説明

遷移金属酸化物ナノ粒子の製造方法

【課題】ナノサイズの高結晶性で単一相を有する遷移金属酸化物を、大量生産が容易にできる製造方法を提供する。
【解決手段】a)遷移金属粉末を反応物として、前記遷移金属粉末を過酸化水素水に溶解させ、0.001〜0.2モルの遷移金属モル濃度を有するペルオキシ−メタレート(peroxi-metallate)溶液を製造する段階と、b)前記ペルオキシ−メタレート溶液にアルコール、水及び酸を含有した反応溶液を添加して混合溶液を製造する段階と、c)前記混合溶液を水熱反応させて、遷移金属酸化物ナノ粒子を製造する段階とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属を反応物質として利用し、低温水熱合成を通じて直接的に遷移金属酸化物ナノ粒子を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属酸化物ナノ粒子は、電子素材、(光)触媒、エネルギー素材、光電極素材など、物理、化学、材料工学分野などに幅広く且つ多様に活用されている。
【0003】
従来、ナノ大きさの金属酸化物粒子を製造するために、化学的/熱的酸化法、ゾル−ゲル法などを含む数多い合成法が開発されている。これらの中、化学的/熱的酸化法は、酸化による汚染の危険があり、またナノ大きさの均一な金属酸化物粒子を生成することが難しい。
【0004】
最もよく使用されるゾル−ゲル法は、金属酸化物単一相の製造のための追加的な高温熱処理工程、汚染物質の除去工程など、複雑で且つ費用のかかる多段階工程であるばかりか、反応物として使用する金属塩化物、窒化物、硫化物などの取り扱いが難しく、速い加水分解及び反応調節が難しくて、合成が容易ではなかった。
【0005】
さらに、非水性溶液を利用して分解及び反応性を調節しようとする試みがあったが、反応物として使用される金属塩化物、窒化物、硫化物などの反応が非常に複雑で、多様な因子により影響を受け、再現性が劣り、大量生産に障害物とされてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の問題点を解決するための本発明の目的は、取り扱いが容易で、安全性に優れており、反応速度調節が容易であって、追加熱処理作業が必要なく、再現性があり、短時間内に大量生産が可能で、低温水熱合成により直接的にナノ大きさ及び高結晶性の単一相を有する遷移金属酸化物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による遷移金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、遷移金属を反応物として、前記遷移金属を過酸化水素水に溶解したペルオキシ−メタレート(peroxi-metallate)溶液に、アルコール及び水を含有した反応溶液を添加して、水熱反応させ、遷移金属酸化物ナノ粒子を製造する特徴がある。
【0008】
さらに詳細に、本発明による製造方法は、a)遷移金属粉末を反応物として、前記遷移金属粉末を過酸化水素水に溶解させ、0.001〜0.2モルの遷移金属モル濃度を有するペルオキシ−メタレート(peroxi-metallate)溶液を製造する段階と、b)前記ペルオキシ−メタレート溶液にアルコール、水及び酸を含有した反応溶液を添加して混合溶液を製造する段階と、c)前記混合溶液を水熱反応させて、遷移金属酸化物ナノ粒子を製造する段階と、を含んで行われる特徴がある。
【0009】
以下、本発明の製造方法を詳述するが、本明細書で使用する技術用語及び科学用語において、特に定義がなければ、この発明の属する技術分野で通常の知識を有した者が通常的に理解している意味を有し、下記の説明において、本発明の要旨を曖昧にする公知機能及び構成に対する説明は省く。
【0010】
本発明による遷移金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、遷移金属酸化物を製造するための遷移金属の前駆物質として、空気中における安定性が著しく劣り、水分に脆弱で、反応速度の調節が難しく、工程上取り扱いの難しい遷移金属の塩化物、窒化物、硫化物、ハロゲン化物、アルコキシド化物または水酸化物を使用せず、遷移金属そのものを反応物として使用する特徴があり、前記遷移金属を過酸化水素水に溶解して遷移金属酸化物ナノ粒子を製造する特徴がある。より詳細に、 遷移金属酸化物ナノ粒子を製造するために、前記過酸化水素水の濃度及び過酸化水素に投入される遷移金属の量を制御して、0.001乃至0.2モルの遷移金属モル濃度(遷移金属イオン基準モル濃度である)を有するペルオキシ−メタレート(peroxi-metallate)溶液を使用する特徴がある。
【0011】
