説明

配電系統制御装置及び配電系統制御方法

【課題】太陽光発電の出力を予測するために、曇りの領域を容易に推定する。
【解決手段】配電系統制御システム1は、変電所2、配電線3、引込柱4、引込線5、顧客宅6及び配電系統制御装置10を備える。顧客宅6は、スマートメータ7、負荷8及び太陽光発電装置9を備える。スマートメータ7は、太陽光発電装置9の発電状態として発電量を計測し、発電電力を負荷8が消費し切れずに電力会社に売電する電力(すなわち、逆潮流の電力)を計測するとともに、それらの計測データを配電系統制御装置10に送信する。配電系統制御装置10は、まず、スマートメータ7から太陽光発電装置9の発電量等を取得し、晴れの地点の分布から雲の分布を作成し、次の時刻の雲の分布を予測する。そして、次の時刻の雲の分布から、次の時刻における配電線3の電圧分布を作成し、電圧が許容範囲を逸脱するようであれば、変電所2に対して配電線3への送出電圧の調整を指示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電装置が多数設置された配電系統における雲の形状及び移動を推定することにより、発電出力の予測及び配電線電圧の管理を行う装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配電系統に太陽光発電装置が大量に連系されている場所では、日照状態の変化により太陽光発電の出力が大きく変動するため、配電系統の電圧を管理するのが困難である。
【0003】
一方、太陽光発電量を予測する技術には、配電系統の電柱等に設置した日射量計で日射量を計測し、その計測値に基づいて予測する方法や、雲を含む空の画像を撮影し、その撮影画像を解析して雲の分布を予測する方法等がある。例えば、特許文献1には、太陽光計測器により太陽光の照射量に応じた計測出力を取得し、太陽光発電システムの発電出力を評価する太陽光発電出力評価システムが開示されている。また、特許文献2及び3には、全方位カメラで撮影した空の画像を用いて雲の分布や動きを予測し、太陽光発電出力を予測する太陽光発電システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−129852号公報
【特許文献2】特開2007−184354号公報
【特許文献3】特開2009−252940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の日射量を計測する方法により小さな雲の形状を把握するためには、大量の太陽光発電装置が設置されている場所に多くの日射量計を分散して設置しなければならないので、日射量計の設置やメンテナンスに多額のコストがかかる。また、画像解析に基づいて雲の分布を予測する方法でも、配電線に沿ってカメラを設置しなければならないので、大量のカメラが必要になってコストがかかり、一方、少ないカメラにより、カメラのない地点における太陽光発電量を計算しようとすると、計算手順が複雑になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、太陽光発電の出力を予測するために、曇りの領域を容易に推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、配電系統の電圧制御に用いられる装置(配電系統制御装置)であって、所定の地域内の地図データと、前記地域内に設置された太陽光発電装置の前記地図データ上の位置とを記憶する手段と、前記太陽光発電装置の発電状態を取得する手段と、取得した前記発電状態に基づいて前記太陽光発電装置の設置場所が晴天であるか否かを判定する手段と、前記地図データにおいて、前記設置場所が晴天であると判定された位置を含まない領域を特定し、その領域に雲が存在すると推定する手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、太陽光発電装置の発電状態を用いて、地図データ上で晴天の場所を特定し、その場所以外には雲があると推定する。これによれば、太陽光発電の出力を予測する際に、そのための新たな計測器を設置することなく、現状で取得可能な計測データ(発電状態)を用いることにより、容易に曇りの領域を推定することができる。
【0009】
また、本発明の上記配電系統制御装置において、前記発電状態を取得した時刻ごとに前記雲の領域を記憶する手段と、記憶した2以上の時刻における前記雲の領域に基づいて、将来の所定時点における雲の領域を予測する手段と、予測した前記雲の領域に基づいて、前記所定時点における、前記太陽光発電装置の連系する配電線における電圧分布を予測する手段と、をさらに備えることとしてもよい。
