説明

還元スラグの硫黄除去方法

【課題】還元スラグ中の硫黄成分の除去を容易かつ効率的に行うことができる還元スラグの硫黄除去方法を提供すること。
【解決手段】製鋼過程における還元精錬時に生成した還元スラグ1から硫黄成分を除去する方法であって、還元精錬後に冷却することなく溶融状態を維持した還元スラグ1に対して、少なくとも酸素を含む吹酸用ガス2を吹き込んでバブリング処理を行い、還元スラグ1から硫黄成分を除去する。バブリング処理では、還元スラグ1の温度を1300〜1750℃に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼過程における還元精錬時に生成した還元スラグから硫黄成分を除去する還元スラグの硫黄除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼過程においては、溶鋼に還元剤や生石灰等を添加して硫黄成分を除去する成分調整を目的とした還元精錬が行われる。そして、この還元精錬時には、硫黄成分を含む還元スラグが生成する。
還元精錬時に生成した還元スラグは、エージング処理等の安定化処理を経て路盤材等として利用されていたが、還元スラグ中の有害元素溶出等の問題があるため、全量をリサイクルすることができず、一部は埋め立て等によって処分していた。ところが、埋め立て処分場の処分量も限界に近くなっており、将来的に埋め立て等によって処分することが困難となる。
【0003】
そこで、従来から、還元スラグを繰り返し利用するための方法が模索されており、例えば、還元精錬時に生成した還元スラグから硫黄成分を除去し、これを再び還元精錬に利用することが提案されている。
例えば、特許文献1には、還元スラグに水蒸気を接触させる水蒸気処理を行うことによって還元スラグ中の硫黄成分を低減する還元スラグの処理方法が開示されている。
また、特許文献2には、使用済スラグを二酸化炭素ガス雰囲気中、900℃以上の温度で1時間以上加熱することによって使用済スラグ中の硫黄成分を除去する使用済スラグの硫黄除去方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−163391号公報
【特許文献2】特開2008−308754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された方法では、還元スラグを冷却した後、硫黄成分を除去する処理を行う。そのため、冷却によるエネルギーロスや冷却時間待ち等の問題が生じる。また、還元スラグを水蒸気処理に適した粒度に調整する作業等が必要となることから、作業効率にも問題がある。
【0006】
また、上記特許文献2に開示された方法では、精錬装置から取り出して冷却した使用済スラグを加熱して硫黄成分を除去する。そのため、上記特許文献1と同様に、冷却によるエネルギーロスや冷却時間待ち等の問題が生じる。また、冷却後に加熱することから、エネルギー効率が非常に悪い。また、加熱時において二酸化炭素ガス雰囲気に調整する作業等が必要となることから、作業効率にも問題がある。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、還元スラグ中の硫黄成分の除去を容易かつ効率的に行うことができる還元スラグの硫黄除去方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、製鋼過程における還元精錬時に生成した還元スラグから硫黄成分を除去する還元スラグの硫黄除去方法であって、
上記還元精錬後に冷却することなく溶融状態を維持した上記還元スラグに対して、少なくとも酸素を含む吹酸用ガスを吹き込んでバブリング処理を行い、上記還元スラグから硫黄成分を除去することを特徴とする還元スラグの硫黄除去方法にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の還元スラグの硫黄除去方法は、上記還元精錬時に生成した硫黄成分を含む上記還元スラグに対して、少なくとも酸素を含む吹酸用ガスを吹き込んでバブリング処理を行う。このバブリング処理を行うことにより、上記還元スラグ中の硫黄成分と上記吹酸用ガス中の酸素とが反応し、SO2(酸化硫黄)ガスとなって上記還元スラグから外部に放出される。これにより、非常に簡便な方法で上記還元スラグから硫黄成分を容易に除去することができる。
【0010】
また、本発明では、上記還元精錬時に生成した溶融状態の上記還元スラグを積極的に冷却することなく、その溶融状態を維持したままで上記バブリング処理を行う。そのため、上述した従来技術のような上記還元精錬後の上記還元スラグを冷却することによるエネルギーロスや冷却時間待ち等の問題を解消することができる。また、上記バブリング処理を行うに当たっては、上記還元スラグの溶融状態を維持するための加熱等に必要なエネルギーを投入するだけでよいことから、上記還元スラグから硫黄成分を除去するために必要なエネルギーを大幅に低減することができると共に、エネルギーの効率的な利用を図ることができる。
