説明

酸めっき浴およびサテンニッケル皮膜の電解析出法

本発明によるサテンニッケル皮膜の析出のためのめっき浴は少なくとも1つの第4級アンモニウム化合物と少なくとも1つのポリエーテルを含み、少なくとも1つのポリエーテルは少なくとも1つの強疎水性側鎖を有する。先行技術のめっき浴と比較して、この酸めっき浴は、操業期間、または加熱および冷却サイクル、またはろ過サイクルを延ばすことができ、活性炭を用いずに浴を連続的に操業するのに必要なろ過を行なうことができ、サテン光沢仕上げを生成するのに先行技術の浴よりも低いニッケルの濃度しか必要とせず、投入されている湿潤剤に対する浴の鋭敏性を低減させることができる利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸めっき浴およびサテンニッケル皮膜の電解析出法に関する。それに反して、つや消しニッケル皮膜を得るための電解液は本発明の一部を構成しない。
【背景技術】
【0002】
ニッケル電気めっきにおいて、光沢のある平坦な皮膜を達成しようと一般的に試みられている。やがて、絹のようなつや消し皮膜が眩光効果を乱すのを防ぎながら審美的な外観を有することも見出されてきた。半光沢ニッケルおよびクロム層と組合せると、このような層は光沢ニッケル層と同様の腐食保護をもたらす。これらのサテンニッケル層は自動車産業において、精密機構において、衛生産業において、および家具産業においてさえも広く用いられている。
【0003】
従来、サテン効果は種々の方法を用いて生成され得た。まず、サテン効果はつや消しされる底層をサンドブラストする機械的な方法を用いて得られた。その後、ある粒度の不溶解物質、例えば、ガラス、フレンチチョーク、硫酸バリウム、グラファイト、カオリン、または同様の物質がニッケル電解液に添加された。第1の方法は著しく高価であり、電解プロセスには適当ではない。一方、不溶解物質を用いて得られるサテン効果は絹のようなつや消しと比較して粗く、ムラのある表面を有していた。
【0004】
部分的に湿潤剤を安定させる難溶性の有機物質は、以下に述べるように、永続性のある成功を呈しなかった。
特許文献1はサテンニッケル皮膜をもたらす酸ニッケルめっき浴を開示している。この浴は、第1光沢剤に加えて、ある濃度のエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドまたはエチレンオキシド/プロピレンオキシドの置換または非置換付加物を含んでいる。これらの付加物は40〜75℃の温度で5〜100mg/lの範囲内の前記濃度で電解液中に微細なエマルジョンを形成する。
【0005】
さらに、特許文献2は絹のようなつや消し層を析出させるための酸水溶性のニッケルめっき浴、ニッケル/コバルトめっき浴、またはニッケル/鉄めっき浴を記載している。これらの浴は、第1光沢剤および/または第2光沢剤に加えて、乳化した液状ポリシロキサン・ポリオキシアルキレンブロックコポリマーを含んでいる。
【0006】
さらに、日本の特許英文抄録において、特許文献3はサテン皮膜を析出させるためのニッケル浴を開示している。この浴は、光沢剤としてのサッカリンおよびポリオキシエチレンーポリオキシプロピレンブロックコポリマーに加えて、アルキルアリールスルホン酸塩およびスルホコハク酸のエステルの群から選択される湿潤剤を含んでいる。この場合、サテンニッケル層は浴が準備されてから短期間にのみ得られることが認められた。その後、得られる皮膜は粗く、かつ見苦しい。
【0007】
特許文献4は光沢ニッケル層またはニッケル/コバルト層を析出させるための水溶性電解浴をさらに開示している。いくつかの実施例によれば、とりわけ、スルホコハク酸のエステルがすでに第2補助光沢剤としてのサッカリンを含んでいる浴に添加される。これらの浴はサテン層を生成させるのに用いられていない。
【0008】
室温のニッケル電解液には完全に溶解するが、50〜60℃の作業温度では溶解しないポリアルキレンオキシドの付加物、殆どの場合、エチレンオキシド/プロピレンオキシドの付加物を水または脂肪族アルコールと共に用いる方法がより一層受け入れられている(特許文献5)。曇点温度を越えると、非イオノゲン表面活性剤はそれらの水和物シェルを放出することによって析出することが知られている。これらの析出する滴は実質的にニッケル内には含まれず、ニッケルの析出を選択的に阻害する。この方法の欠点はポンプ循環と共に加熱および冷却に多くのエネルギを消費する点にある。また、この浴の最大容量も、それが約8,000リットルに達すると加熱、冷却、およびポンプ循環の消費が極めて大きくなるので、制約される。さらに、短期間の経過の後、黒色ピットを生成する凝集体が形成されることが多い。
