遺伝子治療用アデノ随伴ウイルスベクターの長期順行性の心外膜冠動脈注入
本発明は、心臓血管疾患を治療するための療法、具体的には冠循環への直接注入による心臓組織への治療作用物質の送達に関する。本発明の好ましい実施形態は、体循環から冠循環を分離せずに、冠循環の血管にポリヌクレオチドを少なくとも3分間にわたって注入することによって心臓疾患を治療または予防するための薬剤の調製における、心臓細胞にトランスフェクトするように適合させた治療用ポリヌクレオチド組成物の使用である。さらなる好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドは、AAV2/1ウイルスベクターのDNase耐性粒子(DRP)にパッケージされたSERCA2aコード配列を含み、注入するDRPの合計数は1×1013以下であり、血管は左または右冠動脈である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年7月25日に出願された米国仮出願第60/833,324号の特典を主張するものである。
【0002】
本発明は、心臓血管疾患を治療するための遺伝子治療、具体的には心臓組織へのポリヌクレオチドの送達に関する。
【背景技術】
【0003】
心臓疾患は、特に西欧諸国では、非常に罹患率が高い主要な公衆衛生上の問題である。心臓疾患は、数例を挙げると、冠動脈疾患、虚血性心疾患、心不全、心臓弁膜症、心不整脈および心臓の炎症(心筋炎)を含む。冠動脈疾患および心不全は、おそらく最も重大で蔓延しており、共に西欧諸国の主な死因である。患者の生活の質およびヘルスケアのコストに対する、急性心筋梗塞および鬱血性心不全およびそれらの後遺症の影響によって、新たな療法を検索することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国仮出願第60/833,324号
【特許文献2】WO00/38518
【特許文献3】米国特許第6,001,650号
【特許文献4】米国特許第6,258,595号
【特許文献5】米国特許第5,139,941号
【特許文献6】米国特許第4,797,368号
【特許文献7】米国特許第5,672,344号
【特許文献8】米国特許第6,013,516号
【特許文献9】米国特許第5,994,136号
【特許文献10】米国特許第6,046,173号
【特許文献11】米国特許第6,867,196号
【特許文献12】米国特許第5,302,523号
【特許文献13】米国特許第5,464,765号
【特許文献14】米国特許出願第2005/0037085号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Liu et al.、FASEB J.2006;20(2):207〜16
【非特許文献2】Liu et al.Toxicol.Appl.Pharmacol.2006 Jan25(電子出版物)
【非特許文献3】Zhu et al.、Circulation.2005;112(17)2650〜9
【非特許文献4】Nykanen et al.、Circ.Res.2006;98(11):1373〜80
【非特許文献5】Kaspar et al.、J.Gene Med.2005;7(3)316〜24
【非特許文献6】Hayase et al.、Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.2005;288(6):H2995〜3000
【非特許文献7】Sandalon et al.、J.Virology、2004;78(22):12355〜12365
【非特許文献8】Vlodaver Z.et al.Coronary Heart Disease:Clinical、Angiographic、and Pathologic Pofiles.Spinger-Verlag、New York.1976
【非特許文献9】McAlpine W.Heart and Coronary Ateries.Spinger Verlag、1975
【非特許文献10】Flotte et el.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1993;90:10613〜17
【非特許文献11】Walsh et al.、J Clin.Invest.、1994;94:1440〜48
【非特許文献12】Grunhaus and Horwitz、Seminar in Virology、1992;3:237〜252
【非特許文献13】Stratford-Perricaudet et al.、Hum.Gene.Ther、1991;1:242〜256;Rich et al.、1993
【非特許文献14】Vassalli G、et al.、Int.J.Cardiol.、2003;90(2〜3):229〜38
【非特許文献15】Gilbert R、et al.、Hum.Mol.Genet.、2003;12(11):1287〜99
【非特許文献16】Daly TM、et al.、Gene Ther.、2001;8(17):1291〜8
【非特許文献17】Glorioso et al.、Annu.Rev.Microbiol.、1995;49:675〜710
【非特許文献18】Friedmann、Science、1989;244:1275〜1281
【非特許文献19】Horwich et al.、J.Virol.、1990;64:642〜650
【非特許文献20】Chang et al.、Hepatology14:134A(1991)
【非特許文献21】Wagner et al、Proc.Natl.Acad.Sci.87(9):3410〜14(1990)
【非特許文献22】Pathak et al.Circ Res.、2005;96(7)756〜66
【非特許文献23】Brain J.D.、et al.、Am J Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.、1999;276:146〜154
【非特許文献24】Rip J、et al.、Hum.Gene Ther、005;16(11):1276〜86
【非特許文献25】Preovolos AC、et a1.、J.Extra Corpor.Technol.2006;38(1):51〜2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鬱血性心不全(CHF)は、心臓が血液を効率良くポンプで送り出す能力を失う重大な疾患である。National Heart、Lung and Blood Instituteからのデータは、米国内だけで約5百万人の人々が心不全を有しており、さらに550,000の新たな症例が毎年診断されることを示唆する。CHFは年間約300,000の死の原因であり、あるいはこれらを引き起こす。この疾患は、65才以上の人々、女性およびアフリカ系アメリカ人において最も一般的である。心不全の最も一般的な症状は、息切れ、疲労感、および足首、足、脚、および時には腹部の腫れである。鬱血性心不全のための治療法は存在せず、有効な療法に関する明らかな必要性が当技術分野で存在する。
【0007】
一層注目され始めている、CHFなどの心臓疾患を治療する1つの方法は、ポリヌクレオチドを心臓組織、典型的にはウイルスベクターで送達する遺伝子治療である。心筋への直接注射(Liu et al.、FASEB J.2006;20(2):207〜16;Liu et al.Toxicol.Appl.Pharmacol.2006 Jan25(電子出版物);Zhu et al.、Circulation.2005;112(17)2650〜9)、冠動脈内送達(Nykanen et al.、Circ.Res.2006;98(11):1373〜80;Kaspar et al.、J.Gene Med.2005;7(3)316〜24)、冠静脈を封鎖しながらのカテーテルベースの順行性の冠動脈内送達(Hayase et al.、Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.2005;288(6):H2995〜3000)、大動脈および肺動脈遮断、次にアデノ随伴ウイルスベクターの大動脈近位部注射(Kaspar et al.、J.Gene Med.2005;7(3)316〜24)を含めた、心臓にウイルスベクターを送達する多数の手段が試されてきている。LeidenおよびSvenssonは、冠動脈または洞へのrAAVベクターのin vivo注入を一般的に言及しているが、心臓が鼓動を停止した4℃におけるex vivoでレポーター遺伝子を用いたマウス心臓の灌流(WO00/38518)、ヒトなどの大型動物を治療するのに実用的でない方法のみを詳しく記載している。したがって、これらの方法は、例えば外科的介入の必要があり、または心筋への酸素含有血液の流入が遮断されるため危険性が高すぎるので、方法を実施するのに必要とされるウイルスベクターの量のため、トランスフェクトされる組織の割合が低いため、形質導入が注射/投与部位のみに限られるという事実のため、あるいは方法が大型動物またはヒトにおける疾患の治療に関して非実用的または未確認であるため、臨床設定で使用するにはいずれも不十分である。ウイルスベクター中のトランス遺伝子を心臓組織に送達して、特にヒトにおける疾患を治療する、簡潔、侵襲性が最少であるが、有効な手段に関する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、心臓血管疾患を治療するための療法、具体的には、冠循環への直接的心外膜注入による心臓組織への治療作用物質の送達に関する。本発明の好ましい実施形態は、体循環から冠循環を分離せずに、冠循環の血管にポリヌクレオチドを少なくとも3分間にわたって注入することによって心臓疾患を治療または予防するための薬剤の調製における、心臓細胞にトランスフェクトするように適合させた治療用ポリヌクレオチド組成物の使用である。
【0009】
他の実施形態は、大型哺乳動物の心臓細胞にトランスフェクトすることによって心臓血管疾患を治療または予防する方法であって、心臓血管疾患を治療または予防する必要がある哺乳動物を同定する段階と、in vivoで冠循環の血管に治療用ポリヌクレオチドを注入する段階とを含み、治療用ポリヌクレオチドを血管に少なくとも約3分間にわたって注入し、冠循環を哺乳動物の体循環から分離または実質的に分離せず、治療用ポリヌクレオチドを哺乳動物の心臓細胞にトランスフェクトして、心臓血管疾患の治療または予防をもたらす方法である。
【0010】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドを少なくとも約5分間にわたって血管に注入し、いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドを少なくとも約10分間にわたって血管に注入し、いくつかの実施形態では、それを少なくとも約15分間にわたって血管に注入する。
【0011】
いくつかの実施形態では、血管中への注入は約6.0mL/分以下の速度であり、いくつかの実施形態では、それは約2.5mL/分以下の速度であり、いくつかの実施形態では、それは約2.0mL/分以下の速度であり、いくつかの実施形態では、それは約1.2mL/分以下の速度であり、いくつかの実施形態では、それは約1.0mL/分以下の速度であり、いくつかの実施形態では、それは約0.6mL/分以下の速度である。
【0012】
いくつかの実施形態では、血管は左冠動脈である。いくつかの実施形態では、冠循環の流出は不自然に制限されない。
【0013】
いくつかの実施形態では、側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションは、PCRを使用して検出可能である。
【0014】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、心臓細胞の細胞活動を調節することができるタンパク質を発現することができる。いくつかの実施形態では、細胞活動は心筋細胞のカルシウム循環経路である。いくつかの実施形態では、タンパク質は筋小胞体/小胞体ATPase(SERCA)であり、いくつかの実施形態では、SERCAはSERCA2aである。
【0015】
好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドは、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ウシパピローマウイルス、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、およびポリオーマウイルスからなる群から選択されるウイルスベクター中に存在する。より好ましい実施形態では、ウイルスベクターはAAVウイルスであり、およびより好ましい実施形態では、ウイルスベクターはAAV2/1ベクターである。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドはCMV系プロモーターと作動可能に連結しており、ウイルスベクターにパッケージされている。好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドはSERCA2aコード配列を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、心臓細胞のトランスフェクションは側脳室の短縮率を増大させる。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトであり、疾患は鬱血性心不全である。
【0017】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドをウイルスベクターのDNase耐性粒子(DRP)にパッケージする。いくつかの実施形態では、注入するDRPの合計数は、1×1014、1×1013、3×1012、1×1012、1×1011、1×1010、1×109、および1×108からなる群から選択される量以下である。いくつかの実施形態では、注入するDRPの合計数は1×1013以下である。
【0018】
一実施形態では、注入するDRPの合計数は1×1012以下であり、ウイルスベクターはAAV2/1であり、ポリヌクレオチドはSERCA2aコード配列を含み、血管は左または右冠動脈であり、ポリヌクレオチドの注入は2mL/分以下の流速で少なくとも約10分間続き、側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションはPCRを使用して検出可能である。
【0019】
いくつかの実施形態では、疾患は心不全、虚血、不整脈、心筋梗塞、鬱血性心不全、移植片拒絶反応、異常な心収縮性、非虚血性心筋症、僧帽弁逆流、大動脈弁狭窄症または逆流、異常なCa2+代謝および先天性心疾患からなる群から選択される。
【0020】
一実施形態では、ウイルスベクターはAAV2/1であり、ポリヌクレオチドはSERCA2aコード配列を含み、血管は左または右冠動脈であり、ポリヌクレオチドの注入は約2.5mL/分以下の流速で少なくとも約8分間続き、側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションはPCRを使用して検出可能であり、心臓細胞のトランスフェクションは、ポリヌクレオチド注入前の側脳室の短縮率と比較して、注入後約4カ月で測定すると少なくとも25%側脳室の短縮率を増大させる。
【0021】
一実施形態では、哺乳動物はヒトであり、ウイルスベクターはAAV2/1であり、ポリヌクレオチドはSERCA2aコード配列を含み、血管は左または右冠動脈であり、かつポリヌクレオチドの注入は少なくとも約10分間続く。いくつかの実施形態では、心臓血管系の疾患は鬱血性心不全である。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドの注入は約6mL/分の流速である。
【0022】
いくつかの実施形態では、心臓細胞のトランスフェクションは、SERCA2aタンパク質の発現、短縮率、駆出率、心拍出量、心室弛緩の時定数、および逆流量からなる群から選択される心臓機能の測定値の改善をもたらす。
【0023】
いくつかの実施形態では、本発明は、冠循環のさらなる血管へのポリヌクレオチドの注入をさらに含み、ポリヌクレオチドをさらなる血管に少なくとも約3分間にわたって注入する。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトであり、ウイルスベクターはAAV2/1であり、ポリヌクレオチドはSERCA2aコード配列を含み、血管は左冠動脈であり、左冠動脈へのポリヌクレオチドの注入は少なくとも約6分間続き、さらなる血管は右冠動脈であり、右冠動脈へのポリヌクレオチドの注入は少なくとも約3分間続く。いくつかの実施形態では、心臓血管系の疾患は鬱血性心不全である。いくつかの実施形態では、左冠動脈および右冠動脈へのポリヌクレオチドの注入は約6mL/分の流速である。
【0024】
いくつかの実施形態では、心臓細胞のトランスフェクションは、SERCA2aタンパク質の発現、短縮率、駆出率、心拍出量、心室弛緩の時定数、および逆流量からなる群から選択される心臓機能の測定値の改善をもたらす。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明は、SERCA2aをコードするポリヌクレオチドを含むAAV2/1ベクターの少なくとも1×1011個のDRPを含む医薬組成物と、SERCA2aをコードするポリヌクレオチドを含むAAV2/1ベクターの少なくとも0.5×1011個のDRPを含む溶液を冠循環の血管へのin vivo注入によって心臓血管疾患を治療または予防する必要がある患者に投与すべきであり、冠循環を患者の体循環から分離または実質的に分離せず、ポリヌクレオチドを血管に少なくとも約3分間にわたって注入することを説明する説明書とを含むキットである。いくつかの実施形態では、血管は左または右冠動脈であり、ポリヌクレオチドの注入は少なくとも約8分間である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】AAV2/1/SERCA2a(tgABG12)のDNAの特徴を示す図である。
【図2】野生型AAVと組換えAAVのDNAの比較の図である。
【図3】実施例1中に記載した実験中において回収したサンプルの位置を示す、心臓を示す図である。
【図4】組織サンプル中のAAV2/1/SERCA2aのDNAの検出において使用したPCRプライマーの位置を示す図である。
【図5】同量のAAV2/1/SERCA2aの注入時間の増大が心臓組織のサンプル中のAAV2/1/SERCA2aのコピーの増大をもたらしたことを示す、実施例1中に記載した実験の結果を示す表である。
【図6】AAV2/1/SERCA2aの注入が用量依存的静脈内注射より多数のAAV2/1/SERCA2aのコピーの増大をもたらしたことを示す、実施例2中に記載した実験の結果を示す表である。
【図7A】実施例3からの非実験対照動物、製剤注入動物(生理食塩水)およびAAV2/1/SERCA2a治療動物における、SERCA2aタンパク質(上部)およびmRNA(下部)の発現を示すポリアクリルアミドゲルの図である。
【図7B】実施例3の3つの治療群間の正規化したSERCA2aタンパク質の発現を比較するグラフである。
【図8】AAV2/1/SERCA2aの順行性の心外膜冠動脈注入は、左心室の増大した短縮率、心不全のモデルにおける改善された心臓機能の指標をもたらすことを示す、実施例3中に記載した実験の結果を示すグラフである。
【図9】第56日と比較した第112日の短縮率の絶対的変化のプロットである。
【図10】第56日と比較した第112日の駆出率の絶対的変化のプロットである。
【図11】第56日と比較した第112日の心拍出量(mL/分)の絶対的変化のプロットである。
【図12】第56日と比較した第112日のtau(LV弛緩の時定数、ミリ秒)の絶対的変化のプロットである。
【図13】第56日と比較した第112日の逆流量(mL)の絶対的変化のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、心臓血管疾患を治療するための療法に関する。本発明の一実施形態は、心臓組織にトランスフェクトして鬱血性心不全(CHF)を有する患者の心筋収縮性を改善することにより、心筋細胞のカルシウムレベルを正規化することによって心臓疾患を治療するための薬剤の調製における、心臓細胞にトランスフェクトするように適合させた治療用ポリヌクレオチド組成物の新規の使用である。好ましい実施形態は、少なくとも約3分間より長い間冠循環中in vivoに直接注入する遺伝子導入剤、AAV2/1/SERCA2aを使用し、冠循環は動物の体循環から分離されず、またはその他の形で不自然に制限されない。
【0028】
本明細書で使用する「ポリヌクレオチド」は、当技術分野におけるその通常および通例の意味を有し、DNAまたはRNA分子などの任意のポリマー核酸、および当業者に知られている化学誘導体を含む。ポリヌクレオチドは治療用タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むだけでなく、当技術分野で知られている技法を使用して標的核酸配列(例えば、アンチセンス、干渉、または低分子干渉核酸)の発現を低下させるために使用することができる配列も含む。一例は、ホスホランバンの発現を低下させるかあるいは排除する配列である。ポリヌクレオチドを使用して、心臓血管系の細胞内の標的核酸配列の発現または標的タンパク質の生成を開始または増大させることも可能である。標的核酸およびタンパク質には、標的組織中で通常見られる核酸およびタンパク質、そのような本来存在する核酸またはタンパク質の誘導体、標的組織中で通常見られない本来存在する核酸またはタンパク質、あるいは合成核酸またはタンパク質があるが、これらだけには限られない。1つまたは複数のポリヌクレオチドを組み合わせて同時および/または連続的に投与して、1つまたは複数の標的核酸配列またはタンパク質を増大および/または低下させることが可能である。
【0029】
本明細書で使用する用語「注入」、「注入された」、および「注入する」は当技術分野におけるそれらの通常および通例の意味を有し、当技術分野で認められている用語「注射」または「ボーラス注射」(典型的には1分間未満)より実質的に長い、一定時間期間(典型的には1分間以上)の投与を指す。注入の流速は投与する体積に少なくとも部分的に依存するはずであるが、しかしながら「注入」の流速は、同体積の「注射」の流速より遅い。
【0030】
「有効量」は、当技術分野におけるその通常および通例の意味を有し、有益または所望の治療効果を実施または達成するのに十分な量を含む。例えば「有効量」は、以下のいずれか:側脳室の短縮率の増大、および/または苦痛緩和、改善、安定化、反転、疾患状態の進行または兆候または症状の緩慢化または遅延を達成する量である。有効量は1回または複数回の投与で投与することができる。
【0031】
本明細書で使用する「と共に」、「と組み合わせて」、「同時」または「同時に」は当技術分野におけるそれらの通常および通例の意味を有し、1つの治療モダリティおよび他の治療モダリティの実施を含む。例えば、対象への本発明のポリヌクレオチドの注入、および同一個体への当技術分野で認められている医薬組成物の投与。本明細書で使用するこれらの用語は、同時投与、および連続的な治療モダリティの実施を含む。
【0032】
本明細書で使用する疾患を「治療する」または疾患の「治療」は当技術分野におけるその通常および通例の意味を有し、疾患の進行または疾患の兆候または症状の停止または緩慢化を含めた、疾患の安定状態、治癒、不完全治癒を含む。用語「予防」は当技術分野におけるその通常および通例の意味を有し、疾患または疾患の兆候または症状の完全または不完全な予防、発症遅延を含む。用語「治療的」、「治療効果」または「臨床効果」は、治療と予防の両方を含む。本発明を使用して治療されると考えられる心臓血管系と関係がある疾患の例には、心不全、虚血、不整脈、心筋梗塞、鬱血性心不全、移植片拒絶反応、異常な心収縮性、非虚血性心筋症、僧帽弁逆流、大動脈弁狭窄症または逆流、異常なCa2+代謝および先天性心疾患があるが、これらだけには限られない。例えば、有益または所望の臨床結果または治療効果には、心臓血管疾患の兆候または症状の大幅な軽減、疾患の程度のさらなる低下、疾患状態の安定(すなわち、悪化しない)、疾患進行の遅延または緩慢化、疾患状態の改善または苦痛緩和、および(部分的または全体的であれ)寛解、検出可能または検出不能があるが、これらだけには限られない。治療効果の他の例には、増大した側脳室の短縮率、細胞および無傷動物レベルで増大した心筋収縮性、心臓リモデリングの反転、および異常に高い心臓拡張レベルの細胞質カルシウムの正規化があるが、これらだけには限られない。本発明の実施形態で治療した対象において改善することができる他の臨床的特徴には、非制限的に、生存、心臓代謝、心筋収縮性、心拍数、心室機能(例えば、左心室拡張末期圧(LVEDP)、左心室収縮末期圧(LVSP))、Ca2+代謝(例えば、細胞内Ca2+濃度、ピークまたは休止状態[Ca2+]、SRのCa2+ATPase活性、ホスホランバンのリン酸化状態)、力発生、心臓の弛緩および圧力、力収縮頻度関係、心臓細胞の生存またはアポトーシスまたはイオンチャンネル活性(例えば、ナトリウムとカルシウムの交換、ナトリウムチャンネル活性、カルシウムチャンネル活性、ナトリウムカリウムATPaseポンプ活性)、ミオシン重鎖、トロポニンI、トロポニンC、トロポニンT、トロポミオシン、アクチン、ミオシン軽鎖キナーゼ、ミオシン軽鎖1、ミオシン軽鎖2またはミオシン軽鎖3、IGF-1受容体、PI3キナー
ゼ、AKTキナーゼ、ナトリウム-カルシウム交換体、カルシウムチャンネル(LおよびT)、カルセクエストリンまたはカルレチクリンの活性がある。改善することができる心臓疾患の他の測定値は、短縮率、心拍出量、駆出率、Tau、逆流量、短期間の入院、改善された生活の質、および増大したトレッドミル時間を含む。
【0033】
本明細書で使用する「外因性」核酸または遺伝子は、核酸導入に利用するベクター中に本来存在しない、例えばウイルスベクター中に本来見られない核酸または遺伝子であるが、この用語は、患者または宿主中に本来存在するタンパク質またはポリペプチドをコードする核酸、例えばSERCAを除外することを目的とするものではない。
【0034】
本明細書で使用する「心臓細胞」は、心筋細胞、心臓血管系の細胞、または心臓弁中に存在する細胞などの、心臓の構造の維持または心臓の機能の提供と関係がある心臓の任意の細胞を含む。心臓細胞は、心筋細胞(正常な電気特性と異常な電気特性の両方を有する)、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、通道組織の細胞、心臓ペースメーカー細胞、およびニューロンを含む。
【0035】
本明細書で使用する「分離された」、「実質的に分離された」または「大部分が分離された」およびそれらの変形は、冠静脈、心臓、体静脈、または体循環の完全または絶対的な分離を必要としない用語であり、むしろ、それらは大部分、好ましくは主要部分またはさらに実質的にすべての特定循環が分離されることを意味するものとする。本明細書で使用する「部分的に分離された」は、分離される特定循環の任意の重要部分を指す。
【0036】
本明細書で使用する「不自然に制限される」は、血管を介した流体の流れを制限する任意の方法、例えばバルーンカテーテル、縫合などを含むが、自然に生じる制限、例えばプラークの蓄積(狭窄)は含まない。不自然な制限は、例えば冠循環の実質的または完全な分離を含む。
【0037】
本明細書で使用する「調節する」は、その通常の意味を有し、標的の発現または活性の増大と低下の両方を含む。
【0038】
本明細書で使用する用語「最少侵襲」は、心臓または心臓と密接に結び付いた血管への外科的切開処置を必要としない任意の手順を含むものとする。このような手順は、心臓にアクセスするための内視鏡的手段の使用、および大動脈および静脈、大腿動脈などを介したアクセスに頼るカテーテル系手段も含む。
【0039】
本明細書で使用する用語「アデノ随伴ウイルス」または「AAV」は、すべての亜型、血清型および偽型、ならびに天然および組換え型を含む。様々なAAVの血清型および系統が当技術分野で知られており、ATCC、および専門的または商業的供給元などの供給元から一般に入手可能である。あるいは、様々なデータベースから公開済みおよび/または入手可能であるAAVの血清型および系統由来の配列を、知られている技法を使用して合成することができる。
【0040】
本明細書で使用する用語「血清型」は、明確な抗血清とのカプシドタンパク質の反応性に基づいて同定され他のAAVと区別されるAAVを指す。AAV1〜AAV12を含めた少なくとも12の知られているヒトAAVの血清型が存在するが、しかしながら他の血清型が発見され続けており、新たに発見される血清型の使用が企図される。例えば、AAV2血清型を使用して、AAV2のcap遺伝子由来のコードされたカプシドタンパク質および同じAAV2血清型由来の5'および3'逆方向末端反復(ITR)配列を含むゲノムを含むAAVを指す。
【0041】
「偽型」AAVは、一種の血清型由来のカプシドタンパク質、および異なるすなわち異種血清型の5'および3'逆方向末端反復(ITR)を含むウイルスゲノムを含むAAVを指す。偽型rAAVは、カプシド血清型の細胞表面結合性、およびITR血清型と一致した遺伝的性質を有すると予想され得る。偽型rAAVは、VP1、VP2、およびVP3カプシドタンパク質を含めたAAVカプシドタンパク質、およびAAV1〜AAV12の任意の霊長類AAV血清型を含めた任意の血清型AAV由来のITRを含むことができる、ただしカプシドタンパク質は、ITRの血清型と異種の血清型であるものとする。偽型rAAVでは、5'および3'ITRは同一または異種であってよい。偽型rAAVは、当技術分野で記載される標準的な技法を使用して生成する。
【0042】
「キメラ」rAAVベクターは異種カプシドタンパク質を含むAAVベクターを含む、すなわちrAAVベクターは、VP1、VP2およびVP3がすべて同じ血清型のAAVのものではないように、そのカプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3に関してキメラであってよい。本明細書で使用するキメラAAVは、例えばAAV1およびAAV2由来のカプシドタンパク質だけには限られないが、これらを含めたカプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3が血清型が異なり、他のパルボウイルスカプシドタンパク質の混合物であるか、あるいは他のウイルスタンパク質または他のタンパク質、例えば所望の細胞または組織にAAVを標的送達するタンパク質などを含むAAVを含む。本明細書で使用するキメラrAAVは、キメラ5'および3'のITRを含むrAAVも含む。本発明は、異なるAAV血清型、例えばAAV1およびAAV2由来のITRを含むキメラrAAVベクターを含み、キメラrAAVは合成配列を含むことができる。
【0043】
rAAVウイルスベクターは、米国特許第6,001,650号および米国特許第6,258,595号中に記載されたのと同様の一過性トランスフェクション戦略を含めた、当技術分野で知られている任意のいくつかの方法によって生成することができる。典型的には、rAAVベクター生成は4つの一般的要素:1)本明細書に記載するベクター生成系に適用可能である、293-A、293-S(BioRelianceから得られる)、VERO、およびHeLa細胞系を含めた当技術分野で知られている標準的な宿主細胞を含む複製許容宿主細胞、2)形質導入生成系で利用するとき、プラスミド、アデノウイルス5型(Ad5)のE2a、E4-orf6およびVA遺伝子を発現するpAdヘルパー4.1として与えられるヘルパーウイルス機能、3)トランスパッケージrep-cap構築体、および4)AAVのITR配列に隣接する当該の遺伝子を必要とする。トランスフェクション生成は、Sandalon et al.、J.Virology、2004;78(22):12355〜12365による記事中に記載されたのと同様に実施することができる。
【0044】
治療法
