説明

配線回路部材、および配線回路部材の製造方法

【課題】配線回路部材においてスルーホール内に導電性粒子含有液によってスルーホール導体部を形成する場合に、導電性粒子含有液の消費量を低減できるとともに製造効率を向上することができるようにする。
【解決手段】配線回路部材1を、基材12と、基材12の上面12a、下面12bに形成された導電性パターンである回路部4a、ランド部4b、4dと、基材12の内部に貫通するスルーホール13と、導電性粒子含有液をスルーホール13に塗布して固化させた導体からなり、導電性パターンと電気的に接続されたスルーホール導電層3と、を備え、スルーホール13は、スルーホール壁面13aに壁面溝部13bが形成されている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線回路部材、および配線回路部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、金属ナノ粒子などの導電性粒子を溶媒に分散させた金属含有インクや金属含有ペースト等の導電性粒子含有液を用いて、基材上に回路や電極等の導電性パターンを形成した配線回路部材およびその製造方法が知られている。導電性粒子含有液の塗布手段としては、例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷、転写などの手段を採用できる。また、導電性粒子含有液の固化手段としては、この導電性パターンが描画された基材を加熱炉などで加熱して、導電性粒子含有液を焼成する手段を採用できる。
このような配線回路部材の製造方法として、例えば、特許文献1には、基板(基材)の所定の位置にスルーホールを形成する工程と、前記スルーホールに液滴吐出法により液滴(導電性粒子含有液)を塗布する工程と、前記液滴が塗布された前記基板を加熱処理し、前記スルーホール内に導電層を形成する工程と、を少なくとも有する配線基板(配線回路部材)の形成方法が記載されている。また、この形成方法によって形成された、基板に貫通するスルーホールに導電層が形成された配線基板が記載されている。
また、特許文献1に記載された液滴を塗布する工程では、液滴吐出法によりスルーホールに全体に液滴を充填することによって、スルーホール内に導電層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−425958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の配線回路部材および配線回路部材の製造方法には、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、スルーホール全体に液滴を充填している。これは液滴がスルーホールの底部から順に溜まるため、スルーホール内で連続する導電層を形成するには、スルーホール内の基板表面付近まで液滴を充填する必要があるためである。
したがって、液滴の量としては、スルーホール内全体を満たす量が必要となり、液滴量に応じて塗布に要する時間も長くなるという問題がある。
また、液滴の量が多くなると、液滴の乾燥時に溶媒の蒸発に伴う体積収縮が大きくなるため、乾燥後にヒビが発生して断線が起こりやすくなるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、スルーホール内に導電性粒子含有液によってスルーホール導体部を形成する場合に、導電性粒子含有液の消費量を低減できるとともに製造効率を向上することができる配線回路部材、および配線回路部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、配線回路部材において、基材と、該基材の表面に形成された導電性パターンである表面導体部と、前記基材の内部に貫通するスルーホールと、導電性粒子含有液を前記スルーホールに塗布して固化させた導体からなり、前記表面導体部と電気的に接続されたスルーホール導体部と、を備え、前記スルーホールは、内周面に溝部が形成されている構成とする。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の配線回路部材において、前記スルーホール導体部は、前記スルーホールの内周面を覆う層状に形成された構成とする。
【0008】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の配線回路部材において、前記溝部は、前記スルーホールの開口で前記基材の表面と直交する方向に形成された構成とする。
【0009】
請求項4に記載の発明では、請求項1または2に記載の配線回路部材において、前記溝部は、前記スルーホールの中心軸線に沿う方向に設けられた構成とする。
【0010】
請求項5に記載の発明では、請求項1または2に記載の配線回路部材において、前記溝部は、前記スルーホールの中心軸線に対して周回する螺旋状に設けられた構成とする。
【0011】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜5のいずれか1項に記載の配線回路部材において、前記スルーホールの開口の周囲の前記表面導体部に重なる前記基材の表面に、前記溝部と連通する表面溝部が設けられた構成とする。
【0012】
請求項7に記載の発明では、配線回路部材の製造方法において、基材の内部に貫通する孔と、当該孔の内周面に溝部が形成されたスルーホールを形成するスルーホール形成工程と、導電性粒子含有液を前記スルーホールに塗布する塗布工程と、前記スルーホールに塗布された前記導電性粒子含有液を固化させて、スルーホール導体部を形成するスルーホール導体部形成工程と、前記基材の表面に導電性パターンである表面導体部を形成する表面導体部形成工程とを備え、前記スルーホール導体部形成工程または前記表面導体部形成工程において、前記表面導体部と前記スルーホール導体部とを電気的に接続する方法とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の配線回路部材、および配線回路部材の製造方法によれば、スルーホールの内周面に溝部を形成するため、スルーホール内に導電性粒子含有液によってスルーホール導体部を形成する場合に、導電性粒子含有液の消費量を低減できるとともに製造効率を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態の配線回路部材の概略構成を示す模式的な斜視図である。
【図2】図1におけるA視図、B視図、およびA視図(B視図)におけるC−C断面図(D−D断面図)である。
