説明

還元剤と酸化剤を用いて得られる加工澱粉及びその製造方法

【課題】 接着力や粘結力に優れ、接着や粘結後に加熱処理が不要で、環境に悪影響を与えることなく適度な耐水性を発現させることが出来る化工澱粉とその製造方法を提供する。
【解決方法】 アミロースを5%より多く含む澱粉を、水に懸濁させた状態で還元剤および酸化剤と反応させると、溶液のゲル化速度が速く、耐水性の高い加工澱粉が得られる。この加工澱粉の製造方法は、簡単な設備で短時間に製造することができる方法で、コスト的にも優れた製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性の高い加工澱粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉および加工澱粉製品は、各種の食品用および工業用の用途に広範囲に使用されている。このうち、工業用の用途としては、繊維製品のサイズ剤、紙のサイズ剤およびコーティング剤、段ボールおよび紙の接着剤、各種排水の凝集剤、各種粉体の粘結剤、染料や顔料の分散液の増粘剤、緩衝材としての成形品、等があげられる。これらの用途において、澱粉および加工澱粉製品は、入手が容易で安全かつ安価な材料として用いられてきた。
【0003】
しかしながら、澱粉および加工澱粉製品を用いて接着や粘結を行った場合、製造した接着体や粘結体に耐水性がなく、これらに耐水性が必要な場合は耐水性材料として合成ゴムラテックスやポリ酢酸ビニルまたはフェノール樹脂等の合成系樹脂を使用する必要があった。しかし、合成系樹脂は生分解性が少なく、これを含有した製品が環境中に破棄された場合、環境中に長期間残存するという問題がある。
【0004】
澱粉に耐水性を付与する方法として、分子中にアルデヒド基を生成させることがあげられる。その例として、ジアルデヒドスターチ(以下、DAS)や、特開2001−64302号公報で開示されている、澱粉、過酸化水素及び金属触媒を含有し、水分含量30重量%以下の混合物を酸性条件下で加熱焙焼して得られる澱粉誘導体がある。
【0005】
前者のDASは、その耐水性は極めて高いが、現在市販されておらず、入手が困難である。
【0006】
後者の澱粉誘導体は、酸性条件下で加熱焙焼して製造するため、その溶液粘度が低いものしか得られず、粘度の高い溶液を作製するには濃度を上げる必要がある。また、接着や粘結後に加熱乾燥できない場合は、乾燥した後にある程度(約70℃)以上に加熱処理しないと耐水性が発現しないと云う欠点がある。
【0007】
また、後者と類似の方法として、特表2002−524619号公報で開示されている、少なくとも95重量%のアミロペクチンを含む澱粉を、触媒の存在下で、過酸化水素により処理するという方法があるが、この方法では耐水性の高い加工澱粉は得られない。
【特許文献1】特開2001−64302号公報
【特許文献2】特表2002−524619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、接着力や粘結力に優れ、接着や粘結後に加熱処理が不要で、環境に悪影響を与えることなく適度な耐水性を発現させることが出来る加工澱粉とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、検討を重ねた結果、5%より多くアミロースを含む澱粉を、水に懸濁させた状態で還元剤および酸化剤と反応させると、溶液のゲル化速度が速く、耐水性の高い加工澱粉が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0010】
以上説明してきたように、本発明によれば、耐水性の高い加工澱粉を簡単な設備で製造することができ、かつ、得られる加工澱粉は、接着力や粘結力に優れ、接着や粘結後に加熱処理が不要で、環境に悪影響を与えることなく適度な耐水性を発現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に於ける加工澱粉の原料としては、ポテト澱粉やタピオカ澱粉等の根塊茎由来の澱粉、コーンスターチや緑豆澱粉等の種子由来の澱粉、及び、サゴ澱粉等のその他由来の澱粉、の何れか、または、これらの混合物の中で、5%より多くアミロースを含む澱粉を用いることができる。また、これらの澱粉をエーテル化、エステル化、低粘度化、グラフト化等の処理を施された加工澱粉も原料として用いることができる。これらの中ではコーンスターチが安価で最も好ましい。アミロペクチンを95%以上含む澱粉(例えば、ワキシコーンスターチやワキシポテト澱粉等)を原料として用いた場合は、ゲル加速度が遅く、結果として必要とする耐水性が得られず、好ましくない。
