説明

選択的に複製するウイルスベクター

【課題】感染細胞の表現型または遺伝子型に基づいて宿主細胞におけるウイルス複製を実
質的に阻害する経路応答性プロモーターの使用を介して、標的細胞の細胞内条件に応答してウイルスゲノムを選択的に複製する、組換えウイルスを提供することを課題とする。
【解決手段】標的細胞では経路応答性プロモーターのプロモーターエレメントは不活性であり、従って複製が可能である本発明のウイルスを提供することによって、上記課題は解決された。この結果、(1)このウイルスの溶菌性により細胞が殺傷される、および/または(2)治療用量のトランスジーン産物を標的細胞に提供する、および(3)組換えウイルスによる周囲の細胞の感染を容易にする、局所的ウイルス濃縮を生じる。本発明はさらに、このベクターを含む薬学的処方物、このベクターの作製方法およびこのベクターを含む形質転換細胞を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
組換えアデノウイルスは、種々の治療レジメンにおいて治療トランスジーンの
送達のために近年用いられている。しかし、これらのベクター系の広範な範囲の
感染性は、非腫瘍細胞におけるこのウイルスの発現が、非腫瘍細胞に対して付帯
的な損傷を引き起こし得るという懸念を生じている。その結果、広範な範囲の標
的化系が、所定の細胞型においてトランスジーンを優先的に発現するために開発
されている。組織特異的プロモーターおよび腫瘍特異的プロモーターは、特定の
細胞型においてベクターを優先的に複製するために用いられている。例えば、1
997年1月16日に公開された国際特許出願第PCT/US96/10838
号(国際公開第WO97/01358号)は、必要に応じて細胞傷害性トランス
ジーン発現カセットを含む、E1、E2またはE4の機能を駆動する前立腺特異
的プロモーターエレメントの使用による、特定の宿主細胞において複製するベク
ターの使用を記載する。詳細には、この公報は、前立腺特異的エンハンサーが、
E1の発現を制御し、そしてE3領域に挿入されたシトシンデアミナーゼ遺伝子
の発現を駆動するCMVプロモーターを含む発現カセットを有する、構築物を記
載する。これらのベクターは、複製能力があり、そして特定の細胞型においてイ
ンタクトなビリオンへとパッケージングされ得る。
【0002】
ウイルス複製を駆動するための腫瘍特異的プロモーターの使用に対する代替的
なアプローチは、アデノウイルスE1b 55Kタンパク質コード配列における
特定の欠失を用いることである。E1b 55Kをコードするヌクレオチド配列
に欠損を含む組換えアデノウイルスは、1997年10月14日に発行された米
国特許第5,677,178号に記載される。しかし、これらの組織特異的また
は腫瘍特異的な制御エレメントは、「漏れる」、すなわち、好ましい標的細胞以
外の細胞型における複製を可能にすることが観察されている。
【0003】
選択的に複製するこの型のベクターの代替法は、E1機能の甚だしい除去を含
む、複製欠損アデノウイルスベクターの使用である。詳細には、E1、E2、E
3の除去および部分的E4欠失を含むベクターが、外因性トランスジーンを送達
するために用いられている。このようなベクターは、p53遺伝子を標的細胞に
送達するために用いられている。p53欠損(p53変異またはp53ヌル)腫
瘍細胞における外因性に投与された野生型p53の発現は、その腫瘍細胞におけ
るp53媒介アポトーシスを誘導し得ることが実証されている。p53の送達の
ためのこのようなウイルスベクターは、目下、Schering Corpor
ationおよびIntrogen Corporationで開発中である。
また、これらのベクターは、ヒトでの治療適用に関して受容可能な毒物学プロフ
ィールおよび治療効力が実証された。そしてこれらのベクターは、p53関連悪
性疾患の処置に関してヒトにおいて第II相臨床試験中である。
【0004】
複製欠損ベクターおよび選択的に複製するベクターは、少なくとも理論的には
、臨床医に懸念される設計的欠点を有する。複製欠損ベクターは、患者において
制御できずに増殖することがないので、これらは理論的に、より魅力的な安全プ
ロフィールを有する。しかし、有効な腫瘍除去は、かなり大多数の腫瘍細胞が感
染されることを必要とするので、治療有効性を確実にするために、実質的なモル
過剰のベクターが通常用いられる。選択的に複製するベクターは、患者において
複製し、そして潜在的に変異して十分に複製能力のあるベクターを形成する能力
によって、安全性の観点からより問題であると考えられる。しかし、このウイル
スが特定の条件下で増殖する天然の能力を維持することにより、これらのベクタ
ーが周囲の腫瘍細胞に伝播することが可能になる。ベクター自体が複製し得るの
で、より低い初回用量のこのようなベクターが必要とされる。これは、免疫学的
観点ならびにこのような薬剤の製造における経済的理由から好ましい。それゆえ
、当該分野には、認識された安全性問題と取り組みつつ、一方では増加した治療
指数を提供する、選択的に複製するベクターについての必要性がある。
【0005】
本発明は、ベクターが、経路が欠損した細胞において優先的に複製するように
、ウイルス複製のリプレッサーの発現を駆動する経路標的化経路応答性プロモー
ターを含む、選択的に複製するアデノウイルスベクターを提供することにより、
これらの問題を解決する。本発明はまた、このようなベクターを含む薬学的処方
物を提供する。本発明はまた、このようなベクターを用いることにより、経路欠
損細胞を正常細胞の集団から除去する方法を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、感染細胞の表現型または遺伝子型に基づいて宿主細胞におけるウイ
ルス複製を実質的に阻害する、ウイルス複製のインヒビターの発現を駆動する、
経路応答性プロモーターの使用を介して、標的細胞の細胞内条件に応答してウイ
ルスゲノムを選択的に複製する、組換えウイルスを提供する。標的細胞では、こ
の経路応答性プロモーターのプロモーターエレメントは不活性であり、従って、
このウイルスは複製が可能である。この結果、(1)このウイルスの天然の溶菌
性により細胞が殺傷される、および/または(2)治療用量のトランスジーン産
物(複製不能ベクターと比較して増幅される)を標的細胞に提供する、および(
3)組換えウイルスによる周囲の標的細胞の感染を容易にする、局所的ウイルス
濃縮を生じる。本発明はさらに、このベクターの使用による治療方法および診断
方法、このベクターを含む薬学的処方物、このベクターの作製方法およびこのベ
クターを含む形質転換細胞を提供する。
本発明は、例えば以下を提供する。
(項目1) 選択的に複製する組換えウイルスベクターであって、ウイル
ス複製のリプレッサーに作動可能に連結された経路応答性プロモーターを含む、
ベクター。
(項目2) 前記経路応答性プロモーターが、p53経路応答性プロモー
ター、Rb経路応答性プロモーターおよびTGF−β経路応答性プロモーターか
らなる群より選択される、項目1に記載のベクター。
(項目3) トランスジーン発現カセットをさらに含む、項目1に記載
のベクター。
(項目4) 前記トランスジーン発現カセットが、プロモーターに作動可
能に連結されたアポトーシス促進遺伝子を含む、項目3に記載のベクター。
(項目5) 前記プロモーターがMLPである、項目4に記載のベクタ
ー。
(項目6) p300結合を除去するようにアデノウイルスE1aコード
領域において欠失をさらに含む、項目1に記載のベクター。
(項目7) 前記アデノウイルスE1aコード領域における欠失が、E1
aの289Rタンパク質および243Rタンパク質のアミノ酸4〜25の欠失を
含む、項目6に記載のベクター。
(項目8) 活性成分のための1以上の薬学的に受容可能なキャリアとと
もに、項目1〜7のいずれか1項に記載の選択的に複製する組換えベクターを
活性成分として含む薬学的処方物。
(項目9) 経路の欠損を有する細胞を殺傷する方法であって、該細胞を
、項目1〜7のいずれか1項に記載の選択的に複製する組換えウイルスに接触
させることによる、方法。
(項目10) 細胞であって、ウイルス複製のリプレッサーに作動可能に
連結された経路応答性プロモーターを含む選択的に複製する組換えウイルスで形
質転換された、細胞。
(項目11) p53CONおよびRGCからなる群より選択される、p
53経路応答性プロモーター。
(項目12) PAIおよびSREからなる群より選択される、TGF−
β経路応答性プロモーター。

