説明

遺伝子治療用ベクター及び該遺伝子治療用ベクターを投与された哺乳動物中又は培養細胞中の目的タンパク質の定量方法

遺伝子治療を行った際の目的タンパク質の血中濃度をより高感度にモニターでき、かつ、標識ペプチドが生理作用を持たずに多くの動物で免疫原性がない、遺伝子治療用ベクターが開示されている。遺伝子治療用ベクターは、哺乳類細胞用発現ベクターに、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチド領域と、体内で生産させるべき目的タンパク質領域との融合タンパク質をコードする核酸を組み込んだ構造を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、生体内又は培養細胞内で生産された目的タンパク質を簡便に定量することができる、生体内で目的タンパク質を生産するための遺伝子治療用ベクターに関する。
【背景技術】
患者の体内で目的のタンパク質を生産させる遺伝子治療を行った際、目的のタンパク質の血中濃度はその蛋白のELISA法など、測定法が確立している場合は可能であるが、確立していない場合は濃度測定ができない。そこで、標識蛋白を用いて、その蛋白濃度を測定するアッセイ法が実用化され販売されている。しかし、この測定感度は低く、遺伝子治療における血中濃度測定として確立した方法はない。文献(Treatment of Murine Lupus with cDNA encoding IFN−γR/Fc,The Journal of Clinical Investigation,July 2000,volume 106,Number 2 p207−215)では目的のタンパク質を測定せずに影響を受けるタンパク質を定量化して間接的に目的のタンパク質の発現を証明している。これは血中濃度測定の難しさを示していると考えられる。
【発明の開示】
本発明の目的は、遺伝子治療を行った際の目的タンパク質の血中濃度を高感度にモニターでき、標識に起因する不所望の生理作用や抗原抗体反応がほとんど引き起こされない、遺伝子治療用ベクターを提供することである。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、遺伝子治療により体内で生産させるべき目的タンパク質と、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドとの融合タンパク質をコードする核酸を組み込んだベクターで遺伝子治療を行うことにより、上記グルカゴンペプチドを標識として目的タンパク質の血中濃度を高感度に測定することができ、かつ、標識ペプチドに起因する不所望な生理作用の発現や免疫反応の誘起がほとんどないことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、哺乳類細胞用発現ベクターに、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチド領域と、体内で生産させるべき目的タンパク質領域との融合タンパク質をコードする核酸を組み込んだ構造を持ち、哺乳類細胞内で前記融合タンパク質を生産させることができる遺伝子治療用ベクターを提供する。また、本発明は、上記本発明の遺伝子治療用ベクターの有効量を、前記目的タンパク質の体内又は細胞内発現が望まれる哺乳動物又は培養哺乳動物細胞に投与することを含む、遺伝子治療方法を提供する。さらに、本発明は、上記本発明の遺伝子治療用ベクターの、遺伝子治療用薬剤の製造のための使用を提供する。さらに、本発明は、上記本発明の遺伝子治療用ベクターを投与された哺乳動物又は培養哺乳動物細胞から採取された被検試料中の、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチド領域を免疫測定することを含む、前記遺伝子治療用ベクターの発現により体内又は培養哺乳動物細胞内で生産された前記目的タンパク質の定量方法を提供する。さらに、本発明は、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドから成る、哺乳動物体内又は培養哺乳動物細胞内において、外部から投与された発現ベクターの発現により生産される目的タンパク質の標識剤を提供する。さらに、本発明は、哺乳動物体内又は培養哺乳動物細胞において、外部から投与された発現ベクターの発現により生産される目的タンパク質を、標識剤としてのグルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドとの融合タンパク質として発現させることにより、体内又は培養細胞内で生産される目的ペプチドを、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドで標識することを含む、体内又は培養細胞内で生産されるタンパク質の標識方法を提供する。さらに、本発明は、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドの、哺乳動物体内又は培養哺乳動物細胞内において外部から投与された発現ベクターの発現により生産される目的タンパク質の標識剤としての使用を提供する。
