説明

部分放電発生ボイド種別の判定法

【課題】測定対象の劣化状態によらず、部分放電が発生しているボイド種別を判定する方法を提供する。
【解決手段】測定対象を恒温恒湿槽のような温度・湿度を制御できる装置内に設置し、測定物表面において結露が生じる過程と、結露が解消する過程を経る条件下で、単極性パルス電圧を試験電圧とする部分放電開始電圧の測定を行い、結露解消過程における部分放電開始電圧の挙動が、部分放電を生じているボイド種別により異なる特性を利用して、部分放電発生ボイド種別を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂によるモールドや含浸を施した変圧器や回転機等の電気機器の部分放電特性測定時において、部分放電の生じているボイド種別を判定するための試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧印加により絶縁材料の内部や表面に局部的な電界集中を引き起こすような欠陥が存在する場合、その部分で局部的な放電(部分放電)が生じる恐れがある。有機絶縁材料が部分放電にさらされると、材料は放電による物理的・化学的な劣化を生じ、最悪の場合全路破壊に至ることもある。そのため電気機器に対しては、製造後の初期および一定期間運用後の診断時において部分放電試験を実施し、初期欠陥や経年劣化の診断を行う必要がある。
【0003】
正弦波交流電圧による部分放電測定法に関しては古くから検討が進められ、各種測定法が確立されている(例えば非特許文献1)。また、インバータ駆動システムの絶縁で近年問題となっているインバータサージに対応するため、立ち上がりが急峻な電圧波形に対する部分放電の測定法に対しても検討が進められており、いくつかの測定法が提案されている(例えば非特許文献2、特許文献1)。
【0004】
ところで部分放電には絶縁層内部(密閉ボイド)で発生する放電と外部(開放ボイド)で発生する放電があり、ボイド形態により2種類に区分することができる。一般的に劣化初期に発生するボイドは密閉ボイドで、劣化が進行すると開放ボイドに進行するとされている。つまり、部分放電の発生しているボイド形態を判定することで、劣化の進展度合いを推定することができる。また、製造時の部分放電不良に関しても、内部放電であれば含浸樹脂のコイルへの浸透不足、外部放電であれば加熱硬化工程での樹脂のたれ、というように原因を推定することが可能になり、部分放電発生ボイド形態の特定は、絶縁システムの診断や不良時の対策を検討する上で有益な指標となる。
【0005】
この部分放電発生ボイドを判別する手法については、最大放電電荷量qmaxと印加電圧Vの関係から、外部放電の方がqmax−V特性の傾きが大きくなる特徴を利用して、放電が発生しているボイドが密閉系か開放系かを判別する方法が提案されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−38471公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「部分放電劣化」、電気学会技術報告(II部)第164号
【非特許文献2】「インバータサージの絶縁システムへの影響」、電気学会技術報告 第739号
【非特許文献3】「特別高圧回転機・ケーブルの絶縁劣化診断技術」、電気学会技術報告(II部)第267号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この手法では、測定対象の劣化が進行している場合、劣化と共に部分放電開始電圧は低下し、外部放電であってもqmax−V特性の傾きは小さくなってしまう。反対に劣化が少ない場合には、部分放電開始電圧が高くなるため、内部放電でも傾きは大きくなってしまい、ボイド形態の判別は困難になる。
【0009】
また、急峻なインパルス電圧を印加して試験する場合、放電電荷量の正確な測定が困難であることから、この場合もこの手法の適用は難しい。
【0010】
本発明は、測定対象の劣化状態によらず部分放電を生じているボイド形態を判別するための測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明によれば、測定対象を温度・湿度の制御が可能な恒温恒湿槽等に設置し、結露を伴う条件下で部分放電開始電圧を測定し、併せて絶縁抵抗値・静電容量値・tanδ値のいずれか1つもしくはこれらの組み合わせを測定することを特徴とする絶縁試験方法。測定対象を温度・湿度の制御が可能な恒温恒湿槽等に設置し、結露を伴う条件下で部分放電開始電圧を測定し、併せて絶縁抵抗値・静電容量値・tanδ値(誘電正接)等、測定対象の結露・吸湿状態を確認できる特性を測定することを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明によれば、請求項1の試験方法を用いた測定結果から、前記測定対象における放電発生源のボイド種別を判定することを特徴とする絶縁試験方法。部分放電発生源となるボイドが開放系か密閉系かによって、絶縁物表面の結露の状態が部分放電挙動に及ぼす影響が異なることを利用して、請求項1の試験方法を用いた測定結果から、放電発生源のボイド種別を判定することを特徴とする。
【0013】
本発明は、恒温恒湿槽のような温度・湿度を制御できる環境下に測定対象を設置し、ある程度の速度で昇温することで測定対象の表面に結露が生じる環境下で単極性パルス電圧を試験電圧とする部分放電開始電圧の測定を実施することを特徴とする。結露解消過程における部分放電開始電圧の挙動が、部分放電を生じているボイド種別により異なる特性を利用して、測定対象の劣化状態によらず、部分放電発生ボイド種別を判定することができる。
【0014】
部分放電開始電圧測定に際しては、パルス立ち上がり時間が10μs程度以下の単極性パルス電圧を試験電圧として用いることが望ましい。これは両極性パルス電圧を使用した場合には、残留電荷の効果が複雑に影響し、測定結果にばらつきが生じ易くなり、商用周波交流電圧を使用した場合には、絶対湿度を増加させていくと、あるポイントを超えると部分放電開始電圧が増大する効果が発現してしまうことが理由であり、パルスの立ち上がりに関しては、これが鈍い場合には、本発明を実施する場合の開放系ボイドのみに生じる特異な挙動が現れにくくなるためである。
【0015】
