説明

部分放電電流計測システム

【課題】従来よりも精密で且つ信頼性が高い部分放電電流の測定を行うことができる部分放電電流計測システムを提供する。
【解決手段】部分放電電流計測システム1において、電圧制御プログラム9が所定の時間間隔Δtupで電源装置2の出力電圧レベルを上昇させて、電圧上昇率を一定に制御する。また、部分放電電流計測回路10は、CT3より出力される信号のレベルが所定の閾値を超えるとA/D変換回路11にA/D変換処理を開始させる。この場合、A/D変換回路11が、計測された部分放電電流波形をフィルタ等により帯域制限されていない状態でデジタルデータ化するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁物に高電圧を印加した際に、絶縁物の内部または外部で発生する部分放電の電流を計測する部分放電電流計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器をはじめとする電気設備では、経年劣化或いは環境劣化により、絶縁物の内部や外部において部分放電と称する微小な放電が発生し、さらに絶縁物が長期間部分放電に晒されることで絶縁材料が劣化し、何れは絶縁破壊に至ることがよく知られている。したがって、設備を構成する絶縁材料の部分放電特性を詳細に把握することは、事故を防止するためにも重要である。
【0003】
部分放電特性には、放電開始電圧、放電消滅電圧、放電パルス数、放電発生時の電圧位相、放電電流波形など様々な要素が存在するが、中でも放電電流の波形は放電現象を解明するうえで有用な情報を含んでおり、放電電流波形を精度良く測定し解析することは、ひいては電気設備の絶縁性能の向上につながる。部分放電は、絶縁物にあるレベル以上の電圧が印加されると発生する。その場合、部分放電開始電圧は、印加する電圧レベルを徐々に上昇させて、部分放電が最初に発生した際の印加電圧で定義される。
【0004】
一般に従来は、図12に示すように、交流電源51が出力する交流電圧を、誘導電圧調整器52を用いて手動で上昇させ、トランス53により昇圧して絶縁物54に印加するようにしていた。絶縁物54に対しては、部分放電電流測定器55が直列に接続されており、部分放電電流測定器55が出力する信号をオシロスコープ56で計測し、その表示波形を観察することで測定を行っていた。例えば部分放電電流の立下り時間を測定する場合、測定者が手動で印加電圧を上昇させて、部分放電発生時に観測された部分放電電流波形からオシロスコープのカーソル機能を用いて立下がり時間を読み取っていた。
【0005】
部分放電特性に影響を与える要素は、周囲温度や湿度など数多くあるが、印加電圧の上昇率もその一つである。したがって、従来のように手動で電圧を上昇させる方法では測定者によって上昇率に個人差が生じてしまい、部分放電特性に少なからず影響を与えていた。また、部分放電電流の波形情報を目視により読み取っていたため、やはり測定者によって読取基準にばらつきが生じていた。さらに、部分放電特性はばらつきが多く、数回の測定ではデータとしての信頼性が低い。このため、十数回の測定を繰り返し実施する必要があり、部分放電電流の波形情報を目視で読み取るやり方では、相当な測定時間が必要であった。
【0006】
例えば特許文献1には、部分放電電流を計測した信号を、バンドパスフィルタ及びピーク検波回路を通すことで、放電電流のピーク値を得る構成が開示されている。特許文献2には、部分放電電流を計測した信号を、ハイパスフィルタおよび積分回路を通して電流値を積分し、放電電流を電荷量に換算する構成が開示されている。また、特許文献3には、部分放電信号の尖頭値検出回路を複数設けて、部分放電電流波形を整形してから、放電信号のピーク値および極性を得る構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−107627号公報
【特許文献2】特開平11−237430号公報
【特許文献3】特開2004−309301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1〜3では、何れも計測した部分放電信号に対して、フィルタ回路やピーク値検出回路、積分回路を通した信号をA/D変換処理してデジタルデータ化している。従来、部分放電現象について解析を行う際には、上記特許文献に記載されているように、放電波形については数10MHzから高々数100MHz程度の周波数成分を解析すれば十分である、と考えられていた。
