説明

酸エッチング方法、酸エッチング処理装置及びアルミニウム系部材の製造方法

【課題】処理液を交換することなく、高いエッチング速度で酸エッチングを継続して行う方法を提供する。
【解決手段】酸エッチング方法は、アルミニウム系材料を鋳造及び/又は鍛造してなるアルミニウム系部材の表面を、無機酸を含むpH3以下の表面処理液で酸エッチングする方法であり、Fイオンとアルカリ金属イオンとを上記表面処理液に供給する供給工程2,11を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸エッチング方法、及び当該方法に使用する酸エッチング処理装置、並びに当該酸エッチング方法を使用するアルミニウム系部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム基材やアルミニウム合金基材(以下、総称して「アルミニウム系基材」と記す)は、素材自体に光輝性があり、軽量であるため、これらの特性を生かして様々な分野で利用が拡大している。例えば、自動車用ホイールは、鉄製のものが主流であったが、自動車の高級化、軽量化が要求されるようになってから、アルミニウム合金基材からなるアルミホイールの需要が高まっている。
【0003】
アルミニウム基材をアルミホイールに鋳造成型した場合、若しくは鍛造成型した場合、その表面には鋳造時や鍛造時に用いられる離型剤や、鋳造時や鍛造時に生成する酸化アルミニウムの被膜、汚れ、油等(以下、これらを総称して「不純物」と記す場合もある)が付着している。これら不純物は、アルミホイールへの塗膜の密着性を低下させる要因となる。このため、アルミホイールを塗装する前に、塗装の前処理を行うことにより上記不純物を除去する必要がある。
【0004】
上記不純物を除去するために、従来、アルミニウム系基材を鋳造成型若しくは鍛造成型したアルミホイールに対してショットブラスト、バレル研磨、ブラシ研磨、及びバフ研磨等の物理処理による処理が行われている。しかしながら、これら物理処理のみでは、形状が複雑なアルミホイールの意匠面を均一に処理することが困難であった。
【0005】
このため、アルミホイールの表面をアルカリ性若しくは酸性処理液を用いた化学エッチング処理することがその代替として、若しくは物理的手段による処理と組み合わされて行われている。
【0006】
上記アルカリ性処理液を用いた化学エッチング処理では、アルミホイール表面を不均一にエッチングするため、アルミホイールの光輝面を曇らせてしまうことがあり、塗装外観に劣る。
【0007】
これに対して、上記酸性処理液を用いた化学エッチング処理では、アルカリ性処理液での化学エッチング法と比べて、均一にエッチングを行うことができ、塗装外観を損なわないという利点を有する。
【0008】
しかしながら、上記酸性処理液を用いた化学エッチング処理では、エッチングされたアルミニウム表面の品質をある一定以上に保つために、液中アルミニウム濃度を一定以下に保つ必要がある。しかし、当該処理液を多数のアルミホイールに対して繰り返し用いると、徐々に液中アルミニウム濃度が上昇してしまう。このため、従来は、液中アルミニウム濃度が一定以上高くなった処理液は廃棄され、新しい処理液を調整していた。
【0009】
上記処理液の廃棄を抑制する方法として、エッチング処理液にフッ化水素を添加することにより処理液中の溶解アルミニウムフッ化アルミニウムとして沈殿除去する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
また、メッキ液中の金属イオンを除去する方法として、カチオン交換樹脂を用いる方法も知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−62565号公報(1995年3月7日公開)
【非特許文献1】西川忠弥、「クロムめっきにおける不純物の影響とその対策」、表面技術、40、653(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、エッチング速度が遅いという問題を生じる。
【0012】
具体的には、フッ化アルミニウムの溶解度は約5g/リットルと比較的高いため、上記特許文献1に記載の方法では、処理液中のアルミニウム濃度を5g/リットル程度以下でしか管理できない。このため、特許文献1に記載の方法を用いたとしても、依然として処理液中には大量のアルミニウムが残存するため、エッチング速度は遅い。
【0013】
また、非特許文献1に記載の方法では、処理コストが高く、またアルミニウムイオンを一定濃度に維持することが困難であった。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、処理液を交換することなく、高いエッチング速度で酸エッチングを継続して行う方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記課題を解決するために、処理液を交換することなく、高いエッチング速度でアルミニウム系部材の酸エッチングを連続して行う方法について、鋭意検討を行った。当該検討の過程において、(i)無機酸として燐酸、硝酸、塩酸等を用いても、アルミニウム表面に1g/m以上のエッチングを行うことができないこと、(ii)上記無機酸に加え、フッ化水素酸、フッ化水素酸のアルカリ金属塩、又はケイフッ化水素酸、ホウフッ化水素酸等の錯フッ化水素酸を表面処理液に含有させれば、アルミニウム表面に1g/m以上のエッチングを行うことができるが、かかる酸エッチングを繰り返し行ううちに表面処理液中のアルミニウムイオンの濃度が100ppm以上となるとエッチング作用が著しく低下し、1g/m以上のエッチングを行うことができなくなること、が判明した。
【0016】
上記知見から、本発明者は、エッチング速度はpHが低ければ低いほど速くなるために、従来、生産効率の観点から表面処理液に含有することが全く考えられてこなかった、HFのアルカリ金属塩等を表面処理液に供給することにより、表面処理液中に溶解したアルミニウムイオンを沈殿させ、処理液中のアルミニウムイオンの濃度を100ppm未満に維持することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明に係る酸エッチング方法は、上記課題を解決するために、アルミニウム系部材の表面を、無機酸を含むpH3以下の表面処理液で酸エッチングする方法であり、Fイオン及びアルカリ金属イオンを上記表面処理液に供給する供給工程を含むことを特徴としている。
