説明

還元鉄製造方法

【課題】還元炉を用いて粉鉄鉱石から還元鉄を製造する際に、CO2排出量を大幅に削減しつつ、スティッキングの発生を防止できる、還元鉄製造方法を提供すること。
【解決手段】還元炉を用いて粉鉄鉱石を還元性ガスにより還元する際に、該還元性ガスの少なくとも一部としてアンモニアを使用することを特徴とする還元鉄製造方法を用いる。粉鉄鉱石を移動させながら、還元性ガスにより還元すること、還元性ガスが、アンモニアと水素系ガスとの混合ガスであって、アンモニアの含有量が水素原子量換算で10mol%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定した還元鉄製造を実施するための還元鉄製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガス排出量の増加による地球温暖化が問題となっており、製鉄業においても排出CO2の抑制は重要な課題である。これを受け、最近の高炉操業では低還元材比操業においてCO2排出量を削減する方法が強力に推進されている。高炉は主にコークスおよび微粉炭を還元材として使用しており、低還元材比、ひいては炭酸ガス排出抑制を達成するためにはコークス等を廃プラスチック、LNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)、重油等の水素含有率の高い還元材で置換する方策が有効である。炭素の代わりに水素を還元材として利用することにより、発生するCO2を大幅に削減することが可能と考えられている。水素含有率の高い還元材を高炉で用いる技術として、高炉にLNGを羽口より吹き込み、製銑工程で排出される炭酸ガスを低減させる低炭酸ガス排出製鉄法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。また、水素ガスを補助還元材として利用する方法も知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0003】
さらに、鉄鉱石含有粒子材料(粉鉄鉱石)を還元炉を用い、還元材としてCO以外に水素を使用するプロセスで還元する方法が知られているが(例えば、特許文献4参照。)、このプロセスで純粋に水素のみを使用した場合、理論上はCO2を排出しない還元鉄の製造も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−240906号公報
【特許文献2】特開2006−241586号公報
【特許文献3】特開2008−082516号公報
【特許文献4】特表2005−502790号公報
【特許文献5】特開平3−247714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高炉法においては、吹き込み還元材を水素または水素化合物に置換することによりCO2排出量を削減できるものの、炉頂上から装入する還元材であるコークスを無くすことはできないため、CO2排出の削減量には限界がある。一方、特許文献4に記載のように還元炉を用いて水素系ガスにより粉鉄鉱石を還元するプロセスでは、理論上CO2を排出しない操業も可能である。しかし還元時に発生する金属繊維による粉鉄鉱石同士あるいは反応容器内壁への付着凝固(スティッキング)が操業上の課題であり、例えば還元ガスに硫化水素を導入して表面に硫化鉄を生成させて金属繊維の生成を防止する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、硫化水素は毒性が強く、大量輸送の技術開発とインフラ整備が実現の課題となっている。また硫化水素中の硫黄分が鉄中に残留した場合に溶鋼の脱硫が必要であり、酸化されてSOXとなった場合も有毒なので排ガス処理設備が不可欠である
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、還元炉を用いて粉鉄鉱石から還元鉄を製造する際に、CO2排出量を大幅に削減しつつ、スティッキングの発生を防止できる、還元鉄製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するための本発明は、アンモニアを還元反応に使用することを特徴とする、以下に示す還元鉄製造方法である。
(1)還元炉を用いて粉鉄鉱石を還元性ガスにより還元する際に、該還元性ガスの少なくとも一部としてアンモニアを使用することを特徴とする還元鉄製造方法。
(2)前記還元性ガスが、アンモニアと水素系ガスとの混合ガスであって、アンモニアの含有量が水素原子量換算で10mol%以上であることを特徴とする(1)に記載の還元鉄製造方法。
(3)前記粉鉄鉱石を移動させながら、前記還元性ガスにより還元することを特徴とする、(1)または(2)に記載の還元鉄製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、還元炉を用いて粉鉄鉱石から還元鉄を製造する際に、CO2排出量を大幅に削減しつつスティッキングを起こさない還元炉の操業が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】還元試験に用いた実験装置の概略図。
【図2】供給水素中のアンモニア化合水素の比率を変化させた場合の、最大撹拌トルク値の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