部分放電開始電圧測定時の部分放電検出法に関しては、ある程度急峻なパルス電圧を試験電源とした測定であるため、従来の正弦波交流による部分放電測定装置を使用することはできないが、高周波CT法のような簡単な装置を用いて測定することが可能である。図1に測定装置の一例を示す。1の恒温恒湿槽内に2の測定対象を設置し、3の高圧パルス電源により2にパルス電圧を印加する。一定の速度で昇圧し、2に部分放電が生じると、その際に流れる部分放電電流を4の高周波CTが検知し、5のハイパスフィルタを通しノイズ成分を排除した波形を6のデジタルオシロスコープで検出する。
【0016】
温度・湿度の制御に関しては、測定対象の表面に十分な結露を生じさせることが目的となる。具体的には、恒温恒湿槽内の温度・湿度に対して、測定対象の温度が露点温度以下になるような制御が必要になる。図2(a)に各温度・湿度に対する露点温度を示し、図2(b)に結露に必要な温度差を示す。これを目安に温度・湿度を制御し、ある程度高い設定温度と、早い温度上昇速度により、恒温恒湿槽内温度と測定対象温度に十分な差を生じさせる必要がある。
【0017】
恒温恒湿槽内の温度上昇よりも測定対象の温度上昇が遅れることで生じる結露は、恒温恒湿槽内の温度が設定温度に到達し、次いで測定対象の温度も設定温度に到達することで解消に転じる。この過程を通して単極性パルス電圧印加による部分放電開始電圧の測定を実施する。特に結露が解消に転じる付近で、部分放電の発生しているボイドが密閉系か開放系かで部分放電開始電圧が異なる挙動を示すことを利用して部分放電発生ボイドの種別を判定する。部分放電発生ボイドが密閉系である場合、結露の段階で部分放電開始電圧は十分な低下を示し、結露解消時の影響は受けない。しかし、部分放電発生ボイドが開放系である場合、結露解消に転じる付近で更に部分放電開始電圧が低下する現象が起こる。この違いを見分けることより、部分放電発生ボイドを区分することが可能になる。測定対象表面の結露、あるいは絶縁層の吸湿状態は、部分放電開始電圧の測定と併せて静電容量・tanδ、もしくは絶縁抵抗の測定を行うことで把握することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、測定対象の劣化状態によらず、部分放電発生ボイドの種別を判定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】部分放電開始電圧測定装置の一例を示した概略図である
【図2】結露を生じる条件となる露点温度を各温度・湿度について示した図である。
【図3】ボイド種別判定法実施時の温度・湿度制御の説明図である。(実施例1)
【図4】ボイド種別判定の実施方法を示した説明図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0020】
測定対象が一旦結露し、それが解消する過程を通して単極性パルス電圧を試験電圧とする部分放電開始電圧測定を実施することで、部分放電発生ボイド種別を判定する手法を実現した。
【実施例1】
【0021】
部分放電開始電圧の測定は、図1に示す高周波CT法を用いた測定装置で実施する。
【0022】
図3は、測定対象表面に結露の過程と結露解消の過程を生じさせるために行った恒温恒湿槽による温度・湿度制御の1実施例であって、図4は図3のように制御された環境下で行った部分放電開始電圧と、結露状態を判定するために併せて測定したtanδ(誘電正接)のデータを密閉系ボイドサンプルと開放系ボイドサンプルのそれぞれを測定対象として行った測定結果である。
【0023】
図3のように高温域にまで、ある程度の温度勾配で昇温することで、測定対象の表面に結露が生じる。結露の度合いは図4のtanδのデータで確認できるように、試験開始から徐々に進行し、tanδの最大値付近でピークを迎え、その後解消に転じる。
【0024】
図4(a)の密閉系サンプルにおける測定結果をみると、測定開始から表面の結露とともに生じる絶縁層の吸湿の影響で、部分放電開始電圧が低下していくが、結露のピーク近辺で、それまでの急激な低下傾向から安定領域に移り、結露解消過程の影響はほとんど受けない。
【0025】
一方、図4(b)の開放系ボイドサンプルの測定結果を見ると、結露の進行過程における部分放電開始電圧の低下は密閉系ボイドサンプルと同様であるが、結露のピークから解消の過程で密閉系ボイドとは大きく異なる特徴を示す。絶縁物表面に存在する開放系ボイドで起こる部分放電は、結露の進行と解消による絶縁物の表面導電率の変動の影響を直接的に受けることから、結露解消過程でさらに部分放電開始電圧の低下が確認できる。
【0026】
このように、結露解消過程における部分放電開始電圧の特徴的な挙動を見分けることで、部分放電発生ボイドが密閉系か開放系かを判定することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
製造時や、経年劣化の診断時におこなう絶縁特性試験において部分放電不良を検出した場合、本発明の手法を用いることで、測定対象の劣化の度合いによらず、部分放電が発生しているボイド種別を判定し、その後の対策検討に大いに役立つ指標を得ることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 恒温恒湿槽
2 測定対象
3 高圧パルス電源
4 高周波CT
5 ハイパスフィルタ
6 デジタルオシロスコープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象を温度・湿度の制御が可能な恒温恒湿槽等に設置し、結露を伴う条件下で部分放電開始電圧を測定し、併せて絶縁抵抗値・静電容量値・tanδ値のいずれか1つもしくはこれらの組み合わせを測定することを特徴とする絶縁試験方法。
【請求項2】
請求項1の試験方法を用いた測定結果から、前記測定対象における放電発生源のボイド種別を判定することを特徴とする絶縁試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−37483(P2012−37483A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180435(P2010−180435)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】