この構成によれば、今後のある時点における雲の領域を予測し、その雲の領域から配電線の電圧分布を予測する。これによれば、予測した電圧分布に許容範囲を逸脱する箇所がある場合には、実際には許容範囲に収まるように配電線の電圧を調整することができ、ひいては、電力系統の電力品質を確保することができる。
【0010】
また、本発明の上記配電系統制御装置において、前記太陽光発電装置の発電状態として発電量を取得し、その発電量が所定値以上であるときに前記場所が晴天であると判定することとしてもよい。
この構成によれば、太陽光発電装置を設置している個人や会社等から実際の発電量の提供を受けることによって、太陽光発電装置の発電状態を把握することができる。
【0011】
また、本発明の上記配電系統制御装置において、前記太陽光発電装置の発電状態として逆潮流発生の有無を取得し、逆潮流が発生しているときに前記場所が晴天であると判定することとしてもよい。
この構成によれば、太陽光発電装置を設置している個人や会社等から発電量の提供を受けられない場合であっても、配電線又は引込線に設置された電流計等から逆潮流の有無を取得することにより、太陽光発電装置の発電状態を把握することができる。
【0012】
なお、本発明は、配電系統制御方法を含む。その他、本願が開示する課題及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、太陽光発電の出力を予測するために、曇りの領域を容易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】配電系統制御システム1の構成を示す図である。
【図2】配電系統配電系統制御装置10のハードウェア構成を示す図である。
【図3】配電系統制御装置10の記憶部15に記憶されるデータの構成を示す図であり、(a)は顧客DB15Aの構成を示し、(b)は引込柱DB15Bの構成を示し、(c)は地図データ15Cを示し、(d)は雲分布DB15Dの構成を示す。
【図4】配電系統制御装置10が雲の分布を示すデータを取得する処理を示すフローチャートである。
【図5】配電系統制御装置10が配電線3の電圧を制御する処理を示すフローチャートである。
【図6】配電系統図及び配電線電圧のグラフを示す図であり、(a)は地図データ15C上に「晴れ」の印を付けた配電系統図を示し、(b)は現在における雲の分布を描画した配電系統図及び配電線電圧のグラフを示し、(c)は次の時刻における雲の分布を描画した配電系統図、調整前及び調整後の配電線電圧のグラフを示す。
【図7】任意の顧客宅Aが次の時刻に曇りになるか否かの判定方法を説明するための図であり、(a)は地図上で顧客宅Aから8方向に引かれた走査線を示し、(b)は所定方向の走査線上にあって、太陽光発電装置9の設置された顧客宅C(i)をプロットした状態を示し、(c)は太陽光発電装置9の発電量が晴天時の値より急に減少した顧客宅のうち、顧客宅Aから最も近い顧客宅C(t0)及び距離L(C(t0))を示し、(d)は所定時間経過後に発電量が急に減少した顧客宅のうち、顧客宅Aから最も近い顧客宅C(t1)及び距離L(C(t1))を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。本発明の実施の形態に係る配電系統制御装置は、顧客宅に設置された太陽光発電装置の発電状態に基づいて、その地点が晴天か否かを判定し、その判定結果から雲の分布(すなわち、曇りの領域)を推定するとともに、過去又は現在の雲の分布に基づいて今後の(次の時刻における)雲の分布を予測するものである。
【0016】
これによれば、曇りの領域を容易に推定することができ、今後の太陽光発電装置の出力及び配電線の電圧分布を予測することができる。
【0017】
≪システムの構成と概要≫
図1は、配電系統制御システム1の構成を示す図である。配電系統制御システム1は、太陽光発電の出力状態に基づいて配電系統の電圧を制御するシステムであり、変電所2、配電線3、引込柱4、引込線5、顧客宅6及び配電系統制御装置10を備える。変電所2は、図示しない上位の変電所から高圧の電力を受電し、変圧し、低圧の電力を配電線3に送電する。配電線3は、変電所2から各地域へ延設され、変電所3から送出される電力を各地域に供給する。なお、配電線3の途中には、各地点における電圧を計測する電圧計VTが設けられ、計測された電圧が電圧計VTから配電系統制御装置10に送信される。引込柱4は、延設のために架線される配電線3を支持するとともに、連系点Pにおいて配電線3と、引込線5とを接続する。
【0018】
引込線5は、配電線3と、顧客宅6とを結ぶ電力線であり、配電線3からの系統電力を顧客宅6に供給するとともに、顧客宅6からの余剰電力(太陽光発電装置9による発電電力等)を配電線3に供給する。
