説明

酢酸に富むフラッシュ流を与えるメタノールをカルボニル化するための方法及び装置

(a)第VIII族金属触媒及びヨウ化メチル促進剤の存在下でメタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化して、酢酸、水、酢酸メチル、及びヨウ化メチルを含む液体反応混合物を生成させ;(b)液体反応混合物を、供給温度において、減圧下に保持したフラッシュ容器に供給し;(c)同時に反応混合物をフラッシングしながらフラッシュ容器を加熱して、粗生成物蒸気流を生成させる;ことを含み、粗生成物蒸気流の温度が、フラッシャーへの液体反応混合物の供給温度よりも32.2℃(90°F)未満低い温度に保持され、粗生成物蒸気流中の酢酸の濃度が粗生成物蒸気流の70重量%よりも大きくなるように、反応混合物を選択し、フラッシュ容器へ供給する反応混合物の流速、並びにフラッシュ容器へ供給する熱の量を制御する、酢酸を製造するためのカルボニル化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この通常出願は、2008年4月29日出願の同じ表題の米国特許出願12/150,481の出願日の利益を主張する。したがって、米国特許出願12/150,481の優先権を主張し、その開示事項は参照として本出願中に包含する。
【0002】
本発明は、フラッシュ容器を加熱して一般的に300°Fより高い上昇したフラッシュ蒸気温度を保持することによって与えられる改良された効率性を有する酢酸製造に関する。本発明によれば、粗生成物流中の酢酸の相対含量が増加し、精製の障害が除かれる。
【背景技術】
【0003】
メタノールのカルボニル化による酢酸の製造は、当該技術において周知である。一般的に、メタノールカルボニル化製造ラインは、反応器、フラッシャー、精製、及び再循環を含む。反応器セクションにおいては、反応器内の均一な撹拌液相反応媒体中において、メタノール及び一酸化炭素をロジウム又はイリジウム触媒と接触させて酢酸を製造する。メタノールを、メタノールサージタンクから反応器へポンプ移送する。このプロセスは高効率であり、典型的には99%より大きいメタノールの酢酸への転化率を有する。反応混合物から粗生成物を取り出すために、反応器に接続したフラッシュ容器によってドロー流をフラッシングする。粗生成物は、一般に軽質留分又はストリッパーカラム、乾燥カラム、補助精製及び場合によっては仕上げカラムを含む精製セクションに供給する。このプロセスにおいては、軽質留分、特にヨウ化メチル、一酸化炭素、及び酢酸メチルを含む種々の排出流が生成し、これを軽質留分回収セクションに供給する。これらの排出流は、溶媒でスクラビングして軽質留分を取り出し、これはシステムに戻すか又は廃棄する。
【0004】
カルボニル化製造プロセスにおいて用いられるフラッシュ容器は、加熱してもよく又は加熱しなくてもよいことが、種々の参照文献において示されている。Clodeらの米国特許5,874,610、2欄20〜54行;Clodeらの米国特許5,750,007、2欄40〜51行;及びClodeらの米国特許5,990,347、2欄50〜57行を参照。また、80℃〜180℃のフラッシュ温度を開示するYonedaらの米国特許6,066,762(16欄、40〜44行)も参照。しかしながら、酢酸プロセスにおいて、比較的狭い範囲内の温度制御を用いて粗生成物流の酢酸含量を大きく増加させることができることは認められていなかった。従来のシステムにおいては、フラッシングは典型的には断熱的に行い、粗生成物の蒸発熱のために供給流に対して大きな温度低下が起こる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許5,874,610
【特許文献2】米国特許5,750,007
【特許文献3】米国特許5,990,347
【特許文献4】米国特許6,066,762
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
