説明

遺伝子発現量規格化方法、プログラム、並びにシステム

【課題】
遺伝子発現量の新規な解析・補正手段を提示し、遺伝子発現量規格化の精度を高めること。
【解決手段】
試料中に含まれる、ゲノム中にほぼ一定の割合で存在する反復配列を測定することにより前記試料中の細胞数を取得し、その細胞数を、同じ試料から得られた遺伝子発現量を規格化するための指標とする遺伝子発現量規格化方法を提供する。例えば、同じ試料32からDNAサンプル33とRNAサンプル34をそれぞれ取得し、DNAサンプル33を細胞数取得のためのサンプルとし、RNAサンプル34を遺伝子発現量取得のためのサンプルとすることにより、同じ試料32中に含まれる細胞数と遺伝子発現量を取得できる。従って、取得した遺伝子発現量を、一定の細胞数辺りの値に換算することにより、他の遺伝子発現量と比較可能な値に規格化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAチップなどバイオアッセイ用基板を用いて得られた遺伝子発現量測定データの規格化又は標準化、解析、補正に係わる技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAチップ若しくはDNAマイクロアレイ(以下、本願では「DNAチップ」とする。)の実用化が進んでいる。DNAチップは、多種・多数のDNAオリゴ鎖を、検出用核酸として基板表面に集積して固定したものである。DNAチップを用いて、基板表面に固定された検出用核酸と細胞などから採取したサンプル核酸中の標的核酸とのハイブリダイゼーションを検出することにより、採取した細胞内における遺伝子発現を網羅的に解析することができる。
【0003】
DNAチップを用いた遺伝子発現解析におけるハイブリダイゼーション検出技術の向上に伴い、単に、遺伝子発現の有無を検出するだけでなく、遺伝子発現量の定量的な測定が可能になりつつある。例えば、ハイブリダイゼーション検出の際に蛍光強度を定量的に測定することにより、遺伝子発現量を示す定量的な数値を取得する技術は、一部実用化されている。
【0004】
そこで、遺伝子発現量を示す定量的な数値を規格化する試みが進められている。ここで、「規格化」とは、他の遺伝子発現解析により得られた遺伝子発現量との比較が可能な数値に変換することをいう。遺伝子発現量を規格化する方法として、例えば、定常的に発現している遺伝子の遺伝子発現量を規格化の指標とする方法が提案されている。
【0005】
定常的に発現している遺伝子の遺伝子発現量を規格化の指標とする方法について、図8を用いて以下説明する。図8に示すように、予め、DNAチップの基板表面81に、定常的に発現する遺伝子とハイブリダイゼーションする検出用核酸82を固定しておく。そして、その検出用核酸82と遺伝子発現解析に供する個体83から採取されたサンプル核酸84とのハイブリダイゼーション量を蛍光強度などにより検出し、遺伝子発現解析に供する細胞84におけるその遺伝子の遺伝子発現量を取得して、規格化する際の指標とする。
【0006】
その他、DNAチップなどによって得られた遺伝子発現量の解析方法、補正方法などに関する先行文献として、例えば、特許文献1〜3がある。
【特許文献1】特開2002−71688号公報
【特許文献2】特表2002−267668号公報
【特許文献3】特開2003−28862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
定常的に発現している遺伝子の遺伝子発現量を規格化の指標とする方法には、定常的に一定の値で発現する遺伝子を探すことが難しく、実際には、細胞の採取時刻、細胞に加わった外部ストレスなどによって、遺伝子発現量が変動している場合が多いという問題があった。また、定常的に発現している遺伝子の遺伝子発現量を規格化の指標とする場合、前記の理由によるものなのか、試料調製に用いた細胞数が一定でないことによるものなのか、判別することが難しかった。
【0008】
従って、定常的に発現している遺伝子の遺伝子発現量を規格化の指標ととして、遺伝子発現量を規格化した場合、規格化した数値のばらつきが大きかった。また、ばらつきの原因が複合的なためその数値を補正して用いることも難しかった。
【0009】
そこで、本発明は、遺伝子発現量の新規な解析・補正手段を提示し、遺伝子発現量規格化の精度を高めることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、試料中に含まれる、ゲノム中にほぼ一定の割合で存在する反復配列を測定することにより前記試料中の細胞数を取得し、その細胞数を、同じ試料から得られた遺伝子発現量を規格化するための指標とする遺伝子発現量規格化方法を提供する。