【0009】
前述の欠点を考慮して、第4級アンモニウム化合物を浴において用いる方法がますます受け入れられている。特許文献6はつや消しニッケル皮膜またはニッケル/コバルト皮膜を生成する方法を開示しているが、この方法によれば、異物を含ませることによってつや消し皮膜が得られる。これらの異物はカチオン活性または両性物質を有機アニオンと結合させることによって得られる。有力なカチオン活性または両性物質は第4級アンモニウム化合物、イミダゾリン誘導体、アルカノールアミンのエステル、およびアミノカルボン酸に基づく表面活性剤である。ニッケル電解液に含まれるアニオン性第1光沢剤と共に、カチオン活性物質は難溶解性でニッケル析出プロセスを阻害することによってサテン効果を生成するイオン対を生成する。残念なことに、この方法も以下に述べる欠点を有している。
【0010】
約3〜5時間の内に、析出する難溶解性のイオン対の結晶の寸法が増大し、ニッケル表面を次第に粗くし、すなわち、明瞭に肉眼で観察可能な粗い単一のニッケル結晶(「ダイヤモンド」)を生成し、この単一のニッケル結晶がニッケル表面の外観を阻害する。従って、長くても8時間後には製造を中断し、セルロースフィルター、珪藻土、さらには活性炭のような濾過手段を用いて電解液を完全にろ過および洗浄しなければならない。この製造の中断は大きな支障を来たし、極めてコストが掛かる。特に自動化機械を用いている場合には顕著である。さらに、拭取ることになる膜(「銀層」)がクロムめっきの後10分以上の間に形成されることが多い。
【0011】
この欠点を克服するいくつかの試みがなされている。1つの解決策は、例えば、2つの方法を組合せて、有機芳香族スルフィン酸をサテンニッケル皮膜を生成させることを目的とする浴に添加することからなる。このような浴組成は特許文献7に記載されている。この場合、光学的に均一な皮膜は冷却および加熱なしでは得られない。
【0012】
浴が肉眼によって観察可能な曇りを生じないほどわずかな濃度の極めて効果的な非イオノゲン湿潤剤(ポリエチレングリコールモノメチルエーテル)を用いても功を奏することがない。特許文献8は、とりわけ、第1光沢剤、有機スルフィン酸、および湿潤剤を含むニッケル浴を利用して眩光効果のないニッケル皮膜の電解析出のための他の方法を示している。この浴は浴がその操作温度において肉眼で観察できる曇りを生じないほどわずかな濃度のエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドまたはエチレンオキシド/プロピレンオキシドの置換および/または非置換付加物をさらに含んでいる。ここに示された濃度の非イオノゲン湿潤剤は功を奏しない。何故なら、それらの効率は極めて早く減少し、皮膜の外観が急速に変化するからである。
【0013】
記載の方法は全て数時間しか操業できない。スルホコハク酸のエステルをアンモニウム化合物と共に用いることによって、ある改良がなされている(特許文献9)。しかし、必要とされる105g/lを越える大量のニッケルイオンと(投入されている)異物の湿潤剤に対する鋭敏性が欠点である。さらに、洗浄を必要とする浴は活性炭によってのみ首尾よく洗浄できるが、活性炭は取扱いが全く不便である。何故なら、フィルタは一度しか使えず、残ったフィルタは各洗浄の後に廃棄しなければならないからである。一方、拭取ることになる膜(「銀層」)の形成による問題がクロムめっき中に生じる。
【0014】
【特許文献1】独国特許出願公開第1621085号明細書
【特許文献2】独国特許第2522130B1号明細書
【特許文献3】特開昭56−152988号明細書
【特許文献4】独国特許発明第2134457C2号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第1621087号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第2327881A1号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第3736171A1号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第19540011A1号明細書