予期しなかったことに、本発明によれば、フラッシャー容器への適度な熱の導入によって粗生成物流中の酢酸の濃度を大きく増加させて、精製及び再循環の必要性を減少させることができることが確認された。この発見は当業者に直感的に明らかなものではない。理論に縛られることは意図しないが、上昇したフラッシュ温度によってより多くの酢酸が蒸発するが、粗生成物蒸気流にフラッシングされる軽質留分(ヨウ化メチル、酢酸メチル)の量に対しては少ししか効果を有しないと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して、本発明の一形態においては、(a)第VIII族金属触媒及びヨウ化メチル促進剤の存在下でメタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化して、酢酸、水、酢酸メチル、及びヨウ化メチルを含む液体反応混合物を生成させ;(b)液体反応混合物を、減圧下に保持したフラッシュ容器に供給し;(c)同時に反応混合物をフラッシングしながらフラッシュ容器を加熱して、粗生成物蒸気流を生成させる;ことを含み、粗生成物蒸気流の温度が300°Fよりも高い温度に保持され、粗生成物蒸気流中の酢酸の濃度が流れの70重量%よりも大きくなるように、反応混合物を選択し、フラッシュ容器への反応混合物の流速、並びにフラッシュ容器へ供給する熱の量を制御する、酢酸を製造するためのカルボニル化方法が提供される。
【0008】
更なる詳細及び有利性は、以下の議論から明らかになるであろう。
以下において、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図において、同じ数字は同様の部品を示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、精製装置を有するメタノールカルボニル化装置を示す概略図である。
【図2】図2は、反応器からフラッシャーへ熱を与えるための熱交換器、及び反応器とフラッシャーとの間にコンバーター容器が与えられている、反応器及びフラッシャー容器の他の配置を示す概略図である。
【図3】図3は、図1及び2の装置の操作を図式的に示すフロー図である。
【図4】図4は、フラッシャー温度の関数としての粗生成物蒸気濃度を示すグラフである。
【図5】図5は、フラッシュ液の組成とフラッシャー温度との関係を示すプロットである。
【図6】図6は、フラッシュ蒸気中の種々の成分の標準化質量流速とフラッシュ温度とのプロットである。
【図7】図7は、種々の流れの質量流速とフラッシュ温度とのプロットである。
【図8】図8は、加熱したフラッシャーのエネルギー消費及びコストと温度との関係を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、例示及び説明のみの目的のための多数の態様を参照して本発明を詳細に説明する。特許請求の範囲において示す本発明の精神及び範囲内における特定の態様に対する修正は、当業者に容易に明らかとなろう。
【0011】
以下により具体的に定義しない限りにおいて、ここで用いる用語はその通常の意味で与えられる。%、ppmなどは、他に示さない限りにおいて重量%及び重量ppmを指す。
「減圧」とは、反応容器のものよりも低い圧力を指す。
【0012】
フラッシングにかける「同様の」流れとは、フラッシュ蒸気中に同じ流速の酢酸を有する生成物流を生成する同じ組成の供給流を指す。表1〜7を参照。
フラッシャーへの反応混合物の供給温度は、実施上、フラッシャーの入口の付近の高圧側で測定する。任意の好適な器具を用いることができる。
【0013】
粗生成物蒸気流の温度は、実施上、フラッシャー容器の蒸気出口の付近で測定する。
本発明に関連して用いる第VIII族触媒金属は、ロジウム及び/又はイリジウム触媒であってよい。ロジウム金属触媒は、当該技術において周知なようにロジウムが[Rh(CO)アニオンを含む平衡混合物として触媒溶液中に存在するような任意の好適な形態で加えることができる。ロジウム溶液を反応器の一酸化炭素に富む雰囲気中に存在させると、ロジウム/ヨウ化カルボニルアニオン種は水及び酢酸中に概して可溶であるので、ロジウムの可溶性が概して保持される。しかしながら、フラッシャー、軽質留分カラムなどの中に通常存在するような一酸化炭素に乏しい雰囲気に移すと、より少ない一酸化炭素しか利用できないので、ロジウム/触媒の平衡組成が変化する。ロジウムは、例えばRhIとして沈殿する。反応器の下流における同伴ロジウムの形態に関する詳細は良く理解されていない。ヨウ化物塩は、当業者によって認められるように、所謂「低水分」条件下におけるフラッシャー内での沈殿の軽減を促進する。
【0014】
