説明

遺伝子解析方法

【課題】キャピラリー管内での再結合DNAによる標的DNAのピーク歪みを防止できる 遺伝子解析方法を提供する
【解決手段】標識剤を修飾させた標的DNAと前記標的DNAと相補なDNAとが2本鎖を形成して磁気ビーズに結合した磁気ビーズ複合体を形成させる第1のステップと、前記磁気ビーズ複合体を密閉流路内に注入する第2のステップと、前記密閉流路内にプローブDNAを高分子化合物に結合させたコンジュゲート体を充填させさせながら外部磁界により前記磁気ビーズ複合体を前記密閉流路内の特定部に捕捉する第3のステップと、前記捕捉された磁気ビーズ複合体から前記標的DNAを分離するための熱を与える第4のステップと、前記分離した標的DNAを前記密閉流路内で電気泳動させる第5のステップとからなる遺伝子解析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAにおける一部の塩基配列の違いを検出する遺伝子解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在SNP(single nucleotide polymorphism;一塩基多型と呼ばれる。)が注目されている。このSNPは、ヒトや動物に普遍に見られるが、同じ種でも個体によりSNPが異なる。すなわちSNPの違いを調べることにより、各個人の疾患に対する罹患率や薬剤に対する効果や感受性を予測し、個人に合わせた医療を行うことが出来る。さらには、ヒトや動物の親子関係の特定ができると考えられる。
【0003】
SNPを調べる方法として、アフィニティキャピラリー電気泳動法を利用した遺伝子診断装置と遺伝子診断方法がある。この方法は、まず、電荷を持たない高分子化合物と目的の1本鎖DNA(以下“標的DNA”と称する)に相補的な1本鎖DNA(以下“プローブDNA”と称する)とを結合させることで、キャピラリー管内で移動しない化合物(以下“コンジュゲート体”と称する)を作製する。
【0004】
このコンジュゲート体を電気浸透流が起きないようにコーティングされたキャピラリー管に充填した後、陰極側から標的DNAを注入して電圧を印加する。このとき標的DNAにSNPを有するDNAはコンジュゲート体との結合強度が強く、SNPを有さないDNAはコンジュゲート体との結合強度が弱い。この両者の親和性の違いから標的DNAに含まれるSNPの有無を判別する(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
前記手法においては、標的DNAが1本鎖状態である必要があるが、標的DNAを得るために用いるPCR反応よって得られるPCR産物は2本鎖DNAの状態であるため、測定の前処理において2本鎖DNAを1本鎖DNAにする必要がある。そのため、PCR産物に変性剤を混合し熱変性処理を行った後キャピラリー管に注入していた。
【0006】
しかし、キャピラリー管内では変性剤の濃度が薄まるため標的DNAと相補な1本鎖DNA(以下“相補DNA”と称する)が再び結合し、2本鎖に戻ったDNA(以下“再結合DNA”と称する)が生じる。この再結合DNAのピークは、検出すべき標的DNAのピークに隣接して生じるので、検出すべき標的DNAのピーク形状を歪ませてしまう。標的DNAの定量測定にはピーク面積を利用するが、この標的DNAのピーク歪みのために定量測定が出来ないという問題があった。そこで、キャピラリー管内において遅延用DNAコンジュゲート体を用いて相補DNAの電気泳動速度を遅延させることで、再結合DNAを抑制する方法が考案された(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−340857号公報
【非特許文献1】Detection of single−base mutation by affinity capillary electrophoresis using a DNA−polyacrylamide conjyugate:Kae Sato,Akira Inoue,Kazuo Hosokawa,Mizuo Maeda:Electrophoresis 2005,(26)3076−3080
