説明

酢酸菌AcetobacterpasteurianuusIFO3191が産生するヘテロ多糖からなるメラニン生産抑制剤

【課題】本発明は、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株が生産するヘテロ多糖からなるメラニン生産抑制剤を提供する。
【解決手段】酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が産生するヘテロ多糖からなるメラニン生産抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が生産するヘテロ多糖からなるメラニン生産抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類は、植物、動物は勿論、多様な微生物によって菌体外へ産生或いは、菌体構成成分として分布している。微生物産生多糖類には、接着性、増粘性、乳化性、保湿性等の諸特性を示し、この特性を利用した増粘剤、食品基材、医療用素材等の用途などが知られる。
【0003】
微生物産生多糖類は、多くの微生物により生産され、その構造、特製、機能は多岐に渡っている。ホモ多糖であるセルロースは増粘剤や生体適合性材料及び食品などの用途に使用されている。また、微生物が生産するヘテロ多糖は医薬品、化粧品及び食品原料としても利用されている。このように多くの微生物生産多糖類が、その抗腫瘍活性や、食品素材及び化学品素材としての活用が期待されている。
【0004】
酢酸菌の産生する菌体外多糖類はセルロースに代表されるホモ多糖類のみでなく、ヘテロ多糖も生産することが報告されている。酢酸菌の生産するホモ多糖類については、ナタデココなどの食品或いはバイオセルロースとして高級スピーカー用振動版に利用されている。一方、酢酸菌の生産するヘテロ多糖については免疫賦活活性、抗腫瘍活性、アレルギー抑制効果等に関する医薬品(特許文献1及び特許文献2)、食品等への応用に関する報告が見られるが、化粧品原料、特に美白剤原料としての有用性に関する評価事例は報告されていない。従って、本発明では酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191の生産するヘテロ多糖の化粧品原料としての利用方法に関するものである。
【0005】
メラニンは広く生物界に存在している色素の一つであり、紫外線による皮膚ダメージからの保護や活性酸素種の除去等の役割を持つ。メラニンが過剰に生産されることにより、皮膚のシミやソバカスなどが発生することは周知の事実である。従って、メラニンの過剰生産を抑制することにより皮膚のしみやそばかすなどの発生を抑えることが可能である。
【0006】
メラニンの生合成は、アミノ酸の一種であるチロシンが酵素チロシナーゼにより酸化された後、非酵素的重合を含む数段階の過程を経て行われる。メラニンの生合成を抑制する物質は、美白剤の有効成分として利用されており、多数の天然物或いは合成化合物などから、美白効果を持つ有効成分が探索されている。メラニン生成の過程を抑制する物質はメラニン生合成の抑制効果を持つことが期待され、酵素チロシナーゼの阻害剤をはじめ、種々のメカニズムによりメラニン生合成を抑制する物質が、美白剤原料として利用されている。
【0007】
種々の微生物由来の多糖類に保湿剤、美白剤としての機能に関する報告がなされている。これらの多糖類は、例えば乳酸菌が生産する多糖類として分子量90万以上で、グルコース、ガラクトース、ラムノース等の単糖が糖鎖を構成しており、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が生産する多糖類とは構成単糖が異なっている(特許文献3)。また、アルカリゲネス等バクテリアの一部の菌種も多糖類を生産することが報告されており、海洋性細菌或いはアルカリゲネス・レータス等の細菌類の生産する多糖類に関して化粧品原料、特に美白剤原料としての利用に関する記述があるが、これらの多糖類は、100万〜150万で、グルコース、ガラクトース、ラムノースなどの単糖が糖鎖を構成しており、本発明に示した酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が生産する多糖類とは構成単糖及び分子量が異なっている(特許文献4)。
【0008】
本発明の酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が産生するヘテロ多糖は、公知の化合物である(非特許文献1)。しかしながら、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191の生産するヘテロ多糖がメラニン生産抑制作用を有するという報告はこれまでなされていない。
【特許文献1】特開2004−059547
【特許文献2】特開2004−059549
【特許文献3】特許第2971027号公報
