説明

配電線系統の落雷事故算出装置、配電線系統の落雷事故算出方法、及び、プログラム

【課題】配電線系統全体の落雷事故を定量的に評価する指標をユーザに提供する配電線系統の落雷事故算出装置を提供する。
【解決手段】配電線系統モデルを設定するモデル設定部101と、配電線系統モデルの単位メッシュ内において発生される落雷に応じて、高圧クランプがいし間の電圧レベルが所定値を越えることでスパークオーバが発生したか、又は配電機器内部の線間若しくは該配電機器内部の線の対地間の電圧レベルが所定値を越えることでスパークオーバが発生したかを判定するスパークオーバ判定部104a、105aと、スパークオーバが発生したと判定したとき、落雷時からスパークオーバが発生するまでの発生時間を判定し、所定時間より短いか否かを比較することによって、配電線で落雷事故が発生したか、又は配電機器で落雷事故が発生したかを判定して出力する落雷事故判定部104b、105bとを備える

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単位領域で発生する落雷に応じて発生する配電線系統の落雷事故を算出する配電線系統の落雷事故算出装置、配電線系統の落雷事故算出方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の一部を構成する変電所は、その変電所に接続された配電線及び配電線近傍に落雷して配電線系統に短絡や地絡が発生した場合に、事故電流が流れ続けるのを防止するため、電力供給を停止する。このような電力供給の停止は、配電線系統の落雷事故となる。
【0003】
自然現象である雷は、供給支障を含む配電線系統の事故要因の一つであり、配電線には、このような配電線系統の落雷事故を防止する耐雷対策として、避雷器や架空地線などの各種耐雷機材を用いた対策を実施している。例えば、特許文献1には、耐雷設備の施設状況の変更に伴って将来起こりうる配電線雷事故数の変化を定量的に算出する配電線雷事故数の算出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−217541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1を含め、従来は、配電線雷事故数のみをリスク対象としており、配電線に接続された配電機器の故障リスクを定量的に評価することができなかった。
【0006】
これは、配電線系統において発生する落雷事故の多くが、配電線における高圧クランプがいし間で2相以上の地絡によってスパークオーバが発生し異相地絡短絡電流が流れることが原因であり、このような事象のみを配電線系統の落雷事故の対象としていたからである。
【0007】
このように、従来は、高圧クランプがいし間で2相以上の地絡によってスパークオーバが発生した場合のみを配電線系統の落雷事故として判定していたため、配電線事故以外の配電線系統で発生する落雷事故、例えば、変圧器や開閉器などのような、配電線に接続された配電機器の故障リスクを定量的に評価することができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、配電線で発生する落雷事故と、配電機器で発生する落雷事故とを含め、配電線系統全体の落雷事故を定量的に評価する指標をユーザに提供する配電線系統の落雷事故算出装置、配電線系統の落雷事故算出方法、及び、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明に係る配電線系統の落雷事故算出装置は、単位領域内を通過する配電線に設けられた配電機器の施設状況を示す配電機器施設率で決定される配電線系統モデルを設定する設定部と、設定部により設定された配電線系統モデルの単位領域内において発生される落雷に応じて、がいし間の電圧レベルが所定値を越えてスパークオーバが発生したか、又は配電機器内部の線間若しくは配電機器内部の線の対地間の電圧レベルが所定値を越えてスパークオーバが発生したかを判定するスパークオーバ判定部と、スパークオーバ判定部がスパークオーバが発生したと判定したとき、落雷時からスパークオーバが発生するまでの発生時間を計時し、所定時間より短いか否かを比較することによって、配電線で落雷事故が発生したか、又は配電機器で落雷事故が発生したかを判定し、判定結果を出力する落雷事故判定部とを備える。
【0010】
また、本発明に係る配電線系統の落雷事故算出方法は、単位領域内を通過する配電線に設けられた配電機器の施設状況を示す配電機器施設率で決定される配電線系統モデルを設定する設定ステップと、設定ステップにより設定された配電線系統モデルの単位領域内において発生される落雷に応じて、がいし間の電圧レベルが所定値を越えてスパークオーバが発生したか、又は配電機器内部の線間若しくは配電機器内部の線の対地間の電圧レベルが所定値を越えてスパークオーバが発生したかを判定するスパークオーバ判定ステップと、スパークオーバ判定ステップによりスパークオーバが発生したと判定したとき、落雷時からスパークオーバが発生するまでの発生時間を計時し、所定時間より短いか否かを比較することによって、配電線で落雷事故が発生したか、又は配電機器で落雷事故が発生したかを判定して出力する落雷事故判定ステップとを有する。
【0011】
