説明

選択的な炭素鎖延長反応用触媒、同触媒の製法およびそれを用いた炭化水素類の製造方法

【目的】軽質炭化水素分を触媒に接触させることにより、該炭化水素分の炭素数を増加させる。
【構成】シリカまたはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を添加したシリカにコバルトを担持した触媒系を用い、これに軽質炭化水素分を接触させて該炭化水素分の炭素数を増加させ、かつメタセシス反応を抑制する効果が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低級炭化水素類の炭素鎖数を延長するための触媒とそれを用いた炭化水素類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガス削減が急務とされ、バイオマスの有効利用が注目されている。例えば森林バイオマスではガス化、炭化が有力な利用法とされている。
【0003】
バイオマスから得られたガス中にはエチレンなどの低級炭化水素も含まれる場合があるが、バイオマスを扱う地域は工業地帯から遠隔地にあるため、輸送等が足かせとなり単に燃焼させて熱源として利用するなど低付加価値の利用方法しかない現状がある。炭化水素類の炭素鎖を延長する方法には、1920年〜1940年代にかけて鉄系、コバルト系、ルテニウム系の触媒を用いるフィッシャー・トロプシュ合成(以下FTSと略記)が見いだされている(非特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】エコインダストリー 第5巻、第10号、24〜31ページ (2000)
【0005】
FTSとは合成ガス(一酸化炭素と水素の混合気体)を出発原料とし一酸化炭素の水素化反応により炭化水素を得るものであって(特許文献2)、エチレンなどを原料とし原料の低級炭化水素自身の炭素鎖を延長するものとは異なる。
【0006】
【特許文献1】特表2003−507176号公報
【0007】
低級炭化水素を触媒との接触反応により、原料である低級炭化水素自身の炭素鎖を延長することが出来れば、大がかりな付帯設備を要しないプラントにより種々の化学工業原料を製造することが可能になる。
【0008】
その意味では、低級オレフィンのアルキリデンの交換反応であるオレフィンメタセシス(olefin metathesis)によると、炭素数が3以上の非対称オレフィンでは、メタセシス反応により末端アルキリデン基を交換させることによる炭素鎖延長が可能であり目的にかなうが、原料がエチレン(H2C=CH2)などのように、二重結合をはさんで分子が対称になっている炭化水素については炭素鎖を延長することが出来ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまで開示されている炭素鎖の延長方法は、合成ガスを原料に用いたFTSがよく知られる。FTSでは吸熱の大きい水蒸気改質や純度の高い酸素を必要とする部分酸化などによって得られる高圧の合成ガス(水素と一酸化炭素の混合気体)を原料とする例が多い。また、FTSで得られる生成物の分布はシュルツ・フローリー分布(Shultz-Flory
Distribution)にしたがって、メタン(C1)〜ワックス分(C30以上)まで広汎な炭化水素を生ずるため、トッピング、分解などの工程等を経て液化石油ガス(LPG)分、揮発油分、灯油留分、軽油留分を得る必要があり、バイオマスガスなど生産規模が多くないものについて適応しにくい面がある。
【0010】
一方、メタセシス反応では、エチレンなどの対称形のオレフィン類の炭素鎖延長は出来ないほか、末端アルキリデン基の炭素数によって延長できる炭化水素の炭素数に制限される場合が考えられる。
【0011】
すなわち本発明の目的は、バイオマスのガス化工程等で発生する低級炭化水素等の炭化水素類をガスの生産現場で簡便に炭素鎖を延長し、炭素数3〜4の炭化水素(LPG分)を中心に炭素数4〜8程度の炭化水素(揮発油留分)を得るための選択的な炭素鎖延長反応(ホモロゲーション反応)用触媒、触媒の製造方法および触媒を用いた炭化水素類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者は、低級炭化水素類の炭素鎖延長反応用触媒、同触媒の製法および炭化水素類の製造方法を鋭意研究開発した結果、(1)シリカ単独またはシリカにアルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種以上含有する担体に、コバルトを担持してなることを特徴とする低級炭化水素の炭素鎖延長用触媒であり、(2)コバルト成分がCo換算、触媒基準で5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする(1)記載の炭素鎖延長用触媒であり、(3)比表面積250m2/g以上、細孔容積0.5mL/g以上、平均細孔径5nm以上60nm以下のシリカにアルカリ金属塩および水溶性のアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属塩を浸漬する工程および水溶性のコバルト塩の水溶液を浸漬する工程と乾燥工程を経て、さらに、空気中で焼成する工程を経て得られることを特徴とする炭素鎖延長用触媒の製造方法であり、(4)比表面積250m2/g以上、細孔容積0.5mL/g以上、平均細孔径5nm以上60nm以下のシリカにアルカリ金属硝酸塩およびアルカリ土類金属硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属硝酸塩と水溶性のコバルト塩の混合水溶液を浸漬する工程に次いで乾燥工程を経て、さらに、空気中で焼成する工程を経て得られることを特徴とする炭素鎖延長用触媒の製造方法であり、および(5)(1)記載の触媒を還元処理した後、低級炭化水素類の分圧または系全体の圧が13.3kPa以上1MPa未満、反応温度230℃以上310℃以下で反応させることを特徴とする炭化水素類の製造方法を見出し本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明によれば、バイオマスなどの工業地帯から遠隔地にある産地において、輸送等が足かせとなり単に燃焼させて熱源として利用するなど低付加価値の利用方法しかないバイオマス由来のエチレン等の低級炭化水素類の炭素鎖を延長することができる。バイオマス源としては、畜産廃棄物(糞・尿を含む)、木質などの利用が考えられる。
【0014】
