説明

部品検査方法

【課題】形状が複雑な金属部品のクラックの有無を確実に判定できるようにする。
【解決手段】本体部分3と突出部分4,4とが一体的に形作られた金属部品1にAEセンサ6を取り付け、アクチュエータ7,7で突出部分4,4を押圧して、本体部分3と突出部分4,4との境界付近に圧縮力、引張力、または剪断力の少なくとも一つを作用させると、境界付近に存在しているクラック5が拡縮して弾性波が発生するので、この弾性波をAEセンサ6によって検知すれば、クラック5の有無を判定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は部品検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
断面の著しい変化、あるいは孔、溝を有する形状が複雑な機械部品を、焼結または鋳造により製造すると、切削加工で製造したものと比べると、部品隅部付近や部品角部付近にクラックが形成されやすく、このような機械部品を大量に製造する事業所では、クラックが形成された不良品の出荷を防ぐことを重視している。
【0003】
従来、金属を素材とする部品の非破壊検査には、検査対象となる部材の表面に渦電流を通電して、当該部材に発生する電磁誘導の変化に基づきクラックを見つけ出す渦電流探傷検査、検査対象となる部品に着磁し、当該部材に磁粉(強磁性体粉末)を振り掛け、磁粉の分布に基づきクラックを見つけ出す磁粉探傷検査、検査対象となる部品の表面に浸透剤を塗布し一定時間放置した後、塗布した浸透剤を拭き取り、現像剤を塗布してクラックを発現させる浸透探傷検査、及び検査対象となる部品の表面に交流を通電し、当該部品の表面の二点間の電位差からクラックを見つけ出す検査法(例えば、特許文献1参照)などが適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−313473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
形状が複雑な機械部品の非破壊検査を前述した渦電流探傷検査、あるいは引用文献1に開示された検査法によって行う場合、機械部品に探触子が入らない狭隘な凹部、もしくは隅部(例えば、歯車の歯底面)があると、当該個所に対して検査を実施できない。
【0006】
形状が複雑な機械部品の非破壊検査を前述した磁粉探傷検査、あるいは浸透探傷検査によって行う場合は、クラックの有無を目視で判定するので、クラックを見落とす可能性がある。また、磁粉探傷検査においては、検査対象となる機械部品の材質は磁性体に限られ、検査後に機械部品の脱磁と洗浄が必須となる。
【0007】
本発明は上述した実情に鑑みてなしたもので、形状が複雑な金属部品のクラックの有無を確実に判定できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の部品検査方法では、形状が複雑な金属部品にAEセンサを取り付け、形状が複雑な個所付近に荷重が加わるように金属部品に外力を付与し、前記AEセンサの出力信号に基づいて金属部品におけるクラックの有無を判定する。
【0009】
請求項2に記載の部品検査方法では、本体部分と突出部分とが一体的に形作られた金属部品にAEセンサを取り付け、前記本体部分と突出部分との境界付近に荷重が加わるように金属部品に外力を付与し、前記AEセンサの出力信号に基づいて金属部品におけるクラックの有無を判定する。
【0010】
請求項3に記載の部品検査方法では、貫通孔を有する金属部品にAEセンサを取り付け、前記金属部品の貫通孔付近に荷重が加わるように金属部品に外力を付与し、前記AEセンサの出力信号に基づいて金属部品におけるクラックの有無を判定する。
【0011】
請求項4に記載の部品検査方法では、金属製の歯車にAEセンサを取り付け、前記歯車の歯底面と歯元の面との境界付近に荷重が加わるように歯車に外力を付与し、前記AEセンサの出力信号に基づいて金属製の歯車におけるクラックの有無を判定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の部品検査方法によれば、下記のような優れた作用効果を奏し得る。
【0013】
(1)請求項1に記載の部品検査方法においては、金属部品の形状が複雑な個所にクラックが存在していると、当該個所付近に荷重を加えたときに、クラックが拡縮して弾性波が発生するので、AEセンサで弾性波を検知することにより、金属部品の形状が複雑な個所にクラックがあるか否かを確実に判定することができる。