本発明により、標識ペプチドは生理作用を持つことなく、目的タンパク質の血中濃度を高感度に測定することを可能にする遺伝子治療用ベクターが初めて提供された。グルカゴンのC端側19−29は、それ自体生理作用を有さず、各種哺乳動物においてよく保存されているので、免疫反応を実質的に誘起せず、それでいて市販の免疫測定キットを用いて高感度に免疫測定することにより定量することが可能である。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1で作製した遺伝子治療用ベクターに挿入された、挿入核酸断片の塩基配列を、それがコードするアミノ酸配列と共に示す図である。
図2は、図1の続きを示す図である。
図3は、図2の続きを示す図である。
図4は、実施例1〜5で用いた哺乳動物用発現ベクターであるpCAGGSの遺伝子地図である。
図5は、実施例1における、遺伝子治療用ベクターの投与後の日数と、グルカゴン由来標識ペプチドを測定することにより測定された目的タンパク質の血中濃度との関係を示す図である。
図6は、実施例1において測定された、本発明のベクターを用いて遺伝子治療を行った場合の目的タンパク質の血中濃度並びに本発明のベクターを用いて遺伝子治療を行った場合及びグルカゴン由来標識ペプチドを融合していない目的タンパク質をコードする核酸を挿入したベクターを用いて遺伝子治療を行った場合の血糖値の経時変化を示す図である。
図7は、実施例2で作製した遺伝子治療用ベクターに挿入された、挿入核酸断片の塩基配列を、それがコードするアミノ酸配列と共に示す図である。
図8は、図7の続きを示す図である。
図9は、図8の続きを示す図である。
図10は、実施例2における、遺伝子治療用ベクターの投与後の日数と、グルカゴン由来標識ペプチドを測定することにより測定された目的タンパク質の血中濃度との関係を示す図である。
図11は、実施例2及び比較例2における、ラットの移植心臓の生着日数を示す図である。
図12は、実施例3で作製した遺伝子治療用ベクターに挿入された、挿入核酸断片の塩基配列を、それがコードするアミノ酸配列と共に示す図である。
図13は、図12の続きを示す図である。
図14は、図13の続きを示す図である。
図15は、比較例3で作製した遺伝子治療用ベクターに挿入された、挿入核酸断片の塩基配列を、それがコードするアミノ酸配列と共に示す図である。
図16は、図15の続きを示す図である。
図17は、実施例3における、遺伝子治療用ベクターの投与後の日数と、グルカゴン由来標識ペプチドを測定することにより測定された目的タンパク質の血中濃度との関係を示す図である。
図18は、実施例3及び比較例3における、ラットの心筋炎病変部位の面積率を示す図である。
図19は、実施例4で作製した遺伝子治療用ベクターに挿入された、挿入核酸断片の塩基配列を、それがコードするアミノ酸配列と共に示す図である。
図20は、図19の続きを示す図である。
図21は、図20の続きを示す図である。
図22は、実施例4における、遺伝子治療用ベクターの投与後の日数と、グルカゴン由来標識ペプチドを測定することにより測定された目的タンパク質の血中濃度との関係を示す図である。
図23は、実施例4及び比較例4における、ラットの心筋炎病変部位の面積率を示す図である。
図24は、実施例5で作製した遺伝子治療用ベクターに挿入された、挿入核酸断片の塩基配列を、それがコードするアミノ酸配列と共に示す図である。
図25は、実施例5における、グルカゴン由来標識ペプチドを測定することにより測定された目的タンパク質の血中濃度と、ヒトインターロイキン8を測定することにより測定された目的タンパク質の血中濃度との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のベクターにより、目的タンパク質と融合されて発現される、「グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチド」とは、グルカゴンのC末端から数えて19番目から29番目までの合計11個のアミノ酸から成るペプチドを意味する。すなわち、このペプチドは、配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチドである。この「グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチド」は、目的タンパク質の標識として用いられるので、以下、便宜的に「グルカゴン由来標識ペプチド」と呼ぶことがある。