【0012】
本発明に於ける還元剤とは、過酸化水素やペルオキソ硫酸塩等の酸化剤の分解速度を大きくして一度に多量のラジカルを発生させる作用があるものである。種々検討した結果、ラジカル重合の一種であるレドックス重合において重合開始剤として用いられているものが好適であった。
【0013】
本発明に於ける還元剤の例としては、遷移金属を含む物としては、鉄を含んだ硫酸鉄(II)アンモニウム(以下、モール塩)等が上げられるが、これらの中ではモール塩が毒性が少なく最も好ましい。また、金属を含まないものとしては、アスコルビン酸、亜硫酸塩等が挙げられる。
【0014】
本発明に於ける酸化剤としては、過酸化水素やペルオキソ硫酸塩が好適である。過酸化水素は過酸化水素水を使用することができ、また、過酸化水素を含有する塩、例えば過炭酸ソーダを用いることもできる。
【0015】
本発明に於ける澱粉を水に懸濁させた状態とは、粒子状の澱粉に水を加えて攪拌し、全体が均一になった状態のことである。水の量は多い方が攪拌しやすいが、通常は、対澱粉質量比で120〜130%が好ましい。反応温度は、澱粉が糊化・膨潤しない温度であれば、特に制限はない。また、還元剤・酸化剤の添加順序にも特に制限はない。
【0016】
本発明の加工澱粉は、その加工澱粉のみをその成分とすることができ、また、その他の加工澱粉を混合することができ、更に、クレー、タルク、カオリン、炭酸カルシウムなどの顔料を混合することができる。
【0017】
本発明の加工澱粉を用いると、接着や粘結後に加熱処理が不要で、環境に悪影響を与えることなく適度な耐水性を発現させることができる
【0018】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、例に於ける部はすべて質量部、%はすべて質量%として表す。
【0019】
水分は、赤外線水分計(ケット エレクトリックラボラトリー社製FD−600)を用いて、105℃で20分間の条件で測定した。
【0020】
澱粉溶液は、所定濃度の澱粉スラリーを沸騰水浴中で攪拌しながら加熱し、85℃以上で10分間保持した後、蒸発した水分を補うことによって作製した。粘度は、所定温度に冷却した澱粉溶液を、BL型回転粘度計(トキメック社製)にてローター回転数60rpmで測定した。
【0021】
耐水接着性能は、以下の方法で測定した。
【0022】
ガムテープ用クラフト紙(坪量68g/m)を縦30cm横10cmに裁断したものを用意し、メイヤーバー#26を用いて各サンプルの55℃の溶液をクラフト紙に2cm巾に塗布し、直ちにもう一枚のクラフト紙を重なる様にのせ、その上に1.8kgの重しを1分間のせて接着させた。これを23℃50%RHの恒温恒湿室にて一晩放置した後、溶液の塗布方向に直角に2cm巾に裁断し、耐水接着性能試験の試験片とした。一部の試験片は、接着部分をアイロンで加熱処理した。試験片の二枚のクラフト紙の片方に10gの分銅を吊し、もう片方のクラフト紙を保持して30℃の水槽の中に吊して、二枚のクラフト紙が分離するまでの時間(分)を測定した。
【0023】
ゲル化速度は、各サンプルの粘度測定後の溶液を密閉容器に入れて室温で16時間放置した後、その流動性を観察し、流動しない状態を+、流動する状態を−と判定した。さらに、流動しない状態のゲルは指触して、その硬さを観察し、硬さが増すにつれて+〜+++と判定した。
【実施例1】
【0024】
撹拌機、温度計、還流冷却管を備えたタンクに、脱イオン水720部を仕込み、還元剤としてモール塩6部を加えて溶解させた。撹拌しながら、コーンスターチ(水分12.3%、アミロース含量28%)600部を投入して分散させ、30℃に加温した。酸化剤である過酸化水素水(35%)を10.3部加え、3時間反応させた。反応後に3%水酸化ナトリウム水溶液でpHを5に中和し、遠心分離した。澱粉ケーキを水道水1000部に分散させ、再度遠心分離した。この操作を2回繰り返した後、澱粉ケーキを減圧乾燥した。この結果サンプル1を得た。
【実施例2】
【0025】
実施例1におけるモール塩6部を、同モル数のアスコルビン酸2.7部に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル2を得た。
【実施例3】
