説明

遺伝子探索ベクター隣接ゲノム配列の同定方法、及び酸化ストレス感受性変異体

【課題】GSベクターが挿入された遺伝子を特定するため実用的な方法、個体の特定の表現型に関連する遺伝子を網羅的に同定する方法、並びに当該方法により酸化ストレスに対する抵抗性に関連する遺伝子及びそれがコードしているタンパク質を提供する。
【解決手段】遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定し、該遺伝子をゲノムに挿入された動物の中から、特定の表現型を有する個体を選別し、挿入されたゲノムにおける遺伝子を網羅的に同定する。また、特定された17種の酸化ストレス感受性遺伝子、及びそれがコードするタンパク質。さらに、特定された17種の遺伝子のうちの少なくとも1種の遺伝子が欠損した動物、及び当該動物を用いた抗酸化物質のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定する方法、及びその方法により特定された特定の表現型に関連する遺伝子、好ましくは酸化ストレス感受性遺伝子に関する。より詳細には、本発明は、遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムを、3’末端側が突出した形の断片を生成する制限酵素で消化し、得られた断片をプライマーエクステンション法により複製し、複製された断片をアダプターライゲーション法により2本鎖DNAを生成させ、次いでこの断片を鋳型としてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行ない、得られた断片の塩基配列を決定することからなる、遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定する方法、及びその方法により特定された表1に記載のOxR1〜OxR17で示される17種の酸化ストレス感受性遺伝子に関する。
さらに、本発明は、前記方法により特定された17種の遺伝子のうちの少なくとも1種の遺伝子が欠損した動物、及び当該動物を用いた抗酸化物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
好気性生物は酸素を取り込み、代謝系に利用して高エネルギーを得ている。この作用は細胞のミトコンドリアにより行われているが、ミトコンドリアが消費する酸素の0.4〜4%はエネルギーの産生に利用されるのではなく、活性酸素種になると言われている。この酸素の一部は、スーパーオキシド(O)や、過酸化水素(H)、ペルオキシ亜硝酸イオン(ONOO)、そしてヒドロキシラジカル(・OH)などの非常に反応性の高い活性酸素種(ROS)に変化する。これらのROSは、生体防御や細胞内シグナル伝達などに利用されており、生体内において重要な役割を担っているが、その一方では、高い反応性によりDNAや脂質等の生体分子を酸化変性させ、様々な細胞障害を誘発させる原因となることが知られている。このように生体内における活性酸素種(ROS)は、生体機能における「両刃の刃」となっており、通常は、役割を終えたROSは、生体に存在するROSを消去する抗酸化物質により速やかに還元消去される。しかしながら、過剰に生成したROSが生体恒常性を損なうとき、ROSは臓器レベルの障害を誘発し、動脈硬化・腎不全などの重篤な疾患を惹起すると共に、老化の原因のひとつであるとされている。
【0003】
多くの研究の結果、老化と酸化ストレスとの関係が明らかにされてきている。例えば、カタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などの抗酸化酵素の過剰発現は、酸化ストレスに対する抵抗性を強化し、同時に寿命を長くすることが報告されてきている(非特許文献1参照)。また、メチオニンスーパーオキシドリダクターゼAの過剰発現もまた酸化ストレスに対する抵抗性を強化し、同時に寿命を長くすることが報告されてきている(非特許文献2参照)。しかしながら、生体の抗酸化機構に関与している遺伝子のいくつかだけが報告されてきているだけであり、これらの遺伝子を網羅的に解析することは未だ行われてきていない。
本発明者らは、ショウジョウバエの酸化ストレスに対する抵抗性を測定するための方法を開発し、酸化ストレスに強いショウジョウバエの選別を可能にしてきた。そして、GSベクターを挿入した37種のショウジョウバエについて酸化ストレスに対する抵抗性と寿命の関連性を検討してきた結果、抗酸化ストレスと寿命には相関性があり、GS3056、GS2209、GS3047及びGS2138の4種の系統が強い抗酸化ストレスを示すと共に寿命も内外ことを見出してきた(非特許文献3参照)。
【0004】
一方、本発明者らは、遺伝子を探索するためのベクターとしてGSベクター(Gene Search Vector)を開発してきた(非特許文献4、及び特許文献1参照)。このGSベクターは、マーカー遺伝子(例えば、白眼遺伝子(White gene)など)の両端に逆向きに1対のUAS配列−プロモーター領域−Pエレメント配列を有するものである。UAS配列は、GAL4の標的となるエンハンサー配列であり、Pエレメントはトランスポゾンの1種の配列である。このGSベクターを導入し、得られた個体をGAL4発現系の個体と交配させてF1雑種を作成する。このF1雑種はGAL4とUASエンハンサーにより、GSベクターが挿入された位置の遺伝子を強制発現することになる。強制発現されたmRNAをRT−PCR法などにより同定することにより、遺伝子を探索することが可能となる。本発明者らは、この方法により、長寿関連遺伝子の探索方法を開発してきた(特許文献2参照)。
このGSベクターを用いた方法では、Pエレメントとしてショウジョウバエのトランスポゾンを有しており、ゲノムにランダムに挿入して突然変異を作製するためのベクターとして極めて有用であるが、このトランスポゾンのよりGSベクターが挿入された遺伝子を特定するためには、発現したmRNAによる方法では特定が困難なことが多いだけでなく、解析に膨大な時間が必要であった。また、GSベクターが挿入された遺伝子を特定するための他の方法としては、GSベクターが挿入されたゲノムのベクター/ゲノム接合部を含む断片を特異的に増幅して配列を決定する方法が有効となる。このような方法として、ベクター/ゲノム接合部を含む断片をセルフゲーションによって環状化したDNAを鋳型として、増幅するInverse−PCR法が考えられる。しかし、この方法ではライゲーション時に鋳型DNAを低濃度に希釈するために、大きな容量で反応を行う必要がある。また、ゲノム上の制限酵素サイトがベクター端部に近い場合、ベクターの内部配列とゲノム配列とを区別するのが困難な場合があった。
【0005】
このように、関連性のある遺伝子を網羅的に探索する方法としてGSベクターを用いる方法は有効ではあるが、GSベクターが挿入された遺伝子を特定することが困難な場合が多く、GSベクターが挿入されて特定の形質を発現している個体が特定されても、当該遺伝子を特定することが困難であった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−32986号
【特許文献2】特開2003−174887号
【非特許文献1】Sun J. and Tower J., Mol. Cell Biol., 19, 216-228, 1999.
