説明

部材の破壊評価装置、方法及びプログラム

【課題】き裂が存在する部材の破壊強度を、高い信頼性で保守的に評価できる破壊評価技術を提供する。
【解決手段】進展き裂を仮想設定し順次そのき裂を大きくして更新する更新部61と、前記部材を塑性崩壊させる極限荷重を算出する算出部42と、前記塑性崩壊の可能性について危険又は安全の判断をするために前記極限荷重及び前記負荷荷重を対比する第1比較部43と、前記更新された進展き裂に対応するJ積分を出力する関数部63と、前記出力されたJ積分を代入し対応する破壊荷重を逆算する逆算部52と、き裂進展破壊の可能性について危険又は安全の判断をするために前記逆算された複数の破壊荷重のうちの極大値及び前記負荷荷重を対比する第2比較部53と、第1比較部43及び第2比較部53において共に安全と判断される場合に合格認定する結果出力部64と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材の破壊評価技術に関し、特にき裂を含む部材の破壊評価装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力機器においては、経年的に、その構成部材に応力腐食割れや疲労等によるき裂が発生し,さらに成長する場合がある。そのような場合において、地震の発生等により定常操業時の定格を超える負荷荷重が部材に作用する際、き裂を含む部材の破壊強度を高精度に評価する構造健全性評価法の開発が急務となっている。
【0003】
既存の構造健全性評価法として極限荷重評価法及びJ積分法が知られている。
極限荷重評価法は、評価時におけるき裂(初期き裂)の寸法に基づき、残存する部材断面に降伏値を超える応力が作用し塑性崩壊を生じさせる限界点を求める方法である。
J積分法は、部材中をき裂先端が進展するか否かを、各種パラメータから演算されるJ積分に基づいて判断する方法である(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】構造健全性評価ハンドブック,共立出版(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、実際の部材における破壊挙動として、き裂進展を生じた後に塑性崩壊する現象も見られ、この場合、従来の極限荷重評価法によれば、初期き裂の寸法に基づいているために危険側の評価を与える可能性がある。
また、J積分法は、一方端から反対端に向かって部材中を進展するき裂先端が反対端に到達するか否かに基づいて部材が破壊するか否かを判断している。このために、J積分法は、き裂進展が途中で停止した後に残存する部材断面が塑性崩壊することは想定外であり、前記と同様に危険側の評価を与える可能性がある。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、き裂が存在する部材の破壊強度を、信頼性が高く保守的に評価する破壊評価技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る部材の破壊評価装置は、演算に必要なパラメータを設定する条件設定部と、初期き裂を含む部材に負荷荷重が作用したときの進展き裂を仮想設定し順次そのき裂を大きくして更新する設定部と、前記初期き裂及び前記進展き裂を併せた全き裂の存在を前提に前記部材を塑性崩壊させる極限荷重を算出する算出部と、前記塑性崩壊の可能性について危険又は安全の判断をするために前記極限荷重及び前記負荷荷重を対比する第1比較部と、前記部材の構成材料における進展き裂及びJ積分の関係を表し前記更新された進展き裂に対応するJ積分を出力する関数部と、前記全き裂を進展させて前記部材を破壊させる破壊荷重及びJ積分の関係を示す定義式に前記出力されたJ積分を代入し対応する破壊荷重を逆算する逆算部と、き裂進展破壊の可能性について危険又は安全の判断をするために前記逆算された複数の破壊荷重のうちの極大値及び前記負荷荷重を対比する第2比較部と、第1比較部及び第2比較部において共に安全と判断される場合に合格認定する結果出力部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、き裂が存在する部材の破壊強度を、高い信頼性で保守的に評価できる破壊評価技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る部材の破壊評価装置の実施形態を示すブロック図。