【特許文献4】特許第3802011号公報
【特許文献5】特開平8−40868号公報
【非特許文献1】S. Moonmangmee, Y. Akakabe, Y. Sone, H. Toyama, O. Adachi and K. Matsushita: Structural comparison of pellicle polysaccharides from Acetobacter strains. 2001年3月の農芸化学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、美白剤原料として使用できる天然物を求めて、鋭意研究を進めていたところ、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が産生するヘテロ多糖にメラニンの生合成を抑制する効果があることを見出した。従って、本発明は、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が生産するヘテロ多糖からなるメラニン生産抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本発明は、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が産生するヘテロ多糖からなるメラニン生産抑制剤に関する。
(2) 本発明は、ヘテロ多糖がラムノース、グルコースおよびキシロースからなる3つの糖を少なくとも含有する、請求項1に記載のメラニン生産抑制剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株の産生するヘテロ多糖は、細胞におけるメラニン合成を抑制する。さらに、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株の産生するヘテロ多糖は、細胞増殖に影響を与えない濃度域においても、メラニン産生を促進するαMSHの添加効果を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いる、Acetobacter pasteurianuus IFO3191株は、酢酸菌に分類されるものであり、その定義は、進化的にアルファープロテオバクテリアに属し、植物(特に花、果実)を生息場所にする絶対好気性バクテリアで、糖やアルコールを不完全酸化する能力をもつことを生理的特徴とする一群(例えば、アルコールを酢酸まで酸化するがCO2までの完全酸化をしない)であると定義される。
【0013】
本発明に用いるAcetobacter pasteurianuus IFO3191株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部・生物遺伝資源部門(NBRC)より入手できる。
【0014】
本発明に用いる、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が産生するとは、本発明に用いるヘテロ多糖を酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が菌体内で合成することを意味するが、合成されたヘテロ多糖は菌体表面に存在していても、菌体外に存在していてもよい。
【0015】
本発明に用いる、ヘテロ多糖とは、2種類以上の単糖からなる多糖を意味する。また、多糖とは、単糖がグリコシド結合によって重合した糖を意味する。そして、本発明に用いる、ヘテロ多糖には、糖以外にも脂質やたんぱく質や核酸などが含まれてもいてもよい。好ましいヘテロ多糖は、ラムノース、グルコースおよびキシロースの3つの糖を構成糖として少なくとも含む。特に好ましいヘテロ多糖は、ラムノース、グルコースおよびキシロースの3つの糖を構成糖として少なくとも含み、各構成単糖のモル比率が、1:1:1である。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography))により測定されるヘテロ多糖の分子量が10万〜12万を示すものである。
【0016】
本発明で用いる、ヘテロ多糖がラムノース、グルコースおよびキシロースからなる3つの糖を少なくとも含有するとは、ヘテロ多糖を酸加水分解により単糖にしたとき、ラムノース、グルコースおよびキシロースの3つの単糖がすくなくとも検出されるということを意味する。なお、ヘテロ多糖中における、これら3つの糖の結合形態は特に限定されない。
【0017】
本発明に用いる、メラニン生産抑制剤とは、細胞、例えばメラニン形成細胞におけるメラニン合成を阻害する物質を意味する。ここで、メラニンとは、皮膚のメラニン形成細胞において形成される色素を意味する。ここで、細胞とは、哺乳動物細胞、好ましくはヒトの細胞を意味する。
【0018】
また、本発明に用いる、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株が産生するヘテロ多糖は、以下の工程:
酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株を増やして回収する工程;
集めた前記酢酸菌を液体中で破砕して抽出する工程;
前記抽出液中から前記酢酸菌の破砕物、DNA、タンパク質などを除去する工程;
場合により、さらに抽出液を濃縮および/または抽出液から沈殿物を得る工程;
を含む方法により調製されるものであってもよい。
【0019】
酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株を増やすことは、例えば、前記酢酸菌を培養することでできる。前記酢酸菌を培養する方法は、前記酢酸菌を培養できれば限定されないが、例えばポテト培地などの液体培地中において、前記酢酸菌の最適温度、たとえば30℃で震盪培養することでできる。前記酢酸菌の回収は、遠心分離やろ過などによりできるが、菌を集めることができる方法であれば限定されない。また、前記酢酸菌の破砕と抽出は、液体中での超音波処理、フレンチプレッシャーセルプレスなどでできるが、破砕方法は、前記酢酸菌を破砕できれば限定されない。また、破砕と抽出の時に用いる液体には、たとえば、水や水溶液などの水性液体を用いることができるが糖を溶解する液体であれば限定されない。抽出液中から前記酢酸菌の破砕物、DNA、タンパク質を除去する方法は、たとえば、破砕物の除去には遠心分離やろ過、DNAやタンパク質の除去には、DNA分解酵素処理やタンパク質分解酵素処理および陰イオン交換法による処理などによりできるが、抽出液中から前記酢酸菌の破砕物、DNA、タンパク質を除去できる方法であれば限定されない。抽出液を濃縮することは、抽出液を濃縮できる方法であれば限定されないが、例えば限外ろ過法や凍結乾燥法またはロータリーエバポレーターなど用いた方法で濃縮できる。抽出液から沈殿物を得ることは、抽出液にアルコール、例えばイソプロパノールを加えることにより沈殿を得ることができる。
【0020】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
酢酸菌多糖類の単離精製
酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株を定常期(Klett unit 300)に達するまで、ポテト培地(0.5%グルコース、2.0%グリセロール、1.0%ポリペプトン、ポテト抽出物200mlを加えて最終容量を1Lとする。)を用いて3Lエーレンマイヤーフラスコ中で30℃、200rpmで震盪培養した。なお、ポテト抽出物は、皮を取り棒状に細切した約200gのジャガイモに、1Lの蒸留水を加え、煮沸するまで加熱し、更に30分ほど煮沸後、ガーゼでろ過したものをポテト抽出物として調製した。続いて、4℃、9000rpm、10分間の遠心処理にて菌体7〜8g湿重量を回収した。
【0022】
菌体7〜8g湿重量を50mMリン酸緩衝液(pH6.2)50mlで2回洗浄した後、同緩衝液70〜80mlに菌体を懸濁した。50mlずつプラスチックチューブに分注して、超音波処理(トミーUD201 出力5)を20分間実施した後、菌体の破砕物を9000rpm、10分間の遠心により除去した。得られた上清に50μg/mlのDNase(シグマ;上清100mlに対して5mg)を加えて、37℃にて一昼夜反応させて、更にプロテインナーゼK(濃度100μg/ml)(シグマ;上清100mlに対して10mg)を加え、37℃にて一昼夜反応させた。その後、その溶液を透析チューブ(分子量12000−14000カット)に入れ、1Lの0.1% SDSを含む25mM Trisバッファー(pH8.5)に対して1日透析をした。透析後、9000rpm、10分間の遠心により沈殿物を除去した後、上清をDEAE−セルロースカラム(ワットマン;100mL)に添加後、0.1% SDSを含む25mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)300mlによる溶出を実施して、素通り画分(200ml)を集めて、フェノール硫酸法により発色がOD0.1以上の多糖類溶出画分(100ml)を分取精製した。精製試料(30micromol/mL)1容量に対して、2容量のイソプロパノールを加え、沈殿を取得し、乾燥させたものを水におよそ10mg/mlで懸濁し、精製多糖類画分とした。
【0023】
フェノール硫酸法は以下に示す操作にて実施した。試験管に試料500μlを取り、フェノール試薬(5%W/Vフェノール溶液)を等量加えて十分攪拌する。次に濃硫酸2.5mlを加えてすばやく攪拌する。室温にて20分以上放置した後、490nmの吸収を分光光度計にて測定する。
【実施例2】
【0024】
酢酸菌多糖類の構成糖分析
TLC分析
