説明

酵素糖化方法ならびにエタノール製造方法

【課題】 古紙の成分の一つである炭酸カルシウムは酵素による糖化反応を阻害するが、古紙中の炭酸カルシウムの含有率はこれから増える一方。酵素糖化反応を促進するためにバイオマス中の炭酸カルシウムを除去する必要があるが、強酸の使用は安全性の面でもコストの面でも好ましくない。本発明はより省エネルギー省コストで安全に炭酸カルシウムを除去でき、酵素の糖化反応を促進できる方法の探索を研究の課題とした。
【解決手段】 二酸化炭素を、好ましくはバイオエタノール発酵工程で発生した二酸化炭素を、炭酸カルシウム含有バイオマスの水性スラリーに投入し、炭酸カルシウムを溶解度が高い炭酸水素カルシウムに変換させ、固液分離により炭酸カルシウムを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系バイオマスから、酵素糖化・エタノール発酵を経てエタノールを製造する、いわゆるバイオエタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラル燃料としてバイオエタノールが注目されている。バイオマスからバイオエタノールを製造する代表的な方法として、まずバイオマスから糖を製造し、この糖を微生物の発酵基質として用いることによりエタノール発酵を行う方法がある。
【0003】
バイオマス中の多糖類から糖を作る方法は大きく分けて二つの方法がある。一つは酸を用いて加水分解する酸糖化法であり、もう一つは酵素やその酵素を生産する微生物を用いて加水分解する酵素糖化法である。
【0004】
酸糖化法は酵素糖化法に比べて技術的に完成されているが、使用した酸の廃棄による環境負荷が問題となっており、実用化の防げとなっている。また酸糖化法では副反応による生じるフルフラールはエタノール発酵反応を阻害する。
【0005】
酵素糖化法は酵素反応の特異性から副反応が起きないという特長がある。しかし、酵素の製造コストが高く、また熱、pH、イオン濃度等の条件によって酵素自体が影響されるため、バイオマスの前処理と反応条件の維持が不可欠である。
【0006】
バイオマスの一つである古紙は、セルロース含有率が多く、他の木質原料と比べて分解しやすい利点があるため、バイオマス原料として期待されている(特許文献1参照)。
【0007】
またバイオマスを糖化する方法として酸糖化法や種々の前処理方法と酵素法との組み合わせが知られているが、化学的な処理、たとえば硫酸、塩酸等の酸を使用する方法や苛性ソーダ、アンモニアなどのアルカリを使用する方法では、この炭酸カルシウムによって消費されるこれら薬品の使用量の増加、炭酸ガスの発生、糖化後の廃棄物の増加という問題がある。
【0008】
しかし、近年製紙メーカーのコストダウンおよび製品の高白色志向から、紙に使用する炭酸カルシウムの割合は年々増加しており、湿式重質炭酸カルシウムと軽質炭酸カルシウムの合計使用量は10年前と比べて48%も増加し(非特許文献1参照)、現在では、炭酸カルシウムは平均的に紙の5〜20質量%を占めている。
【0009】
従って、酵素糖化を効率的に行うため、古紙中の炭酸カルシウムを除去する前処理工程が不可欠になるが、炭酸カルシウムは水に対する溶解度が低く、通常の洗浄では容易に除去できない。硫酸や塩酸等の酸で炭酸カルシウムを溶解、除去できるが、強酸を使用することにより、コスト、安全性と工程の複雑化が危惧される。
【0010】
一方、糖類からエタノールの発酵反応は、下記化学反応式〔式1〕に示す反応であり、エタノールの生産と同時に同じモル数のCO2が発生する。この発酵ガスは原料中のカーボンの1/3に相当し、高純度であるが殆ど有効利用されないでいるのが現状である。
6126→2C25OH+2CO2 ・・・〔式1〕
【0011】
こうしたことから、エタノール発酵工程で得られる二酸化炭素を有効利用しようとする提案もあり、その二酸化炭素から燃料を作る方法が提示されている(特許文献3)が、二酸化炭素以外に水素と触媒の調達が必要となる。
【0012】
【特許文献1】特開2006-87319号公報
【特許文献2】特開2001-526303号公報
【特許文献3】特開2007-314745号公報