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の構成では、遅延用DNAコンジュゲート体はキャピラリー管内のみにあるため、キャピラリー管に注入する前に熱変性されたPCR産物に再結合DNAが生じ、標的DNAと再結合DNAとが混在したままキャピラリー管に注入されてしまう。その結果、検出すべき標的DNAのピーク歪みが生じ、正確な定量測定が出来ないという課題を有していた。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、キャピラリー管内での再結合DNAによる標的DNAのピーク歪みを防止できる遺伝子解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の遺伝子解析方法は、標識剤を修飾させた標的DNAと前記標的DNAと相補なDNAとが2本鎖を形成して磁気ビーズに結合した磁気ビーズ複合体を形成させる第1のステップと、前記磁気ビーズ複合体を密閉流路内に注入する第2のステップと、前記密閉流路内にプローブDNAを高分子化合物に結合させたコンジュゲート体を充填させさせながら外部磁界により前記磁気ビーズ複合体を前記密閉流路内の特定部に捕捉する第3のステップと、前記捕捉された磁気ビーズ複合体から前記標的DNAを分離するための熱を与える第4のステップと、前記分離した標的DNAを前記密閉流路内で電気泳動させる第5のステップからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の遺伝子解析方法によれば、再結合DNAがキャピラリー管に注入することを完全に防止できるので、検出すべき標的DNAのピークを正しく測定することが出来、正確な標的DNAの定量測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の遺伝子解析装置と遺伝子解析方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0012】
(実施の形態1)
<磁気ビーズ複合体の作製>
図1を用いて、本発明の実施の形態1における磁気ビーズ複合体の詳細を説明する。本発明の実施の形態1で解析する標的DNAは、植物、動物、また人の細胞や血液等から入手したDNAを鋳型に、PCR反応を利用して目的の部分を増幅したものである。
【0013】
PCR増幅は図1(a)のように標的DNA111の一端の塩基配列を含むプライマー100(以後、“フォワード側プライマー”と称する。)には標識剤103(図1ではCy5)を、相補DNA112の一端の塩基配列を含むプライマー101(以後、“リバース側プライマー”と称する。)にはbiotin104を修飾させたものを用いる。こうしてPCR増幅して得た図1(b)に対し、アビジンが表面にコーティングされた磁気ビーズ105を結合させ、図1(c)に示す結合体110(以後、“磁気ビーズ複合体”と称する)を作製する。
【0014】
ここで、PCR産物に含まれる標的DNAは、目的の部分以外で同じ塩基配列が存在しない長さ以上で、1本鎖になったときに自己で高次構造を形成しない長さ以下である40塩基以上、200塩基以下が望ましい。
【0015】
また、標識剤は検出部で標的DNAを検出する際に標識となる物質であればよく、例えばCy5、FITC等の蛍光物質、ルテニウム等の発光物質が挙げられる。また、標識剤を用いず、吸光度で標的DNAを検出する手法を用いても良い。
【0016】
また、磁気ビーズと図1(b)との結合手法はアビジンービオチン結合に限らず、色々な化学結合の手法があり、例えばアミノ結合、エステル結合、カルボニル結合、イミノ結合などが挙げられる。
【0017】
<コンジュゲート体の作製>
次にコンジュゲート体の詳細について説明する。図2に示すようにコンジュゲート体110は電荷を持たない高分子化合物121と1本鎖DNA122(以下“プローブDNA”と称する)とが結合した構造をしている。ここで、プローブDNA122は標的DNAをプローブDNA122との結合力が強い結合型DNAと、プローブDNAとの結合力が弱い非結合型DNAに分離するよう設計される。このためプローブDNA122の配列は、標的DNA中のSNP部位を含む領域に相補な配列を有するように設計される。
【0018】
ここで、プローブDNA122の長さは5塩基以下の場合は、標的DNAとの結合能力が十分でなく、19塩基以上の場合は標的DNAとの結合力が強すぎて、結合型DNAと非結合型DNAの両方と特異的に結合してしまうため好ましくない。よって、プローブDNA122は6塩基以上18塩基以下の長さが好ましい。また、プローブDNA122の濃度は標的DNAの濃度に対して10〜600倍とするのが好ましい。これは10倍以下だと標的DNAがコンジュゲート体と十分に結合出来ず標的DNAのピークが現れない。また標的DNAのピークを得る上限は、実用上は600倍のプローブDNA122濃度で十分である。これを越える過剰なプローブDNA122を与えても、標的DNAが示すピークの識別精度の向上には寄与しない。
【0019】
また、プローブDNAと結合させる高分子化合物は標的DNAの電気泳動速度に対して十分遅い速度で電気泳動する物質で構成されるものであり、例えば一般的に使用されるリニアポリマーであるアクリルアミドやポリエチレングリコールが挙げられる。また、高分子化合物の代わりにガラスビーズや磁気ビーズなどを使用しても良い。