【図3】本発明の第1の実施形態の配線回路部材のスルーホールの模式的な平面図、およびそのE−E断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の配線回路部材の製造方法の工程フローの一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施形態の配線回路部材の製造方法の塗布工程における塗布開始時の様子を示す模式的な断面図および平面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の配線回路部材の製造方法の塗布工程における塗布が進行する様子を示す模式図である。
【図7】図6に続いて塗布が進行する様子を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の配線回路部材の概略構成を示す模式的な斜視図、およびそのF−F断面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態の配線回路部材の概略構成を示す模式的な斜視図、およびそのG−G断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材等には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0016】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態の配線回路部材について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態の配線回路部材の概略構成を示す模式的な斜視図である。図2(a)、(b)は、図1におけるA視図、B視図である。図2(c)は、図2(a)(図2(b))におけるC−C断面図(D−D断面図)である。図3(a)は、本発明の第1の実施形態の配線回路部材のスルーホールの模式的な平面図である。図3(b)は、図3(a)におけるE−E断面図である。
なお、各図面は模式図のため、寸法や形状は誇張されている(以下の図面も同じ)。
【0017】
本実施形態の配線回路部材1は、図1、図2(a)、(b)に示すように、厚さHを有する板状の基材12の一方の表面である上面12aおよび他方の表面である下面12bに、それぞれ導電性パターン4A、4B(表面導体部)が形成され、導電性パターン4A、4Bがスルーホール13によって電気的に接続された部材である。
【0018】
導電性パターン4Aは、円環状のランド部4bと、これらランド部4b同士を上面12a上で電気的に接続する回路部4aとを備える。導電性パターン4Aの膜厚はt(図2(c)参照)とされている。膜厚tは、配線後の電気抵抗や強度の必要に応じて適宜設定する。例えば、t=10(μm)とすることができる。
回路部4aの形状は、本実施形態では一例として等幅の帯状に形成され、門型に折り曲げられた折れ線による回路パターンの例を図示しているが、回路部4aの回路パターンはこれには限定されず、配線回路部材1の用途に応じて適宜の回路パターンを形成することができる。例えば、線幅が変化する回路パターン、網状、波形状、櫛歯状、渦巻き状等の回路パターンや、例えば円状、矩形状、帯状等の電極やランドが形成された配線回路パターンなどの例を挙げることができる。
【0019】
導電性パターン4Bは、導電性パターン4Aの各ランド部4bと対向する下面12b上の位置に形成された円環状のランド部4dを備える。このため、各ランド部4dは、下面12b上で離間して配置されている。
導電性パターン4Bの膜厚はt(図2(c)参照)とされている。膜厚tは、配線後の電気抵抗や強度の必要に応じて適宜設定する。例えば、t=10(μm)とすることができる。
【0020】
また、導電性パターン4A、4Bは、それぞれのランド部4b、4dの中心部において、基材12を板厚方向に貫通するように設けられた2つのスルーホール導電層3(スルーホール導体部)によってそれぞれ電気的に接続されている。
本実施形態のスルーホール導電層3は、後述する基材12のスルーホール13の内周面に沿う層状に設けられており、このため、中心に貫通孔部4eが形成されている。
スルーホール導電層3の材質は、導電性粒子含有液を塗布して固化させた導体からなる。
スルーホール導電層3を形成する導電性粒子含有液は、導電性粒子を、加熱により分解される有機膜等の分散剤で覆うことにより溶媒に分散させた金属含有インクや金属含有ペーストを採用することができる。導電性粒子としては、例えば、銀微粒子、金微粒子、銅微粒子など金属微粒子(金属ナノ粒子)を採用することができる。
また、導電性粒子含有液は、基材12の材質に対して良好な濡れ性を有する。
【0021】
基材12の外形は適宜の形状を採用することができるが、本実施形態では一例として、矩形状としている。
基材12の内部には、上面12aおよび下面12bの間に貫通してスルーホール13が設けられている。
スルーホール13は、図3(a)、(b)に示すように、孔径dの円筒孔からなるスルーホール壁面13a(スルーホールの内周面)を備え、スルーホール壁面13aに、スルーホール壁面13aの中心軸線Oに平行に延ばされた溝部である壁面溝部13b(溝部)がN本(Nは2以上の整数)形成された形状を有する。
このため、壁面溝部13bは、中心軸線Oに沿う方向に延ばされており、かつ、基材12の上面12a、下面12bに直交する方向に形成されている。
【0022】
壁面溝部13bは、毛細管現象によってスルーホール13に塗布される導電性粒子含有液の壁面溝部13b内での移動を促進するとともに、壁面溝部13bに導電性粒子含有液を保持するために設けられている。
本実施形態では、壁面溝部13bの断面形状は、溝幅がW(図3(a)参照)、溝深さが深さd(図3(b)参照)の矩形状としている。
ただし、模式図のため図示は省略するが、壁面溝部13bの隅には、加工上発生する隅Rが残っていてもよい。
本実施形態の溝形状の場合、溝深さdは、スルーホール壁面13aの孔径dの10%以下であることが好ましく、溝幅Wはスルーホール壁面13aの孔径dの25%以下であることが好ましい。
また、このような壁面溝部13bの断面形状や寸法は一例であり、この他にも毛細管現象が発生しやすくなる適宜の溝形状、溝寸法を採用することができる。例えば、V字状溝やU字状溝でもよい。
【0023】
壁面溝部13bの断面形状、断面寸法は、壁面溝部13bに塗布された導電性粒子含有液が、毛細管現象のみによって壁面溝部13bの全長にわたって拡がることができるように設定することが好ましい。
