説明

酵素を用いたケトン化合物を光学異性体選択的に還元する方法

本発明は、酵素を用いて、ケトン化合物を光学異性体選択的に還元する方法に関し、上記還元は二相内にて行われ、補酵素の再生には4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、および/または2−ヘプタノールを用いる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、カルボニル還元酵素を用いたケトン化合物の光学異性体選択的(enantioselective)な酵素還元方法(process)に関するものである。
【0002】
カルボニル還元酵素(さらに言えば、アルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase)、酸化還元酵素など)は、カルボニル化合物の還元、および第2級アルコールの酸化の触媒としてそれぞれ知られている。それらの酵素は、例えばNAD(P)Hなどの補酵素を必要とする。Lactobacillus kefirから得られたカルボニル還元酵素と補酵素であるNADPHとを使用したケトンの還元は、例えばUS5,342,767により知られている。それらの酵素を用いて、ケトン化合物を光学活性ヒドロキシ化合物に還元することが可能である。それらの方法は、例えばWO03/078615により知られている。
【0003】
光学活性ヒドロキシ化合物は、芳香族物質、フェロモン、農薬および酵素阻害物質などの薬理学的活性化合物の合成に広く適用される貴重な(valuable)キラルな構成要素である。それゆえ、キラル化合物およびキラル合成技術の需要の増加は、特に医薬の分野において顕著である。さらに将来的には、ラセミ化合物は、医薬製剤として多く用いられるであろう。
【0004】
プロキラルなケトン化合物の非対称な還元は、立体選択的触媒反応のセクター(sector)である。さらに、生体触媒は、化学的触媒反応に対して非常に競争力のある技術を構成する。化学的な非対称な水和は、非常に有毒でかつ環境に有害な重金属触媒、エネルギーを大量に消費する反応条件、および、大量の有機溶媒の使用を必要とする。さらに、それらの方法は、多くの場合、副作用および不十分な光学異性体によって特徴付けられる。
【0005】
実際には、プロキラルなケトン化合物のヒドロキシ化合物への還元およびその逆は、一次代謝と二次代謝との両方を用いて、全ての生物(organism)における多くの生化学的な経路によって起こる。さらに、プロキラルなケトン化合物のヒドロキシ化合物への還元およびその逆は、異なった種類の第2級アルコールおよび酸化還元酵素によって触媒作用を受ける。通常、これらの酵素は、補酵素に依存している。
【0006】
プロキラルなケトン化合物のヒドロキシ化合物への還元のために生体触媒を用いることの基本的な可能性は、近代システムの基礎として、過去に繰り返し実証されている。そして、分離した酸化還元酵素と様々な全細胞生体内変換システム(whole-cell biotransformation systems)との両方は、タスク(task)として用いられている。生体触媒的なアプローチは、穏やかな反応条件、副作用の減少(lack)に関して優位性があり、光学異性体の増加(excesses)に関して特に優位性がある。それゆえ、分離した酵素の使用は、光学異性体の増加(excesses)、分解された(degradation)生成物の形成および副生成物の形成に関して、全細胞を用いた方法と比較して優位性がある。さらに、全細胞を用いた方法の使用は、特別な装置およびノウハウを必要とするので、全ての化学企業で行えるものではない。
【0007】
近年、水層/有機層という有機溶媒を用いた2相システム(two-phase system)内での分離した酸化還元酵素の使用は、非常に効果的でありかつ(5%以上の)高濃度でも実現可能であるということが実証されてきている。上記システムによれば、還元されたケトン化合物は、通常ほとんど水に溶けず、有機溶媒と共に有機相を形成する。また、その有機溶媒自体は部分的に調剤され、有機相は還元されたケトン化合物から形成される(DE10119274, DE10327454.4, DE10337401.9, DE10300335.5)。その結果、補酵素の再生(regeneration)は、ほとんどの場合、同時に行う第2級アルコールの酸化によって実現される。第2級アルコールとしては、安価な水混和性の2−プロパノールが用いられる。
【0008】
例えば、高い光学異性体選択的なR−およびS−体の(specific)酸化還元酵素およびデヒドロゲナーゼとしては、
Carbonyl reductase from Candida parapsilosis (CPCR) (US 5,523,223 and US 5,763,236, (Enzyme Microb Technol. 1993 Nov;15(11):950-8)) or Pichia capsulata ADH(DEI 0327454.4)、