前記ペルオキシ−メタレート溶液は、遷移金属を反応物として使用する本発明の特徴、及び遷移金属を高濃度の過酸化水素水に溶解させる本発明の特徴により製造される溶液であって、過酸化水素水が酸化剤且つ錯体形成剤の役割をすることにより、ペルオキシド(peroxide)リガンドが金属を配位して、Tiの場合は、TiO2−、Wの場合は、W112−のようなペルオキシ−メタレート錯体(complex)が形成される。
【0012】
本発明による製造方法は、上述のように、遷移金属を反応物として使用して、取り扱いが容易で、反応性の制御が容易であり、安定的で、不純物を含有しない高純度の遷移金属酸化物ナノ粒子を製造することができて、異なる二つ以上の遷移金属を過酸化水素水に溶解させることにより、容易に遷移金属の金属間化合物の酸化物または二つ以上の遷移金属固溶相の酸化物を製造することができる。
【0013】
また、遷移金属を高濃度過酸化水素水に溶解させて、0.001乃至0.2モルの遷移金属モル濃度を有するペルオキシ−メタレート溶液を使用することにより、有機物除去のための高温熱処理または高温焼成を使用する必要がなく、低温水熱反応を通じて直接的にOne−stepで遷移金属酸化物ナノ粒子を製造することができ、遷移金属酸化物の単一相を製造することができて、均一でナノ大きさを有する遷移金属酸化物ナノ粒子を製造することができ、水熱反応の温度または水熱反応時間を調節し、遷移金属酸化物ナノ粒子の大きさを制御することができ、空気中の水分に弱くて加水分解速度の調節が難しいアルコキシド反応物のような場合とは異なって、空気中で取り扱いが容易で、反応性の制御が容易であり、反応が安定的で再現性のある結果が得られて、不純物を含有しない高純度の遷移金属酸化物ナノ粒子が製造されて、過酸化水素水に溶解されるあらゆる遷移金属を遷移金属酸化物ナノ粒子に製造可能であって、製造しようとする遷移金属酸化物の物質に制約がなく、製造しようとする物質が変わる場合、従来のような高度の工程変更または添加物の選択及び抽出が不要な長所がある。より特徴的に、前記ペルオキシ−メタレート溶液の遷移金属モル濃度は、溶解された遷移金属が過酸化水素水と反応し、ペルオキシ−メタレート錯体(complex)は容易に生成されて、制御されない遷移金属酸化物は形成されない濃度である。
【0014】
本発明による製造方法は、ペルオキシ−メタレート溶液を製造するために、10乃至50重量%の高濃度過酸化水素水を使用する特徴がある。10重慮%未満の過酸化水素水に遷移金属を投入する場合、遷移金属の溶解が容易に行われないか、ペルオキシ−メタレートが生成されない可能性があって、50重量%超過する過酸化水素水を使用する場合、取り扱い及び製造の容易性及び安全性が低下する恐れがある。
【0015】
a)段階で製造されたペルオキシ−メタレート溶液である反応物溶液を水熱反応させるために、前記ペルオキシ−メタレート溶液に投入されるb)段階の前記反応溶液は、アルコール、水及び酸を含有することが好ましく、前記反応溶液に含有された水:アルコール:酸の容量比は、1:1乃至3:0.05乃至0.2である特徴がある。反応溶液において前記酸は、水熱反応時、触媒作用をして、前記アルコールは、水の沸点を低める役割、及び水熱反応時に反応物の反応活性度を高め、より低い反応温度で合成して、反応時間を短縮する。前記アルコール:水の容量比は、ナノ大きさの狭い粒度分布を有する遷移金属酸化物粒子を製造するための容量比であって、水熱反応時、水とアルコールが沸いて泡が生成されるが、前記容量比を調節することにより、前記反応溶液の沸点及び前記泡の生成程度を制御し、遷移金属酸化物の核生成及び成長を制御して、生成された遷移金属酸化物ナノ粒子を物理的に分散させるためである。前記アルコールは、イソプロパノール、エタノールまたはこれらの混合物であることが好ましい。前記酸は、硝酸、乳酸(lactic acid)またはアルキル鎖(C5〜C18)のカルボキシル酸(carboxylic acid)であることが好ましい。
【0016】
b)段階の前記ペルオキシ−メタレート溶液と前記反応溶液が混合された前記混合溶液の製造時、前記ペルオキシ−メタレート溶液:反応溶液の容量比は、1:1乃至3である特徴がある。詳細に、0.001乃至0.2モルの遷移金属モル濃度を有するペルオキシ−メタレート溶液の容量基準に、同一乃至3倍以下の容量の前記反応溶液を混合して混合溶液を製造する。
【0017】
本発明による製造方法は、前記b)段階で製造された前記混合溶液をオートクレーブ(autoclave)を始めとした通常の水熱反応器を利用して、低温で水熱反応することにより、直接的に単一相の遷移金属酸化物ナノ粒子が製造される特徴がある。特徴的に、遷移金属酸化物ナノ粒子を製造するための前記水熱反応は、95乃至200℃の温度で行われる特徴がある。
【0018】
