説明

遺伝子導入剤

【課題】肝細胞への遺伝子導入が可能な遺伝子導入剤を提供する。
【解決手段】芳香環に複数の高分子鎖が置換基として導入され、かつ該高分子鎖にポリL−リジンが導入された高分子化合物よりなる遺伝子導入剤。前記芳香環が炭素数5〜8の芳香環の、単環又は縮合環よりなる。前記高分子鎖は、ポリアクリルアミド系高分子ブロック鎖又はポリアクリレート系高分子ブロック鎖にポリアミノスチレンを導入し、さらにポリL−リジンをそのアミノ基に末端のカルボキシル基を結合させるようにしてポリL−リジンを導入している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入剤に係り、特に、肝細胞への遺伝子導入が可能な遺伝子導入剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。特に悪性腫瘍や難治性のウイルス疾患などではこの傾向が強い。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。
【0003】
従来、細胞へ遺伝子を導入する技術としては次のようなものが知られているが、いずれも以下に述べるような欠点がある。
【0004】
(1)ウイルスベクター法
(2)リポフェクチン法、ポリカチオン法等
【0005】
(1)ウイルスベクター法
ウイルス全般については、合成工程が複雑で感染の危険性がある;ウイルス内には挿入できないような大きな核酸が導入できない(例えばアデノウイルスでは、導入サイズは9000b以下である。);といった欠点がある。
【0006】
また、レセプターを介して細胞へ侵入するタイプのウイルスの場合、レセプターが発現されていない細胞へは導入できない;遺伝子治療を目指して研究をする場合に、マウスなど小動物での実験が必須であるが、ヒト細胞に存在するレセプターがマウスに存在しなければ実験が成立しない;細胞の種類によってレセプター発現量が異なり、これが導入効率に影響してしまう;アデノウイルスの設計には主としてCAR(コサッキーアデノウイルスレセプター)を利用するが、疾病によってCARの発現量が少ない患者も多く、遺伝子治療への応用に制約を受けることもある;といった欠点がある。
【0007】
(2) 細胞のエンドサイトーシスを利用するリポフェクチン法、Nakedプラスミド法、ポリカチオン法は、一般的に遺伝子導入効率が低いことと、遺伝子治療用の医薬として生体内へ投与(全身投与)する場合、標的細胞への特異的な導入を行う方法は未だに確立されていない。従って、循環血液量の多い肺胞や脾臓などで、かつ、細網管上皮細胞の多い臓器へ優先的に投与遺伝子が消費されてしまう。
【0008】
なお、特開平11−290073には、遺伝子導入能を有する両親媒性のαヘリックスペプチドがガラクトース基で修飾された糖修飾ペプチド誘導体による肝細胞への遺伝子導入が記載されている。
【0009】
また、WO2004/092388には、スター型分岐ポリマーよりなるベクターが記載されているが、肝細胞に効率よく遺伝子導入することについては記載されていない。
【特許文献1】特開平11−290073
【特許文献2】WO2004/092388
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、生体内投与の際に肝細胞へ優先的、特異的に効率よく遺伝子導入することが可能で、C型肝炎、B型肝炎や肝臓ガンなどの難治性肝臓疾患の遺伝子治療に利用可能な遺伝子導入剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の遺伝子導入剤は、芳香環に複数の高分子鎖が置換基として導入され、かつ該高分子鎖にポリL−リジンが導入された高分子化合物よりなるものである。
【0012】
請求項2の遺伝子導入剤は、請求項1において、前記芳香環が炭素数5〜8の芳香環の、単環又は縮合環よりなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の遺伝子導入剤は、請求項2において、前記芳香環が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環又はピレン環であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の遺伝子導入剤は、請求項3において、前記芳香環がベンゼン環であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5の遺伝子導入剤は、請求項4において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して2〜6個導入されていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項6の遺伝子導入剤は、請求項5において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して4個又は6個導入されていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項7の遺伝子導入剤は、請求項6において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して6個導入されていることを特徴とするものである。
【0018】
請求項8の遺伝子導入剤は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記高分子鎖は、ポリアクリルアミド系高分子ブロック鎖又はポリアクリレート系高分子ブロック鎖であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項9の遺伝子導入剤は、請求項1ないし8のいずれか1項において、前記高分子鎖にアミノ基が導入され、このアミノ基がポリL−リジンの末端のカルボキシル基と脱水縮合していることを特徴とするものである。