【非特許文献2】Ruan H., Tang XD., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 2748-2753, 2002.
【非特許文献3】T. Kaneuchi, T. Togawa, et al., Biogerontology, 4, 157-165, 2003.
【非特許文献4】G. Toba, T. Ohsako, et al., Genetics, 151, 725-737, 1999.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、GSベクターが挿入された遺伝子を特定するため実用的な方法を提供することである。また、本発明は、個体の特定の表現型に関連する遺伝子を網羅的に同定する方法を提供するものである。
さらに、本発明の目的は、酸化ストレスに対する抵抗性に関連する遺伝子及びそれがコードしているタンパク質を提供することである。より詳細には、本発明は、個体レベルにおける酸化ストレスに対する抵抗性に関連する遺伝子及びそれがコードしているタンパク質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、GSベクターが挿入された遺伝子を特定するため実用的な方法を検討してきた。その結果、GSベクターが挿入されたゲノムDNAを、3’末端が突出する断片を生成する制限酵素により消化し、これをプライマーエクステンション法によりベクター/ゲノム接合部を含む断片を特異的に複製し、得られた断片をアダプターライゲーション法により、その3’末端側に2本鎖DNAをライゲーションし、生成された2本鎖DNAを鋳型としてPCRを行って、これを増幅し、これをシークエンスすることにより目的の遺伝子の塩基配列を簡便に、かつ効率よく決定することができることを見出した。
さらに、この方法により、酸化ストレスに強い個体における酸化ストレスに関連する遺伝子を網羅的に解析することに成功した。
【0009】
即ち、本発明は、次の(1)〜(5)の工程、
(1)遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムを、3’末端側が突出した形の断片を生成する制限酵素で消化する工程、
(2)前記(1)の工程で消化されて生成した断片をプライマーエクステンション法によりベクター/ゲノム接合部を含む断片を複製する工程、
(3)得られた断片をアダプターライゲーション法により、その3’末端側に2本鎖DNAをライゲーションして2本鎖DNAを生成させる工程、
(4)生成させた2本鎖DNAを鋳型としてPCRを行って、これを増幅する工程、
(5)得られた断片の塩基配列を決定する工程、
により、遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定する方法に関する。以下、本発明のこの方法をベクターPCR法と略称することもある。
また、本発明は、前記方法により特定された酸化ストレス感受性遺伝子、及び当該遺伝子がコードしているタンパク質に関する。より詳細には、本発明は、下記の表1に示されるOxR1〜OxR17として示される遺伝子のいずれかに記載の塩基配列、又は当該塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子、及び当該遺伝子がコードしているタンパク質に関する。さらに詳細には本発明は、酸化ストレスに対する抵抗性である遺伝子であって、下記の表2に示されるCG10082−RA、CG10082−RB、CG31305−RA、CG31305−RB、CG31305−RD、CG31305−RF、CG31305−RG、CG31305−RI、CG31305−RJ、CG7405−RA、CG8522−RA、CG8522−RB、CG8522−RC、CG10165−RA、CG10165−RB、CG9804−RA、CG13645−RA、CG13645−RB、CG11518−RA、CG5670−RA、CG5670−RB、CG5670−RC、CG5670−RD、CG5670−RE、CG5670−RF、CG5670−RG、CG5670−RH、CG10272−RA、CG10272−RB、CG10272−RC、CG10272−RD、CG1245−RA、CG1311−RA、CG15092−RA、CG32100−RA、CG10939−RA、CG8067−RA、及びCG10055−RAからなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子、又は当該塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子、及び当該遺伝子がコードしているタンパク質に関する。
【0010】
また、本発明は、前記方法により特定された酸化ストレス感受性遺伝子、及び当該遺伝子がコードしているタンパク質に関する。より詳細には、本発明は、下記の表1に示されるOxR1〜OxR17として示される遺伝子のいずれかの塩基配列、又は当該塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子を含有してなる酸化ストレスに対する抵抗性調節用組成物、又は当該遺伝子がコードしているタンパク質を含有してなる酸化ストレスに対する抵抗性調節用組成物に関する。さらに詳細には本発明は、酸化ストレスに対する抵抗性である遺伝子であって、下記の表2に示されるCG10082−RA、CG10082−RB、CG31305−RA、CG31305−RB、CG31305−RD、CG31305−RF、CG31305−RG、CG31305−RI、CG31305−RJ、CG7405−RA、CG8522−RA、CG8522−RB、CG8522−RC、CG10165−RA、CG10165−RB、CG9804−RA、CG13645−RA、CG13645−RB、CG11518−RA、CG5670−RA、CG5670−RB、CG5670−RC、CG5670−RD、CG5670−RE、CG5670−RF、CG5670−RG、CG5670−RH、CG10272−RA、CG10272−RB、CG10272−RC、CG10272−RD、CG1245−RA、CG1311−RA、CG15092−RA、CG32100−RA、CG10939−RA、CG8067−RA、及びCG10055−RAからなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子、又は当該塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子を含有してなる酸化ストレスに対する抵抗性調節用組成物、及び当該遺伝子がコードしているタンパク質を含有してなる酸化ストレスに対する抵抗性調節用組成物に関する。