【特許文献9】独国特許発明第10025552C1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的はサテン光沢仕上げを有するニッケルの電解析出のための浴および方法を提供することにある。この浴と方法は、前述の問題を生じることがなく、さらに具体的には、操業の期間、または加熱および冷却サイクル、またはろ過サイクルを延ばすことができ、活性炭を用いずに浴を連続的に操業するのに必要なろ過を行なうことができ、サテン光沢仕上げを生成するのに先行技術の浴よりも低いニッケル濃度しか必要とせず、投入されている湿潤剤に対する浴の感度を低減させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この問題に対する解決策は、請求項1に記載のサテンニッケル皮膜の電解析出のための酸めっき浴、および請求項13に記載のサテンニッケル皮膜の電解析出法によって達成される。本発明の好ましい実施態様は従属請求項に示される。
【0017】
サテン光沢仕上げを有する酸めっきニッケル皮膜に関する本発明を開示および説明する前に、ここに開示される具体的なプロセス工程および材料はいくらか変更され得るものであって、本発明はこのようなプロセス工程および材料に制限されるものではないことが理解されるべきである。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるものであって、ここに用いられる専門用語は具体的な実施態様を説明する目的でのみ用いられ、制限することを意図していないことが理解されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
各々が少なくとも1つの強疎水性側鎖を有する少なくとも1つのポリエーテルがカチオン活性湿潤剤として作用する少なくとも1つの第4級アンモニウム化合物を含むサテンニッケル皮膜を生成することを目的とする電解液に添加された場合に、ニッケル析出中に安定したサテン効果が得られることが見出された。この目的のために、被覆される基板を本発明の電解めっき浴に接触させ、電流を基板と陽極との間に流す。
【0019】
ニッケル電解液は好ましくは少なくとも1つのアニオン第1光沢剤を含み、かつ100g/リットルよりも少ない、例えば、少なくとも70g/リットルの濃度のニッケルを含むとよい。
【0020】
本発明による場合、強疎水性側鎖を有するポリエーテルの効率は典型的な湿潤剤の効率に対応し、強疎水側鎖は浴からのニッケルの析出に選択的に干渉し、その結果、析出したニッケルはサテン光沢仕上げを有する。本発明の化合物は澄んだ溶液を形成し得るように電解液内に溶解可能である。これらの化合物は好ましくはこれらの曇点の温度よりも低い温度で用いられる。この場合、これらはエマルジョンを形成しない。これらは場合によっては5mg/lよりも大きい濃度で用いられるとよい。強疎水性側鎖を有するポリエーテルを添加することによって、活性炭を用いずに、電解液を部分的な電流ろ過で簡単に処理することができる。パーフルオロ化アルキル鎖または有機シリコン鎖、特にシロキサン鎖がこの卓越した効果を呈することが認められている。通常の長鎖アルキルエトキシレートまたはアルキルプロポキシレートはこの効果を呈しない。
【0021】
従って、サテンニッケル皮膜を生成することを目的とする電解液内における強疎水性側鎖を有するポリエーテルの存在の利点は以下の通りである。
1.100g/lまでのニッケルイオンを含む電解液内においてさえも安定した分散物を調製する。70g/リットルのニッケルイオン含有量であれば一般的に十分である。
2.分散物を単純なろ過によって電解液から除去することができる。電解液を、活性炭を用いずに、部分的な電気ろ過によって簡単に処理することができる。
3.強疎水性側鎖を有するポリエーテルの改良された効率によって、拭取ることになる膜(「銀層」)がクロムめっき後に形成されるのを防ぐ。
4.光沢または半光沢皮膜を生成するための浴内においてピットの形成を防ぐのに用いられるアルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、またはアルキルアリールスルホン酸塩のような等級の一般的湿潤剤との干渉がない。
5.強疎水性側鎖を有するポリエーテルを添加することによって、サテン効果が増大するが、これは平易なサテン効果を求めているユーザによって特に評価される。公知のニッケル電解液では、サテン効果は大量の第4級アンモニウム化合物を添加することによってのみ達成され得る。これは、サテンニッケル皮膜を生成するための電解液の寿命を低減させる。
【0022】
強疎水性側鎖を有する少なくとも1つのポリエーテルは好ましくは以下の一般化学式(I)を有している。
【化1】