本発明のベクターには、グルカゴン由来標識ペプチド領域と、目的タンパク質領域との融合タンパク質をコードする核酸が組み込まれている。
本発明に用いられる哺乳類細胞用発現ベクターは、遺伝子治療の分野において周知であり、哺乳類細胞用発現ベクターであれば限定されない。本発明の特徴は、目的タンパク質の標識としてのグルカゴン由来標識ペプチド領域を、目的タンパク質と融合させて発現させる点にあり、哺乳類細胞用発現ベクターは、何ら限定されるものではなく、遺伝子治療の分野で用いられている公知のいずれの哺乳類細胞用発現ベクターをも用いることができる。プラスミドベクターでもウイルスベクターでもよいが、安全性の観点からプラスミドベクターが好ましい。種々の哺乳類細胞用発現ベクターが周知であり、また、市販されており、これらの周知又は市販のベクターを好ましく用いることができる。周知又は市販ベクターの例として、pCAGGS(Efficient selection for high expression transfactans with a novel eukaryotic vector,Gene 1991 Dec.15,108(2)p193−P199.、遺伝子地図を図4に、その塩基配列を配列表の配列番号3に示す)、プロメガ社のpCIベクター、pSIベクター及びpTARGETベクター並びにインビトロジェン社のpcDNA5/TO等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
遺伝子治療により体内で生産させようとする目的タンパク質は、何ら限定されるものではなく、インターフェロン、インターロイキン及びCTLA4のような種々のサイトカイン、成長因子、インスリン等のホルモン及び細胞接着因子等並びにこれらのレセプターを例示することができる。また、任意の抗原タンパク質を体内で生産させ、遺伝子ワクチンとすることもできる。また、目的タンパク質自体が融合タンパク質であってもよい。例えば、Fcレセプターとの結合が求められる所望のサイトカインの一端に、免疫グロブリン、好ましくはIgG、特にIgG1の定常領域(Fc)を融合し、Fcレセプターとの結合性を高めたものを目的タンパク質とすることもできる(下記実施例1〜4参照)。IgGのFc領域をコードする核酸の塩基配列は、周知であり、例えば、ヒトのIgG Fc領域をコードする核酸の塩基配列は例えばGenBank Accession No.BC020823等に記載されており、ラットのIgG Fc領域をコードする核酸の塩基配列は本願の図1ないし図3等に示されている。
本発明のベクターは、目的タンパク質と、上記標識ペプチドとの融合タンパク質をコードする核酸を、哺乳類細胞用発現ベクターのクローニングサイトに挿入することにより得られる。なお、標識ペプチドは、目的タンパク質の一端、特にC末端に融合させることが好ましい。
遺伝子治療は、本発明の遺伝子治療用ベクターを、哺乳動物に投与することにより行うことができる。投与経路は、静脈注射や筋肉内注射のような非経口投与が好ましい。ベクターの投与量は、目的タンパク質の性質や治療すべき疾患の種類及び程度等に応じて適宜設定することができるが、体重1kg当りのベクターの投与量は、通常、1mg〜10mg程度、好ましくは2mg〜4mg程度である。製剤としては、例えば、遺伝子治療用ベクターをリンゲル液に溶解した溶液を注射液として用いることができる。これに医薬製剤の分野で周知の注射剤用添加剤を添加することも可能である。あるいは、本発明の遺伝子治療用ベクターは、インビトロで培養されている哺乳動物細胞に投与することもできる。すなわち、患者のリンパ球や骨髄細胞等の細胞を体外に取り出して培養し、培養細胞に遺伝子ベクターを投与し、目的タンパク質の生産能を獲得した細胞を再び患者に戻す遺伝子治療があるが、本発明の遺伝子治療用ベクターは、このような培養哺乳動物細胞に投与することもできる。あるいは、遺伝子治療用ベクターの治療効果をインビトロで調べるため等の実験において培養される哺乳動物細胞に投与することもできる。
遺伝子治療において、体内に導入されたベクターにより上記目的タンパク質とグルカゴン由来標識ペプチドとの融合タンパク質が生産される。あるいは、インビトロで培養されている哺乳動物細胞に遺伝子治療用ベクターを投与する場合には、該培養細胞内で上記目的タンパク質とグルカゴン由来標識ペプチドとの融合タンパク質が生産される。目的タンパク質は、標識ペプチドと融合しているので、目的タンパク質の濃度は、グルカゴン由来標識ペプチドの濃度を測定することにより測定することができる。なお、本発明で用いられるグルカゴン由来標識ペプチドを免疫測定するキット(グルカゴン由来標識ペプチドを抗原として得られる抗体を含む)が市販されている(第一ラジオアイソトープ研究所製膵グルカゴンRIAキット等)ので、このような市販の免疫測定用キットを用いて容易に測定することができる。