【0009】
ところが、近年、波形計測に使用されるデジタルオシロスコープの性能が著しく向上しており、サンプリング周波数がGHzオーダーに達しているものもある。そのように高機能なオシロスコープで部分放電波形を観測した結果、放電波形には、より高い周波数成分が含まれていることが判明している。
したがって、部分放電現象についてより詳細な解析を行うためには、特許文献1〜3に開示されているような従来構成では不十分である。また、これらの特許文献には印加電圧の設定方法に関する記述はなく、部分放電の発生に影響する印加電圧の上昇速度が一定とならない場合には信頼性のあるデータは得られないと考えられる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来よりも精密で且つ信頼性が高い部分放電電流の測定を行うことができる部分放電電流計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の部分放電電流計測システムは、正弦波電圧を生成して絶縁物に印加する電圧印加手段と、
この電圧印加手段が生成する正弦波電圧の振幅を制御する電圧制御手段と、
前記絶縁物に対して部分放電が発生した場合に流れる放電電流を検出するための電流検出手段より出力される信号を計測する部分放電電流計測手段と、
前記部分放電電流計測手段が計測した信号をデジタルデータ化するA/D変換手段とを備え、
前記電圧制御手段は、前記正弦波電圧を段階的に上昇させ、
前記部分放電電流計測手段は、前記部分放電電流検出手段より出力される信号のレベルが所定の閾値を超えると、前記A/D変換手段にA/D変換処理を開始させ、
前記A/D変換手段が、前記部分放電電流計測手段を介して与えられる、帯域制限されていない状態の信号をA/D変換処理するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
このように構成すれば、電圧制御手段が所定の時間間隔で電圧印加手段の出力電圧レベルを上昇させるので、電圧上昇率を一定に制御できる。また、部分放電電流計測手段は、部分放電電流検出手段より出力される信号のレベルが所定の閾値を超えるとA/D変換処理を開始させるので、ノイズの影響を排除して部分放電発生の判定基準を一定にし、必要な電流信号だけをA/D変換させることができる。そして、A/D変換手段は、計測された部分放電電流波形をフィルタ等により帯域制限されていない状態でデジタルデータ化するので、そのデータを用いて詳細な解析を行うことができる。
尚、ここで言う「帯域制限されていない状態」とは、上記のようにフィルタ等を用いたりすることで、信号に含まれている周波数成分の一部を積極的に除去することを行わない状態を意味している。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の部分放電電流計測システムによれば、部分放電電流の計測及び解析を従来よりも精密かつ詳細に行うことができ、部分放電現象の解明に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施例であり、部分放電電流計測システムを示すブロック図
【図2】部分放電電流の測定手順を示すフローチャート
【図3】印加電圧と部分放電電流測定レンジとの関係を表す図
【図4】計測した部分放電電流波形の例
【図5】図4に示す波形を平滑化した例と、立上り時間と立下り時間との定義を説明する図
【図6】部分放電電流の各解析項目の算出手順を示すフローチャート
【図7】第2実施例を示す図1相当図
【図8】部分放電電流及び印加電圧の測定手順を示すフローチャート
【図9】部分放電が発生した時点の印加電圧値,電圧位相の算出手順を示すフローチャート
【図10】第3実施例を示す図1相当図
【図11】第4実施例を示す図1相当図
【図12】従来技術を示す図1相当図
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施例)