国内外に存在する小規模な油田の随伴ガス、天然ガス、炭層ガスや天然ガス田からのガス分、コンデンセート分に含まれる低級炭化水素類の炭素鎖も好ましく延長できることから、LPG分などの輸送性が優れ、付加価値の高いエネルギー源に変換することが出来る。エチレン等を多く含むガスをエンプラ分野でも関心を集めているポリオレフィン系ポリマーの原料に変換することも出来る。
【0015】
加えて、低級炭化水素等を原料としそれ自身の炭素鎖を延長させることや、低温、低圧域での操業が可能であることなどから生産設備の構成や操作性が極めて高い炭化水素類の製造方法として期待できる。
【発明の詳細な説明】
【0016】
以下に本発明の詳細を開示するが、本発明の技術内容をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0017】
(触媒担体)
触媒担体成分はシリカとアルカリ金属およびアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種以上を含む。アルカリ金属およびアルカリ土類金属の含有量は触媒基準で0.1質量%以上0.7質量%以下が好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.15質量%以上0.3質量%以下が最も好ましい。この範囲未満では触媒寿命、炭素鎖延長能が低く、この範囲を超過するとシリカの物性が損なわれる傾向が見られ好ましくない。
【0018】
アルカリ金属としてはカリウム、セシウム、ルビジウムが好ましく、カリウムおよびセシウムがより好ましい。アルカリ土類金属ではマグネシウム、バリウム、カルシウムが好ましくマグネシウムが最も好ましい。また、アルカリ金属とアルカリ土類金属をともに含むことも好ましく、複数のアルカリ金属と複数のアルカリ土類金属をともに含むことを妨げない。
【0019】
担体の成分として使用するシリカにはSiO2を主成分とする珪藻土系シリカを好ましく使用することが出来る。原料とするシリカの比表面積は250m2/g以上が好ましく300m2/g以上がさらに好ましく、320m2/g以上が最も好ましい。比表面積の上限は特に限定されないが、工業的な用途を考えた場合の実質的な上限は500m2/g程度と考えられる。細孔容積には0.5mL/g以上が好ましく、0.6mL/g以上がより好ましく、0.8mL/g以上がもっとも好ましい。平均細孔径は5nm以上60nm以下が好ましく、6nm以上15nm以下がより好ましく、9nm以上12nm以下が最も好ましい。
【0020】
たとえば公知の含浸法を用いる例で考えると、細孔容積が少ない場合には、含浸させる液量が少なくなり、活性金属前駆体である金属塩の量が制限される傾向が強まる。より多くの活性金属を担持するような場合には、含浸工程を数回行う必要も生ずる。これにより製造コストが嵩むことや、触媒性能を一定に保つための品質管理に注意を払う必要が生じ、上記以上の細孔容積を持った担体を選択することが重要になる。細孔容積の上限に関しては、制限されないが実質的な上限としては約1.5mL/gと考えられる。
【0021】
平均細孔径は上述の範囲未満では活性金属の担持量が多い場合などに細孔径の閉塞が起こる可能性がある。また、上限は特に限定されるものではないが、細孔径が上述の範囲を超過する場合には比表面積が得にくくなる傾向がみられる。よって実質的な上限は50nm〜60nm程度と考えられる。
【0022】
触媒担体に使用するシリカは、予め焼成する。これは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含浸担持する工程で、該成分の担持を確実に行うために不可欠であるほか、触媒調製工程や触媒を活性化させる際に、主に熱による担体または触媒の物性変化を極力低減する効果も有する。シリカの好適な焼成温度は300℃以上650℃以下、より好適な焼成温度は450℃以上650℃以下、最も好適な焼成温度は450℃以上530℃以下である。焼成時間はシリカの量、乾燥前の含水状態、シリカの形状、サイズなどにより一概には決まらないが1時間以上行うのが好ましい。上限は特に限定されないが、生産性などの観点から24時間以下で焼成が終了することが望ましい。
【0023】
シリカの形状は粉体、成型体いずれも好ましい。成型体にあっては、押出し成型、射出成型、打錠成型、混練成型などの公知方法を好ましく使用できる。成型時には適宜、成型剤や離形剤を添加することが出来る。成型したときの形状としては円柱状、中空状、錠剤状、四つ葉状、三つ葉状など様々な形態を好ましく選択できるが、球状、円柱状が最も好ましい。
【0024】
(炭素鎖延長用触媒)
炭素鎖延長用触媒は上述のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を添加したシリカ担体に活性金属としてコバルトを含有することを特徴とする。コバルト含有量はCo換算、触媒基準で5質量%以上30質量%以下が好ましく、6.5質量%以上28質量%以下がより好ましく、8.5質量%以上22.5質量%以下がさらに好ましく9.5質量%以上21.5質量%以下が最も好ましい。この範囲をはずれると充分な活性、選択性が得にくくなる場合がある。なお、助触媒としてコバルト以外の金属類を添加することは妨げない。
【0025】
(触媒の出発原料)
先に述べたように、担体に用いるシリカはSiO2を主成分とする珪藻土系シリカを好ましく使用できる。担体に添加するアルカリ金属原料には、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸カリウム、および炭酸ルビジウムなどを好ましく使用できる。またアルカリ土類金属の原料には水酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム、および硝酸カルシウムなどを好ましく使用できる
【0026】
コバルトの原料としては、各種コバルト化合物を好ましく使用することが出来る。酢酸コバルト、臭化コバルト、テトラコバルトデカカルボニル、塩化コバルト、クエン酸コバルト、蟻酸コバルト、蓚酸コバルト、硝酸コバルトなどを好ましく使用できる。
【0027】
(炭素鎖延長用触媒の製造方法)
以下に製造方法1および2による炭素鎖延長用触媒の製造方法を開示する。いずれの方法においても、触媒成分の含浸工程に先立ってシリカの焼成を上述の条件で行う。焼成工程を省略しても炭素鎖延長反応に関する触媒活性は得られるが、触媒の保存状況等により触媒活性が変動する可能性があるため焼成工程が必要となる。
【0028】
(触媒製造方法1)
