遺伝子
【課題】α1→6フコース特異的な糖認識タンパク質又はペプチドをコードする遺伝子、及びその遺伝子に基づいてα1→6フコース特異的な糖認識タンパク質又はペプチドを遺伝子工学的に製造する方法を提供する。
【解決手段】以下の(1)又は(2)のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子:
(1)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
(2)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖認識活性を有するタンパク質又はペプチド。
【解決手段】以下の(1)又は(2)のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子:
(1)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
(2)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖認識活性を有するタンパク質又はペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖認識活性を有するタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子に関し、より詳細にはα1→6フコース特異的に認識するタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子とその遺伝子工学的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N結合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースをα1→6結合として転移させるフコースα1→6転移酵素(α1→6FucT)の遺伝子は、肝細胞の癌化にともなって発現することが知られている。この癌化した肝細胞の有無は、フコースに親和性をもつレンズマメレクチン(LCA)を用いたレクチン親和電気泳動で検出できる。
【0003】
従来、フコースα1→6糖鎖と親和性を有するレクチンとして、上記LCAの他に、エンドウマメレクチン(PSA)、ヒイロチャワンタケレクチン(AAL)、ラッパスイセンレクチン(NPA)、ソラマメレクチン(VFA)、麹菌レクチン(AOL)等が知られている(特許文献1〜5)。
【0004】
しかし、上記の公知のレクチンは、フコースα1→6糖鎖の他にも、α1→6結合以外のフコースを持つ糖脂質系糖鎖にも親和性を示し、3本鎖以上のフコースα1→6糖鎖へは親和性を示さない。具体的には、AAL及びAOLは、フコースα1→2、フコースα1→3等にも親和性を有する。LCA、PSA及びVFAは、3本鎖以上のフコースα1→6糖鎖への親和性を有していない。
【0005】
本発明者らは、担子菌に由来し、フコースα1→6糖鎖に特異的に結合する新規レクチンを発見し、その製造方法、並びに該レクチンを用いた糖鎖の検出及び分別方法に利用できることを明らかにした(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2002/030954
【特許文献2】WO2003/084569
【特許文献3】特開平02−083337の実施例
【特許文献4】特開2002−112786の実施例5
【特許文献5】特開2007−161633
【特許文献6】PCT/JP2009/003346
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが天然物から取得したα1→6フコース特異的レクチンを、遺伝子工学的手法を用いた組換えタンパクとして安定に製造することができれば、α1→6フコース特異的レクチンの利用度が向上する。そこで、本発明の目的は、本発明者らが担子菌から新規に単離したα1→6フコース特異的レクチンをコードする遺伝子、及びその遺伝子に基づいてα1→6フコース特異的に認識するタンパク質又はペプチドを遺伝子工学的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、ツチスギタケ由来のレクチン(ツチスギタケレクチン、以下、PTLと記載する)の部分アミノ酸配列を基に、Rapid Amplification of cDNA end法(以下、RACE法と記載する)を利用して該レクチンをコードする遺伝子の完全長cDNAをクローニングし、その塩基配列を決定することに成功した。すなわち、本発明は、以下の(1)又は(2)のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子:
(1)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
(2)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖認識活性を有するタンパク質又はペプチドを提供する。
【0009】
前記配列番号2のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、例えば配列番号1で示される。
【0010】
本発明は、また、上記遺伝子を含有する組換えベクターを提供する。
【0011】
本発明は、また、上記組換えベクターを宿主に導入して得られる形質転換体を提供する。
【0012】
本発明は、また、上記形質転換体から発現した組換えタンパク質又はペプチドを提供する。
【0013】
本発明は、また、上記形質転換体を培養又は生育することを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法である。
【0014】
本発明は、また、上記組換えベクターを、無細胞タンパク質合成系に供して組換えタンパク質又はペプチドを発現(すなわち、インビトロの転写と翻訳)させることを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法である。
【0015】
本発明は、また、上記で得られた組換えタンパク質又はペプチドを、タグ配列及び/又は糖認識活性を介したアフィニティー精製にかけることを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、PTLをコードする遺伝子が提供される。遺伝子を利用すれば、PTLの大量生産が可能になる。PTLは、フコースα1→6糖鎖を特異的に検出できることから、フコースα1→6糖鎖の特異的結合剤や糖鎖研究用試薬をはじめとして、フコースα1→6糖鎖が関係する腫瘍マーカーの正確な検出、予後判定、治療効果判定、並びに新規な腫瘍マーカーの探索等にも有用である。本発明により、糖認識部位を1個又は複数持つ組換えタンパク質又はペプチドの作製が可能になる。糖認識部位の数を変えることにより、細胞又は糖タンパク質の凝集を制御できることから、今までのレクチンでは困難であった検出手法への応用も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】PTL遺伝子全長配列図を示す。
【図2】PCR産物のアガロース電気泳動を示す。
【図3】rPTL7のSDS電気泳動図を示す。
【図4】rPTL8〜10のSDS電気泳動図を示す。
【図5】rPTL1〜6のSDS電気泳動図を示す。
【図6】rPTLの糖タンパク質アレイ図を示す。
【図7】Strep・TagII除去rPTLによる糖タンパク質アレイを示す。
【図8A】PA化糖鎖の構造図を示す。
【図8B】PA化糖鎖の構造図を示す。
【図9】SRL遺伝子全長配列を時雌。
【図10】rSRLのSDS電気泳動図を示す。
【図11】rSRLの糖タンパク質アレイを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
(A.ツチスギタケレクチン)
ツチスギタケは、担子菌モエギタケ科に属するキノコの一種である。レクチンは、生物界に広く存在し、糖を特異的に認識して結合するタンパク質の総称である。分子内サブドメイン内に糖認識サイトを一つしか持っていない場合でも、多くの分子は多量体を形成するため、糖鎖分子を介した架橋形成能を有する。
【0019】
PTLは、本発明者らがツチスギタケの子実体より抽出・精製し、その物性とN末端のアミノ酸配列を明らかにした(特許文献6)。それによれば、PTLは、ドデシル硫酸ナトリウム電気泳動法(以下、SDS電気泳動法と記載する)による分子量が4,000〜40,000であり、またフコースα1→6糖鎖に対する結合定数が1.0×104M−1以上である。PTLは、フコースα1→6糖鎖の非還元末端にシアル酸を有するものに対しても親和性が高い。従来のフコースα1→6特異的レクチン(例えばLCA、NPA及びPSA)は、非還元末端にシアル酸を有するフコースα1→6糖鎖に対する親和性が低い。このことは、PTLが従来のレクチンより優れていることを意味する。
【0020】
(B.PTL遺伝子のクローニング)
PTLをコードする遺伝子(以下、PTL遺伝子と記載する)は、すでに特定されているN末端部分のアミノ酸配列に基づき、ツチスギタケのcDNAあるいはcDNAライブラリーから周知の方法に従ってクローニングすることができる。例えば、cDNAに対して、上記部分アミノ酸配列から作製されるプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと記載する)を行い、得られた増幅断片によりツチスギタケcDNAライブラリーから目的とするPTL遺伝子をクローニングする。あるいは、cDNAライブラリーを作製することなく、RACE法を利用してcDNAから目的のPTL遺伝子をクローニングする。一般に、cDNAライブラリーからの全長cDNAの取得は困難であることが多く、ここではRACE法によるクローニングについて説明する。
【0021】
1.mRNAの抽出
まず、ツチスギタケよりmRNAを調製する。mRNAの供給源は、ツチスギタケの傘、菌褶、菌輪、菌柄、脚苞、菌糸等子実体の一部であっても、子実体全体であってもよいが、子実体全体が好ましい。
【0022】
mRNAの抽出は、通常行われる手法により行うことができる。例えば、子実体全体を液体窒素で凍結する。次いで、凍結した子実体全体を粉砕後、トリゾル試薬(Invitrogen社製)等を加えて核酸を抽出する。あるいは、市販のキットであるMACS mRNA アイソレーションキット(Miltenyi Biotec社製)等を用いて抽出してもよい。抽出した核酸は、クロロホルム、フェノール試薬等で処理して全RNAを得る。次いで、オリゴ(dT)磁性ビーズと磁石、又はオリゴ(dT)−セルロース等を用いたアフィニティーカラム、若しくは全RNAからのPoly(A)+ アイソレーションキット (NIPPON GENE社製)等のキットにより、mRNA(Poly(A)+RNA)を調製する。
【0023】
2.cDNAの合成
こうして得られたmRNAを鋳型として、市販のキット、例えばマラソン(登録商標) cDNA アンプリフィケーション キット(Clontech社製)等を用いて、オリゴ(dT)プライマー及び逆転写酵素によって一本鎖cDNAを合成した後、一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成する。
【0024】
3.RACE法による完全長cDNAの取得
得られた二本鎖cDNAに、適切なアダプターを付加した後、アダプタープライマーと、例えば表6に示すような遺伝子特異的プライマー(Gene Specific Primer、以下GSPと記載する)を用いてPCRを行う。得られる5’−RACE産物、及び3’−RACE産物の末端の塩基配列を決定し、その配列から、新たに5’側及び3’側GSPを作製してPCRを行い、目的とする完全長cDNAを取得する。
【0025】
PTLの場合、N末端のアミノ酸配列を基に作製した縮重プライマーとアダプタープライマーによる一次PCR反応後に、さらに縮重プライマーの内側の配列を基に作製したnested縮重プライマーとnested−アダプタープライマーによる二次PCR反応を行い目的とするPTL cDNAを増幅する。
【0026】
4.塩基配列の決定
得られたPTL cDNAは、ダイレクトシークエンス法、あるいはpGEM−T easy ベクター(Promega社製)、pBlue Script SK(+)(Stratagene社製)、pCR2.1(Invitrogen社製)等の市販のプラスミドベクターにサブクローニングするサイクルシークエンス法により塩基配列解析を行う。塩基配列の決定は、マキサム−ギルバートの化学修飾法、M13ファージを用いるジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知の手法により行うことができる。自動塩基配列解析装置(BECKMAN COULTER社製:CEQTM 8000 Genetic Analysis System等)を用いる方法が簡便で好ましい。
【0027】
(C.PTL遺伝子)
上記の方法により単離されるPTL遺伝子(cDNA)は、配列番号1に示す695塩基からなる塩基配列を有する。配列番号1の塩基配列は、コドン表に基づいて配列番号2に示す180アミノ酸残基に変換される。図1にアミノ酸配列の特徴を示す。図1中、糖認識ドメイン(Carbohydrate Recognition Domain)と見なされるCRD1、CRD2及びCRD3の部分配列は、天然PTLのN末端アミノ酸配列の分析結果(40アミノ酸残基)と相同性が非常に高い(80%以上)。さらに、これらのペプチド同士の相同性もまた、表1に示すように非常に高い。