【0018】
上記方法によれば、酸エッチングにより表面処理液中に生じるアルミニウムイオンをクリオライト(NaAlF)、エルパソライト(KNaAlF)等として沈殿させるため、アルミニウムイオンを表面処理液中から除去することができる。従って、連続ライン等多数のアルミニウム系部材に対して、当該処理液で酸エッチングを行う場合でも、途中で表面処理液を交換することなく、高いエッチング速度で酸エッチングを継続して行うことができるという効果を奏する。
【0019】
従って、本発明を連続ラインの一工程として適用すれば、連続して供給されるアルミニウム系部材に対し、連続して酸エッチングを施すことができる。
【0020】
本発明に係る酸エッチング方法では、上記表面処理液は、上記無機酸として、10g/L以上30g/L以下の濃度で燐酸を含有することが好ましい。当該方法によれば、例えば、ショットブラストを行った場合に、アルミニウム系部材表面のショット残渣(Fe)を効率良く除去することができるという更なる効果を奏する。
【0021】
本発明に係る酸エッチング方法では、上記表面処理液は、0.5g/L以上15g/L以下の濃度で錯フッ化水素酸を更に含有することが好ましい。当該方法によれば、錯フッ化水素酸は、処理剤と接触するアルミニウム系部材の表面において、エッチングにより消耗されるHFを適時補うようにHFを供給するため、表面処理液中のアルミニウム系部材表面付近のHF濃度変化を抑制することができる。このため、より均一に酸エッチングを行うことができるという更なる効果を奏する。
【0022】
本発明に係る酸エッチング方法では、上記錯フッ化水素酸がケイフッ化水素酸であることが好ましい。当該方法によれば、より高いエッチング速度で酸エッチングを行うことができるという更なる効果を奏する。
【0023】
本発明に係る酸エッチング方法では、上記供給工程を、HFのアルカリ金属塩を上記表面処理液に供給することにより行うことが好ましい。当該方法によれば、腐食性の高いフッ化水素を使用する必要がないため、より安全に酸エッチング処理を行うことができる。
【0024】
本発明に係る酸エッチング方法では、上記HFのアルカリ金属塩は、HFのナトリウム塩及びHFのカリウム塩であることが好ましい。当該方法によれば、酸エッチングにより表面処理液中に生じるアルミニウムイオンを、溶解度が低いエルパソライト(KNaAlF)として沈殿化させることができるため、表面処理液中のアルミニウムイオンをより低濃度に維持できる。よって、より高いエッチング速度で酸エッチングを行うことができるという更なる効果を奏する。
【0025】
本発明に係る酸エッチング方法では、供給工程により生じる沈殿物を表面処理液から除去する沈殿物除去工程を更に含み、複数のアルミニウム系部材に対し、連続して酸エッチングを行うことが好ましい。尚、上記「連続して酸エッチングを行うこと」とは、複数のアルミニウム系部材に対して、表面処理液を取り替えることなく、繰り返し酸エッチング処理を行うことを意味する。当該方法によれば、沈殿させたアルミニウムイオンが再度表面処理液に溶出することを抑制することができ、酸エッチング処理を高効率で行うことができる。
【0026】
本発明に係る酸エッチング方法では、上記供給工程を、上記表面処理液中のHF濃度が0.25g/L以上となるように行うことが好ましい。当該方法によれば、表面処理液中のアルミニウムイオンの濃度を100ppm未満に制御することができる。このため、継続的に1g/m以上のエッチング処理を行うことができるという更なる効果を奏する。
【0027】
本発明に係る酸エッチング方法では、更に、上記表面処理液中のHF濃度を測定するHF濃度測定工程を含み、上記HF濃度測定工程により測定したHF濃度に基づいてHF濃度が0.25g/L以上となるように上記供給工程を行うことが好ましい。当該方法によれば、上記HF濃度測定工程により測定したHF濃度に基づいてHF濃度が0.25g/L以上となるように上記供給工程を行うため、表面処理液中のアルミニウムイオンの濃度を100ppm未満に確実に制御することができる。このため、継続的に1g/m以上のエッチング処理を安定して行うことができるという更なる効果を奏する。
【0028】
本発明に係る再生剤は、上記課題を解決するために、上記本発明に係る酸エッチング方法で用いられる酸エッチング処理液の再生剤であって、HF及びアルカリ金属含有化合物、又はHFのアルカリ金属塩を含むことを特徴としている。
【0029】
上記構成によれば、酸エッチングにより表面処理液中に生じるアルミニウムイオンをクリオライト(NaAlF)、エルパソライト(KNaAlF)等として沈殿させることができるため、アルミニウムイオンを表面処理液中から除去することができる。従って、連続ライン等多数のアルミニウム系部材に対して、当該処理液で酸エッチングを行う場合でも、途中で表面処理液を交換することなく、高いエッチング速度で酸エッチングを継続して行うことができるという効果を奏する。
【0030】
本発明に係る再生剤では、HFのアルカリ金属塩を含み、上記HFのアルカリ金属塩として、HFのナトリウム塩及びHFのカリウム塩を用いることが好ましい。当該構成によれば、酸エッチングにより表面処理液中に生じるアルミニウムイオンを、溶解度が低いエルパソライト(KNaAlF)として沈殿化させることができるため、表面処理液中のアルミニウムイオンをより低濃度に維持できる。よって、より高いエッチング速度で酸エッチングを行うことができるという更なる効果を奏する。
【0031】
本発明に係るアルミニウム系部材の製造方法は、上記課題を解決するために、上記本発明に係る酸エッチング方法を行う酸エッチング工程と、酸エッチング工程後のアルミニウム系部材に化成処理を行う化成処理工程と、化成処理工程後のアルミニウム系部材に塗装を行う塗装工程と、を含むことを特徴としている。