本発明の好ましい実施形態では、以下でより詳細に記載する治療作用物質、例えばポリヌクレオチド/ウイルスベクターを、特定の血管中に少なくとも3分間、in vivoで鼓動する心臓の冠循環の血管への注入によって対象に投与する。ヒト心臓および心臓血管疾患の大型動物モデルにおいて、本出願人は、比較的長い注入時間のウイルスベクターの投与は、同量のウイルスベクターのボーラス注射または短時間(例えば1分以下)の注入時間より有効であり、心臓組織への優れた遺伝子導入効率をもたらすことを予想外に見出している。注入の改善された有効性は、注射と比較した、細胞当たりのトランス遺伝子の多くのコピー数、細胞当たりまたは組織中のmRNAおよび/またはタンパク質レベルでのトランス遺伝子の増大した発現、および/またはトランスフェクトされる特定組織の細胞、例えば心筋細胞の高い割合として測定することができる。本出願人は、大型動物モデルにおいて、これがヒト心臓血管疾患のモデルの首尾良い治療をもたらすことを示している。さらに本出願人は、比較的長い注入時間を使用することによって、体循環から冠循環を分離する、あるいはその他の形で治療作用物質を再循環させる、あるいは冠循環内の圧力の増大または治療作用物質の滞留時間の増大のための手段としての冠静脈循環を人為的に制限する必要がないことを発見している。心臓を冷却する、心臓を停止させる、あるいは灌流用に動物から心臓を除去するために、血管作用薬(例えば、ヒスタミン、ヒスタミンアゴニスト、または血管内皮増殖因子)などの他の作用物質で心臓組織を事前治療する必要もない。その代わり、本出願人の手順は、既存の投与用カテーテルを使用する標準的カテーテル法の研究室設定で実施することができる。したがって本出願人は、ヒトなどの大型動物において心臓血管疾患を治療するために遺伝子治療を使用する、簡潔、実用的、かつ有効な手段を発見している。
【0045】
本発明の好ましい実施形態では、冠循環の血管への注入によって対象に治療作用物質を投与する。冠循環は心臓の組織への血液供給をもたらす。いくつかの冠動脈が存在する。通常、4つの主な冠動脈;左主および右冠動脈、左冠動脈前下降枝、および左回旋枝が、心臓組織を通じて分布させるために心臓に酸素含有血液を与える。これらの動脈の1つまたは組合せの注入、例えば左および右冠動脈の注入が企図される。好ましい実施形態は、左および右主冠動脈の順行性の心外膜注入を利用する。冠動脈の逆行性注入、または1つまたは複数の順行性および逆行性の冠動脈または静脈の組合せも企図される。冠動脈血管の注入は、標準的なガイドワイヤー、カテーテルおよび注入ポンプを使用して実施する。好ましい実施形態では、注入用カテーテルを、大腿動脈経由で透視下において冠動脈に向ける。本明細書で使用する「冠循環の血管」、「冠動脈血管」または「心臓の血管」は、冠動脈血管への移植、例えばバイパス手術移植から生じる移植を含む。本明細書で使用する「心外膜」は、心臓の外側部分に位置する血管、例えば左または右冠動脈を指す。
【0046】
ひとたび注入用カテーテルを標的冠動脈血管中の適所に置いた後、好ましくはプログラム可能な注入ポンプによって、治療作用物質を血管に注入する。治療作用物質を注入するのに要する時間の量は、有効かつ優れた遺伝子導入効率を得る際の重要な要因である。本出願人は、特定の血管中に少なくとも約3分間の注入時間は、ボーラス注射またはさらに短い注入時間より有効であることを測定している。好ましくは、注入時間は少なくとも約8分間、より好ましくは少なくとも約10分間であるが、少なくとも約15分間の注入時間が企図される。本出願人は、注入時間は約、少なくとも、少なくとも約、長くても、または長くても約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20分である、あるいはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲の範疇にあることも企図する。
【0047】
注入はカテーテルおよび死容積を有する接続管の使用を典型的に含むので、いかなる治療作用物質も含まない担体溶液、例えば対象由来の血液を、注入用デバイスに満たすことが多い。したがって、注入ポンプを作動させたときに、治療作用物質を冠循環に即座に投与することはない。同様に、治療作用物質を含むシリンジが空であるとき、一定量の治療作用物質が接続管およびカテーテルの死容積中に典型的には残存する。治療作用物質の注入直後に、適切な溶液、好ましくは治療作用物質を投与するのに使用したのと同じ流速で死容積部分を洗い流す。注入装置内の死容積の移動に対して、治療作用物質を冠循環に実際に送達する時間期間が前に言及した「注入時間」である。例えば、3mLの治療作用物質を3mLの死容積を有する注入装置に充填し、注入速度が1mL/分である場合、冠循環に治療作用物質を注入するのに必要な時間はわずか3分間であり、3mLの治療作用物質および3mLの死容積を投与するのに必要な合計時間は6分間である。いくつかの実施形態では、カテーテルおよび任意の接続管を、死容積が問題ではないように治療作用物質で満たす。同様に、管を洗い流す必要なしで、有効量の治療作用物質を送達することが可能であった。しかしながら、これは管中の治療作用物質の残存をもたらし、治療作用物質を浪費する。
【0048】
本出願人は、約、少なくとも、少なくとも約、多くて、または多くて約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、または10.0mL/分である、あるいはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲の範疇にある流速で、治療作用物質を注入することを企図する。好ましくは、流速は約0.2mL/分と約6.0mL/分の間、より好ましくは約0.2mL/分と約2.5mL/分の間、より好ましくは約0.2mL/分と約2.0mL/分の間である。当業者は、注入ポンプなしでの治療作用物質の送達は可能であるが、しかしながら、より正確な流速および均一な送達が注入ポンプの使用によって可能であることを理解しているはずである。
【0049】
有効量を与えるために注入によって送達するウイルス粒子またはDNase耐性粒子(DRP)の合計量は、好ましくは1×1014と約1×1011の間、より好ましくは約3×1012と1×1012の間、およびより好ましくは約1×1012である。しかしながら本出願人は、ウイルス粒子またはDRPの合計量は約、少なくとも、少なくとも約、多くて、または多くて約1×1014、9×1013、8×1013、7×1013、6×1013、5×1013、4×1013、3×1013、2×1013、1×1013、9×1012、8×1012、7×1012、6×1012、5×1012、4×1012、3×1012、2×1012、1×1012、9×1011、8×1011、7×1011、6×1011、5×1011、4×1011、3×1011、2×1011、1×1011、9×1010、8×1010、7×1010、6×1010、5×1010、4×1010、3×1010、2×1010、1×1010、9×109、8×109、7×109、6×109、5×109、4×109、3×109、2×109、1×109、9×108、8×108、7×108、6×108、5×108、4×108、3×108、2×108、または1×108である、あるいはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲の範疇にあることも企図する。
【0050】
所与の時間注入するDRPの数は、注入する溶液の濃度および流速の関数である。DRPまたはウイルス粒子注入の割合は、好ましくは約1×108/分と約1×1014/分の間、より好ましくは約5×1010/分と約5×1012/分の間、より好ましくは約3×1010/分と約1×1012/分の間、より好ましくは約6×1010/分と約4×1011/分の間である。好ましい実施形態では、DRPまたはウイルス粒子注入の割合は1×1011/分であり、および他の好ましい実施形態では、それは1.25×1011/分である。
【0051】
一実施形態では、治療作用物質は心臓の1本の血管に投与する。他の実施形態では、治療作用物質の合計体積の2/3を心臓の1本の血管に送達し、1/3は心臓の他の血管に投与する。他の実施形態では、3本以上の冠動脈血管に注入し(例えば3、4、5本あるいはそれ以上)、血管当たりに投与する治療作用物質を含む合計注入体積の割合は、必要に応じて調節することができる。注入の目的は、順行性の、心外膜冠動脈注入による、AAV2/1/SERCA2aへの広範、均質な心筋の露出をもたらすことである。同時側性化パターン、閉塞性疾患、および解剖的変異(例えば、バイパス手術後の解剖学的構造)に基づく多数の注入シナリオが存在するが、臨床医の目的はAAV2/1/SERCA2aの1/3を前外側に送達し、1/3を後外側に送達し、かつ1/3を下部/下外側心筋に送達することである。灌流心筋への均質な送達を実施するために、冠動脈およびバイパス移植によって解剖学的構造を定義する。さらに当業者は、ヒツジとブタはヒト心臓血管試験用の容認された動物モデルである一方で、ヒツジとブタは90%が左優性であることを理解しているはずである。相対的に、ヒト集団の約10%までが左優性であり、残りの90%は右または相互優性である(Vlodaver Z.et al.Coronary Heart Disease:Clinical、Angiographic、and Pathologic Pofiles.Spinger-Verlag、New York.1976)。1つの病理学システムは、71%の患者は右優性であり、17%は相互優性であり、12%は左優性であることを示唆する(McAlpine W.Heart and Coronary Ateries.Spinger Verlag、1975)。したがって、ヒト対ブタ/ヒツジにおいて左心室の類似した灌流を実施するためには、最適な注入シナリオは異なる可能性がある。
【0052】
溶液体積の1/3と2/3の分割は2本の血管には好ましいが、しかしながら、特定の血管に注入する注入量の割合は、合計量の約、少なくとも、少なくとも約、多くて、または多くて約20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、または80%である、あるいはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲の範疇にある量であってよい。治療作用物質を含む溶液の合計量は、治療する動物の大きさに応じて変わるはずである。ヒト対象に関しては、60mLの合計治療作用物質量が好ましい。しかしながら、治療作用物質の合計量は、約、少なくとも、少なくとも約、多くて、または多くて約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、または150mLである、あるいはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲の範疇にある量であってよい。
【0053】
本明細書に記載する治療作用物質は、冠循環に直接投与するのに適した溶液、好ましくは医薬組成物であってよい。許容可能な医薬組成物の成分は当業者に知られており、バッファーおよび適切な担体などの要素を含むことができる。他の実施形態では、治療作用物質、例えばウイルスベクター、およびより好ましくはAAV2/1/SERCA2aベクターを含む医薬組成物はキットの一部分である。いくつかの実施形態では、キットは治療作用物質のストック溶液およびストック溶液を希釈するための溶液を含む。好ましくは本明細書に開示する実施形態のいずれかに記載する冠循環への直接注入による、ウイルスベクターの投与に関する説明書もキット中に含まれる。同様に、本明細書に記載する治療作用物質は、本明細書に開示する疾患を治療するための薬剤の製造において使用することができ、この場合薬剤は冠循環に直接注入する。
【0054】
ポリヌクレオチド送達の方法
本発明の一態様は、細胞中への治療用ポリヌクレオチドの導入を企図する。このような導入は、ウイルスまたは非ウイルス的遺伝子導入法を利用することができる。この項は、アンチセンス、干渉、低分子干渉配列の導入を含めた、遺伝子または核酸導入の方法および組成物の考察を与える。
【0055】
一実施形態では、治療上有意なポリヌクレオチドをウイルスベクターに組み込んで、細胞への導入を介在する。本明細書に記載する他の治療作用物質をコードする他の発現構築体も、例えば本発明のアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた形質転換によって、感染性ウイルス粒子を使用するウイルス形質導入によって導入することができる。あるいは、レトロウイルス、ウシパピローマウイルス、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ポリオーマウイルス、または発現するように工学的に作製された感染性ウイルスを使用することができる。同様に、灌流、裸DNAトランスフェクション、リポソーム介在トランスフェクション、カプセル化、および受容体介在エンドサイトーシスなどによるDNAの直接送達だけには限られないが、これらを含めた非ウイルス的方法を使用することができる。これらの技法は当業者にはよく知られており、その詳細は本発明の核心に存在せず、したがって本明細書で包括的に詳述する必要はない。しかしながら、好ましい一例では、ウイルスベクターを心臓細胞の形質導入に使用して、治療上有意なポリヌクレオチドを細胞に送達する。受容体介在エンドサイトーシスなどの特異的手段によって、あるいはピノサイトーシスなどの非特異的手段によって、ウイルスは細胞の内側に侵入することができる。
【0056】
いくつかの例示的なベクターをここで記載する。以下の論述は非包括的であることは理解されるはずである。
【0057】
アデノ随伴ウイルスベクター
本発明の好ましい実施形態は、精製済み、複製不能な、偽型組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子を利用する。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、デペンドウイルス属に属するパルボウイルスである。それらは、複製するためにヘルパーウイルスを必要とする、小さな、非エンベロープ型の、一本鎖DNAウイルスである。ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはワクシニアウイルス)との重感染は、機能的に完全なAAVビリオンを形成するのに必要である。In vitroでは、ヘルパーウイルスとの重感染の不在下において、AAVは潜伏状態を確立し、その間ウイルスゲノムはエピソーム形で存在するが、感染性ビリオンは生成されない。ヘルパーウイルスによる後の感染はゲノムを「レスキュー」し、それを複製しウイルスカプシドにパッケージすることができ、それによって感染性ビリオンを再構築することができる。近年のデータは、in vivoでは野生型AAVと組換えAAVの両方が大型エピソームコンカテマーとして主に存在することを示す。
【0058】
AAVはいかなる既知のヒト疾患とも関係がなく、一般に病原性であるとは考えられず、組込み時に宿主細胞の生理的性質は変えないようである。AAVは非分裂細胞を含めた広範囲の宿主細胞に感染することができ、異なる種由来の細胞に感染することができる。細胞性応答と体液性応答の両方によって即座に除去または不活性化されるいくつかのベクターとは対照的に、AAVベクターはin vivoで様々な組織において持続的発現を示している。in vivoでの非分裂細胞における組換えAAVベクターの持続性は、原型AAVウイルス遺伝子の欠如およびエピソームコンカテマーを形成するベクターの能力に原因がある可能性がある。
【0059】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は本発明の細胞形質導入において使用するのに魅力的なベクター系である、何故ならそれはエピソームコンカテマーとして高頻度の持続性を有し、非分裂細胞に感染することができ、したがって哺乳動物細胞、例えば組織培養物およびin vivoへの遺伝子の送達に有用となるからである。遺伝子送達におけるAAVの使用を実証する研究には、Flotte et el.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1993;90:10613〜17およびWalsh et al.、J Clin.Invest.、1994;94:1440〜48がある。組換えAAVベクターは、マーカー遺伝子およびヒト疾患と関係がある遺伝子のin vitroおよびin vivo形質導入に首尾良く使用されてきている(例えば、Walsh et el.、J.Clin.Invest.1994;94:1440〜48を参照)。AAVは広い宿主感染範囲を有する。rAAVベクターの生成および使用に関する詳細は、米国特許第5,139,941号および/または米国特許第4,797,368号中に記載されている。
【0060】
典型的には、組換えAAV(rAAV)ウイルスは、2つのAAV末端反復に隣接する当該の遺伝子を含むプラスミド、および/または末端反復を含まない野生型AAVコード配列を含む発現プラスミド、例えばpIM45を同時トランスフェクトすることによって作製される。アデノウイルスおよび/またはAAVヘルパー機能に必要なアデノウイルス遺伝子を有するプラスミドを、細胞にさらに感染させるかつ/あるいはトランスフェクトする。このような形式で作製したrAAVウイルスストックはアデノウイルスで汚染されており、(例えば、塩化セシウム密度勾配遠心法またはカラムクロマトグラフィーによって)rAAV粒子とは物理的に分離しなければならない。あるいは、AAVコード領域を含むアデノウイルスベクターおよび/またはAAVコード領域を含む細胞系および/またはアデノウイルスヘルパー遺伝子の一部または全部を使用することができる。組み込まれたプロウイルスとしてrAAVのDNAを有する細胞系を使用することもできる。
【0061】
多数の血清型のAAVが天然に存在し、少なくとも12の血清型(AAV1〜AAV12)が現在知られている。高度の相同性にもかかわらず、これらの異なる血清型は異なる組織に対する親和性を有する。AAV1の受容体は知られていないが、しかしながらAAV1は、AAV2より効率良く骨格筋および心筋に形質導入されることが知られている。大部分の試験が、AAV2のITRと隣接するベクターDNAが他の血清型のカプシドにパッケージされている偽型ベクターを用いて実施されているので、生物学的差異はゲノムではなくカプシドと関係があることは明らかである。近年の証拠は、AAV1カプシドにパッケージされたDNA発現カセットは、心筋細胞への形質導入においてAAV2カプシドにパッケージされたカセットより少なくとも1log10有効であることを示す。
【0062】
アデノウイルスベクター
遺伝子治療用のポリヌクレオチドを送達するための他の方法は、アデノウイルス発現ベクターの使用を含む。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築体のパッケージをサポートするおよび/または(b)その中でクローニングされた組織および/または細胞特異的構築体を最終的に発現させるのに十分なアデノウイルス配列を含む構築体を含むことを意味する。
【0063】
本発明の1つの形では、発現ベクターは遺伝子組換え型アデノウイルスを含む。アデノウイルス、36kb、線状、二本鎖DNAウイルスの遺伝子構成の知識によって、大片のアデノウイルスDNAと7kbまでの外来配列の置換が可能である(Grunhaus and Horwitz、Seminar in Virology、1992;3:237〜252)。レトロウイルスとは対照的に、宿主細胞のアデノウイルス感染は染色体の組込みをもたらさない、何故ならアデノウイルスDNAは、潜在的な遺伝毒性なしでエピソーム式に複製し得るからである。さらに、アデノウイルスは構造上安定しており、広範囲の増幅後にゲノム再編成が検出されていない。
【0064】
アデノウイルスの増殖および操作は当業者に知られており、in vitroおよびin vivoで広い宿主範囲を示す。この群のウイルスは高い力価、例えば1mL当たり109〜1011プラーク形成単位で得ることが可能であり、非常に感染性が高い。アデノウイルスのライフサイクルは、宿主細胞ゲノムへの組込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達される外来遺伝子はエピソーム性であり、およびしたがって宿主細胞に対して低い遺伝毒性を有する。野生型アデノウイルスを用いた予防接種の試験では副作用は報告されておらず、in vivo遺伝子導入ベクターとしてのそれらの安全性および/または治療可能性が実証された。
【0065】
アデノウイルスベクターは、真核生物の遺伝子発現およびワクチン開発において使用されてきている。近年、いくつかの動物実験は、組換えアデノウイルスは遺伝子治療に使用することができることを示唆した(例えば、Stratford-Perricaudet et al.、Hum.Gene.Ther、1991;1:242〜256;Rich et al.、1993を参照)。異なる組織への組換えアデノウイルスの投与における試験には、筋肉注射、末梢静脈内注射および脳への定位接種がある。組換えアデノウイルスとアデノ随伴ウイルスはいずれも、非分裂ヒト初代細胞に感染し形質導入することができる。
【0066】
アデノウイルスベクターの使用は企図されるが、心臓血管系遺伝子治療試験におけるこのような使用は、短期のトランス遺伝子発現によって現在限られている(Vassalli G、et al.、Int.J.Cardiol.、2003;90(2〜3):229〜38)。これはアデノウイルス抗原に対する細胞性免疫によるものである。改善された「中空」アデノウイルスベクターは低下した免疫原性を有するが、6カ月を超えるトランス遺伝子の最大発現が治療効果に必要とされるか望まれる場合は依然として有効でない(Gilbert R、et al.、Hum.Mol.Genet.、2003;12(11):1287〜99)。AAVベクターは(1年を超える)長期の発現が実証されており、発現が長期間必要とされる場合の治療効果に好ましいベクターである(Daly TM、et al.、Gene Ther.、2001;8(17):1291〜8)。
【0067】
レトロウイルスベクター
それらの遺伝子を宿主ゲノムに組込み、多量の外来遺伝物質を送達し、広範囲の種および細胞型に感染し、特定の細胞系にパッケージされる能力のため、遺伝子送達ベクターとしてレトロウイルスを選択することができる。
【0068】
レトロウイルスゲノムは、カプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素、およびエンベロープ構成要素をそれぞれコードする3つの遺伝子、gag、pol、およびenvを含む。gag遺伝子から上流に見られる配列は、ビリオンへのゲノムのパッケージに関するシグナルを含む。2つの長い末端反復(LTR)配列が、ウイルスゲノムの5'末端および3'末端に存在する。これらは強力なプロモーターおよびエンハンサー配列を含み、宿主細胞ゲノム中への組込みにも必要とされる。
【0069】
レトロウイルスベクターを構築するために、当該の遺伝子をコードする核酸をいくつかのウイルス配列の代わりにウイルスゲノム中に挿入して、複製欠陥があるウイルスを生成する。ビリオンを生成するために、gag、pol、および/またはenv遺伝子を含むがLTRおよび/またはパッケージ構成要素は含まないパッケージ細胞系を構築する。cDNAならびにレトロウイルスLTRおよびパッケージ配列を含む組換えプラスミドを、(例えばリン酸カルシウム沈殿法によって)この細胞系に導入するとき、パッケージ配列は組換えプラスミドのRNA転写産物がウイルス粒子にパッケージされるのを可能にし、ウイルス粒子は次いで培養培地に分泌される。組換えレトロウイルスを含む培地を次いで回収し、場合によっては濃縮し、遺伝子導入に使用する。レトロウイルスベクターは広く様々な細胞型に感染することができる。しかしながら、組込みおよび安定した発現は宿主細胞の分裂を必要とする。
【0070】
ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)は神経向性なので、それは神経系障害を治療する際に相当な興味を引き起こしている。さらに、宿主細胞染色体中への組込みあるいは他の場合宿主細胞の代謝の変化なしでの、非分裂状態のニューロン細胞中の潜伏感染、および潜伏期中活性があるプロモーターの存在を確定するHSVの能力は、HSVを魅力的なベクターにする。さらにHSVの神経向性用途に多大な関心が集中しているが、このベクターはその広い宿主範囲を考慮して、他の組織にも利用することができる。
【0071】
HSVを魅力的なベクターにする他の要因は、ゲノムの大きさおよび編成である。HSVは大きいので、多数の遺伝子または発現カセットの取込みは、他の小さなウイルス系より問題が少ない。さらに、異なるウイルス制御配列および様々なパフォーマンス(一過性、強度など)の可能性によって、他の系より高い程度で発現を制御することができる。このウイルスは比較的少ないスプライスされたメッセージを有し、さらに遺伝子操作を容易にすることも1つの利点である。
【0072】
さらにHSVは操作するのが比較的容易であり、高い力価に増殖させることが可能である。したがって、十分な感染多重度(MOI)を得るのに必要とされる容積と、反復投与の低い必要性の両方の点において送達は問題が少ない。遺伝子治療ベクターとしてのHSVの総説に関しては、Glorioso et al.、Annu.Rev.Microbiol.、1995;49:675〜710を参照。HSVの非病原性変異体が開発されてきており、遺伝子治療の状況における使用に容易に適用可能である(米国特許第5,672,344号)。
【0073】
レンチウイルスベクター
レンチウイルスは、一般的なレトロウイルス遺伝子gag、pol、およびenv以外に、制御または構造機能を有する他の遺伝子を含む複雑なレトロウイルスである。高度な複雑性によって、ウイルスは潜伏感染の過程と同様にそのライフサイクルを調節することができる。レンチウイルスのいくつかの例には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1、HIV-2)およびサル免疫不全ウイルス(SIV)がある。レンチウイルスベクターはHIV毒性遺伝子を複合的に抑制することによって作製されており、例えば遺伝子env、vif、vpr、vpuおよびnefが欠失し、ベクターは生物学上安全となる。
【0074】
レンチウイルスベクターは当技術分野で知られており、米国特許第6,013,516号および米国特許第5,994,136号を参照。一般に、ベクターはプラスミドベースまたはウイルスベースであり、外来核酸の取込み、選択、および宿主細胞への核酸の導入に必要な配列を有するような形状である。当該のベクターのgag、polおよびenv遺伝子も当技術分野で知られている。したがって、関連遺伝子を選択したベクターにクローニングして、次いでそれらを使用して当該の標的細胞を形質転換する。
【0075】
適切な宿主細胞がパッケージ機能を有する2つ以上のベクター、すなわちgag、polおよびenv、ならびにrevおよびtatをトランスフェクトした非分裂細胞に感染することができる組換えレンチウイルスは米国特許第5,994,136号中に記載されている。これは、ウイルスのgagおよびpol遺伝子をコードする核酸を与えることができる第1のベクター、およびパッケージ細胞を生成するためのウイルスのenvをコードする核酸を与えることができる他のベクターを記載する。異種遺伝子を与えるベクターをそのパッケージ細胞に導入することによって、当該の外来遺伝子を有する感染ウイルス粒子を放出する産生細胞が生成する。envはヒトおよび他種の細胞の形質導入を可能にする両性エンベロープタンパク質であることが好ましい。
【0076】
ワクシニアウイルスベクター
ワクシニアウイルスベクターは、それらの構築の容易さ、得られる比較的高レベルの発現、広い宿主範囲およびDNAを保持する大容量のために広く使用されてきている。ワクシニアは、顕著な「A-T」優先性を示す約186kbの線状の二本鎖DNAゲノムを含む。約10.5kbの逆方向末端反復がゲノムと隣接している。大部分の必須遺伝子は、ポックスウイルス間で最も高度に保存されている中心領域内に位置するようである。ワクシニアウイルス中の推定オープンリーディングフレームは150〜200に達する。両方の鎖がコード鎖であるが、リーディングフレームの広範囲の重複は一般的ではない。
【0077】
少なくとも25kbをワクシニアウイルスのゲノム中に挿入することができる。原型ワクシニアベクターは、相同的組換えによってウイルスチミジンキナーゼ遺伝子中に挿入されたトランス遺伝子を含む。ベクターはtk-表現型に基づいて選択される。脳心筋炎ウイルスの非翻訳リーダー配列の封入は、従来のベクターのレベルより高い一定レベルの発現をもたらし、24時間で感染細胞のタンパク質の10%以上のトランス遺伝子が蓄積する。
【0078】
ポリオーマウイルスベクター
マウスポリオーマウイルスなどのパポバウイルスの中空カプシドは、遺伝子導入の考えられるベクターとして注目を得ている。中空ポリオーマの使用は、ポリオーマDNAと精製中空カプシドを無細胞系でインキュベートしたとき最初に記載された。新たな粒子のDNAは膵臓DNaseの作用から保護された。再構築粒子は、ラットFIII細胞への形質転換ポリオーマDNA断片の導入に使用された。中空カプシドおよび再構築粒子は全3個のポリオーマカプシド抗原VP1、VP2およびVP3からなる。米国特許第6,046,173号は、遺伝子導入用に外来物質を取り込んだ、パポバウイルスの主要カプシド抗原から形成され少量のカプシド抗原が除去された偽型カプシドの使用を開示する。
【0079】
他のウイルスベクター
他のウイルスベクター、シンドビスウイルスまたはサイトメガロウイルスなどのウイルス由来のベクターなどを、本発明における発現構築体として利用することができる。それらは様々な哺乳動物細胞に関するいくつかの魅力的な特徴を与える(例えば、Friedmann、Science、1989;244:1275〜1281;Horwich et al.、J.Virol.、1990;64:642〜650を参照)。
【0080】
欠陥B型肝炎ウイルスの認識によって、異なるウイルス配列の構造-機能関係の新たな見識が得られた。In vitro試験は、ウイルスはそのゲノムの80%までの欠失にもかかわらず、ヘルパー依存性パッケージおよび逆転写の能力を保持し得ることを示した(Horwich et al.、J.Viral.64:642〜650(1990))。これは、大部分のゲノムは外来遺伝物質と交換可能であったことを示唆した。Chang et alはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を、アヒルR型肝炎ウイルスのゲノム中、ポリメラーゼ、表面、および/または前表面コード配列の位置に導入した。それを野生型ウイルスと共に鳥類肝癌細胞系に同時トランスフェクトした。高力価の組換えウイルスを含む培養培地を使用して、初代コガモ肝細胞を感染させた。安定したCAT遺伝子発現をトランスフェクション後少なくとも24日間検出した(Chang et al.、Hepatology14:134A(1991))。
【0081】
改変型ウイルス
本発明のさらに他の実施形態では、特異的結合リガンドを発現するように工学的に作製された感染性ウイルス内に、送達する核酸を収容する。ウイルス粒子はしたがって標的細胞の同族受容体と特異的に結合するはずであり、中身を細胞に送達するはずである。レトロウイルスベクターを特異的に標的化することができるように設計した新規の手法は、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾に基づいて開発された。この修飾は、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染を可能にし得る。
【0082】
組換えレトロウイルスを標的化する他の手法を設計し、その中ではレトロウイルスのエンベロープタンパク質または特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を使用した。ストレプトアビジンを使用することによって、ビオチン構成要素を介して抗体を結合させた。主要組織適合性複合体クラスIおよび/またはクラスII抗原に対する抗体を使用して、in vitroでのエコトロピックウイルスによる、これらの表面抗原を有していた様々なヒト細胞の感染を実証した。
【0083】
非ウイルス的導入
本発明のDNA構築体は一般に細胞に送達する。いくつかの実施形態では、しかしながら、導入する核酸は非感染性であり、非ウイルス的方法を使用して導入することができる。
【0084】
培養哺乳動物細胞に発現構築体を導入するためのいくつかの非ウイルス的方法が、本発明によって企図される。本発明と共に使用するための核酸送達に適した方法には、本明細書に記載する方法または当業者に知られている方法がある。このような方法には、血管系を介した「裸」DNAプラスミドの直接送達(米国特許第6,867,196号)、リポソーム介在トランスフェクションによる方法(Nicolau and Sene、1982;Fraley et al.、1979;Nicolau et al.、1987;Wong et al.、1980;Kaneda et al.、1989;Kato et al.、1991)および受容体介在トランスフェクションによる方法(Wu and Wu、1987;Wu and Wu、1988)、炭化ケイ素繊維を用いた誘導による方法(Kaeppler et al.、1990;米国特許第5,302,523号および米国特許第5,464,765号)、カチオン性脂質、裸DNAの使用、またはマイクロ封入DNAによる方法(米国特許出願第2005/0037085号)があるが、これらだけには限られない。これらの技法などの技法を適用することによって、標的細胞または組織を安定的または一時的に形質転換することができる。
