説明

部品の電気化学的被膜除去方法

本発明は、部品の電気化学的被膜除去方法に関する。
本発明によれば、電気化学的被膜除去処理の動作点を、個々の電気化学的被膜除去処理の実行に先立って実際の処理条件の下で設定すると共に、電気化学的被膜除去処理の実行中に、その動作点を連続的に更新し、即ち、その動作点を連続的にモニタしてその動作点に対して適宜調節を加えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載した種類の部品の電気化学的被膜除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばロータ翼などのガスタービンの部品には、耐酸化性、耐腐蝕性、ないしは耐侵蝕性を付与するために、その表面に特殊な被膜が形成されている。また、ガスタービンの部品は、ガスタービンの運転中に摩耗が発生し、その摩耗が進行することによって損傷に至ることもある。損傷した部位に補修を施す際には、通常、その補修を施す部品の特定領域から、またはその部品の特定部分から、またはその部品の全体から、被膜を除去する必要がある。そのような被膜除去のための処理は、被膜除去処理などと呼ばれている。
【0003】
被膜除去方法には様々な種類の方法があり、それらは、機械的方法、化学的方法、それに、電気化学的方法に分類される。電気化学的被膜除去方法は、電気分解の原理を利用した被膜除去方法である。また、電気化学的被膜除去方法のうちにも様々な種類の方法があり、それら方法は、2電極システムを使用して実施する方法、3電極システムを使用して実施する方法、それに、4電極システムを使用して実施する方法に分類される。本発明に係る電気化学的被膜除去方法は、2電極システムを使用して好適に実施することのできる方法である。
【0004】
米国特許第6,165,345号公報に、ガスタービンのタービン翼の被膜を除去するための、2電極システムを使用して実施する電気化学的被膜除去方法が記載されている。同公報の方法では、被膜を除去しようとするタービン翼を電圧源の正極に接続し、その電圧源の負極には、特別に構成した電極を接続する。この電極の形状は、被膜を除去しようとするタービン翼の形状に、ないしは、そのタービン翼の被膜を除去しようとする領域の形状に、略々対応した形状とされている。この電極と、タービン翼の少なくとも被膜を除去しようとする領域とを、処理媒体中に浸漬し、そして、部品1個につき1V〜3Vの直流電圧を印加して、5A〜10Aの電流が流れるようにする。この米国特許第6,165,345号公報に記載されている方法では、印加する直流電圧によって規定されるその電気化学的被膜除去処理の動作レンジが、その被膜除去処理の開始から終了までの全期間を通して一定に維持されるようになっている。
【特許文献1】米国特許第6,165,345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、これまでにない新規な、部品の電気化学的被膜除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1に記載の方法によって達成される。本発明によれば、電気化学的被膜除去処理の動作点を、個々の電気化学的被膜除去処理の実行に先立って実際の処理条件の下で設定すると共に、電気化学的被膜除去処理の実行中に、その動作点を連続的に更新し、即ち、その動作点を連続的にモニタしてその動作点に対して適宜調節を加えるようにする。
【0007】
本発明によれば、電気化学的被膜除去処理の動作点を、現状に即して(即ち、電気化学的被膜除去処理の実際の処理条件の下で)設定すると共に、電気化学的被膜除去処理の実行中に、その動作点を連続的にモニタしてその動作点に対して適宜調節を加えるようにする。これによって、動作点を、変動する処理条件に適合させることが可能となり、ひいては、常に最適な被膜除去速度で被膜除去を実行することが可能となる。そのため、被膜除去に要する処理時間を顕著に短縮することができる。また、電気化学的被膜除去処理の実行中に、動作点を連続的にモニタして動作点に対して適宜調節を加えるようにしているため、その動作点を、被膜を除去しようとする部品の状態に適合させることも可能であり、特に、被膜除去の進行度に適合させることができ、ひいては、被膜除去の進行に伴う被膜の化学組成の変化に適合させることができる。そのため、本発明に係る方法は、高度の選択性を有する被膜除去が行われるという特徴を備えており、それによって、被膜除去処理の実行中に部品を損傷させてしまうおそれが小さくなっている。
【0008】
