説明

遷移金属水酸化物の製造方法

【課題】ウェットケークを得るための工程時間を短縮し、二次電池の正極活物質の前駆体である遷移金属水酸化物を高い生産性で製造することが可能な方法を提供する。
【解決手段】遷移金属元素を含む溶液をアルカリと接触させることにより遷移金属水酸化物を主成分とする沈殿物成分を含むスラリーを得る工程と、該工程で得られたスラリーをフィルタープレスに供給し、ろ過および圧搾脱水により固液分離してウェットケークを得る工程と、該工程で得られたウェットケークを乾燥する工程と、を有する遷移金属水酸化物の製造方法。該製造方法によるとろ過と圧搾脱水を組み合わせたフィルタープレスによって、ウェットケークを得るための工程時間を短縮することができるため、遷移金属水酸化物を高い生産性にて製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム複合金属酸化物は、リチウム二次電池などの二次電池における正極中に含まれる正極活物質として用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話やノートパソコン等の電源として実用化されており、更に自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型用途においても、適用が試みられている。
【0003】
リチウム複合金属酸化物の製造方法としては、特許文献1に開示されているように、Ni、Mnなどの遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させて遷移金属水酸化物を主成分とする沈殿物として含むスラリーを得、得られたスラリーを全量ろ過により固液分離して遷移金属水酸化物のウェットケークを得、該ウェットケークを乾燥させる方法により、遷移金属水酸化物からなる乾燥物を得、得られた乾燥物をリチウム化合物と混合し、焼成する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第09/041722号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の製法において、遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させて得られるスラリー中の遷移金属水酸化物は微粒のため、工業的に通常使用されるろ材にてろ過を行った場合にろ材の目から該遷移金属水酸化物が漏出し十分な回収率を得られない。一方で、微粒を含むスラリーはろ過抵抗が大きいため、ろ過時間が長くなり、さらにろ過の方式によっては固形分によりろ材の目詰まりを起こしやすいという問題がある。
また、ろ過による脱水を十分に行わずウェットケークの含水量が高いまま次工程である乾燥工程に供するとハンドリングが困難となる。
【0006】
かかる状況下、本発明の目的は、ウェットケークを得るための工程時間を短縮し、遷移金属水酸化物を高い生産性で製造することが可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 遷移金属元素を含む溶液をアルカリと接触させることにより遷移金属水酸化物を主成分とする沈殿物成分を含むスラリーを得る工程と、
該工程で得られたスラリーをフィルタープレスに供給し、ろ過および圧搾脱水により固液分離してウェットケークを得る工程と、
該工程で得られたウェットケークを乾燥する工程と、
を有する遷移金属水酸化物の製造方法。
<2> ウェットケークを得る工程において、さらにフィルタープレス内で、沈殿物成分の水洗を行う前記<1>記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<3>ウェットケークを得る工程において、得られたウェットケークをフィルタープレス内で減圧および/または加熱により予備乾燥する前記<1>または<2>記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<4> 予備乾燥後のウェットケークの水分が40重量%以下(湿潤基準)である前記<3>記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<5> 遷移金属元素が、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素である前記<1>から<4>のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<6> 遷移金属元素が、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素並びにCoおよびFeからなる群から選ばれる1以上の元素である前記<1>から<4>のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