【0014】
(2)請求項2に記載の部品検査方法においては、金属部品の本体部分と突出部分との境界付近にクラックが存在していると、当該境界付近に荷重を加えたときに、クラックが拡縮して弾性波が発生するので、AEセンサで弾性波を検知することにより、金属部品の本体部分と突出部分との境界付近にクラックがあるか否かを確実に判定することができる。
【0015】
(3)請求項3に記載の部品検査方法においては、金属部品の貫通孔付近にクラックが存在していると、当該貫通孔付近に荷重を加えたときに、クラックが拡縮して弾性波が発生するので、AEセンサで弾性波を検知することにより、金属部品の貫通孔付近にクラックがあるか否かを確実に判定することができる。
【0016】
(4)請求項4に記載の部品検査方法においては、金属製の歯車の歯底面と歯元の面との境界付近にクラックが存在していると、当該境界付近に荷重を加えたときに、クラックが拡縮して弾性波が発生するので、AEセンサで弾性波を検知することにより、金属製の歯車の歯底面と歯元の面との境界付近にクラックがあるか否かを確実に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の部品検査方法の第1の例を示す概念図である。
【図2】図1における金属部品の平面図である。
【図3】AEセンサの出力信号の波形を示すグラフである。
【図4】本発明の部品検査方法の第2の例を示す概念図である。
【図5】本発明の部品検査方法の第3の例を示す概念図である。
【図6】歯車の歯溝隅部を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0019】
図1、図2は本発明の部品検査方法の第1の例を示すものであり、検査対象となる自在継手用の金属部品1は、短円柱体の中心部分に貫通孔2を有する形状の本体部分3と、当該本体部分3の一端面から軸線方向に対称に延びる一対の円柱状の突出部分4,4とを、焼結、あるいは鋳造により一体的に形作っている。
【0020】
上述した金属部品1では断面の著しい変化があるところ、すなわち、突出部分4の外周面と本体部分3の上端面との境界(凹状隅部)付近にクラック5が形成されやすい。このクラック5の有無を確実に判定するために、弾性波を検知するAE(Acoustic Emission)センサ6と、前記金属部品1の本体部分3と突出部分4との境界付近に荷重を加える一対のアクチュエータ7,7とを用いる。
【0021】
AEセンサ6には、当該AEセンサ6の出力信号を増幅するアンプ8と、当該アンプ8の出力信号の波形からクラック5の存在を検知する判定器9と、当該判定器9の出力信号に応じて作動する告知手段としてのブザー10とが付帯している。
【0022】
アクチュエータ7,7は、シリンダ7a,7aが基盤11に立設した一対の架台12,12に取り付けられ、それぞれのロッド7b,7bが同軸に対向している。基盤11上面に対するアクチュエータ7の高さ位置は、金属部品1の本体部分3を基盤11に載置したとき、ロッド7b先端が金属部品1の突出部分4の外周面を押圧し得るように設定されている。対向するアクチュエータ7,7の間隔は、各シリンダ7a内にロッド7bが後退したときに、ロッド7b,7b間に前記金属部品1が介入できるように設定されている。
【0023】
前記基盤11上面には、金属部品1の本体部分3を周方向に取り囲むように3個以上のブラケット13が固定され、各ブラケット13にはボルト14が水平に螺合されている。
【0024】
金属部品1の検査を行う際には、各アクチュエータ7のロッド7bをシリンダ7a内へ後退させ、基盤11に金属部品1をその本体部分3がブラケット13で取り囲まれるように載置し、金属部品1の突出部分4にアクチュエータ7のロッド7bが対峙するように、当該金属部品1の向きを調整する。次いで、各ブラケット13に螺合しているボルト14を回してその先端面を前記本体部分3の外周面に当接させ、金属部品1が水平方向へ変位しないように拘束し、AEセンサ6を金属部品1に取り付ける。
【0025】
アクチュエータ7,7のロッド7b,7bをシリンダ7a,7aから前進させて突出部分4,4を金属部品1中心側へと押圧すると、突出部分4の外周面と本体部分3の上端面との境界(凹状隅部)付近に荷重が加わる。
【0026】