グルカゴン由来標識ペプチドを定量する被検試料は、本発明の遺伝子治療用ベクターを投与された個体由来の各種体液や組織等又はそれらの希釈物であり、好ましくは、全血、血清若しくは血漿又はそれらの希釈物のような血液試料である。あるいは、インビトロで培養されている哺乳動物細胞に遺伝子治療用ベクターを投与する場合には、培養細胞のホモジネートや培養上清等である。
実施例1、比較例1
ラットのレクチンで刺激した培養脾細胞のcDNAを鋳型として用い、5’−gagaattcatttaaatgagagcggccgccgtgcccagaaactgtg−3’と5’−tcaaccactgcacaaaatcttgggctttacccggagagtgggagagact−3’をプライマーとして用いてPCRを行い、さらにそのPCR産物を300倍希釈したものを鋳型として、5’−gagaattcatttaaatgagagcggccgccgtgcccagaaactgtg−3’と5’−gagagagagaattctcaggtattcatcaaccactgcacaaaatcttgggc−3’をプライマーとして用いてPCRを行い、増幅産物を、EcoRIを用いて上記した哺乳類細胞用発現ベクターpCAGGSのクローニングサイトに組み込んだ。これにより、SwaIとNotIの制限酵素部位の入ったpCAGGS−IgG−glu19−29(免疫グロブリンG1(IgG1)のFc領域をコードする領域の下流に、グルカゴン由来標識ペプチドをコードする領域が結合された核酸断片がpCAGGSのEcoRI部位に挿入されたもの)が得られた。
次に、ラット心筋炎の心臓のcDNAを鋳型として用い、5’−gagaattcatttaaatgattctgctggtggtcctgatg−3’と5’−gcagcatcgcggccgcttcttctctgtcatcatggagaaa−3’をプライマーとして用いてPCRを行い、そのPCR産物を、先に作成したpCAGGS−IgG−glu19−29にSwaIとNotIを用いて組み込んだ。
これにより、上記した哺乳類細胞用発現ベクターpCAGGSのEcoRI部位に、配列表の配列番号2に示す塩基配列(制限酵素部位も含めて示す)を有するDNA断片が挿入された、本発明のベクターを作製した(実施例1)。なお、配列番号2を他の情報と共に図1ないし図3に示す。図1ないし図3に示されるように、挿入した核酸断片は、両端にEcoRI部位を有し、インターフェロンγレセプター(IFNγR)タンパク質と、免疫グロブリンG1(IgG1)のFc領域の融合タンパク質をコードする領域の下流に、グルカゴン由来標識ペプチドをコードする領域が結合されたもの(INFγR−IgG−グルカゴン19−29)である。
グルカゴン由来標識ペプチドを含まないプラスミドベクター(比較例1)と、上記のように作成したグルカゴン由来標識ペプチドを含む本発明のプラスミドペクター(実施例1)を、それぞれ7匹のラットの尾静脈から急速静脈注射し、遺伝子治療を行った。注射液の組成は、一匹あたり800μgのプラスミドを20mlのリンゲル液に溶解したものであった。注射後、経時的に血液を採取し、採血して得た1〜10μlの血漿を100〜1000倍希釈し、市販のRIAキット(第一ラジオアイソトープ研究所製膵グルカゴンRIAキット等)を用いて、該キットの添付文書に従ってグルカゴン由来標識ペプチドの濃度、ひいては、目的タンパク質(本実施例では、IFNγR/IgG1Fc融合タンパク質)の濃度を測定した。すなわち、RIAは、具体的には次のようにして行なった。アッセイ用緩衝液400μlに標準グルカゴン溶液あるいは希釈した被検血漿を200μl加え、さらにグルカゴン−125I溶液を100μl、グルカゴン抗血清溶液を100μl加え、4℃、48時間放置した。その後、第二抗体を100μl、グルカゴンRIA用沈殿安定剤400μlを加え4℃、30分間放置し、遠心分離(2000xg30分間、4℃)後、上清除去後計数率を測定し濃度を求めた。
図5は血中濃度の測定結果である。実施例1では、静脈注射後1日目2870±1062ng/ml(平均±標準偏差)、3日目1440±334ng/ml、7日目1120±433ng/ml、16日目281±162ng/ml、との結果が得られ、全例で測定可能であった。一方、グルカゴンペプチドを含まないプラスミドペクターでの遺伝子治療(比較例1)では同様な検査ですべて感度以下であった。
図6はプラスミド静脈注射4,8,12時間後の血糖値及び上記と同様にRIA測定法で検査した蛋白血中濃度の値である。実施例1では、血中濃度は4時間後2815±2318ng/ml、8時間後6061±2789ng/ml、12時間後5752±2270ng/mlを示し、最大血中濃度を示した8−12時間後の血糖は、8時間後89.3±15.1mg/dl(実施例1)vs81.8±7.5mg/dl(比較例1)、12時間後63.5±5.7mg/dl(実施例1)vs71.4±6.9mg/dl(比較例1)と差はなかった。