精製多糖を最終濃度2Nのトリフルオロ酢酸を加え121℃、1時間で加水分解の後、TLC分析に供した。展開溶媒はn−プロパノール/水 85/15(V/V)を用いて、アニリン−ジフェニルアミン−リン酸試薬(アニリン4ml,ジフェニルアミン4g,アセトン200ml及び85%リン酸20mlを混合)を用いて発色した。標準単糖との比較から構成単糖を同定した(図1)。その結果、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株の産生するヘテロ多糖はラムノース、キシロースおよびグルコースを構成糖とすることを確認した。
【0025】
GCMS分析
精製多糖は、ガスクロマトグラフィー質量分析装置にて分析した。精製多糖を、最終濃度2Nのトリフルオロ酢酸による121℃、1時間の加水分解の後、重水素化ホウ素ナトリウムにより還元し、無水酢酸/ピリジンによりアセチル化した。反応終了後、トルエンを加えて減圧乾固して、更にジクロロメタンで抽出した後、アルジトールアセテート誘導体をGCMS(島津GCMS QP5050A)で分析した。分析はDB−WAXキャピラリーカラム(0.25mm×60m)を用いて、190℃、4分間、220℃まで1℃/minの昇温後、20分間保持のタイムプログラムにて実施した。分析は試料1μgを用いて実施した。
また、あらかじめ作成しておいた検量線と各構成糖のピーク面積から求めた構成糖のモル比から、各構成糖のモル比はラムノース:キシロース:グルコース=1:1:1であった。
【0026】
精製多糖を上記のように酸加水分解(alditol acetate誘導体化)して、標準のラムノース、リキソース、キシロース、グルコースおよびガラクトースを同様に処理してGCMS分析に供した。標準単糖の溶出時間との比較から、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株の産生するヘテロ多糖はラムノース、キシロースおよびグルコースを構成糖とすることを確認した。GCMSチャートを図2に示す。
【実施例3】
【0027】
分子量の計測
実施例1に準じて、精製した酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株の産生する精製ヘテロ多糖の最終標品を用いて分子量の算定を実施した。精製多糖の平均分子量算定は、Superdex S−200(アマシャムバイオサイエンス1.6cm×90cm)サイズ排除カラムクロマトグラフィーにより実施した。溶出は0.1%SDSを含有する0.1MNaClを60ml/時間の割合で実施した。糖含量はフェノール硫酸法による490nm比色定量により実施した。標準分子量曲線は、プルラン(昭和電工製)P200(186kDa)、P100(100kDa)、P50(50kDa)及びP20(20kDa)を用いて作成した。分子量標準の溶出容量との比較から、IFO3191株多糖はそその分子量がおよそ100-120kDaと算出された(図3)。
【実施例4】
【0028】
メラニン生産抑制試験
実施例1に示した精製法により取得した精製酢酸菌ヘテロ多糖画分150mg/mlを使用して、メラニン産生抑制効果を調べた。すなわち、プラスチック培養シャーレ(直径60mm、FALCON 351007)に10%ウシ胎児血清(FCS、インビトロジェン社製)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、SIGMA社製)と共に1×105のマウスメラノーマB16細胞(理化学研究所細胞バンクRCB0557株)を播種して、37℃、5%CO2の培養条件下で一日インキュベートした。一日後、所定の濃度となるように調整した酢酸菌ヘテロ多糖を加えた10%ウシ胎児血清(FCS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)と培地交換を実施した。酢酸菌ヘテロ多糖は乾燥物を150mg/ml濃度として蒸留水に溶解したものをあらかじめ、0.2μmのセルロースアセテートフィルターによるろ過滅菌を実施して、使用時まで−20℃にて凍結保存したものを使用時に解凍して使用した。
【0029】
酢酸菌ヘテロ多糖を含む培地に交換後、更に、プラスチック培養シャーレを37℃、5%CO2の培養条件下で3日間培養した。一方、酢酸菌ヘテロ多糖と同量の滅菌蒸留水を添加した培地で培養したプラスチック培養シャーレをコントロールとした。培地交換3日後、各濃度の多糖類を添加したプラスチック培養シャーレ中のマウスメラノーマB16細胞を0.25%トリプシン(コスモバイオ社製 トリプシン液)処理により回収して、メラニン産生抑制効果の検討に用いた。マウスメラノーマB16細胞を遠心分離(6600rpm×1min)により回収して、PBSにて一回洗浄した後細胞を写真撮影した。メラニン生産抑制効果の評価は、酢酸菌ヘテロ多糖で処理したマウスメラノーマB16細胞の白色度と酢酸菌ヘテロ多糖で処理していないコントロールのマウスメラノーマB16細胞の白色度とを目視にて比較して判定した。
【0030】
