説明

遺伝子導入剤の製造方法、及び遺伝子導入剤の製造装置

【課題】光照射リビング重合により、分子量分布の狭い遺伝子導活性に優れた遺伝子導入剤を効率的に製造する。
【解決手段】溶液中での光照射リビング重合を行う工程を含む遺伝子導入剤の製造方法において、接液面が光透過性の樹脂で構成された光照射手段を該溶液に浸漬させて光照射を行う。光照射手段を反応溶液内に浸漬させて反応を行うことにより、分子量分布が狭く、遺伝子導入活性に優れる遺伝子導入剤を得ることができる。好ましくは、この光照射手段により溶液を撹拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中での光照射リビング重合により遺伝子導入剤を製造する方法に係り、詳しくは、この方法により、分子量分布が狭く、遺伝子導入活性に優れた遺伝子導入剤を製造する方法に関する。本発明はまた、この遺伝子導入剤の製造方法に用いる遺伝子導入剤の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ付随ウイルス、レンチウイルス、センダイウイルス又はヘルペスウイルスを含む多くのウイルスが、治療用遺伝子を運搬するように改変されて、遺伝子治療のヒトの臨床試験に使用されている。しかし感染及び免疫反応の危険性は依然として残されている。
【0003】
安全性、品質安定性、製造コストに問題があるウイルスベクターに代わる遺伝子導入技術として、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。本出願人らは、前述の合成高分子ベクターとして、ベンゼンなどの芳香環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターがDNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できる遺伝子導入剤を提案した(特許文献1,2)。
【0004】
本出願人らはまた、前記分岐構造のベクターである分岐型重合体、或いは、この分岐型重合体に光を照射するなどして分岐型重合体同士を架橋させた架橋体のうち、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが1.0〜1.5の画分を液体クロマトグラフィー等により分取して得た遺伝子導入剤が、さらに効率よく細胞へ遺伝子を導入することができることを見出し、先に特許出願した(特許文献3)。
【0005】
なお、特許文献1〜3において、遺伝子導入剤は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターに対してビニル系モノマーを光照射リビング重合することにより製造されている。この光照射リビング重合は、イニファターとビニル系モノマーとを含む溶液を反応容器に入れ、この反応容器の一側面側から光を照射することにより行われている。
【0006】
しかして、このような方法で製造される遺伝子導入剤は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが2.5程度と分子量分布の大きいものであるが、特許文献3では、この分子量分布の大きい重合反応生成物を液体クロマトグラフィー等により分子量分画し、Mw/Mnが1.0〜1.5の分画を分取して遺伝子導入剤としている。
【0007】
ところで、光照射手段として、管状クラッドと、この管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料よりなるコアとを備えた光伝送チューブにおいて、管状クラッドとコアとの間に帯状の反射層を形成することにより、管状クラッドの側周面(外表面部)から指向性を有する光を放出させるようにした光伝送チューブが知られており、特許文献4には、「管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備える光伝送チューブにおいて、該管状クラッドとコアとの間に該管状クラッドの長さ方向に沿って帯状の反射層を形成し、前記コアを通る光を該反射層で反射・散乱させて該反射層形成側と反対側の管状クラッド側周面から放出させるようにした光伝送チューブであって、該帯状の反射層を複数条形成し、前記コアを通る光を管状クラッド側周面から複数の方向に放出させるようにしたことを特徴とする光伝送チューブ。」が提案されている。このような光伝送チューブは、その柔軟性、耐衝撃性、軽量性等を利用して、主として自動車室内照明分野や、建築、家電・情報機器分野、屋外照明分野などに使用されており、従来、これを光反応の光源として用いるという提案はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2004/092388号公報
【特許文献2】特開2007−070579号公報
【特許文献3】特願2008−128565
【特許文献4】特開2000−039517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1,2に記載されるベンゼン環から放射状にポリマー鎖が伸延する遺伝子導入剤は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターのジチオカルバメート基の光開裂性を利用することにより、このイニファターに対してビニル系モノマーを光照射リビング重合したものであって、同じモノマーユニットからなる線形ポリマーと比較して、その構造上、電荷密度を高く配置することが可能である。このため、DNAやRNAなどの核酸との複合体をより強く凝集させることが可能であり、より粒子径の小さい微細なポリプレックス粒子を形成させることができるが、より遺伝子導入効率に優れた遺伝子導入剤の開発が望まれていた。
【0010】
この要望に対し、本発明者らは、特許文献1,2に記載される分岐構造を有するベクターのうち、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mn(以下、この比を「分散比」と称す場合がある。)が小さい遺伝子導入剤が特に優れた遺伝子導入活性を示すことを見出し、光照射リビング重合反応生成物から、この分散比が1.0〜1.5である画分を分子量分画により分取する遺伝子導入剤の製造方法を提案した(特許文献3)。
