説明

還元雰囲気の超臨界水を用いた磁性体の合成方法

【課題】通常の磁性体を合成するような専用の施設が必要なく、安価かつ簡便で、高性能な磁性体を全く異なった方法で合成すること。
【解決手段】有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物を触媒の存在下で、もしくは触媒を使用せずに超臨界水を用いて金属酸化物および/または金属水酸化物を還元すること、有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物と金属塩を触媒の存在下で、もしくは触媒を使用せずに超臨界水を用いて金属酸化物および/または金属水酸化物と金属塩を還元することによって磁気特性に優れた高品位の磁性材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属酸化物および/または金属水酸化物を還元して磁性体を合成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に磁性体の材料としては、Fe3O4(マグネタイト)やCoO、Niなどが挙げられる。Fe3O4(マグネタイト)を生成する方法としては、α-Fe2O3を1400℃で加熱する方法、またはα-Fe2O3を水素気流中の400℃で還元する方法などにより得られている。
【0003】
CoOを生成する方法としては、金属コバルトを空気中もしくは酸素雰囲気中で酸化する方法や、水酸化コバルト(II)や炭酸コバルト(II)を空気を断って加熱する方法、酸化コバルト(IV)や酸化コバルト(II)を強熱する、または水素や炭素などで還元することにより得られている。
【0004】
また、Niを生成させるには、水素雰囲気中で酸化ニッケルを還元させることにより得られている。
【0005】
【非特許文献1】日本原子力学会、2004年秋の大会予稿集、第III分冊、p491
【非特許文献2】錯体化学会、第54回錯体化学討論会講演要旨集、p414
【非特許文献3】実験化学講座9第2版 無機化合物の合成と精製、p341、日本化学会編、丸善株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先述した方法で磁性体を得るには、専用の施設が必要となる。本発明はこれらの手法とは全く異なった方法で、安価かつ簡便に高性能な磁性体を得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、超臨界水を用いた低レベル放射性廃棄物の減容処理法についての探求過程で、有機物に付着している放射性物質を模擬するため有機物とともに投入したα-Fe2O3やCo3O4などの非磁性金属酸化物および/またはFe(OH)3やCo(OH)3などの非磁性金属水酸化物が、超臨界水反応によりFe3O4やCoOなどに還元され、磁性体に変換されることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨とするところは、有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物を超臨界水を用いて金属酸化物および/または金属水酸化物を還元することを特徴とする磁性体の合成方法であり、または触媒の存在下において有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物を超臨界水を用いて金属酸化物および/または金属水酸化物を還元することを特徴とする磁性体の合成方法にある。さらに、有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物と金属ハロゲン塩および/または金属硝酸塩などの金属塩を同時に混合し、混合物を超臨界水を用いて還元することを特徴とする磁性体の合成方法であり、また触媒の存在下において有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物と金属ハロゲン塩および/または金属硝酸塩などの金属塩を同時に混合し、混合物を超臨界水を用いて還元することを特徴とする磁性体の合成方法にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、磁性体を得る従来の方法に比べ簡便かつ安価である。すなわち、超臨界水の反応容器さえあれば反応条件を厳密に設定する必要がなく、使用する有機物は特に限定されることなく、例えば、廃プラスチック等を用いることにより、有機物は超臨界水により液体および/または気体に分解されることから環境保全対策および廃棄物削減対策としても有効である。また触媒として用いた酸化ルテニウム(IV)は回収して再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明で云う超臨界水とは以下のような状態にある水である。水は臨界温度の約374℃に加熱され、その際の圧力が臨界圧の約22.1MPaに達している場合に臨界状態になる。水を反応容器に充填し、約374℃以上に加熱した場合、圧力は充填された水の質量によりコントロールされ、約22.1MPa、またはこれ以上の圧力に達する。このような状態にある水は超臨界水と称されている。