【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】TGF−β経路応答性プロモーター(PAIまたはSRE)またはp53経路応答性プロモーター(RGCまたはp53CON)のいずれかの制御下にE2F−Rb融合コード配列をコードする、組換えアデノウイルスベクターの細胞変性効果を決定するためのCPEアッセイの結果を得た。さらに、グリーン蛍光タンパク質をコードする遺伝子また、レポーターとしてこのベクターに取り込まれた。パネルAはMRC−9細胞を表し、パネルBはHep3B細胞を表し、そしてパネルCはWIDR細胞を表す。レーン1:グリーン蛍光タンパク質(GFP)を発現する複製欠損(E1欠失)組換えアデノウイルス;レーン2:PAI−Ad;レーン3:SRE−Ad;レーン4:RGC−Ad;レーン5:p53CON−Ad。粒子濃度は、図の右に示す通りである。
【図2】経路標的化ベクターを用いたGFP発現を示す、蛍光顕微鏡の結果(上のパネル)。パネルAはGFCBコントロールベクターを表し、パネルBはSRE−Adベクターを表し、そしてパネルCはp53CON−Adベクターを表す。感染は1ミリリットルあたり5×105粒子であった。
【図3】組換えウイルスU3EE(四角)、T1LT(丸)およびL9IU(三角)による、正常な気管支上皮細胞(パネルA)およびC33A細胞(パネルB)の感染結果。垂直軸は非感染コントロールのパーセントを表し、そして水平軸は1ミリリットルあたりの粒子数でのウイルス用量を表す。この実験を、各細胞の培養物を、1ミリリットルあたりの105〜109個のウイルス粒子という6つの異なる濃度のウイルスに対して暴露することにより行った。この細胞を、1時間にわたってウイルスに暴露し、過剰なウイルスを洗浄し、そして感染後6日目の生存細胞のパーセントをMTSアッセイ(Promega,Madison WI)において製造業者の指示に実質的に従って決定した。水平線は、50%の細胞が生存したままであるレベルを表す。このデータにより作成された曲線と水平な点線との交点は、ウイルスのED50の尺度である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ウイルス複製のリプレッサーに作動可能に連結された経路応答性プ
ロモーターを含む、選択的に複製する組換えウイルスを提供する。
【0009】
用語「選択的に複製する」とは、1つの表現型状態において別の表現型状態に
対して優先的に細胞において複製し得るベクターをいう。異なる表現型状態の例
としては、所定の細胞型の正常な細胞に対するp53経路欠損細胞が挙げられる
。優先的な複製を示すウイルスは、このウイルスが、所定の投薬レベルにて、標
的細胞型において同じ型の正常な(コントロールの)細胞型に対して少なくとも
5倍効率的に複製することを示す。ウイルスが本当に選択的であるか否かを決定
するために、多数の因子に関して、同じ細胞型の正常細胞と比較した、このウイ
ルスが標的細胞において複製する能力を評価することが必要である。
【0010】
所定のベクターが、標的化されるべき条件を含む標的細胞において複製する能
力を、この条件を保有しない同じ型の正常細胞において複製する能力と比較する
ことが好ましい。例えば、ウイルスの感染後の第1工程は、細胞を細胞周期に入
るように誘導することである。なぜなら、最大ウイルス複製効率について必須の
因子はS期にのみ存在するからである。しかし、腫瘍細胞における選択性に関し
てベクターの選択的を評価しようとする場合、既に細胞周期に入っている別の細
胞(例えば、不死化細胞株または形質転換細胞株)と比較した、腫瘍細胞におい
て複製する能力、腫瘍細胞についてのウイルスの選択性の評価は、ある程度まで
、不明瞭である。さらに、異なる細胞型は、所定のウイルスに対して広範に異な
る感染性を保有することが観察された。アデノウイルスのようないくつかのウイ
ルスは広範な組織向性を保有するとはいえ、他のウイルスは、感染する細胞の型
がより制限される。広範に異なる感染性の細胞における所定のベクターの性能を
評価することを試みることによっては、効果がないことが、細胞内でのベクター
の性能に起因するのか、または単にウイルスが細胞に全く感染できないことに起
因するのかを評価することは困難である。所定の型の標的細胞および正常細胞に
おいて選択性を評価することにより、この感染性効果を最小にする。
【0011】
ウイルスの生活環の時間的性質もまた考慮されなければならない。例えば、野
生型ベクターでさえ、感染のすぐ後に、正常細胞と比較して腫瘍細胞に選択性を
保有するようであり得る。なぜなら、この細胞は既に細胞周期に入っているから
である。しかし、この見かけの選択性は、一旦ウイルスが細胞周期を刺激すると
、時間の経過とともに減少する。その結果、感染後に選択性が評価される時間は
、正常細胞におけるこの初期の複製遅延を回避するに十分でなければならない。
ここの時間は用いられるウイルスの型によって変動するが、この初期の遅延は、
当業者によって容易に決定され得る。
【0012】
投薬量の効果もまた、所定の組換えアデノウイルスが標的細胞型において選択
的効果を実証しているか否かを決定する際に考慮されなければならない。例えば
、腫瘍細胞の除去を標的化し、そして細胞傷害性による効果を測定している場合
、ウイルスは、投薬量を変更することにより、選択的細胞傷害性を有するように
され得る。そのゲノムが改変された程度にかかわらず、十分に高い用量のほぼ任
意のウイルスが、細胞傷害性であることが公知であるウイルスタンパク質(例え
ば、アデノウイルスの場合、ヘキソン)の存在の効果に単に起因して細胞傷害性
であることが観察されている。同様に、たとえ科学文献がウイルスを「複製欠損
」(このウイルスが、ウイルス欠損を補完し得る細胞株の非存在下では絶対的に
複製できないことを示唆する)として述べられ得るとしても、このようなウイル
スは、より正確には、「複製が弱められている」と記載される。例えば、「複製
欠損」または「複製欠損性」と頻繁にいわれる、E1領域全体の欠失を含むアデ
ノウイルスは、ある程度、特に細胞周期に入った(cycling)細胞または
迅速に分裂している細胞において複製する。Mulliganの観察によると以
下の通りである(1990,Science 260:926−932):
E1領域の発現が、複製に必要な他のウイルス遺伝子産物の発現に影響を与え
ることが示されている(Horwitz,M.Virology,B.N.Fi
elds編(Raven,New York,1990)第60章を引用)とは
いえ、E1遺伝子の発現がウイルス複製に必要とされるのは絶対的ではないよう
である。E1欠損ウイルスの初期の特徴付けは、高い感染多重度では、E1領域
が複製に関して重要でなかったことを実証する(JonesおよびShenk(
1979)PNAS(USA)76(8):3665−3669を引用)。
その結果、ウイルス用量の効果は、ウイルスが選択的様式で複製しているか否か
を決定する際には無視できない。
【0013】
標的細胞に関してウイルスの複製選択性を評価する1つの手段は、ウイルスの
「選択性指数」を以下の通りに評価して使用することである。通常用いられるパ
ラメーターであるED50(これは、50%の細胞の細胞死を誘導するために十分
な用量として規定される)は、比較の適切な基礎を提供する。ウイルスのED50
は、代表的なインビトロ用量漸増実験によって容易に決定され得る。比較の最も
一貫した基礎を確実にするために、ED50は、比較される細胞型の間の感染性の
バリエーションおよび任意のアッセイバリエーションの効果を最小にするために
、ウイルスコントロールに対して最も適切に表される。その結果、単位のない比
ED50(ウイルス)/ED50(コントロール)を用いて、細胞におけるウイルス
の相対毒性が表され、そして「相対毒性指数」または「RTI」と呼ばれる。所
定のウイルスの「選択性指数」は、比RTI(標的細胞)/RTI(正常細胞)
によって表される。選択的に複製するベクターは、少なくとも10、しかし好ま
しくは50、100以上の選択性指数を保有する。
【0014】
例えば、選択的に複製するアデノウイルスベクターU3EEおよびT1LTは
、p53経路の欠損を有する腫瘍細胞の選択的複製および殺傷を達成するように
設計される。U3EEは、本明細書中の実施例 の教示に実質的に従って調製さ
れる。手短には、U3EEウイルスは、E2F−Rb融合タンパク質の発現を駆
動するp53応答エレメント(p53 CON)を含む第1の発現カセットを含
む。E2F−Rb融合タンパク質は、アデノウイルスE2プロモーター活性の強
力なインヒビターであり、細胞内におけるその存在は、ウイルス複製を効果的に
抑制する。p53応答エレメントは、機能的p53経路の存在に応答して活性で
ある。その結果、p53経路がインタクトである正常細胞では、U3EEウイル
スがE2F−Rb融合タンパク質を発現し、そしてこのウイルスは複製しない。
しかし、p53経路欠損を有する細胞(大部分の腫瘍細胞)では、p53CON
応答エレメントは活性ではなく、従って、ウイルス複製の抑制は存在しない。U
3EEベクターはまた、Ad5 E3−10.5Kアポトーシス促進(pro−
apoptotic)遺伝子の発現を駆動するMLPプロモーターを含む発現カ
セットを含む。アポトーシス促進遺伝子を用いる場合、時間的プロモーター(例
えば、MLPプロモーター)の使用が好ましい。なぜなら、アポトーシス促進シ
グナルを活性化する前に標的細胞内のウイルスDNAの複製を促進することを望
むからである。MLPプロモーターは、U3EEゲノムの複製がE3−10.5
Kタンパク質の活性をこのように誘導する場合、開始に引き続き感染のほぼ7時
間後に活性化される。T1LTアデノウイルスベクターは、E1a領域に243
Rおよび289RというアデノウイルスE1aタンパク質のアミノ酸4〜25を
除去するさらなる欠失を含む以外はU3EEベクターと本質的に同じである。こ
の欠失は、p300タンパク質がこれらのE1aタンパク質に結合する能力を破
壊する。
【0015】
U3EEウイルスおよびT1LTウイルスを、正常なヒト気管支上皮細胞(N
HBE)およびC33A(p53欠損経路を有する上皮腫瘍細胞株)において複
製し、そしてこれらを殺傷するそれらの能力について、L9IUベクターをコン
トロールとして用いて評価した。これらの実験の結果を、添付の図面の図3にお
いて表す。以下の表は提示されたデータをまとめる:
【0016】
【表1】


表されるデータからわかり得るように、U3EEウイルスおよびT1LTウイル
スは、腫瘍細胞に関して高い選択性を保有する。以前に考察したように、L9I
Uウイルスは、静止期の正常細胞と比較して、細胞周期に入った腫瘍細胞におい
てわずかな複製利点を保有する。選択性指数を算出する前に細胞型の各々におけ
るED50(ウイルス)/ED50(コントロール)の比を比較することにより、こ
のようなバリエーションの効果を最小にする。
【0017】
用語「組換え」とは、従来の組換えDNA技術によって改変されたゲノムをい
う。
【0018】
用語「ウイルス」とは、タンパク質合成機構もエネルギー生成機構も有さない
任意の絶対的な細胞内寄生物をいう。ウイルスゲノムは、脂質膜でタンパク質が
コーティングされた構造を有する、RNAまたはDNAであり得る。本発明の実
施において有用なウイルスの例としては、baculoviridiae、pa
rvoviridiae、picornoviridiae、herepesv
iridiae、poxviridiae、adenoviridiae、pi
cotrnaviridiaeが挙げられる。用語組換えウイルスとしては、キ
メラ(またはさらにマルチマー)ウイルス、すなわち、1より多くのウイルス亜
型由来の相補的コード配列を用いて構築されたベクターが挙げられる。例えば、
Fengら,Nature Biotechnology 15:866−87
0を参照のこと。
【0019】
用語「アデノウイルス」は、用語「アデノウイルスベクター」と同義語(sy
nonomous)であり、adenoviridiae属のウイルスをいう。
用語adenoviridiaeは、ヒト、ウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ブタ、
マウスおよびサルのアデノウイルス亜属を含むがこれらに限定されない、マスト
アデノウイルス属の動物のアデノウイルスを集合的にいう。詳細には、ヒトアデ
ノウイルスとしては、A−F亜属(sugenera)ならびにその個々の血清
型が挙げられ、個々の血清型およびA−F亜属は、ヒトアデノウイルス1型、2
型、3型、4型、4a型、5型、6型、7型、8型、9型、10型、11型(A
d11AおよびAd11P)、12型、13型、14型、15型、16型、17
型、18型、19型、19a型、20型、21型、22型、23型、24型、2
5型、26型、27型、28型、29型、30型、31型、32型、33型、3
4型、34a型、35型、35p型、36型、37型、38型、39型、40型
、41型、42型、43型、44型、45型、46型、47型、48型および9
1型を含むがこれらに限定されない。用語ウシアデノウイルスは、ウシアデノウ
イルス1型、2型、3型、4型、7型および10型を包含するがこれらに限定さ
れない。用語イヌアデノウイルスは、イヌ1型(CLL株、Glaxo株、RI
261株、Utrect株、Toronto 26−61株)および2型を包含
するがこれらに限定されない。用語ウマアデノウイルスは、ウマ1型および2型
を包含するがこれらに限定されない。用語ブタアデノウイルスは、ブタ3型およ
び4型を包含するがこれらに限定されない。本発明の好ましい実施では、アデノ
ウイルスは、ヒトアデノウイルス血清型2および血清型5に由来する。
【0020】
用語「経路応答性プロモーター」は、特定のタンパク質に結合し、そして近く
の遺伝子が正常細胞におけるこのタンパク質の結合に転写的に応答することを引
き起こす、DNA配列をいう。このようなプロモーターは、転写因子が結合する
配列である応答エレメントを取り込むことにより生成され得る。漸増するタンパ
ク質レベルが転写を減少させる場合がいくつか存在するとはいえ、このような応
答は一般に誘導性である。経路応答性プロモーターは、天然に存在し得るかまた
は合成であり得る。経路応答性プロモーターは代表的には、この経路または標的
化される機能的タンパク質に関して構築される。例えば、天然に存在するp53
経路応答性プロモーターは、p21プロモーターまたはbaxプロモーターのよ
うな、機能的p53の存在により活性化される転写制御エレメントを含む。ある
いは、最小プロモーター(例えば、SV40 TATAボックス領域)の上流に
p53結合部位を含む合成プロモーターは、合成経路応答性プロモーターを作製
するために用いられ得る。合成経路応答性プロモーターは一般に、コンセンサス
結合モチーフに適合する配列の1以上のコピーから構築される。このようなコン
センサスDNA結合モチーフは、容易に決定され得る。このようなコンセンサス
配列は一般に、いくつかの塩基対によって隔てられる直接反復物または頭−尾反
復物として配置される。頭−頭反復物を含むエレメント(例えば、AGGTCA
TGACCT)はパリンドロームまたは逆方向反復と呼ばれ、尾−尾反復物を有
するエレメントは外反転(everted)反復と呼ばれる。
【0021】
本発明の実施において有用な経路応答性プロモーターの例としては、コンセン
サスインスリン結合配列を含む合成インスリン経路応答性プロモーター(Jac
obら,(1995).J.Biol.Chem.270:27773−277
79)、サイトカイン経路応答性プロモーター、グルココルチコイド経路応答性
プロモーター(Langeら,(1992)J Biol Chem 267:
15673−80)、IL1およびIL6経路応答性プロモーター(Won K
.−AおよびBaumann H.(1990)Mol.Cell.Biol.
10:3965−3978)、T3経路応答性プロモーター、コンセンサスモチ
ーフ5’AGGTCA3’を含む甲状腺ホルモン経路応答性プロモーター、TP
A経路応答性プロモーター(TRE)、TGF−β経路応答性プロモーター(G
rotendorstら(1996)Cell Growth and Dif
ferentiation 7:469−480に記載される通り)が挙げられ
る。他の経路応答性プロモーターの例は当該分野で周知であり、そしてhttp
://www.eimb.rssi.ru/TRRDにてインターネットを通し
てアクセス可能なDatabase of Transcription Re
gulatory Regions on Eukaryotic Genom
esにおいて同定され得る。
【0022】
本明細書中に例示されるように本発明の好ましい実施では、ベクターは、SR
EおよびPAI−RE応答エレメントを含むプロモーターのような、機能的TG
F−β経路の存在下で活性な合成TGF−β経路応答性プロモーターを含む。P
AI−REは、プラスミノーゲンアクチベーター−Iプロモーター領域から単離
されたTGF−βシグナルに応答性の配列を含む合成TGF−β応答エレメント
をいう。PAI−REの構築は、本明細書中の実施例3に記載される。PAI−
RE経路応答性プロモーターは、プラスミドp800luc(Zonnevel
dら,(1988)PNAS 85:5525−5529に記載され、そして登
録番号J03836の下でGenBankから入手可能)から単離され得る74
9塩基対のフラグメントとして単離され得る。SREは、Smad−4 DNA
結合配列(Zawelら,(1988)Mol.Cell 1:611−617
に記載される通りのGTCTAGAC)の4つの反復を含む合成TGF−β応答
エレメントをいう。SREの構築は、本明細書中の実施例3に記載される。SR
E応答エレメントは、Smad−4結合配列をコードする相補的オリゴヌクレオ
チドをアニーリングさせ、そしてプラスミドpGL#3−プロモータールシフェ
ラーゼベクター(ProMegaから市販される)にクローニングすることによ
り作製され得る。
【0023】
同様に、「p53経路応答性プロモーター」は、機能的p53経路の存在下で
活性な転写制御エレメントをいう。p53経路応答性プロモーターは、p21プ
ロモーターまたはmdm2プロモーターのような、機能的p53経路の存在下で
活性な天然に存在する転写制御領域であり得る。あるいは、p53経路応答性プ
ロモーターは、SRE経路応答性プロモーターおよびPAI−RE経路応答性プ
ロモーターのような、機能的p53経路の存在下で活性な合成転写制御領域であ
り得る。p53−CONは、SV40 TATAボックスの上流の2つの合成p
53コンセンサスDNA結合配列(Funkら,(1992)Mol.Cell
Biol.12:2866−2871に記載される通り)の挿入によって構築
される合成p53応答エレメントを含むp53経路応答性プロモーターを記載す
る。p53−CON経路応答性プロモーターの構築は、本明細書中の実施例3に
記載される。RGCは、リボゾーム遺伝子クラスターにおいて同定された単一の
p53結合ドメインを用いた合成p53経路応答性プロモーターをいう。Ker
nら(1991)Science 252:1708−1711およびPark
ら(1996)Molecular Carcinogenesis 16:1
01−108。p53CON応答性エレメントおよびRGC応答性エレメントは
、相補的オリゴヌクレオチドをアニーリングすることにより構築され得、そして
p53応答性プロモーターは、プラスミドpGL3−プロモータールシフェラー
ゼベクター(ProMegaから市販される)にクローニングすることにより(
実施例3により十分に記載されるように)構築され得る。
【0024】
用語「標的細胞」は、治療トランスジーンの投与によって処置されることが所
望される所定の表現型状態の細胞をいう。種々の経路応答性プロモーターエレメ
ントの使用により、ウイルスの発現を、インタクトな経路を有する任意の所定の
細胞に対して標的化し得る。例えば、ウイルス複製のリプレッサーは、TGF−
β経路応答性プロモーターまたはp53経路応答性プロモーターの使用により腫
瘍性標的細胞において発現され得る。同様に、ウイルス複製のリプレッサーは、
炎症応答性プロモーターを通した関節炎標的細胞において発現され得、ここでこ
のベクターは必要に応じてIL−10をコードする。
【0025】
用語「作動可能に連結される」は、機能的な関係にあるポリヌクレオチドエレ
メントの連結をいう。核酸配列が別の核酸配列と機能的な関係に置かれる場合、
その核酸配列は、「作動可能に連結され」ている。例えば、プロモーターまたは
エンハンサーがコード配列の転写に影響を与える場合、そのプロモーターまたは
エンハンサーはそのコード配列に作動可能に連結されている。作動可能に連結さ
れるは、連結されたヌクレオチド配列が代表的には連続していることを意味する
。しかし、エンハンサーは、プロモーターから数キロ塩基離れた場合に一般に機
能し、そして介在配列は種々の長さであり得るので、いくつかのポリヌクレオチ
ドエレメントは、作動可能に連結され得るが直接は隣接していないかもしれず、
そしてさらに異なる対立遺伝子または染色体からトランスで作用し得る。
【0026】
用語「ウイルス複製のリプレッサー」は、所定の細胞において発現される場合
、ウイルス複製を実質的に抑制するタンパク質をいう。当業者によって認識され
るように、ウイルス複製のリプレッサーは、本発明の組換えベクターを誘導する
親のアデノウイルスベクターの性質に依存する。例えば、アデノウイルスベクタ
ーまたは他のDNA腫瘍ウイルスの場合、1995年12月6日に公開された欧
州特許出願第94108445.1号(公開第0 685 493 A1号)に
記載されるようなE2F−Rb融合構築物が用いられ得る。E2F−Rb融合タ
ンパク質は、Rb増殖抑制ドメイン(野生型Rbタンパク質のアミノ酸379−
928)に融合された、ヒトE2F転写因子タンパク質のDNA結合ドメインお
よびDP1ヘテロダイマー化ドメイン(野生型E2Fのアミノ酸95〜286)
からなる。E2F−Rb融合タンパク質は、E2F依存性転写の強力なリプレッ
サーであり、そしてG1において細胞を停止させる。DNA結合ドメインはアミ
ノ酸128〜193に存在し、そしてダイマー化ドメインは194〜289に存
在する。ヒトE2F−1タンパク質の配列は、1992年8月10日に寄託され
た登録番号M96577の下でGenBankから利用可能である。他の種由来
の他のE2FファミリーのメンバーのE2FからのE2Fの配列を、他の種にお
いて用いるためのベクターを構築する場合に用い得る。組換えウイルスがアデノ
随伴ウイルス(AAV)に基づく状況では、repタンパク質およびその誘導体
は、アデノウイルス感染の非存在下では、ウイルス複製の有効なリプレッサーで
ある。このウイルスが単純疱疹ウイルスに由来する状況では、前初期タンパク質
ICPO(Liunら(1998)J.Virol.72:7785−7795
)の欠失形態であるICPO−NXタンパク質は、ウイルス複製の有効なリプレ
ッサーとして用いられ得る。同様に、ドミナントネガティブ活性を有する任意の
タンパク質は、ウイルス複製のリプレッサーとして用いられ得る。
【0027】
TGF−βおよび関連タンパク質(アクチビン、インヒビンおよびBMPを含
む)は、強力な天然の抗増殖因子であり、そして腫瘍形成性の抑制において重要
な役割を果たすと考えられる。その生物活性形態では、TGF−βは、25−k
Daのジスルフィド結合されたホモダイマーであり、そして実質的に全てのヒト
組織において発現される。興味深いことには、多くの悪性細胞型は、正常細胞に
おいて見られる発現パターンを保持した。TGF−βは、I型およびII型のセ
リン/トレオニンキナーゼレセプターのヘテロマーレセプター複合体を介してシ
グナルを発する。2つのレセプターキナーゼのうち、II型リプレッサーは、固
有のキナーゼ活性を保有し、そしてTGF−βリガンドへの結合の際には、II
型レセプターはI型レセプターとヘテロマーを形成し、そしてI型レセプターを
トランスリン酸化する。I型レセプターのリン酸化は、そのキナーゼ活性を活性
化し、これは次に、細胞内エフェクターであるSmadのリン酸化をもたらす。
リン酸化されたI型レセプターは、細胞の内側にシグナルを伝え、増殖阻害のよ
うな細胞応答をもたらす。一旦核の内側に入ると、Smad複合体は、この複合
体自体が転写因子として作用することにより、または他の転写因子の活性を調節
することにより、標的遺伝子の転写を活性化することが公知である。TGF−β
のシグナルによって調節されると考えられる転写因子としては、CTF/NF−
1、FAST−1、Sp1、Jun、SRF/TRF、OctおよびCREBが
挙げられる。これらの相互作用の正味の結果は、TGF−βの種々の公知の多面
発現性効果を導く。
【0028】
トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)および関連タンパク質は、
多くの細胞型の増殖の強力なインヒビターである。上皮起源および造血起源のい
くつかの腫瘍の悪性進行は、TGF−βの抗増殖作用および抗侵襲作用の喪失と
相関する。TGF−βシグナル伝達の欠乏は、レセプターおよび/またはシグナ
ル伝達経路の細胞内エフェクターの発現の変異または欠失または欠損を含むこと
が示されている。TGF−βに対して抵抗性である多くの悪性腫瘍はまた、他の
腫瘍抑制遺伝子について複数欠損しており、従って、効率的な治療について腫瘍
抑制遺伝子の置換の実用性を制限している。
【0029】
TGF−β経路応答性プロモーターを、プラスミノーゲンアクチベーターイン
ヒビター−1由来の配列(PAI−プロモーター)またはSV40 TATAボ
ックスの上流のSmad4/DPC4についての結合部位(SRE−プロモータ
ー)を取り込むことにより構築した。これらのプロモーターの活性を、一過性ト
ランスフェクションアッセイにおいて、リポーターとしてルシフェラーゼを用い
て評価した。これらの結果を以下の表2に提示する:
【0030】
【表2】


