説明

部分的中和活性成分含有ポリマー成形材料

本発明は、抗菌活性、抗原虫活性または抗真菌活性を有する部分的中和活性成分を含んでなるポリマー成形材料、その製造方法、および成形品(特に医療用物品)でのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的中和活性成分を用いることによって抗菌活性、抗原虫活性または抗真菌活性が付与されたポリマー成形材料、その製造方法、および成形品(特に医療用物品)でのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー有機材料は、日常生活になくてはならないものになっている。有機材料からなる加工物では、使用される様々な条件の下、当然ながら、非常に広範な種類の微生物(例えば、細菌、ウィルスまたは真菌)によるコロニー形成が起こり易い。このコロニー形成は、加工物の周囲および加工物自体の機能に衛生上の危険性および医学上の危険性をもたらす。加工物自体の機能に危険性をもたらすことは、有機材料の望ましくない微生物分解の場合にあてはまる。
【0003】
特に、診断目的および治療目的でのポリマー材料の使用は、近代医療技術に重要かつ飛躍的な進歩をもたらした。その一方で、医療分野におけるポリマー材料の頻繁な使用は、異物感染症またはポリマー関連感染症として知られているものの大幅な増加をもたらした。
【0004】
外傷の合併症および血栓塞栓症の合併症と並んで、腐敗症にまで及ぶカテーテル関連感染症は、集中治療医学における中心静脈カテーテルの使用に関する深刻な問題である。
【0005】
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、一時訪問菌である黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌および様々なカンジダ種がカテーテル関連感染症の主な原因であることが多数の論文により示されている。カテーテルの使用中、皮膚上の至る所に存在するこれらの微生物が、皮膚の生理的バリアを突破し、従って皮下部そして最終的には血流に達する。細菌のプラスチック表面への付着は、異物感染症の病因における必須段階と見なされている。皮膚微生物のポリマー表面への付着に続いて、ポリマーでのコロニー形成を伴った細菌の代謝的活性増殖が始まる。この増殖は、細胞外糖衣の細菌排出によるバイオフィルムの形成を伴う。
【0006】
また、バイオフィルムは、病原体の付着を助け、免疫システムのある種の細胞による攻撃から病原体を保護する。加えて、バイオフィルムは、多くの抗生物質に対して不透過性バリアを形成する。ポリマー表面上の病原菌の大規模な増殖は、最終的には、腐敗性菌血症をもたらし得る。そのような感染の治療には、汚染カテーテルの除去が欠かせない。なぜなら、抗生物質を用いた化学療法は反生理的な高投与量を要するからである。
【0007】
細菌によって引き起こされる中心静脈カテーテル関連感染症の発生率は、平均して約5%である。概して、中心静脈カテーテルは、集中治療における腐敗症全てのケースの約90%の原因であることが分かっている。従って、中心静脈カテーテルの使用は、患者にとって感染症の高い危険性を伴うだけでなく、極めて高額な追加の治療費も発生する(その後の治療、長期入院)。
【0008】
手術前、手術中または手術後の処置(例えば衛生処置など)は、これらの問題の部分的な解決法にすぎない。ポリマー関連感染症を抑制するための合理的対策は、使用されるポリマー材料の改質にある。この改質の目的は、異物感染症の原因を抑制するための、細菌の付着抑制および存在する付着細菌の増殖抑制でなければならない。例として、この改質は、適当な化学治療薬(例えば抗生物質)をポリマーマトリックスに配合することによって達成され得る。ただし、配合される活性成分は、ポリマーマトリックス外に拡散することもできる。この場合、長期間にわたって抗生物質が放出され、従って、ポリマー上への細菌付着および細菌増殖の過程を相応に長期間抑制することができる。
【0009】
抗菌改質ポリマーの調製方法は既に知られている。その方法では、殺菌剤は、ポリマー材料の表面または表面層に適用されるか、或いはポリマー材料に添加される。以下の技術は、熱可塑性ポリウレタンのために記載されたものであり、特に医療用途に使用されている。
a)ポリマー表面上への吸着(受動的にまたは界面活性剤を介して)
b)成形品表面上に適用されるポリマー被覆剤への添加
c)ポリマー基材のバルク相への添加
d)ポリマー表面との共有結合
e)完成ポリマーを得る反応前のポリウレタン生成成分との混合
【0010】
例として、EP 0 550 875 B1は、医療用物品の外層に活性成分を添加する方法(含浸)を記載している。この方法では、ポリマー材料からなる埋込み可能な器具を適当な溶媒で膨潤させる。これにより、薬剤活性成分または活性成分組み合わせがインプラントのポリマー材料に浸透することが可能になる程度まで、ポリマーマトリックスは改質される。溶媒を除去すると、活性成分はポリマーマトリックスに含有されることになる。生理的媒体との接触後、埋込み可能な器具内に存在する活性成分は、拡散によって放出される。同方法において、放出プロフィルは、溶媒の選択および実験条件の変更によって、一定の範囲内で調節され得る。
【0011】
医療用途を対象とし、活性成分含有被膜を有するポリマー材料は、例としてUS 5,019,096に記載されている。抗菌活性被膜の製造方法が記載されており、医療機器表面への適用方法が記載されている。被膜は、ポリマーマトリックス、特に、ポリウレタン、シリコーンまたは生分解性ポリマー、および抗菌活性成分、好ましくは、銀塩とクロルヘキシジンまたは抗生物質との相乗的組み合わせからなる。
【0012】
EP 927 222 B1は、TPU(熱可塑性ポリウレタン)調製のための反応混合物に、抗トロンビン性または抗菌性を有する物質を添加することを記載している。
【0013】
WO 03/009879 A1は、表面がバイオ界面活性剤で改質されている、ポリマーマトリックス中に殺菌剤を含有する医療機器を記載している。ポリマーに活性成分を添加するために、様々な技術を使用できる。バイオ界面活性剤は、成形品表面上の細菌の付着を減少させるのに役立つ。
【0014】
US 5,906,825は、殺生物剤または抗菌剤(明記されているものは専ら植物成分である)が分散され、殺生物剤または抗菌剤の量がポリマーと接触する微生物の増殖を抑制するのに十分である、ポリマー(特にポリウレタン)を記載している。このポリマーは、殺生物剤の移動および/または放出を調節する剤の添加によって最適化され得る。ビタミンEのような天然物質が記載されている。食品包装が主な用途である。
【0015】
Zbl. Bakt. 284, 390-401(1996)は、付着技術によって表面に適用された抗生物質または初期膨潤を含む技術によって表面付近に導入された抗生物質と比べると、長期間にわたって改善された、シリコーンポリマーマトリックスまたはポリウレタンポリマーマトリックスに分散された抗生物質の作用を記載している。同文献において、表面から周囲水性媒体への抗生物質の高い放出初期速度は、極めて著しく再現性なく変動する。
【0016】
US 6,641,831は、遅延薬理活性を有する医療機器を記載している。この活性は、異なった程度の親油性を有する2種の物質を添加することによって調節される。同発明の核心部は、抗菌活性成分の放出速度がより親油性の物質を添加することによって低下される効果であり、その結果、放出はより長い期間維持される。活性成分が水性媒体に対して高い溶解性を有さないことが好ましいと記載されている。この開示は、錯化または塩形成のような共有結合修飾または非共有結合修飾によって活性成分を親油性化できるという事実を含む。例として、ゲンタマイシン塩または塩基を親油性脂肪酸で改質できることが記載されている。
【0017】
記載した方法の全てに共通する因子は、医療機器に薬理活性物質を含有させるために付加的操作(即ち、加工前のポリマー材料の前処理または得られた成形品の後処理)を要することである。このことは、付加的コストを招き、製造過程で消費される時間を増大させる。記載した方法の更なる問題は、有機溶媒を使用し、この溶媒が多くの場合に材料から完全に除去することができないことである。
【0018】
これまで記載した方法の全てに共通するもう1つの因子は、ポリマー材料からなる成形品(特に医療機器)の抗菌改質の期限付き長期作用が、患者への使用中または患者内での使用中に最適化されることである。しかしながら、成形品自体或いは成形品を介したヒトまたは動物の初期細菌感染の危険性を回避するのと同時に、最適化が十分に達成されることはない。
【0019】
本発明の対象である医療機器は、主に体内で使用される。例として、カテーテルは、使用期間全体にわたって体表を貫通し、従って、上記したように細菌感染の特に高い危険性を有する。体内への医療機器の導入時の細菌汚染による初期感染の危険性は、既知の抗菌改質によって十分には低減されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】EP 0 550 875 B1
【特許文献2】US 5,019,096
【特許文献3】EP 927 222 B1
【特許文献4】WO 03/009879 A1
【特許文献5】US 5,906,825