【0011】
本発明で云う還元対象である金属酸化物は、α-Fe2O3、Co3O4、NiO、MnO2、CuOなどであり、金属水酸化物はFe(OH)3、Co(OH)3などが挙げられる。
【0012】
また、本発明では金属ハロゲン塩および/または金属硝酸塩などの金属塩も同時に使用することもできる。すなわち、有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物と金属塩を触媒の存在下もしくは触媒を使用せず、超臨界水を用いて還元させる。反応後には、金属酸化物および/または金属水酸化物と金属塩を構成する金属が同時に混在する金属酸化物および/または金属を得ることができる。
【0013】
本発明で用いる金属塩としては、ハロゲン系、硝酸系、炭酸系のもので、具体的にはCoCl2、FeCl3、Sr(NO3)2、SrCO3、Fe(NO3)3などが挙げられる。
【0014】
本発明で使用する触媒としてはルテニウム系、ニッケル系、白金系、パラジウム系、バナジウム系のものが挙げられるが、ルテニウム系やニッケル系の触媒が好ましい効果を現わす。より好ましいのはルテニウム系の触媒であって、具体的には酸化ルテニウム(IV)である。
【0015】
超臨界水反応容器とは、有機物および水、金属酸化物や金属水酸化物などの被反応物および触媒などを同時に投入でき、かつ、超臨界水状態を維持することができる機能を有する容器のことである。
【0016】
本発明で使用する有機物は特に限定されることなく、通常の汎用プラスチック等であれば、使用することができる。また、廃棄処理されるような廃プラスチックでもよい。
【0017】
本発明の具体例を述べれば次の通りである。有機物およびα-Fe2O3 などの非磁性金属酸化物および/または Fe(OH)3などの非磁性金属水酸化物を同時に超臨界水反応容器に投入して超臨界水反応を起こさせることにより、非磁性金属酸化物や非磁性金属水酸化物は還元される。当該反応により有機物は分解され、二酸化炭素、メタン、水素などの気体に変換される。これらの気体が還元反応に寄与しているものと考えられる。
【0018】
また、有機物およびα-Fe2O3 などの非磁性金属酸化物および/または Fe(OH)3などの非磁性金属水酸化物および酸化ルテニウム(IV)を同時に超臨界水反応容器に投入して超臨界水反応を起こさせることにより、非磁性金属酸化物や非磁性金属水酸化物は還元される。
【0019】
有機物およびα-Fe2O3などの非磁性金属酸化物および/またはFe(OH)3などの非磁性水酸化物およびFeCl3および/またはSr(NO3)2などの金属塩を同時に超臨界水反応容器に投入して超臨界水反応を起こさせることにより、非磁性金属酸化物や非磁性金属水酸化物は還元される。
【0020】
また、有機物およびα-Fe2O3などの非磁性金属酸化物および/またはFe(OH)3などの非磁性水酸化物およびFeCl3および/またはSr(NO3)2などの金属塩および酸化ルテニウム(IV)を同時に超臨界水反応容器に投入して超臨界水反応を起こさせることにより、非磁性金属酸化物や非磁性金属水酸化物や金属塩は還元される。
【0021】
本発明において触媒として使用する酸化ルテニウム(IV)は、超臨界水中で有機物を分解する触媒として作用する過程で還元雰囲気を形成し、金属酸化物や金属水酸化物を還元させる。したがって、触媒が存在することにより、効率よく有機物が分解され、還元反応もより効果的に進むものと考えられる。
【0022】
これらの反応により、最終的に還元された被反応物である金属酸化物および/または被反応物である金属が得られた。これらの反応物が還元されていることはX線回折図形から明らかになった。また、得られた反応物は磁性体に変化していることが判った。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0024】
(実施例1)