【0028】
【表1】
【0029】
上記したように、CRD1、CRD2及びCRD3は、ツチスギタケ由来のレクチンのN末端アミノ酸配列や他のCRDと相同性が高い。また、実施例5並びに7に示すように、CRD1、CRD1+CRD2、CRD1+CRD2+CRD3、CRD2、CRD2+CRD3、並びにCRD3、のいずれも、α1→6フコース特異的に認識するタンパク質又はペプチドであることが判明している。
【0030】
したがって、本発明の遺伝子は、以下の(1)又は(2)のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子と定義することができる。
(1)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
(2)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖認識活性を有するタンパク質又はペプチド。
アミノ酸配列及び塩基配列の範囲の意味づけを表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
本発明のPTL遺伝子は、また、配列番号1の20〜562番、113〜232番、113〜397番、113〜541番、278〜397番、278〜541番、及び422〜541番のいずれかで表される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる他のポリヌクレオチドであっても、本発明の糖認識活性を有するPTLタンパク質をコードする限り、本発明の遺伝子に含まれる。ここで、ストリンジェントな条件下とは、例えば、ナトリウム濃度が30mMかつ温度が65℃、好ましくはナトリウム濃度が10mMかつ温度が65℃の条件下をいう。
【0033】
なお、本明細書中において、「遺伝子」という用語には、DNAのみならずそのmRNA、cDNA及びcRNAも含むものとする。したがって、本発明の遺伝子には、常に配列表に示されるコーディング鎖とその相補鎖の両方が含まれ、該塩基配列を有するDNA、mRNA、cDNA、及びcRNAの全てが含まれる。また、配列表の塩基配列は、すべてDNA配列として記載するが、該配列がRNAを示す場合、配列表中の塩基記号「t」は、「u」に読み替えるものとする。
【0034】
一旦、PTL遺伝子とその塩基配列が確定されると、その後は、化学合成、ゲノムDNAを鋳型としたPCR、あるいは塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによってPTL遺伝子を取得することは、当業者には容易である。
【0035】
(D.組換えPTLタンパク質の製造)
本発明者らは、このPTLの効果的な精製法を開発した(特許文献6)。しかし、その方法は、天然に生息しているツチスギタケを原料として用いているため、天候や季節による原料確保の問題が含まれていた。
【0036】
PTLは、糖鎖研究用試薬への応用のほか、癌化に伴いフコースα1→6糖鎖が増加するという知見から、癌医療において腫瘍マーカーの正確な診断並びに、新規な腫瘍マーカーの探索等にも応用できることが期待される。したがって、遺伝子工学的にPTLを大量生産することができれば、それは極めて効率的な当該レクチンの取得方法となる。以下、本発明の遺伝子を利用した組換えタンパク質又はペプチドの製造方法について説明する。
【0037】
1.組換えベクターの作製
PTL遺伝子を含む組換えベクターは、公知のベクターにPTL遺伝子を連結(挿入)することによって得ることができる。前記ベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を用いることができる。
【0038】
前記プラスミドベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322, pUC18, pUC119, pTrcHis, pBlueBacHis等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50, pYE52等)が挙げられる。ファージベクターとしては、λファージ等が挙げられる。さらに、レトロウイルス、ワクシニアウイルスのような動物ウイルスベクター、バキュロウイルスのような昆虫ウイルスベクター、ジャガイモエックスウイルスのような植物ウイルスベクター等を用いてもよい。
【0039】
前記ベクターへのPTL遺伝子の挿入は、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、ベクターDNAの適当な制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法が採用される。
【0040】
PTL遺伝子は、その遺伝子の機能を好適に発揮できるようにベクターに組み込む必要がある。そのために、ベクターには、PTL遺伝子の他に、プロモーター、必要であればエンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選抜マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)等を含有させることができる。選抜マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等を挙げることができる。
【0041】
組換えベクターは、PTL遺伝子を開始コドンから直接発現させるものでも、融合タンパク質として発現させるものでもよい。さらには、PTL遺伝子を含むDNA断片を発現させてもよい。
【0042】
2.形質転換体の作出
PTL遺伝子を導入した形質転換体は、上述の組換えベクターをPTL遺伝子が発現しうる態様で宿主中に導入することによって得ることができる。宿主としては、PTL遺伝子を発現できるものであれば特に限定されない。例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロテイ(Rhizobium melilotei)等のリゾビウム属に属する細菌、サッカロミセス・セルビシエ(Saccharomyce scervisiae)、サッカロミセス・ポンベ(S.pombe)等の酵母、サル細胞(COS細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)等の動物細胞、Sf19、Sf21等の昆虫細胞、カイコ(Bombyx mori)等の昆虫、並びに大豆(Glycine max)、ウキクサ(Spirodela polyrhiza)等の植物を挙げることができる。
【0043】
大腸菌等の細菌を宿主とする場合、組換えベクターは、各細菌中で自律複製可能であるとともに、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子及び転写終結配列により構成されていることが望ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。大腸菌としては、エッシェリヒア・コリ(E.coli)K12、DH1、TOP10F等が挙げられ、枯草菌としては、バチルス・ズブチリス(B.subtilis)MI114、207−21等が挙げられる。
【0044】
前記プロモーターとしては、大腸菌等の宿主で発現できるものであれば特に限定されない。例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の大腸菌由来のプロモーターを用いることができる。人為的に設計されたtacプロモーター等のプロモーターを用いてもよい。
【0045】
組換えベクターの大腸菌等の細菌への導入方法は、細菌にDNAを導入できる方法であれば特に限定されない。例えば、カルシウムイオンを用いる方法(Cohen, S.N. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69:2110 (1972))、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0046】
酵母を宿主とする場合、例えばサッカロミセス・セルビシエ(S.cervisiae)、サッカロミセス・ポンベ(S.pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)等が用いられる。プロモーターとしては、酵母で発現できるものであれば特に限定されない。例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOXプロモーター等を挙げることができる。
【0047】
組換えベクターの酵母への導入方法は、酵母にDNAを導入しうる方法であれば特に限定されない。例えば、エレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al.:Methods. Enzymol.,194: 180 (1990))、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et al.:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75:1929 (1978))、酢酸リチウム法(Itoh, H.: J.Bacteriol.,153:163 (1983))等を挙げることができる。
【0048】
動物細胞を宿主とする場合、サル細胞(COS−7)、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞等が用いられる。プロモーターとしては、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられる。
【0049】
組換えベクターの動物細胞への導入方法は、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0050】
昆虫細胞を宿主とする場合、Sf9細胞、Sf21細胞等が用いられる。プロモーターとしては、ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター等が用いられる。
【0051】
組換えベクターの昆虫細胞への導入方法は、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、バキュロウイルス法等が用いられる。
【0052】
昆虫を宿種とする場合、カイコ等が用いられる。プロモーターとしては、ポリヘドリンプロモーター、人為的に設計されたE−vp39puロモーター等が用いられる。
【0053】
組換えベクターの昆虫への導入方法は、例えばバキュロウイルス法、卵への顕微注射等が用いられる。
【0054】
植物を宿種とする場合、大豆、ウキクサ、トウモロコシ等が用いられる。プロモーターとしては、35Sプロモーター、NOSプロモーター等が用いられる。
【0055】
組換えベクターの植物への導入方法は、例えばアグロバクテリウム法、パーティクルガン法等が用いられる。
【0056】
3.組換えPTLタンパク質の生産
PTLタンパク質は、前項(2.形質転換体の作出)で記載の形質転換体を培養又は生育し、その培養物から該タンパク質を採取することによって得ることができる。形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。或いは前項(1.組換えベクターの作製)で記載の組換えベクターを無細胞タンパク質合成系に供し、インビトロでタンパク質又はペプチドを発現させることによって得ることもできる。
【0057】
大腸菌、酵母等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化しうる炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体を効率的に培養しうる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0058】
炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン、マルトース、デキストリン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としてはアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩若しくはその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、NZアミン等が用いられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム、硫酸亜鉛、塩化コバルト等が用いられる。
【0059】
培養は、通常、振とう培養又は通気攪拌培養等の好気的条件下で、温度は約15℃〜40℃で、培養時間は3〜24時間行う。培養期間中、pHは5.0〜8.0に保持する。pHの調製は、無機又は有機の酸、アルカリ溶液による。
【0060】
培養中には、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のものを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合、イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合、インドールアクリル酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0061】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般的に使用されているRPMl1640培地、DMEM培地等、これらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が挙げられる。培養は、通常、5%CO2存在下、20〜37℃で1〜7日間行う。培養中、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0062】