AEセンサ6の出力信号は、金属部品1にクラック5がない限りは、図3(a)に示すような安定した振幅の波形を呈する。これに対して、突出部分4の外周面と本体部分3の上端面との境界付近にクラック5があると、この付近に荷重が加わった際に、クラック5の拡縮に起因した弾性波が発生し、AEセンサ6の出力信号は、図3(b)に示すような弾性波に伴う一時的に大きな振幅の波形を呈する。
【0027】
判定器9が一時的に大きな振幅の波形の出力信号を検知すると、当該判定器9はブザー10を作動させ、クラック5が金属部品1に存在している旨を検査担当者に告知することになる。
【0028】
図4は本発明の部品検査方法の第2の例を示すものであり、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。検査対象となるリンク機構用の金属部品15は、平面形状が長手方向中間で屈折した板状体を、焼結、あるいは鋳造によって形作ったもので、一端部、長手方向中間部、及び他端部に、貫通孔16,17,18を有している。
【0029】
上述した金属部品15では、貫通孔17があり、部品形状が屈折している長手方向中間部付近にクラック5が形成されやすい。このクラック5の有無を確実に判定するために、AEセンサ6と、金属部品15の貫通孔16,17,18に挿入可能なピン19,20,21と、これらのピン19,20,21を介して金属部品15の貫通孔17付近に荷重を加える一対のアクチュエータ22,22と、当該アクチュエータ22,22を組み付ける水平な基盤23とを用いる。
【0030】
一方のアクチュエータ22のロッド22b先端部には、金属部品15の一端部の貫通孔16に挿入可能なピン19が上下を向くように取り付けられ、他方のアクチュエータ22のロッド22b先端部には、金属部品15の他端部の貫通孔18に挿入可能なピン21が上下を向くように取り付けられている。
【0031】
一対のアクチュエータ22,22は、ロッド22b,22bが同じ向きとなるよう基盤23上に並列に配置されている。そして、一方のアクチュエータ22のシリンダ22aの端部のブラケット22cは、垂直に延びるピン24によって基盤23に枢支され、また、他方のアクチュエータ22のシリンダ22aの端部のブラケット22cは、垂直に延びるピン25によって基盤23に枢支され、前記ピン20は、ロッド22b,22bの前方に位置するように、基盤23に垂直に取り付けられている。
【0032】
金属部品15の検査を行う際には、シリンダ22aに対するロッド22bの位置を適宜調整しながら基盤23に金属部品15を被せて、当該金属部品15の貫通孔16,17,18にピン19,20,21を嵌め、AEセンサ6を金属部品15に取り付ける。
【0033】
アクチュエータ22,22のロッド22b,22bをシリンダ22a,22aから前進させて金属部品15の貫通孔16,18に嵌っているピン19,21をシリンダ22a,22aから離隔する向きに押圧すると、金属部品15の貫通孔17付近に荷重が加わる。
【0034】
AEセンサ6の出力信号は、金属部品15にクラック5がない限りは、図3(a)に示すような安定した振幅の波形を呈する。これに対して、金属部品15の貫通孔17付近にクラック5があると、この付近に荷重が加わった際に、クラック5の拡縮に起因した弾性波が発生し、AEセンサ6の出力信号は、図3(b)に示すような弾性波に伴う一時的に大きな振幅の波形を呈する。
【0035】
判定器9が一時的に大きな振幅の波形の出力信号を検知すると、当該判定器9はブザー10を作動させ、クラック5が金属部品15に存在している旨を検査担当者に告知することになる。
【0036】
図5、図6は本発明の部品検査方法の第3の例を示すものであり、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。検査対象となる歯車28は、スパーギヤ(平歯車)であり、焼結あるいは鋳造によって形作られている。
【0037】
上述した歯車28では、切欠き付近、すなわち、歯溝隅部における歯底面29と歯元の面30との境界付近にクラック5が形成されやすい。このクラック5の有無を確実に判定するために、AEセンサ6と、モータ31により駆動され且つ歯車28に噛み合う外力付与用の歯車32と、前記歯車28の軸孔33に挿入可能なピン34と、前記歯車28の歯が嵌合し得るストッパ35と、前記モータ31を組み付ける水平な基盤36とを用いる。
【0038】