また、本発明に係るプログラムは、電気通信回線、記録媒体を介して拡布されるプログラムであって、コンピュータにインストールされることで本発明に係る配電線雷事故発生率の算出方法をコンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、配電線と、配電機器とにおいて、落雷時からスパークオーバが発生する発生時間に時間差があることに着目して、落雷発生箇所が配電線か配電機器のどちらかであるかを定量的に算出することができる。このようにして、本発明によれば、配電線で発生する落雷事故と、配電機器で発生する落雷事故とを含め、配電線系統全体の落雷事故を定量的に評価可能な指標をユーザに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用された配電線系統の落雷事故算出装置が組み込まれるコンピュータの構成について説明するための図である。
【図2】配電線通過地域と、この配電線通過地域を区分した単位メッシュとを模式的に示す図である。
【図3】図3は、配電線系統モデルに施設される配電機器の具体例について説明するための図である。
【図4】図4は、高圧クランプがいしの配置について説明するための図である。
【図5】図3に示した変圧器に対応する等価回路モデルについて説明するための図である。
【図6】本発明が適用された落雷事故算出部の具体的な構成について説明するための図である。
【図7】図7(A)は、モデル設定部により設定された配電線系統モデルの具体例を示す図であり、図7(B)は、図7(A)に示すような配電線系統モデルに対して、直撃雷発生率が一致するという意味で等価な解析モデル系統を示す図である。
【図8】配電線系統の落雷事故発生率を算出する算出工程について説明するためのフローチャートである。
【図9】配電線系統の落雷事故発生率を算出する算出工程について説明するためのフローチャートである。
【図10】図10(A)は、雷撃電流の時間応答について説明するための図であり、図10(B)は、配電線のがいし間、及び、配電機器内部の線間のそれぞれの電圧の時間応答について説明するための図である。
【図11】図11(A)は、雷撃電流の時間応答について説明するための図であり、図11(B)は、配電線のがいし間、及び、配電機器内部の線間のそれぞれの電圧の時間応答について説明するための図である。
【図12】配電線通過領域を区分した単位メッシュの具体例について説明するための図である。
【図13】図13(A)は、「GWあり」、すなわち、架空地線施設率を100%としたときの、配電線で発生する落雷事故発生率「がいし間スパークオーバ事故」と、配電機器で発生する落雷事故発生率「機器故障事故」とを示す棒グラフである。また、図13(B)は、「GWなし」、すなわち、架空地線施設率を0%としたときの、配電線で発生する落雷事故発生率「がいし間スパークオーバ事故」と、配電機器で発生する落雷事故発生率「機器故障事故」とを示す棒グラフである。
【図14】図14(A)は、「GWあり」、すなわち、架空地線施設率を100%としたときの、配電線で発生する落雷事故発生率「がいし間スパークオーバ事故」と、配電機器で発生する落雷事故発生率「機器故障事故」とを示す棒グラフである。また、図14(B)は、「GWなし」、すなわち、架空地線施設率を0%としたときの、配電線で発生する落雷事故発生率「がいし間スパークオーバ事故」と、配電機器で発生する落雷事故発生率「機器故障事故」とを示す棒グラフである。
【図15】図15(A)及び図15(B)は、変圧器の設置高さ等の設置条件の変更をしたときの電圧応答の変化を説明するための図であって、図15(A)において設定されたインダクタンスL1、L2、L5は、それぞれ図15(B)において設定されたインダクタンスL1、L2、L5よりも大きな値を設定しており、設置条件の変更に伴うインダクタンスL1〜L5の変更により電圧応答が変化することを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明が適用された配電線系統の落雷事故算出装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。この算出装置は、配電線が通過する配電線通過地域が区分された単位領域で発生する落雷に応じて発生する配電線系統の落雷事故を算出する装置であり、例えば図1に示すような通常のコンピュータ1にソフトウェアをインストールすることによって実現されるものである。
【0015】
<全体構成について>
コンピュータ1は、ハードウェア構成として、キーボードやマウスなどのデータを入力するデータ入力部2と、データ入力部2に入力されたデータに応じて演算処理を行うCPUやRAM等で構成された演算部3と、各種データを管理するデータベースが構築されたハードディスクやフラッシュメモリなどの記憶部4と、演算部3による演算結果を表示するCRTディスプレイやLCDディスプレイなどの表示部5とを備えている。
【0016】
このコンピュータ1にインストールされるプログラムは、配電線系統の落雷事故に関する情報の算出処理をコンピュータに実行させるプログラムであり、記憶媒体やネットワークを介して拡布されてコンピュータにインストールされる。なお、この算出装置は、ハードウェアによって実現してもよい。
【0017】
配電線系統の落雷事故に関する情報を算出するため、記憶部4には、図2に示すように配電線が通過する配電線通過地域を区分した単位メッシュ毎の施設状況と落雷に関するデータを管理するメッシュ情報データベース4aと、単位メッシュ毎の落雷事故発生率を管理する落雷事故発生率情報データベース4bとが構築されている。
【0018】
メッシュ情報データベース4aは、単位メッシュにおける配電線系統の施設状況に関する情報として、例えば、単位メッシュ内を通過する配電線の線路長を示す線路密度と、配電線に設けられた配電機器の施設状況を示す配電機器施設率と、配電線に設けられた架空地線の施設状況を示す架空地線施設率とを管理している。また、メッシュ情報データベース4aは、単位メッシュ内を通過する配電線に設けられた全架空配電柱に対する避雷器施設柱の割合を示す避雷器施設率を管理している。ここで、配電線系統に施設される避雷器には、変圧器等の配電機器に内蔵されるZnO素子も含まれる。