Carbonyl reductase from Rhodococcus erythropolis (RECR) (US 5,523,223), Norcardia fusca (Biosci. Biotechnol. Biochem.,63 (10) (1999), pages 1721-1729), (Appl Microbiol Biotechnol. 2003 Sep;62(4):380-6. Epub 2003 Apr 26), and Rhodococcus ruber (J Org Chem. 2003 Jan 24;68(2):402-6:)、および、
R-specific secondary alcohol dehydrogenases from organisms ofthe genus Lactobacillus (Lactobacillus kefir (US5200335), Lactobacillus brevis (DE 19610984 AI) (Acta Crystallogr D BioI Crystallogr. 2000 Dec;56 Pt 12:1696-8), Lactobacillus minor (DE10119274) or Pseudomonas (US 05385833)(Appl Microbiol Biotechnol. 2002 Aug;59(4-5):483-7. Epub 2002 Jun 26.,J. Org. Chern. 1992, 57, 1532)
が挙げられる。
【0009】
従来の方法では、補酵素の再生についての改良および簡素化のそれぞれの要求があった。ほとんどのアルコールデヒドロゲナーゼおよび酸化還元酵素は、15体積%以上のプロパノールによってすぐに不活性化される。そして、ほとんどのアルコールデヒドロゲナーゼおよび酸化還元酵素は、ケトン化合物に関して、同じ濃度の酸化還元酵素がバッチ処理に適用されないという結果を導く。そして、物質の変換が平衡状態にならないという結果を導く。
【0010】
本発明の目的は、上記不都合を解消するものである。
【0011】
本発明における一般式Iのケトン化合物の光学異性体選択的な酵素還元方法は、以下の特徴を有している
−C(O)−R (I)
上記Rは、以下のうちの1種類である
1)炭素数1〜20のアルキル基であり、直鎖状または分岐状のもの、
2)炭素数2〜20のアルケニル基であり、直鎖状または分岐状でありかつ随意的に4個の二重結合を有するもの、
3)炭素数2〜20のアルキニル基であり、直鎖状または分岐状でありかつ随意的に4個の二重結合を有するもの、
4)炭素数6〜14のアリール基、
5)炭素数1〜8のアルキル基−炭素数6〜14のアリール基、
6)炭素数5〜14のヘテロ環であり、置換されていないもの、または、1個、2個もしくは3個の水酸基、ハロゲン、ニトロ基および/もしくはアミノ基によって置換されているもの、または、
7)炭素数3〜7のシクロアルキル基
上記1)〜7)のいずれかは置換されていないもの、または、1個、2個もしくは3個の水酸基、ハロゲン、ニトロ基および/もしくはアミノ基によって置換されているものである
上記Rは、以下のうちの1種類である
8)炭素数1〜6のアルキル基であり、直鎖状または分岐状のもの、
9)炭素数2〜6のアルケニル基であり、直鎖状または分岐状でありかつ随意的に3個の二重結合を有するもの、
10)炭素数2〜6のアルキニル基であり、直鎖状または分岐状でありかつ随意的に2個の三重結合を有するもの、または、
11)炭素数1〜10のアルキル基−C(O)−O−炭素数1〜6のアルキル基であり、置換されていないもの、または、1個、2個もしくは3個の水酸基、ハロゲン、ニトロ基および/もしくはアミノ基によって置換されているもの
上記8)〜11)のいずれかは置換されていないもの、または、1個、2個もしくは3個の水酸基、ハロゲン、ニトロ基および/もしくはアミノ基によって置換されているものである
(a)一般式Iの化合物に対して少なくとも5重量/体積%、
(b)4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、および/または2−ヘプタノールに対して少なくとも10体積%、および、
(c)水、
を含む液体の2相の混合物が、一般式IIのキラルなヒドロキシ化合物を形成するために、補助因子の存在下で、酸化還元酵素で処理される
−C(O)−R (II)
上記RおよびRは、上記のものである。
【0012】
本発明は、分離されたアルコールデヒドロゲナーゼおよび酸化還元酵素を用いる方法が、水と混和していない4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、および/または2−ヘプタノールによって、NAD(P)Hの補酵素を用いて、改良されかつ簡素化されるということに基づいている。
