説明

遺伝子foxP3のTSDR領域のDNAメチル化分析による制御性T細胞のDNAメチル化分析

本発明は、FOXP3遺伝子中の少なくとも1つのCpG位置、特にその「上流」調節領域、特に遺伝子foxp3のプロモーター領域及びTSDR領域のメチル化状態を分析することを含み、分析された試料中の少なくとも1つのCpGの少なくとも90%の脱メチル化がFoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞の指標となる、哺乳動物のFoxP3陽性CD25+CD4+制御性T細胞を同定する方法、特にin vitro方法、並びに制御性T細胞の検出及び品質保証及び制御のための転写因子FoxP3の遺伝子の上記DNAメチル化分析の使用に関する。さらに、本発明は上記の方法を行うためのキット及びそれぞれの使用に関する。本発明は、採取直後でない血液又は血清試料といった品質が最適以下の試料からであっても正確な分析を可能にする、遺伝子foxp3中の少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態を分析する改善された方法をさらに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FOXP3遺伝子中の少なくとも1つのCpG位置、特にその「上流」調節領域、特に遺伝子foxp3のプロモーター領域及びTSDR領域のメチル化状態を分析することを含み、分析された試料中の少なくとも1つのCpGの少なくとも90%の脱メチル化がFoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞の指標となる、哺乳動物のFoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞を同定する方法、特にin vitro方法、並びに制御性T細胞の検出及び品質保証及び制御のための転写因子FoxP3の遺伝子の上記DNAメチル化分析の使用に関する。さらに、本発明は上記の方法を行うためのキット及びそれぞれの使用に関する。本発明は、採取直後でない血液又は血清試料といった品質が最適以下の試料からであっても正確な分析を可能にする、遺伝子foxp3中の少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態を分析する改善された方法をさらに提供する。
【背景技術】
【0002】
制御性T細胞(Treg(単数又は複数))は、一方で無害な自己抗原及び外来抗原に対する寛容を確立することと、他方で有害な抗原に対する拮抗作用をもたらすこととの橋渡し役としてのその役割から免疫学的研究の主要な焦点となっている。Tregレベルの増大が多くのヒト癌において確認されている。このことは、Tregレベルの調節不全が腫瘍細胞に対する過度の寛容につながるという理論を推進した。免疫反応を低下させるというTregの性質も、免疫系の調節を含む治療戦略に重要である。
【0003】
転写因子Foxp3は制御性T細胞において特異的に発現され、これらの細胞の発生及び機能のマスタースイッチとして機能すると考えられている。近年、通常の(conventional)T細胞におけるFoxp3の異所性発現が活性抑制をもたらすことが実証された(非特許文献1)。
【0004】
Foxp3制御性T細胞の大部分は、胸腺内でのT細胞発生過程で生成され、個別の系統を示すと考えられている。また、Foxp3制御性T細胞が、免疫寛容を生じる条件下での抗原認識時にin vitro及びin vivoの両方で通常のT細胞から生じることも報告されている。いかなる場合でも、Foxp3の発現は制御性T細胞の発生に特徴的なものである。
【0005】
どのシグナルがFoxp3の発現につながるかについてはほとんど不明ではあるが、TGF−βを含む幾つかの因子が通常のT細胞においてFoxp3発現を誘導することが報告されている。しかしながら、TGF−β誘導がTregへの完全な分化をもたらすか、又は抑制表現型の有無を問わず、単にFOXP3を一時的にしか発現しないT細胞をもたらすかについては不明である。したがって、本発明の出発点は、安定な抑制表現型を有するT細胞に明らかに関連する表現型を探求することであった。
【0006】
Tregレベルのモニタリングに対する障害の1つは、現行の最良の検出法であるFOXP3及びCD25のmRNA及び/又はタンパク質の分析では、Treg及び活性化T細胞の両方が検出されるため、これらの表現型を区別することが不可能であるということである。
【0007】
高等生物は、個体のほとんどの細胞がDNAコードの全く同じ相補体を含有するにもかかわらず、様々な組織型において異なるパターンの遺伝子発現を行い、維持する必要がある。大抵の遺伝子調節は細胞の現状に応じた一時的なものであり、外部刺激によって変化する。一方で、持続的な調節は、エピジェネティクス(DNAの基本的な遺伝コードを変更しない遺伝的な調節パターン)の基本的法則(role)である。DNAメチル化は後成的調節の典型的な形態であり、安定な細胞記憶として機能し、様々な細胞型の長期同一性を維持するうえで重要な役割を果たす。
【0008】
メチル化の主要な標的は、2ヌクレオチド配列であるシトシン−グアニン(「CpG部位」)であり、この状況でシトシン(C)は簡単な化学修飾を受けて5−メチル−シトシンとなる場合がある。ヒトゲノムにおいては、CG配列は或る特定の比較的密なクラスター(「CpGアイランド」と呼ばれる)以外については予想されるよりもはるかに稀である。CpGアイランドは遺伝子プロモーターと関連することが多く、ヒト遺伝子の半数以上がCpGアイランドを有すると推定されている(非特許文献2)。
【0009】
異常なDNAメチル化は、しばしば健常細胞から癌性細胞への形質転換を伴う。観察される影響には、ゲノム規模での低メチル化、腫瘍抑制遺伝子のメチル化の増大及び多くの癌遺伝子の低メチル化がある(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5に概説される)。メチル化プロファイルは腫瘍特異的である(すなわち、特定の遺伝子又はさらには個々のCpGのメチル化パターンの変化は、特定の腫瘍型の診断に用いられる)ことが認識されており、現在では、膀胱癌、乳癌、結腸癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、肺癌及び前立腺癌の大規模な診断マーカー群が存在する(非特許文献5に要約される)。
【0010】
Chen et al.(非特許文献6)は、制御性CD25(高)CD4 T細胞のマーカーとしてFoxP3タンパク質発現を記載している。
【0011】
特許文献1には、細胞、組織又は核から単離したDNAのメチル化パターンについての情報を収集すること、及び得られた情報を分析することを含む、細胞、組織又は核を同定する方法が記載されている。
【0012】
特許文献2は、T細胞の亜群を記載しており、それらを制御性T細胞として規定する特徴に関する。該出願には、かかるT細胞の使用、それらを含む組成物及び免疫応答調節の際にそれらを動員するケモカインも記載されている。
【0013】
最後に、特許文献3には、遺伝子foxp3、又はそのオーソロガス遺伝子若しくはパラロガス遺伝子中の少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態を分析することを含む、哺乳動物のFoxP3陽性制御性T細胞、好ましくはCD25CD4制御性T細胞を同定する方法、特にin vitro方法、並びに制御性T細胞の検出及び品質保証及び制御のための、転写因子FoxP3の遺伝子のDNAメチル化分析の使用が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許第1213360号
【特許文献2】国際公開第2004/050706号
【特許文献3】欧州特許第1826279号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Fontenot and Rudensky, Nat Immunol 6:331-337,2005
【非特許文献2】Antequera andBird, Proc Natl Acad Sci U S A.90:11995-9, 1993
【非特許文献3】Jones and Laird, Nature Genetics 21:163-167,1999
【非特許文献4】Esteller, Oncogene21:5427-5440, 2002
【非特許文献5】Laird, Nature Reviews/Cancer 3:253-266, 2003
【非特許文献6】Chen L, Cohen AC, Lewis DB. ImpairedAllogeneic Activation andT-helper 1 Differentiation of Human Cord Blood NaiveCD4 T Cells. Biol Blood Marrow Transplant. 2006Feb;12(2):160-71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記を鑑みると、哺乳動物から得られる、及び/又は哺乳動物における安定なFoxP3陽性制御性T細胞、好ましくはCD25CD4制御性T細胞を、より便利かつ確実に同定するための優れた手段(tool)として、DNAメチル化分析に基づく改善された方法を提供することが本発明の一目的である。さらに、確実な表現型の検出は、純度、保存性(storage)、また或る程度は組織の品質とは無関係に利用可能でなくてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、その第1の態様によると、哺乳動物のFoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞を同定する方法であって、foxp3遺伝子の1つ又は複数の調節領域、特に(かつ好ましくは)遺伝子foxp3のTSDR領域における少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態を分析することを含み、少なくとも1つのCpGの少なくとも90%の脱メチル化が、FoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞の指標となる、方法を提供することによって上記の目的を解決する。「少なくとも1つのCpGの少なくとも90%の脱メチル化」という用語は、細胞における1つの対立遺伝子中の(分析された)1つの個々のCpGの脱メチル化レベルが90%以上であることを意味するものとする。上記CpG位置は、遺伝子foxp3の調節領域、例えばCpGアイランド領域(複数可)、プロモーター領域若しくはTSDR領域(例えば配列番号1による)といった転写開始部位の上流の領域、又は(好ましくは少なくとも1つのCpGの少なくとも90%の)脱メチル化が、FoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞の指標となる、foxp3遺伝子座中に含有される任意の他の配列に位置し得る。
【0018】
本発明の別の好ましい実施の形態では、哺乳動物における、例えば特にヒト試料(血液の全血画分、新鮮組織若しくは凍結組織、パラフィン包埋組織及び/又は培養物等)、並びに他の体液、Tregを含有することが疑われる任意の所与の(固形)組織、器官又は細胞型におけるTregレベルをモニタリングする新規かつより特異的な方法をさらに提示する。