焼成したシリカに、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群がら選ばれる少なくとも1種以上の金属塩水溶液を浸積し担持する工程に続き、これを、再び焼成する工程を経て触媒担体を製造する。かくして得られた触媒担体にコバルト化合物を含む水溶液を含浸担持する工程を行い、最後に焼成する工程を経て触媒を製造する方法を好ましく選択できる。焼成したシリカに含浸させる際のアルカリ金属塩水溶液またはアルカリ土類金属塩水溶液の体積は、焼成させたシリカの飽和吸水量または細孔容積に相当する体積の0.8倍以上2倍以下が好ましく、0.9倍以上1.5倍以下がより好ましく、0.9倍以上1.2倍以下が最も好適である。このようにシリカにアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩または両者を含浸せしめた後、290℃以上650℃以下の温度で空気中で焼成する。得られた物質に対し、水溶性コバルト塩水溶液を含浸させる。この際の含浸液の体積は、飽和吸水量または細孔容積に相当する体積の0.8倍以上2倍以下が好ましく、0.9倍以上1.5倍以下がより好ましく、0.9倍以上1.2倍以下が最も好適である。最後に空気中で温度は290℃以上650℃以下で触媒の焼成を行う。本発明では活性成分のコバルト分をドープした後に行う焼成温度を触媒焼成温度と呼ぶ。焼成時間は一概に限定されないが3時間以上24時間以下が望ましい。
なお、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を担持したシリカの細孔容積は正確にはシリカ単独に比べて減少するが、本発明の触媒におけるアルカリ金属量またはアルカリ土類金属量での細孔容積の減少量は少なく、工業的な取扱を考えた場合、シリカ単独での数値を採用することによる不都合はない。
【0029】
(触媒製造方法2)
アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩に硝酸塩を用いる場合には、焼成したシリカにアルカリ金属硝酸塩およびアルカリ土類金属硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属硝酸塩と水溶性のコバルト塩との混合水溶液を浸漬する工程に次いで乾燥工程を経た後、空気中290℃以上650℃以下の触媒焼成温度で加熱する工程を経て触媒を調製する方法を好ましく選択できる。焼成時間は触媒製造方法1と同条件で実施すれば良い。
【0030】
すなわち、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としてこれらの硝酸塩を用いる場合には、焼成したシリカにアルカリ金属硝酸塩水溶液、アルカリ土類金属硝酸塩水溶液の単独もしくは複数の該硝酸塩混合水溶液に水溶性のコバルト塩を添加する方法も好ましく選択できる。焼成したシリカに含浸させるアルカリ金属硝酸塩またはアルカリ土類金属硝酸塩、水溶性のコバルト塩水溶液の合計の体積は、焼成させたシリカの飽和吸水量または細孔容積に相当する体積の0.8倍以上2倍以下が好ましく、0.9倍以上1.5倍以下がより好ましく、0.9倍以上1.2倍以下が最も好適である。最後に空気中で温度290℃以上650℃以下で焼成を行う。焼成時間は触媒製造方法1と同条件で実施すれば良い。
【0031】
(含浸液量)
触媒製造方法1および2で記したように、含浸液の量は、飽和吸水量によるか、焼成させたシリカの細孔容積に相当する体積に所定の係数を掛けて求めることができる。飽和吸水量を求める場合には、少量のサンプルでは誤差が生じやすいため、約10g〜50g程度の焼成したシリカを精秤し、これにイオン交換水等をビュレット等から滴下し、吸水が飽和したときの水量から乾燥シリカの重量あたりの飽和吸水量(容積)をもとめるのが好ましい。
【0032】
(炭素鎖の延長方法)
本方法では、炭化水素類および炭化水素類と微量の水素との混合気体を前処理後の触媒上に通気することにより、原料ガス(炭化水素類)の炭素鎖を延長できる。特にオレフィンメタセシス反応を抑制し、最近ETP(ethylene to propylene)反応と称されることもあるホモロゲーション反応(homologation
reaction)による炭素鎖の延長を選択的に起こすことが出来る。
【0033】
(触媒の前処理)
炭素鎖延長反応に先立ち触媒を以下に述べる前処理により活性化する。触媒の前処理は真空排気または不活性ガス雰囲気で350℃以上600℃以下で1時間以上行ったあと、水素ガスまたは水素ガスを含む気体で350℃以上600℃以下で1時間以上還元処理し、この後、真空排気または不活性ガス雰囲気で350℃以上600℃以下で1時間以上処理する。この後反応温度に保持して炭素鎖延長反応に供すれば良い。
【0034】
前処理温度は上述のように350℃以上600℃以下が好ましく385℃以上520℃以下がより好ましく、395℃以上475℃以下が最も好ましい。これ未満では活性金属の還元が不充分となり、炭素鎖延長が起こりにくくなる。これを超過しても活性が飽和し技術的な意義が希薄になる傾向がある。前処理を行う際の系内圧力は、13.3kPa以上1MPa以下が好ましく、26.6kPa以上1MPa以下がより好ましく、35kPa以上1MPa以下が最も好ましい。
【0035】
水素ガスを含む気体としては、水素と水蒸気、水素と窒素、水素と希ガス類、水素と水蒸気と窒素、水素と水蒸気と希ガス類などを好ましく使用することが出来る。水素ガスを含む気体中の水素含有量は30vol.%以上が良い。
【0036】
前処理における通気量はGHSV(1時間フィードが通過する体積を触媒の体積で割った数字;gas hourly space velocity)は300(vol/vol)h-1以上30000(vol/vol)h-1以下が好ましく、1000(vol/vol)h-1以上27000(vol/vol)h-1以下がより好ましく、1500(vol/vol)h-1以上6000(vol/vol)h-1以下が最も好ましい。
【0037】
(炭素鎖延長反応)
炭素鎖延長反応に用いる原料ガスとしてはメタン、エチレン、エタンが好ましくエチレンが最も好ましい。アルカン類では一旦、脱水素されオレフィンを用いたときとほぼ同じ機作で炭素鎖が延長していくものと推定される。原料ガスを触媒上に通気し炭素鎖を延長させる条件として、反応温度は230℃以上310℃以下が好ましく、240℃以上280℃以下がより好ましく、250℃以上265℃以下が最も好適である。
【0038】