【0019】
顧客宅6には、スマートメータ7、負荷8及び太陽光発電装置9が設置される。スマートメータ7は、演算・制御機能及び通信機能を内蔵した次世代の電子式電力メータであり、太陽光発電装置9の発電状態として発電量を計測し、その発電電力を負荷8が消費し切れずに電力会社に売電する電力(すなわち、逆潮流の電力)を計測するとともに、それらの計測データを配電系統制御装置10に送信する。なお、逆潮流の電力は計測できるが、太陽光発電装置9の発電状態が把握できないスマートメータ7もある。負荷8は、系統電力や太陽光発電装置9の発電電力を消費する負荷であり、家電製品や電気自動車等である。太陽光発電装置9は、太陽光を受けて光電変換により発電を行う装置であり、その発電量は太陽光の影響を受け、特に大量の太陽光発電装置9が配電線3に連系している場合には、太陽光を遮る雲の移動により配電系統の電圧が大きく変動することになる。
【0020】
配電系統制御装置10は、変電所2、配電線3上の電圧計VT及び顧客宅6のスマートメータ7と通信可能なサーバ用コンピュータや専用装置により実現される。まず、スマートメータ7から太陽光発電装置9の発電状態を取得し、その発電状態(晴れの地点)の分布から雲の分布を作成し、次の時刻の雲の分布を予測する。次に、電圧計VTが計測した配電線3の電圧を取得し、現在の配電線3の電圧分布を作成する。そして、次の時刻の雲の分布から、次の時刻における配電線3の電圧分布を作成し、電圧が許容範囲を逸脱するようであれば、変電所2に対して配電線3への送出電圧の調整を指示する。その詳細を以下に説明する。
【0021】
図2は、配電系統制御装置10のハードウェア構成を示す図である。配電系統制御装置10は、通信部11、表示部12、入力部13、処理部14及び記憶部15を備え、各部がバス16を介してデータを送受信可能なように構成される。通信部11は、ネットワークを介して変電所2、電圧計VT及びスマートメータ7とIP(Internet Protocol)通信等を行う部分であり、例えば、NIC(Network Interface Card)等によって実現される。表示部12は、処理部14からの指示によりデータを表示する部分であり、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等によって実現される。入力部13は、オペレータがデータ(例えば、顧客宅や引込柱に関するデータ)を入力する部分であり、例えば、キーボードやマウス等によって実現される。処理部14は、所定のメモリを介して各部間のデータの受け渡しを行うととともに、配電系統制御装置10全体の制御を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)が所定のメモリに格納されたプログラムを実行することによって実現される。記憶部15は、処理部14からデータを記憶したり、記憶したデータを読み出したりするものであり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性記憶装置によって実現される。
【0022】
≪データの構成≫
図3は、配電系統制御装置10の記憶部15に記憶されるデータの構成を示す図である。図3(a)は、顧客DB15Aの構成を示す。顧客DB15Aは、顧客宅6及びその設備に関するデータを格納したデータベースであり、計量器ID15A1、顧客宅位置15A2、引込柱番号15A3、設備容量15A4及び発電量基準値15A5を含む、顧客宅6ごとのレコードからなる。計量器ID15A1は、スマートメータ7に固有のIDであり、スマートメータ7は顧客宅6に通常1台設置されるので、顧客宅6に固有のIDであると言うこともできる。顧客宅位置15A2は、顧客宅6の位置を示すデータであり、緯度や経度が設定されるが、地図データ15C上の位置付けが可能であれば、他のデータであってもよく、例えば、顧客宅6に設置された太陽光発電装置9の位置を示すデータであってもよい。なお、顧客宅位置15A2が不明であり、設定されていないこともある。引込柱番号15A3は、顧客宅6へ引込線5を出している引込柱4に固有の番号であり、顧客宅位置15A2が設定されていない場合に、顧客宅6の代わりに引込柱4の位置を特定するために参照される。設備容量15A4は、太陽光発電装置9の設備容量である。発電量基準値15A5は、太陽光発電装置9の発電量により当該顧客宅6の場所が晴天か否かを判定するための基準値であり、設備容量15A4に基づいて算出され、設定される。スマートメータ5が太陽光発電装置9の発電量を計測できないときには、設備容量15A4及び発電量基準値15A5が設定されない。なお、顧客宅位置15A2、引込柱番号15A3、設備容量15A4及び発電量基準値15A5の全部又は一部のデータを、スマートメータ7から取得する方法も考えられる。