本発明の特に有利な実施の形態においては、直流電圧を印加し、その際に、電解コンダクタンスの値が、または、該直流電圧の関数としての電解電流の一次導関数の値が、略々ゼロ値になるまで、該直流電圧を上昇させて行き、そうなったときの該直流電圧の値をもって、被膜除去処理の動作点として設定するようにしている。また、被膜除去処理の実行中に前記直流電圧に交流電圧を重畳させ、その交流電圧の重畳の結果として発生する電解電流または電解コンダクタンスの変動を測定し、その測定値に基づいて、電解電流を極大値に維持するように前記直流電圧に調節を加えるようにしている。
【0009】
本発明の特に好適な更なる特徴として、従属請求項に記載した様々な特徴があり、それら特徴については以下の説明を通して明らかにして行く。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
これより、ガスタービンのタービン翼の被膜除去を実行する場合を例にとって、本発明に係る方法について説明して行く。図1に示したのは、被膜を除去しようとするガスタービンのタービン翼10であり、このタービン翼10は翼体部11と植込部12とを備えている。図示例では、タービン翼10の全体に亘って、即ち、翼体部11及び植込部12の表面の全領域に亘って被膜13が形成されている。この被膜13は、例えば、耐酸化性被膜、耐腐蝕性被膜、ないしは耐侵蝕性被膜などである。
【0012】
本発明が提案する方法を用いることで、例えばタービン翼10に補修を施す際などに、翼体部11及び植込部12の表面から被膜13が除去される。本発明によれば、この被膜除去は電気化学的手法により行われ、また、2電極システムを使用して実施される。
【0013】
タービン翼10に対して、この電気化学的被膜除去処理を施すには、タービン翼10を電圧源の正極に接続し、その電圧源の負極に、制御電極ないし対向電極を接続する。そして、その制御電極ないし対向電極と、被膜を除去しようとするタービン翼10とを、処理媒体(電解液)中に浸漬する。
【0014】
この電気化学的被膜除去処理に使用する2電極システムは、3電極システムと異なり、測定電極と制御電極とを組合せた複合電極を使用する替わりに、制御電極として機能する耐久性に優れた単一の金属電極を使用する。制御電極として機能する耐久性に優れた金属電極は、被膜除去処理の影響を殆ど受けず、また、例えば電磁波などによる周囲環境からの影響も殆ど受けない。そのため、この電気化学的被膜除去方法は、総合的に見て外乱の影響を受けにくく、従って安定性に優れた方法となっている。
【0015】
本発明においては更に、2電極システムの動作点を、即ち、電気化学的被膜除去処理の動作点を、個々の電気化学的被膜除去処理の実行に先立って「現状に即して」設定すると共に、電気化学的被膜除去処理の実行中に、その動作点を継続的に更新し、即ち、その動作点を連続的にモニタしてその動作点に対して適宜調節を加えるようにしている。ここでいう「現状に即して」とは、電気化学的被膜除去処理の動作点を、実際の処理条件の下で設定すること、即ち、実際に処理に使用する2電極システムにおいて設定することを意味している。また、制御信号として、即ち、電気化学的被膜除去処理の動作点を設定するための基準として、電解電流の測定値ないし電解コンダクタンスの測定値を使用するようにしている。動作点を設定する手順は、以下に説明する通りである。
【0016】
電気化学的被膜除去処理の動作点を設定するために、2電極システムにポテンシオスタットを装備し、そのポテンシオスタットによって、電気化学的被膜除去処理のための動作電圧、即ち制御電圧を発生させるようにしており、この動作電圧、即ち制御電圧は、2電極システムに印加する直流電圧である。そして、電気化学的被膜除去処理の動作点を設定するに際しては、この直流電圧を連続的または段階的に上昇させて行く。すると、電解電流の測定値ないし電解コンダクタンスの測定値が、印加している直流電圧の関数として変化する。これによって、制御電圧に対する電解電流の変化特性、ないしは、制御電圧に対する電解コンダクタンスの変化特性を把握することができる。
【0017】
更に、その直流電圧の関数としての電解電流の一次導関数の値が、正値からゼロ値になり更にそこから負値に転じるまで、その直流電圧を上昇させて行く。電解電流の一次導関数の値がゼロ値になったということは、電解電流が極大値に達したことを意味するものであり、また、電解コンダクタンスの値がゼロ値になったことを意味するものである。そして、電解電流が極大値に達したときの、即ち、電解コンダクタンスの値がゼロ値になったときの、その直流電圧の値をもって、電気化学的被膜除去処理の動作点として設定する。直流電圧がこの値にされているとき、電気化学的被膜除去処理は、最大の被膜除去速度で進行する。この動作点の設定の仕方は、使用しているシステムに適合するように動作点を設定するものであり、即ち、使用している処理媒体(電解液)の電気抵抗を考慮に入れた動作点の設定が行われる。