以下、第1実施例について図1ないし図6を参照しながら説明する。図1は部分放電電流計測システムの構成を示すブロック図である。本実施例の部分放電電流計測システム1は、電源装置2、計測制御装置4を備えて構成されている。電源装置2は、交流電圧を出力するもので、正弦波電圧を生成出力する発振器5,及び発振器5が生成した正弦波電圧を増幅するアンプ6で構成されている。変圧器7は、アンプ6の出力電圧を昇圧して、その昇圧電圧を絶縁物8に印加する。発振器5は、計測制御装置4が備えている電圧制御プログラム9により振幅が制御された正弦波電圧を生成するようになっている。
【0016】
CT(カレントトランス,部分放電電流検出手段)3は、絶縁物8において発生した部分放電電流を検出して部分放電電流信号を出力するもので、絶縁物8のアース線側にクランプされている。計測制御装置4は、パーソナルコンピュータをベースとして構成されており、以下に述べる各種のアプリケーションプログラムが動作すると共に、外部との間で信号を入出力するためのインターフェイスを備えることで、入力された信号波形を画面に表示するデジタルオシロスコープとしての機能や、部分放電の計測を制御する機能を実現している。
【0017】
計測制御装置4は、電圧制御プログラム9(電圧制御手段)、部分放電電流計測回路10(部分放電電流計測手段)、A/D変換回路11(A/D変換手段)、部分放電電流波形解析プログラム12(部分放電電流波形解析手段)を備えて構成され、電圧制御プログラム9は、絶縁物8に印加される電圧が、所定時間に所定の電圧だけ上昇するように、例えばGP−IBなどのインターフェイスを介して発振器5を制御する。部分放電電流計測回路10は、部分放電電流信号が所定のしきい値を超えると信号の計測を開始し、計測した部分放電電流信号をA/D変換回路11に送出する。部分放電電流波形解析プログラム12は、A/D変換回路11がアナログ−デジタル(A/D)変換した部分放電電流のデジタルデータを用いて、種々の解析を実施するようになっている。
尚、部分放電電流計測回路10の出力端子と、A/D変換回路11の入力端子との間には、アナログ電流信号の帯域を制限するためのフィルタ等が一切配置されておらず、両者は直結されている。
【0018】
次に、部分放電電流計測システム1により部分放電電流を測定する処理について図2を参照して説明する。図2は、本実施例における部分放電電流の測定処理を示すフローチャートである。ステップS1では、電圧制御プログラム9が発振器5の振幅Aをゼロまたは所定の値に初期化する。ここで、計測される部分放電電流のレンジは、絶縁物8に印加する電圧レベルに概略比例する。
【0019】
図3は、あるサンプルにおいて、部分放電電流信号を200mV/divというレンジで十数回測定した場合の印加電圧(実効値)と計測レンジオーバとなる割合との関係を示している。例えば印加電圧が800V以上1000V未満の場合は上記割合が約50%である、印加電圧が1000V以上の場合は上記割合が約80%になっている。したがって、図3の例では、印加電圧が800Vに達した場合には、部分放電電流信号の測定レンジを例えば1段階上の500mV/divなどに切り替えれば、レンジオーバすることなく部分放電電流信号を測定できる。
印加電圧は振幅Aにより定められるので、電圧制御プログラム9に、予め振幅Aと部分放電電流測定レンジとの対応データテーブルを持たせておき、ステップS2では、電圧制御プログラム9が振幅Aに基づいて上記データテーブルより部分放電電流の測定レンジを決定する。
【0020】
ステップS3では、電圧制御プログラム9が部分放電電流計測回路10にステップS2で決定した測定レンジを設定する。次のステップS4では、電圧制御プログラム9が発振器5に振幅Aの信号を生成するように指示を与える。これにより、発振器5で生成された振幅Aの正弦波電圧は、アンプ6で増幅された後、変圧器7でさらに昇圧されて二次側の絶縁物8に印加される。
【0021】
部分放電電流計測回路10には事前にしきい値が設定されており、部分放電電流信号がそのしきい値を超えたら電流信号の計測を開始するようになっている。ステップS5では、部分放電電流計測回路10が電流信号の計測を開始したか否かをチェックし、計測を開始したら(YES)ステップS8に移行する。また、計測を開始していなければ(NO)ステップS6に移行して、電圧上昇時間Δtupが経過するまで待機する。電圧上昇時間Δtupが経過すると(YES)ステップS7に移行し、電圧制御プログラム9において振幅Aに電圧変化幅ΔAを加えたものを新たな振幅Aとしてから、ステップS2へ戻る。
