説明

部分放電電圧計測システム及び部分放電電圧計測方法

【課題】より信頼性が高い測定を行うことができる部分放電電圧計測システムを提供する。
【解決手段】絶縁物8について部分放電開始電圧を測定する場合、電圧制御プログラム9が、所定の時間間隔Δtupで電源装置2の出力電圧レベルを上昇させて、電圧上昇率が一定となるように制御する。また、部分放電判定プログラム19は、部分放電信号計測回路16が商用交流電源の6周期にわたり、部分放電検出ユニット3により出力される部分放電信号波形を計測し、その波形レベルが、開始判定しきい値Thiを超えた時点で部分放電が発生したと判定して、その時点の印加電圧を部分放電開始電圧とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁物に高電圧を印加した際に、絶縁物の内部または外部で発生する部分放電を計測する部分放電電圧計測システム,及び部分放電電圧計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器をはじめとする電気設備では、経年劣化或いは環境劣化により、絶縁物の内部や外部において部分放電と称する微小な放電が発生したり、さらに絶縁物が長期間部分放電に晒されることで絶縁材料が劣化し、何れは絶縁破壊に至ることがよく知られている。したがって、設備を構成する絶縁材料の部分放電特性を詳細に把握することは、事故を防止するためにも重要である。
部分放電は、絶縁物にあるレベル以上の電圧が印加されると発生する。その場合、部分放電開始電圧は、印加する電圧レベルを徐々に上昇させて、部分放電が最初に発生した際の印加電圧で定義され、部分放電消滅電圧は、部分放電が発生している状態から徐々に電圧レベルを下降させて、最初に部分放電が消滅した際の印加電圧で定義される。
【0003】
一般に従来は、図9に示すように、交流電源51が出力する交流電圧を、誘導電圧調整器52を用いて手動で上昇または下降させ、トランス53により昇圧して絶縁物54に印加するようにしている。絶縁物54に対しては、結合コンデンサ55及び部分放電測定器56の直列回路が並列に接続されており、部分放電測定器56が出力する信号をオシロスコープ57で計測し、その表示波形を観察することで測定を行っていた。例えば部分放電開始電圧の場合、測定者が手動で印加電圧を上昇させて、目視で部分放電が発生したと判断した時点の電圧レベルを、メータから読み取るという手順である。
【0004】
部分放電特性に影響を与える要素は、周囲温度や湿度など数多くあるが、印加電圧の上昇率もそのひとつである。したがって、手動で電圧を上昇させる従来の方法では、測定者によって上昇率に個人差が生じ、部分放電特性に少なからず影響を与えていた。また、放電の発生を目視により判断していたため、やはり測定者によって判定基準にばらつきが生じていた。
このような測定手法に対し、特許文献1には、パルス電圧の印加から、制御装置へのデータ蓄積までの一連の処理を、ソフトウェアを用いて自動的に行う計測システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−38471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、インバータサージ電圧の印加に応じて発生する部分放電開始電圧を測定することを目的としているため、測定対象物に印加するのはインパルス状の電圧であり、商用電源周波数に等しい交流電圧を印加する一般的な部分放電電圧の測定形態とは異なっている。また、特許文献1では、光電子増倍管や分圧器によって検出された結果を、そのまま部分放電開始電圧として評価している。ところが、実際の測定環境では、上記の検出結果にノイズ等が混入される場合も多く、検出された信号そのものが部分放電の発生に基づくものとは限らず、信頼性が高い測定であるとは言い難い。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、より信頼性が高い測定を行うことができる部分放電電圧計測システム,及び部分放電電圧計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の部分放電電圧計測システムは、正弦波電圧を生成して絶縁物に印加する電圧印加手段と、
この電圧印加手段が生成する正弦波電圧の振幅を制御する電圧制御手段と、