バッチ式超臨界水反応容器(ハステロイC-22製、内容積10.8ml)に積層シート(主成分:ポリエチレン)150mg、酸化ルテニウム(IV)30mg、水3ml、α-Fe2O3500mgを同時に投入し、反応容器を密封後、加熱し、450℃で30分間反応させた。超臨界水反応容器内の温度が室温になるまで放冷した後、反応容器を開封した。反応容器の内容物を大過剰の水を用いて回収し、ミリポアメンブレンLSWP2500を用い固体をろ過により回収する。その回収した固体をデシケータで乾燥させる。回収物は黒色に変化していた。回収物をX線回折装置(XRD)(RINT 2000, (株)リガク)で測定したところ、Fe3O4に変化していることが示された。また、磁気特性測定システムMPMS(XL7ZB Quantum Design社)で測定することで磁性体に変化していることが示された。
【0025】
ただし、X線回折図形ではFe3O4とγ-Fe2O3の飽和磁気密度に関する限りはほとんど同じで両者は区別しにくい。したがって、α-Fe2O3が還元されて Fe3O4になり、さらに酸化されてγ-Fe2O3になったとも考えられ、現段階ではどちらであるか確認はしていない。
【0026】
これらの結果を図1に示す。図1中(a)は反応前のα-Fe2O3のX線回折図形であり、(b)はα-Fe2O3(500mg)を積層シート(150mg)とともに触媒存在下の超臨界水(450℃,30分)で反応させた後に得られた生成物のX線回折図形である。(c)はα-Fe2O3を積層シートとともに触媒を入れずに超臨界水(450℃,30分)で反応させた後に得られた生成物のX線回折図形であり、(d)はα-Fe2O3を積層シートも触媒も入れずに超臨界水(450℃,30分)で反応させた後で得られた生成物のX線回折図形である。
【0027】
(a)で観察されるα-Fe2O3の33°近辺のピークは(b)では消滅しており、還元されていることが示されている。また、(c)ではこのピークが少し発現していることがわかる。(d)は(a)とほとんど同じである。これらのことから、有機物の存在と、触媒として使用している酸化ルテニウム(IV)の効果が非常に大きいことが判った。
【0028】
さらに回収物の粒径を電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)((株)日立 S-4100)で観察したところ、300nmの微粒子を生成していることが示された。(図2)
【0029】
また、図3に磁化曲線を示す。図3中(a)は反応前のα-Fe2O3の磁化曲線であり、(b)はα-Fe2O3(500mg)を積層シート(150mg)とともに触媒存在下の超臨界水(450℃,30分)で反応させた後に得られた生成物の磁化曲線である。(c)は触媒を使用せず、α-Fe2O3を積層シートとともに超臨界水(450℃,30分)で反応させた後に得られた生成物の磁化曲線であり、(d)はα-Fe2O3を積層シートも触媒も使用せずに超臨界水(450℃,30分)で反応させた後に得られた生成物の磁化曲線である。図3から判るように、(b)の磁気特性が非常に優れている。
【0030】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、α-Fe2O3の代わりに、Co3O4を使用した。得られた生成物のX線回折図形を図4に、SEM写真を図5に、磁化曲線を図6に示した。図4および図6中に示す(a)は反応前のCo3O4のものであり、(b)はCo3O4(500mg)を積層シート(150mg)と共に触媒存在下の超臨界水(450℃,30分)で反応させた後に得られた生成物のものである。
【0031】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、α-Fe2O3の代わりに、NiOを使用した。得られた生成物のX線回折図形を図7に、SEM写真を図8に、磁化曲線を図9に示した。図7および図9中(a)は反応前のNiOのものであり、(b)はNiO(500mg)を積層シート(150mg)と共に触媒存在下の超臨界水(450℃,30分)で反応させた後に得られた生成物のものである。
【0032】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で、α-Fe2O3の代わりに、MnO2を使用した。得られた生成物のX線回折図形を図10に、磁化曲線を図11に示した。図10および図11中(a)は反応前のMnO2のものであり、(b)はMnO2(500mg)を積層シート(150mg)と共に触媒存在下の超臨界水(450℃,30分)で反応させた後に得られた生成物のものである。
【0033】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で、α-Fe2O3の代わりに、Cr3O4を使用した。得られた生成物のX線回折図形を図12に示した。図12中(a)は反応前のCr3O4のものであり、(b)はCr3O4(100mg)を積層シート(150mg)と共に触媒存在下の超臨界水(450℃,30分)で反応させた後に得られた生成物のものである。図12中の印は触媒が示すピークである。
【0034】
(実施例6)