【0011】
例えば、同じ試料からDNAサンプルとRNAサンプルを取得し、DNAサンプルを細胞数取得のためのサンプルとし、RNAサンプルを遺伝子発現量取得のためのサンプルとすることにより、同じ試料中に含まれる細胞数と遺伝子発現量を取得できる。従って、取得した遺伝子発現量を、前記細胞数を指標として、単位細胞数当たりの値に換算することにより、他の遺伝子発現量と比較可能な値に規格化できる。
【0012】
具体的には、例えば、DNAチップの基板表面に固定された、細胞数取得のための検出用核酸と、前記DNAサンプルに含まれる標的核酸とのハイブリダイゼーション測定値を、DNAチップの基板表面の別の領域に固定された、遺伝子発現解析のための検出用核酸と、前記RNAサンプルに含まれる標的核酸とのハイブリダイゼーション測定値を規格化するための指標とすることにより、得られた遺伝子発現量を規格化できる。
【0013】
前記反復配列は、断片化されたゲノム情報から反復配列を探索することにより取得してもよいし、既知の反復配列であるAlu配列又はその一部分と同じ配列を用いてもよい。
【0014】
なお、本発明はシステム化が可能である。また、上記方法のうち、ゲノム中にほぼ一定の割合で存在する反復配列を測定することにより取得された、前記試料中の細胞数に係る数値を用いて、同じ試料から得られた遺伝子発現量に係る数値を規格化するステップ、及び、断片化されたゲノム情報から反復配列を探索する一連のステップは、プログラムで記述することにより、自動化できる。
【0015】
以下、定義づけを行う。
【0016】
「反復配列」とは、同一の塩基配列がゲノム中にほぼ一定の割合で散在する配列をいい、SINE(Alu配列など)やLINEなど、既知の反復配列(及びその一部)と塩基配列が同一なものを含むが、それらに限定されない。
【0017】
「遺伝子発現量」は、特定の遺伝子の細胞内での発現量をいい、DNAチップの基板表面に固定された検出用核酸と、前記検出用核酸とハイブリダイゼーションする標的核酸とのハイブリダイゼーション量を、蛍光強度により測定した値(測定データ)、及び、その値に基づいて取得した遺伝子発現量の推定値なども包含する概念である。
【0018】
「規格化」は、遺伝子発現解析などにより得られた蛍光強度などの数値を、他の遺伝子発現解析などにより得られた測定値全般との比較が可能な数値に変換することをいう。
【0019】
「ハイブリダイゼーション」は、相補的な塩基配列構造を備える核酸間の相補鎖(二本鎖)形成反応を意味する。
【0020】
「核酸」とは、プリンまたはピリミジン塩基と糖がグリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステルの重合体(ヌクレオチド鎖)を意味し、プローブDNAを含むオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、プリンヌクレオチドとピリミジンヌクレオチオドが重合したDNA(全長あるいはその断片)、逆転写により得られるcDNA(cプローブDNA)、RNA、ポリアミドヌクレオチド誘導体(PNA)等を広く含む。
【0021】
「検出用核酸」とは、反応領域に貯留又は保持された媒質中に固定又は遊離の状態で存在し、当該核酸分子と特異的に相互作用する相補的塩基配列を有する核酸分子を検出するための探り針(検出子)として機能する核酸分子である。代表例は、DNAプローブなどのオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドである。「標的核酸」は、細胞から取得されたサンプル核酸のうち、前記検出用核酸とハイブリダイゼーションする核酸である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、遺伝子発現量規格化の精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、以下に記載する実施形態は、DNAチップの基板表面に固定された検出用核酸と採取した試料から取得したサンプル核酸中の標的核酸とのハイブリダイゼーション量を蛍光強度により取得した場合について例示したものであるが、本発明の範囲は、これによって狭く解釈されない。
【0024】