【0020】
請求項10の遺伝子導入剤は、請求項9において、前記高分子鎖の一部がポリアミノスチレンで構成されており、前記アミノ基は該ポリアミノスチレンのアミノ基であることを特徴とするものである。
【0021】
請求項11の遺伝子導入剤は、請求項1ないし10のいずれか1項において、前記高分子化合物の分子量が5千〜50万であることを特徴とするものである。
【0022】
請求項12の遺伝子導入剤は、請求項9において、前記高分子化合物の分子量が5千〜10万であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の遺伝子導入剤で用いられる高分子化合物は、芳香環に複数の高分子鎖を導入してなるスター型分岐ポリマーであり、この高分子鎖にはポリL−リジンが導入されている。リジンが7個以上重合したポリL−リジンは肝細胞のレセプタであるヘパラン硫酸に対する指向性を有しており、肝細胞に容易に侵入し得る。
【0024】
本発明の遺伝子導入剤を構成する高分子化合物(スター型分岐ポリマー)と遺伝子を混合してナノ粒子状のポリプレックスを形成したものが生体に投与される。
【0025】
核酸は一般に生体内においてあまり安定ではなく、ある種の酵素によって分解される。本発明の遺伝子導入剤を用いた核酸含有複合体では、核酸をスター型分岐ポリマーとの凝集体とすることにより、少なくとも凝集体内部の核酸を生体内で正常に機能させることができる。即ち、本発明で使用するスター型分岐ポリマーは、その独自の分子構造によるイオン強度・電荷密度がポリプレックスの形成に至適と考えられ、水溶液中で安定して分散するポリプレックスが得られる。ポリプレックスへ包埋された遺伝子は、酵素の作用に対しても安定である。
【0026】
また、本発明の遺伝子導入剤は、たんぱく質を吸着しても遺伝子導入活性を失わない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に本発明の遺伝子導入剤の実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
[高分子化合物]
まず、本発明の遺伝子導入剤において用いられる高分子化合物について説明する。
【0029】
この高分子化合物は、芳香環に複数の高分子鎖が置換基として導入され、かつこの高分子鎖にポリL−リジンが導入された化合物である。
【0030】
ここで、この高分子鎖の核となる芳香環としては、炭素数5〜8の芳香環、特に炭素数6の芳香環(即ちベンゼン環)の、単環又は2〜6個の縮合環、例えば、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環、ピレン環が挙げられ、好ましくはベンゼン環である。
【0031】
核となる芳香環に導入される高分子鎖の数は、ベンゼン環であれば2〜6個、ナフタレン環の場合2〜8個、アントラセン環、ピレン環の場合2〜10個であるが、多い程効果的であり、例えばベンゼン環であれば2、3、4又は6個、特に4又は6個、とりわけ6個であることが好ましい。
【0032】
高分子鎖を導入するための原料となる芳香環化合物としては、例えば芳香環がベンゼン環の場合、次のようなベンゼン誘導体が挙げられる。
【0033】
即ち、3分岐鎖用としては、2,4,6−トリス(ブロモメチル)メシチレンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られる2,4,6−トリス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)メシチレンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
【0034】
芳香環に導入された高分子鎖のうちの少なくとも一つ、好ましくはそのすべてがその先端側に活性高分子ブロック鎖を有するものである。この高分子鎖は、ビニル系単量体の単独又は異なるビニル系単量体の共重合体よりなるビニル系高分子ブロック鎖、特に3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH等の重合体よりなるポリアクリルアミド系高分子ブロック鎖であることが好ましい。
【0035】
また、1本の高分子鎖を構成する単量体の数は、その単量体の種類や反応性等によっても異なるが、ポリアクリルアミド系高分子ブロック鎖を構成する単量体数は5〜1000程度であることが好ましい。
【0036】
芳香環にこのような高分子鎖を導入してなる高分子化合物、例えば、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの重合体よりなる高分子ブロック鎖を導入した高分子化合物を合成するには、まず、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドと前述のベンゼン誘導体とをメタノールなどのアルコール溶液あるいは溶解性を考慮してクロロホルムなどの低極性溶媒の溶液として混合し、光重合反応させることにより、ベンゼン環に対し上記ベンゼン誘導体由来の−CH−等を介して3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの重合体が結合した高分子化合物を製造する。
【0037】
次いで、この高分子ブロック鎖にアミノ基を導入する。このアミノ基を導入するには、アミノ基を有するポリマー鎖を上記高分子ブロック鎖に結合させるのが好ましい。アミノ基を有するポリマー鎖としては、ポリアミノスチレン、メタクリル酸2−アミノエチル、などが使用可能であるが、とりわけポリアミノスチレンが好適である。ポリアミノスチレンを導入するには、上記3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの重合体が結合した高分子化合物を溶媒に溶解させ、アミノスチレンを添加し、光照射重合させるのが好ましい。高分子鎖1本当りに導入するポリアミノスチレンの重合度は2分子ブロック〜20分子ブロック程度が好適である。