【0022】
ステップS8では、部分放電電流計測回路10が部分放電電流信号を計測し、ステップS9では、A/D変換回路11がステップS8で計測したアナログ信号を、従来とは異なり帯域が制限されていない状態でA/D変換してデジタルデータ化する。この場合のA/D変換(サンプリング)周波数は、例えば1GHz以上である。尚、ここでA/D変換されたデータは、例えばデータ記憶用のバッファメモリなどに一時的に記憶される。そして、ステップS10では、部分放電電流解析プログラム12が、ステップS9でデジタル化されたデータを用いて部分放電電流波形の解析を実行する。
【0023】
次に、部分放電電流波形解析プログラム12が実行する部分放電電流波形の解析処理について説明する。図4は、計測した部分放電電流信号波形の一例であり、オシロスコープの画面に表示されるイメージを示す(立上がりのピーク付近と、立下がりの終了付近とを拡大して示している)。このように、実際の信号波形には細かなノイズが重畳しているので、この状態の波形を解析しても、精度良い解析結果は得られない。そこで、図6に示すフローチャート(ステップS10の詳細)に従って、部分放電電流波形の放電電荷量、ピーク値、極性、立上り時間、立下り時間を算出する。
【0024】
部分放電電流波形解析プログラム12は、ステップS11でA/D変換回路11がデジタル化した部分放電電流波形のデータを上記のバッファメモリより読み出して取得すると、ステップS12でそのデータを配列DATAに格納する。ステップS13では、配列DATAに例えば(1)式に示すような平滑化処理を行い、配列SMOOTHに格納する。
SMOOTH[i]=(1/676)DATA[i-25]+(2/676)DATA[i-24]+…
+(25/676)DATA[i-1]+(26/676)DATA[i]+(25/676)DATA[i+1]+…
+(2/676)DATA[i+24]+(1/676)DATA[i+25] …(1)
これは配列のインデックスiを中心に前後25点のデータに重み付けして平均を算出する処理である。インデックスiの重みが最も重くなっており、各項を重み付けする係数の分母の数値「676」は各係数の分子の総和である。ここでは計算の対象とする点数を51点としたが、この点数はノイズの大きさに応じて自由に決定すれば良い。
図5は、図4に示した波形に平滑化処理を行って得られた配列SMOOTHをプロットした図である。配列SMOOTHでは、配列DATAに含まれるノイズ成分が除去されている。
【0025】
再び図6を参照する。ステップS14では、配列SMOOTHの絶対値を算出して配列SMOOTHabsに格納すると、ステップS15では、配列SMOOTHabsのピーク値Speakとその時のインデックスipeakとを求める。ステップS16では、ステップS15で算出したピーク値Speakのa%の値Sa%を算出する。Sa%は、配列SMOOTHから電流波形部分のみを切り出すためのしきい値であり、ノイズの大きさを考慮して決定する。経験的にaの値は「1〜3」程度が適していると思われるが、適宜変更しても良い。ステップS17では、ステップS15で得たインデックスipeakからインデックスを−1(デクリメント)しながらSMOOTHabs[i]とSa%とを比較して行き、最初にSMOOTHabs[i]<Sa%となるインデックスia%を検索して取得する。
【0026】
次に、ステップS18では、ステップS15で得たインデックスipeakからインデックスを+1(インクリメント)しながらSMOOTHabs[i]とSa%とを比較して行き、最初にSMOOTHabs[i]<Sa%となるインデックスja%を検索して取得する。すなわち、すなわち、電流データのピーク値Speakに対応するインデックスipeakを起点として、それ以前の時間においてピーク値Speakのa%未満であったデータに対応するインデックスia%と、それ以後の時間にピーク値Speakのa%未満となったデータに対応するインデックスja%とを取得する。
【0027】