【図2】(A)〜(C)は各々き裂を有する部材の破壊メカニズムを説明する図。
【図3】部材の構成材料における進展き裂(Δan)に対するJ積分の関係を表すJ−R曲線図。
【図4】初期き裂a0からき裂を進展させるのに必要な破壊荷重MCを表すM−a曲線図。
【図5】本発明に係る部材の破壊評価方法の実施形態を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1のブロック図に示すように、部材の破壊評価システム10(以下、「本システム10」という)は、き裂検出装置11と、想定負荷演算装置12と、入力端末13と、表示体14と、部材の破壊評価装置20(以下、「破壊評価装置20」という)とから構成されている。
このように構成される本システム10は、原子力発電所等のプラントシステム等に、通常運転時の定格を超える負荷荷重Mappが地震発生時等に作用した場合であっても、大規模損壊に至らないようその危険性を早期に察知し、有効な対策を講じるのに必要な情報を提供するものである。
【0011】
き裂検出装置11は、部材に含まれるき裂を計測するもので、き裂の検出原理として浸透探傷、蛍光探傷、磁粉探傷、過流探傷、放射線透過及び超音波探傷等の公知の方法を採用することができる。
想定負荷演算装置12は、部材のレイアウト、支持方法、耐震規定の想定加速度等から、部材の任意断面に作用する負荷荷重Mappを演算するものである。
【0012】
ここで図2を参照してき裂を有する部材の破壊メカニズムについて説明する。
部材には、図2(A)に示されるように、所定長さの初期き裂a0がすでに存在しているものとする。ここで初期き裂a0とは、運転開始後の経年劣化により発生又は進展し、本システム10を用いて部材の破壊評価を実施する時点において存在しているものを指す。
これに曲げ及び/又は引張の負荷荷重Mappが作用すると、図2(B)に示すようにき裂先端において塑性鈍化が生じた後に、図2(C)に示すように原子面間が分離するへき開によって、き裂が進展していく。
【0013】
そして、このき裂が進展して反対端に到達すると、部材はき裂進展破壊に至ることになる。
一方、へき開によるき裂進展が反対端に到達しない場合であっても、残存する部分断面S0,S1,S2に作用する応力が、流動応力σf(降伏応力σYと引張強さσuの平均で表される)を超えると、この部分断面が塑性崩壊し、破断に至ることになる。
【0014】
破壊評価装置20は、図1に示されるように、インターフェース21と、データ蓄積部22と、制御部23と、条件設定部30と、塑性崩壊判定部40と、き裂進展破壊判定部50と、Δan更新部61と、an演算部62と、J−Δa関数部63と、結果出力部64とから構成される。
【0015】
また、破壊評価装置20は、このような実行手段を含むコンピュータであって、プログラムに基づいて指定された演算やデータ処理を実行するものである場合も含まれる。
このように構成される破壊評価装置20は、インターフェース21を介してき裂検出装置11、想定負荷演算装置12及び入力端末13からもたらされる情報を、制御部23の動作に基づいて、部材の破壊評価に関する合否情報を表示体14に出力する。また、データ蓄積部22には、外部入力データ及び内部処理データが蓄積される。
【0016】
条件設定部30は、部材形状入力部31と、荷重条件入力部32と、材料定数入力部33と、き裂情報入力部34とから構成される。
このように構成される条件設定部30は、応力(力/断面)及びき裂寸法を組み合わせて定義される破壊強度を、部材について評価するのに際し、演算処理に必要なパラメータを設定するものである。
【0017】
部材形状入力部31は、平板、円筒、ノズル、配管エルボ、配管ティー、球殻、丸棒、ボルト等に分類されたモデルの中から形状パラメータを選択し、それぞれの肉厚や径等の寸法パラメータを入力することにより部材の形状を規定するものである。
【0018】
荷重条件入力部32は、想定負荷演算装置12により演算されたものの中から、注目するき裂の主応力面に作用する負荷荷重Mappを取得するものである。さらに、この主応力面に作用する荷重種類が「引張」であるか「曲げ」であるか等の区別も行う。