ただし、毛細管現象による導電性粒子含有液の移動量は、導電性粒子含有液の表面張力、密度、基材12に対する接触角などによって変化する。したがって、壁面溝部13bの断面は、これらの導電性粒子含有液の特性によっては、上記の好ましい範囲以外の寸法でも好適である。
【0024】
また、壁面溝部13bは、スルーホール壁面13aの周方向に等ピッチで設けられている。本実施形態では、一例として、壁面溝部13bを10本(N=10)設けた場合の例を図示している。この場合、壁面溝部13bの配列の角度ピッチは、36°である。
壁面溝部13bの周方向の配列密度は、導電性粒子含有液の塗布時に、塗布単位の液滴によって、1以上の壁面溝部13bに接触することができる配列密度とすることが好ましい。
【0025】
さらに、本実施形態では、各壁面溝部13bの上面12a側の端部に、壁面溝部13bと同じ幅Wで長さdの平面視矩形状を有し、深さがhとされた表面溝部14aが隣接して形成されている。このため、表面溝部14aは、スルーホール13の開口の周囲において各壁面溝部13bから径方向外側に放射状に延びており、壁面溝部13bと連通している。
また、長さdは、表面溝部14aがランド部4bによって覆われる長さに設定されている。したがって、図2(a)に示すように、表面溝部14aは、表面導体部であるランド部4bに重なる位置関係に設けられている。
また同様に、各壁面溝部13bの下面12b側の端部に、壁面溝部13bと同じ幅Wで長さdの平面視矩形状を有し、深さがhとされた表面溝部14bが隣接して形成されている。このため、表面溝部14bは、スルーホール13の開口の周囲において各壁面溝部13bから径方向外側に放射状に延びており、壁面溝部13bと連通している。
また、長さdは、表面溝部14bがランド部4dによって覆われる長さに設定されている。したがって、図2(b)に示すように、表面溝部14bは、表面導体部であるランド部4dに重なる位置関係に設けられている。
【0026】
基材12の材質としては、後述する焼成時の熱負荷に耐えるとともに、少なくとも導電性パターン4A、4B、スルーホール導電層3と接触する表面が非導電性を有する材質で形成されていれば適宜の材質を採用することができる。
例えば、基材12全体を非導電性材料で形成する場合、合成樹脂材料、ガラス、セラミックス材料、およびこれらの複合材料などを好適に採用することができる。
また、導電性パターン4A、4B、スルーホール導電層3と接触する表面が非導電性を有する構成としては、金属材料等の導電性材料を基体とし、導電性パターン4A、4B、スルーホール導電層3と接触する表面が、非導電性材料による絶縁層で被覆された構成を採用することができる。
本実施形態では、基材12は、非導電性を有する合成樹脂製の平板を採用している。
【0027】
本実施形態の基材12は、合成樹脂製のため、スルーホール13の形状と、表面溝部14a、14bの形状とを転写する金型を用いて成形を行うことによって製造することができる。
ただし、厚さHの平板を、例えばレーザー加工、切削加工、エッチングなどによって除去加工することにより、スルーホール13、表面溝部14a、14bの形状を形成して製造してもよい。
【0028】
次に、本実施形態の配線回路部材の製造方法について説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態の配線回路部材の製造方法の工程フローの一例を示すフローチャートである。図5(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態の配線回路部材の製造方法の塗布工程における塗布開始時の様子を示す模式的な断面図および平面図である。図6(a)〜(e)は、本発明の第1の実施形態の配線回路部材の製造方法の塗布工程における塗布が進行する様子を示す模式図である。図7(a)〜(e)は、図6(e)に続いて塗布が進行する様子を示す模式図である。
【0029】
本実施形態の配線回路部材の製造方法は、基材12にスルーホールを形成するスルーホール形成工程と、スルーホール13に導電性粒子含有液を塗布する塗布工程と、スルーホール13に塗布された導電性粒子含有液を塗布された導電性粒子含有液を固化させてスルーホール導電層3を形成するスルーホール導体部形成工程と、基材12に導電性パターン4A、4Bを形成する表面導体部形成工程と、を備え、スルーホール導体部形成工程または表面導体部形成工程において、導電性パターン4A、4Bとスルーホール導電層3とを電気的に接続する方法である。
これらの工程のうち、スルーホール形成工程、塗布工程、スルーホール導体部形成工程は、この順序に行う必要がある。ただし、表面導体部形成工程は、導電性パターン4A、4Bと、スルーホール導電層3とを、スルーホール導体部形成工程または表面導体部形成工程において電気的接続ができれば、導電性パターンの加工方法に応じて、適宜のタイミングで行うことができる。
【0030】
以下では、導電性パターン4A、4Bをスルーホール導電層3に用いる導電性粒子含有液を塗布して固化させて形成する場合に好適な実施形態について説明する。
配線回路部材1を製造するには、図4に示すステップS1〜S5を順次行う。
ステップS1は、基材12にスルーホール13を形成する工程であり、スルーホール形成工程を構成する。
本ステップでは、例えば、基材12として、H=1(mm)のポリカーボネート製の平板を用意し、レーザー加工によってd=500(μm)の貫通孔をスルーホール13の位置にそれぞれあける。これにより、各スルーホール壁面13aが形成される。
次に、レーザー加工によって、各スルーホール壁面13aに10本の壁面溝部13bを周方向に等間隔で形成する。壁面溝部13bの溝断面の形状としては、幅W×深さdの角断面に形成し、例えば、W=75(μm)、d=30(μm)とする。このため、各スルーホール壁面13aの周方向の幅は約82μmである。
さらに、レーザー加工によって、上面12aに表面溝部14a、下面12bに表面溝部14bの形状を形成する。それぞれの形状は、幅W×長さd×深さhの角溝、および幅W×長さd×深さhの角溝とし、各壁面溝部13bに連通する放射状に形成する。具体的な寸法としては、例えば、d=d=150(μm)、h=30(μm)とすることができる。
以上でステップS1が終了する。
【0031】
次にステップS2では、導電性粒子含有液である導電性粒子含有インク16(図5(a)参照)を上面12aに塗布して、導電性パターン4Aの形状を形成する。