【0011】
特許文献3に記載される遺伝子導入剤の製造方法によれば、分散比が1.0〜1.5である画分を分取することにより、遺伝子導入活性に特に優れる遺伝子導入剤を得ることができるが、このためには、反応生成物に対して液体クロマトグラフィー等による分子量分画を行う必要がある。
【0012】
即ち、ジチオカルバメート基の光開裂性を利用した重合反応では、以下に説明するように、分散比が小さく、分子量分布が狭い重合体を光照射リビング重合により直接製造することが難しい。
【0013】
有機テルル、ニトロキシド、ジチオエステル(RAFT試薬)をドーマント核として用いるリビングラジカル重合では、休眠期のドーマント核と成長ラジカルとの交換反応が平衡に達しているため、重合反応が反応系全体において均一に進行し、分散比がほぼ1.0であるポリマーを得ることができる。これに対し、ジチオカルバメート基の光開裂性を利用するリビング重合では、ジチオカルバメート基の光ラジカル開裂速度が遅く、ジチオカルバメート基と成長ラジカルとの交換反応がほとんど生じない。従って、この重合反応では、光量子を吸収した分子のみが重合するため、上記の有機テルルなどのリビングラジカル重合反応と比較して分子量分布が若干広くなる。
【0014】
特に、ジチオカルバメート基の光開裂性を利用したイニファターとカチオン性モノマーとの重合反応においては、以下の(1)、(2)の理由により、分子量分布の狭い分岐型重合体を収率よく得ることができない。
(1) カチオン性モノマーは、反応性が低いため高濃度の溶液で反応させる必要がある。しかしながら、このカチオン性モノマーを含む溶液は、カチオン性官能基に由来する水素結合の寄与により粘度が高く、撹拌効率が悪く、重合中に反応溶液を十分に撹拌して均一な反応溶液とすることが難しい。
(2) カチオン性モノマーとして用いられるアミン化合物は、その独特の色から明らかなように、イニファターの光開裂に重要な近紫外光の吸収率がスチレンなどの他の中性モノマーに比べて高い。このため、反応容器内の溶液に対して、均一に光を照射し、均一に重合反応を進行させることが困難である。即ち、反応溶液を入れた反応容器の一側面側から光を照射しても、溶液内の光源に近い部分に存在するアミン化合物が近紫外光を吸収して、この部分で局所的に重合が進行してしまうため、光源から遠い部分に存在するイニファターに光が到達しにくく、反応溶液中で均一に反応が進行しない。この問題は、上記(1)の均一撹拌が困難であることによって、更に助長される。
【0015】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、光照射リビング重合により、分子量分布の狭い遺伝子導活性に優れた遺伝子導入剤を効率的に製造することができる遺伝子導入剤の製造方法、及びこの遺伝子導入剤の製造方法に用いる遺伝子導入剤の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、溶液中での光照射リビング重合において、反応系全体に光を照射して系内全体で均一な反応を進行させる方法について検討を重ねた結果、反応溶液に光照射手段を浸漬し、溶液中で直接光照射を行うことにより、光源からイニファターまでの光路を短くすることができ、これにより、溶液内での光照射リビング重合を均一に進行させることができること、そして、溶液内での光照射リビング重合を均一に進行させることにより、分子量分布の狭い遺伝子導入剤を得ることができること、を見出し、本発明を完成させた。
【0017】
本発明(請求項1)の遺伝子導入剤の製造方法は、溶液中での光照射リビング重合を行う工程を含む遺伝子導入剤の製造方法において、接液面が光透過性の樹脂で構成された光照射手段を該溶液に浸漬させて光照射を行うことを特徴とするものである。
【0018】
請求項2の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1において、前記光照射手段は、樹脂製の光伝送チューブを備え、該チューブは、該チューブの一端から入射した光を該チューブの側周面から放出するものであることを特徴とするものである。
【0019】
請求項3の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1又は2において、前記樹脂が、(メタ)アクリル系ポリマーよりなることを特徴とするものである。
【0020】
請求項4の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記光照射手段により前記溶液を撹拌することを特徴とするものである。
【0021】
請求項5の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項2ないし4のいずれか1項において、前記光照射手段は、前記光伝送チューブを複数本有するものであることを特徴とするものである。
【0022】
請求項6の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターに対して、ビニル系モノマーを光照射リビング重合してなる分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤を製造することを特徴とするものである。
【0023】
請求項7の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項6において、前記N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とするものである。
【0024】
請求項8の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項6又は7において、前記ビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0025】