【特許文献6】US 6,641,831
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Zbl. Bakt. 284, 390-401(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従って、記載した従来技術から出発して、本発明の目的は、インプラント(特にカテーテル)のための医療用成形品を製造するための抗菌改質ポリマー材料を提供することである。ここで、微生物による表面コロニー形成の阻害に対する材料の長期作用は、治癒過程にとって適当であり、本発明において材料は、生物組織への導入時の初期細菌感染の危険性を迅速な殺菌作用によって最少化し、材料は適当な機械的性質を有し、材料の製造方法は簡単かつ有利である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
意外なことに、本発明の以下に記載されている成形材料およびそれから製造された成形品が、高濃度の活性成分を放出することによって、水性流体での湿潤と同時に微生物による初期コロニー形成を抑制する活性成分の高い初期濃度を表面で示すだけでなく、長期使用中に十分高い濃度で更に長期の活性成分放出を確実にすることが見出された。
【0024】
従って、本発明は、第1に、少なくとも1種の熱可塑的加工性ポリマー(特に、熱可塑性のポリウレタン(TPU)、コポリエステルおよびポリエーテルブロックアミド)、および少なくとも1種の部分的中和活性成分を含んでなる成形材料を提供する。
本発明は、第2に、本発明の成形材料を含んでなる成形品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例6(比較例)の塩酸シプロフロキサシン含有カテーテル管および実施例5(本発明)のシプロフロキサシン(ベタイン)含有カテーテル管についての、時間の関数としての溶離プロフィルを示す。
【図2】実施例5(本発明)のカテーテル管断片が置かれている、Staphylococcus aureas ATTC 29213がコロニー形成した寒天培地を示す。
【図3】実施例6(比較例)のカテーテル管断片が置かれている、Staphylococcus aureas ATTC 29213がコロニー形成した寒天培地を示す。
【図4】材料の抗菌活性を調べ、材料上のバイオフィルム形成の阻害を明らかにし、材料からの各活性成分の溶離プロフィルを記録することを目的とした動的モデルのための実験装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明で使用される活性成分は、抗菌活性、抗原虫活性または抗真菌活性、或いは殺菌活性を有し、従って、その作用に基づいて、抗生物質、抗感染薬、抗真菌薬または殺菌剤であると考えられる。
【0027】
本発明の目的のため、部分的中和活性成分は、酸で部分的に中和された塩基性官能基を有する活性成分、または塩基で部分的に中和された酸性官能基を有する活性成分のいずれかである。用語「塩基性官能基」または「酸性官能基」並びに「酸」および「塩基」は、ブレンステッドによるプロトン受容体およびプロトン供与体の意味を有する良く知られている用語を包含する。
【0028】
本発明の目的のため、部分的中和活性成分であると理解される別の活性成分は、塩基性官能基および酸性官能基を同時に有する成分であり、その例は、第4級窒素を含有するベタインおよび双性イオンである。この場合、酸性官能基は塩基で部分的に中和され、塩基性官能基は酸で部分的に中和されている。
【0029】
本発明に適しており、塩基性官能基を有する活性成分は、有機化学の脂肪族および環式(特に複素環式)化合物、例えば、置換基として或いは鎖内または環内に窒素官能基を有する化合物である。以下のような活性成分が好ましい:β−ラクタム系抗生物質、例えば、ペニシリン、特に6−アミノペニシリン酸エステル、例えばバカンピシリン、およびセファロスポリン、特に、セフォチアム、7−アミノセファロスポラン酸エステル、例えばセフポドキシムプロキセチルおよびセフェタメトピボキシル、ジャイレース阻害剤抗感染薬、例えば、誘導体化キノロン、特にカルボン酸官能基誘導体化フルオロキノロンカルボン酸誘導体、アミノグリコシド系抗生物質、例えば特に、ストレプトマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、ネチルマイシンおよびアミカシン、テトラサイクリン系抗生物質、例えば特にドキシサイクリンおよびミノサイクリン、クロラムフェニコールおよび誘導体、特にコハク酸エステルモノナトリウム塩としての誘導体、マクロライド系抗生物質、例えばデソサミンマクロライド、特に、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシルアミン、ジリスロマイシンおよびそれらのエステル、例えばケトライド系抗生物質、リンコマイシン系抗生物質、例えば特にリンコマイシンおよびクリンダマイシン、オキサゾリジノン系抗生物質、スルホンアミド系抗生物質、例えば特に、スルフィソキサゾール、スルファジアジン、スルファメトキサゾール、スルファメトキシジアジン、スルファレンおよびスルファドキシン、ジアミノピリミジン系抗生物質、例えば特に、トリメトプリム、ピリメタミン、塩基性アンサマイシン系抗生物質、例えば特にリファンピシンおよびリファブチン、並びにアゾール系抗真菌薬、例えばイミダゾール誘導体、例えば特に、ビホナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、ミコナゾールおよびイソコナゾール、並びにトリアゾール誘導体、例えば特にイトラコナゾールおよびボリコナゾール。
【0030】
酸性官能基を有する本発明に適した活性成分は、有機化学の脂肪族および環式(特に複素環式)の、例えば1つ以上のカルボキシ基および/またはスルホ基で置換された化合物である。以下のような活性成分が好ましい:β−ラクタム系抗生物質、例えば、ペニシリン、特に6−アミノペニシリン酸、例えばペニシリンG、プロピシリン、アモキシシリン、アンピシリン、メズロシリン、オキサシリンおよびフルクロキサシリン、およびクラブラン酸、およびセファロスポリン、特に置換7−アミノセファロスポラン酸、例えば、セファゾリン、セフロキシム、セフォキシチン、セフォテタン、セフォタキシムおよびセフトリアキソン、およびオキサセフェム、例えばラタモキセフおよびフロモキセフ、およびカルバペネム、特にイミペネム、およびモノバクタム、特にアズトレオナム、およびジャイレース阻害剤抗感染薬、例えばナリジクス酸およびナリジクス酸誘導体、特にナリジクス酸自体、およびフシジン酸。
【0031】
ベタイン構造または双性イオン性構造を有する本発明に適した活性成分の例を、以下に挙げる:セファロスポリン、特にセフォチアムおよびセファレキシン類のセファロスポリン、例えばセファクロル、セフタジジム類のセファロスポリン、例えば、セフタジジム、セフピロムおよびセフェピム、カルバペネム、特にメロペネム、キノロンカルボン酸、特に置換6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−7−(1−ピペラジニル)キノリン−3−カルボン酸、例えば、ノルフロキサシン、シプロフロキサシン、オフロキサシン、スパルフロキサシン、グレパフロキサシンおよびエンロフロキサシン、置換6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−7−(1−ピロリジン)キノリン−3−カルボン酸、例えば、クリナフロキサシン、モキシフロキサシンおよびトロバフロキサシン、および環状ペプチド系抗生物質、例えばグリコペプチド、例えば特にバンコマイシンおよびテイコプラニン、およびストレプトグラミン、例えば特にプリスチナマイシン。
【0032】
とりわけ好ましい活性成分は、ノルフロキサシン、シプロフロキサシン、クリナフロキサシンおよびモキシフロキサシンである。
【0033】
本発明によれば、部分的中和活性成分は、成形品において活性成分組み合わせとしても使用され得、これらの組み合わせは、それらの作用が拮抗しない限りは、本発明に従って使用される物質類からの構造的または機能的に異なった活性成分とのおよび/または非中和活性成分との組み合わせを包含する。
【0034】
本発明に従って使用され得る酸は、一般に、よく知られている無機酸、有機酸またはプロトン供与体である。部分的に中和される活性成分の塩基度および安定性、並びに医療用途の場合は生理的許容濃度に応じて使用される酸の例は、鉱酸、単官能性、二官能性、三官能性および多官能性の脂肪族および芳香族のカルボン酸並びにヒドロキシカルボン酸である。本発明では、多塩基性カルボン酸は、短鎖および長鎖アルコールで部分的にエステル化されていてよく、ヒドロキシカルボン酸は、カルボン酸でエステル化されていてよい。ヒドロキシカルボン酸は、グリコシド結合した炭水化物、酸性のアミノ酸、スルホン酸、例えば特に脂肪族ペルフルオロスルホン酸、およびフェノールでエステル化されていてよい。好ましく使用され得る化合物は、塩化水素、硫酸、リン酸、リン酸モノエステルおよびリン酸ジエステル、酢酸、ステアリン酸、パルミチン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、エチルハイドロジェンスクシネート(コハク酸モノエステル)、クエン酸、アセチルサリチル酸、グルタミン酸およびペルフルオロブタンスルホン酸である。塩化水素を使用することが特に好ましい。