ここで記載するプロセスの反応混合物中に保持されるヨウ化物塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の可溶性塩、或いは第4級アンモニウム又はホスホニウム塩の形態であってよい。特定の態様においては、触媒共促進剤は、ヨウ化リチウム、酢酸リチウム、又はこれらの混合物である。塩共促進剤は、ヨウ化物塩を生成する非ヨウ化物塩又はリガンドとして加えることができる。ヨウ化物触媒安定剤は、反応系中に直接導入することができる。或いは、反応系の運転条件下においては、広範囲の非ヨウ化物塩前駆体がヨウ化メチルと反応して対応する共促進剤であるヨウ化物塩安定剤を生成するので、ヨウ化物塩をその場で生成させることができる。ヨウ化物塩の生成に関する更なる詳細に関しては、Smithらの米国特許5,001,259;Smithらの5,026,908;及びこれもSmithらの5,144,068(これらの開示事項は参照として本明細書中に包含する)を参照。ヨウ化物塩は、所望の場合にはホスフィン酸化物又は任意の有機リガンドとして加えることができる。これらの化合物及び他のリガンドは、一般にヨウ化メチルの存在下において昇温下で4級化を受けて好適な塩を生成し、これによってヨウ化物アニオンの濃度が保持される。
【0015】
液体カルボニル化反応組成物中のイリジウム触媒は、液体反応組成物中に可溶の任意のイリジウム含有化合物を含んでいてよい。イリジウム触媒は、液体反応組成物中に溶解するか、又は可溶性形態に転化させることができる任意の好適な形態で、カルボニル化反応のための液体反応組成物に加えることができる。液体反応組成物に加えることができる好適なイリジウム含有化合物の例としては、IrCl、IrI、IrBr、[Ir(CO)I]、[Ir(CO)Cl]、[Ir(CO)Br]、[Ir(CO)、[Ir(CO)Br、[Ir(CO)、[Ir(CH)I(CO、Ir(CO)12、IrCl・3HO、IrBr・3HO、Ir(CO)12、イリジウム金属、Ir、Ir(acac)(CO)、Ir(acac)、酢酸イリジウム、[IrO(OAc)(HO)][OAc]、及びヘキサクロロイリジウム酸[HIrCl]が挙げられる。通常は、酢酸塩、シュウ酸塩、及びアセト酢酸塩のような塩化物を含まないイリジウムのコンプレックスを出発物質として用いる。液体反応組成物中のイリジウム触媒の濃度は、100〜6000ppmの範囲であってよい。イリジウム触媒を用いるメタノールのカルボニル化は周知であり、以下の米国特許:5,942,460;5,932,764;5,883,295;5,877,348;5,877,347;及び5,696,284(これらの開示事項は参照としてそれらの全てを示されているように本出願中に包含する)に一般的に記載されている。
【0016】
ヨウ化メチルは促進剤として用いる。好ましくは、液体反応組成物中のメチルの濃度は、1〜50重量%、好ましくは2〜30重量%の範囲である。
促進剤は、塩安定剤/共促進剤化合物と組み合わせることができ、これとしては第IA族又はIIA族の金属の塩、或いは第4級アンモニウム又はホスホニウム塩を挙げることができる。ヨウ化物又は酢酸塩、例えばヨウ化リチウム又は酢酸リチウムが特に好ましい。
【0017】
ヨーロッパ特許公開EP 0849248(その開示事項は参照として本明細書中に包含する)に記載されているような他の促進剤及び共促進剤を、本発明の触媒系の一部として用いることができる。好適な促進剤は、ルテニウム、オスミウム、タングステン、レニウム、亜鉛、カドミウム、インジウム、ガリウム、水銀、ニッケル、白金、バナジウム、チタン、銅、アルミニウム、スズ、アンチモンから選択され、より好ましくはルテニウム及びオスミウムから選択される。米国特許6,627,770(その全てを参照として本明細書中に包含する)に特定の共促進剤が記載されている。
【0018】
促進剤は、液体反応組成物及び/又は酢酸回収段階からカルボニル化反応器へ再循環される全ての液体プロセス流中におけるその溶解度の限界値以下の有効量で存在させることができる。用いる場合には、促進剤は、好適には、[0.5〜15]:1、好ましくは[2〜10]:1、より好ましくは[2〜7.5]:1の促進剤と金属触媒とのモル比で液体反応組成物中に存在させる。好適な促進剤の濃度は400〜5000ppmである。
【0019】
