説明

配線ユニット及びその配線ユニットを備える制御装置

【課題】 制御ユニットのターミナルに生じる応力を抑制可能であり、しかも、レーザ溶接における焼損を抑制可能な配線ユニットを提供する。
【解決手段】 レーザ透過性に優れているものの熱膨張係数が大きいPAで壁部22を成形し、熱膨張係数が小さいもののレーザ透過性に関しては劣っているPPSで基部21を成形する。基部21をPPSで成形したため、基部21の延伸分δuを小さくすることができ、溶接部位Eや折り曲げ部分に発生する応力を抑えることができる。壁部22をPAで成形したため、レーザ透過性に優れており、溶接部位Eの周壁の焼損を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線ユニットに関し、詳しくは制御ユニットが載置されるようにして電気的に接続される配線ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動変速機は、クラッチやブレーキ等の複数の摩擦要素を選択的に係合または開放して変速を行う。このような摩擦要素は、リニアソレノイド弁の出力ポートから供給される作動油によって動作する。そして、このリニアソレノイド弁への指令を送出するのが、制御装置である。
【0003】
このような制御装置の電気的な接続構成は様々である。例えば、制御ユニットが接続されるバスバーを位置決めする技術として、バスバーの稼動領域においてバスバーの間に入り込む突起部分をベースに設け、バスバーの絶縁を確保すると共にベースに対してバスバーを位置決めする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0051596号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自動変速機用の制御装置は温度変化の激しい過酷な環境下で使用されるため、特に、熱膨張による延伸が問題となる。例えば特許文献1に記載された発明では、突起部分を含むベースが熱膨張して延伸する可能性も否めない。この場合、バスバーに予期しない応力が生じ、バスバーを破損する虞がある。
【0006】
ところで、制御ユニットの溶接に関して言えば、レーザ溶接を行うことが望ましい。制御ユニットからは多数のターミナルが突出しているため、抵抗溶接では、各ターミナルを個別に溶接すると時間がかかるためである。また、複数のターミナルを同時に溶接しようとした場合、ターミナルの短絡が生じると、制御ユニットを損傷する虞があるためである。
【0007】
そのため、上述のようにレーザ溶接を行うことが望ましいが、例えば、特許文献1では、位置決め等のために設けられた突起部分は、その間隔が狭くなっているため、このような部分で溶接を行おうとすれば、レーザ光の散乱光によって、突起部分を焼損する虞がある。
【0008】
なお、ここでは自動変速機用の制御装置を例に挙げたが、このような問題は、温度変化の激しい環境下で使用され、レーザ溶接によってターミナルが溶接されるような制御装置であれば、同様に生じる問題である。
【0009】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、その目的は、制御ユニットのターミナルに生じる応力を抑制可能であり、しかも、レーザ溶接における焼損を抑制可能な配線ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するためになされた請求項1に記載の配線ユニットは、制御ユニットが実装される実装面を有し、当該実装面に載置された状態で、制御ユニットから突出するターミナルがレーザ溶接されるものである。
【0011】
配線ユニットは、外郭を構成する基部、ターミナルが溶接される導電部、及び、実装面に立設される壁部を備えている。ここで、導電部は実装面に露出するように設けられており、この導電部に、制御ユニットから側方へ延びるターミナルが溶接される。また、壁部は、ターミナル同士を隔絶する。
【0012】
このような構成の下、本発明では特に、壁部を、レーザ透過率が基部に比べて大きな材料を用いて成形した。また、基部を、壁部と比べて熱膨張係数が小さな材料を用い、壁部の一部が埋設されるよう当該壁部と一体に成形した。
【0013】
壁部は、例えば請求項2に示すように、ポリアミド(以下「PA」と記す)を用いて成形されるという具合である。ポリアミド等のレーザ透過率が大きな材料を用いれば、制御ユニットから延びるターミナルを隔絶する壁部の間隔が小さくなった場合でも、レーザ溶接時の焼損を抑制することができる。
【0014】
なお、PAは、レーザ透過率が比較的大きな材料であるが、熱膨張係数も大きな材料である。そこで、基部は、例えば請求項3に示すように、ポリフェニレンサルファイド(以下「PPS」と記す)を用いて成形することが考えられる。
【0015】
PPS等の熱膨張係数が小さな材料を用いれば、熱膨張による基部の延伸が抑制される。基部全体の大局的な延伸が抑制されると、基部各部の局所的な延伸はさらに小さく抑えられるため、制御ユニットのターミナルに生じる応力を十分に抑制することができる。また、ターミナルを隔絶する壁部が埋設されているため、この壁部の延伸も抑制することができ、この点でも、制御ユニットのターミナルに生じる応力を十分に抑制することができる。
【0016】
なお、PPSは、熱膨張係数が小さな材料であるが、レーザ透過率も小さな材料である。そのため、壁部には、上述のように、PA等を用いる。