これらの結果は、これらの両方のプロモーターが、機能的TGF−βシグナル伝
達を有する細胞においてのみ活性であることを実証する。TGF−β経路欠損細
胞株(例えば、Smad4/DPC4のホモ接合性欠失に起因してTGF−βシ
グナル伝達が欠損している、MDA−MB468)では、ルシフェラーゼに作動
可能に連結されたPAI−プロモーターまたはSRE−プロモーターのトランス
フェクション、およびSmad4をコードする組換えアデノウイルスでの感染が
、上記の両方の応答エレメントの活性を回復させた。このことはさらに、以下の
表3に提示されるデータにより実証されるように、TGF−β経路についてのこ
れらの応答エレメント含有プロモーターの特異性を確認する。
【0031】
【表3】


次いで、E2F−Rbに作動可能に連結されたPAI−プロモーターを含むプラ
スミドを構築し、そしてインタクトなTGF−β経路を有する細胞においてE2
プロモーターを選択的に抑制する能力について試験した。一過性のトランスフェ
クションアッセイでは、E2F−Rbに作動可能に連結されたPAI−プロモー
ターを有するルシフェラーゼに連結されたE2プロモーターの同時トランスフェ
クションは、表4に示されるように、293細胞におけるE2F−Rbの選択的
発現によって、293細胞(正常なTGF−β経路を有する)においてE2プロ
モーター活性の選択的抑制を示し、そしてMDA−MB 468細胞(欠損した
TGF−β経路を有する)においては抑制を示さなかった。予想されるように、
これらの両方の細胞株における、E2F−Rbを発現するCMV−E2F−Rb
での同時トランスフェクションは、両方の細胞株においてE2プロモーターの活
性を阻害した。
【0032】
【表4】


p53経路応答性プロモーターを、リボソーム遺伝子クラスター(RGCプロ
モーター)または高親和性p53結合部位(p53CONプロモーター)のいず
れか由来の公知のp53結合部位を取り込むことにより構築した。これらのプロ
モーターの活性を、一過性トランスフェクションアッセイにおいて、ルシフェラ
ーゼをレポーターとして用いて評価した。これらの実験の結果を以下の表5に表
す。
【0033】
【表5】


結果は、これらの両方の応答性エレメントが、機能的p53を有する細胞におい
て活性であることを示した。p53応答性プロモーターの活性が機能的p53に
起因することを確認するために、2つの細胞株WIDRおよびU87を、ルシフ
ェラーゼ遺伝子の発現を駆動するRGCプロモーターと、空のカセットのコント
ロールアデノウイルスベクター(ZZCB)またはCMVプロモーターの制御下
でp53を構成的に生成する組換えアデノウイルス(FTCB)のいずれかとで
同時トランスフェクトした。これらの実験の結果を表6に表す。
【0034】
【表6】