500μg/ml酢酸菌ヘテロ多糖で処理したマウスメラノーマB16細胞の白色度は、コントロールのマウスメラノーマB16細胞の白色度と比較してやや白色化が認められた。1000μg/ml酢酸菌ヘテロ多糖で処理したマウスメラノーマB16細胞の白色度は、コントロールのマウスメラノーマB16細胞の白色度と比較して白色化が中程度であった。1500μg/ml酢酸菌ヘテロ多糖で処理したマウスメラノーマB16細胞の白色度は、コントロールのマウスメラノーマB16細胞の白色度と比較して白色化が大きかった(図4)。
【実施例5】
【0031】
αMSHによるメラニン生産亢進の抑制試験
αMSH(メラノサイト刺激ホルモン、株式会社ペプチド研究所 αMSH)は通常紫外線を浴びたその皮膚で産生されるホルモンであり、メラノサイトに作用すると、特異的受容体を介した一連の反応により、チロシナーゼを活性化してメラニン産生が促進される。
【0032】
実施例1に示した精製法により取得した精製酢酸菌ヘテロ多糖を使用して、αMSH(α-Melanocyte Stimulating Hormone)メラノサイト刺激ホルモンによるメラニン生産亢進の抑制効果を調べた。すなわち、プラスチック培養シャーレ(直径60mm)に10%ウシ胎児血清(FCS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)と共に1×105のマウスメラノーマB16細胞を播種して、37℃、5%CO2の培養条件下で一日インキュベートした。一日後、所定濃度となるように調整した酢酸菌ヘテロ多糖及びαMSHを最終濃度200μMとなるように添加した10%ウシ胎児血清(FCS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)と培地交換を実施した。一方、酢酸菌ヘテロ多糖と同量の滅菌蒸留水を添加した培地で培養したプラスチック培養シャーレをコントロールとした。各濃度の多糖類を添加したプラスチック培養シャーレ中のマウスメラノーマB16細胞を0.25%トリプシン処理により回収して、メラニン産生抑制効果の検討に用いた。マウスメラノーマB16細胞を遠心分離により回収して、PBSにて一回洗浄した後細胞を写真撮影した。
【0033】
更に、回収した細胞ペレットを1N NaOH/10%DMSO溶液(150μl)で溶解した後、細胞溶解液(100μl)をマイクロプレート(NUNC社製430431)に移し、490nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(バイオテック社製、EX800)で測定してメラニン生産量の定量を実施した。メラニンの定量は490nmにおける吸光度をメラニン量の指標としてデータはコントロール細胞と比較して%換算した。
【0034】
また、マウスメラノーマB16細胞の増殖に対するαMSHと酢酸菌ヘテロ多糖の影響を評価するために、0.25%トリプシン処理により回収した細胞についてコールターカウンター(ベックマンコールター社、Z1)による細胞数計測を実施した。コールターカウンターによる細胞数の測定は、所定容量に調整した細胞浮遊液の一部を回収して、10mlのコールターカウンター用希釈液(ベックマンコールター社 アイソトインII)に加え、十分に混合した後実施した。細胞浮遊液の添加量は、適当な希釈倍率となるように任意に設定した。
【0035】
図5は、αMSH単独時のメラニン生産量または細胞数を100としたときの相対として表している。αMSH単独で処理した場合(図5中の+αMSH)、未処理(図5中のー)と比較して、メラニン生産量の増加(図5中の+αMSHのメラニン生産量は100であるのに対して−のメラニン生産量は約40である)がみとめられる。αMSHに100μg/mlのヘテロ多糖を添加した場合、メラニン生産量の増加が抑制された(図5中の100μg/mlのメラニン生産量は約80である)。αMSHに500μg/mlのヘテロ多糖を添加した場合、メラニン生産量の増加がより抑制された(図5中の500μg/mlのメラニン生産量は約60である)。
【0036】
これによりマウスB16メラノーマ細胞に対して、αMSHを作用させて、メラニン産生を促進する際に、同時に100μg/ml以上の濃度で酢酸菌ヘテロ多糖を添加すると、メラニン増加が抑制されることが確認された。
【0037】
一方、細胞数については、αMSH単独で処理した場合(図5中の+αMSH)、未処理(図5中の−)と比較して、細胞数の増加はわずか(図5中の+αMSHの細胞数は100であるのに対して−の細胞数は約95である)である。αMSHに100μg/mlのヘテロ多糖を添加した場合、細胞数のわずかな増加が認められた(図5中の100μg/mlの細胞数は105である)。αMSHに500μg/mlのヘテロ多糖を添加した場合、細胞数の増加は抑制された(図5中の500μg/mlの細胞数は約80である)。
【0038】