【0035】
本発明に従って使用される塩基は、一般に、よく知られている無機または有機のプロトン受容体である。部分的に中和される活性成分の酸度および安定性、並びに医療用途の場合は生理的許容濃度に応じて使用される塩基の例は、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩、および窒素塩基、例えば、第1級、第2級および第3級の脂肪族、脂環式および芳香族アミンである。好ましく使用され得る化合物は、水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウム、トリエチルアミン、ジベンジルアミン、ジイソプロピルアミン、ピリジン、キノリン、ジアザビシクロオクタン(DABCO)、ジアザビシクロノネン(DBN)およびジアザビシクロウンデセン(DBU)である。
【0036】
本発明によれば、ベタイン構造または双性イオン性構造を有する活性成分は、酸または塩基、例えば上記したリストからの酸または塩基で部分的に中和され得る。
【0037】
部分的中和は、広範な当量で実施され得る。例として、活性成分中の塩基性官能基1当量あたり0.01〜0.95当量の酸を使用するか、または活性成分中の酸性官能基1当量あたり0.01〜0.95当量の塩基を使用する。活性成分1モルあたり0.01〜0.95当量、特に好ましくは0.2〜0.8当量の酸または塩基を使用することが好適である。
【0038】
本発明の1つの特に好ましい態様は、活性成分1モルあたり0.1〜0.9モルの塩化水素で中和されている、キノロン抗感染薬、特に好ましくはシプロフロキサシンを使用する。
【0039】
本発明に従ったポリマーでの使用のための活性成分の中和は、有機化学においてよく知られている常套法またはより近年の方法によって実施される。従って、例として、活性成分を適当な溶媒に懸濁または溶解でき、この混合物に未希釈または溶解形態で酸または塩基を添加できる。次いで、結晶化または溶媒蒸発によって、部分的中和活性成分を得ることができる。しかしながら、適切な酸または塩基を適用した吸着剤(例えばシリカゲルまたは酸化アルミニウム)によって、或いはアニオン性またはカチオン性イオン交換体によって、中和を実施することも可能である。この一般的な方法は、移動相としての適当な溶媒に活性成分を溶解し、酸または塩基を適用した固定相と連続/非連続接触させることによるカラムクロマトグラフィーと似ている。
【0040】
本発明では基本的に、等モル中和活性成分と非中和活性成分とを混合することにより、第2段階まで、部分的中和活性成分を得るのを遅延することもできる。混合は、均質な溶液および/または液体状態、または固体状態、例えば結晶質または非晶質粉末状態で実施され得る。
【0041】
使用される部分的中和活性成分は、ポリマーマトリックス中で十分な(化学)安定性を有さなければならない。更に、配合過程の条件下、ポリマーマトリックス中で活性成分の微生物学的作用が損なわれることは許されない。従って、活性成分は、ポリマー材料の熱可塑的加工に必要な温度および滞留時間(150〜200℃および2〜5分)で十分な安定性を有さなければならない。
【0042】
薬剤活性成分の配合は、ポリマー表面の生体適合性またはポリマー材料の別の望ましいポリマー特性(弾性、極限引張強さなど)のいずれも損なうべきではない。
【0043】
活性成分は、好ましくは、その活性に適した濃度で配合される。成形材料中の(非中和活性成分として計算された)活性成分の割合は、各々の場合に成形材料に基づいて、好ましくは0.1〜5.0重量%、特に好ましくは0.5〜2重量%の範囲である。1〜2重量%のシプロフロキサシンを使用することが特に好ましい。
【0044】
特に適した熱可塑的加工性ポリマーは、熱可塑性のポリウレタン、ポリエーテルブロックアミドおよびコポリエステル、好ましくは熱可塑性のポリウレタンおよびポリエーテルブロックアミド、特に好ましくは熱可塑性ポリウレタンである。
【0045】
本発明に従って使用され得る熱可塑的加工性ポリウレタンは、以下のポリウレタン生成成分:
A)有機ジイソシアネート、
B)分子量が500〜10,000である直鎖ヒドロキシ末端ポリオール、
C)分子量が60〜500である連鎖延長剤
の反応によって得られ、成分A)中のNCO基の、成分B)およびC)中のイソシアネート反応性基に対するモル比は0.9〜1.2である。
【0046】
使用され得る有機ジイソシアネートA)の例は、Justus Liebigs Annalen der Chemie, 562, 第75頁〜第136頁に記載されているような脂肪族、脂環式、複素環式および芳香族ジイソシアネートである。脂肪族および脂環式ジイソシアネートが好ましい。
【0047】
例として挙げることができる個々の化合物は、以下である:脂肪族ジイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、例えば、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、1−メチルシクロヘキサン2,4−ジイソシアネートおよび1−メチルシクロヘキサン2,6−ジイソシアネート並びに対応する異性体混合物、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン2,4’−ジイソシアネートおよびジシクロヘキシルメタン2,2’−ジイソシアネート並びに対応する異性体混合物、芳香族ジイソシアネート、例えば、トリレン2,4−ジイソシアネート、トリレン2,4−ジイソシアネートおよびトリレン2,6−ジイソシアネートからなる混合物、ジフェニルメタン4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン2,4’−ジイソシアネートおよびジフェニルメタン2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン2,4’−ジイソシアネートおよびジフェニルメタン4,4’−ジイソシアネートからなる混合物、ウレタン変性された液体状のジフェニルメタン4,4’−ジイソシアネートおよびジフェニルメタン2,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアナト−(1,2)−ジフェニルエタンおよびナフチレン1,5−ジイソシアネート。ヘキサメチレン1,6−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、96重量%超のジフェニルメタン4,4’−ジイソシアネート含有量を有するジフェニルメタンジイソシアネート異性体混合物、特に、ジフェニルメタン4,4’−ジイソシアネートおよびナフチレン1,5−ジイソシアネートを使用することが好ましい。記載したジイソシアネートは、単独でまたは互いの混合物として使用され得る。記載したジイソシアネートは、(ジイソシアネートの総量に基づいて)15重量%までのポリイソシアネート(例えば、トリフェニルメタン4,4’,4’’−トリイソシアネートまたはポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート)と一緒に使用することもできる。
【0048】
使用される成分B)は、平均分子量Mnが500〜10,000、好ましくは500〜5,000、特に好ましくは600〜2,000である直鎖ヒドロキシ末端ポリオールを包含する。製造方法の結果として、これらポリオールはしばしば少量の分岐化合物を含有する。従って、用語「実質的に直鎖のポリオール」をしばしば使用する。ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、立体障害ポリエステルジオール、ヒドロキシ末端ポリブタジエン、およびそれらの混合物が好ましい。
【0049】
使用され得る他のソフトセグメントは、式(I):
HO-(CH2)n-[Si(R1)2-O-]mSi(R1)2-(CH2)n-OH (I)
[式中、Rは1〜6個の炭素原子を含有するアルキル基またはフェニル基であり、mは1〜30、好ましくは10〜25、特に好ましくは15〜25であり、nは3〜6である。]
で示されるポリシロキサンジオールを包含し、該ポリシロキサンジオールは、単独でまたは上記ジオールとの混合物として使用され得る。該ポリシロキサンジオールは、既知の生成物であり、それ自体既知の合成方法によって、例えば、触媒(例えばヘキサクロロ白金酸)の存在下、式(II):
H-[Si(R1)2-O-]mSi(R1)2-H (II)
[式中、Rおよびmは先に定義した通りである。]
で示されるシラン化合物と不飽和の脂肪族または脂環式アルコール(例えば、アリルアルコール、ブテン−(1)−オールまたはペンテン−(1)−オール)とを1:2の比で反応させることによって調製され得る。
【0050】