昆虫細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、Grace’s Insect Medium(Grace,T.C.C.:Nature, 195:788 (1962))等に牛胎児血清等を添加した培地が挙げられる。培養は、通常25℃で1〜7日間行う。培養期間中、pHは6.0〜7.0に保持し、必要に応じて通気や攪拌を加える。
【0063】
培養後、本発明のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合、菌体又は細胞を破砕する。一方、本発明のタンパク質が菌体外又は細胞外に分泌される場合、培養液をそのまま用いるか、遠心分離等によって菌体又は細胞を除去した後に上清を得る。タンパク質の単離・精製には、一般的に、例えば硫酸アンモニウム沈澱、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独であるいは適宜組み合わせて用いることにより、上記の培養物(細胞破砕液、培養液、又はそれらの上清)から本発明の組換えPTLタンパク質を単離・精製することができる。
【0064】
無細胞タンパク質合成系としては、大腸菌抽出液、コムギ胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、昆虫細胞抽出液、哺乳細胞抽出液、インビトロタンパク質合成キット等が用いられる。
【0065】
以上に説明したように、PTL遺伝子を用いることで、PTLを遺伝子工学的に生産することができかつ、安定的、効率的に得ることができる。
【0066】
また、遺伝子工学技術により組換えPTLタンパク質又はペプチドにレクチン以外の機能を持った公知のタンパク質、例えば抗体のFc鎖やオワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein, GFP)等を融合させることが容易におこなえる。これにより、天然物にはない有用な機能を持つPTLの製造が可能になる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕(ツチスギタケ由来のレクチン遺伝子のクローニング)
本発明者らは、先のPCT/JP2009/003346(発明の名称:α1→6フコース特異的レクチン)にPTLのアミノ酸配列をProtein Peptide Sequencer PPSQ−21 System((株)島津製作所製)を用いて解析した結果を示した。得られたN末端のアミノ酸配列を基に、5’RACE法及び3’RACE法により、レクチン遺伝子のクローニングを、以下の手順で試みた。
【0068】
(mRNAの抽出)
ツチスギタケ子実体を、乳鉢と乳棒により液体窒素中で破砕した。100mgの破砕サンプルにトリゾル試薬(Invitrogen社製)を1mL加え、全RNAを抽出した。全RNAからのmRNAの精製は、Poly(A)+ Isolation キット from Total RNA(NIPPON GENE社製)を用いて、該当キットの説明書に従いmRNAを精製した。
【0069】
(cDNA合成)
精製したmRNAからの2本鎖cDNA合成は、マラソン(登録商標) cDNA アンプリフィケーション キット(Clontech社製)を用いて行った。すなわち、2.5μLのmRNA溶液(460ng)に、付属のcDNA Synthesis プライマー溶液(10μM)を0.5μL加えた。溶液を、70℃で2分間加熱後、氷上で2分間静置した。続いて、表3に記載の反応組成にて、42℃で1時間反応させ、1本鎖cDNA反応液を調製した。
【0070】
【表3】
【0071】
この1本鎖cDNA反応液を、表4に記載の反応組成にて16℃で1.5時間反応させた。
【0072】
【表4】
【0073】
さらに1μLのT4 DNA ポリメラーゼ(3 units)を加えて、16℃で45分間反応させた。続いて、2μLのEDTA/glycogen溶液を添加し、2本鎖cDNA合成反応を停止させた。この反応液に、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)溶液を50μL加え混和した。遠心分離(14,000rpm、10min、25℃)後、水層を回収した。回収した水層に、クロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)溶液を50μL加え混和した。遠心分離(14,000rpm、10min、25℃)後、水層を回収した。回収した溶液に、1/2倍量の4M 酢酸アンモニウム溶液と2.5倍量の95% エタノールを加えて混和した。遠心分離(14,000rpm、20min、25℃)し、cDNAを沈殿させた。上清を除いた沈殿物に、80% エタノールを150μL加え、沈殿を洗浄した。遠心分離(14,000rpm、10min、25℃)後、上清を除き、沈殿物を乾燥させた。乾燥させた沈殿物を5μLの滅菌水で溶解することにより、2本鎖cDNA溶液を調製した。
【0074】
(2本鎖cDNAへのアダプター配列の付加)
調製した2本鎖cDNAへのアダプター配列の付加は、マラソン(登録商標) cDNA アンプリフィケーション キット(Clontech社製)に付属しているアダプターを用いて行った。すなわち、2.5μLの2本鎖cDNA溶液を、表5に記載の反応組成にて、16℃で1晩反応させ、アダプター配列が付加した2本鎖cDNA(アダプター配列付加2本鎖cDNA溶液)を調製した。
【0075】
【表5】
【0076】
(縮重プライマーの設計)
ペプチドシーケンンサー:Protein Peptide Sequencer PPSQ−21 System((株)島津製作所製)で解析したPTLのN末端部分アミノ酸配列を基に、縮重プライマーを作製した。表6に示す4種類のプライマーを作製した。NGSP_sence_PTL及びNGSP_antisence_PTLは、それぞれ、GSP_sence_PTL及びGSP_antisence_PTLの内側の配列を基に作製した。
【0077】
【表6】
【0078】
(一次PCR)
PCRは、Takara Ex−Taq(登録商標)(タカラバイオ株式会社製)を用いて行った。まず、先に得られたcDNAを鋳型として、マラソン(登録商標) cDNA アンプリフィケーション キット(Clontech社製)に付属しているアダプタープライマーとGSP_sence_PTL(5’RACE)又はGSP_antisence_PTL(3’RACE)を用いて、表7に記載の反応組成及び表8に記載の反応条件で、一次PCRを行った。一次PCR産物は、分析時まで4℃に保存した。一次PCRによって、DNA断片が増幅されたことを、PCR産物のアガロース電気泳動、及びエチジウムブロマイド染色にて確認した。
【0079】
【表7】
【0080】
【表8】
【0081】
(二次PCR)
次に、増幅されたDNA断片を鋳型としてマラソン(登録商標) cDNA アンプリフィケーション キット(Clontech社製)に付属しているnested−アダプタープライマーとNGSP_sence_PTL(5’RACE)又はNGSP_antisence_PTL(3’RACE)を用いて、表9に記載の反応組成及び表10に記載の反応条件で、二次PCR(nested−PCR)を行った。二次PCR産物は、分析時まで4℃に保存した。
【0082】
【表9】
【0083】
【表10】
【0084】
二次PCRによってDNA断片が増幅されたことを、PCR産物のアガロース電気泳動並びにエチジウムブロマイド染色にて確認した。結果を図2に示す。得られたDNA断片の塩基配列を決定するために、以下の手順でサブクローニングを行った。
【0085】
(サブクローニング)
得られたDNA断片を、pGEM−T easy ベクター(Promega社製)を用いて、TAクローニングした。まず、表11に記載の反応液を調製し、室温で1時間反応させた。
【0086】
【表11】
【0087】
次に、ライゲーション反応液1μLを、氷上で融解したE.coli DH5α Electro−Cells(タカラバイオ株式会社製)40μLと混合してエレクトロポレーションを行った。その後、SOC培地(タカラバイオ株式会社製)を500μL添加して、37℃で1時間振とう培養した。振とう培養後の培養液を、LB寒天培地(アンピシリン、イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)、X−gal配合)に展開した。37℃で16時間培養し、形質転換したコロニーを形成させた。
【0088】
PCRは、2×PCR Master Mix(Promega社製)を用いて、マルチクローニングサイトを増幅するように設計されたプライマーセット(M13 フォワード及びM13 リバース)(Sigma−Aldrich社製)を用いて行った。まず、形質転換されたコロニーを、滅菌した爪楊枝で掻き取り、表12記載の反応液中に懸濁した。表13に記載の反応条件でPCRを行った。PCR産物は、分析時まで4℃に保存した。PCR産物を、アガロース電気泳動並びにエチジウムブロマイド染色にて1000bp以下のDNA断片が組み込まれているクローンを選択した。
【0089】
【表12】
【0090】
【表13】
【0091】
アンピシリンを50μg/mL含むLB液体培地2mLに、上記で選択されたコロニーを植菌して、37℃にて16時間振とう培養した。培養後、遠心分離(14,000rpm、1min、4℃)により菌体を集菌した。得られた菌体からのプラスミド抽出は、市販のQIAprep Spin Miniprep キット(QIAGEN社製)を用いて行った。操作は、その説明書に従った。
【0092】
(塩基配列の決定)
こうして精製されたプラスミドを用いて、挿入された5’RACE並びに3’RACEによるDNA断片の塩基配列を決定した。塩基配列の決定には、DNAシーケンサーを用いた。すなわち、Dye Terminater法とキャピラリーシーケンスによるCEQTM 8000 Genetic Analysis System (BECKMAN COULTER社製)を用いて、塩基配列を決定した。
【0093】
得られたプラスミドを、100−200ng/μLになるように調製した。サイクルシーケンシングは、DTCS クイックスタートマスターミックス キット(BECKMAN COULTER社製)を用いて行った。操作はその説明書に従った。PCR反応は、表14及び表15記載の条件で行った。プライマーは、M13 フォワード及びM13 リバースを、適宜使用した。
【0094】
【表14】
【0095】
【表15】
【0096】
サイクルシーケンス終了後に、表16に記載の反応停止液を5μL添加した。続いて、100%エタノールを60μL加え、撹拌した。
【0097】
【表16】
【0098】
反応産物を、遠心分離(14,000rpm、20min、4℃)した。上清を除き70%エタノールを200μL加えた。再度遠心分離(14,000rpm、20min、4℃)により、沈殿物を洗浄した。この操作を、2回繰り返した。沈殿物を風乾させ、キット付属のサンプルローディングソリューション(BECKMAN COULTER社製)を40μL添加し、沈殿物を溶解させた。溶解サンプルを全量CEQサンプルプレートに移した。各ウェルにミネラルオイルを1滴ずつ滴下し、キャピラリーシーケンスを行った。
【0099】
5’RACE並びに3’RACEを解析した蛍光パターンの結果から、PTL cDNAの全長配列(図1、配列番号1)が決定された。
【0100】
cDNAの全長配列をコドン表に基づいて変換したアミノ酸配列(図1、配列番号2)は、開始コドン(ATG)から停止コドン(TAA)まで、180個のアミノ酸をコードする塩基配列を含んでいた。このアミノ酸配列は、先に精製したPTLのN末端アミノ酸配列分析結果(40アミノ酸残基)と非常に相同性の高い配列が3ヶ所存在していることが明らかとなった。これらの相同性の高い配列を、5’側から順にCRD1、CRD2及びCRD3と命名した。
【0101】
BLASTを用いて、得られた180残基のアミノ酸配列を公知のアミノ酸配列と比較したところ、有意な相同性を示したタンパク質は確認されなかった。
【0102】
〔実施例2〕(組換えPTLの大腸菌での発現1)
上記で得られた全長配列のコーディング領域に、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を付加し発現させた。まず、表2に示すrPTL0の塩基配列の遺伝子断片に制限酵素配列を付加し、pET27bベクター(Novagen社製)のHisタグ配列の上流へ挿入した。
【0103】
作製したpET27b/PTL0プラスミドを大腸菌One Shot BL21 Star (DE3)(Invitrogen社製)へ形質転換した。形質転換された大腸菌を、LB寒天培地(カナマイシン含有)に展開し、37℃で16時間培養を行った。得られた単一コロニーを、LB液体培地(カナマイシン含有)に植菌して、37℃にて16時間振とう培養した。LB液体培地(カナマイシン含有)に前培養液を、全量添加した。波長600nmの吸光度が0.6〜1.0となるまで37℃で培養した。最終濃度1mMとなるようにIPTGを加えた。さらに、25℃にて24時間培養後、菌体を遠心分離(5000g,20min,4℃)により集菌した。菌体ペレットに10mM リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4、以後PBSと記載する)を加え懸濁した。超音波破砕処理にて、菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離(8500g,30min,4℃)により上清を回収した。