尚、CT3が出力する部分放電電流信号の単位は電圧であるから、配列SMOOTHのデータに付されているのは電圧の単位である。そこで、ステップS19では、換算係数を用いて、配列SMOOTHから電流値の配列CURRENTを算出する。ステップS20では、(2)式に示すように配列CURRENTをインデックスia%〜ja%の範囲で積分して放電電荷量Qを得る。尚、Tsはサンプリング時間である。
【0028】
【数1】

ステップS21では、放電電荷量Qから放電電流の極性を得る。すなわち電荷量Qが正であれば電流の極性は正、電荷量Qが負であれば電流の極性は負と判定できる。
【0029】
一般に、信号波形の立上り時間trと立下がり時間tfとは、図5に示すように、信号波形が、振幅のピーク値に対する10%値,90%値となる間で変化する時間として定義される。ステップS22では、S15で算出したピーク値Speakの10%の値S10%と90%の値S90%とを算出する。
【0030】
ステップS23では、インデックスipeakからインデックスを−1しながらSMOOTHabs[i]とS90%とを比較して行き、最初にSMOOTHabs[i]<S90%となるインデックスi90%を検索して取得する。次のステップS24では、ステップS23で得たインデックスi90%からインデックスを−1しながらSMOOTHabs[i]とS10%とを比較して行き、最初にSMOOTH[i]<S10%となるインデックスi10%を検索して取得する。そして、ステップS25では、ステップS23及びS24で得たインデックスから、(3)式を用いて立上り時間trを算出する。
tr=(i90%−i10%)Ts …(3)
【0031】
ステップS26では、インデックスipeakからインデックスを+1しながらSMOOTHabs[i]とS90%とを比較して行き、最初にSMOOTHabs[i]<S90%となるインデックスj90%を検索して取得する。ステップS27では、S26で得たインデックスj90%からインデックスを+1しながらSMOOTHabs[i]とS10%とを比較して行き、最初にSMOOTHabs[i]<S10%となるインデックスj10%を検索して取得する。ステップS28では、ステップS26及びS27で得たインデックスから(4)式を用いて立下り時間tfを算出する。
tf=(j10%−j90%)Ts …(4)
【0032】
以上のように本実施例によれば、部分放電電流計測システム1において、電圧制御プログラム9が所定の時間間隔Δtupで電源装置2の出力電圧レベルを上昇させるので、電圧上昇率を一定に制御できる。また、部分放電電流計測回路10は、CT3より出力される信号のレベルが所定の閾値を超えるとA/D変換回路11にA/D変換処理を開始させるので、ノイズの影響を排除して部分放電発生の判定基準を一定にし、必要な電流信号だけをA/D変換させることができる。
そして、A/D変換回路11は、計測された部分放電電流波形をフィルタ等により帯域制限されていない状態でデジタルデータ化するので、そのデータを用いて詳細な解析を行うことができる。したがって、部分放電電流の計測及び解析を従来よりも精密かつ詳細に行うことが可能となり、部分放電現象の解明に資することができる。
【0033】
また、電圧制御プログラム9が電源装置2の出力電圧レベルを設定し、その出力電圧レベルに応じて部分放電電流計測回路10の測定レンジを変更するので、印加電圧の大きさと概略比例する部分放電電流のピークが測定レンジを超えることなく、部分放電電流波形を計測できる。また、部分放電電流波形解析プログラム12は、部分放電電流波形のデジタルデータに平滑化処理を適用してピーク値Speakを算出するので、帯域制限せずに変換した部分放電電流波形のデジタルデータにノイズが含まれていても、精度良くピーク値を算出することができる。
【0034】
さらに、部分放電電流波形解析プログラム12は、平滑化処理したデータより算出されたピーク値Speakを基準とするデータ値の変化に基づいて、すなわち、ピーク値Speakのa%の値Sa%を算出してインデックスia%,ja%を取得すると、配列CURRENTをインデックスia%とインデックスja%の範囲で積分して放電電荷量Qを算出するので、部分放電電流波形に重畳されるノイズ成分を除去してから積分することで、放電電荷量Qを精度良く算出することができる。