【0020】
<標的DNAの解析方法>
続いて、図3を用いて標的DNAの解析方法について説明する。
【0021】
(a)磁気ビーズ複合体の注入
図3(a)に密閉流路に磁気ビーズ複合体を注入する方法を示す。301は密閉流路で磁石304と高温部305とが中央部に配置されている。また、密閉流路301の一端は磁気ビーズ複合体306の入った容器307に挿入されており、他の一端は密閉された液溜め容器302に挿入されている。密閉された液溜め容器302には外部からの指示で作動するポンプ303が接続されている。ポンプ303によって密閉された液溜め容器302の空気を吸引することで、磁気ビーズ複合体306を吸引して図中矢印の方向へ密閉流路301内に磁気ビーズ複合体306を注入できる。本実施例では、ポンプによる吸引により磁気ビーズ複合体306を密閉流路301内に注入する方法を示すが、これに限定されるものでは無く、ポンプによる加圧、又は遠心力を用いた方法などを適宜用いればよい。
【0022】
(b)コンジュゲート体の充填
次に、図3(b)に密閉流路にコンジュゲート体を充填する方法を示す。磁気ビーズ複合体306の入った容器307をコンジュゲート体308の入った容器309に交換してコンジュゲート体308を密閉流路301内に充填する この時、密閉流路301内の磁気ビーズ複合体306はコンジュゲート体308の充填によって矢印の方向に移動して磁石304上の位置に到達し、磁石304の配置された密閉流路301の部位に捕捉される。なお、このときの密閉流路301内部のコンジュゲート体の流速は、磁石304が磁気ビーズ複合体に含まれる磁気ビーズを吸引して捕捉できる流速にすることが重要である。適切な流速は、磁気ビーズのサイズ、密閉流路301の直径、コンジュゲート体308の粘度、磁石304の吸引力、吸着力に関係があり、事前に実験などで適切な流速を定めておくと良い。以上のようにして、密閉流路301をコンジュゲート体で満たし、磁石304を用いて標的DNAを含む磁気ビーズ複合体を捕捉する。
【0023】
(c)標的DNAの検出
次に、密閉された液溜め容器302、容器309を緩衝液310の入った容器311、容器312に交換する。また、容器311、容器312には図3(c)のようにそれぞれ陽極側の電極313、陰極側の電極314が収容されていて、電源部315により電極313と電極314に電圧を印加すれば密閉流路301の両端に電圧を掛けることができる。
【0024】
ここで緩衝液310には、Tris−Borate(pH7.2〜pH8程度)緩衝液等を利用するのが適当である。また、緩衝液310には必要に応じてDNA結合制御剤が混入される。DNA結合制御剤としては、コンジュゲート体に対する標的DNAの結合を促進する塩化マグネシウム等の結合促進剤が挙げられる。結合促進剤としての他の電解質を選ぶことで、DNAに対する多様な泳動速度の制御が可能になるものである。
【0025】
この状態で、高温部305の温度を標的DNAが相補DNAから分離する温度まで上昇させ、標的DNAを磁気ビーズ複合体から分離させる。このときの様子を示したのが図4である。図4において(a)は高温部305の温度を標的DNAと相補DNAが分離する温度まで上昇させる前のイメージ図である。(a)において、標的DNA111は磁気ビーズ105に結合された相補DNA112と2本鎖を形成しており、磁石304に捕捉されている。
【0026】
そして、図4(b)は高温部305の温度を標的DNAと相補DNAが分離する温度まで上昇させた時のイメージ図である。図4(b)において、標的DNA111は相補DNA112から分離しているので、磁石304の拘束を受けない状態である。2本鎖を分離させる時の温度は94℃以上にすればどのような2本鎖DNAでも分離することができる。しかし、ここでは94℃より低い温度でも標的DNA111と相補DNA112の間で形成される2本鎖の融解温度以上であれば良い。高温部305はヒーターをサーミスタなどの温度測定素子でモニタリングしながら駆動させる構成が好ましいが、温度を標的DNA111と相補DNA112が分離する温度まで上昇させることが出来、尚且つ磁石304のキュリー点を越えない温度以内に設定することが出来る構成であれば別の構成に置き換えることも可能である。
【0027】
相補DNA112から分離した標的DNA111は、電源部315によって密閉流路301の両端に所定の電圧を印加すれば、標的DNA111は相補DNA112と分離して磁石304による拘束を受けなくなるため、分離部316の方向へ電気泳動される。
【0028】