【0032】
上記方法によれば、上記本発明に係る酸エッチング方法を行う工程を含むため、表面処理液を交換することなく、高いエッチング速度で酸エッチングを行うことができる。よって、より低コストでアルミニウム系部材を製造することができるという効果を奏する。
【0033】
本発明に係る酸エッチング処理装置は、上記課題を解決するために、上記本発明に係る酸エッチング方法を行うための酸エッチング処理装置であり、表面処理液を蓄える処理槽と、上記表面処理液から被測定液を採取するサンプリング手段と、上記被測定液のHF濃度を測定するHF濃度測定手段と、HF濃度測定手段により測定されるHF濃度に基づいて上記処理槽中の表面処理液に供給するFイオン及びアルカリ金属イオンの供給量を算出する算出手段と、算出手段が算出した上記供給量に基づいて、Fイオン及びアルカリ金属イオンを上記処理槽中の表面処理液に供給する供給手段と、を備えることを特徴としている。
【0034】
上記構成によれば、上述した本発明に係る酸エッチング方法を行うことができるため、表面処理液を交換することなく、高いエッチング速度で酸エッチングを継続して行うことができるという効果を奏する。
【0035】
本発明に係る酸エッチング処理装置では、上記HF濃度測定手段は、金属シリコン電極メータであることが好ましい。当該構成によれば、HF濃度を直接若しくは間接的に測定するため、エッチング処理液のpH等に影響されること無く、酸エッチング作用を正確に評価することができるという更なる効果を奏する。
【0036】
具体的には、一般的なHF濃度の測定方法は、Fイオンを測定する方法であり、pH調整してHFをFイオンとして測定する。しかし、HFは水溶液中で部分的に解離してFイオンを生じるが、水溶液のpH等でその解離状態が変化する。これに対して、金属シリコン電極法は、金属シリコンを溶解するHFの作用を利用して、被検液中のHF濃度を測定する方法であるため、酸エッチング作用を正確に評価することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る酸エッチング方法は、以上のように、Fイオン及びアルカリ金属イオンを上記表面処理液に供給する供給工程を含むことを特徴としている。
【0038】
このため、表面処理液を交換することなく、高いエッチング速度で酸エッチングを継続して行うことができ、アルミニウム系部材表面の性状不良の酸化膜や離型剤を継続的に除去することができる。
【0039】
また、本発明に係るアルミニウム系部材の製造方法は、上記本発明に係る酸エッチング方法を行う酸エッチング工程と、酸エッチング工程後のアルミニウム系部材に化成処理を行う化成処理工程と、化成処理工程後のアルミニウム系部材に塗装を行う塗装工程と、を含むことを特徴としている。
【0040】
このため、より低コストでアルミニウム系部材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。
【0042】
尚、本明細書では、「重量」は「質量」と同義語として扱い、「重量%」は「質量%」と同義語として扱う。また、「ppm」は特に断らない限り質量換算で求められる値を意味し、例えば、10,000ppmは1質量%を意味する。更には、本明細書では、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
【0043】
また、本明細書で挙げられている各種物性は、特に断りの無い限り後述する実施例に記載の方法により測定した値を意味する。
【0044】
本明細書における「アルミニウム系基材」とは、少なくともアルミニウム基材若しくはアルミニウム合金基材を含む、アルミニウムを主として含む基材全般を意図している。
【0045】
(I)酸エッチング方法
本実施の形態に係る酸エッチング方法は、アルミニウム系部材の表面を、無機酸を含むpH3以下の表面処理液で酸エッチングする方法であり、(a)エッチング工程、(b)HF濃度測定工程、(c)HF及びアルカリ金属供給工程、(d)沈殿物除去工程を含む。以下、詳細に説明する。
【0046】
(a)エッチング工程
上記エッチング工程では、上記アルミニウム系部材の表面を、無機酸を含むpH3以下の表面処理液で酸エッチングする。
【0047】
本実施の形態に係る酸エッチング方法を適用することができるアルミニウム系部材としては、特には限定されないが、例えば、アルミホイール、船外機ボディ等が挙げられる。
【0048】
上記無機酸としては、燐酸、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸、錯フッ化水素酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。表面処理液における上記無機酸の濃度は、特には限定されないが、例えば、10g/L以上30g/L以下の範囲内とすることができ、より好ましくは10g/L以上15g/L以下の範囲内とすることができる。表面処理液における上記無機酸の濃度が上記範囲内であれば安定した酸エッチング作用を得ることができる。
【0049】
本実施の形態に係る酸エッチング方法を適用するアルミニウム系部材が、ショットブラストを行ったものである場合には、アルミニウム系部材の表面にショット残渣(Fe)が残存している。表面処理液中にFeイオンが溶解して蓄積していくと(例えば、500ppm以上)、表面処理液の上記ショット残渣(Fe)を溶解する能力が低下する。これにより、Alよりも貴な金属であるショット残渣をアルミニウム系部材の表面に残すことになり、塗装後の耐食性を低下させる。
【0050】
このため、アルミニウム系部材が、ショットブラストを行ったものである場合には、上記無機酸として、10g/L以上15g/L以下の濃度で燐酸を含有することが好ましい。燐酸は、処理液中に溶解した鉄イオンと結合して不溶性の燐酸鉄を形成するからである。
【0051】
表面処理液のpHは3以下であればよいが、2.5以下であることがより好ましく、2.0以下であることが更に好ましい。pHが上記範囲内であれば、高いエッチング速度で酸エッチングを行うことができる。
【0052】