以上の結果から、本発明のベクターを用いることにより、ベクター投与の数十日後まで、極少量の血漿サンプルから、目的タンパク質の血中濃度を十分測定することが可能であることが明らかになった。
実施例2、比較例2
ラットのレクチンで刺激した培養脾細胞のcDNAを鋳型として用い、5’−gagaattcatttaaatggcttgtcttggactccagagg−3’と5’−gcagcatcgcggccgcgtctgaatctgggcatggttctgg−3’をプライマーとして用いてPCRを行い、そのPCR産物を、実施例1記載の方法で作製したpCAGGS−IgG−glu19−29にSwaIとNotIを用いて組み込んだ。
これにより、図7ないし9及び配列番号4に示す塩基配列(制限酵素部位も含めて示す)を有するラットCTLA4−IgG−グルカゴン19−29(ラットCTLA4コード領域の下流にラットIgG Fcコード領域、その下流にグルカゴン由来標識ペプチドコード領域を結合した核酸断片)が上記した哺乳類細胞用発現ベクターpCAGGSのEcoRI部位に挿入された、ラット細胞内でCTLA4−IgG−グルカゴン19−29を発現する組換えベクターが作製された(実施例2)。比較のため、CTLA4コード領域を含まないIgG−グルカゴン19−29コード領域のみを挿入した組換えベクターも作製した(比較例2)。
心臓移植後のラットに、実施例1と同様にして組換えベクターを投与し、血中濃度を測定した。また、移植心臓の生着日数も調べた。
結果を図10及び図11に示す。図10に示されるように、実施例2では、CTLA4−IgG−グルカゴン19−29蛋白が図7のように推移した。つまり前値は100倍希釈ではグルカゴンが測定不能であったが、1日目に急激に上昇し、5000ng/mlを越えるような蛋白濃度を示し、その後徐々に低下したが、評価のため屠殺した105日後まで、1000ng/mlを越えるような蛋白濃度を示した。また、図11に示されるように、実施例2では、10匹中1匹が14日目に拒絶されたが、残りの9匹はすべて評価した105日まで生着していた。CTLA4を含まないpCAGGS−SP−IgG−グルカゴン19−29で治療した群(比較例2)では、5匹中1匹が5日目に、1匹が6日目に、3匹が7日目に拒絶された。これは有意にpCAGGS−CTLA4−IgG−グルカゴン19−29治療の有効性を示している。
実施例3、比較例3
ラットのレクチンで刺激した培養脾細胞のcDNAを鋳型として用い、5’−gagaattcatttaaatggcactctgggtgactgcagtc−3’と5’−gcagcatcgcggccgcgtggccatagcggaaaagttgctt−3’をプライマーとして用いてPCRを行い、そのPCR産物を実施例1記載の方法で作製したpCAGGS−IgG−glu19−29にSwaIとNotIを用いて組み込んだ。
これにより、図12ないし14及び配列番号5に示す塩基配列(制限酵素部位も含めて示す)を有するラットIL13−IgG−グルカゴン19−29(ラットインターロイキン13(IL13)コード領域の下流にラットIgG Fcコード領域、その下流にグルカゴン由来標識ペプチドコード領域を結合した核酸断片)が上記した哺乳類細胞用発現ベクターpCAGGSのEcoRI部位に挿入された、ラット細胞内でIL13−IgG−グルカゴン19−29を発現する組換えベクターが作製された(実施例3)。比較のため、IL13コード領域を含まないSP−IgG−グルカゴン19−29コード領域(配列番号6並びに図15及び図16)のみを挿入した組換えベクターも作製した(比較例3)。
自己免疫性心筋炎ラット(A novel experimental model of giant cell myocarditis induced in rats by immunization with cardiac myosin fraction.Clinical Immunology and Immunopathology,November 1990,volume 57,p250−262.)のラットに、実施例1と同様にして組換えベクターを投与し、血中濃度を測定した。また、投与16日後に屠殺、解剖し、心筋炎病変部位の病変面積率も調べた。
結果を図17及び図18に示す。IL13−IgG−グルカゴン19−29蛋白が図17のように推移した。つまり、1日目に2000ng/mlを越えるような蛋白濃度を示し、その後徐々に低下したが、評価のため屠殺した16日後まで、約8ng/mlの蛋白濃度を示した。また、図18に示すように、本発明の遺伝子治療用ベクターであるpCAGGS−IL13−IgG−グルカゴン19−29(IL13−IgG−グルカゴン19−29を挿入したベクターpCAGGS)を投与した群では、IL13を含まないpCAGGS−SP−IgG−グルカゴン19−29を投与した群に比べて、有意に心筋炎病変部位の面積が小さく、pCAGGS−IL13−IgG−グルカゴン19−29治療の有効性が示された。