原料ガスの通気量はGHSV(1時間フィードが通過する体積を触媒の体積で割った数字;gas hourly space velocity)は300(vol/vol)h-1以上30000(vol/vol)h-1以下が好ましく、1000(vol/vol)h-1以上27000(vol/vol)h-1以下がより好ましく、1500(vol/vol)h-1以上6000(vol/vol)h-1以下が最も好ましい。これ未満では空時収量が少なくなり不経済となり、これを超過すると転化率が頭打ちになり、分離工程が難しくなる可能性がある。
【0039】
水素を反応系に導入した場合、触媒活性が高まる場合がある。水素圧は原料炭化水素に対し1/100以上1/10以下が好ましく、1/100以上1/20以下がより好ましく、1/80以上1/30以下が最も好ましい。水素圧がこの範囲未満では、活性向上効果が稀薄となり技術的な意味を失う。また範囲を超過した場合、原料炭化水素への水素添加(水素化反応)が著しくなり好ましくない。系内全圧は13.3kPa以上1MPa以下が好ましく、26.6kPa以上1MPa以下がより好ましく、35kPa以上1MPa以下が最も好ましい。この範囲未満では、空時収量が上がりにくくなる傾向があり、採算性などの観点から実用的ではなく、1MPaを超過すると回転機、耐圧材料など、装置コストが嵩む傾向が見られ好ましくない。

【0040】
以下に実施例を示し、本発明をより詳細に開示する。また、これらの実施例および比較例は表1および表2に概要を纏めた。しかしながら、実施例等は本発明の本質を説明するためのものであり、これらによって本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。以下の実施例では触媒の反応選択性、活性を説明するため閉鎖循環系での結果を示すが、流通系装置への適用を制限するものではない。
【実施例1】
【0041】
(触媒調製)
比表面積250m2/g、細孔容積約0.5mL/g、平均細孔径8nmのシリカ(SiO2)を、空気中650℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。この30gに対しイオン交換水をビュレットで滴下した。18.0mL滴下した時点で吸水が飽和したことから、触媒担体の飽和吸水量(0.6mL/g)を決定した。硝酸カリウム(KNO3)0.036gおよび硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O)0.074gを秤量し、これらの混合物に水を加えて12mLとしKNO3とMg(NO3)2の混合水溶液を調製した。上述と同様にシリカ粉末を焼成、冷却し、この20gを該混合水溶液に浸漬し、1時間静置しKおよびMg分を添加した。これを丸底フラスコに移し、水流ポンプで減圧しながら55℃に保持し、水分除去した後、空気中500℃で3時間焼成しKおよびMg添加SiO2担体(以下K-Mg-SiO2と略記する)を得た。
【0042】
次ぎに、硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)を5.20 g秤量し、水を加えて12mLとし硝酸コバルト水溶液を得た。K-Mg-SiO2 の全量をこの硝酸コバルト水溶液に加え、1時間静置し活性成分(Co分)を担持した。これを、シリカへのKおよびMg添加時と同様に、減圧しながら55℃に保持し、水分除去後、空気中300℃で3時間焼成しコバルト分をCo換算で5質量%、K分とMg分の合計が0.1質量%(K:Mg=2:1(質量比))のCo/K-Mg-SiO2(触媒1)を触媒製造方法1により得た。
【0043】
(反応装置)
反応には図1に示すようなパイレックス硝子製循環式反応装置を用いた。循環部は内径8mmφの硝子管から成り、Quartz製U字形リアクターと電磁石駆動ピストン式循環ポンプ((株)三鈴製)から成る。駆動用の電磁石は0.6mmφのエナメル線を約500g用いて自作し、駆動用パルス電流を与え、ピストンを上下動させることによりガス循環させた。循環ガス量は約200mL/分(標準状態(stp)換算)だった。
【0044】
(エチレンの炭素鎖延長反応(エチレンホモロゲーション反応):3 C2H4 → 2 C3H6
触媒1の500mgをQuartz製U字形リアクターに充填し、油回転真空ポンプと油拡散ポンプを用いて×10-4mmHg台で減圧しながら600℃まで昇温し、600℃到達後1時間保持した後、触媒床温度を520℃に至らしめ、水素(純度99.5%)を液化窒素トラップに通しながら閉鎖循環系内に導入した。水素圧は13.3KPa(100mmHg)とし、液化窒素トラップに通しながら循環ポンプで触媒に水素を供給した。水素還元時の触媒床温度は520℃に制御した。水素還元は水素圧がこれ以上減少しなくなるまで(この場合で約60分)行った後、さらに395℃で真空排気(×10-4mmHg台)を1時間行い、触媒を活性化した。触媒層を真空排気しながら310℃とし同温度にて30分間保持後、エチレン(純度99.5%)を13.3KPa(100mmHg)導入しエチレンのホモロゲーション反応を行った。反応開始120分時点でのプロピレン分は7.5vol.%を示した。
【0045】
(プロピレンのメタセシス反応:2 C3H6 → C2H4 + 2-C4H8
この実験とは別に、触媒1を用いエチレンの代わりにプロピレン(純度99.5%)を用い、ほかの条件はエチレンのホモロゲーション反応と同一にしてプロピレンのメタセシス反応を行った。反応開始360分のエチレン組成(プロピレンのメタセシス反応で生成する生成物の一つ)は1.2%に留まった。
これは、オレフィンメタセシス反応抑制能を示し、かつ、炭素鎖延長反応(ホモロゲーション反応)を選択的に行うことができ、触媒1の総合評価は適であることを示した例である。
【0046】
なお、生成物の分析は循環式反応装置に直結したガスクロマトグラフ(GC14B形 島津製作所製)で行った。ガスクロマトグラフにはVZ-10(GLサイエンス製充填剤)を内径2mm、長さ2mのステンレス製チューブに充填したカラムを取り付けた。ヘリウムガスを移動相とし、オーブン温度50℃、移動相流量40mL/minで分離し水素炎イオン化検出器(FID)で検出した。
【実施例2】
【0047】