本実施形態では、導電性粒子含有インク16として、ポリカーボネート樹脂に対する濡れ性が良好な有機溶剤に銀微粒子を分散させた液状体を用いている。
導電性粒子含有インク16は、基材12を保持する保持台(図示略)と保持台に対して相対移動可能に設けられたインクノズル15(図5(a)参照)を備えるインクジェット装置やディスペンサなどからなる塗布装置(図示略)にセットする。
次に、塗布装置の保持台に上面12aが上方に向くように基材12を水平に保持させる。そして、インクノズル15から導電性粒子含有インク16を吐出させるとともに、基材12とインクノズル15とを相対移動させることにより、上面12a上に導電性パターン4Aの形状を描画して、導電性粒子含有インク16を塗布する。
導電性粒子含有インク16の塗布厚さは、後述する焼成により厚さtとなる塗布厚さとする。
以上で、ステップS2が終了する。
このように塗布された導電性粒子含有インク16のパターンは、銀微粒子同士が結合していないか、乾燥により一部が接触しているとしても、良好な導電性を有する程度には接触または結合していないため、導電性がないか、導電性に乏しい状態である。以下では、塗布後におけるこのような状態の液体状態または半乾燥状態のパターンを、良好な導電性を有する導電性パターン4Aと区別するため、導電性パターン4Aの液状パターンと称する。
【0032】
次にステップS3では、導電性粒子含有インク16をスルーホール13の内周面に塗布する。
本実施形態の塗布装置では、1回に吐出される導電性粒子含有インク16の液滴の径は約100μmであり、スルーホール壁面13aの孔径dの500μmの約5分の1の大きさである。このため、スルーホール13の中心に落下すると鉛直方向に沿うスルーホール13の内周面には塗布できない。
そこで、図5(a)に示すように、塗布装置のインクノズル15をステップS2の終了時の位置(図示二点鎖線参照)から、スルーホール13の壁面溝部13bに導電性粒子含有インク16の液滴を塗布可能な位置に移動する。
本実施形態では、図5(a)、(b)に示すように、鉛直下方に塗布される導電性粒子含有インク16の液滴が壁面溝部13bに接する位置に移動している。ただし、導電性粒子含有インク16の吐出方向が斜め方向になる場合には、スルーホール13の中心部に移動してもよい。また、導電性粒子含有インク16は、必ずしもスルーホール13の上端の開口部に塗布されなくてもよく、壁面溝部13bの付近に塗布されれば、スルーホール13の軸方向のいずれの位置に塗布されてもよい。
塗布される導電性粒子含有インク16の総量は、スルーホール13の内周面を満遍なく覆い、乾燥後にスルーホール導電層3の形状を形成できる量に設定される。本実施形態では、この総量が複数回の吐出によって得られるように、断続的に導電性粒子含有インク16を吐出する。
【0033】
例えば、図6(a)に示すように、壁面溝部13bとして、壁面溝部13b、13bがスルーホール壁面13aを挟んで隣接している場合に、壁面溝部13bに向けて導電性粒子含有インク16が塗布され、図6(b)に示すように、下面12bの近傍における壁面溝部13bに1滴の液滴16Aが付着したとする。
本実施形態では、液滴16Aの直径は、約100μmであるため、1滴の液滴16Aは、壁面溝部13b、スルーホール壁面13aのいずれの幅よりも大きな外形を有する。このため、塗布位置が周方向にずれても、1本または2本の壁面溝部13bと確実に接触することになる。
導電性粒子含有インク16は、基材12に対して濡れ性が良好であるため、液滴16Aは、壁面溝部13bに対する接触面積が増える方が安定する。このため、液滴16Aには、毛細管現象が発生して、壁面溝部13bに沿って液滴16B(図6(c)参照)のように変形し、さらに、図6(d)に示すように、壁面溝部13bの内部に吸引された液滴16Cとなって上面12aおよび下面12bに向かって拡がる。
【0034】
このとき、壁面溝部13bの溝断面が大きすぎると、毛細管現象による液滴16Cの上昇距離が小さくなり、液滴16Aの体積が壁面溝部13bの容積以上であっても、上面12aに到達する前に、上昇が停止してしまう。
本実施形態では、壁面溝部13bの溝形状を、毛細管現象による上昇距離が基材12の厚さH以上となるような形状に設定しているため、図16(e)に示すように、液滴16Cは、上面12aの高さまで上昇する。
また下面12b側では、毛細管現象は重力が作用する方向と同方向に発生するため、液滴16Cは、より迅速に下面12bまで下降する。すなわち、本実施形態では、基材12を水平に配置し、各壁面溝部13bが上面12aと直交する方向に形成されているため、重力の作用を有効に利用して塗布を迅速化することができる。
【0035】
なお、毛細管現象は、液滴16Cが下端に達するまでは、液滴16Cを下方に移動させる方向に作用するが、液滴16Cが下端に達すると、毛細管現象は液滴16Cを壁面溝部13bの内部に保持するように作用するため、重力に抗して液滴16Cを保持することができる。
【0036】
ここでスルーホール13がスルーホール壁面13aのみで形成されている場合を考えると、スルーホール13の全体に液体が充填されないと毛細管現象が発生しないため、端部に達した液滴は下方に落下しやすくなる。仮に落下しない場合でも、上方から順次液滴が溜まっていくため、やがて表面張力よりも重力が上回って落下するか、径方向につながった状態で毛細管現象により保持されるかのいずれかとなる。スルーホール13の下端が液滴で埋まった場合には、導電性粒子含有インク16は、上面12aまでスルーホール13の内部を埋めることになる。この場合、乾燥時における体積収縮が大きくなるため、ひび割れを起こし、配線の不良につながりやすくなる。
本実施形態では、壁面溝部13bを有するため、このような不具合を回避することができる。
【0037】
なお、上面12aに到達した液滴16Cは、ステップS2で導電性パターン4Aの形状に形成された導電性粒子含有インク16と接触する。
ステップS2において塗布された導電性粒子含有インク16が表面溝部14aに埋まっていない場合や、溶媒の乾燥によって表面溝部14aに隙間ができている場合には、同様の毛細管現象により、表面溝部14aの隙間に充填されて、やはりステップS2で塗布された形成された導電性粒子含有インク16と接触する。
また、下面12bに到達した液滴16Cは、毛細管現象により壁面溝部13bと連通する表面溝部14bに充填される。
【0038】
以上、1回に吐出された導電性粒子含有インク16によって、壁面溝部13bに導電性粒子含有インク16の液滴16Cが充填されるものとして説明したが、導電性粒子含有インク16は複数回に分けて吐出されるので、必ずしも1回で壁面溝部13bの全体を充填する必要はなく、何回か吐出されるうちに壁面溝部13bの全長にわたって充填されてもよい。