実施例4、比較例4
マウスのレクチンで刺激した培養脾細胞のcDNAを鋳型として用い、5’−gagaattcatttaaatggaaatctgctggggaccctac−3’と5’−gcagcatcgcggccgcttggtcttcctggaagtagaactt−3’をプライマーとして用いてPCRを行い、そのPCR産物を実施例1記載の方法で作製したpCAGGS−IgG−glu19−29にSwaIとNotIを用いて組み込んだ。
これにより、図19ないし21及び配列番号7に示す塩基配列(制限酵素部位も含めて示す)を有するラットIL1RA−IgG−グルカゴン19−29(ラットインターロイキン1レセプターアンタゴニストコード領域の下流にラットIgG Fcコード領域、その下流にグルカゴン由来標識ペプチドコード領域を結合した核酸断片)が上記した哺乳類細胞用発現ベクターpCAGGSのEco RI部位に挿入された、ラット細胞内でIL1RA−IgG−グルカゴン19−29を発現する組換えベクターが作製された(実施例4)。
自己免疫性心筋炎ラット(A novel experimental model of giant cell myocarditis induced in rats by immunization with cardiac myosin fraction.Clinical Immunology and Immunopathology,November 1990,volume 57,p250−262.)のラットに、実施例1と同様にして組換えベクターを投与し、血中濃度を測定した。また、投与16日後に屠殺、解剖し、心筋炎病変部位の病変面積率も調べた。比較のため、上記比較例3のベクターも投与した(比較例4)。
結果を図22及び図23に示す。図22に示すように、実施例4では、IL1RA−IgG−グルカゴン19−29蛋白が図22のように推移した。つまり、1日目に2000ng/mlを越えるような蛋白濃度を示し、その後徐々に低下したが、評価のため屠殺した16日後まで、約20ng/mlの蛋白濃度を示した。また、図23に示すように、実施例4では比較例4に比べて、有意に心筋炎病変部位の面積が小さく、pCAGGS−IL1RA−IgG−グルカゴン19−29治療の有効性が示された。
【実施例5】
SwaIとNotIの制限酵素部位の入ったpCAGGS−glu19−29を作るために、5’−gagaattcatttaaatgagagcggccgccccgggtaaagcccaagattttgtgcagtggttg−3’と5’−gagagagagaattctcaggtattcatcaaccactgcacaaaatcttgggc−3’のプライマーのみでPCRを行い、EcoRIを用いて、pCAGGSのクローニングサイトに組み込んだ。
次にCos7細胞のcDNAを鋳型として用い、5’−gagaattcatttaaatgacttccaagctggccgtggct−3’と5’−gcagcatcgcggccgctgaattctcagccctcttcaaaaa−3’をプライマーとして用いてPCRを行い、そのPCR産物を、先に作成したpCAGGS−glu19−29にSwaIとNotIを用いて組み込んだ。
これにより、図24及び配列番号8に示す塩基配列を有するヒトIL8−グルカゴン19−29(ヒトインターロイキン8コード領域の下流にグルカゴン由来標識ペプチドコード領域を結合した核酸断片)が上記した哺乳類細胞用発現ベクターpCAGGSのEcoRI部位に挿入された、ラット細胞内でIL8−グルカゴン19−29を発現する組換えベクターが作製された(実施例5)。
ラットに、実施例1と同様にして組換えベクターを投与し、1日後に採血し、血中濃度を測定した。また、同じ試料中のヒトIL−8の濃度も定量した。ヒトIL−8の定量は、BIOSOURSE社製(Nivelles,Belgium)、IL−8 EASIAキットを用いてそのプロトコールに従って行った。
結果を図25に示す。図25に示すごとく、両者のモル濃度はほぼ一致し、グルカゴン19−29の標識ペプチドを用いた方法の正確性が証明された。
【配列表】




























【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類細胞用発現ベクターに、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチド領域と、体内で生産させるべき目的タンパク質領域との融合タンパク質をコードする核酸を組み込んだ構造を持ち、哺乳類細胞内で前記融合タンパク質を生産させることができる遺伝子治療用ベクター。
【請求項2】
前記グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチド領域は、前記目的タンパク質領域のC末端に結合される請求項1記載のベクター。
【請求項3】
前記目的タンパク質が、サイトカイン若しくはサイトカインに免疫グロブリンの定常領域を付加した融合タンパク質、成長因子、ホルモン若しくは細胞接着因子又はこれらのレセプターである請求項1又は2記載のベクター。
【請求項4】
前記サイトカイン又はそのレセプターが、インターフェロン及びそのレセプター、CTLA4、インターロイキン及びそのレセプターから成る群から選ばれる請求項3記載のベクター。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の遺伝子治療用ベクターの有効量を、前記目的タンパク質の体内又は培養哺乳動物細胞内発現が望まれる哺乳動物又は培養哺乳動物細胞に投与することを含む、遺伝子治療方法。
【請求項6】
前記遺伝子治療用ベクターを、哺乳動物に投与する請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の遺伝子治療用ベクターの、遺伝子治療用薬剤の製造のための使用。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の遺伝子治療用ベクターを投与された哺乳動物又は培養哺乳動物細胞から採取された被検試料中の、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチド領域を免疫測定することを含む、前記遺伝子治療用ベクターの発現により体内又は培養細胞内で生産された前記目的タンパク質の定量方法。
【請求項9】
前記被検試料が、前記遺伝子治療用ベクターを投与された哺乳動物から採取されたものである請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記被検試料が、血液試料である請求項9記載の方法。
【請求項11】
グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドから成る、哺乳動物体内又は培養哺乳動物細胞において、外部から投与された発現ベクターの発現により生産される目的タンパク質の標識剤。
【請求項12】
グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドから成る、哺乳動物体内において、外部から投与された発現ベクターの発現により生産される目的タンパク質の標識剤。
【請求項13】
哺乳動物体内又は培養哺乳動物細胞内において、外部から投与された発現ベクターの発現により生産される目的タンパク質を、標識剤としてのグルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドとの融合タンパク質として発現させることにより、体内又は培養細胞内で生産される目的ペプチドを、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドで標識することを含む、体内又は培養細胞内で生産されるタンパク質の標識方法。
【請求項14】
哺乳動物体内において、外部から投与された発現ベクターの発現により生産される目的タンパク質を、標識剤としてのグルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドとの融合タンパク質として発現させることにより、体内で生産される目的ペプチドを、グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドで標識することを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドの、哺乳動物体内又は培養哺乳動物細胞において外部から投与された発現ベクターの発現により生産される目的タンパク質の標識剤としての使用。
【請求項16】
グルカゴンのC端側19−29アミノ酸ペプチドの、哺乳動物体内において外部から投与された発現ベクターの発現により生産される目的タンパク質の標識剤としての使用。

【国際公開番号】WO2004/062693
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−566302(P2004−566302)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016956
【国際出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(802000019)株式会社新潟ティーエルオー (27)
【Fターム(参考)】