前記電圧印加手段が前記絶縁物に印加した電圧を計測する印加電圧計測手段と、
前記絶縁物に対して電気的に接続された状態で部分放電を検出するために使用される部分放電測定器より出力される判定対象信号を計測する信号計測手段と、
この信号計測手段が計測した判定対象信号に基づいて、部分放電の発生の有無を示す電圧を判定する電圧判定手段とを備え、
前記電圧制御手段は、前記正弦波電圧を段階的に上昇させ、
前記信号計測手段は、前記正弦波電圧が上昇する各段階について、前記正弦波電圧の1周期よりも長い時間にわたり計測を行い、
前記電圧判定手段は、前記判定対象信号のレベルが開始判定しきい値を超えた場合に、前記印加電圧計測手段が計測した電圧レベルを部分放電開始電圧とすることを特徴とする。
【0009】
斯様に構成すれば、電圧制御手段が所定の時間間隔で電圧印加手段の出力電圧レベルを上昇させるので、電圧上昇率を一定に制御できる。そして、電圧判定手段は、信号計測手段が計測した判定対象信号のレベルが開始判定しきい値を超えた時点で部分放電が発生したと判定する。したがって、放電発生の判定基準が一定になると共に、ノイズなどの影響を排除して部分放電の発生を確実に判定できる。
また、印加電圧計測手段が絶縁物に印加する電圧を計測するので、測定者がメータを読み取る必要もなく、測定者が介在せずに部分放電開始電圧を測定できる。加えて、部分放電は、所定の電圧レベルに達した直後に発生する場合もあれば、正弦波電圧の1周期以上遅れて発生する場合もある。そこで、正弦波電圧の1周期よりも長い時間、判定対象信号を計測することで、部分放電が遅れて発生しても見逃す可能性が低くなる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の部分放電電圧計測システムによれば、測定者が介在することなく部分放電開始電圧を測定できるので、ばらつきの少ない測定結果が得られると共にノイズなどの影響を排除して部分放電の発生を確実に判定できる。そして、部分放電の発生を見逃す可能性を低減して、部分放電開始電圧の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施例の部分放電電圧計測システムを示すブロック図
【図2】部分放電開始電圧の測定手順を示すフローチャート
【図3】(a)は部分放電が発生していない場合の部分放電測定器の出力信号波形の例、(b)は部分放電が発生している場合の(a)相当図
【図4】部分放電消滅電圧の測定手順を示すフローチャート
【図5】第2実施例を示す図1相当図
【図6】図2相当図
【図7】第3実施例を示す図1相当図
【図8】第4実施例を示す図1相当図
【図9】従来技術を示す図1相当図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施例)
以下、第1実施例について図1ないし図4を参照しながら説明する。図1は部分放電電圧計測システムの構成をブロック図で示したものである。本実施例の部分放電電圧計測システム1は、電源装置2、計測制御装置4を備えて構成されている。電源装置2は、交流電圧を出力するもので、正弦波電圧を生成出力する発振器5,及び発振器5が生成した正弦波電圧を増幅するアンプ6で構成されている。変圧器7は、アンプ6の出力電圧を昇圧し、絶縁物8に昇圧電圧を印加する。発振器5は、計測制御装置4が備えている電圧制御プログラム9が定めた振幅に従い、正弦波電圧を生成するようになっている。
【0013】
部分放電検出ユニット3は、絶縁物8において発生した部分放電を検出して部分放電信号波形を出力するもので、絶縁物8に対して並列接続される結合コンデンサ10及び部分放電測定器11の直列回路で構成されている。結合コンデンサ10の容量は、例えば1000pF程度である。
計測制御装置4は、パーソナルコンピュータをベースとして構成されており、以下に述べる各種のアプリケーションプログラムが動作すると共に、外部との間で信号を入出力するためのインターフェイスを備えることで、入力された信号波形を画面に表示するデジタルオシロスコープとしての機能や、部分放電の計測を制御する機能を実現している。
【0014】
計測制御装置4の印加電圧計測部(印加電圧計測手段)15は、印加電圧計測回路13,電圧値算出プログラム14を備えて構成され、部分放電信号計測部(信号計測手段)18は、部分放電信号計測回路16及び部分放電信号レベル算出プログラム17を備えて構成される。また、計測制御装置4は、電圧値算出プログラム14の算出結果と、部分放電信号レベル算出プログラム17の算出結果とを利用する部分放電判定プログラム(電圧判定手段)19を備えている。