【特許文献4】特開平11−319765号公報
【特許文献5】特開2001-293342号公報
【非特許文献1】紙パルプ産業白書2008年版
【非特許文献2】飯塚淳他「廃コンクリートを用いた新規な二酸化炭素固定プロセス」化学工学論文集、Vol.28、No.5、2002年9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、上記した酸糖化法の問題点を考慮し、そのような問題が少ない、セルラーゼ酵素による古紙糖化の研究を行った。
ところが、紙の成分のひとつである、コーティング顔料および填料として使われている炭酸カルシウムが存在すると酵素糖化における反応効率が悪くなるのではないかとの疑いを抱き、炭酸カルシウムの糖化反応への影響を研究した。その結果、炭酸カルシウムの濃度が増加すると、セルラーゼ酵素の糖化反応を阻害することを見出した。
そこで、本発明は、古紙などの酵素糖化において、炭酸カルシウムの悪影響を少なくすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を達成するため、本発明者等は古紙中の炭酸カルシウムを除去する方法について鋭意検討した。その結果、二酸化炭素、特には、エタノール発酵工程で発生する二酸化炭素を利用すれば、炭酸カルシウムを簡単に除去することが可能となり、糖化率とエタノールの収率が高くなることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(6)の構成を採用する。
(1) バイオマス原料とセルラーゼを含む酵素とを水中で混合し、該バイオマス原料を酵素糖化する系において、炭酸カルシウムを含有するセルロース系バイオマスが分散された水性スラリーに二酸化炭素を吹き込んで炭酸カルシウムを溶解し、溶解水を分離除去したものをバイオマス原料として用いることを特徴とする、バイオマス原料の酵素糖化方法。
(2) バイオマス原料とセルラーゼを含む酵素とを水中で混合し、該バイオマス原料を酵素糖化する系において、炭酸カルシウムを含有するセルロース系バイオマスを二酸化炭素溶解水に分散して炭酸カルシウムを溶解し、溶解水を分離除去したものをバイオマス原料として用いることを特徴とする、バイオマス原料の酵素糖化方法。
(3) セルロース系バイオマスが0.25質量%以上炭酸カルシウムを含有する(1)または(2)に記載のバイオマス原料の酵素糖化方法。
(4) 該分離除去された溶解水から炭酸カルシウムを沈殿させて除去した水を回収して使用することを特徴とる、(1)〜(3)のいずれかに記載の酵素糖化方法。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかの方法による酵素糖化を行う糖化工程の後、または糖化工程と同時にエタノール発酵を行う発酵工程を有することを特徴とするエタノールの製造方法。
(6) 該二酸化炭素として、該発酵工程で発生した二酸化炭素を用いることを特徴とする、(5)に記載のエタノールの製造方法。
【0016】
本発明者は、炭酸カルシウムの特性に注目した。通常炭酸カルシウムの溶解度は水100gに対して0.0013gである(室温)。従って、炭酸カルシウム水に溶解させることは困難であり、また、特に填料として使われている炭酸カルシウムは紙の繊維の間に取り込まれるため、通常の洗浄で流し落とすことも容易ではない。
【0017】
炭酸カルシウムを鉱酸で溶解することも考えられ、炭酸カルシウムに強酸(例えば塩酸や硫酸)を加えると下記化学反応式〔式2〕、〔式3〕の反応が起こり、カルシウム塩と二酸化炭素が生じる。
CaCO3+HCl→CaCl2+CO2 ・・・〔式2〕
CaCO3+H2SO4→CaSO4+CO2 ・・・〔式3〕
【0018】
塩化カルシウムは水によく溶けるが、塩酸の価格が高く、塩素分が焼却炉を傷めるなど取り扱いが厄介である。硫酸は塩酸と比べて安価であるが、生成した硫酸カルシウムは残存炭酸カルシウムの表面を被覆してしまい、反応が進まなくなるため、反応を完結させるには外来的な撹拌動力が必要となる。このように、鉱酸を利用すると色々な問題が発生する。
一方炭酸カルシウムの沈殿に二酸化炭素を加えると下記化学反応式〔式4〕のように炭酸水素カルシウムに変化して可溶となる。