さらに、本発明は、前記方法により特定された酸化ストレス感受性遺伝子の少なくとも1種の遺伝子を欠損させた動物、好ましくはショウジョウバエに関する。より詳細には、本発明は、下記の表1に示されるOxR1〜OxR17として示される遺伝子のいずれかの塩基配列、又は当該塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子の少なくとも1種の遺伝子を欠損させた動物、好ましくはショウジョウバエに関する。さらに詳細には本発明は、酸化ストレスに対する抵抗性である遺伝子であって、下記の表2に示されるCG10082−RA、CG10082−RB、CG31305−RA、CG31305−RB、CG31305−RD、CG31305−RF、CG31305−RG、CG31305−RI、CG31305−RJ、CG7405−RA、CG8522−RA、CG8522−RB、CG8522−RC、CG10165−RA、CG10165−RB、CG9804−RA、CG13645−RA、CG13645−RB、CG11518−RA、CG5670−RA、CG5670−RB、CG5670−RC、CG5670−RD、CG5670−RE、CG5670−RF、CG5670−RG、CG5670−RH、CG10272−RA、CG10272−RB、CG10272−RC、CG10272−RD、CG1245−RA、CG1311−RA、CG15092−RA、CG32100−RA、CG10939−RA、CG8067−RA、及びCG10055−RAからなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子、又は当該塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子の少なくとも1種の遺伝子を欠損させた動物、好ましくはショウジョウバエに関する。
また、本発明は、前記方法により特定された酸化ストレス感受性遺伝子の少なくとも1種の遺伝子の発現を増強させた動物、好ましくはショウジョウバエに関する。より詳細には、本発明は、下記の表1に示されるOxR1〜OxR17として示される遺伝子のいずれかの塩基配列、又は当該塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子の少なくとも1種の遺伝子の発現を増強させた動物、好ましくはショウジョウバエに関する。さらに詳細には本発明は、酸化ストレスに対する抵抗性である遺伝子であって、下記の表2に示されるCG10082−RA、CG10082−RB、CG31305−RA、CG31305−RB、CG31305−RD、CG31305−RF、CG31305−RG、CG31305−RI、CG31305−RJ、CG7405−RA、CG8522−RA、CG8522−RB、CG8522−RC、CG10165−RA、CG10165−RB、CG9804−RA、CG13645−RA、CG13645−RB、CG11518−RA、CG5670−RA、CG5670−RB、CG5670−RC、CG5670−RD、CG5670−RE、CG5670−RF、CG5670−RG、CG5670−RH、CG10272−RA、CG10272−RB、CG10272−RC、CG10272−RD、CG1245−RA、CG1311−RA、CG15092−RA、CG32100−RA、CG10939−RA、CG8067−RA、及びCG10055−RAからなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子、又は当該塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子の少なくとも1種の遺伝子の発現を増強させた動物、好ましくはショウジョウバエに関する。
【0011】
さらに、本発明は、前記方法により特定された酸化ストレス感受性遺伝子の少なくとも1種の遺伝子を欠損させた、又は当該遺伝子の発現を増強させた動物、好ましくはショウジョウバエを用いて抗酸化物質をスクリーニングする方法に関する。より詳細には、本発明は、下記の表1に示されるOxR1〜OxR17として示される遺伝子のいずれかの塩基配列、又は当該塩基配列と70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子の少なくとも1種の遺伝子を欠損させた、又は当該遺伝子の発現を増強させた動物、好ましくはショウジョウバエに、試験物質を投与若しくは接触させ、又は試験物質の存在する環境下で飼育して、当該動物の試験物質に対する反応を測定することからなる、試験物質の抗酸化作用をスクリーニングする方法に関する。さらに詳細には本発明は、酸化ストレスに対する抵抗性である遺伝子であって、下記の表2に示されるCG10082−RA、CG10082−RB、CG31305−RA、CG31305−RB、CG31305−RD、CG31305−RF、CG31305−RG、CG31305−RI、CG31305−RJ、CG7405−RA、CG8522−RA、CG8522−RB、CG8522−RC、CG10165−RA、CG10165−RB、CG9804−RA、CG13645−RA、CG13645−RB、CG11518−RA、CG5670−RA、CG5670−RB、CG5670−RC、CG5670−RD、CG5670−RE、CG5670−RF、CG5670−RG、CG5670−RH、CG10272−RA、CG10272−RB、CG10272−RC、CG10272−RD、CG1245−RA、CG1311−RA、CG15092−RA、CG32100−RA、CG10939−RA、CG8067−RA、及びCG10055−RAからなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子、又は当該塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子の少なくとも1種の遺伝子を欠損させた、又は当該遺伝子の発現を増強させた動物、好ましくはショウジョウバエに、試験物質を投与若しくは接触させ、又は試験物質の存在する環境下で飼育して、当該動物の試験物質に対する反応を測定することからなる、試験物質の抗酸化作用をスクリーニングする方法に関する。
また、本発明は、遺伝子探索ベクター(GSベクター)がゲノムに挿入された動物の中から、特定の表現型を有する個体を選別し、選別された個体における遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を、前記した本発明のベクターPCR法により同定することからなる個体の特定の表現型に関連する遺伝子を網羅的に同定する方法に関する。
【0012】
本発明をより詳細に説明すれば、以下のとおりとなる。
(1)次の(A)〜(E)の工程、
(A)遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムを、3’末端側が突出した形の断片を生成する制限酵素で消化する工程、
(B)前記(A)の工程で消化されて生成した断片をプライマーエクステンション法によりベクター/ゲノム接合部を含む断片を複製する工程、
(C)得られた断片をアダプターライゲーション法により、その3’末端側に2本鎖DNAをライゲーションして2本鎖DNAを生成させる工程、
(D)生成させた2本鎖DNAを鋳型としてPCRを行って、これを増幅する工程、
(E)得られた断片の塩基配列を決定する工程、
により、遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定する方法。
(2)3’末端側が突出した形の断片を生成する制限酵素が、Hhalである前記(1)に記載の方法。
(3)プライマーエクステンション法により複製された断片が、3’末端においてA(アデニン)が1塩基突出した断片である前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)遺伝子探索ベクター(GSベクター)がゲノムに挿入されたショウジョウバエの中から、特定の表現型を有する個体を選別し、選別された個体における遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により同定することからなる個体の特定の表現型に関連する遺伝子を網羅的に同定する方法。