【0015】
初期電圧取得プログラム12は、計測制御装置4の表示パネル(ディスプレイ)に初期電圧を設定するための入力欄を表示させ、ユーザがキーボード等により入力した初期電圧を取得すると、電圧制御プログラム(電圧制御手段)9に転送する。印加電圧計測部15は、外部の変圧器30を介して降圧された、絶縁物8に印加される電圧値を計測し、電圧制御プログラム9と部分放電判定プログラム19とに転送する。電圧制御プログラム9は、絶縁物8に印加された電圧が、初期電圧取得プログラム(初期電圧設定手段)12から受け取った初期電圧に達するまでは急激に上昇させて、その後は緩やかに上昇させるように、例えばGP−IBなどのインターフェイスを介して発振器5を制御する。部分放電判定プログラム19は、部分放電信号計測部18が計測した部分放電信号レベルを評価して部分放電の発生を判定する。
【0016】
次に、部分放電電圧計測システム1により部分放電開始電圧を測定する方法について説明する。図2は、本実施例における部分放電開始電圧の測定手順を示すフローチャートである。ステップS1では、初期電圧取得プログラム12が、ユーザにより計測制御装置4の表示パネルの入力欄に設定された初期電圧Vi(例えば、1kV)を読み込み、ステップS2では、電圧制御プログラム9が発振器5の出力電圧振幅Aを例えば「0」に初期化する。
【0017】
ステップS3では、電圧制御プログラム9が発振器5に振幅Aの正弦波電圧を生成するように指示を与える。これにより、発振器5で生成された振幅Aの正弦波電圧は、アンプ6で増幅された後、変圧器7でさらに昇圧されて絶縁物8に印加される。ステップS4では、印加電圧計測回路13が絶縁物8に印加された電圧波形を計測し、ステップS5では、電圧値算出プログラム14が、ステップS4で計測された波形から例えば実効値として電圧値Vを算出する。この場合、算出する電圧値はピーク値でも構わない。
【0018】
ステップS6では、電圧制御プログラム9が初期電圧ViとステップS5算出した電圧値Vとを比較し、(V≧Vi)であれば(YES)ステップS8に移行し、それ以外であれば(NO)ステップS7に移行する。ステップS7では、振幅Aに対し、所定の振幅変化幅ΔAをn倍(1<n)した増加幅を加えたものを新たな振幅Aとすると、ステップS3に戻る。そして、ステップS6において(V≧Vi)となるまで、ステップS3からステップS7を繰り返し実行する。
尚、変化幅ΔAは、発振器5の出力電圧の最小単位(出力分解能)で決まり、倍率nについては、発振器5に対し、出力分解能のn倍(n[mV])の電圧を指示するものとなる。そして、例えばアンプ6のゲインが「100」,変圧器8の昇圧率が「60」であるとすれば、変化幅ΔAに応じて電源装置2が出力する電圧レベルは、1mV×100×60=6Vとなる。
【0019】
ステップS8では、部分放電信号計測回路16が、部分放電検出ユニット3より出力される部分放電信号波形(判定対象信号)を計測し、ステップS9では、部分放電信号レベル算出プログラム17が、部分放電信号レベルの最大値PDmaxを算出する。
【0020】
図3(a)は、絶縁物8にて部分放電が発生していない状態で、部分放電検出ユニット3が出力した電圧6周期分の部分放電信号波形の一例であり、図3(b)は、部分放電が発生した状態の(a)相当図である。図3(b)に示すように、部分放電が発生すると、ピーク値が異なるインパルス状の信号波形が間欠的に観測される。そこで、部分放電信号レベルの最大値があるレベル以上となったか否かを判定すれば、部分放電の発生を確実に検知できる。
再び、図2を参照する。ステップS10では、部分放電判定プログラム19が、所定のしきい値Thi(測定対象の絶縁物8に応じて異なる)と最大値PDmaxとを比較し、(PDmax≧Thi)であれば部分放電が発生したと判定して(YES)ステップS13に移行する。ステップS13では、ステップS5で算出した電圧値Vを部分放電開始電圧として、計測制御装置4の表示パネルなどに表示する。
【0021】