適当なポリエーテルジオールは、アルキレン基中に2〜4個の炭素原子を含有する1種以上のアルキレンオキシドと結合状態で2個の活性水素原子を含有するスターター分子との反応によって調製され得る。記載され得るアルキレンオキシドの例は、エチレンオキシド、プロピレン1,2−オキシド、エピクロロヒドリンおよびブチレン1,2−オキシド並びにブチレン2,3−オキシドである。エチレンオキシド、プロピレンオキシド、並びにプロピレン1,2−オキシドおよびエチレンオキシドからなる混合物を使用することが好ましい。アルキレンオキシドは、個々に、または交互に順次、或いは混合物の形態で使用され得る。使用され得るスターター分子の例は、水、アミノアルコール、例えばN−アルキルジエタノールアミン、例としてN−メチルエジエタノールアミン、およびジオール、例えば、エチレングリコール、プロピレン1,3−グリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールである。適切な場合には、スターター分子の混合物も使用できる。別の適当なポリエーテルジオールは、ヒドロキシ基を含有するテトラヒドロフラン重合生成物である。二官能性ポリエーテルに基づいて0〜30重量%の割合の三官能性ポリエーテルを使用することもできるが、三官能性ポリエーテルの量は、熱可塑的加工性生成物を与える量以下である。実質的に直鎖のポリエーテルジオールは、単独でまたは互いの混合物として使用され得る。
【0051】
適当な立体障害ポリエステルジオールの例は、2〜12個の炭素原子、好ましくは4〜6個の炭素原子を含有するジカルボン酸、および多価アルコールから調製され得る。使用され得るジカルボン酸の例は、脂肪族ジカルボン酸、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸およびセバシン酸、並びに芳香族ジカルボン酸、例えば、フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸である。ジカルボン酸は、単独でまたは混合物として、例えば、コハク酸、グルタル酸およびアジピン酸の混合物として使用され得る。ポリエステルジオールを調製するために、適切な場合には、ジカルボン酸に代えて、対応するジカルボン酸誘導体、例えば、アルコール基中に1〜4個の炭素原子を含有するジカルボン酸エステル、カルボン酸無水物、または塩化カルボニルを使用することが有利であり得る。多価アルコールの例は、2〜10個、好ましくは2〜6個の炭素原子を含有し、ヒドロキシ基に対するβ位に少なくとも1個のアルキル基を有する、立体障害グリコールであり、その例は、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、或いはエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,3−プロパンジオールおよびジプロピレングリコールの混合物である。必要とされる性質に依存して、多価アルコールは、単独でまたは適切な場合には互いの混合物として使用され得る。他の適当な化合物は、カルボン酸と上記ジオール(特に3〜6個の炭素原子を含有するもの、例えば、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールまたは1,6−ヘキサンジオール)とのエステル、ヒドロキシカルボン酸(例えばヒドロキシカプロン酸)の縮合物、およびラクトン(例えば未置換または置換カプロラクトン)の重合生成物である。好ましく使用されるポリエステルジオールは、ネオペンチルグリコールポリアジペートおよび1,6−ヘキサンジオールネオペンチルグリコールポリアジペートである。ポリエステルジオールは、単独でまたは互いの混合物として使用され得る。
【0052】
使用される連鎖延長剤C)は、分子量が60〜500であるジオール、ジアミンまたはアミノアルコール、好ましくは2〜14個の炭素原子を含有する脂肪族ジオール、例えば、エタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、特に1,4−ブタンジオールを包含する。しかしながら、他の適当な化合物は以下である:テレフタル酸とC2〜4グリコールとのジエステル、例えばビス(エチレングリコール)テレフタレートまたはビス(1,4−ブタンジオール)テレフタレート、ヒドロキノンのヒドロキシアルキレンエーテル、例えば1,4−ジ(ヒドロキシエチル)ヒドロキノン、エトキシル化ビスフェノール、(環式)脂肪族ジアミン、例えば、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、N−メチル−1,3−プロピレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、N,N’−ジメチルエチレンジアミンおよび4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、並びに芳香族ジアミン、例えば、2,4−トリレンジアミンおよび2,6−トリレンジアミン、3,5−ジエチル−2,4−トリレンジアミンおよび3,5−ジエチル−2,6−トリレンジアミン、並びに第1級モノ−、ジ−、トリ−またはテトラアルキル−置換4,4’−ジアミノジフェニルメタン、またはアミノアルコール、例えば、エタノールアミン、1−アミノプロパノール、2−アミノプロパノール。上記した連鎖延長剤の混合物を使用することもできる。これらと一緒に、3以上の官能価を有する架橋剤を比較的少量添加することもでき、その例は、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールである。1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、イソホロンジアミンおよびそれらの混合物を使用することが特に好ましい。
【0053】
例えば連鎖停止剤または離型剤として、常套の単官能性化合物を少量使用することもできる。例として、オクタノールおよびステアリルアルコールのようなアルコール、またはブチルアミンおよびステアリルアミンのようなアミンを挙げることができる。
【0054】
構造成分のモル比は広範に変更でき、それによって、生成物の性質を調節することができる。ポリオールと連鎖延長剤とのモル比が1:1〜1:12である場合が好ましいことが分かった。ジイソシアネートとポリオールとのモル比は、好ましくは1.2:1〜30:1である。2:1〜12:1の比が特に好ましい。TPUを調製するため、適切な場合には触媒、助剤および添加剤の存在下で、反応させる構造成分の量は以下のようであってよい:NCO基とNCO反応性基(特に、低分子量ジオール/トリオール、アミンおよびポリオールのヒドロキシ基またはアミノ基)全てとの当量比は、0.9:1〜1.2:1、好ましくは0.98:1〜1.05:1、特に好ましくは1.005:1〜1.01:1である。
【0055】
本発明に従って使用され得るポリウレタンは、触媒を用いずに調製できるが、場合によっては、触媒を使用することが望ましい。一般に使用される触媒量は、出発物質の総量に基づいて100ppmまでである。本発明に適した触媒は、従来技術から知られている常套の第3級アミン、例えば、トリエチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N−メチルモルホリン、N,N’−ジメチルピペラジン、2−(ジメチルアミノエトキシ)エタノール、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなど、また、特に有機金属化合物、例えば、チタン酸エステル、鉄化合物、錫化合物、例えば、二酢酸錫、ジオクタン酸錫、ジラウリン酸錫、または脂肪族カルボン酸のジアルキル錫塩である。二酢酸ジブチル錫およびジラウリン酸ジブチル錫が好ましい。反応を触媒するのに十分な触媒量は、1〜10ppmである。
【0056】
TPU成分および触媒と一緒に、他の助剤および添加剤を添加することもできる。例として、滑剤、例えば、脂肪酸エステル、それらの金属石鹸、脂肪酸アミドおよびシリコーン化合物、粘着防止剤、抑制剤、加水分解、光、熱および変色に対する安定剤、難燃剤、染料、顔料、無機または有機充填剤、並びに補強剤を挙げることができる。補強剤は特に、従来技術に従って製造され、サイズ剤を施されていてもよい、無機繊維のような繊維状補強剤である。記載した助剤および添加剤に関する更なる詳細は、技術文献、例えば、J. H. Saunders, K. C. Frisch:"High Polymers", 第16巻、Polyurethane [Polyurethanes], パート1および2、Interscience Publishers 1962および1964、R. Gaechter, H. Mueller (Ed.):Taschenbuch der Kunststoff-Additive [Plastics additives handbook], 第3版、Hanser Verlag, Munich 1989、またはDE−A 29 01 774に見出される。
【0057】
熱可塑的加工性ポリウレタンエラストマーは、好ましくは、プレポリマー法として知られている方法で調製される。プレポリマー法では、ポリオールおよびジイソシアネートからイソシアネート含有プレポリマーを生成し、第2工程で、連鎖延長剤と反応させる。TPUは、連続式または回分式で調製され得る。最もよく知られている工業的調製方法は、ベルト法および押出法である。
【0058】
本発明に適したポリエーテルブロックアミドの例は、式(I):
【化1】