(5)個体の表現型が、酸化ストレスに対する抵抗性である前記(4)に記載の方法。
(6)前記(4)に記載の方法の方法により個体の特定の表現型に関連する遺伝子を網羅的に同定された遺伝子。
(7)個体の表現型が、酸化ストレスに対する抵抗性である前記(6)に記載の遺伝子。
(8)遺伝子が、ショウジョウバエ由来のものである前記(6)又は(7)に記載の遺伝子。
(9)酸化ストレスに対する抵抗性である前記(8)に記載の遺伝子が、OxR1〜OxR17のいずれかである前記(8)に記載の遺伝子。
(10)酸化ストレスに対する抵抗性である前記(8)に記載の遺伝子が、CG10082−RA、CG10082−RB、CG31305−RA、CG31305−RB、CG31305−RD、CG31305−RF、CG31305−RG、CG31305−RI、CG31305−RJ、CG7405−RA、CG8522−RA、CG8522−RB、CG8522−RC、CG10165−RA、CG10165−RB、CG9804−RA、CG13645−RA、CG13645−RB、CG11518−RA、CG5670−RA、CG5670−RB、CG5670−RC、CG5670−RD、CG5670−RE、CG5670−RF、CG5670−RG、CG5670−RH、CG10272−RA、CG10272−RB、CG10272−RC、CG10272−RD、CG1245−RA、CG1311−RA、CG15092−RA、CG32100−RA、CG10939−RA、CG8067−RA、及びCG10055−RAからなる群から選ばれる遺伝子、又は当該塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子である前記(8)又は(9)に記載の遺伝子。
(11)前記(9)又は(10)に記載の遺伝子がコードしているタンパク質。
(12)前記(9)又は(10)に記載の遺伝子の少なくとも1種の遺伝子をゲノム中に有するショウジョウバエにおいて、当該遺伝子を欠損させたショウジョウバエ。
(13)前記(12)に記載のショウジョウバエに、食品又は食品素材を投与又は接触させて、当該ショウジョウバエの食品又は食品素材に対する反応を測定することからなる、食品又は食品素材の抗酸化作用をスクリーニングする方法。
【0013】
次に、本発明の遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定する方法についてより具体的に説明する。
図1は遺伝子探索ベクター(GSベクター)の構成の例を示したものである。この例は、特許文献1に記載されているGSベクターの例である。中心部のマーカー遺伝子(図1の白抜きの部分)があり、この例ではマーカー遺伝子として白眼遺伝子(White gene)が使用されている。その5’末端及び3’末端(逆向き配列である)にGAL4が標的とするUASエンハンサーが結合しており、さらにその両方の先にプロモーターが、この例ではヒートショックタンパク質hsp70遺伝子のコアプロモーターが結合している。そして、その両方の先にさらにトランスポゾン活性を有するPエレメントが結合している。このGSベクターは、両末端に結合しているトランスポゾンの作用により、ゲノム中のランダムな位置に挿入される。ゲノムへの挿入は通常のトランスポゾンの挿入と同様に行うことができる。この例のGSベクターは、両向きの配列を備えているので、いずれの方向から挿入されても発現可能に設計されている。そして、プロモーター領域の下流側に転写開始点(図1では鈎付き矢印で示されている。)を設けている。
【0014】
次に、本発明の遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定する方法の概要を模式的にして、図2に示す。図2の上段の2本の線はゲノムDNAを示し、線上の太く示されている箇所は挿入されたGSベクターを示している。
まず、GSベクターが挿入されているゲノムを抽出する。抽出されるゲノムDNAは、全DNAであってもよいが、標的とする部位だけのゲノムDNA、例えば第2染色体とか第3染色体とか、又はこれらの断片であってもよい。このようにして抽出されたゲノムDNAを用いて、
(1)遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムを、3’末端側が突出した形の断片を生成する制限酵素で消化し、消化された断片を得る。
図2では消化される部位をゲノムの2本線に矢印で示している。
このときに使用される制限酵素は、平滑末端を生じるものではなく、3’末端側が突出した形の断片を生成する制限酵素を用いることが本発明の特徴のひとつである。もう一つの特徴は、GSベクター中に当該制限酵素による切断部位を有していることである。したがって、この工程で得られる断片は、5’末端側がGSベクターの塩基配列を有しており、3’末端側が突出した形になっている。
この工程で使用される制限酵素としては、GSベクター中に切断部位があり、かつ3’末端側が突出した形の断片を生成するものであれば、特に制限はなく、好ましい制限酵素としては、Hhalなどが挙げられる。
【0015】
次いで、工程(1)で得られたDNA断片を、次の
(2)前記(1)の工程で消化されて生成した断片をプライマーエクステンション法によりベクター/ゲノム接合部を含む断片を複製する工程、
で処理する。このときに使用されるプライマーとしては、得られたDNA断片の5’末端はGSベクター由来の塩基配列を有しているので、GSベクター内の任意の塩基配列に適合するように選定することができる。
この工程で使用される好ましいプライマーの例を次に示す。
フォーワードプライマーの例:
GSV2:5’−CTGCAGTAAAGTGCAAGTTAAAGTGAATC−3’
GSV3:5’−CCTGGTACATCAAATACCCTTGGATCG−3’
GSV6:5’−GCAACCAAGTAAATCAACTGCAACTACTG−3’
GSV7:5’−CTGCAGTAAAGTGCAAGTTAAAGTG−3’
(前記プライマー中のGSVの名称は本発明者らが命名したものである。)
リバースプライマーの例:
5’−CTCGACCTGCAGCCAAGCTTTGCG−3’
この工程では、このようなプライマーを用いて、Taqポリメラーゼなどのポリメラーゼにより、ベクター/ゲノム接合部を含む断片を特異的に複製することができる。このとき、複製酵素の特性により複製されたDNA鎖の3’端に1塩基のA(アデニン)が鋳型に非依存的に付加されることになる。このように、プライマーエクステンション法において、3’端にAを付加するDNA合成酵素を使うことは、本発明の方法の特徴の一つである。図2の(2)の段階を参照されたい。
【0016】
次いで、
(3)得られた断片をアダプターライゲーション法により、その3’末端側に2本鎖DNAをライゲーションして2本鎖DNAを生成させる工程、
を行う。このために、相補鎖にT(チミン)が1塩基突出した2本鎖DNAを使用する。使用される2本鎖DNAの塩基配列や長さは特に制限はないが、長さは次の工程で行われるPCR法におけるプライマーを用意することができる長さであればよい。通常は10〜50mer、好ましくは10〜30mer程度である。好ましい2本鎖DNAの例を示すと次のものが挙げられる。
5’−GAATTCAGATC−3’
3’−TCTTAAGTCTAGAGGGCCCAATGGC−5’
この工程で使用される酵素も、通常のアダプターライゲーション法に使用される酵素であれば特に制限はない。
この処理により、ライゲーションされた2本鎖DNAが生成される。