【0019】
ここで、図3に配電線系統モデルに施設される配電機器の具体例を示す。図3は、架空地線21と、架空地線21より低い位置に施設された配電線22と、架空地線21と配電線22とを支持する電柱20と、電柱20に設けられ配電線22に印加されている電圧を変圧する変圧器23とを示している。ここで、変圧器23は、低圧線31と接地線32と接続され、変圧した電圧を接地線32を基準として低圧線31に印加する。
【0020】
また、電柱20は、高圧クランプがいし22aを介して配電線22を支持している。具体的に、高圧クランプがいし22aは、図4に示すように、一方の端部22a1が配電線22を保持し、他方の端部22a2が電柱20に支持されている。ここで、後述するように、高圧クランプがいし22a間の電圧レベルとは、端部22a1、22a2間の電圧レベル、換言すれば、配電線22の対地間の電圧レベルViを示すものとする。
【0021】
このように配電機器を変圧器として扱った場合、単位メッシュ内において、変圧器23が設けられた電柱20の数を、当該単位メッシュに設けられた電柱20の総数で除算した値が、配電機器施設率となる。また、単位メッシュ内において、架空地線21の旦長を配電線22の旦長で除算した値が、架空地線施設率となる。
【0022】
なお、本実施の形態では、説明の便宜上、変圧器のみを配電機器として扱うが、本発明は、これに限定されず、例えば電柱に施設される開閉器を配電機器として扱って、その施設率を考慮したり、複数種類の配電機器の施設率を考慮して、配電線系統の落雷事故算出処理を行うようにしてもよい。
【0023】
また、メッシュ情報データベース4aは、落雷に関するデータとして、単位メッシュ毎に、落雷数を管理している。さらに、メッシュ情報データベース4aは、単位メッシュ内の土地利用区分に関する情報を管理している。
【0024】
落雷事故発生率情報データベース4bは、後述する落雷事故算出部3aが、単位メッシュ毎に、メッシュ情報データベース4aを参照して算出する落雷事故発生率を管理している。
【0025】
データ入力部2は、ユーザによって操作入力されるキーボードやマウスであって、次のようなデータを入力する。データ入力部2は、上述したメッシュ情報データベース4aに、単位メッシュ毎に管理される各種値を入力し、入力された情報がメッシュ情報データベース4aで管理されるようにする。
【0026】
データ入力部2は、各単位メッシュ毎に、配電線系統の配電機器施設率と架空地線施設率とを入力する以外に、例えば図3に示したような、配電機器である変圧器23の設置状況に関する情報を入力してメッシュ情報データベース4aで管理されるようにすることが好ましい。
【0027】
具体的に、データ入力部2は、変圧器23の設置状況に応じた情報として、メッシュ情報データベース4aに対して、図5に示すような、インダクタンスの値L1〜L5[H]を入力することが好ましい。図5は、図3に示した変圧器23に対応する等価回路モデルを示している。ここで、インダクタンスL1は、配電線22と、変圧器23の一次巻線231との間の寄生インダクタンスである。インダクタンスL2は、変圧器23の二次巻線232、233の接続点Cと、接地線32との間の寄生インダクタンスである。インダクタンスL3は、変圧器23の二次巻線232と低圧線31との間の寄生インダクタンスである。インダクタンスL4は、変圧器23の二次巻線232と低圧線31との間の寄生インダクタンスである。インダクタンスL5は、変圧器23の二次巻線232、233の接続点Cと、当該変圧器23のケースアース23aとの間の寄生インダクタンスである。
【0028】
これらのインダクタンスL1〜L5は変圧器23の設置状況に応じた電気的な特性変化を表現するパラメータであって、例えば変圧器23に対する、配電線22、低圧線31、接地線32との間の相対的な距離に応じて決定される値である。また、これらのインダクタンスL1〜L5が変化することで、後述するように落雷時に印加される電圧応答特性が変動する。
【0029】
よって、データ入力部2は、変圧器23の設置状況に応じた情報として、図5に示すような、インダクタンスの値L1〜L5[H]を、メッシュ情報データベース4aに対して入力することで、より精度良く落雷時に発生する落雷事故を模擬することができるようにする。
【0030】
演算部3は、メッシュ情報データベース4aを参照して、各単位メッシュ毎に、配電線で発生する落雷事故発生率と、配電機器で発生する落雷事故発生率とを算出し、算出結果を、落雷事故発生率情報データベース4bに書き込む。具体的には、演算部3は、記憶部4に構築されたメッシュ情報データベース4aを参照して、配電線系統の落雷事故を算出する落雷事故算出部3aを備える。
【0031】
<落雷事故の算出処理について>
以上のような構成からなるコンピュータ1において、落雷事故算出部3aによって行われる落雷事故の算出処理を実現するための具体的な構成について説明する。
【0032】
落雷事故算出部3aは、落雷発生箇所が配電線か配電機器のどちらかであるかを判定して、配電線で発生する落雷事故と、配電機器で発生する落雷事故とを含めて、配電線系統全体の落雷事故を定量的に算出する。
【0033】
また、本実施形態において、落雷事故算出部3aは、単位メッシュで発生する落雷のうち、配電線系統に直撃する直撃雷を考慮して落雷事故となるかを考慮して落雷事故発生率を算出する。ここで、直撃雷とは架空地線、電力線、柱体、配電機器を含む配電線系統への雷撃であり、これに対して誘導雷とは配電線系統以外の雷撃である。