【0018】
本発明の特に有利な実施の形態においては、以上のようにして設定した直流電圧に、電気化学的被膜除去処理の実行中に更に交流電圧を重畳させるようにしている。重畳させる交流電圧は、電圧振幅の小さな交流電圧とすることが好ましく、特に好ましい電圧振幅は±5mVである。そして、その交流電圧の重畳の結果として発生する電解電流または電解コンダクタンスの変動を測定し、その測定値に基づいて、電解電流を極大値に維持するように、即ち、電解コンダクタンスの値をゼロ値に維持するように、その直流電圧を変化させるようにしている。この場合、電解コンダクタンスの値が負値になったならば、制御電圧であるその直流電圧を低下させ、電解コンダクタンスが正値を取るようになったならば、その直流電圧を上昇させるようにすればよい。これによって、被膜除去処理の動作点がいわゆる絶縁破壊電圧領域へ入ってしまうのを回避しつつ、被膜除去処理が常に可能最大の被膜除去速度で進行するようにすることを保障する。また、これによって、被膜除去処理の開始から終了までの全期間を通して、被膜除去処理が最適な被膜除去速度で実行されるようにし得ると共に、被膜を除去しようとするガスタービンのタービン翼の被膜を、常に、無理なく除去することが可能となる。
【0019】
更に、本発明においては、被膜除去処理の実行中に測定する電解電流または電解コンダクタンスの測定値に基づいて、電気化学的被膜除去が完了したか否かを判定するようにするのもよい。電解電流の測定値には、被膜除去を行っている部品の被膜除去の進行度についての情報が、即ち、電気化学的被膜除去処理によって除去が進行している被膜の現在の組成ないし構造についての情報が含まれている。そのため、電解電流の初期値と実測値との関係から、電気化学的被膜除去が完了したか否かを判定するための判定基準を得ることができる。そこで、そのための計算を、被膜除去処理の実行中に、連続的に行うようにしておく。そして、電解電流の実測値が、その計算から得られる所定値に達したならば、そのことに応答して、被膜除去処理を停止させればよい。
【0020】
本発明の電気化学的被膜除去方法を用いることによって、ガスタービンのタービン翼の被膜除去を好適に実行することができる。本発明の方法は、例えば冷却通路などの内部通路を備えたガスタービンのタービン翼の被膜除去を行うのに特に適している。そのようなタービン翼の被膜除去を実行する際には、上で説明したようにして、電気化学的被膜除去処理の動作点を設定すると共に、その被膜除去処理の実行中に、その動作点を連続的にモニタしてその動作点に対して適宜調節を加えるようにする。これによって、タービン翼の外表面の被膜除去を行う。そして、連続的に測定している電解電流の測定値から、タービン翼の外表面の被膜除去が完了したと判断されたならば、本発明においては、制御電圧を上昇させて、タービン翼の外表面の被膜除去が停止する電圧領域へ移行させる。ガスタービンのタービン翼の内部に設けられている通路は小径であるため、そのような通路にとっては、この電圧の上昇は、その通路の被膜除去を活性化させる電圧領域への移行となり、これによって、流路の内部の被膜除去を行えるようになる。尚、タービン翼の外表面の被膜除去が行われているときには、通路の被膜除去は行われていない。
【0021】
本発明に係る部品の電気化学的被膜除去方法は、高度の選択性を有する被膜除去が行われるという特徴を備えたものである。電気化学的被膜除去処理の動作点に対して連続的に調節が加えられるため、電気化学的被膜除去処理が、常に、最適な被膜除去速度で行われるようにすることができる。本発明に係る被膜除去方法は、公知の様々な被膜除去方法と比べて、より迅速に、より低コストで実施し得るものである。また、高度の選択性を有するため、被膜除去処理実行中の部品の損傷を最小限にすることができる。
【0022】
本発明に係る電気化学的被膜除去方法では、電解液(処理媒体)として、高度に希釈した酸を使用することができる。そのため、処理媒体を廃棄するための廃棄処理に伴う安全対策が簡便であり、廃棄処理に要する費用も低廉である。本発明に係る被膜除去方法は、流れ作業方式の製造工程に組込むことができる。更に、本発明に係る被膜除去方法は、摩耗量ないし損耗量に甚だしい不均一が存在するために、被膜を除去しようとする部品の表面に局部的な凹凸が形成されているような場合でも、その局部的な凹凸の影響を殆ど受けることがない。
【0023】