上記表面処理液は、0.5g/L以上15g/L以下の濃度で錯フッ化水素酸を更に含有することが好ましい。錯フッ化水素酸の濃度が上記範囲内であれば、高いエッチング速度でより安定した酸エッチングを行うことができる。
【0053】
上記錯フッ化水素酸としては、例えば、ケイフッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸が挙げられ、ケイフッ化水素酸であることがより好ましい。
【0054】
上記エッチング工程における処理温度は、特に限定されるものではなく、従来の酸エッチングで通常用いられる温度範囲であればよい。具体的には、一般的に、20℃〜70℃の範囲内で行うことが好ましく、35℃〜60℃の範囲内で行うことがより好ましい。また、作業性を向上させる等の目的で、加温した状態でエッチングを行ってもよい。
【0055】
更には、エッチング処理液に、アルミニウム系部材を浸漬してエッチングする際に、超音波処理を行ってもかまわない。これにより、エッチング反応を促進することができる。尚、この超音波処理によるエッチング反応の促進は、超音波による微小振動、攪拌、脱泡、キャビテーション等の効果によるものである。
【0056】
(b)HF濃度測定工程
上記HF濃度測定工程では、上記表面処理液のHF濃度を測定する。上記HF濃度測定工程により測定したHF濃度に基づいて、表面処理液中のHF濃度が所定の範囲内となるように、後述する供給工程を行う。表面処理液中のHF濃度の測定は、例えば、金属シリコン電極メータにより行うことができる。
【0057】
(c)供給工程
上記供給工程では、上記HF濃度測定工程により測定したHF濃度に基づいて、表面処理液中のHF濃度が所定の範囲となるように、Fイオンとアルカリ金属イオンとを上記表面処理液に供給する。尚、当然のことながら、Fイオンとアルカリ金属イオンとを最初から表面処理液に含有させてもよい。
【0058】
Fイオンとアルカリ金属イオンとを上記表面処理液に供給する具体的な方法としては、例えば、HFのアルカリ金属塩、又はHF及びアルカリ金属含有化合物(以下、「HFのアルカリ金属塩、又はHF及びアルカリ金属含有化合物」を「HFのアルカリ金属塩等」と略する場合がある)を、酸エッチング処理液の再生剤として上記表面処理液に添加する方法が挙げられる。
【0059】
上記HFのアルカリ金属塩としては、例えば、NaF、NaHF等のHFのナトリウム塩、KF、KHF等のHFのカリウム塩等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。これらの中でも、溶解度の低いエルパソライトを形成させる観点から、HFのナトリウム塩とHFのカリウム塩とを併用することがより好ましい。
【0060】
HFのナトリウム塩とHFのカリウム塩とを併用する場合における、HFのナトリウム塩とHFのカリウム塩との比率はモル比で1:1.5〜1:2.5の範囲内であることが好ましい。
【0061】
上記アルカリ金属含有化合物としては、例えば、NaOH、KOH等のアルカリ金属の水酸化物、NaCl、KCl等のアルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の燐酸塩、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ金属の塩酸塩等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。これらの中でも、溶解度の低いエルパソライトを形成させる観点から、ナトリウム塩とカリウム塩とを併用することが好ましい。
【0062】
ナトリウム塩とカリウム塩とを併用する場合における、ナトリウム塩とカリウム塩との比率も同様に、モル比で1:1.5〜1:2.5の範囲内であることが好ましい。
【0063】
また、HFとアルカリ金属含有化合物とを上記表面処理液に添加する場合、HFとアルカリ金属含有化合物とのモル比は1:1〜2:1の範囲内であることが好ましい。
【0064】
上記供給工程では、表面処理液中のHF濃度が0.25g/L以上となるように、HFのアルカリ金属塩等を上記表面処理液に供給することが好ましく、0.3g/L以上となるように供給することがより好ましい。
【0065】
表面処理液中のHF濃度が0.25g/L以上であれば、表面処理液中のアルミニウムイオンの濃度を約100ppm以下に制御することができ、エッチング速度の低下を抑制することができる。
【0066】
また、表面処理液中のHF濃度が5.0g/L以下となるように、HFのアルカリ金属塩等を上記表面処理液に供給することが好ましく、1.0g/L以下となるように供給することがより好ましく、0.5g/L以下となるように供給することが更に好ましい。
【0067】
表面処理液中のHF濃度が5.0g/L以下であれば、アルミニウムイオンを沈殿させるのに必要な量以上のHFが処理液中に存在しないため、エッチング速度が所定の速度以上になることを抑制することができる。また、アルミニウムイオンの除去のための再生剤の使用量が多くなったり、アルミニウム含有スラッジの発生量が多くなることを抑制できる。
【0068】
尚、本明細書におけるHF濃度とは、シリコン電極メータ(商品名:サーフプロガード101N、日本ペイント社製)を用い、酸エッチング液を希釈せずに、測定した値を意味する。
【0069】
また、上記再生剤とは別に、処理液の酸度の低下割合に応じて、無機酸を含む補給剤を処理液に加えることもできる。上記補給剤は、処理する部材の処理に応じて、非連続的若しくは連続的に上記処理液に補給することができ、処理液の酸度分析結果に基づき補給量を調整することができる。
【0070】
(d)沈殿物除去工程
上記沈殿物除去工程では、供給工程により生じる沈殿物を表面処理液から除去する。尚、本実施の形態では、沈殿物除去工程を含む場合について説明しているが、これに限るものではない。沈殿物除去工程を含んでいなくてもよい。但し、本実施形態のように、沈殿物除去工程を含む場合は、沈殿させたアルミニウムイオンが再度表面処理液に溶出することを抑制することができ、特に効果が大きい。
【0071】