一方、ステップS10において(PDmax<Thi)の場合には(NO)、部分放電の発生はないと判定し、ステップS11にて所定の電圧上昇時間Δtup(例えば0.5秒)が経過するまで待機する。Δtupが経過するとステップS12に移行し、電圧制御プログラム9が振幅Aに所定の振幅変化幅ΔAを加えて更新する処理を行い、ステップS3に戻る。なお、ステップS10では、Thi≦PDmax)という判定式を用いたが、(Thi<PDmax)を用いても構わない。
尚、ステップS7における電圧の増加幅は(ΔA・n)に設定されているが、ステップS12における電圧の増加幅はΔAに設定されている。これは、部分放電開始電圧が1kVを上回ると予想される絶縁物の場合、初期電圧Viを超えるまでは印加電圧の上昇率を高めて、測定を迅速に行うためである。
【0022】
図4は、部分放電消滅電圧の測定手順を示すフローチャートである。ステップS21では、初期電圧取得プログラム12が、計測制御装置4の表示パネルの入力欄に、ユーザにより設定された初期電圧Veを読み込み、ステップS22では、電圧制御プログラム9が絶縁物8に印加される電圧がVeとなる振幅Aをセットする。ステップS3〜S5,S8,S9では、図2と同様の処理を行う。
ステップS23では、部分放電判定プログラム19が、所定のしきい値Theと最大値PDmaxを比較し、(PDmax<The)となれば部分放電が消滅したと判定し(YES)、ステップS26に移行する。ステップS26では、ステップS5で算出した電圧値Vを部分放電消滅電圧として、計測制御装置4の表示パネルなどに表示する。
【0023】
ステップS23において、(PDmax≧The)の場合は(NO)部分放電が継続していると判定し、ステップS24にて所定の電圧下降時間Δtdown(例えば0.5秒)が経過するまで待機する。Δtdownが経過するとステップS25に進み、電圧制御プログラム9が振幅Aを振幅変化幅ΔAだけ減少させて、ステップS3に戻る。なお、ステップS23では(PDmax<The)という判定式を用いたが、(The≦PDmax)を用いても構わない。また、図2及び図4では、部分放電開始電圧と部分放電消滅電圧とを個別に測定する手順として説明したが、図2のステップS13を実行した後に図4のステップS21に進み、部分放電開始電圧と部分放電消滅電圧とを続けて測定してもよい。
【0024】
一般に、部分放電開始電圧と部分放電消滅電圧とでは、前者が高く、後者が低い値となる。例えば、特許文献1にも試料として開示されているような、エナメル線によるツイストペアについて測定を行った一例では、部分放電開始電圧が640V(平均値)であるのに対して部分放電消滅電圧は570V(平均値)であり、70V程度の差がある。したがって、部分放電開始電圧と共に部分放電消滅電圧も計測しておき、耐圧等を設定する場合に部分放電消滅電圧を基準にすれば、安全に対するマージンをより確実に設定することが可能となる。
【0025】
以上のように本実施例によれば、絶縁物8について部分放電開始電圧を測定する場合、電圧制御プログラム9が、所定の時間間隔Δtupで電源装置2の出力電圧レベルを上昇させるので、部分放電判定プログラム19は、部分放電信号計測回路16を介して部分放電検出ユニット3により出力される部分放電信号波形を計測し、その波形のレベルが、開始判定しきい値Thiを超えた時点で部分放電が発生したと判定する。したがって、電圧上昇率が一定となることで放電発生の判定基準が一定になると共に、部分放電信号波形に重畳されるノイズなどの影響を排除できるので、部分放電の発生を確実に判定できる。また、印加電圧計測回路13が絶縁物8に印加する電圧を計測するので、測定者が計測器等のメータを読み取る必要もなく、測定者が介在せずに部分放電開始電圧を測定できる。
【0026】
また、部分放電消滅電圧を測定する場合、電圧制御プログラム9が所定の時間間隔Δtdownで電源装置2の出力電圧レベルを下降させて、部分放電判定プログラム19は、部分放電信号計測回路16が計測した信号レベルが所定のしきい値Theを下回ると部分放電が消滅したと判定する。したがって、電圧下降速度が一定となることで放電消滅の判定基準も一定になり、この場合もノイズなどの影響を排除して確実に判定できる。そして、、測定者が介在せずに部分放電消滅電圧を測定できるので、ばらつきの少ない測定結果が得られる。
【0027】
また、部分放電は、絶縁物の印加電圧が所定の電圧レベルに達した直後に発生したり、消滅したりする場合もあれば、交流電圧の1周期以上遅れて発生する場合もある。そして、電圧の1周期以上遅れて消滅する場合もあるので、電源装置2が出力する正弦波電圧の6周期の間、部分放電信号波形を計測することで、部分放電が遅れて発生,消滅しても見逃す可能性が低くなる。したがって、部分放電開始電圧,並びに部分放電消滅電圧の測定精度を向上させることができる。