【0017】
得られた2本鎖DNAの断片の5’末端はGSベクターに由来する塩基配列を有しており、また3’末端は前記の工程でライゲーションしたオリゴヌクレオチドの塩基配列を有している。したがって、
(4)生成させた2本鎖DNAを鋳型としてPCRを行って、これを増幅する工程、
におけるプライマーは前記した塩基配列に基づいて任意に選定することができる。
この工程におけるPCR法としては、通常の単純に増幅する場合のPCR法であるが、前記で例示したように末端が平滑末端とならないようなライゲーションを行った場合には、突出末端が切断されることになるので、この工程のPCR法は2段階に分けて行うのが好ましい。この工程におけるPCR法は、通常のPCR法と同様に行うことができる。
この工程で使用される好ましいプライマーを例示する。
第一段目のプライマーセット:
フォーワードプライマー:
配列4:5’−GCGGTAACCCGGG−3’
GSV2:5’−GAACTCTGAATAGGGAATTGGGAATTCG−3’
GSV3:5’−CATACATACTAGAATTAGGCCTTCTAG−3’
GSV6:5’−GGGAATTGGGAATTCGACTAGTTTC−3’
GSV7:5’−CTGCAAGTACTGAAATCTGCCAAGAAG−3’
(前記プライマー中のGSVの名称は本発明者らが命名したものである。)
リバースプライマー:
5’−CGACCTGCAGCCAAGCTTTGCGTAC−3’
第二段目のプライマーセット:
フォーワードプライマー:
配列6:5’−CGGGAGATCTGAATTCTC−3’
5’−CCACGTAAGGGTTAATGTTTTC−3’
リバースプライマー
5’−CCTGCAGCCAAGCTTTGCGTACTCGC−3’
【0018】
以上のようにして増幅されたDNA断片を用いて、
(5)得られた断片の塩基配列を決定する工程、
を行う。これらのDNA断片の塩基配列の決定法も特に制限はない。公知のいずれの決定法も使用することができ、DNA断片の長さや、特性に応じて適宜選定することができる。
例えば、次のプライマー:
5’−TCGTCCGCACACAACCTTTCCTC−3’
5’−CTCACTCAGACTCAATACGACACTC−3’
のセットを用いて常法に従って配列決定を行うことができる。
【0019】
本発明の遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定する方法(以下、ベクターPCR法と称することもある。)は、遺伝子を発現させる必要も無く、また前記したインバース−PCR法による欠点を解決するものであり、信頼性も高く、さらに、全ての反応を100μl以下の容量でも実行することができ、簡便に行うことができる。また、本発明の方法における各工程は、既に機械化が進展している工程であり、全工程を自動化することも可能であり、大量の資料を少量の容器で確実に信頼性よく、かつ迅速に処理することができる。
本発明のベクターPCR法を用いることにより、個体レベルでの発現遺伝子の特定を行うことができる。GSベクターが挿入された動物、例えばショウジョウバエの作成手法は非特許文献4や特許文献1に開示されているが、従来GSベクターが挿入されている部位の遺伝子を特定することができる方法が確立されておらず、GSベクターによる遺伝子の探索が実用的な域に達していなかった。本発明は、この大きな障害となっていた手法を確立させるものであり、本発明により特定の機能を有する遺伝子の探索が、極めて簡便に活確実に行えることになる。
【0020】
したがって、本発明は、遺伝子探索ベクター(GSベクター)がゲノムに挿入された動物の中から、特定の表現型を有する個体を選別し、選別された個体における遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を、本発明のベクターPCR法により同定することからなる個体の特定の表現型に関連する遺伝子を網羅的に同定する方法を提供するものである。
本発明のこの方法における「表現型」としては、GSベクターの挿入により獲得又は喪失したものであれば特に制限はなく、生物学における表現型であってもよく、また変薬剤感受性や機能性食品に対する感受性などのような特定の物質に対する応答性であってもよい。さらに、器官に異常や奇形を生じるような「表現型」であってもよい。本明細書においては、酸化ストレスに対する感受性に基づく「表現型」による選別と、当該「表現型」に関連する遺伝子の同定法について具体的に開示する。
本発明のこの方法における動物としては、GSベクターを挿入することができるもの、即ち、トランスポゾン活性を有するベクターをゲノム中に挿入することが可能なものであればよいが、特にショウジョウバエが好ましい。ショウジョウバエは飼育が容易で、体型も小さく、生活環も約10日余りと短く、低コスト化が可能であるばかりでなく、遺伝子の研究材料として古くから研究されてきており高度な解析技術が確立されており、かつヒトと相同な遺伝子を多数有していることから、モデル動物として特に好ましいものである。
また、発現系についても前記の説明で例示してきたGAL系とUASエンハンサー系に限定されるものではなく、他の発現系を適用することも可能である。
【0021】
さらに、本発明のこの方法によって特定された高感受性系統の動物、好ましくはショウジョウバエを使って、有用な薬剤や機能性食品素材を評価するシステムを構築することもできる。例えば、特定された感受性に関連する遺伝子を欠損又は過剰発現するモデル動物を作成して、当該モデル動物における試験物質に対する感受性を測定することにより、試験物質に生体に及ぼす作用効果を簡便にかつ確実にスクリーニングすることができる。本明細書では、酸化ストレスについてさらに具体的に後述するが、酸化ストレスに限定されるものではなく、例えば、(1)人体が接触または吸引する成分を含む材料や塗料を使用した生活用品、薬品、飲食品、化粧品などの健康に及ぼす影響の評価、(2)上記に関する新規有用素材の探索および開発、(3)上記に関する有害物質の評価、除去法の開発、(4)ヒトや家畜の病気の予防、診断、治療法の開発、及び(5)病気につよい動植物(家畜)などの品種改良などに、本発明のこの方法を適用することができる。
【0022】
本発明者らは、非特許文献3に記載されている酸化ストレスに対するショウジョウバエの試験装置を用いて、GSベクターが挿入されたショウジョウバエとGAL4発現系のショウジョウバエとのF1雑種のショウジョウバエを用いて酸化ストレスに対する感受性に基づく個体の選別を行った。
このようにして選別された個体から、本発明のベクターPCR法を用いて、GS系統のゲノムに挿入されたベクターに隣接するゲノム配列を特異的に増幅し、約11,000系統の配列を決定した。これらの決定された塩基配列を用いて、データベースによりブラスト検索(Blast search)を行い、挿入位置にある遺伝子を特定した。その結果、半数以上の挿入が遺伝子の転写開始点近傍にあることが判明した(図3参照)。GSベクターはGAL転写因子に依存した強制転写機能を有するため,転写開始点近傍にある挿入系統をGAL4発現系統に交配することにより、その遺伝子を強制発現することができる。挿入位置が判明したGS系統のショウジョウバエについて、過酸化水素水を含む培地で飼育し、酸化ストレスに対する抵抗性を確認した。その結果、次の表1に示される17種の遺伝子のいずれかを強制発現したものが抵抗性を示した。
【0023】
【表1】

【0024】