【0019】
材料定数入力部33は、部材の構成材料に関する、引張強さ、降伏応力、ヤング率、ポアッソン比、J積分抵抗曲線(図3参照)の定数C,m、Ramberg-Osgood定数α,n(後記する数式(5)参照)等の材料定数を取得するものである。
なお、原子力機器の構造材として典型的に用いられる材料名を入力するだけで、前記した材料定数が自動取得されるようにこれら材料定数のデータベースをデータ蓄積部22に蓄積しておいてもよい。
【0020】
き裂情報入力部34は、き裂検出装置11により検出された欠陥の形状、寸法、部材内における位置等の情報を取得する。さらに、立体欠陥は、主応力面に投影して平面欠陥に置き換えられ、平面欠陥はその領域を包絡する矩形、扇形、楕円又は半楕円に置き換えられて、モデル化される。
そして、それぞれモデル化されたき裂は、初期き裂a0として、そのき裂長さ、き裂深さ等の代表寸法が演算処理に用いるパラメータとして設定される。
【0021】
Δan更新部61は、初期き裂a0を含む部材に負荷荷重Mappが付与されたときの進展き裂Δanを仮想設定し順次そのき裂を大きくして更新するものである。つまり、Δa1<Δa2<Δa3<…のようにΔanを段階的に大きく設定して、それぞれをan演算部62及びJ−Δa関数部63に出力し、後記する演算処理を実行させる。
なお、an演算部62及びJ−Δa関数部63に出力されるΔanは、それぞれ適切な補正処理がなされる場合がある。
【0022】
n演算部62は、次式(1)に示されるように初期き裂a0と進展き裂Δanとを加算した仮想的な全き裂anを算出する。
n=a0+Δan (1)
【0023】
J−Δa関数部63は、部材の構成材料のJ積分抵抗曲線(J−R曲線)について、Δan更新部61から出力される進展き裂Δanに対応するJ積分を出力する。
図3は、このJ−R曲線を示し、部材の構成材料における進展き裂Δanに対するJ積分の関係を表している。ここでJ積分とは、進展き裂Δanの先端近傍の応力(σ)と歪(ε)の大きさを尺度とする破壊のパラメータである。き裂が進展するのにつれて、部材におけるき裂進展抵抗が増加するためにこのような曲線が描かれる。
ここで、図3に示されるき裂のステージ(0)は図2(A)に対応し、ステージ(I)(II)は図2(B)に対応し、ステージ(III)は図2(C)に対応している。
【0024】
このJ−R曲線図は、材料に固有の特性が反映されており、原子力機器用として多用される材料のものがデータベース化されデータ蓄積部22に保持されている。もしくは、次式(2)で示される一般式により近似することができ、材料定数であるC,mを入力端末13を通じて入力し、材料定数入力部33において特定することができる。
J=CΔa (2)
【0025】
塑性崩壊判定部40は、極限荷重定義部41と、極限荷重算出部42と、第1比較部43とから構成されている。
このように構成される塑性崩壊判定部40は、負荷荷重Mappによる応力が、初期き裂a0及び進展き裂Δanを除き残存する部分断面に作用した場合、この部分断面が塑性崩壊するか否かについて判定するものである。
【0026】
極限荷重定義部41は、次の一般式(3)で示すように、全き裂anを含む部材が塑性崩壊するときの極限荷重Mnを演算する演算式を定義するものである。
n=f(anf) (3)
ここで関数fは、部材形状入力部31及びき裂情報入力部34から取得される情報により定義されるものである。典型的な部材モデル及びき裂モデルの組み合わせについては、適用される演算式がデータ蓄積部22等に登録されており、必要な寸法パラメータを入力すれば極限荷重Mnが演算されるようになっている。
そして流動応力σfは、部材材料の実質的な強度を表す値として、一般的に、降伏応力と引張強さの平均値が用いられ、材料定数入力部33から取得される。
【0027】
極限荷重算出部42は、更新される仮想的な全き裂anを順次入力し、この全き裂anの存在を前提に、極限荷重定義部41から取得した演算式を用いて、部材を塑性崩壊させる極限荷重Mnをそれぞれ算出するものである。
【0028】
第1比較部43は、算出された極限荷重Mn及び入力された負荷荷重Mappを対比して、部材の塑性崩壊の可能性について「危険」又は「安全」の判断をするものである。