モータ31は、基盤36下面に取り付けられ、回転軸37が基盤36を貫通している。歯車32は、検査対象の歯車28よりも径が小さいピニオンギヤ(小歯車)である。この歯車32は、基盤36上面に位置し、回転軸37の先端部分に嵌着されている。
【0039】
ピン34は、基盤36上面に垂直に取り付けられている。このピン34の位置は、基盤36に歯車28を被せ、当該歯車28の軸孔33にピン34を嵌めたときに、歯車28,32が相互に噛み合うように設定してある。
【0040】
ストッパ35は、基盤36上面の歯車32からは離れたところに取り付けられている。このストッパ35の位置は、基盤36に歯車28を被せ、当該歯車28の軸孔33にピン34を嵌めたときに、歯車28の所定の歯がストッパ35に噛み合って歯車28の回転を拘束するにように設定してある。
【0041】
歯車28の検査を行う際には、基盤36に歯車28を被せ、当該歯車28の軸孔33にピン34を嵌め、歯車28,32を相互に噛み合わせるとともに、歯車28の所定の歯をストッパ35に噛み合せ、更に、AEセンサ6を歯車28に取り付ける。
【0042】
モータ31を作動させて、回転軸37のトルクを歯車32から歯車28へ伝達しても、所定の歯がストッパ35に噛み合っている歯車28は回転しないものの、歯車32の特定の歯が歯車28の特定の歯を周方向に押圧することなる。
【0043】
よって、歯車32の歯で押圧される歯車28の歯においては、歯車32の歯に相対した歯溝隅部の歯底面29と歯元の面30との境界付近、及び歯車32の歯に相対していない歯溝隅部の歯底面29と歯元の面30との境界付近のそれぞれに荷重が加わる。
【0044】
AEセンサ6の出力信号は、歯車32の歯によって押圧される歯車28の歯にクラック5がない限りは、図3(a)に示すような安定した振幅の波形を呈する。これに対して、歯車32の歯によって押圧される歯車28の歯の歯底面29と歯元の面30との境界付近にクラック5があると、この付近に荷重が加わった際に、クラック5の拡縮に起因した弾性波が発生し、AEセンサ6の出力信号は、図3(b)に示すような弾性波に伴う一時的に大きな振幅の波形を呈する。
【0045】
判定器9が一時的に大きな振幅の波形の出力信号を検知すると、当該判定器9はブザー10を作動させ、クラック5が歯車28に存在している旨を検査担当者に告知することになる。
【0046】
所定の歯に対する検査を終えたならば、ストッパ35に対する歯車28の周方向位置を歯ひとつ分だけずらし、上述した手順によってクラック5の有無を判定し、これを全ての歯に対して実施する。
【0047】
なお、本発明の部品検査方法は、上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1 金属部品
3 本体部分
4 突出部分
5 クラック
6 AEセンサ
15 金属部品
16 貫通孔
17 貫通孔
18 貫通孔
28 歯車
29 歯底面
30 歯元の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状が複雑な金属部品にAEセンサを取り付け、
形状が複雑な個所付近に荷重が加わるように金属部品に外力を付与し、
前記AEセンサの出力信号に基づいて金属部品におけるクラックの有無を判定することを特徴とする部品検査方法。
【請求項2】
本体部分と突出部分とが一体的に形作られた金属部品にAEセンサを取り付け、
前記本体部分と突出部分との境界付近に荷重が加わるように金属部品に外力を付与し、
前記AEセンサの出力信号に基づいて金属部品におけるクラックの有無を判定することを特徴とする部品検査方法。
【請求項3】
貫通孔を有する金属部品にAEセンサを取り付け、
前記金属部品の貫通孔付近に荷重が加わるように金属部品に外力を付与し、
前記AEセンサの出力信号に基づいて金属部品におけるクラックの有無を判定することを特徴とする部品検査方法。
【請求項4】
金属製の歯車にAEセンサを取り付け、
前記歯車の歯底面と歯元の面との境界付近に荷重が加わるように歯車に外力を付与し、
前記AEセンサの出力信号に基づいて金属製の歯車におけるクラックの有無を判定することを特徴とする部品検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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