【0017】
つまり、本発明では、PA、PPS等の2種類の材料を用い、各材料のメリットを生かしつつ、デメリットを補うのである。上述したように壁部にレーザ透過率が比較的高いものを選択し、基部に熱膨張係数が比較的小さなものを選択することで、制御ユニットのターミナルに生じる応力を抑制することができ、しかも、レーザ溶接における焼損を抑制することができる。
【0018】
ところで、請求項4に示すように、配線ユニットは、自動変速機用の制御ユニットが電気的に接続される自動変速機用のユニットとしてもよい。自動変速機用の配線ユニットは、温度変化の大きな過酷な環境下で使用されるため、上述した効果が際立つ。
【0019】
なお、ここまでは配線ユニットの発明として説明してきたが、請求項5に示すように、上記配線ユニットと、配線ユニットの実装面にターミナルがレーザ溶接される制御ユニットとを備える制御装置として実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の制御装置を示す斜視図である。
【図2】実施形態の制御装置を示す断面図である。
【図3】制御ユニットのターミナルが壁部に収容された様子を部分的に示す平面図である。
【図4】(a)は図3のA−A線断面図であり、(b)は図3のB−B線断面図である。
【図5】制御ユニットのターミナルを隔絶する壁部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態の制御装置を、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、制御装置1は、制御ユニット10、及び、配線ユニット20を備えている。この制御装置1は、自動変速機に用いられ、複数の摩擦要素を選択的に係合または開放して変速を行うためのリニアソレノイド弁への指令を送出するものである。
【0022】
図1(a)に示すように、制御ユニット10は、いわゆるTCU(Transmission Control Unit )であり、薄板長方形形状の本体部11、本体部11から側方へ延びるターミナル12、及び、配線ユニット20に対し位置決めなどを行うためのプレート13を備えている。なお、ターミナル12は、煩雑になることを避けるため、一部にのみ符号を付した。
【0023】
本体部11は、その内部にCPU、ROM、RAM、I/O、及びこれらを接続するバスラインなどを備えており、コンピュータとして機能する。
ターミナル12は、本体部11の側部から四方へ突出している。具体的には、水平方向へ突出した後、斜め下へ折り曲げられており、さらに先端側が、水平に折り曲げられている(図1(a)参照)。
【0024】
プレート13は、種々の形に形成されており、ターミナル12の突出していない部分に取り付けられている。プレート13には、位置決めなどのための穴13aや切り欠き13bが必要に応じて形成されている(図1(a)参照)。
【0025】
配線ユニット20には、図1(a)中に矢印Cで示すように、上述した制御ユニット10が載置されるように実装される。配線ユニット20は、上面を実装面とする基部21と、基部21の実装面に立設された壁部22と、制御ユニット10のプレート13に対応する取付部23等を備えている。
【0026】
制御ユニット10が配線ユニット20に実装された状態では、制御ユニット10のターミナル12は、壁部22に隔絶されるように、壁部22が作る隙間に収容される(図1(b)参照)。
【0027】
図2は、図1(b)中の矢印Dに垂直な断面で制御装置1を視た断面図である。図2に示すように、壁部22の間には、ターミナル12が収容されるだけでなく、導電部24が実装面に露出している。本実施形態では、ターミナル12の先端が、この導電部24にレーザ溶接されている(溶接部位を記号Eで示した)。
【0028】
ここで基部21と壁部22とは異なる樹脂で成形されている。具体的には、基部21にはPPSが用いられ、壁部22にはPAが用いられている。
【0029】
次に、壁部22の構造を詳細に説明する。
図3は、制御ユニット10のターミナル12が壁部22に収容された様子を部分的に示す平面図である。また、図4(a)は、図3のA−A線断面図である。さらにまた、図4(b)は、図3のB−B線断面図である。
【0030】
繰り返しになるが、本実施形態では、制御ユニット10のターミナル12の先端が導電部24に対してレーザ溶接される(図3,図4(a)参照)。図4(a)に示すごとく、上方からレーザ光が照射されるという具合である(記号Lで示した)。
【0031】
図3に示すように、壁部22は、ターミナル12の両側及びターミナル12の先端側に立設されている。また、壁部22は、図4(a)に示すように、ターミナル12の傾斜部分に対応する背高部22aと、ターミナル12の先端部分に対応する背低部22bとを有している。これにより、隣合うターミナル12が例えば異物などによって短絡することを防止している。詳しくは図5に示すように、背高部22aによって、ターミナル12の記号B1,B2で示す傾斜部位での短絡が防止される。また、背低部22bによって、ターミナル12の記号B3,B4で示す先端側部位での短絡が防止される。
【0032】
次に、本実施形態の制御装置1が発揮する効果を説明する。
本実施形態では、配線ユニット20の壁部22をPAで成形し、この壁部22の一部が埋設されるように、基部21をPPSで壁部22と一体に成形した。つまり、壁部22を構成するPAはレーザ透過性に優れており、熱膨張係数が大きい。一方、基部21を構成するPPSは熱膨張係数が小さく、レーザ透過性に関しては劣っている。