本発明は、例えば、反応溶媒(典型的には酢酸)、メタノール及び/又はその反応性誘導体、可溶性ロジウム触媒、少なくとも有限濃度の水を含む均一な触媒反応系中での一酸化炭素によるメタノールのカルボニル化と関連して理解することができる。カルボニル化反応は、メタノール及び一酸化炭素を反応器に連続的に供給すると進行する。一酸化炭素反応物質は、実質的に純粋であってよく、或いは二酸化炭素、メタン、窒素、希ガス、水、及びC〜Cパラフィン系炭化水素のような不活性不純物を含んでいてもよい。一酸化炭素中に存在し、及び水性ガスシフト反応によってその場で生成する水素の存在は、水素化生成物の形成を引き起こす可能性があるので、好ましくは例えば1bar未満の低い分圧に保持する。反応中の一酸化炭素の分圧は、好適には、1〜70bar、好ましくは1〜35bar、最も好ましくは1〜15barの範囲である。
【0020】
カルボニル化反応の圧力は、好適には、10〜200bar、好ましくは10〜100bar、最も好ましくは15〜50barの範囲である。カルボニル化反応の温度は、好適には、100〜300℃の範囲、好ましくは150〜220℃の範囲である。酢酸は、典型的には、液相反応で、約150〜200℃の温度及び約20〜約50barの全圧において製造する。
【0021】
酢酸は、典型的には反応のための溶媒として反応混合物中に含ませる。
好適なメタノールの反応性誘導体としては、酢酸メチル、ジメチルエーテル、ギ酸メチル、及びヨウ化メチルが挙げられる。メタノール及びその反応性誘導体の混合物を、本発明方法において反応物質として用いることができる。好ましくは、反応物質としてメタノール及び/又は酢酸メチルを用いる。メタノール及び/又はその反応性誘導体の少なくとも一部は、液体反応組成物中において、酢酸生成物又は溶媒との反応によって酢酸メチルに転化し、したがって酢酸メチルとして存在する。液体反応組成物中の酢酸メチルの濃度は、好適には、0.5〜70重量%、好ましくは0.5〜50重量%、より好ましくは1〜35重量%、最も好ましくは1〜20重量%の範囲である。
【0022】
水は、例えばメタノール反応物質と酢酸生成物との間のエステル化反応によって、液体反応組成物中においてその場で形成することができる。水は、液体反応組成物の他の成分と一緒か又は別々にカルボニル化反応器に導入することができる。水を反応器から排出される反応組成物の他の成分から分離して、液体反応組成物中における水の求められる濃度を保持するように制御された量で再循環することができる。好ましくは、液体反応組成物中に保持する水の濃度は、0.1〜16重量%、より好ましくは1〜14重量%、最も好ましくは1〜10重量%の範囲である。
【0023】
反応液体は、典型的には反応器から抜き出して、以下に記載するように、コンバーター及びフラッシュ容器を用いて1段階又は多段階プロセスでフラッシングする。フラッシャーからの粗蒸気プロセス流は、一般に少なくとも軽質留分カラム及び脱水カラムを含む精製システムに送る。
【0024】
本発明は更に、典型的なカルボニル化方法及び装置を示す概要図である図1を参照することによって理解することができる。図1においては、メタノールサージタンク16及び一酸化炭素供給ライン18を含む供給システム14を備える反応器12を含むカルボニル化システム10が示されている。触媒貯留器システムは、ヨウ化メチル貯留容器20及び触媒貯留タンク22を含む。反応器12には、排気管24及び場合によっては排気管24aが備えられている。反応器12は、導管28によって、及び場合によっては排気管24aによってフラッシュ容器26に接続されている。フラッシャーは、軽質留分又はストリッパーカラム32、脱水カラム34、及び生成物からヨウ化物を除去する強酸銀交換カチオン性イオン交換樹脂床36を含む精製セクション30に接続されている。銀交換強酸カチオン性イオン交換樹脂に代えて、アニオン性イオン交換樹脂を用いてヨウ化物を除去することができることが報告されている。英国特許G2112394A、及び米国特許5,416,237、7欄54行以下(ヨウ化物除去のために4−ビニルピリジン樹脂を使用することを教示する)を参照。
【0025】
典型的には、反応器の頭部から気体状パージ流を排気して、メタン、二酸化炭素、及び水素のような気体状副生成物の蓄積を抑止し、与えられた全反応器圧において所定の一酸化炭素分圧を保持する。場合によっては(中国特許ZL92108244.4に示されているように)、所謂「コンバーター」反応器を、図1に示し、図2と関連して更に議論する反応器とフラッシャー容器との間に配置して用いることができる。場合によっては、フラッシャーのベース液又は軽質留分カラムの下部を通して気体状パージ流を排気してロジウムの安定性を向上させることができ、及び/又はこれらをスクラビングする前に他の気体状プロセス排気流(例えば精製カラム塔頂流受容器排気流)と混合することができる。これらの変更は、特許請求の範囲及び下記の記載から認められるように十分に本発明の範囲内である。