比表面積300m2/g、細孔容積約0.6mL/g、平均細孔径8nmのシリカを空気中650℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。実施例1と同様にシリカの飽和吸水量を求めた結果0.72mL/gだった。硝酸マグネシウム六水和物0.226gに水を加えて14.4mLとしたほかの条件は実施例1と同様にしてMg分を含む担体Mg-SiO2を得た。次ぎに、硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)を6.87g秤量し、水を加えて21.6mLとし、水分除去後の焼成温度を450℃とした他は実施例1と同様にしてコバルト分をCo換算で6.5質量%、Mg分が0.1質量%のCo/Mg-SiO2(触媒2)を触媒製造方法1により得た。最初の真空排気温度を600℃、水素還元温度を520℃、水素還元後の真空排気温度を520℃とし、ホモロゲーション反応の温度を280℃としその他は実施例1と同様にした。反応開始120分時点でのプロピレン分は8.7vol.%を示した。また、エチレンをプロピレンに代えた以外は同一条件で反応した時のエチレン分は1.7%を示し、選択的に増炭反応が進行し、触媒2の総合評価は適であった。
【実施例3】
【0048】
比表面積320m2/g、細孔容積約0.6mL/g、平均細孔径8nmのシリカを空気中600℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。実施例1と同様にシリカの飽和吸水量を求めた結果0.72mL/gだった。硝酸セシウム0.048gと硝酸コバルト六水和物9.18gの混合物に水を加えて14.4mLとし、硝酸セシウム−硝酸コバルト混合水溶液を得た。上述の条件で焼成したシリカ20gに対し、該混合水溶液を浸漬し、これを丸底フラスコに移し、水流ポンプで減圧しながら55℃に保持し、水分除去した後、空気中500℃で3時間焼成しコバルト分をCo換算で8.5質量%、Cs分を0.15質量%含むCo/Cs-SiO2(触媒3)を触媒製造方法2により得た。
触媒3の最初の真空排気温度を520℃、水素還元温度を385℃、水素還元後の真空排気温度を600℃とし、ホモロゲーション反応の温度を280℃にした以外は実施例1と同様にした。反応開始120分時点でのプロピレン分は9.8vol.%を示した。また、エチレンをプロピレンに代えた以外は同一条件で反応した時のエチレン分は1.8%を示し、選択的にホモロゲーション反応が進行し、触媒3の総合評価は適であった。
【実施例4】
【0049】
比表面積370m2/g、細孔容積約0.8mL/g、平均細孔径9nmのシリカを空気中600℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。細孔容積に相当する体積の1.2倍値である0.96mL/gを吸水量とした。硝酸セシウム3.24×10-2gと硝酸コバルト六水和物10.36gの混合物に水を加えて19.2mLとし、硝酸セシウム−硝酸コバルト混合水溶液を得た。上述の条件で焼成したシリカ20gに対し、該混合水溶液を浸漬し、これを丸底フラスコに移し、水流ポンプで減圧しながら55℃に保持し、水分除去した後、空気中525℃で3時間焼成しコバルト分をCo換算で9.5質量%、Cs分を0.1質量%含むCo/Cs-SiO2(触媒4)を触媒製造方法2により得た。
触媒4の最初の真空排気温度を395℃、水素還元温度を395℃、水素還元後の真空排気温度を395℃とし、ホモロゲーション反応の温度を265℃にした以外は実施例1と同様にした。反応開始120分時点でのプロピレン分は10.5vol.%を示した。また、エチレンをプロピレンに代えた以外は同一条件で反応した時のエチレン分は2%を示し、選択的に増炭反応が進行し、触媒4の総合評価は適であった。
【実施例5】
【0050】
比表面積380m2/g、細孔容積約1mL/g、平均細孔径11nmのシリカを空気中525℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。細孔容積に相当する体積の0.8倍値である0.8mL/gを吸水量とした。硝酸コバルト六水和物10.98gに水を加えて16mLとし、硝酸コバルト水溶液を得た。上述の条件で焼成したシリカ20gに対し、該混合水溶液を浸漬し、これを丸底フラスコに移し、水流ポンプで減圧しながら55℃に保持し、水分除去した後、空気中525℃で3時間焼成しコバルト分をCo換算で10質量%Co/SiO2(触媒5)を得た。
触媒5の最初の真空排気温度を475℃、水素還元温度を475℃、水素還元後の真空排気温度を475℃とし、ホモロゲーション反応の温度を260℃にした以外は実施例1と同様にした。反応開始120分時点でのプロピレン分は10vol.%を示した。また、エチレンをプロピレンに代えた以外は同一条件で反応した時のエチレン分は2%を示し、選択的にホモロゲーション反応が進行し、触媒5の総合評価は適であった。
【実施例6】
【0051】
比表面積380m2/g、細孔容積約1mL/g、平均細孔径11nmのシリカを空気中530℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。細孔容積に相当する体積の0.9倍値である0.9mL/gを吸水量とした。水酸化カリウム0.032gに水を加えて18mLとしたほかの条件は実施例1と同様にしてK分を含む担体K-SiO2を得た。次ぎに、硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)を10.98g秤量し、水を加えて18mLとし、水分除去後の焼成温度を525℃とした他は実施例1と同様にしてコバルト分をCo換算で10質量%、K分が0.1質量%のCo/K-SiO2(触媒6)を触媒製造方法1により得た。触媒6の最初の真空排気温度を475℃、水素還元温度を475℃、水素還元後の真空排気の温度を475℃とし、ホモロゲーション反応の温度をそれぞれ260℃にした以外は実施例1と同様にした。反応開始120分時点でのプロピレン分は11.5vol.%を示した。また、エチレンをプロピレンに代えた以外は同一条件で反応した時のエチレン分は1.9%を示し、選択的に増炭反応が進行し、触媒6の総合評価は適であった。
【実施例7】
【0052】
比表面積390m2/g、細孔容積約1mL/g、平均細孔径10nmのシリカを空気中450℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。細孔容積に相当する体積の1.5倍値である1.5mL/gを吸水量とした。硝酸カリウム6.59×10-2gと硝酸コバルト六水和物27.07gの混合物に水を加えて30mLとし、硝酸カリウム−硝酸コバルト混合水溶液を得た。上述の条件で焼成したシリカ20gに対し、該混合水溶液を浸漬し、これを丸底フラスコに移し、水流ポンプで減圧しながら55℃に保持し、水分除去した後、空気中525℃で3時間焼成しコバルト分をCo換算で21.5質量%、K分を0.1質量%含むCo/K-SiO2(触媒7)を触媒製造方法2により得た。
