説明

酢酸濃度検出センサ

【課題】 酢酸濃度を簡易な手段でしかも正確に素早く検出することのできる酢酸濃度検出センサを提供することにある。
【解決手段】 光ファイバ1のコア3の周囲に酢酸の存在下で膨潤し且つ酢酸濃度に応じて屈折率が変化する感応クラッド層6が形成されたセンサヘッド2を備えた酢酸濃度検出センサであって、前記感応クラッド層6がメンチルメタクリル酸とベンジルメタクリル酸との共重合ポリマー又はラウリルメタクリル酸とエチレングリコールジメタクリル酸との共重合ポリマーにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酢酸濃度検出センサに係り、特に光ファイバの透過光強度の変化を測定し、その変化に基づいて酢酸の濃度を検出するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、身の回りには多くの有機酸があふれており、その中でも特に酢酸は酸味食品に広く利用され、また、アルコールや種々の食材の劣化によって発生するなど食品分野において重要である。そのため、酢酸濃度を容易に且つ素早く測定することができれば、食品分野のみならず医療分野その他でも応用できることから、簡易型の酢酸濃度検出センサの開発が強く望まれている。
【0003】
従来の酢酸測定用センサとして、例えば酢酸を選択的に資化する細菌を使用したものが知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この酢酸測定用センサは、酢酸以外の複数の有機酸に比較して酢酸に対する応答が優れているものの、酢酸濃度に応じた検出はできなかった。
【0004】
一方、本発明者らは光ファイバの透過光強度の変化を利用した湿度センサを既に提案している(特許文献2参照)。この湿度センサは、プラスチック光ファイバのコアの周囲に感湿性のクラッド層を形成したものである。クラッド層の屈折率が湿度によって変化することを利用して、光ファイバを通過する光の透過光強度を測定するものであり、その構造が簡易で取扱いも容易である。
【特許文献1】特開平10−201469号公報
【特許文献2】特開2003−130863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、光ファイバの透過光強度の変化に基づく上記湿度センサの測定原理を利用し、酢酸濃度に応じて膨潤するクラッド材について鋭意研究を重ねた結果、酢酸濃度と相関のあるポリマーを見い出すことができ、酢酸濃度検出センサを発明するに至った。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、酢酸濃度を簡易な手段でしかも正確に素早く検出することのできる酢酸濃度検出センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の酢酸濃度検出センサは、光ファイバのコアの周囲に酢酸の存在下で膨潤し且つ酢酸濃度に応じて屈折率が変化する感応クラッド層が形成されたセンサヘッドを備えていることを特徴とする。
【0007】
また、上記の感応クラッド層としては、メンチルメタクリル酸とベンジルメタクリル酸との共重合ポリマー又はラウリルメタクリル酸とエチレングリコールジメタクリル酸との共重合ポリマーが望ましい。
【0008】
酢酸が両親媒性物質であると共に極性物質でもある点を考慮した場合、上記のような脂溶性の強い共重合ポリマーの選択が有効となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酢酸濃度に応じて感応クラッド層の膨潤度が異なり、それによって感応クラッド層の屈折率が異なってくるために、光ファイバを通過する光の透過光強度が酢酸濃度に応じて異なることになる。それ故、透過光強度を測定することで酢酸濃度を検出することができる。この酢酸濃度検出センサは、上述した食品分野での応用のみならず、例えば排便中にも酢酸が含まれることから寝たきり老人の排便をモニタリングする目的で医療分野での利用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る酢酸濃度検出センサを実施するための最良の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1乃至図5には、本発明に係る酢酸濃度検出センサの一実施形態が示されている。この酢酸濃度検出センサは、図1に示されるように、光ファイバ1の一部にセンサヘッド2を設けた構成からなる。