【0019】
本発明のアッセイは、Treg(TSDR、Treg特異的脱メチル化領域)中に見られるFOXP3プロモーターの特異的脱メチル化に基づく。本発明者らは、簡単かつ正確な定量PCR方法を用いて、FOXP3脱メチルが活性化FOXP3T細胞の同時測定(co-measurement)を回避するTreg数の代理マーカーとなることを示す。このアッセイの精度及び品質を様々な研究で示した。血液に関しては、該方法を精製血液細胞亜型、固形腫瘍及び健常固形組織においてIL2免疫療法設定下で検証した。本発明者らはこのようにして、安定な、潜在的にFOXP3陽性の、(大抵は)機能的に抑制性の制御性T細胞の存在に機能的に関与するか、又は無条件に(mandatorily)関連するFoxp3遺伝子内の特定の領域を同定した。好ましい一実施の形態では、特に好適な一領域は、プロモーター又は例えば配列番号1によるヌクレオチド配列を示すTSDRである。
【0020】
本発明者らは、Foxp3細胞において、上記のモチーフ中のCpGがほぼ完全に(すなわち70%超、好ましくは80%、好ましくは90%超、最も好ましくは95%超)脱メチル化されている一方で、Foxp3細胞においては同じモチーフが完全にメチル化されていることをさらに実証することができた。Treg表現型(実際の抑制表現型)とFoxP3脱メチル化との相関が最良ではある(脱メチル化がFoxP3の安定な長期の発現(したがって安定なTreg)を示す)が、上述の領域内のCpGモチーフの差次的(differential)メチル化は、Foxp3発現と相関し、抑制を一時的にしか、又は全くもたらさない一時的発現とは相関しないようである。したがって、foxp3遺伝子座のメチル化状態の決定は、制御性T細胞の安定な集団を同定するうえで有益な手段であり、例えば、所望される任意の想定され得る状況下での自己免疫疾患、移植片拒絶反応、癌、アレルギー又はTreg関連免疫状態の診断においてTregを測定するのに必要とされるか、又は少なくとも幾らか有用である。本発明によるアッセイは、精製又は任意の染色手順なしにTregを同定するための測定を可能にする。この測定は固形腫瘍又は他の固形組織においても奏功する。
【0021】
本発明は、FoxP3遺伝子の特定の領域、いわゆる「TSDR」(Treg特異的脱メチル化領域)において、CpGモチーフがほぼ完全に(すなわち90%超、好ましくは91%、好ましくは92%超、最も好ましくは95%超)脱メチル化されている一方で、全ての非Treg(Foxp3細胞)においては同じモチーフが完全にメチル化されているという驚くべき発見を基にしている。したがって、この領域は、本発明による診断分析に対して有益かつ確実な手段を与えるものである。驚くべきことに、メチル化は必ずしも遺伝子発現と1対1で関連するものではなく、むしろ実際の細胞型機能、すなわち抑制表現型と関連している。
【0022】
本発明者らは以前に、ヒト及びマウスの両方で、天然のTregにおけるFoxP3の構成的発現が常に後成的調節、すなわちDNAメチル化に基づく調節と同時に起こることを示した。DNAメチル化は生物学的かつ化学的に安定な後成的修飾であり、長期の遺伝子発現変化をもたらす。ヒトのFOXP3遺伝子座での脱メチル化は、全ての主要な末梢血細胞型について試験し、非血液細胞を選択したところ、Tregに限定されることが分かった。Tregに対する高い特異性の他にも、FoxP3脱メチル化が天然のTregにおいてのみ起こり、FoxP3を一時的に発現する活性化されたT細胞においては起こらないことが観察された。これは、Tregのin vitro増加の際の安定なFOXP3発現とさらに関連していた。これらのデータによって、FoxP3遺伝子座における後成的修飾が、活性化T細胞ではなく、安定なTreg表現型を有する細胞の同定に対する有益なマーカーとなることが示された。
【0023】
本発明による方法の好ましい実施の形態では、上記メチル化状態の分析は、配列番号(SEQ ID No. SEQ
ID No.)2〜配列番号17、特に配列番号4及び配列番号5から選択されるプライマー対の少なくとも1つのプライマーを用いた増幅を含む。
【0024】
好ましくは、例えばMSP、HeavyMethyl、Scorpion、MS−SNUPE、MethyLight、シークエンシング、メチル特異的制限アッセイ等、及びそれらの組み合わせ、例えばプローブに基づく検出と併用したMSP(プローブはメチル化特異的であっても(Methylight)、又はメチル化非特異的であってもよい)等の状況における増幅には、ポリメラーゼ酵素、PCR増幅反応若しくは化学的増幅反応、又は下記に記載されるような当業者に既知の他の増幅方法が含まれる。増幅によって、本発明による方法(複数可)を行うための特に好ましい「手段」である、FoxP3遺伝子又は本明細書中に記載されるような任意のパラログ若しくはオーソログ中のTSDR又は任意の他の領域の単位複製配列が生成される。結果として、配列番号2〜配列番号11のいずれかによるオリゴマー、又は配列番号4及び配列番号5から選択されるプライマー対によって増幅される単位複製配列は、配列番号18及び配列番号19又はFOXP3遺伝子座中の他の好適な配列に従うプローブと共に、本発明の好ましい実施の形態を構成する。
【0025】
当業者であれば、分析すべき部位、例えば配列番号1又はFoxP3遺伝子座中の他の好適な配列(プロモーター配列等)上に存在する全ての部位の量を最小限にするために、CpG位置の特異的サブセットをさらに選択することが可能である。
【0026】
CpG位置(単数又は複数)のメチル化状態を分析するために、DNAメチル化を分析する任意の既知の方法を用いることができる。本発明による方法の好ましい実施の形態では、メチル化状態の分析は、メチル化特異的酵素消化、バイサルファイトシークエンシングから選択される方法、プロモーターメチル化、CpGアイランドメチル化、MSP、HeavyMethyl、MethyLight、Ms−SNuPEから選択される分析、又は増幅DNAの検出に基づく他の方法を含む。これらの方法は当業者に既知であり、それぞれの文献中に見ることができる。
【0027】
本発明による方法は、foxp3遺伝子又はそのオーソログ若しくはパラログを有する任意の哺乳動物を用いて行うことができる。本発明による方法において、上記哺乳動物がマウス、ラット、齧歯類、イヌ、ネコ、ブタ、サル又はヒトであるのが好ましい。
【0028】
本発明の別の態様では、本発明による方法はTGF−β、他のサイトカイン又はサイトカイン様タンパク質、機能的サイトカイン等価物等による誘導をさらに含む。治療アプローチにおける制御性T細胞及び他の白血球の適用に関する重要な問題は、多数の細胞の利用可能性、又はサイトカイン投与(cytokine challenge)によってin vitro又はin vivoで誘導され得る様々な種類の白血球細胞型の生成である。近年の刊行物では、通常のCD25CD4T細胞がTGF−βの存在下での刺激によってFoxp3制御性T細胞に変換され得ることが報告されている(Chen W, Jin W, Hardegen N, Lei KJ, Li L, Marinos N, McGrady G, Wahl
SM.Conversion of peripheral CD4+CD25- naive
T cells to CD4+CD25+regulatory T cells by TGF-beta
induction of transcription factor Foxp3. J Exp Med. 2003 Dec
15;198(12):1875-86.)、(Park HB, Paik DJ, Jang E, Hong S,
Youn J.Acquisition of anergic and suppressive activities intransforming growth
factor-beta-costimulated CD4+CD25-T cells. Int Immunol.
2004Aug;16(8):1203-13. Epub 2004 Jul 5)、(Fu S, Zhang N,
Yopp AC, Chen D, Mao M,Chen D, Zhang H, Ding Y, Bromberg JS. TGF-beta induces
Foxp3 + T-regulatorycells from CD4 + CD25 - precursors. Am J
Transplant. 2004 Oct;4(10):1614-27.)、(Fantini
MC, BeckerC, Monteleone G, Pallone F, Galle PR, Neurath MF. Cutting edge:
TGF-beta induces a regulatoryphenotype in CD4+CD25- T cells through Foxp3
induction and down-regulation ofSmad7. J Immunol. 2004
May 1;172(9):5149-53.)、(Wan YY, Flavell RA. IdentifyingFoxp3-expressing suppressor T cells with a
bicistronicreporter. Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Apr5;102(14):5126-31. Epub 2005 Mar 28.)、(Fantini MC, BeckerC, Tubbe I, Nikolaev A,Lehr HA, Galle PR, Neurath
MF. TGF-(beta) inducedFoxp3+ regulatory T cells suppress Th1-mediated
experimental colitis. Gut. 2005Sep 14)。しかしながら、これらの細胞の安定性及びin vivo効力はこれまで十分に試験されていない。Foxp3遺伝子座の接近容易性の分析は、どの程度まで制御性T細胞系統への永続的な変換が起こったかを決定するか、又はin vivo状態/活性を決定するうえで、Treg又は他の機能的に等価な細胞の存在について、単なるFoxp3の発現よりも良好なマーカーである。したがって、本発明者らは、TGF−β又は他のサイトカイン若しくはサイトカイン様タンパク質、機能的サイトカイン等価物等の存在下で5日間活性化及び培養したCD25CD4T細胞に由来するFoxp3遺伝子座のメチル化状態を分析した。5日目に、Th1条件下で培養した対照細胞は、軽度のFoxp3発現(2%未満)を示したが、一方でTGF−βの存在下で刺激した細胞のほぼ95%が部分的に脱メチル化したFoxp3であった(図2A)。興味深いことに、部分的な脱メチル化はTGF−βの存在下で刺激した細胞においてのみ観察された。
【0029】