【0104】
(Hisタグによる精製)
得られた上清を、HiTrap Chelating HP(GE ヘルスケアバイオサイエンス社製)にて、表2に示すrPTL7のアフィニティー精製を行った。精製結果を、図3に示す。予想通りの22kDaのバンドを検出した。以上のことから、pET27b/PTL0プラスミドから、rPTL7の発現を確認し、そしてrPTL7を精製することができた。
【0105】
〔実施例3〕(組換えPTLの大腸菌での発現2)
上記で得られた全長配列のうち、PTLのN末端アミノ酸配列と相同性の高い領域を発現させた。まず、表2に示すrPTL1、rPTL2及びrPTL3の3種類の塩基配列の遺伝子断片に、停止コドン(TAA)と制限酵素配列を付加した。pET51bベクター(Novagen社製)のStrep・Tag(登録商標)II配列の下流へ挿入して、3種類の組換えベクターを作製した。
【0106】
作製した3種類のpET51b/PTLプラスミドをそれぞれ、エレクトロポレーションにより大腸菌BL21−コドンプラス(商標登録)(DE3)−RILへ形質転換した。形質転換された大腸菌を、LB寒天培地(アンピシリン含有)に展開し、37℃で16時間培養を行った。得られた単一コロニーを、LB液体培地(アンピシリン含有)に植菌して、37℃にて16時間、振とう培養した。LB液体培地(アンピシリン含有)に前培養液を、全量添加した。波長600nmの吸光度が0.6〜1.0となるまで37℃で培養した。最終濃度1mMとなるようにIPTGを加えた。さらに、25℃にて24時間培養後、菌体を遠心分離(5000g,20min,4℃)により集菌した。菌体ペレットにPBSを加え懸濁した。超音波破砕処理にて菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離(8500g,30min,4℃)により上清を回収した。
【0107】
(Strep・Tactin superflow columnによる精製)
得られた上清を、Strep・Tactin(登録商標) superflow column(Novagen社製)にて、表2に示すrPTL8、rPTL9及びrPTL10のアフィニティー精製を行った。精製結果を、図4に示す。予想通りの7.3kDa、13.2kDa、18.3kDaのバンドを検出した。以上のことから、rPTL8、rPTL9、及びrPTL10の発現を確認し、そしてrPTL8、rPTL9及びrPTL10を精製することができた。
【0108】
〔実施例4〕(組換えPTLの大腸菌での発現3)
上記で得られた全長配列のうち、PTLのN末端アミノ酸配列と相同性の高い領域のみを発現させた。まず、表2に示すrPTL1〜6の6種類の塩基配列の遺伝子断片の前後に、開始コドン(ATG)と停止コドン(TAA)並びに制限酵素配列を付加した。タグ配列を除いたpET51bベクター(Novagen社製)へ挿入して、6種類の組換えベクターを作製した。
【0109】
実施例3と同様の操作を行い、上清を回収した。
【0110】
(アフィニティークロマトグラフィーによる精製)
得られた上清を、PBSで平衡化したチログロブリン固定化アガロースに供した。PBSでカラムを洗浄後、0.2Mアンモニアで溶出した。溶出した画分を、SDS−PAGE及びCBB染色により解析した。その結果を図5に示す。予想通りそれぞれ、4.6kDa、10.5kDa、15.6kDa、4.6kDa、9.7kDa、4.5kDaのバンドを検出した。以上のことから、rPTL1〜6の発現を確認し、そしてrPTL1〜6を精製することができた。
【0111】
〔実施例5〕(糖タンパク質アレイ)
フコースα1→6糖鎖を持つ糖タンパク質してチログロブリンを用意し、またフコースα1→6糖鎖を持たない糖タンパク質としてトランスフェリンを用意した。これら糖タンパク質をガラス基板に固定化し、GlycoStationTM Reader 1200(GPバイオサイエンス社製)を用いて糖タンパク質アレイを行った。まず、精製した組換えPTLを、Cy3 Mono−Reactive Dye Pack(GE ヘルスケアバイオサイエンス社製)の説明書に従ってCy3標識した。500mM グリシン、1% Triton X − 100、 1mM CaCl2、 1mM ZnCl2、0.8% NaClを含むトリス緩衝液(pH7.4、以下Probing bufferと記載する)中に標識化組換えPTLを懸濁させ、糖タンパク質を固定化したガラス基板に標識化組換えPTLを供した。20℃で一晩反応させた後、Probing bufferでガラス基板を洗浄した。
【0112】
洗浄後のガラス基板をGlycoStationTM Reader 1200に供し、固定化糖タンパク質とCy3標識した組換えPTLとの結合を解析した。その結果を、図6に示す。
【0113】
図6から、全ての組換えPTLにおいて、フコースα1→6糖鎖を持つ糖タンパク質に結合し、かつフコースα1→6糖鎖を持たない糖タンパク質には結合しないことがわかる。
【0114】
〔実施例6〕(Strep・Tag(登録商標)II配列の除去及び糖タンパク質への特異性解析)
rPTL8のN末端に付加させたStrep・Tag(登録商標)II配列をRecombinant Enterokinase(Novagen社製)により除去した。まず、精製したrPTL8を表17記載の反応組成にて、室温で一晩反応させた。反応後の溶液を実施例5と同様の操作を行い、糖タンパク質アレイにて特異性を解析した。その結果を、図7に示す。
【0115】
【表17】
【0116】
図7から、Strep・Tag(登録商標)II配列を除去したrPTLにおいても、フコースα1→6糖鎖を持つ糖タンパク質に結合し、かつフコースα1→6糖鎖を持たない糖タンパク質には結合しないことがわかる。このように、タグ配列によるアフィニティー精製後に、タグ配列を除去することで、タグ配列等の余分な配列を含まないrPTLの製造が可能である。
【0117】
さらに、rPTL8よりStrep・Tag(登録商標)II配列を除去したrPTL8の方が、フコースα1→6糖鎖を持つ糖タンパク質への蛍光強度が増加した。このことは、rPTLの活性を最大限発揮する上で、タグ配列などの余分な配列が付加していないほうが好ましい場合もあることを意味する。
【0118】
〔実施例7〕(フロンタルアフィニティクロマトグラフィー)
図8に示す構造のピリジルアミノ(PA)化糖鎖を用意した。FAC−1(島津製作所製)を用いて、フロンタルアフィニティクロマトグラフィーを行った。まず、rPTL1〜3を、NHS−活性化セファロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)の説明書に従って、rPTL−セファロースを作製した。0.8% NaClを含む10mM トリス緩衝液(pH7.4、以下TBSと記載する)中に、rPTL−セファロースを懸濁させ、ミニチュアカラム(φ2mm x 10mm, 31.4μL)に充填した。作製したカラムを、ステンレスホルダーに差し込み、FAC−1装置に接続した。流速及びカラム温度を、それぞれ0.125ml/min及び25℃に保った。前記TBSでミニチュアカラムを平衡後、過剰容積(0.5ml〜4ml)のPA化糖鎖(3.75nM又は7.5nM)を、自動サンプリング装置あるいは手動インジェクション装置を用いてカラム中へ注入した。
【0119】
各PA化糖鎖の溶出液の蛍光強度(励起波長310nm及び蛍光波長380nm)をモニターし、相互作用強度〔標準オリゴ糖(糖鎖No.003)に対する前端溶出液の差:V−V0〕を測定した。相互作用強度及び有効リガンド量から結合定数Kaを求めた。その結果を、表18、19及び20A〜20Eに示す。
【0120】
【表18】
【0121】
【表19】
【0122】
【表20A】
【0123】
【表20B】
【0124】
【表20C】
【0125】
【表20D】
【0126】
【表20E】
【0127】
表18〜20から以下のことがわかる。3種類のrPTLとも、フコースα1→6糖鎖に対する結合定数はKa=1.0×105M−1以上となり、強く結合していることがわかる。また、非フコースα1→6糖鎖やフコースを持たない糖鎖に対する結合定数がKa=5.15×103M−1以下であることは、rPTLがこれら糖鎖に結合しないことを意味している。さらに、フコースα1→6糖鎖の三本鎖(糖鎖No.410)や四本鎖(糖鎖No.418)にも強く結合し、シアル酸が付加されているフコースα1→6糖鎖(糖鎖No.602)の結合定数が下がっていない。このことは、従来のフコースα1→6糖鎖に結合するレクチンより優れていることを意味している。
【0128】
また、CRD1、CRD2及びCRD3のいずれにも、フコースα1→6糖鎖に結合しうることから、これらの配列を任意に組み合わせることで、フコースα1→6糖鎖に高い親和性を有する組換えタンパク質又はペプチドを製造できることが容易に推定できる。
【0129】
〔実施例8〕(サケツバタケ由来のレクチン遺伝子のクローニング)
サケツバタケ子実体を原料に、実施例1と同様の操作を行い、塩基配列を決定した。解析結果から、サケツバタケ由来レクチン(以下、SRLと記載)cDNAの全長配列(図9、配列番号7)が決定された。SRLの全長配列をコドン表に基づいて変換したアミノ酸配列(図9、配列番号8)は、開始コドン(ATG)から停止コドン(TAA)まで、179個のアミノ酸をコードしていた。また、PTL cDNAからのアミノ酸配列と比較したところ、2ヶ所のアミノ酸欠失、及び1ヶ所のアミノ酸付加、並びに59ヶ所のアミノ酸置換が確認された。
【0130】
また、アミノ酸配列の相同性から、SRLのPTLのCRD1〜3に相当する部位を同定した。SRLとPTLの各CRD間の相同性を表21に示す。いずれのCRD間で64%以上の相同性があった。さらに、PTLとSRLの同一のCRD間の相同性は、74%以上であった。
【0131】
【表21】
【0132】
表21から、PTLと同様に、以下の(1)又は(2)のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子もまた、糖結合活性を有する遺伝子であると予測される。
(1)配列番号8の1〜179番、30〜68番、30〜123番、30〜172番、85〜123番、85〜172番、及び134〜172番のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
(2)配列番号8の1〜179番、30〜68番、30〜123番、30〜172番、85〜123番、85〜172番、及び134〜172番のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖認識活性を有するタンパク質又はペプチド。
上記7種類のアミノ酸配列の範囲の意味づけを表22に示す。
【0133】
【表22】
【0134】
〔実施例9〕(組換えSRL(rSRL)の大腸菌での発現と精製)
実施例2と同様の操作を行い、rSRL0(全長cDNA)を得た。その結果を、図10に示す。予想通りの15.6kDaのバンドを検出した。以上のことから、rSRLの発現を確認し、そしてrSRLを精製することができた。
【0135】
〔実施例10〕(糖タンパク質アレイ)
実施例5と同様の操作を行い、rSRLの特異性を解析した。その結果を、図11に示す。図11から、rSRLは、フコースα1→6糖鎖を持つ糖タンパク質に結合し、かつフコースα1→6糖鎖を持たない糖タンパク質には結合しないことがわかる。
【0136】
本発明者らは、先のPCT/JP2009/003346(発明の名称:α1→6フコース特異的レクチン)において、PTL及びSRLがα1→6フコース特異的レクチンであることを示した。本発明においても、rPTL及びrSRLが、α1→6フコース特異的に認識することを示した。以上のことから、rSRLをコードする遺伝子が、タンパク質又はペプチドのアミノ酸欠失、及びアミノ酸付加、並びにアミノ酸置換体をコードする本発明の遺伝子の一例とみなすことができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖認識活性を有するタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子に関し、より詳細にはα1→6フコース特異的に認識するタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子とその遺伝子工学的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N結合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースをα1→6結合として転移させるフコースα1→6転移酵素(α1→6FucT)の遺伝子は、肝細胞の癌化にともなって発現することが知られている。この癌化した肝細胞の有無は、フコースに親和性をもつレンズマメレクチン(LCA)を用いたレクチン親和電気泳動で検出できる。
【0003】
従来、フコースα1→6糖鎖と親和性を有するレクチンとして、上記LCAの他に、エンドウマメレクチン(PSA)、ヒイロチャワンタケレクチン(AAL)、ラッパスイセンレクチン(NPA)、ソラマメレクチン(VFA)、麹菌レクチン(AOL)等が知られている(特許文献1〜5)。
