説明

配向熱電材料及びその製造方法

【課題】結晶配向度が大きく、かつ熱伝導率及び比抵抗を小さくすることが可能な、優れた熱電特性を有する配向熱電材料の製造方法及びその製造方法により形成された配向熱電材料を提供する。
【解決手段】熱電材料を磁場中で成形して配向熱電材料を製造する配向熱電材料の製造方法において、前記熱電材料中に、炭素成分を含有する磁性成分を添加する工程(ステップS12)を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電材料及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、結晶配向性を有する熱電材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、世界のエネルギーは、その多くを化石燃料の燃焼エネルギーに依存しているが、熱サイクルを使用する発電システムの場合、そのエネルギーの多くを廃熱として未利用のまま廃棄しているのが現状である。一方、地球環境の保全が世界的規模で議論されるようになり、エネルギーの未利用分の有効利用技術開発が精力的に進められている。
【0003】
この中で、熱電変換を用いた発電は、比較的低品質の熱においても直接電気に変換することが可能であるため、現状の未利用の廃熱を回収できる技術であり、最近のエネルギー問題や環境問題の深刻化に伴い、熱電変換に対する期待度はますます大きくなっている。
【0004】
この熱電変換とは、異なる2種の金属やp型半導体とn型半導体等の熱電変換材料に温度差を与えると、両端に熱起電力が発生するゼーベック効果を利用して、熱エネルギーを直接電力に変換する技術であり、モーターやタービン等の可動部がまったくなく、また、老廃物もないという優れた特徴を有している。
【0005】
ここで、熱電特性の性能評価に用いられる性能指数Zは、下記の式(1)で表される。
Z=α/(κ・ρ) ・・・(1)
α:ゼーベック係数
κ:熱伝導率
ρ:比抵抗
【0006】
すなわち、ゼーベック係数が大きく、熱伝導率と比抵抗が小さいことが必要である。ここで、ゼーベック係数は物性値であるため、材料によって決まってしまうが、熱伝導率と比抵抗は、材料の微細組織や配向性によっても大きく変化させることが可能なため、熱伝導率や比抵抗を小さくするための結晶組織制御方法が検討されている。すなわち、結晶組織の配向性を向上させることにより、ある方向において、熱伝導率及び比抵抗を小さくすることが可能で、その方向における熱電特性を向上することができるわけである。
【0007】
例えば、特許文献1には、A(A:Na,Li,K,Ca,Sr,Ba,Bi,Y,La、B:Mn,Fe,Co,Ni,Cu、1≦x≦2、2≦y≦4)型構造を有する熱電素子材料。特にNaCo系熱電素子材料は、水酸化コバルト又は酸化コバルトの板状粒子とナトリウム金属塩とを混合し、これを前記水酸化コバルト又は酸化コバルト粒子が一方向に配向するように成形し、この成形体を焼成して緻密化させることによりC軸方向が配向した焼結体が作製される。という内容の熱電素子材料及びその製造方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2には、結晶配向材料のテンプレートとなる物質である形状異方性を有するZnOまたはその前駆体粉末材料と、このZnOまたはその前駆体粉末材料との反応によって結晶異方性のある導電性酸化物を生成する物質とを混合し、この混合材料を前記異方形状粉末が一方向に配向するように常温下で成形し、この成形物を熱処理することにより合成し、その後に焼結する。という内容の結晶配向バルクZnO系焼結体材料の製造方法およびそれにより製造された熱電変換デバイスが提案されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、V族元素とVI族元素からそれぞれ選択した一種以上の元素の組み合わせを主成分とする熱電材料若しくは金属と半金属系材料の組み合わせを主成分とする熱電材料又はこれらに酸化物、炭化物、窒化物若しくはこれらの混合物を添加した熱電材料の直流通電加圧による焼結に際し、100〜15000Aの可変電流範囲で通電するとともに、磁束密度0.1T≦H≦2.0T(T:テスラ)の範囲で磁場をかけながら焼結し、焼結体組織の電気的配向性を得ることを特徴とする熱電材料の製造方法が提案されている。
【0010】
ところで従来、熱電材料としては、主にBi−Te系材料が用いられてきたが、この材料系では添加物として加えられるSeも含めて毒性が大きく、また、300℃程度までしか用いることができないという不具合が生じていた。