前記<1>から<6>のいずれかに記載の製造方法により遷移金属水酸化物を得、得られた遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合し、焼成することにより、リチウム複合金属酸化物を製造することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ろ過と圧搾脱水を組み合わせたフィルタープレスによって、ウェットケークを得るための工程時間を短縮することができるため、二次電池正極材の原料として好適な遷移金属水酸化物を高い生産性にて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の製造方法に係るフィルタープレスおよびその周辺設備の概略図である。
【図2】フィルタープレスの部分拡大図である。
【図3】フィルタープレスのろ過室の構成を示す図(断面図)である
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、遷移金属元素を含む溶液をアルカリと接触させることにより遷移金属水酸化物を主成分とする沈殿物成分を含むスラリーを得る工程と、
該工程で得られたスラリーをフィルタープレスに供給し、ろ過および圧搾脱水により固液分離してウェットケークを得る工程と、
該工程で得られたウェットケークを乾燥する工程と、
を有する遷移金属水酸化物の製造方法に係るものである。
なお、以下、本発明の製造方法において、遷移金属元素を含む溶液をアルカリと接触させることにより遷移金属水酸化物を含むスラリーを得る工程を「工程(1)」、工程(1)で得られたスラリーをフィルタープレスに供給し、ろ過および圧搾脱水により固液分離してウェットケークを得る工程を「工程(2)」、工程(2)で得られたウェットケークを乾燥する工程を「工程(3)」と称す。
【0012】
本発明の製造方法において、上記溶液に含まれる遷移金属元素としては、その水酸化物が、リチウム化合物と混合され、焼成されることにより二次電池の正極活物質となりうるものであれば制限がなく、例えば、Ni、Mn、Co、Fe、Cr、Ti等を挙げることができる。
この中でも、高容量の二次電池用正極を得るという観点からは、上記溶液が、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素を含有することが好ましい。さらに、より高容量の二次電池用正極を得るという観点からは、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素に加えて、さらにCoおよびFeからなる群から選ばれる1以上の元素を含有することが好ましい。
【0013】
上記溶液は、例えば、それぞれの遷移金属元素の金属単体、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、アルコキシドなどを、水やこれらを溶解することが可能なアルコール等の有機溶剤などの溶媒に溶解して作製することができ、溶媒としては通常、水が用いられ、好ましくは純水、イオン交換水などが用いられる。
なお、前記遷移金属元素の単体または化合物が前記溶媒に溶解し難い場合には、それらを塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などを含有する溶液に溶解させて作製してもよい。
この中でも遷移金属元素の塩化物、例えば、Niの塩化物、Mnの塩化物、Coの塩化物およびFeの塩化物を水に溶解して得られる水溶液であることが好ましい。Feの塩化物としては、2価のFeの塩化物であることが好ましい。
【0014】
アルカリとしては、例えば、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、Li2CO3(炭酸リチウム)、Na2CO3(炭酸ナトリウム)、K2CO3(炭酸カリウム)および(NH42CO3(炭酸アンモニウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物並びに該1種以上の水和物を挙げることができる。
アルカリとして、アンモニアを挙げることもできる。
アルカリは通常水溶液として用いられる。このアルカリ水溶液におけるアルカリの濃度は、通常0.5〜10モル/L程度、好ましくは1〜8モル/L程度である。また、製造コストの面から、用いるアルカリとして好ましくはNaOHおよびKOHの無水物並びにその水和物を用いることが好ましい。また、上述のアルカリは2つ以上併用してもよい。
【0015】
これらの溶媒として使用されるアルカリ水溶液に使用される水は、好ましくは純水および、/またはイオン交換水である。また、本発明の効果をそこなわない範囲で、アルコールなど水以外の有機溶媒や、pH調整剤などを含んでいてもよい。
【0016】
遷移金属元素を含有する溶液と、アルカリとを接触させることで、遷移金属水酸化物を含有するスラリーを得る。このスラリーは、大部分が、遷移金属水酸化物からなる沈殿物と水などの溶媒とからなるスラリーであり、スラリーを得る過程で残った原料、副生塩、例えば、KCl、添加剤、有機溶剤等を含んでいてもよい。
遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させる方法としては、遷移金属元素を含有する溶液にアルカリを添加して混合する方法、アルカリに遷移金属元素を含有する溶液を添加して混合する方法、水などの溶媒に遷移金属元素を含有する溶液およびアルカリを添加して混合する方法を挙げることができる。これらの混合時には、攪拌を伴うことが好ましい。また、上記の接触の方法の中でも、溶媒として水を使用して、アルカリ水溶液に遷移金属元素を含有する水溶液を添加して混合する方法が、pHを一定範囲に保ちやすい点で好ましく用いることができる。この場合、アルカリ水溶液に、遷移金属元素を含有する水溶液を添加混合していくに従い、混合された液のpHが低下していく傾向にあるが、このpHが9以上、好ましくは10以上となるように調節しながら、遷移金属元素を含有する水溶液を添加するのがよい。また、遷移金属元素を含有する水溶液およびアルカリ水溶液のうち、いずれか一方または両方の水溶液を40〜80℃の温度に保持しながら混合すると、より均一な組成の沈殿物が含まれるスラリーを得ることができるため好ましい。
【0017】
次いで、工程(2)について説明する。工程(2)は、工程(1)にて得られたスラリーを、フィルタープレスに供給し、ろ過および圧搾脱水により固液分離して、ウェットケークを得る工程である。
以下、図面に基づき、工程(2)の好適な一実施形態を具体的に説明する。
【0018】
図1に本発明の製造方法に係るフィルタープレスおよびその周辺設備の概略図、図2にフィルタープレスの部分拡大図を示す。
図1に示すように、スラリーのろ過と圧搾を行う場合の加圧濾過機であるフィルタープレス1の本体は、洗浄水供給設備2と、排水回収設備3と送水配管を介して接続されている。また、予備乾燥用の設備として、加熱設備4と、液体凝集器および減圧ポンプを備えた減圧脱水設備5とが配管を介してフィルタープレス1に接続されている。
フィルタープレス1の下部には、脱水後のウェットケークを回収するウェットケーク回収器6が備えられている。
【0019】
図2にフィルタープレスの部分拡大図を示す。図2に示すようにフィルタープレス1は、複数のろ過室10を連続にならべたものである。図3に示すようにろ過室10は、その周囲をろ布11と、ダイヤフラム12と、流体供給路13と、ろ板14とが順に重なった構造を有する。
スラリーは、ろ過室10の内部10aに供給された後、ろ過、圧搾脱水(必要に応じて、水洗、予備乾燥)に供され、ウェットケークとしてウェットケーク回収器6に排出される。
【0020】
ろ布11としては、スラリー中の粒子のサイズに応じて、粒子がろ布を通過して目漏れしない通気度、具体的には通常は1mL/cm2/min以下、好ましくは0.3mL/cm2/min以下の通気度を有するろ布が使用される。
【0021】
ダイヤフラム12は、圧搾用流体(気体もしくは液体)により、ろ過室内10の内部10aのスラリーまたはウェットケークを強く押し付け液分を搾る圧搾の目的で配置される。圧搾により、内部10aの液分はろ布11を通じてダイヤフラム12とろ布11との間(連通孔12a)を通って外部へ排出される。また、同様にスラリーのろ過によりろ布11を介して流れ出たろ液は、ろ布11とダイヤフラム12との間(連通孔12a)を通って外部へ排出される。
ダイヤフラム12としては、液体が非透過で可撓性を有する材料が用いられる。具体的には、後述するように、予備乾燥の際に加熱する場合があるため、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴムなどの耐熱性樹脂材料が用いられる。
また、ダイヤフラム12には、複数の連通孔12aが形成されている。この連通孔12aは、減圧脱水設備5(図1参照)と接続しており、減圧ポンプを駆動させることにより、ろ過室10の内部10aを減圧することができる。
【0022】
流体供給路13は、その内部空間(ダイヤフラム12とろ板14の間の空間)に圧搾用流体および加熱用流体を流通させることができる流路である。その壁面であるダイヤフラム12は可撓性を有し、圧搾用流体を流通させることによって、ダイヤフラム12が膨らむことによりろ過室10の内部10aを圧縮することができる。圧縮用流体としては、通常、空気または水が用いられる。
加熱用流体は、加熱設備4を介して循環しており、加熱用流体を加熱設備4により加熱することでろ過室10の内部10aを加熱することができる。加熱用流体は、特に限定はないが、100℃より低い温度に加熱する場合には、通常、水が用いられる。
【0023】
スラリーのろ過および圧搾は、以下のように行うことができる。
まず、工程(1)にて得られたスラリーを、ろ過室10の導入孔(図示せず)からその内部10aに供給し、スラリー供給ポンプ(図示せず)により圧力をかけることによってスラリーのろ過を行う。
なお、フィルタープレス1は、油圧駆動源(図示しない)を備えており、該油圧駆動源によって、複数のろ過室10を一端側に押し付けることができ、スラリーを供給する圧力(あるいは後述する水洗による圧力)によって各ろ過室10が広がり系外に液漏れが生じることを回避している。
ろ過の際の圧力は、0.1〜1.0MPaGが好ましく、0.2〜0.8MPaGがより好ましい。0.1MPaG未満の場合には、ろ過速度が遅くなる場合があり、1.0MPaGを超えると油圧駆動源を大きくする必要があり、また、ろ布11の目詰まりの原因となったり、ろ布11が痛みやすくなるなどの問題もある。
【0024】
次いで、流体供給路13に圧搾用流体を流通させることによって、ろ過室10の内部10aで、ろ布11で囲まれた内部10aのスラリーもしくはウェットケークを、ダイヤフラム12およびろ布11を通じて圧縮することによって、スラリーがろ布の表面に押圧されて、ケークを圧搾して機械的に脱水する。