導電性粒子含有インク16が何回か吐出されるうちに、図7(a)に示すように、液滴16Cが壁面溝部13bから溢れて、スルーホール壁面13aを濡らす液滴16Dが形成される。
また、特に図示しないが、吐出方向がずれて、液滴16Aが隣接するスルーホール壁面13aに他の導電性粒子含有インク16の液滴が付着して、スルーホール壁面13aに沿って拡がる場合にも、隣接する液滴16Cと接触すると液滴同士が凝集しようとして、やはり液滴16Dが形成される。このため、導電性粒子含有インク16の着弾位置は、吐出ごとに同一であってもよし、ずれていてもよい。
【0039】
液滴16Dは、スルーホール壁面13aの表面にとどまるよりも、隣接する壁面溝部13bに進入して接触面積を増やす方が安定するため、図7(b)に示すように、液滴16Dは、壁面溝部13bに進入して液滴16Eとなる。
液滴16Eは、壁面溝部13bにおける液滴16Cと同様に、毛細管現象によって、壁面溝部13b内で上下に拡がる(図7(c)参照)。
壁面溝部13bが液滴16Eで満たされると、さらに導電性粒子含有インク16の吐出が続くことで、図7(d)に示すように、スルーホール壁面13a上の液滴16Dの領域が増大するとともに、さらに隣り合う壁面溝部13bの上下方向である軸方向に同様にして塗布されていく。
【0040】
このようにして、インクノズル15を周方向、軸方向に移動しなくても、断続的に導電性粒子含有インク16の吐出を続けると、壁面溝部13bで発生する毛細管現象や塗布された液滴同士の凝集力、表面張力によって導電性粒子含有インク16がスルーホール13の周方向および軸方向に層状に拡がる。このため、導電性粒子含有インク16が迅速に塗布される。
このように導電性粒子含有インク16の吐出を続けていくことで、図7(e)に示すように、すべての壁面溝部13bおよびスルーホール壁面13a上に、液滴層16Zが形成される。予定量が塗布され、例えば目視等によってスルーホール13の内周面に液滴層16Zが形成されていることが確認できたら、導電性粒子含有インク16の吐出を終了する。
このようにして、スルーホール13の内周面に導電性粒子含有インク16が塗布される。
【0041】
本実施形態では、塗布された導電性粒子含有インク16は、吐出された液滴ごとに毛細管現象や表面張力のバランスによって自然に拡がっていく。このため、スルーホール13の内周面を覆う液滴層16Zの量が過剰にならない。
これに対して、スルーホール13に壁面溝部13bが形成されていないためスルーホール13の内周面に毛細管現象が発生しない場合には、塗布された液滴が本実施形態に比べて粒状を保ちやすくなるため、より多量に吐出しないと塗布できず、このため層状を超えてスルーホール13内の全体に満たされやすくなる。
したがって、本実施形態の方が塗布する導電性粒子含有インク16の量を低減でき、塗布時間も低減することができる。
【0042】
塗布終了後、しばらく放置すると、導電性パターン4Aの液状パターンおよび液滴層16Z中の溶媒が蒸発して、液体としての流動性が低下する。基材12を移動しても塗布された形状が損なわれない程度に乾燥したら、ステップS3を終了する。
乾燥に時間がかかり過ぎる場合は、適宜加熱するなどして乾燥を促進してもよい。
以上で、ステップS3が終了する。
本ステップは、塗布工程を構成している。
【0043】
次に、ステップS4では、導電性粒子含有インク16を下面12bに塗布して、導電性パターン4Bの形状を形成する。
本実施形態では、塗布装置の保持台上の基材12を裏返して、下面12bが上方に向くようにして、基材12を保持台に保持させる。そして、インクノズル15から導電性粒子含有インク16を吐出させるとともに、基材12とインクノズル15とを相対移動させることにより、下面12b上に導電性パターン4Bの形状を描画して、導電性粒子含有インク16を塗布する。導電性粒子含有インク16の塗布厚さは、後述する焼成により厚さtとなる塗布厚さとする。
以下、この塗布後の導電性粒子含有インク16のパターンを、導電性パターン4Aの液状パターンと同様の意味で、導電性パターン4Bの液状パターンと称する。
導電性パターン4Bの液状パターンは、ステップS3で表面溝部14bに充填された導電性粒子含有インク16の液滴の層に重なるように塗布される。
導電性パターン4Bの液状パターンが基材12を移動しても形状が損なわれない程度に乾燥したら、ステップS4を終了する。
乾燥に時間がかかり過ぎる場合は、ステップS3と同様に、適宜加熱するなどして乾燥を促進してもよい。
【0044】
次にステップS5では、基材12上に塗布された導電性粒子含有インク16を固化させてスルーホール導電層3および導電性パターン4A、4Bを形成するとともに、これらを電気的に接続する。本ステップは、スルーホール導体部形成工程と表面導体部形成工程とを構成する。
【0045】
本ステップでは、基材12上の導電性パターン4A、4Bの液状パターン、および液滴層16Zに、エネルギーを与えて溶媒を乾燥蒸発させ、銀微粒子を覆う有機膜を分解させる。
導電性粒子含有インク16にエネルギーを与える方法としては、本実施形態では、基材12を加熱炉に入れて加熱し、導電性粒子含有インク16を焼成する方法を採用している。基材12上に塗布された導電性粒子含有インク16は、本実施形態の例では、例えば、140°の加熱炉に入れて、30分間加熱した。
これにより、導電性粒子含有インク16内の溶媒や銀微粒子を覆う有機膜が除去され、銀微粒子同士が接触または結合する。この結果、導電性を有する金属層が形成される。すなわち、導電性パターン4A、4B、およびスルーホール導電層3が形成される。
このとき、導電性パターン4A、4Bは、液状パターンの状態で、液滴層16Zと接触しているため、焼成後の導電性パターン4A、4Bと、スルーホール導電層3とは電気的に接続される。
また、液滴層16Zは、乾燥、焼成により層の厚さ方向に収縮してゆくため、スルーホール導電層3の中心部には、貫通孔部4eが形成される。
【0046】
本ステップ開始前に形成される導電性パターン4A、4Bの液状パターン、および液滴層16Zは、いずれも基材12の表面に層状に形成され、液溜まりを有しない。このため、本ステップによる乾燥、焼成において、ひび割れや断線の発生を抑制することができる。特に、液滴層16Zは、スルーホール13の内周面に沿う層状に形成されているため、スルーホール13の全体に充填されている場合に比べて、体積収縮量が著しく小さくなり、これによって、乾燥によるひび割れや断線が格段に起こりにくくなる。