請求項9の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし8のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の分子量が、1,000〜60,000であることを特徴とするものである。
【0026】
請求項10の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし9のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが、1.3以下であることを特徴とするものである。
【0027】
本発明(請求項11)の遺伝子導入剤の製造装置は、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤の製造方法に用いる遺伝子導入剤の製造装置であって、反応溶液を保持する反応容器と、該反応溶液に浸漬される光伝送チューブを備える光照射手段とを有し、該光伝送チューブは、管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備え、管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備え、該管状クラッドとコアとの間に該管状クラッドの長さ方向に沿って帯状の反射層を形成し、前記コアを通る光を該反射層で反射・散乱させて該反射層形成側と反対側の管状クラッド側周面から放出させるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法では、接液面が光透過性の樹脂よりなる光照射手段を反応溶液に浸漬させて光照射を行うため、反応系内の基質と光源との距離が短く、反応系内に存在する基質に対して均一に光を照射することができる。これにより、溶液内での光照射リビング重合を均一に進行させることができ、結果として分子量分布の狭い遺伝子導入剤を得ることができる。また、本発明で用いる光照射手段の接液面は樹脂で構成されるため、接液面の耐衝撃性が高く、取り扱いが容易であると共に、製造コストを抑えることもできる。
【0029】
前記光照射手段は、樹脂製の光伝送チューブを備え、該チューブは、該チューブの一端から入射した光を該チューブの側周面から放出するものであることが好ましい(請求項2)。
【0030】
光照射手段の接液面を構成する光透過性の樹脂としては、(メタ)アクリル系ポリマーが好ましい(請求項3)。(メタ)アクリル系ポリマーを用いた場合、以下の理由により反応効率が向上し、分子量が大きい遺伝子導入剤を得ることができる。
【0031】
即ち、光照射リビング重合において常用される照射強度の照射光には、重合反応(正反応)を生じさせる波長370nm付近の光と、分解反応(逆反応)を生じさせる波長330〜350nm程度の光が含まれているが、(メタ)アクリル系ポリマーは、このうち、波長350nm以下の光を吸収する性質を有する。このため、光照射手段の接液面を構成する樹脂として(メタ)アクリル系ポリマーを用いた場合は、この光を(メタ)アクリル系ポリマーが吸収して、その透過を抑え、これにより、350nm以下の波長の光に起因する逆反応を生じ難くすることができ、この結果、正反応を優先させて分子量の大きい遺伝子導入剤を得ることができる。
【0032】
本発明においては、前記光照射手段により前記溶液を撹拌することが好ましい(請求項4)。前記光照射手段で反応溶液を撹拌することにより、溶液内に存在する基質に対してより一層均一に光を照射することができる。
【0033】
前記光照射手段は、前記光伝送チューブを複数本有するものであることが、反応系内へ均一な光照射を行う上で好ましい(請求項5)。
【0034】
本発明において製造する遺伝子導入剤としては、少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターに対して、ビニル系モノマーを光照射リビング重合してなる分岐型重合体よりなることが好ましい(請求項6)。
【0035】
前記N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基が結合しているものが好ましく(請求項7)、前記ビニル系モノマーとしては、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい(請求項8)。
【0036】
前記遺伝子導入剤の分子量は、1,000〜60,000であることが好ましい(請求項9)。
【0037】
前記遺伝子導入剤の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが1.3以下であることが好ましい(請求項10)。
【0038】
本発明の遺伝子導入剤の製造装置(請求項11)は、上記の遺伝子導入剤の製造方法に用いるものであって、反応溶液を保持する反応容器と、該反応溶液に浸漬される光伝送チューブを備える光照射手段とを有し、該光伝送チューブは、管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備え、管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備え、該管状クラッドとコアとの間に該管状クラッドの長さ方向に沿って帯状の反射層を形成し、前記コアを通る光を該反射層で反射・散乱させて該反射層形成側と反対側の管状クラッド側周面から放出させるように構成されているものであり、反応溶液内の基質に対して効率的に光を照射することができ、分子量分布の狭い遺伝子導入剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施の形態に係る製造装置の斜視図である。
【図2】実施の形態に係る光伝送チューブの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0041】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法は、溶液中での光照射リビング重合を行う工程を含む遺伝子導入剤の製造方法において、接液面が光透過性の樹脂で構成された光照射手段を該溶液に浸漬させて光照射を行うことを特徴とする。
【0042】