【0034】
なお、落雷発生箇所が配電線か配電機器のどちらかであるかを定量的に算出するためには、必ずしも直撃雷を考慮することを要しないが、特にこのような直撃雷を考慮することで精度良く落雷事故を判定することができる。
【0035】
落雷事故算出部3aは、配電機器で発生する落雷事故とを含めた配電線系統全体の落雷事故を定量的に算出するため、図6に示すような構成を有する。すなわち、落雷事故算出部3aは、単位メッシュの配電線系統モデルを設定するモデル設定部101と、直撃雷発生領域を算出する直撃雷発生領域算出部102と、単位メッシュで発生する落雷が配電線系統への直撃雷となるか否かを判定する直撃雷判定部103とを備える。また、落雷事故算出部3aは、配電線系統に直撃雷が発生することにより印加される電圧レベルによって落雷事故が発生するか否かを判定する直撃雷事故判定部104と、配電線系統に誘導雷が発生することにより印加される電圧レベルによって落雷事故が発生するか否かを判定する誘導雷事故判定部105とを備える。さらに、落雷事故算出部3aは、直撃雷事故判定部104及び誘導雷事故判定部105による判定結果に応じて落雷事故発生率を算出する落雷事故発生率算出部106を備える。
【0036】
モデル設定部101は、例えば、記憶部4のメッシュ情報データベース4aで管理されている情報を参照して、単位メッシュ内の配電機器の施設状況を示す配電機器施設率と、単位メッシュ内を通過する配電線の線路長を示す線路密度とで決定される配電線系統モデルを設定する。また、モデル設定部101は、記憶部4のメッシュ情報データベース4aで管理されている情報を参照して、単位メッシュ内の避雷器施設率を設定する。
【0037】
ここで、モデル設定部101は、落雷によって発生する配電線系統の落雷事故をより正確に模擬するため、記憶部4のメッシュ情報データベース4aを参照して、変圧器23の設置状況に応じた情報であるインダクタンスの値L1〜L5[H]に基づいて配電線系統モデルを設定することが好ましい。
【0038】
また、モデル設定部101は、落雷によって発生する配電線系統の落雷事故をより正確に模擬するため、単位メッシュ内の土地利用区分に関する情報を設定する。また、モデル設定部101は、記憶部4のメッシュ情報データベース4aを参照して、過去の所定期間に発生した落雷数を、単位メッシュ内で予測される落雷予測数として設定する。
【0039】
直撃雷発生領域算出部102は、モデル設定部101により設定された配電線系統モデルのうち避雷器または避雷器を内蔵した配電機器が施設されていない電柱間の配電線の線路長と、落雷の雷撃電流により決定される雷撃吸引距離とから、単位メッシュで発生する落雷のうち、この配電線系統モデルに直撃する直撃雷が発生する直撃雷発生領域を算出する。
【0040】
具体的に、直撃雷発生領域算出部102は、避雷器施設率がX%の場合、配電線のX%に相当する線路部分は周辺の建築物の遮蔽効果により直撃雷が発生しないものとし、避雷器、または避雷器を内蔵した配電機器が施設されていない残りの部分に下記の(数1)式を適用して直撃雷が発生する雷撃吸引範囲を算出する。ここで、避雷器施設率とは、上述したように、配電線に設けられた全架空配電柱に対する避雷器施設柱の割合を示し、具体的に避雷器には変圧器等に内蔵されるZnO素子も含まれる。
【0041】
【数1】

【0042】
ここで、Iは雷撃電流値である。
【0043】
例えば、モデル設定部101により図7(A)に示すような合計5つの配電柱300a〜300eからなる配電線系統モデル300が設定された場合、直撃雷発生領域算出部102は、避雷器Trが施設されていない配電柱300a〜300cに接続された配電線の線路長である0.6[km]と、雷撃吸引距離0.0776[km]との乗算結果から、図7(A)の斜線で示される矩形領域を直撃雷発生領域301として算出する。
【0044】
このようにして、落雷事故算出部3aでは、直撃雷発生領域算出部102により、図7(A)の斜線で示される直撃雷発生領域301を算出して、この直撃雷発生領域301を判定指標として直撃雷が発生するか否かを判定して、配電線系統の落雷事故発生率を算出することができる。
【0045】
図7(A)に示すような配電線系統モデル300を仮定して配電線系統の落雷事故を模擬することは可能であるものの、演算処理が複雑である。そこで、落雷事故の算出精度を保障しつつ上述した演算処理の簡略化を図るため、直撃雷発生領域算出部102は、図7(A)に示すような配電線系統モデル300に対して、直撃雷発生率が一致するという意味で等価な解析モデル系統400に変換することが好ましい。解析モデル系統400は、避雷器施設率と線路密度が配電線系統モデル300と同様な、合計5つの配電柱400a〜400eからなる配電線系統モデルである。直撃雷発生領域算出部102は、図7(B)に示すように、避雷器の有無にかかわらず全ての配電柱400a〜400eと接続された配電線の線路長と雷撃吸引距離とにより決まる直撃雷発生領域401を算出する。すなわち、直撃雷発生領域算出部102は、モデル設定部101により設定された配電線系統モデルの配電線の線路長と、下記の(数2)式に従って補正係数Cを乗じて補正した雷撃吸引距離rとから、解析モデル系統の直撃雷発生領域を算出する。
【0046】
【数2】

【0047】
ここで、補正係数Cは、配電線系統モデルの配電線の線路長と、(数2)式により得られる雷撃吸引距離との乗算値を単位メッシュの面積で除した値が、この配電線系統モデルのうち避雷器が施設されていない配電線の線路長と、(数1)式により得られる雷撃吸引距離とを乗じた乗算値を単位メッシュの面積で除して得られる直撃雷発生率と一致するように決定された値である。