【0047】
以上で、ステップS5が終了する。
このようにして、配線回路部材1が製造される。
本実施形態の実施例の配線回路部材1について、加熱炉から取り出して常温にまで冷ましてから、テスターにより2箇所の導電性パターン4B間の導通試験を行ったところ、導通が確認され、導電性パターン4A、4B、およびスルーホール導電層3が導通していることが確認された。
また、導電性パターン4A、4B、およびスルーホール導電層3を顕微鏡、X線観察装置にて観察したところ、ひび割れや断線は認められなかった。
【0048】
このように、本実施形態の配線回路部材の製造方法によれば、スルーホール13の内周面に壁面溝部13bを形成するため、スルーホール13内に導電性粒子含有インク16によってスルーホール導電層3を形成する場合に、導電性粒子含有インク16の消費量を低減できるとともに製造効率を向上することができる。
また、スルーホール13内に薄層のスルーホール導電層3を形成できるため、スルーホール導電層3におけるひび割れや断線の発生を抑制することができる。
【0049】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態の配線回路部材について説明する。
図8(a)は、本発明の第2の実施形態の配線回路部材の概略構成を示す模式的な斜視図である。図8(b)は、図8(a)におけるF−F断面図である。
【0050】
本実施形態の配線回路部材21は、図8(a)、(b)に示すように、上記第1の実施形態の配線回路部材1の導電性パターン4A、4B、スルーホール導電層3、およびスルーホール13に代えて、導電性パターン4C、4D(表面導体部)、スルーホール導電層23(スルーホール導体部)、およびスルーホール24を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0051】
導電性パターン4Cは、上記第1の実施形態の導電性パターン4Aの各ランド部4bに代えて、それぞれ平面視楕円状のランド部4fを備える。
導電性パターン4Dは、上記第1の実施形態の導電性パターン4Bの各ランド部4dに代えて、それぞれ平面視楕円状のランド部4gを備える。
ランド部4f、4gは、基材12を挟んで斜め方向に対向して配置され、ランド部4f、4gの中心部において、基材12を斜めに貫通するスルーホール導電層23によってそれぞれ電気的に接続されている。
本実施形態のスルーホール導電層23は、後述するスルーホール24の内周面に沿う層状に設けられており、このため、中心に貫通孔部4hが形成されている。
スルーホール導電層23の材質は、上記第1の実施形態のスルーホール導電層3と同様に、導電性粒子含有インク16を塗布して固化させた導体からなる。
【0052】
スルーホール24は、スルーホール導電層23を形成するため、基材12の上面12aおよび下面12bの間に斜めに貫通して設けられている。
スルーホール24の形状は、円筒孔からなるスルーホール壁面24aを備え、スルーホール壁面24aに、スルーホール壁面24aの中心軸線Pに対して周回する螺旋状の溝部である壁面溝部24bが形成されたものである。このため、図8(b)に示すように、壁面溝部24bは、上面12aおよび下面12bにおいて壁面溝部24bが交差することにより、上面12aおよび下面12bに対する溝部である表面溝部24c、24dが形成されている。
壁面溝部24bは、本実施形態では、1条の螺旋状に設けられているが、2条以上設けられていてもよい。
【0053】
このような構成の配線回路部材21は、上記第1の実施形態の製造方法と略同様のステップを行うことにより製造することができる。ただし、各ステップにおいて、配線回路部材1の構成要素は、対応する配線回路部材21の構成要素に読み替えて実施するものとする。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に簡単に説明する。
【0054】
本実施形態のステップS1では、基材12の上面12a、下面12bに対して斜めに傾斜するスルーホール壁面24aと螺旋状の壁面溝部24bとを形成する。
例えば、基材12の材質としてポリカーボネートを採用する場合、基材12の外形と、スルーホール24との形状を転写する金型を用いて、スルーホール24を有する基材12を成形することができる。
中心軸線Pの傾きは、必要に応じて適宜の角度に設定することができる。
スルーホール壁面24aの直径、壁面溝部24bの溝幅や溝深さは、上記第1の実施形態のスルーホール壁面13a、壁面溝部13bと同様の寸法を採用することができる。壁面溝部24bのねじれ角は、例えば、軸方向に隣接する溝間の距離が、溝幅と同程度となるように設定することができる。
【0055】
本実施形態のステップS2では、スルーホール24の開口が短径dの楕円状になるため、導電性パターン4Cのランド部4fを楕円状に描画する点のみが異なる。
【0056】
本実施形態のステップS3では、スルーホール24が上面12aに対して傾斜しているため、スルーホール24の上側開口は、スルーホール24の内周面の一部に臨むことができる。このため、導電性粒子含有インク16は、スルーホール24の内周面に臨める位置から鉛直下方に吐出すればよい。
吐出された導電性粒子含有インク16は、壁面溝部24b上に落下すると、毛細管現象により壁面溝部24b内を壁面溝部24bの螺旋形状に沿って、上面12a側および下面12b側に向かって充填されるため、吐出を続けることで、上記第1の実施形態と同様にして、スルーホール24の内周面に液滴層が形成される。
導電性粒子含有インク16がスルーホール壁面24aに塗布される場合にも、上記第1の実施形態と同様にいずれかの壁面溝部24b上には一部が塗布されるため、吐出を続けることで、同様にしてスルーホール24の内周面に液滴層が形成される。
なお、壁面溝部24bの間隔が液滴の直径よりも大きく設定されていた場合には、スルーホール壁面24aが傾斜しているため、吐出を続けるとやがては液滴が傾斜に沿って流れ落ちて、壁面溝部24bに進入する。これにより毛細管現象が発生して、壁面溝部24bに沿って塗布されることになる。
【0057】
本実施形態のステップS4では、導電性パターン4Dのランド部4fを楕円状に描画する点のみが異なる。
【0058】
本実施形態のステップS5では、上記第1の実施形態と同様にして加熱炉に入れて加熱することで、塗布された形状に沿って導電層が形成される。このため、基材12に、導電性パターン4C、4D、スルーホール導電層23が形成される。