さらに、初期電圧取得プログラム12により、部分放電開始電圧を測定する際の初期電圧Viを設定し、電圧制御プログラム9は、設定された初期電圧Viまでは電圧上昇率を高め、その後は電圧上昇率を緩めるので、部分放電開始電圧測定に要する時間の短縮が可能となる。
【0028】
(第2実施例)
図5及び図6は第2実施例を示すものであり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。第2実施例の部分放電電圧計測システム31は、第1実施例の部分放電電圧計測システム1に加えて、絶縁物8の周辺温度を測定する温度測定装置(温度計測手段)24と、絶縁物8の周辺湿度を測定する湿度測定装置(湿度計測手段)25と、絶縁物8の周辺気圧を測定する気圧測定装置(気圧計測手段)26とを備えて構成されている。
【0029】
さらに、計測制御装置4に替わる計測制御装置32は、繰返し回数制御プログラム(反復実行制御手段)20,ハードディスクのような磁気記憶装置21,データ保存プログラム22を備えたデータ保存装置(データ記録手段)23,温度測定装置24及び湿度測定装置25並びに気圧測定装置26からのデータを受信(取得)する環境データ受信プログラム(周囲環境データ取得手段)27を備えている。上記の各測定装置24〜26と計測制御装置32との間のデータ転送は、例えばシリアル通信によって行われる。
【0030】
繰返し回数制御プログラム20は、設定された回数だけ部分放電測定を繰り返し実行させる。部分放電判定プログラム19が判断した部分放電開始電圧,又は部分放電消滅電圧のデータと、環境データ受信プログラム27が受信した温度データ、湿度データ、気圧データとは、データ保存プログラム22によりファイル化されて、磁気記憶装置21に保存される。
【0031】
次に、部分放電電圧計測システム31により、部分放電開始電圧を測定する方法について説明する。図6は、図2相当図である。ステップS31では、繰返し回数制御プログラム20が、例えばユーザにより入力設定され、計測制御装置32の表示パネルに表示された繰返し回数Mを読み込み、ステップS32では測定回数mを「0」に初期化する。続いて第1実施例と同様にステップS1〜S13を実行し部分放電開始電圧を測定すると、ステップS33では、環境データ受信プログラム27が温度測定装置24から温度データを、湿度測定装置25から湿度データを、気圧測定装置26から気圧データをそれぞれ受信する。
【0032】
ステップS34では、データ保存プログラム22が、部分放電開始電圧、温度、湿度、気圧の各データを、例えばテキストファイルのような形式でファイルに記述する。繰返し回数制御プログラム20は、ステップS35で測定回数mをインクリメントし、ステップS36でmとMとを比較する。mがM未満の場合には(YES)ステップS37に移行し、所定の休止時間Tp(例えば30秒程度)が経過するまで待機する。それ以外の場合は(NO)ステップS38に移行し、データ保存プログラム22がデータを記述したファイルを磁気記憶装置21に保存する。
尚、ステップS37において時間Tpだけ待機するのは、前回の測定で発生した部分放電が、次の測定に影響を与えることを回避するためである。また、図6では部分放電開始電圧の測定手順を説明したが、部分放電消滅電圧についても、ステップS1〜S13に替えて図4に示す処理を実行すれば、同様の手順で測定可能である。
【0033】
以上のように第2実施例によれば、部分放電特性の測定を、繰返し回数制御プログラム20により複数回繰り返し実行させ、温度等の絶縁物8の周囲環境データの計測も環境データ受信プログラム27により行わせ、計測された各データはファイルに記述するようにした。一般に、部分放電開始電圧や部分放電消滅電圧は測定値のばらつきが大きく、一つの測定条件下で複数回の測定を実施して、得られた複数の測定データを統計処理することが多い。そこで、部分放電開始電圧や部分放電消滅電圧の測定を繰り返し行い、測定結果をファイルに保存すれば、測定者が毎回メータや表示数値を読み取って測定結果を筆記する必要がなく、測定時間が短縮できることに加えて統計処理が容易になるという利点がある。
【0034】