加えて、部分放電電流波形解析プログラム12は、ピーク値Speakを基準とするデータ値の変化(インデックスi90%,i10%,j90%,j10%)に基づいて部分放電電流波形の立上り時間trと立ち下がり時間tfとを算出するので、部分放電電流波形のデジタルデータにノイズが含まれていても、配列CURRENTより精度良く立上り時間tr及び立下がり時間tfを算出することができる。
【0035】
(第2実施例)
図7ないし図9は第2実施例であり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。図7の部分放電電流計測システム21は、第1実施例の構成に加えて、絶縁物8に印加される電圧を計測する印加電圧計測回路13と、印加電圧値と印加電圧の位相を算出する印加電圧波形解析プログラム(印加電圧波形解析手段)15を備えている。
【0036】
電圧制御プログラム9Aは、電源装置2の出力電圧レベルを定めるとともに、前記出力電圧レベルに基づいて印加電圧計測回路13の測定レンジを変更し、印加電圧計測回路13では、変圧器14により降圧された少なくとも交流1周期分の印加電圧を計測し、A/D変換回路11は部分放電電流信号とともに、印加電圧計測回路13が計測した印加電圧信号もデジタルデータ化する。印加電圧波形解析プログラム15は、部分放電電流波形データと印加電圧波形データとを用いて、部分放電が発生した時点の絶縁物8に印加されていた瞬時電圧と、部分放電が発生した時点の印加電圧位相とを算出する。
【0037】
次に、部分放電電流計測システム21により印加電圧波形を計測する処理について説明する。図8は、第1実施例の図2に示す処理に、印加電圧波形の電圧計測処理を加えたものである。第1実施例と同様にステップS1〜S8を実行する間に、ステップS3に続くステップS31では、振幅Aに基づいて印加電圧の測定レンジを決定し、ステップS32では、電圧制御プログラム9Aが印加電圧計測回路13にステップS31で決定した測定レンジを設定する。
【0038】
また、ステップS8に続くステップS33では、印加電圧計測回路13が印加電圧信号を計測し、ステップS34ではA/D変換回路11がステップS8で計測した部分放電電流信号と、ステップS33で計測した印加電圧信号をA/D変換してデジタルデータ化する。尚、ここでのステップS8,S33,S34の処理は、実際には電流の計測結果をA/D変換してバッファメモリに記憶する処理と、電圧の計測結果をA/D変換してバッファメモリに記憶する処理とが、必要なサンプル数が得られるまで交互に繰り返されるようになっている。そして、ステップS35では、印加電圧解析プログラム15が、ステップS34でデジタル化されたデータを用いて印加電圧波形の解析を実行する。
【0039】
次に、印加電圧波形解析プログラム15が実行する解析処理(ステップS15に対応)について図9を参照して説明する。印加電圧解析プログラム15は、ステップS41で部分放電電流信号のデジタルデータをバッファメモリから取得すると、そのデータを配列CURRENTに格納する。ステップS42では、印加電圧信号のデジタルデータをバッファメモリから取得し、配列VOLTAGEに格納する。ステップS43では、配列CURRENTの要素と所定のしきい値CPDとを配列のインデックス0から比較して行き、最初にCPD<CURRENT[i]となったインデックスiPDを検索して取得する。配列CURRENTにはサンプリング周期毎にデータが格納されているので、インデックスiPDは部分放電が発生した時刻に相当する。
【0040】
ステップS44では、VOLTAGE[iPD]に格納されている電圧を、部分放電が発生した瞬間に絶縁物8に印加されていた電圧VPDとする。ステップS45では、配列VOLTAGEの要素を用いて実効値を算出すると、実効値を「2」の平方根倍して印加電圧のピーク値Vpeakを得る。ステップS46では、ステップS45で算出した印加電圧のピーク値Vpeakと部分放電発生時の印加電圧(瞬時電圧)VPDを用いて、(5)式のように部分放電発生時の印加電圧位相θPDを算出する。
θPD=sin-1(VPD/Vpeak) …(5)
【0041】
また、ステップS44〜S46の処理については、代替的に次のような手順を採用しても良い。インデックスiPD(第1データ)を−1しながら配列VOLTAGEの要素をチェックし、最初にVOLTAGE[i]<0となったインデックスi0(第2データ)を取得すると、インデックスiPDとインデックスi0とを用いて(6)式のように部分放電発生時刻TPDを算出する。