式中、
およびR1’は独立して水素またはメチルであり、ポリエーテルの各[(CHCHRO)]−CHR1’−CH単位において独立して選択可能であり、
は水素あるいは直鎖または分岐鎖C〜C18アルキルであり、
aは0から500までの整数であり、
Zは単結合、CH、O、NR、SO、S、NRSO、COO、CO、およびNRCOを含む群から選択される基であって、Rは水素あるいは直鎖または分岐鎖C〜C18アルキル基であり、

【化2】

【化3】

【化4】

を含む群から選択される部分であり、
式中、
化学式(II)、(III)および(IV)を有する基の鎖は直鎖または分岐鎖のいずれかであり、
Xは単結合またはOであり、
nおよびmは0から12までの整数であって、n+mは少なくとも1であり、
oは0または1のいずれかであり、
pは2から12までの整数であり、
qは0から6までの整数であり、
、R、R、R、R、R10、およびR11は独立して選択され、各々、水素、直鎖または分岐鎖のC〜C18アルキル、および置換または非置換フェニルを含む群から選択される部分であり、
水素原子の代わりに、疎水性側鎖−Z−Rはポリエーテル中の単位(CHCHRO)の炭素原子またはポリエーテル中の末端基−CHR1’−CHの炭素原子に結合される。
【0023】
単位[(CHCHRO)]のaは好ましくはゼロよりも大きい範囲、さらに好ましくは、少なくとも1の範囲、さらに具体的には、1から500の範囲を有している。
一般式(I)における単位(CH−CHR−O)は分子内の任意の単位に独立して選択され得る。従って、これらのポリアルキレングリコール基はブロックポリマーまたはコポリマーの形態で存在することができる。もしポリアルキレングリコール基がブロックポリマーの形態で存在する場合、ポリプロピレン単位がポリエチレン単位とRO−基との間に配列されるか、またはポリエチレン単位がポリプロピレン単位とRO−基との間に配列される。
【0024】
いくつかの疎水性側鎖−Z−Rはポリアルキレングリコール基に結合され得る。それによって、これらの疎水性側鎖−Z−Rは、一般式(I)における水素原子の各々が疎水性側鎖−Z−Rによって置換されている、ポリアルキレングリコール基の任意の炭素原子と結合され得る。好ましくは、多くても1つの疎水性側鎖がポリアルキレングリコール基の各単位(CH−CHR−O)に結合される。具体的な実施態様において、ポリアルキレングリコール基に結合される1つのみの疎水性側鎖を有することもできる。さらに、水素原子に代わって、疎水性側鎖−Z−Rはポリエーテル基の末端基CHR1’−CHの炭素原子に結合され得る。
【0025】
、R、R、R、R、R、R、R10、およびR11は好ましくは水素あるいは直鎖または分岐鎖C〜Cアルキルであり、最も好ましくは、メチルである。
本発明の好ましい実施態様において、Rが一般式(III)および(IV)の1つによって与えられ、一般式(III)におけるXが単結合の場合、ZはOである。
【0026】
他の好ましい実施態様において、Rが一般式(II)によって与えられる場合、ZはCHである。
表1に列挙される強疎水性側鎖を有するポリエーテルは特に有効であることがわかっている。
【0027】
ニッケル電解液における強疎水性側鎖を有するポリエーテルの濃度は非常に低く、0.005から5g/lの範囲内であればよく、好ましくは、0.005から0.5g/lの範囲内にあり、さらに具体的には0.1g/lである。さらに具体的には、20から100mg/lの範囲内にある強疎水性側鎖を有するポリエーテルの濃度が好ましく、長期にわたって継続する効果を望む場合は、50mg/lの濃度が最も好ましい。市販品は100%純度であることが殆どなく、一般的には水、および時には可溶化剤として作用する低濃度のアルコールさえも含んでいることを考慮しなければならない。上記の濃度値は100%純度の製品に関するものである。
【0028】
強疎水性側鎖を有するポリエーテルが添加されたニッケル皮膜の析出のための電解液は一般的に緩衝剤としての弱酸を追加的に含み得るニッケル塩溶液からなる。
実際には、以下の組成を有するワット浴を用いる。
280〜550g/l 硫酸ニッケル(NiSO・7HO)
30〜150g/l 塩化ニッケル(NiCl・6HO)
30〜50g/l 硼酸(HBO
【0029】
浴のpHは3から5.5の範囲内であればよく、好ましくは、3.8から4.4の範囲内にある。カソード電流密度を増大するために、温度は75℃までの範囲内、好ましくは、50℃から60℃の範囲内であるとよい。
【0030】
サテンニッケル皮膜を生成することを目的とする電解液は10〜50g/lの塩化物を含み、強疎水性側鎖を有するポリエーテルを用いて最良の結果をもたらす。塩化ニッケルは一部または全体を塩化ナトリウムと取り替えることもできる。電解液中の塩化物は一部または全体を化学量論的等価量の臭化物と取り替えることができる。ニッケル塩を一部コバルト塩と取り替えることもできる。ここに示した高性能電解液を用いて、かつ温度を55℃に調整すると、電流密度は最大10A/dmに達する。通常、電流密度は3から6A/dmの範囲内にある。サテンニッケル皮膜を生成するための電解液中への露出時間は好ましくは1から20分であり、最も好ましくは、6から12分である。
【0031】
強疎水性側鎖を有するポリエーテルは単独で電解液に添加され得る。しかし、同時に第1光沢剤を用いることによって、最適の結果が得られる。これらを追加的に用いると、サテン光沢仕上げを有する優れた皮膜を実際の操業に必要とされる全電流密度にわたって達成され得る。前記サテン光沢仕上げを有する皮膜は少なくとも15時間の電解液の操業中に光学的に均一な状態で現れ、クロムめっきを長時間行なうときに生じ得る拭取ることになるいかなる曇りをも生じない。
【0032】
第1光沢剤は、不飽和の主として芳香族のスルホン酸、スルホンアミド、またはスルフィミド、あるいはそれらの塩を意味する。最も知られている化合物は、例えば、m−ベンゼンジスルホン酸、または安息香酸スルフィミド(サッカリン)、およびそれらの塩である。公知の第1光沢剤は、殆どの場合、それらのナトリウム塩またはカルシウム塩の形態で用いるが、それらの第1光沢剤を図2に示す。いくつかの第1光沢剤を同時に用いることもできる。
【0033】
表2による第1光沢剤は約5mg/l、さらに具体的には、50mg/l、最大で10g/l、好ましくは0.5から2g/lの量を電解液に添加する。もしこれらの化合物を単独で電気めっき浴に添加した場合、それらはある電流密度範囲内において光沢皮膜を生成する。従って、これらを単独で用いることは実用的な意義がない。所望のサテン効果は、前記化合物に加えて、第4級アンモニウム化合物をさらに添加することによってのみ得られる。
【0034】
第4級アンモニウム化合物は一般式(V)を有するカチオン活性湿潤剤である。
【化5】