[式中、Aは、2つのカルボキシ末端基を含有するポリアミドからカルボキシ末端基を失うことによって誘導されたポリアミド鎖であり、Bは、末端OH基を含有するポリオキシアルキレングリコールから末端OH基を失うことによって誘導されたポリオキシアルキレングリコール鎖であり、nは、ポリマー鎖を形成する単位の数である。]
の反復単位からなるポリマー鎖からなるポリエーテルブロックアミドである。本発明において、末端基は、好ましくは、OH基または重合を停止する化合物の基である。
【0059】
末端カルボキシ基含有ジカルボン酸ポリアミドは、既知の方法、例えば、1種以上のラクタムおよび/または1種以上のアミノ酸の重縮合によって、或いはジカルボン酸とジアミンとの重縮合によって、各々の場合に好ましくは末端カルボキシ基を含有する過剰の有機ジカルボン酸の存在下で得られる。これらのカルボン酸は、重縮合反応の際、ポリアミド鎖の要素になり、特にポリアミド鎖末端部に付加される。従って、生成物は、μ−ジカルボン酸官能性を有するポリアミドである。ジカルボン酸は連鎖停止剤としても作用し、これによってもまた、ジカルボン酸は過剰に使用される。
【0060】
ポリアミドは、4〜14個の炭素原子からなる炭化水素鎖を有するラクタムおよび/またはアミノ酸から出発して得ることができる。ラクタムおよびアミノ酸の例は、カプロラクタム、エナントラクタム、ドデカノラクタム、ウンデカノラクタム、デカノラクタム、或いは11−アミノウンデカン酸または12−アミノドデカン酸である。
【0061】
ジカルボン酸とジアミンとの重縮合によって調製されたポリアミドの記載され得る例は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸および1,12−ドデカン二酸とからなる縮合物、並びにノナメチレンジアミンとアジピン酸とからなる縮合物である。
【0062】
ポリアミドの合成のため、即ち、一方ではポリアミド鎖の各末端にカルボキシ基を結合し、他方では連鎖停止剤として作用するために使用され得るジカルボン酸は、4〜20個の炭素原子を含有するジカルボン酸、特に、アルカン二酸、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸またはドデカン二酸、或いは脂環式または芳香族ジカルボン酸、例えば、テレフタル酸またはイソフタル酸、或いはシクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸である。
【0063】
末端OH基含有ポリオキシアルキレングリコールは、非分岐または分岐化合物であり、少なくとも2個の炭素原子を含有するアルキレン基を有する。これらの化合物は、特に、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、およびそれらのコポリマーである。
【0064】
これらのOH基末端ポリオキシアルキレングリコールの平均分子量は、広範に変化できるが、有利には100〜6000、特に200〜3000である。
【0065】
ポリオキシアルキレングリコールの重量割合は、PEBA(ポリエーテルブロックアミド)ポリマーの調製に使用されるポリオキシアルキレングリコールおよびジカルボン酸ポリアミドの総重量に基づいて5〜85%、好ましくは10〜50%である。
【0066】
この種のPEBAポリマーの合成方法は、FR 7 418 913、DE−A 28 02 989、DE−A 28 37 687、DE−A 25 23 991、EP−A 095 893、DE−A 27 12 987およびDE−A 27 16 004から知られている。
【0067】
本発明に好ましく適したPEBAポリマーは、上記したPEBAポリマーとは対照的に、ランダム構造を有するPEBAポリマーである。これらのポリマーを調製するため、以下:
1.少なくとも10個の炭素原子を含有するアミノカルボン酸またはラクタムの群からの、1種以上のポリアミド生成化合物、
2.α,ω−ジヒドロキシポリオキシアルキレングリコール、
3.少なくとも1種の有機ジカルボン酸
からなる混合物を、30:70〜98:2の成分1:(成分2+成分3)の重量比で[ここで、ヒドロキシ基およびカルボニル基は(成分2+成分3)中に当量で存在する。]、23℃〜30℃の温度で自生圧力下、成分1のポリアミド生成化合物に基づいて2〜30重量%の水の存在下で加熱し、次いで、水の除去後、250〜280℃の温度で自生圧力下または減圧下、酸素を除去しながら更に処理する。
【0068】
この種の好ましいPEBAポリマーは、例として、DE−A 27 12 987に記載されている。
【0069】
好ましい適当なPEBAポリマーの例は、AtochemからPEBAX、Huels AGからVestamid、EMS-ChemieからGrilamid、およびDSMからKellaflexの商標名で入手可能である。
【0070】
活性成分を含んでなる本発明のポリエーテルブロックアミドは、更に、プラスチックにとって常套の添加剤を含むことができる。常套の添加剤の例は、顔料、安定剤、流れ助剤、滑剤および離型剤である。
【0071】
適当なコポリエステル(セグメントポリエステルエラストマー)は、例として、エステル結合を介して結合された広範な種類の反復短鎖エステル単位および反復長鎖エステル単位からなる。短鎖エステル単位は、コポリエステルの約15〜65重量%を形成し、式(I):
【化2】