【0026】
当業者に認められるように、精製装置において遭遇する異なる化学的雰囲気によって異なる金属が必要な可能性がある。例えば、軽質留分カラムの出口における装置は、プロセス流の腐食性のためにおそらくはジルコニウム容器が必要であり、一方、条件がさほど腐食性でない脱水カラムの下流に配置される装置に関してはステンレススチールの容器で十分である可能性がある。
【0027】
一酸化炭素及びメタノールは、高い一酸化炭素分圧で、適当な混合を行いながら反応器12中に連続的に導入する。反応器から非凝縮性の副生成物を排気して、最適の一酸化炭素分圧を保持する。反応器オフガスは、燃焼処理の前に処理して反応器凝縮性物質、則ちヨウ化メチルを回収する。メタノール及び一酸化炭素の効率は、一般にそれぞれ約98及び90%よりも高い。上記のSmithらの特許から認められるように、プロセスの主たる非効率性は、水性ガスシフト反応によって二酸化炭素及び水素が同時に生成することである。
【0028】
反応器から、反応混合物の流れを、導管28を通してフラッシャー26へ連続的に供給する。フラッシャーを通して、生成物酢酸及び軽質留分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び水)の大部分を反応器触媒溶液から分離し、粗プロセス流38を溶解ガスと共に単一段階フラッシュの蒸留又は精製区域30に送る。触媒溶液は、導管40を通して反応器に再循環する。本発明によれば、流れ38の温度を上昇させるために、例えばジャケット又はコイルを用いてフラッシャーを蒸気で加熱する。より好都合であるならば、電気加熱又は放射(マイクロ波)加熱のような他の加熱手段を用いることができる。
【0029】
酢酸の精製は、典型的には、軽質留分カラム、脱水カラム、及び場合によっては重質留分カラム内での蒸留を含む。フラッシャーからの粗蒸気プロセス流38を軽質留分カラム32中に供給する。ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び水の一部が軽質留分カラム内で塔頂流中に凝縮されて、受容器42内で2つの相(有機及び水性)が形成される。両方の塔頂液相を、再循環ライン44を通して反応区域に戻す。場合によっては、軽質留分カラムからの液体再循環流45も反応器に戻すことができる。
【0030】
精製されたプロセス流50を軽質留分カラム32の側部から抜き出し、脱水カラム34中に供給する。このカラムから水及び若干の酢酸が分離され、これは、示すように再循環ライン44を通して反応システムに再循環する。精製し乾燥した脱水カラム34からのプロセス流52は樹脂床36に供給し、示されるように56においてそこから生成物を回収する。カルボニル化システム10は、2つのみの主精製カラムを用い、好ましくは「低エネルギーカルボニル化プロセス」と題されたScatesらの米国特許6,657,078(その開示事項を参照として本明細書中に包含する)により詳細に記載されているように運転する。システムによって、一般に更なるカラムを所望のように用いる。
【0031】
図2においては、その間にコンバーター容器12a、並びに熱交換器60及び低圧蒸気フラッシュ容器62を有する反応器/フラッシャーの別の配置が示されている。反応器12及びフラッシャー26は上記に記載のように運転する。メタノール及び一酸化炭素を18a、18において反応器12に供給し、液体反応混合物を28aにおいて抜き出し、コンバーター容器12aに供給し、ここで軽質留分を含むガスをスクラバー(図示せず)に排気する。排気ガスは、メタノールでスクラビングして反応器に戻すことができる。コンバーター12aはフラッシャー26に供給し、ここで圧力を減少させて粗生成物流38にフラッシングする。反応器への再循環は、図1に関連して上記で議論したように、ライン40、44を用いて行う。
【0032】
フラッシャー26は、熱交換器60から供給され、蒸気フラッシュ容器62から与えられる低圧蒸気供給流64によって加熱する。熱交換器64は、好適な金属で構成され、ライン66を通して反応器12から加熱触媒混合物、及びライン68を通して蒸気凝縮液を受容する。凝縮液は加熱触媒によって加熱され、これはカルボニル化反応の発熱性のために冷却が必要である。加熱された凝縮液は、ライン70を通して容器62に供給され、ここで(低圧)蒸気にフラッシングして、上記に示すようにフラッシャー26を加熱するために用いる。