分離部316は、相補DNA112から分離した標的DNA111を結合型DNAと非結合型DNAに分離する部分で、分離に最適な所定の温度に調整される。この時の温度はコンジュゲート体と標的DNA111の結合力の差に基づいて標的DNA111を結合型DNAと非結合型DNAとに分離できるように高温部305より低温且つ、15℃〜60℃の範囲で所定の温度プラスマイナス1℃以下に制御できるのが好ましい。また、分離部316は、ペルチェ素子をサーミスタなどの温度測定素子でモニタリングしながら駆動して温度制御する構成が好ましいが、15℃〜60℃の範囲をプラスマイナス1℃以下の精度で温度制御できる構成であれば別の構成に置き換えることも可能である。
【0029】
つづいて、標的DNA111の検出方法について説明する。標的DNA111の検出はフォワード側の5´末端に標識された蛍光色素Cy5に、検出部400内部のレーザー401(635nm)を照射して発せられる660nmの蛍光を、フォトダイオード402で検出することによって行われる。
【0030】
具体的に述べると、レーザー401から照射される光(635nm)は、DNAを標識する蛍光物質Cy5の吸収波長域であり、蛍光物質Cy5を励起できる励起パワーが必要である。ダイクロイックミラー403は、波長635nm付近の光を反射し、波長670nm付近の光を透過する特性を持ち、励起光はダイクロイックミラー403で反射される。さらに、励起光は、対物レンズ404により集光され、密閉流路301中を電気泳動する標的DNA111へ照射される。
【0031】
標的DNA111に修飾させた蛍光物質103は、励起光を照射され、蛍光を発する。蛍光は、対物レンズ404、ダイクロイックミラー403、集光レンズ405を通り、フォトダイオード402で受光され電気信号に変換される。電気信号はアンプ406によって増幅され、その後A/Dコンバータ407でディジタル変換して制御演算部317に取り込む。なお、制御演算部317は時計計測機能を有しており(図示なし)、泳動開始時間からの経過時間を測定することが出来る。
【0032】
ここで、相補DNA112は磁気ビーズ105の影響により電気泳動してもほとんど動かないので、標的DNA111が電気泳動途中に相補DNA112と再結合DNAを形成することがなくなり、検出部400では標的DNAのみを検出することが出来るため、高精度な定量分析が可能になる。
【0033】
以下、具体的な条件や材料を示して本発明の実施の形態をより詳細に説明するが、本発明はこれに記載したPCR産物や調整条件その他に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
<PCR産物の調整>
PCRの増幅はTaKaRa Ex Taq(TaKaRa社製)を用いて増幅した。鋳型はras Mutant Set(TaKaRa社製)を用いた。フォワード側のプライマーDNAは蛍光色素、ここではCy5で標識した、5´−(Cy5)−GACTGAATATAAACTTGTGG−3´(フォワードプライマー、配列表1)を、リバース側のプライマーは5´−(biotin)−ATCGTCAAGGCACTCTTGCC−3´(リバースプライマー、配列表2)を、それぞれ終濃度500nMになるよう加えた。反応サイクルは以下の通りである。95℃−10分、(95℃−30秒、55℃−30秒、72℃−30秒)30サイクル、72℃−5分。これにより、60bpのPCR産物を作製した。
【0035】
<PCR産物の精製>
前記PCR産物を Wizard SV Gel and Clean−UP Systemを用いて精製した。(収率30%、終濃度150nM)
<磁気ビーズ複合体の作製>
磁気ビーズは(Bangs Laboratories社製;CM01N/5896、平均粒径0.35μm)を用いた。この磁気ビーズはビーズ表面にストレプトアビジンがコーティングされている。また、PCR産物は前項で精製したPCR産物を10mMのPBS(pH7.4のリン酸ナトリウム緩衝液)に溶解させ、100nMに調製したものを用いた。
【0036】
まず、磁気ビーズを1mg採取し、TTLバッファー(終濃度:100mM Tris−HCl(pH8.0), 0.1% Tween20, 1M LiCl)で洗浄後、20μLのTTLバッファーに置換した。その後、(100nMの)PCR産物を5μL添加し、室温で15分穏やかに振とうした。溶液を除去し、残留した磁気ビーズを0.15MのNaOHで洗浄後、TTバッファー(250mM Tris−HCl(pH8.0), 0.1% Tween20)で洗浄した。洗浄後、TTEバッファー(250mM Tris−HCl(pH8.0), 0.1% Tween20, 20mM Na2EDTA(pH8.0))に溶液を置換し、磁気ビーズ複合体を得た。
【0037】
<緩衝液の調整>
Tris−Borate(pH7.4)終濃度50mMで使用した。