【0026】
実施例1における過酸化水素水10.3部を、同モル数のペルオキソ硫酸カリウム28.6部に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル3を得た。
【実施例4】
【0027】
実施例1におけるモール塩6部を同モル数のアスコルビン酸2.7部に変え、かつ、過酸化水素水10.3部を同モル数のペルオキソ硫酸カリウム28.6部に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル4を得た。
【実施例5】
【0028】
実施例1における中和を、最後の遠心分離の前に行った以外は同様に反応を行い、サンプル5を得た。
【実施例6】
【0029】
実施例1における反応時間を、1時間に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル6を得た。
【実施例7】
【0030】
実施例1におけるモール塩6部を、モール塩15部に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル7を得た。
【実施例8】
【0031】
実施例1における過酸化水素水10.3部を、26部に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル8を得た。
【実施例9】
【0032】
実施例1におけるコーンスターチを、タピオカ澱粉(水分12.7%アミロース含量17%)に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル9を得た。
【実施例10】
【0033】
比較例1として、実施例1におけるコーンスターチをワキシコーンスターチ(水分12.0%アミロース含量0%)に変え、かつ、脱イオン水720部を780部に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル10を得た。
【実施例11】
【0034】
比較例2として、特開2001−64302号公報の実施例3に従い、コーンスターチ100部に、30%過酸化水素5部、硫酸0.015部、硫酸銅(II)5水和物0.004部の水溶液を混合した物を、100℃で水分が12%以下になるまで乾燥した後、熱風循環式加熱機にて110℃で60分間加熱反応させた。放冷後、サンプル11を得た。
【実施例12】
【0035】
比較例3として、特開2001−64302号公報の実施例6に従い、コーンスターチ100部に、30%過酸化水素5部、硫酸0.015部、硫酸鉄(II)5水和物0.009部の水溶液を混合した物を、100℃で水分が12%以下になるまで乾燥した後、熱風循環式加熱機にて110℃で60分間加熱反応させた。放冷後、サンプル12を得た。
【実施例13】
【0036】
比較例4として、実施例1におけるコーンスターチを未反応のままサンプル13とした。
【実施例14】
【0037】
比較例5として、実施例7におけるタピオカ澱粉を未反応のままサンプル14とした。
【実施例15】
【0038】
比較例6として、実施例10におけるワキシコーンスターチを未反応のままサンプル15とした。
【実施例16】
【0039】
比較例7として、ヒドロキシプロピルエーテル化架橋タピオカ澱粉をサンプル16とした。
【実施例17】
【0040】
撹拌機、温度計、還流冷却管を備えたタンクに水道水720部を仕込み、撹拌しながら、コーンスターチ(水分12.3%、アミロース含量28%)600部を投入して分散させ、30℃に加温した。ついで、3%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを9.5に調整した。酸化剤である次亜塩素酸ソーダ150部を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらに3時間反応させた。反応中、pHが9.5以下にならない様、3%水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整した。反応後に3%塩酸水溶液でpHを5に中和し、遠心分離した。澱粉ケーキを水道水1000部に分散させ、再度遠心分離した。この操作を2回繰り返した後、澱粉ケーキを減圧乾燥した。この結果、比較例8として、酸化コーンスターチであるサンプル17を得た。
【0041】
サンプル1〜17の処方と粘度を表1にまとめた。
【0042】
【表1】