【0011】
これに対し、酸化物系熱電材料は、環境にやさしいばかりでなく、高温まで使用することが可能であるため、現在、大いに開発が進められている。酸化物系熱電材料としては、例えば前述したNaCo等のp型熱電材料があり、低温域から高温域までで高い熱電特性を示し、高効率の熱電返還が期待されている。しかしながら、NaCoと同程度の熱電特性を有するn型熱電材料がなくその開発が熱望されている。そのn型熱電材料の候補としてSr−Ti系の酸化物熱電材料が提案されている。
【0012】
Sr−Ti系酸化物系熱電材料として、例えば、特許文献4には、ストロンチウム酸化物とチタン酸化物あるいはストロンチウム酸化物、バリウム酸化物とチタン酸化物からなる複合酸化物の組成比や構成結晶相を特定範囲にしたことを特徴とする熱電変換材料が提案されている。
【0013】
また、特許文献5には、ストロンチウム酸化物とチタン酸化物を主構成成分とする複合酸化物に希土類元素、Nb,Ta,Sb,W,Si,Al,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znから選ばれた少なくとも1種の特定の元素を加えたことを特徴とする熱電変換材料が提案されている。
【0014】
また、特許文献6には、チタン酸化物あるいはストロンチウム酸化物とチタン酸化物を主構成成分に含む複合酸化物よりなる熱電変換材料の製造方法において、金属チタンを原料中に含んだものを熱処理することを特徴とする導電率が100S/cm以上の熱電変換材料の製造方法が提案されている。
【0015】
また、特許文献7には、チタンとストロンチウムを主成分とし、そのストロンチウムの9mol%から15mol%がセリウムまたはプラセオジウムで置換されており、ゼーベック係数が−70μV/Kから−100μV/Kの範囲内の値を示す酸化物で、特に、Aをストロンチウム及びセリウム、またはストロンチウム及びプラセオジウム、Bをチタンとするとき、一般式ABO、A、またはABOで示されるペロブスカイト構造またはペロブスカイト構造に関連した結晶構造を有する酸化物が提案されている。
【0016】
また、特許文献8には、Aをストロンチウム、Bをチタン、Oを酸素とするときに、一般式ABO、A、またはABOにより記述されるペロブスカイト構造、または、ペロブスカイト構造と岩塩構造とが積層してなる結晶構造を有し、結晶中のストロンチウムの1〜3原子%がセリウムにより置換されており、結晶中に3×1018〜6×1018原子/cm3の水素を含有するn型熱電変換材料が提案されている。
【0017】
また、特許文献9には、Aをストロンチウム、Bをチタン、Oを酸素とするときに、一般式ABOで示されるペロブスカイト構造からなる化合物を主成分とし、ストロンチウムの1〜5原子%がセリウムで置換され、チタンの1〜10原子%に相当するジルコニウム又はハフニウムが過剰に存在するn型熱電変換材料が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記特許文献1および上記特許文献2により提案された方法によると、確かにある程度配向された熱電材料を提供することが可能であるが、いずれもその配向度には限界があり、さらに、配向した成形物を焼結あるいは焼成して緻密化する際に配向度が低下するため、その配向性がまだ十分ではないという不具合が生じている。
【0019】
また、上記特許文献3により提案された方法によると、磁場中において焼結を行うことにより、電気的配向性を得ているのみであり、磁場強度が小さいため、結晶そのものを配向することができず、かえって電気抵抗や熱伝導率等の物理的特性の異方性を減少又は消失させてしまって、結晶組織の配向度を大きくし、ある方向における熱伝導率や比抵抗を小さくするための結晶組織制御方法という目的では用いることができないのが現状である。
【0020】
これより熱電材料の結晶配向度を大きくでき、その配向度を減少させることなく熱電材料を製造できる方法並びに十分な配向度を有した熱電材料が切望されていた。
【0021】
また、上記特許文献4〜9により提案されたSr−Ti系酸化物熱電材料では、微細組織の配向等がなされていないために、熱伝導率及び比抵抗を小さくすることができないという不具合が生じているのが現状である。
【0022】
これより熱伝導率及び比抵抗を小さくでき、その結果優れた熱電特性を有するn型酸化物系熱電材料が切望されていた。
【0023】