TPD=(iPD−i0)Ts …(6)
それから、(7)式を用いて時刻を位相に換算することで、部分放電発生時の印加電圧位相θPDを得る。
θPD=360・TPD/(1/60) …(7)
【0042】
以上のように第2実施例によれば、電源装置2が絶縁物8に印加した電圧を計測する印加電圧計測回路13を備え、A/D変換回路11は、部分放電電流計測回路10が計測した電流信号に加えて、印加電圧計測回路13が計測した電圧信号についてもデジタルデータ化し、電圧制御プログラム9Aは、電源装置2の出力電圧レベルに基づいて印加電圧計測回路13の測定レンジも変更する。
【0043】
そして、印加電圧計測回路13は、少なくとも交流1周期分の印加電圧を計測し、印加電圧波形解析プログラム15は、部分放電が発生した時点に絶縁物8に印加されていた瞬時電圧VPDと、部分放電が発生した時点の印加電圧位相θPDを算出するようにした。すなわち、電流データの配列CURRENTの要素が最初に(閾値CPD<CURRENT[i])となったインデックスiPDを取得すると、電圧データの配列VOLTAGE[iPD]に格納されている電圧VPDを取得し、更に印加電圧のピーク値Vpeakを得て、(5)式より印加電圧位相θPDを算出する。又は、インデックスiPDと、インデックスi0とから(6),(7)式より印加電圧位相θPDを算出する。したがって、部分放電発生時の印加電圧を測定レンジを超えることなく計測でき、部分放電が発生した時点に絶縁物に印加されていた瞬時電圧VPDと、部分放電が発生した時点の印加電圧位相θPDを確実に精度良く算出することができる。
【0044】
(第3実施例)
図10は第3実施例であり、第1実施例と異なる部分のみ説明する。第3実施例は、第1実施例の部分放電電圧計測システム1に対し、部分放電電流検出手段であるCT3に替えてシャント抵抗16を配置した構成である。この場合、シャント抵抗16は、絶縁物8に対して直列に接続されている。斯様に構成した場合でも、絶縁物8に部分放電が発生した場合に流れる電流がシャント抵抗16の端子電圧として検出される。したがって、第1実施例と同様にして部分放電電流を計測することができる。
【0045】
(第4実施例)
図11は第4実施例であり、第2実施例と異なる部分のみ説明する。第4実施例は、第2実施例の部分放電電圧計測システム21に対し、部分放電電流検出手段であるCT3に替えて、シャント抵抗16を配置した構成である。この場合も、第2,第3実施例と同様にして部分放電電流を計測することができる。
【0046】
本発明は上記し又は図面に記載した実施例に限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
発振器5の出力分解能,アンプ6のゲインや変圧器7の増幅率,サンプリング周波数などは適宜変更して良い。電圧上昇時間Δtupについても適宜変更して良い。
測定レンジの自動切り替えについても必要に応じて行えば良く、最適な測定レンジが既知であれば、最初からそのレンジに固定して測定すれば良い。
平滑化処理を行う場合の重み付けの係数については、適宜変更して実施すれば良い。また、平滑化処理については、測定精度を向上させる必要がある場合に実施すれば良い。
【0047】
印加電圧波形を計測する期間は、必ずしも交流電源の1周期分に限ることなく、1周期以上行っても良く、少なくとも1周期以上とすれば良い。
変化幅ΔA値は、適宜変更して良い。
放電電荷量Q,立上り時間tr,立下がり時間tf,瞬時電圧VPD,印加電圧位相θPDについては、必要であるものを適宜選択して求めれば良い。
計測制御装置4は、パーソナルコンピュータをベースとする構成に限らず、部分放電の計測を制御するための専用装置として構成しても良い。
【符号の説明】
【0048】