本発明の遺伝子導入剤の製造装置は、このような本発明の遺伝子導入剤の製造方法に有用な装置であって、反応溶液を保持する反応容器と、該反応溶液に浸漬される光伝送チューブを備える光照射手段とを有し、該光伝送チューブは、管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備え、管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備え、該管状クラッドとコアとの間に該管状クラッドの長さ方向に沿って帯状の反射層を形成し、前記コアを通る光を該反射層で反射・散乱させて該反射層形成側と反対側の管状クラッド側周面から放出させるように構成されていることを特徴とする。
【0043】
<光照射手段>
先ず、本発明に好適に用いられる光照射手段について、図面を参照して説明する。
【0044】
第1図は、実施の形態に係る製造装置の斜視図である。図1の通り、この製造装置は、光照射手段1と反応容器5とで主として構成されている。光照射手段1は、光伝送チューブ3とこれを保持する円盤状のプレート2とを有している。本実施の形態では、プレート2の盤面の中心に孔4が設けられており、さらに、この孔4を中心とした正六角形の各頂点上にもそれぞれ同様の孔4が設けられている。これらの孔4には、それぞれ光透過性を有する樹脂により構成された光伝送チューブ3が挿通されている。なお、図示のプレート2には、1個の孔に対して1本の光伝送チューブが挿通されているが、1個の孔に対して複数の光伝送チューブが挿通されていてもよい。また、孔は7個に限らず、6個以下あるいは8個以上でも良いが、反応容器5内の溶液中になるべく均等に光照射を行うことができるような配置とされていることが好ましい。この実施の形態では、孔4に挿通されたチューブ3の先端を、反応容器5内の反応溶液に浸漬させて光照射を行う。
【0045】
反応溶液内において光を照射する光伝送チューブ3としては、チューブの一端から入射した光を、チューブの側周面から放出する性質を備える光伝送性のチューブが好ましい。より具体的には、前述の特許文献4に記載される光伝送チューブを挙げることができる。
【0046】
以下、図面を参照して光伝送チューブ3の好ましい形態について詳細に説明する。
図2は光伝送チューブの実施の形態を示す斜視図である。
【0047】
図2に示す光伝送チューブ11は、コア12とこれを覆う管状クラッド13との間に、チューブの長手方向に延在する帯状の反射層14A,14Bを2条に形成したものである。なお、反射層14A,14Bはコア12の表面から若干コア12の内部に侵入した状態で形成されていても良い。
【0048】
コア12を構成する材料(コア材)には、管状クラッド13を構成する材料(クラッド材)よりも屈折率が高い透明材料が用いられ、一般的には、プラスチック、エラストマー等の中から目的に応じて適宜選択使用される。
【0049】
コア材の具体例としては、ポリスチレン、スチレン・メチルメタクリレート共重合体、(メタ)アクリル樹脂、ポリメチルペンテン、アリルグリコールカーボネート樹脂、スピラン樹脂、アモルファスポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアリレート、ポリサルホン、ポリアリルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ジアリルフタレート、フッ素樹脂、ポリエステルカーボネート、ノルボルネン系樹脂(ARTON)、脂環式アクリル樹脂(オプトレッツ)、シリコン樹脂、アクリルゴム、シリコンゴム等の透明材料が挙げられる(なお、「(メタ)アクリル」とは「アクリル及びメタクリル」を示す。)。
【0050】
一方、クラッド材としては、屈折率の低い透明材料の中から選定することができ、プラスチックやエラストマー等の有機材料が挙げられる。
【0051】
クラッド材の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、フッ化ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリエチレン−ポリビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂、シリコン樹脂、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、フッ素ゴム、シリコンゴム等が挙げられる。
【0052】
上記のコア材、クラッド材のうち、透明性や屈折率等の光学特性及び同時押し出し加工性の面から、コア材としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、スチレン−(メタ)アクリル共重合体(MSポリマー)等が好ましく、また、クラッド材としては(メタ)アクリル系ポリマー等が好ましい。
【0053】
本発明においては、例えばクラッド材を(メタ)アクリル系ポリマーで構成することにより、(メタ)アクリル系ポリマーが350nm以下の波長の光を吸収し、350nm以下の波長の光に起因する逆反応が生じ難くなり、正反応が優先して生じるため、結果として、分子量の大きい遺伝子導入剤を効率的に製造することができる。
【0054】
反射層は白色顔料や散乱材を含む(メタ)アクリル系ポリマーで形成することが好ましい。ここで白色顔料や散乱材としては、シリコーン樹脂粒子やポリスチレン樹脂粒子等の有機ポリマー粒子、Al、TiO、SiO等の金属酸化物粒子、BaSO等の硫酸塩粒子、CaCO等の炭酸塩粒子等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0055】
反射効率や同時押し出し加工性等を考慮した場合、これら白色顔料や散乱材の粒子の平均粒径は0.1〜200μm程度特に0.5〜50μm程度であることが好ましく、また、反射層構成材料(反射材)中の含有量は0.5〜20重量%程度特に1〜10重量%程度であることが好ましい。
【0056】
反射層14A,14Bの厚さは特に制限されないが、10〜200μm特に50〜100μmとすることが好適である。この厚さが薄すぎると反射される光が少なくなるため輝度が低くなり、厚すぎると反射される光が多くなり輝度が高くなるが、これは光源から近距離の場合で、更に光源から離れた所では逆に輝度が低くなる不利を伴う場合がある。