つまり、極限荷重算出部42から順次出力される極限荷重Mnを、負荷荷重Mappと比較してMapp<Mnであれば部材は塑性崩壊しない(安全)、Mapp≧Mnであれば部材は塑性崩壊する(危険)と判断する。
【0029】
き裂進展破壊判定部50は、J積分定義部51と、破壊荷重逆算部52と、第2比較部53とから構成されている。
このように構成されるき裂進展破壊判定部50は、負荷荷重Mappによる応力が、仮想的な全き裂anに作用した場合、進展き裂Δanがさらに進展して部材が破壊するか否かについて判定するものである。
【0030】
J積分定義部51は、次の一般式(4)で示されるように、全き裂anを含む部材に破壊荷重MCが作用した場合にき裂進展によりこの部材が破壊するときのJ積分を演算する演算式を定義するものである。
J=g(an,MC) (4)
ここで関数gは、部材形状入力部31、き裂情報入力部34及び材料定数入力部33から取得される情報により定義されるものである。そして、部材の構成材料の応力(σ)−歪(ε)関係式として、次式(5)のRamberg-Osgood式を用いることができる。
ε=σ/E+(ασ0/E)・(σ/σ0)n (5)
ここで、Eはヤング率、α,σ0,nは材料定数を表し、σ0はσY(降伏応力)で代用するのが一般的である。
関数gも関数fと同様に、典型的な部材モデル及びき裂モデルの組み合わせについて適用される演算式がデータ蓄積部22等に登録されている。
【0031】
破壊荷重逆算部52は、an演算部62から全き裂anを、J−Δa関数部63からJ積分を、J積分定義部51で定義された定義式に入力し、対応する破壊荷重Mを逆算するものである。
図4は、an演算部62から順次入力される全き裂anに対し、破壊荷重逆算部52で出力された破壊荷重MをプロットしたM−a曲線図である。
このように、M−a曲線における破壊荷重Mは極大値Mmaxを有し、この極大値Mmax未満の破壊荷重Mが作用すると対応する全き裂anでき裂の進展が停止するが、この極大値Mmaxを超える破壊荷重Mが作用すると、aPを超えて一気にき裂が進展することが示されている。
【0032】
第2比較部53は、極大値Mmax及び負荷荷重Mappを対比して、部材のき裂進展破壊の可能性について「危険」又は「安全」の判断をするものである。
つまり、破壊荷重逆算部52から順次出力される破壊荷重Mのうち極大値Mmaxを、負荷荷重Mappと比較してMapp<Mmaxであれば部材はき裂進展破壊しない(安全)、Mapp≧Mmaxであれば部材はき裂進展破壊する(危険)と判断する。
【0033】
結果出力部64は、第1比較部43及び第2比較部53において共に「安全」と判断される場合に「合格」と認定するものである。
図4を参照して換言すると、進展き裂Δanを順次大きく更新して、仮想的な全き裂anが極大値Mmaxに対応するaPに到達するまでに、第1比較部43及び第2比較部53が共にが「安全」と判断していれば「合格」と認定される。そして、aPに到達するまでに、第1比較部43及び第2比較部53のいずれか一方が「危険」と判断すれば「不合格」と認定される。
【0034】
なお、変形例として結果出力部64は、負荷荷重Mappが「変位制御型」又は「応力制御型」のうち「変位制御型」である場合、第1比較部43が「危険」と判断してもこれを反映させず、第2比較部53が「安全」と判断していれば、「合格」と認定する実施形態も採用され得る。
つまり、極限荷重Mnが、負荷荷重Mappを下回る場合であっても、部材への負荷形態が「変位制御型」である場合には、「合格」と判断する。一方、部材への負荷形態が「荷重制御型」である場合には、極限荷重Mnが負荷荷重Mappを下回れば「不合格」すると判断する。
これは、「変位制御型」の負荷荷重Mappの下では、破壊は徐々に進行し、急速に進行することはないことを考慮して、「荷重制御型」の負荷荷重Mappに対してのみ、塑性崩壊判定部40を機能させるものである。
この変形例によれは、「変位制御型」の負荷荷重Mappに対して過度に保守的な評価となることを回避し、より合理的な判断の下に構造部材の健全性を評価することが可能となる。
【0035】