式中、
、R、R、およびRは同一であってもまたは異なっていてもよく、直線状または分岐した、可能であれば不飽和の、C〜C18アルキル鎖であり、トール、ココス、ミリスチル、およびラウリル基のような天然成分の混合物を用いてもよく、RおよびRは水素であるとよく、
は最も好ましくはC〜Cアルキル基、または可能であれば、ベンジル基のようなアルキル置換芳香族基であり、
は好ましくはアニオン、例えば、塩化物、臭化物、蟻酸エステルまたは硫酸塩である。
【0035】
これらの第4級化合物を表3に列挙する。
約0.1mg/l、さらに具体的には、約5mg/lから100mg/lまでの濃度の第4級アンモニウム化合物を用いる。皮膜内のピットの形成を防ぐために用いられる現行の湿潤剤をサテンニッケル皮膜を生成することを目的とする電解液に添加する必要はない。これらの化合物の多くはニッケルの析出を阻害する。
【0036】
電気めっきされる加工品を析出中にゆっくりと移動させる。追加的な空気注入は殆ど用いない。多くの場合、循環ポンプおよび可能であればオーバフロー路が必要である。それらはサテンニッケル層の均一な析出を促進する。析出プロセス中、めっき浴は好ましくは連続的または非連続的にポンプ循環および/またはろ過される。
【0037】
強疎水性側鎖を有するポリエーテルとスルホコハク酸の少なくとも1つのエステルを有する第4級アンモニウム化合物の組合せもまた審美的なサテン様式のニッケル皮膜を生じる。これらの電解液は長時間にわたって安定である。この場合、優先的なスルホコハク酸のエステルは一般式(VI)を有している。
【化6】