【0057】
なお、コア12の直径は特に制限されないが、通常2〜30mm特に5〜15mm程度とされる。また、管状クラッド13の肉厚は通常0.05〜4mm特に0.2〜2mm程度とされる。
【0058】
帯状の反射層の形成条数や形成位置、反射層の帯幅や反射層間の間隔等には特に制限はなく、反射層で反射された光が指向性を有する複数の光条として放出されるように形成すれば良い。
【0059】
各反射層の幅(周方向長さ)は、例えばコアの周長の3〜30%、好ましくは5〜20%程度とされるが、この範囲外であっても良い。
【0060】
このような光伝送チューブの一端に、ブラックライト、LED、ショートアークキセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、捕虫用蛍光灯、タングステンランプなどの発光装置(図示せず)を設けることにより、光伝送チューブの側面から光が放出される。
【0061】
このような光伝送チューブは、溶液内に光伝送チューブを浸漬させるのに十分な長さを有していることが好ましい。光伝送チューブの全長のうち反応溶液に浸漬させる部分の長さとしては、反応溶液の液深の70〜99%程度が好ましい。反応溶液に浸漬させる部分が短いと、光伝送チューブを反応溶液に浸漬させて光を照射することによる効果を得にくくなると共に、光照射手段による溶液の撹拌効果も得にくくなる。
【0062】
本発明において用いる光照射手段を構成するプレート2としては、円形、楕円形、正方形、長方形、正六角形等の平面視形状を有するものを挙げることができ、反応容器5の開口部の形状と相似形とすることもできる。このプレート2としては、光伝送チューブを保持するのに十分な大きさがあればよい。
【0063】
また、反応容器5としては、光照射リビング重合反応において一般的に用いられているものであれば特に制限はない。反応容器5の開口部の大きさとしては、前記光伝送チューブを保持するプレートより大きいことが、光照射手段を用いて撹拌を行う面から好ましい。
【0064】
<遺伝子導入剤の製造方法>
本発明の遺伝子導入剤の製造方法では、前記光照射手段を溶液内に浸漬させて光を照射して光照射リビング重合を行う。この光照射リビング重合としては、少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターに対して、ビニル系モノマーを光照射リビング重合してなる分岐型重合体よりなることが好ましい。
【0065】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0066】
イニファターとなるN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する芳香族化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基、好ましくはN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、アルキル基に限らず、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。即ち、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に限らず、N,N−ジアリールジチオカルバミルメチル基等を含む、脂肪族炭化水素基及び/又は芳香族炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であれば目的を達成することができる。
【0067】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエンが好適である。前記クラッド材を構成する材質によっては、非極性溶媒に侵されるものも存在するが、この場合、非極性溶媒とアルコール等の極性溶媒とを併用することでクラッド材を保護することが可能である。この非極性溶媒に対する極性溶媒の混合量は、使用するイニファターの官能基数、クラッド材の材質、非極性溶媒の種類によって異なるが、非極性溶媒の10倍程度(体積)が好ましい。例えば、4官能性のイニファター、ポリメチルメタクリレート、クロロホルム溶媒を使用する場合であれば、イニファターを適量のクロロホルムへ溶解した後、この溶液に対してクロロホルムの10倍程度のメタノールを加えることにより、クロロホルムの溶解力を低下させることができ、クラッド材の表面の保護が可能である。
【0068】
イニファターと前記ビニル系モノマーとを反応させるには、イニファター、及びビニル系モノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対し、ビニル系モノマーが結合した反応生成物を生成させる。
【0069】
該原料溶液中のビニル系モノマーの濃度は0.5M以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適であり、イニファターの濃度は1〜20mM程度が好適である。
【0070】
前記光照射手段により照射する光の波長は330〜400nm、特に360〜390nmが好適であり、光の照射強度としては、0.1〜10mW/cm、特に0.5〜5mW/cm程度が好ましい。照射時間としては、0.1〜10時間、特に0.5〜2時間程度が好ましい。
【0071】
効率的に反応を行うためには、前記光照射手段により光を照射すると共に、この光照射手段により反応溶液を撹拌することが好ましい。撹拌方法としては、この光照射手段を振動させる、回転させる、上下動させる方法を挙げることができる。また、光照射手段による撹拌の他に、撹拌子、撹拌羽根、ガスバブリング、超音波による撹拌を併用することもできる。
【0072】
この光照射により、反応液中に目的とする分岐鎖を有する分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤が生成するので、必要に応じ精製することにより、分岐鎖部分にビニル系モノマー単位よりなるポリマー鎖が導入され、分岐鎖の末端がN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であるホモポリマーを得る。