上述の本発明の特徴により、遷移金属酸化物ナノ粒子を製造するために、水熱反応後、高温酸化反応を含む後続熱処理が不要であり、酸化物の相(phase)を単一相に調節するための熱処理も不要であって、水熱反応以後、有機物質の除去のための複雑な後処理段階が不要であり、95〜200℃の低温で1〜2時間以内の短い水熱反応を通じて、ナノ大きさを有して且つ均一な粒子大きさを有する遷移金属酸化物の単一相を得ることができる。
【0019】
前記c)段階の水熱反応後、遠心分離またはろ過を通じての通常の固液分離及び乾燥を行うことができて、これを通じて遷移金属酸化物のナノ粉末を得ることができる。
【0020】
本発明による製造方法において、前記反応物である遷移金属は、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、インジウム(In)、錫(Sn)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオビウム(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)及びタングステン(W)から一つ以上選択された金属である。
【0021】
上述のように、本発明の製造方法は、異なる二つ以上の遷移金属を過酸化水素水に溶解させて、二つ以上の遷移金属が過酸化水素と反応して形成された二つ以上のペルオキシ−メタレート錯体を含有するペルオキシ−メタレート溶液を利用し、容易に遷移金属の金属間化合物の酸化物または二つ以上の遷移金属固溶相の酸化物を製造することができる
【0022】
また、遷移金属を過酸化水素水に溶解させて製造されたペルオキシ−メタレート溶液に、Li、Na、K、Rb、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+及びAl3+から一つ以上選択された陽イオンの水溶液を添加し、前記c)段階で2成分以上の複合酸化物ナノ粒子を製造することができる。
【0023】
より特徴的に、前記反応物は、チタン(Ti)であり、a)乃至c)段階を通じてアナテース(anatase)構造の酸化チタン(TiO)ナノ粒子が製造されて、前記反応物は、タングステン(W)であり、a)乃至c)段階を通じてヘキサゴナル(hexagonal)構造の板状酸化タングステン(WO)ナノ粒子が製造される特徴がある。
【発明の効果】
【0024】
本発明による製造方法は、遷移金属を反応物として使用し、取り扱いが容易で、反応性の制御が容易であり、安定的で、不純物を含有しない高純度の遷移金属酸化物ナノ粒子を製造することができて、高温熱処理または高温焼成を使用せず、低温水熱反応を通じて直接的に遷移金属酸化物ナノ粒子を製造することができ、遷移金属酸化物の単一相を製造することができて、均一でナノ大きさを有する遷移金属酸化物ナノ粒子を製造することができ、水熱反応の温度または水熱反応時間を調節し、遷移金属酸化物ナノ粒子の大きさを制御することができる長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1で製造された二酸化チタンの走査電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で製造された二酸化チタンのX−線回折分析結果である。
【図3】本発明の実施例2で製造された酸化タングステンの走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施例1)
Ti金属粉末(Aldrich, 268496)を30wt%の過酸化水素水に溶解して、0.14MのTi濃度を有するペルオキシ−メタレート溶液を製造した。その後、イソプロパノール:水:硝酸を1:1:0.1の容量比で混合して反応溶液を製造し、ペルオキシ−メタレート溶液5mLと製造された反応溶液5mLを混合して混合溶液を製造した。
【0027】
製造された混合溶液をオートクレーブに装入した後、120℃オーブンで2時間水熱反応させて、TiOアナテースナノ粒子を製造した。
【0028】
(実施例2)
W金属粉末(Aldrich, 510106)を30wt%の過酸化水素水に溶解して、0.005MのW濃度を有するペルオキシ−メタレート溶液を製造した。その後、イソプロパノール:水:硝酸を1:1:0.14の容量比で混合して反応溶液を製造し、ペルオキシ−メタレート溶液36mLと製造された反応溶液72mLを混合して混合溶液を製造した。
【0029】
製造された混合溶液をオートクレーブに装入した後、98℃オーブンで1時間水熱反応させて、ヘキサゴナル構造のWOナノ粒子を製造した。
【0030】
図1は、本発明の実施例1で製造された二酸化チタンの走査電子顕微鏡写真であり、図2は、実施例1で製造された二酸化チタンのX−線回折分析結果であって、図3は、実施例2で製造された酸化タングステンの走査電子顕微鏡写真である。
【0031】