式中、
およびRは同じであってもまたは異なっていてもよく、不飽和であることまたはエーテル基によって中断されることもあり得る直線状、または分岐状、または環状のC〜C18アルキル鎖であるとよく、2つの基RおよびRの1つは水素イオン(酸基)またはアルカリイオン、アンモニウムイオン、またはアルカリ土類イオンであってもよく、
Aは水素イオン(酸基)またはアルカリイオン、アンモニウムイオン、またはアルカリ土類イオンであるとよい。
表4に列挙したスルホコハク酸のエステルは有効であることがわかっている。
【実施例】
【0038】
以下の実施例は本発明をさらに詳細に説明するためのものである。
実施例1.0
まず、0.015g/lの第4級アンモニウム化合物No.7(表3)を以下の組成を有する電解液に添加した。
290g/l 硫酸ニッケル(NiSO・7HO)
40g/l 塩化ニッケル(NiCl・6HO)
40g/l 硼酸(HBO
3g/l ナトリウム塩の形態の第1光沢剤No.7(表2)
電解液を55℃の100リットルタンクにおいて、加工品を移動させて試験した。7cm×20cmの引っかき疵のある屈曲した銅シートを2.5A/dmで17分間電気めっきした。得られた皮膜は、ニッケル含有量が低すぎたために、シートの全体にわたってムラのある極めて弱いサテン光沢仕上げを有していた。
【0039】
実施例1.1
0.015g/lのポリエーテル化合物No.2(表1)を(同一のニッケル含有量を有する)実施例1.0の電解液に追加的に添加した。
実施例1.0において記載したように、試験を行なった。得られた皮膜はシートの全体にわたって均一かつ強いサテン光沢仕上げを有していた。
【0040】
実施例1.0および1.1の結果:疎水性側鎖を有するポリエーテルを用いず、選択したニッケル含有量の場合、得られた皮膜は極めて弱い、ムラのあるサテン光沢仕上げであったが、疎水性側鎖を有するポリエーテルを用いた場合、得られた皮膜は卓越した光学的外観を有する強く、かつ均一なサテン光沢仕上げを有していた。
【0041】
実施例2.0
まず、0.015g/lの第4級アンモニウム化合物No.6(表3)を以下の組成を有する電解液に添加した。
430g/l 硫酸ニッケル(NiSO・7HO)
40g/l 塩化ニッケル(NiCl・6HO)
40g/l 硼酸(HBO
3g/l ナトリウム塩の形態の第1光沢剤No.7(表2)
電解液を55℃の10リットルタンク内において、加工品を移動させて試験した。7cm×10cmの引っかき疵のある屈曲した銅シートを2.5A/dmで15分間電気めっきした。得られた皮膜はシートの全体にわたってわずかにムラのある弱いサテン光沢仕上げを有していた。欠陥も黒ピットも検出できなかった。1時間ごとに試験を行なって、すでに試験したものと比較した。4時間後、シートはすでにより粗く、見苦しい皮膜を呈した。5時間後、品質があまりにも悪いので(つや消しのムラ)、試験を中断しなければならなかった。
【0042】
実施例2.1
まず、0.015g/lの第4級アンモニウム化合物No.6(表3)とそれに加えて0.02g/lのポリエーテル化合物No.5(表1)を実施例1.0の電解液に添加した。
【0043】
実施例1.0において記載したように、試験を行なった。得られた皮膜はシートの全体にわたって均一、かつ強いサテン光沢仕上げを有していた。欠陥も黒ピットも検出できなかった。1時間ごとにシートを試験し、すでに試験したものと比較した。15時間後、皮膜が依然として同じ良好な品質を継続的に示すので、試験を中断した。
【0044】
実施例2.0と2.1の結果:ポリエーテル化合物がない場合、電解液の寿命時間はわずかに4〜5時間であった。ポリエーテル化合物を追加的に用いた場合、電解液の寿命時間を15時間よりもさらに延ばすことができた。一方、ポリエーテル化合物を用いた場合、外観はさらに一層魅力的になった。得られた皮膜はシートの全体にわたって極めて均一、かつ強いサテン光沢仕上げを有していた。
【0045】
技術的な手段による種々の変形態様と代替態様を、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、上記の実施例および図面によって説明した内容に適用させ得ることが理解されるべきである。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の第4級アンモニウム化合物および少なくとも1種類のポリエーテルを含有するサテンニッケル皮膜を電解析出するための酸めっき浴において、上記少なくとも1種類のポリエーテルは少なくとも1つの強疎水性側鎖を有する酸めっき浴。
【請求項2】
少なくとも1種類のポリエーテルは以下の一般化学式(I)を有し、
【化1】