触媒7の最初の真空排気温度を395℃、水素還元温度を520℃、水素還元後の真空排気温度を600℃とし、ホモロゲーション反応の温度を260℃にした以外は実施例1と同様にした。反応開始120分時点でのプロピレン分は11.7vol.%を示した。また、エチレンをプロピレンに代えた以外は同一条件で反応した時のエチレン分は2%を示し、選択的に増炭反応が進行し、触媒7の総合評価は適であった。
【実施例8】
【0053】
比表面積390m2/g、細孔容積約1mL/g、平均細孔径10nmのシリカを空気中450℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。細孔容積に相当する体積の2倍値である2mL/gを吸水量とした。硝酸バリウム0.147gに水を加えて40mLとしたほかの条件は実施例1と同様にしてBa分を含む担体Ba-SiO2を得た。次ぎに、硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)を28.69gを秤量し、水を加えて40mLとし、水分除去後の焼成温度を525℃とした他は実施例1と同様にしてコバルト分をCo換算で22.5質量%、Ba分が0.3質量%のCo/Ba-SiO2(触媒8)を触媒製造方法1により得た。触媒8の最初の真空排気温度を385℃、水素還元温度を600℃、水素還元後の真空排気の温度を520℃とし、ホモロゲーション反応の温度をそれぞれ250℃にした以外は実施例1と同様にした。反応開始120分時点でのプロピレン分は12.2vol.%を示した。また、エチレンをプロピレンに代えた以外は同一条件で反応した時のエチレン分は2.1%を示し、選択的にホモロゲーション反応が進行し、触媒8の総合評価は適であった。
【実施例9】
【0054】
比表面積400m2/g、細孔容積約1.5mL/g、平均細孔径15nmのシリカを空気中300℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。細孔容積に相当する体積の1.2倍値である1.8mL/gを吸水量とした。硝酸バリウム0.132gと硝酸ルビジウム0.12gの混合物に水を加えて36mLとしたほかの条件は実施例1と同様にしてBa分とRb分を含む担体Ba-Rb-SiO2を得た。次ぎに、硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)38.42gを秤量し、水を加えて36mLとし、水分除去後の焼成温度を600℃とした他は実施例1と同様にしてコバルト分をCo換算で28.0質量%、Rb分とBa分の合計が0.5質量%(RbとBaの重量比1)のCo/Ba-Rb-SiO2(触媒9)を触媒製造方法1により得た。触媒9の最初の真空排気温度を520℃、水素還元温度を600℃、水素還元後の真空排気の温度を395℃とし、ホモロゲーション反応の温度をそれぞれ240℃にした以外は実施例1と同様にした。反応開始120分時点でのプロピレン分は15.2vol.%を示した。また、エチレンをプロピレンに代えた以外は同一条件で反応した時のエチレン分は2.1%を示し、選択的にホモロゲーション反応が進行し、触媒9の総合評価は適であった。
【実施例10】
【0055】
比表面積400m2/g、細孔容積約1.5mL/g、平均細孔径15nmのシリカを空気中300℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。細孔容積に相当する体積の1.2倍値である1.8mL/gを吸水量とした。硝酸カリウム0.521gと硝酸コバルト六水和物42.35gの混合物に水を加えて36mLとし、硝酸カリウム−硝酸コバルト混合水溶液を得た。上述の条件で焼成したシリカ20gに対し、該混合水溶液を浸漬し、これを丸底フラスコに移し、水流ポンプで減圧しながら55℃に保持し、水分除去した後、空気中650℃で3時間焼成しコバルト分をCo換算で30質量%、K分を0.7質量%含むCo/K-SiO2(触媒10)を触媒製造方法2により得た。
触媒10の最初の真空排気温度を520℃、水素還元温度を600℃、水素還元後の真空排気温度を385℃とし、ホモロゲーション反応の温度を230℃にした以外は実施例1と同様にした。反応開始120分時点でのプロピレン分は16.3vol.%を示した。また、エチレンをプロピレンに代えた以外は同一条件で反応した時のエチレン分は2.7%を示し、選択的にホモロゲーション反応が進行し、触媒10の総合評価は適であった。
次に比較例を示し本発明の特徴を説明する。
【比較例1】
【0056】
コバルト分をCo換算で3質量%とした他は実施例6と同様に調製し触媒101を得た。触媒101の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例6と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は3.5vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.2%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒101の総合評価は否であった。これはコバルトの担持量の適量を外れた場合には所望の性能が得られないことを示す例である。
【比較例2】
【0057】
コバルト分をCo換算で35質量%とした他は実施例6と同様に調製し触媒102を得た。触媒101の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例6と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は4.3vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.4%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒102の総合評価は否であった。これはコバルトの担持量の適量を外れた場合には所望の性能が得られないことを示す例である。
【比較例3】
【0058】