【0085】
ひとたび構築体を細胞に送達した後、治療用遺伝子をコードする核酸は異なる部位に配置し発現させることが可能である。いくつかの実施形態では、治療用遺伝子をコードする核酸は細胞のゲノムに安定的に組み込むことができる。この組込みは相同的組換え(遺伝子置換)によって同じ位置および方向であってよく、あるいはそれはランダム、非特異的な位置に組み込むことができる(遺伝子増大)。さらに他の実施形態では、DNAの別のエピソームセグメントとして細胞中の核酸を安定的に維持することができる。このような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主細胞サイクルとは無関係にあるいはそれに同調して、維持および複製を可能にするのに十分な配列をコードする。どのようにして発現構築体を細胞に送達するか、および細胞中の何処に核酸が留まるのかは、利用する発現構築体の型に依存する。
【0086】
本発明の特定の実施形態では、発現構築体はリポソーム中に捕捉することができる。リポソームは、リン脂質二重層膜および内側水媒体によって特徴付けられる小胞体構造である。多重膜リポソームは、水媒体によって隔てられた多数の脂質層を有する。リン脂質が過剰な水溶液に懸濁すると、それらは自然に形成される。脂質構成要素は閉構造の形成前に自己再編成を経て、水を捕捉し、脂質二重層間の溶質を溶かす。DNAをカチオン性リポソームに加えることによって、リポソームから光学的複屈折性液晶凝縮球体へのトポロジー転移を引き起こす。これらのDNA-脂質複合体は、遺伝子治療において使用するための考えられる非ウイルスベクターである。
【0087】
リポソーム介在核酸送達およびin vitroでの外来DNAの発現は非常に成功している。β-ラクタマーゼ遺伝子を使用して、研究者は培養ニワトリ胚、HeLa、およびヘパトーマ細胞における外来DNAのリポソーム介在送達および発現の実現性を実証した。静脈内注射後のラットにおける首尾良いリポソーム介在遺伝子導入も実施されている。「リポフェクション」技術を含めた様々な商業的手法も含まれる。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態では、リポソームはセンダイウイルス(HVJ)と複合体形成させることが可能である。これは細胞膜との融合を容易にし、リポソーム封入DNAの細胞への侵入を助長することが示されてきている。他の実施形態では、リポソームは核非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体形成させることが可能であるか、あるいはそれらと共に利用することが可能である。さらに他の実施形態では、リポソームはHVJとHMG-1の両方と複合体形成させることが可能であるか、あるいはそれらと共に利用することが可能である。このような発現構築体がin vitroおよびin vivoでの核酸の導入および発現において首尾良く利用されている点で、したがってそれらは本発明に適用可能である。
【0089】
細胞に治療用遺伝子をコードする核酸を送達するために利用することができる他のベクター送達系は、受容体介在送達媒体である。これらは、ほぼすべての真核細胞生物中の受容体介在エンドサイトーシスによるマクロ分子の選択的取込みを利用する。様々な受容体の細胞型特異的分布のため、送達は非常に特異的である可能性がある(Wu and Wu、1993)。リポソームを利用する場合、エンドサイトーシスと関係がある細胞表面膜タンパク質と結合する他のタンパク質、例えば特定の細胞型指向のカプシドタンパク質またはその断片、循環中に内在化を経るタンパク質用の抗体、および細胞内局在を標的化し細胞内半減期を増大させるタンパク質を、標的化および/または取込みの促進のために使用することができる。
【0090】
受容体介在遺伝子標的媒体は、一般に2つの構成要素:細胞受容体特異的リガンドおよびDNA結合作用物質からなる。いくつかのリガンドは、受容体介在遺伝子導入に使用されてきている。最も広く特徴付けられているリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR)およびトランスフェリンである(Wagner et al、Proc.Natl.Acad.Sci.87(9):3410〜14(1990))。ASORと同じ受容体を認識する合成新生糖タンパク質が、遺伝子送達媒体として使用されてきている。上皮細胞増殖因子(EGF)も、扁平上皮癌細胞に遺伝子を送達するために使用されてきている。
【0091】
他の実施形態では、送達媒体はリガンドおよびリポソームを含むことができる。例えば研究者は、リポソームに取り込ませたラクトシル-セラミド、ガラクトース末端アシアルガングリオシドを利用しており、肝細胞によるインシュリン遺伝子の取込みの増大を観察している。したがって、治療用遺伝子をコードする核酸を、リポソームを含むか含まない任意の数の受容体-リガンド系によって、心臓細胞などの細胞型に特異的に送達することもできることが考えられる。
【0092】
本発明の他の実施形態では、発現構築体は単に裸の組換えDNAまたはプラスミドからなっていてよい。構築体の導入は、細胞膜を物理的または化学的に浸透処理する前述の方法のいずれかによって実施することができる。これは特にin vitroでの導入に適用可能であるが、しかしながらそれはin vivoでの使用にも適用可能である。治療用DNAをin vivoにおいて同様の方法で導入することもできることは想定される。Wolff et al(米国特許第6,867,196号)は、心臓組織への有効な遺伝子導入は、心臓の静脈または動脈へのプラスミドDNA溶液の注射によって得ることができることを教示する。WolffはRNA、非プラスミドDNA、およびウイルスベクターの投与も教示する。
【0093】
本発明において有用なベクターは様々な形質導入効率を有する。結果として、ウイルスまたは非ウイルスベクターは、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、100%あるいはこれら以上の標的血管領域の細胞に形質導入する。2つ以上のベクター(ウイルスまたは非ウイルス、またはこれらの組合せ)を同時に、または順に使用することができる。これを使用して2つ以上のポリヌクレオチドを導入することができ、かつ/または2つ以上の細胞型を標的化することができる。多数のベクターまたは多数の作用物質を使用する場合、2つ以上の形質導入/トランスフェクション効率が生じ得る。
【0094】
治療物質
本発明中で有用であるポリヌクレオチドを含めた治療物質を利用して、心臓血管疾患を治療する。これらの物質は、心臓血管疾患の任意の態様を治療することが知られている化合物を含む。ポリヌクレオチドは心臓血管系の任意の知られている核酸またはタンパク質を標的化することができ、心臓組織の細胞活性の調節をもたらすことができる。特に興味深いのは、心筋中のカルシウム濃度を制御する核酸およびタンパク質を含めた、心筋の収縮に必要とされる核酸およびタンパク質である。
【0095】
それぞれの筋収縮は筋肉細胞の細胞質へのCa2+の侵入を必要とし、一方で弛緩は活性化Ca2+の除去を必要とし、収縮のCa2+制御はヒト身体中の最も広範囲の活動の1つとなる。したがって、Ca2+制御と関係があるタンパク質は、突然変異すると、Ca2+制御の欠陥と関係がある様々な骨格および心筋疾患をもたらす可能性があることは驚くべきことではない。
【0096】
筋小胞体カルシウム-ATPase(SERCA)ポンプは、哺乳動物細胞の細胞質から筋肉中の筋小胞体または非筋肉細胞中の小胞体などのオルガネラ構造に、カルシウムをポンプでくみ上げる。カルシウムによる活性化のその閾値は約100〜200nMであり、したがってそれらは細胞質カルシウムの休止レベルを設定する。実験およびヒト心不全に特徴的な異常なカルシウム循環は、低下した筋小胞体のカルシウム取込み活性と関係がある。
【0097】
SERCA2a、心臓/緩徐収縮アイソフォームは、ホスホランバン(PLN)、3つのドメインで構成される52アミノ酸のホモペンタマータンパク質と結合し、それによって制御される。筋収縮中、ホスホランバンはCa2+ポンプを阻害する。筋弛緩中、それはリン酸化される可能性があり、阻害を除去しCa2+を筋小胞体にポンプで戻すのを可能にする。この制御は、ホスホランバンモノマーとポンプの間の物理的相互作用に主に原因があると考えられる。しかしながらこの52残基ペプチドは、Ca2+イオンに選択的であることが示されているペンタマーとも結合する。
【0098】
低下した筋小胞体のカルシウム取込み活性は、cAMP経路のシグナル伝達の低下および1型ホスファターゼ活性の増大を反映する。増大したタンパク質ホスファターゼ1の活性は、ホスホランバンの脱リン酸化および筋小胞体カルシウムポンプの阻害を助長する阻害剤-1の、脱リン酸化および不活性化に一部分は原因がある。実際、構造上活性がある阻害剤-1の心臓特異的発現は、細胞および完全動物レベルでホスホランバンリン酸化の選択的増強および増大した心臓収縮をもたらす。特に、活性阻害剤-1の急性アデノウイルス遺伝子送達は機能を完全に回復させ、既存の心不全の設定での過活性p38の正常化を含めて再構築を部分的に逆行させる(Pathak et al.Circ Res.、2005;96(7)756〜66)。
【0099】
心室性不整脈は、正常な心臓を有する患者および心不全などの基礎疾患を有する患者において、急性心臓死(SCD)を引き起こす可能性がある。心不全を有する動物および遺伝型運動誘発性SCDを有する患者では、リアノジン受容体カルシウム放出チャンネル(RyR2)複合体からのチャンネル安定型タンパク質カルスタビン2(FKBP12.6)の減少は、致命的な心臓不整脈を誘発し得る細胞内Ca2+漏出を引き起こす。増大したレベルのカルスタビン2は閉鎖状態のRyR2を安定化させ、不整脈を誘発するCa2+漏出を予防する。したがって、カルスタビン2とRyR2の結合の増大は一般的な心室性不整脈のための治療戦略であると考えられる。
【0100】
SERCA、ホスホランバン、1型ホスファターゼの阻害剤-1、S100A1、およびサルコリピンの核酸およびタンパク質、ならびにCa2+において役割を果たす関連核酸およびタンパク質は、本発明のポリヌクレオチドの好ましい標的である。
【0101】
好ましいウイルスベクターおよびトランス遺伝子はAAV2/1/SERCA2aであり、これはAAV血清型2由来のITRと隣接するヒトSERCA2a発現カセットを含む一本鎖4486ヌクレオチドDNAを囲むAAV血清型1ウイルスカプシドから構成される。正二十面体カプシドは3つの関連AAV血清型1カプシドタンパク質、VP1、VP2、およびVP3からなる。AAV2/1/SERCA2aのDNAは、以下の構成要素:CMV-hSERCA2a-ポリA発現カセットと隣接して3'および5'末端にAAV血清型2系ITRを含む。この発現カセットは、市販のプラスミドpCI(Promega-GenBankU47119)由来のハイブリッドイントロンを含む配列、hSERCA2AのcDNA(GenBankNM-001681と同一のコード配列)、およびウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル[BGHpA、(GenBankM57764)]の転写を誘導するサイトメガロウイルス即時型初期エンハンサー/プロモーター(CMVie)を含む。ヒトb-グロブリンの第1イントロン由来の5'-ドナー部位および免疫グロブリン遺伝子重鎖可変領域のリーダーとボディの間に位置するイントロン由来の3'-アクセプター部位を使用して、ハイブリッドイントロンを設計した(図1参照)。
【0102】
AAV2/1/SERCA2aベクターは、300ヌクレオチド未満の野生型AAV(wtAAV)配列をベクターゲノムに取り込ませる。wtAAV配列は、カプシドへのSERCA2aのDNAの挿入を可能にするパッケージシグナルをcisで与える(図2)AAV血清型2由来のITRである。
【0103】
特定の作用機構に縛られずに、SERCA2aタンパク質レベルはCHFを有する患者の心筋細胞中で低下すること、および心筋細胞中でのこのタンパク質のレベルの増大は、CHFに典型的な細胞質カルシウムの異常に高い拡張レベルを正常化し、臨床結果を改善し得ることが考えられる。
【0104】
前に論じたポリヌクレオチド、ベクター、ウイルス性と非ウイルス性の両方と組み合わせたポリヌクレオチドを含めた治療作用物質は、心臓疾患を治療するための薬剤の調製において使用することができ、この場合薬剤は冠循環への直接注入によって投与する。
【0105】
治療効果
好ましい実施形態では、本明細書で開示する治療作用物質の注入を使用して、心臓疾患に罹患する患者において治療効果を得る。治療する個体は、心臓障害を伴う臨床的特徴に関してモニタリングすることができる。例えば、心臓血管疾患と関係がある悪影響および症状の低下に関して、対象をモニタリングすることができる。例えば、本発明の方法を使用して対象における鬱血性心不全を治療した後、増大した側脳室の短縮率、細胞および無傷動物レベルで増大した心筋収縮性、心臓リモデリングの反転、および異常に高い心臓拡張レベルの細胞質カルシウムの正規化だけには限られないが、これらを含めた、いくつかの臨床パラメータの改善に関して対象を評価することができる。本発明を用いて治療する対象においてモニタリングすることができる他の臨床的特徴には、生存、心臓代謝、心筋収縮性、心拍数、心室機能(例えば、左心室拡張末期圧(LVEDP)、左心室収縮末期圧(LVSP))、Ca2+代謝(例えば、細胞内Ca2+濃度、ピークまたは休止状態[Ca2+]、SRのCa2+ATPase活性、ホスホランバンのリン酸化状態)、力発生、心臓の弛緩および圧力、力収縮頻度関係、心臓細胞の生存またはアポトーシスまたはイオンチャンネル活性(例えば、ナトリウムとカルシウムの交換、ナトリウムチャンネル活性、カルシウムチャンネル活性、ナトリウムカリウムATPaseポンプ活性)、ミオシン重鎖、トロポニンI、トロポニンC、トロポニンT、トロポミオシンアクチン、ミオシン軽鎖キナーゼ、ミオシン軽鎖1、ミオシン軽鎖2またはミオシン軽鎖3、IGF-1受容体、PI3キナーゼ、AKTキナーゼ、ナトリウム-カルシウム交換体、カルシウムチャンネル(LおよびT)、カルセクエストリンまたはカルレチクリンの活性があるが、これらだけには限られない。評価は治療の前、後、または最中に実施することができる。モニタリングすることができる心臓疾患の他の測定値は、短縮率、心拍出量、駆出率、Tau、逆流量、短期間の入院、改善された生活の質、および増大したトレッドミル時間を含む。
【0106】
本明細書で開示する方法および開示する治療作用物質は、薬剤または外科的介入などの心臓疾患の既存の治療と組み合わせて、既存の治療単独と比較して増大した治療効果をもたらすことができる。増大した治療効果は例えば、既存の治療レジメンに関する平均的または典型的時間期間と比較した疾患の兆候または症状の悪化間の時間期間の延長、または標準的治療単独の平均的または典型的時間と比較してさらなる治療が必要とされるまでに必要な時間の増大によって実証され得る。
【0107】
以下の非制限的な実施例において、本発明の実施形態をここでさらに記載する。
【実施例1】
【0108】
正常コブタ中のAAV2/1/SERCA2aの短時間生体内分布に対する注入時間の影響
正常コブタ中のAAV2/1/SERCA2aの順行性の心外膜冠動脈注入後のベクター特異的DNAの定量化によって、心筋の形質導入を評価するために試験を実施した。
【0109】
群
この試験の対照群(1匹の動物)は治療対照ではなかった。この動物には、AAV2/1/SERCA2aの投与以外は他の群とすべて同じ手順を施した。実験動物には、プログラム可能なシリンジポンプを使用した冠動脈注入カテーテルによって左冠動脈(群3〜5中の5匹の動物)に、あるいは直接筋肉内(IM)注射(群2中の1匹の動物)によって、1×1012個のDRPAAV2/1/SERCA2aを投与した。群には2つのベクター濃度および様々な注入速度でAAV2/1/SERCA2aを与えた。ベクターを与えたすべての群を、ベクター投与後に管およびカテーテルの死容積の血液のみで洗浄した。動物は、少なくとも4カ月齢で8〜12kgのGottingenのコブタであった。動物は表1中に示す5群の1つに割り当てた。
【0110】
【表1】
【0111】
麻酔/血液サンプル
第0日に、標準的な手順を使用して動物に麻酔をかけた。後脚の筋肉に抗生物質を予防的に投与した。生存兆候(心拍数、呼吸数、およびO2パルス酸素濃度計)をモニタリングした。ECGはモニタリング目的で得た。
【0112】
AAV2/1/SERCA2aの投与
AAV2/1/SERCA2aの投与、直接IM注射:群2
第0日に、標準的な筋肉内用シリンジおよびニードルを使用してAAV2/1/SERCA2aを背面筋肉の四半部に注射した。投与した容積および濃度は以下の表2中に示す。AAV2/1/SERCA2aは使用するまで-70±10℃以下で凍結保存した。使用日に、AAV2/1/SERCA2aを室温で解凍し、動物に投与する準備ができるまで氷上に保持した。反転により軽く混合した後、0.72mLのAAV2/1/SERCA2aストック溶液を1.4×1012DRP/mLで、標準的な筋肉内用シリンジおよびニードルに無菌状態で移した。1回合計投与用量の1×1012個のDRPAAV2/1/SERCA2aを、次いで背面筋肉の四半部の筋肉内に注射した。
【0113】
一般的な手順:心外膜冠動脈注入によるAAV2/1/SERCA2aの投与(群3〜5)
直接注入システムは、従来のガイドシース、0.014"のガイドワイヤー、5F注入(ガイド)カテーテルおよび2つのプログラム可能なシリンジポンプを含む、標準的な(市販の)構成要素から構成される。この方法の重要な態様は、ベクター投与に使用した注入時間である。正確な容積は、開始ベクター濃度、管およびカテーテル単位の死容積などに基づいて変わる可能性がある。
【0114】
第0日に、直接注入手順を、大腿動脈手法を使用してガイドシースの導入で開始した。冠動脈注入カテーテル(例えば、Cordis Vista Brite Tip Guiding Catheterまたは左主冠動脈の挿管に適した類似モデル)を、次いで透視下で左主冠動脈中に置いた。カテーテルを適所に置いた後、標準的な管およびパージ技法を使用して、それを第1のプログラム可能なシリンジポンプ(例えば、NE-1000 Programmable Syringe Pump,New Era Pump Systems)と結び付けた。AAV2/1/SERCA2aを次いで送達し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。直接注入法に必要とされる材料および手順段階の詳細な一覧は表3および4中に示す。希釈容積、注入時間、注入速度、血液のみの洗浄前に送達する容積、および血液のみの洗浄を終了するのに必要な時間は表2中に示す。
【0115】
群3:AAV2/1/SERCA2aの投与(ボーラス注射)
反転により軽く混合した後、0.72mLのAAV2/1/SERCA2aストック溶液を1.4×1012DRP/mLで、および1.3mLの製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)を、滅菌済みポリプロピレン容器に無菌状態で移し、5.0×1011DRP/mLの濃度にした。動物に投与する直前に、2.0mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(5.0×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の1.0mLの元の全血と混合し、3.0mLの最終容積中で3.3×1011DRP/mLのシリンジの最終希釈を得た。注入経路を血液で処理し、次いでベクターを左主冠動脈に0.5分間注射した。この後カテーテルの死容積に血液のみを流した。
【0116】
群4:AAV2/1/SERCA2aの投与(10分間のベクター注入)
反転により軽く混合した後、0.72mLのAAV2/1/SERCA2aストック溶液を1.4×1012DRP/mLで、および7.3mLの製剤バッファーを、滅菌済みポリプロピレン容器に無菌状態で移し、1.25×1011DRP/mLの濃度をもたらした。動物に投与する直前に、8.0mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(1.25×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の4.0mLの元の全血と混合した。注入経路を血液で処理し、次いでプログラム可能なシリンジポンプを使用してベクターを左主冠動脈に10分間注射し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。
【0117】
群5:AAV2/1/SERCA2aの投与(15分間のベクター注入)
反転により軽く混合した後、0.72mLのAAV2/1/SERCA2aストック溶液を1.4×1012DRP/mLで、および1.3mLの製剤バッファーを、滅菌済みポリプロピレン容器に無菌状態で移し、5.0×1011DRP/mLの濃度をもたらした。動物に投与する直前に、2.0mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(5.0×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の1.0mLの元の全血と混合した。次いでプログラム可能なシリンジポンプを使用してベクターを左主冠動脈に15分間注射し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
第2日:最終屠殺およびPCR用組織サンプル
麻酔薬の投与後、臨床化学試験用に血液サンプルを回収した。次いで動物を30mg/kgの塩化カリウムの静脈内投与によって安楽死させ、PCR用組織サンプルを図3中に示す心臓の以下の領域:左心室の基底層および中間層中の前壁、後壁、中隔および自由壁、左心室の先端層中の前壁および後壁、右心室の基底層および先端層由来の自由壁から、標準的な技法を使用して回収した。
【0122】
サンプルのPCR分析
定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)アッセイを使用して、回収した組織サンプル中のAAV2/1/SERCA2aを検出し定量化した。qPCRアッセイは、ABI Prism 7700 Sequence Detection Systemを使用してAAV2/1/SERCA2aに特異的な107塩基対配列を検出する。qPCRプライマーは、図4の略図中に示すようにエクソン14および15に広がる。各組織サンプルから抽出した1マイクログラムのゲノムDNA中で検出するAAV2/1/SERCA2aのコピー数は、標準として標的配列を含むプラスミド(pcDNA3.1_huSERCA2)の連続希釈を使用して定量化した。アッセイの検出の下限は20コピーのAAV2/1/SERCA2a/DNA1μgであり、定量化の下限は200コピー/DNA1μgであった。
【0123】
結果
実験の結果は図5中に示し、この場合AAV2/1/SERCA2a/DNA1μgのコピー、およびボーラス注射後に得られたレベルの割合として表す相対量を報告する(30秒、群3)。12の異なる心臓サンプル(図3)からの値を各動物用に1つの値に平均化し、その値は動物単位当たりで報告する。ボーラス注射(0.5分)と比較して、10分の注入時間は平均51.6%高いコピー(32%〜69%)をもたらし、15分の注入時間はボーラス注射より76%高いコピーをもたらした。本出願人は、直接IM注射は相当数のコピーをもたらすが、これは第2日に殺傷した動物および細網内皮系(単球/マクロファージ)によるAAVベクターの継続的除去の結果であることを記す(Brain J.D.、et al.、Am J Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.、1999;276:146〜154)。AAV1ベクターのIM注射は、心臓の有意な長期間の形質導入をもたらさない(Rip J、et al.、Hum.Gene Ther、2005;16(11):1276〜86)。対照的に、順行性の心外膜冠動脈注入は実施例3中に実証するように組織の安定した形質導入をもたらす。これらの結果は、同量のAAV2/l/SERCA2a(1×1012個のDRP)を各群に投与した場合でも、長い注入時間はAAV2/1/SERCA2a/DNA1μgのより多くのコピーをもたらすことを実証する。
【実施例2】
【0124】
ヒツジ中のAAV2/1/SERCA2aの短時間生体内分布に対するベクター用量および投与経路の影響
正常ヒツジ中の静脈内注射と比較した左冠動脈への注入による1回投与後の、第2日における3つの異なる用量のAAV2/1/SERCA2aの短時間生体内分布を評価するためにパイロット試験を実施した。
【0125】
群
プログラム可能なシリンジポンプを使用して左冠動脈に冠動脈注入カテーテルによって、1匹の動物に1×1013DRPのAAV2/1/SERCA2aを与えた。第2群の3匹の動物には3×1012DRPのAAV2/1/SERCA2a、および第3群の2匹の動物には1×1012DRPのAAV2/1/SERCA2aを、いずれもプログラム可能なシリンジポンプを使用して左冠動脈に冠動脈注入カテーテルによって与えた。すべての注入群に2.5/mLの定速で8分間AAV2/1/SERCA2aを与え、次にカテーテルの容積を2分間血液のみで洗浄した。対照群中の1匹の動物に、2mLの静脈内注射で1×1012DRPのAAV2/1/SERCA2aを投与した。これらの群は表5中で以下に示し、投与スケジュールは表6中に示す。
【0126】
【表5】
【0127】
【表6】
【0128】
AAV2/1/SERCA2aの投与
一般的な手順:順行性の心外膜冠動脈注入によるAAV2/1/SERCA2aの投与(群1〜3)
第0日に、すべての動物群に十分量のヘパリンを投与してACT>300を得た。冠動脈注入カテーテルを使用して、プログラム可能なシリンジポンプを使用して左冠動脈にAAV2/1/SERCA2aを注入した。カテーテル移植用材料および手順は前の実施例1および表3および4中に詳細に記載する。ほぼ同じ手順に従った。
【0129】
群1:1.0×1013個のAAV2/1/SERCA2aの投与(8分間のベクター注入)
反転により軽く混合した後、AAV2/1/SERCA2aストック溶液を滅菌済みポリプロピレンチューブに無菌状態で移し、製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)で10mLの合計容積に希釈し、1×1012DRP/mLの濃度をもたらした。動物に投与する直前に、10mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(1×1012DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の10mLの元の全血と混合し、20.0mLの最終容積をもたらした。注入経路を血液で処理し、次いでプログラム可能なシリンジポンプを使用してベクターを左主冠動脈に2.5/mLの定速で8分間送達し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。
【0130】
群2:3.0×1012個のAAV2/1/SERCA2aの投与(8分間のベクター注入)
反転により軽く混合した後、AAV2/1/SERCA2aストック溶液を滅菌済みポリプロピレンチューブに無菌状態で移し、製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)で10mLの合計容積に希釈し、3×1011DRP/mLの濃度をもたらした。動物に投与する直前に、10mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(3×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の10mLの元の全血と混合し、20.0mLの最終容積をもたらした。注入経路を血液で処理し、次いでプログラム可能なシリンジポンプを使用してベクターを左主冠動脈に2.5/mLの定速で8分間送達し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。
【0131】
群3:1.0×1012個のAAV2/1/SERCA2aの投与(8分間のベクター注入)
反転により軽く混合した後、AAV2/1/SERCA2aストック溶液を滅菌済みポリプロピレンチューブに無菌状態で移し、製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)で10mLの合計容積に希釈し、1×1011DRP/mLの濃度をもたらした。動物に投与する直前に、10mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(1×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の10mLの元の全血と混合し、20.0mLの最終容積で0.5×1011DRP/mLのシリンジ中の最終希釈をもたらした。注入経路を血液で処理し、次いでプログラム可能なシリンジポンプを使用してベクターを左主冠動脈に2.5/mLの定速で8分間送達し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。
【0132】
群4:1.0×1012個のAAV2/1/SERCA2aの投与(静脈内注射)
反転により軽く混合した後、AAV2/1/SERCA2aストック溶液を滅菌済みポリプロピレンチューブに無菌状態で移し、製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)で2.0mLの合計容積に希釈し、1×1012DRP/mLの濃度をもたらした。標準的な静脈内用シリンジおよびニードルを使用して、(0.5分までの)静脈内注射により溶液を投与した。
【0133】
第2日:最終屠殺およびPCR用組織サンプル
麻酔薬の投与後、動物を30mg/kgの塩化カリウムの静脈内投与によって安楽死させ、PCR用組織サンプルを標準的な技法を使用して回収した。サンプルは心臓の以下の領域:左心室の前壁、左心室の下壁、心室中隔、および右心室の自由壁から回収した。
【0134】
サンプルのPCR分析
実施例1中に記載した定量PCRアッセイを使用して、回収した組織サンプル中のAAV2/1/SERCA2aを検出し定量化した。
【0135】
結果
実験の結果は図6中に示し、この場合心臓組織の各サンプル中のAAV2/1/SERCA2a/DNA1μgのコピーを各動物に関して報告する。非常に低い、定量不能なレベルの(20〜200コピー)のAAV2/1/SERCA2aをもたらした(0.5分までの)静脈内注射と異なり、8分間の注入時間は1×1012、3×1012、および1×1013の濃度で相当数のコピーをもたらした。図6は、1×1013DRPの合計用量は3×1012DRPの合計用量より多数のコピーをもたらし、したがってそれは1×1012DRPの合計用量より多数のコピーをもたらしたことを示す。重要なことにAAV2/1/SERCA2aのコピーは、ベクターを左冠動脈のみに投与しても右心室サンプル中に見られた。
【実施例3】
【0136】
心不全のブタの僧帽弁逆流モデル
重度の僧帽弁逆流(MR)によって作製した心不全のブタモデルにおける賦形剤対照と比較した、心臓機能に対するAAV2/1/SERCA2aの1回投与の影響を評価するためにパイロット試験を実施した。僧帽弁閉鎖不全症としても知られる僧帽逆流(MR)は、心臓の左心室から左心房への僧帽弁を介した血液の異常な漏出である。逆流量、MRの重度の指標は、左心房へ逆流する血液の量である。
【0137】
群
Yorkshire-Landraceブタ、3カ月齢、および30〜40kgをこの試験で使用した。実験群の4匹の動物には、Harvard Clinical Technology(HCT)注入ポンプを使用して左冠動脈に冠動脈注入カテーテルによって、1×1012DRPのAAV2/1/SERCA2aを与えた。AAV2/1/SERCA2aは2.5/mLの一定流速で8分の間送達した。注入の終了後、ガイドカテーテルの端とポンプを結び付ける管から残りの溶液を回収した。次いでこの残りの溶液を約2分の間手作業で注入し、次に10mLの生理食塩水を用いてゆっくりと手作業で洗浄した。対照群は、直接注入(DI)またはV-Focusデバイスのいずれかによって、AAV2/1/SERCA2aの代わりに製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)を与えた5匹の動物であった(Preovolos AC、et a1.、J.Extra Corpor.Technol.2006;38(1):51〜2)。