還元炉を用いて粉鉄鉱石から還元鉄を製造する際に、本発明では粉鉄鉱石の還元に用いる還元性ガスの少なくとも一部としてアンモニアを使用する。
【0010】
特許文献5に記載のように硫化水素を使用する場合は最終的には硫黄の回収処理が必要である。一方、アンモニア(NH3)を使用した場合は水素以外には窒素成分しか含有していないため、排ガスの大気への放散が可能である。純水素の沸点が−253℃であるのに対し、アンモニアの沸点は−33℃であるため、アンモニアは水素に比較して液化がはるかに容易である。またアンモニアは、LNG(主成分のCH4の沸点:−162℃)に比較しても液化が容易である。したがって、液化したアンモニアは、極低温を保持して輸送する必要が無く、輸送が容易であり、貯蔵の際の設備も低コストで建設することができる。また水素(H2)に比較して、単位体積あたりの水素含有率が高いため効率的であるという特徴もある。アンモニアガス1モル当たり水素ガスの1.5倍の水素を含有する。
【0011】
粉鉄鉱石を還元性ガスにより還元する際に、還元性ガスとしてアンモニアを用いるか、あるいはアンモニア以外の還元性ガスにアンモニアを添加することで、還元される粉鉄鉱石中の金属鉄の表面に窒化鉄が生成される。この窒化鉄の存在により、金属繊維の発生が抑制されて、粉鉄鉱石同士あるいは還元炉の反応容器内壁への付着凝固(スティッキング)が防止される。アンモニア、またはアンモニア含有還元性ガスにより粉鉄鉱石の還元を行なう際には、粉鉄鉱石を移動させながら行なうことが好ましい。これによりスティッキングをより効果的に防止することが可能となる。粉鉄鉱石を移動させながら還元炉で還元性ガスにより還元するためには、竪型のシャフト炉等内での原料の重力流動降下(輸送)に対してガスを吹き込むことによる向流移動層での還元反応を用いることが好ましい。
【0012】
還元性ガスの一部としてアンモニアを用いる際には、還元性ガスのアンモニア以外の残部としては、炭素系のCOガスなどを用いることも可能であるが、CO2発生量削減のためには水素系のガスを用いることが好ましい。水素系ガスとは、水素、LNG、炭化水素等の、還元成分として水素あるいはその化合物を含有するガスである。
【0013】
還元性ガスとして、水素系ガスとアンモニアガスとの混合ガスを用いる場合、アンモニアを水素原子量換算で10mol%以上含有する還元性ガスを用いることが好ましい。水素原子量換算で10mol%以上とは、吹き込んだ還元性ガスのすべての水素原子量をAとし、そのうちアンモニア(NH3)の形で持ち込まれた水素の原子量をBとした場合、B/A≧10mol%であることを意味している。アンモニアが水素原子量換算で10mol%以上であると、還元中の粉鉄鉱石の付着力が低下して、スティッキング防止効果が顕著となるためである。
【実施例1】
【0014】
図1に示す装置を用いて、粉鉄鉱石1をトルク計付のモーター2で撹拌しながら還元する実験を行い、スティッキングを撹拌トルク値を測定することで検知した。なお、粉鉄鉱石の加熱は電気ヒーター3を備えた電気炉にて行い、アンモニアによる還元時に温度は600℃に維持した。還元性ガスとして、アンモニア単体(純アンモニア)の他に、アンモニアと窒素と水素との混合ガス、窒素と水素との混合ガスを用いた。混合ガスは、純粋なアンモニアガスからアンモニアガスの一部を同じ原子数の窒素と水素に置換した割合のものを用い、供給水素中のアンモニア化合水素の割合を変化させて、各条件での最大撹拌トルク値を測定した。測定結果を図2に示す。
【0015】
図2によれば、アンモニア化合水素の比率が増加するにつれて撹拌トルク値(最大撹拌トルク値/還元前の攪拌トルク値)が急激に低下することが分かる。鉄粒子間の付着力が低下することにより、粒子間スティッキングが防止される。
【0016】
また、上記の測定後に還元鉄の成分分析を行なったところ、純アンモニア(還元性ガス中のアンモニア含有量100%)で還元された還元鉄は、水素還元(還元性ガス中のアンモニア含有量0%)の場合の倍以上の窒素濃度を有していたことから、アンモニアによる還元により、鉄粒子の表面に窒化鉄が形成されて粒子間スティッキングが防止されたと推定される。
【符号の説明】
【0017】
1 粉鉄鉱石
2 モーター
3 電気ヒーター
4 流量計
5 ガス分析計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元炉を用いて粉鉄鉱石を還元性ガスにより還元する際に、該還元性ガスの少なくとも一部としてアンモニアを使用することを特徴とする還元鉄製造方法。
【請求項2】
前記還元性ガスが、アンモニアと水素系ガスとの混合ガスであって、アンモニアの含有量が水素原子量換算で10mol%以上であることを特徴とする請求項1に記載の還元鉄製造方法。
【請求項3】
前記粉鉄鉱石を移動させながら、前記還元性ガスにより還元することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の還元鉄製造方法。

【図1】
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【図2】
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