市販の光ファイバ1は、中心部のコア3と、その周囲を被覆するクラッド4と、このクラッド4を被覆する表皮5とで構成されているが、この光ファイバ1のクラッド4の一部を除去し、露出したコア3の表面に酢酸の存在下で膨潤する敏感なクラッド、即ち感応クラッド層6を形成することによりセンサヘッド2を構成したものである。市販のプラスチック光ファイバ1は、一般にコア3がポリメチルメタクリル酸(PMMA)を材料とし、クラッドが低屈折率ポリマーを材料としているが、本発明に係る感応クラッド層6は、例えば、メンチルメタクリル酸とベンジルメタクリル酸との共重合ポリマー(P−(MtMA-co-BzMA))又はラウリルメタクリル酸とエチレングリコールジメタクリル酸との共重合ポリマー(P−(LaMA-co-EGMA))によって形成されている。これらの共重合ポリマーは酢酸分子を吸着することで膨潤し屈折率を低下させる特性を有している。また、上記2種類の共重合ポリマー以外にも、メタクリル酸を含む共重合ポリマが本発明の目的に作用することを本発明者らは実験によって実証している。なお、前記共重合ポリマー(P−(MtMA-co-BzMA)は、図2に示されるような構造式からなるもので、光機能性ポリマーとしての特性を有することが知られている(日本応用物理学会誌 Vol.37(1998) pp.4405-4408参照)。
【0011】
前記光ファイバ1のコア3の表面に共重合ポリマーをディップコートすることで感応クラッド層6を形成することができるが、ディップコートする際、感応クラッド層6の屈折率をコントロールする目的で低屈折率ポリマーや界面活性剤を加えてもよい。その場合、低屈折率ポリマーとしては例えばポリフッ化ビニリデンなどが有効であり、また界面活性剤としてはFC4430(住友3M社製)などのフッ素化界面活性剤が有効である。
【0012】
表1は、PMMAからなるコア3と、上記共重合ポリマーからなる感応クラッド層6との屈折率の違いを示したものである。表1から明らかなように、感応クラッド層6の初期屈折率はコア3のそれより大きな値である。
【0013】
【表1】

【0014】
また、図3は濃度10%の酢酸溶液中でP−(MtMA-co-BzMA)+FC4430の屈折率が測定時間によってどのように変化するかを示したものである。屈折率はアッベ(Abbe)測定率計によって測定した。P−(MtMA-co-BzMA)+FC4430の屈折率は、初期屈折率1.516だったものが15分後には屈折率1.488に、さらに20分後には屈折率1.486まで低下した。また、PMMAの屈折率は1.49を維持して変化がないため、測定開始から5〜6分後にはP−(MtMA-co-BzMA)+FC4430の屈折率がPMMAと逆転すると思われる。
【0015】
図4は、上記構成からなる酢酸濃度検出センサによって酢酸濃度を検出する場合の原理を示したものである。センサヘッド2の感応クラッド層6は酢酸濃度によって屈折率が変化することから、光ファイバ1の一端から入射した入射光7がセンサヘッド2を通過する際の透過光強度を光ファイバ1の他端から出射した出射光8として測定することで酢酸濃度を検出するものである。図4(a)は、酢酸濃度検出センサを酢酸以外の溶液中若しくは酢酸濃度が極めて低い酢酸溶液中などに配置した場合の透過光強度の大きさを示したものである。この場合には感応クラッド層6が膨潤しないために、感応クラッド層6の屈折率はコア3のそれよりも大きく、コア3が導波路として機能しない。そのために、光ファイバ1内に入射した入射光7の多くはセンサヘッド2においてコア3から感応クラッド層6内に洩れ出てしまい、光ファイバ1の他端から出射する出射光8が非常に小さいものとなる。
【0016】
一方、図4(b)は、酢酸濃度検出センサを酢酸溶液中又は酢酸ガス中に配置した場合の透過光強度の大きさを示したものである。酢酸濃度がある程度高いと感応クラッド層6が酢酸濃度に応じて酢酸を取り込むことで時間と共に次第に膨潤し、感応クラッド層6の密度が低下するのに伴って屈折率も次第に低下することになる。このように、センサヘッド2では感応クラッド層6の屈折率がコア3のそれよりも小さくなるとコア3は導波路として機能するようになる。その結果、光ファイバ1の一端から入射した入射光7の多くはセンサヘッド2において感応クラッド層6によって反射されるために透過光強度が増大し、光ファイバの他端からの出射光9が増えることになる。このように、センサヘッド2における感応クラッド層6での膨潤の度合いは酢酸濃度と相関があるため、酢酸濃度検出センサを通過した光の透過光強度を測定することにより、酢酸濃度をモニタできることになる。
【0017】