【0048】
直撃雷発生領域算出部102は、まず、避雷器、または避雷器を内蔵した配電機器が施設されていない配電線の線路長と、(数1)式により得られる雷撃吸引距離とを乗じた乗算値を単位メッシュの面積で除して得られる直撃雷発生率を算出して、この算出結果を用いて補正係数Cを導出するようにしても良いし、予め避雷器施設率と線路密度に対応付けた補正係数Cを記憶した補正係数テーブル102aを設けていることで、更に演算処理工程の簡略化を図ることができる。
【0049】
直撃雷判定部103は、単位メッシュ内において発生される落雷位置が、直撃雷発生領域算出部102で算出される直撃雷発生領域であるか否かを判定する。そして、直撃雷判定部103は、判定結果を直撃雷事故判定部104及び誘導雷事故判定部105にそれぞれ通知する。
【0050】
直撃雷事故判定部104は、直撃雷判定部103が落雷位置が直撃雷発生領域であると判定したとき、配電線系統モデルに直撃雷が発生することにより印加される電圧レベルによって落雷事故が発生するか否かを判定する。これに対して、誘導雷事故判定部105は、直撃雷判定部103が落雷位置が直撃雷発生領域でないと判定したとき、配電線系統モデルに誘導雷が発生することにより印加される電圧レベルによって落雷事故が発生するか否かを判定する。
【0051】
具体的に、直撃雷事故判定部104は、配電線で発生する落雷事故と、配電機器で発生する落雷事故とを定量的に判断するため、スパークオーバ判定部104aと、落雷事故判定部104bとを備える。同様にして、誘導雷事故判定部105は、スパークオーバ判定部105aと、落雷事故判定部105bとを備える。
【0052】
スパークオーバ判定部104a、105aは、単位メッシュ内において発生される落雷に応じて、高圧クランプがいし間の電圧レベルが所定値を越えることでスパークオーバが発生したか、又は配電機器内部の線間若しくは配電機器内部の線の対地間の電圧レベルが所定値を越えることでスパークオーバが発生したかを判定する。
【0053】
すなわち、スパークオーバ判定部104a、105aは、上述した図3に示すように、高圧クランプがいし22aの端部22a1、22a2間の電圧レベルが所定値を越えたとき、スパークオーバが発生したと判定する。
【0054】
また、スパークオーバ判定部104a、105aは、配電機器内部の線間、例えば上述した図4に示すように、変圧器23の一次巻線231と二次巻線232、233との間の電圧レベルが所定値を越えたとき、スパークオーバが発生したとを判定する。あるいは、スパークオーバ判定部104a、105aは、配電機器内部の線の対地間、例えば変圧器23の一次巻線231とケースアース23aとの間の電圧レベルが所定値を越えたとき、スパークオーバが発生したとを判定する。
【0055】
なお、判定対象としては、配電機器内部の線間、及び、配電機器内部の線の対地間のうち、すくなくとも一方の電圧レベルを用いればよいが、配線機器内部の線間の方がスパークオーバの頻度が高い。よって、本実施形態では、便宜上、配電機器内部の線間の電圧レベルを判定対象として用いるものとして説明する。
【0056】
落雷事故判定部104b、105bは、それぞれ、スパークオーバ判定部104a、105aによりスパークオーバが発生したと判定したとき、落雷時からスパークオーバが発生するまでの発生時間を計時し、所定時間より短いか否かに応じて、配電線で落雷事故が発生したか、又は配電機器で落雷事故が発生したかを判定する。
【0057】
なお、直撃雷事故判定部104及び誘導雷事故判定部105では、EMTP過電圧解析モデルを用いて落雷による配電線系統モデルの動作を模擬することにより、落雷事故が発生するか否かを判定する。
【0058】
そして、直撃雷事故判定部104及び誘導雷事故判定部105では、配電線系統モデルに印加される電圧レベルによって配電線系統に落雷事故が発生するか否かを判定して、判定結果を落雷事故発生率算出部106に通知する。
【0059】
落雷事故発生率算出部106は、配電線系統モデルに対して、モデル設定部101により設定した単位メッシュ内で予測される落雷予測数の落雷を模擬的に発生させたときに、直撃雷事故判定部104及び誘導雷事故判定部105による判定結果に応じて落雷事故発生率を算出する。
【0060】
このようにして、落雷事故発生率算出部106は、任意の落雷位置、すなわち雷撃印加点に応じた1雷撃当たりの落雷事故発生率を求める。
【0061】
上記のような構成からなる落雷事故算出部3aでは、図8及び図9に示すフローチャートに従って、各処理部が次のような処理を行うことによって、配電線系統の落雷事故発生率を算出する。
【0062】
ステップST1において、落雷事故算出部3aには、モデル設定部101により設定された避雷器施設率と線路密度とが入力される。
【0063】
ステップST2において、直撃雷発生領域算出部102は、避雷器施設率と線路密度とから、補正係数テーブル102aを参照して、直撃雷発生率に基づく補正係数を導出する。
【0064】
ステップST3において、直撃雷発生領域算出部102は、避雷器施設率、線路密度、架空地線有無から解析モデル系統を選定して、補正係数と配電線路長とから解析モデル系統における直撃雷発生領域を算出する。
【0065】
続いて、落雷事故算出部3aは、EMTP過電圧解析モデルの解析条件を次のように設定する。すなわち、落雷事故算出部3aは、接地施設パターン、配電機器取付けパターンに応じて解析モデル系統の配電設備を順次設定する。ここで、落雷事故算出部3aは、変圧器23の設置状況に応じた情報であるインダクタンスの値L1〜L5[H]に基づいて配電線系統モデルの配電設備を設定する(ステップST4)。また、落雷事故算出部3aは、落雷時の雷電流の波高値を決定し(ステップST5)、雷電流の波頭長を決定し(ステップST6)、雷電流の波尾長を決定する(ステップS107)。また、落雷事故算出部3aは、ステップST8において、例えば、配電線上から垂直方向へ所定の刻み幅毎に離れていくように落雷位置を順次設定する。