本発明の別の態様では、本発明は、哺乳動物の免疫状態を診断する方法であって、a)診断を受ける上記哺乳動物に由来するT細胞を含有する試料を得る工程、b)上記T細胞における遺伝子foxp3、又は本発明によるそのオーソロガス遺伝子若しくはパラロガス遺伝子中の少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態を分析する工程、c)上記試料中に存在する制御性T細胞の量を上記メチル化状態に基づいて同定する工程、及びd)上記哺乳動物の免疫状態を同定された上記量に基づいて決定する工程を含む、方法を提供する。この特定の方法の一態様では、(例えば全血、任意の他の完全な組織、予め選別した又は選別した任意の組織の亜画分(例えばバフィーコート等の血液)、制御性T細胞及び非制御性細胞の2つの細胞型のうち少なくとも一方を含有する器官又は細胞の)試料中の細胞の全集団を、そのfoxp3遺伝子におけるメチル化状態について分析する。部位の全体的なメチル化頻度に基づいて、分析した集団内での制御性T細胞の比率及び/又は量を決定することができる。上記結果から、診断を受ける哺乳動物の免疫状態及び/又はT細胞状態について結論付けることができる。該方法はin vitro及び/又はin vivoで行うことができる。概して、好適なT細胞を含有する限り、全ての生物学的試料を使用することができる。該方法において、上記試料が血液試料、バフィーコート試料、血中リンパ球若しくはその画分の試料、又は生検試料、又は体液であるのが好ましい。
【0030】
本発明による方法は、foxp3遺伝子又はそのオーソログ若しくはパラログを有する任意の哺乳動物を用いて行うことができる。本発明による方法において、上記哺乳動物がマウス、ラット、サル又はヒトであるのが好ましい。該方法において、上記哺乳動物が自己免疫疾患、同種移植レシピエントにおける副作用、腫瘍性疾患、卵巣癌、慢性移植片対宿主病、アレルギー性ぜんそく、ハンセン病及び多発性硬化症から選択される疾患を患う患者であるのが好ましい。
【0031】
さらに好ましくは、該方法において、制御性T細胞の量が分析されたCpG位置の少なくとも90%、好ましくは91%、より好ましくは92%の脱メチル化に相当する。
【0032】
上記制御性T細胞の量又は比率を、好ましくは制御性T細胞におけるfoxp3発現を調節する化学的及び/又は生物学的物質に応じて測定及び/又はモニタリングすることをさらに含む方法がさらにより好ましい。すなわち、例えば、(例えば本明細書中に記載されるような)疾患の治療、並びに制御性T細胞に対する影響についての上記治療の成功及び/又は進行によって引き起こされる制御性T細胞の量又は比率における変化を、この方法を用いて追跡することができる。測定される試料におけるFoxP3マーカーのメチル化パターンの追跡調査は、場合によっては表現型の変化が観察され得る前であっても、上記化学的及び/又は生物学的物質に対する応答による細胞における変化を示す。
【0033】
本発明のさらに別の態様では、本発明は、Tregを所望の成分又は推定汚染物質(すなわち医学上の意図に反する)として含有し得る、in vitroで生成又は増加させた制御性T細胞又は他の細胞移植片の患者への移植に対する適合性を決定する方法であって、本発明による方法、及び分析されたCpG位置が少なくとも90%、好ましくは91%、より好ましくは92%脱メチル化されているか否かを検出することを含む、方法を提供する。該方法はin vitro及び/又はin vivoで行うことができる。例えば、foxp3 CpGメチル化の変化、特に低下を示すように思われるT細胞は、通常は安定であるとは見なされず、さらに使用されることはない。
【0034】
本発明のさらに別の態様では、本発明は、T細胞におけるfoxp3メチル化を調節する化学的及び/又は生物学的物質を同定する方法であって、上記化学的及び/又は生物学的物質の1つ又は複数をT細胞と接触させること、上記のような本発明による方法を行うこと、並びに上記化学的及び/又は生物学的物質が分析されたCpG位置のメチル化を調節するか否かを検出することを含む、方法を提供する。該方法はin vitro及び/又はin vivoで行うことができる。この態様では、本発明は、抑制T細胞型の長期表現型(本明細書中で「Tregエピジェノタイプ」とも称される)の指標となるfoxp3脱メチル化を調節する化学的及び/又は生物学的物質の同定を図る方法(「スクリーニング方法」と呼ばれる場合もある)を包含する。同定されたこれらの物質を、制御性T細胞に特異的な薬物及びそれぞれの医薬組成物の開発の出発点として使用することができる。
【0035】
本発明のアッセイは、マーカーFoxP3の遺伝子発現を(直接的に)検出するのではなく、FoxP3の遺伝子の短期若しくは長期の、又は安定した(stabilizing)活性化の一般的特徴をメチル化分析によって検出することによってTregを検出する代替方法に基づく。これは、「アナログ」方式の変化(「なし」から「少し」、「もう少し」、「たくさん」...)を示し、また、Tregへの決定的なコミットメントの「前」であっても、それがなくとも或る程度(extend)まで現れる発現の測定とは対照的である。
【0036】
本方法は、foxp3遺伝子が制御性T細胞の発生に中心的な役割を果たすことが広く認められているという事実にさらに基づく。したがって、Foxp3発現を調節する因子も、自己免疫疾患又は同種移植レシピエントを治療するうえで興味深い手段である。
【0037】
Foxp3制御性T細胞は強い抗腫瘍応答を予防することが示されており、したがって、Tregの産生/活性を阻害する因子も腫瘍患者の治療にとって興味深い。かかる因子(Foxp3メチル化の安定な修飾、したがって安定なTregをもたらす)は、本発明において記載される方法を用いて検出することができる。
【0038】
さらに、制御性T細胞の分化を増進し、自己免疫障害及びアレルギー性障害の緩和をもたらす因子は、本方法を用いて同定することができる。スクリーニング化合物として好適な化学的及び/又は生物学的物質は当業者に既知であり、例えば小分子、ペプチド及びタンパク質、並びに抗体又はその断片を含む。さらに、スクリーニングは市販の(commercially)化合物ライブラリを、最適にはロボット等の好適な自動装置と共に用いて行うことができる。化学的及び/又は生物学的物質を同定する方法の好ましい一実施の形態では、上記物質は分析されたCpG位置の少なくとも90%、好ましくは91%、より好ましくは92%の脱メチル化をもたらす。
【0039】
FoxP3の発現は、卵巣癌における予後不良と関連することが記載されている(Wolf, D., et al. The expression of the regulatory T cell-specific
forkhead box transcription factor FoxP3 is associated withpoor prognosis in
ovarian cancer. Clin. Cancer Res.11 (23), 8326-8331
(2005))。FoxP3の高い発現レベルは卵巣癌と関連する。さらに、制御性T細胞転写因子FOXP3の遺伝子発現は慢性移植片対宿主病患者において減少した(Zorn, E., et al. Reduced
frequency of FOXP3+ CD4+CD25+ regulatory Tcells in patients with chronic graft-versus-host
disease. Blood 106 (8),2903-2911 (2005))。また、アレルギー性ぜんそくにおけるFoxP3の役割が記載されている(Schmidt-Weber, CB. and Blaser, K. The roleof the FOXP3 transcription factor in the immune regulation
of allergic asthma. Curr Allergy Asthma Rep 5 (5), 356-361 (2005))。
【0040】
したがって、本発明による別の好ましい方法は、異常な(又は望ましくない)数のTregと関連する疾患を診断する方法であって、本発明による方法、及び分析されたCpG位置が少なくとも90%、好ましくは91%、より好ましくは92%脱メチル化されているか否かを検出することを含み、疾患が自己免疫疾患、同種移植レシピエントにおける副作用、腫瘍性疾患、卵巣癌、慢性移植片対宿主病、アレルギー性ぜんそくから選択される、方法である。本方法はin vitro及び/又はin vivoで行うことができ、特にヒトの系におけるFoxP3の一時的発現が活性化された非制御性T細胞においても検出されているため(Ziegler SF. FOXP3: Of Mice and Men. AnnuRev Immunol. 2005 Dec 1)、パラメータFoxP3のより具体的な測定を可能にする。
【0041】
本発明の別の好ましい態様は、制御性T細胞を遺伝子foxp3中のCpG位置のメチル化状態の分析に基づいて同定するキットであって、本発明による方法を行うための材料を含む、キットに関する。本発明による好ましい一実施の形態では、該キットは、a)バイサルファイト試薬、及びb)FoxP3遺伝子のTSDR又は他の好適な領域(プロモーター領域等)中のCpG位置のメチル化分析のための材料を含む。当業者であれば、分析すべき部位、例えば配列番号1による単位複製配列上に存在する全ての部位(又は遺伝子中の他の好適なCpG含有領域)の量を最小限にするために、CpG位置の特異的サブセット用の材料をさらに選択することが可能である。該キットは診断用キットであってもよい。
【0042】
本発明によるキットは、1.細胞試料を処理するための化学物質(バイサルファイト等);2.手順書;3.オリゴヌクレオチドプローブ、単位複製配列、バイサルファイト処理バージョン若しくは非バイサルファイト処理バージョンの鋳型DNA、遮断剤及び/又は伸長プライマー、並びに酵素、特定の細胞型に関連するマーカーを検出する、本発明による器具(カラム、管等を含む)(オリゴヌクレオチドは、標準PCR、リアルタイムPCR(RT−PCR)又は一塩基伸長法(SBE)、シークエンシングといった一般に利用可能な検出プラットフォーム上でシグナルを発生するように構成され得る。各々のシグナルは、試料中の特定の標的部位でのメチル化レベルを示す。代替案として、記載の核酸に従うプローブをチップ上で使用するために作製する場合もある);4.結果を処理するためのバイオインフォマティクス手段(これ(例えばソフトウェア)は、生データからシグナルを正規化する、読出し値を解釈するための結果の行列を含有する、又は例えば細胞型の割合を算出するか、若しくは効力を予測する様々なアルゴリズムを実行するものであり得る)も含有し得る。
【0043】
本発明のさらに別の好ましい態様は、上で記載したものと同様のFoxP3陽性制御性T細胞、好ましくはCD25CD4制御性T細胞を検出及び/又は同定するための本発明によるオリゴマー、プローブ若しくは単位複製配列若しくは鋳型DNA、又は本発明によるキットに関する。
【0044】
本発明のさらに別の好ましい態様は、Foxp3発現に関連する疾患、例えば自己免疫疾患、同種移植レシピエントにおける副作用、腫瘍性疾患、卵巣癌、慢性移植片対宿主病、アレルギー性ぜんそく、多発性硬化症等を治療する方法に関する。該方法は、有効量の安定なFoxP3陽性制御性T細胞、好ましくはCD25CD4制御性T細胞をそれを必要とする上記患者に投与することを含む。有効量の安定なFoxP3陽性制御性T細胞、好ましくは安定なCD25CD4制御性T細胞を投与する方法は、文献(例えば、Bharat A, Fields RC, Mohanakumar T.Regulatory T cell-mediated
transplantation tolerance. ImmunolRes.