提示したデータからわかり得るように、p53応答性プロモーターの活性は、p
53活性が増加するにつれて用量依存性様式で増加する。
【0035】
TGF−β経路応答性プロモーター(PAIもしくはSRE)またはp53経
路応答性プロモーター(RGCもしくはp53CON)のいずれかの制御下でE
2F−Rb融合コード配列をコードする組換えアデノウイルスベクターを作製し
た。さらに、グリーン蛍光タンパク質をコードする遺伝子もまた、これらのベク
ターにレポーターとして取り込んだ。得られたウイルスを、TGF−β経路また
はp53経路のいずれかの欠損を有する細胞を選択的に複製し、そして殺傷する
能力について細胞変性効果(CPE)アッセイにおいて試験した。結果を、添付
の図面の図1に示す。MRC9(p53経路陽性およびTGF−β経路陽性)で
は、野生型アデノウイルスは、低い濃度(1×106粒子/ml)でさえも複製
し得、そしてCPEを誘導し得たが、一方、TGF−β経路またはp53経路を
標的化するベクターは、その濃度でCPEを誘導しなかった。試験した最大の用
量(1×108粒子/ml)でのみ、経路を標的化したベクターは、いくらかの
CPEを示した。WIDR(p53経路およびTGF−β経路の両方が欠損して
いる)およびHep3B(p53ヌルおよび外因性TGF−βの非存在下ではT
GF−β経路が欠損している)のような細胞株においては対照的に、経路を標的
化したベクターは、低い濃度(1×106粒子/ml)でさえも、野生型ウイル
スと同様にCPEを誘導する際に有効であった。経路を標的化したベクター(S
RE−Adおよびp53Con−Ad)で感染させたHep3B細胞の蛍光顕微
鏡法は、低い粒子濃度(1×105粒子/mlに2時間暴露した)で感染させた
場合でさえ、トランスジーンの高レベルの発現および培養物内でのウイルスの伝
播を示した。対照的に、同じ濃度(1×105粒子/ml)で複製欠損(E1A
が欠失している)GFPコードアデノウイルス(GFCB)に感染させたHep
3B細胞は、GFP発現を示さなかった。
【0036】
以前に示したように、本発明のベクターは、選択的に複製し得、そして選択的
条件下で標的細胞を溶解し得る。しかし、これは、さらなる層の選択性または毒
性がこれらのベクターに操作され得ないことを暗示することを意味しない。本発
明はまた、ウイルスゲノムに対してさらなる改変(例えば、標的化する改変)、
トランスジーン発現カセットまたは所定の細胞型もしくは表現型状態における選
択的複製を容易にするウイルスゲノムへの改変を含む組換えアデノウイルスを提
供する。
【0037】
用語「標的化する改変」は、特定の細胞型の優先的感染性をもたらすように設
計された、ウイルスゲノムに対する改変をいう。細胞型特異性または細胞型標的
化はまた、特徴的に広範な感染性を有するウイルス(例えば、アデノウイルス)
に由来するベクターにおいて、ウイルスエンベロープタンパク質の改変によって
達成され得る。例えば、細胞標的化は、固有の細胞表面レセプターとの特異的相
互作用を有する改変されたこぶドメインおよび線維ドメインの発現を達成するた
めの、ウイルスゲノムのこぶおよび線維をコードする配列の選択的改変によって
アデノウイルスベクターを用いて達成された。このような改変の例は、Wick
hamら(1997)J.Virol 71(11):8221−8229(ア
デノウイルス線維タンパク質へのRGDペプチドの取り込み);Arnberg
ら(1997)Virology 227:239−244(眼および生殖管へ
の向性を達成するためのアデノウイルス線維遺伝子の改変);Harrisおよ
びLemoine(1996)TIG 12(10):400−405;Ste
vensonら(1997)J.Virol.71(6):4782−4790
;Michaelら(1995)gene therapy 2:660−66
8(アデノウイルス線維タンパク質へのガストリン放出ペプチドフラグメントの
取り込み);ならびにOhnoら(1997)Nature Biotechn
ology 15:763−767(シンドビスウイルスへのプロテインA−I
gG結合ドメインの取り込み)に記載される。細胞特異的標的化の他の方法は、
エンベロープタンパク質への抗体または抗体フラグメントの結合体化によって達
成されている(例えば、Michaelら(1993)J.Biol.Chem
.268:6866−6869、Watkinsら(1997)Gene Th
erapy 4:1004−1012;Douglasら(1996)Natu
re Biotechnology 14:1574−1578を参照のこと)
。あるいは、特定の部分をウイルス表面に結合体化して、標的化を達成し得る(
例えば、Nilsonら(1996)Gene Therapy 3:280−
286(レトロウイルスタンパク質へのEGFの結合体化)を参照のこと)。組
換えによって改変されたこれらのベクターは、本発明の実施に従って生成され得
る。
【0038】
用語「トランスジーン発現カセット」は、治療トランスジーンに作動可能に連
結された、標的細胞において機能的なプロモーターをいう。用語プロモーターは
、別のヌクレオチド配列の転写に影響を与えるヌクレオチド配列をいう。プロモ
ーターの例としては、弱い構成性プロモーター、時間的ウイルスプロモーターま
たは調節性プロモーターが挙げられる。
【0039】
用語「時間的プロモーター」は、経路応答性プロモーターの発現を制御するプ
ロモーターに対して、ウイルスのサイクルの後期にある時点で転写または治療ト
ランスジーンを駆動するプロモーターをいう。このような時間的に調節されるプ
ロモーターの例としては、アデノウイルス主要後期プロモーター(MLP)、E
3のような他のプロモーターが挙げられる。本発明の好ましい実施では、MLP
プロモーターが用いられる。単純疱疹ウイルスについては、後期活性化プロモー
ターが用いられ得る。
【0040】
用語「調節性プロモーター」は、誘導性プロモーター、組織特異的プロモータ
ーまたは腫瘍特異的プロモーターをいう。用語「誘導性プロモーター」は、好ま
しい(または専ら)特定の条件下で、および/または外部の化学的刺激もしくは
他の刺激に応答して、治療トランスジーンの転写を促進するプロモーターをいう
。誘導性プロモーターの例は、科学文献において公知である(例えば、Yosh
idaおよびHamada(1997)Biochem.Biophys.Re
s.Comm.230:426−430;Iidaら(1996)J.Viro
l.70(9):6054−6059;Hwangら(1997)J.Viro
l 71(9):7128−7131;Leeら(1997)Mol.Cell
.Biol.17(9):5097−5105;ならびにDreherら(19
97)J.Biol.Chem.272(46);29364−29371を参
照のこと)。照射(radiation)誘導性プロモーターの例は、Mano
meら(1998)Human Gene Therapy 9:1409−1
417に記載される。さらなるレベルの選択性が、組織特異的プロモーターまた
は腫瘍特異的プロモーターの使用によって付与され得る。組織特異的プロモータ
ーおよび腫瘍特異的プロモーターは当該分野で周知であり、そして以下を含む:
平滑筋において優先的に活性なプロモーター(α−アクチンプロモーター)、膵
臓特異的(Palmiterら(1987)Cell 50:435)、肝臓特
異的(Rovetら(1992)J.Biol.Chem.267:20765
;Lemaigneら(1993)J.Biol.Chem.268:1989
6;Nitschら(1993)Mol.Cell.Biol.13:4494
)、胃特異的(Kovarikら(1993)J.Biol.Chem.268
:9917)、下垂体特異的(Rhodesら(1993)Genes Dev
.7:913)、前立腺特異的など。
【0041】
用語「治療用トランスジーン」とは、標的細胞におけるその発現が治療効果を
生ずるヌクレオチド配列をいう。用語治療用トランスジーンは、腫瘍抑制遺伝子
、抗原性遺伝子、細胞傷害性遺伝子、細胞分裂抑制遺伝子、プロドラッグ活性化
遺伝子、アポトーシス遺伝子、薬学的遺伝子、または抗脈管形成遺伝子を含むが
これらに限定されない。本発明のべクターは、IRESエレメントの使用を通し
てタンデムでか、または独立して調節されるプロモーターを通してかのいずれか
で1つ以上の治療用トランスジーンを産生するために使用され得る。
【0042】
用語「腫瘍抑制遺伝子」とは、標的細胞中でのその発現が、新生物表現型の抑
制および/またはアポトーシスの誘導をし得るヌクレオチド配列をいう。本発明
の実施において有用な腫瘍抑制遺伝子の例には、p53遺伝子、APC遺伝子、
DPC−4/Smad4遺伝子、BRCA−1遺伝子、BRCA−2遺伝子、W
T−1遺伝子、網膜芽細胞腫遺伝子(Leeら(1987)Nature 32
9:642)、MMAC−1遺伝子、腺腫様ポリープ症coliタンパク質(1
998年7月21日に発行された、Albertsenら、米国特許第5,78
3,666号)、結腸癌における欠損(DCC)遺伝子、MMSC−2遺伝子、
NF−1遺伝子、染色体3p21.3にマッピングされる鼻咽頭癌腫瘍抑制遺伝
子(Chengら、1998、Proc.Nat.Acad.Sci.95:3
042−3047)、MTS1遺伝子、CDK4遺伝子、NF−1遺伝子、NF
2遺伝子、およびVHL遺伝子が挙げられる。
【0043】
用語「抗原性遺伝子」とは、標的細胞におけるその発現が、免疫系により認識
され得る細胞表面抗原性タンパク質の産生を生じるヌクレオチド配列をいう。抗
原性遺伝子の例には、癌胎児性抗原(CEA)、p53(1994年2月3日に
公開された、Levine,A.PCT国際公開番号WO94/02167によ
って記載される通り)が含まれる。免疫認識を容易にするために、抗原性遺伝子
は、MHCクラスI抗原に融合され得る。
【0044】
用語「細胞傷害性遺伝子」とは、細胞におけるその発現が、毒性の効果を生ず
るヌクレオチド配列をいう。このような細胞傷害性遺伝子の例には、Pseud
omonas体外毒素、リシン毒素、ジフテリア(diptheria)毒素な
どをコードするヌクレオチド配列が含まれる。
【0045】
用語「細胞分裂抑制遺伝子」とは、細胞におけるその発現が、細胞周期の停止
を生じるヌクレオチド配列をいう。このような細胞分裂抑制遺伝子の例には、p
21、網膜芽細胞腫遺伝子、E2F−Rb融合タンパク質遺伝子、サイクリン依
存性キナーゼインヒビター(例えば、P16、p15、p18、およびp19)
をコードする遺伝子、Branellecら(1997年5月9日に公開された
PCT公開WO97/16459および1996年10月3日に公開されたPC
T公開WO96/30385)によって記載されたような、増殖停止特異的ホメ
オボックス(GAX)遺伝子が含まれる。
【0046】
用語「サイトカイン遺伝子」とは、細胞におけるその発現がサイトカインを産
生するヌクレオチド配列をいう。このようなサイトカインの例には、GM−CS
F、インターロイキン(特に、IL−1、IL−2、IL−4、IL−12、I
L−10、IL−19、IL−20)、α、β、およびγのサブタイプのインタ
ーフェロン(特に、インターフェロンα−2bおよび融合物(例えば、インター
フェロンα−2α−1))が含まれる。
【0047】
用語「ケモカイン遺伝子」とは、細胞におけるその発現がサイトカインを産生
するヌクレオチド配列をいう。用語ケモカインとは、分裂促進活性、走化性活性
、または炎症性活性を有する、構造的に関連している、細胞によって分泌される
構造的に関連する低分子量のサイトカイン因子のグループをいう。これらは、主
に、70〜100アミノ酸残基のカチオン性タンパク質であり、4つの保存性シ
ステイン残基を共有する。これらのタンパク質は、2つのアミノ末端システイン
の間隔に基づいて、2つのグループに分類され得る。第1のグループにおいて、
2つのシステインは1残基隔てられており(C−x−C)、一方第2のグループ
においては、これらは隣接している(C−C)。「C−x−C」ケモカインのメ
ンバーの例には、血小板因子4(PF4)、血小板塩基性タンパク質(PBP)
、インターロイキン−8(IL−8)、メラノーマ増殖刺激活性タンパク質(M
GSA)、マクロファージ炎症タンパク質2(MIP−2)、マウスMig(m
119)、ニワトリ9E3(またはpCEF−4)、ブタ肺胞マクロファージ走
化性因子IおよびII(AMCF−IおよびAMCF−II)、前B細胞増殖刺
激因子(PBSF)、およびIP10が含まれるがこれらに限定されない。「C
−C」グループのメンバーの例には、単球走化性タンパク質1(MCP−1)、
単球走化性タンパク質2(MCP−2)、単球走化性タンパク質3(MCP−3
)、単球走化性タンパク質4(MCP−4)、マクロファージ炎症タンパク質1
α(MIP−1−α)、マクロファージ炎症タンパク質1β(MIP−1−β)
、マクロファージ炎症タンパク質1γ(MIP−1−γ)、マクロファージ炎症
タンパク質3−α(MIP−3−α)、マクロファージ炎症タンパク質3β(M
IP−3−β)、ケモカイン(ELC)、マクロファージ炎症タンパク質4(M
IP−4)、マクロファージ炎症タンパク質5(MIP−5)、LD78β、R
ANTES、SIS−ε(p500)、胸腺活性化調節ケモカイン(TARC)
、エオタキシン(eotaxin)、I−309、ヒトタンパク質HCC−1/
NCC−2、ヒトタンパク質HCC−3、マウスタンパク質C10が含まれるが
、これらに限定されない。
【0048】
用語「薬学的なタンパク質遺伝子」とは、そのタンパク質の産生を生じる発現
が、標的細胞において薬学的な効果を有するヌクレオチド配列をいう。このよう
な薬学的遺伝子の例には、プロインスリン遺伝子およびアナログ(PCT国際特
許出願番号WO98/31397に記載される通り)、成長ホルモン遺伝子、ド
パミン、セロトニン、上皮増殖因子、GABA、ACTH、NGF、VEGF(
標的組織への血液灌流を増大させるため、新脈管形成を誘導するため、1998
年7月30日に公開されたPCT公開WO98/32859)、トロンボスポン
ジンなどが含まれる。
【0049】
用語「アポトーシス促進(pro−apoptotic)遺伝子」とは、その
発現が、細胞のプログラムされた細胞死を生じるヌクレオチド配列をいう。アポ
トーシス促進遺伝子の例には、p53、アデノウイルスE3−11.6K(Ad
2由来)またはアデノウイルスE3−10.5K(Ad由来)、アデノウイルス
E4orf4遺伝子、p53経路遺伝子、およびカスパーゼをコードする遺伝子
を含む。
【0050】
用語「プロドラッグ活性化遺伝子」とは、その発現が、非治療用化合物を治療
用化合物に転換し得るタンパク質の産生を生じるヌクレオチド配列をいい、それ
は、外部の因子によって細胞を殺傷されやすくするか、または細胞内に毒性条件
を引き起こす。プロドラッグ活性化遺伝子の例は、シトシンデアミナーゼ遺伝子
である。シトシンデアミナーゼは、5−フルオロシトシン(5−FC)を、強力
な抗腫瘍剤である5−フルオロウラシル(5−FU)に転換する。腫瘍細胞の溶
解は、腫瘍の局在化された点において5FCを5FUに転換し得るシトシンデア
ミナーゼの局所的なバーストを提供し、腫瘍細胞を取り囲む多くの細胞の殺傷を
生じる。このことは、アデノウイルスでこれらの細胞を感染させる必要性なしで
、多数の腫瘍細胞の殺傷を生じる(いわゆる、「傍観者効果」)。さらに、チミ
ジンキナーゼ(TK)遺伝子(例えば、Wooら、1997年5月20日に発行
された米国特許第5,631,236号および1997年2月11日に発行され
たFreemanら、米国特許第5,601,818号を参照のこと)(ここで
、TK遺伝子産物を発現する細胞は、ガンシクロビルの投与による選択的な殺傷
に感受性である)が用いられ得る。
【0051】
用語「抗脈管形成」遺伝子とは、その発現が抗脈管形成因子の細胞外分泌を生
じるヌクレオチド配列をいう。抗脈管形成因子には、アンジオスタチン、血管内
皮増殖因子(VEGF)のインヒビター(例えば、Tie2)(PNAS(US
A)(1998)95:8795−8800において記載される通り)、エンド
スタチンが含まれる。
【0052】
野生型タンパク質の機能的なサブフラグメントをコードするための上記に言及
された遺伝子に対する改変およびまたは欠失が、本発明の実施における使用のた
めに容易に適合され得ることは、当業者には容易に明らかである。例えば、p5
3遺伝子に対する言及は、野生型タンパク質を含むだけでなく、改変されたp5
3タンパク質をも含む。このような改変されたp53タンパク質の例には、核残
留を増大させるためのp53に対する改変、カルパインコンセンサス切断部位を
除去するためのΔ13−19アミノ酸のような欠失、オリゴマー化ドメインに対
する改変(Braccoら、PCT公開出願WO97/0492または米国特許
第5,573,925号において記載される通り)が含まれる。
【0053】
標的化部分(例えば、シグナルペプチドまたは核局在化シグナル(NLS))
の含有によって、上記の治療用遺伝子が培地中に分泌され得るか、または特定の
細胞内位置に局在し得るかは、当業者には容易に明らかである。1型単純疱疹ウ
イルス(HSV−1)の構造タンパク質VP22を有する治療用トランスジーン
の融合タンパク質もまた、治療用トランスジーンの定義の中に含まれる。VP2
2シグナルを含む融合タンパク質は、感染した細胞において合成される場合、感
染した細胞の外部に搬出され、そして約16細胞の幅の直径まで、周囲の非感染
細胞に効率的に侵入する。この系は、融合タンパク質が、周囲の細胞の核に効率
よく輸送されるので、転写活性タンパク質(例えば、p53)と組み合わせて特
に有用である。例えば、Elliott,G.およびO’Hare,P.Cel
l 88:223−233:1997;Marshall,A.およびCast
ellino,A.Research News Briefs.Nature
Biotechnology.15:205:1997;O’Hareら、1
997年2月13日に公開されたPCT公開WO97/05265を参照のこと
。HIV Tatタンパク質に由来する同様の標的化部分はまた、Vivesら
(1997)J.Biol.Chem.272:16010−16017に記載
される。
【0054】
さらに、本発明のベクターの効力を増大させるための改変には、E1中の変化
、細胞傷害性を増加させるためのE4における変異の導入(Mullerら(1
992)J.Virol.66:5867−5878)、ウイルス死(deat
h)タンパク質(例えば、E4orf4タンパク質またはE3 11.6Kタン
パク質)の上方制御が含まれるがこれらに限定されない。
【0055】
本明細書中で例示されるような本発明の好ましい実施において、本発明のベク
ターは、E2F−Rb融合タンパク質の発現を駆動するp53経路応答性プロモ
ーターまたはTGF−β経路応答性プロモーターを含む、条件付きで複製するア
デノウイルスを含み、さらに、一過性のE3プロモーターの制御下にあるシトシ
ンデアミナーゼ遺伝子を含む。このような例において、シトシンデアミナーゼは
、ウイルス複製後に腫瘍細胞においてのみ産生される。本発明の好ましい実施に
おいて、プロドラッグ変換遺伝子は、比較的弱いプロモーター、または組織特異
的プロモーター、または腫瘍特異的なプロモーターの制御下にある。
【0056】
本発明の別の実施形態において、ベクターは、シトシンデアミナーゼを単独で
発現するトランスジーン発現カセット中の、またはシトシンデアミナーゼを含む
二シストロン性発現カセット中の、E2F−Rb融合タンパク質の発現を駆動す
るp53経路応答性プロモーターまたはTGF−β経路応答性プロモーターを有
する組換えアデノウイルス、ならびにIRESエレメントおよびMIP−3−α
タンパク質を含む。シトシンデアミナーゼが発現されるので、腫瘍細胞殺傷は、
5−フルオロシトシンのようなプロドラッグの投与に際して達成される。MIP
−3αの低レベル発現は、抗腫瘍免疫の発生を補助する。
【0057】
複数レベルの、多機能の、または複数の経路応答性カスケードは、本明細書中
で交換可能に使用されて、1より多くの経路が同時に探査され得る治療的効果を
生じるための経路応答性エレメントの構造をいう。上記のようなベクターコント
ロールエレメントが、本発明のベクターに対して複数の層の選択性を提供するた
めに組み合わされ得ることは当業者に明白である。複数レベルのコントロールの
例として、Rb経路、TGF−β経路、またはp53経路のいずれかにおいて欠
損を有する細胞を複製および殺傷し得る、条件付きで複製するアデノウイルスを
設計することが可能である。このようなベクターは、一次レベルのコントロール
としてp53応答性プロモーターによって制御されるウイルス複製のドミナント
ネガティブインヒビターの発現を含む。結果として、機能的p53を有する任意
の細胞(例えば、すべての正常な細胞)において、ドミナントネガティブインヒ
ビターが発現され、そしてウイルス複製はブロックされるが、しかし不活性p5
3を有する細胞ではそうではない。しかし、このベクターは、機能的p53を有
するが、他の経路(例えば、TGF−β経路およびRb経路)において欠損を有
する腫瘍細胞においては複製し得る。従って、腫瘍細胞において機能的p53を
本質的に不活化し、従って、他の経路に欠損がある場合にウイルス複製を可能に
する、さらなるコントロールのレベルが挿入され得る。
【0058】
制御の第2のレベルとして、同じベクターはまた、TGF−β経路欠損細胞に
おいてのみ活性であるプロモーターの制御下で、機能的に不活性なp53であり
得るアデノウイルスE1B−55Kタンパク質、を含む発現カセットを構成する
。TGF−β経路欠損細胞においてのみ活性であるプロモーターは、プロモータ
ー内にリプレッサー結合部位を挿入することにより構築され得、これにより、ベ
クター上のどこかにある、TGF−β応答性プロモーターを用いるリプレッサー
の発現は、インタクトなTGF−βシグナル伝達による細胞中のこのプロモータ
ー活性の妨害を導く。一方で、TGF−β経路が欠損している細胞においては、
リプレッサーは合成されず、従って、プロモーターは活性である。TGF−β経
路が欠損している細胞のみにおいて活性であるプロモーターからのE1B−55
Kの発現により、内因性p53は不活化される。あるいは、TGF−βシグナル
伝達のために下方制御される任意の天然のプロモーターが用いられ得る。上記の
2つの発現カセットを含むことは、ドミナントネガティブなインヒビターが、p
53およびTGF−β経路の両方が正常である(複製の阻害を導く)ときだけは
発現されるが、それらの一方または両方が欠損している(ウイルス複製を導く)
ときには発現されないということを、確実にする。
【0059】
制御の第3のレベルとして、E2F−応答性プロモーターにより制御されるT
GF−β経路を不活性化し得る(Nakaoら、Nature 1997 Oc
t 9;389(6651):631〜635)Smad7またはSmadの任
意の他のドミナントネガティブ形態のようなタンパク質の発現は、同じベクター
において達成される。E2F−応答性プロモーター(例えば、SV40 TAT
Aボックスのような最小プロモーターの上流に複数のE2F結合部位を有する、
E2F1プロモーター、E2プロモーターまたは合成プロモーター)は、Rb経
路が欠損している場合に活性である。この第3のレベルの制御により、Rb経路
を欠損している細胞において、Smad7が発現され、次にこのSmad7は、
Smad4を不活性化し、そしてTGF−βシグナル伝達をブロックする。従っ
て、E1B−55Kが作製され、そしてp53は不活性化され、このことはドミ
ナントネガティブなインヒビターの発現の欠如を導く。従って、ウイルス複製は
、妨害されずに進行し得る。一方で、Rb経路が正常であれば、Smad7は合
成されず、従ってTGF−βシグナル伝達が正常に進行する。従って、E1B−
55Kは生成されず、結果として、ドミナントネガティブなインヒビターを発現
し、ウイルス複製をブロックし得る、機能的p53を生じる。
【0060】
上記の3つのレベルの制御において、3つの経路(Rb、TGF−βおよびp
53)の任意の1つまたは2つまたは全ての欠損は、最終的にウイルス複製およ
び細胞溶解を導く。ウイルス複製は、3つ全ての経路が正常細胞中と同様に機能
的である場合にのみ生じない。
【0061】
当業者により理解され得るように、本発明のベクターは、種々の経路応答性プ
ロモーターを用いる広範な種々の経路欠損の検出および処置のために、多くのバ
リエーションに用いられ得る。しかし、本明細書において例示される本発明の好
ましい実施において、組換えアデノウイルスベクターは、アデノウイルス属から
誘導される。特に好ましいウイルスは、2型または5型のヒトアデノウイルスか
ら誘導される。アデノウイルスベクターが親ベクターとして用いられる場合、ウ
イルス複製の好ましいインヒビターはE2F−RB融合タンパク質である。
【0062】
本発明の好ましい実施において、制御されていない細胞増殖に関連する疾患を
処置するために本発明のベクターを用いる場合、E1a CR3ドメインのトラ
ンス活性化機能を保持しながら、E1a遺伝子産物がp300タンパク質および
Rbタンパク質に結合する能力を除去するために、E1A領域において特定の欠
失を含むアデノウイルスベクターを用いることが好ましい。本発明のベクターは
、E1aコード配列に欠失を有し、13Sコード配列においてp300結合部位
およびp105−Rb結合部位が除去される。本発明の好ましい実施において、
p300結合の欠失は、アミノ酸ほぼ4〜ほぼ25、またはアミノ酸ほぼ36〜
ほぼ49の欠失により示される。
【0063】
p300結合およびpRb結合の除去を達成するために必要なE1a 289
Rコード配列における欠失は、E1a 289Rタンパク質の二次構造および三
次構造の重大な破壊を防ぐために、好ましくは、可能な限り最小である。p30
0結合を除去するためには、289Rのp300結合ドメインをコードするDN
A配列に変異が導入されることが好ましい。p300結合を除去するためには、
C末端領域における約30アミノ酸未満の欠失が好ましいが、より少ない改変が
好ましい。例えば、アミノ酸4〜25(dl1101)、約アミノ酸30〜約ア
ミノ酸49(dl1103)、そしてより好ましくはアミノ酸36〜49の欠失
が、p300結合を除去するために、代替的に好ましい。結合するp300を破
壊するために十分な点変異が特に好ましい。例えば、289Rタンパク質におけ
る、アルギニンからグリシンへの(Arg2→Gly2)第2のアミノ酸の点変
異は、p300結合を破壊することが実証されている(例えば、pm563、W
hyteら(1989)Cell 56:67〜75を参照のこと)。同様に、
pRb105結合の除去については、最小限の改変が好ましい。アミノ酸111
〜123(dl1107)およびアミノ酸124〜127(dl1108)のよ
うなpRb105結合ドメインにおける選択的アミノ酸の除去が好ましい。アミ
ノ酸111〜123(dl1107)の欠失は、それが289Rタンパク質のp
107結合活性を保持しているという点で、特に好ましい。
【0064】
さらに、E1a 289Rタンパク質のアミノ酸のほぼ219〜289および
E1A 243Rタンパク質のアミノ酸の約173〜243の除去が導入され得
る。例えば、ヒトAd5ゲノムの1131位に対応する位置での点変異の導入(
すなわち、シトシン1131をグアニンに変化すること)により、終止コドンを作製
する。この変異は、E1a 289Rタンパク質のアミノ酸219〜289およ
びE1A 243Rタンパク質のアミノ酸173〜243の除去を生じる。この
変異は、上記のRb結合およびp300結合における欠失に加えて、必要に応じ
て作製される。このような親ベクターのさらなる例は、同時係属中の米国特許出
願番号60/104,317および同第08/09/172,684(1998
年10月15日出願)に記載されている。
【0065】
本明細書において例示されるように、本発明の好ましい実施において、好まし
いp53経路応答性プロモーターは、p53−CONおよびRGCである。好ま
しいTGF−β経路応答性プロモーターは、PAI−REおよびSREからなる
群より選択される。
【0066】
本発明の好ましい実施において、治療用遺伝子は、プロドラッグ活性化遺伝子
(例えば、シトシンデアミナーゼ)である。抗腫瘍免疫を誘導するための本発明
の好ましい実施において、本発明のベクターは、MIP−3−αをコードする。
【0067】
治療用遺伝子の発現のために好ましいプロモーターは、MLPおよびE3のよ
うな時間的プロモーターである。
【0068】
アデノウイルス構築物において、複製までアデノウイルスにより誘導される細
胞溶解を最小限にするために、AdE3−11.6Kタンパク質の作用の排除ま
たは遅延が達成される。特に、ネイティブなE3−11.6K/10.5遺伝子
の排除が、好ましい。これは、初回の局所的伝播が生じる後まで免疫応答を最小
限にする。この後者の時点で、一旦、最初に感染した細胞のアポトーシスが達成
され、そして局所的ウイルス伝播が可能になると、この免疫応答は有利である。
11.6Kタンパク質(すなわち、Ad5の対応するE3−10.5Kタンパク