【0066】
以上のようにして設定されたEMTP過電圧解析モデルに対して、直撃雷判定部103は、落雷位置から配電線までの落雷距離を算出して(ステップST9)、落雷距離と補正係数Cにより補正された雷撃吸引距離とを比較して、直撃雷発生領域に落雷して直撃雷となるか否かを判定する(ステップST10)。ここで、直撃雷となるときステップST10に進み、直撃雷ではなく誘導雷となるときステップST11に進む。
【0067】
ステップST11において、直撃雷事故判定部104は、EMTP過電圧解析モデルに直撃雷を発生させ、ステップST12において、EMTP過電圧解析モデルの配電線の高圧クランプがいし間に印加される電圧応答と、配電機器内部の線間に印加される電圧応答とを模擬して、ステップST15に進む。
【0068】
ステップST13において、誘導雷事故判定部105は、EMTP過電圧解析モデルに誘導雷を発生させ、ステップST14において、EMTP過電圧解析モデルの配電線の高圧クランプがいしに印加される電圧応答と、配電機器内部の線間に印加される電圧応答とを模擬して、ステップST15に進む。
【0069】
ステップST15において、スパークオーバ判定部104a、105aは、高圧クランプがいし間の電圧レベルが所定値を越えることでスパークオーバが発生したか、又は配電機器内部の線間の電圧レベルが所定値を越えることでスパークオーバが発生したかを判定して、ステップST16に進む。
【0070】
ステップST16において、落雷事故判定部104b、105bは、スパークオーバ判定部104a、105aがスパークオーバが発生したと判定したとき、落雷時からスパークオーバが発生するまでの発生時間を計時して、ステップST17に進む。
【0071】
ステップST17において、落雷事故判定部104b、105bは、所定時間より短いか否かに応じて、配電線で落雷事故が発生したか、又は配電機器で落雷事故が発生したかを判定する。
【0072】
例えば、図10(A)に示すような、任意の整数をxとして、波高値がx[kA]となる落雷が発生したときには、図10(B)に示すように、配電線のがいし間において落雷からスパークオーバが発生する時間ta1よりも、配電機器内部の線間において落雷からスパークオーバが発生する時間tb1の方が短い。よって、波高値がx[kA]の場合、上記のステップST17において、落雷事故判定部104b、105bは、tb1<tc1<ta1を満たすようなtc1を閾値として、落雷時からスパークオーバの発生する時間がtc1より短いか否かを判定して、短いときは配電機器で落雷事故が発生したと判定し、短くないときは配電線で落雷事故が発生したと判定する。
【0073】
また、図11(A)に示すような、波高値が2x[kA]となる落雷が発生したときには、図11(B)に示すように、配電機器内部の線間において落雷からスパークオーバが発生する時間tb2よりも、配電線のがいし間において落雷からスパークオーバが発生する時間ta2の方が短い。よって、波高値が2x[kA]の場合、上記のステップST17において、落雷事故判定部104b、105bは、ta2<tc2<tb2を満たすようなtc2を閾値として、落雷時からスパークオーバの発生する時間がtc2より短いか否かを判定して、短いときは配電線で落雷事故が発生したと判定し、短くないときは配電機器で落雷事故が発生したと判定する。
【0074】
以上のような判定処理の後、配電線で落雷事故が発生したと判定したときはステップS18に進み、配電機器で落雷事故が発生したと判定したときはステップS19に進む。
【0075】
ステップST18において、落雷事故発生率算出部106は、配電線の落雷事故発生数の値に1を足しあわせて更新して、ステップS20に進む。
【0076】
ステップST19において、落雷事故発生率算出部106は、配電機器の落雷事故発生数の値に1を足しあわせて更新して、ステップS20に進む。
【0077】
ステップS20において、落雷事故発生率算出部106は、落雷試行回数が、雷撃電流、接地施設パターン、配電機器取付けパターン、及び、落雷位置パターンなどにより決定される最大試行数に達したか否かを判断する。落雷事故発生率算出部106は、落雷試行回数が最大試行数に達するまで、ステップST4に戻って繰り返しステップST4乃至ステップST20の処理を行い、落雷試行回数が最大試行数になるとステップST21に進む。
【0078】
ステップST21において、落雷事故発生率算出部106は、各単位メッシュ毎に、配電線の落雷事故発生数を落雷試行回数で除算し、配電線の落雷事故発生率を算出する。また、落雷事故発生率算出部106は、各単位メッシュ毎に、配電機器の落雷事故発生数を落雷試行回数で除算し、配電機器の落雷事故発生率を算出する。さらに、落雷事故発生率算出部106は、配電線の落雷事故発生率と、配電機器の落雷事故発生率とを合算して、配電線系統全体の落雷事故発生率を算出して、ステップST22に進む。
【0079】
ステップST22において、落雷事故発生率算出部106は、モデル設定部101により設定された土地利用区分に関する情報から、各単位メッシュ毎に、配電線系統モデルが森林地区であるか否かを判断して、現在算出対象の単位メッシュが、森林地区であるときステップST23に進み、それ以外のとき本処理工程を終了する。
【0080】