【0038】
このようにアミノ基を導入した高分子化合物に対しポリL−リジンを導入する。詳しくは、ポリL−リジンの末端のカルボキシル基と、上記アミノ基とを脱水縮合させる。このポリL−リジンの重合度は3以上、好ましくは5〜50程度が好ましい。ポリL−リジンを上記アミノ基を有する高分子化合物に導入するには、この高分子化合物をリン酸バッファー中に溶解させ、N−[e−マレイミドカプロイルオキシ]スクシンアミドエステルを触媒として添加し、ポリL−リジンを混合し、室温程度で反応させればよい。
【0039】
このようにして合成された高分子化合物よりなる遺伝子導入剤の分子量は5千〜50万、特に1万〜20万、とりわけ1万〜10万程度であることが好ましい。この分子量が過度に大きいと、高分子化合物及び核酸で複合体を形成させた際の複合体のサイズが大きくなったり、溶解性が低くなったり、生体内へ使用する場合に、排泄に不利になることが考えられる。逆に過度に小さいと低分子量有機化合物としての性質が強く発生して細胞毒性、高浸透圧、など生物学的な弊害が出てしまう。
【0040】
[核酸]
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0041】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0042】
この核酸としては、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)のようなポリヌクレオチド特にDNAが好適であるが、リボ核タンパク質であってもよい。
【0043】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子)、p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子、IL−2遺伝子、IL−4遺伝子、HLA−B7/IL−2遺伝子、HLA−B7/B2M遺伝子、IL−7遺伝子、GM−CSF遺伝子、IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100、MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0044】
また、VEGF遺伝子、HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス、c−mybアンチセンス、cdc2キナーゼアンチセンス、PCNAアンチセンス、E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0045】
また、アンチセンスによるリプレッシングの他に、21〜23塩基の二本鎖RNAを使用したRNA干渉によるmRNA破壊などに利用することも可能である。
【0046】
[ポリプレックスの形成]
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させてポリプレックスを形成するには、この高分子化合物の濃度1〜1000μg/mL程度の分散液に対し、常温にて核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して高分子化合物を過剰量添加し、高分子化合物を核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0047】
核酸を複合させた遺伝子導入剤は、微粒状のポリプレックスとなる。その粒径は50〜400nm程度が好適である。これよりも小さいと、ポリプレックス内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0048】
[生体への投与]
上述のような高分子化合物(スター型分岐ポリマー)よりなる遺伝子導入剤と核酸とのポリプレックスは、生体内へ投与される。
【0049】
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」は肝細胞である。即ち、上記のポリL−リジンは肝細胞のレセプタであるヘパラン硫酸への指向性を有しており、肝細胞に容易に進入することができる。
【0050】
本発明の遺伝子導入剤は任意の方法で生体に投与することができる。
【0051】
体内へ挿入するデバイスとしては、経皮的に患部付近の組織へ刺入するものや、血管カテーテル、ステントグラフトのように血管内へ留置するものなどがあるが、この限りではない。
【0052】
当該投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0053】
この核酸含有複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤、安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0054】
また、この核酸含有複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0055】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0056】
この核酸含有複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、肝臓がん、C型肝炎、B型肝炎、劇症肝炎などが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0058】
[実施例1,比較例1]
<スター型6分岐ポリマー(高分子ブロック鎖導入高分子化合物)の合成>
[1]ヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの合成
【0059】