本発明は、以上の従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、結晶配向度が大きく、かつ熱伝導率及び比抵抗を小さくすることが可能な、優れた熱電特性を有する配向熱電材料の製造方法及びその製造方法により形成された配向熱電材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記課題を解決するために提供する本発明は、以下の通りである。なお、カッコ内に本発明を実施するための形態において対応する部位及び符号等を示す。
〔1〕 少なくとも熱電材料成分及び磁性成分を含有し、結晶が一定の方向に配向した配向熱電材料において、前記磁性成分は少なくとも炭素成分を含有することを特徴とする配向熱電材料(図3)。
〔2〕 前記磁性成分は、炭素成分を含有する強磁性成分を少なくとも含むことを特徴とする前記〔1〕に記載の配向熱電材料。
〔3〕 前記磁性成分は、炭素成分を含有する常磁性成分を少なくとも含むことを特徴とする前記〔1〕に記載の配向熱電材料。
〔4〕 前記磁性成分は、炭素成分を含有する超常磁性成分を少なくとも含むことを特徴とする前記〔1〕に記載の配向熱電材料。
〔5〕 前記熱電材料成分は、少なくともSr,Tiの酸化物を主成分とする熱電材料成分を含有することを特徴とする前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の配向熱電材料。
〔6〕 前記熱電材料成分は、少なくともSr,Ti及びOから構成される化合物を含有することを特徴とする前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の配向熱電材料。
〔7〕 前記熱電材料成分は、SrTiO3あるいはSrO(SrTiO3)n(nは1以上の整数)を含有することを特徴とする前記〔6〕に記載の配向熱電材料。
〔8〕 微粒子の集合体より構成され、該微粒子がそれぞれ一定の方向に配向していることを特徴とする前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の配向熱電材料。
〔9〕 熱電材料を磁場中で成形して配向熱電材料を製造する配向熱電材料の製造方法において、前記熱電材料中に、炭素成分を含有する強磁性成分を添加する工程(ステップS12)を具備したことを特徴とする配向熱電材料の製造方法(図1)。
〔10〕 熱電材料を磁場中で成形して配向熱電材料を製造する配向熱電材料の製造方法において、前記熱電材料中に、炭素成分を含有する常磁性成分を添加する工程(ステップS12)を具備したことを特徴とする配向熱電材料の製造方法(図1)。
〔11〕 熱電材料を磁場中で成形して配向熱電材料を製造する配向熱電材料の製造方法において、前記熱電材料中に、炭素成分を含有する超常磁性成分を添加する工程(ステップS12)を具備したことを特徴とする配向熱電材料の製造方法(図1)。
【発明の効果】
【0025】
本発明の配向熱電材料によれば、熱電材料成分中に炭素成分を含有する磁性成分(常磁性成分、強磁性成分、超常磁性成分)を添加することにより、磁場による配向が可能になるとともに、熱伝導率及び比抵抗を小さくすることが可能になるので、優れた熱電特性を有する熱電材料を提供することができる。
本発明の配向熱電材料の製造方法によれば、簡便な方法により、結晶配向度が大きく、熱伝導率及び比抵抗が小さな配向熱電材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る配向熱電材料の製造工程の一例を示したものである。
【図2】結晶の配向性を有していない熱電材料(多結晶体)の概念図である。
【図3】炭素成分を含有する磁性微粒子並びに熱電材料微粒子が磁化率の大きい方向に1軸配向した配向成形体の様子を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る配向熱電材料及びその製造方法の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る配向熱電材料の製造工程の一例を示したものである。
本発明に係る配向熱電材料の製造工程は、熱電材料微粒子の合成工程(ステップS11)、炭素成分含有磁性成分の添加工程(ステップS12)、分散液の作製工程(ステップS13)、磁場中での成形工程(ステップS14)、及び磁場中の熱処理工程(ステップS15)からなる。なお、分散液の作製工程(ステップS13)は、分散液を特に用いない場合には不要である。以下、各工程について説明する。
【0028】
(S11;熱電材料微粒子の合成工程)