【0011】
また、上記バブリング処理後の硫黄成分が除去された上記還元スラグは、溶鋼中の硫黄成分を除去する還元剤(脱硫用還元スラグ)として、製鋼過程における還元精錬において再利用することができる。これにより、上記還元スラグの繰り返しの利用が可能となる。
また、本発明では、上記還元スラグの溶融状態を維持しながら処理を行っているため、後述する実施例1の図1(d)のように、処理終了後、上記還元スラグを溶融状態のままで新たに還元精錬が必要な溶鋼が入っている精錬取鍋等に移し、脱硫用還元スラグとして再利用することができる。これにより、上述した従来技術とは異なり、再利用の際に上記還元スラグを室温から溶融状態まで加熱する必要がないため、さらなるエネルギーの低減、エネルギーの効率的な利用を図ることができる。
【0012】
このように、本発明によれば、還元スラグ中の硫黄成分の除去を容易かつ効率的に行うことができる還元スラグの硫黄除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における、還元スラグの硫黄除去方法の手順を示す説明図。
【図2】実施例2における、脱硫試験の設備を示す説明図。
【図3】実施例2における、脱硫試験の結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、上記還元精錬後、上記還元スラグを積極的に冷却することなく、溶融状態を維持する。上記還元精錬後の溶融状態の上記還元スラグの温度は、例えば、1400〜1600℃の範囲となり、この温度範囲を維持する。
また、上記バブリング処理は、例えば、上記還元精錬時に生成した溶融状態の上記還元スラグをその還元精錬処理を行った容器とは別の容器に移して行うことができる。
【0015】
また、上記バブリング処理では、上記還元スラグに吹き込む上記吹酸用ガスの気泡を細かくすることが好ましい。
この場合には、上記吹酸用ガスが上記還元スラグに接触する面積を大きくすることができる。これにより、上記還元スラグ中の硫黄成分と上記吹酸用ガス中の酸素との反応を促進することができる。
なお、上記吹酸用ガスの気泡を細かくするためには、例えば、内径の小さなパイプやポーラス状のノズル等を用いて上記吹酸用ガスを吹き込めばよい。
【0016】
また、上記バブリング処理では、上記吹酸用ガスを上記還元スラグの表面付近に吹き込むよりも、上記還元スラグの内部に吹き込むほうが好ましい。
この場合には、上記還元スラグ中の硫黄成分と上記吹酸用ガス中の酸素とをより確実に反応させることができる。
【0017】
また、上記バブリング処理では、上記吹酸用ガスとしてエア(空気)を用いることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記吹酸用ガスとして安価なエア(空気)を用いることにより、上記バブリング処理を低コストで行うことができる。特に、上記還元スラグが高温の溶融状態である場合には、エア(空気)に比べて高価な酸素ガス等を用いなくても、上記還元スラグ中の硫黄成分と上記吹酸用ガス中の酸素との反応速度を十分に確保できることから、安価なエア(空気)を用いて低コストを実現することができる。これにより、上記還元スラグから硫黄成分を除去するために必要なコストを低減することができる。
なお、上記吹酸用ガスとしては、エア(空気)以外にも上述した酸素ガス等を用いることができる。
【0018】
また、上記バブリング処理では、上記還元スラグの温度を1300〜1750℃に維持することが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記還元スラグの流動性を良くし、上記還元スラグ中の硫黄成分と上記吹酸用ガス中の酸素との反応によって生成したSO2ガスを上記還元スラグの表面から外部へと円滑に放出することができる。これにより、上記還元スラグから硫黄成分を効率よく除去することができる。
【0019】
上記バブリング処理中の上記還元スラグの温度が1300℃未満の場合には、必要とする流動性を確保できなくなるだけでなく、溶融状態を維持すること自体が困難となるおそれがある。
一方、上記還元スラグの温度が1750℃を超える場合には、上記バブリング処理を行うことは可能であるが、エネルギー効率が悪くなるおそれがある。