コバルト分をCo換算で3質量%とした他は実施例5と同様に調製し触媒103を得た。触媒103の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例5と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は3.3vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.2%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒103の総合評価は否であった。比較例2および3から第3成分(ここではカリウムの添加)を行ってもコバルトの担持量の適量を外れた場合には所望の性能が得られないことを示す例である。
【比較例4】
【0059】
コバルト分をCo換算で35質量%とした他は実施例5と同様に調製し触媒104を得た。触媒104の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例5と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は4.2vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.4%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒104の総合評価は否であった。これはコバルトの担持量が好適な範囲を超過した場合には所望の性能が得られないことを示す例である。
【比較例5】
【0060】
カリウム分をK換算で1質量%とした他は実施例6と同様に調製し触媒105を得た。触媒105の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例6と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は4.7vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.4%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒105の総合評価は否であった。これは第3成分(ここではカリウム分)の担持量が好適な範囲を超過した場合には所望の性能が得られないことを示す例である。
【比較例6】
【0061】
カリウム分とマグネシウム分をK換算およびMg換算で合計1質量%(KとMgの重量比を2:1)とし、反応温度を330℃にした他は実施例1と同様に調製し触媒106を得た。触媒106の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例1と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は3.2vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.3%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒106の総合評価は否であった。これは第3,4成分(ここではカリウム分とマグネシウム分)の担持量の合計および反応温度が好適な範囲を超過した場合には所望の性能が得られないことを示している。
【比較例7】
【0062】
触媒の焼成温度を270℃とした以外は実施例6と同様に調製し触媒107を得た。触媒107の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例6と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は4.6vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.5%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒107の総合評価は否であった。好適な触媒調製条件を範囲満たさない場合には所望の性能が得られないことを示す例である。
【比較例8】
【0063】
触媒の焼成温度を700℃とした以外は実施例6と同様に調製し触媒108を得た。触媒108の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例6と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は3.3vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.3%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒108の総合評価は否であった。好適な触媒調製条件範囲を満たさない場合には所望の性能が得られないことを示す例である。
【比較例9】
【0064】
用いたシリカの物性値が比表面積130m2/g、細孔容積約0.2mL/g、平均細孔径約6nmであること以外は実施例1と同様に調製し触媒109を得た。触媒109の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例1と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は4.5vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.2%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒109の総合評価は否であった。好適な担体物性条件を満たさない場合には所望の性能が得られないことを示す例である。
【比較例10】
【0065】
担体の焼成温度を250℃にした以外は実施例2と同様に調製し触媒110を得た。触媒110の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例2と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は4.3vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.3%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒110の総合評価は否であった。触媒調製に供する担体の焼成温度が低すぎると途中の触媒調製工程で何らかの物性変化が生じ所望の性能が得られない可能性があることを示唆する例である。
【比較例11】
【0066】