尚、上述の説明では、本実施の形態に係る酸エッチング方法がHF濃度測定工程を含む場合について説明したが、これに限るものではない。HF濃度測定工程を含んでいなくてもよい。少なくとも酸エッチング工程と供給工程とを含んでいれば、本実施形態とほぼ同様の効果が得られる。つまり、この場合には、HF濃度による管理を行わないで、例えば、所定時間毎に上記供給工程を行ったり、エッチング速度を観察しながら、適宜上記供給工程を行ったりすればよい。
【0072】
但し、本実施形態のように、HF濃度測定工程を含む場合は、一定のエッチング速度で安定して酸エッチングを行うことが可能である。このため、連続して、均一に酸エッチング工程を行うことができるため特に効果が大きい。
【0073】
(II)酸エッチング処理液の再生剤
本実施の形態に係る再生剤は、上述した本実施の形態に係る酸エッチング方法で用いられる酸エッチング処理液の再生剤であって、HF及びアルカリ金属含有化合物、又はHFのアルカリ金属塩を含む。
【0074】
上記アルカリ金属含有化合物、HFのアルカリ金属塩としては、「(I)酸エッチング方法」で例示した化合物が挙げられる。尚、本実施の形態に係る再生剤は、HF及びアルカリ金属含有化合物、HFのアルカリ金属塩の両方を含有していてもかまわない。
【0075】
本実施の形態に係る再生剤における、HF及びアルカリ金属含有化合物、又はHFのアルカリ金属塩の含有量は、特に限定はされないが、1〜20質量%の範囲内であることが好ましく、5〜20質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0076】
(III)酸エッチング処理装置
図1は、本実施の形態に係る酸エッチング処理装置の概略構成を示す模式図である。
【0077】
本実施の形態に係る酸エッチング処理装置は、上述した酸エッチング方法を行うための酸エッチング処理装置であり、図1に示すように、表面処理液を蓄える処理槽1と、表面処理液から被測定液を採取するサンプリング手段(ポンプ6及び流量制御部7)と、上記被測定液のHF濃度を測定するHF濃度測定部(HF濃度測定手段)4と、HF濃度測定部4により測定されるHF濃度に基づいて上記処理槽1中の表面処理液に供給するHFのアルカリ金属塩等の量を算出するコントロールユニット(算出手段)5と、コントロールユニット5が算出した上記量に基づいて、HFのアルカリ金属塩等を上記処理槽1中の表面処理液に供給する供給手段(補給槽2、ポンプ10及び流量制御部11)と、を備える。
【0078】
尚、本実施の形態に係る酸エッチング処理装置では、処理槽1にアルミニウム系部材を浸漬させることにより、従来公知の方法により酸エッチング処理を行うことができる。本明細書では、アルミニウム系部材を浸漬させるための部材等の従来公知と同様の部材については説明を省略する。
【0079】
図1に示すように、表面処理液が蓄えられる処理槽1には、被測定液として表面処理液をHF濃度測定部4に供給するための配管が設けられており、この配管にはポンプ6及び流量制御部7が設けられ、サンプリング手段を構成している。流量制御部7は、流量調整弁と流量計とから構成されている。尚、以下説明する流量制御部は、全て流量調整弁及び流量計から構成されている。
【0080】
補給槽2には、処理槽1へHFのアルカリ金属塩等を含む溶液(以下、「HFアルカリ金属塩等溶液」と記す)を供給するための配管が設けられており、この配管にはポンプ10及び流量制御部11が設けられている。これによって、供給手段が構成されている。
【0081】
サンプリング手段からは、HF濃度測定手段としてのHF濃度測定部4に上記被測定液を供給するための配管が設けられており、この配管には流量制御部12が設けられている。またHF濃度測定部4からは測定後の被測定液を再び処理槽1に戻すための配管が設けられている。またサンプリング手段と処理槽1との間には、HF濃度測定部4を通過しないバイパス配管が設けられており、このバイパス配管には流量調整弁13が設けられている。
【0082】
HF濃度測定部4で測定されたHF濃度の測定データ信号は、コントロールユニット5に送られ、この測定データに基づき、処理槽1に供給すべきHFアルカリ金属塩等溶液の補給量が定められ、この補給量を制御する信号がポンプ10及び流量制御部11に送られる。
【0083】
HF濃度測定部4内には、金属シリコン電極メータが設けられ、金属シリコン電極メータにより被測定液中のHF濃度が測定される。このようなHF濃度測定部4の構造としては、例えば、図2に示すような構造を採用することができる。
【0084】
図2は、本実施の形態に係る酸エッチング処理装置におけるHF濃度測定部の一例の概略構成を示す断面図である。
【0085】
図2に示すように、HF濃度測定部4においては、樹脂製パイプ23内に、HF濃度を検出する陽極の金属シリコン電極20と陰極の白金電極21とが、樹脂製パイプ23内を流れる被測定液と接触するように設けられている。更に、樹脂製パイプ23には金属シリコン電極20及び白金電極27に対し垂直方向に陰極の電解洗浄時の対極となるもう一本の白金電極22が設けられている。このような構造により、樹脂製パイプ23内を流れる被測定液中のHF濃度を測定することができる。
【0086】
以下、図1に示す酸エッチング処理装置による動作について説明する。
【0087】
図1に示す装置では、処理槽1中の表面処理液から、HF濃度測定部4に一定量の被測定液が送液され、HF濃度が測定される。この送液は、ポンプ6及び流量制御部7によりなされ、所定の流量で被測定液はHF濃度測定部4へ送液される。
【0088】
HF濃度測定後、被測定液は処理槽1に戻される。処理槽1中の表面処理液からサンプリングした被測定液をこのように還流させる流速としては、例えば5リットル/分とすることができる。
【0089】
サンプリングした被測定液はHF濃度測定部4に送られるが、ここにはバイパスが設けられているため、流量制御部12及び流量調整弁13により、HF濃度測定部4中を通過する被測定液の量を調整することができる。例えば、2〜5リットル/分の範囲内でHF濃度測定部4内を通過する被測定液の量を任意に設定することができる。
【0090】