【0004】
しかし、上記の公知のレクチンは、フコースα1→6糖鎖の他にも、α1→6結合以外のフコースを持つ糖脂質系糖鎖にも親和性を示し、3本鎖以上のフコースα1→6糖鎖へは親和性を示さない。具体的には、AAL及びAOLは、フコースα1→2、フコースα1→3等にも親和性を有する。LCA、PSA及びVFAは、3本鎖以上のフコースα1→6糖鎖への親和性を有していない。
【0005】
本発明者らは、担子菌に由来し、フコースα1→6糖鎖に特異的に結合する新規レクチンを発見し、その製造方法、並びに該レクチンを用いた糖鎖の検出及び分別方法に利用できることを明らかにした(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2002/030954
【特許文献2】WO2003/084569
【特許文献3】特開平02−083337の実施例
【特許文献4】特開2002−112786の実施例5
【特許文献5】特開2007−161633
【特許文献6】PCT/JP2009/003346
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが天然物から取得したα1→6フコース特異的レクチンを、遺伝子工学的手法を用いた組換えタンパクとして安定に製造することができれば、α1→6フコース特異的レクチンの利用度が向上する。そこで、本発明の目的は、本発明者らが担子菌から新規に単離したα1→6フコース特異的レクチンをコードする遺伝子、及びその遺伝子に基づいてα1→6フコース特異的に認識するタンパク質又はペプチドを遺伝子工学的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、ツチスギタケ由来のレクチン(ツチスギタケレクチン、以下、PTLと記載する)の部分アミノ酸配列を基に、Rapid Amplification of cDNA end法(以下、RACE法と記載する)を利用して該レクチンをコードする遺伝子の完全長cDNAをクローニングし、その塩基配列を決定することに成功した。すなわち、本発明は、以下の(1)又は(2)のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子:
(1)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
(2)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖認識活性を有するタンパク質又はペプチドを提供する。
【0009】
前記配列番号2のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、例えば配列番号1で示される。
【0010】
本発明は、また、上記遺伝子を含有する組換えベクターを提供する。
【0011】
本発明は、また、上記組換えベクターを宿主に導入して得られる形質転換体を提供する。
【0012】
本発明は、また、上記形質転換体から発現した組換えタンパク質又はペプチドを提供する。
【0013】
本発明は、また、上記形質転換体を培養又は生育することを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法である。
【0014】
本発明は、また、上記組換えベクターを、無細胞タンパク質合成系に供して組換えタンパク質又はペプチドを発現(すなわち、インビトロの転写と翻訳)させることを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法である。
【0015】
本発明は、また、上記で得られた組換えタンパク質又はペプチドを、タグ配列及び/又は糖認識活性を介したアフィニティー精製にかけることを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、PTLをコードする遺伝子が提供される。遺伝子を利用すれば、PTLの大量生産が可能になる。PTLは、フコースα1→6糖鎖を特異的に検出できることから、フコースα1→6糖鎖の特異的結合剤や糖鎖研究用試薬をはじめとして、フコースα1→6糖鎖が関係する腫瘍マーカーの正確な検出、予後判定、治療効果判定、並びに新規な腫瘍マーカーの探索等にも有用である。本発明により、糖認識部位を1個又は複数持つ組換えタンパク質又はペプチドの作製が可能になる。糖認識部位の数を変えることにより、細胞又は糖タンパク質の凝集を制御できることから、今までのレクチンでは困難であった検出手法への応用も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】PTL遺伝子全長配列図を示す。
【図2】PCR産物のアガロース電気泳動を示す。
【図3】rPTL7のSDS電気泳動図を示す。
【図4】rPTL8〜10のSDS電気泳動図を示す。
【図5】rPTL1〜6のSDS電気泳動図を示す。
【図6】rPTLの糖タンパク質アレイ図を示す。
【図7】Strep・TagII除去rPTLによる糖タンパク質アレイを示す。
【図8A】PA化糖鎖の構造図を示す。
【図8B】PA化糖鎖の構造図を示す。
【図9】SRL遺伝子全長配列を時雌。
【図10】rSRLのSDS電気泳動図を示す。
【図11】rSRLの糖タンパク質アレイを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
(A.ツチスギタケレクチン)
ツチスギタケは、担子菌モエギタケ科に属するキノコの一種である。レクチンは、生物界に広く存在し、糖を特異的に認識して結合するタンパク質の総称である。分子内サブドメイン内に糖認識サイトを一つしか持っていない場合でも、多くの分子は多量体を形成するため、糖鎖分子を介した架橋形成能を有する。
【0019】
PTLは、本発明者らがツチスギタケの子実体より抽出・精製し、その物性とN末端のアミノ酸配列を明らかにした(特許文献6)。それによれば、PTLは、ドデシル硫酸ナトリウム電気泳動法(以下、SDS電気泳動法と記載する)による分子量が4,000〜40,000であり、またフコースα1→6糖鎖に対する結合定数が1.0×104M−1以上である。PTLは、フコースα1→6糖鎖の非還元末端にシアル酸を有するものに対しても親和性が高い。従来のフコースα1→6特異的レクチン(例えばLCA、NPA及びPSA)は、非還元末端にシアル酸を有するフコースα1→6糖鎖に対する親和性が低い。このことは、PTLが従来のレクチンより優れていることを意味する。
【0020】
(B.PTL遺伝子のクローニング)
PTLをコードする遺伝子(以下、PTL遺伝子と記載する)は、すでに特定されているN末端部分のアミノ酸配列に基づき、ツチスギタケのcDNAあるいはcDNAライブラリーから周知の方法に従ってクローニングすることができる。例えば、cDNAに対して、上記部分アミノ酸配列から作製されるプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと記載する)を行い、得られた増幅断片によりツチスギタケcDNAライブラリーから目的とするPTL遺伝子をクローニングする。あるいは、cDNAライブラリーを作製することなく、RACE法を利用してcDNAから目的のPTL遺伝子をクローニングする。一般に、cDNAライブラリーからの全長cDNAの取得は困難であることが多く、ここではRACE法によるクローニングについて説明する。
【0021】
1.mRNAの抽出
まず、ツチスギタケよりmRNAを調製する。mRNAの供給源は、ツチスギタケの傘、菌褶、菌輪、菌柄、脚苞、菌糸等子実体の一部であっても、子実体全体であってもよいが、子実体全体が好ましい。
【0022】
mRNAの抽出は、通常行われる手法により行うことができる。例えば、子実体全体を液体窒素で凍結する。次いで、凍結した子実体全体を粉砕後、トリゾル試薬(Invitrogen社製)等を加えて核酸を抽出する。あるいは、市販のキットであるMACS mRNA アイソレーションキット(Miltenyi Biotec社製)等を用いて抽出してもよい。抽出した核酸は、クロロホルム、フェノール試薬等で処理して全RNAを得る。次いで、オリゴ(dT)磁性ビーズと磁石、又はオリゴ(dT)−セルロース等を用いたアフィニティーカラム、若しくは全RNAからのPoly(A)+ アイソレーションキット (NIPPON GENE社製)等のキットにより、mRNA(Poly(A)+RNA)を調製する。
【0023】
2.cDNAの合成
こうして得られたmRNAを鋳型として、市販のキット、例えばマラソン(登録商標) cDNA アンプリフィケーション キット(Clontech社製)等を用いて、オリゴ(dT)プライマー及び逆転写酵素によって一本鎖cDNAを合成した後、一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成する。
【0024】
3.RACE法による完全長cDNAの取得
得られた二本鎖cDNAに、適切なアダプターを付加した後、アダプタープライマーと、例えば表6に示すような遺伝子特異的プライマー(Gene Specific Primer、以下GSPと記載する)を用いてPCRを行う。得られる5’−RACE産物、及び3’−RACE産物の末端の塩基配列を決定し、その配列から、新たに5’側及び3’側GSPを作製してPCRを行い、目的とする完全長cDNAを取得する。
【0025】
PTLの場合、N末端のアミノ酸配列を基に作製した縮重プライマーとアダプタープライマーによる一次PCR反応後に、さらに縮重プライマーの内側の配列を基に作製したnested縮重プライマーとnested−アダプタープライマーによる二次PCR反応を行い目的とするPTL cDNAを増幅する。
【0026】
4.塩基配列の決定
得られたPTL cDNAは、ダイレクトシークエンス法、あるいはpGEM−T easy ベクター(Promega社製)、pBlue Script SK(+)(Stratagene社製)、pCR2.1(Invitrogen社製)等の市販のプラスミドベクターにサブクローニングするサイクルシークエンス法により塩基配列解析を行う。塩基配列の決定は、マキサム−ギルバートの化学修飾法、M13ファージを用いるジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知の手法により行うことができる。自動塩基配列解析装置(BECKMAN COULTER社製:CEQTM 8000 Genetic Analysis System等)を用いる方法が簡便で好ましい。
【0027】
(C.PTL遺伝子)
上記の方法により単離されるPTL遺伝子(cDNA)は、配列番号1に示す695塩基からなる塩基配列を有する。配列番号1の塩基配列は、コドン表に基づいて配列番号2に示す180アミノ酸残基に変換される。図1にアミノ酸配列の特徴を示す。図1中、糖認識ドメイン(Carbohydrate Recognition Domain)と見なされるCRD1、CRD2及びCRD3の部分配列は、天然PTLのN末端アミノ酸配列の分析結果(40アミノ酸残基)と相同性が非常に高い(80%以上)。さらに、これらのペプチド同士の相同性もまた、表1に示すように非常に高い。
【0028】
【表1】
【0029】
上記したように、CRD1、CRD2及びCRD3は、ツチスギタケ由来のレクチンのN末端アミノ酸配列や他のCRDと相同性が高い。また、実施例5並びに7に示すように、CRD1、CRD1+CRD2、CRD1+CRD2+CRD3、CRD2、CRD2+CRD3、並びにCRD3、のいずれも、α1→6フコース特異的に認識するタンパク質又はペプチドであることが判明している。
【0030】
したがって、本発明の遺伝子は、以下の(1)又は(2)のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子と定義することができる。
(1)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
(2)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖認識活性を有するタンパク質又はペプチド。
アミノ酸配列及び塩基配列の範囲の意味づけを表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
本発明のPTL遺伝子は、また、配列番号1の20〜562番、113〜232番、113〜397番、113〜541番、278〜397番、278〜541番、及び422〜541番のいずれかで表される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる他のポリヌクレオチドであっても、本発明の糖認識活性を有するPTLタンパク質をコードする限り、本発明の遺伝子に含まれる。ここで、ストリンジェントな条件下とは、例えば、ナトリウム濃度が30mMかつ温度が65℃、好ましくはナトリウム濃度が10mMかつ温度が65℃の条件下をいう。
【0033】
なお、本明細書中において、「遺伝子」という用語には、DNAのみならずそのmRNA、cDNA及びcRNAも含むものとする。したがって、本発明の遺伝子には、常に配列表に示されるコーディング鎖とその相補鎖の両方が含まれ、該塩基配列を有するDNA、mRNA、cDNA、及びcRNAの全てが含まれる。また、配列表の塩基配列は、すべてDNA配列として記載するが、該配列がRNAを示す場合、配列表中の塩基記号「t」は、「u」に読み替えるものとする。
【0034】