【0138】
動物に関する手順
第0日-MRの生成および回復
麻酔、挿管および抗凝固
テラゾール6.0mg/kgIMおよびアトロピン2.0mLIMを麻酔薬の導入のために注射した。吸入イソフルラン(1〜2%)を用いて一般的な麻酔を保ち、周期的な動脈血液ガスをモニタリングした。無菌技法を使用して耳周縁静脈に静脈ラインを配置し、必要に応じて生理食塩水IVを施した。漏出を妨げるよう膨張したカフを有する場所に結び付けた適切なサイズの気管内チューブを動物に挿管した。ECGパッドおよび電極を剃髪した中手骨および中足骨領域に置いて、レコード上のリードI、II、およびIIIをモニタリングおよび記録する。生存兆候(心拍数、呼吸数、O2パルス酸素濃度計、血圧)は、手順全体中約5分間間隔でモニタリングした。ヘパリンを投与して300秒を超えるACTを維持した。
【0139】
シースの挿入
適切な深さの麻酔を得た後、頸部をプロビドン-ヨウ素、次に70%エタノールで調製した。一般的な滅菌技法を使用して切り口を作製し、8Frシースを頚動脈と静脈の両方に挿入した。
【0140】
心臓機能の試験
ベースラインの心エコー図検査を実施した。
【0141】
僧帽弁逆流の生成
頚動脈シースを介して、鉗子を左心室(LV)に入れた。透視下において、鉗子を使用して後乳頭筋の索条組織を切断して、重度の僧帽弁逆流(MR)を生成した。心不全は、第O日に血管造影法により重度のMRおよび左心室X線写真を確認した後に、左心室腔の膨張およびBPの低下およびEDPの上昇として定義した。
【0142】
回復
ひとたび生存兆候が手順の終了後に10分間安定状態になった後、切り口を閉じ、イソフルランを中止し、急性心不全を予防するために薬剤を投与した。任意の考えられる痛みを、ブプレノルフィン0.005〜0.01mg/kgをIMで与えて通常通り軽減した。動物にはさらにセファゾリンを与えて感染を予防した(1gのIV)。
【0143】
第1〜3日-急性心不全に関するモニタリングおよび薬剤
MR生成後の最初の3日間、1日当たり3回動物を調べた。動物は急性心不全の兆候、頸部切開部位の創傷感染あるいは任意の痛みまたは不快感の兆候に関して毎日調べた。急性心不全のための薬剤を投与し記録した。
【0144】
第56日-心不全、ランダム化、血液サンプルおよび賦形剤対照またはAAV2/1/SERCA2aの投与の文書
心臓機能の試験
画像は長軸、短軸、乳頭筋の挿入のレベルでの短軸M-モード、および僧帽弁輪のカラードップラー画像を含んでいた。心拍出量、Tau、駆出率、LV短縮率、LV自由壁および中隔の寸法、およびMR評価値を計算し記録した。
【0145】
群の割り当て
(心不全の定義を満たして)第56日まで生存した動物を、2つの群:群1、1×1012DRPの用量でAAV2/1/SERCA2a(n=4)、または群2、賦形剤対照(n=5)の1つに割り当てた。
【0146】
一般的な手順:順行性の心外膜冠動脈注入によるAAV2/1/SERCA2aまたは賦形剤の投与(群1〜2)
第56日には、すべての動物群に十分量のヘパリンを投与してACT>300を得た。冠動脈注入カテーテルを使用して、HCT注入ポンプを使用して左冠動脈にAAV2/1/SERCA2aまたは賦形剤を注入した。カテーテル移植用材料および手順は前の実施例2および表3および4中に詳細に記載する。ほぼ同じ手順に従った。
【0147】
群1:1.0×1012個のAAV2/1/SERCA2aの投与(8分間のベクター注入)
軽く混合した後、0.56mLのAAV2/1/SERCA2aストック溶液を滅菌済みポリプロピレンチューブに無菌状態で移し、10mLの製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)で希釈し、1×1011DRP/mLの濃度にした。動物に投与する直前に、10mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(1×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の10mLの元の全血と混合し、20.0mLの最終容積中0.5×1011DRP/mLのシリンジ中で最終希釈をもたらした。注入経路を血液で処理し、次いでHCT注入ポンプを使用してベクターを左主冠動脈に8分間送達した。注入の終了後、ガイドカテーテルの端とポンプを結び付ける管から残りの溶液を回収した。次いでこの残りの溶液を約2分の間手作業で注入し、次に10mLの生理食塩水を用いてゆっくりと手作業で洗浄した。
【0148】
群2:賦形剤の投与(10分間の注入)
前に記載した群1に使用したのと同じ手順を、賦形剤(製剤バッファー、130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)対照群中の数匹の動物に使用した、ただしAAV2/1/SERCA2aは投与しなかった。他の対照群動物には、V-Focusデバイス(Preovolos AC、et al.、J.Extra Corpor.Technol.2006;38(1):51〜2)を使用して左冠動脈に10分間、製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)を投与した。順行性の心外膜冠動脈注入法と以前に試験したV-Focus心臓系送達の両方が、10分間で冠動脈に試験物質または賦形剤のいずれかを送達する。未治療対照とV-Kardia心臓系送達によって投与した賦形剤を得た対照動物の間に差異はない。
【0149】
第112日:最終屠殺手順
麻酔、挿管および抗凝固
第112日に、生存動物に麻酔をかけ、挿管し抗凝固処理した。
【0150】
心臓機能の試験
画像は長軸、短軸、乳頭筋の挿入のレベルでの短軸M-モード、および僧帽弁輪のカラードップラー画像を含んでいた。心拍出量、Tau、駆出率、LV短縮率、LV自由壁および中隔の寸法、およびMR評価値を計算し記録した。組織ドップラー法も実施した。
【0151】
最終屠殺
心臓停止液を使用することによって動物を安楽死させ、タンパク質およびmRNAの発現分析用に組織サンプルを回収した。
【0152】
ブタ心臓ミクロソーム分画の調製
SR小胞を含むミクロソーム分画を、以下の方法によって凍結ブタ心臓から調製した。脂肪および結合組織を除去した約5〜10gの心筋を液体窒素中で粉砕し、Potterホモジェナイザーを用いて5mMのTris-HCl、pH7.4、2mMのEDTA、および8.5%のスクロースを含むバッファー溶液中で均質化した。ホモジェネートは10分間1000×gで遠心分離にかけた。次いで上清を15分間9000×gで遠心分離にかけ、生成した上清を再度2回15分間20000×gで遠心分離にかけた。この後者の20000×g上清中に存在した筋小胞体の小胞を、1時間の110000×gスピンによって後にペレット状にした。ペレットは500μlの均質化バッファー中に再懸濁させた。すべての遠心分離段階は0〜4℃で実施した。
【0153】
タンパク質抽出物の調製およびイムノブロッティング分析
正常未治療非実験対照動物(対照)、AAV-SERCA2a形質導入動物(SERCA2a)、および製剤バッファー(生理食塩水)治療動物由来のタンパク質サンプルを、単離ブタミクロソーム分画から調製し、(ブラッドフォード法を使用して)タンパク質濃度を適合させ、SDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜に移した。膜ブロットはSERCA2aに対する抗体(Affinity Bioreagents、1:400希釈)と共に4℃で一晩インキュベートした。反応性バンドを化学発光物質(PE Life Sciences)によって目に見える状態にし、少なくとも3つの独立した実験からのフィルムをスキャニングし、免疫反応性バンドの密度はNIH Imageソフトウェアを使用して評価した。GAPDHのタンパク質レベルは内対照として使用した。SERAC2aのバンドの密度値はGAPDH値に対して正規化した。
【0154】
RNAの単離および逆転写酵素/ポリメラーゼ連鎖反応
SERCA2aのmRNAレベルをRT-PCRを使用して測定した。すべてのRNAは、TRIzol試薬(Invitrogen)を使用して、正常未治療非実験対照心臓(対照)、AAV-SERCA2a形質導入心臓(SERCA2a)、および製剤バッファー(生理食塩水)治療心臓から単離した。組織を完全に破壊した後、クロロホルムを加え、室温での軽いインキュベーション前にサンプルを完全に攪拌した。次いでサンプルを遠心分離にかけ、(RNAを含む)上清は、その下部の細胞残骸を破壊せずに注意深く除去した。上清溶液中のRNAは等体積の氷冷イソプロパノールを加えることによって沈殿させ、4℃において10分間12,000×gで遠心分離によってペレット状にし、75%エタノールで洗浄した。RNAペレットはRnaseを含まない水(Invitrogen)中に再懸濁させた。cDNAは20μlの最終体積でiScript逆転写酵素(Bio Rad)を使用して1μgの全RNAから合成した。GAPDHのmRNAのレベルは内対照として評価した。PCR反応サイクルのアニーリング温度は、それぞれの特異的プライマーセットに関する最適アニーリング温度に従い調節した。
【0155】
結果
実験の結果は図7〜13中に示す。図7Aは、3匹の非実験対照動物、3匹の製剤注入動物(生理食塩水)および3匹のAAV2/1/SERCA2a治療動物における、SERCA2aタンパク質(上部)およびmRNA(下部)の発現を示すポリアクリルアミドゲルである。図7Bは、タンパク質発現のレベルをGAPDHの発現に正規化した、3つの治療群間のSERCA2aのタンパク質発現を比較するグラフである。この実験はAAV2/1/SERCA2a群が、非実験対照動物または製剤バッファー注入対照群のいずれかより高い、SERCA2aのmRNAおよびタンパク質発現のレベルを有していたことを示す。さらに図7Bは、SERCA2aのタンパク質発現の正規化レベルは、実験生理食塩水注入対照よりSERCA2a注入群中で統計上有意に高かったことを示す。
【0156】
図8は左心室の短縮率の割合、心室の収縮機能の指標を示す。AAV2/1/SERCA2aベクターの投与後2カ月で、製剤バッファー注入対照群と比較して治療群中で短縮率が25%まで増大し、統計上有意な改善があった。図9は第56日と比較した第112日の短縮率の絶対的変化のプロットである。実験製剤バッファー対照群(V-Focusと直接注入(DI)動物の両方)の短縮率の中央値の変化はわずかにマイナスであり、一方AAV2/1/SERCA2a(薬剤)注入群は実質的プラスの増大を示し、改善された心臓機能を示す。
【0157】
同様に図10は、第56日と比較した第112日の駆出率の絶対的変化のプロットである。実験製剤バッファー対照群(V-Focusと直接注入(DI)動物の両方)の駆出率の中央値の変化はマイナス5%であり、一方AAV2/1/SERCA2a(薬剤)注入群は実質的プラスの増大(約10%)を示し、改善された心臓機能を示す。
【0158】
図11は、第56日と比較した第112日の心拍出量(mL/分)の絶対的変化のプロットである。実験製剤バッファー対照群(V-Focusと直接注入(DI)動物の両方)の心拍出量の中央値の変化は3.5mL/分未満であり、一方AAV2/1/SERCA2a(薬剤)注入群は対照群の2倍近くも多く(約6mL/分)、改善された心臓機能を示す。
【0159】
図12は、第56日と比較した第112日のtau(LV弛緩の時定数、ミリ秒)の絶対的変化のプロットである。Tauは心室内圧の測定を必要とする心臓拡張性能の定量的尺度である。実験製剤バッファー対照群(V-Focusと直接注入(DI)動物の両方)の弛緩期の中央値の変化はプラス0.01ミリ秒を超え、一方AAV2/1/SERCA2a(薬剤)注入群は(約0.005ミリ秒を超える)実質的マイナスの減少を示し、改善された心臓機能を示す。
【0160】
最後に図13は、第56日と比較した第112日の逆流量(mL)の絶対的変化を示すプロットである。実験製剤バッファー対照群(直接注入(DI)動物のみ)の逆流量の中央値の変化は約40mLであり、一方AAV2/1/SERCA2a(薬剤)注入群はほとんど変化を示さず、対照と比較して改善された心臓機能を示す。
【0161】
さらに、左心室と右心室の両方が対照群と比較してAAV2/1/SERCA2a群中では小さく(示さず)、対照群と比較した治療群中の心不全が原因である非否定的な心臓組織のリモデリングを示した。合わせて、これらの結果は、心不全の容認された動物モデルでは、AAV2/1/SERCA2aベクターの長期順行性の心外膜注入により心臓組織にトランスフェクトすることに成功し、AAV2/1/SERCA2aのmRNAおよびタンパク質の増大した発現、ならびに心不全の容認された大型動物モデルにおける心臓機能のいくつかの指標の有意な長期の改善をもたらすことを実証する。
【実施例4】
【0162】
順行性の心外膜注入
鬱血性心不全を有する患者における3用量レベルのAAV2/1/SERCA2aの1回冠動脈内投与の安全性、実現性および有効性を、第1相、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照用量漸増試験において試験する。
【0163】
群
対象集団はNYHAクラスIII/IV慢性心不全を有する成人患者である。対象は4群に分け、3×1011DRPのAAV2/1/SERCA2a、3×1012DRPのAAV2/1/SERCA2a、1×1013DRPのAAV2/1/SERCA2a、3×1012DRPのAAV2/1/SERCA2a、またはプラセボのいずれかを与える。AAV2/1/SERCA2aを与えた対象は12カ月追跡する。プラセボ対象は6カ月後には非盲検状態でありAAV2/1/SERCA2a治療を与える。
【0164】
AAV2/1/SERCA2aの投与
注入の目的は、順行性の、心外膜冠動脈注入による、AAV2/1/SERCA2aへの広範、均質な心筋の露出である。同時側性化パターン、閉塞性疾患、および解剖的変異(例えば、バイパス手術後の解剖学的構造)に基づく多数の注入シナリオが存在するが、臨床医の目的はAAV2/1/SERCA2aの1/3を前外側に送達し、1/3を後外側に送達し、かつ1/3を下部/下外側心筋に送達することである。
【0165】
局所麻酔薬(典型的には1〜2%のリドカイン)および制度標準に従い必要に応じて意識下鎮静の下で、Seldinger技法を使用して6Fr動脈(オペレーターの裁量に従い大腿動脈、橈骨動脈、または上腕動脈)アクセスを得る。未分画ヘパリンを静脈内/動脈内に投与して250〜300秒の活性凝固時間(ACT)を得る。2カ月以内に実施されない場合通常の方法で冠動脈およびバイパス移植血管造影法を実施する。生体構造および戦略をAAV2/1/SERCA2Aの投与前に適切に定義して、灌流心筋への均一な送達を実施し、適切な6Frガイドカテーテルを選択する。わずか1回または2回の注入を実施し、注入に利用する動脈またはバイパス移植は、心筋流の大部分を補助する1回または2回である。AAV2/1/SERCA2A生成物の2/3を第1注入配列に注入し、1/3は必要な場合第2(最終)注入配列に注入した。第1注入用に選択した、適切なガイドカテーテルは、通常形式の血液逆流/フラッシング後に(最大領域を定める)第1の冠動脈/バイパス移植に携わる。
【0166】
MEDRAD注入システム(City、PA)または同等物および60ccシリンジに、滅菌領域でAAV2/1/SERCA2A混合物(以下参照)を充填する。ガイドカテーテルは30"の高流圧線オス-メス用試験管装置およびMedrad自動注入器システムと結び付けて、流体-流体空気-自由空間が確保されることを保証する。血液を吸引し正常生理食塩水と混合させ、次にAAV2/1/SERCA2Aを加えて、MEDRAD自動注入器シリンジ中で以下の混合物を与える。血液/生理食塩水溶液を最初にシリンジに加え、次にAAV2/1/SERCA2Aを加えることは重要である。
【0167】
低用量コホート:3×1011DRPのAAV2/1/SERCA2a
・ 15mLの血液
・ 45mlの注射用正常生理食塩水
・ 0.3mlの1×1012AAV2/1/SERCA2ADRP/mL溶液
【0168】
中用量コホート:3×1012DRPのAAV2/1/SERCA2A
・ 15mLの血液
・ 42mlの注射用正常生理食塩水
・ 3.0mlの1×1012AAV2/1/SERCA2aDRP/mL溶液
【0169】
高用量コホート:1×1013DRPのAAV2/1/SERCA2a
・ 15mLの血液
・ 35mlの注射用正常生理食塩水
・ 10.0mlの1×1012AAV2/1/SERCA2aDRP/mL各溶液)
【0170】
プラセボコホート:
・ 15mLの血液
・ 45mlの注射用正常生理食塩水
【0171】
1回注入手順
60mLの溶液を6mL/分の一定流速で注入する。最終血管造影法を実施して、注入による一時的な解剖学的変化を評価する。ガイドカテーテルは回収する。大腿鞘の除去および/または閉鎖はオペレーターの裁量に従い実施する。
【0172】
二重注入手順
2本の動脈注入した対象/グラフでは、第1の注入は6mL/分の一定流速で40mLの用量である。目的はAAV2/1/SERCA2A生成物の2/3を大きな心筋領域に注入することである。最初の部分の注入後、最後の血管造影法を実施して、注入による一時的な解剖学的変化を評価する。ガイドカテーテルは回収する。
【0173】
次に、適切な6Frガイドカテーテルを、小さな(1/3)灌流心筋領域への注入配列用に選択する。ガイドカテーテルは動脈/バイパス移植に携わり、以前の記載に従いMedrad注入装置と結び付け、AAV2/1/SERCA2A生成物の最後の1/3を注入する(20mL用量、6mL/分の一定流速)。最後の血管造影法を実施して、注入による一時的な解剖学的変化を評価する。ガイドカテーテルは回収する。大腿鞘の除去および/または閉鎖はオペレーターの裁量に従い実施する。
【0174】
解剖学的特徴
多数の解剖学的シナリオが存在する可能性があり、これらは注入に関する動脈の選択肢を決定して、「主要」灌流心筋領域への生成物の2/3の送達および「小さな」領域への1/3の注入を実施する。
(1)非閉塞性動脈疾患/正常冠動脈、事前の冠動脈バイパス手術(CABG)なし-標準的な左主冠動脈用ガイドカテーテルは左冠動脈(左前下および左回旋枝)系への2/3の注入に関与し、標準的な右冠動脈(RCA)ガイドカテーテルはRCA系への1/3の注入に関与する。
(2)事前のCABG、RCAの完全閉塞なし、左から右への冠動脈の同時側性化-左主用ガイドカテーテルの関与、100%の生成物を送達してすべての(LAD、LCx、およびRCA)領域に注入する。
(3)事前のCABG、LADおよび/またはLCxの完全閉塞なし、RCAからの右から左への同時側性化-RCAはこの状況では「主要」領域になり、2/3の生成物はRCAに送達し、1/3は左冠動脈系に送達する。
(4)多枝閉塞性疾患、事前のCABGなし-2/3の生成物は心筋の大部分として働く領域に、1/3は小さな領域に送達する。
(5)事前のCABG、親の移植手術-2/3はLADの移植片に送達し、1/3はRCAの移植片に送達する。
(6)事前のCABG、混合型閉塞性バイパス手術および原型冠動脈疾患-原型またはバイパス手術、2/3は最大の心筋領域を与える血管に注入し、1/3は小さな領域に注入する。
【0175】
解剖学的変化は個体間で異なるはずであるが、典型的な個体に関しては、好ましい実施形態は2/3の生成物を主要灌流領域に、1/3を小さな領域に送達することであることは強調しなければならない(例外は、1回の原型動脈またはバイパス手術が心筋流の大部分を与える場合の、1回の100%の生成物注入である)。
【0176】
心臓機能の評価
AAV2/1/SERCA2a投与後の3、6および12カ月と比較したベースラインからの変化に基づいて治療群内および間で評価し比較する一次活性/有効性の終点には、以下の:心肺運動試験によって評価したVO2最大値、左心室駆出率、LV寸法、局所壁運動、拡張機能、および僧帽弁逆流を含めた心エコー評価、6分間歩行試験中に歩いた距離、NYHA分類、およびB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)レベルの1つまたは複数がある。
【0177】
結果
前述の活性/有効性の終点の1つまたは複数の実質的および有意な改善は、プラセボ群と比較して治療群中で見られる。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年7月25日に出願された米国仮出願第60/833,324号の特典を主張するものである。
【0002】
本発明は、心臓血管疾患を治療するための遺伝子治療、具体的には心臓組織へのポリヌクレオチドの送達に関する。
【背景技術】
【0003】
心臓疾患は、特に西欧諸国では、非常に罹患率が高い主要な公衆衛生上の問題である。心臓疾患は、数例を挙げると、冠動脈疾患、虚血性心疾患、心不全、心臓弁膜症、心不整脈および心臓の炎症(心筋炎)を含む。冠動脈疾患および心不全は、おそらく最も重大で蔓延しており、共に西欧諸国の主な死因である。患者の生活の質およびヘルスケアのコストに対する、急性心筋梗塞および鬱血性心不全およびそれらの後遺症の影響によって、新たな療法を検索することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国仮出願第60/833,324号
【特許文献2】WO00/38518
【特許文献3】米国特許第6,001,650号
【特許文献4】米国特許第6,258,595号
【特許文献5】米国特許第5,139,941号
【特許文献6】米国特許第4,797,368号
【特許文献7】米国特許第5,672,344号
【特許文献8】米国特許第6,013,516号
【特許文献9】米国特許第5,994,136号
【特許文献10】米国特許第6,046,173号
【特許文献11】米国特許第6,867,196号
【特許文献12】米国特許第5,302,523号
【特許文献13】米国特許第5,464,765号
【特許文献14】米国特許出願第2005/0037085号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Liu et al.、FASEB J.2006;20(2):207〜16
【非特許文献2】Liu et al.Toxicol.Appl.Pharmacol.2006 Jan25(電子出版物)
【非特許文献3】Zhu et al.、Circulation.2005;112(17)2650〜9
【非特許文献4】Nykanen et al.、Circ.Res.2006;98(11):1373〜80
【非特許文献5】Kaspar et al.、J.Gene Med.2005;7(3)316〜24
【非特許文献6】Hayase et al.、Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.2005;288(6):H2995〜3000
【非特許文献7】Sandalon et al.、J.Virology、2004;78(22):12355〜12365
【非特許文献8】Vlodaver Z.et al.Coronary Heart Disease:Clinical、Angiographic、and Pathologic Pofiles.Spinger-Verlag、New York.1976
【非特許文献9】McAlpine W.Heart and Coronary Ateries.Spinger Verlag、1975
【非特許文献10】Flotte et el.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1993;90:10613〜17
【非特許文献11】Walsh et al.、J Clin.Invest.、1994;94:1440〜48
【非特許文献12】Grunhaus and Horwitz、Seminar in Virology、1992;3:237〜252
【非特許文献13】Stratford-Perricaudet et al.、Hum.Gene.Ther、1991;1:242〜256;Rich et al.、1993
【非特許文献14】Vassalli G、et al.、Int.J.Cardiol.、2003;90(2〜3):229〜38
【非特許文献15】Gilbert R、et al.、Hum.Mol.Genet.、2003;12(11):1287〜99
【非特許文献16】Daly TM、et al.、Gene Ther.、2001;8(17):1291〜8
【非特許文献17】Glorioso et al.、Annu.Rev.Microbiol.、1995;49:675〜710
【非特許文献18】Friedmann、Science、1989;244:1275〜1281
【非特許文献19】Horwich et al.、J.Virol.、1990;64:642〜650
【非特許文献20】Chang et al.、Hepatology14:134A(1991)
【非特許文献21】Wagner et al、Proc.Natl.Acad.Sci.87(9):3410〜14(1990)
【非特許文献22】Pathak et al.Circ Res.、2005;96(7)756〜66
【非特許文献23】Brain J.D.、et al.、Am J Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.、1999;276:146〜154
【非特許文献24】Rip J、et al.、Hum.Gene Ther、005;16(11):1276〜86
【非特許文献25】Preovolos AC、et a1.、J.Extra Corpor.Technol.2006;38(1):51〜2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鬱血性心不全(CHF)は、心臓が血液を効率良くポンプで送り出す能力を失う重大な疾患である。National Heart、Lung and Blood Instituteからのデータは、米国内だけで約5百万人の人々が心不全を有しており、さらに550,000の新たな症例が毎年診断されることを示唆する。CHFは年間約300,000の死の原因であり、あるいはこれらを引き起こす。この疾患は、65才以上の人々、女性およびアフリカ系アメリカ人において最も一般的である。心不全の最も一般的な症状は、息切れ、疲労感、および足首、足、脚、および時には腹部の腫れである。鬱血性心不全のための治療法は存在せず、有効な療法に関する明らかな必要性が当技術分野で存在する。
【0007】
一層注目され始めている、CHFなどの心臓疾患を治療する1つの方法は、ポリヌクレオチドを心臓組織、典型的にはウイルスベクターで送達する遺伝子治療である。心筋への直接注射(Liu et al.、FASEB J.2006;20(2):207〜16;Liu et al.Toxicol.Appl.Pharmacol.2006 Jan25(電子出版物);Zhu et al.、Circulation.2005;112(17)2650〜9)、冠動脈内送達(Nykanen et al.、Circ.Res.2006;98(11):1373〜80;Kaspar et al.、J.Gene Med.2005;7(3)316〜24)、冠静脈を封鎖しながらのカテーテルベースの順行性の冠動脈内送達(Hayase et al.、Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.2005;288(6):H2995〜3000)、大動脈および肺動脈遮断、次にアデノ随伴ウイルスベクターの大動脈近位部注射(Kaspar et al.、J.Gene Med.2005;7(3)316〜24)を含めた、心臓にウイルスベクターを送達する多数の手段が試されてきている。LeidenおよびSvenssonは、冠動脈または洞へのrAAVベクターのin vivo注入を一般的に言及しているが、心臓が鼓動を停止した4℃におけるex vivoでレポーター遺伝子を用いたマウス心臓の灌流(WO00/38518)、ヒトなどの大型動物を治療するのに実用的でない方法のみを詳しく記載している。したがって、これらの方法は、例えば外科的介入の必要があり、または心筋への酸素含有血液の流入が遮断されるため危険性が高すぎるので、方法を実施するのに必要とされるウイルスベクターの量のため、トランスフェクトされる組織の割合が低いため、形質導入が注射/投与部位のみに限られるという事実のため、あるいは方法が大型動物またはヒトにおける疾患の治療に関して非実用的または未確認であるため、臨床設定で使用するにはいずれも不十分である。ウイルスベクター中のトランス遺伝子を心臓組織に送達して、特にヒトにおける疾患を治療する、簡潔、侵襲性が最少であるが、有効な手段に関する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、心臓血管疾患を治療するための療法、具体的には、冠循環への直接的心外膜注入による心臓組織への治療作用物質の送達に関する。本発明の好ましい実施形態は、体循環から冠循環を分離せずに、冠循環の血管にポリヌクレオチドを少なくとも3分間にわたって注入することによって心臓疾患を治療または予防するための薬剤の調製における、心臓細胞にトランスフェクトするように適合させた治療用ポリヌクレオチド組成物の使用である。
【0009】
他の実施形態は、大型哺乳動物の心臓細胞にトランスフェクトすることによって心臓血管疾患を治療または予防する方法であって、心臓血管疾患を治療または予防する必要がある哺乳動物を同定する段階と、in vivoで冠循環の血管に治療用ポリヌクレオチドを注入する段階とを含み、治療用ポリヌクレオチドを血管に少なくとも約3分間にわたって注入し、冠循環を哺乳動物の体循環から分離または実質的に分離せず、治療用ポリヌクレオチドを哺乳動物の心臓細胞にトランスフェクトして、心臓血管疾患の治療または予防をもたらす方法である。
【0010】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドを少なくとも約5分間にわたって血管に注入し、いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドを少なくとも約10分間にわたって血管に注入し、いくつかの実施形態では、それを少なくとも約15分間にわたって血管に注入する。
【0011】
いくつかの実施形態では、血管中への注入は約6.0mL/分以下の速度であり、いくつかの実施形態では、それは約2.5mL/分以下の速度であり、いくつかの実施形態では、それは約2.0mL/分以下の速度であり、いくつかの実施形態では、それは約1.2mL/分以下の速度であり、いくつかの実施形態では、それは約1.0mL/分以下の速度であり、いくつかの実施形態では、それは約0.6mL/分以下の速度である。
【0012】
いくつかの実施形態では、血管は左冠動脈である。いくつかの実施形態では、冠循環の流出は不自然に制限されない。
【0013】
いくつかの実施形態では、側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションは、PCRを使用して検出可能である。
【0014】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、心臓細胞の細胞活動を調節することができるタンパク質を発現することができる。いくつかの実施形態では、細胞活動は心筋細胞のカルシウム循環経路である。いくつかの実施形態では、タンパク質は筋小胞体/小胞体ATPase(SERCA)であり、いくつかの実施形態では、SERCAはSERCA2aである。
【0015】
好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドは、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ウシパピローマウイルス、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、およびポリオーマウイルスからなる群から選択されるウイルスベクター中に存在する。より好ましい実施形態では、ウイルスベクターはAAVウイルスであり、およびより好ましい実施形態では、ウイルスベクターはAAV2/1ベクターである。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドはCMV系プロモーターと作動可能に連結しており、ウイルスベクターにパッケージされている。好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドはSERCA2aコード配列を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、心臓細胞のトランスフェクションは側脳室の短縮率を増大させる。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトであり、疾患は鬱血性心不全である。