2006;33(3):195-212、June CH, Blazar BR. Clinical
applicationof expanded CD4(+)25(+) cells. Semin
Immunol. 2006 Jan 31、Khazaie K, von BoehmerH. The
impact of CD4(+)CD25(+) Treg on tumor specificCD8(+) T
cell cytotoxicity and cancer. Semin CancerBiol. 2006 Apr;16(2):124-136. Epub
2006 Jan 26.、及びそれらに引用される参考文献)に記載されており、当業者であれば本発明の状況下でこれらの方法を適用することが可能である。「治療」という用語は上記Foxp3発現関連疾患の予防も含む。
【0045】
本発明のさらに別の好ましい態様は、疾患を治療する方法であって、上記の本発明による方法、及び上記方法で上記患者におけるTreg数の低下が検出された場合にTregを投与すること、又は上記方法で上記患者におけるTreg数の上昇が検出された場合にTreg数を低下させる薬物を投与することを含む。治療される疾患の好ましい例は、自己免疫疾患(上記患者においてTreg数の低下が検出される)、及び腫瘍性疾患(上記患者において正常よりも高いTreg数が検出される)である。好ましくは、本発明による方法は、Treg数を低下させる薬剤を、例えば直接薬(低用量シクロホスファミド(cyclophosohamide)、サリドマイド(thalodomide)、Ontak等)として、又は例えばペプチドワクチン(peptide based vaccine)、ヒト化抗体若しくはマウス抗体、及び/又は抗イディオタイプモノクローナル抗体等による改善された癌ワクチン接種戦略のための誘導物質として投与するためのいわゆる「コンパニオン診断」として使用することができる。
【0046】
本発明のさらに別の好ましい態様は、癌の転帰を予後判定及び/又は予測する方法であって、本発明による方法、及び上記癌の転帰を検出されたTreg数に基づいて予後判定及び/又は予測することを含み、分析された試料中の腫瘍浸潤Tregの数の増大が、上記癌の転帰の予後を規定する(prognostic)及び/又は予測に役立つ(predictive)、方法に関する。好ましくは、上記試料は腫瘍組織であり、上記疾患は卵巣癌である。
【0047】
本発明のさらに別の好ましい態様は、細胞集団がFoxP3遺伝子を安定に発現するか否かを予測するために、TSDR領域又はfoxp3遺伝子座内の任意の他の好適な領域のメチル化状態を分析する方法に関する。したがって、この方法は、自己免疫疾患を患っているか、又は同種移植を受けた患者への養子移入の前に、in vitroで生成及び/又は増加させた制御性T細胞の品質管理として使用することができる。CpGモチーフが或る程度(例えば90%超、好ましくは95%超、より好ましくは98%超)脱メチル化されている場合に限り、これらの細胞がFoxp3遺伝子を安定に発現し、一定期間が経ってもfoxp3発現を失う(loose)ことがないと確信することができる。後者のシナリオは、養子移入細胞がFoxp3制御性T細胞からエフェクター細胞へと変換される場合があり、これが病状の悪化につながる恐れがあるため禁忌である。したがって、かかる状況においては、養子移入細胞の制御性表現型の安定性に関する品質管理は絶対に必須なものであり、Foxp3遺伝子座の上述の領域(複数可)のメチル化状態を分析することによって容易に達成することができる。
【0048】
本発明の別の態様では、本発明は、哺乳動物における皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)を診断する方法であって、本発明による方法を行う工程、及びCD25++細胞の量をFoxP3遺伝子のメチル化状態に基づいて検出する工程を含む、方法を提供する。本発明のさらに別の好ましい態様は、CTCLを治療する方法であって、a)哺乳動物をCTCLに対する好適な薬剤(ONTAK等)で処理すること、b)上記の本発明による方法を行うこと、並びに上記CTCLの治療における上記薬剤の効力を、FoxP3遺伝子のメチル化状態に基づいて同定されたCD25++細胞の量に基づいて予後判定及び/又は予測することを含む、方法に関する。上記方法の一実施の形態では、担当医は、少なくとも部分的に上記本発明の方法を用いて得られた結果に基づいて、さらなるCTCLの治療(例えば、ONTAKのさらなる使用又は中止)を決めることができる。
【0049】
本発明のさらに別の好ましい態様は、悪性黒色腫を治療する方法であって、歩哨リンパ節から得られる試料中のTregの量、存在及び/又は数を、本発明によるFoxP3遺伝子のメチル化状態に基づいて検出すること、及び同定されたTregの量、存在及び/又は数に基づいて上記悪性黒色腫の治療を継続/中止することを含み、Tregの量、存在及び/又は数の変化が再発の高い可能性の指標となる、方法に関する。
【0050】
手短に述べると、本発明は、哺乳動物のFoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞を同定する方法であって、TSDR領域等の該foxp3遺伝子の1つ又は複数の調節領域における少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態を分析することを含み、上記少なくとも1つのCpGの少なくとも90%の脱メチル化が、FoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞の指標となる、方法に関する。好ましくは、上記CpG位置は、遺伝子foxp3のCpGアイランド、プロモーター領域及び/又はTSDR領域等の上流領域から選択される調節領域に位置する。
【0051】
さらに好ましくは、本発明による方法において、1つの細胞における1つの対立遺伝子中の少なくとも1つのCpGの脱メチル化が少なくとも91%、好ましくは少なくとも92%以上であることが、FoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞の指標となる。
【0052】
好ましくは、上記制御性T細胞は安定な制御性T細胞である。
【0053】
本発明による方法は、全血、パラフィン包埋組織、血液、組織、固形組織の画分、細胞又は組織の培養物、体液、器官、及びTregを含有することが疑われる他の試料の群から選択される試料中で有利に行うことができる。上記メチル化状態の分析は、メチル化特異的酵素消化、プロモーターメチル化、CpGアイランドメチル化、バイサルファイトシークエンシング、MSP、HeavyMethyl、MethyLight、Ms−SNuPE、PCR及び/又はリアルタイムPCRを含む方法を含み得る。
【0054】
好ましくは、上記メチル化状態の分析は、配列番号4及び配列番号5並びに配列番号6及び配列番号7から選択されるプライマー対の少なくとも1つのプライマーを用いた増幅を含む。好ましくは、上記メチル化状態の分析は、配列番号17及び配列番号18によるプローブのいずれかによって分析される少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態の分析を含む。
【0055】
さらに好ましくは、本発明による方法において、上記哺乳動物がマウス、ラット、齧歯類、イヌ、ネコ、ブタ、サル又はヒトである。本発明による方法が、TGF−β又は他のサイトカイン様因子を用いた誘導をさらに含むのがさらに好ましい。
【0056】
本発明による方法が、a)パラフィン包埋試料等の哺乳動物起源の保存組織試料を準備する工程、b)上記試料のfoxp3遺伝子中の少なくとも1つのCpG位置におけるメチル化状態を分析する工程、及びc)上記試料中に存在する制御性T細胞の量を上記メチル化状態に基づいて同定する工程を含むのが特に好ましい。保存組織試料とは、分析される哺乳動物起源から新たに採取したのではない試料を意味し、上記試料は、全血、パラフィン包埋組織、血液、組織、固形組織の画分、細胞又は組織の培養物、体液、器官、及びTregを含有することが疑われる他の試料の群から選択され得る。パラフィン包埋組織、血液、組織、固形組織の画分、細胞又は組織の培養物の試料が好ましい。好ましくは、上記方法は、上記組織のTreg浸潤及びFoxP3発現の状態に関して組織状態を決定することをさらに含む。
【0057】
本発明の別の態様は次に、哺乳動物の免疫状態を診断する方法であって、a)診断を受ける上記哺乳動物に由来するT細胞を含有する試料を準備する工程、b)foxp3遺伝子中の少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態を分析する工程、c)上記試料中に存在する制御性T細胞の量を上記メチル化状態に基づいて同定する工程、及びd)上記哺乳動物の免疫状態を同定された上記量に基づいて決定する工程を含む、方法に関する。好ましくは、上述と同様に、上記CpG位置は遺伝子foxp3のCpGアイランド、プロモーター領域又はTSDR領域等の上流領域に位置する。好ましくは、1つの細胞における1つの対立遺伝子中の少なくとも1つのCpGの脱メチル化が少なくとも91%、好ましくは少なくとも92%以上であることが、FoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞の指標となる。さらに好ましくは、上記メチル化状態の分析を、全血、パラフィン包埋組織、血液、組織、固形組織の画分、細胞又は組織の培養物、体液、器官、及びTregを含有することが疑われる他の試料の群から選択される試料中で行う。上記方法を腫瘍性疾患の予防的検出として個体において行うのがさらに好ましい。
【0058】
好ましくは、上記哺乳動物は自己免疫疾患、同種移植レシピエントにおける副作用、卵巣癌等の腫瘍性疾患、慢性移植片対宿主病、アレルギー性ぜんそく及び多発性硬化症から選択される疾患を患う患者である。
【0059】
本発明の別の(Anther)態様は、前記制御性T細胞の量を、該制御性T細胞におけるFoxP3発現を調節する、Tregの量を変更する、又はTreg増加、Tregレベル、Treg移動挙動若しくはTreg生存を調節することが疑われる化学的及び/又は生物学的物質に応じて測定及び/又はモニタリングすることをさらに含む、本発明による方法に関する。
【0060】
本発明の別の態様は次に、患者への移植に対する、in vitroで生成又は増加された制御性T細胞の適合性及び/又は量を決定するin vitro方法であって、本発明による方法、及び分析されたCpG位置が少なくとも90%、好ましくは91%、より好ましくは92%脱メチル化されているか否かを検出することを含む、方法に関する。
【0061】
本発明の別の態様は次に、T細胞、幹細胞若しくは前駆細胞におけるfoxp3発現、又はTregの増殖、分化、生存及び細胞死を調節する化学的及び/又は生物学的物質、及び/又は培養条件を同定するin vitro方法であって、上記化学的及び/又は生物学的物質の1つ又は複数をT細胞と接触させること、本発明による方法を行うこと、並びに上記化学的及び/又は生物学的物質又は条件が分析されたCpG位置のメチル化を調節するか否かを検出することを含む、方法に関する。好ましくは、本発明による化学的及び/又は生物学的物質を同定する方法において、上記物質が分析されたCpG位置の脱メチル化を少なくとも90%、好ましくは91%、より好ましくは92%増大させる。
【0062】
本発明の別の態様は次に、配列番号2〜配列番号17のいずれかによるオリゴマー、又は配列番号1による増幅核酸に関する。
【0063】