【0013】
より好ましくは、4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、および/または2−ヘプタノールの液体がバッチ反応の全体に対して40〜80体積%、2相の混合物がバッチ反応の全体に対して少なくとも40体積%である。
【0014】
本発明の方法によれば、ケトン化合物の還元は、NADHまたはNADPHおよび酸化還元酵素からなる水層、および、補基質4−メチル−2−ペンタノールおよびそれらに溶解されたケトン化合物によって形成される有機層の2相の系で実現される。
【0015】
補酵素NAD(P)Hは、補基質4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、および/または2−ヘプタノールの酸化によって影響を受ける。それと同時に、補基質4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、および/または2−ヘプタノールは、溶媒としてかつ水にほとんど溶解しないケトン化合物の抽出剤として働く。
【0016】
4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、および/または2−ヘプタノールを溶剤および補基質(cosubstrate)として用いることによって、反応時間を極めて短くすることができるのみならず、高変換(>90%)および高濃度をも実現し得る。というのも、基質が、平衡に逆らう状態を示すためである。
【0017】
上述した方法は、低い沸点を有するケトン(例えば、1,1,1−トリフルオロアセトン)の還元、および、結果として生じるキラルアルコール(例えば、1,1,1−トリフルオロプロパン−2−ol)が水よりも低い沸点を有するケトンの還元にとっても、とりわけ有利である。それらの場合には、蒸留によるヒドロキシ化合物、アセトン、2−プロパノール、および水の分離が、しばしば妨げられる。
【0018】
その上、本願発明に用いられるアルコールは、用いられている多くの酸化還元酵素(oxidoreductases)を安定化させることが証明されており、他の水性−有機性の二相システムと比較して一般的に酵素消費量が少ない。
【0019】
その結果、補酵素(coenzyme)は、基質と共役した方法(換言すれば、1つの酵素が、基質であるケトンを還元するとともに4−メチル2−ペンタノールを酸化する)、または酵素と共役した方法にて再生され得る。酵素と共役した方法では、補因子(cofactor)であるNADHまたはNADPHの再生は、瞬時に多量に発現された単一の第2級アルコールデヒドロゲナーゼ(secondary alcohol dehydrogenase)によって達成される。
【0020】
上記方法によって、10〜10の範囲のttn’s(total turn over number、1モルのコファクターあたりで形成される産物のモル数)が達成される。通例、これによって実現可能な基質濃度は、5%(体積比)よりも著しく高い。
【0021】
補基質(cosubstrate)の濃度は、反応混合物の体積の10〜90%であり、より好ましくは、反応混合物の体積の40〜80%である。
【0022】
酸化還元酵素の酵素消費量は、変換されるケトン化合物の10000〜10MioU/kg(上限値なし)である。したがって、酵素単位1Uは、1分間あたり一般式Iにて示される化合物が1μmol反応するために必要な酵素量に相当する。
【0023】
“NADH”との文言は、還元型のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを意図する。“NAD”との文言は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを意図する。“NADPH”との文言は、還元型のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を意図する。“NADP”との文言は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を意図する。
【0024】
キラルな“ヒドロキシル化合物”との文言は、一般式IIにて示される化合物を意図し、
−C(OH)−R・・・・・(II)
例えば、一般式IIにおけるR1およびR2は、一般式Iの場合と同じ意味を有している。
【0025】