質)は、アポトーシス促進性(pro−apoptotic)遺伝子であり、そ
して腫瘍細胞において細胞殺傷を達成するために用いられ得る。しかし、ウイル
ス複製を最大化する標的細胞の早発性溶解を遅延することが望ましいので、11
.6K/10.5K遺伝子は、そのアポトーシス性効果の発現を遅延するため、
時間的プロモーター(例えば、MLPプロモーター)の制御下に配置されること
が好ましい。
【0069】
(薬学的処方物)
本発明はさらに、キャリアと組み合わせた組換えウイルスの薬学的に受容可能
な処方物を提供する。本発明のベクターは、キャリアおよび賦形剤の添加を伴う
従来の薬学に従って、用量投与のために処方され得る。投薬処方物は、静脈内、
腫瘍内、筋肉内、腹腔内、局所、基質またはエアロゾルでの送達を含み得る。
【0070】
用語「キャリア」は、治療用化合物の安定性、無菌性および送達可能性を増大
させsるために用いられる薬学的化合物の処方に対して通常、用いられる化合物
をいう。ウイルスが溶液または懸濁液として処方される場合、送達系は、受容可
能なキャリア、好ましくは水性キャリア中である。種々の水性キャリア(例えば
、水、緩衝化水、0.8%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸など)
が用いられ得る。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技術により滅菌され得る
か、または滅菌濾過され得る。得られた水性溶液は、そのままでの使用のために
パッケージングされ得るか、または凍結乾燥され得、この凍結乾燥調製物は、投
与前に滅菌溶液と組み合わせられる。この組成物は、生理学的条件に近づけるた
めに必要とされる場合、薬学的に受容可能な補助物質(例えば、pH調節および
緩衝化剤、張度調節剤、湿潤剤など(例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム
、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、吸着(sorption)
モノラウレート、トリエタノールアミンオレエートなど))を含み得る。
【0071】
本発明はさらに、キャリアおよび送達増強剤を含む本発明のウイルスの薬学的
処方物を提供する。用語「送達エンハンサー」または「送達増強剤」は、本明細
書中で互換可能に用いられ、そして標的細胞へのウイルスの取り込みを促進する
1つ以上の薬剤を含む。送達エンハンサーの例は、1998年7月8日提出の同
時係属中の米国特許出願番号09/112,074号および1997年9月26
日提出、08/938,089号に記載される。このような送達増強剤の例とし
ては、界面活性剤(detergent)、アルコール、グリコール、界面活性
物質(surfactant)、胆汁酸塩、ヘパリンアンタゴニスト、シクロオ
キシゲナーゼインヒビター、高張性塩溶液およびアセテートが挙げられる。アル
コールとしては例えば、エタノール、N−プロパノール、イソプロパノール、ブ
チルアルコール、アセチルアルコールのような脂肪族アルコールが挙げられる。
グリコールとしては、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコ
ールおよび他の低分子量グリコール(例えば、グリセロールおよびチオグリセロ
ール)が挙げられる。酢酸、グルコン酸、および酢酸ナトリウムのようなアセテ
ートは、送達増強剤のさらなる例である。1M NaClのような高張性塩溶液
もまた、送達増強剤の例である。界面活性物質の例は、ドデシル硫酸ナトリウム
(SDS)およびリゾレシチン、ポリソルベート80、ノニルフェノキシポリオ
キシエチレン、リゾホスファチジルコリン、ポリエチレングリコール400、ポ
リソルベート80、ポリオキシエチレンエーテル、ポリグリコールエーテル界面
活性物質、ならびにDMSOである。タウロコレート、タウロ−デオキシコール
酸ナトリウム、デオキシコレート、ケノデオキシコレート(chenodeso
xycholate)、グリココール酸、グリコケノデオキシコール酸および他
の収斂薬(例えば、硝酸銀)のような胆汁酸塩が用いられ得る。第4級アミン(
例えば、硫酸プロタミン)のようなヘパリン−アンタゴニストもまた用いられ得
る。シクロオキシゲナーゼインヒビター(例えば、サリチル酸ナトリウム、サリ
チル酸、および非ステロイド性抗炎症性薬物(NASIDS)(インドメタシン
、ナプロキセン、ジクロフェナクのような)が用いられ得る。送達増強剤として
は、式Iの化合物が挙げられる。
【0072】
ここで、X1およびX2は、コール酸基、デオキシコール酸基および糖基から
なる群より選択され、mは2〜8の整数であり、そして好ましくは2または3で
あり、nは、2〜8の整数であり、そして好ましくは2または3であり、そして
Rは、カチオン性基、糖基または−CO−X3構造(ここでX3は、糖基である
)である。この糖基は五炭糖単糖基、六炭糖単糖基、五炭糖−五炭糖二糖基、六
炭糖−六炭糖二糖基、五炭糖−六炭糖二糖基、および六炭糖−五炭糖二糖基から
なる群より選択され得る。
【0073】
用語「界面活性剤」としては、アニオン性、カチオン性、両性イオン性および
非イオン性の界面活性剤が挙げられる。例示的な界面活性剤としては、タウロコ
レート、デオキシコレート、タウロデオキシコレート、セチルピリジウム、ベナ
ルコニウムクロリド、Zwittergent 3−14界面活性剤、CHAP
S(3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオル]−1−プロパンス
ルホン酸水和物)、Big CHAP、Deoxy Big CHAP、Tri
ton−X−100界面活性剤、C12E8、オクチル−B−D−グルコピラノ
シド、PLURONIC−F68界面活性剤、Tween 20界面活性剤およ
びTWEEN 80界面活性剤(CalBiochem Biochemica
ls)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0074】
本発明の単位投薬処方物は、凍結乾燥形態の請求項1の組換えウイルス、およ
びその凍結乾燥製品の再構成のための溶液を含む製品のキットに含まれ得る。本
発明の組換えウイルスは、従来の手順により凍結乾燥され、そして再構成され得
る。
【0075】
本発明のベクターは、カルパインインヒビターと組み合わせて投与され得る。
「カルパインインヒビター」(略して「CI」)は、カルパイン−I(例えば、
μ−カルパイン)のタンパク質分解性作用を阻害する化合物をいう。本明細書に
おいて用いる場合、用語カルパインインヒビターは、それらの他の生物学的活性
に加えて、またはその活性と独立して、カルパインI阻害性活性を有するそれら
の化合物を含む。広範な種々の化合物がカルパインのタンパク質分解性作用の阻
害の活性を有することが実証されている。本発明の実施において有用であるカル
パインインヒビターの例としては、「カルパイン インヒビター1」としても公
知である、N−アセチル−leu−leu−ノルロイシナル(N−acetyl
−leu−leu−norleucinal)が挙げられる。カルパインインヒ
ビターは、ウイルスベクターに関して細胞の感染性を増大すること、NF−κB
およびAP−1転写因子のレベルを増大することによりプロモーターからの転写
を増強すること、ならびにアデノウイルスベクターに対するCTL応答を減弱す
ることが観察されている。結果的に、本発明の処方物および方法は、必要に応じ
てカルパインインヒビターを含み得る。カルパインインヒビターおよびそれらの
適用は、Atencioら、同時係属の米国特許出願第60/104,321号
および同第09/073,076号(1998年10月15日出願)に記載され
ている。
【0076】
(使用方法)
本発明は、標的細胞と本発明の選択的複製ベクターとの接触による調節経路欠
損で、細胞を殺傷する方法を提供する。本明細書において例示するように、本発
明の1つの実施形態において、経路欠損を有する細胞は、新生物細胞である。用
語「新生物細胞」は、独立した正常細胞増殖制御により特徴付けられる異常な増
殖表現型を示す細胞である。新生物細胞は、任意の所定の時点で必ずしも複製さ
ないので、用語、新生物細胞は、活性に複製されているかまたは一時的な非複製
休止状態(G1またはG0)にあり得る細胞を含む。新生物細胞の局所的集団は
新生物と呼ばれる。新生物は、悪性または良性であり得る。悪性新生物はまた、
ガンとも呼ばれる。用語、ガンは、本明細書において用語、腫瘍と互換可能に用
いられる。新生物形質転換とは、新生物細胞、しばしば腫瘍細胞への正常細胞の
転換をいう。
【0077】
本発明は、本発明の組換えアデノウイルスの薬学的に受容可能な処方物の投与
による、インビボでの哺乳動物生物体における新生物細胞の除去方法を提供する
。用語「除去(ablating)」は、新生物細胞の存在の生理学的疾病状態
(maladiction)を軽減するような、生存可能な新生物細胞の集団の
実質的な減少を意味する。用語「実質的な」は、哺乳動物生物体中の生存可能な
新生物細胞の集団の、前処置集団の約20%より大きい減少を意味する。用語「
生存可能な」は、新生物細胞の制御されていない増殖特徴および細胞周期調節特
徴を有することを意味する。用語「生存可能な新生物細胞」は、もはや複製し得
ない新生物細胞とこの細胞を区別するために本明細書において使用される。例え
ば、腫瘍塊は、処置後も残存し得るが、腫瘍塊を含む細胞集団は死に得る。ある
程度の腫瘍塊が残存し得るとしても、これらの死んだ細胞は、除去され、そして
複製する能力が欠失している。
【0078】
用語「哺乳動物生物体」は、ヒト、ブタ、ウマ、ウシ、イヌ、ネコを含むがこ
れらに限定されない。好ましくは、処置される哺乳動物の型に内在性のアデノウ
イルスベクターを用いる。処置されるべき種由来のウイルスを使用することが一
般に好ましいが、ある場合には、有利な病原性特性を有する異なる種から誘導さ
れたベクターを用いることが有利であり得る。例えば、ヒトアデノウイルスベク
ターの免疫応答特性を最小限にするために、ヒツジのアデノウイルスベクターが
、ヒト遺伝子治療において用いられ得ることが報告されている(1997年4月
10日公開、WO 97/06826)。免疫応答を最小限にすることにより、
ベクターの迅速な全身的クリアランスが回避され、このベクターのより長い作用
持続時間を生じる。
【0079】
本発明のベクターは、乳房癌腫、肝細胞腫、胃の腫瘍、結腸腫瘍および皮膚の
腫瘍、ならびにBリンパ腫およびTリンパ腫(MarkowitzおよびRob
erts、1996)を含むがこれらに限定されないTGF−β抗増殖作用の欠
失と関連する腫瘍の処置に、特に適応し得る。II型TGF−βレセプターの変
異は、結腸、胃、頭部および頸の扁平上皮癌腫において同定されている。I型レ
セプターの変異または欠失もまた、カポジ肉腫、乳房腫瘍、卵巣腫瘍および結腸
直腸腫瘍において見出されている。TGF−βシグナル伝達の細胞間エフェクタ
ーの中でも、Smad、Smad4/DPC4が、膵臓ガンのほぼ50%におい
て変化した、腫瘍サプレッサー遺伝子の候補として同定された。DPC4遺伝子
の変化はまた、結腸腫瘍、乳房腫瘍および卵巣腫瘍において見出されているが、
より低い頻度である。本発明のベクターは、膵臓ガンのようなTGF−β非感受
性腫瘍の処置に特に適用可能である。
【0080】
本発明のベクターはまた、p53経路欠損を含む腫瘍細胞の処置に適用可能で
ある。これらの腫瘍は、p53、mdm2およびp14/p19ARF(INK
4a遺伝子)における変化を保有する腫瘍を含む。本発明のベクターはまた、R
b経路欠損を有するガン細胞の処置において有用である。Rb、サイクリンD、
サイクリン依存性キナーゼ(例えば、CDK4)およびp16(INK4a遺伝
子)における変化からRb経路欠損が生じる。
【0081】
本発明は、組換えアデノウイルス単独の使用の方法を提供するが、本発明の組
換えアデノウイルスおよびそれらの処方物は、従来の化学療法剤または処置レジ
メンと組み合わせて使用され得る。このような化学療法剤の例としては、プリン
合成のインヒビター(例えば、ペントスタチン、6−メルカプトプリン、6−チ
オグアニン、メトトレキサート)またはピリミジン合成のインヒビター(例えば
、Pala、アザリビン(azarbine))、リボヌクレオチドからデオキ
シリボヌクレオチドへの変換のインヒビター(例えば、ヒドロキシウレア)、d
TMP合成のインヒビター(5−フルオロウラシル)、DNA損傷剤(例えば、
照射、ブレオマイシン、エトポシド、テニポシド、ダクチノマイシン、ダウノル
ビシン、ドキソルビシン、ミトザントロン、アルキル化剤、マイトマイシン、シ
スプラチン、プロカルバジン)、ならびに微小管機能のインヒビター(例えば、
ビンカアルカロイドおよびコルヒチン)が挙げられる。化学療法処置レジメンと
は、放射線療法のような新生物細胞を除去するために設計された非化学的な手順
を主にいう。治療用遺伝子がp53である場合の併用療法の例は、Nielse
nら WO/9835554A2(1998年8月20日公開)に記載されてい
る。
【0082】
免疫学的応答は、ウイルスベクターのインビボでの反復投与に対して重要であ
る。従って、本発明のベクターは、免疫抑制剤と組み合わせて投与され得る。免
疫抑制剤の例としては、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、
シクロホスファミド、リンパ球免疫グロブリン、CD3複合体に対する抗体、副
腎皮質ステロイド、スルファサラジン(sulfasalzaine)、FK−
506、メトキサレンおよびサリドマイドが挙げられる。
【0083】
本発明はまた、エクスビボにおいて、新生物細胞により汚染された正常細胞の
集団への、本発明の組換えアデノウイルスの投与により、この集団における新生
物細胞を除去する方法を提供する。このような方法の適用の1例は、骨髄浄化(
purging)として通常知られた自己の幹細胞産物の浄化のようなエクスビ
ボの適用において、現在使用されている。用語「幹細胞産物」とは、筋切除(m
yoablative)治療を受けた患者の長期の造血機能を再構成し得る造血
細胞、前駆細胞および幹細胞の集団をいう。幹細胞産物は、動員された末梢血ま
たは非動員末梢血のアフェレーシスにより従来得られる。アフェレーシスは、市
販のアフェレーシス装置(例えば、COBE International,1
185 Oak Street、Lakewood,COから市販される、CO
BE Spectra Apheresis System)を用いて、公知の
手順の使用を通じて従来達成される。処置条件は、「3対数の浄化(3−log
purge)」(すなわち、幹細胞産物からの腫瘍細胞の約99.9%の除去
)を達成するように最適化されることが好ましく、そして「5対数浄化」(幹細
胞産物からの腫瘍細胞の約99.999%の除去)を達成するように最適化され
ることが最も好ましい。本発明の好ましい実施において、100ml容積の幹細
胞産物は、本発明のベクターの約2×1011の粒子数対有核細胞の比で、37C
で約4時間、処置される。
【0084】
(診断的な適用)
上記の治療的な適用に加えて、本発明のベクターはまた診断目的にも有用であ
る。例えば、本発明のベクターは、ウイルス感染または複製の際に発現されるレ
ポーター遺伝子を組み込み得る。用語「レポーター遺伝子」は、その産物が、単
独でまたはさらなるエレメントと組み合わせて、検出可能なシグナルを生成し得
る遺伝子をいう。レポーター遺伝子の例としては、βガラクトシダーゼ遺伝子、
ルシフェラーゼ遺伝子、グリーン蛍光タンパク質遺伝子、X線または磁場画像化
システム(MRI)のような画像化システムにより検出可能なタンパク質をコー
ドするヌクレオチド配列が挙げられる。このようなベクターは、機能的経路(例
えば、p53またはTGF−β経路)の存在を検出するために有用である。ある
いは、このようなベクターはまた、蛍光標識された抗体のような結合分子により
認識され得る細胞表面タンパク質を発現するために使用され得る。あるいは、経
路応答性プロモーターが、ウイルス複製のリプレッサー(例えば、E2F−Rb
)を駆動するために用いられる場合、後期ウイルスプロモーター(例えば、E2
F−Rbにより停止されるE2、またはリプレッサー結合部位(例えばE2F結
合部位)を有する任意の他のプロモーター)が、経路応答性プロモーターがオフ
である診断的な適用のためのレポーター遺伝子を駆動するために用いられ得る。
これらの診断構築物は、インビボまたはインビトロにおいて診断目的のために用
いられ得る。インビボ適用の例としては、X線、CTスキャン、または磁気共鳴
画像法(MRI)などの画像化適用が挙げられる。
【0085】
(ベクターの調製方法)
本発明はさらに、上記の組換えウイルスを生成する方法を提供する。この方法
は以下の工程を包含する:
a.組換えウイルスを用いてプロデューサー細胞を感染する工程、
b.この感染したプロデューサー細胞中でウイルスゲノムの複製を可能にする
条件下で、このプロデューサー細胞を培養する工程、
c.このプロデューサー細胞を収集する工程、および
d.この組換えウイルスを精製する工程。
【0086】
用語「感染させる」とは、プロデューサー細胞の組換えアデノウイルスでの感
染を容易にする条件下で、組換えウイルスをプロデューサー細胞に曝露させるこ
とを意味する。所定のウイルスの複数のコピーによって感染された細胞において
、ウイルス複製およびビリオンパッケージングに必要な活性は、協同的である。
従って、プロデューサー細胞がウイルスに多重感染する有意な可能性が存在する
ように、条件を調整することが好ましい。プロデューサー細胞におけるウイルス
の産生を増強する条件の例は、感染期におけるウイルス濃度の増加である。しか
し、プロデューサー細胞あたりのウイルス感染の総数が過度であり、この細胞に
対して毒性効果を生じ得る可能性がある。従って、1mlあたり1×106〜1
×1010ビリオンの範囲、好ましくは、1mlあたり1×109ビリオンのウイ
ルス濃度での感染を維持するように努めるべきである。化学薬剤もまた、プロデ
ューサー細胞株の感染性を増加させるために使用され得る。例えば、本発明は、
カルパインインヒビターを含めることによって、ウイルス感染性についてプロデ
ューサー細胞株の感染性を増加させるための方法を提供する。本発明の実施にお
いて有用なカルパインインヒビターの例としては、カルパインインヒビター1(
N−アセチル−ロイシル−ロイシル−ノルロイシナル(norleucinal
)としてまた公知である(Boehringer Mannheimより市販さ
れる))が挙げられる。カルパインインヒビター1は、プロデューサー細胞の組
換えアデノウイルスに対する感染性を増加させることが観察されている。
【0087】
用語「プロデューサー細胞」とは、産生されるべき組換えアデノウイルスのウ
イルスゲノムの複製を容易にし得る細胞を意味する。種々の哺乳動物細胞株が、
組換えアデノウイルスの培養のために公に利用可能である。例えば、293細胞
株(GrahamおよびSmiley(1977)J.Gen.Virol.3
6:59−72)は、E1機能における欠損を補完するように操作されており、
そしてこの現在のベクターの産生のために好ましい細胞株である。他のプロデュ
ーサー細胞の例としては、HeLa細胞、PERC.6細胞(公報WO/97/
00326、出願番号PCT/NL96/00244において記載される通り)
が挙げられる。
【0088】
用語「ウイルスゲノムの複製を可能にする条件下で培養する」とは、ウイルス
がプロデューサー細胞において増殖することを可能にするように、感染されたプ
ロデューサー細胞についての条件を維持することを意味する。各細胞によって産
生されるウイルス粒子の数を最大化するように、条件を制御することが望ましい
。従って、温度、溶存酸素、pHなどのような反応条件をモニターおよび制御す
ることが必要である。CelliGen Plus Bioreactor(N
ew Brunswick Scientific,Inc.44 Talma
dge Road,Edison,NJから市販される)のような市販のバイオ
リアクターは、このようなパラメーターをモニターおよび維持するための設備を
得有する。感染条件および培養条件の最適化は幾分変化するが、しかし、ウイル
スの効率的な複製および産生のための条件は、プロデューサー細胞株の公知の特
性、ウイルスの特性、バイオリアクターの型などを考慮して当業者によって達成
され得る。293細胞をプロデューサー細胞株として使用する場合、酸素濃度は
、約50%〜約120%の溶存酸素、好ましくは100%の溶存酸素で、好まし
くは維持される。ウイルス粒子の濃度(例えば、Resource Qカラムを
使用してHPLCのような従来の方法によって決定される)が、プラトーに達し
始めた時に、このリアクターを収集する。
【0089】
用語「収集する」とは、培地からの組換えアデノウイルスを含む細胞の採集を
意味する。これは、差示的遠心分離またはクロマトグラフィー手段のような従来
の方法によって達成され得る。この段階で、この収集された細胞を保存し得るか
、または溶解および精製によってさらに処理して、組換えウイルスを単離し得る
。保存のために、この収集された細胞は、生理学的pHで、またはその付近で緩
衝化させて、そして−70Cで凍結させるべきである。
【0090】
用語「溶解」とは、プロデューサー細胞の破壊をいう。溶解は、当該分野で周
知の種々の手段によって達成され得る。プロデューサー細胞からウイルス粒子を
単離することが所望される場合、この細胞を、当該分野で周知の種々の手段を使
用して溶解させる。例えば、哺乳動物細胞を、低圧(100〜200psiの圧
力差)条件下で溶解させ得るか、または従来の凍結融解法で溶解させ得る。外因
性の遊離DNA/RNAは、DNAse/RNAseでの分解によって除去され
る。
【0091】
用語「精製する」とは、組換えウイルス粒子の実質的に純粋な集団の、この溶
解させたプロデューサー細胞からの単離を意味する。クロマトグラフィー方法ま
たは差示的密度勾配遠心分離方法のような従来の精製技術を使用し得る。本発明
の好ましい実施において、ウイルスは、同時係属中の米国特許出願番号08/4
00,793(1995年3月7日出願)に記載のように、Huygheら(1
995)Human Gene Therapy 6:1403−1416のプ
ロセスに実質的に従って、カラムクロマトグラフィーによって精製される。
【0092】
本発明の組換えアデノウイルスの産生を最適化するためのさらなる方法および
手順は、Viral Production Processという表題の同時
係属中の米国特許出願番号09/073,076(1998年5月4日出願)に
おいて記載される。
【実施例】
【0093】
(実施例)
以下の実施例は、特定の組換えアデノウイルスベクターおよびプラスミドベク
ターの構築を実証する実験の、方法および結果を提供する。本発明が、本発明の
精神または本質的特徴から逸脱することなく、これらの実施例に具体的に開示さ
れる形態以外の形態で具体化され得ることは、本発明が属する当業者に明らかで
ある。本発明の特定の実施形態が以下に記載されるため、限定ではなく例示とし
てみなされるべきである。以下の実施例において、「g」はグラムを意味し、「
ml」はミリリットルを意味し、「mol」はモルを意味し、「℃」は摂氏温度
を意味し、「min」は分を意味し、「FBS」は、ウシ胎仔血清を意味し、そ
して「PN」は、組換えウイルスの粒子数をいう。
【0094】
(実施例1.プラスミド構築)
p800luc(800bpのPAIプロモーターの制御下のルシフェラーゼ
をコードするプラスミド)を、Dr.David Luskutoff(Scr
ipps Institute,LaJolla,Calfornia)から得
た。E2F−RB融合タンパク質のコード配列の上流に、CMVプロモーター、
それに続くアデノウイルス−5の3部分(tripartite)リーダー配列
、ならびにSV40エンハンサーを含む、プラスミドpCTMIE−E2F−R
bを、Doug Antelman(Canji)によって提供された。
【0095】
(実施例2.TGF−β応答性プロモーターを有するルシフェラーゼプラスミ
ドの構築)
(A.PAI−ルシフェラーゼプラスミド:)
全てのフラグメントの配列は、5’−3’方向に示す。5’末端および3’末
端で、それぞれSacI部位およびXhoI部位、そしてそのプロモーター内の
ネイティブTATAボックスに代わるSV40 TATAボックスで隣接される
、749bpフラグメントを、テンプレートとしてp800luc、およびプラ
イマーAGT CGA GCT CCA ACC TCA GCC AGAおよ
びGAT CCT CGA GCT CCT CTG TGG GCC ACT
GCC TCC TCA TAA ATA CC(SV40 TATAボック
スを含む)を使用するPCRによって増幅した。この得られたPCR産物を、S
acIおよびXhoIで消化し、PGL3−basic(プロモーターを含まな
いルシフェラーゼ構築物(Promega)の消化後に得られたフラグメントに
連結させて、PAI−ルシフェラーゼを得た。
【0096】
(B.SRE−ルシフェラーゼプラスミド:)
以下のオリゴヌクレオチド、GG TAT TTA TGA GGA GGC
AGT GGC CCA CAG AGG AGC TCG AGG ATC
およびGAT CCT CGA GCT CCT CTG TGG GCC A
CT GCC TCC TCA TAA ATA CCをアニールさせた。この
アニールさせた産物を、XhoIで消化し、そしてMluIで消化したPGL3
−basicに連結し、Klenowで平滑末端化し、そしてXhoIで消化し
て、pSVT−luc(SV40 TATAボックスを有するルシフェラーゼ構
築物)を得た。Smad4/DPC4結合部位を含むオリゴヌクレオチド、CG
T CTA GAC GTC TAG ACG TCT AGA CGT CT
A GAC TGT ACおよびAGT CTA GAC GTC TAG A
CG TCT AGA CGT CTA GAC GGT ACをアニールさせ
て、そしてKpnIで消化したpSVT−ルシフェラーゼに連結して、SRE−
ルシフェラーゼプラスミドを得た。
【0097】
(実施例3 p53応答性プロモーターを有するルシフェラーゼプラスミドの
構築)
(A.RGC−ルシフェラーゼプラスミド:)
リボソーム遺伝子クラスター由来のp53結合部位を含む、2つの相補的5’
−リン酸化オリゴヌクレオチド、AG AAA AGG CAA GGC CA
G GCA AGT CCA GGC AAC TCG TGG TACおよび
CA CGA GTT GCC TGG ACT TGC CTG GCC T
TG CCT TTT CTG TACをアニールさせた。このアニールさせた
フラグメントを、KpnIで消化したpSVT−ルシフェラーゼに連結して、R
GC−ルシフェラーゼプラスミドを得た。
【0098】
(B.p53CON−ルシフェラーゼプラスミド:)
コンセンサスp53結合部位(p53CON)を含む、2つの相補的5’−リ
ン酸化オリゴヌクレオチド、CT CGA CGG ACA TGC CCG
GGC ATG TCC TCG ACG GAC ATGCCC GGG
CAT GTC CTG TACおよびAG GAC ATG CCC GGG
CAT GTC CGT CGA GGA CAT GCC CGG GCA
TGT CCG TCG AGG TACをアニールさせた。このアニールさせ
たフラグメントを、KpnIで消化したpSVT−ルシフェラーゼに連結して、
p53CON−ルシフェラーゼプラスミドを得た。
【0099】
(C.PAI−E2F−Rbプラスミド:)
プラスミドpCTMIE−E2F−Rbにおける、E2F−RB融合タンパク
質のコード配列の上流の、CMVプロモーター、それに続くアデノウイルス−5
の3部分(Tripartite)リーダー配列、ならびにSV40エンハンサ
ーを含む配列を、BglIおよびXbaIで消化することによって切り出し、そ
してこの生じたフラグメントを連結して、プロモーターを含まないE2F−RB
プラスミドを得た。改変型PAIプロモーターを含むフラグメントを、SacI
およびXhoIで消化することによって、プラスミドPAI−ルシフェラーゼか
ら切り出し、そしてKlenowでの処理によって平滑末端化した。このフラグ
メントを、EcoRIで消化した、プロモーターを含まないE2F−RBプラス
ミドに連結し、そしてDNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントで処理
して、PAI−E2F−RBプラスミドを得た。
【0100】
(実施例4:組換えアデノウイルスの生成)
BamHI、AccIおよびクレノウで処理したpNEB193(NEB由来
のプラスミド)にpBHG11由来の7.4kb SnaBIフラグメント(2
6676〜34140)をクローニングすることにより、E3領域に3kbの欠
失を有するAd5配列を含む移入プラスミド(pNEBΔE3)を、構築した。
、マルチクローニング部位を、5−リン酸化オリゴヌクレオチド:
【0101】
【化1】