圧搾の際の圧力は、0.1〜1.0MPaGが好ましく、0.2〜0.8MPaGがより好ましい。0.1MPaG未満の場合には、脱水が不十分となる場合があり、1.0MPaGを超えるとろ布11やダイヤフラム12の劣化の原因となる。
上記条件にてろ過および圧搾脱水を行うことにより、ウェットケークの含水量を湿潤基準で70重量%以下にすることができる。なお、「湿潤基準」とは、ウェットケーク中に含まれる水の重量を、ウェットケークの重量(水と固形分の合計重量)で除して算出されるもの(=水重量/(水重量+固形分重量)×100)である。
【0025】
なお、工程(2)において、フィルタープレス内にて沈殿物成分の水洗を行うことを行うことが好ましい。ここで、「沈殿物成分」とは、上記スラリーに含まれる固形分を意味する。沈殿物成分の水洗を行うことにより、沈殿物成分から、スラリーを得る過程で残った原料などの不純物を除去することができる。
沈殿物成分の水洗は、具体的には、洗浄水供給設備2から洗浄水を送液し、フィルタープレス1内のろ過室10でろ過を行ったのちに、ろ過室10の内部10aに洗浄水を供給して、ろ過後のケークに洗浄水を透過させることによって行われる。なお、排液(ろ過液)は排水回収設備3にて回収される。
水洗の条件として、洗浄水の供給圧力は、0.1〜1.0MPaGが好ましく、0.2〜0.8MPaGがより好ましい。0.1MPaG未満の場合には、洗浄時間が長くなる場合があり、1.0MPaGを超えると油圧駆動源を大きくする必要がある。また、ろ布11の目詰まりの原因となったり、ろ布11が痛みやすくなるなどの問題もある。
より不純物濃度を低減させるために水洗を2回以上繰り返し行ってもよい。また、スラリーの不純物濃度が高い場合などにおいては、一旦ろ過および圧搾脱水を行ってスラリーの溶媒成分の大部分を除去した後に、ケークに洗浄水を供給して、再度水洗、圧搾脱水を行うこともできる。
【0026】
なお、工程(2)において圧搾脱水されたウェットケークは、後述するように乾燥工程に供されるが、ウェットケークの含水量が高い場合には後工程でのハンドリングが悪くなる。
上述のようにろ過および圧搾脱水を行うことにより、ウェットケークの水分を湿潤基準で70重量%以下にすることができるが、よりウェットケークの含水量を低減させたり、後工程の乾燥工程(工程(3))を短縮させるためには、圧搾脱水されて得られたウェットケークをフィルタープレス1内で予備乾燥することが好ましい。
【0027】
予備乾燥の方法として、減圧処理、加熱処理、通風処理などが挙げられ、本実施形態のフィルタープレス1においては、フィルタープレス1内での減圧および/または加熱により予備乾燥を行うことができる。フィルタープレス1内での減圧や加熱はそれぞれ単独でも乾燥効果があるが、減圧および加熱の両方を行うとより短時間に予備乾燥を行うことができる。
減圧処理および加熱処理は、それぞれ、加熱設備4および減圧脱水設備5を使用して行うことができる。
減圧条件は、減圧脱水設備3が有するフィルタープレス1と減圧ポンプとの間に設けられた液体凝集器(図示せず)にて、留出水を凝縮できる減圧条件下であればよく、通常、5kPa〜20kPaである。圧力が、5kPaより低いと、液体凝集器の温度を10℃以下に冷却する必要が生じる場合があり、20kPaを超えると予備乾燥に時間がかかる場合がある。そのため、好ましくは、圧力が10kPa〜15kPaであり、この範囲であると液体凝集器を常温にしたまま、容易に予備乾燥が可能となる。
加熱条件は、温度が高い方が乾燥速度が速くなり好ましいが、フィルタープレス本体やろ布、ダイヤフラム等の耐熱性を考慮して100℃未満で行うことが好ましい。特に減圧と加熱を両方行う場合には、減圧する圧力での水の沸点より高い流体で加熱すればよい。
【0028】
ここで、工程(3)の乾燥工程におけるハンドリング性を高めるためには、予備乾燥後のウェットケークの含水量が、湿潤基準で40重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることより好ましい。
ウェットケークの含水量が、湿潤基準で40重量%以下とすることにより、工程(3)の乾燥時間が短縮され、乾燥物の生産性が向上する。
なお、予備乾燥によって、ウェットケークの含水量をどの程度まで低減させるかは、次工程(工程(3)の乾燥工程)と併せて全体的な効率性を考慮して決定される。
【0029】
次いで、工程(3)について説明する。
工程(3)は、フィルタープレスから排出されたウェットケークを乾燥する工程である。
【0030】
具体的には、工程(2)において、まず、圧搾脱水をおこなった後に、ろ板14を機械的に移動させ、ろ布11およびダイヤフラム12からろ過室10の内部10aへの押圧を弱めることにより、ウェットケークをフィルタープレス1からウェットケーク回収器6へ導く。次いで、該ウェットケークを適当な乾燥手段にて乾燥することにより、遷移金属水酸化物の乾燥物(以下、単に「乾燥物」と記載する場合がある。)を得る。
【0031】
工程(3)における乾燥は、通常、熱処理によって行われるが、送風乾燥、真空乾燥等によってもよい。また、乾燥の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガスを用いることができるが、大気雰囲気が好ましい。乾燥を熱処理によって行う場合には、通常50〜300℃である。