アリール基(aryl)との文言は、環内に6個〜14個の炭素原子を含む芳香族炭素基(aromatic carbon moieties)を意図する。−(C−C14)−アリール基は、例えば、フェニル基、ナフチル基(例えば、1−ナフチル基、2−ナフチル基)、ビフェニル基(例えば、2−ビフェニル基、3−ビフェニル基、4−ビフェニル基)、アンスリル基(anthryl)、またはフルオレニル基である。アリール基は、ビフェニル基、ナフチル基であることが好ましく、フェニル基であることが特に好ましい。“ハロゲン”との文言は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素からなる群より選択される元素を意図する。−(C−C20)−アルキル基との文言は炭化水素を意図し、当該炭化水素の炭素鎖は1〜20個の炭素原子を含む直鎖または枝分かれした鎖(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、第三級ブチル基(tertiary butyl)、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノネニル基(nonenyl)、デカニル基(decanyl))である。“−C−アルキル基”との文言は、共有結合(covalent bond)を意図する。“−(C−C)−シクロアルキル基”との文言は、環状炭化水素(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、またはシクロヘプチル基)を意図する。“−(C−C14)−ヘテロ環”との文言は、部分的または完全に飽和した、単環または二環である5〜14個の部分からなる複素環を意図する。N、OおよびSは、ヘテロ原子の例である。−(C5−C14)−ヘテロ環の例は、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、テトラゾール、1,2,3,5−オキサチアジアゾール−2−オキシド、トリアゾロン(triazolone)、オキサジアゾロン(oxadiazolone)、イソキサゾロン(isoxazolone)、オキサジアゾリジンジオン(oxadiazolidinedione)、トリアゾール(F、−CN、−CF、または−C(O)−O−(C−C)−アルキル基によって置換される)、3−ハイドロキシピロロ−2,4−ジオン、5−オキソ−1,2,4−チアジアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、インドール、イソインドール、インダゾール、フタラジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シノリン(cinnoline)、上記複素環のカルボリン環紋型(carboline-anellated)派生物およびベンズ環紋型(benz-anellated)派生物、上記複素環のシクロペンタ環紋型(cyclopenta-anellated)派生物、シクロヘキサ環紋型(cyclohexa-anellated)派生物またはシクロヘプタ環紋型(cyclohepta-anellated)派生物、に由来した構造である。2−ピロリル、3−ピロリル、フェニルピロリル(例えば、4−フェニル−2−ピロリル、または5−フェニル−2−ピロリル)、2−フリル、2−チエニル、4−イミダゾリル、メチルイミダゾリル(例えば、1−メチル−2,4−イミダゾリル、または1−メチル−2,5−イミダゾリル)、1,3−チアゾール−2−yl、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、2−ピリジル−N−酸化物、3−ピリジル−N−酸化物、4−ピリジル−N−酸化物、2−ピラジニル、2−ピリミジニル、4−ピリミジニル、5−ピリミジニル、2−インドリル、3−インドリル、5−インドリル、置換された2−インドリル(例えば、1−メチル、5−メチル、5−メトキシ−、5−ベンジルオキシ−、5−クロロ−、または4,5−ジメチル−2−インドリル)、1−ベンジル−2−インドリル、1−ベンジル−3−インドリル、4,5,6,7−テトラヒドロ−2−インドリル、シクロヘプタ[b]−5−ピロリル、2−キノリル、3−キノリル、4−キノリル、1−イソキノリル、3−イソキノリル、4−イソキノリル、1−オキソ−1,2−ジハイドロ−3−イソキノリル、2−キノキサリニル、2−ベンゾフラニル、2−ベンゾ−チエニル、2−ベンゾキサゾリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ジハイドロピリニジル、ピロリジニル(例えば、2−(N−メチルピロリジニル)、3−(N−メチルピロリジニル)、ピペラジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、テトラヒドロチエニル、またはベンゾジオキソラニル)が、特に好ましい。
【0026】