【0073】
この分岐型重合体の分岐鎖の1本当たりの分子量としては、1,000〜40,000程度、特に1,500〜15,000程度が好ましい。この分子量は、光照射の時間を制御することにより調整することができる。即ち、反応時間を長くすることにより、重合反応を進行させて分子量の大きい分岐型重合体を得ることができる。
【0074】
なお、本明細書において、分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の数平均分子量をさす。
【0075】
本発明に係る分岐型重合体の分岐鎖は、ビニル系モノマーをモノマーとする1種のモノマーのみからなるホモポリマーであることが好ましいが、2種以上のビニル系モノマーを導入したブロックコポリマー又はランダムコポリマーであってもよい。
【0076】
前記ビニル系モノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、4−N,N-ジメチルアミノスチレン、及び4−アミノスチレンの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のビニル系モノマーが挙げられ、特に、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のカチオン性ビニル系モノマーが好ましい。これらのビニル系モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
イニファターと2種以上のビニル系モノマーとを反応させるには、前述のイニファターと1種のビニル系モノマーとを反応させる場合と同様に、イニファターと、2種以上のビニル系モノマーとを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対し、2種以上のビニル系モノマーが結合したランダムコポリマーを得る。
【0078】
また、このように製造した遺伝子導入剤の分子量としては、1,000〜60,000程度、特に10,000〜50,000程度が好ましい。分子量がこの範囲内であると、遺伝子導入剤と核酸とが複合しやすい。
【0079】
本発明によれば、前記光照射手段を用い、重合系全体に対して均一に光を照射することにより、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが1.3以下、特に1.1〜1.2というような分散比の小さい遺伝子導入剤を得ることができる。このように分散比の小さい遺伝子導入剤は、優れた遺伝子導入活性を示す。
【0080】
なお、このような遺伝子導入剤を製造する装置としては、図1に示すような製造装置、即ち、管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備え、管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備え、該管状クラッドとコアとの間に該管状クラッドの長さ方向に沿って帯状の反射層を形成し、前記コアを通る光を該反射層で反射・散乱させて該反射層形成側と反対側の管状クラッド側周面から放出させるように構成されている光伝送チューブを備える光照射手段と、反応溶液を保持する反応容器とを有する製造装置で製造することが好ましい。この装置を用いて製造することにより、分子量分布の狭い遺伝子導入剤を効率的に得ることができる。
【0081】
<核酸複合体>
このようにして製造した遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0082】
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、遺伝子導入剤の濃度0.1〜1000μg/mL程度の溶液に対し、核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して遺伝子導入剤を過剰量添加し、核酸に対して遺伝子導入剤を飽和状態にして遺伝子導入剤と核酸とを複合化することが好ましい。
【0083】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0084】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0085】
核酸複合体の粒径は50〜400nm程度、特に100〜350nm、とりわけ150〜300nmが好適である。この粒径は、例えばレーザを用いた動的光散乱法によって測定される。粒径がこれよりも小さいと、核酸複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0086】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0087】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0088】
核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0089】
このような核酸複合体は培養試験に用いるほか、任意の方法で生体に投与することができる。
【0090】
生体への投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0091】
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0092】
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0093】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0094】
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【実施例】
【0095】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