【0017】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドをウイルスベクターのDNase耐性粒子(DRP)にパッケージする。いくつかの実施形態では、注入するDRPの合計数は、1×1014、1×1013、3×1012、1×1012、1×1011、1×1010、1×109、および1×108からなる群から選択される量以下である。いくつかの実施形態では、注入するDRPの合計数は1×1013以下である。
【0018】
一実施形態では、注入するDRPの合計数は1×1012以下であり、ウイルスベクターはAAV2/1であり、ポリヌクレオチドはSERCA2aコード配列を含み、血管は左または右冠動脈であり、ポリヌクレオチドの注入は2mL/分以下の流速で少なくとも約10分間続き、側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションはPCRを使用して検出可能である。
【0019】
いくつかの実施形態では、疾患は心不全、虚血、不整脈、心筋梗塞、鬱血性心不全、移植片拒絶反応、異常な心収縮性、非虚血性心筋症、僧帽弁逆流、大動脈弁狭窄症または逆流、異常なCa2+代謝および先天性心疾患からなる群から選択される。
【0020】
一実施形態では、ウイルスベクターはAAV2/1であり、ポリヌクレオチドはSERCA2aコード配列を含み、血管は左または右冠動脈であり、ポリヌクレオチドの注入は約2.5mL/分以下の流速で少なくとも約8分間続き、側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションはPCRを使用して検出可能であり、心臓細胞のトランスフェクションは、ポリヌクレオチド注入前の側脳室の短縮率と比較して、注入後約4カ月で測定すると少なくとも25%側脳室の短縮率を増大させる。
【0021】
一実施形態では、哺乳動物はヒトであり、ウイルスベクターはAAV2/1であり、ポリヌクレオチドはSERCA2aコード配列を含み、血管は左または右冠動脈であり、かつポリヌクレオチドの注入は少なくとも約10分間続く。いくつかの実施形態では、心臓血管系の疾患は鬱血性心不全である。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドの注入は約6mL/分の流速である。
【0022】
いくつかの実施形態では、心臓細胞のトランスフェクションは、SERCA2aタンパク質の発現、短縮率、駆出率、心拍出量、心室弛緩の時定数、および逆流量からなる群から選択される心臓機能の測定値の改善をもたらす。
【0023】
いくつかの実施形態では、本発明は、冠循環のさらなる血管へのポリヌクレオチドの注入をさらに含み、ポリヌクレオチドをさらなる血管に少なくとも約3分間にわたって注入する。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトであり、ウイルスベクターはAAV2/1であり、ポリヌクレオチドはSERCA2aコード配列を含み、血管は左冠動脈であり、左冠動脈へのポリヌクレオチドの注入は少なくとも約6分間続き、さらなる血管は右冠動脈であり、右冠動脈へのポリヌクレオチドの注入は少なくとも約3分間続く。いくつかの実施形態では、心臓血管系の疾患は鬱血性心不全である。いくつかの実施形態では、左冠動脈および右冠動脈へのポリヌクレオチドの注入は約6mL/分の流速である。
【0024】
いくつかの実施形態では、心臓細胞のトランスフェクションは、SERCA2aタンパク質の発現、短縮率、駆出率、心拍出量、心室弛緩の時定数、および逆流量からなる群から選択される心臓機能の測定値の改善をもたらす。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明は、SERCA2aをコードするポリヌクレオチドを含むAAV2/1ベクターの少なくとも1×1011個のDRPを含む医薬組成物と、SERCA2aをコードするポリヌクレオチドを含むAAV2/1ベクターの少なくとも0.5×1011個のDRPを含む溶液を冠循環の血管へのin vivo注入によって心臓血管疾患を治療または予防する必要がある患者に投与すべきであり、冠循環を患者の体循環から分離または実質的に分離せず、ポリヌクレオチドを血管に少なくとも約3分間にわたって注入することを説明する説明書とを含むキットである。いくつかの実施形態では、血管は左または右冠動脈であり、ポリヌクレオチドの注入は少なくとも約8分間である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】AAV2/1/SERCA2a(tgABG12)のDNAの特徴を示す図である。
【図2】野生型AAVと組換えAAVのDNAの比較の図である。
【図3】実施例1中に記載した実験中において回収したサンプルの位置を示す、心臓を示す図である。
【図4】組織サンプル中のAAV2/1/SERCA2aのDNAの検出において使用したPCRプライマーの位置を示す図である。
【図5】同量のAAV2/1/SERCA2aの注入時間の増大が心臓組織のサンプル中のAAV2/1/SERCA2aのコピーの増大をもたらしたことを示す、実施例1中に記載した実験の結果を示す表である。
【図6】AAV2/1/SERCA2aの注入が用量依存的静脈内注射より多数のAAV2/1/SERCA2aのコピーの増大をもたらしたことを示す、実施例2中に記載した実験の結果を示す表である。
【図7A】実施例3からの非実験対照動物、製剤注入動物(生理食塩水)およびAAV2/1/SERCA2a治療動物における、SERCA2aタンパク質(上部)およびmRNA(下部)の発現を示すポリアクリルアミドゲルの図である。
【図7B】実施例3の3つの治療群間の正規化したSERCA2aタンパク質の発現を比較するグラフである。
【図8】AAV2/1/SERCA2aの順行性の心外膜冠動脈注入は、左心室の増大した短縮率、心不全のモデルにおける改善された心臓機能の指標をもたらすことを示す、実施例3中に記載した実験の結果を示すグラフである。
【図9】第56日と比較した第112日の短縮率の絶対的変化のプロットである。
【図10】第56日と比較した第112日の駆出率の絶対的変化のプロットである。
【図11】第56日と比較した第112日の心拍出量(mL/分)の絶対的変化のプロットである。
【図12】第56日と比較した第112日のtau(LV弛緩の時定数、ミリ秒)の絶対的変化のプロットである。
【図13】第56日と比較した第112日の逆流量(mL)の絶対的変化のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、心臓血管疾患を治療するための療法に関する。本発明の一実施形態は、心臓組織にトランスフェクトして鬱血性心不全(CHF)を有する患者の心筋収縮性を改善することにより、心筋細胞のカルシウムレベルを正規化することによって心臓疾患を治療するための薬剤の調製における、心臓細胞にトランスフェクトするように適合させた治療用ポリヌクレオチド組成物の新規の使用である。好ましい実施形態は、少なくとも約3分間より長い間冠循環中in vivoに直接注入する遺伝子導入剤、AAV2/1/SERCA2aを使用し、冠循環は動物の体循環から分離されず、またはその他の形で不自然に制限されない。
【0028】
本明細書で使用する「ポリヌクレオチド」は、当技術分野におけるその通常および通例の意味を有し、DNAまたはRNA分子などの任意のポリマー核酸、および当業者に知られている化学誘導体を含む。ポリヌクレオチドは治療用タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むだけでなく、当技術分野で知られている技法を使用して標的核酸配列(例えば、アンチセンス、干渉、または低分子干渉核酸)の発現を低下させるために使用することができる配列も含む。一例は、ホスホランバンの発現を低下させるかあるいは排除する配列である。ポリヌクレオチドを使用して、心臓血管系の細胞内の標的核酸配列の発現または標的タンパク質の生成を開始または増大させることも可能である。標的核酸およびタンパク質には、標的組織中で通常見られる核酸およびタンパク質、そのような本来存在する核酸またはタンパク質の誘導体、標的組織中で通常見られない本来存在する核酸またはタンパク質、あるいは合成核酸またはタンパク質があるが、これらだけには限られない。1つまたは複数のポリヌクレオチドを組み合わせて同時および/または連続的に投与して、1つまたは複数の標的核酸配列またはタンパク質を増大および/または低下させることが可能である。
【0029】
本明細書で使用する用語「注入」、「注入された」、および「注入する」は当技術分野におけるそれらの通常および通例の意味を有し、当技術分野で認められている用語「注射」または「ボーラス注射」(典型的には1分間未満)より実質的に長い、一定時間期間(典型的には1分間以上)の投与を指す。注入の流速は投与する体積に少なくとも部分的に依存するはずであるが、しかしながら「注入」の流速は、同体積の「注射」の流速より遅い。
【0030】
「有効量」は、当技術分野におけるその通常および通例の意味を有し、有益または所望の治療効果を実施または達成するのに十分な量を含む。例えば「有効量」は、以下のいずれか:側脳室の短縮率の増大、および/または苦痛緩和、改善、安定化、反転、疾患状態の進行または兆候または症状の緩慢化または遅延を達成する量である。有効量は1回または複数回の投与で投与することができる。
【0031】
本明細書で使用する「と共に」、「と組み合わせて」、「同時」または「同時に」は当技術分野におけるそれらの通常および通例の意味を有し、1つの治療モダリティおよび他の治療モダリティの実施を含む。例えば、対象への本発明のポリヌクレオチドの注入、および同一個体への当技術分野で認められている医薬組成物の投与。本明細書で使用するこれらの用語は、同時投与、および連続的な治療モダリティの実施を含む。
【0032】
本明細書で使用する疾患を「治療する」または疾患の「治療」は当技術分野におけるその通常および通例の意味を有し、疾患の進行または疾患の兆候または症状の停止または緩慢化を含めた、疾患の安定状態、治癒、不完全治癒を含む。用語「予防」は当技術分野におけるその通常および通例の意味を有し、疾患または疾患の兆候または症状の完全または不完全な予防、発症遅延を含む。用語「治療的」、「治療効果」または「臨床効果」は、治療と予防の両方を含む。本発明を使用して治療されると考えられる心臓血管系と関係がある疾患の例には、心不全、虚血、不整脈、心筋梗塞、鬱血性心不全、移植片拒絶反応、異常な心収縮性、非虚血性心筋症、僧帽弁逆流、大動脈弁狭窄症または逆流、異常なCa2+代謝および先天性心疾患があるが、これらだけには限られない。例えば、有益または所望の臨床結果または治療効果には、心臓血管疾患の兆候または症状の大幅な軽減、疾患の程度のさらなる低下、疾患状態の安定(すなわち、悪化しない)、疾患進行の遅延または緩慢化、疾患状態の改善または苦痛緩和、および(部分的または全体的であれ)寛解、検出可能または検出不能があるが、これらだけには限られない。治療効果の他の例には、増大した側脳室の短縮率、細胞および無傷動物レベルで増大した心筋収縮性、心臓リモデリングの反転、および異常に高い心臓拡張レベルの細胞質カルシウムの正規化があるが、これらだけには限られない。本発明の実施形態で治療した対象において改善することができる他の臨床的特徴には、非制限的に、生存、心臓代謝、心筋収縮性、心拍数、心室機能(例えば、左心室拡張末期圧(LVEDP)、左心室収縮末期圧(LVSP))、Ca2+代謝(例えば、細胞内Ca2+濃度、ピークまたは休止状態[Ca2+]、SRのCa2+ATPase活性、ホスホランバンのリン酸化状態)、力発生、心臓の弛緩および圧力、力収縮頻度関係、心臓細胞の生存またはアポトーシスまたはイオンチャンネル活性(例えば、ナトリウムとカルシウムの交換、ナトリウムチャンネル活性、カルシウムチャンネル活性、ナトリウムカリウムATPaseポンプ活性)、ミオシン重鎖、トロポニンI、トロポニンC、トロポニンT、トロポミオシン、アクチン、ミオシン軽鎖キナーゼ、ミオシン軽鎖1、ミオシン軽鎖2またはミオシン軽鎖3、IGF-1受容体、PI3キナー
ゼ、AKTキナーゼ、ナトリウム-カルシウム交換体、カルシウムチャンネル(LおよびT)、カルセクエストリンまたはカルレチクリンの活性がある。改善することができる心臓疾患の他の測定値は、短縮率、心拍出量、駆出率、Tau、逆流量、短期間の入院、改善された生活の質、および増大したトレッドミル時間を含む。
【0033】
本明細書で使用する「外因性」核酸または遺伝子は、核酸導入に利用するベクター中に本来存在しない、例えばウイルスベクター中に本来見られない核酸または遺伝子であるが、この用語は、患者または宿主中に本来存在するタンパク質またはポリペプチドをコードする核酸、例えばSERCAを除外することを目的とするものではない。
【0034】
本明細書で使用する「心臓細胞」は、心筋細胞、心臓血管系の細胞、または心臓弁中に存在する細胞などの、心臓の構造の維持または心臓の機能の提供と関係がある心臓の任意の細胞を含む。心臓細胞は、心筋細胞(正常な電気特性と異常な電気特性の両方を有する)、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、通道組織の細胞、心臓ペースメーカー細胞、およびニューロンを含む。
【0035】
本明細書で使用する「分離された」、「実質的に分離された」または「大部分が分離された」およびそれらの変形は、冠静脈、心臓、体静脈、または体循環の完全または絶対的な分離を必要としない用語であり、むしろ、それらは大部分、好ましくは主要部分またはさらに実質的にすべての特定循環が分離されることを意味するものとする。本明細書で使用する「部分的に分離された」は、分離される特定循環の任意の重要部分を指す。
【0036】
本明細書で使用する「不自然に制限される」は、血管を介した流体の流れを制限する任意の方法、例えばバルーンカテーテル、縫合などを含むが、自然に生じる制限、例えばプラークの蓄積(狭窄)は含まない。不自然な制限は、例えば冠循環の実質的または完全な分離を含む。
【0037】
本明細書で使用する「調節する」は、その通常の意味を有し、標的の発現または活性の増大と低下の両方を含む。
【0038】
本明細書で使用する用語「最少侵襲」は、心臓または心臓と密接に結び付いた血管への外科的切開処置を必要としない任意の手順を含むものとする。このような手順は、心臓にアクセスするための内視鏡的手段の使用、および大動脈および静脈、大腿動脈などを介したアクセスに頼るカテーテル系手段も含む。
【0039】
本明細書で使用する用語「アデノ随伴ウイルス」または「AAV」は、すべての亜型、血清型および偽型、ならびに天然および組換え型を含む。様々なAAVの血清型および系統が当技術分野で知られており、ATCC、および専門的または商業的供給元などの供給元から一般に入手可能である。あるいは、様々なデータベースから公開済みおよび/または入手可能であるAAVの血清型および系統由来の配列を、知られている技法を使用して合成することができる。
【0040】
本明細書で使用する用語「血清型」は、明確な抗血清とのカプシドタンパク質の反応性に基づいて同定され他のAAVと区別されるAAVを指す。AAV1〜AAV12を含めた少なくとも12の知られているヒトAAVの血清型が存在するが、しかしながら他の血清型が発見され続けており、新たに発見される血清型の使用が企図される。例えば、AAV2血清型を使用して、AAV2のcap遺伝子由来のコードされたカプシドタンパク質および同じAAV2血清型由来の5'および3'逆方向末端反復(ITR)配列を含むゲノムを含むAAVを指す。
【0041】
「偽型」AAVは、一種の血清型由来のカプシドタンパク質、および異なるすなわち異種血清型の5'および3'逆方向末端反復(ITR)を含むウイルスゲノムを含むAAVを指す。偽型rAAVは、カプシド血清型の細胞表面結合性、およびITR血清型と一致した遺伝的性質を有すると予想され得る。偽型rAAVは、VP1、VP2、およびVP3カプシドタンパク質を含めたAAVカプシドタンパク質、およびAAV1〜AAV12の任意の霊長類AAV血清型を含めた任意の血清型AAV由来のITRを含むことができる、ただしカプシドタンパク質は、ITRの血清型と異種の血清型であるものとする。偽型rAAVでは、5'および3'ITRは同一または異種であってよい。偽型rAAVは、当技術分野で記載される標準的な技法を使用して生成する。
【0042】
「キメラ」rAAVベクターは異種カプシドタンパク質を含むAAVベクターを含む、すなわちrAAVベクターは、VP1、VP2およびVP3がすべて同じ血清型のAAVのものではないように、そのカプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3に関してキメラであってよい。本明細書で使用するキメラAAVは、例えばAAV1およびAAV2由来のカプシドタンパク質だけには限られないが、これらを含めたカプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3が血清型が異なり、他のパルボウイルスカプシドタンパク質の混合物であるか、あるいは他のウイルスタンパク質または他のタンパク質、例えば所望の細胞または組織にAAVを標的送達するタンパク質などを含むAAVを含む。本明細書で使用するキメラrAAVは、キメラ5'および3'のITRを含むrAAVも含む。本発明は、異なるAAV血清型、例えばAAV1およびAAV2由来のITRを含むキメラrAAVベクターを含み、キメラrAAVは合成配列を含むことができる。
【0043】
rAAVウイルスベクターは、米国特許第6,001,650号および米国特許第6,258,595号中に記載されたのと同様の一過性トランスフェクション戦略を含めた、当技術分野で知られている任意のいくつかの方法によって生成することができる。典型的には、rAAVベクター生成は4つの一般的要素:1)本明細書に記載するベクター生成系に適用可能である、293-A、293-S(BioRelianceから得られる)、VERO、およびHeLa細胞系を含めた当技術分野で知られている標準的な宿主細胞を含む複製許容宿主細胞、2)形質導入生成系で利用するとき、プラスミド、アデノウイルス5型(Ad5)のE2a、E4-orf6およびVA遺伝子を発現するpAdヘルパー4.1として与えられるヘルパーウイルス機能、3)トランスパッケージrep-cap構築体、および4)AAVのITR配列に隣接する当該の遺伝子を必要とする。トランスフェクション生成は、Sandalon et al.、J.Virology、2004;78(22):12355〜12365による記事中に記載されたのと同様に実施することができる。
【0044】
治療法
本発明の好ましい実施形態では、以下でより詳細に記載する治療作用物質、例えばポリヌクレオチド/ウイルスベクターを、特定の血管中に少なくとも3分間、in vivoで鼓動する心臓の冠循環の血管への注入によって対象に投与する。ヒト心臓および心臓血管疾患の大型動物モデルにおいて、本出願人は、比較的長い注入時間のウイルスベクターの投与は、同量のウイルスベクターのボーラス注射または短時間(例えば1分以下)の注入時間より有効であり、心臓組織への優れた遺伝子導入効率をもたらすことを予想外に見出している。注入の改善された有効性は、注射と比較した、細胞当たりのトランス遺伝子の多くのコピー数、細胞当たりまたは組織中のmRNAおよび/またはタンパク質レベルでのトランス遺伝子の増大した発現、および/またはトランスフェクトされる特定組織の細胞、例えば心筋細胞の高い割合として測定することができる。本出願人は、大型動物モデルにおいて、これがヒト心臓血管疾患のモデルの首尾良い治療をもたらすことを示している。さらに本出願人は、比較的長い注入時間を使用することによって、体循環から冠循環を分離する、あるいはその他の形で治療作用物質を再循環させる、あるいは冠循環内の圧力の増大または治療作用物質の滞留時間の増大のための手段としての冠静脈循環を人為的に制限する必要がないことを発見している。心臓を冷却する、心臓を停止させる、あるいは灌流用に動物から心臓を除去するために、血管作用薬(例えば、ヒスタミン、ヒスタミンアゴニスト、または血管内皮増殖因子)などの他の作用物質で心臓組織を事前治療する必要もない。その代わり、本出願人の手順は、既存の投与用カテーテルを使用する標準的カテーテル法の研究室設定で実施することができる。したがって本出願人は、ヒトなどの大型動物において心臓血管疾患を治療するために遺伝子治療を使用する、簡潔、実用的、かつ有効な手段を発見している。
【0045】
本発明の好ましい実施形態では、冠循環の血管への注入によって対象に治療作用物質を投与する。冠循環は心臓の組織への血液供給をもたらす。いくつかの冠動脈が存在する。通常、4つの主な冠動脈;左主および右冠動脈、左冠動脈前下降枝、および左回旋枝が、心臓組織を通じて分布させるために心臓に酸素含有血液を与える。これらの動脈の1つまたは組合せの注入、例えば左および右冠動脈の注入が企図される。好ましい実施形態は、左および右主冠動脈の順行性の心外膜注入を利用する。冠動脈の逆行性注入、または1つまたは複数の順行性および逆行性の冠動脈または静脈の組合せも企図される。冠動脈血管の注入は、標準的なガイドワイヤー、カテーテルおよび注入ポンプを使用して実施する。好ましい実施形態では、注入用カテーテルを、大腿動脈経由で透視下において冠動脈に向ける。本明細書で使用する「冠循環の血管」、「冠動脈血管」または「心臓の血管」は、冠動脈血管への移植、例えばバイパス手術移植から生じる移植を含む。本明細書で使用する「心外膜」は、心臓の外側部分に位置する血管、例えば左または右冠動脈を指す。
【0046】
ひとたび注入用カテーテルを標的冠動脈血管中の適所に置いた後、好ましくはプログラム可能な注入ポンプによって、治療作用物質を血管に注入する。治療作用物質を注入するのに要する時間の量は、有効かつ優れた遺伝子導入効率を得る際の重要な要因である。本出願人は、特定の血管中に少なくとも約3分間の注入時間は、ボーラス注射またはさらに短い注入時間より有効であることを測定している。好ましくは、注入時間は少なくとも約8分間、より好ましくは少なくとも約10分間であるが、少なくとも約15分間の注入時間が企図される。本出願人は、注入時間は約、少なくとも、少なくとも約、長くても、または長くても約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20分である、あるいはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲の範疇にあることも企図する。
【0047】
注入はカテーテルおよび死容積を有する接続管の使用を典型的に含むので、いかなる治療作用物質も含まない担体溶液、例えば対象由来の血液を、注入用デバイスに満たすことが多い。したがって、注入ポンプを作動させたときに、治療作用物質を冠循環に即座に投与することはない。同様に、治療作用物質を含むシリンジが空であるとき、一定量の治療作用物質が接続管およびカテーテルの死容積中に典型的には残存する。治療作用物質の注入直後に、適切な溶液、好ましくは治療作用物質を投与するのに使用したのと同じ流速で死容積部分を洗い流す。注入装置内の死容積の移動に対して、治療作用物質を冠循環に実際に送達する時間期間が前に言及した「注入時間」である。例えば、3mLの治療作用物質を3mLの死容積を有する注入装置に充填し、注入速度が1mL/分である場合、冠循環に治療作用物質を注入するのに必要な時間はわずか3分間であり、3mLの治療作用物質および3mLの死容積を投与するのに必要な合計時間は6分間である。いくつかの実施形態では、カテーテルおよび任意の接続管を、死容積が問題ではないように治療作用物質で満たす。同様に、管を洗い流す必要なしで、有効量の治療作用物質を送達することが可能であった。しかしながら、これは管中の治療作用物質の残存をもたらし、治療作用物質を浪費する。
【0048】
本出願人は、約、少なくとも、少なくとも約、多くて、または多くて約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、または10.0mL/分である、あるいはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲の範疇にある流速で、治療作用物質を注入することを企図する。好ましくは、流速は約0.2mL/分と約6.0mL/分の間、より好ましくは約0.2mL/分と約2.5mL/分の間、より好ましくは約0.2mL/分と約2.0mL/分の間である。当業者は、注入ポンプなしでの治療作用物質の送達は可能であるが、しかしながら、より正確な流速および均一な送達が注入ポンプの使用によって可能であることを理解しているはずである。
【0049】
有効量を与えるために注入によって送達するウイルス粒子またはDNase耐性粒子(DRP)の合計量は、好ましくは1×1014と約1×1011の間、より好ましくは約3×1012と1×1012の間、およびより好ましくは約1×1012である。しかしながら本出願人は、ウイルス粒子またはDRPの合計量は約、少なくとも、少なくとも約、多くて、または多くて約1×1014、9×1013、8×1013、7×1013、6×1013、5×1013、4×1013、3×1013、2×1013、1×1013、9×1012、8×1012、7×1012、6×1012、5×1012、4×1012、3×1012、2×1012、1×1012、9×1011、8×1011、7×1011、6×1011、5×1011、4×1011、3×1011、2×1011、1×1011、9×1010、8×1010、7×1010、6×1010、5×1010、4×1010、3×1010、2×1010、1×1010、9×109、8×109、7×109、6×109、5×109、4×109、3×109、2×109、1×109、9×108、8×108、7×108、6×108、5×108、4×108、3×108、2×108、または1×108である、あるいはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲の範疇にあることも企図する。
【0050】
所与の時間注入するDRPの数は、注入する溶液の濃度および流速の関数である。DRPまたはウイルス粒子注入の割合は、好ましくは約1×108/分と約1×1014/分の間、より好ましくは約5×1010/分と約5×1012/分の間、より好ましくは約3×1010/分と約1×1012/分の間、より好ましくは約6×1010/分と約4×1011/分の間である。好ましい実施形態では、DRPまたはウイルス粒子注入の割合は1×1011/分であり、および他の好ましい実施形態では、それは1.25×1011/分である。
【0051】
一実施形態では、治療作用物質は心臓の1本の血管に投与する。他の実施形態では、治療作用物質の合計体積の2/3を心臓の1本の血管に送達し、1/3は心臓の他の血管に投与する。他の実施形態では、3本以上の冠動脈血管に注入し(例えば3、4、5本あるいはそれ以上)、血管当たりに投与する治療作用物質を含む合計注入体積の割合は、必要に応じて調節することができる。注入の目的は、順行性の、心外膜冠動脈注入による、AAV2/1/SERCA2aへの広範、均質な心筋の露出をもたらすことである。同時側性化パターン、閉塞性疾患、および解剖的変異(例えば、バイパス手術後の解剖学的構造)に基づく多数の注入シナリオが存在するが、臨床医の目的はAAV2/1/SERCA2aの1/3を前外側に送達し、1/3を後外側に送達し、かつ1/3を下部/下外側心筋に送達することである。灌流心筋への均質な送達を実施するために、冠動脈およびバイパス移植によって解剖学的構造を定義する。さらに当業者は、ヒツジとブタはヒト心臓血管試験用の容認された動物モデルである一方で、ヒツジとブタは90%が左優性であることを理解しているはずである。相対的に、ヒト集団の約10%までが左優性であり、残りの90%は右または相互優性である(Vlodaver Z.et al.Coronary Heart Disease:Clinical、Angiographic、and Pathologic Pofiles.Spinger-Verlag、New York.1976)。1つの病理学システムは、71%の患者は右優性であり、17%は相互優性であり、12%は左優性であることを示唆する(McAlpine W.Heart and Coronary Ateries.Spinger Verlag、1975)。したがって、ヒト対ブタ/ヒツジにおいて左心室の類似した灌流を実施するためには、最適な注入シナリオは異なる可能性がある。
【0052】
溶液体積の1/3と2/3の分割は2本の血管には好ましいが、しかしながら、特定の血管に注入する注入量の割合は、合計量の約、少なくとも、少なくとも約、多くて、または多くて約20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、または80%である、あるいはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲の範疇にある量であってよい。治療作用物質を含む溶液の合計量は、治療する動物の大きさに応じて変わるはずである。ヒト対象に関しては、60mLの合計治療作用物質量が好ましい。しかしながら、治療作用物質の合計量は、約、少なくとも、少なくとも約、多くて、または多くて約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、または150mLである、あるいはこれらの値のいずれか2つによって定義される範囲の範疇にある量であってよい。
【0053】
本明細書に記載する治療作用物質は、冠循環に直接投与するのに適した溶液、好ましくは医薬組成物であってよい。許容可能な医薬組成物の成分は当業者に知られており、バッファーおよび適切な担体などの要素を含むことができる。他の実施形態では、治療作用物質、例えばウイルスベクター、およびより好ましくはAAV2/1/SERCA2aベクターを含む医薬組成物はキットの一部分である。いくつかの実施形態では、キットは治療作用物質のストック溶液およびストック溶液を希釈するための溶液を含む。好ましくは本明細書に開示する実施形態のいずれかに記載する冠循環への直接注入による、ウイルスベクターの投与に関する説明書もキット中に含まれる。同様に、本明細書に記載する治療作用物質は、本明細書に開示する疾患を治療するための薬剤の製造において使用することができ、この場合薬剤は冠循環に直接注入する。
【0054】
ポリヌクレオチド送達の方法
本発明の一態様は、細胞中への治療用ポリヌクレオチドの導入を企図する。このような導入は、ウイルスまたは非ウイルス的遺伝子導入法を利用することができる。この項は、アンチセンス、干渉、低分子干渉配列の導入を含めた、遺伝子または核酸導入の方法および組成物の考察を与える。
【0055】
一実施形態では、治療上有意なポリヌクレオチドをウイルスベクターに組み込んで、細胞への導入を介在する。本明細書に記載する他の治療作用物質をコードする他の発現構築体も、例えば本発明のアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた形質転換によって、感染性ウイルス粒子を使用するウイルス形質導入によって導入することができる。あるいは、レトロウイルス、ウシパピローマウイルス、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ポリオーマウイルス、または発現するように工学的に作製された感染性ウイルスを使用することができる。同様に、灌流、裸DNAトランスフェクション、リポソーム介在トランスフェクション、カプセル化、および受容体介在エンドサイトーシスなどによるDNAの直接送達だけには限られないが、これらを含めた非ウイルス的方法を使用することができる。これらの技法は当業者にはよく知られており、その詳細は本発明の核心に存在せず、したがって本明細書で包括的に詳述する必要はない。しかしながら、好ましい一例では、ウイルスベクターを心臓細胞の形質導入に使用して、治療上有意なポリヌクレオチドを細胞に送達する。受容体介在エンドサイトーシスなどの特異的手段によって、あるいはピノサイトーシスなどの非特異的手段によって、ウイルスは細胞の内側に侵入することができる。
【0056】
いくつかの例示的なベクターをここで記載する。以下の論述は非包括的であることは理解されるはずである。
【0057】
アデノ随伴ウイルスベクター