一般式Iにて示される化合物は、エチル−4−クロロアセトアセテート、メチルアセトアセテート、エチル−8−クロロ−6−オキソオクタン酸、エチル−3−オキソ吉草酸、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、エチル−2−オキソ吉草酸、エチル−2−オキソ−4−フェニルブタン酸、ピルビン酸エチル、エチルフェニルグリオキシル酸、1−フェニル−2−プロパノン、2,3−ジクロロアセトフェノン、アセトフェノン、2−オクタノン、3−オクタノン、2−ブタノン、2,5−ヘキサンジオン、1,4−ジクロロ−2−ブタノン、塩化フェナシル、エチル−4−ブロモアセトアセテート、1,1−ジクロロアセトン、1,1,3−トリクロロアセトン、1,1,1−トリフルオロアセトン、および1−クロロアセトンであることが好ましい。
【0027】
本願発明の方法では、酵素は、完全に精製された状態、部分的に精製された状態、または細胞内に含まれた状態の何れでも使用され得る。したがって、使用される細胞は、天然のままの状態、透過性が付与された状態、または溶解された状態に準備され得る。
【0028】
10000〜10MioUの酸化還元酵素が、一般式Iにて示される化合物1kgあたりを変換するために用いられる(上限値なし)。したがって、1Uの酵素は、1分間あたりで、一般式Iにて示される化合物を1μmol反応させるために必要な酵素量に相当する。
【0029】
ケトンの光学異性体選択的な還元のための酸化還元酵素に加えて、更なる酸化還元酵素(好ましくは、第2級アルコールデヒドロゲナーゼ)もまた、補酵素の再生に含まれ得る。適した第2級アルコールデヒドロゲナーゼは、例えば、Thermoanaerobium brockii、Clostridium beijerinckii、Lactobacillus minor、Lactobacillus brevis、Pichia capsulata、Candida parapsilosis、または、Rhodococcus erythropolis由来の第2級アルコールデヒドロゲナーゼである。
【0030】
本願発明の方法では、上記アルコールデヒドロゲナーゼは、完全に精製された状態、または部分的に精製された状態にて用いられ得る。また、当該アルコールデヒドロゲナーゼを含む全細胞も、用いられ得る。したがって、用いられる細胞は、天然のままの状態、透過性が付与された状態、または溶解された状態に準備され得る。
【0031】
pHの値が5〜10、好ましくはpHの値が6〜9である緩衝液(例えば、リン酸カリウム緩衝液、Tris/HCl緩衝液、またはトリエタノールアミン緩衝液)が水に加えられ得る。更に、上記緩衝液は、両酵素を安定化または活性化させるためにイオン(例えば、Lactobacillus minor由来のアルコールデハイドロゲナーゼを安定化させるためのマグネシウムイオン)を含み得る。
【0032】
上記基質は、固体または液体、水溶性または非水溶性であり得る。その上、上記基質は、反応の間、完全に溶解された状態、または不完全に溶解された状態にても存在し得る。上記反応バッチ(reaction batch)は、更なる有機溶媒を含み得る。好ましい有機溶媒は、例えば、酢酸エチル、第3級ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、または異なる組成を有するこれらの混合物である。
【0033】
補因子であるNAD(P)Hの濃度は、水相に基づけば0.001mM〜1mMであり、特に0.01mM〜0.1mMである。
【0034】
本願発明の方法では、一般式Iにて示される化合物は、例えば、全量に対して2%〜50%(W/V)の量が用いられ、好ましくは、10%〜30%(W/V)の量が用いられる。
【0035】
本願発明の方法は、例えば、ガラスまたは金属によって作製された閉鎖系の反応槽内にて行われる。この目的のために、材料は、個別に上記反応槽内に導入され、そして当該材料は、例えば窒素または大気雰囲気下にて攪拌される。用いられる基質および一般式Iにて示される化合物に応じて、反応時間は1時間〜96時間であり、特に2時間〜24時間である。
【0036】
逆に、本願発明の方法は、酵素によって触媒される酸化反応にも用いられ得る。反応条件は、一般式Iにて示されるケトン化合物の光学異性体選択的な還元のための上述した方法と、基本的に同じである。しかしながら、上記方法では、一般式Iにて示されるケトン化合物の光学異性体選択的な還元の代わりに、一般式IIにて示される対応するヒドロキシ化合物が、対応するケトン化合物へと酸化される。その上、4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノールおよび5−メチル−3−ヘプタノールの各々の代わりに、対応する安価なケトン、つまり4−メチル−2−ペンタノン、5−メチル−2−ヘキサノンおよび5−メチル−3−ヘプタノンの各々が、NAD(P)の再生のための方法に用いられる。もしも、一般式IIにて示されるヒドロキシ化合物のラセミ体が、光学異性体選択性を有する酸化還元酵素と組み合わせて用いられれば、一般式Iにて示されるケトン化合物、および一般式IIにて示されるヒドロキシ化合物のラセミ体の光学異性体が、この過程において得られる。