【0038】
<コンジュゲート体の作製>
第1の標的DNAに相補的な塩基配列を持つアミノ化DNA(プローブ)を1mMになるように水またはTE(pH7.4)を加えて調整した。アミノ化DNA(プローブ)の配列は5´−ACCAGC−3´(配列表3)である。分子量20,000のNHS−PEGにDMSOを445μl加え、20℃で3時間振とう後、分子量10,000を分画する透析膜を用いて、一晩透析した後、乾燥した。コンジュゲート体120は100μMになるよう緩衝液で溶かした。
【0039】
<遺伝子解析装置によるSNP測定>
密閉流路5はコーティングされた内径100μmのキャピラリー管(大塚電子製)を使用した。そして、ポンプ303によって磁気ビーズ複合体を密閉流路301内に1cm/秒の速度で2秒間注入し、続いてコンジュゲート体を同じくポンプ303によって1cm/秒の速度で密閉流路301内に充填した。その後、高温部305を95℃になるよう制御して1分間加熱した。
【0040】
その後、電源部315によって電極313、電極314間へ6kVの電圧を印加して密閉流路301内の標的DNAを30℃に温度制御した分離部316中で電気泳動させ、前記標的DNAを前記コンジュゲート体に対する親和性の差によって、結合型DNAと非結合型DNAに分離した。検出部10では検出フィルターでレーザー10aから照射される635nmの励起光をカットして標的DNAに標識しているCy5の660nmの蛍光をフォトダイオード10bで検出してアンプ10cで増幅し、A/Dコンバータ10dでアナログ信号をディジタル化して制御演算部11に取り込んだ。
【0041】
(比較例)
比較例として、従来の方法を用いて実施例1と同じ標的DNAの解析を行った。
【0042】
<PCR産物の調整>
PCRの増幅はTaKaRa Ex Taq(TaKaRa社製)を用いて増幅した。鋳型はras Mutant Set(TaKaRa社製)を用いた。フォワード側のプライマーDNAは蛍光色素、ここではCy5で標識した、5´−(Cy5)−GACTGAATATAAACTTGTGG−3´(フォワード側プライマー、配列表2)(配列表の番号は1から)を、リバース側のプライマーは5´−ATCGTCAAGGCACTCTTGCC−3´(リバース側プライマー、配列表3)を、それぞれ終濃度500nMになるよう加えた。反応サイクルは以下の通りである。95℃−10分、(95℃−30秒、55℃−30秒、72℃−30秒)30サイクル、72℃−5分。これにより、60bpのPCR産物を作製した。本発明の実施例1ではリバース側のプライマーにbiotinを修飾させているが、従来の方法ではbiotinを修飾させない。
【0043】
<PCR産物の変性>
比較例ではPCR産物を2本鎖から1本鎖にする変性処理を行った。具体的には、PCR産物2μlに、変性剤としてホルムアミドを40μlを加え、95℃で5分間熱した後、氷冷した。
【0044】
<緩衝液の調整>
本発明の実施例1と同じ緩衝液を使用した。
【0045】
<コンジュゲート体の作製>
本発明の実施例1と同じコンジュゲート体を使用した。
【0046】
<遺伝子解析装置によるSNP測定>
比較例においても本発明の実施例1と同様の遺伝子解析装置を用いるが、測定の工程が異なる。
【0047】
まず、ポンプ303によってコンジュゲート体を密閉流路301内に充填する。その後、PCR産物をポンプ303によって1cm/秒の速度で密閉流路301内に2秒間注入してから、電極313、電極314間へ6kVの電圧を印加して密閉流路301内の標的DNAを30℃に温度制御した分離部316中で電気泳動させ、前記標的DNAを前記コンジュゲート体に対する親和性の差によって、結合型DNAと非結合型DNAに分離した。検出部10では検出フィルターでレーザー10aから照射される635nmの励起光をカットして標的DNAに標識しているCy5の660nmの蛍光をフォトダイオード10bで検出してアンプ10cで増幅し、A/Dコンバータ10dでアナログ信号をディジタル化して制御演算部11に取り込んだ。
【0048】
(実施例1と比較例の比較)
図5に本発明の実施例1での検出波形を示し、図6に従来技術である比較例の検出波形を示す。図5に示すように、実施例1では、時間の早い方から順に非結合型DNAのピーク200と結合型DNAのピーク201とが検出された。しかい、図6の従来法(比較例)で見られる再結合DNAのピーク203は検出されていない。
【0049】