本発明の別の態様は次に、患者における疾患を治療する方法であって、本発明による方法、及び上記患者の上記疾患を、決定されたCD25CD4制御性T細胞の量に基づいて上記のように治療することを含む、方法に関する。好ましくは、上記疾患は自己免疫疾患、同種移植レシピエントにおける副作用、卵巣癌等の腫瘍性疾患、慢性移植片対宿主病、アレルギー性ぜんそく、ハンセン病及び多発性硬化症から選択される。好ましくは、上記治療は化学療法、抗体による治療、生物学的薬物検査、例えばワクチン手法、殺Treg物質、サイトカイン、細胞増殖抑制因子、及びサリドマイド等のTreg数を減少させる化合物(chemical compounds)から選択される。
【0064】
本発明の別の態様は次に、制御性T細胞を遺伝子foxp3中のCpG位置のメチル化状態の分析に基づいて同定するキットであって、本発明による方法を行うための材料を含む、キットに関する。
【0065】
本発明の別の態様は次に、FoxP3陽性制御性T細胞、好ましくはCD25CD4制御性T細胞を検出及び/又は同定するための、本発明によるオリゴマー若しくは増幅核酸、又は本発明によるキットの使用に関する。
【0066】
本発明をここで、以下の実施例(これに限定されるものではない)においてさらに説明する。本発明の目的上、本明細書中に引用される全ての参考文献及び配列表は、その全体が参照により本明細書中に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1A:FOXP3 TSDR用の定量PCRシステムを示す図である。FOXP3遺伝子座及び増幅戦略を示す。2つのメチル感受性増幅プライマー及びメチル感受性ハイブリダイゼーションプローブを設計した。プローブを損傷せずにクエンチされる検出色素は、特異的鎖伸長におけるエキソヌクレアーゼ消化の際に放出される。図中英語訳は以下:FOXP3 gene on chromosome Xp11.23:染色体Xp11.23上のFOXP3遺伝子Reverse Strand:リバース鎖Exon No:エクソン番号FOXP3 coding region:FOXP3コーディング領域Conserved region:保存領域CpG island:CpGアイランドElongation:伸長 図1B:FOXP3 TSDR用の定量PCRシステムを示す図である。上の2列のプロットは該qPCRシステムの増幅プロファイルを示す。左パネルには非メチル化特異的増幅システム、右パネルにはメチル化特異的増幅システムを示す。上の列では、非メチル化DNAに相当するプラスミド(TSDR中の全てのCがTに置き換わっている)が2億コピー〜20コピーの希釈系列(dilution row)で使用される。中央のパネルには、メチル化DNAに相当するプラスミド(CG以外の全てのCがTに置き換わっている)を用いた同じ希釈系列が示される。下のパネルには、プラスミド希釈系によって作成された標準曲線が完全に対数線形で示される。図中英語訳は以下:Plasmid:プラスミドFluorescence:蛍光Cycle:サイクルCrossing point:交点Log-concentration:対数濃度
【図2】図2A:FACS又はqPCRを用いたTreg及びTnaiveの分析を示す図である。CD25++細胞(左パネル)とCD25細胞(右パネル)とに分けた、男性ドナー(上パネル)及び女性ドナー(下パネル)から得たPBMCのFACS分析を示す。細胞を固定し、染色し、FOXP3抗体を用いてFACS計数した。数値はFOXP3細胞のパーセンタイルレベルである。 図2B:FACS又はqPCRを用いたTreg及びTnaiveの分析を示す図である。FACS選別したCD25++細胞及びCD25細胞(各々が図2Aに示す男性ドナー及び女性ドナーに関する)についてのqPCR増幅プロットを示す。数値は、左パネルでは非メチル化DNA(nm)、右パネルではメチル化DNA(m)についてのコピー数を表す。表中の数値は、メチル化画分中のFOXP3タンパク質発現細胞又はFOXP3脱メチル化細胞を用いて決定されたTregのパーセンタイル数を示す。図中英語訳は以下:Fluorescence:蛍光Cycle:サイクルFemale donor:女性ドナーMale donor:男性ドナー% demethylated FOXP3 promotor:脱メチル化FOXP3プロモーター(%)qPCR corrected:qPCR(補正)qPCR results for female donor x2: 女性ドナーについてのqPCR結果(2倍)
【図3】黒色腫患者のPBMC中のTreg数を示す図である。Treg数(FOXP3 TSDR qPCR(左)及びFOXP3タンパク質FACS分析(右)によって測定される)は、IL2療法前及びIL2療法の3週間後に決定した。両タイプの測定は同じ患者に対して同じ時点で行った。図中英語訳は以下% non-methylated FOXP3 DNA:非メチル化FOXP3 DNA(%)Prior IL-2:IL−2前Post IL-2:IL−2後Patient:患者
【図4】図4A:種々の腫瘍を示す患者におけるFOXP3 DNA脱メチル化を示す図である。箱ひげ図によって、患者の診断結果によりグループ分けしたFOXP3非メチル化レベルの分布を視覚化する。縦軸は非メチル化率である。個々の箱ひげ図はデータの中央の50%を示し、中央のラインは中央値であり、ひげは箱から四分位範囲の1.5倍を超えない最も端のデータ点まで伸びている。灰色の点は個々の測定値である。それぞれのグループに対する患者数を箱ひげ図の上部に示す。図中英語訳は以下Nolmal:正常 図4B:種々の腫瘍を示す患者におけるFOXP3 DNA脱メチル化を示す図である。受信者動作特性(ROC)曲線を示す。正常患者と結腸直腸癌患者(左パネル)及び肺癌患者(右パネル)との区別のためにROC曲線をプロットする。図中英語訳は以下Normal vs. CRC:正常対CRCTrue positive rate:真陽性率False positive rate:偽陽性率Normal vs. LCa:正常対LCa
【図5】種々の腫瘍を示す患者におけるFOXP3非メチル化を示す図である。箱ひげ図によって、患者の診断結果及び性別によりグループ分けしたFOXP3非メチル化レベルの分布を視覚化する。縦軸は非メチル化率である。個々の箱ひげ図はデータの中央の50%を示し、中央のラインは中央値であり、ひげは箱から四分位範囲の1.5倍を超えない最も端のデータ点まで伸びている。灰色の点は個々の測定値である。それぞれのグループに対する患者数を箱ひげ図の上部に示す。図中英語訳は以下図5AMale:男性Normal:正常Female:女性図5BFemale Normal vs. BCa:正常女性対BCaTrue positive rate:真陽性率False positive rate:偽陽性率Normal vs. BCa:正常男性対BCa図5CBreast Cancer:乳癌Colorectal Cancer:結腸直腸癌Lung Cancer:肺癌Prostate Cancer:前立腺癌All patients:全患者Male patients:男性患者Female patients:女性患者
【図6】アクセッション番号NC_000023のヒトfoxp3遺伝子の遺伝子構成を示す図である。図中英語訳は以下Coding region:コーディング領域Untranslated region:非翻訳領域Isoform:アイソフォーム
【図7】配列を示す。図中英語訳は以下Reverse:リバースProbe:プローブNon-methylated:非メチル化Methylated:メチル化
【0068】
配列番号1はFoxP3のTSDRの配列を示す。
【0069】
配列番号2〜配列番号19は、実施例において使用されるプライマー及びプローブの配列を示す。
【0070】
オリゴヌクレオチド
配列は5’から3’の方向で示す。プライマーはバイサルファイト特異的PCR及びシークエンシング反応に使用した。鎖特異性及び配向:プライマー「p」及び「o」は+1鎖に基づいて単位複製配列を生成し、プライマー「p」はフォワード配向を示し、プライマー「o」はリバース配向を示す。
p−TGTTTGGGGGTAGAGGATTT(配列番号12)
o−TATCACCCCACCTAAACCAA(配列番号13)
p−メチル化GTTTTCGATTTGTTTAGATTTTTTCGTT(配列番号14)
p−非メチル化GTTTTtGATTTGTTTAGATTTTTTtGTT(配列番号15)
o−メチル化CCTCTTCTCTTCCTCCGTAATATCG(配列番号16)
o−非メチル化CCTCTTCTCTTCCTCCATAATATCA(配列番号17)
【0071】
プローブ
非メチル化776_209−222_nm ATGGTGGTTGGATGTGTTGGGTT(配列番号18)
メチル化776_209−222_m ATGGCGGTCGGATGCGTC(配列番号19)
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0072】
過去10年間で、制御性T細胞は免疫学的研究の中心的な焦点となっており、そのため腫瘍免疫において重要な役割を果たしている。理解及び医学的開発の進歩にもかかわらず、この細胞型は依然として難解である。これは主にFOXP3及びCD25のmRNAマーカー及びタンパク質マーカーの特異性の欠如によるものである。どちらのマーカーも活性化された通常のT細胞によって発現されるため、これらと真のTregとを区別することは可能ではなかった。これに対し、本発明者らの以前の研究(Baron et al.、Floess
et al.)による全ての証拠は、FOXP3 TSDRの脱メチル化が安定なTreg表現型だけに限定されており、一時的にFOXP3を発現する活性化T細胞においては起こらないことを示唆するものである。したがって、メチル化分析は遺伝子発現及びタンパク質合成の分析と比べて明らかな利点をもたらす。
【0073】
本発明者らは、報告した癌患者の末梢血における存在量の上昇を精査するにはTregの正確な同定が必要であると主張する。これまで、一時的にFOXP3を発現する活性化T細胞が、測定されたFOXP3細胞画分に有意に寄与することを排除することはできなかった。結果として、Tregレベルが実際に癌患者の末梢血又はサイトカイン療法において上昇するということは最終的に立証されなかった。しかしながら、後者の点を仮定すると、不明確な混合物は分析上の不明瞭さにつながるため、これまでTreg計数は効率的なモニタリング、ましてや診断手段としては使用することができなかった。本発明者らのqPCRアッセイは、上述の分析上の不明瞭さを払拭することを目的とする。
【0074】
本発明者らは、免疫系の他の全ての主要な構成要素と比べた、Tregに対するTSDR脱メチル化の特異性を確認した。B細胞では、1%〜2%のわずかな(residual)脱メチル化が見られた。これは、B細胞をPBMCから磁気分離により最初に選別した場合(一部のTregが分離カラムに非特異的に結合した可能性がある)の分離手順に起因する混入であると考えられ、アッセイの仕様に影響を与えるものではない。別の説明は、1%〜2%のB細胞画分においてFOXP3 TSDRが脱メチル化されるということである。しかしながら、B細胞は全ての血液白血球のおよそ1%でしかないため、全血におけるFOXP3レベルのおよそ0.001%〜0.002%というごくわずかなB細胞誘導変動しか引き起こさない。
【0075】
CD25++FOXP3抗体を用いて精製及び選別した白血球画分を用いると、本発明者らのアッセイでは男性ドナーにおいて93%の脱メチル化が報告される。残りの7%であるメチル化された細胞画分は、実際にCD25−細胞及びFOXP3−細胞の安定なTreg画分を構成せずに、FOXP3を一時的にしか発現しないCD25FOXP3細胞から成ると考えられる。選別されたナイーブCD4+T細胞及び記憶CD4+T細胞の分析によって、FOXP3 TSDRの脱メチル化によって見出されたようにCD4T細胞のおよそ5%〜10%がTregであるという仮説が確認される。実験的には、このことはCD25++画分を全てのCD4細胞から除去することによって完全にメチル化された細胞のプールが生じるという事実によって掌握された。女性ドナーについては、不活性化X染色体の完全なメチル化と一致する、精製CD25++FOXP3細胞画分における46%の脱メチル化が認められた。