図5のフローチャートを参照して本発明に係る部材の破壊評価方法の実施形態、及び破壊評価装置20の動作(適宜、図1参照)の説明を行う。
まず、入力端末13を介して部材の寸法パラメータ、物性値パラメータを条件設定部30に入力する(S11)。次に、き裂検出装置11で部材に含まれるき裂を検出し(S12)、想定負荷演算装置12でこのき裂に作用する負荷荷重Mappを演算し条件設定部30に入力する(S13)。
【0036】
検出されたき裂は、適切にモデル化した後に、初期き裂a0が条件設定部30において決定される(S14)。そして、この初期き裂a0を含む部材に負荷荷重Mappが付与されたときの進展き裂Δanを更新部61において仮想的に設定する(S15)。なおこの進展き裂Δanは、ルーチンが循環する度に順次大きく更新されることになる(S24;N0→S15)。
決定された初期き裂a0及び仮想された進展き裂Δanを併せた全き裂anを演算部62において演算し(S16)、極限荷重定義部41から演算式を呼び出して(S17)、この全き裂anの存在を前提に部材を塑性崩壊させるのに必要な極限荷重Mnを算出部42において算出する(S18)。
【0037】
次に、部材が塑性崩壊する可能性についての「危険」又は「安全」の判断をするために算出された極限荷重Mn及び入力された負荷荷重Mappを第1比較部43において対比する(S19)。この対比において、極限荷重Mnが負荷荷重Mapp以下であれば(S19;No)、部材は塑性崩壊する可能性があり「危険」と判断され、原則として「不合格」の判定がなされる(S28)。変形例であるステップ(S27)については後記する。
【0038】
一方、第1比較部43の対比において、極限荷重Mnが負荷荷重Mappを超えると判断されれば(S19;Yes)、部材は塑性崩壊する可能性がない「安全」と判定され、き裂進展破壊の可能性についての判定に移る。
まず、部材の構成材料における進展き裂Δan及びJ積分の関係を表すJ−R曲線を呼び出して(S20)、更新部61から入力する進展き裂Δanに対応するJ積分を関数部63において同定する(S21)。
【0039】
次に、全き裂anを進展させて部材を破壊させるのに必要な破壊荷重Mc及びJ積分の関係を示す定義式を定義部51から呼び出して(S22)、関数部63から出力されたJ積分を代入し対応する破壊荷重Mcを逆算部52において逆算する(S23)。
そして、この逆算された破壊荷重Mcが極大値Mmaxを示すまで(S24;Yes)、ルーチンを循環させる(S24;No)。
【0040】
次に、部材がき裂進展破壊する可能性についての「危険」又は「安全」の判断をするために、逆算された複数の破壊荷重Mcのうちの極大値Mmax及び負荷荷重Mappを第2比較部53において対比する(S25)。この段階で、極大値Mmaxが負荷荷重Mappを超えて「安全」と判断されれば(S25;Yes)、第1比較部43と第2比較部53の二つの対比において共に「安全」と判断されることになるので「合格」判定される(S26)。
一方、極大値Mmaxが負荷荷重Mapp以下であれば(S25;No)、部材はき裂進展破壊する可能性があり「危険」と判断され、「不合格」の判定がなされる(S28)。
「合格」の判定が得られればそのまま継続運転が認められ、「不合格」の判定では部材の補修又は取り替えを行う必要がある。
【0041】
一方において、前記した変形例のように、負荷荷重Mappが「変位制御型」又は「荷重制御型」の区別のうち「変位制御型」であることが判っていれば(S27;No)、ステップ(S19;No)の判定結果を無視してステップ(S20)に進む。負荷荷重Mappが「荷重制御型」であることが判っていれば(S27;Yes)、原則通り「不合格」となる(S28)。
【0042】
以上説明した通り、本発明に係る破壊評価装置、方法、プログラムによれば、部材のき裂進展破壊を判断している過程においても、残存する部分断面S1,S2(図2)における極限荷重Mnが負荷荷重Mappと比較されて塑性崩壊が発生しないことを確認しているため、高い信頼性を持って構造部材の健全性を評価することが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