【0023】
図3(b)は、引込柱DB15Bの構成を示す。引込柱DB15Bは、配電線3の途中にある引込柱4に関するデータを格納したデータベースであり、引込柱番号15B1及び引込柱位置15B2を含む、引込柱4ごとのレコードからなる。引込柱番号15B1は、引込柱4に固有の番号である。引込柱位置15B2は、引込柱4の位置を示すデータであり、緯度や経度が設定されるが、地図データ15C上の位置付けが可能であれば、他のデータであってもよい。
【0024】
図3(c)は、地図データ15Cを示す。地図データ15Cは、配電系統制御装置10の管轄する変電所2が系統電力を送電する地域を網羅する地図のデータであり、緯度や経度、その他のデータにより、晴れを示す印を付けるべき位置が特定できる地図のデータである。
【0025】
図3(d)は、雲分布DB15Dの構成を示す。雲分布DB15Dは、雲の分布に関するデータを格納したデータベースであり、特に配電系統制御装置10の管轄する変電所2が系統電力を送電する地域における雲の分布を示し、時刻15D1及び雲分布データ15D2を含む、時刻ごとのレコードからなる。時刻15D1は、スマートメータ7から太陽光発電装置9の発電量等を取得した時刻を示し、1日のうちの定期的な時刻が設定される。雲分布データ15D2は、定期的な時刻にスマートメータ7から取得したデータにより推定した雲の分布に関するデータであり、地図データ15C上に雲が分布する領域が示されたものが設定される。
【0026】
≪システムの処理≫
図4及び図5は、配電系統制御システム1の処理を示すフローチャートである。図6は、本処理の実施例を示す図であり、配電系統図及び配電線電圧のグラフからなる。以下、図6を参照しながら、図4及び図5に従って配電系統制御システム1の処理を説明する。
【0027】
図4の処理は、配電系統制御装置10において、主として処理部14が、通信部11によりスマートメータ7との間でデータを送受信し、記憶部15のデータを参照、更新しながら、雲の分布を示すデータを取得するものである。
【0028】
まず、配電系統制御装置10は、定期的にスマートメータ7から計測データを取得すべき時刻(例えば、1〜2分ぐらいの時間を空けた時刻)か否かを判定する(S401)。定期的な取得時刻でなければ(S401のNO)、S401の判定を繰り返す。
【0029】
定期的な取得時刻であれば(S401のYES)、配電系統制御装置10は、各顧客宅6に設置されたスマートメータ7から計測データを受信する(S402)。スマートメータ7が太陽光発電装置9の発電量を計測可能であれば、計測データは計量器ID及び発電量を含む。一方、スマートメータ7が太陽光発電装置9の発電量を計測不可であれば、計測データは計量器ID、及び、発電状態と電力使用状態に関連する逆潮流発生の有無を含む。
【0030】
そして、配電系統制御装置10は、受信した計測データ及び記憶部15の顧客DB15Aを参照して、太陽光発電装置9の発電量が計量器ID15A1に対応する発電量基準値15A5以上か、又は、逆潮流の発生があるかを判定する(S403)。発電量が基準値以上、又は、逆潮流の発生があれば(S403のYES)、顧客宅6の地点が「晴れ」ということになり、続いて顧客DB15Aを参照して、顧客宅位置15A2が有効か否かを判定する(S404)。顧客宅位置15A2が有効であれば(S404のYES)、記憶部15において地図データ15C上の顧客宅位置15A2に「晴れ」の印を付ける(S405)。「晴れ」の印としては、例えば、図6(a)の配電系統図に示すように、太陽光発電装置9を囲む円及び日射を示す矢印により、発電中、すなわち、「晴れ」を表示する。
【0031】
一方、顧客宅位置15A2が有効でなければ(S404のNO)、配電系統制御装置10は、顧客DB15Aを参照して計量器ID15A1に対応する引込柱番号15A3を取得し、引込柱DB15Bを参照して、当該引込柱番号15A3と一致する引込柱番号15B1に対応する引込柱位置15B2を取得し、記憶部15において地図データ15C上の当該引込柱位置15B2に「晴れ」の印を付ける(S406)。発電量が基準値より小さい、又は、逆潮流の発生がなければ(S403のNO)、S404〜S406の処理をスキップする。
【0032】
その後、配電系統制御装置10は、S402で受信した計測データのうち、未チェックの計測データがあるか否かを判定する(S407)。未チェックの計測データがあれば(S407のYES)、S403の判定処理から再度行う。未チェックの計測データがなければ(S407のNO)、記憶部15において地図データ15C上に付けられた「晴れ」の印の分布に基づいて雲の分布を作成し、計測データ取得の時刻15D1における雲分布データ15D2として記憶する(S408)。そして、S401の判定処理に戻る。