最初の工程は、熱電材料微粒子の合成工程である。この微粒子は、磁化率の異方性を有していることが必要である。すなわち、任意の方向には磁化率:χが小さく、他の任意の方向においては磁化率が大きく、その両方向の磁化率の差:△χはできるだけ大きい方が磁場を用いて配向熱電材料を製造するには好ましい。
【0029】
ここでは、微粒子の例に関して述べているが、必ずしも微粒子である必要はない。また、もともと結晶構造に異方性がある場合は、それによって磁化率の異方性をも有することが可能である。この意味からも、例えば、酸化物の層状化合物は配向熱電材料を製造するための原料として好ましい。この化合物は層状になっているため、層の積層方向とそれに垂直方向で磁化率が大きく異なっており、磁場で配向することによって熱電特性を向上させることが可能になるわけである。
【0030】
(S12;炭素成分含有磁性成分の添加工程)
次の工程は、磁性成分の添加工程である。磁場による配向熱電材料の形成を考慮した場合には、添加する磁性成分としては、強磁性成分、常磁性成分、及び超常磁性成分が適している。なお、配向熱電材料としての熱伝導率及び比抵抗を小さくするために、これらの磁性成分は炭素成分を含有する必要がある。
【0031】
これらの磁性成分が、磁化率の異方性を有していると、さらに好適である。また、添加した磁性成分は、全体に均一に分布するように、必要に応じて均一分布化処理を施しても問題ない。添加する量に関しては、添加する磁性成分の磁気特性及びその形状等によって異なるため、添加する磁性成分によって最適な添加量を適宜選択すればよい。
【0032】
(S13;分散液の作製工程)
次の工程は、上記のように磁性成分(磁性微粒子)を添加した熱電材料の微粒子を溶媒中に分散する分散液作製の工程である。上述のように分散液を特に用いない場合は、この工程を省略することができる。
【0033】
分散液としては、水、有機溶媒、無機溶媒、いずれを用いても特に問題ない。いずれの場合にも、微粒子が、凝集することなく溶媒中に分散していることが必要である。そのために、必要に応じて超音波分散を行ったり、あるいは界面活性剤等を添加したりしても問題ない。
【0034】
ここで、ステップS12で添加するとした磁性成分を、上記工程(ステップS12)で添加せず(上記工程を経ず)、本工程で添加しても問題ない。その場合は、磁性成分をそのまま添加しても問題ないし、磁性成分を分散液とした後に添加しても問題ない。適宜選択すればよい。
【0035】
(S14;磁場中での成形工程)
次の工程は、上記熱電材料の微粒子の分散液(分散液を用いない場合は集合体)を磁場中に挿入し、成形体とする工程である。
【0036】
磁化率の異方性を有した微粒子は、磁場により配向させることが可能である。微粒子が置かれている状態にもよるが、磁場強度をHとすると、次式(2)の関係を満たすような磁場強度の場合に、磁化率の大きい方向を磁場印加方向に配向させることが可能になる。
≫2kT/Δχ ・・・(2)
k:ボルツマン定数
T:絶対温度
Δχ:磁化率の異方性
【0037】
しかしながら、熱電材料は一般的には強磁性体ではないので、その配向のためには、非常に大きい磁場強度を必要とする。この磁場強度としては、2Tより大きい場合が、熱電材料を配向するためには好ましく、より好ましくは5T以上の磁場であり、さらに好ましくは10T以上の磁場である。この工程により、磁化率の異方性を有した微粒子が磁化率の大きい方向を、印加した磁場の方向に配向した成形体が形成される。
【0038】
ここで、本発明のように、熱電材料中に、炭素成分を含有する強磁性成分、常磁性成分及び超常磁性成分といった炭素成分を含有する磁性成分が添加されている場合は、より配向性の良好な熱電材料を製造することが可能である。
【0039】
さらには、添加する磁性成分の、磁気特性並びに形状によっては、より小さい磁場強度においても、配向熱電材料を製造することが可能になり、生産性の向上に貢献できるものである。
【0040】
(S15;磁場中の熱処理工程)
続いての工程は、この成形体を熱処理により緻密化を行い、強度の大きいバルク体を形成する磁場中熱処理の工程である。
【0041】
この熱処理による緻密化工程には、微粒子原料をバルク化する焼結の工程も含まれる。従来の配向熱電材料を製造する方法では、配向した成形体を形成した後、この熱処理による緻密化を行う工程で、その配向度を小さくしてしまっていた。これは、熱処理により、せっかく配向していた粒子等がその一部の領域がランダムな方向を向いてしまうためである。
【0042】
これに対して、磁場中での熱処理(焼結も含む)を行うことにより緻密化を行う場合は、この工程においても配向度を維持することが可能になるため、極めて配向性の良い熱電材料のバルク体を形成することができるわけである。但し、この場合は、温度が高温になるため、磁化率が低下し、それによって磁化率の異方性が減少することが考えられ、その場合には、それに応じた磁場強度にすることが必要になる。