サンプリングした被測定液はHF濃度測定部4において、HF濃度が測定される。このHF濃度の測定データは、コントロールユニット5に伝達され、コントロールユニット5において上記処理槽1中の表面処理液に供給するHFのアルカリ金属塩等の量を算出する。
【0091】
この算出された量に基づき、制御信号をポンプ10及び流量制御部11に送る。この伝達された信号に基づき、補給槽2からHFアルカリ金属塩等溶液の所定量がポンプ10及び流量制御部11によって、処理槽1中に供給される。
【0092】
処理槽1中に供給されたHFアルカリ金属塩等溶液は、処理槽1中の表面処理液中のアルミニウムイオンと反応し、クリオライト(NaAlF)、エルパソライト(KNaAlF)等の沈殿を形成し、表面処理液からアルミニウムイオンを除去する。これにより、表面処理液中のアルミニウムイオンの濃度を所定の範囲に制御する。
【0093】
尚、上記図1では、表面処理液から上記沈殿を除去する構成については省略しているが、本実施の形態に係る酸エッチング処理装置では、従来公知の構成を採用することができる。
【0094】
例えば、処理槽1の底部に、沈殿物を一時貯留し、必要に応じて沈殿物を処理層1から取り除くことができるホッパー等を設けてもよい。また、上記取り出したスラリー状の沈殿から、表面処理液を回収するためのフィルターを更に設けてもよい。これにより、表面処理液の使用量を減らすことができる。
【0095】
上記フィルターとしては、特には限定されないが、例えば、加圧脱水フィルタ、加圧濃縮フィルタ等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。
【0096】
図3に、表面処理液から上記沈殿を除去する構成の一例を示す。図3に示すように、処理槽1の底部には、沈殿物を一時貯留し、必要に応じて沈殿物を処理層1から取り除くことができるホッパー36が設けられている。処理槽1から取り除かれたスラリー状の沈殿物は、ポンプ31により加圧濃縮フィルタ32へ移送される。
【0097】
加圧濃縮フィルタ32では、スラリー状の沈殿物から、表面処理液の一部が回収され、処理槽1へと移送される。残りのスラリー状の沈殿物は、ドレン槽33に一旦貯留され、その後、ポンプ31により加圧脱水フィルター34へ移送される。
【0098】
加圧脱水フィルタ34では、スラリー状の沈殿物から、沈殿物35をケーキ状で取り除き、残りの表面処理液は、処理槽1へ移送される。
【0099】
以上のように、本実施の形態に係る酸エッチング装置を用いれば、連続的に処理槽1から被測定液をサンプリングしてHF濃度を測定し、この測定結果に基づき処理槽中に適当量のHFアルカリ金属塩等溶液を添加して表面処理液中のアルミニウム濃度を所定の値以下に制御することができる。
【0100】
(IV)アルミニウム系部材の製造方法
本実施の形態に係るアルミニウム系部材の製造方法は、上述した本実施の形態に係る酸エッチング方法を行う工程を含む。
【0101】
本実施の形態に係るアルミニウム系部材の製造方法に含まれ得る、上述した本実施の形態に係る酸エッチング方法を行う工程以外の各工程としては、例えば、アルミニウム系基材を成型する工程、物理的手段による離型剤除去工程、脱脂工程、化成処理工程、及び塗装工程が挙げられる。
【0102】
アルミニウム系基材を成型する工程は、アルミニウム系基材を成型する工程であり、鋳造及び/又は鍛造等の従来公知の方法により行うことができる。
【0103】
物理的手段による離型剤除去工程は、鋳造及び/又は鍛造された後の上記アルミニウム系部材の表面に残存する離型剤や酸化アルミニウム皮膜を、物理的手段により除去する処理を施す工程である。
【0104】
上記物理的手段としては、具体的には、例えば、ショットブラスト等が挙げられる。このような物理的手段による処理によって、アルミニウム系部材の表面に付着した離型剤及び性状不良の酸化アルミニウム皮膜、アルミニウム系部材の表面に付着している機械油、及び切削油等の有機不純物等を除去することができる。
【0105】
上記脱脂工程は、アルミニウム系部材の表面に付着した油分を除去する工程である。脱脂工程において、アルミニウム系部材の表面を脱脂する方法は、特に限定されるものではなく、アルミニウム基材の表面の脱脂処理に用いられる従来公知の方法を用いればよい。
【0106】
化成処理工程では、本実施の形態に係る酸エッチング方法を行う工程で処理されたアルミニウム系部材の表面に、塗膜との密着性や耐食性を向上させるための化成皮膜を形成させる。具体的には、均一で緻密な化成皮膜が、アルミニウム系部材の素地に強固に密着して形成させる。
【0107】
化成処理工程における具体的な化成処理としては、特に限定されるものではなく、アルミニウム系部材の表面に施される従来公知の化成処理を行えばよい。
【0108】
上記塗装工程では、上記化成処理工程で処理後のアルミニウム系部材の表面に塗装を行う。該塗装は特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆる塗装を用いることができる。具体的には、例えば、溶剤塗装、水性塗装及び粉体塗装を挙げることができる。
【0109】
尚、本実施の形態に係るアルミニウム系部材の製造方法では、脱脂工程の後に、本実施の形態に係る酸エッチング方法を行う工程を行い、その後化成処理工程を行うことが好ましい。
【0110】
また、本実施の形態に係るアルミニウム系部材の製造方法では、上記酸エッチング処理後、アルミニウム系部材に対して水洗処理を行うことが好ましい。これにより、表面処理液を洗い流して(希釈して)、エッチング反応を停止させることができる。また、上記水洗処理により、後の工程に持ち込まれる表面処理液の量を低減することもできる。
【0111】
上記水洗処理は、エッチング反応を停止させることが可能な条件で行えばよいが、効率の点から、複数回行うことが好ましい。これにより、エッチング反応を確実に停止させることができる。
【0112】
更には、本実施の形態に係るアルミニウム系部材の製造方法では、上記本実施の形態に係る酸エッチング方法を行う工程後(化成処理工程を行う場合にはその後)に、塗装膜とアルミニウム系部材との密着性を向上させる処理を行う工程(後処理工程)を含んでいてもよい。