【0033】
雲の分布については、例えば、図6(a)の配電系統図における「晴れ」の印を含まないような平面図形を描画することにより、図6(b)の配電系統図に示すような雲の分布を地図データ15C上に作成し、記憶する。具体的には、例えば、配電系統図を格子状の領域に分割し、「晴れ」の印を含まない領域を雲が存在する領域とし、その領域をすべて合わせた領域を雲の分布域とする。
【0034】
図5の処理は、配電系統制御装置10において、主として処理部14が、通信部11により変電所2及び電圧計VTとの間でデータを送受信し、記憶部15のデータを参照、更新しながら、配電線3の電圧を制御するものである。
【0035】
まず、配電系統制御装置10は、電圧計VTから配電線3上の各地点の電圧値を取得し、現在の電圧分布(配電線特性カード)を作成する(S501)。現在の電圧分布は、例えば、図6(b)に示すグラフのようになる。このグラフは、横軸が各地点の変電所2からの距離であり、縦軸が各地点の電圧であり、現在のところ、各配電線の電圧が許容電圧の下限と、上限との間に収まっていることを示している。ただし、現時点において配電線電圧が許容範囲から逸脱している場合には、配電系統制御装置10が、変電所2からの送出電圧を変更するように、変電所2に調整を指示する。
【0036】
次に、配電系統制御装置10は、記憶部15の雲分布DB15Dから、次の時刻における雲の分布を予測する(S502)。現在の雲の分布は、例えば、図6(b)の配電系統図に示すようになる。そして、現在及び過去の時刻15D1に対応する雲分布データ15D2が示す雲の分布の変化に基づいて、雲が移動する方向及び速度を計算する。その移動の方向及び速度により、例えば、図6(c)の配電系統図に示すような、次の時刻における雲の分布を推定する。なお、特許文献2の段落0018には、現在の雲の分布情報と移動ベクトル情報とに基づき予測周期だけ先の時点での雲の分布を予測することが開示されている。
【0037】
続いて、配電系統制御装置10は、S502で予測した雲の分布から、次の時刻における配電線3の電圧分布を推定する(S503)。詳細には、まず、太陽光発電装置9の発電量が取得可能な場合には、取得した発電量を用いるが、発電量が取得できない場合、太陽光発電装置9が雲の領域に含まれるときには、発電量を0とし、太陽光発電装置9が雲の領域に含まれないときには、発電量を太陽光発電装置9の定格発電量とする。次に、顧客宅6の使用電力量を「販売電力量+発電量−売電量」により算出する。そして、上記の発電量及び使用電力量を用いた潮流計算を行って、各配電線3上の各連系点Pにおける電圧を推定する。図6(c)の上側のグラフは、その電圧分布の例を示す。
【0038】
そして、配電系統制御装置10は、S503で作成した配電線3の電圧が許容電圧範囲から逸脱する箇所があるか否かを判定する(S504)。逸脱する箇所があれば(S504のYES)、変電所2からの送出電圧を変更するように、変電所2に調整を指示する(S505)。例えば、図6(c)の上側のグラフに示すように、一点鎖線の示す配電線3の電圧が許容電圧範囲の下限を下回っているので、図6(c)の下側のグラフに示すように、変電所2からの送出電圧を上昇させることにより、配電線3の電圧が下限を上回るようにする。なお、変電所2において送出電圧を制御可能な時間間隔が、例えば、30分から1時間ぐらいであるとした場合に、送出電圧の変更だけでは適正な電圧が維持できないときには、配電系統において余裕のあるフィーダ(変電所2)の配電線3に連系するように負荷の接続を変更することも考えられる。逸脱する箇所がなければ(S504のNO)、S505の処理をスキップする。
【0039】
≪実施例≫
図7は、任意の顧客宅Aが次の時刻に曇りになるか否かの判定方法を説明するための図である。この判定方法は、配電系統制御装置10による、図5のS502の処理の具体例であり、雲の分布を予測する方法の一例である。
【0040】
まず、図7(a)に示すように、地図データ15C上において、顧客宅Aから所定方向(例えば、8方向)に所定距離の走査線を引く。次に、図7(b)に示すように、各方向の走査線上にあって、太陽光発電装置9の設置された顧客宅C(i)を、顧客宅Aから近い順にプロットする。そして、図7(c)に示すように、所定時間内において、太陽光発電装置9の発電量が晴天時の値(発電量基準値15A5又は定格発電量)より急に減少した顧客宅のうち、顧客宅Aから最も近い顧客宅の時刻をt0とする。その顧客宅をC(t0)とし、顧客宅AからC(t0)までの距離をL(C(t0))とする。なお、顧客宅Aから最も近い顧客宅を選択する理由は、発電量が急に減少した顧客宅が走査線上に複数あった場合、その走査線上には複数の雲があると考えられ、その複数の雲のうち、顧客宅Aに最も近い雲が最も早く顧客宅Aに達する可能性が高いと考えられるからである。