【0033】
したがって、図2に示す熱交換器64は、反応器へ冷却、及びフラッシャーへ熱を与えて、これにより当業者に認められるように全体のエネルギーコストが減少する。
一酸化炭素は、所望の場合にはコンバーター12aに直接加えることができ、或いは所望の場合には触媒溶液を安定化し、全ての未反応のメタノールを消費するために、僅かに前(上流)又は後(下流)で加えることができる。かかる配置の詳細は、ヨーロッパ特許EP 0759419、及びDenisらの米国特許5,770,768(これらの開示事項は参照として本明細書中に包含する)において見られる。
【0034】
以下の議論から認められるように、反応器からフラッシャーへの熱移動を用いるかどうかにかかわらず、本発明により、粗生成物蒸気流中により高い濃度の酢酸を与えることによってシステムの効率性が実質的に向上する。
【0035】
この目的のために、図1に示すカルボニル化装置及び図2に示すものを、図3において示すように図式的に表すことができる。図3においては、反応器への供給流を流れ1と示し、フラッシャーへの液体流を流れ2と示し、スプリッターカラムへ与える粗生成物蒸気流を流れ3と示し、精製した生成物流を流れ4と示す。流れ5はフラッシャーからの触媒再循環流を示し、流れ6は精製から反応器への再循環を示す。
【0036】
図3は、メタノールカルボニル化プロセスの2つの主たる非効率性:触媒の再循環(5)及び精製再循環(6)を一般的に示す。これらの内部「フライホイール」は、大きなエネルギー及び資本を要するものであり、これは、フラッシャーの性能を向上させること−則ち、精製(3)に送られる蒸気流が比例してより多いHAc及びより少ない「非生成物」成分(HO、MeAc、MeI)を有することを確保することによって最小にすることができる。これは、入熱を与えてフラッシャーの運転温度を上昇させることによって達成することができる。この概念の利益を以下の実施例において示す。
【実施例】
【0037】
半経験的シミュレーターを用いて、蒸気流(3)中のHAcの質量流を一定に保持しながら、フラッシュ温度の効果を研究した。フラッシャーから排出される蒸気(3)及び液体(5)に関する流れの組成を以下に示す。フラッシャー入口の基準は、8.1重量%のMeI、2.9重量%のMeAc、75.7重量%のHAc、2.8重量%のHO、及び10.6重量%のLiIを含む、387°F、400psigの流れである。フラッシュ温度(蒸気流の温度)は、全ての場合において25psig以下で、断熱(297°F)から等温(387°F)まで変化させた。
【0038】
結果を表1〜7及び図4〜7に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
【表7】

【0046】
データ及び図4において示されるように、フラッシャーの温度を上昇させると蒸気流(3)中のHAcの重量%が増加し、一方、全ての他の成分の濃度が減少する。図5は、触媒再循環流(5)中のLiIの割合が、フラッシュ温度の上昇と共に増加することを示す。この高いLiIは、フラッシャー中の触媒の安定性を向上させるように作用する(おそらくはより高い運転温度の全ての有害な影響を補償する)。
【0047】
図6は、精製(3)に供給される蒸気流中のそれぞれの成分の質量流速に対するフラッシャー温度の効果を示す。一定量のHAc処理量に関して、より高いフラッシュ温度を用いると、より少ない量の「非生成物」成分が精製に送られることが示される。例えば、フラッシュ温度を297°Fから310°Fに上昇させると、精製へ送られる水の質量流量が30%、MeAcが55%、MeIが55%減少する。
【0048】
図7においては、より高い温度でフラッシャーを運転する際には、流れの流速の必要条件が非常に少ないことが示される。これは、フラッシャー(3)から排出される蒸気流中のHAcが比例的により多く、「非生成物」成分がより少ない結果である。精製(3)への同等のHAcの質量処理量を達成するためには、フラッシャー供給流(2)の必要な流速はより低い。例えば、フラッシュ温度を297°Fから310°Fに上昇させると、必要な触媒再循環割合が90%減少し、フラッシャーへの液体供給量が80%減少し、精製再循環が50%減少し、精製への蒸気供給量が20%減少する。