なお、上記還元スラグを上記温度範囲に維持するためには、上記還元スラグを加熱等してやればよい。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる還元スラグの硫黄除去方法について、図を用いて説明する。
本例の還元スラグの硫黄除去方法は、図1に示すごとく、製鋼過程における還元精錬時に生成した還元スラグ1から硫黄成分を除去する方法であって、還元精錬後に冷却することなく溶融状態を維持した還元スラグ1に対して、少なくとも酸素を含む吹酸用ガス2を吹き込んでバブリング処理を行い、還元スラグ1から硫黄成分を除去する。
以下、これを詳説する。
【0021】
図1(a)に示すごとく、製鋼過程において溶鋼10の還元精錬後、精錬取鍋41内には、溶融状態であって還元精錬により硫黄成分を多量に含有した還元スラグ1が生成される。このとき、還元スラグ1の温度は、1400〜1600℃の範囲となる。なお、本例の還元スラグ1の成分は、表1に示すとおりである。
【0022】
【表1】

【0023】
次いで、図1(b)に示すごとく、精錬取鍋41から溶融状態の還元スラグ1だけをスラグ専用溶解炉42に移す。
そして、スラグ専用溶解炉42に移した還元スラグ1を1300〜1750℃の温度になるように加熱し、その温度範囲を維持する。
【0024】
次いで、図1(c)に示すごとく、溶融状態の還元スラグ1に対して、吹酸用パイプ43を用いて吹酸用ガス2を気泡の状態で吹き込み、バブリング処理を行う。本例では、吹酸用ガス2としてエア(空気)を用いた。なお、吹酸用ガス2としては、酸素ガス等を用いることもできる。
これにより、還元スラグ1中の硫黄成分と吹酸用ガス2中の酸素とが反応し、SO2ガス3となって還元スラグ1から外部に放出される。そして、還元スラグ1から硫黄成分が除去される。
【0025】
なお、バブリング処理では、ガス吹込用パイプ43の内径を小さくしたり、ガス吹込用パイプ43の先端にポーラス状のノズルを取り付けたりする等して、吹酸用ガス2の気泡を細かくしておく。これにより、吹酸用ガス2が還元スラグ1に接触する面積を大きくし、還元スラグ1中の硫黄成分と吹酸用ガス2中の酸素との反応を促進させることができる。
【0026】
また、吹酸用ガス2を還元スラグ1の表面付近ではなく、内部に吹き込むようにする。これにより、還元スラグ1中の硫黄成分と吹酸用ガス2中の酸素とをより確実に反応させることができる。
また、吹酸用ガス2は、多孔質耐火物からなるポーラスプラグを精錬取鍋41の底等に取り付け、その取り付けたポーラスプラグの外側から吹き込むこともできる。
【0027】
次に、本例の還元スラグの硫黄除去方法における作用効果について説明する。
本例の還元スラグの硫黄除去方法は、還元精錬時に生成した硫黄成分を含む還元スラグ1に対して、少なくとも酸素を含む吹酸用ガス2を吹き込んでバブリング処理を行う。このバブリング処理を行うことにより、還元スラグ1中の硫黄成分と吹酸用ガス2中の酸素とが反応し、SO2ガス3となって還元スラグ1から外部に放出される。これにより、非常に簡便な方法で還元スラグ1から硫黄成分を容易に除去することができる。
【0028】
また、本例では、還元精錬時に生成した溶融状態の還元スラグ1を積極的に冷却することなく、その溶融状態を維持したままでバブリング処理を行う。そのため、上述した従来技術のような還元精錬後の還元スラグ1を冷却することによるエネルギーロスや冷却時間待ち等の問題を解消することができる。また、上記バブリング処理を行うに当たっては、還元スラグ1の溶融状態を維持するための加熱等に必要なエネルギーを投入するだけでよいことから、還元スラグ1から硫黄成分を除去するために必要なエネルギーを大幅に低減することができると共に、エネルギーの効率的な利用を図ることができる。
【0029】
また、バブリング処理後の硫黄成分が除去された還元スラグ1は、溶鋼10中の硫黄成分を除去する還元剤(脱硫用還元スラグ)として、製鋼過程における還元精錬において再利用することができる。これにより、還元スラグ1の繰り返しの利用が可能となる。
また、本例では、還元スラグ1の溶融状態を維持しながら処理を行っているため、図1(d)のように、処理終了後、還元スラグ1を溶融状態のままで新たに還元精錬が必要な溶鋼10が入っている精錬取鍋41に移し、脱硫用還元スラグとして再利用することができる。これにより、上述した従来技術とは異なり、再利用の際に還元スラグ1を室温から溶融状態まで加熱する必要がないため、さらなるエネルギーの低減、エネルギーの効率的な利用を図ることができる。
【0030】
また、バブリング処理では、吹酸用ガス2としてエア(空気)を用いる。吹酸用ガス2として安価なエア(空気)を用いることにより、バブリング処理を低コストで行うことができる。これにより、還元スラグ1から硫黄成分を除去するために必要なコストを低減することができる。