式中、
およびR1’は独立して水素またはメチルであり、各[(CHCHRO)]−CHR1’−CH単位において独立して選択可能であり、
は水素あるいは直鎖または分岐鎖C〜C18アルキルであり、
aは0から500までの整数であり、
Zは単結合、CH、O、NR、SO、S、NRSO、COO、COおよびNRCOを有する群から選択される基であって、Rは水素あるいは直鎖または分岐鎖C〜C18アルキル基であり、

【化2】

【化3】

【化4】

を有する群から選択される部分であり、
式中、式(II)、(III)および(IV)を有する基の鎖は直鎖または分岐鎖のいずれかであり、
Xは単結合またはOであり、
nおよびmは0から12までの整数であって、n+mは少なくとも1であり、
oは0または1のいずれかであり、
pは2から12までの整数であり、
qは0から6までの整数であり、
、R、R、R、R、R10およびR11は独立して選択され、各々、水素、直鎖または分岐鎖のC〜C18アルキルおよび置換または非置換フェニルを有する群から選択される部分であり、
水素原子の代わりに、疎水性側鎖−Z−Rは単位−CH−CHR−O−の炭素原子または末端基−CHR1’−CHの炭素原子に結合される、請求項1に記載の酸めっき浴。
【請求項3】
が一般式(III)および(IV)の1つによって与えられ、Xが単結合である場合、ZはOである、請求項2に記載の酸めっき浴。
【請求項4】
が一般式(II)によって与えられる場合、ZはCHである、請求項2に記載の酸めっき浴。
【請求項5】
基−Z−Rが、水素原子に代えてポリエーテル基の末端基CHの炭素原子に結合される、請求項2〜4のいずれか一項に記載の酸めっき浴。
【請求項6】
少なくとも1種類のポリエーテルは
ポリエチレングリコールオクタジメチルシロキサンエーテル、
ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ヘキサジメチルシロキサンエーテル(コポリマーまたはブロックコポリマー)、
ポリアルキレングリコールテトラシランエーテル(コポリマーまたはブロックポリマー)、
ポリプロピレングリコールオクタジメチルシランエーテル、
パーフルオロオクチルスルホンアミドポリエトキシレート、
パーフルオロヘキシルスルホンアミドポリプロポキシレート、
パーフルオロブチルスルホンアミドポリアルコキシレート(コポリマーまたはエチレンおよびプロピレンオキシドとのブロックポリマー)、
ポリエチレングリコールパーフルオロオクタン酸エステル、
ポリプロピレングリコールパーフルオロへキシルエーテル、
パーフルオロオクチルスルホン−(N−エチル)−アミドポリエトキシレート、
メチルポリアルキレングリコールポリメチルシロキサンエーテル、および
ポリエチレングリコール−ω−トリデカフルオロオクタンエーテル
を含む化合物から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸めっき浴。
【請求項7】
少なくとも1種類のポリエーテルの濃度は0.005〜0.5g/リットルの範囲内にある、請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸めっき浴。
【請求項8】
少なくとも1種類の第1光沢剤がさらに含まれる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の酸めっき浴。
【請求項9】
少なくとも1種類の第1主光沢剤は0.005〜10g/リットルの範囲内にある、請求項8に記載の酸めっき浴。
【請求項10】
少なくとも1種類の第4級アンモニウム化合物の濃度は0.0001〜0.1g/リットルの範囲内にある、請求項1〜9のいずれか一項に記載の酸めっき浴。
【請求項11】
少なくとも1種類のスルホンコハク酸エステルがさらに含まれる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の酸めっき浴。
【請求項12】
少なくとも1種類のコバルトイオン源がさらに含まれる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の酸めっき浴。
【請求項13】
基板上へのサテンニッケル皮膜の電解析出法において、
a)基板を請求項1〜12のいずれか一項による酸めっき浴に接触させる工程と、
b)基板と陽極との間に電流を流す工程と
を備えて成る方法。
【請求項14】
めっき浴は連続的または非連続的に、ポンプ循環および/またはろ過される、請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2006−508238(P2006−508238A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−507574(P2004−507574)
【出願日】平成15年5月15日(2003.5.15)
【国際出願番号】PCT/EP2003/005134
【国際公開番号】WO2003/100137
【国際公開日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【出願人】(597075328)アトーテヒ ドイッチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (33)
【Fターム(参考)】