(1) 光照射手段の作製
特開2000−39517号公報に記載された光伝送チューブの製造方法に準拠して、管状クラッドがアクリル樹脂よりなり、チューブ側面から光を放出する性質を備える図2に示すような光伝送チューブ(直径2mm、長さ100mm)を作成した。次いで、直径30mm、厚み10mmのプレートを用意し、図1のように、正六角形(1辺10mm)の各頂点とプレートの中心に、それぞれ2mmの孔を設け、各孔に光伝送チューブを挿通し固定した。光伝送チューブの一端からブラックライト(NEC製:FCL30BL)の光を入射すると、チューブの側周面が発光した。ブラックライト自体の照射強度はウシオ電機社製UIT−150に受光器としてUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して測定したところ1.5〜2.0mW/cmであった。
【0097】
(2) イニファターの合成
イニファターとしての1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0098】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下、室温で4日間撹拌した。沈殿物を濾過し、3Lのメタノール中に投入して30分間撹拌した後、濾過した。この操作を繰り返し合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫内で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0099】
H−NMR(in CDCl)の測定結果は、δ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)であった。
【0100】
【化1】

【0101】
(3) 4分岐型重合体よりなるホモポリマーの光重合による合成(実施例1、比較例1,2)
下記(3a)〜(3c)に記載の通り、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをモノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼンよりなるホモポリマーの合成を行った。なお、実施例1では、(1)において作製した光照射手段を用いて光照射リビング重合を行い、比較例1,2では、(1)において作製した光照射手段を用いずに光照射リビング重合を行った。
【0102】
(3a) 実施例1
上記(2)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを300μLのクロロホルムへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド9.0gを加えて混合し、全量をメタノールで30mLに調整した。ガラスセル(直径45mm)中で激しく撹拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージして溶存酸素を除去し、(1)において作製した光照射手段を溶液に浸漬した。チューブの浸漬深さは、液深の約90%とした。この光照射手段のチューブの一端からに対しては、ブラックライトの光を入射させ、チューブの側面から光を放出させて180分間重合反応を行った。照射強度はウシオ電機社製のUIT−150に受光器としてUVD−C405(検出波長範囲320〜470nm)を装着して測定したところ約1.5mW/cmであった。この光照射による重合反応時には、反応溶液内の基質の濃度が均一になるように、この光照射手段を反応容器内の全範囲を可動域として振動させると共に、マグネットスターラーによる撹拌も行った。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、ジエチルエーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過した後、凍結乾燥させて目的とする4分岐型スター型重合体よりなるホモポリマーを得た(重合率22%)。このホモポリマーのポリエチレングリコールを標準物質としたGPCによる数平均分子量は、36,000であり、分散比Mw/Mnは1.1であった。また、計算により分岐鎖1本当たりの分子量は、8,819であることが分かった。
【0103】
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)であった。
【0104】
【化2】

【0105】
(3b) 比較例1
上記(2)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを300μLのクロロホルムへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド9.0gを加えて混合し、全量をメタノールで30mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル(直径50mmの円筒形)中で激しく撹拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージした後密栓した。丸管形蛍光灯(O字形)ブラックライト(NEC社製FCL30BL)の中央部へガラスセルとマグネットスターラーを配置し、ガラスセルの全側周方向から近紫外光を60分間照射した。照射強度はウシオ電機社製のUIT−150に受光器としてUVD−C405(検出波長範囲320〜470nm)を装着して測定したところ約2mW/cmであった。得られた重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、ジエチルエーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過した後、凍結乾燥させて目的とする4分岐型スター型重合体よりなるホモポリマーを得た(重合率26%)。このホモポリマーのポリエチレングリコールを標準物質としたGPCによる数平均分子量は、38,000であり、分散比Mw/Mnは、1.5であった。また、計算により分岐鎖1本当たりの分子量は、9,319であることが分かった。