本発明の好ましい実施形態は、精製済み、複製不能な、偽型組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子を利用する。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、デペンドウイルス属に属するパルボウイルスである。それらは、複製するためにヘルパーウイルスを必要とする、小さな、非エンベロープ型の、一本鎖DNAウイルスである。ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはワクシニアウイルス)との重感染は、機能的に完全なAAVビリオンを形成するのに必要である。In vitroでは、ヘルパーウイルスとの重感染の不在下において、AAVは潜伏状態を確立し、その間ウイルスゲノムはエピソーム形で存在するが、感染性ビリオンは生成されない。ヘルパーウイルスによる後の感染はゲノムを「レスキュー」し、それを複製しウイルスカプシドにパッケージすることができ、それによって感染性ビリオンを再構築することができる。近年のデータは、in vivoでは野生型AAVと組換えAAVの両方が大型エピソームコンカテマーとして主に存在することを示す。
【0058】
AAVはいかなる既知のヒト疾患とも関係がなく、一般に病原性であるとは考えられず、組込み時に宿主細胞の生理的性質は変えないようである。AAVは非分裂細胞を含めた広範囲の宿主細胞に感染することができ、異なる種由来の細胞に感染することができる。細胞性応答と体液性応答の両方によって即座に除去または不活性化されるいくつかのベクターとは対照的に、AAVベクターはin vivoで様々な組織において持続的発現を示している。in vivoでの非分裂細胞における組換えAAVベクターの持続性は、原型AAVウイルス遺伝子の欠如およびエピソームコンカテマーを形成するベクターの能力に原因がある可能性がある。
【0059】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は本発明の細胞形質導入において使用するのに魅力的なベクター系である、何故ならそれはエピソームコンカテマーとして高頻度の持続性を有し、非分裂細胞に感染することができ、したがって哺乳動物細胞、例えば組織培養物およびin vivoへの遺伝子の送達に有用となるからである。遺伝子送達におけるAAVの使用を実証する研究には、Flotte et el.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1993;90:10613〜17およびWalsh et al.、J Clin.Invest.、1994;94:1440〜48がある。組換えAAVベクターは、マーカー遺伝子およびヒト疾患と関係がある遺伝子のin vitroおよびin vivo形質導入に首尾良く使用されてきている(例えば、Walsh et el.、J.Clin.Invest.1994;94:1440〜48を参照)。AAVは広い宿主感染範囲を有する。rAAVベクターの生成および使用に関する詳細は、米国特許第5,139,941号および/または米国特許第4,797,368号中に記載されている。
【0060】
典型的には、組換えAAV(rAAV)ウイルスは、2つのAAV末端反復に隣接する当該の遺伝子を含むプラスミド、および/または末端反復を含まない野生型AAVコード配列を含む発現プラスミド、例えばpIM45を同時トランスフェクトすることによって作製される。アデノウイルスおよび/またはAAVヘルパー機能に必要なアデノウイルス遺伝子を有するプラスミドを、細胞にさらに感染させるかつ/あるいはトランスフェクトする。このような形式で作製したrAAVウイルスストックはアデノウイルスで汚染されており、(例えば、塩化セシウム密度勾配遠心法またはカラムクロマトグラフィーによって)rAAV粒子とは物理的に分離しなければならない。あるいは、AAVコード領域を含むアデノウイルスベクターおよび/またはAAVコード領域を含む細胞系および/またはアデノウイルスヘルパー遺伝子の一部または全部を使用することができる。組み込まれたプロウイルスとしてrAAVのDNAを有する細胞系を使用することもできる。
【0061】
多数の血清型のAAVが天然に存在し、少なくとも12の血清型(AAV1〜AAV12)が現在知られている。高度の相同性にもかかわらず、これらの異なる血清型は異なる組織に対する親和性を有する。AAV1の受容体は知られていないが、しかしながらAAV1は、AAV2より効率良く骨格筋および心筋に形質導入されることが知られている。大部分の試験が、AAV2のITRと隣接するベクターDNAが他の血清型のカプシドにパッケージされている偽型ベクターを用いて実施されているので、生物学的差異はゲノムではなくカプシドと関係があることは明らかである。近年の証拠は、AAV1カプシドにパッケージされたDNA発現カセットは、心筋細胞への形質導入においてAAV2カプシドにパッケージされたカセットより少なくとも1log10有効であることを示す。
【0062】
アデノウイルスベクター
遺伝子治療用のポリヌクレオチドを送達するための他の方法は、アデノウイルス発現ベクターの使用を含む。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築体のパッケージをサポートするおよび/または(b)その中でクローニングされた組織および/または細胞特異的構築体を最終的に発現させるのに十分なアデノウイルス配列を含む構築体を含むことを意味する。
【0063】
本発明の1つの形では、発現ベクターは遺伝子組換え型アデノウイルスを含む。アデノウイルス、36kb、線状、二本鎖DNAウイルスの遺伝子構成の知識によって、大片のアデノウイルスDNAと7kbまでの外来配列の置換が可能である(Grunhaus and Horwitz、Seminar in Virology、1992;3:237〜252)。レトロウイルスとは対照的に、宿主細胞のアデノウイルス感染は染色体の組込みをもたらさない、何故ならアデノウイルスDNAは、潜在的な遺伝毒性なしでエピソーム式に複製し得るからである。さらに、アデノウイルスは構造上安定しており、広範囲の増幅後にゲノム再編成が検出されていない。
【0064】
アデノウイルスの増殖および操作は当業者に知られており、in vitroおよびin vivoで広い宿主範囲を示す。この群のウイルスは高い力価、例えば1mL当たり109〜1011プラーク形成単位で得ることが可能であり、非常に感染性が高い。アデノウイルスのライフサイクルは、宿主細胞ゲノムへの組込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達される外来遺伝子はエピソーム性であり、およびしたがって宿主細胞に対して低い遺伝毒性を有する。野生型アデノウイルスを用いた予防接種の試験では副作用は報告されておらず、in vivo遺伝子導入ベクターとしてのそれらの安全性および/または治療可能性が実証された。
【0065】
アデノウイルスベクターは、真核生物の遺伝子発現およびワクチン開発において使用されてきている。近年、いくつかの動物実験は、組換えアデノウイルスは遺伝子治療に使用することができることを示唆した(例えば、Stratford-Perricaudet et al.、Hum.Gene.Ther、1991;1:242〜256;Rich et al.、1993を参照)。異なる組織への組換えアデノウイルスの投与における試験には、筋肉注射、末梢静脈内注射および脳への定位接種がある。組換えアデノウイルスとアデノ随伴ウイルスはいずれも、非分裂ヒト初代細胞に感染し形質導入することができる。
【0066】
アデノウイルスベクターの使用は企図されるが、心臓血管系遺伝子治療試験におけるこのような使用は、短期のトランス遺伝子発現によって現在限られている(Vassalli G、et al.、Int.J.Cardiol.、2003;90(2〜3):229〜38)。これはアデノウイルス抗原に対する細胞性免疫によるものである。改善された「中空」アデノウイルスベクターは低下した免疫原性を有するが、6カ月を超えるトランス遺伝子の最大発現が治療効果に必要とされるか望まれる場合は依然として有効でない(Gilbert R、et al.、Hum.Mol.Genet.、2003;12(11):1287〜99)。AAVベクターは(1年を超える)長期の発現が実証されており、発現が長期間必要とされる場合の治療効果に好ましいベクターである(Daly TM、et al.、Gene Ther.、2001;8(17):1291〜8)。
【0067】
レトロウイルスベクター
それらの遺伝子を宿主ゲノムに組込み、多量の外来遺伝物質を送達し、広範囲の種および細胞型に感染し、特定の細胞系にパッケージされる能力のため、遺伝子送達ベクターとしてレトロウイルスを選択することができる。
【0068】
レトロウイルスゲノムは、カプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素、およびエンベロープ構成要素をそれぞれコードする3つの遺伝子、gag、pol、およびenvを含む。gag遺伝子から上流に見られる配列は、ビリオンへのゲノムのパッケージに関するシグナルを含む。2つの長い末端反復(LTR)配列が、ウイルスゲノムの5'末端および3'末端に存在する。これらは強力なプロモーターおよびエンハンサー配列を含み、宿主細胞ゲノム中への組込みにも必要とされる。
【0069】
レトロウイルスベクターを構築するために、当該の遺伝子をコードする核酸をいくつかのウイルス配列の代わりにウイルスゲノム中に挿入して、複製欠陥があるウイルスを生成する。ビリオンを生成するために、gag、pol、および/またはenv遺伝子を含むがLTRおよび/またはパッケージ構成要素は含まないパッケージ細胞系を構築する。cDNAならびにレトロウイルスLTRおよびパッケージ配列を含む組換えプラスミドを、(例えばリン酸カルシウム沈殿法によって)この細胞系に導入するとき、パッケージ配列は組換えプラスミドのRNA転写産物がウイルス粒子にパッケージされるのを可能にし、ウイルス粒子は次いで培養培地に分泌される。組換えレトロウイルスを含む培地を次いで回収し、場合によっては濃縮し、遺伝子導入に使用する。レトロウイルスベクターは広く様々な細胞型に感染することができる。しかしながら、組込みおよび安定した発現は宿主細胞の分裂を必要とする。
【0070】
ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)は神経向性なので、それは神経系障害を治療する際に相当な興味を引き起こしている。さらに、宿主細胞染色体中への組込みあるいは他の場合宿主細胞の代謝の変化なしでの、非分裂状態のニューロン細胞中の潜伏感染、および潜伏期中活性があるプロモーターの存在を確定するHSVの能力は、HSVを魅力的なベクターにする。さらにHSVの神経向性用途に多大な関心が集中しているが、このベクターはその広い宿主範囲を考慮して、他の組織にも利用することができる。
【0071】
HSVを魅力的なベクターにする他の要因は、ゲノムの大きさおよび編成である。HSVは大きいので、多数の遺伝子または発現カセットの取込みは、他の小さなウイルス系より問題が少ない。さらに、異なるウイルス制御配列および様々なパフォーマンス(一過性、強度など)の可能性によって、他の系より高い程度で発現を制御することができる。このウイルスは比較的少ないスプライスされたメッセージを有し、さらに遺伝子操作を容易にすることも1つの利点である。
【0072】
さらにHSVは操作するのが比較的容易であり、高い力価に増殖させることが可能である。したがって、十分な感染多重度(MOI)を得るのに必要とされる容積と、反復投与の低い必要性の両方の点において送達は問題が少ない。遺伝子治療ベクターとしてのHSVの総説に関しては、Glorioso et al.、Annu.Rev.Microbiol.、1995;49:675〜710を参照。HSVの非病原性変異体が開発されてきており、遺伝子治療の状況における使用に容易に適用可能である(米国特許第5,672,344号)。
【0073】
レンチウイルスベクター
レンチウイルスは、一般的なレトロウイルス遺伝子gag、pol、およびenv以外に、制御または構造機能を有する他の遺伝子を含む複雑なレトロウイルスである。高度な複雑性によって、ウイルスは潜伏感染の過程と同様にそのライフサイクルを調節することができる。レンチウイルスのいくつかの例には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1、HIV-2)およびサル免疫不全ウイルス(SIV)がある。レンチウイルスベクターはHIV毒性遺伝子を複合的に抑制することによって作製されており、例えば遺伝子env、vif、vpr、vpuおよびnefが欠失し、ベクターは生物学上安全となる。
【0074】
レンチウイルスベクターは当技術分野で知られており、米国特許第6,013,516号および米国特許第5,994,136号を参照。一般に、ベクターはプラスミドベースまたはウイルスベースであり、外来核酸の取込み、選択、および宿主細胞への核酸の導入に必要な配列を有するような形状である。当該のベクターのgag、polおよびenv遺伝子も当技術分野で知られている。したがって、関連遺伝子を選択したベクターにクローニングして、次いでそれらを使用して当該の標的細胞を形質転換する。
【0075】
適切な宿主細胞がパッケージ機能を有する2つ以上のベクター、すなわちgag、polおよびenv、ならびにrevおよびtatをトランスフェクトした非分裂細胞に感染することができる組換えレンチウイルスは米国特許第5,994,136号中に記載されている。これは、ウイルスのgagおよびpol遺伝子をコードする核酸を与えることができる第1のベクター、およびパッケージ細胞を生成するためのウイルスのenvをコードする核酸を与えることができる他のベクターを記載する。異種遺伝子を与えるベクターをそのパッケージ細胞に導入することによって、当該の外来遺伝子を有する感染ウイルス粒子を放出する産生細胞が生成する。envはヒトおよび他種の細胞の形質導入を可能にする両性エンベロープタンパク質であることが好ましい。
【0076】
ワクシニアウイルスベクター
ワクシニアウイルスベクターは、それらの構築の容易さ、得られる比較的高レベルの発現、広い宿主範囲およびDNAを保持する大容量のために広く使用されてきている。ワクシニアは、顕著な「A-T」優先性を示す約186kbの線状の二本鎖DNAゲノムを含む。約10.5kbの逆方向末端反復がゲノムと隣接している。大部分の必須遺伝子は、ポックスウイルス間で最も高度に保存されている中心領域内に位置するようである。ワクシニアウイルス中の推定オープンリーディングフレームは150〜200に達する。両方の鎖がコード鎖であるが、リーディングフレームの広範囲の重複は一般的ではない。
【0077】
少なくとも25kbをワクシニアウイルスのゲノム中に挿入することができる。原型ワクシニアベクターは、相同的組換えによってウイルスチミジンキナーゼ遺伝子中に挿入されたトランス遺伝子を含む。ベクターはtk-表現型に基づいて選択される。脳心筋炎ウイルスの非翻訳リーダー配列の封入は、従来のベクターのレベルより高い一定レベルの発現をもたらし、24時間で感染細胞のタンパク質の10%以上のトランス遺伝子が蓄積する。
【0078】
ポリオーマウイルスベクター
マウスポリオーマウイルスなどのパポバウイルスの中空カプシドは、遺伝子導入の考えられるベクターとして注目を得ている。中空ポリオーマの使用は、ポリオーマDNAと精製中空カプシドを無細胞系でインキュベートしたとき最初に記載された。新たな粒子のDNAは膵臓DNaseの作用から保護された。再構築粒子は、ラットFIII細胞への形質転換ポリオーマDNA断片の導入に使用された。中空カプシドおよび再構築粒子は全3個のポリオーマカプシド抗原VP1、VP2およびVP3からなる。米国特許第6,046,173号は、遺伝子導入用に外来物質を取り込んだ、パポバウイルスの主要カプシド抗原から形成され少量のカプシド抗原が除去された偽型カプシドの使用を開示する。
【0079】
他のウイルスベクター
他のウイルスベクター、シンドビスウイルスまたはサイトメガロウイルスなどのウイルス由来のベクターなどを、本発明における発現構築体として利用することができる。それらは様々な哺乳動物細胞に関するいくつかの魅力的な特徴を与える(例えば、Friedmann、Science、1989;244:1275〜1281;Horwich et al.、J.Virol.、1990;64:642〜650を参照)。
【0080】
欠陥B型肝炎ウイルスの認識によって、異なるウイルス配列の構造-機能関係の新たな見識が得られた。In vitro試験は、ウイルスはそのゲノムの80%までの欠失にもかかわらず、ヘルパー依存性パッケージおよび逆転写の能力を保持し得ることを示した(Horwich et al.、J.Viral.64:642〜650(1990))。これは、大部分のゲノムは外来遺伝物質と交換可能であったことを示唆した。Chang et alはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を、アヒルR型肝炎ウイルスのゲノム中、ポリメラーゼ、表面、および/または前表面コード配列の位置に導入した。それを野生型ウイルスと共に鳥類肝癌細胞系に同時トランスフェクトした。高力価の組換えウイルスを含む培養培地を使用して、初代コガモ肝細胞を感染させた。安定したCAT遺伝子発現をトランスフェクション後少なくとも24日間検出した(Chang et al.、Hepatology14:134A(1991))。
【0081】
改変型ウイルス
本発明のさらに他の実施形態では、特異的結合リガンドを発現するように工学的に作製された感染性ウイルス内に、送達する核酸を収容する。ウイルス粒子はしたがって標的細胞の同族受容体と特異的に結合するはずであり、中身を細胞に送達するはずである。レトロウイルスベクターを特異的に標的化することができるように設計した新規の手法は、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾に基づいて開発された。この修飾は、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染を可能にし得る。
【0082】
組換えレトロウイルスを標的化する他の手法を設計し、その中ではレトロウイルスのエンベロープタンパク質または特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を使用した。ストレプトアビジンを使用することによって、ビオチン構成要素を介して抗体を結合させた。主要組織適合性複合体クラスIおよび/またはクラスII抗原に対する抗体を使用して、in vitroでのエコトロピックウイルスによる、これらの表面抗原を有していた様々なヒト細胞の感染を実証した。
【0083】
非ウイルス的導入
本発明のDNA構築体は一般に細胞に送達する。いくつかの実施形態では、しかしながら、導入する核酸は非感染性であり、非ウイルス的方法を使用して導入することができる。
【0084】
培養哺乳動物細胞に発現構築体を導入するためのいくつかの非ウイルス的方法が、本発明によって企図される。本発明と共に使用するための核酸送達に適した方法には、本明細書に記載する方法または当業者に知られている方法がある。このような方法には、血管系を介した「裸」DNAプラスミドの直接送達(米国特許第6,867,196号)、リポソーム介在トランスフェクションによる方法(Nicolau and Sene、1982;Fraley et al.、1979;Nicolau et al.、1987;Wong et al.、1980;Kaneda et al.、1989;Kato et al.、1991)および受容体介在トランスフェクションによる方法(Wu and Wu、1987;Wu and Wu、1988)、炭化ケイ素繊維を用いた誘導による方法(Kaeppler et al.、1990;米国特許第5,302,523号および米国特許第5,464,765号)、カチオン性脂質、裸DNAの使用、またはマイクロ封入DNAによる方法(米国特許出願第2005/0037085号)があるが、これらだけには限られない。これらの技法などの技法を適用することによって、標的細胞または組織を安定的または一時的に形質転換することができる。
【0085】
ひとたび構築体を細胞に送達した後、治療用遺伝子をコードする核酸は異なる部位に配置し発現させることが可能である。いくつかの実施形態では、治療用遺伝子をコードする核酸は細胞のゲノムに安定的に組み込むことができる。この組込みは相同的組換え(遺伝子置換)によって同じ位置および方向であってよく、あるいはそれはランダム、非特異的な位置に組み込むことができる(遺伝子増大)。さらに他の実施形態では、DNAの別のエピソームセグメントとして細胞中の核酸を安定的に維持することができる。このような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主細胞サイクルとは無関係にあるいはそれに同調して、維持および複製を可能にするのに十分な配列をコードする。どのようにして発現構築体を細胞に送達するか、および細胞中の何処に核酸が留まるのかは、利用する発現構築体の型に依存する。
【0086】
本発明の特定の実施形態では、発現構築体はリポソーム中に捕捉することができる。リポソームは、リン脂質二重層膜および内側水媒体によって特徴付けられる小胞体構造である。多重膜リポソームは、水媒体によって隔てられた多数の脂質層を有する。リン脂質が過剰な水溶液に懸濁すると、それらは自然に形成される。脂質構成要素は閉構造の形成前に自己再編成を経て、水を捕捉し、脂質二重層間の溶質を溶かす。DNAをカチオン性リポソームに加えることによって、リポソームから光学的複屈折性液晶凝縮球体へのトポロジー転移を引き起こす。これらのDNA-脂質複合体は、遺伝子治療において使用するための考えられる非ウイルスベクターである。
【0087】
リポソーム介在核酸送達およびin vitroでの外来DNAの発現は非常に成功している。β-ラクタマーゼ遺伝子を使用して、研究者は培養ニワトリ胚、HeLa、およびヘパトーマ細胞における外来DNAのリポソーム介在送達および発現の実現性を実証した。静脈内注射後のラットにおける首尾良いリポソーム介在遺伝子導入も実施されている。「リポフェクション」技術を含めた様々な商業的手法も含まれる。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態では、リポソームはセンダイウイルス(HVJ)と複合体形成させることが可能である。これは細胞膜との融合を容易にし、リポソーム封入DNAの細胞への侵入を助長することが示されてきている。他の実施形態では、リポソームは核非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体形成させることが可能であるか、あるいはそれらと共に利用することが可能である。さらに他の実施形態では、リポソームはHVJとHMG-1の両方と複合体形成させることが可能であるか、あるいはそれらと共に利用することが可能である。このような発現構築体がin vitroおよびin vivoでの核酸の導入および発現において首尾良く利用されている点で、したがってそれらは本発明に適用可能である。
【0089】
細胞に治療用遺伝子をコードする核酸を送達するために利用することができる他のベクター送達系は、受容体介在送達媒体である。これらは、ほぼすべての真核細胞生物中の受容体介在エンドサイトーシスによるマクロ分子の選択的取込みを利用する。様々な受容体の細胞型特異的分布のため、送達は非常に特異的である可能性がある(Wu and Wu、1993)。リポソームを利用する場合、エンドサイトーシスと関係がある細胞表面膜タンパク質と結合する他のタンパク質、例えば特定の細胞型指向のカプシドタンパク質またはその断片、循環中に内在化を経るタンパク質用の抗体、および細胞内局在を標的化し細胞内半減期を増大させるタンパク質を、標的化および/または取込みの促進のために使用することができる。
【0090】
受容体介在遺伝子標的媒体は、一般に2つの構成要素:細胞受容体特異的リガンドおよびDNA結合作用物質からなる。いくつかのリガンドは、受容体介在遺伝子導入に使用されてきている。最も広く特徴付けられているリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR)およびトランスフェリンである(Wagner et al、Proc.Natl.Acad.Sci.87(9):3410〜14(1990))。ASORと同じ受容体を認識する合成新生糖タンパク質が、遺伝子送達媒体として使用されてきている。上皮細胞増殖因子(EGF)も、扁平上皮癌細胞に遺伝子を送達するために使用されてきている。
【0091】
他の実施形態では、送達媒体はリガンドおよびリポソームを含むことができる。例えば研究者は、リポソームに取り込ませたラクトシル-セラミド、ガラクトース末端アシアルガングリオシドを利用しており、肝細胞によるインシュリン遺伝子の取込みの増大を観察している。したがって、治療用遺伝子をコードする核酸を、リポソームを含むか含まない任意の数の受容体-リガンド系によって、心臓細胞などの細胞型に特異的に送達することもできることが考えられる。
【0092】
本発明の他の実施形態では、発現構築体は単に裸の組換えDNAまたはプラスミドからなっていてよい。構築体の導入は、細胞膜を物理的または化学的に浸透処理する前述の方法のいずれかによって実施することができる。これは特にin vitroでの導入に適用可能であるが、しかしながらそれはin vivoでの使用にも適用可能である。治療用DNAをin vivoにおいて同様の方法で導入することもできることは想定される。Wolff et al(米国特許第6,867,196号)は、心臓組織への有効な遺伝子導入は、心臓の静脈または動脈へのプラスミドDNA溶液の注射によって得ることができることを教示する。WolffはRNA、非プラスミドDNA、およびウイルスベクターの投与も教示する。
【0093】
本発明において有用なベクターは様々な形質導入効率を有する。結果として、ウイルスまたは非ウイルスベクターは、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、100%あるいはこれら以上の標的血管領域の細胞に形質導入する。2つ以上のベクター(ウイルスまたは非ウイルス、またはこれらの組合せ)を同時に、または順に使用することができる。これを使用して2つ以上のポリヌクレオチドを導入することができ、かつ/または2つ以上の細胞型を標的化することができる。多数のベクターまたは多数の作用物質を使用する場合、2つ以上の形質導入/トランスフェクション効率が生じ得る。
【0094】
治療物質
本発明中で有用であるポリヌクレオチドを含めた治療物質を利用して、心臓血管疾患を治療する。これらの物質は、心臓血管疾患の任意の態様を治療することが知られている化合物を含む。ポリヌクレオチドは心臓血管系の任意の知られている核酸またはタンパク質を標的化することができ、心臓組織の細胞活性の調節をもたらすことができる。特に興味深いのは、心筋中のカルシウム濃度を制御する核酸およびタンパク質を含めた、心筋の収縮に必要とされる核酸およびタンパク質である。
【0095】
それぞれの筋収縮は筋肉細胞の細胞質へのCa2+の侵入を必要とし、一方で弛緩は活性化Ca2+の除去を必要とし、収縮のCa2+制御はヒト身体中の最も広範囲の活動の1つとなる。したがって、Ca2+制御と関係があるタンパク質は、突然変異すると、Ca2+制御の欠陥と関係がある様々な骨格および心筋疾患をもたらす可能性があることは驚くべきことではない。
【0096】
筋小胞体カルシウム-ATPase(SERCA)ポンプは、哺乳動物細胞の細胞質から筋肉中の筋小胞体または非筋肉細胞中の小胞体などのオルガネラ構造に、カルシウムをポンプでくみ上げる。カルシウムによる活性化のその閾値は約100〜200nMであり、したがってそれらは細胞質カルシウムの休止レベルを設定する。実験およびヒト心不全に特徴的な異常なカルシウム循環は、低下した筋小胞体のカルシウム取込み活性と関係がある。
【0097】
SERCA2a、心臓/緩徐収縮アイソフォームは、ホスホランバン(PLN)、3つのドメインで構成される52アミノ酸のホモペンタマータンパク質と結合し、それによって制御される。筋収縮中、ホスホランバンはCa2+ポンプを阻害する。筋弛緩中、それはリン酸化される可能性があり、阻害を除去しCa2+を筋小胞体にポンプで戻すのを可能にする。この制御は、ホスホランバンモノマーとポンプの間の物理的相互作用に主に原因があると考えられる。しかしながらこの52残基ペプチドは、Ca2+イオンに選択的であることが示されているペンタマーとも結合する。
【0098】
低下した筋小胞体のカルシウム取込み活性は、cAMP経路のシグナル伝達の低下および1型ホスファターゼ活性の増大を反映する。増大したタンパク質ホスファターゼ1の活性は、ホスホランバンの脱リン酸化および筋小胞体カルシウムポンプの阻害を助長する阻害剤-1の、脱リン酸化および不活性化に一部分は原因がある。実際、構造上活性がある阻害剤-1の心臓特異的発現は、細胞および完全動物レベルでホスホランバンリン酸化の選択的増強および増大した心臓収縮をもたらす。特に、活性阻害剤-1の急性アデノウイルス遺伝子送達は機能を完全に回復させ、既存の心不全の設定での過活性p38の正常化を含めて再構築を部分的に逆行させる(Pathak et al.Circ Res.、2005;96(7)756〜66)。
【0099】
心室性不整脈は、正常な心臓を有する患者および心不全などの基礎疾患を有する患者において、急性心臓死(SCD)を引き起こす可能性がある。心不全を有する動物および遺伝型運動誘発性SCDを有する患者では、リアノジン受容体カルシウム放出チャンネル(RyR2)複合体からのチャンネル安定型タンパク質カルスタビン2(FKBP12.6)の減少は、致命的な心臓不整脈を誘発し得る細胞内Ca2+漏出を引き起こす。増大したレベルのカルスタビン2は閉鎖状態のRyR2を安定化させ、不整脈を誘発するCa2+漏出を予防する。したがって、カルスタビン2とRyR2の結合の増大は一般的な心室性不整脈のための治療戦略であると考えられる。
【0100】
SERCA、ホスホランバン、1型ホスファターゼの阻害剤-1、S100A1、およびサルコリピンの核酸およびタンパク質、ならびにCa2+において役割を果たす関連核酸およびタンパク質は、本発明のポリヌクレオチドの好ましい標的である。
【0101】
好ましいウイルスベクターおよびトランス遺伝子はAAV2/1/SERCA2aであり、これはAAV血清型2由来のITRと隣接するヒトSERCA2a発現カセットを含む一本鎖4486ヌクレオチドDNAを囲むAAV血清型1ウイルスカプシドから構成される。正二十面体カプシドは3つの関連AAV血清型1カプシドタンパク質、VP1、VP2、およびVP3からなる。AAV2/1/SERCA2aのDNAは、以下の構成要素:CMV-hSERCA2a-ポリA発現カセットと隣接して3'および5'末端にAAV血清型2系ITRを含む。この発現カセットは、市販のプラスミドpCI(Promega-GenBankU47119)由来のハイブリッドイントロンを含む配列、hSERCA2AのcDNA(GenBankNM-001681と同一のコード配列)、およびウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル[BGHpA、(GenBankM57764)]の転写を誘導するサイトメガロウイルス即時型初期エンハンサー/プロモーター(CMVie)を含む。ヒトb-グロブリンの第1イントロン由来の5'-ドナー部位および免疫グロブリン遺伝子重鎖可変領域のリーダーとボディの間に位置するイントロン由来の3'-アクセプター部位を使用して、ハイブリッドイントロンを設計した(図1参照)。
【0102】
AAV2/1/SERCA2aベクターは、300ヌクレオチド未満の野生型AAV(wtAAV)配列をベクターゲノムに取り込ませる。wtAAV配列は、カプシドへのSERCA2aのDNAの挿入を可能にするパッケージシグナルをcisで与える(図2)AAV血清型2由来のITRである。
【0103】
特定の作用機構に縛られずに、SERCA2aタンパク質レベルはCHFを有する患者の心筋細胞中で低下すること、および心筋細胞中でのこのタンパク質のレベルの増大は、CHFに典型的な細胞質カルシウムの異常に高い拡張レベルを正常化し、臨床結果を改善し得ることが考えられる。
【0104】
前に論じたポリヌクレオチド、ベクター、ウイルス性と非ウイルス性の両方と組み合わせたポリヌクレオチドを含めた治療作用物質は、心臓疾患を治療するための薬剤の調製において使用することができ、この場合薬剤は冠循環への直接注入によって投与する。
【0105】
治療効果