これより、酢酸菌ヘテロ多糖は、細胞の増殖に影響することなく、αMSH作用によるメラニン生産を抑制できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の酢酸菌が生産するメラニン生産抑制作用を有する多糖類は、化粧品原料、特に美白用化粧品原料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】精製多糖を酸加水分解した後、TLCにて分析に供した。精製多糖類のTLC分析を図1に示す。標準の糖との比較から、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株の産生するヘテロ多糖はラムノース、キシロースおよびグルコースを構成糖とすることを確認した。展開溶媒:n−プロパノール:H2O = 85:15 (V/V);発色法:アニリン−ジフェニルアミン-リン酸 試薬(4 mL of aniline, 4 g of diphenylamine, 200 mL of acetone, and 20 mL of 85% phosphoric acid);グルコース標準品(和光純薬 特級)(レーン1)、ラムノース標準品(和光純薬 特級)(レーン2)、キシロース標準品(和光純薬 特級)(レーン3)、精製多糖類加水分解物(レーン4および5)、ガラクトース標準品(和光純薬 特級)(レーン6)、リキソース標準品(和光純薬 特級)(レーン7)、アラビノース標準品(和光純薬 特級)(レーン8)
【図2】精製多糖を酸加水分解(alditol acetate誘導体化)してGCMS分析に供した、精製多糖類のGCMSチャートを図2に示す。また、標準のラムノース、リキソース、キシロース、グルコースおよびガラクトースを同様に処理してGCMS分析に供した、標準単糖のGCMSチャートを図2に示す。標準単糖の溶出時間との比較から、酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株の産生するヘテロ多糖はラムノース、キシロースおよびグルコースを構成糖とすることを確認した。上チャートは精製多糖を酸加水分解(alditol acetate誘導体化)して分析したもの。下チャートは標準のラムノース、リキソース、キシロース、グルコースおよびガラクトースを同様に処理して分析したもの。
【図3】IFO3191多糖類Superdex S−200による分子量算定。分析条件:Superdex S−200(アマシャムバイオサイエンス1.6cm×90cm)、溶出液(移動相)は0.1%SDSを含有0.1MNaCl、流量60ml/時間。糖含量はフェノール硫酸法による490nm比色定量により実施。標準分子量曲線は、プルラン(昭和電工製)P200(186kDa)、P100(100kDa)、P50(50kDa)及びP20(20kDa)を用いて作成。
【図4】酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株の産生するヘテロ多糖のメラニン産生抑制効果。500、1000、1500μg/mlは、培地中の酢酸菌ヘテロ多糖の終濃度をあらわす。コントロールは、酢酸菌ヘテロ多糖と同量の滅菌蒸留水を添加した培地を表す。−、±、+、++は、目視による白色化の判定基準を示す。−:白色化しない、±:やや白色化する、+:白色化が中程度、++:白色化が大きい
【図5】酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191株の産生するヘテロ多糖のαMSH(メラノサイト刺激ホルモン)によるメラニン産生亢進効果の抑制効果。+αMSHはαMSH(最終濃度200μM)単独処理を表す。−は、αMSHとヘテロ多糖の両方ともないことを表す。100μg/mlは、100μg/mlのヘテロ多糖とαMSH(最終濃度200μM)の両方で処理したことを表す。500μg/m+αMSHは、500μg/mlのヘテロ多糖とαMSH(最終濃度200μM)の両方で処理したことを表す。メラニン生産量と細胞数は、αMSH(最終濃度200μM)単独処理時を100としたときの相対数として表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸菌Acetobacter pasteurianuus IFO3191が産生するヘテロ多糖からなるメラニン生産抑制剤。
【請求項2】
ヘテロ多糖がラムノース、グルコースおよびキシロースからなる3つの糖を少なくとも含有する、請求項1に記載のメラニン生産抑制剤。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−255026(P2008−255026A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96621(P2007−96621)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】