【化1】

【0060】
ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼン5gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム31.8gをエタノール1L中へ加え、室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム200mLへ溶解し、ここへ150mLの水を加えて液抽出を行って臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を硫酸マグネシウムで24時間乾燥させた。濾過後、n−ヘキサンを加えて再結晶を行って、微かに淡青色を帯びたヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの白色結晶を得た(収率90%)。
【0061】
H NMR(in CDCl)の測定結果は、δ 1.26−1.31(t,36H,J=6.9 Hz,−CHSC(S)N(CHCH),3.71−4.01(wq,24H,J=6.9 Hz,−CHSC(S)N(CHCH),4.57(s,12H,−CHSC(S)NEt)であった。
【0062】
[2]6分岐型pDMAPAAmホモポリマーの合成
【0063】
【化2】

【0064】
モノマーの3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(以下、DMAPAAmと記載することがある。)は、減圧蒸留で精製した。ヘキサキス(N,N−ジエチルチオカルバミルメチル)ベンゼン8.7mgを20mLのクロロホルムへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド3.9gを加えて混合し、全量をクロロホルムで希釈して50mLに調整した。石英セル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした。200W高圧水銀灯で30分間の紫外光照射を行った。照度は照度計(UVR−1,TOPCON,Tokyo,Japan)を使用して1mW/cm(250nm)に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで再沈殿させて精製した。これを少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させてヘキサキス{N,N−ジエチルジチオカルバミル−ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル}ベンゼン(6分岐型pDMAPAAmホモポリマー)を得た(重合率40%)。
【0065】
分子量はGPCにより17,300と測定され、H NMR(in DO)の測定結果は、δ 1.00−1.70(br,416H,−CHCH−and−CHCHCH−) ,1.90(br,104H,−CHCH−),2.09(s,624H,−N(CH),2.25(br,208H,−CHN(CH),2.98(br,208H,−CONHCH−)で、目的物であることを確認した。
【0066】
<6分岐型pDMAPAAm−b−pASの合成>
このpDMAPAAm−b−pASはヘキサキス{N,N−ジエチルジチオカルバミル(ポリ4アミノスチレン)−ブロック−ポリ−(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル}ベンゼンの略語である。
【0067】
このヘキサキス{N,N−ジエチルジチオカルバミル(ポリ4アミノスチレン)−ブロック−ポリ−(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル}ベンゼンの合成は以下のように行った。前述のように合成した6分岐型pDMAPAAmホモポリマー150mgをメタノールへ溶解し、4−アミノスチレン620mgを混合して全量をメタノールで50mLに調整した。前述と同様の条件で光照射重合を行って、メタノール/ジエチルエーテル系で精製を行って6分岐型pDMAPAAm−b−pASブロックポリマーを得た(重合率38%)。
【0068】
分子量はGPCにより、18,300と測定され、H NMR(in DO)はδ 1.00−1.70(br,432H,−CHCH− and −CHCHCH−),1.90(br,104H,−CHCH of PDMAPAAm),2.06(s,624H,−N(CH of PDMAPAAm),2.21(br,208H,−CHN(CH),3.02(br,208H,−CONHCH−),6.40−6.80(br,16H,3−H and 5−H of aromatic ring proton),6.95−7.30(br,16H,2−H and 6−H of aromatic ring proton)と測定された。
【0069】
以上より、6分岐型ポリマーの6本のポリマー鎖に各々、6個モノマー単位のアミノスチレンがブロック化導入された6分岐型pDMAPAAm−b−pASが合成された。
【0070】
<6分岐型pDMAPAAM−b−pASブロックポリマーへのポリL−リジンの導入>
ポリL−リジンは微生物発酵法で合成したものを使用した。なお、ポリL−リジンの重合度は平均して7merである。
【0071】
このポリL−リジンを、その末端のカルボキシル基を6分岐型pDMAPAAm−b−pASのアミノスチレン側鎖のアミノ基へ化学結合させることにより導入した。すなわち、6分岐型pDMAPAAM−b−pASブロックポリマーを10mMリン酸バッファー(pH=7.0)へ溶解し、濃度を1mg/mLに調整した。ここにN−[e−マレイミドカプロイルオキシ]スクシンイミドエステルを終濃度0.1mMとなるように混合し、室温で30分間攪拌した。8倍モル量のポリL−リジンを室温下で混合し、3時間放置した。未反応のペプチドなどを透析で除去して精製し、ポリリジンが化学結合にて導入された6分岐型pDMAPAAM−b−pASブロックポリマーを得た。