[式中、Rは、分子量が約350未満である二価のジカルボン酸基であり、Dは、分子量が約250未満である二価の有機ジオール基である。]
で示され、長鎖エステル単位は、コポリエステルの約35〜85重量%を形成し、式(II):
【化3】

[式中、Rは、分子量が約350未満である二価のジカルボン酸基であり、Gは、平均分子量が約350〜6000である二価の長鎖グリコール基である。]
で示される。
【0072】
本発明に従って使用され得るコポリエステルは、a)1種以上のジカルボン酸、b)1種以上の直鎖長鎖グリコール、およびc)1種以上の低分子量ジオールを共重合することによって調製され得る。
【0073】
コポリエステルを調製するためのジカルボン酸は、8〜16個の炭素原子を含有する芳香族酸、特にフェニレンジカルボン酸、例えば、フタル酸、テレフタル酸およびイソフタル酸である。
【0074】
コポリエステルの短鎖エステル単位を形成する反応のための低分子量ジオールは、非環式、脂環式および芳香族ジヒドロキシ化合物の群に属する。好ましいジオールは2〜15個の炭素原子を含有し、その例は、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、イソブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、2,2−ジメチルトリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、ジヒドロキシシクロヘキサン、シクロヘキサンジメタノール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどである。ビスフェノールの中で、この目的のためのものは、ビス(p−ヒドロキシ)ビフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、およびビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパンである。
【0075】
コポリエステルのソフトセグメントを形成するための長鎖グリコールは、好ましくは約600〜3000の分子量を有する。それらの中で、アルキレン基が2〜9個の炭素原子を含有するポリ(アルキレンエーテル)グリコールを挙げることができる。
【0076】
長鎖グリコールとして使用され得る他の化合物は、ポリ(アルキレンオキシド)ジカルボン酸のグリコールエステル、またはポリエステルグリコールである。
【0077】
長鎖グリコールの中で、ホルムアルデヒドとグリコールとの反応によって得られるポリホルマールを挙げることもできる。ポリチオエーテルグリコールも適している。ポリブタジエングリコールおよびポリイソプレングリコール、それらのコポリマー、および前記物質の飽和水素化生成物は、満足のいく長鎖ポリマーグリコールである。
【0078】
これらコポリエステルの合成法は、DE−A 2 239 271、DE−A 2 213 128、DE−A 2 449 343およびUS−A 3 023 192から知られている。
【0079】
活性成分を含んでなる本発明のコポリエステルは、更に、プラスチックにとって常套の添加剤を含むことができる。常套の添加剤の例は、滑剤、例えば、脂肪酸エステル、それら化合物の金属石鹸、脂肪酸アミドおよびシリコーン化合物、粘着防止剤、抑制剤、加水分解、光、熱および変色に対する安定剤、難燃剤、染料、顔料、無機または有機充填剤、並びに補強剤を挙げることができる。補強剤は特に、従来技術に従って製造され、サイズ剤を施されていてもよい、無機繊維のような繊維状補強剤である。記載した助剤および添加剤に関する更なる詳細は、技術文献、例えば、J. H. Saunders, K. C. Frisch:"High Polymers", 第16巻、Polyurethane [Polyurethanes], パート1および2、Interscience Publishers 1962または1964、R. Gaechter, H. Mueller (Ed.):Taschenbuch der Kunststoff-Additive [Plastics additives handbook], 第3版、Hanser Verlag, Munich 1989、またはDE−A 29 01 774に見出すことができる。
【0080】
本発明の成形材料は、ポリマーおよび活性成分からなる溶融物の押出によって製造できる。溶融物は、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の活性成分を含んでなり得る。成分は、既知の技術を用いたあらゆる方法で混合できる。例として、活性成分をポリマー溶融物に固体状で直接添加できる。活性成分を含んでなるマスターバッチを、ポリマーと一緒に直接溶融するか、または予め溶融されたポリマーと混合することもできる。活性成分は、既知に技術によるポリマーの溶融前に(タンブリング、噴霧適用などによって)ポリマーに適用することもできる。
【0081】
成分の混合/均質化は、150〜200℃の温度範囲で、ニーダー、またはスクリューを備えた機械、好ましくは一軸または二軸スクリュー押出機を用いた既知の技術によって実施することもできる。
【0082】
押出過程での成分の混合により、追加の操作を必要とすることなく、ポリマーマトリックス中、分子レベルで均質な活性成分の分散体が得られる。
【0083】
ポリマーマトリックス中で均質な活性成分の分散体が、調節可能な放出メカニズムとして活性成分の拡散を利用できるようになるために必要であることが分かった。従って、活性成分およびポリマーは、高い物理化学的適合性を有すべきである。活性成分およびポリマーの物理化学的適合性が良好ならば、ポリマー中の活性成分の拡散係数は高い。また、抗生物質の放出速度の水準は、配合される活性成分の量を変えることによって調節され得る。なぜなら、放出される活性成分の量は、マトリックス中の活性成分の濃度に比例するからである。
【0084】
このようにして得られた活性成分含有ペレットは、熱可塑性物質の既知の加工技術(射出成形、押出など)によって更に加工され得る。成形品は、斑点を有さず、軟質で、粘着性ではなく、よく知られた方法によって困難を伴わずに殺菌され得る。
【0085】
本発明の成形材料から製造される好ましい成形品は、医療機器、例えば、中心静脈カテーテル(CVC)、尿管カテーテル、可撓管、シャント、カニューレ、コネクタ、ストッパーまたは分配弁であり、CVCが特に好ましい。
【0086】
以下の実施例は、本発明を説明することを意図したものであり、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0087】
実施例1
ショアー硬度85Aを有し、20重量%の硫酸バリウムが添加された市販のレンズ状ペレットである芳香族ポリエーテルウレタンPellethane 2363-80AE(Dow Chemical(ミシガン州ミッドランド在))4950gを80℃で24時間乾燥し、次いで、ジャイロ回転ミキサーで50gのシプロフロキサシン(ベタイン)とよく混合した。
【0088】
配合
上記した混合物を、以下からなるブラベンダー押出機で配合した。
・各々が直径(D)20mmおよび長さ25×Dである二軸スクリューを有する4ゾーン押出機;スクリューは揮発分除去部を有する;
・直径3.2mmの単口円形押出ダイ;
・温度約20℃、長さ2.5mの水を満たした冷却水槽;
・差動秤量供給装置;
・ストランドペレタイザーを備えた引取装置
【0089】
上記した混合物を、差動秤量供給装置によって押出機の冷たい供給バレルに導入した。溶融物をダイから押出し、冷却水槽を通した。ペレタイザーによって、円筒状押出物をストランドペレット化した。
【0090】
処理パラメーター:
【表1】

【0091】
活性成分を含有しない円筒状ペレットを、ZSK二軸スクリュー押出機で押し出した。生成物は、白色の均質な斑点を有さない溶融物であり、水浴/空気浴での冷却およびストランドペレット化の後に均質な円筒状ペレットを与えた。
【0092】
射出成形
スクリュー直径18mmのArburg 270S-500-60を用いた。乾燥後、ペレットを射出成形し、試験片(プラック、60×60×2mm)を得た。このために選択したパラメーターは以下の通りであった。
【0093】
【表2】

【0094】
微生物学的インビトロ試験のため、上記プラックから直径5mmのより小さいプラックを押し抜いた。25kGrのガンマ線を用いて、これらのより小さいプラックを殺菌した。
【0095】
実施例2(比較例)
ショアー硬度85Aを有し、20重量%の硫酸バリウムで満たされた市販のレンズ状ペレットである芳香族ポリエーテルウレタンPellethane 2363-80AE(Dow Chemical(ミシガン州ミッドランド在))4950gを80℃で24時間乾燥し、次いで、ジャイロ回転ミキサーで50gの塩酸シプロフロキサシンとよく混合した。
【0096】
実施例1の材料と同様に、活性成分含有円筒状ペレットをZSK二軸スクリュー押出機で押出した。生成物は、斑点を有さない白色の溶融物であり、水浴/空気浴での冷却およびストランドペレット化の後に均質な円筒状ペレットを与えた。
【0097】
微生物学的インビトロ試験のため、上記プラックから直径5mmのより小さいプラックを押し抜いた。25kGrのガンマ線を用いて、これらのより小さいプラックを殺菌した。
【0098】
実施例3
実施例7〜11の試料を配合するためのマスターバッチの製造方法
商業的に入手可能な大きさ約2mmのレンズ状ペレット形態であるTecothane TT2085A-B20を−40℃で粉砕して粉末を得、次いで、篩にかけて2つの画分を得た。d50=300μmを有する第1画分を、本発明の実施例のために使用した。塩酸シプロフロキサシン(d50=9.13μm)(1000g)を、活性成分不含有のTecothane TT2085A-B20粉末(d50=300μm)2000gと強力ミキサーで混合した。このポリマー−活性成分粉末混合物および更なる2000gのレンズ状Tecothane TT2085A-B20ペレットを、2つの差動秤量供給装置によって、押出機のバレル1に別々に供給した。実施例1と同様に、活性成分含有円筒状ペレットを、ブラベンダーZSK二軸スクリュー押出機で押出した。生成物は、斑点を有さない白色の溶融物であり、水浴/空気浴での冷却およびストランドペレット化の後に、20重量%の塩酸シプロフロキサシンを含有する円筒状ペレットを与えた。
【0099】
実施例4
実施例12〜16の試料を配合するためのマスターバッチの製造方法
商業的に入手可能な大きさ約2mmのレンズ状ペレット形態であるTecothane TT2085A-B20を−40℃で粉砕して粉末を得、次いで、篩にかけて2つの画分を得た。d50=300μmを有する第1画分を、本発明の実施例のために使用した。シプロフロキサシン(ベタイン)(d50=5.77μm)(1000g)を、活性成分不含有のTecothane TT2085A-B20粉末(d50=300μm)2000gと強力ミキサーで混合した。このポリマー−活性成分粉末混合物および更なる2000gのレンズ状Tecothane TT2085A-B20ペレットを、2つの差動秤量供給装置によって、押出機のバレル1に別々に供給した。実施例1と同様に、活性成分含有円筒状ペレットを、ブラベンダーZSK二軸スクリュー押出機で押出した。生成物は、斑点を有さない白色の溶融物であり、水浴/空気浴での冷却およびストランドペレット化の後に、20重量%のシプロフロキサシン(ベタイン)を含有する円筒状ペレットを与えた。
【0100】
実施例5
外部製造業者が、実施例1からのペレットを使用して、シプロフロキサシン(ベタイン)を含有する外径2mmのトリプルルーメンカテーテル管を押出した。25kGrのガンマ線を用いて、このカテーテル管を殺菌した。材料の抗菌作用を調べるため、および配合した活性成分の溶離プロフィルを測定するための動的モデルで、カテーテル管を使用した。
【0101】
実施例6(比較例)
外部製造業者が、実施例2からのペレットを使用して、塩酸シプロフロキサシンを含有する外径2mmのトリプルルーメンカテーテル管を押出した。25kGrのガンマ線を用いて、このカテーテル管を殺菌した。材料の抗菌作用を調べるため、および配合した活性成分の溶離プロフィルを測定するための動的モデルで、カテーテル管を使用した。
【0102】
実施例7(比較例)
実施例3からのマスターバッチペレット(12.5g)を、活性成分不含有のTecothane TT2085A-B20ペレット987.5gと強力ミキサーで混合した。活性成分含有円筒状ペレットを、ブラベンダーZSK二軸スクリュー押出機で押出した。生成物は、均質な白色の溶融物であり、水浴/空気浴での冷却およびストランドペレット化の後に、0.25重量%の塩酸シプロフロキサシンを含有する、さらさらした円筒状ペレットを与えた。
【0103】
材料の抗菌作用を調べるための動的モデルで、配合された活性成分の溶離プロフィルを測定するため、押出物試験体(直径2mm、長さ約17cm)を調製し、そのペレットを射出成形して寒天拡散試験のための試験片(プラック)を得た。
【0104】
微生物学的インビトロ試験のため、上記プラックから直径5mmのより小さいプラックを押し抜いた。25kGrのガンマ線を用いて、これらのより小さいプラックを殺菌した。
【0105】
実施例7と同様に、以下のペレットを得た。
【表3】