をアニーリングし、そしてこのアニールしたフラグメントをPacI消化したp
NEBΔE3に連結して導入することにより上記のプラスミドに導入して、pN
EBΔE3(MCS)プラスミドを得た。
【0102】
PAIプロモーターの制御下のE2F−RbおよびCMVプロモーターの制御
下の増強グリーン蛍光タンパク質(GFP)をコードする組換えアデノウイルス
を生成するための移入プラスミドを、以下のとおりに作製した。NacIおよび
XbaIでPAI−E2F−Rbを消化することにより調製した、PAIプロモ
ーターおよびE2F−Rbコード配列を含むフラグメントを、KpnIで消化し
、クレノウで処理し、そしてXbaIで再消化することにより調製したpABS
.4プラスミド(Microbix)フラグメントに連結することにより、中間
ベクターpABS.4−E2F−Rbを調製した。次いで、PAIプロモーター
、E2F−Rbコード配列およびカナマイシン遺伝子を含むフラグメントを、P
acIで消化することによりプラスミドABS.4−E2F−Rbから切り出し
、クレノウで処理し、そしてpNEBΔE3プラスミドをPacIで消化し、ク
レノウで処理することにより得たこのプラスミドフラグメントに連結して、Pa
cI部位を含んでいないプラスミドNEBΔE3−PAI−E2F−Rbを得た
。pNEBΔE3−PAI−E2F−RbをSwaIで消化し、そしてこれをA
fIIIおよびSspIで消化してクレノウで処理することによりpEGFP−
N(Clontech)から単離したフラグメントに連結することにより、この
プラスミドにおけるカナマイシン遺伝子を、グリーン蛍光タンパク質(GFP)
遺伝子に作動可能に連結されたCMVプロモーターと置換して、pΔE3−PA
I−Rb−GFPプラスミドを得た。
【0103】
SREとともにTGF−β応答性プロモーターの制御下のE2F−Rbおよび
CMVプロモーターの制御下の増強グリーン蛍光タンパク質(GFP)をコード
する組換えアデノウイルスを生成するための移入プラスミドを以下のとおりに構
築した。E2F−Rbコード配列を、XbaIおよびNruIでpNEBΔE3
(MCS)を消化することにより単離されたフラグメントと、XbaIおよびN
aeIでpCTMIE−E2F−Rbを消化することにより生成されたフラグメ
ントとを連結することによって、プラスミドpNEBΔE3(MCS)に導入し
て、プラスミドpNEBΔE3−E2F−Rbを得た。SREを含むTGFβ応
答性プロモーターを、テンプレートとしてSRE−ルシフェラーゼ、およびリン
酸化プライマー:
【0104】
【化2】