【0113】
上記後処理工程を行うことにより、アルミニウム系部材に施す塗装の種類の選択域を広げることができる。より具体的に説明すれば、粉体塗料のように内部応力の高い厚膜を形成する塗装を施した場合であっても、塗膜のアルミニウム系部材との密着性を向上させることができる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0115】
〔Al合金溶解量〕
Al合金溶解量は、化学エッチング前後での処理面積あたりの重量減(P)を求め、算出した。
【0116】
〔ショット残渣〕
化成処理後のホイールの鋳肌表面を切り出し、リガク走査型蛍光X線分析装置 ZSX Primus((株)リガク製)を用いて、蛍光X線分析法にてショット粒の主成分であるFeの残留量を定量分析し、以下の基準
○:Fe残留量が100mg/m未満である場合
△:Fe残留量が100以上200mg/m未満である場合
×:Fe残留量が200mg/mを超えた場合
で評価した。
【0117】
〔離型剤除去性〕
化成処理後のホイール表面を白色ガーゼで擦り、白色ガーゼに黒色不純物の付着の度合いを以下の基準
○:白色ガーゼに黒色不純物の付着が認められない
△:白色ガーゼに密着不良原因となる黒色不純物の付着が認められる
×:白色ガーゼに黒色不純物の付着が明瞭に認められる
で評価した。
【0118】
〔塗装耐食性〕
試験片の表面をカッターナイフにより10cm長さでカットし、JISZ2371−2000で調整されたキャス試験液を50±2℃で240時間噴霧し、カット部の周辺における腐食の度合いを以下の基準
◎:塗膜のふくれ、又は錆の発生がカット部から1mm未満
○:塗膜のふくれ、又は錆の発生がカット部から1mm〜3mm
×:塗膜のふくれ、又は錆の発生がカット部から3mmを超えている
で評価した。
【0119】
〔表面処理液のpH〕
表面処理液のpHは、希釈せずに、pH計により20℃で測定した。
【0120】
〔実施例1〕
溶湯したアルミニウム合金(AC4CH)を、市販の黒鉛系離型剤が塗布された自動車用ホイール金型に鋳込み、冷却後、金型から取り出した。
【0121】
次に、熱処理を実施した後、物理的処理として、SUS430材料をショット粒として使用し、ショットブラスト加工を実施した。
【0122】
その後、アルカリ脱脂剤(サーフクリーナー53NF(日本ペイント株式会社製)、2重量%)による脱脂(50℃、3分間浸漬処理)をした。脱脂処理後、2段回で浸漬水洗を実施した。そして、酸洗処理液(サーフクリーナー355A(日本ペイント株式会社製)、3重量%)による酸洗(40℃、3分間浸漬処理)をした。
【0123】
次に、表1に記載の成分の表面処理液(表1の初期組成の欄参照)で、表1に記載の処理方法により、図1に示す装置を用いて酸エッチング処理を行った。つまり、表1に記載の初期組成の表面処理液を用いて、酸エッチング処理を行い、表面処理液のHF換算濃度が0.25〜0.32g/Lとなるように、表1に記載の組成の補給剤Bを適宜補給した。また、補給剤Aは、処理液の設定量(10mL)を採取し、0.1N苛性ソーダ溶液にて中和滴定分析を適宜必要なタイミングで実施し、酸度の低下割合に応じて補給した。
【0124】
酸エッチング処理後、ノンクロム化成処理剤(アルサーフ501N(日本ペイント株式会社製)、1重量%)で化成処理(pH=3.5、40℃、45秒間浸漬処理)した。化成処理後、2段回で浸漬水洗を実施し、次いで、純水による浸漬処理を実施した。その後、120℃の熱風で10分乾燥させた後、自然冷却した。
【0125】
その後、アクリル系粉体塗料(パウダックスA400クリヤー(日本ペイント社製))で静電粉体塗装を実施し、160℃で20分間(被塗物保持時間)の加熱乾燥により、塗膜厚み(100μm)のプライマー塗膜を得た。
【0126】
次いで、アクリル系溶剤型塗料(スーパーラック5000AS70 11SV−14(日本ペイント社製))を乾燥塗膜20μmとなるように塗装し、10分間でセッティングした後、140℃で20分間加熱した。次に、アクリル系溶剤塗料(スーパーラック5000AW−10(日本ペイント社製))を乾燥膜厚40μmとなるように塗装し、10分間でセッティングした後、140℃で20分間加熱し、複層塗膜を作製した。
【0127】
得られた塗装アルミホイールに関する各種評価結果を表1に示す。
【0128】
〔実施例2〜12、比較例1〜5〕
ショットブラスト加工の実施の有無、化学エッチングの条件を表1に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様に、アルミニウム合金(AC4CH)の処理を行った。得られた塗装アルミホイールの各評価結果を表1、2に示す。
【0129】
尚、実施例10、11、比較例5の初期組成におけるNaOHは、HFに対して1/2モルとなるように加えている。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【0132】
表1、2から明らかなように、本発明の酸エッチング方法を行った場合には、実施例12を除き、Al合金溶解量が初期と1000m処理後とでほとんど変化していなかった。実施例12では、処理液の初期組成にHFのアルカリ金属塩等を含んでいないが、その後、補給剤BとしてHFとNaOHとを処理液に加えているため、1000m処理後のAl合金溶解量に優れていた。
【0133】
また、ショットブラストを行っていない実施例(実施例2,3,9)では、塗料耐久性が初期と1000m処理後とでほとんど変化していなかった。ショットブラストを行っている実施例(実施例1,4〜8)であっても、表面処理液に燐酸を含む実施例(実施例1,5〜8)であれば、ショット残渣量及び塗料耐食性は、初期と1000m処理後とでほとんど変化していなかった。
【0134】
尚、当然のことながら、酸エッチング処理を行っていない比較例3では、塗料耐食性は悪かった。
【0135】