【0076】
潜在的な日常用途、アッセイの臨床的有意性及び実現可能性を試験するために、IL−2治療計画について選択された黒色腫患者から得た血液試料を測定した。以前の観察結果から、IL−2治療におけるTregの有意な増大が示唆された。これらの観察結果は、この治療が(NK細胞及びエフェクターT細胞の増進のために)有益であるか、又は(Tregの免疫抑制活性の増進のために)治癒に対立するものであるかについての議論に火を付けた。また、FOXP3及び高レベルのCD25を一時的に発現するT細胞の全体的な活性化は、FACS分析によって除外することができなかった。活性化T細胞がTSDRのメチル化の低下を示さないという事実(Baron et al., 2007)に基づくと、本発明者らのデータは、IL−2療法の過程で次第に多くの脱メチル化FOXP3 TSDRを有する細胞が、実際にCD25エフェクターT細胞ではなく機能的Tregを構成するという概念を強く支持し、IL−2療法が免疫抑制Tregを刺激するという懸念を確認するものである。臨床的には、このデータセットをさらに評価して、別に最終的な結論を引き出す必要がある。しかしながら、ここでは、IL−2療法をより小さいが、おそらくは応答性のより高い集団に用いるために個人化する目的で患者コホートを階層化するために、IL−2療法を受けた黒色腫患者のTregレベルを再分析することは一選択肢であり得る。
【0077】
これらの結果に加えて、FACS分析と比べたqPCRにおける患者間の差異の有意な低下が見出されたが、これはより限定された生物学的又は技術的システムによるものであり得る。この結果は、FOXP3脱メチル化はTregに特異的であるが、CD25++FOXP3タンパク質又はmRNAの数は、Treg及び全体的なT細胞活性化の組み合わせであるという仮説に一致するものである。
【0078】
本発明者らは、これらの所見を受けて、FOXP3 TSDR脱メチル化アッセイが固形腫瘍の早期検出のための新たな方法を提供し得るという考えを検討した。
【0079】
この目的のために、末梢血中のTregを測定することが癌スクリーニングの重要なパラメータとなり得るという主張(raising)を、以前の実験の曖昧さを回避して、再試験する、乳房、前立腺、結腸及び肺の4種の異なる腫瘍型を有する患者並びに健常ドナーを含む盲検研究を行った。最近の報告(Meloni 2006、Miller et al. 2006)に基づき、肺癌患者及び前立腺癌患者から得た血液において、健常対照におけるよりも有意に高い脱メチル化TSDRのシグナルが見られることが示された。結腸癌患者の末梢血においてCD4+Tregの数が増大するという報告(Clark et al. 2006、Ling et al. 2007)とは対照的に、TSDR脱メチル化を分析したところ差は見られなかった。乳癌患者については、脱メチル化アッセイによって決定したTreg数は、あまり有意ではないにしろ、対照におけるよりも極めて高かった。より多くの患者及び対照を分析することで、乳癌についての有意性が明らかとなり、肺癌及び前立腺癌についてもこれらの点が明らかとなり得る。特に、3種の癌についてのROC曲線において0.7を上回るAUC値は、FOXP3脱メチル化を早期検出マーカーとして応用するうえで有望なものである(Lofton-Day et al., 2007)。本発明者らの見解では、2つの結論を本発明者らの結果から引き出すことができる:i)この研究は、体内での悪性腫瘍の発生のパラメータとしてのTregレベルのモニタリングの最終判断となる。ii)TSDR脱メチル化を各々の悪性腫瘍のマーカーとして実証するには、様々な癌適応症についてのさらに広範な研究が必要とされる。
【0080】
本発明者らの所見は(進展し、完全に立証された場合)、FOXP3 TSDRの分析による制御性T細胞数の測定を、早期腫瘍認識だけでなく、抗腫瘍戦略のための主要な標的とするものである。DNAメチル化の一般的性質、アッセイの仕様及びFOXP3 TSDR脱メチル化の生物学的性質によって、Treg数の分析がおよそ10μlの分離していない、急冷凍結した(snap-frozen)血液から可能であることが示唆される。メチル化特異的qPCRによるTreg数のモニタリングはFACS分析と比較して、大規模な試料コホートの分析及び多施設共同研究におけるスクリーニングを大いに単純化し得る。ここで、このTreg数の直接的な検出法は、Tregが癌ワクチンの天然の対抗物(opponent)であるため、全ての癌ワクチン研究に含まれるべきである。患者の階層化はTregレベルに合わせるべきである。また、記載のIL−2研究において例示されるより一般的な臨床的モニタリングは、Treg数の分析を必要とする。このことは、特にIL−7、IL12療法等の新規のサイトカインに基づく薬物治療についても言える。これは、本明細書中で提示したアッセイを用いて、保管したDNA又は血液試料が利用可能なレトロスペクティブ分析においても可能であり得る。
【0081】
ここで、本発明者らは、試験される全ての組織において、試料の量及び品質にほとんど依存せずに、Treg、すなわち脱メチル化FOXP3 DNAを特異的かつ高感度に検出することが可能な定量PCRに基づくメチル化アッセイを確立した。本発明者らは次に、IL2サイトカイン治療(以前に他の技術を用いて、末梢血中のTregレベルの上昇を誘導することが示されている)を受ける前後の黒色腫患者から得た血液を用いて、この手段がin vivo用途においてTreg数を確実に伝えるか否かという問題に対処した。アッセイの有効性が証明されたため、本発明者らは体内での悪性腫瘍の存在を予測するために、血流におけるFOXP3 TSDR脱メチル化の能力を試験する完全盲検研究を行った。
【0082】
実施例I
材料及び方法
試料、試料調製−健常ドナー
末梢血試料を、地方倫理委員会の承認を踏まえたインフォームドコンセントの後に健常ドナーから得た。主要な末梢血白血球集団の選別については、試料をBaron et al.(EJI 2007)に従って処理した。CD4選別については、フィコール−ハイパーク(Sigma-Aldrich)を用いた密度勾配遠心分離によって末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。CD4+T細胞をバフィーコート由来PBMCから、抗CD4マイクロビーズ及びAutoMACS磁気分離システム(Miltenyi Biotec)を用いて単離した。細胞表面染色用の抗体は全てBD
Pharmingenから入手した。PE抗ヒトFOXP3染色セットは、eBioscienceから入手した。全てのマイクロビーズはMiltenyi Biotecから購入した。MACS選別したCD4+T細胞を、抗CD45RA−FITC及び抗CD25−APCを用いて染色した。細胞をFACS(Aria,BD-Bioscience)によってCD25高CD45RA−Tregと、CD25−CD45RA+ナイーブT細胞とに選別した。一定分量のCD4集団を用いて、フローサイトメトリーによってFOXP3+細胞の含量を決定した。ここでは、分析ゲートは選別ゲートと類似している。サイトメトリー分析は、FACS Calibur(BD Biosciences)及びFlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いて、以前に記載されているように行った(Huehn, J., Siegmund, K.,
Lehmann, J., Siewert,C.,
Haubold, U., Feuerer,M.,
Debes, G. F., Lauber,J., Frey, O., Przybylski, G. K., Niesner,U., Rosa, M. d.
l., Schmidt, C. A., Braeuer, R., Buer, J.,Scheffold, A. and Hamann,A.,
Developmental stage, phenotype and migration distinguish naive- andeffector/memory-like
CD4+ regulatory T cells. J ExpMed 2004. 199:303-313.)。細胞内FOXP3染色は、PE抗ヒトFOXP3染色セット(eBioscience)を用いて、製造業者の使用説明書に従って行った。
【0083】
試料、試料調製−IL−2療法の黒色腫患者
黒色腫患者はステージIVの転移性疾患を有しており、ヒスタミン二塩酸塩を添加した、若しくは添加しないIL−2の皮下投与、又はIFN−αと併用した、5日間にわたって漸減させた(decrescendo)IL−2の静脈内投与による3回の異なるIL−2に基づく治療計画を受けていた(Asemissen AM, Scheibenbogen C, Hellstrand K, Thoren F, Gehlsen K,
Lesch A, Thiel E, Keilholz U.Addition of histamine to IL-2 treatment augments
type 1 T cell responses inmelanoma patients in vivo: immunological results from
a randomized clinicaltrial of IL-2 with or without histamine. Clinical Cancer
Res 11, 290-297, 2005、及びKeilholz U, Goey SH, Punt CJA,
Proebstle T,Salzmann R, Scheibenbogen C, SchadendorfD, Lienard D, Hantich B,
Geueke A-M, Eggermont AMM. IFNβ/IL-2 with or without Cisplatinum inmetastatic
melanoma: a randomized trial of the EORTC melanoma cooperativegroup. J Clin
Oncology, 2579-2588, 1997)。インフォームドコンセントの後、IL−2療法の前及び2週間後にヘパリン添加血液試料を採取し、末梢血単核細胞(PBMC)を、フィコール−ハイパーク1.077(Biochrom,Berlin,Germany又はSigma-Aldrich)を用いた密度勾配遠心分離によって単離し、液体窒素中で保管した。細胞外染色については、以下の表面mAbを使用した:抗CD3−PercP(クローンSK7)、抗CD25−PE(M−A251)、抗CD4−FITC(B9.11)。核抗FOXP3−APC染色は、抗FOXP3−APC(PCH101)(eBioscience,SanDiego,USA)を用いて、製造業者の使用説明書に従って行った。データ収集をFACS Calibur(BD Bioscience)で行った。
【0084】
試料、試料調製−盲検研究
血液を1つ又は複数の10ml容BDバキュテナー管(BD Vacutainer(登録商標)Plus採血管、BD 366643 16mm×100mm、10.0ml、K2 EDTA)に採取し、各々の管を血液凝固を避けるために即座に約10回反転させた。採血管を遠心ブレーキを切っている状態で、4℃、1500gで10分間遠心分離した。遠心分離の後、血漿と赤血球との間の細胞層を含む液を約0.5ml〜1ml、プレラベル2ml容クライオバイアル(Fisherbrand 2−ml Round−Style Bottom Cryogenic Storage Vial(Fisher Scientific #12−567−501))に、使い捨てピペット(Jumbo Bulb Pipette(VWR #100500−622))を用いて移した。採血から4時間以内に試料を−70/80℃で凍結して、ドライアイス上で輸送するまでこの温度で保管した。
【0085】
メチル化分析プロトコル
foxp3遺伝子を有するsf遺伝子座(Brunkow ME et al(2001) Nat Gen.