【0032】
乾燥物のBET比表面積は、通常、10m2/g以上100m2/g以下程度である。乾燥物のBET比表面積は、乾燥温度によって調節することができる。乾燥物のBET比表面積は、後述の焼成時の反応性を促進させる意味で、20m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上であることがより好ましい。また、操作性の観点では、乾燥物のBET比表面積は、90m2/g以下であることが好ましく、85m2/g以下であることがより好ましい。また、乾燥物は、通常、0.001μm以上0.1μm以下の粒径の一次粒子と、一次粒子が凝集して形成された1μm以上100μm以下の粒径の二次粒子との混合物からなる。一次粒子、二次粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(以下、SEMということがある。)で観察することにより、測定することができる。二次粒子の粒径は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0033】
上記により得られる遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合し、得られる混合物を焼成することにより、リチウム複合金属酸化物を得ることができる。
リチウム化合物としては、水酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウムおよび炭酸リチウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物並びに該1種以上の水和物を挙げることができる。混合は、乾式混合、湿式混合のいずれによってもよいが、簡便性の観点では、乾式混合が好ましい。混合装置としては、攪拌混合、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、ボールミル等を挙げることができる。
【0034】
前記焼成における保持温度により、リチウム複合金属酸化物のBET比表面積を調整することができる。通常、保持温度が高くなればなるほど、BET比表面積は小さくなる傾向にある。保持温度を低くすればするほど、BET比表面積は大きくなる傾向にある。
保持温度としては、650℃以上900℃以下の範囲であることが好ましい。前記保持温度で保持する時間は、通常0.1〜20時間であり、好ましくは0.5〜8時間である。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃〜400℃/時間であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃〜400℃/時間である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガスを用いることができるが、大気雰囲気が好ましい。
【0035】
前記焼成の際に、混合物は、反応促進剤を含有していてもよい。
反応促進剤として、具体的には、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、CaCl2、MgCl2、SrCl2、BaCl2及びNH4Clなどの塩化物、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、CaCO3、MgCO3、SrCO3及びBaCO3などの炭酸塩、K2SO4、Na2SO4などの硫酸塩、NaF、KF、NH4Fなどのフッ化物、が挙げられる。この中でも、好ましくはNa、K、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr及びBaからなる群から選ばれる1種以上の元素の塩化物、炭酸塩または硫酸塩を挙げることができ、より好ましくはKCl、K2CO3、K2SO4である。また、反応促進剤を2種以上併用することもできる。
混合物が反応促進剤を含有することで、混合物の焼成時の反応性を向上させ、得られるリチウム複合金属酸化物のBET比表面積を調整することが可能な場合がある。
反応促進剤を混合物に含有させるには、例えば遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合するときに反応促進剤を添加すればよい。
なお、混合物と反応促進剤との混合割合は、混合物100重量部中0.1重量部以上100重量部以下が好ましく、1.0重量部以上25重量部以下がより好ましい。
【0036】
また、前記焼成によりリチウム複合金属酸化物を得るが、このリチウム複合金属酸化物はボールミルやジェットミルなどを用いて粉砕してもよい。粉砕によって、リチウム複合金属酸化物のBET比表面積を調整することが可能な場合がある。また、粉砕と焼成を2回以上繰り返してもよい。また、リチウム複合金属酸化物は必要に応じて洗浄あるいは分級することもできる。
【0037】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物は、二次電池、中でも非水電解質二次電池に有用な正極活物質となる。