【0033】
ここで熱膨張係数の小さなPPSを基部21に用いたことによる効果を、図2を用いて説明する。なお、制御ユニット10の中心をOとして、この中心Oを基準に水平方向への熱膨張による延伸を示す。このとき、本体部11の中心Oから端部Tまでの距離OTが本体部11の延伸によってδtだけ延びるものとし、本体部11の端部Tからターミナル12の溶接部位Eまでの距離TEがターミナル12の延伸によってδlだけ延びるものとする。また、中心Oからターミナル12の溶接部位Eまでの距離OEが基部21の延伸によってδuだけ延びるものとする。
【0034】
このとき、熱膨張係数の大きな材料で基部21を構成すると、(δt+δl)に比べδuが極端に大きくなるため、ターミナル12に応力が生じる。例えば、溶接部位Eに応力が生じ、溶接部位Eが損傷してしまう虞がある。あるいは、折り曲げ部分に応力が生じ、折り曲げ部分が損傷してしまう虞がある。
【0035】
この点、本実施形態では、基部21をPPSで成形したため、基部21の延伸分δuを小さくすることができ、結果として、(δt+δl)との差分が小さくなれば、溶接部位Eや折り曲げ部分に発生する応力を抑えることができる。
【0036】
また、壁部22はPAで成形されているが、基部21に埋設されている。したがって、基部21によって壁部22の膨張を抑えることができ、壁部22の延伸によってターミナル12に生じる応力を抑制することができる。
【0037】
特に、本実施形態のように自動変速機に用いられる制御装置1であれば、温度変化の激しい過酷な環境下で使用されることから、このような効果が際立つ。
【0038】
一方、図3及び図4(a)等に示したように、制御ユニット10のターミナル12は、その先端が壁部22の間に露出する導電部24にレーザ溶接されることで、電気的に接続される。
【0039】
このとき、レーザ透過率の小さな材料で壁部を構成すると、レーザ光の散乱光によって壁部を焼損する虞がある。
この点、本実施形態では、壁部22をPAで成形したため、レーザ透過性に優れており、結果として、壁部22がレーザ光の散乱光で焼損するのを抑えることができる。
【0040】
以上、本発明は、上述の形態に何等限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる形態で実施可能である。
(イ)上記実施形態では、制御ユニット10のターミナル12の先端を溶接しているが、溶接部位は先端に限られるものではない。例えば、ターミナル12の途中位置で溶接することも考えられる。
【0041】
(ロ)上記実施形態は、本発明を自動変速機の制御装置に適用したものであったが、温度変化が激しく熱膨張が無視できない環境下で使用される制御装置であれば、本発明を適用することで十分な効果が奏される。
【符号の説明】
【0042】
1・・・制御装置
10・・・制御ユニット
11・・・本体部
12・・・ターミナル
13・・・プレート
13a・・・穴
13b・・・切り欠き
20・・・配線ユニット
21・・・基部
22・・・壁部
22a・・・背高部
22b・・・背低部
23・・・取付部
24・・・導電部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御ユニットが実装される実装面を有し、当該実装面に載置された状態で、制御ユニットから突出するターミナルがレーザ溶接される配線ユニットであって、
外郭を構成する基部と、
前記実装面に露出するように設けられ、前記制御ユニットから側方へ延びるターミナルが溶接される導電部と、
前記ターミナル同士を隔絶するよう前記実装面に立設される壁部と、を備え、
前記壁部は、レーザ透過率が前記基部に比べて大きな材料を用いて成形し、
前記基部は、前記壁部と比べて熱膨張係数が小さな材料を用い、前記壁部の一部が埋設されるよう当該壁部と一体に成形したこと
を特徴とする配線ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の配線ユニットにおいて、
前記壁部は、ポリアミドを用いて成形されること
を特徴とする配線ユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の配線ユニットにおいて、
前記基部は、ポリフェニレンサルファイドを用いて成形されること
を特徴とする配線ユニット。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の配線ユニットにおいて、
前記配線ユニットは、自動変速機用の制御ユニットが電気的に接続される自動変速機用のユニットであること
を特徴とする配線ユニット。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の配線ユニットと、
前記配線ユニットの前記実装面にターミナルがレーザ溶接される前記制御ユニットと、
を備えていることを特徴とする制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−256978(P2011−256978A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133932(P2010−133932)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】