【0043】
この工程に於いても、本発明のように、熱電材料中に、炭素成分を含有する強磁性成分、常磁性成分、及び超常磁性成分といった炭素成分を含有する磁性成分が添加されている場合は、より配向性の良好な熱電材料を製造することが可能である。
【0044】
さらには、添加する磁性成分の、磁気特性並びに形状によっては、より小さい磁場強度においても、配向熱電材料を製造することが可能になり、生産性の向上に貢献できるものである。
【0045】
以上は、熱電材料を配向成形体にした後、熱処理により緻密化する場合を説明したが、熱電材料の前駆体を同様な方法で配向成形体とし、熱処理により熱電材料を合成することも可能である。
【0046】
図2は、結晶の配向性を有していない熱電材料(多結晶体)の概念図であり、構成要素である熱電材料の結晶粒1のそれぞれは、磁化率の異方性がばらばらの(ランダムな)方向を向いている(図2中の各結晶粒1中の点線の方向が磁化率の大きい方向に相当する。)。
【0047】
それに対し、本発明により製造した配向熱電材料(多結晶体)は、添加した炭素成分を含有する磁性成分が印加した磁場方向に配向する性質を利用することにより、より簡易的に全体が磁化率の異方性に沿って配向しており、すなわち、磁化率の大きい方向が試料全体で揃うことが可能になる。
【0048】
図3は、本発明により製造した配向熱電材料(多結晶体)の概念図であり、添加した炭素成分を含有する磁性微粒子4の磁性成分(強磁性成分、常磁性成分、超常磁性成分)が印加した磁場方向に配向し、磁化率の大きい方向が熱電材料微粒子5を含めた試料全体で揃う様子を示している(図3において、点線の方向が磁化率の大きい方向に相当する。)。
【0049】
例えば、この磁化率の異方性に対して比抵抗あるいは熱伝導率等の電気的特性の異方性が対応する酸化物の層状化合物から構成される熱電材料等では、特定の方向において、熱電特性を向上させることが可能になる。
【0050】
例えば、特定の方向において比抵抗を小さくすることができれば、その他の物理定数が一緒であってもその方向における性能指数Zは大きくなり、その方向で優れた熱電特性が得られることになる。
【0051】
また、熱伝導率の小さい方向を利用して、一端を高温とし、他端を低温とすることにより、両端での温度差を大きく取ることが可能になり、それによって取り出せる電力を向上することが可能になるわけである。
【0052】
このように本発明を用いると、熱電材料成分に、炭素成分を含有する強磁性成分、常磁性成分、超常磁性成分といった炭素成分を含有する磁性成分を添加し、磁場中で配向成形体を形成することにより、磁化率の異方性に沿って配向した成形体を得ることができる。
【0053】
さらに磁場中で熱処理を行い、配向成形体の緻密化を行うことにより、磁化率の異方性に沿って配向したままの(配向性を低下させないで)強度の大きいバルク体を形成することが可能になる。
【0054】
またこのとき、熱電材料成分として、少なくともSr,Tiの酸化物を主成分とする熱電材料成分を含有することとし、好ましくは少なくともSr,Ti及びOから構成される化合物を含有することとし、より好ましくはSrTiO3あるいはSrO(SrTiO3)n(nは1以上の整数)を含有することとする。これにより、優れた熱電特性を有するn型熱電材料を提供することができる。
【0055】
以上説明したように、非常に簡便な方法にて、従来その製造が困難であった非常に良好な配向性を有した熱電材料の製造が可能になり、本発明で製造した配向性熱電材料は、特定の方向において非常に高い熱電特性を有することができ、さらに、磁性成分が炭素成分を含有することにより、熱伝導率及び比抵抗を小さくできることから、優れた熱電特性を有することができるものである。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
(a)試料1の作製
次の手順で試料1を作製した。
(S21) SrCO3粉末とTiO2粉末をモル比がSr:Ti=1:1となるように秤量した後、媒体をエタノールとしたボールミルにて20時間混合し乾燥した。
(S22) 乾燥した粉末は金型を用いて圧力60Mpaで加圧成形した。
(S23) 成形体をAl23製の容器に入れ、電気炉を用いて大気中1200℃にて20時間仮焼成を行った。
(S24) 仮焼成後の成形体は乳鉢で粉砕した後、媒体をエタノールとしたボールミルにて20時間湿式粉砕し乾燥することにより、SrTiO3微粒子を得た。