一旦、PTL遺伝子とその塩基配列が確定されると、その後は、化学合成、ゲノムDNAを鋳型としたPCR、あるいは塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによってPTL遺伝子を取得することは、当業者には容易である。
【0035】
(D.組換えPTLタンパク質の製造)
本発明者らは、このPTLの効果的な精製法を開発した(特許文献6)。しかし、その方法は、天然に生息しているツチスギタケを原料として用いているため、天候や季節による原料確保の問題が含まれていた。
【0036】
PTLは、糖鎖研究用試薬への応用のほか、癌化に伴いフコースα1→6糖鎖が増加するという知見から、癌医療において腫瘍マーカーの正確な診断並びに、新規な腫瘍マーカーの探索等にも応用できることが期待される。したがって、遺伝子工学的にPTLを大量生産することができれば、それは極めて効率的な当該レクチンの取得方法となる。以下、本発明の遺伝子を利用した組換えタンパク質又はペプチドの製造方法について説明する。
【0037】
1.組換えベクターの作製
PTL遺伝子を含む組換えベクターは、公知のベクターにPTL遺伝子を連結(挿入)することによって得ることができる。前記ベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を用いることができる。
【0038】
前記プラスミドベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322, pUC18, pUC119, pTrcHis, pBlueBacHis等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50, pYE52等)が挙げられる。ファージベクターとしては、λファージ等が挙げられる。さらに、レトロウイルス、ワクシニアウイルスのような動物ウイルスベクター、バキュロウイルスのような昆虫ウイルスベクター、ジャガイモエックスウイルスのような植物ウイルスベクター等を用いてもよい。
【0039】
前記ベクターへのPTL遺伝子の挿入は、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、ベクターDNAの適当な制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法が採用される。
【0040】
PTL遺伝子は、その遺伝子の機能を好適に発揮できるようにベクターに組み込む必要がある。そのために、ベクターには、PTL遺伝子の他に、プロモーター、必要であればエンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選抜マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)等を含有させることができる。選抜マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等を挙げることができる。
【0041】
組換えベクターは、PTL遺伝子を開始コドンから直接発現させるものでも、融合タンパク質として発現させるものでもよい。さらには、PTL遺伝子を含むDNA断片を発現させてもよい。
【0042】
2.形質転換体の作出
PTL遺伝子を導入した形質転換体は、上述の組換えベクターをPTL遺伝子が発現しうる態様で宿主中に導入することによって得ることができる。宿主としては、PTL遺伝子を発現できるものであれば特に限定されない。例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロテイ(Rhizobium melilotei)等のリゾビウム属に属する細菌、サッカロミセス・セルビシエ(Saccharomyce scervisiae)、サッカロミセス・ポンベ(S.pombe)等の酵母、サル細胞(COS細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)等の動物細胞、Sf19、Sf21等の昆虫細胞、カイコ(Bombyx mori)等の昆虫、並びに大豆(Glycine max)、ウキクサ(Spirodela polyrhiza)等の植物を挙げることができる。
【0043】
大腸菌等の細菌を宿主とする場合、組換えベクターは、各細菌中で自律複製可能であるとともに、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子及び転写終結配列により構成されていることが望ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。大腸菌としては、エッシェリヒア・コリ(E.coli)K12、DH1、TOP10F等が挙げられ、枯草菌としては、バチルス・ズブチリス(B.subtilis)MI114、207−21等が挙げられる。
【0044】
前記プロモーターとしては、大腸菌等の宿主で発現できるものであれば特に限定されない。例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の大腸菌由来のプロモーターを用いることができる。人為的に設計されたtacプロモーター等のプロモーターを用いてもよい。
【0045】
組換えベクターの大腸菌等の細菌への導入方法は、細菌にDNAを導入できる方法であれば特に限定されない。例えば、カルシウムイオンを用いる方法(Cohen, S.N. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69:2110 (1972))、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0046】
酵母を宿主とする場合、例えばサッカロミセス・セルビシエ(S.cervisiae)、サッカロミセス・ポンベ(S.pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)等が用いられる。プロモーターとしては、酵母で発現できるものであれば特に限定されない。例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOXプロモーター等を挙げることができる。
【0047】
組換えベクターの酵母への導入方法は、酵母にDNAを導入しうる方法であれば特に限定されない。例えば、エレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al.:Methods. Enzymol.,194: 180 (1990))、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et al.:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75:1929 (1978))、酢酸リチウム法(Itoh, H.: J.Bacteriol.,153:163 (1983))等を挙げることができる。
【0048】
動物細胞を宿主とする場合、サル細胞(COS−7)、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞等が用いられる。プロモーターとしては、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられる。
【0049】
組換えベクターの動物細胞への導入方法は、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0050】
昆虫細胞を宿主とする場合、Sf9細胞、Sf21細胞等が用いられる。プロモーターとしては、ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター等が用いられる。
【0051】
組換えベクターの昆虫細胞への導入方法は、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、バキュロウイルス法等が用いられる。
【0052】
昆虫を宿種とする場合、カイコ等が用いられる。プロモーターとしては、ポリヘドリンプロモーター、人為的に設計されたE−vp39puロモーター等が用いられる。
【0053】
組換えベクターの昆虫への導入方法は、例えばバキュロウイルス法、卵への顕微注射等が用いられる。
【0054】
植物を宿種とする場合、大豆、ウキクサ、トウモロコシ等が用いられる。プロモーターとしては、35Sプロモーター、NOSプロモーター等が用いられる。
【0055】
組換えベクターの植物への導入方法は、例えばアグロバクテリウム法、パーティクルガン法等が用いられる。
【0056】
3.組換えPTLタンパク質の生産
PTLタンパク質は、前項(2.形質転換体の作出)で記載の形質転換体を培養又は生育し、その培養物から該タンパク質を採取することによって得ることができる。形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。或いは前項(1.組換えベクターの作製)で記載の組換えベクターを無細胞タンパク質合成系に供し、インビトロでタンパク質又はペプチドを発現させることによって得ることもできる。
【0057】
大腸菌、酵母等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化しうる炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体を効率的に培養しうる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0058】
炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン、マルトース、デキストリン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としてはアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩若しくはその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、NZアミン等が用いられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム、硫酸亜鉛、塩化コバルト等が用いられる。
【0059】
培養は、通常、振とう培養又は通気攪拌培養等の好気的条件下で、温度は約15℃〜40℃で、培養時間は3〜24時間行う。培養期間中、pHは5.0〜8.0に保持する。pHの調製は、無機又は有機の酸、アルカリ溶液による。
【0060】
培養中には、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のものを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合、イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合、インドールアクリル酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0061】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般的に使用されているRPMl1640培地、DMEM培地等、これらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が挙げられる。培養は、通常、5%CO2存在下、20〜37℃で1〜7日間行う。培養中、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0062】
昆虫細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、Grace’s Insect Medium(Grace,T.C.C.:Nature, 195:788 (1962))等に牛胎児血清等を添加した培地が挙げられる。培養は、通常25℃で1〜7日間行う。培養期間中、pHは6.0〜7.0に保持し、必要に応じて通気や攪拌を加える。
【0063】
培養後、本発明のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合、菌体又は細胞を破砕する。一方、本発明のタンパク質が菌体外又は細胞外に分泌される場合、培養液をそのまま用いるか、遠心分離等によって菌体又は細胞を除去した後に上清を得る。タンパク質の単離・精製には、一般的に、例えば硫酸アンモニウム沈澱、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独であるいは適宜組み合わせて用いることにより、上記の培養物(細胞破砕液、培養液、又はそれらの上清)から本発明の組換えPTLタンパク質を単離・精製することができる。
【0064】
無細胞タンパク質合成系としては、大腸菌抽出液、コムギ胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、昆虫細胞抽出液、哺乳細胞抽出液、インビトロタンパク質合成キット等が用いられる。
【0065】
以上に説明したように、PTL遺伝子を用いることで、PTLを遺伝子工学的に生産することができかつ、安定的、効率的に得ることができる。
【0066】
また、遺伝子工学技術により組換えPTLタンパク質又はペプチドにレクチン以外の機能を持った公知のタンパク質、例えば抗体のFc鎖やオワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein, GFP)等を融合させることが容易におこなえる。これにより、天然物にはない有用な機能を持つPTLの製造が可能になる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕(ツチスギタケ由来のレクチン遺伝子のクローニング)