を用いるPCRによりこの配列を増幅することで上記のプラスミドに導入した。
得られたPCR産物をSpeIで消化し、そしてSnaIおよびXbaI消化し
たpNEBΔE3−E2F−Rbに連結して、pΔE3−DPC−E2F−Rb
を得た。
【0105】
p53応答性プロモーターの制御下のE2F−RbおよびCMVプロモーター
制御下の増強グリーン蛍光タンパク質(GFP)をコードする組換えアデノウイ
ルスを生成するための移入プラスミドを以下のとおりに構築した。リボソーム遺
伝子クラスターまたはp53コンセンサス部位(p53OCN)に由来するp−
53結合部位を含有する、p53応答性プロモーターを、テンプレートとしてR
GC−ルシフェラーゼまたはp53−OCN−ルシフェラーゼをおよびリン酸化
プライマー:
【0106】
【化3】


を使用するPCRによりこのプロモーター配列を増幅することによって、プラス
ミドpNEBΔE3−E2F−Rbに導入した。得られたPCR産物をXbaI
で消化し、そしてSnaIおよびXbaI消化したpNEBΔE3−E2F−R
bに連結して、pΔE3−RGC−E2F−RbおよびpΔE3−PCON−E
2F−Rbを得た。
【0107】
(実施例5:組換えアデノウイルスを生成するための相同組換え)
組換えアデノウイルス(PAI−Ad、SRE−Ad、RGC−AdおよびC
ON−Ad)を、記載のように細菌にて相同組換えを行うことにより生成した(
Chartierら(1996)J.Virol.70:4805−4810)
。移入プラスミドをAscIで消化して、経路応答性プロモーターの制御下のE
2F−RbおよびAd5配列に隣接したCMVプロモーターの制御下のGFPを
含むフラグメントを得た。得られたフラグメントを、PTG4609(Tran
sgene,Inc.から市販され、そしてChartierら(1996)J
.Virol.70:4805−4810に記載される)をBstBIおよびS
peIで消化することにより得られたフラグメントとともに、BJ5183細菌
株へ同時形質転換した。得られた細菌コロニーを所望の組換えAd感染性プラス
ミド(pPAI−GFP−Ad、pSRE−GFP−Ad、pRGC−GFP−
Ad、およびpCON−GFP−Ad)の存在についてスクリーニングした。次
いで、これらの感染性プラスミドをPacIで消化することにより線状化し、そ
してフェノール−クロロホルム抽出およびエタノール沈殿により精製し、そして
293細胞のトランスフェクションのために使用した。
【0108】
トランスフェクションを、Superfect(Qiagen)を用いて、製
造業者の指示に従って行った。2.5μgの線状化プラスミドを、12μlのS
uperfect/ウェルを有する6ウェルプレート中で増殖させた250,0
00細胞のトランスフェクションのために使用した。8日後に、ウイルス生成に
起因する細胞変性効果を観察した。細胞を培養上清とともに採取し、そして3回
の凍結融解サイクルに供した。得られた溶解物中の組換えウイルスを、293細
胞に再感染させることにより増幅した。
【0109】
(実施例6:細胞株)
この研究で使用した全ての細胞株をATCC(Rockville,MD)か
ら得、そしてCO2インキュベーター中で37℃に維持して単層培養物として増
殖させた。293、Hep3B、MRC9、A549、Panc1、U87、C
aco2、MCF−7およびWIDRを、10%ウシ胎仔血清を補充したダルベ
ッコ改変イーグル培地中で維持した。MDA−MB468細胞を、10%ウシ胎
仔血清を補充したHam’sで培養したが、それに対して、MiaPaca−2
細胞を、10%ウシ胎仔血清および2.5% ウマ血清を補充したDMEM中で
増殖させた。
【0110】
(実施例7:トランスフェクション)
細胞を、6ウェルプレート(250,000細胞/ウェル)または24ウェル
プレート(62,500細胞/ウェル)のいずれかにプレートし、そして一晩接
着させた。次いで、293細胞については、記載のようにリン酸カルシウム沈澱
を用いて、および他の細胞についてはSuperfect(Qiagen)を用
いて製造業者の指示に従ってトランスフェクションを行った。
【0111】
(実施例8:レポーター/ルシフェラーゼアッセイ)
細胞を、1.5μgのレポータープラスミドおよび1.0μgのインヒビター
でトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、1×レポータ
ー溶解緩衝液(Promega)に添加して室温で10分間インキュベートする
ことにより溶解物を調製した。ルシフェラーゼ活性を、Top Count(P
ackard)およびPackardから市販されるアッセイキットを用いて、
Packardの指示に従って決定した。
【0112】
(実施例9:ウイルス媒介性細胞変性効果を測定するためのアッセイ)
細胞を、Bischoffら(1996)Science 274:373−
376に記載の手順に実質的に従って、示した組み換えアデノウイルスまたは野
生型アデノウイルスに感染させ、そして感染の6日後に、20%エタノール中に
調製した0.5%クリスタルバイオレットで染色した。
【0113】
(実施例10:cU3EEおよびcT1LTウイルスの構築)
MLPプロモーター配列を、テンプレートとしてプラスミドpFG140(M
icrobix)中に存在するようなAd5 DNAを用いて、プライマー:
【0114】
【化4】