利点としては、(1)既存のユニットに関しては、粗生成物流中のHAcが増加し、それによって精製の障害が除かれ、運転コストが低下し、及び/又は能力を増加させることができること;(2)反応器がより高いMeAc(現在では、このレベルは典型的には精製能力によって制約される)で運転され、より高いMeAcによって反応器をより低い温度で運転することも可能になり、またプロピオン酸の生成速度が減少すること;(3)新しいユニットに関しては、与えられたHAcの製造速度に関してより少ない触媒再循環及び精製処理量しか必要としないことにより、資本及びエネルギーの要求が減少すること;(4)精製への蒸気供給速度が減少することにより、同伴による触媒損失が減少すること;及び(5)フラッシャーへの液体供給速度が減少することにより、可溶性COのキャリーオーバー損失(現在では全CO廃棄量の80%を占める)が大きく減少することによってCO効率が向上すること;が挙げられる。
【0049】
例えば、フラッシャー運転温度を297°Fから310°Fに上昇させると、フラッシャーへの必要な流速が80%減少する。この修正によって、全CO非効率が−60%(=フラッシャーキャリーオーバーからの80%のCO損失の80%減少)まで劇的に減少する。
【0050】
蒸気によってフラッシャーを加熱するエネルギーコストを図8に示す。このコストは、図2に示すように反応器とフラッシャーとの間で熱を平均化することによって大きく減少する。例えば、310°Fに加熱するために、反応器冷却ループを用いてフラッシャーを加熱することができる。
【0051】
特定の装置及び運転条件に関して本発明を説明したが、本発明の精神及び範囲内でのこれらの例に対する修正は、当業者には容易に明らかとなろう。背景技術及び詳細な説明に関して上記で議論した上述の議論、当該技術における関連する知識、及び参考文献(その開示事項は全て参照として本明細書中に包含する)を考慮すると、更なる説明は不要であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第VIII族金属触媒及びヨウ化メチル促進剤の存在下でメタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化して、酢酸、水、酢酸メチル、及びヨウ化メチルを含む液体反応混合物を生成させ;
(b)液体反応混合物を、減圧下に保持したフラッシュ容器に供給し;
(c)同時に反応混合物をフラッシングしながらフラッシュ容器を加熱して、粗生成物蒸気流を生成させる;
ことを含み、
粗生成物蒸気流の温度が300°Fよりも高い温度に保持され、粗生成物蒸気流中の酢酸の濃度が流れの70重量%よりも大きくなるように、反応混合物を選択し、フラッシュ容器への反応混合物の流速、並びにフラッシュ容器へ供給する熱の量を制御する、酢酸を製造するためのカルボニル化方法。
【請求項2】
粗生成物蒸気流の温度を、300°Fよりも高く、400°F未満の温度に保持する、請求項1に記載のカルボニル化方法。
【請求項3】
粗生成物蒸気流の温度を、300°Fよりも高く、350°F未満の温度に保持する、請求項1に記載のカルボニル化方法。
【請求項4】
反応混合物中の水の量を、反応混合物の1重量%〜10重量%のレベルに保持し、反応混合物がヨウ化物塩共促進剤を更に含む、請求項1に記載のカルボニル化方法。
【請求項5】
ヨウ化物塩共促進剤を、反応混合物の約4重量%〜約20重量%のヨウ化物アニオン濃度を生成する量で存在させる、請求項4に記載のカルボニル化方法。
【請求項6】
ヨウ化物塩共促進剤が複数のヨウ化物塩の混合物である、請求項4に記載のカルボニル化方法。
【請求項7】
ヨウ化物塩共促進剤を、ヨウ化物リガンド前駆体の形態で反応混合物に与える、請求項4に記載のカルボニル化方法。
【請求項8】
反応混合物中の水の量を、反応混合物の1重量%〜5重量%のレベルに保持する、請求項5に記載のカルボニル化方法。
【請求項9】
第VIII族金属触媒が、ロジウム触媒及びイリジウム触媒から選択される、請求項1に記載のカルボニル化方法。
【請求項10】
第VIII族金属触媒がロジウム触媒であり、反応混合物の約300重量ppm〜約5,000重量ppmの濃度で反応混合物中に存在させる、請求項1に記載のカルボニル化方法。
【請求項11】
カルボニル化を10〜100barのゲージ圧下で行う、請求項1に記載のカルボニル化方法。
【請求項12】
フラッシュ容器を約0.25〜約3barのゲージ圧に保持する、請求項1に記載のカルボニル化方法。
【請求項13】