表1中における*印は、GS系統をhs−GAL4系統に交配し、そのF1雄(各96個体)について、過酸化水素を含む培地で飼育したときの生存率を、対照群(ベクター挿入をもたない系統とhs−GAL4系統と交配したF1個体)との相対値で示した。生存期間の測定方法はカネウチらの方法(Kaneuchi et al, Biogerontology, 4,157-165 (2003))による。表1中の**印は、今回えられた表現型に基づいて、それぞれの遺伝子に本発明者らが付した新名称である。
表1中の「GS系統」は、GS系統ショウジョウバエの系統の番号を示し、「ベクター近接遺伝子」はブラスト検索でヒットした遺伝子の名称を示している。
表1に示されるように、GS系統の9002、9033、9043、9057、9171、9332、9345、9751、9925、9956、10475、10503、10514、10636、11095、11323、及び11397から、OxR1〜OxR17の17種の遺伝子を確認することができた。
【0025】
これらの遺伝子の塩基配列に基づいて、データベースによりブラスト検索(Blast search)を行い、38種の構造遺伝子(タンパク質をコードしていると推定される塩基配列を有する遺伝子)を確認した。これらの中には同じ遺伝子のアイソフォームも含まれている。即ち、OxR1からは、CG10082−RAとCG10082−RBと命名される2種の遺伝子が検索された。OxR2からは、CG31305−RA、CG31305−RB、CG31305−RD、CG31305−RF、CG31305−RG、CG31305−RI、及びCG31305−RJと命名される7種の遺伝子が検索された。OxR3からは、CG7405−RAと命名される1種の遺伝子が検索された。OxR4からは、CG8522−RA、CG8522−RB、及びCG8522−RCと命名される3種の遺伝子が検索された。OxR5からは、CG10165−RAとCG10165−RBと命名される2種の遺伝子が検索された。OxR6からは、CG9804−RAと命名される1種の遺伝子が検索された。OxR7からは、CG13645−RAとCG13645−RBと命名される2種の遺伝子が検索された。OxR8からは、CG11518−RAと命名される1種の遺伝子が検索された。OxR9からは、CG5670−RA、CG5670−RB、CG5670−RC、CG5670−RD、CG5670−RE、CG5670−RF、CG5670−RG、及びCG5670−RHと命名される8種の遺伝子が検索された。OxR10からは、CG10272−RA、CG10272−RB、CG10272−RC、及びCG10272−RDと命名される4種の遺伝子が検索された。OxR11からは、CG1245−RAと命名される1種の遺伝子が検索された。OxR12からは、CG1311−RAと命名される1種の遺伝子が検索された。OxR13からは、CG15092−RAと命名される1種の遺伝子が検索された。OxR14からは、CG32100−RAと命名される1種の遺伝子が検索された。OxR15からは、CG10939−RAと命名される1種の遺伝子が検索された。OxR16からは、CG8067−RAと命名される1種の遺伝子が検索された。OxR17からは、CG10055−RAと命名される1種の遺伝子が検索された。
即ち、本発明は、酸化ストレスに対する抵抗性に関連する、CG10082−RA、CG10082−RB、CG31305−RA、CG31305−RB、CG31305−RD、CG31305−RF、CG31305−RG、CG31305−RI、CG31305−RJ、CG7405−RA、CG8522−RA、CG8522−RB、CG8522−RC、CG10165−RA、CG10165−RB、CG9804−RA、CG13645−RA、CG13645−RB、CG11518−RA、CG5670−RA、CG5670−RB、CG5670−RC、CG5670−RD、CG5670−RE、CG5670−RF、CG5670−RG、CG5670−RH、CG10272−RA、CG10272−RB、CG10272−RC、CG10272−RD、CG1245−RA、CG1311−RA、CG15092−RA、CG32100−RA、CG10939−RA、CG8067−RA、及びCG10055−RAからなる群から選ばれる遺伝子、及び当該遺伝子がコードするタンパク質を提供するものである。
これらの38種の遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列は、表2に示されるNCBIアクセッション番号に基づいてNCBIにアクセスすることにより入手することができる。
これらの38種の遺伝子をまとめて、次の表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2中の配列番号は、本発明の遺伝子の番号を奇数の番号で示し、GS系統は前記表1に示したGS系統を示し、OxR番号は前記表1に示したOxRの番号を示し、遺伝子名は検索された遺伝子の名称を示し、NCBI番号はNCBIのアクセッション番号を示し、塩基数は当該遺伝子の全塩基数を示し、CDS番号はORFの塩基番号を示し、アミノ酸数は当該遺伝子がコードしているタンパク質のアミノ酸数を示す。
【0028】
この表1に挙げた遺伝子は何らかの機能により生体の酸化ストレスに対する抵抗性に関与していることは前記した過酸化水素を含む培地での飼育実験からも明らかであるが、このような酸化ストレスに対する抵抗性のメカニズムについては必ずしも解明されていない。カタラーゼやSODのような還元による抵抗性によるものかもしれないし、酸化物(ROS)の生成の抑制によるものかもしれないし、また個体における体質的なものによるものかもしれない。いずれにしても、本発明のこの方法による特徴は、メカニズムに関係なく関連する遺伝子を網羅的に探索することが可能となっていることである。そして、細胞レベルでのスクリーニング法とは異なり個体レベル、即ち個体の体質による関連性についても網羅的に探索することができることである。
したがって、本発明は、前記した酸化ストレス感受性遺伝子又は当該遺伝子がコードしているタンパク質を含有してなる酸化ストレスに対する抵抗性調節用組成物を提供するものである。本発明の酸化ストレス感受性遺伝子は、前記の表1に示されるOxR1〜OxR17として示される遺伝子の塩基配列を有するものだけでなく、当該塩基配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%又は80%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有し、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子であればよい。これらの遺伝子がコードしているタンパク質のアミノ酸配列に基づくならば、アミノ酸配列において少なくとも70%以上、好ましくは80%以上又は90%、より好ましくは95%以上の相同性を有し、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質が包含される。
【0029】
本発明のスクリーニング方法としては、次の(1)から(3)、
(1)本発明で示された酸化ストレス感受性遺伝子の少なくとも1種の遺伝子が欠損又は過剰に発現しているモデル動物、好ましくはショウジョウバエに、
(2)試験物質を投与若しくは接触させ、又は試験物質の存在する環境下で飼育して、
(3)当該試験物質による、当該動物の試験物質に対する反応を測定する、
ことからなるものである。