CaCO3+CO2+H2O→Ca(HCO32 ・・・〔式4〕
【0019】
二酸化炭素は強酸と比べて安全性が高く、操作が簡易であると同時に二酸化炭素量をコントロールすることによって、炭酸カルシウムの溶解具合を調整できる利点がある。例えば特許文献4には、破砕したコンクリート塊を二酸化炭素ガスと接触させ、次いで二酸化炭素水溶液中に浸したのち固液分離して炭酸カルシウムとして回収するコンクリート廃棄物の処理方法を開示している。また非特許文献2は、水中に分散させたコンクリート塊中に二酸化炭素ガスを高圧条件下(例えば3.0MPa程度)で吹き込むことによりカルシウム分を抽出して溶解させるプロセスを報告している。
【0020】
また本発明者は、炭酸カルシウムの除去に用いる二酸化炭素はバイオエタノールの発酵処理の排出物として得られることに注目した。上述したようにエタノール発酵処理で発生した二酸化炭素を含むバイオガスは二酸化炭素濃度が高く(ほぼ100%)、発生した二酸化炭素を、他の空気成分から回収や濃縮する手間が不要で、そのまま利用することが可能である。すなわち、エタノール発酵から排出される二酸化炭素を用いて炭酸カルシウムを溶解すれば、外部からの薬剤やエネルギーの投入量を最小限に抑え、バイオマス中の酵素反応阻害物質を前処理工程で除去するかつ回収し再利用することが期待できる。
【0021】
本発明によれば、上記したようにバイオマスの前処理工程にて水に浸漬するバイオマスに、二酸化炭素を投入することにより、炭酸カルシウムを確実に除去でき、酵素糖化に適した原料をつくることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明より、エタノール発酵工程で発生する未利用の二酸化炭素を利用することにより、より省エネルギー省コストで酵素反応を阻害する炭酸カルシウムを除去することができ、酵素の糖化反応を促進し、最終的にバイオエタノールの収率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる炭酸カルシウムを含有するセルロース系バイオマスとは、木材、紙、繊維などどのようなものでもよいが、炭酸カルシウムを内部に含有するか、炭酸カルシウム入りの塗料が塗られたものなどである。代表的なものとしては、古紙、製紙スラッジが挙げられる。
古紙としては、古紙を原料のひとつとしたものであればどのような種類の古紙でもよく、段ボール古紙、茶模造古紙、台紙・ボール古紙、雑誌古紙、新聞古紙、上白・カード古紙、特白・中白古紙、切付・中更古紙、模造・色上古紙、シュレッダー古紙、タック剥離紙等を用いることができる。また、感熱紙、ノーカーボン、アルミ貼合段ボール、重袋等の禁忌品も使用することができる。また、上記の古紙や禁忌品を原料としたパルプを用いることもできる。古紙、禁忌品ならびにパルプに含まれる異物の種類や量は、どのような種類や量でも良いが、原料としてはセルロース分が多い方が好ましい。本発明者の実験結果により、反応系中の炭酸カルシウムの濃度が0.25%以上であれば酵素の糖化反応を阻害することが明らかにされたため、0.25%以上の炭酸カルシウムが存在するセルロース系バイオマスであれば、本発明の方法を実施した方が好ましい。
【0024】
本発明の酵素糖化工程には少なくとも以下の(B)工程及び(C)工程が含まれる。また、本発明のエタノールの製造方法では、更に(D)工程が含まれる。そして、(C)工程、(D)工程はバッチ、フェドバッチ、連続方式あるいはそれらの組み合わせは適宜に選択することができる。また、必要に応じて、(A)工程を設けることが好ましい。
(A)バイオマスの前処理工程、
(B)炭酸カルシウム溶解工程、
(C)酵素糖化工程、
(D)エタノール発酵工程、
【0025】
また、上記の工程を同時に行うこともできる(例えば、(C)と(D)を一つの工程にした併行糖化発酵工程)、目的によって他の工程との組み合わせもできる(例えば、エタノールの分離精製工程)。以下に各工程について説明する。
【0026】