【0072】
<ポリL−リジンの導入の確認>
ポリL−リジン導入6分岐型pDMAPAAM−b−pASブロックポリマー及びD−フルクトースを0.1NのNaOH水溶液に溶解し、終濃度をそれぞれ1%及び20%とした。この溶液を40℃で2週間インキュベートした。2週間後、濃い茶褐色を呈した溶液を高圧蒸気滅菌器により121℃で20分間処理した。溶液を塩酸で弱酸性とし、ポリアクリルアミド系サイズ排除ゲル(バイオラッド社、バイオゲルP30)を充填したカラムと0.1N塩酸を移動相として精製分離し、高分子量成分のみを採取した。
【0073】
この高分子量成分について、RI及びUV検出器をタンデムに接続した高速液体クロマトグラフィーによりGPC測定を行った。イオン排除効果、疎水相互作用などGPCのクロマトグラムはやや変形していたもののポリL−リジン導入前の分子量分布の間で大きな変化は認められなかった。一方で導入後のみに280nmにおけるクロマトグラムにおいて高分子量成分に強い吸光が確認された。これはポリL−リジン残基のε−位のアミノ基に導入されたD−フルクトースが加熱処理により環化して形成されるフラン環が検出されるものと考えられ、6分岐型pDMAPAAM−b−pASブロックポリマーへポリL−リジンが導入されたことが確認された。
【0074】
<遺伝子導入実験>
遺伝子導入剤としては、本発明のポリL−リジン導入6分岐型pDMAPAAM−b−pASブロックポリマー(実施例)及び6分岐型pDMAPAAM−b−pASブロックポリマー(比較例)を使用した。DNAはLacZをコードするプラスミドDNA(プロモーターCMV)を使用し、生理食塩水溶液中でイオン複合体を形成させ、マウス頸静脈より注射し、48時間後に犠牲死させて、肝臓を摘出し、PFAで固定後にX−Gal染色を行って組織学的評価を行った。組織に多くのスリットを入れて染色液の浸透を促進させた。切片はパラフィン包埋にて作成した。40倍の顕微鏡写真を図1に示す。
【0075】
この結果、図1の通り、ポリL−リジンを導入した本発明の遺伝子導入剤においてLacZ遺伝子の発現によるX−Gal染色陽性のスポットが多く確認された。以上よりポリL−リジンを導入した分岐型ブロックポリマーとDNAで形成させたイオン複合体が肝臓へ指向性を有する可能性が示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1及び比較例1において遺伝子導入を行った肝臓の組織を示す顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環に複数の高分子鎖が置換基として導入され、かつ該高分子鎖にポリL−リジンが導入された高分子化合物よりなる遺伝子導入剤。
【請求項2】
請求項1において、前記芳香環が炭素数5〜8の芳香環の、単環又は縮合環よりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項3】
請求項2において、前記芳香環が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環又はピレン環であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項4】
請求項3において、前記芳香環がベンゼン環であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項5】
請求項4において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して2〜6個導入されていることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項6】
請求項5において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して4個又は6個導入されていることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項7】
請求項6において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して6個導入されていることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記高分子鎖は、ポリアクリルアミド系高分子ブロック鎖又はポリアクリレート系高分子ブロック鎖であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、前記高分子鎖にアミノ基が導入され、このアミノ基がポリL−リジンの末端のカルボキシル基と脱水縮合していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項10】
請求項9において、前記高分子鎖の一部がポリアミノスチレンで構成されており、前記アミノ基は該ポリアミノスチレンのアミノ基であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、前記高分子化合物の分子量が5千〜50万であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項12】
請求項11において、前記高分子化合物の分子量が5千〜10万であることを特徴とする遺伝子導入剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−195684(P2008−195684A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34894(P2007−34894)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】