一方、比較例1,2では、表面処理剤の初期組成にも補給用薬剤にもHFのアルカリ金属塩を含まないため、Al合金溶解量、ショット残渣量及び塗料耐食性が、初期と比べて1000m処理後では悪化していた。また、初期にHFのアルカリ金属塩を含むが、補給用薬剤にHFのアルカリ金属塩を含まない比較例4でも、Al合金溶解量、ショット残渣量及び塗料耐食性が、初期と比べて1000m処理後では悪化していた。
【0136】
また、ケイフッ化水素を含有する実施例2と、含有しない実施例3との比較から、ケイフッ化水素を含有している方がAl合金溶解量が大きいことが確認できた。
【0137】
以上のように、本発明の酸エッチング方法を用いれば、アルミホイール表面を継続的に1g/m以上エッチングすることができ、酸化膜や離型剤を継続的に除去することが可能である。このため、上記酸エッチング処理を施したアルミホールに塗装を施した場合、塗装接着性、及び塗装耐食性を向上させることができる。
【0138】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の酸エッチング方法は、処理液を交換することなく、高いエッチング速度で酸エッチングを継続して行うことができる。このため、各種アルミニウム系部材の酸エッチング処理に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本実施の形態に係る酸エッチング処理装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本実施の形態に係る酸エッチング処理装置におけるHF濃度測定部の一例の概略構成を示す断面図である。
【図3】本実施の形態に係る酸エッチング処理装置における、表面処理液から上記沈殿を除去する構成の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0141】
1 処理槽
2 補給槽(供給手段)
4 HF濃度測定部(HF濃度測定手段)
5 コントロールユニット(算出手段)
6 ポンプ(サンプリング手段)
7 流量制御部(サンプリング手段)
10 ポンプ(供給手段)
11 流量制御部(供給手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系部材の表面を、無機酸を含むpH3以下の表面処理液で酸エッチングする方法であり、
Fイオン及びアルカリ金属イオンを上記表面処理液に供給する供給工程を含むことを特徴とする酸エッチング方法。
【請求項2】
上記表面処理液は、上記無機酸として、10g/L以上30g/L以下の濃度で燐酸を含有することを特徴とする請求項1に記載の酸エッチング方法。
【請求項3】
上記表面処理液は、0.5g/L以上15g/L以下の濃度で錯フッ化水素酸を更に含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の酸エッチング方法。
【請求項4】
上記錯フッ化水素酸がケイフッ化水素酸であることを特徴とする請求項3に記載の酸エッチング方法。
【請求項5】
上記供給工程を、HFのアルカリ金属塩を上記表面処理液に供給することにより行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の酸エッチング方法。
【請求項6】
上記HFのアルカリ金属塩は、HFのナトリウム塩及びHFのカリウム塩であることを特徴とする請求項5に記載の酸エッチング方法。
【請求項7】
供給工程により生じる沈殿物を表面処理液から除去する沈殿物除去工程を更に含み、
複数のアルミニウム系部材に対し、連続して酸エッチングを行うことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の酸エッチング方法。
【請求項8】
上記供給工程を、上記表面処理液中のHF濃度が0.25g/L以上となるように行うことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の酸エッチング方法。
【請求項9】
更に、上記表面処理液中のHF濃度を測定するHF濃度測定工程を含み、
上記HF濃度測定工程により測定したHF濃度に基づいてHF濃度が0.25g/L以上となるように上記供給工程を行うことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の酸エッチング方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の酸エッチング方法で用いられる酸エッチング処理液の再生剤であって、
HF及びアルカリ金属含有化合物、又はHFのアルカリ金属塩を含むことを特徴とする再生剤。
【請求項11】
HFのアルカリ金属塩を含み、
上記HFのアルカリ金属塩として、HFのナトリウム塩及びHFのカリウム塩を用いることを特徴とする請求項10に記載の再生剤。
【請求項12】
請求項1〜9の何れか1項に記載の酸エッチング方法を行う酸エッチング工程と、
酸エッチング工程後のアルミニウム系部材に化成処理を行う化成処理工程と、
化成処理工程後のアルミニウム系部材に塗装を行う塗装工程と、
を含むことを特徴とするアルミニウム系部材の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9の何れか1項に記載の酸エッチング方法を行うための酸エッチング処理装置であり、
表面処理液を蓄える処理槽と、
上記表面処理液から被測定液を採取するサンプリング手段と、
上記被測定液のHF濃度を測定するHF濃度測定手段と、
上記HF濃度測定手段により測定されるHF濃度に基づいて上記処理槽中の表面処理液に供給するFイオン及びアルカリ金属イオンの供給量を算出する算出手段と、
上記算出手段が算出した上記供給量に基づいて、Fイオン及びアルカリ金属イオンを上記処理槽中の表面処理液に供給する供給手段と、
を備えることを特徴とする酸エッチング処理装置。
【請求項14】
上記HF濃度測定手段は、金属シリコン電極メータであることを特徴とする請求項13に記載の酸エッチング処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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