(A)バイオマスの前処理工程は、次の酵素糖化工程が効率よく進むための必要な工程であり、例えば粉砕工程、異物除去工程、脱水工程等からなる。原料の状況と反応条件に応じて、工程を増減するや、複数の工程を組み合わせすることができる。例えば粉砕工程はハンマーミル、ロータリーミル、クラッシャー等の粉砕機や、高濃度パルパー、低濃度パルパーやドラムパルパー等の離解機を用いて行うことができる。また、異物除去工程は形状、比重、固さ等の違いを利用して原料にならないもの(例えば、金属やフィルム等)を除去する工程のことをさす。異物を分離するものであれば、どのような装置でもよく、例えば、振動スクリーン、密閉加圧式スクリーン、遠心力型スクリーン、渦流クリーナーがあげられる。脱水工程に用いる脱水機はスクリュープレス型、エキストラクター型、シックナー型、ディスクフィルター型、シリンダープレス型、プレス型等、どれでもかまわないし、どのように組み合わせてもよい。
【0027】
(B)炭酸カルシウムを水に溶解する工程では、炭酸カルシウムを含有するセルロース系バイオマスが分散された水性スラリーに二酸化炭素を吹き込んで炭酸カルシウムを溶解し、溶解水を分離除去方法が可能である。この方法によれば、二酸化炭素が水に溶解し、炭酸カルシウムの一部と反応するので、二酸化炭素を吹き込み続けることにより反応は進行して行く。二酸化炭素ガスを吹き込む際には、バブリングによる自然な混合でもよいし、撹拌などの動力を加え強制的な混合を行ってもよい。滞留反応時間は数分間だけがあれば十分であるが、10分以上が好ましい。二酸化炭素と反応した後のバイオマスを脱水すれば、炭酸水素カルシウムは固形分のバイオマスから分離できる。脱水後の固形分濃度が5〜40%であれば、十分な効果が得られるが、10%以上が好ましい。また脱水後もう一度水を加えて洗浄して脱水することも好ましい。
また、予め二酸化炭素を高濃度に溶解した二酸化炭素溶解水を作成し、これに炭酸カルシウムを含有するセルロース系バイオマスを分散する方法も可能である。この方法は、例えば特許文献5のような装置で高濃度の二酸化炭素溶解水を作成する必要がある反面、二酸化炭素を水に溶解する操作と炭酸カルシウムを溶解する操作は併行して行えるというメリットがある。
【0028】
(C)酵素糖化工程では、上記(B)工程で得られたバイオマス原料(本明細書では、炭酸カルシウムを含有するセルロース系バイオマスがB工程を経たものをバイオマス原料と称する)にセルラーゼ酵素処理を行うことにより、固形分中のセルロースをセルラーゼにより単糖まで分解する。使用するセルラーゼは、セルロースを効率的に六炭糖まで糖化できるものであれば特に限定されない。例えば、セルラーゼは、植物及び動物由来のいずれでもよく、化学修飾されたものであっても、遺伝子組換えにより生成されたものであってもよい。なお、セルラーゼを反応させる温度、時間及び量は、セルラーゼの種類によって異なるが、当業者であれば、使用するセルラーゼの種類に応じて適宜選択することができる。あるいは、バイオマスを原料として適宜に必要な培地成分を加えセルラーゼ生成菌を発酵させることにより糖液を得ることも可能である。そのようなセルラーゼ生成菌は、当技術分野で公知であり、例えばAspergillus niger、A. foetidus、Alternaria alternata、Chaetomium thermophile、C. globosus、Fusarium solani、Irpex lacteus、Neurospora crassa、Cellulomonas fimi、C. uda、Erwinia chrysanthemi、Pseudomonas fluorescence、Streptmyces flavogriseus等が挙げられる。
【0029】
上記説明でセルラーゼ酵素処理と述べたが、一般的に糖化反応あるいは糖化醗酵反応で使用するセルロース分解酵素は、セロビオヒドロラーゼ活性、エンドグルカナーゼ活性、ベータグルコシダーゼ活性を有する、所謂セルラーゼと総称される酵素であり、本明細書においても、セルラーゼとはこの総称を意味している。