この方法における動物としては、昆虫、は虫類、両生類などが挙げられるが、昆虫が好ましい。特に好ましい昆虫としては、ショウジョウバエが挙げられる。ショウジョウバエは飼育が容易で、体型も小さく、生活環も約10日余りと短く、低コスト化が可能であるばかりでなく、遺伝子の研究材料として古くから研究されてきており高度な解析技術が確立されており、かつヒトと相同な遺伝子を多数有していることから、モデル動物として特に好ましいものである。
本発明のスクリーニングする方法により、酸化ストレスに対する抵抗性を調整することができる物質を探索することができる。このような物質としては、抗酸化作用を有する化学物質のみならず、人体が接触または吸引する成分を含む材料や塗料を使用した生活用品、薬品、飲食品、化粧品などが挙げられる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のベクターPCR法は、遺伝子を発現させる必要も無く、また前記したインバース−PCR法による欠点を解決するものであり、信頼性も高く、さらに、全ての反応を100μl以下の容量でも実行することができ、簡便に行うことができる。また、本発明の方法における各工程は、既に機械化が進展している工程であり、全工程を自動化することも可能であり、大量の資料を少量の容器で確実に信頼性よく、かつ迅速に処理することができる。したがって、本発明のベクターPCR法を使用することにより、特定された感受性に関連する遺伝子を欠損又は過剰発現するモデル動物を作成して、当該モデル動物における試験物質に対する感受性を測定することにより、試験物質に生体に及ぼす作用効果を簡便にかつ確実にスクリーニングすることができるようになる。
また、本発明により提供される酸化ストレスに対する抵抗性に関与する遺伝子は個体の酸化ストレスに対する抵抗性を調整することができるものであり、当該遺伝子を欠損させたり、当該遺伝子を過剰に発現するモデル動物を作成して各種の試験物質をスクリーニングすることができる。
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
GSベクターの構築
Pエレメント形質転換ベクターpCa SpeR3(Gene 74:445-456, 1988 )に対してPCR法を用いて変異を導入し、5’P末端近傍のP転移酵素コード領域内にEcoRI部位を作成した。pUAST(Development 118:401-415, 1993 )のhps70遺伝子由来コアプロモーターを連結したUASの5個のタンデムリピートを5’P末端近傍のEcoRI部位と、3’p末端近傍のマルチクローニングサイトにあるXhoI部位に挿入し、図1にその構成を模式的に示したGSベクターを作成した。なおこのGSベクターは、2組のUASエンハンサー/プロモーターの間にマーカー遺伝子として白眼遺伝子を有しており、全長は5,254bpである。
【実施例2】
【0033】
GSベクターの挿入
前記の実施例1で作成したGSベクターをショウジョウバエ(y w 系統:東京都立大より入手)に導入し、遺伝子導入ハエを作成した。次いで、転移酵素delta2-3を用いてGSベクターを転移させ、613のGSベクター挿入系統を作成した。その内訳は、GSベクターの転移先がX染色体であるもの147系統、第2染色体であるもの226系統、第3染色体であるもの237系統、第4染色体であるもの3系統であった。また、394系統(64%)は少なくとも1つの検出可能な表現型(例えば、致死性や成体構造の欠損)を示した。
【実施例3】
【0034】
GS系ショウジョウバエの作成
実施例1で作成したGSベクター挿入系統のうち、何らかの検出可能な表現型を示した394系統から163系統を無作為に選択し、GAL4発現系統とを交配させて子孫(F1)個体を産出させ、転写因子GAL4によって強制的に発現させた転写産物を分析した。なお、GAL4発現系統としては、dpp-GAL4、sev-GAL4、hs- GAL4、29BD- GAL4およびc355- GAL4(いずれもBloomington Stock Centerより入手)を使用した。
【実施例4】
【0035】
酸化ストレス抵抗性のショウジョウバエの選択
非特許文献3に記載の装置を用いて、実施例3で作成したショウジョウバエを試験した。その結果表1の「GS系統」の欄に示される17系統のものを選別した。
【実施例5】
【0036】
GSベクターの挿入部位の遺伝子の特定
選別されてきたショウジョウバエのゲノムDNAを抽出し、3’突出型断片を生成する制限酵素HhaIにより消化した。ベクターの一部に対応している次のプライマー
フォーワードプライマーの例:
GSV2:5’−CTGCAGTAAAGTGCAAGTTAAAGTGAATC−3’
GSV3:5’−CCTGGTACATCAAATACCCTTGGATCG−3’
GSV6:5’−GCAACCAAGTAAATCAACTGCAACTACTG−3’
GSV7:5’−CTGCAGTAAAGTGCAAGTTAAAGTG−3’
(前記プライマー中のGSVの名称は本発明者らが命名したものである。)
リバースプライマーの例:
5’−CTCGACCTGCAGCCAAGCTTTGCG−3’
を用いて、Taqポリメラーゼにより、ベクター/ゲノム接合部を含む断片を特異的に複製した(プライマーエクステンション)。このとき、複製酵素の特性により、複製されたDNA鎖の3’端に1塩基のAが鋳型非依存的に付加された。この突出したAに対合するTを3’端に突出する次に示す
5’−GAATTCAGATC−3’
3’−TCTTAAGTCTAGAGGGCCCAATGGC−5’
2本鎖DNAをライゲーションした(アダプターライゲーション)。これによって生成される2本鎖DNAを鋳型として、さらに次のプライマーのセット
フォーワードプライマー:
配列4:5’−GCGGTAACCCGGG−3’
GSV2:5’−GAACTCTGAATAGGGAATTGGGAATTCG−3’
GSV3:5’−CATACATACTAGAATTAGGCCTTCTAG−3’
GSV6:5’−GGGAATTGGGAATTCGACTAGTTTC−3’
GSV7:5’−CTGCAAGTACTGAAATCTGCCAAGAAG−3’
(前記プライマー中のGSVの名称は本発明者らが命名したものである。)
リバースプライマー:
5’−CGACCTGCAGCCAAGCTTTGCGTAC−3’
を用いて1回目のPCRを行った。続いて、次に示すプライマー
フォーワードプライマー:
配列6:5’−CGGGAGATCTGAATTCTC−3’
5’−CCACGTAAGGGTTAATGTTTTC−3’
リバースプライマー
5’−CCTGCAGCCAAGCTTTGCGTACTCGC−3’
を用いて、2回目のPCRを行った。
得られたPCR産物をシークエンス反応の鋳型として、次に示すプライマー
5’−TCGTCCGCACACAACCTTTCCTC−3’
5’−CTCACTCAGACTCAATACGACACTC−3’
を用いて配列を決定した。
この結果、GS系統のゲノムに挿入されたベクターに隣接するゲノム配列を特異的に増幅し、配列を決定した(11,000系統)。それらを用いて、Blast searchを行い、挿入位置にある遺伝子を特定した。
その結果、半数以上の挿入が遺伝子の転写開始点近傍にあることが判明した(図3参照)。GSベクターはGAL転写因子に依存した強制転写機能を有するため,転写開始点近傍にある挿入系統をGAL4発現系統に交配することにより、その遺伝子を強制発現することができる。挿入位置が判明したGS系統について、過酸化水素水を含む培地で飼育したところ、表1に示す17個の遺伝子を強制発現したものが抵抗性を示した。