【0043】
本発明例であるサンプル1〜9は、ゲル化速度が大きく、16時間後には全てのサンプルで流動性が失われていることがわかる。これに対し、比較例であるサンプル10〜17は、サンプル13、および、16を除き、ゲル化速度が小さく流動性が失われなかった。(サンプル16は粘度が高いため、粘度測定時に既に流動性がなかった)。また、比較例であるサンプル13は硬いゲルになったが、本発明例は硬さが少なく柔らかいゲルとなった。
【0044】
各サンプルの耐水接着性能の結果は表2の通りであった。
【0045】
【表2】

【0046】
試験番号13(未反応コーンスターチ)に対し、試験番号1〜8(コーンスターチを原料とした本発明品)は、はるかに大きな耐水接着性能を有していることがわかる。また、試験番号14(未反応タピオカ澱粉)に対し、試験番号9(タピオカ澱粉を原料とした本発明品)は、耐水接着性能が向上していることがわかる。
【0047】
試験番号1と1−2の比較から、本発明品は耐水接着性能の発現に加熱処理を必要としないことがわかる。これに対し、特開2001−64302号公報に従って得た、サンプル11、および、12は、試験番号11、11−2、12、および、12−2の結果から、耐水接着性能を発揮させるには加熱が必要であることがわかる。さらに、加熱後の耐水接着性能に於いても、本発明品のサンプル番号1と比べて劣っていることがわかる。
【0048】
アミロース含量が0%のサンプル10、および、15は、試験番号10、および、15の結果から、耐水接着性能が全くないことがわかる。また、酸化剤のみを用いて反応させたサンプル17も、試験番号17の結果から、耐水接着性能がないことがわかる。
【0049】
実施例2と実施例16で得られたサンプルについて、両者を混合した溶液を作製し、その耐水接着性能の確認試験を行った。結果は、表3の通りであった。
【0050】
【表3】

【0051】
試験番号2、16−1〜4、16の比較から、本発明品は、他の加工澱粉と混合した状態で使用しても、混合割合に従った耐水接着性能を示すことがわかる。
【実施例18】
【0052】
実施例1におけるモール塩6部を10分の1のモル数のアスコルビン酸0.27部に変え、かつ、過酸化水素水10.3部を1.03部に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル18を得た。
【実施例19】
【0053】
実施例1におけるモール塩6部を10分の3のモル数のアスコルビン酸0.81部に変え、かつ、過酸化水素水10.3部を3.09部に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル19を得た。
【実施例20】
【0054】
実施例1におけるモール塩6部を10分の6のモル数のアスコルビン酸1.62部に変え、かつ、過酸化水素水10.3部を6.18部に変えた以外は同様に反応を行い、サンプル20を得た。
【0055】
サンプル18〜20の処方と粘度を表4にまとめた。
【0056】
【表4】

【0057】
サンプル18〜20はゲル化速度が大きく、16時間後には全てのサンプルで流動性が失われていることがわかる。また、反応させる還元剤・酸化剤の量が増加するに従って硬さが少なく柔らかいゲルとなった。
【0058】
サンプル18〜20の耐水接着性能の結果は表5の通りであった。
【0059】
【表5】

【0060】
サンプル13(未反応コーンスターチ)に対し、サンプル18〜20は、試験番号2、18〜20、および、13の結果から、反応させる還元剤・酸化剤の量が増加するに従って耐水接着性能が向上することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロースを5%より多く含む澱粉を、水に懸濁させた状態で還元剤および酸化剤と反応させて得られる、耐水性の高い加工澱粉。
【請求項2】
還元剤として硫酸鉄(II)アンモニウム、アスコルビン酸等から選ばれる一種以上を用い、酸化剤として過酸化水素、ペルオキソ硫酸塩等から選ばれる一種以上を用いることを特徴とする、請求項1に記載の加工澱粉。
【請求項3】
アミロースを5%より多く含む澱粉を、水に懸濁させた状態で還元剤および酸化剤と反応させることを特徴とする加工澱粉の製造方法。
【請求項4】
還元剤として硫酸鉄(II)アンモニウム、アスコルビン酸等から選ばれる一種以上を用い、酸化剤として過酸化水素、ペルオキソ硫酸塩等から選ばれる一種以上を用いることを特徴とする、請求項3に記載の加工澱粉の製造方法。

【公開番号】特開2006−160931(P2006−160931A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356383(P2004−356383)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000227272)日澱化學株式会社 (23)
【Fターム(参考)】