尚、電気化学的被膜除去処理の動作点の調節即ち制御を高精度で行うためには、大きな電流が流れている配線から直接に制御電圧を引き出すのではなく、それとは別の独立した配線から制御電圧を引き出すようにするのがよい。それによって、大きな電流が流れる配線に発生する電圧降下の影響を排除することができ、動作点の設定及び調節をより高精度で行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】被膜を除去しようとするガスタービンのタービン翼を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム被膜で被覆されたガスタービンの部品などの被膜を除去するための部品の電気化学的被膜除去方法において、電気化学的被膜除去処理の動作点を、個々の被膜除去処理の実行に先立って実際の処理条件の下で設定すると共に、電気化学的被膜除去処理の実行中に、その動作点を連続的に更新し、即ち、その動作点を連続的にモニタしてその動作点に対して適宜調節を加えるようにしたことを特徴とする方法。
【請求項2】
2電極システムを使用して被膜除去処理を実行し、その際に、該2電極システムの動作点を、個々の電気化学的被膜除去処理の実行に先立って実際の処理条件の下で設定すると共に、電気化学的被膜除去処理の実行中に、その動作点を連続的に更新し、即ち、その動作点を連続的にモニタしてその動作点に対して適宜調節を加えるようにしたことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記動作点を、電解電流の測定値または電解コンダクタンスの測定値の関数として設定することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
直流電圧を印加し、その際に、電解コンダクタンスの値が、または、該直流電圧の関数としての電解電流の一次導関数の値が、略々ゼロ値になるまで、該直流電圧を上昇させて行き、そうなったときの該直流電圧の値をもって、被膜除去処理の動作点として設定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の方法。
【請求項5】
被膜除去処理のために直流電流を印加し、その際に、該直流電圧の関数としての電解電流の値が極大値に達するまで、該直流電圧を上昇させて行き、その極大値をもって、被膜除去処理の動作点として設定することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の方法。
【請求項6】
被膜除去処理の実行中に前記直流電圧に交流電圧を重畳させ、その交流電圧の重畳の結果として発生する電解電流または電解コンダクタンスの変動を測定し、その測定値に基づいて、電解電流を極大値に維持するように前記直流電圧に調節を加えるようにしたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の方法。
【請求項7】
±5mVなどの小さな振幅の交流電圧を前記直流電圧に重畳させることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
被膜除去処理の実行中に測定する電解電流または電解コンダクタンスの測定値に基づいて電気化学的被膜除去が完了したか否かを判定することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の方法。
【請求項9】
冷却通路などの通路がその内部に設けられたガスタービンのタービン翼の被膜除去を実行し、その際に、前記タービン翼の外表面の被膜除去を行うべく動作点を電解電流または電解コンダクタンスの測定値の関数として設定し、前記タービン翼の外表面の被膜除去の完了後に制御電圧を上昇させることによって前記タービン翼の外表面の被膜除去が停止して前記通路の被膜除去が行われるようにすることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−518882(P2007−518882A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549850(P2006−549850)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国際出願番号】PCT/DE2004/002799
【国際公開番号】WO2005/068689
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(391028384)エムテーウー・アエロ・エンジンズ・ゲーエムベーハー (26)
【住所又は居所原語表記】DACHAUER STRASSE 665,80995 MUENCHEN,GERMANY
【Fターム(参考)】