ヘミセルラーゼは、キシラン分解酵素、マンナン分解酵素、ペクチン分解酵素、アラビナン分解酵素などの一連のヘミセルロース分解酵素の総称であるが、市販されているセルラーゼ製剤には、上記した各種のセルラーゼ活性を有すると同時に、ヘミセルラーゼ活性も有しているものが多く、本明細書における「セルラーゼを含む酵素」とは、各種セルラーゼ活性およびヘミセルラーゼ活性を含む、市販のセルラーゼ製剤を意味している。
市販のセルラーゼ製剤としては、商品名で、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラーゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)等が挙げられる。
バイオマス原料固形分100質量部に対するセルラーゼ製剤の使用量は、0.5〜100質量部が好ましく、1〜50質量部が特に好ましい。
【0030】
(D)エタノール発酵工程では、酵素糖化工程から得た糖液をエタノール生成可能な微生物の発酵原料として利用しエタノールを生成する。糖液中にキシロース、アラビノース等の五炭糖と、グルコース、ガラクトース、マンノース等の六炭糖を含む。六炭糖のエタノール発酵は、当技術分野で公知のエタノール製造方法に従って、酵母、又は遺伝子組換えによりエタノール生成に必要な遺伝子を有する細菌を用いて行うことができる。五炭糖のエタノール発酵は、例えば五炭糖及び六炭糖の両方を資化するが、エタノールを生成しない大腸菌に、エタノールを生成する微生物由来の遺伝子を導入した遺伝子組換え大腸菌や、エタノール発酵性のザイモモナス属(Zymomonas)細菌に五炭糖の代謝遺伝子を導入した遺伝子組換え細菌等を用いて行うことができる。エタノール発酵の条件は、当業者であれば、原料となる糖の種類、使用するエタノール発酵菌の種類等に応じて、適宜設定することができる。
【0031】
前記(B)工程で用いる二酸化炭素は、ガスボンベ、ドライアイスなどを利用してもよいが、前記(D)工程から発生するものを利用することが好ましい。
エタノール発酵工程で発生した発酵ガスからそのままの状態の二酸化炭素を使ってもよいし、あるいは濃縮工程を経て精製濃縮した二酸化炭素を利用してもよい。
二酸化炭素の濃縮工程、従来公知の二酸化炭素の濃縮方法を適用することができ、例えば、ゼオライト、活性炭、又は木炭や竹炭の炭化物等を用いた物理的吸着法、アミン液等を用いた化学吸収法、高分子膜や液膜を用いた膜分離法等を挙げることができる。これらの濃縮は従来公知の方法に準じて実施すれば良い。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について実施例により詳説する。本発明はこれにより限定されるものではない。なお、以下の実施例では、二酸化炭素として、ガスボンベから供給して用いたが、これをエタノール発酵工程から発生する二酸化炭素に置き換えることが可能である。
【0033】
<実施例1>
500ml水に市販コピー用紙25gを加え、離解機を用いパルプ懸濁液を用意した。この懸濁液に二酸化炭素ガスを3分間バブリングした後、遠心脱水機を用い30%まで脱水した。このパルプに500ml水を加え、上記の二酸化炭素バブリングし、脱水する操作を2回繰り返し行い、最終濃度が10%のパルプ懸濁液を調整した。
紙あるいはパルプの固形分と灰分濃度はそれぞれ水分試験方法(JIS P 8002)と灰分試験方法(JIS P 8003)に準じ測定を行った。固形分と灰分の差を有機分とした。
有機分あたりの灰分の割合を灰分率として求めた。表1に結果を示した。
ついで、得られたパルプから有機分換算5g相当量をフラスコに添加し、酵素1g(MultifectCX10L、ジェネンコア協和(株))を添加し、最終量が100gになるように水を添加した後、50℃、120rpmで反応させた。24時間後上清の全糖濃度を測定し、糖化率を求めた。全糖濃度はフェノール硫酸法で測定し、グルコースを標準として作成した検量線から全糖濃度を計算した。元の有機分あたりの全糖量を糖化率とした。
結果を表2に示した。
次に、得られた糖液に0.5g CSL(コーンスティープリカー)を添加し120℃で蒸気滅菌した。YM標準培地で24時間前培養したSaccharomyces cerevisiae IFO-0224株を4000rpm、20分間の遠心で集菌し、同量の滅菌水で洗浄、再度遠心した。得られた菌液を30ml水で懸濁した後、10mlを上記の滅菌した糖液に懸濁し30℃、120rpmで培養した。24時間後の培養液を濾過除菌した後液中のエタノール濃度をガスクロマトグラフィーで測定した結果を表3に示した。