【0106】
(3c) 比較例2
上記(2)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを300μLのクロロホルムへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド9.0gを加えて混合し、全量をメタノールで30mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル(底面が50mm角の直方体形)中で激しく撹拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージした後密栓した。直管形蛍光灯ブラックライトを使用して直方体形ガラスセルの一側面方向から近紫外光を80分間照射した。照射強度はウシオ電機社製のUIT−150に受光器としてUVD−C405(検出波長範囲320〜470nm)を装着して約2mW/cmとした。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、ジエチルエーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過した後、凍結乾燥させて、目的とする4分岐型スター型重合体よりなるホモポリマーを得た(重合率29%)。このホモポリマーのポリエチレングリコールを標準物質としたGPCによる数平均分子量は、22,000であり、分散比Mw/Mnは、1.8であった。また、計算により分岐鎖1本当たりの分子量は、5,319であることが分かった。
【0107】
[考察]
(1)で作製した光照射手段を反応溶液に浸漬させて反応を行った実施例1の遺伝子導入剤は、分散比が1.1と小さい値を示したのに対し、光照射手段を反応溶液に浸漬させず、反応溶液の側周面及び一側面から光を照射した比較例1,2の遺伝子導入剤は、分散比がそれぞれ1.5、1.8と大きい値を示した。実施例1の遺伝子導入剤の分散比が1.1と小さい値を示したのは、反応溶液内に7本のチューブを浸漬させたことにより、反応溶液内に存在する各イニファターに対して均一に光量子が供給されたためであると考えられる。この結果より、光照射手段を反応溶液内に浸漬させて反応を行う本発明の遺伝子導入剤の製造方法によれば、分子量分布が狭く、遺伝子導入活性に優れる遺伝子導入剤を得ることができることがわかる。
【0108】
なお、分散比の小さい遺伝子導入剤が遺伝子導入活性に優れる理由の詳細は明らかになっていないが、分散比が小さく、ほぼ同程度の大きさの重合体であれば、核酸との反応性が等しく、より高密度に核酸を凝集することができるためであると考えられる。
【符号の説明】
【0109】
1 光照射手段
2 プレート
3 光伝送チューブ
4 孔
5 反応容器
11 光伝送チューブ
12 コア
13 管状クラッド
14A,14B 反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中での光照射リビング重合を行う工程を含む遺伝子導入剤の製造方法において、
接液面が光透過性の樹脂で構成された光照射手段を該溶液に浸漬させて光照射を行うことを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記光照射手段は、樹脂製の光伝送チューブを備え、該チューブは、該チューブの一端から入射した光を該チューブの側周面から放出するものであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記樹脂が、(メタ)アクリル系ポリマーよりなることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記光照射手段により前記溶液を撹拌することを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、前記光照射手段は、前記光伝送チューブを複数本有するものであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターに対して、ビニル系モノマーを光照射リビング重合してなる分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤を製造することを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、前記N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7において、前記ビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の分子量が、1,000〜60,000であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが、1.3以下であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の遺伝子導入剤の製造方法に用いる遺伝子導入剤の製造装置であって、
反応溶液を保持する反応容器と、該反応溶液に浸漬される光伝送チューブを備える光照射手段とを有し、
該光伝送チューブは、管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備え、管状クラッドと、該管状クラッドの構成材料よりも高屈折率の材料で構成されるコアとを備え、該管状クラッドとコアとの間に該管状クラッドの長さ方向に沿って帯状の反射層を形成し、前記コアを通る光を該反射層で反射・散乱させて該反射層形成側と反対側の管状クラッド側周面から放出させるように構成されていることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−84514(P2011−84514A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238450(P2009−238450)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【Fターム(参考)】