また、絶縁物8の周囲における温度、湿度、気圧は部分放電の発生確率に影響を与えると共に、測定中においても変化するので、部分放電特性の測定毎に、温度データ、湿度データ、気圧データを取得することは重要である。したがって、第2実施例のように、温度データ、湿度データ、気圧データもファイルに保存することで、周囲環境データの測定結果を筆記する必要がなく、測定に要する時間が短縮できる。そして、後ほどファイル周囲環境データを読み出して、部分放電特性を評価する場合に利用することができる。
【0035】
(第3実施例)
図7は第3実施例であり、第1実施例と異なる部分のみ説明する。第3実施例は、第1実施例の部分放電電圧計測システム1に対し、部分放電検出ユニット3に替えて、CT(電流トランス,部分放電測定器)33を組み合わせた構成である。この場合、CT33は、絶縁物8に対して直列に接続されている。斯様に構成した場合でも、絶縁物8に部分放電が発生した場合に流れる電流がCT33により検出される。したがって、第1実施例と同様にして部分放電開始電圧,又は部分放電消滅電圧を計測することができる。
【0036】
(第4実施例)
図8は第4実施例であり、第2実施例と異なる部分のみ説明する。第4実施例は、第2実施例の部分放電電圧計測システム31に対し、部分放電検出ユニット3に替えて、CT33を組み合わせた構成である。この場合も、第2実施例と同様にして、部分放電開始電圧,又は部分放電消滅電圧に加えて温度データ、湿度データ、気圧データを計測し、それらのデータをファイルに保存することができる。
【0037】
本発明は上記し又は図面に記載した実施例に限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
部分放電信号波形を計測する期間は、必ずしも交流電源の6周期分に限ることなく、7周期以上行っても良いし、少なくとも1周期以上とすれば良い。
変化幅ΔA値は、適宜変更して良い。また、結合コンデンサ10の容量も適宜変更して実施すれば良い。
初期電圧Viを設定した場合に、印加電圧の上昇率を変化させる処理は、必要に応じて行えばよい。また、初期電圧Vi,Ve設定についても必要に応じて行えば良く、計測制御装置4に予め定められているデフォルト値で初期電圧を設定しても良い。
発振器5の出力分解能,アンプ6のゲインや変圧器7の増幅率も、適宜変更して良い。
電圧上昇時間Δtup,電圧下降時間Δtdown,休止時間Tpについても、適宜変更して良い。
【0038】
変圧器30を使用することなく、印加電圧計測回路15が、変圧器7の低圧側電圧を計測するように構成しても良い。
第1実施例において、部分放電開始電圧の計測のみを行っても良い。
第2実施例において、温度データ、湿度データ、気圧データは必ずしも計測する必要はない。また、それらの内何れか1つ以上を計測しても良い。
また、第2実施例において、繰り返し回数Mをユーザに設定させるようにしたが、上記と同様計測制御装置4に予め定められているデフォルト値で設定しても良い。
計測制御装置4,32は、パーソナルコンピュータをベースとする構成に限らず、部分放電の計測を制御するため装置として構成しても良い。
【符号の説明】
【0039】
図面中、1は部分放電電圧計測システム、2は電源装置(電圧印加手段)、3は部分放電検出ユニット、4は計測制御装置、6はアンプ、7は変圧器、8は絶縁物、9は電圧制御プログラム(電圧制御手段)、11は部分放電測定器、12は初期電圧取得プログラム(初期電圧設定手段)、15は印加電圧計測部(印加電圧計測手段)、18は部分放電信号計測部(信号計測手段)、19は部分放電判定プログラム(電圧判定手段)、20は繰返し回数制御プログラム(反復実行制御手段)、23はデータ保存装置(データ記録手段)、24は温度測定装置(温度計測手段)、25は湿度測定装置(湿度計測手段)、26は気圧測定装置(気圧計測手段)、27は環境データ受信プログラム(周囲環境データ取得手段)、31は部分放電電圧計測システム、32は計測制御装置、33はCT(部分放電測定器)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正弦波電圧を生成して絶縁物に印加する電圧印加手段と、
この電圧印加手段が生成する正弦波電圧の振幅を制御する電圧制御手段と、
前記電圧印加手段が前記絶縁物に印加した電圧を計測する印加電圧計測手段と、
前記絶縁物に対して電気的に接続された状態で部分放電を検出するために使用される部分放電測定器より出力される判定対象信号を計測する信号計測手段と、