(S25) 得られたSrTiO3微粒子は、超伝導マグネットを使用して10T(テスラ)の磁場を印加しながら再度金型を用いて圧力60Mpaで加圧成形し、この結果、1軸方向に配向した成形体が得られた(試料1)。
【0057】
(b)試料2の作製
これに対し、前記ステップS25に代わるステップS26として、粉砕して得られたSrTiO3微粒子中に、常磁性成分として、Fe−18%Cr−12%Ni−0.12%C合金の微粒子を5%添加した複合微粒子を、同様に超伝導マグネットを用いて10T(テスラ)の磁場を印加しながら金型を用いて圧力60Mpaで加圧成形し、この結果、1軸方向に配向した成形体が得られた(試料2)。
【0058】
走査型電子顕微鏡を用いて、両試料の配向性を評価した結果、試料1と比較して試料2の配向性の方が良好であった。
このように、炭素成分を含有した常磁性成分の添加により、熱電材料であるSrTiO3成形体の配向性を向上させることができた。
【0059】
(比較例1)
実施例1におけるステップS26に代えて、SrTiO3微粒子中に添加する常磁性成分として、Fe−18%Cr−12%Ni合金の微粒子を5%添加した複合微粒子を、同様に超伝導マグネットを用いて10Tの磁場を印加しながら成形し、この結果、1軸方向に配向した成形体が得られた(試料3)。
この試料3について走査型電子顕微鏡を用いて配向性を評価した結果、試料1と比較して試料3の配向性の方が良好であった。このように、常磁性成分の添加により、熱電材料であるSrTiO3成形体の配向性を向上させることができた。
【0060】
(実施例2)
実施例1で合成した試料2と比較例1で合成した試料3をそれぞれAl23製の容器に入れ、電気炉を用いてAr雰囲気中で1400℃にて10時間焼結を行い、試料2を焼結したものを試料4、試料3を焼結したものを試料5とした。
試料4と試料5の比抵抗を測定した結果、試料4のほうが試料5よりも比抵抗が小さかった。このように、添加する常磁性成分の微粒子に炭素成分を含有させることにより、熱電材料であるSrTiO3焼結体の比抵抗を小さくすることができた。
【0061】
(実施例3)
実施例1において、前記ステップS26に代わるステップS27として、SrTiO3微粒子中に添加する磁性成分として、強磁性のFe−7%Al−2%C合金の微粒子を5%添加した複合微粒子を、同様に超伝導マグネットを用いて10Tの磁場を印加しながら成形し、この結果、1軸方向に配向した成形体が得られた(試料6)。
この試料6について走査型電子顕微鏡を用いて配向性を評価した結果、試料1と比較して試料6の配向性の方が良好であった。このように、炭素成分を含有する強磁性成分の添加により、熱電材料であるSrTiO3成形体の配向性を向上させることができた。
【0062】
(比較例2)
実施例3におけるステップS27に代えて、SrTiO3微粒子中に添加する磁性成分として、強磁性のFe−7%Al合金の微粒子を5%添加した複合微粒子を、同様に超伝導マグネットを用いて10Tの磁場を印加しながら成形し、この結果、1軸方向に配向した成形体が得られた(試料7)。
この試料7について走査型電子顕微鏡を用いて配向性を評価した結果、試料1と比較して試料7の配向性の方が良好であった。このように、強磁性成分の添加により、熱電材料であるSrTiO3成形体の配向性を向上させることができた。
【0063】
(実施例4)
実施例3で合成した試料6と比較例2で合成した試料7をそれぞれAl23製の容器に入れ、電気炉を用いてAr雰囲気中で1400℃にて10時間焼結を行い、試料6を焼結したものを試料8、試料7を焼結したものを試料9とした。
試料8と試料9の比抵抗を測定した結果、試料8のほうが試料9よりも比抵抗が小さかった。このように、添加する強磁性微粒子に炭素成分を含有させることにより、熱電材料であるSrTiO3焼結体の比抵抗を小さくすることができた。
【0064】
(実施例5)
実施例1におけるステップS25並びに実施例3におけるステップS27それぞれにおいて、成形体を形成する際の超伝導マグネットの磁場強度を変化させ、それ以外はそれぞれの工程と同じ条件で試料を作製し、走査型電子顕微鏡を用いて配向性を評価した。
その結果、実施例1のSrTiO3微粒子のみを用いた場合は、5T以上の磁場強度で良好な配向性が確認できたのに対し、実施例3のようにSrTiO3微粒子中に炭素成分を含有する強磁性のFe−7%Al−2%C合金の微粒子を5%添加した複合微粒子を用いた場合には、2T以上の磁場強度で良好な配向性が確認できた。このように、炭素成分を含有する強磁性成分を添加した場合には、より小さい磁場強度で良好な熱電材料であるSrTiO3の配向成形体を形成することができた。