有機物として積層シート(150mg)を用い、酸化ルテニウム(IV)(30mg)、水3mlの条件で超臨界水(450℃,30分)処理した後に得られた生成物のX線回折図形を図13に示した。図13中(c)は、反応前の酸化ルテニウム(IV)のものであり、(b)は酸化ルテニウム(IV)(30mg)を積層シート(150mg)とともに超臨界水(450℃,30分)で反応させた後に得られた生成物のものである。また、得られた生成物の磁化曲線を図14に示した。図14から得られた生成物は特異な磁化曲線を示していることが観察された。
【0035】
実施例1〜5で得られた生成物および酸化銅、水酸化鉄、水酸化コバルトを使用して得られた生成物の状態を図15に示した。また、実施例1〜5で得られた生成物の磁化曲線から得られた結果を図16に示した。図16中Fは強磁性を、AFは反強磁性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明では既存の方法に比べ、磁気特性に優れた高品位の磁性材料が安価かつ容易に得ることができるので磁性材料を使用する種々の産業分野で応用が可能である。また、有機廃棄物の処理も同時にできるので、環境保全対策としても有効な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】α-Fe2O3を使用して得られた生成物のX線回折図形。
【図2】α-Fe2O3を使用して得られた生成物のSEM写真。
【図3】α-Fe2O3を使用して得られた生成物の磁化曲線。
【図4】Co3O4を使用して得られた生成物のX線回折図形。
【図5】Co3O4を使用して得られた生成物のSEM写真。
【図6】Co3O4を使用して得られた生成物の磁化曲線。
【図7】NiOを使用して得られた生成物のX線回折図形。
【図8】NiOを使用して得られた生成物のSEM写真。
【図9】NiOを使用して得られた生成物の磁化曲線。
【図10】MnO2を使用して得られた生成物のX線回折図形。
【図11】MnO2を使用して得られた生成物の磁化曲線。
【図12】Cr3O4を使用して得られた生成物のX線回折図形。
【図13】有機物と酸化ルテニウム(IV)のみを用いて得られた生成物のX線回折図形。
【図14】有機物と酸化ルテニウム(IV)のみを用いて得られた生成物の磁化曲線。
【図15】触媒、積層シート、水3mlを入れて超臨界水(450℃,30分)で反応させて得られた生成物の状態を示した表。
【図16】触媒、積層シート、水3mlを入れて超臨界水(450℃,30分)で反応させて得られた生成物の磁化曲線から得られた結果を示した表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物を超臨界水を用いて金属酸化物および/または金属水酸化物を還元することを特徴とする磁性体の合成方法。
【請求項2】
有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物と金属ハロゲン塩および/または金属硝酸塩などの金属塩を同時に混合し、超臨界水を用いて金属酸化物および/または金属水酸化物と金属塩を還元することを特徴とする磁性体の合成方法。
【請求項3】
有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物を触媒の存在下で、超臨界水を用いて金属酸化物および/または金属水酸化物を還元することを特徴とする磁性体の合成方法。
【請求項4】
有機物および金属酸化物および/または金属水酸化物と金属ハロゲン塩および/または金属硝酸塩などの金属塩を同時に混合し、触媒の存在下で、超臨界水を用いて金属酸化物および/または金属水酸化物と金属塩を還元することを特徴とする磁性体の合成方法。
【請求項5】
触媒が酸化ルテニウム(IV)であることを特徴とする請求項2または請求項4記載の磁性体の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−261254(P2006−261254A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74142(P2005−74142)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 日本原子力学会2004年秋の大会 〔主催者名〕 社団法人日本原子力学会 〔開催日〕 平成16年9月15日〜平成16年9月17日〔刊行物等〕 〔研究集会名〕 第54回錯体化学討論会 〔主催者名〕 錯体化学会 〔開催日〕 平成16年9月23日〜平成16年9月25日
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(502045057)
【Fターム(参考)】