本発明者らは、先のPCT/JP2009/003346(発明の名称:α1→6フコース特異的レクチン)にPTLのアミノ酸配列をProtein Peptide Sequencer PPSQ−21 System((株)島津製作所製)を用いて解析した結果を示した。得られたN末端のアミノ酸配列を基に、5’RACE法及び3’RACE法により、レクチン遺伝子のクローニングを、以下の手順で試みた。
【0068】
(mRNAの抽出)
ツチスギタケ子実体を、乳鉢と乳棒により液体窒素中で破砕した。100mgの破砕サンプルにトリゾル試薬(Invitrogen社製)を1mL加え、全RNAを抽出した。全RNAからのmRNAの精製は、Poly(A)+ Isolation キット from Total RNA(NIPPON GENE社製)を用いて、該当キットの説明書に従いmRNAを精製した。
【0069】
(cDNA合成)
精製したmRNAからの2本鎖cDNA合成は、マラソン(登録商標) cDNA アンプリフィケーション キット(Clontech社製)を用いて行った。すなわち、2.5μLのmRNA溶液(460ng)に、付属のcDNA Synthesis プライマー溶液(10μM)を0.5μL加えた。溶液を、70℃で2分間加熱後、氷上で2分間静置した。続いて、表3に記載の反応組成にて、42℃で1時間反応させ、1本鎖cDNA反応液を調製した。
【0070】
【表3】
【0071】
この1本鎖cDNA反応液を、表4に記載の反応組成にて16℃で1.5時間反応させた。
【0072】
【表4】
【0073】
さらに1μLのT4 DNA ポリメラーゼ(3 units)を加えて、16℃で45分間反応させた。続いて、2μLのEDTA/glycogen溶液を添加し、2本鎖cDNA合成反応を停止させた。この反応液に、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)溶液を50μL加え混和した。遠心分離(14,000rpm、10min、25℃)後、水層を回収した。回収した水層に、クロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)溶液を50μL加え混和した。遠心分離(14,000rpm、10min、25℃)後、水層を回収した。回収した溶液に、1/2倍量の4M 酢酸アンモニウム溶液と2.5倍量の95% エタノールを加えて混和した。遠心分離(14,000rpm、20min、25℃)し、cDNAを沈殿させた。上清を除いた沈殿物に、80% エタノールを150μL加え、沈殿を洗浄した。遠心分離(14,000rpm、10min、25℃)後、上清を除き、沈殿物を乾燥させた。乾燥させた沈殿物を5μLの滅菌水で溶解することにより、2本鎖cDNA溶液を調製した。
【0074】
(2本鎖cDNAへのアダプター配列の付加)
調製した2本鎖cDNAへのアダプター配列の付加は、マラソン(登録商標) cDNA アンプリフィケーション キット(Clontech社製)に付属しているアダプターを用いて行った。すなわち、2.5μLの2本鎖cDNA溶液を、表5に記載の反応組成にて、16℃で1晩反応させ、アダプター配列が付加した2本鎖cDNA(アダプター配列付加2本鎖cDNA溶液)を調製した。
【0075】
【表5】
【0076】
(縮重プライマーの設計)
ペプチドシーケンンサー:Protein Peptide Sequencer PPSQ−21 System((株)島津製作所製)で解析したPTLのN末端部分アミノ酸配列を基に、縮重プライマーを作製した。表6に示す4種類のプライマーを作製した。NGSP_sence_PTL及びNGSP_antisence_PTLは、それぞれ、GSP_sence_PTL及びGSP_antisence_PTLの内側の配列を基に作製した。
【0077】
【表6】
【0078】
(一次PCR)
PCRは、Takara Ex−Taq(登録商標)(タカラバイオ株式会社製)を用いて行った。まず、先に得られたcDNAを鋳型として、マラソン(登録商標) cDNA アンプリフィケーション キット(Clontech社製)に付属しているアダプタープライマーとGSP_sence_PTL(5’RACE)又はGSP_antisence_PTL(3’RACE)を用いて、表7に記載の反応組成及び表8に記載の反応条件で、一次PCRを行った。一次PCR産物は、分析時まで4℃に保存した。一次PCRによって、DNA断片が増幅されたことを、PCR産物のアガロース電気泳動、及びエチジウムブロマイド染色にて確認した。
【0079】
【表7】
【0080】
【表8】
【0081】
(二次PCR)
次に、増幅されたDNA断片を鋳型としてマラソン(登録商標) cDNA アンプリフィケーション キット(Clontech社製)に付属しているnested−アダプタープライマーとNGSP_sence_PTL(5’RACE)又はNGSP_antisence_PTL(3’RACE)を用いて、表9に記載の反応組成及び表10に記載の反応条件で、二次PCR(nested−PCR)を行った。二次PCR産物は、分析時まで4℃に保存した。
【0082】
【表9】
【0083】
【表10】
【0084】
二次PCRによってDNA断片が増幅されたことを、PCR産物のアガロース電気泳動並びにエチジウムブロマイド染色にて確認した。結果を図2に示す。得られたDNA断片の塩基配列を決定するために、以下の手順でサブクローニングを行った。
【0085】
(サブクローニング)
得られたDNA断片を、pGEM−T easy ベクター(Promega社製)を用いて、TAクローニングした。まず、表11に記載の反応液を調製し、室温で1時間反応させた。
【0086】
【表11】
【0087】
次に、ライゲーション反応液1μLを、氷上で融解したE.coli DH5α Electro−Cells(タカラバイオ株式会社製)40μLと混合してエレクトロポレーションを行った。その後、SOC培地(タカラバイオ株式会社製)を500μL添加して、37℃で1時間振とう培養した。振とう培養後の培養液を、LB寒天培地(アンピシリン、イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)、X−gal配合)に展開した。37℃で16時間培養し、形質転換したコロニーを形成させた。
【0088】
PCRは、2×PCR Master Mix(Promega社製)を用いて、マルチクローニングサイトを増幅するように設計されたプライマーセット(M13 フォワード及びM13 リバース)(Sigma−Aldrich社製)を用いて行った。まず、形質転換されたコロニーを、滅菌した爪楊枝で掻き取り、表12記載の反応液中に懸濁した。表13に記載の反応条件でPCRを行った。PCR産物は、分析時まで4℃に保存した。PCR産物を、アガロース電気泳動並びにエチジウムブロマイド染色にて1000bp以下のDNA断片が組み込まれているクローンを選択した。
【0089】
【表12】
【0090】
【表13】
【0091】
アンピシリンを50μg/mL含むLB液体培地2mLに、上記で選択されたコロニーを植菌して、37℃にて16時間振とう培養した。培養後、遠心分離(14,000rpm、1min、4℃)により菌体を集菌した。得られた菌体からのプラスミド抽出は、市販のQIAprep Spin Miniprep キット(QIAGEN社製)を用いて行った。操作は、その説明書に従った。
【0092】
(塩基配列の決定)
こうして精製されたプラスミドを用いて、挿入された5’RACE並びに3’RACEによるDNA断片の塩基配列を決定した。塩基配列の決定には、DNAシーケンサーを用いた。すなわち、Dye Terminater法とキャピラリーシーケンスによるCEQTM 8000 Genetic Analysis System (BECKMAN COULTER社製)を用いて、塩基配列を決定した。
【0093】
得られたプラスミドを、100−200ng/μLになるように調製した。サイクルシーケンシングは、DTCS クイックスタートマスターミックス キット(BECKMAN COULTER社製)を用いて行った。操作はその説明書に従った。PCR反応は、表14及び表15記載の条件で行った。プライマーは、M13 フォワード及びM13 リバースを、適宜使用した。
【0094】
【表14】
【0095】
【表15】
【0096】
サイクルシーケンス終了後に、表16に記載の反応停止液を5μL添加した。続いて、100%エタノールを60μL加え、撹拌した。
【0097】
【表16】
【0098】
反応産物を、遠心分離(14,000rpm、20min、4℃)した。上清を除き70%エタノールを200μL加えた。再度遠心分離(14,000rpm、20min、4℃)により、沈殿物を洗浄した。この操作を、2回繰り返した。沈殿物を風乾させ、キット付属のサンプルローディングソリューション(BECKMAN COULTER社製)を40μL添加し、沈殿物を溶解させた。溶解サンプルを全量CEQサンプルプレートに移した。各ウェルにミネラルオイルを1滴ずつ滴下し、キャピラリーシーケンスを行った。
【0099】
5’RACE並びに3’RACEを解析した蛍光パターンの結果から、PTL cDNAの全長配列(図1、配列番号1)が決定された。
【0100】
cDNAの全長配列をコドン表に基づいて変換したアミノ酸配列(図1、配列番号2)は、開始コドン(ATG)から停止コドン(TAA)まで、180個のアミノ酸をコードする塩基配列を含んでいた。このアミノ酸配列は、先に精製したPTLのN末端アミノ酸配列分析結果(40アミノ酸残基)と非常に相同性の高い配列が3ヶ所存在していることが明らかとなった。これらの相同性の高い配列を、5’側から順にCRD1、CRD2及びCRD3と命名した。
【0101】
BLASTを用いて、得られた180残基のアミノ酸配列を公知のアミノ酸配列と比較したところ、有意な相同性を示したタンパク質は確認されなかった。
【0102】
〔実施例2〕(組換えPTLの大腸菌での発現1)
上記で得られた全長配列のコーディング領域に、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を付加し発現させた。まず、表2に示すrPTL0の塩基配列の遺伝子断片に制限酵素配列を付加し、pET27bベクター(Novagen社製)のHisタグ配列の上流へ挿入した。
【0103】
作製したpET27b/PTL0プラスミドを大腸菌One Shot BL21 Star (DE3)(Invitrogen社製)へ形質転換した。形質転換された大腸菌を、LB寒天培地(カナマイシン含有)に展開し、37℃で16時間培養を行った。得られた単一コロニーを、LB液体培地(カナマイシン含有)に植菌して、37℃にて16時間振とう培養した。LB液体培地(カナマイシン含有)に前培養液を、全量添加した。波長600nmの吸光度が0.6〜1.0となるまで37℃で培養した。最終濃度1mMとなるようにIPTGを加えた。さらに、25℃にて24時間培養後、菌体を遠心分離(5000g,20min,4℃)により集菌した。菌体ペレットに10mM リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4、以後PBSと記載する)を加え懸濁した。超音波破砕処理にて、菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離(8500g,30min,4℃)により上清を回収した。
【0104】
(Hisタグによる精製)
得られた上清を、HiTrap Chelating HP(GE ヘルスケアバイオサイエンス社製)にて、表2に示すrPTL7のアフィニティー精製を行った。精製結果を、図3に示す。予想通りの22kDaのバンドを検出した。以上のことから、pET27b/PTL0プラスミドから、rPTL7の発現を確認し、そしてrPTL7を精製することができた。
【0105】
〔実施例3〕(組換えPTLの大腸菌での発現2)
上記で得られた全長配列のうち、PTLのN末端アミノ酸配列と相同性の高い領域を発現させた。まず、表2に示すrPTL1、rPTL2及びrPTL3の3種類の塩基配列の遺伝子断片に、停止コドン(TAA)と制限酵素配列を付加した。pET51bベクター(Novagen社製)のStrep・Tag(登録商標)II配列の下流へ挿入して、3種類の組換えベクターを作製した。
【0106】
作製した3種類のpET51b/PTLプラスミドをそれぞれ、エレクトロポレーションにより大腸菌BL21−コドンプラス(商標登録)(DE3)−RILへ形質転換した。形質転換された大腸菌を、LB寒天培地(アンピシリン含有)に展開し、37℃で16時間培養を行った。得られた単一コロニーを、LB液体培地(アンピシリン含有)に植菌して、37℃にて16時間、振とう培養した。LB液体培地(アンピシリン含有)に前培養液を、全量添加した。波長600nmの吸光度が0.6〜1.0となるまで37℃で培養した。最終濃度1mMとなるようにIPTGを加えた。さらに、25℃にて24時間培養後、菌体を遠心分離(5000g,20min,4℃)により集菌した。菌体ペレットにPBSを加え懸濁した。超音波破砕処理にて菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離(8500g,30min,4℃)により上清を回収した。
【0107】
(Strep・Tactin superflow columnによる精製)