このようにして、配線回路部材21が製造される。
本実施形態の実施例の配線回路部材21について、加熱炉から取り出して常温にまで冷ましてから、テスターにより2箇所の導電性パターン4D間の導通試験を行ったところ、導通が確認され、導電性パターン4C、4D、およびスルーホール導電層23が導通していることが確認された。
また、導電性パターン4C、4D、およびスルーホール導電層23を顕微鏡、X線観察装置にて観察したところ、ひび割れや断線は認められなかった。
【0059】
本実施形態の配線回路部材21は、スルーホール導電層23の方向が異なるのみで、上記第1の実施形態の配線回路部材1と同様の効果を備える。
本実施形態の配線回路部材21は、スルーホール24が上面12a、下面12bに対して傾斜しており、壁面溝部24bが上面12a、下面12bに直交していないような場合でも、上記第1の実施形態と同様にして、スルーホール導電層23を形成することができる例になっている。
また、本実施形態は、スルーホール24を成形によって基材12とともに形成する場合の例になっている。
【0060】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態の配線回路部材について説明する。
図9(a)は、本発明の第3の実施形態の配線回路部材の概略構成を示す模式的な斜視図である。図9(b)は、図9(a)におけるG−G断面図である。
【0061】
本実施形態の配線回路部材31は、図9(a)、(b)に示すように、上記第1の実施形態の配線回路部材1の基材12、導電性パターン4A、4B、スルーホール導電層3、およびスルーホール13に代えて、基材32、導電性パターン4E、4F(表面導体部)、スルーホール導電層33(スルーホール導体部)、および縦坑部34Aおよび横坑部34Bからなるスルーホール34を備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0062】
基材32は、スルーホール34の孔径をdとするため、幅、奥行き、厚さを、いずれもdより大きくした直方体ブロック状、平板状の部材からなり、基材12と同様の材質を採用することができる。
【0063】
導電性パターン4Eは、基材32の1つの側面32aに、上記第1の実施形態のランド部4bと、ランド部4bの外周部において、径方向外側に直線帯状に延ばして設けられたランド部4iとを備えるパターンとしている。
導電性パターン4Fは、基材32の側面32aに90°をなして隣接する側面32bに、上記第1の実施形態の導電性パターン4Bのランド部4dを形成したものである。
本実施形態のランド部4b、4dは、それぞれの中心が、側面32a、32bにそれぞれ直交する平面に整列されている。
また、本実施形態のランド部4b、4dは、基材32をL字状に貫通するスルーホール導電層33によってそれぞれ電気的に接続されている。
本実施形態のスルーホール導電層33は、後述する縦坑部34A、横坑部34Bの内周面に沿う層状に設けられており、縦坑部34Aに沿う直線部分と横坑部34Bに沿う直線部とが屈曲部33aで会合したL字状に設けられている。また、スルーホール導電層33の中心には、L字状の貫通孔部4jが形成されている。
スルーホール導電層33の材質は、上記第1の実施形態のスルーホール導電層3と同様に、導電性粒子含有インク16を塗布して固化させた導体からなる。
【0064】
スルーホール34の縦坑部34A、横坑部34Bは、図9(b)に示すように、縦坑部34Aが側面32aに対して直交する方向(中心軸線Qの方向)に基材32の内部に延ばされ、横坑部34Bが側面32bに対して直交する方向(中心軸線Qの方向)に基材32の内部に延ばされ、それぞれが交差する位置で接続されている。これにより90°で交わるL字状の貫通孔を構成している。
また、縦坑部34A、横坑部34Bは、それぞれ上記第1の実施形態のスルーホール13と同様に、スルーホール壁面13aにN本の壁面溝部13bが等ピッチで設けられた構成を有し、各壁面溝部13bは、中心軸線Q、Qの交点を通り、側面32a、32bに45°で交わる平面上のつなぎ部34aにおいて、断面が接続されている。これにより、それぞれの壁面溝部13bは、側面32aから側面32bに向かって、中心軸線Q、Qに沿うL字状の経路をなして連通されている。
また、縦坑部34Aの側面32a側の端部には、上記第1に実施形態と同様に、壁面溝部13bと連通する表面溝部14aが形成されている。また、横坑部34Bの側面32b側の端部には、上記第1に実施形態と同様に、壁面溝部13bと連通する表面溝部14bが形成されている。
【0065】
このような構成の配線回路部材31は、上記第1の実施形態の製造方法と略同様のステップを行うことにより製造することができる。ただし、各ステップにおいて、配線回路部材1の構成要素は、対応する配線回路部材31の構成要素に読み替えて実施するものとする。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に簡単に説明する。
【0066】
本実施形態のステップS1では、基材32の側面32a、32bの間でL字状に貫通する縦坑部34A、横坑部34Bを形成する。
例えば、基材32の材質としてポリカーボネートを採用する場合、基材32の外形と、縦坑部34A、横坑部34Bと、表面溝部14a、14bとの形状を転写する金型を用いて、縦坑部34A、横坑部34Bを有する基材32を成形することができる。
以下では、具体的な寸法の例として、スルーホール壁面13aの孔径dが、d=1(mm)、壁面溝部13bの深さdがd=50(μm)、幅WがW=100(μm)、本数Nが、N=15の場合の例で説明する。
【0067】
本実施形態のステップS2では、導電性パターン4Eを形成するため、ランド部4i、4bを描画する点のみが異なる。
【0068】
本実施形態のステップS3では、側面32aが上方に向いた状態で、上記第1の実施形態のスルーホール13に導電性粒子含有インク16を吐出するのと同様に、縦坑部34Aに導電性粒子含有インク16の吐出を行う。
これにより、スルーホール13と同様に、縦坑部34A内に液滴層16Zが形成される。ただし、本実施形態の縦坑部34Aの壁面溝部13bは、横坑部34Bの壁面溝部13bに連通しているため、横坑部34Bの内周面にも液滴層16Zが形成される。
【0069】
本実施形態のステップS4では、基材32を90°回転して、側面32bが上方に向いた状態となるように保持台に保持して、導電性パターン4Fのランド部4bの形状を描画する。
【0070】