図面中、1は部分放電電流計測システム、2は電源装置(電圧印加手段)、3はCT(部分放電電流検出手段)、4は計測制御装置、8は絶縁物、9,9Aは電圧制御プログラム(電圧制御手段)、10は部分放電電流計測回路(部分放電電流計測手段)、11はA/D変換回路(A/D変換手段)、12は部分放電電流波形解析プログラム(部分放電電流波形解析手段)、15は印加電圧波形解析プログラム(印加電圧波形解析手段)、16はシャント抵抗(部分放電電流検出手段)、21は部分放電電流計測システムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正弦波電圧を生成して絶縁物に印加する電圧印加手段と、
この電圧印加手段が生成する正弦波電圧の振幅を制御する電圧制御手段と、
前記絶縁物に部分放電が発生した場合に流れる放電電流を検出するための電流検出手段より出力される信号を計測する部分放電電流計測手段と、
前記部分放電電流計測手段が計測した信号をデジタルデータ化するA/D変換手段とを備え、
前記電圧制御手段は、前記正弦波電圧を段階的に上昇させ、
前記部分放電電流計測手段は、前記部分放電電流検出手段より出力される信号のレベルが所定の閾値を超えると、前記A/D変換手段にA/D変換処理を開始させ、
前記A/D変換手段が、前記部分放電電流計測手段を介して与えられる帯域制限されていない状態の信号をA/D変換処理するように構成されていることを特徴とする部分放電電流計測システム。
【請求項2】
前記電圧制御手段は、前記電圧印加手段の出力電圧レベルを定めると、前記出力電圧レベルに基づいて、前記部分放電電流計測手段の測定レンジを変更することを特徴とする請求項1記載の部分放電電流計測システム。
【請求項3】
前記A/D変換手段が出力したデジタルデータを用いて部分放電電流波形を解析する部分放電電流波形解析手段を備え、
前記部分放電電流波形解析手段は、前記デジタルデータを平滑化処理したデータに基づいて、部分放電電流のピーク値を算出することを特徴とする請求項1または請求項2記載の部分放電電流計測システム。
【請求項4】
前記部分放電電流波形解析手段は、前記ピーク値を基準とするデータ値の変化に基づいて積分範囲を設定すると、前記平滑化処理したデータを前記積分範囲内で積分して放電電荷量を算出することを特徴とする請求項3記載の部分放電電流計測システム。
【請求項5】
前記部分放電電流波形解析手段は、前記ピーク値を基準とするデータ値の変化に基づいて、電流波形の立上り時間を算出することを特徴とする請求項3または4記載の部分放電電流計測システム。
【請求項6】
前記部分放電電流波形解析手段は、前記ピーク値を基準とするデータ値の変化に基づいて、電流波形の立下り時間を算出することを特徴とする請求項3ないし5の何れかに記載の部分放電電流計測システム。
【請求項7】
前記電圧印加手段が前記絶縁物に印加した電圧を計測する印加電圧計測手段を備え、
前記A/D変換手段は、前記部分放電電流計測手段が計測した信号に加えて、前記印加電圧計測手段が計測した信号についてもデジタルデータ化し、
前記A/D変換手段が出力したデジタルデータを用いて、印加電圧値と印加電圧の位相とを算出する印加電圧波形解析手段を備え、
前記電圧制御手段は、電圧印加手段の出力電圧レベルを定めるとともに、前記出力電圧レベルに基づいて、前記印加電圧計測手段の測定レンジを変更し、
前記印加電圧計測手段は、少なくとも交流1周期分の印加電圧を計測し、
前記印加電圧波形解析手段は、部分放電が発生した時点に前記絶縁物に印加されていた瞬時電圧と、部分放電が発生した時点の印加電圧位相を算出することを特徴とする請求項1ないし6の何れかに記載の部分放電電流計測システム。
【請求項8】
前記印加電圧波形解析手段は、前記電流のデジタルデータを所定の閾値と比較することで部分放電の発生時点に対応するデータを特定すると、その特定されたデータに対応する電圧のデジタルデータを前記瞬時電圧とすることを特徴とする請求項7記載の部分放電電流計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−99775(P2011−99775A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255001(P2009−255001)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(500414800)東芝産業機器製造株式会社 (137)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】