ステップST23において、落雷事故発生率算出部106は、ステップST21により算出した落雷事故発生確率を1/2倍して、本処理工程を終了する。
【0081】
ここで、落雷事故発生確率を1/2倍にするのは、森林地区がその他の地区と比較して落雷事故発生確率が1/2程度であるからである。
【0082】
このようにして、落雷事故発生率算出部106は、配電線周辺の樹木による雷遮蔽効果を考慮して、より精度良く落雷事故発生率を算出することができる。なお、上述した「森林地区」の具体例に限定されず、落雷事故発生確率を、上述した各地域の実測結果に基づいた土地利用区分に関する情報で決まる区分特性係数で除して出力することで精度良く落雷事故発生率を算出することができる。
【0083】
また、落雷事故発生率算出部106は、単位メッシュ毎に算出した落雷事故発生確率に、対応する単位メッシュの落雷予測数を乗算することで、過去の落雷実績に基づいた落雷事故予測数を算出するようにしてもよい。
【0084】
以上のようにして、落雷事故算出部3aでは、配電線と、配電機器とにおいて、落雷時からスパークオーバが発生する発生時間に時間差があることに着目して、落雷発生箇所が配電線か配電機器のどちらかであるかを定量的に算出することができる。このようにして、本発明によれば、配電線で発生する落雷事故と、配電機器で発生する落雷事故とを含め、配電線系統全体の落雷事故を定量的に評価可能な指標をユーザに提供することができる。
【0085】
具体例として、図12に示すように、配電線通過地域500を4×4個の単位メッシュ501に区分して、それぞれメッシュ番号1〜16を付し、下記の表1のような配電設備の施設状況とする。
【0086】
【表1】

【0087】
上記の表1に示したような配電設備の施設状況に基づいて配電線系統モデルを設定すると、落雷事故算出部3aでは、図13に示すように、各単位メッシュ毎の落雷事故発生率を算出することができる。
【0088】
ここで、図13(A)は、「GWあり」、すなわち、架空地線施設率を100%としたときの、配電線で発生する落雷事故発生率「がいし間スパークオーバ事故」と、配電機器で発生する落雷事故発生率「機器故障事故」とを示す棒グラフである。また、図13(B)は、「GWなし」、すなわち、架空地線施設率を0%としたときの、配電線で発生する落雷事故発生率「がいし間スパークオーバ事故」と、配電機器で発生する落雷事故発生率「機器故障事故」とを示す棒グラフである。
【0089】
なお、表1で示される設備状況のパラメータとして、架空地線施設率では、0%乃至100%の値が示されいる。よって、表1で示される各単位メッシュの架空地線施設率の影響を反映させた落雷事故発生率については、図13(A)と図13(B)とでそれぞれ示す落雷事故発生率の値を、架空地線施設率に基づく重み付け加算することによって評価可能である。
【0090】
このような図13の評価結果に対する、比較例として、落雷時からスパークオーバが発生する発生時間に時間差を考慮することなく、高圧クランプがいし間の電圧レベルが所定値を越えることでスパークオーバが発生したかのみを判定した場合の評価結果を図14に示す。
【0091】
ここで、図14(A)は、「GWあり」、すなわち、架空地線施設率を100%としたときの、配電線で発生する落雷事故発生率「がいし間スパークオーバ事故」と、配電機器で発生する落雷事故発生率「機器故障事故」とを示す棒グラフである。また、図14(B)は、「GWなし」、すなわち、架空地線施設率を0%としたときの、配電線で発生する落雷事故発生率「がいし間スパークオーバ事故」と、配電機器で発生する落雷事故発生率「機器故障事故」とを示す棒グラフである。
【0092】
これらの図13、及び図14から明らかなように、落雷事故算出部3aでは、配電線で発生する落雷事故と、配電機器で発生する落雷事故とを含め、配電線系統全体の落雷事故を定量的に評価可能な指標をユーザに提供することができる。
【0093】
また、落雷事故算出部3aでは、図10及び図11で示したように、落雷事故判定部104b、105bが、落雷時からスパークオーバが発生するまでの発生時間が、波高値に応じた所定時間より短いか否かを比較することによって、配電線で落雷事故が発生したか、又は配電機器で落雷事故が発生したかを判定することで、精度良く落雷事故数の算出を模擬することができる。
【0094】
また、落雷事故算出部3aでは、配電線系統モデルを設定するに際して、インダクタンスL1〜L5とのうち、少なくとも一のインダクタンスの値を設定することにより、変圧器23の設置状況を考慮した、落雷事故の算出処理を行うことができる。このような算出処理を行うことは、精度良く落雷事故数の算出を模擬する観点から特に好ましい。
【0095】
例えば、インダクタンスL1〜L5のうち、インダクタンスL1、L2、L5については、変圧器の設置位置に応じて変化する。このような変圧器の設置高さ等の設置条件の変更をしたときの電圧応答の変化について図15を参照して説明する。
【0096】
すなわち、図15は、変圧器の設置高さ等の設置条件の変更をしたときの電圧応答の変化を説明するための図であり、図15(A)において設定されたインダクタンスL1、L2、L5は、それぞれ図15(B)において設定されたインダクタンスL1、L2、L5よりも大きな値を設定しており、設置条件の変更に伴うインダクタンスL1〜L5の変更により電圧応答が変化することを説明する図である。
【0097】
このような図15(A)、及び図15(B)から明らかなように、インダクタンスL1〜L5を変更することで、配電線の電圧時間応答と配電機器内部の線間の電圧時間応答が大きく変化する。
【0098】