【0031】
また、バブリング処理では、還元スラグ1の温度を1300〜1750℃に維持する。そのため、還元スラグ1の流動性が良くなり、還元スラグ1中の硫黄成分と吹酸用ガス2中の酸素との反応によって生成したSO2ガス3を還元スラグ1の表面から外部へと円滑に放出することができる。これにより、還元スラグ1から硫黄成分を効率よく除去することができる。
【0032】
このように、本例によれば、還元スラグ中の硫黄成分の除去を容易かつ効率的に行うことができる還元スラグの硫黄除去方法を提供することができる。
【0033】
(実施例2)
本例では、本発明の還元スラグの硫黄除去方法を用いて脱硫試験を行い、その効果を確認した。
本例においては、表2に示すごとく、初期成分の異なる複数の還元スラグ(実験例1〜3)を準備した。
そして、表3に示すごとく、各還元スラグ(実験例1〜3)について、異なる条件(スラグ量、加熱温度、吹酸用ガス、吹酸時間、ガス量(圧力・流量))の下、本発明の還元スラグの硫黄除去方法を用いて脱硫試験を行った。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
本例の脱硫試験は、具体的には、次のように行った。
すなわち、図2に示すごとく、溶融状態の還元スラグ1をスラグ専用溶解炉51に投入し、高周波加熱装置52によって所定の温度に加熱した。
【0037】
次いで、同図に示すごとく、ガスボンベ53から内径30mmの吹酸用パイプ54を用いて吹酸用ガス2を還元スラグ1に吹き込み、バブリング処理を行った。これにより、還元スラグ1からSO2ガス3を放出させ、硫黄成分を除去した。そして、本例では、吹酸時間ごとに還元スラグ1中の硫黄含有量を測定した。
この脱硫試験の結果を表4及び図3に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
表4は、各還元スラグ(実験例1〜3)について吹酸時間ごとの硫黄含有量を示したものである。
また、図3は、表4の数値をグラフ化したものであり、各還元スラグ(実験例1〜3)について吹酸時間(分)と硫黄含有量(質量%)との関係を示したものである(図中のグラフE1〜E3)。
【0040】
図3に示す結果から、本発明の還元スラグの硫黄除去方法を用いることにより、還元スラグ中の硫黄成分の除去を容易かつ効率的に行うことができることがわかった。本例では、実験例1〜3のいずれも、吹酸時間90〜120分程度で還元スラグに含まれる硫黄成分のほとんどの量を除去できることがわかった。
なお、表4には、還元スラグの硫黄含有量のみを示したが、他の成分は特に変化がなく、溶鋼中の硫黄成分を除去する還元剤(脱硫用還元スラグ)として問題なく再利用できることがわかった。
【0041】
また、同図に示すごとく、吹酸用ガスとして酸素ガスを用いた実験例1(グラフE1)とエア(空気)を用いた実験例2、3(グラフE2、E3)とを比較すると、硫黄除去効果に大きな違いは見られなかった。これにより、吹酸用ガスとしてエア(空気)を用いた場合でも、硫黄除去効果が十分に得られることがわかった。
【符号の説明】
【0042】
1 還元スラグ
2 吹酸用ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼過程における還元精錬時に生成した還元スラグから硫黄成分を除去する還元スラグの硫黄除去方法であって、
上記還元精錬後に冷却することなく溶融状態を維持した上記還元スラグに対して、少なくとも酸素を含む吹酸用ガスを吹き込んでバブリング処理を行い、上記還元スラグから硫黄成分を除去することを特徴とする還元スラグの硫黄除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載の還元スラグの硫黄除去方法において、上記バブリング処理では、上記吹酸用ガスとしてエアを用いることを特徴とする還元スラグの硫黄除去方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の還元スラグの硫黄除去方法において、上記バブリング処理では、上記還元スラグの温度を1300〜1750℃に維持することを特徴とする還元スラグの硫黄除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184707(P2011−184707A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48010(P2010−48010)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000116655)愛知製鋼株式会社 (141)
【Fターム(参考)】