得られた上清を、Strep・Tactin(登録商標) superflow column(Novagen社製)にて、表2に示すrPTL8、rPTL9及びrPTL10のアフィニティー精製を行った。精製結果を、図4に示す。予想通りの7.3kDa、13.2kDa、18.3kDaのバンドを検出した。以上のことから、rPTL8、rPTL9、及びrPTL10の発現を確認し、そしてrPTL8、rPTL9及びrPTL10を精製することができた。
【0108】
〔実施例4〕(組換えPTLの大腸菌での発現3)
上記で得られた全長配列のうち、PTLのN末端アミノ酸配列と相同性の高い領域のみを発現させた。まず、表2に示すrPTL1〜6の6種類の塩基配列の遺伝子断片の前後に、開始コドン(ATG)と停止コドン(TAA)並びに制限酵素配列を付加した。タグ配列を除いたpET51bベクター(Novagen社製)へ挿入して、6種類の組換えベクターを作製した。
【0109】
実施例3と同様の操作を行い、上清を回収した。
【0110】
(アフィニティークロマトグラフィーによる精製)
得られた上清を、PBSで平衡化したチログロブリン固定化アガロースに供した。PBSでカラムを洗浄後、0.2Mアンモニアで溶出した。溶出した画分を、SDS−PAGE及びCBB染色により解析した。その結果を図5に示す。予想通りそれぞれ、4.6kDa、10.5kDa、15.6kDa、4.6kDa、9.7kDa、4.5kDaのバンドを検出した。以上のことから、rPTL1〜6の発現を確認し、そしてrPTL1〜6を精製することができた。
【0111】
〔実施例5〕(糖タンパク質アレイ)
フコースα1→6糖鎖を持つ糖タンパク質してチログロブリンを用意し、またフコースα1→6糖鎖を持たない糖タンパク質としてトランスフェリンを用意した。これら糖タンパク質をガラス基板に固定化し、GlycoStationTM Reader 1200(GPバイオサイエンス社製)を用いて糖タンパク質アレイを行った。まず、精製した組換えPTLを、Cy3 Mono−Reactive Dye Pack(GE ヘルスケアバイオサイエンス社製)の説明書に従ってCy3標識した。500mM グリシン、1% Triton X − 100、 1mM CaCl2、 1mM ZnCl2、0.8% NaClを含むトリス緩衝液(pH7.4、以下Probing bufferと記載する)中に標識化組換えPTLを懸濁させ、糖タンパク質を固定化したガラス基板に標識化組換えPTLを供した。20℃で一晩反応させた後、Probing bufferでガラス基板を洗浄した。
【0112】
洗浄後のガラス基板をGlycoStationTM Reader 1200に供し、固定化糖タンパク質とCy3標識した組換えPTLとの結合を解析した。その結果を、図6に示す。
【0113】
図6から、全ての組換えPTLにおいて、フコースα1→6糖鎖を持つ糖タンパク質に結合し、かつフコースα1→6糖鎖を持たない糖タンパク質には結合しないことがわかる。
【0114】
〔実施例6〕(Strep・Tag(登録商標)II配列の除去及び糖タンパク質への特異性解析)
rPTL8のN末端に付加させたStrep・Tag(登録商標)II配列をRecombinant Enterokinase(Novagen社製)により除去した。まず、精製したrPTL8を表17記載の反応組成にて、室温で一晩反応させた。反応後の溶液を実施例5と同様の操作を行い、糖タンパク質アレイにて特異性を解析した。その結果を、図7に示す。
【0115】
【表17】
【0116】
図7から、Strep・Tag(登録商標)II配列を除去したrPTLにおいても、フコースα1→6糖鎖を持つ糖タンパク質に結合し、かつフコースα1→6糖鎖を持たない糖タンパク質には結合しないことがわかる。このように、タグ配列によるアフィニティー精製後に、タグ配列を除去することで、タグ配列等の余分な配列を含まないrPTLの製造が可能である。
【0117】
さらに、rPTL8よりStrep・Tag(登録商標)II配列を除去したrPTL8の方が、フコースα1→6糖鎖を持つ糖タンパク質への蛍光強度が増加した。このことは、rPTLの活性を最大限発揮する上で、タグ配列などの余分な配列が付加していないほうが好ましい場合もあることを意味する。
【0118】
〔実施例7〕(フロンタルアフィニティクロマトグラフィー)
図8に示す構造のピリジルアミノ(PA)化糖鎖を用意した。FAC−1(島津製作所製)を用いて、フロンタルアフィニティクロマトグラフィーを行った。まず、rPTL1〜3を、NHS−活性化セファロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)の説明書に従って、rPTL−セファロースを作製した。0.8% NaClを含む10mM トリス緩衝液(pH7.4、以下TBSと記載する)中に、rPTL−セファロースを懸濁させ、ミニチュアカラム(φ2mm x 10mm, 31.4μL)に充填した。作製したカラムを、ステンレスホルダーに差し込み、FAC−1装置に接続した。流速及びカラム温度を、それぞれ0.125ml/min及び25℃に保った。前記TBSでミニチュアカラムを平衡後、過剰容積(0.5ml〜4ml)のPA化糖鎖(3.75nM又は7.5nM)を、自動サンプリング装置あるいは手動インジェクション装置を用いてカラム中へ注入した。
【0119】
各PA化糖鎖の溶出液の蛍光強度(励起波長310nm及び蛍光波長380nm)をモニターし、相互作用強度〔標準オリゴ糖(糖鎖No.003)に対する前端溶出液の差:V−V0〕を測定した。相互作用強度及び有効リガンド量から結合定数Kaを求めた。その結果を、表18、19及び20A〜20Eに示す。
【0120】
【表18】
【0121】
【表19】
【0122】
【表20A】
【0123】
【表20B】
【0124】
【表20C】
【0125】
【表20D】
【0126】
【表20E】
【0127】
表18〜20から以下のことがわかる。3種類のrPTLとも、フコースα1→6糖鎖に対する結合定数はKa=1.0×105M−1以上となり、強く結合していることがわかる。また、非フコースα1→6糖鎖やフコースを持たない糖鎖に対する結合定数がKa=5.15×103M−1以下であることは、rPTLがこれら糖鎖に結合しないことを意味している。さらに、フコースα1→6糖鎖の三本鎖(糖鎖No.410)や四本鎖(糖鎖No.418)にも強く結合し、シアル酸が付加されているフコースα1→6糖鎖(糖鎖No.602)の結合定数が下がっていない。このことは、従来のフコースα1→6糖鎖に結合するレクチンより優れていることを意味している。
【0128】
また、CRD1、CRD2及びCRD3のいずれにも、フコースα1→6糖鎖に結合しうることから、これらの配列を任意に組み合わせることで、フコースα1→6糖鎖に高い親和性を有する組換えタンパク質又はペプチドを製造できることが容易に推定できる。
【0129】
〔実施例8〕(サケツバタケ由来のレクチン遺伝子のクローニング)
サケツバタケ子実体を原料に、実施例1と同様の操作を行い、塩基配列を決定した。解析結果から、サケツバタケ由来レクチン(以下、SRLと記載)cDNAの全長配列(図9、配列番号7)が決定された。SRLの全長配列をコドン表に基づいて変換したアミノ酸配列(図9、配列番号8)は、開始コドン(ATG)から停止コドン(TAA)まで、179個のアミノ酸をコードしていた。また、PTL cDNAからのアミノ酸配列と比較したところ、2ヶ所のアミノ酸欠失、及び1ヶ所のアミノ酸付加、並びに59ヶ所のアミノ酸置換が確認された。
【0130】
また、アミノ酸配列の相同性から、SRLのPTLのCRD1〜3に相当する部位を同定した。SRLとPTLの各CRD間の相同性を表21に示す。いずれのCRD間で64%以上の相同性があった。さらに、PTLとSRLの同一のCRD間の相同性は、74%以上であった。
【0131】
【表21】
【0132】
表21から、PTLと同様に、以下の(1)又は(2)のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子もまた、糖結合活性を有する遺伝子であると予測される。
(1)配列番号8の1〜179番、30〜68番、30〜123番、30〜172番、85〜123番、85〜172番、及び134〜172番のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
(2)配列番号8の1〜179番、30〜68番、30〜123番、30〜172番、85〜123番、85〜172番、及び134〜172番のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖認識活性を有するタンパク質又はペプチド。
上記7種類のアミノ酸配列の範囲の意味づけを表22に示す。
【0133】
【表22】
【0134】
〔実施例9〕(組換えSRL(rSRL)の大腸菌での発現と精製)
実施例2と同様の操作を行い、rSRL0(全長cDNA)を得た。その結果を、図10に示す。予想通りの15.6kDaのバンドを検出した。以上のことから、rSRLの発現を確認し、そしてrSRLを精製することができた。
【0135】
〔実施例10〕(糖タンパク質アレイ)
実施例5と同様の操作を行い、rSRLの特異性を解析した。その結果を、図11に示す。図11から、rSRLは、フコースα1→6糖鎖を持つ糖タンパク質に結合し、かつフコースα1→6糖鎖を持たない糖タンパク質には結合しないことがわかる。
【0136】
本発明者らは、先のPCT/JP2009/003346(発明の名称:α1→6フコース特異的レクチン)において、PTL及びSRLがα1→6フコース特異的レクチンであることを示した。本発明においても、rPTL及びrSRLが、α1→6フコース特異的に認識することを示した。以上のことから、rSRLをコードする遺伝子が、タンパク質又はペプチドのアミノ酸欠失、及びアミノ酸付加、並びにアミノ酸置換体をコードする本発明の遺伝子の一例とみなすことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)又は(2)のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子:
(1)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
(2)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖認識活性を有するタンパク質又はペプチド。
【請求項2】
前記配列番号2のアミノ酸配列をコードする遺伝子が、配列番号1で示される、請求項1に記載の遺伝子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項4】
請求項3に記載の組換えベクターを宿主に導入して得られる形質転換体。
【請求項5】
請求項4に記載の形質転換体から発現した組換えタンパク質又はペプチド。
【請求項6】
請求項4に記載の形質転換体を培養又は生育することを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の組換えベクターを無細胞タンパク質合成系に供して組換えタンパク質又はペプチドを発現させることを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の組換えタンパク質又はペプチドを、タグ配列及び/又は糖認識活性を介したアフィニティー精製にかけることを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法。
【請求項1】
以下の(1)又は(2)のタンパク質又はペプチドをコードする遺伝子:
(1)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチド、
(2)配列番号2の1〜180番、32〜71番、32〜126番、32〜174番、87〜126番、87〜174番、及び135〜174番のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖認識活性を有するタンパク質又はペプチド。
【請求項2】
前記配列番号2のアミノ酸配列をコードする遺伝子が、配列番号1で示される、請求項1に記載の遺伝子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項4】
請求項3に記載の組換えベクターを宿主に導入して得られる形質転換体。
【請求項5】
請求項4に記載の形質転換体から発現した組換えタンパク質又はペプチド。
【請求項6】
請求項4に記載の形質転換体を培養又は生育することを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の組換えベクターを無細胞タンパク質合成系に供して組換えタンパク質又はペプチドを発現させることを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の組換えタンパク質又はペプチドを、タグ配列及び/又は糖認識活性を介したアフィニティー精製にかけることを特徴とする、組換えタンパク質又はペプチドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−148735(P2011−148735A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11448(P2010−11448)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
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