【0037】
しかしながら、上記方法はまた、光学異性体非選択的な酸化還元酵素または光学異性体選択的な酸化還元酵素の混合物を用いることにより、入手困難なケトン化合物をそのアルコールのラセミ体から調製することに用いることができる。
【0038】
本願発明の更なる詳細は、以下の実施例にて明らかになる。
【0039】
〔実施例〕
一般式Iにて示される化合物の還元は、以下に示す化合物を反応槽内に導入するとともに、当該化合物が完全に混合されるように、室温にて当該化合物を保温(incubating)ることによって行われる。
【0040】
1.Candida parapsilosis由来のNADH依存性酵素を用いた(R)−エチル−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸の合成
【0041】
【表1】

【0042】
上記反応の終了後、水相が、生産物を含む有機相から分離される。そして、生産物である(R)−エチル−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸が、蒸留によって4−メチル−2−ペンタノールから精製される。このようにして、(R)−エチル−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸が、高い化学的純度および光学純度にて得られ得る。
【0043】
2.Candida parapsilosis由来のNADH依存性酵素を用いたS,S−ブタンジオールの合成
【0044】
【表2】

【0045】
上記反応の終了後、水相が、生産物を含む有機相から分離される。そして、生産物である(S,S)−ブタンジオールが、蒸留によって4−メチル−2−ペンタノールから精製される。このようにして、(S,S)−ブタンジオールが、高い化学的純度および光学純度にて得られ得る。
【0046】
3.Candida parapsilosis由来のNADH依存性酵素を用いた2,5−S,S−ヘキサンジオールの合成
【0047】
【表3】

【0048】
上記反応の終了後、水相が、生産物を含む有機相から分離される。そして生産物/抽出物(product/educt)の混合物である2,5−(S,S)−ヘキサンジオール/2,5−ヘキサンジオンが、蒸留によって4−メチル−2−ペンタノールから分離される。生産物である2,5−(S,S)−ヘキサンジオールは、後段の減圧蒸留によって抽出物である2,5−ヘキサンジオンから分離され得るとともに、99%よりも高い化学的純度にて得られ得る。その結果、上記工程の全収率は、例えば40%〜60%に達する。
【0049】
4.Pichia capsulata由来のNADH依存性酵素を用いた(R)−2−クロロ−1−(3−クロロフェニル)エタン−1−olの合成
【0050】
【表4】

【0051】
上記反応の終了後、水相が、生産物を含む有機相から分離される。そして、生産物である2−クロロ−1−(3−クロロフェニル)エタン−1−olが、蒸留によって4−メチル−2−ペンタノールから分離される。
【0052】
5.NADPH依存性酸化還元酵素を介した、8−クロロ−6−オキソオクタン酸エチルエステルのS−8−クロロ−6−ヒドロキシオクタン酸エチルエステルへの還元
【0053】
【表5】

【0054】
6.3−オキソ吉草酸メチルエステルのS−3−ヒドロキシ−オキソ吉草酸メチルエステルへの還元、Pichia capsulata
【0055】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iのケトン化合物の光学異性体選択的な酵素還元の方法であって、
−C(O)−R (I)
上記Rは、下記1)〜7)のうちの1種類であって、
1)炭素数1〜20のアルキル基であり、直鎖状または分岐状のもの、
2)炭素数2〜20のアルケニル基であり、直鎖状または分岐状でありかつ随意的に最大4個の二重結合を有するもの、
3)炭素数2〜20のアルキニル基であり、直鎖状または分岐状でありかつ随意的に最大4個の三重結合を有するもの、
4)炭素数6〜14のアリール基、
5)炭素数1〜8のアルキル基−炭素数6〜14のアリール基、
6)炭素数5〜14のヘテロ環であり、置換されていないもの、または、1個、2個もしくは3個の水酸基、ハロゲン、ニトロ基および/もしくはアミノ基によって置換されているもの、または、
7)炭素数3〜7のシクロアルキル基、
上記1)〜7)は、置換されていないもの、または、1個、2個もしくは3個の水酸基、ハロゲン、ニトロ基および/もしくはアミノ基によって置換されているものであり、