この結果、同定されたOxR1〜OxR17の17種の遺伝子を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、遺伝子探索ベクター(GSベクター)による遺伝子の探索のための新規な遺伝子の同定方法を提供し、この方法により個体レベルでの各種の感受性遺伝子の探索を可能し、酸化ストレスに対する感受性遺伝子の同定に成功したものであり、個体レベルでの酸化ストレスに対する抵抗性を調整できる新規な遺伝子を提供するものである。また、本発明はこれらの遺伝子による、新規なスクリーニング方法を提供するものである。
したがって、本発明は、医薬産業、化粧品産業、食品産業、さらに健康産業などの各種の産業分野において利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、遺伝子探索ベクター(GSベクター)の構成を例示したものである。
【図2】図2は、本発明の遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定する方法の概要を模式的に示したものである。
【図3】図3は、本発明の遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定する方法により解析された遺伝子の転写開始点からGSベクターの挿入部位までの距離を頻度グラフで示したものである。グラフの縦軸は挿入頻度(%)を示し、横軸は転写開始点からGSベクターの挿入部位までの距離(kb)を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0039】
配列番号1 : プライマーGSV2の塩基配列
配列番号2 : プライマーGSV3の塩基配列
配列番号3 : プライマーGSV6の塩基配列
配列番号4 : プライマーGSV7の塩基配列
配列番号5 : リバースプライマー
配列番号6 : アダプターライゲーション用オリゴヌクレオチド
配列番号7 : アダプターライゲーション用オリゴヌクレオチド
配列番号8 : 前記配列4で示されるオリゴヌクレオチド
配列番号9 : プライマーGSV2の塩基配列
配列番号10: プライマーGSV3の塩基配列
配列番号11: プライマーGSV6の塩基配列
配列番号12: プライマーGSV7の塩基配列
配列番号13: リバースプライマー
配列番号14: 前記配列6で示されるオリゴヌクレオチド
配列番号15: フォーワードプライマー
配列番号16: リバースプライマー
配列番号17: フォーワードプライマー
配列番号18: リバースプライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(1)〜(5)の工程、
(1)遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムを、3’末端側が突出した形の断片を生成する制限酵素で消化する工程、
(2)前記(1)の工程で消化されて生成した断片をプライマーエクステンション法によりベクター/ゲノム接合部を含む断片を複製する工程、
(3)得られた断片をアダプターライゲーション法により、その3’末端側に2本鎖DNAをライゲーションして2本鎖DNAを生成させる工程、
(4)生成させた2本鎖DNAを鋳型としてPCRを行って、これを増幅する工程、
(5)得られた断片の塩基配列を決定する工程、
により、遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を同定する方法。
【請求項2】
3’末端側が突出した形の断片を生成する制限酵素が、Hhalである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プライマーエクステンション法により複製された断片が、3’末端においてA(アデニン)が1塩基突出した断片である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
遺伝子探索ベクター(GSベクター)がゲノムに挿入されたショウジョウバエの中から、特定の表現型を有する個体を選別し、選別された個体における遺伝子探索ベクター(GSベクター)が挿入されたゲノムにおける遺伝子を、請求項1〜3のいずれかに記載の方法により同定することからなる個体の特定の表現型に関連する遺伝子を網羅的に同定する方法。
【請求項5】
個体の表現型が、酸化ストレスに対する抵抗性である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法の方法により個体の特定の表現型に関連する遺伝子を網羅的に同定された遺伝子。
【請求項7】
個体の表現型が、酸化ストレスに対する抵抗性である請求項6に記載の遺伝子。
【請求項8】
遺伝子が、ショウジョウバエ由来のものである請求項6又は7に記載の遺伝子。
【請求項9】
酸化ストレスに対する抵抗性である請求項8に記載の遺伝子が、OxR1〜OxR17のいずれかである請求項8に記載の遺伝子。
【請求項10】
酸化ストレスに対する抵抗性である請求項8に記載の遺伝子が、CG10082−RA、CG10082−RB、CG31305−RA、CG31305−RB、CG31305−RD、CG31305−RF、CG31305−RG、CG31305−RI、CG31305−RJ、CG7405−RA、CG8522−RA、CG8522−RB、CG8522−RC、CG10165−RA、CG10165−RB、CG9804−RA、CG13645−RA、CG13645−RB、CG11518−RA、CG5670−RA、CG5670−RB、CG5670−RC、CG5670−RD、CG5670−RE、CG5670−RF、CG5670−RG、CG5670−RH、CG10272−RA、CG10272−RB、CG10272−RC、CG10272−RD、CG1245−RA、CG1311−RA、CG15092−RA、CG32100−RA、CG10939−RA、CG8067−RA、及びCG10055−RAからなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子、又は当該塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列であって、酸化ストレスに対する抵抗性を有するタンパク質をコードしている遺伝子である請求項8又は9に記載の遺伝子。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の遺伝子がコードしているタンパク質。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の遺伝子の少なくとも1種の遺伝子をゲノム中に有するショウジョウバエにおいて、当該遺伝子を欠損させたショウジョウバエ。
【請求項13】
請求項12に記載のショウジョウバエに、食品又は食品素材を投与又は接触させて、当該ショウジョウバエの食品又は食品素材に対する反応を測定することからなる、食品又は食品素材の抗酸化作用をスクリーニングする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−129934(P2007−129934A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324980(P2005−324980)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】