27:68)の30.8kb領域に焦点をあわせ、CpG密度に基づいてメチル化分析のための配列を選択した。特に、プロモーター領域及びエクソン・イントロン境界には単位複製配列設計を考慮した。PCRの際に、TSDR領域を分析するようにプライマーを設計した。
【0086】
ゲノムDNAを、精製リンパ球からDNeasy組織キット(Qiagen,Hilden,Germany)を用いて、供給業者の推奨に従って単離した。
【0087】
ゲノムDNAの亜硫酸水素ナトリウム処理を、Olek et al.(Olek, A., Oswald,J.,
Walter, J. (1996) Nucleic Acids Res. 24, 5064-5066)に従って(一部変更して)行ったが、これにより非メチル化シトシンがウラシルへと変換される一方で、メチル化シトシンは変化しないままであった。続くPCR増幅において、ウラシルがチミンに置き換わる。このため、シークエンシング反応における「C」の検出は、この部位でのゲノムDNAのメチル化を反映する。同じ部位での「T」の検出は反対に、ゲノムシトシンのメチル修飾の非存在を反映する。
【0088】
PCRをMJ Research(Waltham,Massachusetts,United States)製のサーモサイクラー上で、1×PCRバッファー、1UのTaq DNAポリメラーゼ(Qiagen,Hilden,Germany)、200μM dNTP、各々12.5pmolのフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに7ngのバイサルファイト処理ゲノムDNAを含有する25μlの最終容量で行った。増幅条件は95℃で15分間、及び95℃で1分間、55℃で45秒間、72℃で1分間の40サイクル、及び72℃で10分間の最終伸長工程であった。PCR産物をExoSAP−IT(USB Corp.,Cleveland,Ohio,United States)を用いて精製し、PCRプライマー(複数可)及びABI Big Dye Terminator v1.1サイクルシークエンシング化学(Applied Biosystems,Foster City,California,United States)を適用してシークエンシングした後、ABI 3100遺伝子分析装置上でキャピラリー電気泳動を行った。トレースファイルを、配列トレースを正規化し、不完全なバイサルファイト変換を補正し、メチル化シグナルの定量化を可能にするESMEを用いて解析した(Lewin, J.,Schmitt, A.O.,
Adorjan, P., Hildmann,T.,
Piepenbrock, C. (2004) Bioinformatics. 20,3005-3012)。
【0089】
結果
示唆されたFOXP3 TSDR脱メチル化のTregに対する特異性を検証するために、定量リアルタイムPCRシステム(qPCR)を確立した。このシステムは、FOXP3 TSDRのバイサルファイト変換されたメチル化DNA及びバイサルファイト変換された非メチル化DNAの両方に対する、メチル化依存性プライマー及びハイブリダイゼーションプローブから成る(図1A)。このシステムを試験することによって、非生理的に高い濃度(2億コピーのプラスミドDNA)であっても高い特異性があり、異なる種との交差反応性がないことを示した(図1B)。検出は、10000個のメチル化コピー中、単一のDNAコピーまでという絶対感度、かつ最低でも2.5個の非メチル化コピーという相対感度で可能であった(データは示さない)。
【0090】
指定の技術的パラメータを用いて、男性及び女性のドナーから得た選別したCD25++T細胞においてFOXP3タンパク質を染色して、FOXP3 TSDRでの脱メチル化データを比較した(図2)。生物学的特異性の対照として、CD25欠損CD4T細胞(CD25−)を使用した。データから、CD25++細胞のFOXP3染色によって、およそ95%のFOXP3細胞が得られることが示される。メチル化分析によって、男性ドナーにおいてはおよそ93%のCD25細胞、女性ドナーにおいては45.9%のCD25細胞(X不活性化のために2倍に補正した場合、細胞のおよそ92%)が非メチル化FOXP3プロモーターを示し、これらの所見が確認される。FACS分析では、3%〜4%のCD25−細胞がFOXP3であると考えられ、1%未満の細胞がFOXP3 TSDRにおいて脱メチル化されている。したがって、原理上は、FOXP3の脱メチル化はFACS分析によって測定される結果に従うものである。
【0091】
血液細胞亜型におけるFOXP3 qPCRメチル化アッセイ
次に、全血におけるFOXP3脱メチル化によるTreg計数の実現可能性を引き出すために、様々な白血球画分のメチル化レベルを試験した。本発明者らは、単離したCD15顆粒球、CD14単球、CD58ナチュラルキラー細胞、並びにCD8記憶(CD27CD45RA)及びCD8ナイーブ(CD27CD45RA)細胞傷害性T細胞画分の両方が、この遺伝子座でDNAの1%未満というわずかな脱メチル化しか示さなかったことを示す。CD19記憶及びナイーブB細胞画分は、2%未満の脱メチル化FOXP3プロモーターを含む(表1)。この画分が不完全な精製に起因するのか、又は脱メチル化FOXP3を有する天然のB細胞亜画分に起因するのかについては不明確である。
【0092】
CD4CD27CD45RAナイーブT細胞は6.2%の脱メチル化画分を示し、CD4CD27CD45RA記憶T細胞は10.86%の脱メチル化FOXP3の割合を示した。どちらの画分も、およそ10%のCD25++FOXP3制御性T細胞を含有することが記載されており、したがってその規模で脱メチル化DNAを含有することが予想される。全CD4T細胞画分からのCD25++細胞の選択的除去によって、脱メチル化FOXP3 TSDR部分がほぼ完全に取り除かれた。
【0093】
【表1】

【0094】
IL2療法による黒色腫患者におけるFOXP3 DNAの脱メチル化
CD25++FOXP3Treg以外の、末梢血から得た全ての単離白血球画分は、ex vivo実験において完全にメチル化される。したがって、安定にFOXP3を発現するTregに相当する細胞画分の全血試料からの同定及び定量化は、本発明者らのqPCRアッセイを適用して脱メチル化DNAを検出することによって可能である。免疫調節(immunmodulating)療法のレポーターとしての、末梢血におけるDNAメチル化によるTregレベルを分析するために、臨床的に応用されたサイトカイン癌療法におけるアッセイの有効性を試験した。このために、細胞傷害性T細胞及びNK細胞の活性化を達成するために利用されるIl−2療法を選択する。つい最近では、Foxp3T細胞もこの療法によって増進されることが研究から示されている。後者の効果は、該療法が免疫系を抑制するというよりも刺激する働きをするため、禁忌である。しかしながら、CD25++細胞及びFOXP3+細胞のFACS分析は、制御特性のない活性化T細胞の測定を除外することができない。本発明者らは、転移性黒色腫を有する6人の患者の末梢血におけるCD4CD25++Foxp3Tregの頻度に対するIL−2療法の影響を、メチル化及びFACS分析の両方によって分析した(図3)。患者は、ヒスタミン二塩酸塩を添加した、若しくは添加しないIL−2の長期皮下投与、又はIFN−αと併用した、5日間にわたって漸減させたIL−2の静脈内投与による3回の異なるIL−2に基づく療法計画を受けていた。療法の前に、FACS測定によって、PBMCにおけるCD4CD25++Foxp3Tregの平均レベルが4.5%であり(1.9%〜8.9%の範囲にわたる)、標準偏差が2.4%であることが示された。Treg数をqPCRによって決定した場合、FOXP3 TSDR脱メチル化の平均レベルは3.4%であり(2.4%〜4.2%の範囲にわたる)、標準偏差が0.7%であった。IL−2療法後の平均FOXP3レベルは、FACSによって測定した場合、11.6%であり(5.1%〜17.3%の範囲にわたる)、標準偏差が4.6%であることが分かったが、これは療法後にTregが1.7倍〜4.1倍増大することと解釈される。FOXP3 TSDRの脱メチル化によって決定した場合、平均Treg数は8.8%であり(6.9%〜11.5%の範囲にわたる)、標準偏差が1.6%であったが、これは療法後に2.1倍〜2.8倍増大することと解釈される。2つの技法によるTreg数の推定値はよく相関しており(ピアソン相関 R=0.65、P=0.023)、共にIL2治療時にTregがおよそ2倍増大することを示唆している。この研究において観察される、全血試料におけるFOXP3脱メチル化についての患者間の差異は小さく、かかるアッセイが、以前に報告された、健常個体と比べた癌患者におけるTregの増大を保持しつつ、癌患者の血液試料におけるTregを決定する場合の差異を低減する可能性が再確認された。
【0095】
癌患者におけるFOXP3 DNA脱メチル化
本発明者らは、健常対照、結腸直腸癌患者、肺癌患者、前立腺癌患者及び乳癌患者から得た合計115種の凍結「バフィーコート」において、FOXP3 TSDRのメチル化状態を完全盲検研究で測定した。FOXP3はX連鎖性であるため、女性ドナーについての脱メチル化は、Treg数を報告するうえで2倍に補正した。健常ドナーについては、平均Treg数は1.4%であった(0.4%〜2.9%の範囲にわたる)。結腸直腸癌患者については、平均Treg数は2.3%であり(0.6%〜3.5%の範囲にわたる、19%という不測の外れ値が1つ)。外れ値を除外すると、平均Treg数は1.64%であり、健常ドナーよりわずかにしか高くなかった。肺癌患者におけるTreg数は0.5%〜4.4%の範囲であり、平均は2.3%であった。結腸直腸癌患者の結果は正常対照とは有意に異ならなかったが、肺癌患者におけるTreg数は有意に上昇している(p=0.003)。早期肺腫瘍(ステージ1及びステージII、補足情報を参照されたい)から得られた試料において、9種のうち6種でTreg数が有意に上昇していることが分かった。結腸癌及び肺癌に関する受信者動作特性(ROC)曲線は、結腸癌についてはAUC(曲線下面積)が0.66であり、肺癌についてはAUCが0.75であることを示している(図4、図5C)。
【0096】
乳癌患者及び前立腺癌患者におけるTreg数を、性別をマッチングした(sex-matched)健常対照と比較すると、平均Treg数は、正常対照の1.7%及び1.4%と比べて、それぞれ2.4%及び2.4%と上昇していた。正常個体と比べた変化はそれぞれ、前立腺癌についてはp=0.03で統計学的に有意であり、乳癌についてはp=0.08でわずかに有意ではなかった。乳癌及び前立腺癌の両方に関するROC曲線は、乳癌についてはAUCが0.71であり、前立腺癌についてはAUCが0.73であることを示している(図5)。
【0097】
実施例II
試料、試料調製−健常ドナー
末梢血試料を、地方倫理委員会の承認を踏まえたインフォームドコンセントの後に健常ドナーから得た。主要な末梢血白血球集団の選別については、試料をBaron et al.(36)に従って処理した。CD4+T細胞選別については、フィコール−ハイパーク(Sigma-Aldrich,Munich,Germany)を用いた密度勾配遠心分離によって末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。CD4+T細胞をバフィーコート由来PBMCから、抗CD4マイクロビーズ及びAutoMACS磁気分離システム(Miltenyi Biotec,Bergisch Gladbach,Germany)を用いて単離した。全てのマイクロビーズはMiltenyi Biotecから購入し、細胞表面染色用の抗体は全てBD Pharmingen(Heidelberg,Germany)から入手した。細胞内FOXP3染色は、PE抗ヒトFOXP3染色セット(eBioscience,SanDiego,USA)を用いて、製造業者の使用説明書に従って行った。MACS選別したCD4+T細胞を、抗CD45RA FITC及び抗CD25−APCを用いて染色した。細胞をFACS(Aria,BD-Bioscience,Heidelberg,Germany)によってCD25高CD45RA−Tregと、CD25−CD45RA+ナイーブT細胞とに選別した。一定分量のCD4集団を用いて、フローサイトメトリーによってFOXP3+細胞の含量を決定した。ここでは、分析ゲートは選別ゲートと類似している。サイトメトリー分析は、FACS Calibur(BD Biosciences)及びFlowJoソフトウェア(Tree Star,Ashland,OR,USA)を用いて、以前に記載されているように行った(50)。
【0098】
試料、試料調製−IL−2療法の黒色腫患者