好ましい実施形態では、本明細書で開示する治療作用物質の注入を使用して、心臓疾患に罹患する患者において治療効果を得る。治療する個体は、心臓障害を伴う臨床的特徴に関してモニタリングすることができる。例えば、心臓血管疾患と関係がある悪影響および症状の低下に関して、対象をモニタリングすることができる。例えば、本発明の方法を使用して対象における鬱血性心不全を治療した後、増大した側脳室の短縮率、細胞および無傷動物レベルで増大した心筋収縮性、心臓リモデリングの反転、および異常に高い心臓拡張レベルの細胞質カルシウムの正規化だけには限られないが、これらを含めた、いくつかの臨床パラメータの改善に関して対象を評価することができる。本発明を用いて治療する対象においてモニタリングすることができる他の臨床的特徴には、生存、心臓代謝、心筋収縮性、心拍数、心室機能(例えば、左心室拡張末期圧(LVEDP)、左心室収縮末期圧(LVSP))、Ca2+代謝(例えば、細胞内Ca2+濃度、ピークまたは休止状態[Ca2+]、SRのCa2+ATPase活性、ホスホランバンのリン酸化状態)、力発生、心臓の弛緩および圧力、力収縮頻度関係、心臓細胞の生存またはアポトーシスまたはイオンチャンネル活性(例えば、ナトリウムとカルシウムの交換、ナトリウムチャンネル活性、カルシウムチャンネル活性、ナトリウムカリウムATPaseポンプ活性)、ミオシン重鎖、トロポニンI、トロポニンC、トロポニンT、トロポミオシンアクチン、ミオシン軽鎖キナーゼ、ミオシン軽鎖1、ミオシン軽鎖2またはミオシン軽鎖3、IGF-1受容体、PI3キナーゼ、AKTキナーゼ、ナトリウム-カルシウム交換体、カルシウムチャンネル(LおよびT)、カルセクエストリンまたはカルレチクリンの活性があるが、これらだけには限られない。評価は治療の前、後、または最中に実施することができる。モニタリングすることができる心臓疾患の他の測定値は、短縮率、心拍出量、駆出率、Tau、逆流量、短期間の入院、改善された生活の質、および増大したトレッドミル時間を含む。
【0106】
本明細書で開示する方法および開示する治療作用物質は、薬剤または外科的介入などの心臓疾患の既存の治療と組み合わせて、既存の治療単独と比較して増大した治療効果をもたらすことができる。増大した治療効果は例えば、既存の治療レジメンに関する平均的または典型的時間期間と比較した疾患の兆候または症状の悪化間の時間期間の延長、または標準的治療単独の平均的または典型的時間と比較してさらなる治療が必要とされるまでに必要な時間の増大によって実証され得る。
【0107】
以下の非制限的な実施例において、本発明の実施形態をここでさらに記載する。
【実施例1】
【0108】
正常コブタ中のAAV2/1/SERCA2aの短時間生体内分布に対する注入時間の影響
正常コブタ中のAAV2/1/SERCA2aの順行性の心外膜冠動脈注入後のベクター特異的DNAの定量化によって、心筋の形質導入を評価するために試験を実施した。
【0109】
群
この試験の対照群(1匹の動物)は治療対照ではなかった。この動物には、AAV2/1/SERCA2aの投与以外は他の群とすべて同じ手順を施した。実験動物には、プログラム可能なシリンジポンプを使用した冠動脈注入カテーテルによって左冠動脈(群3〜5中の5匹の動物)に、あるいは直接筋肉内(IM)注射(群2中の1匹の動物)によって、1×1012個のDRPAAV2/1/SERCA2aを投与した。群には2つのベクター濃度および様々な注入速度でAAV2/1/SERCA2aを与えた。ベクターを与えたすべての群を、ベクター投与後に管およびカテーテルの死容積の血液のみで洗浄した。動物は、少なくとも4カ月齢で8〜12kgのGottingenのコブタであった。動物は表1中に示す5群の1つに割り当てた。
【0110】
【表1】
【0111】
麻酔/血液サンプル
第0日に、標準的な手順を使用して動物に麻酔をかけた。後脚の筋肉に抗生物質を予防的に投与した。生存兆候(心拍数、呼吸数、およびO2パルス酸素濃度計)をモニタリングした。ECGはモニタリング目的で得た。
【0112】
AAV2/1/SERCA2aの投与
AAV2/1/SERCA2aの投与、直接IM注射:群2
第0日に、標準的な筋肉内用シリンジおよびニードルを使用してAAV2/1/SERCA2aを背面筋肉の四半部に注射した。投与した容積および濃度は以下の表2中に示す。AAV2/1/SERCA2aは使用するまで-70±10℃以下で凍結保存した。使用日に、AAV2/1/SERCA2aを室温で解凍し、動物に投与する準備ができるまで氷上に保持した。反転により軽く混合した後、0.72mLのAAV2/1/SERCA2aストック溶液を1.4×1012DRP/mLで、標準的な筋肉内用シリンジおよびニードルに無菌状態で移した。1回合計投与用量の1×1012個のDRPAAV2/1/SERCA2aを、次いで背面筋肉の四半部の筋肉内に注射した。
【0113】
一般的な手順:心外膜冠動脈注入によるAAV2/1/SERCA2aの投与(群3〜5)
直接注入システムは、従来のガイドシース、0.014"のガイドワイヤー、5F注入(ガイド)カテーテルおよび2つのプログラム可能なシリンジポンプを含む、標準的な(市販の)構成要素から構成される。この方法の重要な態様は、ベクター投与に使用した注入時間である。正確な容積は、開始ベクター濃度、管およびカテーテル単位の死容積などに基づいて変わる可能性がある。
【0114】
第0日に、直接注入手順を、大腿動脈手法を使用してガイドシースの導入で開始した。冠動脈注入カテーテル(例えば、Cordis Vista Brite Tip Guiding Catheterまたは左主冠動脈の挿管に適した類似モデル)を、次いで透視下で左主冠動脈中に置いた。カテーテルを適所に置いた後、標準的な管およびパージ技法を使用して、それを第1のプログラム可能なシリンジポンプ(例えば、NE-1000 Programmable Syringe Pump,New Era Pump Systems)と結び付けた。AAV2/1/SERCA2aを次いで送達し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。直接注入法に必要とされる材料および手順段階の詳細な一覧は表3および4中に示す。希釈容積、注入時間、注入速度、血液のみの洗浄前に送達する容積、および血液のみの洗浄を終了するのに必要な時間は表2中に示す。
【0115】
群3:AAV2/1/SERCA2aの投与(ボーラス注射)
反転により軽く混合した後、0.72mLのAAV2/1/SERCA2aストック溶液を1.4×1012DRP/mLで、および1.3mLの製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)を、滅菌済みポリプロピレン容器に無菌状態で移し、5.0×1011DRP/mLの濃度にした。動物に投与する直前に、2.0mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(5.0×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の1.0mLの元の全血と混合し、3.0mLの最終容積中で3.3×1011DRP/mLのシリンジの最終希釈を得た。注入経路を血液で処理し、次いでベクターを左主冠動脈に0.5分間注射した。この後カテーテルの死容積に血液のみを流した。
【0116】
群4:AAV2/1/SERCA2aの投与(10分間のベクター注入)
反転により軽く混合した後、0.72mLのAAV2/1/SERCA2aストック溶液を1.4×1012DRP/mLで、および7.3mLの製剤バッファーを、滅菌済みポリプロピレン容器に無菌状態で移し、1.25×1011DRP/mLの濃度をもたらした。動物に投与する直前に、8.0mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(1.25×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の4.0mLの元の全血と混合した。注入経路を血液で処理し、次いでプログラム可能なシリンジポンプを使用してベクターを左主冠動脈に10分間注射し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。
【0117】
群5:AAV2/1/SERCA2aの投与(15分間のベクター注入)
反転により軽く混合した後、0.72mLのAAV2/1/SERCA2aストック溶液を1.4×1012DRP/mLで、および1.3mLの製剤バッファーを、滅菌済みポリプロピレン容器に無菌状態で移し、5.0×1011DRP/mLの濃度をもたらした。動物に投与する直前に、2.0mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(5.0×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の1.0mLの元の全血と混合した。次いでプログラム可能なシリンジポンプを使用してベクターを左主冠動脈に15分間注射し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
第2日:最終屠殺およびPCR用組織サンプル
麻酔薬の投与後、臨床化学試験用に血液サンプルを回収した。次いで動物を30mg/kgの塩化カリウムの静脈内投与によって安楽死させ、PCR用組織サンプルを図3中に示す心臓の以下の領域:左心室の基底層および中間層中の前壁、後壁、中隔および自由壁、左心室の先端層中の前壁および後壁、右心室の基底層および先端層由来の自由壁から、標準的な技法を使用して回収した。
【0122】
サンプルのPCR分析
定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)アッセイを使用して、回収した組織サンプル中のAAV2/1/SERCA2aを検出し定量化した。qPCRアッセイは、ABI Prism 7700 Sequence Detection Systemを使用してAAV2/1/SERCA2aに特異的な107塩基対配列を検出する。qPCRプライマーは、図4の略図中に示すようにエクソン14および15に広がる。各組織サンプルから抽出した1マイクログラムのゲノムDNA中で検出するAAV2/1/SERCA2aのコピー数は、標準として標的配列を含むプラスミド(pcDNA3.1_huSERCA2)の連続希釈を使用して定量化した。アッセイの検出の下限は20コピーのAAV2/1/SERCA2a/DNA1μgであり、定量化の下限は200コピー/DNA1μgであった。
【0123】
結果
実験の結果は図5中に示し、この場合AAV2/1/SERCA2a/DNA1μgのコピー、およびボーラス注射後に得られたレベルの割合として表す相対量を報告する(30秒、群3)。12の異なる心臓サンプル(図3)からの値を各動物用に1つの値に平均化し、その値は動物単位当たりで報告する。ボーラス注射(0.5分)と比較して、10分の注入時間は平均51.6%高いコピー(32%〜69%)をもたらし、15分の注入時間はボーラス注射より76%高いコピーをもたらした。本出願人は、直接IM注射は相当数のコピーをもたらすが、これは第2日に殺傷した動物および細網内皮系(単球/マクロファージ)によるAAVベクターの継続的除去の結果であることを記す(Brain J.D.、et al.、Am J Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.、1999;276:146〜154)。AAV1ベクターのIM注射は、心臓の有意な長期間の形質導入をもたらさない(Rip J、et al.、Hum.Gene Ther、2005;16(11):1276〜86)。対照的に、順行性の心外膜冠動脈注入は実施例3中に実証するように組織の安定した形質導入をもたらす。これらの結果は、同量のAAV2/l/SERCA2a(1×1012個のDRP)を各群に投与した場合でも、長い注入時間はAAV2/1/SERCA2a/DNA1μgのより多くのコピーをもたらすことを実証する。
【実施例2】
【0124】
ヒツジ中のAAV2/1/SERCA2aの短時間生体内分布に対するベクター用量および投与経路の影響
正常ヒツジ中の静脈内注射と比較した左冠動脈への注入による1回投与後の、第2日における3つの異なる用量のAAV2/1/SERCA2aの短時間生体内分布を評価するためにパイロット試験を実施した。
【0125】
群
プログラム可能なシリンジポンプを使用して左冠動脈に冠動脈注入カテーテルによって、1匹の動物に1×1013DRPのAAV2/1/SERCA2aを与えた。第2群の3匹の動物には3×1012DRPのAAV2/1/SERCA2a、および第3群の2匹の動物には1×1012DRPのAAV2/1/SERCA2aを、いずれもプログラム可能なシリンジポンプを使用して左冠動脈に冠動脈注入カテーテルによって与えた。すべての注入群に2.5/mLの定速で8分間AAV2/1/SERCA2aを与え、次にカテーテルの容積を2分間血液のみで洗浄した。対照群中の1匹の動物に、2mLの静脈内注射で1×1012DRPのAAV2/1/SERCA2aを投与した。これらの群は表5中で以下に示し、投与スケジュールは表6中に示す。
【0126】
【表5】
【0127】
【表6】
【0128】
AAV2/1/SERCA2aの投与
一般的な手順:順行性の心外膜冠動脈注入によるAAV2/1/SERCA2aの投与(群1〜3)
第0日に、すべての動物群に十分量のヘパリンを投与してACT>300を得た。冠動脈注入カテーテルを使用して、プログラム可能なシリンジポンプを使用して左冠動脈にAAV2/1/SERCA2aを注入した。カテーテル移植用材料および手順は前の実施例1および表3および4中に詳細に記載する。ほぼ同じ手順に従った。
【0129】
群1:1.0×1013個のAAV2/1/SERCA2aの投与(8分間のベクター注入)
反転により軽く混合した後、AAV2/1/SERCA2aストック溶液を滅菌済みポリプロピレンチューブに無菌状態で移し、製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)で10mLの合計容積に希釈し、1×1012DRP/mLの濃度をもたらした。動物に投与する直前に、10mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(1×1012DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の10mLの元の全血と混合し、20.0mLの最終容積をもたらした。注入経路を血液で処理し、次いでプログラム可能なシリンジポンプを使用してベクターを左主冠動脈に2.5/mLの定速で8分間送達し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。
【0130】
群2:3.0×1012個のAAV2/1/SERCA2aの投与(8分間のベクター注入)
反転により軽く混合した後、AAV2/1/SERCA2aストック溶液を滅菌済みポリプロピレンチューブに無菌状態で移し、製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)で10mLの合計容積に希釈し、3×1011DRP/mLの濃度をもたらした。動物に投与する直前に、10mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(3×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の10mLの元の全血と混合し、20.0mLの最終容積をもたらした。注入経路を血液で処理し、次いでプログラム可能なシリンジポンプを使用してベクターを左主冠動脈に2.5/mLの定速で8分間送達し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。
【0131】
群3:1.0×1012個のAAV2/1/SERCA2aの投与(8分間のベクター注入)
反転により軽く混合した後、AAV2/1/SERCA2aストック溶液を滅菌済みポリプロピレンチューブに無菌状態で移し、製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)で10mLの合計容積に希釈し、1×1011DRP/mLの濃度をもたらした。動物に投与する直前に、10mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(1×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の10mLの元の全血と混合し、20.0mLの最終容積で0.5×1011DRP/mLのシリンジ中の最終希釈をもたらした。注入経路を血液で処理し、次いでプログラム可能なシリンジポンプを使用してベクターを左主冠動脈に2.5/mLの定速で8分間送達し、次にカテーテルの死容積および第2のプログラム可能なシリンジポンプに血液のみを流した。
【0132】
群4:1.0×1012個のAAV2/1/SERCA2aの投与(静脈内注射)
反転により軽く混合した後、AAV2/1/SERCA2aストック溶液を滅菌済みポリプロピレンチューブに無菌状態で移し、製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)で2.0mLの合計容積に希釈し、1×1012DRP/mLの濃度をもたらした。標準的な静脈内用シリンジおよびニードルを使用して、(0.5分までの)静脈内注射により溶液を投与した。
【0133】
第2日:最終屠殺およびPCR用組織サンプル
麻酔薬の投与後、動物を30mg/kgの塩化カリウムの静脈内投与によって安楽死させ、PCR用組織サンプルを標準的な技法を使用して回収した。サンプルは心臓の以下の領域:左心室の前壁、左心室の下壁、心室中隔、および右心室の自由壁から回収した。
【0134】
サンプルのPCR分析
実施例1中に記載した定量PCRアッセイを使用して、回収した組織サンプル中のAAV2/1/SERCA2aを検出し定量化した。
【0135】
結果
実験の結果は図6中に示し、この場合心臓組織の各サンプル中のAAV2/1/SERCA2a/DNA1μgのコピーを各動物に関して報告する。非常に低い、定量不能なレベルの(20〜200コピー)のAAV2/1/SERCA2aをもたらした(0.5分までの)静脈内注射と異なり、8分間の注入時間は1×1012、3×1012、および1×1013の濃度で相当数のコピーをもたらした。図6は、1×1013DRPの合計用量は3×1012DRPの合計用量より多数のコピーをもたらし、したがってそれは1×1012DRPの合計用量より多数のコピーをもたらしたことを示す。重要なことにAAV2/1/SERCA2aのコピーは、ベクターを左冠動脈のみに投与しても右心室サンプル中に見られた。
【実施例3】
【0136】
心不全のブタの僧帽弁逆流モデル
重度の僧帽弁逆流(MR)によって作製した心不全のブタモデルにおける賦形剤対照と比較した、心臓機能に対するAAV2/1/SERCA2aの1回投与の影響を評価するためにパイロット試験を実施した。僧帽弁閉鎖不全症としても知られる僧帽逆流(MR)は、心臓の左心室から左心房への僧帽弁を介した血液の異常な漏出である。逆流量、MRの重度の指標は、左心房へ逆流する血液の量である。
【0137】
群
Yorkshire-Landraceブタ、3カ月齢、および30〜40kgをこの試験で使用した。実験群の4匹の動物には、Harvard Clinical Technology(HCT)注入ポンプを使用して左冠動脈に冠動脈注入カテーテルによって、1×1012DRPのAAV2/1/SERCA2aを与えた。AAV2/1/SERCA2aは2.5/mLの一定流速で8分の間送達した。注入の終了後、ガイドカテーテルの端とポンプを結び付ける管から残りの溶液を回収した。次いでこの残りの溶液を約2分の間手作業で注入し、次に10mLの生理食塩水を用いてゆっくりと手作業で洗浄した。対照群は、直接注入(DI)またはV-Focusデバイスのいずれかによって、AAV2/1/SERCA2aの代わりに製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)を与えた5匹の動物であった(Preovolos AC、et a1.、J.Extra Corpor.Technol.2006;38(1):51〜2)。
【0138】
動物に関する手順
第0日-MRの生成および回復
麻酔、挿管および抗凝固
テラゾール6.0mg/kgIMおよびアトロピン2.0mLIMを麻酔薬の導入のために注射した。吸入イソフルラン(1〜2%)を用いて一般的な麻酔を保ち、周期的な動脈血液ガスをモニタリングした。無菌技法を使用して耳周縁静脈に静脈ラインを配置し、必要に応じて生理食塩水IVを施した。漏出を妨げるよう膨張したカフを有する場所に結び付けた適切なサイズの気管内チューブを動物に挿管した。ECGパッドおよび電極を剃髪した中手骨および中足骨領域に置いて、レコード上のリードI、II、およびIIIをモニタリングおよび記録する。生存兆候(心拍数、呼吸数、O2パルス酸素濃度計、血圧)は、手順全体中約5分間間隔でモニタリングした。ヘパリンを投与して300秒を超えるACTを維持した。
【0139】
シースの挿入
適切な深さの麻酔を得た後、頸部をプロビドン-ヨウ素、次に70%エタノールで調製した。一般的な滅菌技法を使用して切り口を作製し、8Frシースを頚動脈と静脈の両方に挿入した。
【0140】
心臓機能の試験
ベースラインの心エコー図検査を実施した。
【0141】
僧帽弁逆流の生成
頚動脈シースを介して、鉗子を左心室(LV)に入れた。透視下において、鉗子を使用して後乳頭筋の索条組織を切断して、重度の僧帽弁逆流(MR)を生成した。心不全は、第O日に血管造影法により重度のMRおよび左心室X線写真を確認した後に、左心室腔の膨張およびBPの低下およびEDPの上昇として定義した。
【0142】
回復
ひとたび生存兆候が手順の終了後に10分間安定状態になった後、切り口を閉じ、イソフルランを中止し、急性心不全を予防するために薬剤を投与した。任意の考えられる痛みを、ブプレノルフィン0.005〜0.01mg/kgをIMで与えて通常通り軽減した。動物にはさらにセファゾリンを与えて感染を予防した(1gのIV)。
【0143】
第1〜3日-急性心不全に関するモニタリングおよび薬剤
MR生成後の最初の3日間、1日当たり3回動物を調べた。動物は急性心不全の兆候、頸部切開部位の創傷感染あるいは任意の痛みまたは不快感の兆候に関して毎日調べた。急性心不全のための薬剤を投与し記録した。
【0144】
第56日-心不全、ランダム化、血液サンプルおよび賦形剤対照またはAAV2/1/SERCA2aの投与の文書
心臓機能の試験
画像は長軸、短軸、乳頭筋の挿入のレベルでの短軸M-モード、および僧帽弁輪のカラードップラー画像を含んでいた。心拍出量、Tau、駆出率、LV短縮率、LV自由壁および中隔の寸法、およびMR評価値を計算し記録した。
【0145】
群の割り当て
(心不全の定義を満たして)第56日まで生存した動物を、2つの群:群1、1×1012DRPの用量でAAV2/1/SERCA2a(n=4)、または群2、賦形剤対照(n=5)の1つに割り当てた。
【0146】
一般的な手順:順行性の心外膜冠動脈注入によるAAV2/1/SERCA2aまたは賦形剤の投与(群1〜2)
第56日には、すべての動物群に十分量のヘパリンを投与してACT>300を得た。冠動脈注入カテーテルを使用して、HCT注入ポンプを使用して左冠動脈にAAV2/1/SERCA2aまたは賦形剤を注入した。カテーテル移植用材料および手順は前の実施例2および表3および4中に詳細に記載する。ほぼ同じ手順に従った。
【0147】
群1:1.0×1012個のAAV2/1/SERCA2aの投与(8分間のベクター注入)
軽く混合した後、0.56mLのAAV2/1/SERCA2aストック溶液を滅菌済みポリプロピレンチューブに無菌状態で移し、10mLの製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)で希釈し、1×1011DRP/mLの濃度にした。動物に投与する直前に、10mLの希釈AAV2/1/SERCA2a(1×1011DRP/mL)を室温にし、投与する動物由来の10mLの元の全血と混合し、20.0mLの最終容積中0.5×1011DRP/mLのシリンジ中で最終希釈をもたらした。注入経路を血液で処理し、次いでHCT注入ポンプを使用してベクターを左主冠動脈に8分間送達した。注入の終了後、ガイドカテーテルの端とポンプを結び付ける管から残りの溶液を回収した。次いでこの残りの溶液を約2分の間手作業で注入し、次に10mLの生理食塩水を用いてゆっくりと手作業で洗浄した。
【0148】
群2:賦形剤の投与(10分間の注入)
前に記載した群1に使用したのと同じ手順を、賦形剤(製剤バッファー、130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)対照群中の数匹の動物に使用した、ただしAAV2/1/SERCA2aは投与しなかった。他の対照群動物には、V-Focusデバイス(Preovolos AC、et al.、J.Extra Corpor.Technol.2006;38(1):51〜2)を使用して左冠動脈に10分間、製剤バッファー(130mMのNaCl、20mMのHEPESおよび1mMのMgCl2、pH7.4)を投与した。順行性の心外膜冠動脈注入法と以前に試験したV-Focus心臓系送達の両方が、10分間で冠動脈に試験物質または賦形剤のいずれかを送達する。未治療対照とV-Kardia心臓系送達によって投与した賦形剤を得た対照動物の間に差異はない。
【0149】
第112日:最終屠殺手順
麻酔、挿管および抗凝固
第112日に、生存動物に麻酔をかけ、挿管し抗凝固処理した。
【0150】
心臓機能の試験
画像は長軸、短軸、乳頭筋の挿入のレベルでの短軸M-モード、および僧帽弁輪のカラードップラー画像を含んでいた。心拍出量、Tau、駆出率、LV短縮率、LV自由壁および中隔の寸法、およびMR評価値を計算し記録した。組織ドップラー法も実施した。
【0151】
最終屠殺
心臓停止液を使用することによって動物を安楽死させ、タンパク質およびmRNAの発現分析用に組織サンプルを回収した。
【0152】
ブタ心臓ミクロソーム分画の調製
SR小胞を含むミクロソーム分画を、以下の方法によって凍結ブタ心臓から調製した。脂肪および結合組織を除去した約5〜10gの心筋を液体窒素中で粉砕し、Potterホモジェナイザーを用いて5mMのTris-HCl、pH7.4、2mMのEDTA、および8.5%のスクロースを含むバッファー溶液中で均質化した。ホモジェネートは10分間1000×gで遠心分離にかけた。次いで上清を15分間9000×gで遠心分離にかけ、生成した上清を再度2回15分間20000×gで遠心分離にかけた。この後者の20000×g上清中に存在した筋小胞体の小胞を、1時間の110000×gスピンによって後にペレット状にした。ペレットは500μlの均質化バッファー中に再懸濁させた。すべての遠心分離段階は0〜4℃で実施した。
【0153】
タンパク質抽出物の調製およびイムノブロッティング分析
正常未治療非実験対照動物(対照)、AAV-SERCA2a形質導入動物(SERCA2a)、および製剤バッファー(生理食塩水)治療動物由来のタンパク質サンプルを、単離ブタミクロソーム分画から調製し、(ブラッドフォード法を使用して)タンパク質濃度を適合させ、SDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜に移した。膜ブロットはSERCA2aに対する抗体(Affinity Bioreagents、1:400希釈)と共に4℃で一晩インキュベートした。反応性バンドを化学発光物質(PE Life Sciences)によって目に見える状態にし、少なくとも3つの独立した実験からのフィルムをスキャニングし、免疫反応性バンドの密度はNIH Imageソフトウェアを使用して評価した。GAPDHのタンパク質レベルは内対照として使用した。SERAC2aのバンドの密度値はGAPDH値に対して正規化した。
【0154】
RNAの単離および逆転写酵素/ポリメラーゼ連鎖反応
SERCA2aのmRNAレベルをRT-PCRを使用して測定した。すべてのRNAは、TRIzol試薬(Invitrogen)を使用して、正常未治療非実験対照心臓(対照)、AAV-SERCA2a形質導入心臓(SERCA2a)、および製剤バッファー(生理食塩水)治療心臓から単離した。組織を完全に破壊した後、クロロホルムを加え、室温での軽いインキュベーション前にサンプルを完全に攪拌した。次いでサンプルを遠心分離にかけ、(RNAを含む)上清は、その下部の細胞残骸を破壊せずに注意深く除去した。上清溶液中のRNAは等体積の氷冷イソプロパノールを加えることによって沈殿させ、4℃において10分間12,000×gで遠心分離によってペレット状にし、75%エタノールで洗浄した。RNAペレットはRnaseを含まない水(Invitrogen)中に再懸濁させた。cDNAは20μlの最終体積でiScript逆転写酵素(Bio Rad)を使用して1μgの全RNAから合成した。GAPDHのmRNAのレベルは内対照として評価した。PCR反応サイクルのアニーリング温度は、それぞれの特異的プライマーセットに関する最適アニーリング温度に従い調節した。
【0155】
結果
実験の結果は図7〜13中に示す。図7Aは、3匹の非実験対照動物、3匹の製剤注入動物(生理食塩水)および3匹のAAV2/1/SERCA2a治療動物における、SERCA2aタンパク質(上部)およびmRNA(下部)の発現を示すポリアクリルアミドゲルである。図7Bは、タンパク質発現のレベルをGAPDHの発現に正規化した、3つの治療群間のSERCA2aのタンパク質発現を比較するグラフである。この実験はAAV2/1/SERCA2a群が、非実験対照動物または製剤バッファー注入対照群のいずれかより高い、SERCA2aのmRNAおよびタンパク質発現のレベルを有していたことを示す。さらに図7Bは、SERCA2aのタンパク質発現の正規化レベルは、実験生理食塩水注入対照よりSERCA2a注入群中で統計上有意に高かったことを示す。
【0156】
図8は左心室の短縮率の割合、心室の収縮機能の指標を示す。AAV2/1/SERCA2aベクターの投与後2カ月で、製剤バッファー注入対照群と比較して治療群中で短縮率が25%まで増大し、統計上有意な改善があった。図9は第56日と比較した第112日の短縮率の絶対的変化のプロットである。実験製剤バッファー対照群(V-Focusと直接注入(DI)動物の両方)の短縮率の中央値の変化はわずかにマイナスであり、一方AAV2/1/SERCA2a(薬剤)注入群は実質的プラスの増大を示し、改善された心臓機能を示す。
【0157】
同様に図10は、第56日と比較した第112日の駆出率の絶対的変化のプロットである。実験製剤バッファー対照群(V-Focusと直接注入(DI)動物の両方)の駆出率の中央値の変化はマイナス5%であり、一方AAV2/1/SERCA2a(薬剤)注入群は実質的プラスの増大(約10%)を示し、改善された心臓機能を示す。
【0158】
図11は、第56日と比較した第112日の心拍出量(mL/分)の絶対的変化のプロットである。実験製剤バッファー対照群(V-Focusと直接注入(DI)動物の両方)の心拍出量の中央値の変化は3.5mL/分未満であり、一方AAV2/1/SERCA2a(薬剤)注入群は対照群の2倍近くも多く(約6mL/分)、改善された心臓機能を示す。
【0159】
図12は、第56日と比較した第112日のtau(LV弛緩の時定数、ミリ秒)の絶対的変化のプロットである。Tauは心室内圧の測定を必要とする心臓拡張性能の定量的尺度である。実験製剤バッファー対照群(V-Focusと直接注入(DI)動物の両方)の弛緩期の中央値の変化はプラス0.01ミリ秒を超え、一方AAV2/1/SERCA2a(薬剤)注入群は(約0.005ミリ秒を超える)実質的マイナスの減少を示し、改善された心臓機能を示す。
【0160】
最後に図13は、第56日と比較した第112日の逆流量(mL)の絶対的変化を示すプロットである。実験製剤バッファー対照群(直接注入(DI)動物のみ)の逆流量の中央値の変化は約40mLであり、一方AAV2/1/SERCA2a(薬剤)注入群はほとんど変化を示さず、対照と比較して改善された心臓機能を示す。
【0161】
さらに、左心室と右心室の両方が対照群と比較してAAV2/1/SERCA2a群中では小さく(示さず)、対照群と比較した治療群中の心不全が原因である非否定的な心臓組織のリモデリングを示した。合わせて、これらの結果は、心不全の容認された動物モデルでは、AAV2/1/SERCA2aベクターの長期順行性の心外膜注入により心臓組織にトランスフェクトすることに成功し、AAV2/1/SERCA2aのmRNAおよびタンパク質の増大した発現、ならびに心不全の容認された大型動物モデルにおける心臓機能のいくつかの指標の有意な長期の改善をもたらすことを実証する。
【実施例4】
【0162】
順行性の心外膜注入
鬱血性心不全を有する患者における3用量レベルのAAV2/1/SERCA2aの1回冠動脈内投与の安全性、実現性および有効性を、第1相、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照用量漸増試験において試験する。
【0163】
群
対象集団はNYHAクラスIII/IV慢性心不全を有する成人患者である。対象は4群に分け、3×1011DRPのAAV2/1/SERCA2a、3×1012DRPのAAV2/1/SERCA2a、1×1013DRPのAAV2/1/SERCA2a、3×1012DRPのAAV2/1/SERCA2a、またはプラセボのいずれかを与える。AAV2/1/SERCA2aを与えた対象は12カ月追跡する。プラセボ対象は6カ月後には非盲検状態でありAAV2/1/SERCA2a治療を与える。
