、54…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下向きに開口する複数の凹部を有する床パネルを、スラブ上の複数点で支持するとともに、前記各凹部内における空気の移動を抑制するための空気移動抑制手段を設けることにより、前記床スラブと前記床パネルとの間に空気バネ層を形成し、前記床パネル上の騒音および振動を、前記空気バネ層による減衰機能と建物躯体による減衰機能の両者で減衰させることを特徴とする遮音床。
【請求項2】
前記床スラブの上面から前記床パネルの凹部下端までの高さが前記凹部の深さの0.5倍以下であることを特徴とする請求項1記載の遮音床。
【請求項3】
前記床パネルは前記凹部が内側に形成されるように枠組みされた根太材と根太材の上面を塞ぐ板材とから構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の遮音床。
【請求項4】
前記床パネルは緩衝手段を備えた複数の支持具により支持されていることを特徴とする請求項1、2または3記載の遮音床。
【請求項5】
前記支持具の全部またはほぼ全部を構造体の梁近傍位置のスラブ上に設置することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の遮音床。
【請求項6】
前記空気移動抑制手段が吸音材によって形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の遮音床。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−277956(P2007−277956A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106453(P2006−106453)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(592040826)住友不動産株式会社 (94)
【Fターム(参考)】