黒色腫患者はステージIVの転移性疾患を有しており、以前に記載されるようなヒスタミン二塩酸塩を添加した、若しくは添加しないIL−2の皮下投与を受けていた。インフォームドコンセントの後、IL−2療法の前及び2週間後にヘパリン添加血液試料を採取し、末梢血単核細胞(PBMC)を、フィコール−ハイパーク1.077(Biochrom,Berlin,Germany又はSigma-Aldrich)を用いた密度勾配遠心分離によって単離し、液体窒素中で保管した。細胞外染色については、以下の表面mAbを使用した:抗CD3−PercP(クローンSK7)、抗CD25−PE(M−A251)、抗CD4−FITC(B9.11)。核抗FOXP3−APC染色は、抗FOXP3−APC(PCH101)(eBioscience)を用いて、製造業者の使用説明書に従って行った。データ収集をFACS Calibur(BD Bioscience)で行った。
【0099】
試料、試料調製−盲検研究
血液を1つ又は複数の10ml容BDバキュテナー管(BD Vacutainer(登録商標)Plus採血管、BD 366643 16mm×100mm、10.0mL、K2 EDTA)に採取し、各々の管を血液凝固を避けるために即座に約10回反転させた。採血管を遠心ブレーキを切っている状態で、4℃、1500gで10分間遠心分離した。遠心分離の後、血漿と赤血球との間の細胞層を含む液を約0.5ml〜1ml、プレラベル2ml容クライオバイアル(Fisherbrand 2−mL Round−Style Bottom Cryogenic Storage Vial(Fisher Scientific,Schwerte,Germany,#12−567−501))に、使い捨てピペット(Jumbo Bulb Pipette(VWR,Darmstadt,Germany,#100500−622))を用いて移した。採血から4時間以内に試料を−70/80℃で凍結して、ドライアイス上で輸送するまでこの温度で保管した。書面によるインフォームドコンセントを、地方倫理指針に従って全ての研究の参加者から得た。
【0100】
試料調製−FFPE試料
結腸直腸癌患者の腫瘍及び健常組織に由来する、ホルマリン固定し、パラフィン包埋(FFPE)した組織から得た最大で8つの切片のDNA単離を、Qia−AMP DNA FFPE組織キット(Qiagen,Hilden,Germany)を用いて、製造業者のプロトコルに従って行った。DNA単離前の変性として、ホルマリンから取り出した(formalin released)組織を、2mg/mlのプロテイナーゼKを含有する50mM Tris/HCl(pH8)、1mM EDTA、0.5%Tween 20中で一晩インキュベートし、続いて90℃で10分間インキュベートした。
【0101】
DNA調製及びバイサルファイト変換
ゲノムDNAを、DNeasy血液及び組織キット(Qiagen,Hilden,Germany)を用いて単離した。PBMC及び選別した血液細胞については、培養細胞用のプロトコルに従い、バフィーコートからのDNA単離については全血プロトコルを用いた。ゲノムDNAのバイサルファイト処理は、Olek et al.(Olek, A.,
Oswald,J., Walter, J. 1996. A modified and improved
method for bisulphitebased cytosine methylation analysis. Nucleic Acids Res.
24:5064-6)に従って(一部変更して)行った。
【0102】
リアルタイムPCR
リアルタイムPCRは、各々15pmolのTSDR用のメチル化又は非メチル化特異的フォワード及びリバースプライマー(36)、5pmolの加水分解プローブ、200ngのλ−DNA(New England Biolabs,Frankfurt,Germany)、及び30ngのバイサルファイト処理ゲノムDNA鋳型又は各量のプラスミド標準を含有するRoche LightCycler(登録商標)480Probes Master(Roche Diagnostics,Mannheim,Germany)を用いて、20μlの最終反応容量中で行った。各々の試料を、Light−Cycler 480 System(Roche)を用いて三連で(in triplicate)分析した。サイクリング条件は、95℃で10分間の予熱工程、及び95℃で15秒間、続いて61℃で1分間の50サイクルから成るものであった。
【0103】
プラスミド標準
PCR産物は、選別したナイーブT細胞及び制御性T細胞から得たバイサルファイト処理ゲノムDNAを用いて、FOXP3 TSDR用のメチル特異的及び非メチル特異的プライマーによって生成させた。DNA断片を、pCR2.1−TOPOベクターに、TOPO TA Cloning(登録商標)Kit(Invitrogen,Karlsruhe,Germany)を用いて、製造業者の使用説明書に従ってクローニングし、シークエンシングによって検証した。プラスミドをQiagen製のPlasmid Midi Kitを用いて精製し、Qubit蛍光光度計(Invitrogen)によって濃度を決定し、希釈して、各々メチル化及び非メチル化FOXP3 qPCRアッセイのためのqPCR反応の標準として、100fg、10fg、1fg及び0.1fgの最終濃度(20000個、2000個、200個及び20個のプラスミドコピーに相当する)を得た。
【0104】
統計分析
メチル化及び非メチル化FOXP3 DNAの量は、二次導関数最大法(second-derivative
maximum method)による交点での線形回帰による検量線から推定した。中央値を用いてバフィーコート試料の三連の測定値を統合した。非メチル化DNAの割合は、非メチル化FOXP3 TSDR−DNAと、メチル化及び非メチル化FOXP3 TSDR−DNAの合計との比率としてコンピューターで計算した。女性患者については、この比率を2倍に乗じた。ROC曲線下面積は台形法則を用いて推定した。ウイルコクソンの順位和検定を用いて、正常患者と癌患者との脱メチル化率を比較した。ウイルコクソンの符号付き順位検定を用いて、IL−2治療前と治療後との脱メチル化率を比較した。相関分析については、ピアソンの積率相関係数及びt検定統計値を使用した。全てのP値は両側P値であった。
【0105】
免疫組織化学
免疫組織化学染色を以前に記載されるように行った。手短に述べると、スライドガラスをヒトFOXP3タンパク質に対するラットモノクローナル抗体(PCH101、200倍;eBioscience,SanDiego,USA)、続いてビオチン結合ウサギ抗ラット及びEnVisionペルオキシダーゼキット(Dako,Glostrup,Denmark)と共にインキュベートした。10個の無作為に選択した高倍率視野(1HPF=0.237mm)を、腫瘍組織及び対応する正常結腸粘膜/肺実質におけるFOXP3細胞浸潤について分析し、各事例において10個のHPFを平均化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物のFoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞を同定する方法であって、TSDR領域等の該foxp3遺伝子の1つ又は複数の調節領域における少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態を分析することを含み、前記少なくとも1つのCpGの少なくとも90%又は少なくとも92%以上の脱メチル化が、FoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞の指標となる、方法。
【請求項2】
前記CpG位置が、該遺伝子foxp3のCpGアイランド、プロモーター領域及び/又はTSDR領域等の上流領域から選択される調節領域に位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メチル化状態の分析を、全血、パラフィン包埋組織、血液、組織、固形組織の画分、細胞又は組織の培養物、体液、器官、及びTregを含有することが疑われる他の試料の群から選択される試料中で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記メチル化状態の分析が、メチル化特異的酵素消化、プロモーターメチル化、CpGアイランドメチル化、バイサルファイトシークエンシング、MSP、HeavyMethyl、MethyLight、Ms−SNuPE、PCR及び/又はリアルタイムPCRを含む方法を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記メチル化状態の分析が、配列番号4及び配列番号5並びに配列番号6及び配列番号7から選択されるプライマー対の少なくとも1つのプライマーを用いた増幅を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記メチル化状態の分析が、配列番号18及び配列番号19によるプローブのいずれかにより分析されるような少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態の分析を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
a)パラフィン包埋試料等の哺乳動物起源の保存組織試料を準備する工程、
b)前記試料のfoxp3遺伝子中の少なくとも1つのCpG位置におけるメチル化状態を分析する工程、及び
c)前記試料中に存在する制御性T細胞の量を前記メチル化状態に基づいて同定する工程を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記組織のTreg浸潤及びFoxP3発現の状態に応じて組織状態を決定する工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物の免疫状態を診断する方法であって、
a)診断を受ける前記哺乳動物に由来するT細胞を含有する試料を準備する工程、
b)foxp3遺伝子中の少なくとも1つのCpG位置のメチル化状態を分析する工程、
c)前記試料中に存在する制御性T細胞の量を前記メチル化状態に基づいて同定する工程、及び
d)前記哺乳動物の免疫状態を同定された前記量に基づいて決定する工程を含み、1つの対立遺伝子における前記少なくとも1つのCpGの脱メチル化が少なくとも91%又は少なくとも92%以上であることが、FoxP3陽性CD25CD4制御性T細胞の指標となる、方法。
【請求項10】
前記CpG位置が、該遺伝子foxp3のCpGアイランド、プロモーター領域又はTSDR領域等の上流領域に位置する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記メチル化状態の分析を、全血、パラフィン包埋組織、血液、組織、固形組織の画分、細胞又は組織の培養物、体液、器官、及びTregを含有することが疑われる他の試料の群から選択される試料中で行う、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記制御性T細胞の量を、該制御性T細胞におけるFoxP3発現を調節する、Tregの量を変更する、又はTreg増加、Tregレベル、Treg移動挙動若しくはTreg生存を調節することが疑われる化学的及び/又は生物学的物質に応じて測定及び/又はモニタリングすることをさらに含む、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
T細胞、幹細胞若しくは前駆細胞におけるfoxp3発現、又はtregの増殖、分化、生存及び細胞死を調節する化学的及び/又は生物学的物質、及び/又は培養条件を同定するin vitro方法であって、前記化学的及び/又は生物学的物質の1つ又は複数をT細胞と接触させること、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法を行うこと、並びに前記化学的及び/又は生物学的物質又は条件が分析されたCpG位置のメチル化を調節するか否かを検出することを含み、前記物質又は条件が該分析されたCpG位置の脱メチル化を少なくとも90%又は91%又は92%増大させる、方法。
【請求項14】
制御性T細胞を該遺伝子foxp3中のCpG位置のメチル化状態の分析に基づいて同定するキットであって、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法を行うための材料を含む、キット。
【請求項15】
FoxP3陽性制御性T細胞又はCD25CD4制御性T細胞を、検出及び/又は同定するための、請求項14に記載のキットの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2011−526148(P2011−526148A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515239(P2011−515239)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004793
【国際公開番号】WO2010/000474
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(511004210)
【Fターム(参考)】