【0041】
さらに、図4(d)に示すように、時刻t0から所定時間が経過した後に、顧客宅C(t0)よりAに近い顧客宅の中で、太陽光発電装置9の発電量が晴天時の値より急に減少した顧客宅のうち、顧客宅Aから最も近い顧客宅の時刻をt1とする。その顧客宅をC(t1)とし、顧客宅AからC(t1)までの距離をL(C(t1))とすれば、顧客宅C(t0)からC(t1)までの距離はL(C(t0))−L(C(t1))となる。
【0042】
続いて、曇の進む速度Sを、次の式1を用いて計算する。
雲速度S ={L(C(t0))−L(C(t1))}/(t1−t0)・・・式1
【0043】
そして、次の時刻Tで顧客宅Aが雲にかかるか否かは、次のように判定する。すなわち、S×(T−t1)>L(c(t1))の場合は、雲にかかる。一方、S×(T−t1)≦L(c(t1))の場合は、雲にかからない。
【0044】
逆に、顧客宅Aが現在曇りであり、次の時刻に曇りから晴れになるか否かの判定方法は、上記の方法において、「発電量が急に減少した顧客宅」を、「発電量が急に増加した顧客宅」に言い替えることにより、同様に実施することができる。
【0045】
なお、上記実施の形態では、図2に示す配電系統制御装置10内の各部を機能させるために、処理部14で実行されるプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録し、その記録したプログラムをコンピュータに読み込ませ、実行させることにより、本発明の実施の形態に係る配電系統制御システム1が実現されるものとする。この場合、プログラムをインターネット等のネットワーク経由でコンピュータに提供してもよいし、プログラムが書き込まれた半導体チップ等をコンピュータに組み込んでもよい。
【0046】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、雲の分布を容易に推定することができ、次の時刻における雲の分布を予測し、その雲の分布に基づいて太陽光発電装置9の出力及び配電線3における電圧分布を予測することができる。そして、その電圧分布に許容範囲を逸脱する箇所があった場合には、実際の電圧が許容範囲に収まるように事前に調整することができ、これにより電力系統の電力品質を確保することができる。
【0047】
詳細には、まず、図4のS402及びS403に示すように、配電系統制御装置10がスマートメータ7から発電量や逆潮流発生の有無を受信し、それらのデータに基づいて晴れか否かを判定するので、太陽光発電装置9ごとに日射量計やカメラを設置することなく、既設のスマートメータ7を用いて安価に容易に雲の分布を推定することができる。
【0048】
次に、図4のS408、図5のS502及びS503に示すように、雲分布DB15Dに時刻15D1ごとの雲分布データ15D2を蓄積し、2以上の時刻15D1の雲分布データ15D2に基づいて次の時刻における雲の分布を予測し、その雲の分布に基づいて次の時刻における配電線3の電圧分布を推定する。これによれば、S504及びS505に示すように、今後の配電線3の電圧が許容範囲を逸脱する箇所があった場合に、変電所3からの送出電圧を変更するように事前に指示することができる。
【0049】
≪その他の実施の形態≫
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、以下のような実施の形態が考えられる。
【0050】
(1)上記実施の形態においては、顧客宅6に設置されたスマートメータ7から逆潮流発生の有無を取得するように説明したが、例えば、配電線3又は引込線5に設置された電流計から逆潮流発生の有無を取得するようにしてもよい。これによれば、個人や会社等の顧客が発電量の提供を了承しない場合であっても、太陽光発電装置9の発電状態を示すデータを取得することができる。
【0051】
(2)上記実施の形態においては、記憶部15の顧客DB15Aのうち、発電量基準値15A5が設備容量15A4に基づいて算出され、設定されるように説明したが、実際に晴天のときに各太陽光発電装置9の発電量を計測し、その計測値を発電量基準値15A5として設定してもよい。
【0052】