図1及び図3から分かるように、本発明の製造方法を通じて均一な粒子分布を有するナノ大きさの遷移金属酸化物粒子が生成されることが分かり、ナノ粒子の製造時、最終段階で通常的に行われるミリング(milling)が行われなかったのにもかかわらず、粒子間の凝り(aggregation)の少ないナノ粒子が生成されることが分かる。
【0032】
また、製造されたナノ粒子をX−線回折分析した結果、実施例1で純粋なアナテース構造を有する高結晶性の二酸化チタン粒子(図2)が製造されることが分かり、実施例2では、純粋なヘキサゴナル構造を有する高結晶性の酸化タングステン(WO)が生成されることが分かる。また、未反応相または他の副産物(生成物)が生成されないことを確認した。
【0033】
以上のように、本発明では、特定の事項と限定された実施例及び図面を参照して説明したが、これらは、本発明のより全般的な理解を助けるために提供されたもので、本発明がこれらに限定されるものではなく、本発明の属する分野で通常の知識を有する者なら、このような記載から多様な修正及び変形が可能である。
【0034】
したがって、本発明の思想は、説明された実施例に局限して定められてはならず、添付の特許請求の範囲だけではなく、この特許請求の範囲と均等なあるいは等価的な変形のあるあらゆるものは、本発明の思想の範疇に属すると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)遷移金属粉末を反応物として、前記遷移金属粉末を過酸化水素水に溶解させ、0.001〜0.2モルの遷移金属モル濃度を有するペルオキシ−メタレート(peroxi-metallate)溶液を製造する段階と、
b)前記ペルオキシ−メタレート溶液にアルコール、水及び酸を含有した反応溶液を添加して混合溶液を製造する段階と、
c)前記混合溶液を水熱反応させて、遷移金属酸化物ナノ粒子を製造する段階と、
を含むことを特徴とする、遷移金属酸化物ナノ粒子の製造方法。

【請求項2】
a)段階の前記過酸化水素水は、10〜50重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の遷移金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
b)段階の前記反応溶液の水:アルコール:酸の容量比は、1:1乃至3:0.05乃至0.2であることを特徴とする、請求項2に記載の遷移金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
b)段階の前記混合溶液のペルオキシ−メタレート溶液:反応溶液の容量比は、1:1乃至3であることを特徴とする、請求項2に記載の遷移金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
c)段階は、95乃至200℃の温度で行われることを特徴とする、請求項3に記載の遷移金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記反応物は、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、インジウム(In)、錫(Sn)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオビウム(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)及びタングステン(W)から一つ以上選択された金属であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の遷移金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
a)段階の前記ペルオキシ−メタレート溶液に、Li、Na、K、Rb、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+及びAl3+から一つ以上選択された陽イオンの水溶液を添加し、前記c)段階で2成分以上の複合酸化物ナノ粒子を製造することを特徴とする、請求項6に記載の遷移金属酸化物ナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−208930(P2010−208930A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297624(P2009−297624)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(307043027)ザ インダストリー アンド アカデミック クーパレイション イン チュンナン ナショナル ユニバーシティー(アイエーシー) (5)
【Fターム(参考)】