(a)第VIII族金属触媒及びヨウ化メチル促進剤の存在下でメタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化して、酢酸、水、酢酸メチル、及びヨウ化メチルを含む液体反応混合物を生成させ;
(b)液体反応混合物を、供給温度において、減圧下に保持したフラッシュ容器に供給し;
(c)同時に反応混合物をフラッシングしながらフラッシュ容器を加熱して、粗生成物蒸気流を生成させる;
ことを含み、
粗生成物蒸気流の温度が、フラッシャーに供給される液体反応混合物の供給温度よりも90°F未満低い温度に保持され、粗生成物蒸気流中の酢酸の濃度が粗生成物蒸気流の70重量%よりも大きくなるように、反応混合物を選択し、フラッシュ容器への反応混合物の流速、並びにフラッシュ容器へ供給する熱の量を制御する、酢酸を製造するためのカルボニル化方法。
【請求項14】
粗生成物流が流れの少なくとも75重量%の酢酸濃度を有するように、反応混合物を選択し、その流速を、フラッシャーに供給する熱と共に制御する、請求項13に記載のカルボニル化方法。
【請求項15】
粗生成物流が流れの少なくとも80重量%の酢酸濃度を有するように、反応混合物を選択し、その流速を、フラッシャーに供給する熱と共に制御する、請求項13に記載のカルボニル化方法。
【請求項16】
粗生成物流が流れの80重量%〜85重量%の酢酸濃度を有するように、反応混合物を選択し、その流速を、フラッシャーに供給する熱と共に制御する、請求項13に記載のカルボニル化方法。
【請求項17】
粗生成物蒸気流が、フラッシャーに供給する液体反応混合物流の温度よりも85°F未満低い温度を有する、請求項13に記載のカルボニル化方法。
【請求項18】
粗生成物蒸気流が、フラッシャーに供給する液体反応混合物流の温度よりも80°F未満低い温度を有する、請求項13に記載のカルボニル化方法。
【請求項19】
粗生成物蒸気流が、フラッシャーに供給する液体反応混合物流の温度よりも75°F未満低い温度を有する、請求項13に記載のカルボニル化方法。
【請求項20】
粗生成物蒸気流が、フラッシャーに供給する液体反応混合物流の温度よりも65°F未満低い温度を有する、請求項13に記載のカルボニル化方法。
【請求項21】
粗生成物蒸気流が、フラッシャーに供給する液体反応混合物流の温度よりも60°F未満低い温度を有する、請求項13に記載のカルボニル化方法。
【請求項22】
(a)第VIII族金属触媒及びヨウ化メチル促進剤の存在下でメタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化して、酢酸、水、酢酸メチル、及びヨウ化メチルを含む液体反応混合物を生成させるための反応器;
(b)反応混合物の流れを受容し、反応混合物を減圧下でフラッシングして粗生成物蒸気流を生成させるように構成されているフラッシュ容器;
(c)反応器及びフラッシュ容器に接続され、熱を反応器からフラッシュ容器へ移動させて、粗生成物蒸気流の温度を、断熱フラッシングを受ける同様の流れの温度と比較して上昇させるように機能する熱移動システム;
を含む、酢酸を製造するための装置。
【請求項23】
反応器及びフラッシャーに接続されているコンバーター容器を更に含む、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
粗生成物流を受容し、それから酢酸メチル及びヨウ化メチルを除去して精製生成物流を生成させるように構成されているスプリッターカラムを更に含む、請求項22に記載の装置。
【請求項25】
スプリッターカラムから精製生成物流を受容し、それから水を除去するように構成されている乾燥カラムを更に含む、請求項24に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−518880(P2011−518880A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507417(P2011−507417)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/002506
【国際公開番号】WO2009/134333
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(500175107)セラニーズ・インターナショナル・コーポレーション (77)
【Fターム(参考)】