はじめに、図1から図3を用いて、遺伝子発現量規格化フローの一例について、説明する。
【0025】
図1は、遺伝子発現量規格化の全フローの一例を示した図である。図1中、フローBはゲノム処理フローを、フローAはRNA処理フローを示している。なお、図1中、「S」はフローの始点(スタート)を、「E」はフローの終点(エンド)を示している。
【0026】
ゲノム処理フローBは、反復配列を測定することにより試料中の細胞数を取得し、取得した細胞数を、同じ試料から得られた遺伝子発現量を規格化するための指標とする際のフローの一例である。DNAサンプル中に存在する反復配列の数は、そのハイブリダイゼーション量と強く相関する。一方、ゲノム中には反復配列がほぼ一定の割合で存在するため、DNAサンプル中に存在する反復配列の数は、細胞数とも強く相関する。従って、反復配列の数を取得するために測定されたハイブリダイゼーション量を用いて遺伝子発現量を規格化することにより、試料中の細胞数の違いによって生じる遺伝子発現量のばらつきを修正できる。即ち、細胞数を指標として、取得した遺伝子発現量を、単位細胞数当たりの値に換算することにより、他の遺伝子発現量と比較可能な値に規格化できる。
【0027】
ゲノム処理フローBは、本フローで用いるDNAチップを準備する段階(符号B1)、採取した試料からサンプル核酸を取得し調製する段階(符号B3、B4)、細胞数取得のための検出用核酸と採取した試料から取得したサンプル核酸中の標的核酸とのハイブリダイゼーション量を蛍光強度によって測定し、試料中の細胞数を取得する段階(符号B5、B6)、から構成される。以下、順に説明する。
【0028】
まず、DNAチップを準備する段階(符号B1)について説明する。ゲノム処理フローBで用いるDNAチップの基板表面には、細胞数取得のための検出用核酸を固定しておく。細胞数取得のための検出用核酸には、ゲノム中にほぼ一定の割合で存在する反復配列(例えば、Alu配列又はその一部分と同じ配列)をコードする核酸を固定する。なお、ゲノム中の反復配列の探索方法の一例については、後述する。
【0029】
次に、採取した試料からサンプル核酸を取得し調製する段階(符号B3、B4)について説明する。ゲノム処理フローBでは、公知の方法に従い、採取した試料からゲノムDNAを抽出し、サンプル核酸を取得する(符号B3)。ゲノムDNAから抽出したサンプル核酸は、制限酵素で断片化して用いる(符号B4)。
【0030】
次に、細胞数取得のための検出用核酸と採取した試料から取得したサンプル核酸中の標的核酸とのハイブリダイゼーション量を蛍光強度によって測定し、試料中の細胞数を取得する段階(符号B5、B6)について説明する。DNAチップの基板表面に固定された検出用核酸にサンプル核酸を供給し、検出用核酸とサンプル核酸中の標的核酸とのハイブリダイゼーション量を、蛍光強度などを用いて測定する(符号B5)。そして、標的核酸中に存在する反復配列を、蛍光強度などを用いて定量的に測定することにより、試料中に含まれる細胞数を取得する(符号B6)。
【0031】
そして、遺伝子発現解析を行う複数の検出用核酸と標的核酸とのハイブリダイゼーション量(測定データ)に基づく遺伝子発現量(矢印A9)を、採取した試料中に含まれる細胞数を指標として、単位細胞数当たりの値に換算することにより(矢印B8)、遺伝子発現量を規格化する(符号C1)。なお、このステップは、プログラムで記述することにより自動化できる。
【0032】
RNA処理フローAは、本フローで用いるDNAチップを準備する段階(符号A1、A2)、採取した試料からサンプル核酸を取得し調製する段階(符号A3、A4)、DNAチップの基板表面に固定された検出用核酸と採取した試料から取得したサンプル核酸中の標的核酸とのハイブリダイゼーション量を蛍光強度によって測定し、遺伝子発現量を取得する段階(符号A5、A6)、測定された遺伝子発現量を規格化するための指標を取得する段階(符号A7)、から構成される。以下、順に説明する。
【0033】
まず、DNAチップを準備する段階(符号A1、A2)について説明する。RNA処理フローAで用いるDNAチップには、指標取得に用いる複数の検出用核酸と、遺伝子発現解析を行う検出用核酸とを固定しておく。なお、指標取得に用いる複数の検出用核酸の固定位置は任意であり、例えば、指標取得に用いる複数の検出用核酸を、基板表面の所定位置に集めて固定してもよい。
【0034】