10…破壊評価システム(本システム)、11…き裂検出装置、12…想定負荷演算装置、13…入力端末、14…表示体、20…破壊評価装置、21…インターフェース、22…データ蓄積部、23…制御部、30…条件設定部、31…部材形状入力部、32…荷重条件入力部、33…材料定数入力部、34…き裂情報入力部、40…塑性崩壊判定部、41…極限荷重定義部、42…極限荷重算出部(算出部)、43…第1比較部、50…き裂進展破壊判定部、51…J積分定義部、52…破壊荷重逆算部(逆算部)、53…第2比較部、61…Δan更新部(更新部)、62…an演算部(演算部)、63…J−Δa関数部(関数部)、64…結果出力部、a0…初期き裂、Δan…進展き裂、an…全き裂、Mapp…負荷荷重、Mc…破壊荷重、Mmax…極大値、Mn…極限荷重。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算に必要なパラメータを設定する条件設定部と、
初期き裂を含む部材に負荷荷重が作用したときの進展き裂を仮想設定し順次そのき裂を大きくして更新する更新部と、
前記初期き裂及び前記進展き裂を併せた全き裂の存在を前提に前記部材を塑性崩壊させる極限荷重を算出する算出部と、
前記塑性崩壊の可能性について危険又は安全の判断をするために前記極限荷重及び前記負荷荷重を対比する第1比較部と、
前記部材の構成材料における進展き裂及びJ積分の関係を表し前記更新された進展き裂に対応するJ積分を出力する関数部と、
前記全き裂を進展させて前記部材を破壊させる破壊荷重及びJ積分の関係を示す定義式に前記出力されたJ積分を代入し対応する破壊荷重を逆算する逆算部と、
き裂進展破壊の可能性について危険又は安全の判断をするために前記逆算された複数の破壊荷重のうちの極大値及び前記負荷荷重を対比する第2比較部と、
第1比較部及び第2比較部において共に安全と判断される場合に合格認定する結果出力部と、を備えることを特徴とする部材の破壊評価装置。
【請求項2】
前記負荷荷重が変位制御型又は応力制御型のうち前記変位制御型である場合、前記結果出力部は、前記第1比較部の判断を反映させないことを特徴とする請求項1に記載の部材の破壊評価装置。
【請求項3】
演算に必要なパラメータを設定するステップと、
初期き裂を含む部材に負荷荷重が作用したときの進展き裂を仮想設定し順次そのき裂を大きくして更新するステップと、
前記初期き裂及び前記進展き裂を併せた全き裂の存在を前提に前記部材を塑性崩壊させる極限荷重を算出するステップと、
前記塑性崩壊の可能性について危険又は安全の判断をするために前記極限荷重及び前記負荷荷重を対比するステップと、
前記部材の構成材料における進展き裂及びJ積分の関係を表し前記更新された進展き裂に対応するJ積分を出力するステップと、
前記全き裂を進展させて前記部材を破壊させる破壊荷重及びJ積分の関係を示す定義式に前記出力されたJ積分を代入し対応する破壊荷重を逆算するステップと、
き裂進展破壊の可能性について危険又は安全の判断をするために前記逆算された複数の破壊荷重のうちの極大値及び前記負荷荷重を対比するステップと、
前記二つの対比において共に安全と判断される場合に合格認定するステップと、を含むことを特徴とする部材の破壊評価方法。
【請求項4】
コンピュータを、
演算に必要なパラメータを設定する手段、
初期き裂を含む部材に負荷荷重が作用したときの進展き裂を仮想設定し順次そのき裂を大きくして更新する手段、
前記初期き裂及び前記進展き裂を併せた全き裂の存在を前提に前記部材を塑性崩壊させる極限荷重を算出する手段、
前記塑性崩壊の可能性について危険又は安全の判断をするために前記極限荷重及び前記負荷荷重を対比する手段、
前記部材の構成材料における進展き裂及びJ積分の関係を表し前記更新された進展き裂に対応するJ積分を出力する手段、
前記全き裂を進展させて前記部材を破壊させる破壊荷重及びJ積分の関係を示す定義式に前記出力されたJ積分を代入し対応する破壊荷重を逆算する手段、
き裂進展破壊の可能性について危険又は安全の判断をするために前記逆算された複数の破壊荷重のうちの極大値及び前記負荷荷重を対比する手段、
前記二つの対比において共に安全と判断される場合に合格認定する手段、として機能させることを特徴とする部材の破壊評価プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate