説明

配向膜の成膜装置

【課題】基板の表面に均一な膜厚の配向膜を形成することができ、かつ、メンテナンス頻度を低下させて配向膜の生産性を向上させることができる配向膜の成膜装置を提供する。
【解決手段】材料液L1を液滴として吐出する液滴吐出ヘッド34Aと、液滴吐出ヘッド34Aの走査方向の前方に配置され、配向膜材料を溶解可能な処理液L2を吐出する塗布部と34B、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配向膜の成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板の表面に均一な膜厚の薄膜を形成できる成膜装置が知られている。この成膜装置は、基板の表面に溶液を噴射塗布する塗布装置において、往路と復路に沿って往復移動される搬送台と、この搬送台に回転可能に設けられ、上記基板を保持するテーブルと、このテーブルの上側に設けられ、上記搬送台の移動方向と交差する方向に沿って並設された複数のノズルを有するヘッドと、上記搬送台に設けられ、上記テーブルを回転駆動する駆動モータと、上記駆動モータにより上記テーブルを往路復路別に回転させ、上記基板の向きを変更してから、上記搬送台を上記往路復路に沿って移動させることで上記基板を上記ヘッドに通過させる制御装置とを具備するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ヘッドに所定方向に所定間隔で形成された複数のノズルから、隣り合うノズルの間隔よりも小さな径のドットで溶液を基板に噴射塗布する成膜装置において、上記ヘッドと上記基板とを相対的に上記所定方向に駆動する駆動手段と、上記ヘッドのノズルから上記基板に上記所定方向に所定間隔で離間する溶液の複数のドットを噴射塗布したのち、所定間隔で隣り合う一対のドット間の部分を最初に噴射塗布したドットに最後に噴射塗布するドットが隣接することのない順序によって複数のドットで塗り潰すよう、上記駆動手段を制御する制御手段とを具備するものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、基板に溶液をインクジェット方式によって塗布する溶液の塗布装置において、上記基板の上記溶液が塗布される板面を励起処理するための励起部と、この励起部で処理された板面に上記溶液をインクジェット方式によって塗布する塗布部とを備えたものが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2005−193232号公報
【特許文献2】特開2005−721号公報
【特許文献3】特開2004−255316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、液晶装置に用いられる配向膜を液滴として吐出して成膜するためには、ポリイミド等の配向膜材料を、例えば、ブチルセロソルブやN−メチル−2−ピロリドン(N-methylpyrrolidone:NMP)等の有機溶剤に溶解させた材料液を用いる必要がある。これらの有機溶剤は成膜装置の液滴吐出ヘッドを劣化させるため、成膜装置のメンテナンス頻度が増加して、生産性が低下するという課題がある。
【0006】
そこで、この発明は、基板の表面に均一な膜厚の配向膜を形成することができ、かつ、メンテナンス頻度を低下させて配向膜の生産性を向上させることができる配向膜の成膜装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の配向膜の成膜装置は、溶媒に配向膜材料を溶解させた材料液を基板上に吐出して塗布し、配向膜を成膜する成膜装置であって、前記材料液を液滴として吐出する液滴吐出ヘッドと、前記配向膜材料を溶解可能な処理液を吐出する塗布部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このように構成することで、基板上に塗布部によって処理液を塗布すると共に、液滴吐出ヘッドによって材料液の液滴を吐出する際に、材料液の液滴を、塗布部によって塗布された処理液上に着弾させることができる。ここで、処理液は材料液の溶質である配向膜の材料を溶解可能であるため、処理液上に着弾した材料液の液滴は処理液と接触して粘度が低下する。これにより、基板上に着弾した材料液の液滴を容易に濡れ拡がらせることができる。
また、材料液の液滴を基板上に吐出する前に処理液を塗布することで、処理液の一部が蒸発して基板の表面が処理液の蒸気によって覆われた状態で液滴が着弾する。これにより、基板上での材料液の乾燥を防止して、材料液の液滴を容易に濡れ拡がらせることができる。
また、基板上で処理液と接触させて材料液の液滴の粘度を低下させることができるので、材料液の溶媒の比率を低下させて配向膜材料の濃度を上昇させることができる。これにより、液滴吐出ヘッドが材料液の溶媒によって劣化することを防止できる。
したがって、本発明の成膜装置によれば、材料液の液滴を基板上で容易に濡れ広がらせて均一な膜厚の配向膜を形成することができるだけでなく、液滴吐出ヘッドが劣化することを防止してメンテナンス頻度を低下させ、配向膜の生産性を向上させることができる。
【0009】
また、本発明の配向膜の成膜装置は、前記塗布部は、前記液滴吐出ヘッドの走査方向の前方に配置されていることを特徴とする。
【0010】
このように構成することで、基板上で液滴吐出ヘッドを走査方向に移動させると、基板上を液滴吐出ヘッドが通過する前に塗布部が通過する。そのため、基板上に塗布部によって処理液を塗布すると共に、液滴吐出ヘッドによって材料液の液滴を吐出すると、材料液の液滴は、塗布部によって塗布された処理液上に着弾する。ここで、処理液は材料液の溶質である配向膜の材料を溶解可能であるため、処理液上に着弾した材料液の液滴は処理液と接触して粘度が低下する。これにより、基板上に着弾した材料液の液滴を容易に濡れ拡がらせることができる。
【0011】
また、本発明の配向膜の成膜装置は、前記塗布部は、前記液滴吐出ヘッドの前記走査方向と直交する方向の端部と前記走査方向に重なる位置に配置されていることを特徴とする。
【0012】
このように構成することで、液滴吐出ヘッドの端部のノズルが対向し通過する基板上の領域に、塗布部によって処理液を塗布することができる。これにより、材料液の塗布時に液滴吐出ヘッドの端部の重なりによって液滴が重なって配置される領域が発生しても、その領域の材料液を容易に濡れ拡がらせてスジ状の膜厚ムラが発生することを防止し、均一な膜厚の配向膜を成膜することができる。
【0013】
また、本発明の配向膜の成膜装置は、前記塗布部は、前記溶媒よりも前記配向膜材料に対する溶解性が高い前記処理液に対して耐性を有することを特徴とする。
【0014】
このように構成することで、基板上で処理液に接触した材料液の液滴をより容易に濡れ拡がらせて、より均一な膜厚の配向膜を成膜できる。また、材料液の溶媒の比率をより低下させることができ、液滴吐出ヘッドの劣化をより効果的に防止できる。また、塗布部が処理液に対する耐性を有しているので、塗布部の処理液による劣化が防止され、成膜装置のメンテナンス頻度を低下させることができる。
【0015】
また、本発明の配向膜の成膜装置は、前記塗布部は、ディスペンサであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の配向膜の成膜装置は、前記塗布部は、スプレーであることを特徴とする。
【0017】
このように構成することで、塗布部が処理液により劣化することが防止できる。したがって、成膜装置のメンテナンス頻度を低下させ、配向膜の生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
(成膜装置)
図1は、液滴吐出法により基板P上に膜を成膜する成膜装置10の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、成膜装置10は、ベース31と、基板移動手段32と、ヘッド移動手段33と、液滴吐出ヘッド34Aと、ディスペンサ(塗布部)34Bと、液体供給部35と、制御装置40とを備えて構成されている。ベース31の上には、基板移動手段32と、ヘッド移動手段33とが設置されている。また、成膜装置10は、不図示のクリーニングユニットと、キャッピングユニットとを備えている。
【0020】
基板移動手段32はベース31上に設けられ、Y軸方向に沿って配置されたガイドレール36を有している。この基板移動手段32は、例えばリニアモータ(図示せず)により、スライダ37をガイドレール36に沿って移動させるよう構成されている。
スライダ37上にはステージ39が固定されており、このステージ39は、基板Pを位置決めして保持するためのものである。即ち、このステージ39は、公知の吸着保持手段(図示せず)を有し、この吸着保持手段を作動させることにより、基板Pをステージ39の上に吸着保持するように構成されている。基板Pは、例えばステージ39の位置決めピン(図示せず)により、ステージ39上の所定位置に正確に位置決めされ、保持されるようになっている。
【0021】
ヘッド移動手段33は、ベース31の後部側に立てられた一対の架台33a、33aと、これら架台33a、33a上に設けられた走行路33bを備え、この走行路33bをX軸方向、即ち前記の基板移動手段32のY軸方向と直交する方向に沿って配置したものである。走行路33bは、架台33a、33a間に渡された保持板33cと、この保持板33c上に設けられた一対のガイドレール33d、33dとを備え、ガイドレール33d、33dの長さ方向に液滴吐出ヘッド34Aを搭載するキャリッジ42を移動可能に保持している。キャリッジ42は、リニアモータ(図示せず)等の作動によってガイドレール33d、33d上を走行し、これにより液滴吐出ヘッド34AをX軸方向に移動させるように構成されている。
【0022】
液滴吐出ヘッド34Aのノズルの配設方向の一方の端部34eには、ディスペンサ34Bが固定されている。ディスペンサ34Bは、液滴吐出ヘッド34Aの端部34eとノズルの配設方向と直交する方向に重なるように液滴吐出ヘッド34Aに固定されている。
【0023】
キャリッジ42は、ガイドレール33d、33dの長さ方向、即ちX軸方向に、例えば、1μm単位で移動可能になっている。キャリッジ42のこのような移動はコンピュータ等からなる制御装置40によって制御可能に構成されている。
制御装置40は、液滴吐出ヘッド34A及びディスペンサ34Bの位置情報、即ち液滴吐出ヘッド34A及びディスペンサ34Bのガイドレール33d、33d上での位置(X座標)とそのときの各ノズルの位置(X座標)とを検知して記憶するものである。
【0024】
液滴吐出ヘッド34Aは、キャリッジ42に取付部43を介して回動可能に取り付けられたものである。取付部43にはモータ44が設けられており、液滴吐出ヘッド34Aはその支持軸(図示せず)がモータ44に連結している。このような構成のもとに、液滴吐出ヘッド34A及びディスペンサ34Bはその周方向に回動可能となっている。また、モータ44も制御装置40に接続されており、これによって液滴吐出ヘッド34A及びディスペンサ34Bはその周方向への回動が、制御装置40に制御されるようになっている。
【0025】
液体供給部35は、インク(材料液)L1が充填されたインク供給容器45Aと、処理液L2が充填された処理液供給容器45Bと、インク供給容器45Aから液滴吐出ヘッド34AにインクL1を送るためのインク供給チューブ46Aと、処理液供給容器45Bからディスペンサ34Bに処理液L2を送るための処理液供給チューブ46Bとを備えたものである。
【0026】
ここで、この実施の形態では、インクL1として、例えば、溶媒に液晶分子の配向を規制する配向膜の材料を溶解させたものを用いている。配向膜の材料としては、例えば、ポリイミドが用いられ、この配向膜の材料を溶解可能な溶媒として、例えば、ブチルセロソルブ等の有機溶剤を用いることができる。
また、処理液L2としては、配向膜の材料を溶解可能であり、かつインクL1の溶媒よりも配向膜の材料に対する溶解性の高い液体を用いる。この実施の形態では、処理液L2として、例えば、ブチルセロソルブよりもポリイミドに対する溶解性が高いN−メチル−2−ピロリドン(N-methylpyrrolidone:NMP)等を用いている。
【0027】
図2は液滴吐出ヘッド34Aの構成を説明する断面図、図3は液滴吐出ヘッド34Aの要部断面図である。
この実施の形態における液滴吐出ヘッド34Aは、導入針ユニット117、ヘッドケース118、流路ユニット119及びアクチュエータユニット120を主な構成要素としている。
導入針ユニット117の上面にはフィルタ121を介在させた状態で2本の液体導入針122が横並びで取り付けられている。これらの液体導入針122には、サブタンク102がそれぞれ装着される。また、導入針ユニット117の内部には、各液体導入針122に対応した液体導入路123が形成されている。
この液体導入路123の上端はフィルタ121を介して液体導入針122に連通し、下端はパッキン124を介してヘッドケース118内部に形成されたケース流路125と連通する。
【0028】
フィルタ121は、インクL1に含まれる異物を除去するために配設され、その材質は、例えば、ステンレス鋼であって、メッシュ状に形成されている。
【0029】
サブタンク102は、ポリプロピレン等の樹脂製材料によって成型されている。このサブタンク102には、液室127となる凹部が形成され、この凹部の開口面に弾性シート126を貼設して液室127が区画されている。
また、サブタンク102の下部には液体導入針122が挿入される針接続部128が下方に向けて突設されている。サブタンク102における液室127は、底の浅いすり鉢形状をしている。液室127の側面における上下中央よりも少し下の位置には、針接続部128との間を連通する接続流路129の上流側開口が臨んでおり、この上流側開口にはインクL1を濾過するタンク部フィルタ130がそれぞれ取り付けられている。
【0030】
針接続部128の内部空間には液体導入針122が液密に嵌入されるシール部材131が嵌め込まれている。このサブタンク102には、インク供給チューブ46Aが接続される。インク供給チューブ46Aは、液体供給部35のインク供給容器45Aに貯留されたインクL1を供給する。したがって、インク供給チューブ46Aを通ってきたインクL1は、この液室127に流入する。
【0031】
上記の弾性シート126は、液室127を収縮させる方向と膨張させる方向とに変形可能である。そして、この弾性シート126の変形によるダンパ機能によって、インクL1の圧力変動が吸収される。即ち、弾性シート126の作用によってサブタンク102が圧力ダンパとして機能する。従って、インクL1は、サブタンク102内で圧力変動が吸収された状態で液滴吐出ヘッド34A側に供給される。
【0032】
ヘッドケース118は、合成樹脂製の中空箱体状部材であり、下端面に接着剤を介して流路ユニット119を接合し、内部に形成された収容空部137内にアクチュエータユニット120を収容し、流路ユニット119側とは反対側の上端面にパッキン124を介在した状態で導入針ユニット117を取り付けるようになっている。
このヘッドケース118の内部には、高さ方向を貫通してケース流路125が設けられている。このケース流路125の上端は、パッキン124を介して導入針ユニット117の液体導入路123とそれぞれ連通するようになっている。
また、ケース流路125の下端は、流路ユニット119内の共通インク室144に連通するようになっている。従って、液体導入針122から導入されたインクL1は、液体導入路123及びケース流路125を通じて共通インク室144側にそれぞれ供給される。
【0033】
ヘッドケース118の収容空部137内に収容されるアクチュエータユニット120は、図3に示すように、櫛歯状に列設された複数の圧電振動子138と、この圧電振動子138が接合される固定板139と、制御装置40からの駆動信号を圧電振動子138供給する配線部材としてのフレキシブルケーブル140とから構成される。各圧電振動子138は、固定端部側が固定板139上に接合され、自由端部側が固定板139の先端面よりも外側に突出している。即ち、各圧電振動子138は、所謂片持ち梁の状態で固定板139上にそれぞれ取り付けられている。
【0034】
また、各圧電振動子138を支持する固定板139は、例えば、厚さ1mm程度のステンレス鋼によって構成されている。そして、アクチュエータユニット120は、固定板139の背面を、収容空部137を区画するケース内壁面に接着することで収容空部137内にそれぞれ収納・固定されている。
【0035】
流路ユニット119は、振動板141、流路基板142及びノズル基板143からなる流路ユニット構成部材を積層した状態で接着剤を介して接合して一体化することにより作製されている。これらは、共通インク室144からインク供給口145及び圧力室146を通りノズル147に至るまでの一連のインク流路を形成する部材である。
【0036】
圧力室146は、ノズル147の列設方向に対して直交する方向に細長い室として形成されている。
また、共通インク室144は、ケース流路125と連通し、液体導入針122側からのインクL1が導入される室である。そして、この共通インク室144に導入されたインクL1は、インク供給口145を通じて圧力室146に分配供給される。
【0037】
流路ユニット119の底部に配置されるノズル基板143は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル147を列状に開設した金属製の薄い板材である。この実施の形態のノズル基板143は、ステンレス鋼の板材によって作製され、この実施の形態においてはノズル147の列が、それぞれサブタンク102に対応して形成されている。
ノズル基板143と振動板141との間に配置される流路基板142は、インク流路及び処理液流路となる流路部、具体的には、共通インク室144、インク供給口145及び圧力室146となる空部が区画形成された板状の部材である。
【0038】
この実施の形態において、流路基板142は、結晶性を有する基材であるSiウェハーを異方性エッチング処理することによって作製されている。振動板141は、ステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工した二重構造の複合板材である。この振動板141の圧力室146に対応する部分には、エッチングなどによって支持板を環状に除去することで、圧電振動子138の先端面が接合される島部148が形成されており、この部分はダイヤフラム部として機能する。即ち、この振動板141は、圧電振動子138の作動に応じて島部148の周囲の弾性フィルムが弾性変形するように構成されている。また、振動板141は、流路基板142の一方の開口面を封止し、コンプライアンス部149としても機能する。このコンプライアンス部149に相当する部分についてはダイヤフラム部と同様にエッチングなどにより支持板を除去して弾性フィルムだけにしている。
【0039】
そして、上記の液滴吐出ヘッド34Aにおいて、フレキシブルケーブル140を通じて駆動信号が圧電振動子138に供給されると、この圧電振動子138が素子長手方向に伸縮し、これに伴い島部148が圧力室146に近接する方向或いは離隔する方向に移動する。これにより、圧力室146の容積が変化し、圧力室146内のインクL1に圧力変動が生じる。この圧力変動によってノズル147から液滴状となったインクL1が吐出される。
【0040】
図4はディスペンサ34Bの構成を説明する断面図である。
ディスペンサ34Bは、図4に示すように、処理液L2を収容するシリンジ150と吐出口であるノズル151とを備えている。シリンジ150は、シリンジ固定部160に嵌合されて液密に固定されている。また、シリンジ固定部160には処理液供給口161が開設され、処理液供給口161には、処理液供給チューブ46Bがシリンジ150内に処理液L2を供給可能に液密に接続されている。
【0041】
この実施の形態の成膜装置10では、このシリンジ固定部160が、例えば、液滴吐出ヘッド34Aの導入針ユニット117に固定されて、図1に示すように、液滴吐出ヘッド34Aとディスペンサ34Bとが一体的に移動するように構成されている。
また、処理液供給チューブ46Bの途中には、シリンジ150内の処理液L2の吐出圧力を調整する吐出圧力調整手段として、例えば、公知のサックバック装置(図示省略)が接続されている。サックバック装置は、例えば、サックバック吸引切換用電磁弁及びシリンジ150内の圧力を調整可能なサックバック装置本体等を備えて構成されている。
【0042】
次に、上述の成膜装置10を用いて基板P上に配向膜を成膜する工程について説明する。この実施の形態では、基板Pとして透明基板上に絶縁膜、TFT、電極及び配線等が形成された液晶装置の素子基板を用意し、成膜装置10を用いて基板P上に上述のインクL1を吐出して配向膜を成膜する。
【0043】
まず、図1に示すように、ステージ39上に基板Pを位置決めピンにより位置決めして配置し、吸着保持手段により基板Pをステージ39の上に吸着保持する。これにより、基板Pは、ステージ39上に正確に位置決めされた状態で保持される。
次に、基板移動手段32及びヘッド移動手段33により液滴吐出ヘッド34A及びディスペンサ34Bを移動させると共に、取付部43のモータ44を作動させて、図5(a)に示すように、液滴吐出ヘッド34A及びディスペンサ34Bを基板Pに対する初期位置P0に配置する。
【0044】
次に、基板移動手段32によりステージ39をY軸正方向に移動させることで、液滴吐出ヘッド34Aを基板Pに対してY軸負方向に移動させる。そして、ディスペンサ34Bのノズル151から基板P上に処理液L2を塗布すると共に、液滴吐出ヘッド34Aのノズル147から基板P上に上述のインクL1を吐出して塗布する。
このとき、液滴吐出ヘッド34AのY軸負方向、すなわち液滴吐出ヘッド34Aの走査方向の前方に塗布部であるディスペンサ34Bが配置されている。また、液滴吐出ヘッド34Aのノズル147の列設方向、すなわち、液滴吐出ヘッド34Aの走査方向と直交する方向(X軸方向)の液滴吐出ヘッド34Aの端部34eと、液滴吐出ヘッド34Aの走査方向(Y軸負方向)に重なる位置にディスペンサ34Bが配置されている。
【0045】
このため、基板P上で液滴吐出ヘッド34Aを上記の走査方向に移動させると、基板P上を液滴吐出ヘッド34Aの端部34eが通過する前に、ディスペンサ34Bが通過する。そのため、走査方向の前方にディスペンサ34Bが固定された液滴吐出ヘッド34Aの端部34eが通過する領域においては、基板P上にディスペンサ34Bによって処理液L2を塗布し、液滴吐出ヘッド34AによってインクL1の液滴D1を吐出すると、インクL1の液滴D1は、図6(a)に示すように、基板P上にディスペンサ34Bによって塗布された処理液L2上に着弾する。
【0046】
ここで、処理液L2はインクL1の溶質であるポリイミドを溶解可能であるため、処理液L2上に着弾したインクL1の液滴D1は処理液L2と接触して粘度が低下する。これにより、基板P上に着弾したインクL1の液滴D1を容易に濡れ拡がらせることができる。
また、インクL1の液滴D1を基板P上に吐出する前に処理液L2を塗布することで、処理液L2の一部が蒸発して基板Pの表面が処理液L2の蒸気によって覆われた状態で液滴D1が基板P上に着弾する。これにより、基板P上でのインクL1の乾燥を防止して、インクL1の液滴D1を容易に濡れ拡がらせることができる。
【0047】
次いで、基板Pの初期位置P0側の縁から初期位置P0とは反対側の縁まで処理液L2及びインクL1を塗布したら、ヘッド移動手段33及び基板移動手段32により液滴吐出ヘッド34AをX軸正方向に移動させて改行し、図5(b)に示すように、初期位置P0からX軸正方向に移動させた位置P1に配置する。ここで、位置P1は、最初にインクL1を塗布した領域の縁に、これからインクL1を塗布する領域縁が重なる位置とする。
【0048】
次いで、基板移動手段32によりステージ39をY軸正方向に移動させる。そして、液滴吐出ヘッド34A及びディスペンサ34Bを基板Pに対してY軸負方向に移動させて、ディスペンサ34Bのノズル151から基板P上に処理液L2を塗布すると共に液滴吐出ヘッド34Aのノズル147から基板P上にインクL1を吐出して塗布する。
このように、液滴吐出ヘッド34A及びディスペンサ34Bを基板Pに対してY軸負方向に走査させ、その後、X軸正方向に移動させることを繰り返して、基板P上の配向膜の形成領域の全域にインクL1を塗布する。
【0049】
このとき、図5(b)及び図6(b)に示すように、基板P上に液滴D1が重なって配置される領域Wが発生する。
しかし、ディスペンサ34Bが液滴吐出ヘッド34Aの端部34eと走査方向に重なる位置に配置されているので、液滴吐出ヘッド34Aの端部34eが上方を通過する領域に処理液L2を塗布し、上記の領域Wを処理液L2の塗布領域内とすることができる。
【0050】
これにより、基板P上に液滴D1が重なって配置される領域Wが発生しても、その領域WのインクL1を処理液L2と接触させることで容易に濡れ拡がらせて、基板P上に塗布されたインクL1にスジ状の膜厚ムラが発生することを防止し、インクL1の膜厚を均一にすることができる。
【0051】
そして、上述のように基板P上の配向膜の形成領域の全域にインクL1を均一な膜厚で塗布した後、基板P上のインクL1を加熱乾燥させることで、基板P上に配向膜が成膜される。
【0052】
以上説明したように、この実施の形態の成膜装置10によれば、インクL1の液滴D1を基板P上で容易に濡れ広がらせて、基板P上にインクL1を連続的かつ均一な膜厚で塗布することができるので、連続的かつ均一な膜厚の配向膜を形成することができる。
【0053】
また、基板P上で液滴D1と処理液L2とを接触させて、インクL1の粘度を低下させることができるので、インクL1の溶媒であるブチルセロソルブの比率を低下させてポリイミドの濃度を上昇させることができる。そのため、例えば、液滴吐出ヘッド34Aのヘッドケース118と流路ユニット119との接合部にブチルセロソルブが浸透し、接着材の膨潤等により液滴吐出ヘッド34Aが劣化することを防止できる。これにより、液滴吐出ヘッド34Aの寿命を延長させ、メンテナンス頻度を低下させ、配向膜の生産性を向上させることができる。
【0054】
また、インクL1のポリイミドの濃度を上昇させて、インクL1の粘度を上昇させることができ、インクL1の乾燥時における周縁部へのインクL1の移動を防止して、配向膜の周縁部の膜厚の増加(しみ上がり)を防止することができる。
【0055】
また、処理液L2としてインクL1の溶媒であるブチルセロソルブよりもポリイミドに対する溶解性の高いNMPを用いることで、処理液L2上に滴下されたインクL1の液滴D1をより容易に濡れ拡がらせ、基板P上に塗布されたインクL1の膜厚をより均一にして、より均一な膜厚の配向膜を形成することができる。
また、処理液L2により、インクL1の粘度をより低下させることができるので、インクL1の溶媒の比率をより低下させて、より効果的に液滴吐出ヘッド34Aの劣化を防止できる。
【0056】
また、この実施の形態では、処理液L2を塗布する塗布部として、ディスペンサ34Bを用いている。ディスペンサ34Bは、処理液L2が接触する部分における接着材による接合箇所が無いか、有っても極僅かであるため、液滴吐出ヘッド34Aと比較してブチルセロソルブやNMP等の有機溶剤による劣化を受け難く、処理液L2に対する耐性を有している。
したがって、処理液L2を液滴吐出ヘッド34Aで塗布する場合と比較して、成膜装置10のメンテナンス頻度を低下させ、配向膜の生産性を向上させることができる。
【0057】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上述の実施形態では単一の液滴吐出ヘッドを備えた成膜装置について説明したが、液滴吐出ヘッド及び塗布部を複数備えた成膜装置を用いてもよい。
また、処理液は配向膜の材料を溶解可能であれば、特に限定されない。また、処理液として、配向膜の材料を溶解させたインクの溶媒を用いてもよい。
また、上述の実施形態では、液滴吐出ヘッドにディスペンサを固定して一体的に移動させる構成について説明したが、液滴吐出ヘッドとディスペンサを個別に移動させる構成としてもよい。
また、塗布部としてディスペンサを用いる場合について説明したが、ディスペンサの代わりにスプレーを用いてもよい。この場合にも、液滴吐出装置と比較して、ディスペンサと同様、構造上、有機溶剤による劣化を受けにくいので、塗布部のメンテナンス頻度を低下させることができる。また、ディスペンサを用いる場合と比較して、より広範囲に処理液を塗布することが可能となる。
また、上述の実施形態では、液滴が重なって配置される領域に対応させて基板上の配向膜の形成領域に部分的に処理液を塗布する構成について説明したが、処理液を配向膜の形成領域の全域に塗布するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの構成を説明する断面図である。
【図3】同液滴吐出ヘッドの要部断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るディスペンサの構成を説明する断面図である。
【図5】(a)及び(b)は、本発明の第一実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する平面図である。
【図6】(a)及び(b)は、本発明の第一実施形態に係る配向膜の成膜工程を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0059】
10 成膜装置、34A 液滴吐出ヘッド、34B ディスペンサ(塗布部)、34e 端部、D1 液滴、L1 インク(材料液)、L2 処理液、P 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に配向膜材料を溶解させた材料液を基板上に吐出して塗布し、配向膜を成膜する成膜装置であって、
前記材料液を液滴として吐出する液滴吐出ヘッドと、
前記配向膜材料を溶解可能な処理液を吐出する塗布部と、
を備えることを特徴とする配向膜の成膜装置。
【請求項2】
前記塗布部は、前記液滴吐出ヘッドの走査方向の前方に配置されていることを特徴とする請求項1記載の配向膜の成膜装置。
【請求項3】
前記塗布部は、前記液滴吐出ヘッドの前記走査方向と直交する方向の端部と前記走査方向に重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配向膜の成膜装置。
【請求項4】
前記塗布部は、前記溶媒よりも前記配向膜材料に対する溶解性が高い前記処理液に対して耐性を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の配向膜の成膜装置。
【請求項5】
前記塗布部は、ディスペンサであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の配向膜の成膜装置。
【請求項6】
前記塗布部は、スプレーであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の配向膜の成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−145525(P2009−145525A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321660(P2007−321660)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】