図5は本発明に係る酢酸濃度検出センサの作製方法を示したものである。図5(a)は市販されているプラスチック光ファイバ1を示したものである。この光ファイバ1は中心付近のコア3と、その周囲を被覆するクラッド4と、このクラッド4を被覆する表皮5とで構成され、このような市販の光ファイバ1を適当な長さ用意する。
【0018】
先ず、図5(b)に示すように、光ファイバ1の表皮5を適当な長さlだけ全周にわたってカッターで切除する。長さlはセンサヘッドの全長を決定するものであり、特に限定されないが、センサとしての感度を考慮した場合約3〜5cm程度が好ましい。
【0019】
次いで、前記表皮5を切除した部分のクラッド4を除去するために、1,4−ジオキサンの中に光ファイバ1を浸漬させる。約10分間でクラッドはエッチングされ、図5(c)に示したように、クラッド4が除去された部分にコア3の表面3aが現れる。市販のプラスチック光ファイバ1はコア3の直径が約1mm前後のものが多いが、図5(d)に示したように、本実施形態ではさらに1,4−ジオキサンとクロロホルムを3:1の割合で混合した溶液にコア3を浸してエッチングし、コア3の直径dをさらに細くすることでセンサとしての感度を上げている。この場合、コア3の直径dを0.25〜1mm程度まで細くするのが好ましい。
【0020】
共重合ポリマーP−(MtMA-co-BzMA)は、モノマー比1:1のメンチルメタクリル酸とベンジルメタクリル酸とを反応開始材ベンゾイルパオキシドの下でランダム共重合させて得られる。そこで、このP−(MtMA-co-BzMA)を濃度1〜7%でクロロフォルムに溶解してクラッド液とする。このクラッド液の中に前記表皮5とクラッド4を除去した後の光ファイバ1を浸漬させ、図5(e)に示したように露出したコア3の表面3aにP−(MtMA-co-BzMA)をコーティングし、クラッド液から引き上げた後、室温にて約24時間乾燥させて感応クラッド層6を形成する。その際、上述したように、FC4430やPVDFなどをクラッド液に混合することで、感応クラッド層6の屈折率をコントロールすることができる。また、感応クラッド層6の厚みは、酢酸に対する感度および膨潤速度などに影響を与える。本発明では感応クラッド層6の厚みは0.5〜10μmの範囲で適用され、望ましくは1〜7μmの範囲である。なお、感応クラッド層6の厚みは浸漬時間によって調整することができる。このようにして、センサヘッド2を備えた酢酸濃度検出センサが出来上がる。なお、P−(LaMA-co-EGMA)を感応クラッド層として形成する場合にも、上記と同様モノマー比1:1のラウリルメタクリル酸とエチレングリコールジメタクリル酸とを反応開始材ベンゾイルパオキシドの下でランダム共重合させてP−(LaMA-co-EGMA)を得、これをクロロフォルムに溶解してクラッド液とする。
【0021】
図6は上記構成からなる酢酸濃度検出センサを組み込んだ酢酸濃度検知システムの一構成例を示したものである。この酢酸濃度検知システムでは、酢酸濃度検出センサのセンサヘッド2を含む光ファイバ1の一部を溶液槽10の中にセットする。溶液槽10内には濃度測定される酢酸溶液11が満たされており、この酢酸溶液11内に前記センサヘッド2が浸漬される。溶液槽10の両側に飛び出している光ファイバ1の両端には半導体レーザ装置12とフォトダイオードを組み込んだ光検出器13とがそれぞれ接続されている。そして、半導体レーザ装置12からλ=670nmのレーザ光を光ファイバ1の一端1aから入射し、センサヘッド2を通過した後の透過光強度を光ファイバ1の他端1bからの出力光量として光検出器13で測定する。光検出器13からの電気信号はデジタル電圧計14に送られてデジタル変換されたのち、コンピュータのディスプレイ15に酢酸濃度値として表示される。
【実施例】
【0022】
次に、上記の酢酸濃度検知システムを用いて、本発明に係る酢酸濃度検出センサの酢酸に対する応答性について実験した結果を説明する。
【0023】
実施例1
酢酸に対する数種類の共重合ポリマーの応答性について調べた。直径0.5mm、センサヘッド長さ4cmのコア(PMMA)の表面に感応クラッド層を形成してセンサ試料を作製し、上記酢酸濃度検知システムを用いて濃度5wt%の酢酸に対する応答性を調べた。コアの表面に形成した感応クラッド層は、P−(MtMA-co-BzMA)+FC4430、P−(LaMA-co-EGMA)+FC4430、PMMA+PVDF(3:1)及びPMMAの4種類である。図7にその結果を示す。図7によれば、P−(MtMA-co-BzMA)+FC4430及びP−(LaMA-co-EGMA)+FC4430が他の2種類に比べて応答性に優れており、酢酸濃度検出センサのクラッド材として利用できることがわかった。