【0106】
実施例12
実施例4からのマスターバッチペレット(12.5g)を、活性成分不含有のTecothane TT2085A-B20ペレット987.5gと強力ミキサーで混合した。活性成分含有円筒状ペレットを、ブラベンダーZSK二軸スクリュー押出機で押出した。生成物は、均質な白色の溶融物であり、水浴/空気浴での冷却およびストランドペレット化の後に、0.25重量%のシプロフロキサシン(ベタイン)を含有する、さらさらした円筒状ペレットを与えた。
【0107】
材料の抗菌作用を調べるための動的モデルで、配合された活性成分の溶離プロフィルを測定するため、押出物試験体(直径2mm、長さ約17cm)を調製し、そのペレットを射出成形して寒天拡散試験のための試験片(プラック)を得た。
【0108】
微生物学的インビトロ試験のため、上記プラックから直径5mmのより小さいプラックを押し抜いた。25kGrのガンマ線を用いて、これらのより小さいプラックを殺菌した。
【0109】
実施例12と同様に、以下のペレットを得た。
【表4】

【0110】
実施例17
活性を調べるために以下の実験系を選択した:材料の抗菌作用を調べるための動的モデル。
記載したモデルは、材料の抗菌活性を調べ、材料上のバイオフィルム形成の阻害を明らかにし、材料からの各活性成分の溶離プロフィルを記録することを目的としている。実験装置は、以下の要素からなっていた(図4および5も参照)。
1.反応室
2.栄養素交換系(2つの連結した三方弁)
3.試験体室
4.蠕動ポンプ
5.配管系
【0111】
被験試験体押出物を反応室に導入し、収縮チューブで両端を堅く固定した。実験期間中、反応室をインキュベーターに入れた。
【0112】
配管系は、栄養素交換系に接続されている。三方弁の1つおよび流出部を用いることによって、栄養素を巡回路から外へポンプ輸送でき、第2の三方弁および流入部を用いることによって、栄養素を巡回路に導入できる。
【0113】
配管系は、試験体室を経由して、細菌数を測定するための検体採取および細菌懸濁液添加のための系に接続され、蠕動ポンプを経由して、反応室に戻る。
【0114】
1.手順
サンプル試験体(押出物試験体)およびカテーテルの抗菌活性の長期作用を調べるために、動的バイオフィルムモデルを使用した。
【0115】
1.1.試験培地
細菌数を測定するための培養混合物のために、ミューラーヒントン寒天培地を使用した。この目的のため、18mlのミューラーヒントン寒天(Merck KGaA Darmstadt/Batch VM132437 339)を直径9cmのペトリ皿に注いだ。
【0116】
1.2.媒体
ミューラーヒントン肉汁(Merck KGaA Darmstadt/Batch VM205593 347)を、動的バイオフィルムモデルのための媒体として使用した。
【0117】
1.3.細菌懸濁液
Staphylococcus aureus ATTC 29213の試験菌株を、懸濁液として動的バイオフィルムモデルに添加した。コロンビア血液寒天上の試験菌株の一晩培養物から、0.5マクファーランドに相当する密度を有する濃度0.85%のNaCl溶液中懸濁液を調製した。接種ループでの抜取によって取り出された3〜4個のコロニーからなる「コロニープール」を、懸濁液に使用した。懸濁液を1:100の比で2回希釈した。この希釈物をモデルへの導入に使用した。
【0118】
2.1.試験混合物
それぞれ独立したモデル巡回路(反応室+配管系)に、その系の供給フラスコから約16mlの媒体(媒体1.2)を導入した。次いで、100μlの細菌懸濁液(1.3)を、検体採取室を経由してモデル巡回路にピペットを用いて添加した。これと並行して、細菌数を測定するために、100μlの細菌懸濁液を培養した(1.1)。
【0119】
各々の細菌懸濁液添加後、モデル巡回路に存在する細菌の平均数は、少なくとも200CPU/mlであった。蠕動ポンプを5rpm(回転/分)の速度に設定したところ、実験に使用した配管内を輸送された量は0.47ml/分であった。
【0120】
その結果、たっぷり半時間かけて、モデル巡回路の内容物が交換され、反応室中のカテーテルを一回通過した。
【0121】
24時間後に初めて、次いで毎日または様々な間隔で、4ml(液体全体の25%)をモデル巡回路から採取し、新しい媒体に置き換えた。
【0122】
採取した媒体中のシプロフロキサシン濃度を測定するために、HPLCを使用し、溶離プロフィルを時間の関数として確かめた(3.1.溶離プロフィル)。
【0123】
各々の独立したモデル巡回路における、採取した検体中の細菌濃度を測定した。検体からの50μlを用いて試験培地上に接種ループによって画線を引き、37℃で24時間培養し、塗抹標本における増殖から細菌数を評価した。或いは、50μlをピペットで試験培地に接種し、スパチュラを用いて広げ、37℃で24時間培養し、算定はコロニー計算法に基づいて行った。
【0124】
媒体の交換に加えて、100μlの細菌懸濁液を、検体採取室を経由してモデル巡回路に、毎日または様々な間隔でピペットを用いて添加した。添加される細菌懸濁液中の細菌の数は、1mlあたり1,800〜15,000個で変化させた。一定の常に同じ細菌数の添加は意図的に回避した。なぜなら、実際には、カテーテルと接触する病原体数が変化することも予想しなければならないからである。
【0125】
2.材料
2.1.材料試験体
材料上の抗菌作用およびバイオフィルム形成阻害を調べるため、並びにカテーテル管からの各活性成分の溶離プロフィルを測定するために、実施例5および6からのカテーテル管を試験した。
【0126】
【表5】