この信号計測手段が計測した判定対象信号に基づいて、部分放電の発生の有無を示す電圧を判定する電圧判定手段とを備え、
前記電圧制御手段は、前記正弦波電圧を段階的に上昇させ、
前記信号計測手段は、前記正弦波電圧が上昇する各段階について、前記正弦波電圧の1周期よりも長い時間にわたり計測を行い、
前記電圧判定手段は、前記判定対象信号のレベルが開始判定しきい値を超えた場合に、前記印加電圧計測手段が計測した電圧レベルを部分放電開始電圧とすることを特徴とする部分放電電圧計測システム。
【請求項2】
前記電圧制御手段は、前記判定対象信号のレベルが前記開始判定しきい値を超えている状態から、前記正弦波電圧を段階的に下降させ、
前記信号出力手段は、前記正弦波電圧が下降する各段階について、前記正弦波電圧の1周期よりも長い時間にわたり前記判定対象信号を計測し、
前記電圧判定手段は、前記判定対象信号のレベルが消滅判定しきい値を下回った際に、前記印加電圧計測手段が計測した電圧レベルを部分放電消滅電圧とすることを特徴とする請求項1記載の部分放電電圧計測システム。
【請求項3】
初期電圧を入力設定するための初期電圧設定手段を備え、
前記電圧制御手段は、前記正弦波電圧を上昇させる場合、前記正弦波電圧が前記初期電圧に達するまでは電圧の上昇率を高く設定し、前記正弦波電圧が前記初期電圧に達した以降は電圧の上昇率を低く設定することを特徴とする請求項1又は2記載の部分放電電圧計測システム。
【請求項4】
前記印加電圧計測手段が計測する電圧,又は前記信号計測手段が計測する判定対象信号のデータを記録するデータ記録手段と、
前記電圧判定手段による電圧判定を、複数回反復して実行させる反復実行制御手段と、
この反復実行制御手段が制御することで、前記電圧判定手段により得られる複数回の電圧判定結果を記録するデータ記録手段とを備えたことを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の部分放電電圧計測システム。
【請求項5】
前記絶縁物の周囲温度を計測して、計測した温度データを出力する温度計測手段,前記絶縁物の周囲湿度を計測して、計測した湿度データを出力する湿度計測手段,前記絶縁物の周囲気圧を計測して、計測した気圧データを出力する気圧計測手段の何れか1つ以上と、
前記温度計測手段が出力した温度データ,前記湿度計測手段が出力した湿度データ,前記気圧計測手段が出力した気圧データの何れか1つ以上を取得する周囲環境データ取得手段とを備え、
前記データ記録手段は、前記周囲環境データ取得手段が取得したデータも記録することを特徴とする請求項4記載の部分放電電圧計測システム。
【請求項6】
絶縁物に印加する正弦波電圧を段階的に上昇させ、
前記正弦波電圧が上昇する各段階について、前記正弦波電圧の1周期よりも長い時間にわたり、前記絶縁物に対して電気的に接続された状態で部分放電を検出するために使用される部分放電測定器より出力される判定対象信号を計測し、
前記判定対象信号のレベルが開始判定しきい値を超えた場合に、計測した電圧レベルを部分放電開始電圧とすることを特徴とする部分放電電圧計測方法。
【請求項7】
前記判定対象信号のレベルが前記開始判定しきい値を超えている状態から、前記正弦波電圧を下降させ、
前記正弦波電圧が上昇する各段階について、前記正弦波電圧の1周期よりも長い時間にわたり前記判定対象信号を計測し、
前記判定対象信号のレベルが消滅判定しきい値を下回った際に、計測した電圧レベルを部分放電消滅電圧とすることを特徴とする請求項6記載の部分放電電圧計測方法。
【請求項8】
初期電圧を予め設定し、
前記正弦波電圧を上昇させる場合、前記正弦波電圧が前記初期電圧に達するまでは電圧の上昇率を高く設定し、前記正弦波電圧が前記初期電圧に達した以降は電圧の上昇率を低く設定することを特徴とする請求項6又は7記載の部分放電電圧計測方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−281673(P2010−281673A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135016(P2009−135016)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(500414800)東芝産業機器製造株式会社 (137)
【Fターム(参考)】