(3)上記実施の形態においては、配電線3の電圧を調整するために変電所2からの送出電圧を変更するように説明したが、その他の電圧調整方法であってもよい。例えば、自動電圧調整器(SVR:Step Voltage Regulator)を用いる、リアクトルの容量を変える等の方法が考えられる。自動電圧調整器を配電線3に設置することにより、変電所2の送出電圧では調整しきれない幅の電圧降下も補償可能になる。
【符号の説明】
【0053】
1 配電系統制御システム
2 変電所
3 配電線
4 引込線
7 スマートメータ
9 太陽光発電装置
10 配電系統制御装置
14 処理部
15 記憶部
15A5 発電量基準値(所定値)
15C 地図データ
15D 雲分布DB
15D1 時刻
15D2 雲分布データ(雲の領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統の電圧制御に用いられる装置であって、
所定の地域内の地図データと、前記地域内に設置された太陽光発電装置の前記地図データ上の位置とを記憶する手段と、
前記太陽光発電装置の発電状態を取得する手段と、
取得した前記発電状態に基づいて前記太陽光発電装置の設置場所が晴天であるか否かを判定する手段と、
前記地図データにおいて、前記設置場所が晴天であると判定された位置を含まない領域を特定し、その領域に雲が存在すると推定する手段と、
を備えることを特徴とする配電系統制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の配電系統制御装置であって、
前記発電状態を取得した時刻ごとに前記雲の領域を記憶する手段と、
記憶した2以上の時刻における前記雲の領域に基づいて、将来の所定時点における雲の領域を予測する手段と、
予測した前記雲の領域に基づいて、前記所定時点における、前記太陽光発電装置の連系する配電線における電圧分布を予測する手段と、
をさらに備えることを特徴とする配電系統制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の配電系統制御装置であって、
前記太陽光発電装置の発電状態として発電量を取得し、その発電量が所定値以上であるときに前記場所が晴天であると判定する
ことを特徴とする配電系統制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の配電系統制御装置であって、
前記太陽光発電装置の発電状態として逆潮流発生の有無を取得し、逆潮流が発生しているときに前記場所が晴天であると判定する
ことを特徴とする配電系統制御装置。
【請求項5】
配電系統の電圧制御に用いられるコンピュータが行う方法であって、
前記コンピュータは、
所定の地域内の地図データと、前記地域内に設置された太陽光発電装置の前記地図データ上の位置とを記憶するステップと、
前記太陽光発電装置の発電状態を取得するステップと、
取得した前記発電状態に基づいて前記太陽光発電装置の設置場所が晴天であるか否かを判定するステップと、
前記地図データにおいて、前記設置場所が晴天であると判定された位置を含まない領域を特定し、その領域に雲が存在すると推定するステップと、
を実行することを特徴とする配電系統制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の配電系統制御方法であって、
前記コンピュータは、
前記発電状態を取得した時刻ごとに前記雲の領域を記憶するステップと、
記憶した2以上の時刻における前記雲の領域に基づいて、将来の所定時点における雲の領域を予測するステップと、
予測した前記雲の領域に基づいて、前記所定時点における、前記太陽光発電装置の連系する配電線における電圧分布を予測するステップと、
をさらに実行することを特徴とする配電系統制御方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の配電系統制御方法であって、
前記コンピュータは、
前記太陽光発電装置の発電状態として発電量を取得し、その発電量が所定値以上であるときに前記場所が晴天であると判定する
ことを特徴とする配電系統制御方法。
【請求項8】
請求項5又は請求項6に記載の配電系統制御方法であって、
前記コンピュータは、
前記太陽光発電装置の発電状態として逆潮流発生の有無を取得し、逆潮流が発生しているときに前記場所が晴天であると判定する
ことを特徴とする配電系統制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−147578(P2012−147578A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4008(P2011−4008)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】