【0127】
各活性成分の溶離プロフィルを測定するために、以下に記載した実施例からの押出物試験体を試験した。
【0128】
【表6】

【0129】
2.2.試験菌株
動的バイオフィルムモデルに使用した試験菌株は、バイオフィルム形成にとってよく知られている、Staphylococcus aureus菌株ATCC 29213であった。菌株は、Medical University(ハノーヴァー)から供給された。
【0130】
3.評価
3.1.溶離プロフィル
【表7】

【0131】
図1は、実施例6(比較例)からの塩酸シプロフロキサシン含有カテーテル管および(本発明の)シプロフロキサシン(ベタイン)含有カテーテル管についての、時間の関数としての溶離プロフィルを示す。溶離量は合計されている。
【0132】
【表8】

【0133】
【表9】

【0134】
3.2.バイオフィルム形成
材料上の抗菌作用およびバイオフィルム形成阻害を調べるために、実施例5および6からのカテーテル管のみを試験した。
【表10】

【0135】
塩酸シプロフロキサシンを含有する比較試験体であるカテーテル管、およびシプロフロキサシンベタインを含有する本発明のカテーテル管について、細菌コロニー形成が著しく減少するか、または細菌コロニー形成が生じなかった。
【0136】
3.3.結果の考察
動的バイオフィルムモデルにより、バイオフィルム形成の検出、或いは材料または完成カテーテルの抗菌作用によるバイオフィルム形成阻害の検出が可能となった。
【0137】
実験の手配を、皮膚内でのカテーテルの自然な状態に近づけることができる。
近づけることによってシミュレートされ得る因子は、以下の通りである。
・液体は、細菌増殖のための因子全てを含んでおり、皮膚組織液に相当する。
・活性成分は、カテーテルから周囲にゆっくりと放出され得、周囲または直接カテーテルで抗菌活性を発揮できる。
【0138】
塩酸シプロフロキサシンを含有する比較試験体であるカテーテル管、およびシプロフロキサシンベタインを含有する本発明のカテーテル管について、細菌コロニー形成が著しく減少するか、または細菌コロニー形成が生じなかった。
【0139】
カテーテル管についての時間の関数としての溶離プロフィルは、シプロフロキサシンベタイン含有カテーテル管について著しくより少ない曲線を示した。即ち、この管は、塩酸シプロフロキサシン含有カテーテル管より長期にわたって著しく少ない活性成分を溶離した。しかしながら意外なことに、著しく低下された溶離濃度にもかかわらず、シプロフロキサシンベタイン含有カテーテル管表面のコロニー形成は検出されないことが、バイオフィルムを調べることによって確認された。
【0140】
同様に、押出物試験体の場合、溶離濃度は材料中の活性成分濃度に依存する(含有量が多い程、溶離濃度が高い)が、本発明の試験体は、比較試験体より著しく少ない活性成分の溶離を与えることが明らかである。
【0141】
その結果、同じ活性成分含有量で、本発明の試験体の溶離速度はより緩慢なので、著しくより長い期間、カテーテル管表面が細菌コロニー形成(即ちバイオフィルム形成)から保護され得る。
【0142】
実施例18
寒天拡散試験
1.手順
抗菌作用を調べるために寒天拡散試験を用いた。
【0143】
1.1.試験培地
18mlのNCCLSミューラーヒントン寒天(Merck KGaA Darmstadt / Batch ZC217935 430)を、直径9cmのペトリ皿に注いだ。
【0144】
1.2.細菌懸濁液
コロンビア血液寒天上の試験菌株Staphylococcus aureus ATTC 29213の一晩培養物から、0.5マクファーランドに相当する密度を有する濃度0.85%のNaCl溶液中懸濁液を調製した。接種ループでの抜取によって取り出された3〜4個のコロニーからなる「コロニープール」を、懸濁液に使用した。
【0145】
1.3.試験混合物
殺菌した脱脂綿パッドを懸濁液に浸漬した。ガラス器具の縁で過剰な液体を圧力下除去した。パッドを用いて、ミューラーヒントン寒天培地に3方向に均一に接種した。3方向の間の角度は各々60°であった。次いで、材料プラックおよび試験プラックを試験培地上においた。試験培地を37℃で24時間培養した。
【0146】
阻害ゾーンに基づいて、試験片の抗菌作用を評価した。射出成形プラックから押し抜いた、より小さいプラックを用いた。
【0147】
【表11】

【0148】
本発明の実施例12〜14からの試験片の阻害ゾーンは、実施例7〜9からの比較試験片の阻害ゾーンより小さかった。材料試験片を比べる場合、阻害ゾーンは、放出された活性成分の強度または量に関する結論を出すために使用され得る。これは、溶離プロフィルからの結果を裏付ける。
【0149】
実施例19
実施例5(本発明)および実施例6(比較例)からのカテーテル管から、各々の場合に約1cm間隔で、長さ約1mmの試験片を切り出した。
実施例18の寒天拡散試験に記載したように、試験培地を調製した。カテーテル管断片の切断面を寒天培地に置いた。次いで、試験混合物の処理を実施例18のように続けた。
【0150】
図2および図3は各々、Staphylococcus aureas ATTC 29213によってコロニー形成された寒天培地を示す。上に置かれたカテーテル管断片の周りに、阻害ゾーンが形成された。図2:実施例5(本発明)からのカテーテル管断片;図3:実施例6(比較例)からのカテーテル管断片。
【0151】
寒天拡散試験によって、カテーテル管の全てが阻害ゾーンを与え、抗菌活性を示すことが明らかになった。同一濃度では、実施例6からのカテーテル管より実施例5からの本発明のカテーテル管の方が、より少ない活性成分を溶離した。従って、本発明のカテーテル管は、明らかにより長い時間、バイオフィルム形成から保護され続ける。更に明らかに、培地上の試験片全ての阻害ゾーンの直径が同じであるという事実は、いずれの管においても、活性成分の分布がカテーテル管の長さ全体にわたって均質であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑的加工性ポリマー、および抗菌活性、抗原虫活性または抗真菌活性を有する少なくとも1種の部分的中和活性成分を含んでなる成形用組成物。
【請求項2】
部分的中和活性成分が塩基性官能基を有する活性成分であり、これら塩基性官能基が酸で部分的に中和されていることを特徴とする、請求項1に記載の成形用組成物。
【請求項3】
部分的中和活性成分が酸性官能基を有する活性成分であり、これら酸性官能基が塩基で部分的に中和されていることを特徴とする、請求項1に記載の成形用組成物。
【請求項4】
部分的中和活性成分が、ベタイン構造または双性イオン性構造を有する成分であり、塩基または酸で部分的に中和されていることを特徴とする、請求項1に記載の成形用組成物。
【請求項5】
活性成分中の塩基性官能基1当量が0.01〜0.95当量の酸で部分的に中和されているか、または活性成分中の酸性官能基1当量が0.01〜0.95当量の塩基で部分的に中和されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の成形用組成物。
【請求項6】
熱可塑的加工性ポリマーが熱可塑性のポリウレタン、ポリエーテルブロックアミドおよびコポリエステルからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の成形用組成物。
【請求項7】
活性成分がシプロフロキサシンであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の成形用組成物。
【請求項8】
部分的中和活性成分が塩化水素で部分的に中和されたシプロフロキサシンであることを特徴とする、請求項7に記載の成形用組成物。
【請求項9】
部分的中和活性成分が成形用組成物に基づいて0.5〜2.0重量%の(非中和活性成分の形態での)濃度範囲で使用されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の成形用組成物。
【請求項10】
成形品、特に医療機器を製造するための、請求項1〜9のいずれかに記載の成形用組成物の使用。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の成形用組成物を含んでなる、医療機器、特に、中心静脈カテーテル、尿管カテーテル、可撓管、シャント、カニューレ、コネクタ、ストッパーまたは分配弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−518246(P2010−518246A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549790(P2009−549790)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000693
【国際公開番号】WO2008/098679
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(504142961)バイエル・イノヴェイション・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (22)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Innovation GmbH
【Fターム(参考)】