【0164】
AAV2/1/SERCA2aの投与
注入の目的は、順行性の、心外膜冠動脈注入による、AAV2/1/SERCA2aへの広範、均質な心筋の露出である。同時側性化パターン、閉塞性疾患、および解剖的変異(例えば、バイパス手術後の解剖学的構造)に基づく多数の注入シナリオが存在するが、臨床医の目的はAAV2/1/SERCA2aの1/3を前外側に送達し、1/3を後外側に送達し、かつ1/3を下部/下外側心筋に送達することである。
【0165】
局所麻酔薬(典型的には1〜2%のリドカイン)および制度標準に従い必要に応じて意識下鎮静の下で、Seldinger技法を使用して6Fr動脈(オペレーターの裁量に従い大腿動脈、橈骨動脈、または上腕動脈)アクセスを得る。未分画ヘパリンを静脈内/動脈内に投与して250〜300秒の活性凝固時間(ACT)を得る。2カ月以内に実施されない場合通常の方法で冠動脈およびバイパス移植血管造影法を実施する。生体構造および戦略をAAV2/1/SERCA2Aの投与前に適切に定義して、灌流心筋への均一な送達を実施し、適切な6Frガイドカテーテルを選択する。わずか1回または2回の注入を実施し、注入に利用する動脈またはバイパス移植は、心筋流の大部分を補助する1回または2回である。AAV2/1/SERCA2A生成物の2/3を第1注入配列に注入し、1/3は必要な場合第2(最終)注入配列に注入した。第1注入用に選択した、適切なガイドカテーテルは、通常形式の血液逆流/フラッシング後に(最大領域を定める)第1の冠動脈/バイパス移植に携わる。
【0166】
MEDRAD注入システム(City、PA)または同等物および60ccシリンジに、滅菌領域でAAV2/1/SERCA2A混合物(以下参照)を充填する。ガイドカテーテルは30"の高流圧線オス-メス用試験管装置およびMedrad自動注入器システムと結び付けて、流体-流体空気-自由空間が確保されることを保証する。血液を吸引し正常生理食塩水と混合させ、次にAAV2/1/SERCA2Aを加えて、MEDRAD自動注入器シリンジ中で以下の混合物を与える。血液/生理食塩水溶液を最初にシリンジに加え、次にAAV2/1/SERCA2Aを加えることは重要である。
【0167】
低用量コホート:3×1011DRPのAAV2/1/SERCA2a
・ 15mLの血液
・ 45mlの注射用正常生理食塩水
・ 0.3mlの1×1012AAV2/1/SERCA2ADRP/mL溶液
【0168】
中用量コホート:3×1012DRPのAAV2/1/SERCA2A
・ 15mLの血液
・ 42mlの注射用正常生理食塩水
・ 3.0mlの1×1012AAV2/1/SERCA2aDRP/mL溶液
【0169】
高用量コホート:1×1013DRPのAAV2/1/SERCA2a
・ 15mLの血液
・ 35mlの注射用正常生理食塩水
・ 10.0mlの1×1012AAV2/1/SERCA2aDRP/mL各溶液)
【0170】
プラセボコホート:
・ 15mLの血液
・ 45mlの注射用正常生理食塩水
【0171】
1回注入手順
60mLの溶液を6mL/分の一定流速で注入する。最終血管造影法を実施して、注入による一時的な解剖学的変化を評価する。ガイドカテーテルは回収する。大腿鞘の除去および/または閉鎖はオペレーターの裁量に従い実施する。
【0172】
二重注入手順
2本の動脈注入した対象/グラフでは、第1の注入は6mL/分の一定流速で40mLの用量である。目的はAAV2/1/SERCA2A生成物の2/3を大きな心筋領域に注入することである。最初の部分の注入後、最後の血管造影法を実施して、注入による一時的な解剖学的変化を評価する。ガイドカテーテルは回収する。
【0173】
次に、適切な6Frガイドカテーテルを、小さな(1/3)灌流心筋領域への注入配列用に選択する。ガイドカテーテルは動脈/バイパス移植に携わり、以前の記載に従いMedrad注入装置と結び付け、AAV2/1/SERCA2A生成物の最後の1/3を注入する(20mL用量、6mL/分の一定流速)。最後の血管造影法を実施して、注入による一時的な解剖学的変化を評価する。ガイドカテーテルは回収する。大腿鞘の除去および/または閉鎖はオペレーターの裁量に従い実施する。
【0174】
解剖学的特徴
多数の解剖学的シナリオが存在する可能性があり、これらは注入に関する動脈の選択肢を決定して、「主要」灌流心筋領域への生成物の2/3の送達および「小さな」領域への1/3の注入を実施する。
(1)非閉塞性動脈疾患/正常冠動脈、事前の冠動脈バイパス手術(CABG)なし-標準的な左主冠動脈用ガイドカテーテルは左冠動脈(左前下および左回旋枝)系への2/3の注入に関与し、標準的な右冠動脈(RCA)ガイドカテーテルはRCA系への1/3の注入に関与する。
(2)事前のCABG、RCAの完全閉塞なし、左から右への冠動脈の同時側性化-左主用ガイドカテーテルの関与、100%の生成物を送達してすべての(LAD、LCx、およびRCA)領域に注入する。
(3)事前のCABG、LADおよび/またはLCxの完全閉塞なし、RCAからの右から左への同時側性化-RCAはこの状況では「主要」領域になり、2/3の生成物はRCAに送達し、1/3は左冠動脈系に送達する。
(4)多枝閉塞性疾患、事前のCABGなし-2/3の生成物は心筋の大部分として働く領域に、1/3は小さな領域に送達する。
(5)事前のCABG、親の移植手術-2/3はLADの移植片に送達し、1/3はRCAの移植片に送達する。
(6)事前のCABG、混合型閉塞性バイパス手術および原型冠動脈疾患-原型またはバイパス手術、2/3は最大の心筋領域を与える血管に注入し、1/3は小さな領域に注入する。
【0175】
解剖学的変化は個体間で異なるはずであるが、典型的な個体に関しては、好ましい実施形態は2/3の生成物を主要灌流領域に、1/3を小さな領域に送達することであることは強調しなければならない(例外は、1回の原型動脈またはバイパス手術が心筋流の大部分を与える場合の、1回の100%の生成物注入である)。
【0176】
心臓機能の評価
AAV2/1/SERCA2a投与後の3、6および12カ月と比較したベースラインからの変化に基づいて治療群内および間で評価し比較する一次活性/有効性の終点には、以下の:心肺運動試験によって評価したVO2最大値、左心室駆出率、LV寸法、局所壁運動、拡張機能、および僧帽弁逆流を含めた心エコー評価、6分間歩行試験中に歩いた距離、NYHA分類、およびB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)レベルの1つまたは複数がある。
【0177】
結果
前述の活性/有効性の終点の1つまたは複数の実質的および有意な改善は、プラセボ群と比較して治療群中で見られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体循環から冠循環を分離せずに、冠循環の血管にポリヌクレオチドを少なくとも3分間にわたって注入する段階によって心臓疾患を治療または予防するための薬剤の調製における、心臓細胞にトランスフェクトするように適合させた治療用ポリヌクレオチド組成物の使用。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドを少なくとも5分間にわたって前記血管に注入する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドを少なくとも10分間にわたって前記血管に注入する、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドを少なくとも15分間にわたって前記血管に注入する、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記血管中への前記注入が6.0mL/分以下の速度である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記血管中への前記注入が2.5mL/分以下の速度である、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記血管中への前記注入が2.0mL/分以下の速度である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記血管中への前記注入が1.2mL/分以下の速度である、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
前記血管中への前記注入が1.0mL/分以下の速度である、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
前記血管中への前記注入が0.6mL/分以下の速度である、請求項6に記載の使用。
【請求項11】
前記血管が左冠動脈である、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
冠循環の流出が不自然に制限されない、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションがPCRを使用して検出可能である、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
ポリヌクレオチドが、心臓細胞の細胞活動を調節することができるタンパク質を発現することができる、請求項1に記載の使用。
【請求項15】
前記細胞活動が心筋細胞のカルシウム循環経路である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記タンパク質が筋小胞体/小胞体ATPase(SERCA)である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
SERCAがSERCA2aである、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記ポリヌクレオチドが、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ウシパピローマウイルス、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、およびポリオーマウイルスからなる群から選択されるウイルスベクター中に存在する、請求項1に記載の使用。
【請求項19】
前記ウイルスベクターがAAVウイルスである、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記ウイルスベクターがAAV2/1ベクターである、請求項18に記載の使用。
【請求項21】
前記ポリヌクレオチドがCMV系プロモーターと作動可能に連結しており、前記ウイルスベクターにパッケージされている、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含む、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記心臓細胞の前記トランスフェクションが側脳室の短縮率を増大させる、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記疾患が鬱血性心不全である、請求項22に記載の使用。
【請求項25】
前記ポリヌクレオチドをウイルスベクターのDNase耐性粒子(DRP)にパッケージする、請求項1に記載の使用。
【請求項26】
注入するDRPの合計数が、1×1014、1×1013、3×1012、1×1012、1×1011、1×1010、1×109、および1×108からなる群から選択される量以下である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
注入するDRPの合計数が1×1013以下である、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
注入するDRPの合計数が1×1012以下であり、ウイルスベクターがAAV2/1であり、ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含み、前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が2mL/分以下の流速で少なくとも10分間続き、かつ
側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションがPCRを使用して検出可能である、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記疾患が心不全、虚血、不整脈、心筋梗塞、鬱血性心不全、移植片拒絶反応、異常な心収縮性、非虚血性心筋症、僧帽弁逆流、大動脈弁狭窄症または逆流、異常なCa2+代謝および先天性心疾患からなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項30】
ウイルスベクターがAAV2/1であり、ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含み、前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が2.5mL/分以下の流速で少なくとも8分間続き、かつ
側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションがPCRを使用して検出可能であり、
前記心臓細胞の前記トランスフェクションが、ポリヌクレオチド注入前の側脳室の短縮率と比較して、前記注入後4カ月で測定すると少なくとも25%側脳室の短縮率を増大させる、請求項27に記載の使用。
【請求項31】
ウイルスベクターがAAV2/1であり、ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含み、前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも10分間続く、請求項27に記載の使用。
【請求項32】
心臓血管系の疾患が鬱血性心不全である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記ポリヌクレオチドの前記注入が6mL/分の流速である、請求項31に記載の使用。
【請求項34】
前記心臓細胞の前記トランスフェクションが、SERCA2aタンパク質の発現、短縮率、駆出率、心拍出量、心室弛緩の時定数、および逆流量からなる群から選択される心臓機能の測定値の改善をもたらす、請求項31に記載の使用。
【請求項35】
前記薬剤を冠循環のさらなる血管に少なくとも3分間にわたって注入する、請求項27に記載の使用。
【請求項36】
ウイルスベクターがAAV2/1であり、ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含み、
前記血管が左冠動脈であり、左冠動脈への前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも6分間続き、
前記さらなる血管が右冠動脈であり、右冠動脈への前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも3分間続く、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
心臓血管系の疾患が鬱血性心不全である、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記左冠動脈および前記右冠動脈への前記ポリヌクレオチドの前記注入が6mL/分の流速である、請求項36に記載の使用。
【請求項39】
前記心臓細胞の前記トランスフェクションが、SERCA2aタンパク質の発現、短縮率、駆出率、心拍出量、心室弛緩の時定数、および逆流量からなる群から選択される心臓機能の測定値の改善をもたらす、請求項36に記載の使用。
【請求項40】
大型哺乳動物の心臓細胞にトランスフェクトすることによって心臓血管疾患を治療または予防する方法であって、
心臓血管疾患を治療または予防する必要がある哺乳動物を同定する段階と、
in vivoで冠循環の血管に治療用ポリヌクレオチドを注入する段階と
を含み、
前記治療用ポリヌクレオチドを前記血管に少なくとも3分間にわたって注入し、
冠循環を哺乳動物の体循環から分離または実質的に分離せず、
前記治療用ポリヌクレオチドを前記哺乳動物の心臓細胞にトランスフェクトして、前記心臓血管疾患の治療または予防をもたらす方法。
【請求項41】
前記ポリヌクレオチドをウイルスベクターのDNase耐性粒子(DRP)にパッケージし、注入するDRPの合計数が1×1013以下であり、ウイルスベクターがAAV2/1であり、ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含み、前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも10分間続く、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
心臓血管系の疾患が鬱血性心不全である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記心臓細胞の前記トランスフェクションが、SERCA2aタンパク質の発現、短縮率、駆出率、心拍出量、心室弛緩の時定数、および逆流量からなる群から選択される心臓機能の測定値の改善をもたらす、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
体循環から冠循環を分離せずに、冠循環の血管にポリヌクレオチドを少なくとも3分間にわたって注入することによって心臓疾患を治療または予防するための、心臓細胞にトランスフェクトするように適合させた治療用ポリヌクレオチドを含む組成物。
【請求項45】
前記ポリヌクレオチドがAAV2/1ウイルスベクターのDNase耐性粒子(DRP)にパッケージされたSERCA2aコード配列を含み、注入するDRPの合計数が1×1013以下であり、前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも10分間続く、請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
心臓血管系の疾患が鬱血性心不全である、請求項45に記載の組成物。
【請求項47】
SERCA2aをコードするポリヌクレオチドを含むAAV2/1ベクターの少なくとも1×1011個のDRPを含む医薬組成物と、
SERCA2aをコードするポリヌクレオチドを含むAAV2/1ベクターの少なくとも0.5×1011個のDRPを含む溶液を冠循環の血管へのin vivo注入によって心臓血管疾患を治療または予防の必要がある患者に投与すべきであり、前記冠循環を患者の体循環から分離または実質的に分離せず、前記ポリヌクレオチドを前記血管に少なくとも3分間にわたって注入することを説明する説明書と
を含むキット。
【請求項48】
前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも8分間である、請求項47に記載のキット。
【請求項1】
体循環から冠循環を分離せずに、冠循環の血管にポリヌクレオチドを少なくとも3分間にわたって注入する段階によって心臓疾患を治療または予防するための薬剤の調製における、心臓細胞にトランスフェクトするように適合させた治療用ポリヌクレオチド組成物の使用。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドを少なくとも5分間にわたって前記血管に注入する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドを少なくとも10分間にわたって前記血管に注入する、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドを少なくとも15分間にわたって前記血管に注入する、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記血管中への前記注入が6.0mL/分以下の速度である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記血管中への前記注入が2.5mL/分以下の速度である、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記血管中への前記注入が2.0mL/分以下の速度である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記血管中への前記注入が1.2mL/分以下の速度である、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
前記血管中への前記注入が1.0mL/分以下の速度である、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
前記血管中への前記注入が0.6mL/分以下の速度である、請求項6に記載の使用。
【請求項11】
前記血管が左冠動脈である、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
冠循環の流出が不自然に制限されない、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションがPCRを使用して検出可能である、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
ポリヌクレオチドが、心臓細胞の細胞活動を調節することができるタンパク質を発現することができる、請求項1に記載の使用。
【請求項15】
前記細胞活動が心筋細胞のカルシウム循環経路である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記タンパク質が筋小胞体/小胞体ATPase(SERCA)である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
SERCAがSERCA2aである、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記ポリヌクレオチドが、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ウシパピローマウイルス、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、およびポリオーマウイルスからなる群から選択されるウイルスベクター中に存在する、請求項1に記載の使用。
【請求項19】
前記ウイルスベクターがAAVウイルスである、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記ウイルスベクターがAAV2/1ベクターである、請求項18に記載の使用。
【請求項21】
前記ポリヌクレオチドがCMV系プロモーターと作動可能に連結しており、前記ウイルスベクターにパッケージされている、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含む、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記心臓細胞の前記トランスフェクションが側脳室の短縮率を増大させる、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記疾患が鬱血性心不全である、請求項22に記載の使用。
【請求項25】
前記ポリヌクレオチドをウイルスベクターのDNase耐性粒子(DRP)にパッケージする、請求項1に記載の使用。
【請求項26】
注入するDRPの合計数が、1×1014、1×1013、3×1012、1×1012、1×1011、1×1010、1×109、および1×108からなる群から選択される量以下である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
注入するDRPの合計数が1×1013以下である、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
注入するDRPの合計数が1×1012以下であり、ウイルスベクターがAAV2/1であり、ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含み、前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が2mL/分以下の流速で少なくとも10分間続き、かつ
側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションがPCRを使用して検出可能である、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記疾患が心不全、虚血、不整脈、心筋梗塞、鬱血性心不全、移植片拒絶反応、異常な心収縮性、非虚血性心筋症、僧帽弁逆流、大動脈弁狭窄症または逆流、異常なCa2+代謝および先天性心疾患からなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項30】
ウイルスベクターがAAV2/1であり、ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含み、前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が2.5mL/分以下の流速で少なくとも8分間続き、かつ
側脳室前部、側脳室下部、中隔および右心室の心臓細胞のトランスフェクションがPCRを使用して検出可能であり、
前記心臓細胞の前記トランスフェクションが、ポリヌクレオチド注入前の側脳室の短縮率と比較して、前記注入後4カ月で測定すると少なくとも25%側脳室の短縮率を増大させる、請求項27に記載の使用。
【請求項31】
ウイルスベクターがAAV2/1であり、ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含み、前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも10分間続く、請求項27に記載の使用。
【請求項32】
心臓血管系の疾患が鬱血性心不全である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記ポリヌクレオチドの前記注入が6mL/分の流速である、請求項31に記載の使用。
【請求項34】
前記心臓細胞の前記トランスフェクションが、SERCA2aタンパク質の発現、短縮率、駆出率、心拍出量、心室弛緩の時定数、および逆流量からなる群から選択される心臓機能の測定値の改善をもたらす、請求項31に記載の使用。
【請求項35】
前記薬剤を冠循環のさらなる血管に少なくとも3分間にわたって注入する、請求項27に記載の使用。
【請求項36】
ウイルスベクターがAAV2/1であり、ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含み、
前記血管が左冠動脈であり、左冠動脈への前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも6分間続き、
前記さらなる血管が右冠動脈であり、右冠動脈への前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも3分間続く、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
心臓血管系の疾患が鬱血性心不全である、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記左冠動脈および前記右冠動脈への前記ポリヌクレオチドの前記注入が6mL/分の流速である、請求項36に記載の使用。
【請求項39】
前記心臓細胞の前記トランスフェクションが、SERCA2aタンパク質の発現、短縮率、駆出率、心拍出量、心室弛緩の時定数、および逆流量からなる群から選択される心臓機能の測定値の改善をもたらす、請求項36に記載の使用。
【請求項40】
大型哺乳動物の心臓細胞にトランスフェクトすることによって心臓血管疾患を治療または予防する方法であって、
心臓血管疾患を治療または予防する必要がある哺乳動物を同定する段階と、
in vivoで冠循環の血管に治療用ポリヌクレオチドを注入する段階と
を含み、
前記治療用ポリヌクレオチドを前記血管に少なくとも3分間にわたって注入し、
冠循環を哺乳動物の体循環から分離または実質的に分離せず、
前記治療用ポリヌクレオチドを前記哺乳動物の心臓細胞にトランスフェクトして、前記心臓血管疾患の治療または予防をもたらす方法。
【請求項41】
前記ポリヌクレオチドをウイルスベクターのDNase耐性粒子(DRP)にパッケージし、注入するDRPの合計数が1×1013以下であり、ウイルスベクターがAAV2/1であり、ポリヌクレオチドがSERCA2aコード配列を含み、前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも10分間続く、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
心臓血管系の疾患が鬱血性心不全である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記心臓細胞の前記トランスフェクションが、SERCA2aタンパク質の発現、短縮率、駆出率、心拍出量、心室弛緩の時定数、および逆流量からなる群から選択される心臓機能の測定値の改善をもたらす、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
体循環から冠循環を分離せずに、冠循環の血管にポリヌクレオチドを少なくとも3分間にわたって注入することによって心臓疾患を治療または予防するための、心臓細胞にトランスフェクトするように適合させた治療用ポリヌクレオチドを含む組成物。
【請求項45】
前記ポリヌクレオチドがAAV2/1ウイルスベクターのDNase耐性粒子(DRP)にパッケージされたSERCA2aコード配列を含み、注入するDRPの合計数が1×1013以下であり、前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも10分間続く、請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
心臓血管系の疾患が鬱血性心不全である、請求項45に記載の組成物。
【請求項47】
SERCA2aをコードするポリヌクレオチドを含むAAV2/1ベクターの少なくとも1×1011個のDRPを含む医薬組成物と、
SERCA2aをコードするポリヌクレオチドを含むAAV2/1ベクターの少なくとも0.5×1011個のDRPを含む溶液を冠循環の血管へのin vivo注入によって心臓血管疾患を治療または予防の必要がある患者に投与すべきであり、前記冠循環を患者の体循環から分離または実質的に分離せず、前記ポリヌクレオチドを前記血管に少なくとも3分間にわたって注入することを説明する説明書と
を含むキット。
【請求項48】
前記血管が左または右冠動脈であり、前記ポリヌクレオチドの前記注入が少なくとも8分間である、請求項47に記載のキット。
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図7A】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図7A】
【公表番号】特表2009−544698(P2009−544698A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521759(P2009−521759)
【出願日】平成19年7月16日(2007.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/016129
【国際公開番号】WO2008/013692
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(509024156)セラドン・コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月16日(2007.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/016129
【国際公開番号】WO2008/013692
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(509024156)セラドン・コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】
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