【0034】
<比較例1>
実施例1において二酸化炭素バブリング操作を行わず、それ以外は全て同様に操作を行い、最終濃度が10%のパルプ懸濁液を調整し、同様に酵素処理を行い、エタノール発酵を行った。
【0035】
<比較例2>
実施例1において、二酸化炭素の代わりにパルプの最終pHが7以下になるまで6N塩酸をパルプに添加し、同様に水で洗浄した。使用した塩酸は元の試料1kgに対し250mlであった。このパルプを用いて実施例1と同様の操作を行い、酵素処理、エタノール発酵を行った。
【0036】
表1に元のコピー用紙、実施例1、比較例1、比較例2のパルプ懸濁液の灰分測定結果を示した。表1より、コピー用紙中の灰分(主に炭酸カルシウム)は二酸化炭素の投入によって塩酸投入時と同等に除去されたことが示された。また、水のみでの洗浄は微かに灰分しか除去できなかった。
【0037】
【表1】

【0038】
上記元のコピー用紙、実施例1、比較例1、比較例2のパルプ懸濁液を酵素糖化した結果を表2に示した。炭酸カルシウムが除去されてないコピー用紙と比較例1では、酵素の糖化反応が阻害されたため、糖化率が低かった。一方、炭酸カルシウムの大部分が除去された実施例1と比較例2では、糖化率が高かった。
【0039】
【表2】

【0040】
糖化液からのエタノールの生産量は表3に示した。糖化率の高い実施例1、比較例2ではエタノールの収率も高かった。一方比較例1のように単に水で洗浄しただけでは、エタノールの収率向上はわずかであった。
【0041】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0042】
バイオエタノール発酵工程で発生した未利用二酸化炭素でバイオマス中の酵素反応を阻害する炭酸カルシウムを省エネルギー省コストで除去する方法を提供する。この方法によって、バイオマスの酵素糖化反応を促進し、最終的にエタノール収率も向上することが可能になる。また、除去した炭酸カルシウムを簡易に回収することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス原料とセルラーゼを含む酵素とを水中で混合し、該バイオマス原料を酵素糖化する系において、炭酸カルシウムを含有するセルロース系バイオマスが分散された水性スラリーに二酸化炭素を吹き込んで炭酸カルシウムを溶解し、溶解水を分離除去したものをバイオマス原料として用いることを特徴とする、バイオマス原料の酵素糖化方法。
【請求項2】
バイオマス原料とセルラーゼを含む酵素とを水中で混合し、該バイオマス原料を酵素糖化する系において、炭酸カルシウムを含有するセルロース系バイオマスを二酸化炭素溶解水に分散して炭酸カルシウムを溶解し、溶解水を分離除去したものをバイオマス原料として用いることを特徴とする、バイオマス原料の酵素糖化方法。
【請求項3】
セルロース系バイオマスが0.25質量%以上炭酸カルシウムを含有する請求項1または請求項2に記載のバイオマス原料の酵素糖化方法。
【請求項4】
該分離除去された溶解水から炭酸カルシウムを沈殿させて除去した水を回収して使用することを特徴とる、請求項1〜3のいずれかに記載の酵素糖化方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの方法による酵素糖化を行う糖化工程の後、または糖化工程と同時にエタノール発酵を行う発酵工程を有することを特徴とするエタノールの製造方法。
【請求項6】
該二酸化炭素として、該発酵工程で発生した二酸化炭素を用いることを特徴とする、請求項5に記載のエタノールの製造方法。

【公開番号】特開2010−41923(P2010−41923A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206257(P2008−206257)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】