次に、採取した試料からサンプル核酸を取得し調製する段階(符号A3、A4)について、説明する。RNA処理フローAでは、公知の方法に従い、採取した試料からRNAを抽出後、そのRNAと相補的な配列を持つcDNAを合成するなどして、サンプル核酸を取得する(符号A3)。サンプル核酸は制限酵素で断片化してもよい(符号A4)。
【0035】
次に、DNAチップの基板表面に固定された検出用核酸と採取した試料から取得したサンプル核酸中の標的核酸とのハイブリダイゼーション量を蛍光強度によって測定し、遺伝子発現量を取得する段階(符号A5、A6)について説明する。DNAチップの基板表面に固定された検出用核酸にサンプル核酸を供給し、検出用核酸とサンプル核酸中の標的核酸とのハイブリダイゼーション量を、蛍光強度などを用いて測定する(符号A5)。そして、その測定データに基づいて、遺伝子発現量(規格化前の推定量)を取得する(符号A6)。
【0036】
次に、測定された遺伝子発現量を規格化するための指標を取得する段階(符号A7)について説明する。符号A7の段階では、指標取得のために測定された複数の遺伝子発現量(符号A6)間の相関関係を取得する。そして、取得した相関関係を、遺伝子解析のために測定された遺伝子発現量を規格化するための指標にする。このステップは、プログラムで記述することにより自動化できる。ここで、相関関係とは、前記指標取得のために測定された複数の遺伝子発現量をパラメータとする相関関数から得られた値である。相関関数は、例えば、二以上の実験条件下でそれぞれ採取された細胞から実験条件ごとに取得された複数の遺伝子発現量について、前記実験条件ごとの複数の遺伝子発現量間の相関関係を関数値とし、前記各関数値が一定値に近似する組み合わせを選択することにより得ることができる。
【0037】
そして、符号A7の段階で得られた指標を用いて(矢印A8)、遺伝子発現解析を行う複数の検出用核酸とサンプル核酸中の標的核酸とのハイブリダイゼーション量(測定データ)に基づく遺伝子発現量(矢印A9)を規格化する(符号C1)。このステップも、プログラムで記述することにより自動化できる。
【0038】
その他、符号A7の段階で取得した指標に基づいて規格化した遺伝子発現量と、符号B6の段階で取得した指標に基づいて規格化した遺伝子発現量と、を比較・検討することにより、測定データ検証を行うことができる(符号C1)。このステップも、プログラムで記述することにより自動化できる。
【0039】
図2は、本発明で用いるDNAチップの一例を示した模式図である(図1中の符号B1の段階)。
【0040】
図2中のDNAチップの基板表面21は、細胞数取得に用いる領域22と遺伝子発現解析に用いる領域23とを備える。細胞数取得に用いる領域22には、反復配列をコードする検出用核酸24を固定し、遺伝子発現解析に用いる領域23には、遺伝子発現解析に用いる検出用核酸25を固定する。
【0041】
なお、細胞数取得に用いる検出用核酸22は、DNAチップの基板表面21のどの部位に固定してもよい。また、図2では、RNA処理フローAで用いるDNAチップの基板表面に、細胞数取得のための検出用核酸を固定する領域を設けているが、細胞数取得に用いるDNAチップを別途用意してもよい。
【0042】
図3は、同じ試料からDNAサンプルとRNAサンプルを取得する方法の一例を示す模式図である(図1中の符号A3及びB3の段階)。
【0043】
個体31から採取した試料32から、DNAサンプル33とRNAサンプル34を取得する。DNAサンプル33は、既知の方法により、試料32中の細胞から抽出などして取得する(図1中の符号B3)。そして、取得したDNAサンプル33を、DNAチップ基板表面21の、細胞数取得に用いる領域22に滴下又は供給して、細胞数取得のための検出用核酸24とDNAサンプル中の標的核酸とのハイブリダイゼーションを測定し(図1中の符号B5)、細胞数を取得する(図1中の符号B6)。
【0044】
一方、RNAサンプル34は、公知の方法に従い、採取した試料32からRNAを抽出後、そのRNAと相補的な配列を持つcDNAを合成するなどして取得する(図1中の符号A3)。そして、取得したRNAサンプル34を、DNAチップ基板表面21の、遺伝子発現解析に用いる領域23に滴下又は供給して、遺伝子発現解析のための検出用核酸25とRNAサンプル中の標的核酸とのハイブリダイゼーションを測定し(図1中の符号A5)、遺伝子発現量を取得する(図1中の符号A6)。
【0045】
続いて、図4から図6を用いて、ゲノム中の反復配列の探索方法について、説明する。
【0046】