上記Rは、下記8)〜11)のうちの1種類であって、
8)炭素数1〜6のアルキル基であり、直鎖状または分岐状のもの、
9)炭素数2〜6のアルケニル基であり、直鎖状または分岐状でありかつ随意的に最大3個の二重結合を有するもの、
10)炭素数2〜6のアルキニル基であり、直鎖状または分岐状でありかつ随意的に2個の三重結合を有するもの、または、
11)炭素数1〜10のアルキル基−C(O)−O−炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、置換されていないもの、または、1個、2個もしくは3個の水酸基、ハロゲン、ニトロ基および/もしくはアミノ基によって置換されているもの、
上記8)〜11)は、置換されていないもの、または、1個、2個もしくは3個の水酸基、ハロゲン、ニトロ基および/もしくはアミノ基によって置換されているものであり、
(a)少なくとも5重量/体積%の一般式Iの化合物、
(b)4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、および/または2−ヘプタノールに対して少なくとも10体積%、および、
(c)水、
上記(a)〜(c)を含む液体の2相の混合物が、一般式IIにて示されるキラルなヒドロキシ化合物を形成するために、補助因子の存在下で、酸化還元酵素で処理され、
−C(O)−R (II)
上記RおよびRは、上記のものであることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記酸化還元酵素は微生物由来であって、Lactobacillales群のバクテリア、特にLactobacillus類由来、または、イースト菌、特にPichia、Candida、Pachysolen、Debaromyces、Issatschenkia類由来であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記補助因子としてNAD(P)Hが用いられていることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記液体の2相の混合物は、微生物由来の酸化還元酵素が用いられた場合に、少なくとも40体積%の4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、および/または2−ヘプタノールを含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記液体である2相の混合物は、40〜80体積%の4−メチル−2−ペンタノール、5−メチル−2−ヘキサノール、および/または2−ヘプタノールを含んでいることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記液体である2層の混合物は、2〜50重量/体積%、特に10〜50重量/体積%の量の一般式(I)の化合物を含んでいることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
一般式(I)の化合物として、エチル−4−クロロアセトアセテート、メチルアセトアセテート、エチル−8−クロロ−6−オキソオクタン酸、エチル−3−オキソ吉草酸、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、エチル−2−オキソ吉草酸、エチル−2−オキソ−4−フェニルブタン酸、エチルピルビン酸塩、エチルフェニルグリオキシレート(glyoxylate)、1−フェニル−2−プロパノン、2,3−ジクロロアセトフェノン、アセトフェノン、2−オクタノン、3−オクタノン、2−ブタノン、2,5−ヘキサンジオン(hexanedione)、1,4−ジクロロ−2−ブタノン、フェナシルクロライド(phenacyl chloride)、エチル−4−ブロモアセトアセテート、1,1−ジクロロアセトン、1,1,3−トリクロロアセトン、1,1,1−トリフルオロアセトン、または、1−クロロアセトンが用いられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−508499(P2009−508499A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531549(P2008−531549)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007425
【国際公開番号】WO2007/036257
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(506371316)アイイーピー ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】