を用いるPCRにより増幅した。次いで、MLP PCR産物を、プラスミドp
ΔE3−PCON−E2F−RbにおけるPacI部位にクローニングして、p
ΔE3−PCON−E2F−Rb−MLPを得た。アデノウイルスE3 10.
5Kタンパク質コード配列を、プライマー:
【0115】
【化5】


を用いるPCRにより増幅し、そして得られたPCR産物を、プラスミドpCD
NA3.1(Invitrogen)におけるXhoI部位にクローニングして
、pCDNA3−10.5プラスミドを得た。次いで、アデノウイルスE3 1
0.5Kタンパク質コード配列を、DraIIIおよびXbaIでの消化により
pCDNA3−10.5から切り出し、次いで、クレノウ処理し、そしてPac
Iおよびクレノウ処理したpΔE3−PCON−E2F−Rb−MLPに連結し
て、pΔE3−PCON−E2F−Rb−MLP−10.5Kプラスミドを得た

【0116】
組換えアデノウイルスcU3EEおよびcT1LTを、記載のように(Cha
rtierら(1996)J.Virol.70:4805−4810)細菌に
おいて相同組換えを行うことにより生成した。移入プラスミドをAscIで消化
して、p53CON配列の制御下のE2F−RbおよびAd5配列に隣接したM
LPプロモーターの制御下のE310.5Kを含む配列を得た。得られたフラグ
メントを、BstIおよびSpeIdでPTG4609(Transgene)
を消化することによって得たフラグメントとともに、BJ5283細菌株に同時
形質転換した。得られた細菌コロニーを所望の組換えAd5感染性プラスミドp
CEMDの存在についてスクリーニングした。Ad5感染性プラスミドp01/
CEMDを以下の類似のプロトコル(PTG4609(Transgene)の
誘導体を使用することを除く)により得た。ここで、野生型E1A配列を、01
変異を有するE1Aを含む配列と置換した。次いで、これらの感染性プラスミド
を、PacIで消化することにより線状化し、フェノール−クロロホルム抽出お
よびエタノール沈澱により精製し、そして293細胞のトランスフェクションの
ために使用した。
【0117】
プラスミドpCEMDおよびp01/CEMDのトランスフェクションを、そ
れぞれ、Superfect(Qiagen)を用いて製造業者の指示に従って
行い、組換えウイルスcU3EEおよびcT1LTを生成した。2.5μgの線
状化プラスミドを、12μlのSuperfect/ウェルを有する6ウェルプ
レート中で増殖させた500,000細胞のトランスフェクションのために用い
た。8日後、ウイルス生成に起因する細胞変性効果を観察した。細胞を培養上清
とともに採取し、そして3回の凍結融解サイクルに供した。得られた溶解物中の
組換えウイルスを293細胞に再感染させることにより増殖させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複製する組換えウイルスベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−254385(P2009−254385A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181782(P2009−181782)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【分割の表示】特願2000−576027(P2000−576027)の分割
【原出願日】平成11年10月14日(1999.10.14)
【出願人】(399025284)カンジ,インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】