担体の焼成温度を700℃にした以外は実施例2と同様に調製し触媒111を得た。触媒111の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例2と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は4vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.1%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒111の総合評価は否であった。触媒調製に供する担体の焼成温度が高すぎると所望の性能が得られない可能性があることを示唆する例である。
【比較例12】
【0067】
水素還元温度を300℃に設定した以外は実施例5同様に調製し触媒112を得た。触媒112の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例5と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は0.5vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は0.1%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒112の総合評価は否であった。還元温度が好適範囲未満では所望の性能が得られないことを示唆する例である。
【比較例13】
【0068】
水素還元温度を680℃に設定した以外は実施例5同様に調製し触媒113を得た。触媒113の活性化(最初の真空排気、水素還元および水素還元後に行う真空排気)の条件、ホモロゲーション反応およびメタセシス反応の条件も実施例5と同様として比較した。反応開始120分時点でのプロピレン分は3.5vol.%にとどまり増炭に関しての活性は不充分な結果を示した。プロピレンメタセシス反応によるエチレン分は1.5%を示しメタセシス反応への抑制効果は確認されたものの、触媒113の総合評価は否であった。還元温度が好適範囲を超過した場合には所望の性能が得られないことを示唆する例である。
【比較例14】
【0069】
比表面積380m2/g、細孔容積約1mL/g、平均細孔径11nmのシリカを空気中530℃で3時間焼成し、デシケータ内で室温まで冷却した。細孔容積に相当する体積の0.9倍値である0.9mL/gを吸水量とした。パラモリブデン酸アンモニウム((NH46Mo7O24 ・4H2O)12.9gに水を加えて18mLとし、水分除去後の焼成温度を525℃とし酸化モリブデン(MoO3)換算で7質量%のMoO3/SiO2(触媒114)を得た。触媒114の最初の真空排気温度を475℃、水素還元温度を500℃、水素還元後の真空排気の温度を475℃とし、ホモロゲーション反応の温度を260℃とし実施例1と同様にエチレンのホモロゲーション反応およびプロピレンのメタセシス反応を実施した。反応開始120分時点でプロピレン分は10.5%を示し増反に関しての活性は好適な結果を示した。メタセシス反応に起因すると見られるエチレン分は23.1%に達し、触媒114ではホモロゲーション反応も進行するが、メタセシス反応はそれ以上の速度で進行することが分かる。よって、メタセシス反応への抑制効果が見られなかったことから触媒114の総合評価は否であった。これは、本発明で開示した活性金属以外でホモロゲーション反応を実施した場合、好適な選択性が得られない可能性を示唆する例である。
以上、本発明の実施の形態について詳細な説明および実施例を示して説明してきたが、これらを基に限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明による炭化水素類の炭素鎖延長用触媒、触媒の製法、およびそれを用いた炭化水素類の製造方法を利用することで、木質バイオマスのガス化等から得られる低級炭化水素類の炭素鎖を延長することができる。また、国内外に存在する小規模な油田の随伴ガス、天然ガス、炭層ガスや天然ガスから得られるガス状成分やコンデンセート分に含まれる低級炭化水素類からLPG分などの輸送性が優れ、付加価値の高いエネルギー源に変換することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】閉鎖循環系装置の概略構成を示す図である。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ単独またはシリカにアルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種以上含有する担体に、コバルトを担持してなることを特徴とする低級炭化水素の炭素鎖延長用触媒
【請求項2】
コバルト成分がCo換算、触媒基準で5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の炭素鎖延長用触媒
【請求項3】
比表面積250m2/g以上、細孔容積0.5mL/g以上、平均細孔径5nm以上60nm以下のシリカにアルカリ金属塩および水溶性のアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属塩を浸漬する工程および水溶性のコバルト塩の水溶液を浸漬する工程と乾燥工程を経て、さらに、空気中で焼成する工程を経て得られることを特徴とする炭素鎖延長用触媒の製造方法
【請求項4】
比表面積250m2/g以上、細孔容積0.5mL/g以上、平均細孔径5nm以上60nm以下のシリカにアルカリ金属硝酸塩およびアルカリ土類金属硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属硝酸塩と水溶性のコバルト塩の混合水溶液を浸漬する工程に次いで乾燥工程を経て、さらに、空気中で焼成する工程を経て得られることを特徴とする炭素鎖延長用触媒の製造方法
【請求項5】
請求項1記載の触媒を還元処理した後、低級炭化水素類の分圧または系全体の圧が13.3kPa以上1MPa未満、反応温度230℃以上310℃以下で反応させることを特徴とする炭化水素類の製造方法

【図1】
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【公開番号】特開2008−29949(P2008−29949A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205691(P2006−205691)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【Fターム(参考)】