【0065】
(実施例6)
実施例1において形成した成形体(試料1)と、実施例3において形成した成形体(試料6)をそれぞれAl23製の容器に入れ、1400℃で10時間Ar雰囲気中にて焼結を行った。なお、その際、高温強磁場熱処理装置を用いて15Tの磁場を印加しながら焼結を行った。また、このときの磁場の印加方向は、配向成形体の磁化率の大きい方向と一致させた。
焼結後の両試料の微細組織を走査電子顕微鏡にて観察したところ、炭素成分を含有する強磁性成分を添加した試料(試料6)の方が、配向性が良好であった。このように、炭素成分を含有する強磁性成分を添加した場合には、熱電材料であるSrTiO3焼結体においても、配向性を良好にすることができた。
【0066】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0067】
1 熱電材料の結晶粒
4 炭素成分を含有する磁性微粒子
5 熱電材料微粒子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0068】
【特許文献1】特開2000−211971号公報
【特許文献2】特開2002−16297号公報
【特許文献3】特開2001−223396号公報
【特許文献4】特開平8−231223号公報
【特許文献5】特開平8−236818号公報
【特許文献6】特開平8−242021号公報
【特許文献7】特開2005−79164号公報
【特許文献8】特開2006−24632号公報
【特許文献9】特開2006−179807号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱電材料成分及び磁性成分を含有し、結晶が一定の方向に配向した配向熱電材料において、前記磁性成分は少なくとも炭素成分を含有することを特徴とする配向熱電材料。
【請求項2】
前記磁性成分は、炭素成分を含有する強磁性成分を少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の配向熱電材料。
【請求項3】
前記磁性成分は、炭素成分を含有する常磁性成分を少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の配向熱電材料。
【請求項4】
前記磁性成分は、炭素成分を含有する超常磁性成分を少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の配向熱電材料。
【請求項5】
前記熱電材料成分は、少なくともSr,Tiの酸化物を主成分とする熱電材料成分を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の配向熱電材料。
【請求項6】
前記熱電材料成分は、少なくともSr,Ti及びOから構成される化合物を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の配向熱電材料。
【請求項7】
前記熱電材料成分は、SrTiO3あるいはSrO(SrTiO3)n(nは1以上の整数)を含有することを特徴とする請求項6に記載の配向熱電材料。
【請求項8】
微粒子の集合体より構成され、該微粒子がそれぞれ一定の方向に配向していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の配向熱電材料。
【請求項9】
熱電材料を磁場中で成形して配向熱電材料を製造する配向熱電材料の製造方法において、前記熱電材料中に、炭素成分を含有する強磁性成分を添加する工程を具備したことを特徴とする配向熱電材料の製造方法。
【請求項10】
熱電材料を磁場中で成形して配向熱電材料を製造する配向熱電材料の製造方法において、前記熱電材料中に、炭素成分を含有する常磁性成分を添加する工程を具備したことを特徴とする配向熱電材料の製造方法。
【請求項11】
熱電材料を磁場中で成形して配向熱電材料を製造する配向熱電材料の製造方法において、前記熱電材料中に、炭素成分を含有する超常磁性成分を添加する工程を具備したことを特徴とする配向熱電材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−249537(P2011−249537A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120772(P2010−120772)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】