本発明に係る方法により細胞数を取得する場合に、Alu配列など既知の反復配列を検出用核酸として適用してもよいが、以下に示す方法によりゲノム中の反復配列を探索し、その探索の結果得られた配列を検出用核酸として適用してもよい。
【0047】
図4は、ゲノム中の反復配列探索の全フローの一例を示す図である。図4に示すフローは、全ゲノム情報を取得する段階(符号41)、全ゲノム情報を断片化処理する段階(符号42)、断片化されたゲノム情報を分類する段階(符号43)、分類されたゲノム情報から反復配列を探索する段階(符号44)からなる。そして、探索の結果得られた反復配列を、細胞数取得に用いる検出用核酸として選択し、DNAチップの基板表面に固定する(符号45)。なお、全ゲノム情報を取得する段階(符号41)について、全ゲノム情報は、例えば、GeneBankなど、公開されているデータベースから取得することができる。また、全ゲノム情報は、情報量が膨大であるため、染色体ごとに分割して取り扱ってもよい。
【0048】
図5は、全ゲノム情報を断片化処理する段階(図4中符号42)、及び、断片化されたゲノム情報を分類する段階(図4中符号43)を模式的に示した図である。
【0049】
まず、全ゲノム情報51(染色体ごとに分割したゲノム情報でもよい)について、一又は複数の制限酵素R、R・・・の認識配列をそれぞれ探索し、それぞれの制限酵素R、R・・・により切断される部分で断片化する。そして、断片化されたゲノム情報f、f・・・を取得する。
【0050】
次に、断片化されたゲノム情報f、f・・・について、断片化に係わる両端の制限酵素ごとに分類する。例えば、二つの制限酵素R、Rの認識配列で断片化した場合、ゲノム情報のN’末端側の断片化に係わる制限酵素(符号S)とC’末端側の断片化に係わる制限酵素(符号E)の組み合わせにより、ゲノム情報f、f・・・を3種類(符号52、53、54)に分類することができる。同様に、複数の制限酵素Rの認識配列で断片化した場合、ゲノム情報のN’末端側の断片化に係わる制限酵素(符号S)とC’末端側の断片化に係わる制限酵素(符号E)を、それぞれ図5の右側に示すように縦列と横列に並べて分類することができる。
【0051】
図6は、分類されたゲノム情報から反復配列を探索する段階(図4中符号44)を模式的に示した図である。
【0052】
ゲノム情報は、A、G、C、Tの四種類から構成されているため、図6に示す四分木61を用いて、重複する反復配列があるかどうかを探索することができる。
【0053】
例えば、図6の場合、まず、前記方法により分類されたゲノム断片化情報の中から、「A」を持つものを探索する(符号62)。次に、探索された「A」を持つゲノム情報の中から、次の配列に「A」を持つものを絞り込む(符号63)。そして、四分木61の上流から下流へ順次絞り込みを繰り返し(符号63、64)、該当するゲノム断片化情報(符号65、66)を見つけ出す。探索回数(符号67)は、検出用核酸に用いる反復配列の長さ分に設定する。そして、所定回数の絞り込み探索の後、多数のゲノム断片化情報が探索されたA、G、C、Tの組み合わせを、検出用核酸に用いる反復配列として選択する。
【0054】
続いて、本発明に係るシステムの一例について、図7を用いて説明する。
【0055】
図7に示す遺伝子発現量規格化システムは、試料中に含まれる、ゲノム中にほぼ一定の割合で存在する反復配列を測定することにより取得された、前記試料中の細胞数に係る数値、及び、同じ試料から得られた遺伝子発現量に係る数値を入力する入力手段71、遺伝子発現量の規格化に係わる関数を出力する出力手段72、前記入力手段で入力された細胞数に係る数値を前記関数で演算処理することにより、前記遺伝子発現量を規格化する遺伝子発現量規格化手段73、CPU78、RAM79、ROM80を備える。
【0056】
また、ゲノム情報を入力する入力手段71、反復配列の探索に係わる関数を出力する出力手段72、ゲノム情報の断片化を行う断片化ゲノム情報取得手段74、断片化されたゲノム情報を分類する断片化ゲノム情報分類手段75、分類されたゲノム情報の中から反復配列を探索する反復配列探索手段76、探索された反復配列の中から、細胞数取得に用いる反復配列を選択する反復配列選択手段77を備える構成にすることにより、ゲノム中の反復配列を探索できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、DNAチップなどを用いた遺伝子発現解析によって得られた遺伝子発現量などの測定値を、規格化、高精度化することができる。また、ハイブリダイゼーション測定値を規格化できるため、遺伝子発現解析ごとの測定値を、高精度に比較・検証することができる。