このような応答変化を考慮して、落雷事故算出部3aでは、インダクタンスL1〜L5に基づいて、配電線でスパークオーバが発生するまでの発生時間と、配電機器内部の線間でスパークオーバが発生するまでの発生時間とを設定し、この設定した発生時間に基づいて、ステップST16、ST17の処理を行うことで、精度良く落雷事故数の算出を模擬することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 コンピュータ、2 データ入力部、3 演算部、3a 落雷事故算出部、4 記憶部、4a メッシュ情報データベース、4b 落雷事故発生率情報データベース、5 表示部、20 電柱、21 架空地線、22 配電線、22a 高圧クランプがいし、22a1、22a2 端部、23 変圧器、231 一次巻線、232、233 二次巻線、23a ケースアース、31 低圧線、31 低圧線、32 接地線、101 モデル設定部、102 直撃雷発生領域算出部、102a 補正係数テーブル、103 直撃雷判定部、104 直撃雷事故判定部、105 誘導雷事故判定部、104a、105a スパークオーバ判定部、104b、105b 落雷事故判定部、106 落雷事故発生率算出部、300 配電線系統モデル、300a−300e、400a−400e 配電柱、301、401 直撃雷発生領域、400 解析モデル系統、500 配電線通過地域、501 単位メッシュ、600 接地施設、700 避雷器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位領域内を通過する配電線に設けられた配電機器の施設状況を示す配電機器施設率で決定される配電線系統モデルを設定する設定部と、
上記設定部により設定された配電線系統モデルの上記単位領域内において発生される落雷に応じて、がいし間の電圧レベルが所定値を越えてスパークオーバが発生したか、又は上記配電機器内部の線間若しくは該配電機器内部の線の対地間の電圧レベルが所定値を越えてスパークオーバが発生したかを判定するスパークオーバ判定部と、
上記スパークオーバ判定部がスパークオーバが発生したと判定したとき、落雷時からスパークオーバが発生するまでの発生時間を計時し、所定時間より短いか否かを比較することによって、上記配電線で落雷事故が発生したか、又は上記配電機器で落雷事故が発生したかを判定し、判定結果を出力する落雷事故判定部とを備える配電線系統の落雷事故算出装置。
【請求項2】
上記配電線系統モデルに所定数の落雷を発生させたときに、上記落雷事故判定部による判定結果に応じて、上記配電線の落雷事故発生率と上記配電機器の落雷事故発生率とを、上記単位領域毎に算出して出力する落雷事故発生率算出部を更に備える請求項1記載の配電線系統の落雷事故算出装置。
【請求項3】
上記設定部は、更に、落雷時の雷電流の波高値を設定し、
上記落雷事故判定部は、落雷時からスパークオーバが発生するまでの発生時間を計時し、上記設定部により設定された波高値に応じた所定時間より短いか否かを比較して、上記配電線で落雷事故が発生したか、又は上記配電機器で落雷事故が発生したかを判定して出力する請求項1記載の配電線系統の落雷事故算出装置。
【請求項4】
上記設定部は、上記配電機器施設率として、上記配電線に接続される変圧器の施設率を設定する請求項1記載の配電線系統の落雷事故算出装置。
【請求項5】
上記設定部は、上記配電線と接続される変圧器の一次巻線との間のインダクタンス、該変圧器の二次巻線と該二次巻線に接続された低圧配線との間のインダクタンス、及び、該変圧器の二次巻線と接地間のインダクタンスとのうち、少なくとも一のインダクタンスの値を設定する請求項4記載の配電線系統の落雷事故算出装置。
【請求項6】
単位領域内を通過する配電線に設けられた配電機器の施設状況を示す配電機器施設率で決定される配電線系統モデルを設定する設定ステップと、
上記設定ステップにより設定された配電線系統モデルの上記単位領域内において発生される落雷に応じて、がいし間の電圧レベルが所定値を越えてスパークオーバが発生したか、又は上記配電機器内部の線間若しくは該配電機器内部の線の対地間の電圧レベルが所定値を越えてスパークオーバが発生したかを判定するスパークオーバ判定ステップと、
上記スパークオーバ判定ステップによりスパークオーバが発生したと判定したとき、落雷時からスパークオーバが発生するまでの発生時間を計時し、所定時間より短いか否かを比較することによって、上記配電線で落雷事故が発生したか、又は上記配電機器で落雷事故が発生したかを判定して出力する落雷事故判定ステップとを有する配電線系統の落雷事故算出方法。
【請求項7】
単位領域内を通過する配電線に設けられた配電機器の施設状況を示す配電機器施設率で決定される配電線系統モデルを設定する設定ステップと、
上記設定ステップにより設定された配電線系統モデルの上記単位領域内において発生される落雷に応じて、がいし間の電圧レベルが所定値を越えてスパークオーバが発生したか、又は上記配電機器内部の線間若しくは該配電機器内部の線の対地間の電圧レベルが所定値を越えてスパークオーバが発生したかを判定するスパークオーバ判定ステップと、
上記スパークオーバ判定ステップによりスパークオーバが発生したと判定したとき、落雷時からスパークオーバが発生するまでの発生時間を計時し、所定時間より短いか否かを比較することによって、上記配電線で落雷事故が発生したか、又は上記配電機器で落雷事故が発生したかを判定して出力する落雷事故判定ステップとを有する配電線系統の落雷事故算出処理をコンピュータに実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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