本実施形態のステップS5では、上記第1の実施形態と同様にして加熱炉に入れて加熱することで、塗布された形状に沿って導電層が形成される。このため、基材32に、導電性パターン4E、4F、スルーホール導電層33が形成される。
このようにして、配線回路部材31が製造される。
本実施形態の実施例の配線回路部材31について、加熱炉から取り出して常温にまで冷ましてから、テスターによりランド部4iとランド部4bと間の導通試験を行ったところ、導通が確認され、導電性パターン4E、4F、およびスルーホール導電層33が導通していることが確認された。
また、導電性パターン4E、4F、およびスルーホール導電層33を顕微鏡、X線観察装置にて観察した路頃、ひび割れや断線は認められなかった。
【0071】
本実施形態の配線回路部材31は、スルーホール導電層33が基材32内でL字状に貫通している点が異なるのみで、上記第1の実施形態の配線回路部材1と同様の効果を備える。
本実施形態の配線回路部材31は、縦坑部34A、横坑部34Bが、90°に交差する側面32a、32bの間に設けられた場合でも、上記第1の実施形態と同様にして、スルーホール導電層33を形成することができる例になっている。
すなわち、スルーホールが屈曲している場合にも本実施形態の配線回路部材の製造方法を用いることができる例になっている。
また、本実施形態は、上記第2の実施形態と同様、縦坑部34A、横坑部34Bを成形によって基材32とともに形成する場合の例になっている。
【0072】
なお、上記の各実施形態の説明では、表面導体部とスルーホール導体部とをインクジェット装置またはディスペンサ等の塗布装置で塗布する場合の例で説明したが、スクリーン印刷や転写法などによって塗布してもよい。
また、導電性粒子含有液は、スルーホール導体部を形成する場合にのみ用いればよく、表面導体部は、導電性粒子含有液を用いることなく形成してもよい。
また、表面導体部に導電性粒子含有液を用いる場合でも、表面導体部の形成には毛細管現象を用いなくてもよいため、スルーホール導体部に用いる導電性粒子含有液よりも基材に対する濡れの悪い液状としてもよい。
【0073】
また、上記の各実施形態の説明では、表面導体部の液状パターンとスルーホール導体部の液滴層の形状を、それぞれ形成した基材を加熱炉に入れて加熱して導電性を持たせることにより、表面導体部とスルーホール導体部とを同時に形成する場合の例で説明したが、表面導体部形成工程と、スルーホール導体部形成工程とは分けて行ってもよい。この場合、後から行う方の工程によって表面導体部とスルーホール導体部とを電気的に接続する。
【0074】
また、上記の各実施形態の説明では、導電性粒子含有液の塗布後に焼成することで、表面導体部およびスルーホール導体部が形成される場合の例で説明したが、焼成後に、表面にめっきを施してもよい。
【0075】
また、上記の各実施形態の説明では、スルーホールが直線状または折れ線状に形成された場合の例で説明したが、スルーホールは曲線状に湾曲していてもよい。
【0076】
また、上記の各実施形態の説明では、スルーホール内の溝部がすべてスルーホールの全長にわたって設けられている場合の例で説明したが、塗布時に導電性粒子含有液が溝部から溢れて近傍の他の溝部に進入できる場合には、溝部の一部または全部が、スルーホールの全長より短い範囲に設けられていてもよい。
【0077】
また、上記の各実施形態に説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせを代えたり、削除したりして実施することができる。
【符号の説明】
【0078】
1、21、31 配線回路部材
3、23、33 スルーホール導電層(スルーホール導体部)
4A、4B、4C、4D、4E、4F 導電性パターン(表面導体部)
4a 回路部
4b、4d、4f、4i ランド部
4e、4h、4j 貫通孔部
12、32 基材
12a 上面(基材の表面)
12b 下面(基材の表面)
13、24、34 スルーホール
13a、24a スルーホール壁面(スルーホールの内周面)
13b、13b、13b、24b 壁面溝部(溝部)
14a、14b 表面溝部
15 インクノズル
16 導電性粒子含有インク(導電性粒子含有液)
16A、16B、16C、16D、16E 液滴
16Z 液滴層
32a、32b 側面(基材の表面)
34A 縦坑部
34B 横坑部
O、P、Q、Q 中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材の表面に形成された導電性パターンである表面導体部と、
前記基材の内部に貫通するスルーホールと、
導電性粒子含有液を前記スルーホールに塗布して固化させた導体からなり、前記表面導体部と電気的に接続されたスルーホール導体部と、を備え、
前記スルーホールは、内周面に溝部が形成されていることを特徴とする配線回路部材。
【請求項2】
前記スルーホール導体部は、前記スルーホールの内周面を覆う層状に形成された
ことを特徴とする請求項1に記載の配線回路部材。
【請求項3】
前記溝部は、前記スルーホールの開口で前記基材の表面と直交する方向に形成された
ことを特徴とする請求項1または2に記載の配線回路部材。
【請求項4】
前記溝部は、前記スルーホールの中心軸線に沿う方向に設けられた
ことを特徴とする請求項1または2に記載の配線回路部材。
【請求項5】
前記溝部は、前記スルーホールの中心軸線に対して周回する螺旋状に設けられた
ことを特徴とする請求項1または2に記載の配線回路部材。
【請求項6】
前記スルーホールの開口の周囲の前記表面導体部に重なる前記基材の表面に、前記溝部と連通する表面溝部が設けられた
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の配線回路部材。
【請求項7】
基材の内部に貫通する孔と、当該孔の内周面に溝部が形成されたスルーホールを形成するスルーホール形成工程と、
導電性粒子含有液を前記スルーホールに塗布する塗布工程と、
前記スルーホールに塗布された前記導電性粒子含有液を固化させて、スルーホール導体部を形成するスルーホール導体部形成工程と、
前記基材の表面に導電性パターンである表面導体部を形成する表面導体部形成工程とを備え、
前記スルーホール導体部形成工程または前記表面導体部形成工程において、前記表面導体部と前記スルーホール導体部とを電気的に接続する
ことを特徴とする配線回路部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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