【0038】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物は、通常、0.05μm以上1μm以下の平均粒径の一次粒子から構成され、一次粒子と、一次粒子が凝集して形成された0.1μm以上100μm以下の平均粒径の二次粒子との混合物からなる。一次粒子及び二次粒子の平均粒径は、それぞれSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することにより、測定することができる。
【0039】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物は、その構造が通常α-NaFeO2型結晶構造、すなわちR−3mの空間群に帰属される結晶構造である。結晶構造は、リチウム複合金属酸化物について、CuKαを線源とする粉末X線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定することができる。
【0040】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物におけるLiの組成としては、Ni、Mn、Fe,Co等の遷移金属元素Mの合計量(モル)に対し、Liの量(モル)は、通常、0.5以上1.5以下であり、容量維持率をより高める意味で、0.95以上1.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.0以上1.4以下である。以下の式(A)として表したときには、yは、通常、0.5以上1.5以下であり、好ましくは0.95以上1.5以下、より好ましくは1.0以上1.4以下である。
Liy(Ni1-xx)O2 (A)
(ここで、Mは、1種以上の遷移金属元素、0<x<1を表す。)
【0041】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の方法により得られる本発明のリチウム複合金属酸化物は、遷移金属元素の一部を、他元素で置換してもよい。ここで、他元素としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mg、Sc、Y、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Tc、Ru、Rh、Ir、Pd、Cu、Ag、Zn等の元素を挙げることができる。
【0042】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物を構成する粒子の表面に、リチウム複合金属酸化物とは異なる化合物を付着させてもよい。このような化合物としては、例えば、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mgおよび遷移金属元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、好ましくはB、Al、Mg、Ga、InおよびSnからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、より好ましくはAlの化合物を挙げることができ、化合物として具体的には、前記元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、有機酸塩を挙げることができ、好ましくは、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物である。また、これらの化合物を混合して用いてもよい。これら化合物の中でも、特に好ましい化合物はアルミナである。また、付着後に加熱を行ってもよい。
【0043】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物は、正極活物質として有用であり、二次電池、特に非水電解質二次電池の正極に好適である。この二次電池に用いられる正極活物質は、上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物が主成分であればよい。
【0044】
二次電池用の正極は、上記の方法により得られたリチウム複合金属酸化物を正極活物質として、公知の方法、例えば、国際公開第09/041722号パンフレットに記載の方法にて作製することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例)
攪拌槽内で、水酸化カリウム100重量部を、蒸留水538重量部に、添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウムを完全に溶解させ、水酸化カリウム水溶液(アルカリ水溶液)を調整した。
また、別の攪拌槽内で、蒸留水138重量部に、塩化ニッケル(II)六水和物51.5重量部、塩化マンガン(II)四水和物43.9重量部および塩化鉄(II)4水和物4.6重量部を添加、攪拌により溶解し、ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を得た。
次いで、別の攪拌槽に、蒸留水215重量部と前記水酸化カリウム水溶液24.7重量部を仕込んだ後、液温度を30℃にて、攪拌しながら、前記水酸化カリウム水溶液165重量部と前記ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液100重量部を滴下することにより、沈殿物を生成させ、沈殿物を含むスラリーを得た。反応終点のpHを測定したところ、pHは13であった。