一方、図6に示すように、比較例での検出波形では、時間の早い方から順にプライマーのピーク202、非結合型DNAのピーク203、結合型DNAのピーク201が検出された。図5と図6とを比較すると明らかな様に、非結合型DNA200と結合型DNA201のピークの間に再結合DNA203によるピークが生じており、そのため、結合型DNA201の形に歪が生じている。この結果から明らかなように、本発明による磁気ビーズ複合体を電気泳動する前に捕捉し、この磁気ビーズ複合体に結合した相補DNAから標的DNAを分離することで、従来、遺伝子解析の際に課題となっていた電気泳動時に生じる再結合DNAの発生を除去することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明にかかる遺伝子解析方法は、電気泳動時に生じる再結合DNAの発生を除去することが出来るので、正確に生体物質の状態を解析する方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)本発明の実施の形態1における鋳型DNAとプライマーの構成図(b)本発明の実施の形態1におけるPCR産物の構成図(c)本発明の実施の形態1における磁気ビーズ複合体の構成図
【図2】本発明の実施の形態1におけるコンジュゲート体の構成図
【図3】(a)本発明の実施の形態1における磁気ビーズ複合体を充填する様子を示した図(b)本発明の実施の形態1におけるコンジュゲート体を充填する様子を示した図(c)本発明の実施の形態1における標的DNAの検出を行う装置の構成を示した図
【図4】(a)高温部によって温度を上昇させる前の標的DNAの様子を示した図(b)高温部によって温度を上昇させた後の標的DNAの様子を示した図
【図5】本発明の実施例1における検出波形を示す図
【図6】従来の構成である比較例における検出波形を示す図
【符号の説明】
【0052】
100 フォワード側プライマー
101 リバース側プライマー
102 鋳型DNA
103 標識剤
104 biotin
105 磁気ビーズ
110 磁気ビーズ複合体
111 標的DNA
112 相補DNA
120 コンジュゲート体
121 高分子化合物
122 プローブDNA
200 非結合型DNA
201 結合型DNA
202 プライマー
203 再結合DNA
301 密閉流路
302 密閉された液溜め容器
303 ポンプ
304 磁石
305 高温部
306 磁気ビーズ複合体
307 磁気ビーズ複合体を入れる容器
308 コンジュゲート体
309 コンジュゲート体を入れる容器
310 緩衝液
311 緩衝液を入れる容器
312 緩衝液を入れる容器
313 陽極側の電極
314 陰極側の電極
315 電源部
316 分離部
317 制御演算部
401 レーザー
402 フォトダイオード
403 ダイクロックミラー
404 対物レンズ
405 集光レンズ
406 アンプ
407 A/Dコンバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識剤を修飾させた標的DNAと前記標的DNAと相補なDNAとが2本鎖を形成して磁気ビーズに結合した磁気ビーズ複合体を形成させる第1のステップと、
前記磁気ビーズ複合体を密閉流路内に注入する第2のステップと、
前記密閉流路内にプローブDNAを高分子化合物に結合させたコンジュゲート体を充填させさせながら外部磁界により前記磁気ビーズ複合体を前記密閉流路内の特定部に捕捉する第3のステップと、
前記捕捉された磁気ビーズ複合体から前記標的DNAを分離するための熱を与える第4のステップと、
前記分離した標的DNAを前記密閉流路内で電気泳動させる第5のステップ
とからなる遺伝子解析方法。
【請求項2】
前記第1のステップにおける前記磁気ビーズ複合体は、前記相補なDNAの末端が前記磁気ビーズに結合していることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子解析方法。
【請求項3】
前記磁気ビーズのサイズは前記流路の内径よりも小さいことを特徴とした請求項1に記載の遺伝子解析方法。
【請求項4】
前記第4のステップにおける磁気ビーズ複合体に与える熱の温度は、前記2本鎖の融解温度以上であることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子解析方法。
【請求項5】
前記プローブDNAは、前記標的DNAのSNP部位を含む塩基配列と相補な塩基配列を持つことを特徴とする請求項1に記載の遺伝子解析方法。
【請求項6】
前記標識剤は、蛍光物質あるいは発光物質であることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−65880(P2009−65880A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236167(P2007−236167)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】