【0058】
本発明に係る方法、プログラム、及び、システムは、DNAチップなどを用いた測定装置に容易に組み込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】遺伝子発現量規格化の全フローの一例を示した図。
【図2】本発明で用いるDNAチップの一例を示した模式図。
【図3】同じ試料からDNAサンプルとRNAサンプルを取得する方法の一例を示す模式図。
【図4】ゲノム中の反復配列探索の全フローの一例を示す図。
【図5】全ゲノム情報を断片化処理する段階及び断片化されたゲノム情報を分類する段階を模式的に示した図。
【図6】分類されたゲノム情報から反復配列を探索する段階を模式的に示した図。
【図7】本発明に係るシステムの一例を示した図。
【図8】従来技術を説明するための図であって、定常的に発現している遺伝子の遺伝子発現量を規格化の指標とする方法を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれる、ゲノム中にほぼ一定の割合で存在する反復配列を測定することにより前記試料中の細胞数を取得し、
前記細胞数を、同じ試料から得られた遺伝子発現量を規格化するための指標とする遺伝子発現量規格化方法。
【請求項2】
同じ試料からDNAサンプルとRNAサンプルを取得し、
前記DNAサンプルを細胞数取得のためのサンプルとし、
前記RNAサンプルを遺伝子発現量取得のためのサンプルとすることを特徴とする請求項1記載の遺伝子発現量規格化方法。
【請求項3】
DNAチップの基板表面に固定された、細胞数取得のための検出用核酸と、前記DNAサンプルに含まれる標的核酸とのハイブリダイゼーション測定値を、
DNAチップの基板表面の別の領域に固定された、遺伝子発現解析のための検出用核酸と、前記RNAサンプルに含まれる標的核酸とのハイブリダイゼーション測定値を規格化するための指標とすることを特徴とする請求項2記載の遺伝子発現量規格化方法。
【請求項4】
前記反復配列は、断片化されたゲノム情報から反復配列を探索することにより得られた配列であることを特徴とする請求項1記載の遺伝子発現量規格化方法。
【請求項5】
前記反復配列は、Alu配列又はその一部分と同じ配列であることを特徴とする請求項1記載の遺伝子発現量規格化方法。
【請求項6】
試料中に含まれる、ゲノム中にほぼ一定の割合で存在する反復配列を測定することにより取得された、前記試料中の細胞数に係る数値を用いて、同じ試料から得られた遺伝子発現量に係る数値を規格化するステップに係わる遺伝子発現量規格化プログラム。
【請求項7】
取得したゲノム情報の断片化を行うステップと、
断片化されたゲノム情報を分類するステップと、
分類されたゲノム情報の中から反復配列を探索するステップと、
探索された反復配列の中から、細胞数取得に用いる反復配列を選択するステップと、
に係わるプログラムを含むことを特徴とする請求項6記載の遺伝子発現量規格化プログラム。
【請求項8】
試料中に含まれる、ゲノム中にほぼ一定の割合で存在する反復配列を測定することにより取得された、前記試料中の細胞数に係る数値、及び、同じ試料から得られた遺伝子発現量に係る数値を入力する入力手段と、
遺伝子発現量の規格化に係わる関数を出力する出力手段と、
前記入力手段で入力された細胞数に係る数値を前記関数で演算処理することにより、前記遺伝子発現量を規格化する遺伝子発現量規格化手段、を少なくとも備えた遺伝子発現量規格化システム。
【請求項9】
ゲノム情報を入力する入力手段と、
反復配列の探索に係わる関数を出力する出力手段と、
ゲノム情報の断片化を行う断片化ゲノム情報取得手段と、
断片化されたゲノム情報を分類する断片化ゲノム情報分類手段と、
分類されたゲノム情報の中から反復配列を探索する反復配列探索手段と、
探索された反復配列の中から、細胞数取得に用いる反復配列を選択する反復配列選択手段と、
を少なくとも備えることを特徴とする請求項8記載の遺伝子発現量規格化システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−170670(P2006−170670A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360417(P2004−360417)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】