【0047】
次いで、フィルタープレスにて得られたスラリーの固液分離を行った。フィルタープレスには、上述の図1〜3の構成を有する「ロールフィット フィルタープレス・ドライヤー」(販売元:株式会社 ユーロテック)を使用した。
スラリー100重量部をフィルタープレス1に供給し、室温下、ろ過圧力0.4MPaG、ろ過時間50分の条件にてろ過した。次いで、蒸留水を室温下、洗浄圧力0.4〜0.6MPaGにて供給し、水洗を行った。
水洗後、圧搾圧力0.7MPaGにて、15分間の圧搾脱水を行った。
次いで、減圧フィルタープレス1のろ過室内を圧力10kPaとし、フィルタープレス1の各ろ過室10の流体供給路13に90℃温水を通水して、170分間、予備乾燥を行った。予備乾燥後、フィルタープレス1から排出したウェットケーキ4.62重量部を回収した。この時のウェットケーキの含水量は湿潤基準で29.5%であった。
【0048】
前記ウェットケーキを棚段式熱風乾燥機にて120℃で乾燥後、解砕機にて解砕して、乾燥物P1を得た。また、乾燥物P1の組成分析の結果、Ni:Mn:Feのモル比は0.47:0.48:0.05であった。
前記乾燥物(P1)100重量部と炭酸リチウム52.1重量部と炭酸カリウム14.3重量部とをボールミルを用いて、乾式混合して混合物を得た。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気中で870℃で、6時間保持して焼成を行ない、室温まで冷却して、焼成品を得て、これを粉砕し、蒸留水でろ過ならびに洗浄を行ない、300℃で6時間乾燥して、粉末B1を得た。
粉末B1のBET比表面積は10.2m2/gであった。粉末B1の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属される結晶構造であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、遷移金属水酸化物を高い生産性にて製造できるため、工業的に有望である。得られた遷移金属水酸化物はリチウム複合金属酸化物の製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0050】
1 フィルタープレス
2 洗浄水供給設備
3 排水回収設備
4 加熱設備
5 減圧脱水設備
6 ウェットケーク回収器
10 ろ過室
10a (ろ過室の)内部
11 ろ布
12 ダイヤフラム
12a 連通孔
13 流体供給路
14 ろ板
1,P2 送水配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属元素を含む溶液をアルカリと接触させることにより遷移金属水酸化物を主成分とする沈殿物成分を含むスラリーを得る工程と、
該工程で得られたスラリーをフィルタープレスに供給し、ろ過および圧搾脱水により固液分離してウェットケークを得る工程と、
該工程で得られたウェットケークを乾燥する工程と、
を有することを特徴とする遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項2】
ウェットケークを得る工程において、さらにフィルタープレス内で、沈殿物成分の水洗を行う請求項1記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項3】
ウェットケークを得る工程において、得られたウェットケークをフィルタープレス内で減圧および/または加熱により予備乾燥する請求項1または2記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項4】
予備乾燥後のウェットケークの含水量が40重量%以下(湿潤基準)である請求項3記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項5】
遷移金属元素が、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素である請求項1から4のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項6】
遷移金属元素が、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素並びにCoおよびFeからなる群から選ばれる1以上の元素である請求項1から4のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の製造方法により遷移金属水酸化物を得、得られた遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合し、焼成することを特徴とするリチウム複合金属酸化物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−230958(P2011−230958A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102591(P2010−102591)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】