【0024】
実施例2
酢酸濃度に対する酢酸濃度検出センサの応答性について調べた。直径0.5mm、センサヘッド長さ4cmのコア(PMMA)の表面に感応クラッド層としてP−(MtMA-co-BzMA)を形成して試料用の酢酸濃度検出センサを製作した。P−(MtMA-co-BzMA)のクロロフォルム溶解液濃度は5wt%である。上記酢酸濃度検知システムを用いて、10wt%濃度、7wt%濃度、5wt%濃度、3wt%濃度の4種類の酢酸濃度に対する反応性を調べた。比較例として水に対する応答性も同時に調べた。図8にその結果を示す。それによれば、酢酸濃度の増加に伴ってセンサヘッドを通過する際の透過光強度が大きくなり、酢酸濃度3wt%以上において応答性が良好であった。一方、水に対しては十分な応答性を示さないことが確認できた。
【0025】
実施例3
酢酸以外の各種の酸に対する酢酸濃度検出センサの応答性について調べた。センサ試料は実施例2と同じものを使用した。上記酢酸濃度検知システムを用いて、10wt%濃度の酢酸、10wt%濃度の乳酸、10wt%濃度のクエン酸1水和物、10wt%濃度の塩酸に対する応答性を調べた。図9にその結果を示す。それによれば、酢酸以外の他の有機酸や塩酸に比べて酢酸での応答性が優れていることが確認できた。即ち、本発明は酢酸濃度を検出するセンサとして有用である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る酢酸濃度検出センサは、酢酸濃度を検出する手段が簡易であるため、食品分野や医療分野で手軽に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る酢酸濃度検出センサのセンサヘッドの構造を示す断面図である。
【図2】メンチルメタクリル酸とベンジルメタクリル酸との共重合ポリマーの構造式である。
【図3】共重合ポリマーの測定時間に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の酢酸濃度検出センサによる検出原理を示した説明図である。
【図5】酢酸濃度検出センサの作製方法を示す工程図である。
【図6】本発明の酢酸濃度検出センサを組み込んだ酢酸濃度検知システムの構成図である。
【図7】酢酸に対する数種類の共重合ポリマーの応答性について調べた実施例1の結果を示すグラフである。
【図8】酢酸濃度に対する酢酸濃度検出センサの応答性について調べた実施例2の結果を示すグラフである。
【図9】酢酸以外の各種の酸に対する酢酸濃度検出センサの応答性について調べた実施例3の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1 光ファイバ
2 センサヘッド
3 コア
4 クラッド
5 表皮
6 感応クラッド層
10 溶液槽
11 酢酸溶液
12 半導体レーザ装置
13 光検出器
14 デジタル電圧計
15 ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバのコアの周囲に酢酸の存在下で膨潤し且つ酢酸濃度に応じて屈折率が変化する感応クラッド層が形成されたセンサヘッドを備えていることを特徴とする酢酸濃度検出センサ。
【請求項2】
前記感応クラッド層がメンチルメタクリル酸とベンジルメタクリル酸との共重合ポリマー又はラウリルメタクリル酸とエチレングリコールジメタクリル酸との共重合ポリマーにより形成されている請求項1記載の酢酸濃度検出センサ。
【請求項3】
前記感応クラッド層は、前記共重合ポリマーに低屈折率ポリマー又は界面活性剤が混合されたものである請求項2記載の酢酸濃度検出センサ。
【請求項4】
前記酢酸濃度が3〜10重量%の範囲で測定可能である請求項1記載の酢酸濃度検出センサ。
【請求項5】
前記感応クラッド層は、酢酸が液体又は気体の存在下で膨潤する請求項1記載の酢酸濃度検出センサ。
【請求項6】
前記センサヘッドを通過した時の透過光強度を測定することで酢酸濃度を検出する請求項1記載の酢酸濃度検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−76195(P2008−76195A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254887(P2006−254887)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】